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特開2023-53729電着塗料組成物、電着塗装方法及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053729
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】電着塗料組成物、電着塗装方法及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20230406BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20230406BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230406BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20230406BHJP
   C25D 13/00 20060101ALI20230406BHJP
   C25D 13/06 20060101ALI20230406BHJP
   C25D 13/20 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/44 A
C09D7/61
C09D7/20
C25D13/00 307D
C25D13/06 B
C25D13/20 A
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162941
(22)【出願日】2021-10-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 卓
(72)【発明者】
【氏名】田中 正俊
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB061
4J038DB391
4J038HA146
4J038JA19
4J038JA37
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA20
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA03
4J038PA04
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】本発明は、ジルコニウム化成処理皮膜上に塗装した場合であっても、低温加熱乾燥条件又は自然乾燥条件において、防食性の良好な塗膜を形成し得る電着塗料組成物の提供を課題とする。
【解決手段】本発明の電着塗料組成物は、アミン変性エポキシ樹脂(A)、可塑剤(B)、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)及び層状化合物(D)を含む電着塗料組成物であって、
前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の数平均分子量が、2,500以上であり、
前記可塑剤(B)が、芳香族アルコール化合物を含むものであり、
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)が、オキシアルキレン単位及びビスフェノール単位を有するものであり、
前記層状化合物(D)は、少なくとも2以上の層状複水酸化物と、該層状複水酸化物との間に存在するアニオンとを有するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン変性エポキシ樹脂(A)、可塑剤(B)、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)及び層状化合物(D)を含む電着塗料組成物であって、
前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の数平均分子量が、2,500以上であり、
前記可塑剤(B)が、芳香族アルコール化合物を含むものであり、
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)が、オキシアルキレン単位及びビスフェノール単位を有するものであり、
前記層状化合物(D)は、少なくとも2以上の層状複水酸化物と、該層状複水酸化物との間に存在するアニオンとを有するものである、電着塗料組成物。
【請求項2】
前記アニオンは、少なくとも、リン酸イオンを含むものであり、
Zn(II)及びAl(III)を基準とした、前記層状複水酸化物の相対電荷密度が、1,100C/cm以上1,150C/cm以下であり、
前記アニオンの電子密度が、2,000C/cm以上3,500C/cm以下であり、
前記アニオン中のリン酸イオンの含有率が、10モル%超80モル%未満であり、
前記層状化合物(D)の含有率が、該電着塗料組成物の固形分中、5質量%超23質量%未満である、請求項1に記載の電着塗料組成物。
【請求項3】
前記層状化合物(D)が、以下の組成式(5)で表されるものである、請求項1又は2に記載の電着塗料組成物。
(M2)8-x-y(M3)(An)x/n(OH)16-2y・rHO (5)
[式(5)中、
M2は、2価の金属イオンを表す。
M3は、3価の金属イオンを表す。
Anは、n価のアニオンを表す。
xは、2~5の実数を表し、yは、0~4の実数を表し、n、rは、それぞれ独立に、正の実数を表す。
なお、M2及びM3は、それぞれ単独でも2種以上を組み合わせてもよい。]
【請求項4】
前記芳香族アルコール化合物の沸点が、200℃以上300℃以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項5】
前記可塑剤(B)の含有量が、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100質量部に対して、30質量部以上65質量部以下であり、
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)の含有量が、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項6】
前記可塑剤(B)と、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)との質量比((B)/(C))が、3/1以上30/1以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項7】
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)は、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、多環式フェノール化合物、ジカルボン酸化合物及びアミノポリエーテルを反応させて得られる樹脂である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項8】
乾燥塗膜形成用である、請求項1~7のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電圧を印可し、析出塗膜を形成する、電着塗装工程、及び
得られた析出塗膜を、20~240℃で10~180分間乾燥させて電着塗膜を得る、乾燥工程
を包含する、電着塗装方法。
【請求項10】
前記被塗物が、建設機械、産業機械及び固定構造物の金属部品からなる群より選択される、請求項9に記載の電着塗装方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電着塗料組成物から形成される塗膜と、基材とを有する積層体。
【請求項12】
前記基材が、塗膜側の表面に、ジルコニウム化成処理膜を有するものである、請求項11に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗料組成物、電着塗装方法及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、電着塗料組成物中に被塗物(基材)を浸漬させて電圧を印加することにより、被塗物の表面に塗膜を析出させる塗装方法である。この方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができる。そのため、電着塗装は、自動車車体をはじめとして、産業機械、建築機械、固定構造物の金属部品等、大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。電着塗装は更に、被塗物に高い防食性を与えることができ、被塗物の保護効果にも優れる。電着塗料組成物は更に、水性塗料組成物であるため、溶剤型塗料組成物と比較して、環境に対する負荷を軽減し得る。
【0003】
前記産業機械、建設機械及び固定構造物の金属部品等は、一般に大型であり、より強い荷重に耐える必要があるため、自動車車体等と比較して構成基材(鋼板)の厚みがある。そのためこれらの産業機械、建設機械等は熱容量が大きく、加熱しても、熱が十分に伝達しない場合がある。電着塗料組成物は一般に熱硬化型であり、被塗物への熱伝達が不十分であると、塗料組成物が十分に硬化しない場合がある。そのため、産業機械、建設機械及び固定構造物の金属部品等の塗装に用いられる塗料組成物には、自動車車体の塗装に用いられる一般的な熱硬化型塗料組成物よりも低温(例えば、110℃以下の被塗物温度)で硬化し、得られる塗膜が電着塗装皮膜としての性能を満足することが求められる。また、近年における省エネルギー化及びCO排出量削減といった、環境負荷低減に関する要請からも、塗膜形成のための加熱硬化温度を低くすることが求められている。
【0004】
低温成膜し得る電着塗料組成物としては、例えば、アミン変性エポキシ樹脂、芳香族アルコール化合物を含む可塑剤、並びに、アルキレンオキサイド部分及びビスフェノール部分を有するアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂を含み、前記アミン変性エポキシ樹脂の数平均分子量が2,500以上である電着塗料組成物が提案されている(特許文献1)。なお、本明細書において成膜とは、塗料組成物が、塗装後固化して塗膜を形成する変化をいい、塗料組成物の少なくとも一部が揮発・融着等の物理変化に因るもの及び硬化反応等の化学変化に因るものの両方を含む。
【0005】
ところで、前記被塗物には、通常、防食性、表面に形成される塗膜との密着性等の向上を目的として、電着塗装の前に化成処理が施される。従来、化成処理としては、クロメート処理、リン酸亜鉛処理等が行われている。しかしながら、クロメート処理に関しては、クロムの有害性が指摘されている。また、リン酸亜鉛処理においては、処理剤として、非常に反応性が高く、金属イオン及び酸濃度の高いものを用いる必要があるため、廃液処理における経済性及び作業性が劣るという欠点がある。また、処理剤に含まれるリン酸イオンは、環境に富栄養化をもたらし、環境負荷を増大させる懸念がある。そのため、リン酸亜鉛系化成処理においては、廃液処理に多大な労力が必要である。
【0006】
そのため前記化成処理としては、クロメート処理、リン酸亜鉛処理に代わって、ジルコニウム化合物により化成皮膜処理(ジルコニウム化成処理)が行われるようになってきている。
【0007】
このようなジルコニウム化成処理皮膜に適用される電着塗料としては、例えば、カチオン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、及びアミン価が200~500mmol/100gであるアミノ基含有化合物からなる電導度制御剤を含む電着塗料組成物において、塗料固形分濃度を0.5~9.0質量%とすること、樹脂成分のSP値を11.7以下とすること、得られる電着塗膜の50℃における塗膜粘度を3,000Pa・s以下とすることなどが提案されている(特許文献2)。また、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂及びブロックイソシアネート硬化剤を含むカチオン電着塗料組成物において、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が、オキシアルキレン単位を有するものとすること、樹脂成分のSP値を11.7以下とすること、得られる電着塗膜の50℃における塗膜粘度を3,000Pa・s以下とすること、該電着塗料組成物がジルコニウムイオン、フッ素イオン及びポリアミン化合物を含むものとすることなどが提案されている(特許文献3)。更に、アミン変性エポキシ樹脂(A)及びブロックイソシアネート硬化剤樹脂(B)を含むカチオン電着塗料組成物において、焼付後の膜厚が3μmに達したときの塗膜抵抗を10~200kΩ・cmとし、6μmに達したときの塗膜抵抗を40~300kΩ・cmとすることなどが提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-137724号公報
【特許文献2】特開2010-37481号公報
【特許文献3】特開2010-95678号公報
【特許文献4】特開2017-203189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ジルコニウム化成処理皮膜上に塗装した場合であっても、低温加熱乾燥条件又は自然乾燥条件において、防食性の良好な塗膜を形成し得る電着塗料組成物の提供を課題とする。更に前記に加えて、塗膜外観に優れ、且つ、様々な腐食環境においても、防食性が良好な塗膜を形成し得る電着塗料組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の発明を含む。
[1]アミン変性エポキシ樹脂(A)、可塑剤(B)、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)及び層状化合物(D)を含む電着塗料組成物であって、
前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の数平均分子量が、2,500以上であり、
前記可塑剤(B)が、芳香族アルコール化合物を含むものであり、
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)が、オキシアルキレン単位及びビスフェノール単位を有するものであり、
前記層状化合物(D)は、少なくとも2以上の層状複水酸化物と、該層状複水酸化物との間に存在するアニオンとを有するものである、電着塗料組成物。
[2]前記アニオンは、少なくとも、リン酸イオンを含むものであり、
Zn(II)及びAl(III)を基準とした、前記層状複水酸化物の相対電荷密度が、1,100C/cm以上1,150C/cm以下であり、
前記アニオンの電子密度が、2,000C/cm以上3,500C/cm以下であり、
前記アニオン中のリン酸イオンの含有率が、10モル%超80モル%未満であり、
前記層状化合物(D)の含有率が、該電着塗料組成物の固形分中、5質量%超23質量%未満である、[1]に記載の電着塗料組成物。
[3]前記層状化合物(D)が、以下の組成式(5)で表されるものである、[1]又は[2]に記載の電着塗料組成物。
(M2)8-x-y(M3)(An)x/n(OH)16-2y・rHO (5)
[式(5)中、
M2は、2価の金属イオンを表す。
M3は、3価の金属イオンを表す。
Anは、n価のアニオンを表す。
xは、2~5の実数を表し、yは、0~4の実数を表し、n、rは、それぞれ独立に、正の実数を表す。
なお、M2及びM3は、それぞれ単独でも2種以上を組み合わせてもよい。]
[4]前記芳香族アルコール化合物の沸点が、200℃以上300℃以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の電着塗料組成物。
[5]前記可塑剤(B)の含有量が、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100質量部に対して、30質量部以上65質量部以下であり、
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)の含有量が、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の電着塗料組成物。
[6]前記可塑剤(B)と、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)との質量比((B)/(C))が、3/1以上30/1以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の電着塗料組成物。
[7]前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)は、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、多環式フェノール化合物、ジカルボン酸化合物及びアミノポリエーテルを反応させて得られる樹脂である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の電着塗料組成物。
[8]乾燥塗膜形成用である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の電着塗料組成物。
[9][1]~[8]のいずれか1つに記載の電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電圧を印可し、析出塗膜を形成する、電着塗装工程、及び
得られた析出塗膜を、20~240℃で10~180分間乾燥させて電着塗膜を得る、乾燥工程を包含する、電着塗装方法。
[10]前記被塗物が、建設機械、産業機械及び固定構造物の金属部品からなる群より選択される、[9]に記載の電着塗装方法。
[11][1]~[8]のいずれか1つに記載の電着塗料組成物から形成される塗膜と、基材とを有する積層体。
[12]前記基材が、塗膜側の表面に、ジルコニウム化成処理膜を有するものである、[11]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0011】
前記電着塗料組成物は、ジルコニウム化成処理皮膜上に塗装した場合であっても、低温加熱乾燥条件又は自然乾燥条件において、防食性の良好な塗膜を形成し得る。前記電着塗料組成物は、好ましくは、前記に加えて、塗膜外観に優れ、且つ様々な腐食環境においても、防食性が良好な塗膜を形成し得る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
電着塗装が適用される被塗物のなかでも、熱容量の大きい産業機械、建設機械及び固定構造物の金属部品等に適用可能な電着塗料組成物として、より低温(例えば110℃以下の被塗物温度)で硬化し、電着塗装皮膜としての性能を満足する塗膜を得ることができる塗料組成物が求められている。また、低温成膜が可能であると、省エネルギー化及びCO排出量制限といった、環境負荷低減に関する要請にも適合し得る。
【0013】
また、前記被塗物には、耐食性の向上等を目的として電着塗装の前に化成処理が施されるが、従来のクロメート処理、リン酸亜鉛処理に関しては、有害性や環境負荷増大等の問題が指摘されている。そのため、これらに代わる化成処理として、ジルコニウム化成処理が知られている。
【0014】
本発明に至った経緯を説明する。
本発明者らは、ジルコニウム化成処理皮膜上に塗装した場合であっても、低温加熱乾燥条件又は自然乾燥条件において、塗膜外観に優れ、且つ防食性も良好な塗膜を形成できる電着塗料組成物の開発を試みた。
【0015】
しかしながら、本発明者らの検討により、低温硬化し得る電着塗料組成物(特許文献1)は、従来からのクロメート処理、リン酸亜鉛処理を施した被塗物に塗装した場合には、塗膜外観及び防食性の良好な電着塗膜が得られるものの、ジルコニウム化成処理を施した皮膜に塗装した場合、得られる塗膜の外観及び防食性が十分でない場合があることが見出された。
【0016】
また、ジルコニウム化成処理皮膜に適用可能な電着塗料組成物(特許文献文献2乃至4)においても、得られる塗膜外観及び防食性も市場の要求に対して不十分であり、また、低温硬化の要求には未だ応えられていない。
【0017】
本発明者らは、こうした問題点を解決するために鋭意検討を重ね、特定のハイドロタルサイトを用いた場合には、ジルコニウム化成処理皮膜上に塗装した場合であっても、低温加熱乾燥条件又は自然乾燥条件において、塗膜外観に優れ、且つ防食性も良好な塗膜を形成できることを見出して、本発明を完成した。
【0018】
前記電着塗料組成物は、アミン変性エポキシ樹脂(A)、可塑剤(B)、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)及び層状化合物(D)を含む。
【0019】
アミン変性エポキシ樹脂(A)
前記アミン変性エポキシ樹脂(A)は、代表的には、エポキシ樹脂をアミン化合物で変性することにより得られる。アミン変性エポキシ樹脂(A)を構成するエポキシ樹脂は、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂は、剛直性が高く、樹脂そのものが優れた防食性を備えている。ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂は、代表的には、ビスフェノールAとビスフェノールAのジグリシジルエーテルとが縮合した構造を有し、一般式(1)で表されるものであることが好ましい。
【0020】
【化1】
【0021】
[一般式(1)中、nは0以上の整数を表し、好ましくは8~22、より好ましくは10~20である。]
【0022】
以下の式
【0023】
【化2】
で表されるエポキシ樹脂におけるビスフェノール骨格が占める割合は、好ましくは90質量%以上である。剛直性の高いエポキシ樹脂を用いることで、得られる塗膜は優れた防食性を得ることができる。
【0024】
ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂としては、市販品をそのまま用いてもよいし、ビスフェノールAとビスフェノールAのジグリシジルエーテルとの(重)縮合物を用いてもよい。該(重)縮合物の製造方法としては、特に限定されず、具体例として、ビスフェノールAに対してビスフェノールAのジグリシジルエーテルを過剰に配合し、メチルイソブチルケトン等の有機溶剤中で、ジメチルベンジルアミン等の有機塩基を触媒として加熱することにより合成する方法が挙げられる。好ましくは、エポキシ当量を測定することにより反応追跡を行い、目的とする値になった時点で反応を終了させる。アミン化合物による変性がメチルイソブチルケトン等の有機溶剤中で行われること、固形エポキシ樹脂を有機溶剤に溶解させるのに手間がかかること等を考慮すると、エポキシ樹脂を合成することが好ましい。なお、前記電着塗料組成物は、必要に応じて、アミン変性エポキシ樹脂(A)の合成の際に用いられる有機溶剤を含んでもよいが、実質的に含まないことが好ましい。なお、本明細書においてエポキシ当量は、固形分エポキシ当量を表し、JIS K 7236に準拠した方法により、決定することができる。但し、エポキシ樹脂を溶解する溶剤として、クロロホルムの代わりにメチルエチルケトンを使用した。
【0025】
アミン変性は、代表的には、原料となるエポキシ樹脂のエポキシ基に対して、活性水素を有するアミン化合物を開環付加させることにより行われる。好ましくは、実質的に全部のエポキシ基を変性させる。具体的には、エポキシ基の変性率は、好ましくは90モル%以上である。
【0026】
アミン変性エポキシ樹脂(A)の変性量は、好ましくは1~10質量%であり、より好ましくは3~8質量%である。変性量が前記範囲内であることによって、アミン変性エポキシ樹脂(A)の水への分散又は溶解が良好となり、かつ、得られる塗膜の防食性や密着性が向上するという効果がある。前記変性量は、下記式より求めることができる。なお、アミン化合物として後述のジケチミン化物を用いる場合、アミン化合物の量は、加水分解後に樹脂中に生成するアミン化合物の量を指す。
変性量(%)=[エポキシ樹脂の固形分質量(g)/(エポキシ樹脂の固形分質量(g)+(アミン化合物の固形分質量(g))]×100
【0027】
アミン化合物としては、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン等の第1級又は第2級アミン化合物のケチミン化物、ジエチレントリアミン等のポリアミン化合物のジケチミン化物等が挙げられる。これらは、単独で、又は、2種以上組み合わせて用いられる。アミン化合物として、前記ケチミン化物及びジケチミン化物のうち少なくとも1種を用いるのが好ましい。前記ケチミン化物、ジケチミン化物を用いることにより、後述の中和の際に、第1級アミノ基を生成させることができ、これにより得られる塗膜の密着性等の塗膜物性を向上させることができる利点がある。
【0028】
アミン化合物による変性(開環付加)方法としては、特に限定されず、例えば、有機溶剤に原料となるエポキシ樹脂を溶解させて、エポキシ樹脂が有するエポキシ基とほぼ当量(等モル量)のアミン化合物を添加し、その後、必要に応じて、加熱する方法が挙げられる。
【0029】
前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の数平均分子量は、2,500以上であり、好ましくは3,500以上、より好ましくは5,000以上であり、好ましくは9,500以下、より好ましくは9,000以下である。アミン変性エポキシ樹脂(A)の数平均分子量が2,500以上となることで、得られる電着塗膜の耐湿性を向上することができる。
【0030】
なお、本明細書において数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算した値である。
【0031】
前記電着塗料組成物が前記アミン変性エポキシ樹脂(A)を含むことによって、電着塗料組成物中に、硬化剤及び硬化触媒の両方が含まれない場合であっても、必要とされる塗膜物性を有する電着塗膜を形成することが可能となる。
【0032】
前記電着塗料組成物は、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)のアミノ基を中和する中和酸を含むことが好ましい。これにより、アミン変性エポキシ樹脂(A)を水に良好に分散又は溶解させることができる。
【0033】
中和酸として用いることができる酸化合物としては、例えば、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ジメチロールプロピオン酸、乳酸等のカルボン酸化合物、メタンスルホン酸、スルファミン酸等の有機酸が挙げられる。これらは、単独で、又は、2種以上組み合わせて用いられる。中でも、電着塗料組成物の防食性(特に、常温で乾燥する場合)の観点から、好ましくは有機酸であり、より好ましくはカルボン酸化合物であり、揮発性を考慮すると、酢酸が好ましい。
【0034】
前記中和酸による中和率は、10~80%であるのが好ましく、15~80%であるのがより好ましい。中和率が前記範囲であることによって、アミン変性エポキシ樹脂(A)の水への良好な分散又は溶解を確保することができる。前記中和率は、下記式より求めることができる。アミン変性エポキシ樹脂(A)が水に分散又は溶解するか否かは、アミン変性エポキシ樹脂(A)の分子量及びアミノ基の量、変性に用いるアミン化合物の種類、用いる中和酸の種類、中和酸の配合量(中和率)等を調整することにより決定され得る。前記アミン変性エポキシ樹脂(A)は、得られる塗膜の防食性の観点から、水分散体であることが好ましい。
中和率(%)=(中和酸の酸当量/アミン変性エポキシ樹脂(A)が有するアミノ基の塩基当量)×100
なお、前記アミン当量及び酸当量は、いずれも固形分アミン当量、固形分酸当量を表し、それぞれJIS K 7237、JIS K 0070の規定に準拠して測定できる固形分アミン価、固形分酸価より算出できる。
【0035】
可塑剤(B)
前記可塑剤(B)は、芳香族アルコール化合物を含む。前記芳香族アルコール化合物は、1分子中に、芳香族炭化水素基と水酸基とを有する化合物を表す。前記電着塗料組成物中、可塑剤(B)として芳香族アルコール化合物を含むことによって、電着時の電着皮膜の造膜性が向上する。これにより、得られる塗膜において、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)が有する防食性等の性能を良好に発揮することが可能となり、高い防食性を備えた電着塗膜が得られる。前記可塑剤(B)は、より好ましくは、芳香族アルコール化合物である。
【0036】
前記芳香族アルコール化合物の沸点は、好ましくは200℃以上、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは230℃以下である。前記芳香族化合物は、芳香環を有することで、水への溶解性が低く、アミン変性エポキシ樹脂(A)との親和性が高いという特性を有しており、更に、前記範囲の沸点を有することで、電着塗装工程において、塗膜析出させる際、可塑剤(B)の塗膜外への放出が抑制される。これにより、可塑剤(B)が得られる電着塗膜内に有効量残存することとなり、アミン変性エポキシ樹脂(A)に対して可塑性能を効果的に発揮することができる。すなわち、電着塗膜析出時及び加熱時に析出塗膜の粘度を十分に低下させることができるため、電着塗装時に水の電気分解により発生する水素ガスの通気跡の析出塗膜内への残存を防ぐことができる。
【0037】
前記可塑剤(B)に含まれる芳香族アルコール化合物は、一般式(2)で表される構造を有するものであることが好ましい。
【0038】
【化3】
【0039】
[一般式(2)中、
は、-C2p-、-O(C2mO)-又は-CHO-(C2mO)-を表す。
Xは、H又はOCHを表す。
pは、1~3の整数を表す。
mは、2~5の整数を表す。
qは1又は2である。]
【0040】
前記芳香族アルコール化合物の具体例としては、ベンジルアルコール、2-フェニルエチルアルコール、3-フェニル-1-プロパノール、4-メトキシベンジルアルコール、フェニルグリコール、ベンジルグリコール等が挙げられる。これらのうち、ベンジルアルコールが好ましく用いられる。
【0041】
前記芳香族アルコール化合物の含有率は、前記可塑剤(B)中、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0042】
前記可塑剤(B)は、可塑剤(B)の効果を損なわない範囲で前記芳香族アルコール化合物以外の可塑剤を含んでいてもよい。
【0043】
前記可塑剤(B)は、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)に対して質量比で10倍量混合した場合において、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)を溶解するものであることが好ましい。ここで、溶解とは、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)と前記可塑剤(B)とを質量比1:10で混合した時に、濁り無く均一に混合し、透明な溶液が得られることを意味する。前記可塑剤(B)が前記性能を有する場合は、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)との親和性が高く、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)を含む電着塗膜に対してより効果的に可塑性を付与することができる。
【0044】
前記電着塗料組成物中に含まれる可塑剤(B)の量は、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは40質量部以上であり、好ましくは65質量部以下、より好ましくは60質量部以下である。前記可塑剤(B)の量が前記範囲内であることによって、電着塗膜析出時、及び加熱時に塗膜の粘度を効果的に下げることが可能となり、塗膜欠陥の修復性をより高めることができる。
【0045】
アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)
前記カチオン電着塗料組成物は、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)を含むものであり、該アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂は、オキシアルキレン単位及びビスフェノール単位を有する。前記オキシアルキレン単位は、酸素原子と、アルキレン基(例えば、炭素数2~6、より好ましくは炭素数2~5のアルキレン基)とが結合した単位を表す。前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)中、2以上のオキシアルキレン単位が連続して結合しているポリオキシアルキレン骨格が含まれることが好ましい。前記ビスフェノール単位は、ビスフェノールに由来する単位であり、例えば、一般式(3)で表される単位であることが好ましい。
【0046】
【化4】
【0047】
[一般式(3)中、
は、炭素数1~5のアルキレン基又は-SO-を表し、該アルキレン基に含まれる水素原子は、フッ素原子に置換されていてもよい。
、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又は他のビスフェノール単位に結合する炭素数1~5のアルキレン基を表す。
【0048】
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)が、前記オキシアルキレン単位及びビスフェノール化合物に由来する単位を有することで、得られる塗膜に可撓性を付与することができる。また前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)が、アミノポリエーテルにより変性されていることで、電着塗料組成物中に含まれるアミン変性エポキシ樹脂(A)と同様の析出性を有する。そのため、得られる電着塗膜において揮発することなく、可撓性を付与する樹脂成分として有効に機能することとなる。
【0049】
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)は、例えば、アミノポリエーテル及びポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルの反応物であることが好ましい。
【0050】
前記アミノポリエーテルは、1分子中に、アミノ基とポリオキシアルキレン単位とを有する化合物であり、例えば、一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0051】
【化5】
【0052】
[一般式(4)中、
は、水素原子、メチル基又はエチル基を表す。
oは、2以上の整数を表す。
p及びqは、それぞれ独立に、2又は3である。]
【0053】
前記アミノポリエーテルは、一般式(4)に示されるように、第3級アミノ基の置換基として、窒素原子に、1級アミノ基を末端に有するポリメチレン鎖が2つと、ポリオキシアルキレン鎖とが結合している構造を有する。前記アミノポリエーテルは、ポリオキシアルキレンケチミンを加水分解することによって調製することができる。ポリオキシアルキレンケチミンを加水分解する方法は、例えば、特開平1-249748号公報に記載される方法によって行うことができる。
【0054】
一般式(4)中、oは、ポリオキシアルキレン鎖におけるオキシアルキレン単位の繰り返し数を表すものであり、好ましくは2~20の整数であり、より好ましくは9~11の整数である。前記アミノポリエーテルに含まれる複数のRは、同一でも異なっていてもよく、メチル基であることが好ましい。
【0055】
一般式(4)中、p及びqは、いずれも2であることが好ましい。
【0056】
前記ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルは、ポリオキシアルキレン骨格を有し、かつその両末端にグリシジル基を有する化合物である。前記ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルの数平均分子量は、好ましくは300~7,000、より好ましくは500~1,000である。数平均分子量が前記範囲内であることによって、得られる電着塗膜に十分な可撓性を付与でき、また、得られる電着塗膜の上に設けられる塗膜との密着性が優れる。
【0057】
前記ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルのエポキシ当量は、好ましくは150~3,500g/eqである。
【0058】
ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルとしては、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリイソプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブチレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。これらのポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルとしては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、
共栄社化学社製エポライトシリーズ、例えば、エポライト200E(ポリエチレングリコール#200ジグリシジルエーテル、エポキシ当量150~163g/eq)、エポライト400E(ポリエチレングリコール#400ジグリシジルエーテル、エポキシ当量185~215g/eq)、エポライト400P(ポリプロピレングリコール#400ジグリシジルエーテル、エポキシ当量190~210g/eq)等;
ナガセケムテックス社製デナコールシリーズ、例えば、EX-821(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量185g/eq)、EX-830(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量268g/eq)、EX-832(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量284g/eq)、EX-841(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量372g/eq)、EX-861(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量551g/eq)、EX-941(ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量173g/eq)、EX-920(ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量176g/eq)、EX-931(ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量471g/eq)等;
三洋化成工業社製ケミオールシリーズ、例えば、ケミオールEP-400P(ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量約300g/eq)、グリシエールPP-300P(ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量約296g/eq)等が挙げられる。
【0060】
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)の調製において、前記ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル及びアミノポリエーテルに加えて、必要に応じて、多環式フェノール化合物及び/又はジカルボン酸化合物を用いてもよい。
【0061】
前記多環式フェノール化合物は、ビスフェノール単位を有する化合物であり、具体例として、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等が挙げられ、好ましくは、ビスフェノールAが挙げられる。前記多環式フェノール化合物を用いる場合、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル100質量部に対して、16~38質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0062】
前記ジカルボン酸化合物は、1分子中にカルボキシル基を2個以上有する化合物であり、飽和又は不飽和炭化水素基含有ジカルボン酸であることが好ましい。飽和炭化水素基として炭素数5~20のアルキル基が挙げられる。不飽和炭化水素基として、炭素数5~20のアルキニル基、アルカジイニル基、アルカトリイニル基、アルケニル基、アルカジエニイル基、アルカトリエニイル基等が挙げられる。ジカルボン酸化合物を用いる場合は、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル 100質量部に対して、32質量部以下の範囲で用いることが好ましく、0.01~32質量部の範囲で用いることがより好ましい。
【0063】
前記飽和又は不飽和炭化水素基含有ジカルボン酸は、例えば、ダイマー酸等の重合脂肪酸であってもよい。ダイマー酸は、一般に乾性油又は半乾性油等から得られる不飽和脂肪酸の付加反応によって製造される脂肪酸誘導体であり、脂肪酸の二量体を主成分としている。ダイマー酸の主な例は、C18不飽和脂肪酸の付加によって得られるC36二塩基酸等を主成分とするものである。このダイマー酸の構造は、一般的には、単一ではなく、非環、単環及び多環等の混合物である。また、市販のダイマー酸には、少量のモノマー酸、トリマー酸等が含まれる場合もある。ダイマー酸の原料となる脂肪酸としては、トール油、大豆油、ヤシ油、ひまし油、パーム油又は米ぬか油等の植物油系脂肪酸、及び牛脂系脂肪酸又は豚脂系脂肪酸等の動物油系脂肪酸等が挙げられる。
【0064】
前記飽和又は不飽和炭化水素基含有ジカルボン酸の具体例として、例えば、アジピン酸、1,10-ドデカンジカルボン酸、市販のダイマー酸(例えば、ヘンケル社製バーサダイム216、228等、築野食品工業社製ツノダイム205、395等)等が挙げられる。
【0065】
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)は、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルのエポキシ基に対して、アミノポリエーテルの第1級アミノ基を、当量比で1.05~2.0の範囲となる量で反応させることによって、調製することができる。この反応は、例えば、室温~150℃で0.5~48時間かくはんすることによって行うことができる。なお反応温度及び反応時間は、反応スケール等に応じて適宜変更することができる。
【0066】
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)の調製において、多環式フェノール化合物及び/又はジカルボン酸化合物を用いる場合は、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルとアミノポリエーテルとを反応させる前に、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルに対して、多環式フェノール化合物及び/又はジカルボン酸化合物を反応させることができる。例えば、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルと、多環式フェノール化合物及び/又はジカルボン酸化合物とを、例えば、80~200℃で、1~24時間反応させる方法等が挙げられる。こうして得られた反応物に対して、アミノポリエーテルを、反応物のエポキシ基に対して、アミノポリエーテルの第1級アミノ基を、当量比で1.05~2.0の範囲となる量で、前記と同様に反応させることによって、前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)を調製することができる。
【0067】
電着塗料組成物は、前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)のアミノ基を中和する中和酸を含むことが好ましい。具体的には、前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)を、中和酸を混合した水性媒体中に分散させて用いる態様が挙げられる。前記中和酸として、例えば、メタンスルホン酸、スルファミン酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸を用いることができる。
【0068】
前記中和酸による中和率は、10~80%であるのが好ましく、15~80%であるのがより好ましい。中和率が前記範囲であることによって、前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)の水への良好な分散又は溶解を確保することができる。前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)が水に分散又は溶解するか否かは、前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)の分子量及びアミノ基の量、変性に用いるアミン化合物の種類、用いる中和酸の種類、中和酸の配合量(中和率)等を調整することにより決定され得る。前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)は、得られる塗膜の防食性の観点から、水分散体であることが好ましい。
【0069】
なお、本明細書において「塗膜形成樹脂」とは、電着塗装後の乾燥によって塗膜を形成し得る樹脂成分を表し、具体的には、アミン変性エポキシ樹脂(A)及びアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)を表す。また、「塗膜形成樹脂の樹脂固形分」とは、塗膜形成樹脂の固形分質量の総量を意味し、具体的には、アミン変性エポキシ樹脂(A)及びアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)の固形分質量の総量を意味する。
【0070】
電着塗料組成物中に含まれる前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)の固形分含有量は、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上であり、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)の含有量が前記範囲内であることによって、得られる電着塗膜に十分な可撓性を付与でき、また、得られる電着塗膜の塗膜外観(平滑性)及び防食性が向上する。
【0071】
前記電着塗料組成物中に含まれる可塑剤(B)及びアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)固形分の質量比((B)/(C))は、好ましくは3/1以上、より好ましくは4/1以上、更に好ましくは5/1以上であり、好ましくは30/1以下、より好ましくは15/1以下、更に好ましくは12/1以下である。可塑剤(B)及びアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)固形分の質量比が前記範囲内であることによって、得られる電着塗膜の塗膜外観(平滑性)及び防食性が向上し、更に優れた耐湿性を付与できる。
【0072】
層状化合物(D)
前記層状化合物(D)は、以下の一般式(5)で表されるものであることが好ましい。
(M2)8-x-y(M3)(An)x/n(OH)16-2y・rHO (5)
[式中、
M2は、2価の金属イオンを表す。
M3は、3価の金属イオンを表す。
Anは、n価のアニオンを表す。
xは2~5の実数を表し、yは0~4の実数を表し、n、rは、それぞれ独立に、正の実数を表す。
なおM2及びM3は、それぞれ単独でも2種以上を組み合わせてもよい。]
【0073】
前記層状化合物(D)は、2層以上の層状複水酸化物と、該層状複水酸化物との間に存在するアニオンとを有するものである。前記電着塗料組成物が前記層状化合物(D)を含むことで、得られる塗膜の置かれる腐食環境に対応して、防食成分として機能する前記アニオンを徐々に放出し、代わりに腐食性イオン、例えば、腐食環境下で存在する塩素イオン等を捕捉(トラップ)する効果により、防食性を高めることができる。
【0074】
前記層状複水酸化物は、2価の金属の(複)水酸化物に3価の金属イオンが固溶した構成であり、2価の金属の(複)水酸化物が電気的に中性であるところ、3価の金属イオンが固溶した分だけ正の電荷を有する。そして、該層状複水酸化物とアニオンとを共存させることで、負の電荷を有するアニオンが、正の電荷を有する複数の層状複水酸化物の間に取り込まれ(インターカレートされ)、層状化合物(D)が形成されうる。
【0075】
前記層状化合物(D)は、固有の結晶構造を有し、固有の粉末X線回折パターンを示す化合物である。その格子定数としては、層状複水酸化物に由来する格子定数と、複数の層状複水酸化物間の層間距離に対応する格子定数とが存在し得る。そして、前記層状複水酸化物に由来する格子定数は、前記2価の金属イオン及び3価の金属イオンに応じて変化し、前記層間距離に対応する格子定数は、取り込まれたアニオンに応じて変化し得る。そのため、各格子定数に基づいて、層状化合物(D)の特性を種々調整することが可能である。
【0076】
前記2価の金属イオン(M2)としては、例えば、アルカリ土類金属イオン、7~12族、14族の元素(金属元素)の2価のイオンを用いることができ、Mg(II)、Ca(II)、Sr(II)、Ba(II)、Mn(II)、Fe(II)、Co(II)、Ni(II)、Zn(II)、Cd(II)及びPb(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、Mg(II)、Ca(II)、Mn(II)、Fe(II)、Co(II)、Ni(II)、Zn(II)及びCd(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、Mg(II)、Zn(II)、Co(II)及びFe(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが更に好ましい。前記M2としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの2価の金属イオンを含むことにより、金属酸化物層の電荷を種々調整することができ、層間に取り込まれたアニオンの放出速度を制御することが可能となり、得られる塗膜の防食性が向上するという利点がある。また、環境負荷低減の観点からは、Cd、Pbを含まないことも好ましい。
【0077】
前記M2は、少なくともMg(II)を含むことが好ましい。前記M2中、Mg(II)の割合は、好ましくは17.5モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは25.0モル%であり、好ましくは85.0モル%以下、より好ましくは75.0モル%以下、更に好ましくは65.0モル%以下である。
【0078】
前記M2は、2種以上の金属イオンを含むことが好ましく、Mg(II)とMg(II)以外の金属を含むことがより好ましい。前記Mg以外の金属イオンとしては、1種又は2種以上を用いることができ、Ca(II)、Sr(II)、Ba(II)、Mn(II)、Fe(II)、Co(II)、Ni(II)、Zn(II)、Cd(II)及びPb(II)が好ましく、Ca(II)、Mn(II)、Fe(II)、Co(II)、Ni(II)、Zn(II)及びCd(II)がより好ましく、Mg(II)、Zn(II)、Co(II)及びFe(II)が更に好ましい。また、前記Mg(II)以外の金属イオンとして、Ca(II)、Mn(II)、Fe(II)、Co(II)、Ni(II)及びZn(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む場合、更に、Sr(II)、Pb(II)及びBa(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0079】
前記3価の金属イオン(M3)としては、3族、4族、6~8族、13族の元素の3価のイオン金属イオン、及び希土類元素の3価のイオンが挙げられ、具体的には、Sc(III)、Y(III)、Ti(III)、Cr(III)、Fe(III)、Al(III)、Ga(III)、In(III)及びLa(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、Cr(III)、Al(III)及びGa(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。前記3価の金属イオンとしては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの金属イオンを含むことにより、金属酸化物の電荷を種々調整することができ、層間に取り込まれたアニオンの放出速度を制御することが可能となり、得られる塗膜の防食性が向上するという利点がある。また、環境負荷低減の観点からは、Cr(III)を含まないことも好ましい。
【0080】
前記M3は、少なくともAl(III)を含むことが好ましい。前記M3中、Alの割合は、好ましくは5モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは50モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。
【0081】
前記M3は、2種以上の金属イオンを含むことが好ましく、Al(III)とAl(III)以外の金属イオンを含むことがより好ましい。前記Al(III)以外の金属イオンとしては、1種又は2種以上を用いることができ、Sc(III)、Y(III)、Ti(III)、Cr(III)、Fe(III)、Ga(III)、In(III)、及びLa(III)が好ましく、Cr(III)及びGa(III)がより好ましい。また、前記Al(III)以外の金属イオンとして、Ga(III)及びCr(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む場合、更に、Ti(III)、Fe(III)、Sc(III)、In(III)、及びLa(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0082】
前記アニオンとしては、炭酸、リン酸等の金属(特に鉄)に対する不働態形成に寄与し得るアニオンが挙げられる。
【0083】
前記アニオンは、少なくともリン酸イオンを含む。前記アニオン中、リン酸イオンの含有率は、10モル%超であり、好ましくは20モル%以上であり、80モル%未満であり、好ましくは70モル%以下である。
【0084】
前記リン酸イオンの含有率は、以下の式に基づいて算出することができる。
リン酸イオンの含有率(%)=(リン酸イオンの全モル数/層状化合物(D)に含まれる全アニオンのモル数)×100
【0085】
Anは、1種又は2種以上のアニオンを含んでいてもよく、Anとして2種以上のアニオンが含まれる場合、nは、各アニオンの価数及びモル含有率に基づき、加重平均値として算出することができる。
【0086】
x及びyは、2であることが好ましい。
【0087】
前記層状複水酸化物のZn(II)及びAl(III)を基準とした相対電荷密度は、1,100C/cm以上であり、好ましくは1,105C/cm以上、より好ましくは1,110C/cm以上であり、1,150C/cm以下であり、好ましくは1,145C/cm以下、より好ましくは1,140C/cm以下である。前記相対電荷密度が大きくなるほど、アニオンを層状化合物(D)内に保持しやすくなり、前記相対電荷密度が小さくなるほど、アニオンが層状化合物(D)から放出されやすくなる。
【0088】
式(5)で表される層状化合物の電荷密度は、2価の金属イオンとしてZn(II)、3価の金属イオンとしてAl(III)を用いた層状複水酸化物の電荷密度を基準として(以下、「基準電荷密度」という場合がある)、以下に示す相対電荷密度とすることができ、具体的には、以下のように算出することができる。
【0089】
式(5)は、2価及び3価の金属イオンを複数含む場合、式(5-1)で表すことができる。
(M2(2))8-x-(y+y1)(M2(1))y1(M3(1))x1(M3(2))x-x1(An)x/n(OH)16-2y・rHO (5-1)
[式(5-1)中、An、x、y、rは、前記と同義であり、M2(1)、M2(2)は同一又はそれぞれ異なる2価の金属イオン、M3(1)、M3(2)は同一又はそれぞれ異なる3価の金属イオンを表し、x1はM3(1)の組成比を表す実数、y1はM2(1)の組成比を表す実数である。]
【0090】
ここで、M2(1)をZn、M3(1)をAlとすると、式(5-1)は、式(5-2)で表すことができる。
(M2(2))8-x-(y+y1)(Zn)y1(Al)x1(M3(2))x-x1(An)x/n(OH)16-2y・rHO (5-2)
【0091】
この場合の基準電荷密度は、以下の式(6)により算出することができる。
基準電荷密度(C/cm
={r1×[Znの重量mol濃度(mol/g)]+r2×[(M2(2)の重量mol濃度(mol/g)]+r3×[M3(2)の重量mol濃度(mol/g)]+[Alの重量mol濃度(mol/g)]}×[ファラデー定数(C/mol)]×[(式(5-1)で表される層状化合物の真比重(g/cm)] (6)
ここで、r1、r2及びr3は、以下のように定義される。
r1=Znの電荷密度/Alの電荷密度
r2=M2(2)の電荷密度/Alの電荷密度
r3=M3(2)の電荷密度/Alの電荷密度
【0092】
なお、M2(2)及びM3(2)の電荷密度は、例えば、M2(2)の場合、以下の式(7)のように定義される。
M2(2)の電荷密度=(素電荷=1.6×10-19C)×(価数=2)/(M2(2)2+を球状と仮定した場合の体積) (7)
また、各金属イオンの重量mol濃度は、式(5-2)で表される層状化合物1g当たりの各金属イオンのmol数を表す。
【0093】
更に、式(5-2)のZnをM2(3)に、AlをM3(3)に置換した場合、層状化合物は式(5-3)で表される。
(M2(2))8-x-(y+y1)(M2(3))y1(M3(3))x1(M3(2))x-x1(An)x/n(OH)16-2y・rHO (5-3)
[式(5-3)中、An、x、x1、y、y1、rは、前記と同義であり、M2(3)は、前記M2(1)、M2(2)と同一又は異なる2価の金属イオン、M2(3)は、前記M3(1)、M3(2)と同一又は異なる3価の金属イオンを表す。]
【0094】
この場合の相対電荷密度は、以下の式(8)により算出できる。
相対電荷密度(C/cm
=[(m1×r4)+(m2×r5)+m3]}×基準電荷密度(C/cm) (8)
ここで、m1、m2、m3、r4及びr5は、以下のように定義される。
m1=M2(3)のmol分率(すなわち、置換されたZnのモル分率)
m2=M3(3)のmol分率(すなわち、置換されたAlのモル分率)
m3=(M2(2)のmol分率)+(M3(2)のmol分率)
r4=M2(3)の電荷密度/Znの電荷密度
r5=M3(3)の電荷密度/Alの電荷密度
但し、各元素のmol分率は、M2、M3の総mol数を1としたときの値である。
【0095】
金属イオンの電荷密度は、以下の式により算出することができ、金属イオンのイオン半径は、ポーリングのイオン半径に準拠するものとする。
金属イオンの電荷密度(C/cm
=素電荷×金属イオンの価数/{4π×(金属イオンのイオン半径)/3}
【0096】
前記アニオンの電子密度は、1,970C/cm以上であり、好ましくは1,980C/cm以上、より好ましくは1,990C/cm以上、更に好ましくは2,000C/cm以上であり、3,790C/cm以下であり、好ましくは3,700C/cm以下、より好ましくは3,600C/cm以下、更に好ましくは3,500C/cm以下である。
【0097】
前記アニオンの電子密度は、以下の式により算出することができ、アニオンのイオン半径は、ポーリングのイオン半径に準拠するものとする。
アニオンの電子密度(C/cm
=素電荷×アニオンの価数÷{4π×(アニオンのイオン半径)/3}
【0098】
前記層状化合物(D)は、共沈法、尿素法、ゾル-ゲル法等の公知の方法により製造することができる。こうした製造方法としては、例えば、特公昭46-2280号公報、特公昭47-32198号公報、特開平5-32198号公報等に記載の製造方法が挙げられる。また、市販の層状化合物を、アニオンを含む水溶液で処理することにより、層状複水酸化物間に取り込まれたアニオンを置換することで、目的とする層状化合物(D)を製造することもできる。
【0099】
前記層状化合物(D)の含有率は、前記電着塗料組成物の全固形分中、5質量%超であり、好ましくは7質量%以上であり、23質量%未満であり、好ましくは20質量%以下である。なお、本明細書において前記電着塗料組成物の固形分は、JIS K 5601に準拠した方法で加熱(180℃で30分間加熱)した後の残渣であり、固形分の質量はその質量である。
【0100】
前記電着塗料組成物中に含まれるアミン変性エポキシ樹脂(A)、可塑剤(B)、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)及び層状化合物(D)の総含有量は、例えば54.6質量%以下、好ましくは53質量%以下であり、26質量%以上であり、好ましくは27質量%以上である。前記総含有量が前記範囲内であることによって、良好な塗膜物性を有する電着塗膜を形成することができる利点がある。
【0101】
その他の成分
前記電着塗料組成物は、水性媒体を含む。前記水性媒体は、水、水に溶解し得る有機溶剤、又は水と水に溶解し得る有機溶剤との混合物であることが好ましい。前記有機溶剤の具体例として、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。VOCの使用をできるだけ少なくする観点から、有機溶剤の量はできるだけ少ないことが好ましい。
【0102】
前記電着塗料組成物は、必要に応じて顔料を含んでもよい。顔料の具体例としては、酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アゾレッド、キナクリドンレッド、ベンズイミダゾロンイエロ等の着色顔料;炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリン、クレー、タルク等の体質顔料;リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム等の防食顔料等が挙げられる。
【0103】
これらの顔料は、顔料分散樹脂を用いて、予め高濃度で水性媒体中に分散させてペースト状(顔料分散ペースト)とし、これを電着塗料組成物中に加えるのが好ましい。前記顔料分散樹脂としては特に限定されず、例えば、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体等を使用することができる。これらの成分を混合した後、混合物を顔料が所定の均一な粒径となるまで分散させて顔料分散ペーストを得る。分散には通常分散装置を用いる。例えば、ボールミルやサンドグラインドミル等を用いる。顔料分散ペーストに含まれる顔料の粒径は、15μm以下であることが好ましい。
【0104】
電着塗料組成物の調製において顔料を用いる場合は、電着塗料組成物中の顔料濃度は、電着塗料組成物の全固形分に対して2~50質量%の範囲であることが好ましい。これにより、良好な電着塗膜が得られるとともに、塗料の安定性が確保される。
【0105】
前記電着塗料組成物は、必要に応じて添加剤を含んでもよい。添加剤の具体例として、分散剤、粘性調整剤、表面調整剤、消泡剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0106】
前記電着塗料組成物に含まれる、アミン変性エポキシ樹脂(A)、可塑剤(B)、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)及び層状化合物(D)の合計の含有率は、25~50質量%であるのが好ましく、30~45質量%であるのがより好ましい。前記総含有量が前記範囲内であることによって、良好な塗膜物性を有する電着塗膜を形成することができる。
【0107】
電着塗料組成物の調製
前記電着塗料組成物は、アミン変性エポキシ樹脂(A)、可塑剤(B)、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)、層状化合物(D)及び必要に応じて用いられるその他成分(着色顔料、添加剤等)をそれぞれ水性媒体中に所定量添加し分散させることにより製造することができる。電着塗料組成物の具体的な製造方法として、例えば、下記方法が挙げられる。
【0108】
まず、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)及び必要に応じて有機溶剤を混合し、次いで、必要に応じた中和酸を混合する。得られた混合物を水性媒体に滴下して、若しくは、得られた混合物に水性媒体を加えて分散又は溶解させて、水分散体を得る。そして有機溶剤を留去する。更に、可塑剤(B)、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)、層状化合物(D)を混合することにより、電着塗料組成物を調製することができる。
【0109】
他の製造例としては、まず、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)及び必要に応じて有機溶剤を混合し、次いで、必要に応じた中和酸を混合する。得られた混合物を水性媒体に滴下して、若しくは、得られた混合物に水性媒体を加えて分散又は溶解させて、水分散体を得る。そして有機溶剤を留去する。別途、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)に必要に応じて有機溶剤を混合し、次いで、必要に応じて中和酸を混合する。得られた混合物を水分散体に滴下して、若しくは、得られた混合物に水性媒体を加えて分散又は溶解させて、水分散体を得る。アミン変性エポキシ樹脂(A)から得られた水分散体、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)から得られた水分散体、可塑剤(B)及び層状化合物(D)を混合し、イオン交換水を混合することにより、電着塗料組成物を調製してもよい。
【0110】
更に、他の製造例としては、アミン変性エポキシ樹脂(A)及び必要に応じて有機溶剤を混合し中和することにより水分散体を調製し、次いで、可塑剤(B)、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)及び層状化合物(D)を後添加してもよい。
これらの製造例においては、可塑剤(B)は、アミン変性エポキシ樹脂(A)を製造する際の有機溶剤としての役割も果たすこととなる。これにより、電着塗料組成物の調製時に用いる有機溶剤の量を抑制することができる。
【0111】
前記電着塗料組成物に調製において、前記層状化合物(D)は、そのまま前記電着塗料組成物の調製に用いてもよく、予め高濃度で分散樹脂とともに水性媒体中に分散させてペースト状(分散ペースト)とし、これを電着塗料組成物の調製に用いてもよい。前記分散樹脂としては、例えば、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体等を使用することができる。これらの成分を混合した後、混合物を層状化合物(D)が所定の均一な粒径となるまで分散させて分散ペーストを得ることができる。分散には通常分散装置を用いる。例えば、ボールミルやサンドグラインドミル等を用いる。分散ペーストに含まれる層状化合物(D)の粒径は、15μm以下であることが好ましい。
【0112】
また、前記分散ペーストを調製する際、必要に応じて用いる顔料とともに分散させ、顔料分散ペーストとしてもよい。
【0113】
なお、電着塗料組成物の製造において、必要に応じて用いられるその他の成分は、任意の適切なタイミングで加えることができる。
【0114】
前記電着塗料組成物を電着塗装方法及び前記電着塗料組成物から形成される塗膜と、基材とを有する積層体も、本発明の技術的範囲に包含される。
【0115】
被塗物
前記電着塗料組成物を塗装する被塗物としての基材は、導電性のあるものであれば特に限定されない。例えば、金属(鉄、鋼、銅、アルミニウム、マグネシウム、スズ、亜鉛等及びこれら金属を含む合金等)、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらに表面処理(例えば、リン酸系、クロム酸系又はジルコニウム系の化成処理)を施したもの、並びにこれらの成型物等が用いられる。前記電着塗料組成物は、ジルコニウム系の化成処理を施した金属基材の塗装に好適に用いることができる。
【0116】
前記電着塗料組成物は、例えば、熱容量が大きく、加熱炉中において被塗物に熱が十分に伝達しない金属基材等が被塗物である場合において、特に好適に用いることができる。このような被塗物として、具体的には、建設機械(例えば、ブルドーザー、スクレイパー、油圧ショベル、堀削機、運搬機械(トラック、トレーラー等)、クレーン・荷役機械、基礎工事用機械(ディーゼルハンマー、油圧ハンマー等)、トンネル工事用機械(ボーリングマシーン等)、ロードローラー等;一般工業用と呼ばれる弱電・重電機器、農業機械、鋼製家具、工作機械及び大型車両等の産業機械;道路、鉄道又は橋りょうの建設に用いられる金属部品、マンホールの蓋等の固定構造物の金属部品;そして熱容量が大きく加熱しても昇温し難い金属被塗物等が挙げられる。前記電着塗料組成物は、前記のような、建設機械、産業機械及び固定構造物の金属部品からなる群から選択される被塗物の塗装に好適に用いることができる。
【0117】
電着塗装方法
前記電着塗料組成物の電着塗装方法は、特に限定されず、従来公知のカチオン電着塗装方法によって行うことができる。電着塗装方法は、具体的には、前記電着塗料組成物中に被塗物を浸漬する工程と、被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加して、被塗物の表面に塗膜を析出させる工程と、析出した塗膜を必要に応じて水洗した後、所定温度で焼付けて塗膜を乾燥させる工程と、を含む。
【0118】
電着塗料組成物の浴温は、10℃~40℃であることが好ましく、10℃~30℃であることがより好ましい。印加電圧は、50V~450Vであることが好ましく、100V~400Vであることがより好ましい。通電時間は、1秒~300秒であることが好ましく、30秒~180秒であることがより好ましい。
【0119】
表面上に析出塗膜を有する被塗物を、例えば20~240℃、好ましくは40~180℃、より好ましくは50~160℃、更に好ましくは50~110℃で乾燥させることによって、塗膜を得ることができる。乾燥時間は、温度に応じて適宜選択することができる。乾燥時間は、例えば5~180分であってよく、10~180分であるのが好ましく、10~120分間であるのがより好ましい。得られる電着塗膜の膜厚は、5~25μmであることが好ましい。
【0120】
こうして得られる電着塗膜の上に、必要に応じて、更に塗膜を形成してもよい。電着塗膜の上に形成することができる塗膜として、例えば、自動車塗装分野において形成される、中塗り塗膜、上塗りベース塗膜、クリヤー塗膜等が挙げられる。これらの塗膜は1種のみを形成してもよく、2種又はそれ以上の塗膜を形成してもよい。
【0121】
前記電着塗料組成物では、分子量が比較的大きいアミン変性エポキシ樹脂(A)と、芳香族アルコール化合物を含む可塑剤(B)及びアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)の両方とを組み合わせることで、アミン変性エポキシ樹脂(A)の剛直性を生かしつつ、該可塑剤(B)及びアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)と一体となった膜を形成することができ、優れた防食性が達成すると考えられる。しかしながら、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)、可塑剤(B)及びアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)のみでは、リン酸亜鉛処理が施された基材に対しては、外観に優れ、防食性も良好な塗膜を形成可能であるものの、ジルコニウム化成皮膜処理を施した基材に対しては、防食性が十分でない場合があることが、本発明者らの検討により見出された。層状化合物は、周囲環境によりその挙動が変化し得るが、ある種の層状化合物(D)を、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)、可塑剤(B)及びアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)と組み合わせた場合においては、これらの成分の塗膜形成性を損なうことなく、一体となった塗膜を形成し得、且つ防食機能を有する成分(アニオン)を徐々に放出することが可能であり、ジルコニウム化成処理基材に対しても外観と防食性とを両立する塗膜を形成することができる。
【0122】
また、前記電着塗料組成物は水性塗料組成物であることから、環境に対する負荷を低減し得る。前記電着塗料組成物は更に、硬化剤を含む必要がないので、硬化反応性に基づいた貯蔵安定性低下又は作業性悪化等の問題を抑制し得る。
【0123】
すなわち、前記電着塗料組成物は、ジルコニウム化成処理皮膜上に塗装した場合であっても、低温加熱乾燥条件又は自然乾燥条件において、塗膜外観に優れ、且つ防食性も良好な塗膜を形成し得る。前記電着塗料組成物は、好ましくは、前記に加えて、様々な腐食環境においても、防食性が良好な塗膜を形成し得る。そのため、前記電着塗料組成物は、熱容量が大きく加熱しても昇温し難い金属被塗物等、より具体的には、建設機械、産業機械及び固定構造物の金属部品からなる群から選択される被塗物等の塗装に好適に用いることができる。
【実施例0124】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」及び「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0125】
(製造例1)顔料分散用樹脂の製造
かくはん装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、トリレンジイソシアネート(TDI)870.0質量部を入れ、メチルイソブチルケトン(MIBK)51.3質量部で希釈した。その後、これを40℃に昇温した後、2-エチルヘキサノール 734.5質量部をかくはんしながら、乾燥窒素雰囲気で2時間かけて滴下し、更に、MIBK 51.1質量部を混合し、2-エチルヘキサノールハーフブロック化TDI(固形分濃度:94.0質量%)を得た。
次に、かくはん機、冷却管、窒素導入管、温度計及び滴下漏斗を装備した別の反応容器にjER828P(三菱化学製、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル;エポキシ当量:190g/eq)382.2質量部及びビスフェノールA 117.8質量部を仕込み、窒素雰囲気下で、150℃で1時間反応させることにより、エポキシ当量710g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂を得た。得られたビスフェノールA型エポキシ樹脂を140℃まで冷却した後、先に調製した2-エチルヘキサノールハーフブロック化TDI 196.3質量部を加え、140℃で1時間加熱保持した。ここに、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(DPnB)215.4質量部を加えた後、反応溶液を100℃に冷却し、SHP-100(1-(2-ヒドロキシエチルチオ)-2-プロパノール、三洋化成社製)272.0質量部(固形分136.0質量部)、ジメチロールプロピオン酸134.0質量部及びイオン交換水144.0質量部を加え、70~75℃で酸価3.0mgKOH/g以下になるまで反応させ、スルホニウム基変性エポキシ樹脂を得た。これをイオン交換水1628.3質量部で希釈し、スルホニウム基含有顔料分散用樹脂(固形分濃度:30質量%)を得た。
【0126】
(製造例2-1)アミン変性エポキシ樹脂(A-1)の製造
かくはん装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、DER-331J(ダウケミカル社製、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル)198質量部及びビスフェノールA 108質量部を入れ、DPnB 45.7質量部及びMIBK 56.5質量部に溶解した。ここに、ジメチルベンジルアミン0.8質量部を加えて、エポキシ当量が4,000g/eqになるまで120℃で反応を続け、原料となるビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を得た。
反応終了後、DPnB 62.5質量部及びケチミン34.9質量部を加え、120℃で1時間反応させて、ビスフェノール骨格を有するアミン変性エポキシ樹脂(A-1)を得た。
得られたアミン変性エポキシ樹脂の数平均分子量は6,000であった。
得られたアミン変性エポキシ樹脂(A-1)を、90質量%酢酸5.2質量部及びイオン交換水482.5質量部の混合液に加えて十分にかくはんした後、更に、減圧下50℃でMIBKと水の混合物163.3質量部を留去して、アミン変性エポキシ樹脂(A-1)の水分散体(固形分濃度:38質量%)を得た。
【0127】
(製造例2-2)アミン変性エポキシ樹脂(A-2)の製造
かくはん装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、DER-331J(ダウケミカル社製、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル)143.8質量部及びビスフェノールA 81.5質量部を入れ、DPnB 33.5質量部及びMIBK 41.5質量部に溶解した。ここに、ジメチルベンジルアミン0.4質量部を加えて、エポキシ当量が5,000になるまで120℃で反応を続け、原料となるビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を得た。
反応終了後、DPnB 30.6質量部及びケチミン17.1質量部を加え、120℃で1時間反応させて、ビスフェノール骨格を有するアミン変性エポキシ樹脂(A-2)を得た。
得られたアミン変性エポキシ樹脂の数平均分子量は9,000であった。
得られたアミン変性エポキシ樹脂(A-2)を、90%酢酸2.5質量部及びイオン交換水356.6質量部の混合液に加えて十分にかくはんした後、更に、減圧下50℃でMIBKと水の混合物106質量部を留去して、アミン変性エポキシ樹脂(A-2)の水分散体(固形分濃度:38質量%)を得た。
【0128】
(製造例2-3)アミン変性エポキシ樹脂(a-1)の製造
DER-331J(ダウケミカル社製、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル)187.2質量部及びビスフェノールA 84.8質量部を、MIBK 48.0質量部に溶解した。ここに、ジメチルベンジルアミン0.3質量部を加えて、エポキシ当量が1,270になるまで反応を続け、原料となるビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を得た。
反応終了後、BA-P8グリコール(日本乳化剤社製、2,2‐ビス(4-ポリオキシプロピレンオキシフェニル)プロパン)34.4質量部及びケチミン87.9質量部を加え、120℃で1時間反応させて、ビスフェノール骨格を有するアミン変性エポキシ樹脂(a-1)を得た。
得られたアミン変性エポキシ樹脂の数平均分子量は2,000であった。
得られたアミン変性エポキシ樹脂(a-1)を、90%酢酸7.1質量部及びイオン交換水123.6質量部の混合液に加え十分にかくはんした後、更にイオン交換水382.5質量部をゆっくりと加え、アミン変性エポキシ樹脂(a-1)を含むエマルションを得た。更に、減圧下50℃でMIBKと水の混合物163質量部を留去して、アミン変性エポキシ樹脂(a-1)の水分散体(固形分濃度:38質量%)を得た。
【0129】
(製造例3-1)アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C-1)の製造
かくはん機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を装備した反応容器に、ケミオールEP-400P(三洋化成工業社製、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル;エポキシ当量:約300g/eq)181.0質量部とビスフェノールA 43.1質量部とを加え、これらをかくはんしながら140℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン 0.6質量部を添加し、175℃で4時間保温して、エポキシ当量が1,000g/eqのポリエポキシドを得た。次いで、バーサダイム216(ヘンケル社製、ダイマー酸;酸価:192)32.7質量部とベンジルジメチルアミン 0.1質量部とを加え、160℃で固形分酸価が0.5mgKOH/g以下になるまで反応させ、数平均分子量が4,600で、エポキシ当量が2,300g/eqであるポリグリシジルエーテルを得た。次に、この化合物に、AP-40(三洋化成工業社製、ジエチレントリアミン・プロピレンオキサイド付加物;アミン価:75mgKOH/g)154.2質量部を添加し80℃で4時間保温し、数平均分子量が30,000のアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C-1)を得た。
得られたアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C-1)に、更に、50%酢酸20質量部及びイオン交換水345.8質量部の混合液を加え十分にかくはんした後、更にイオン交換水260質量部をゆっくりと加え、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C-1)を含む水分散体(アミン価:27mgKOH/g、酸価:15mgKOH/g、固形分濃度:33.5質量%)を得た。
【0130】
(製造例3-2)アルキレンオキサイド部分及びビスフェノール部分を有するアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C-2)の製造
かくはん機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を装備した反応容器に、ケミオールEP-400P 181.0質量部とビスフェノールA 43.1質量部とを加え、これらをかくはんしながら140℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン 0.6質量部を添加し、175℃で4時間保温して、エポキシ当量が1,000g/eqのポリエポキシドを得た。次いで、バーサダイム216 32.7質量部とベンジルジメチルアミン 0.1質量部とを加え、160℃で固形分酸価が0.5mgKOH/g以下になるまで反応させ、数平均分子量が4,600で、エポキシ当量が2,300g/eqであるポリグリシジルエーテルを得た。次に、この化合物に、AP-10(三洋化成工業社製、ジエチレントリアミン・プロピレンオキサイド付加物;アミン価:250mgKOH/g)51.9質量部を添加し80℃で4時間保温し、数平均分子量が16,000のアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C-2)を得た。
得られたアミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C-2)に、更に、50%酢酸15質量部及びイオン交換水259.3質量部の混合液を加え十分にかくはんした後、更にイオン交換水195.8質量部をゆっくりと加え、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C-2)を含む水分散体(アミン価:40mgKOH/g、酸価:22mgKOH/g、固形分濃度:33.5質量%)を得た。
【0131】
(製造例4-1)層状化合物(D-1)の製造
ハイドロタルサイトZHT-4A(協和化学工業社製、以下「層状化合物(D-3)」とも言う。)200質量部を、ヨウ化水素(以下、「アニオン種」とも言う。)の22.7質量%水溶液2Lに投入し、ディスパーを用いて50℃で2,000rpm、1時間分散した。その後、吸引濾過及び純水2Lでの洗浄を、ろ液の電導度が45μS/cm(25℃)以下になるまで繰り返した。前記で得られた残渣を、105℃で5時間乾燥し、層状化合物(D-1)を得た。得られた層状化合物(D-1)を、X線回折装置D8 ADVANCE(Bruker社製)を用いて解析し、インターカレートされているアニオンが炭酸イオンからヨウ素イオンへ置換されていることを確認した。すなわち、アニオンの交換反応により、ハイドロタルサイト層間距離が変化することを利用し、格子定数(003)面の変化から炭酸イオンからヨウ素イオンへの置換反応の有無を確認した。
また、電子プローブマイクロアナライザーJXA-8410(日本電子社製)を用いて原子数を測定し、炭素の数を炭酸イオンの数、ヨウ素の数をヨウ素イオンの数とすることで、以下の式に従って、ヨウ素イオン含有率を算出した。
ヨウ素イオン含有率(%)=ヨウ素イオン数/(炭酸イオン数+ヨウ素イオン数)×100
【0132】
(製造例4-2~4-11)層状化合物(D-2)、(D-4)~(D-7)、(D-14)~(D-18)
製造例4-1において、アニオン種の種類及びアニオン種の水溶液の濃度を、表1に示す通りに変更したこと以外は、製造例4-2と同様にして、層状化合物(D-2)、(D-3)~(D-7)、(D-15)~(D-19)を製造した。
【0133】
インターカレートするアニオン種がリン酸イオン以外の場合は、そのアニオン種の水溶液の濃度は以下の式に従って決定した。
アニオン種の水溶液の濃度(質量%)=2質量%×(使用したアニオンの分子量)/(リン酸イオンの分子量)
【0134】
また、製造例4-2、4-4~4-11におけるアニオン含有率は、以下のように測定した。すなわち電子プローブマイクロアナライザーJXA-8410(日本電子社製)を用いて原子数を測定し、それぞれ、炭素の数を炭酸イオンの数、表1に示す特定元素の数をアニオンの数とすることで、以下の式に従って、アニオン含有率を算出した。
アニオン含有率(%)=特定元素数/(炭酸イオン数+特定元素数)×100
【0135】
製造例4-3については、C13-NMR(デジタルNMR AVANCE400、ブルカー製)を用い、HCO に由来する炭素のスペクトルと、CO 2-に由来する炭素のスペクトルの面積より、以下の式に従って、アニオン含有率を算出した。
アニオン含有率(%)=HCO3 に由来する炭素のスペクトル面積/(HCO3 及びCO 2-に由来する炭素のスペクトル面積の合計)
【0136】
【表1】
【0137】
(製造例4-12)層状化合物(D-8)の製造
0.5mol/Lの炭酸マグネシウム水懸濁液4Lに対して、2価の金属イオンM2(a)としてのMg(II)、2価の金属イオンM2(b)としてのNi(II)、3価の金属イオンM3(a)としてのAl(III)の物質量比(モル比、Mg(II)/Ni(II)/Al(III))が3/1/2となるように水酸化ニッケル懸濁液、及び水酸化アルミニウム懸濁液を混合し、ディスパーを用いて500rpmでかくはんしながら、水酸化ナトリウムによりpHを10.5に調製した後、50℃で4時間反応を行った。なお、ここで用いた炭酸マグネシウム、水酸化ニッケル及び水酸化アルミニウムを、以下、「金属イオン種」と言うこともある。
【0138】
次いで、ブフナーロートを用いて吸引濾過し、得られた固形物を純水で洗浄を繰り返し、上澄み液の電導度が45μS/cm以下になるまで繰り返した。更に、105℃で5時間乾燥後、乳鉢で粉砕して白色粉末を得た。得られた試料を粉末X線回折法により、回折ピークのシフト位置から得られる格子間距離と構成元素の原子間距離を照合することで、該試料はハイドロタルサイト構造を持つ化合物であることを確認した。
更に、製造例4-1のハイドロタルサイトZHT-4A(層状化合物(D-3)の代わりに前記で得られた化合物を用いたこと以外は、製造例4-1と同様の方法で層状化合物(D-8)を得た。
【0139】
(製造例4-13~4-18)層状化合物(D-9)~(D-13)の製造
製造例4-12において、2価の金属イオン(M2(a)、M2(b))、3価の金属イオン(M3(a)、M(b))の種類とその物質量比(モル比)および金属イオン種の種類を表2に示す通りに変更したこと以外は、製造例4-12と同様にして、層状化合物(D-9)~(D-13)を製造した。
【0140】
【表2】
【0141】
(製造例5-1)顔料分散ペースト(P1)の製造
イオン交換水18.2質量部、前記顔料分散用樹脂52.8質量部、ブチルセロソルブ0.8質量部、層状化合物(D-1)14.1質量部及びタイピュアR-900(酸化チタン、デュポン社製)14.1質量部を混合し、ディスパーで30分間かくはんし、その後、ミルでガラスビーズとともに30分間分散することによって、層状化合物(D-1)を含む顔料分散ペースト(P1)を製造した。
【0142】
製造例5-2~5-19)顔料分散ペースト(P2)~(P19)の製造
製造例5-1において、層状化合物(D-1)の代わりに、層状化合物(D-2)~(D-19)を用いたこと以外は、製造例5-1と同様にして、層状化合物(D-2)~(D-19)をそれぞれ含む顔料分散ペースト(P2)~(P19)を製造した。
【0143】
(製造例5-20)顔料分散ペースト(P20)の製造
イオン交換水18.2質量部、前記顔料分散用樹脂52.8質量部、ブチルセロソルブ0.8質量部、層状化合物(D-1)32.4質量部を混合し、ディスパーで30分間かくはんし、ガラスビーズとともにミルで30分間分散することによって、層状化合物(D-1)を含む顔料分散ペースト(P20)を製造した。
【0144】
(製造例5-21)顔料分散ペースト(P21)の製造
層状化合物(D-1)を28.2質量部とした以外は、製造例5-1と同様にして、層状化合物(D-1)を含む顔料ペースト(P21)を製造した。
【0145】
(製造例5-22)顔料分散ペースト(P22)の製造
層状化合物(D-1)を21.2質量部、タイピュアR-900を7質量部とした以外は、製造例5-1と同様にして、層状化合物(D-1)を含む顔料ペースト(P22)を製造した。
【0146】
(製造例5-23)顔料分散ペースト(P23)の製造
層状化合物(D-1)を9.9質量部、タイピュアR-900を18.3質量部とした以外は、製造例5-1と同様にして、層状化合物(D-1)を含む顔料ペースト(P23)を製造した。
【0147】
(製造例5-24)顔料分散ペースト(P24)の製造
層状化合物(D-1)を7.1質量部、タイピュアR-900を21.1質量部とした以外は、製造例5-1と同様にして、層状化合物(D-1)を含む顔料ペースト(P24)を製造した。
【0148】
(製造例5-25)顔料分散ペースト(P25)の製造
層状化合物(D-1)を1.4質量部、タイピュアR-900を26.8質量部とした以外は、製造例5-1と同様にして、層状化合物(D-1)を含む顔料ペースト(P25)を製造した。
【0149】
(製造例5-26)顔料分散ペースト(P26)の製造
タイピュアR-900を28.2質量部とした以外は、製造例5-1と同様にして、層状化合物(D-1)を含む顔料ペースト(P26)を製造した。
【0150】
(実施例1)電着塗料組成物の調製
前記アミン変性エポキシ樹脂(A-1)の水分散体263.2質量部と、純水317.6質量部、中和酸として68質量%酢酸1.9質量部、可塑剤(B-1)としてベンジルアルコール51.1質量部、前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C-1)16.2質量部及び先の製造例5-1で得られた顔料ペースト(P1)107.0質量部とを混合し、ディスパーで10分間かくはんすることによって、電着塗料組成物を得た。但し、(A-1)の水分散体、(C-1)及び顔料ペースト(P1)は、それぞれ中和酸として1.5質量部、0.1質量部及び0.4質量部の有効成分量の酢酸を含む。
【0151】
(実施例2~34及び比較例1~7)電着塗料組成物の調製
各成分(A)~(D)の種類及び/又は量を、下記表に記載のものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、電着塗料組成物を調製した。なお、(A)、(C)、(c)、ブロックイソシアネート硬化剤及び顔料分散ペーストの値は固形分質量部を示す。また、酢酸の値は有効成分質量部を示す。さらに、金属イオンの比(M2(a)/M2(b)/M3(a)/M3(b))は、物質量比(モル比)を表す。
【0152】
(比較例8)
比較例5の電着塗料組成物は、ブロックイソシアネート硬化剤を含む電着塗料組成物である。以下の手順に従い調製した。
製造例3-2の手順と同様にして、アミン変性エポキシ樹脂(a-1)の水分散体を得た。得られたアミン変性エポキシ樹脂(a-1)の水分散体と、ブロックイソシアネート硬化剤としてデュラネートWM44-L70G(HDI系イソシアネート化合物、旭化成社製;固形分濃度:70質量%、有効NCO%:5.3質量%)とを、固形分質量比が80/20で均一になるように混合し、脱イオン水で希釈することで、アミン変性エポキシ樹脂(a-2)及びブロックイソシアネート硬化剤を含む水分散体(固形分濃度:38%)を得た。
【0153】
前記水分散体277質量部、イオン交換水617質量部、及び先の製造例5-23で得られた顔料分散ペースト(P23)106質量部を混合し、ディスパーで10分間かくはんすることによって、電着塗料組成物を得た。
【0154】
前記実施例及び比較例で調製した電着塗料組成物を用いて、以下に示す評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0155】
電着塗膜(試験片)の調製
被塗物である冷延鋼板(JIS G 3141,SPCC-SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)中に50℃で2分間浸漬して、脱脂処理した。次にサーフファインGL1(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)で表面調整し、次いでジルコニウム化成処理液であるサーフダインSD-5000(日本ペイント・サーフケミカルズ社製、ジルコニウム化成処理液)中に40℃で2分間浸漬して、ジルコニウム化成処理を施した。その後、脱イオン水による水洗を行った。なお、実施例及び比較例における基材の前処理を、前処理(Z-1)とする。
前記で得られた電着塗料組成物を含む液温30℃の電着浴に、被塗物を全て埋没させた後、直ちに電圧の印加を開始し、30秒間昇圧し80Vに達してから150秒間保持する条件で電圧を印加して、被塗物上に析出塗膜を形成した。得られた析出塗膜を、110℃で25分間加熱し乾燥させて、膜厚18μmの電着塗膜を有する電着塗装板を得た。
なお、実施例10においては、得られた析出塗膜を、80℃で20分間加熱し乾燥させて、膜厚18μmの電着塗膜を有する電着塗装板を得た。
【0156】
(参考例1)
電着塗膜(試験片)の調製方法のジルコニウム化成処理剤(サーフダイン EC-3200(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)の代わりに、リン酸亜鉛化成処理剤であるサーフダイン セレクト4000(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)を用いたこと以外は、比較例7における電着塗膜(試験片)の調製と同様にして、電着塗膜を有する電着塗装板を得た。
【0157】
(参考例2)
電着塗膜(試験片)の調製方法のジルコニウム化成処理剤(サーフダイン EC-3200)の代わりに、リン酸亜鉛化成処理剤であるサーフダイン セレクト4000(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)を用いたこと以外は、比較例8における電着塗膜(試験片)の調製と同様にして、電着塗膜を有する電着塗装板を得た。
なお、参考例1及び2における基材の前処理を、前処理(P-1)とする。
【0158】
電着塗膜外観
実施例及び比較例で得られた電着塗膜の算術平均粗さ(Ra値)を、JIS B 0601に準拠し、小形表面粗さ測定機サーフテストSJ-210(ミツトヨ社製)を用いて測定し、塗膜外観を下記基準により評価した。測定条件は、カットオフ値:2.5mm、走査速度:2mm/sとした。
なお本明細書において算術平均粗さ(Ra値)は、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さ(l)だけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し平均した値である。
◎◎:Ra値が1.0μm未満
○:Ra値が1.0μm以上1.2μm未満
△:Ra値が1.2μm以上1.5μm未満
×:Ra値が1.5μm以上
【0159】
防食性(CCT)
実施例及び比較例で得られた各電着塗装板について、JASO M609に従い、複合サイクル試験機CCT1L(スガ試験機社製)を用いて、複合サイクル腐食試験(CCT)を行なった。
すなわち、各試験片に、基材に達するようにカッターナイフでクロスカット傷を入れ、(35℃で5%食塩水噴霧2時間)-(60℃で乾燥4時間)-(50℃でRH95%以上の耐湿試験機内で静置2時間)を1サイクルとして、60サイクル(合計480時間)試験を行なった。試験終了後の各試験片のクロスカット部の状態(錆、フクレの状態)を下記基準により評価した。
(錆幅)
◎:錆幅がクロスカット部片側から1.0mm未満
○:錆幅がクロスカット部片側から1.0mm以1.5mm未満
△:錆幅がクロスカット部片側から1.5mm以上2.0mm未満
×:錆幅がクロスカット部片側から2.0mm以上
(フクレ幅)
◎:フクレ幅がクロスカット部片側から2.5mm未満
○:フクレ幅がクロスカット部片側から2.5mm以上3.0mm未満
△:フクレ幅がクロスカット部片側から3.0mm以上3.5mm未満
×:フクレ幅がクロスカット部片側から3.5mm以上
【0160】
防食性(SDT)
実施例及び比較例で得られた各電着塗装板に、基材に達するようにカッターナイフで長さ5cmの直線の傷を入れ、5%塩化ナトリウム水溶液中に浸漬し、40℃で72時間静置した(塩水浸漬試験:SDT)。試験終了後の各試験片のクロスカット部の状態(錆、剥離の状態)を下記基準により評価した。
(錆幅)
◎:錆幅がクロスカット部片側から0.25mm未満
○:錆幅がクロスカット部片側から0.25mm以上0.5mm未満
△:錆幅がクロスカット部片側から0.5mm以0.75mm未満
×:錆幅がクロスカット部片側から0.75mm以上
(フクレ幅)
◎:剥離幅がクロスカット部片側から1.0mm未満
○:剥離幅がクロスカット部片側から1.0mm以上2.0mm未満
△:剥離幅がクロスカット部片側から2.0mm以上3.0mm未満
×:剥離幅がクロスカット部片側から3.0mm以上
【0161】
実施例及び比較例に用いた材料を製造するのに用いた材料、並びに表中の各成分の詳細は以下の通りである。
・jER828P:ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、三菱化学社製;エポキシ当量:190g/eq、固形分濃度:100質量%
・SHP-100:1-(2-ヒドロキシエチルチオ)-2-プロパノール、三洋化成工業社製;固形分濃度:50質量%
・DER-331J:ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ダウケミカル社製;エポキシ当量:188g/eq、固形分濃度:100質量%
・BA-P8グリコール:2,2‐ビス(4-ポリオキシプロピレンオキシフェニル)プロパン、日本乳化剤社製:固形分濃度:99.5質量%
・ケミオールEP-400P:ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、三洋化成工業社製;エポキシ当量:約300g/eq、固形分濃度:99.9質量%
・バーサダイム216:ダイマー酸、ヘンケル社製;酸価:192mgKOH/g、固形分濃度:100質量%
AP-40:ジエチレントリアミン・プロピレンオキサイド付加物、三洋化成工業社製;アミン価:75mgKOH/g、固形分濃度:100質量%
・ハイドロタルサイトZHT-4A;Mg・Al・Zn(OH)12(CO)・3.5HO、協和化学工業社製;固形分濃度:100質量%
・タイピュアR-900:酸化チタン、デュポン社製:固形分濃度:100質量%
・デュラネートWM44-L70G:HDI系イソシアネート化合物、旭化成社製;有効NCO%:5.3質量%、固形分濃度:70質量%
可塑剤(B-1):ベンジルアルコール、沸点:205℃
可塑剤(B-2):4-メトキシベンジルアルコール、沸点:259℃
可塑剤(b-1):2-エチルヘキシルセロソルブ(エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル)、沸点:228℃
可塑剤(b-2):ニューポールYG-1(ポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル)、三洋化成工業社製
可塑剤(b-3):ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)、沸点:171℃
(c-1):ニューポールBPE-60(ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル(n≒6))、三洋化成工業社製
【0162】
【表3A】
【0163】
【表3B】
【0164】
【表3C】
【0165】
【表3D】
【0166】
【表3E】
【0167】
【表3F】
【0168】
【表3G】
【0169】
【表3H】
【0170】
【表3I】
【0171】
実施例の電着塗料組成物から形成された塗膜は、いずれも、低温加熱乾燥条件又は自然乾燥条件において、防食性が良好であった。特に、実施例2、9、10、12~19、21~34の電着塗料組成物から形成された塗膜では、ジルコニウム化成処理皮膜に塗装した場合においても、塗膜外観に優れていた。
【0172】
比較例1、5、6は、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂を含まない例であり、いずれの乾燥条件においても得られた塗膜の防食性が十分に満足できるものではなかった。
比較例2、3、4は、可塑剤として芳香族アルコール化合物を含まない例であり、いずれの乾燥条件においても得られた塗膜の防食性が十分に満足できるものではなかった。
比較例7は、層状化合物を含まない例であり、得られた塗膜の防食性が十分に満足できるものではなかった。
比較例8は、可塑剤、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂及び層状化合物を含まない例であり、得られた塗膜の防食性、が十分に満足できるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0173】
前記電着塗料組成物は、低温塗装が可能であって、ジルコニウム化成処理皮膜上に塗装した場合でも、外観に優れ、且つ防食性も良好な塗膜を形成し得る。前記電着塗料組成物は、好ましくは、前記に加えて、様々な腐食環境においても、防食性が良好な塗膜を形成し得る。そのため、前記電着塗料組成物は、熱容量が大きく加熱しても昇温し難い金属被塗物等、より具体的には、建設機械、産業機械及び固定構造物の金属部品からなる群から選択される被塗物等の塗装に好適に用いることができる。
【手続補正書】
【提出日】2022-01-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン変性エポキシ樹脂(A)、可塑剤(B)、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)及び層状化合物(D)を含む電着塗料組成物であって、
前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の数平均分子量が、2,500以上であり、
前記可塑剤(B)が、芳香族アルコール化合物を含むものであり、
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)が、オキシアルキレン単位及びビスフェノール単位を有するものであり、
前記層状化合物(D)は、少なくとも2以上の層状複水酸化物と、該2層以上の層状複水酸化物の間に存在するアニオンとを有するものであり、
前記アニオンが、I 、PO 3- 、CO 2- 、HCO 、CrO およびHVO 2- からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記可塑剤(B)の含有量は、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100質量部に対して、30質量部以上65質量部以下であり、
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)の固形分含有量は、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下であり、
前記層状化合物(D)の含有率は、全固形分中、5質量%超である、電着塗料組成物。
【請求項2】
前記層状複水酸化物は、2価の金属イオンと3価の金属イオンとを含み、
Zn(II)及びAl(III)を基準とした、前記層状複水酸化物の相対電荷密度が、1,100C/cm以上1,150C/cm以下であり、
前記アニオンの電子密度は、2,000C/cm以上3,500C/cm以下であり、
前記アニオンは、少なくとも、リン酸イオンを含み、
前記アニオン中のリン酸イオンの含有率が、10モル%超80モル%未満であり、
前記層状化合物(D)の含有率が、該電着塗料組成物の固形分中、5質量%超23質量%未満である、請求項1に記載の電着塗料組成物。
【請求項3】
前記層状化合物(D)が、以下の組成式(5)で表されるものである、請求項1又は2に記載の電着塗料組成物。
(M2)8-x-y(M3)(An)x/n(OH)16-2y・rHO (5)
[式(5)中、
M2は、2価の金属イオンを表す。
M3は、3価の金属イオンを表す。
Anは、n価のアニオンを表す。
xは、2~5の実数を表し、yは、0~4の実数を表し、n、rは、それぞれ独立に、正の実数を表す。
なお、M2及びM3は、それぞれ単独でも2種以上を組み合わせてもよい。]
【請求項4】
前記芳香族アルコール化合物の沸点が、200℃以上300℃以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項5】
前記可塑剤(B)の含有量が、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100質量部に対して、30質量部以上65質量部以下であり、
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)の含有量が、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項6】
前記可塑剤(B)と、アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)との質量比((B)/(C))が、3/1以上30/1以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項7】
前記アミノポリエーテル変性エポキシ樹脂(C)は、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、多環式フェノール化合物、ジカルボン酸化合物及びアミノポリエーテルを反応させて得られる樹脂である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項8】
乾燥塗膜形成用である、請求項1~7のいずれか1項に記載の電着塗料組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電圧を印可し、析出塗膜を形成する、電着塗装工程、及び
得られた析出塗膜を、20~240℃で10~180分間乾燥させて電着塗膜を得る、乾燥工程
を包含する、電着塗装方法。
【請求項10】
前記被塗物が、建設機械、産業機械及び固定構造物の金属部品からなる群より選択される、請求項9に記載の電着塗装方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電着塗料組成物から形成される塗膜と、基材とを有する積層体。
【請求項12】
前記基材が、塗膜側の表面に、ジルコニウム化成処理膜を有するものである、請求項11に記載の積層体。