(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053744
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】筆記具用油性インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20230406BHJP
C09D 11/18 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C09D11/16
C09D11/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162966
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】瀬田川 洋亮
(72)【発明者】
【氏名】円谷 禎人
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB02
4J039AB07
4J039AB08
4J039AD02
4J039AD06
4J039AD07
4J039AD09
4J039AE02
4J039AE03
4J039AE06
4J039BA13
4J039BA35
4J039BC02
4J039BC07
4J039BC12
4J039BC13
4J039BC20
4J039BC25
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039EA23
4J039GA26
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】本発明では、表面の平滑さを損なうことなく調節可能なマット感を有する塗膜を得ることができる、筆記具用油性インク組成物を提供する。
【解決手段】本発明の筆記具用油性インク組成物は、金属酸化物粒子、有機溶剤、及びロジン誘導体を含有しており、かつ前記ロジン誘導体の酸価が、21KOHmg/g未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物粒子、有機溶剤、及びロジン誘導体を含有しており、かつ前記ロジン誘導体の酸価が、21KOHmg/g未満である、筆記具用油性インク組成物。
【請求項2】
酸価が21KOHmg/g未満である前記ロジン誘導体が、ロジンエステルである、請求項1に記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項3】
酸価が21KOHmg/g未満である前記ロジン誘導体以外の他のバインダー樹脂を更に含む、請求項1又は2に記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項4】
酸価が21KOHmg/g未満である前記ロジン誘導体の含有率が、酸価が21KOHmg/g未満である前記ロジン誘導体及び前記他のバインダー樹脂の合計質量に対して、30質量%以上である、請求項3に記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項5】
着色材を更に含有している、請求項1~4のいずれか一項に記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項6】
前記金属酸化物粒子が、酸化チタン粒子である、請求項1~5のいずれか一項に記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項7】
インク貯蔵部、ボールを有する筆記部及び保持部を少なくとも具備しており、
前記インク貯蔵部に請求項1~6のいずれか一項に記載の筆記具用油性インク組成物が貯蔵されている、
筆記具。
【請求項8】
金属酸化物粒子、着色材、有機溶剤、及びバインダー樹脂を含有している、筆記具用油性インク組成物であって、
前記筆記具用油性インク組成物をポリプロピレンフィルムに厚さ3μmで塗布して乾燥させて形成した塗膜が、海島構造を有し、
前記海島構造において、
島部分における前記金属酸化物粒子の含有率が、海部分における前記金属酸化物粒子の含有率よりも低く、
低真空走査電子顕微鏡分析により、電圧15kv、プローブ電流60%、圧力30Pa、Ptコーティングなしの条件で測定した、反射電子像を観察したときに、
前記島部分のうちの複数の直径が、10~50μmの範囲内にあり、
直径が10~50μmの範囲内にある複数の前記島部分のうちの過半が、1~50μmの範囲内の間隔で存在しており、かつ
前記塗膜の表面の、ISO 25178に準拠して測定した算術平均粗さSaが、0.155μm以下である、
筆記具用油性インク組成物。
【請求項9】
前記金属酸化物粒子が、酸化チタン粒子である、請求項8に記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項10】
前記バインダー樹脂として、酸価が21KOHmg/g未満であるロジン誘導体を含む、請求項8又は9に記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項11】
インク貯蔵部、ボールを有する筆記部及び保持部を少なくとも具備しており、
前記インク貯蔵部に請求項8~10のいずれか一項に記載の筆記具用油性インク組成物が貯蔵されている、
筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用油性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具において用いるインク組成物において、描線の色彩以外の外観を構成する要素、例えば光沢、艶感等を良好なものとするため、種々の提案がされている。
【0003】
特許文献1では、インキ全量に対して、白色樹脂粒子が2.5~50重量%、造膜性樹脂エマルションが固形分で2.5~50重量%含まれ、前記白色樹脂粒子と前記造膜性樹脂エマルションの比が固形分で1:0.2~1:3であり、かつ、前記白色樹脂粒子と前記造膜性樹脂エマルションの固形分が全体で20重量%以上含まれている水性インキ組成物が開示されている。特許文献1では、上記の水性インキ組成物は、軽量微粉末フィラを配合することなく、十分盛り上がった立体状の艶消し(マット感)の筆跡を形成することができるとしている。
【0004】
特許文献2では、炭素数4以下の脂肪族アルコールと、樹脂と、着色材とを少なくとも含むマーキングペン用油性インキにおいて、前記樹脂はテルペンジフェニール樹脂からなると共に、当該テルペンジフェニール樹脂はフェノール基を2個有するテルペンジフェニールを少なくとも含むことを特徴とするマーキングペン用油性インキが開示されている。特許文献2では、このマーキングペン用油性インキによれば、インキを塗布した後にも塗膜が発生することなく、さらに曇りのない艶のある筆記描線を得ることができる。
【0005】
特許文献3では、少なくとも着色材と、酸化チタンと、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びエタノールからなる溶剤と、ポリビニルブチラール樹脂と、ケトン樹脂とを含有することを特徴とする油性インキ組成物が開示されている。特許文献3では、この油性インキ組成物によれば、紙の他、ガラス面、樹脂フィルム面などのどの種類のインキ非吸収面にも良好に筆記できると共に、鮮明かつ明瞭な描線を得ることができ、塗膜( 描線) 光沢性、描線定着性、描線の乾燥性及びインキの経時安定性に優れた油性インキ組成物及びそれを用いた筆記具が提供できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-70236号公報
【特許文献2】特開平10-219171号公報
【特許文献3】特開2005-179468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、表面の平滑さを損なうことなく調節可能なマット感を有する塗膜を得ることができる、筆記具用油性インク組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈態様A1〉金属酸化物粒子、有機溶剤、及びロジン誘導体を含有しており、かつ前記ロジン誘導体の酸価が、21KOHmg/g未満である、筆記具用油性インク組成物。
〈態様A2〉酸価が21KOHmg/g未満である前記ロジン誘導体が、ロジンエステルである、態様A1に記載の筆記具用油性インク組成物。
〈態様A3〉酸価が21KOHmg/g未満である前記ロジン誘導体以外の他のバインダー樹脂を更に含む、態様A1又はA2に記載の筆記具用油性インク組成物。
〈態様A4〉酸価が21KOHmg/g未満である前記ロジン誘導体の含有率が、酸価が21KOHmg/g未満である前記ロジン誘導体及び前記他のバインダー樹脂の合計質量に対して、30質量%以上である、態様A3に記載の筆記具用油性インク組成物。
〈態様A5〉着色材を更に含有している、態様A1~A4のいずれか一項に記載の筆記具用油性インク組成物。
〈態様A6〉前記金属酸化物粒子が、酸化チタン粒子である、態様A1~A5のいずれか一項に記載の筆記具用油性インク組成物。
〈態様A7〉インク貯蔵部、ボールを有する筆記部及び保持部を少なくとも具備しており、
前記インク貯蔵部に態様A1~A6のいずれか一項に記載の筆記具用油性インク組成物が貯蔵されている、
筆記具。
〈態様B1〉金属酸化物粒子、着色材、有機溶剤、及びバインダー樹脂を含有している、筆記具用油性インク組成物であって、
前記筆記具用油性インク組成物をポリプロピレンフィルムに厚さ3μmで塗布して乾燥させて形成した塗膜が、海島構造を有し、
前記海島構造において、
島部分における前記金属酸化物粒子の含有率が、海部分における前記金属酸化物粒子の含有率よりも低く、
低真空走査電子顕微鏡分析により、電圧15kv、プローブ電流60%、圧力30Pa、Ptコーティングなしの条件で測定した、反射電子像を観察したときに、
前記島部分のうちの複数の直径が、10~50μmの範囲内にあり、
直径が10~50μmの範囲内にある複数の前記島部分のうちの過半が、1~50μmの範囲内の間隔で存在しており、かつ
前記塗膜の表面の、ISO 25178に準拠して測定した算術平均粗さSaが、0.155μm以下である、
筆記具用油性インク組成物。
〈態様B2〉前記金属酸化物粒子が、酸化チタン粒子である、態様B1に記載の筆記具用油性インク組成物。
〈態様B3〉前記バインダー樹脂として、酸価が21KOHmg/g未満であるロジン誘導体を含む、態様B1又はB2に記載の筆記具用油性インク組成物。
〈態様B4〉インク貯蔵部、ボールを有する筆記部及び保持部を少なくとも具備しており、
前記インク貯蔵部に態様B1~B3のいずれか一項に記載の筆記具用油性インク組成物が貯蔵されている、
筆記具。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表面の平滑さを損なうことなく調節可能なマット感を有する塗膜を得ることができる、筆記具用油性インク組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の筆記具用油性インク組成物により得られる塗膜の側面断面図である。
【
図2】
図2は、従来の筆記具用油性インク組成物により得られる、艶感を有する塗膜の側面断面図である。
【
図3】
図3は、従来の筆記具用油性インク組成物により得られる、マット感を有する塗膜の側面断面図である。
【
図4】
図4(a)は、実施例1の筆記具用油性インク組成物により得られる塗膜の側面断面の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
図4(b)は、参考例8の筆記具用油性インク組成物により得られる塗膜の側面断面のSEM画像である。
図4(c)は、比較例5の筆記具用油性インク組成物により得られる塗膜の側面断面のSEM画像である。
【
図5】
図5(a)~(f)は、それぞれ実施例1~6の筆記具用油性インク組成物により得られる塗膜の上面のSEM画像である。
【
図6】
図6(a)~(c)は、それぞれ実施例7~9の筆記具用油性インク組成物により得られる塗膜の上面のSEM画像である。
図6(d)は、参考例8の筆記具用油性インク組成物により得られる塗膜の上面のSEM画像である。
図6(e)及び(f)は、それぞれ比較例1及び8の筆記具用油性インク組成物により得られる塗膜の上面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《筆記具用油性インク組成物》
本発明の筆記具用油性インク組成物は、金属酸化物粒子、有機溶剤、及びバインダー樹脂を含有している。
【0012】
第一の態様では、筆記具用油性インク組成物は、金属酸化物粒子、有機溶剤、及びロジン誘導体を含有しており、かつ前記ロジン誘導体の酸価が、21KOHmg/g未満である。
【0013】
第二の態様では、筆記具用油性インク組成物は、金属酸化物粒子、有機溶剤、及びバインダー樹脂を含有している、筆記具用油性インク組成物であって、
図1に示すように、前記筆記具用油性インク組成物をポリプロピレンフィルムに厚さ3μmで塗布して乾燥させて形成した塗膜10が、海島構造を有し、
前記海島構造において、
島部分12における前記金属酸化物粒子の含有率が、海部分14における前記金属酸化物粒子の含有率よりも低く、
低真空走査電子顕微鏡分析により、電圧15kv、プローブ電流60%、圧力30Pa、Ptコーティングなしの条件で測定した、反射電子像を観察したときに、
前記島部分12のうちの複数の直径が、10~50μmの範囲内にあり、
直径が10~50μmの範囲内にある複数の前記島部分12のうちの過半が、1~50μmの範囲内の間隔で存在しており、かつ
前記塗膜10の表面の、ISO 25178に準拠して測定した算術平均粗さSaが、0.155μm以下である、
筆記具用油性インク組成物である。
【0014】
本発明者らは、上記の構成により、表面の平滑さを損なうことなく調節可能なマット感を有する塗膜を得ることができることを見出した。
【0015】
より具体的には、従来の筆記具用油性インク組成物を用いて、被着面50上に塗膜を得た場合、艶感を有する塗膜20は、
図2に示すように平滑な表面を有するのに対し、マット感を有する塗膜30は、
図3に示すように粗い表面を有する。
【0016】
これに対し、本発明の筆記具用油性インク組成物によって得た塗膜10は、第二の態様に関して言及した海部分14及び島部分12を有する海島構造を有することにより、表面の平滑さを損なうことなく、マット感を得ることができる。
【0017】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
【0018】
〈金属酸化物粒子〉
金属酸化物粒子としては、例えばアルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化錫、酸化銅、酸化銀、酸化ジルコニウム等の粒子を用いることができる。
【0019】
金属酸化物粒子の含有率は、筆記具用油性インク組成物の質量に対して、5質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、また40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、又は20質量%以下であってよい。
【0020】
〈有機溶剤〉
有機溶剤としては、例えば芳香族類、アルコール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、炭化水素類、エステル類等を用いることができる。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、又は組み合わせて用いてもよい。
【0021】
芳香族類としては、例えばベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、フタル酸ブチル、フタル酸エチルヘキシル、フタル酸トリデシル、トリメリット酸エチルヘキシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート等を用いることができる。
【0022】
アルコール類としては、例えばエタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、3-ペンタノール、tert-アミルアルコール、n-ヘキサノール、メチルアミルアルコール、2-エチルブタノール、n-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-オクタノール、2-エチルヘキサノール、3,5,5-トリメチルヘキサノール、ノナノール、n-デカノール、ウンデカノール、n-デカノール、トリメチルノニルアルコール、テトラデカノール、ヘプタデカノール、シクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール等を用いることができる。
【0023】
多価アルコール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、3-メチル-1,3ブンタンジオール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール等を用いることができる。
【0024】
グリコールエーテル類としては、例えば、メチルイソプロピルエーテル、エチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテルジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノブチルエーテル等を用いることができる。
【0025】
炭化水素類としては、例えばヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環状炭化水素類を用いることができる。
【0026】
エステル類としては、例えばプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸イソアミル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸イソアミル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、イソ吉草酸メチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸プロピル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、トリメチル酢酸プロピル、カプロン酸メチル、カプロン酸エチル、カプロン酸プロピル、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、カプリル酸プロピル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、カプリル酸トリグリセライド、クエン酸トリブチルアセテート、オキシステアリン酸オクチル、プロピレングリコールモノリシノレート、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル、3-メトキシブチルアセテート等を用いることができる。
【0027】
〈バインダー樹脂〉
バインダー樹脂としては、例えばケトン樹脂、スルホアミド樹脂、マレイン酸樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジンエステル、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、ロジン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂等、及びこれらの誘導体を用いることができる。上記の樹脂の誘導体としては、例えばロジン誘導体を用いることができる。
【0028】
バインダー樹脂の含有率は、筆記具用油性インク組成物の質量を基準として、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、又は7質量%以上であってよく、また20質量%以下、15質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、又は8質量%以下であってよい。
【0029】
〈バインダー樹脂:ロジン誘導体〉
ロジン誘導体としては、酸価が21KOHmg/g未満であるロジン誘導体を用いることができる。この酸価は、20KOHmg/g以下、18KOHmg/g以下、15KOHmg/g以下、又は12KOHmg/g以下であってよく、また2KOHmg/g以上、4KOHmg/g以上、6KOHmg/g以上、又は7KOHmg/g以上であってよい。ここで、「酸価」は、試料1g中に存在する遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム(mg)数を意味するものである。この酸価の値は、カタログ値を参照してよい。
【0030】
上記の酸価を有するロジン誘導体は、金属酸化物粒子との親和性が低いことから、凝集する傾向があり、その結果、上記のような海島構造の島部分をもたらすことができると考えられる。特に、金属酸化物粒子として酸化チタンの粒子を用いた場合に、この傾向が顕著となる。
【0031】
かかるロジン誘導体としては、例えばロジンアルカリ石鹸、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、ロジン変性フェノール樹脂、マレイン化ロジン、マレイン酸変性ロジン樹脂、ロジンエステル、硬化ロジン等を用いることができる。
【0032】
バインダー樹脂としては、酸価が21KOHmg/g未満であるロジン誘導体以外の他のバインダー樹脂を更に用いてもよい。かかるバインダー樹脂としては、例えば上記のバインダー樹脂のうちの酸価が21KOHmg/g未満であるロジン誘導体以外の他のバインダー樹脂、例えば酸価が21KOHmg/g以上であるロジン誘導体を用いることができる。
【0033】
特に、酸価が21KOHmg/g未満であるロジン誘導体と、酸価が21KOHmg/g以上であるロジン誘導体との間では親和性が存在する。これによれば、バインダー樹脂の50質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であり、かつ100質量%未満がロジン誘導体である場合には、これらのロジン誘導体の比率を調節することにより、マット感の調節をより容易に行うことができる。
【0034】
筆記具用油性インク組成物が上記の他のバインダー樹脂を含有している場合、酸価が21KOHmg/g未満であるロジン誘導体の含有率は、酸価が21KOHmg/g未満であるロジン誘導体及び前記他のバインダー樹脂の合計質量に対して、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、又は50質量%以上であってよく、また80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、又は60質量%以下であってよい。
【0035】
〈着色材〉
着色材としては、染料又は顔料を用いることができる。
【0036】
染料としては、例えば通常の染料インク組成物に用いられる直接染料、酸性染料、塩基性染料、媒染・酸性媒染染料、酒精溶性染料、アゾイック染料、硫化・硫化建染染料、建染染料、分散染料、油溶染料、食用染料、金属錯塩染料、造塩染料、樹脂に染料を染着した染料等の中から任意のもの、及びこれらの溶液を用いることができる。
【0037】
顔料としては、有機顔料及び無機顔料を用いることができ、中でも有機顔料を用いることが、マット感の調節を容易にする観点から好ましい。
【0038】
有機顔料としては、例えば、アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ニトロソ顔料等を用いることができる。
【0039】
着色材の含有率は、筆記具用油性インク組成物の質量を基準として、0.5質量%以上、又は1.0質量%以上であってよく、また20.0質量%以下、15.0質量%以下、12.0質量%以下、10.0質量%以下、7.0質量%以下、5.0質量%以下、3.0質量%以下、2.5質量%以下、2.0質量%以下、又は1.5質量%以下であってよい。
【0040】
〈他の成分〉
本発明の筆記具用油性インク組成物は、随意の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、分散剤、レべリング剤、防錆剤、防腐剤、潤滑剤、樹脂粒子等が挙げられる。分散剤としては、例えばブチラール樹脂等を用いることができる。レべリング剤としては、例えばフッ素系界面活性剤、シリコーンオイル、リン酸エステル系界面活性剤等を用いることができる。樹脂粒子としては、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂等を用いることができる。
【0041】
〈塗膜の構造〉
本発明の筆記具用油性インク組成物により得た塗膜は、海島構造を有し、
前記海島構造において、
島部分における前記金属酸化物粒子の含有率が、海部分における前記金属酸化物粒子の含有率よりも低く、
低真空走査電子顕微鏡分析により、電圧15kv、プローブ電流60%、圧力30Pa、Ptコーティングなしの条件で測定した、反射電子像を観察したときに、
前記島部分のうちの複数の直径が、10~50μmの範囲内にあり、
直径が10~50μmの範囲内にある複数の前記島部分のうちの過半が、1~50μmの範囲内の間隔で存在しており、かつ
前記塗膜の表面の、ISO 25178に準拠して測定した算術平均粗さSaが、0.155μm以下である。
【0042】
(島部分)
島部分は、金属酸化物粒子の含有率が、海部分における金属酸化物粒子の含有率よりも低い部分である。金属酸化物粒子の含有率の大小は、上記の低真空走査電子顕微鏡分析により、金属酸化物粒子の存在に起因する白色部の存在により確認することができる。
【0043】
島部分における金属酸化物粒子の含有率は、例えば10質量%以下、7質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、又は0質量%であってよい。
【0044】
この島部分は、過半がバインダー樹脂で構成されている。具体的には、島部分におけるバインダー樹脂の含有率は、90質量%以上、93質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、又は100質量%であってよい。
【0045】
島部分のうちの複数の直径は、10~50μmの範囲内にあることができる。この直径は、求めるマット感に応じて選択することができ、例えば10μm以上、12μm以上、又は15μm以上であってよく、また50μm以下、40μm以下、30μm以下、25μm以下、又は20μm以下であってよい。
【0046】
(算術平均粗さ)
塗膜の表面の、ISO 25178に準拠して測定した算術平均粗さSaは、0.250μm以下である。この平均粗さは、0.230μm以下、0.220μm以下、0.210μm以下、0.200μm以下、0.190μm以下、0.180μm以下、0.170μm以下、0.160μm以下、0.155μm以下であることができ、また0.090以上、0.100以上、又は0.120以上であることができる。
【0047】
《筆記具》
本発明の筆記具は、
インク貯蔵部、筆記部及び保持部を少なくとも具備しており、
前記インク貯蔵部に上記の筆記具用油性インク組成物が貯蔵されている、
筆記具である。
【0048】
本発明の筆記具は、マーキングペンであってもよく、又はボールペンであってもよい。
【0049】
ここで、本明細書において「マーキングペン」とは、インク貯蔵部に貯蔵されているインクを、毛細管現象により樹脂製の筆記部に供給する機構を有するペンを意味するものであり、当業者により「サインペン」として言及されるペンも含まれる。また、本明細書において「ボールペン」とは、筆記部に備えられているボールの回転によって、インク貯蔵部に貯蔵されているインクを滲出させる機構を有するペンを意味する。
【0050】
〈インク貯蔵部〉
インク貯蔵部には、上記の筆記具用油性インク組成物が貯蔵されている。
【0051】
インク貯蔵部は、インクを貯蔵し、かつ筆記部にインクを供給することができる物であれば、任意の物を用いることができる。
【0052】
〈筆記部〉
筆記部は、筆記具の用途に応じ、随意の材料で構成されていてよい。本発明の筆記具がマーキングペンである場合、筆記部としては、例えば繊維芯及びプラスチック芯等が挙げられる。本発明の筆記具がボールペンである場合、筆記部は、ボールペンチップを先端部に備えた筆記部であることができる。
【0053】
《筆記具用油性インク組成物の製造方法》
筆記具用油性インク組成物は、上記の金属酸化物粒子、有機溶剤、及びバインダー樹脂を、ディスパー等の攪拌機器を用いて混合しながら、従来公知の方法で製造することができる。
【実施例0054】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0055】
《筆記具用油性インク組成物の作製》
〈実施例1〉
着色材としての染料(SPILON BLUE C-RH、オリヱント化学工業社)1.4質量部、酸化チタン17.5質量部、樹脂粒子としてのポリテトラフルオロエチレン0.9質量部、バインダー樹脂としてのロジン変性マレイン酸樹脂(エステルガムHP、荒川化学工業社)6質量部、ブチラール樹脂0.01質量部、及びニトロセルロース1.26質量部、並びに溶剤としてのエタノール19.89質量部、イソプロピルアルコール0.84質量部及びプロピレングリコールモノエチルエーテル21.9質量部を撹拌により混合させて、実施例1の筆記具用油性インク組成物を101.4質量部作製した。
【0056】
〈実施例2~9、参考例1~8及び比較例1~4〉
実施例1のロジン変性マレイン酸樹脂の代わりに、6質量部の表1に記載の樹脂を用いたことを除き、実施例1と同様にして、実施例2~10、参考例1~8及び比較例1~4の筆記具用油性インク組成物を101.4質量部作製した。
【0057】
また、ニトロセルロースを用いなかったこと、並びに溶剤成分をエタノール19.89質量部、及びプロピレングリコールモノエチルエーテル10質量部に変更したことを除き、実施例9と同様にして、実施例10の筆記具用油性インク組成物を87.4質量部作製した。
【0058】
なお、表1において樹脂を2種類記載している実施例10、並びに比較例3及び4については、これらの樹脂を3質量部ずつ用いた。
【0059】
《筆記具の作製及び塗膜の作製》
三菱鉛筆社製PC-5M(商品名「ポスカ」、ペン芯:ポリエステル繊維芯)に、上記の筆記具用油性インク組成物を充填してマーキングペンを作成した。その後、細字丸芯を用い、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に筆記して乾燥させることにより、塗膜を得た。
【0060】
《評価》
〈外観〉
塗膜の艶感を目視により確認した。以下の表1及び表3では、マット感を有する塗膜を「マット」とし、艶感を有する塗膜を「艶」と表記している。
【0061】
〈耐擦過性〉
得られた塗膜を、500gの分銅を載せたスチールウールを500回移動させることによって擦過して、塗膜の耐擦過性を評価した。
【0062】
評価基準は以下のとおりである:
A:塗膜が剥離しなかった
B:塗膜が剥離した
【0063】
〈表面粗さ〉
表面性状測定機(タリサーフCCI、TaylorHobson社)を用い、塗膜のISO 25178に準拠する算術平均粗さSaを測定した。
【0064】
〈画像解析〉
走査電子顕微鏡(S-3400N+EDX、日立ハイテク社)を用い、低真空走査電子顕微鏡分析により、電圧15kv、プローブ電流60%、圧力30Pa、Ptコーティングなしの条件で、反射電子像としての塗膜の断面写真及び表面写真を得た。
【0065】
実施例、比較例及び参考例の構成及び評価結果を表1~3及び
図4~6に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
酸価が21KOHmg/g未満であるロジン誘導体を含有している実施例1~9の筆記具用油性インク組成物により得た塗膜は、マット感を有しており、かつ耐擦過性が良好であった(表1)。また、実施例1では、表面粗さが低い値をとっていた(表2)。
【0070】
また、実施例1~9の筆記具用油性インク組成物により得た塗膜は、島部分における金属酸化物粒子の含有率が、海部分における金属酸化物粒子(
図5及び6の表面画像における白色部分)の含有率よりも低い海島構造を有することが理解できよう。この海島構造では、島部分のうちの複数の直径が、10~50μmの範囲内にあり、直径が10~50μmの範囲内にある複数の前記島部分のうちの過半が、1~50μmの範囲内の間隔で存在していることが理解できよう。
【0071】
また、酸価が21KOHmg/g未満であるロジン誘導体を含有しているが、ニトロセルロースを含有していない実施例10の筆記具用油性インク組成物により得た塗膜も、マット感を有しており、かつ耐擦過性が良好であった(表1)。実施例10についての画像は得ていないが、表1の結果から、ニトロセルロースの有無は、塗膜の外観に影響を及ぼさないことが理解でき、また実施例1~9と同様の海島構造を有することが推測されよう。
【0072】
更に、酸価が21KOHmg/g未満であるロジン誘導体と他のバインダー樹脂とを混合させた実施例11及び12の筆記具用油性インク組成物により得た塗膜も、マット感を有しており、かつ耐擦過性が良好であった(表1)。これらの実施例についての画像は得ていないが、表1の結果から、実施例1~9と同様の海島構造を有することが推測されよう。
【0073】
一方、酸価が21KOHmg/g未満であるロジン誘導体を含まない比較例3及び4の筆記具用油性インク組成物により得た塗膜は、マット感が生じていないか、生じたとしても耐擦過性が良好ではなかった(表1)。