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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053747
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】杭基礎、及びその設計方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/44 20060101AFI20230406BHJP
   E02D 5/48 20060101ALI20230406BHJP
   E02D 5/50 20060101ALI20230406BHJP
   E02D 5/30 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
E02D5/44 A
E02D5/48
E02D5/50
E02D5/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162973
(22)【出願日】2021-10-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.2021年1月22日 http://www.japanpile.co.jp/ http://www.japanpile.co.jp/method/buildingtech/smart-magnum/にて発表 2.2021年1月22日 別紙記載の刊行物にて発表 3.2021年2月21日 Smart-MAGNUM工法講習会にて発表 4.2021年4月1日 別紙記載の刊行物にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】515277300
【氏名又は名称】ジャパンパイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑二郎
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA03
2D041BA22
2D041DA12
2D041DA16
2D041FA02
(57)【要約】
【課題】杭の支持力を適切に評価することができる杭基礎、及びその設計方法を提供すること。
【解決手段】本発明の杭基礎10は、周面に凸部及び凹部の少なくとも一方を有する杭本体2を地盤を掘削して設けた杭穴1内にソイルセメントを介して埋設してソイルセメントを硬化させて杭本体2と一体化させた杭8を含む。杭8の周りの地盤の強度を反映した摩擦力に関する特性値をTとし、杭8が地盤に接する一定区間の長さをLとし、一定区間の地盤が同じ地質であり、杭本体2の周長をψとし、杭本体2の杭径に基づいて定まる標準的な掘削径に対する杭穴の掘削径の比である拡大比をωとし、一定区間における杭8の杭穴1に対する周面摩擦力の目標値をRfとした場合、Rf≦TLψωを満たす。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周面に凸部及び凹部の少なくとも一方を有する杭本体を地盤を掘削して設けた杭穴内に硬化材を介して埋設して前記硬化材を硬化させて前記杭本体と一体化させた杭を含む杭基礎であって、
前記杭の周りの前記地盤の強度を反映した摩擦力に関する特性値をTとし、前記杭が前記地盤に接する一定区間の長さをLとし、前記一定区間の地盤が同じ地質であり、前記杭本体の周長をψとし、前記杭本体の杭径に基づいて定まる標準的な掘削径に対する前記杭穴の掘削径の比である拡大比をωとし、前記一定区間における前記杭の前記杭穴に対する周面摩擦力の目標値をRfとした場合、
Rf≦TLψω
を満たす杭基礎。
【請求項2】
前記一定区間の地盤が砂質・礫質地盤であり、前記一定区間における当該砂質・礫質地盤の平均N値がNであり、前記特性値Tと前記平均N値Nとの関係が、
T=A+B×N
を満たす請求項1の杭基礎。
【請求項3】
前記硬化材に膨張材を含まない場合、
前記Aは、25≦A≦35であり、
前記Bは、4.5≦B≦5.5である、
請求項2の杭基礎。
【請求項4】
前記硬化材に膨張材を含む場合、
前記Aは、0であり、
前記Bは、9.0≦B≦10.0である、
請求項2の杭基礎。
【請求項5】
前記一定区間の地盤が粘土質地盤であり、前記一定区間における当該粘土質地盤の一軸圧縮強さの平均値がqであり、前記特性値Tと前記一軸圧縮強さの平均値qとの関係が、
T=A+B×q
を満たす請求項1の杭基礎。
【請求項6】
前記硬化材に膨張材を含まない場合、
前記Aは、15≦A≦25であり、
前記Bは、0.5≦B≦1.0である、
請求項5の杭基礎。
【請求項7】
前記硬化材に膨張材を含む場合、
前記Aは、0であり、
前記Bは、0.5≦B≦1.5である、
請求項5の杭基礎。
【請求項8】
周面に凸部及び凹部の少なくとも一方を有する杭本体を地盤を掘削して設けた杭穴内に硬化材を介して埋設して前記硬化材を硬化させて前記杭本体と一体化させた杭を含む杭基礎の設計方法であって、
前記杭の周りの前記地盤の強度を反映した摩擦力に関する特性値をTとし、前記杭が前記地盤に接する一定区間の長さをLとし、前記一定区間の地盤が同じ地質であり、前記杭本体の周長をψとし、前記杭本体の杭径に基づいて定まる標準的な掘削径に対する前記杭穴の掘削径の比である拡大比をωとし、前記一定区間における前記杭の前記杭穴に対する周面摩擦力の目標値をRfとした場合、
Rf≦TLψω
を満たすように当該杭基礎を設計する方法。
【請求項9】
前記一定区間の地盤が砂質・礫質地盤であり、前記一定区間における当該砂質・礫質地盤の平均N値がNであり、前記特性値Tと前記平均N値Nとの関係が、
T=A+B×N
を満たす請求項8の杭基礎の設計方法。
【請求項10】
前記硬化材に膨張材を含まない場合、
前記Aは、25≦A≦35であり、
前記Bは、4.5≦B≦5.5である、
請求項9の杭基礎の設計方法。
【請求項11】
前記硬化材に膨張材を含む場合、
前記Aは、0であり、
前記Bは、9.0≦B≦10.0である、
請求項9の杭基礎の設計方法。
【請求項12】
前記一定区間の地盤が粘土質地盤であり、前記一定区間における当該粘土質地盤の一軸圧縮強さの平均値がqであり、前記特性値Tと前記一軸圧縮強さの平均値qとの関係が、
T=A+B×q
を満たす請求項8の杭基礎の設計方法。
【請求項13】
前記硬化材に膨張材を含まない場合、
前記Aは、15≦A≦25であり、
前記Bは、0.5≦B≦1.0である、
請求項12の杭基礎の設計方法。
【請求項14】
前記硬化材に膨張材を含む場合、
前記Aは、0であり、
前記Bは、0.5≦B≦1.5である、
請求項12の杭基礎の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、杭基礎、及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
杭基礎は、通常、複数本の杭を含む。杭には、例えば、埋込み杭が採用される。埋込み杭は、地盤を掘削した杭穴内で、セメントミルクと掘削土砂を撹拌混合してソイルセメントを形成し、このソイルセメント中に既製杭を沈設することにより施工することができる。ソイルセメントが硬化すると、既製杭と一体化されて杭が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-98108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
杭が地盤から受ける支持力には、杭の下端に地盤から作用する先端支持力と杭周面部に地盤から作用する周面摩擦力がある。周面摩擦力は、杭穴の掘削径の大小の影響を受けると考えられる。しかしながら、掘削径の大小が周面摩擦力に与える影響については、定量的・定式的な評価がなされておらず、評価方法として確立していない。このため、従来の評価方法では、周面摩擦力の評価が適切とは言えなかった。
【0005】
この発明は、杭が地盤から受ける支持力を適切に評価することができる杭基礎の設計方法、及び杭基礎を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る杭基礎は、周面に凸部及び凹部の少なくとも一方を有する杭本体を地盤を掘削して設けた杭穴内に硬化材を介して埋設して硬化材を硬化させて杭本体と一体化させた杭を含む杭基礎であって、杭の周りの地盤の強度を反映した摩擦力に関する特性値をTとし、杭が地盤に接する一定区間の長さをLとし、一定区間の地盤が同じ地質であり、杭本体の周長をψとし、杭本体の杭径に基づいて定まる標準的な掘削径に対する杭穴の掘削径の比である拡大比をωとし、一定区間における杭の杭穴に対する周面摩擦力の目標値をRfとした場合、Rf≦TLψωを満たす。
【0007】
この態様の杭基礎によれば、杭本体の杭径に基づいて定まる標準的な掘削径に対する杭穴の掘削径の比である拡大比ωを、杭の周面摩擦力の評価基準に加えたため、杭が地盤から受ける支持力を適切に評価することができる。
【0008】
他の一態様に係る杭基礎の設計方法は、周面に凸部及び凹部の少なくとも一方を有する杭本体を地盤を掘削して設けた杭穴内に硬化材を介して埋設して硬化材を硬化させて杭本体と一体化させた杭を含む杭基礎の設計方法であって、杭の周りの地盤の強度を反映した摩擦力に関する特性値をTとし、杭が地盤に接する一定区間の長さをLとし、一定区間の地盤が同じ地質であり、杭本体の周長をψとし、杭本体の杭径に基づいて定まる標準的な掘削径に対する杭穴の掘削径の比である拡大比をωとし、一定区間における杭の杭穴に対する周面摩擦力の目標値をRfとした場合、Rf≦TLψωを満たすように当該杭基礎を設計する。
【0009】
この態様の杭基礎の設計方法によれば、杭本体の杭径に基づいて定まる標準的な掘削径に対する杭穴の掘削径の比である拡大比ωを、杭の周面摩擦力の評価基準に加えたため、杭が地盤から受ける支持力を適切に評価することができる。
【0010】
なお、地盤の地質、及び硬化材の種類によって、特性値Tは、以下のようになる。
一定区間の地盤が砂質・礫質地盤であり、一定区間における当該砂質・礫質地盤の平均N値がNである場合、特性値Tと平均N値Nとの関係は、T=A+B×Nを満たす。硬化材に膨張材を含まない場合、Aは、25≦A≦35であり、Bは、4.5≦B≦5.5である。硬化材に膨張材を含む場合、Aは、0であり、Bは、9.0≦B≦10.0である。
【0011】
一定区間の地盤が粘土質地盤であり、一定区間における当該粘土質地盤の一軸圧縮強さの平均値がqである場合、特性値Tと一軸圧縮強さの平均値qとの関係は、T=A+B×qを満たす。硬化材に膨張材を含まない場合、Aは、15≦A≦25であり、Bは、0.5≦B≦1.0である。硬化材に膨張材を含む場合、Aは、0であり、Bは、0.5≦B≦1.5である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、杭が地盤から受ける支持力を適切に評価することができる杭基礎の設計方法、及び杭基礎を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係る杭基礎を示す概略図である。
図2図2は、実施形態に係る杭基礎に含まれる杭の周面摩擦力に関する説明をするための概略図である。
図3図3は、実施形態に係る杭基礎の設計方法を説明するための図である。
図4図4は、節杭を用いた標準型の杭を砂質・礫質地盤の杭穴に施工して載荷試験を実施した結果を平均N値と周面摩擦力との関係としてプロットしたデータを算定式のデータとともに示した図である。
図5図5は、節杭を用いた周面強化型の杭を砂質・礫質地盤の杭穴に施工して載荷試験を実施した結果を平均N値と周面摩擦力との関係としてプロットしたデータを算定式のデータとともに示した図である。
図6図6は、節杭を用いた標準型の杭を粘土質地盤の杭穴に施工して載荷試験を実施した結果を平均N値と周面摩擦力との関係としてプロットしたデータを算定式のデータとともに示した図である。
図7図7は、節杭を用いた周面強化型の杭を粘土質地盤の杭穴に施工して載荷試験を実施した結果を平均N値と周面摩擦力との関係としてプロットしたデータを算定式のデータとともに示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、実施形態について説明する。
図1に示すように、建築物100の杭基礎10は、例えば、地盤Gに設けた複数の杭穴1に設けた複数本の杭8を有する。杭8の種類、長さ、径、本数、レイアウトなどは、建築物100の重さや形状、地盤Gの状態などに応じて決められる。杭基礎10は、必ずしも複数本の杭8を有する必要はなく、少なくとも1本の杭8を有していればよい。
【0015】
杭8は、例えば、2本以上の既製杭を軸方向に連結した杭本体2を有する。杭本体2は、1本の既製杭により構成してもよい。既製杭として、例えば、コンクリート杭や鋼管杭などがある。本実施形態の杭基礎10に含まれる杭8の杭本体2は、2本の中空のコンクリート杭を連結した構造を有する。
【0016】
杭本体2は、例えば、本実施形態のように、円筒形のストレート杭12の下端に節杭14を連結した構造や、2本の節杭14を上下に連結した構造を有する。節杭14は、ストレート杭12の杭径と略同径の軸部を有し、長手方向に離間した複数の円環状の節部16を軸部の周面上に一体に備える。
【0017】
本実施形態では、このように、少なくとも1本の節杭14を含む杭本体2を用いたが、周面に凸部及び凹部の少なくとも一方を有する他の既製杭を用いて杭本体2を構成してもよい。このような他の既製杭として、例えば、周面に溝を設けたものや、周面に縞鋼板を巻いたものなどがある。
【0018】
杭本体2は、必ずしもストレート杭12を含む必要はなく、例えば、複数種類の節杭を連結したものであってもよく、節杭の代わりに上述した凸部や凹部を周面に有する他の既製杭を用いてもよい。或いは、節杭と上述した凸部や凹部を周面に有する他の既製杭を連結して杭本体2を構成してもよい。いずれにしても、杭本体2は、少なくとも1本の既製杭が、その周面に凸部及び凹部の少なくとも一方を有するものであればよい。
【0019】
杭本体2の長さは、杭本体2の先端が地盤Gの支持層3に達する長さにすることが望ましい。このため、杭穴1も、支持層3に達する深さに形成することが望ましい。しかし、杭本体2の長さは、必ずしも、その先端が支持層3に達する長さにする必要はない。
【0020】
杭本体2の長さは、連結する既製杭の長さと本数を選択することにより調節することができる。杭本体2は、例えば、3本以上の既製杭を連結した構造を有してもよい。杭本体2を構成する既製杭の種類や径などは、当該杭本体2に要求される支持力に基づいて適切に選択すればよい。
【0021】
杭8は、上述した杭本体2の他に、杭本体2の先端近くを囲むように設けた根固め部4、及び杭本体2の周面を囲むように設けた杭周面部6を有する。根固め部4及び杭周面部6は、杭穴1の内壁面と杭本体2の外周面との間にソイルセメント(硬化材)を設けてソイルセメントが硬化することにより形成される。根固め部4及び杭周面部6に設けたソイルセメントが硬化すると、根固め部4及び杭周面部6がコンクリート製の杭本体2と一体化されて杭8が形成される。杭周面部6は、根固め部4の上方に連続して設けられる。
【0022】
ソイルセメントは、地盤Gを掘削して杭穴1を形成した際に、杭穴1内に所定量の掘削土砂を残しておき、杭穴1内に所定量のセメントミルクを注入して、セメントミルクと掘削土砂を撹拌混合することにより形成される。そして、杭穴1内のソイルセメントに杭本体2を沈設して、ソイルセメントが硬化して杭本体2と一体化することにより、杭8が形成される。なお、杭本体2と杭穴1の間に設ける硬化材として、ベントナイトや遅延剤等の添加剤をセメントミルクに加えて掘削土砂と撹拌混合したソイルセメントなどを用いることもできる。
【0023】
根固め部4は、主に杭本体2の先端(図示下端)を地盤G(杭本体2の先端が支持層3に達している場合には地盤Gの支持層3)が支える先端支持力を大きくするため、杭本体2の先端を囲むように杭穴1の底部側に設けられる。杭周面部6は、主に杭本体2の周面が地盤Gから受ける周面摩擦力を大きくするため、杭本体2の周面と杭穴1の内壁面との間に設けられる。
【0024】
杭穴1は、杭本体2の外径より大きい内径の杭周掘削部22と、杭周掘削部22の下端側を部分的に拡径した拡大掘削部24を有する。所定の掘削機によって地盤Gを掘削した軸穴の一部がそのまま杭周掘削部22となる。杭穴1は、拡大掘削部24を設けずに、その全長にわたって杭周掘削部22と同径の穴とすることもできる。拡大掘削部24は、例えば、杭穴1の全長の半分より短い長さを有し、杭穴1の底部側に設けられる。
【0025】
杭本体2の外径は、ストレート杭12の場合、その横断面の直径であり、節杭14の場合、節部16の直径である。特許請求の範囲における、周面に凸部及び凹部の少なくとも一方を有する杭本体の外径は、当該杭本体の外径が最大となる部位の径となる。つまり、本実施形態では、杭本体2の外径は、節杭14の節部16の直径であるものとする。
【0026】
杭本体2の先端は、拡大掘削部24内に配置される。根固め部4は、拡大掘削部24に設けられる。言い換えると、拡大掘削部24は、少なくとも根固め部4の長さと同じかそれ以上の長さに形成されている。杭周面部6は、本実施形態のように、杭周掘削部22と拡大掘削部24にわたって設けられてもよい。例えば、拡大掘削部24の全長にわたって根固め部4を設けて、杭周面部6を杭周掘削部22にのみ設けてもよい。
【0027】
上記構造の杭8が地盤Gから受ける支持力は、杭8の先端に地盤Gから作用する先端支持力と杭8の周面に地盤Gから作用する周面摩擦力を含む。言い換えると、杭8が地盤Gから受ける支持力は、先端支持力と周面摩擦力を足したものになる。杭基礎10の設計においては、杭基礎10の各杭8が地盤Gから受ける支持力と杭8の杭本体2自体の材料耐力の小さい方を当該杭8の許容支持力とする。
【0028】
例えば、杭8の許容支持力を大きくするため、杭周掘削部22の径を変えずに拡大掘削部24だけを拡径して杭8の先端支持力を高めようとすると、杭穴1の杭周掘削部22の径と拡大掘削部24の径との差が大きくなる。この場合、拡大掘削部24を掘削するための可動翼を大きく開くことのできる油圧式の掘削装置を用いる必要性が高くなる。油圧式の掘削装置を用いた場合、機械式の掘削装置と比べて装置構成が大掛かりとなり、杭基礎10の施工コストが高くなる。
【0029】
また、上記のように拡大掘削部24だけを拡径した場合、杭周掘削部22の内径が杭本体2の外径よりわずかに大きい程度となり、杭穴1に杭本体2を挿通し難くなる。このため、杭穴1の内壁面に杭本体2が接触して杭穴1の内壁面が削られてしまう不具合を生じる可能性が高くなる。つまり、この場合、杭本体2を杭穴1に慎重且つゆっくりと挿入する必要があり、杭基礎10の施工が難しくなる。
【0030】
このため、杭周掘削部22の内径を大きくして拡大掘削部24の内径との差を小さくできるように、杭8の周面摩擦力を適切に評価することが重要と考えられる。よって、本実施形態では、杭周面部6における杭穴1の拡大比ωを調節することで、杭8の周面摩擦力を大きくして、杭8が地盤Gから受ける支持力を高めるようにした。
【0031】
すなわち、本実施形態の設計方法によると、杭周面部6における拡大比ωを適切な値に設定することができ、杭周掘削部22の径と拡大掘削部24の径の差を小さくすることができ、杭基礎10の設計の自由度を高めることができ、上述した従来の課題を解決することができる。
【0032】
以下、本実施形態に係る杭基礎10の設計方法について、図2乃至図7を参照して説明する。なお、本実施形態の設計方法は、杭基礎10の各杭8の節杭14の部分に適用されるものであり、ストレート杭12の部分には適用されない。ここまで説明してきた杭8は、杭穴1の杭周掘削部22にストレート杭12を配置した構造を有するものを含んでいたが、以下の説明における杭8は、杭周掘削部22に節杭14を配置した構造の杭8であるものとする。
【0033】
まず、図2に示すように、杭8が地盤Gに接触する長さL(m)の一定区間を規定する。一定区間は、節杭14を含む杭8の部分が地盤Gに接触する区間であり、その長さLは節杭14の長さの範囲内で任意に設定することができる。また、節杭14を含む杭8の部分が接触する一定区間の地盤Gは同じ地質であり、一定区間内には複数種類の地質の層を含まないものとする。言い換えると、一定区間は、周面に凸部及び凹部の少なくとも一方を有する杭本体2を含む杭8の部分に接触する地盤Gの地質が軸方向に連続した同じ地質の範囲内で設定する。また、同じ地質であっても、地盤Gを構成する土粒子の粒径分布の割合によって土質名が異なる場合があるため、一定区間を決める際には、この土質名での分割も考慮する。
【0034】
そして、この一定区間における杭8の周面摩擦力が所定値を上回るように杭基礎10を設計する。ここで言う所定値とは、当該杭基礎10が建築物100(図1)から受ける荷重のうち上記一定区間の杭8の部分が地盤Gから受ける周面摩擦力の設計値であり、杭基礎10を設計する上での杭8の周面摩擦力の目標値となる値である。
【0035】
上記一定区間の杭8の周りの地盤Gの強度を反映した摩擦力に関する特性値をTとし、一定区間に存在する節杭14の節部16の周長をψとし、一定区間に存在する節杭14の節部16の径Dos(すなわち、杭本体2の杭径)に基づいて定まる標準的な基準掘削径Dssに対する杭穴1の掘削径Desの比(Des/Dss)である拡大比をωとし、一定区間の杭8が地盤Gから受ける周面摩擦力の目標値をRfとした場合、
Rf≦TLψω・・・(1)
を満たすように、杭基礎10を設計する。
【0036】
なお、特許請求の範囲における杭本体の周長ψは、一定区間における杭本体の外径が最大となる部位の周長であり、特許請求の範囲における杭径は、一定区間における杭本体の外径が最大となる部位の直径である。本実施形態における杭本体2の周長ψは節部16の周長であり、杭本体2の杭径は節部16の直径である。また、杭本体2の杭径Dosに基づいて定まる標準的な基準掘削径Dssは、杭径Dos+50mm程度であるものとする。
【0037】
すなわち、本実施形態の設計方法によると、杭周面部6の拡大比ωを調節することによって、長さLの一定区間に存在する杭8の周面摩擦力を目標値Rfより大きい値にすることができる。このため、本実施形態によると、拡大比ωを変えることによって杭8に地盤Gから作用する周面摩擦力をコントロールすることができる。よって、本実施形態によると、杭8の周面摩擦力を適切に評価することができ、杭8が地盤Gから受ける支持力を適切に評価することができる。
【0038】
また、本実施形態によると、杭基礎10を施工する杭穴1の杭周掘削部22の径と拡大掘削部24の径の差を小さくすることができ(場合によっては差を無くすことができ)、機械式の掘削装置を用いた施工が可能となる。このため、施工コストを低減することができ、施工を容易にすることができる。
【0039】
なお、上述した設計方法の説明において、節部16の径Dosに50mmを加えた基準掘削径Dssに対する杭穴1の掘削径Desの比(Des/Dss)を杭周面部6の拡大比ωとしたが、基準掘削径Dssは節部16の径Dosより数10mm程度大きければよく、50mmに限るものではない。
【0040】
図3に示すように、上述した式(1)の特性値Tは、地盤Gの地質(砂質・礫質地盤、粘土質地盤)及び杭周面部6の材質(標準型、周面強化型)によって異なる値となる。
【0041】
長さLの一定区間の杭穴1の周りの地盤Gが砂質・礫質地盤であり、その平均N値がNである場合、式(1)の特性値Tは、
T=A+BN・・・(2)
で表すことができる。
【0042】
特性値Tは、上述した一定区間における地盤Gと杭穴1との間の周面摩擦抵抗応力度(単位面積当たりの摩擦抵抗力)を杭本体2の周長ψ×一定区間Lで割り戻した値である。周面摩擦抵抗応力度は、地盤Gの強度によって異なるものである。特性値Tは、一次関数の係数A及び係数Bを用いることで、N(一定区間Lにおける当該砂質・礫質地盤の平均N値)から算出することができる。なお、係数A及び係数Bは、実験等によって確認されているNとTの関係から定めることができるものであり、係数Aは式(2)の一次関数のY切片に相当し、係数Bは式(2)の一次関数の勾配に相当するものである。
【0043】
図4の実験データは、節杭14を用いて砂質・礫質地盤の杭穴1に実際に施工した標準型の杭8に対する載荷試験の結果を複数例プロットしたものであり、地盤の平均N値と実際の杭8に作用する周面摩擦力の関係を示したものである。ここで言う標準型の杭8とは、無水石膏(膨張材)を含まないソイルセメントにより杭周面部6を築造した杭である。
【0044】
図4の実線は、式(2)の一例である算定式を示すものであり、計算値≦実測値を満足する範囲で係数A、Bを適当に定めて求めた計算値に基づくものである。図4に実線で示す算定式は、T=30+5.5Nである。図4を見ると、全ての実測値が算定式を上回っていることがわかる。つまり、砂質・礫質地盤に標準型の杭8を施工した場合、特性値Tを(30+5.5N)とした下式(1-1)が成り立つことが実証されたことになる。
Rf≦(30+5.5N)Lψω・・・(1-1)
【0045】
また、図4の一点鎖線は、係数Aを上記範囲の最大値(A=42)にして且つ係数Bを最小値(B=0)にして式(2)に入力した計算値を示したものであり、図4の二点鎖線は、係数Aを最小値(A=0)にして且つ係数Bを上記範囲の最大値(B=6.8)にして式(2)に入力した計算値を示したものである。つまり、図4の実測値に基づく式(2)の係数Aの最大値は42であり、係数Bの最大値は6.8であると言える。
【0046】
また、上記範囲における係数A及び係数Bの組み合わせは無数に存在する。しかし、図4の実測値から係数Aの適正値と係数Bの適正値を判断すると、係数Aは25≦A≦35の範囲であることが望ましく、係数Bは4.5≦B≦5.5であることが望ましいと言える。
【0047】
図5の実験データは、節杭14を用いて砂質・礫質地盤の杭穴1に実際に施工した周面強化型の杭8に対する載荷試験の結果を複数例プロットしたものであり、地盤の平均N値と実際の杭8に作用する周面摩擦力の関係を示したものである。ここで言う周面強化型の杭8とは、無水石膏(膨張材)を含むソイルセメントにより杭周面部6を築造した杭である。
【0048】
図5の実線は、式(2)の一例である算定式を示すものであり、計算値≦実測値を満足する範囲で係数A、Bを適当に定めて求めた計算値に基づくものである。図5に実線で示す算定式は、T=9.5Nである。図5を見ると、全ての実測値が算定式を上回っていることがわかる。つまり、砂質・礫質地盤に周面強化型の杭8を施工した場合、特性値Tを(9.5N)とした下式(1-2)が成り立つことが実証されたことになる。
Rf≦(9.5N)Lψω・・・(1-2)
【0049】
また、図5の一点鎖線は、係数Aを上記範囲の最大値(A=48)にして且つ係数Bを最小値(B=0)にして式(2)に入力した計算値を示したものであり、図5の二点鎖線は、係数Aを最小値(A=0)にして且つ係数Bを上記範囲の最大値(B=9.8)にして式(2)に入力した計算値を示したものである。つまり、図5の実測値に基づく式(2)の係数Aの最大値は48であり、係数Bの最大値は9.8であると言える。
【0050】
また、上記範囲における係数A及び係数Bの組み合わせは無数に存在する。しかし、図5の実測値から係数Aの適正値と係数Bの適正値を判断すると、係数Aは0であることが望ましく、係数Bは9.0≦B≦10.0であることが望ましいと言える。
【0051】
長さLの一定区間の杭穴1の周りの地盤Gが粘土質地盤であり、その一軸圧縮強さの平均値がqである場合、式(1)の特性値Tは、
T=A+Bq・・・(3)
で表すことができる。
【0052】
特性値Tは、上述した一定区間における地盤Gと杭穴1との間の周面摩擦抵抗応力度を杭本体2の周長ψ×一定区間Lで割り戻した値である。特性値Tは、一次関数の係数A及び係数Bを用いることで、q(一定区間Lにおける当該粘土質地盤の一軸圧縮強さの平均値)から算出することができる。なお、係数A及び係数Bは、実験等によって確認されているqとTの関係から定めることができるものであり、係数Aは式(3)の一次関数のY切片に相当し、係数Bは式(3)の一次関数の勾配に相当するものである。
【0053】
図6の実験データは、節杭14を用いて粘土質地盤の杭穴1に実際に施工した標準型の杭8に対する載荷試験の結果を複数例プロットしたものであり、地盤の一軸圧縮強さの平均値と実際の杭8に作用する周面摩擦力の関係を示したものである。
【0054】
図6の実線は、式(3)の一例である算定式を示すものであり、計算値≦実測値を満足する範囲で係数A、Bを適当に定めて求めた計算値に基づくものである。図6に実線で示す算定式は、T=20+0.5qである。図6を見ると、全ての実測値が算定式を上回っていることがわかる。つまり、粘土質地盤に標準型の杭8を施工した場合、特性値Tを(20+0.5q)とした下記式(1-3)が成り立つことが実証されたことになる。
Rf≦(20+0.5q)Lψω・・・(1-3)
【0055】
また、図6の一点鎖線は、係数Aを上記範囲の最大値(A=37)にして且つ係数Bを最小値(B=0)にして式(3)に入力した計算値を示したものであり、図6の二点鎖線は、係数Aを最小値(A=0)にして且つ係数Bを上記範囲の最大値(B=0.66)にして式(3)に入力した計算値を示したものである。つまり、図6の実測値に基づく式(3)の係数Aの最大値は37であり、係数Bの最大値は0.66であると言える。
【0056】
また、上記範囲における係数A及び係数Bの組み合わせは無数に存在する。しかし、図6の実測値から係数Aの適正値と係数Bの適正値を判断すると、係数Aは15≦A≦25の範囲であることが望ましく、係数Bは0.5≦B≦1.0であることが望ましいと言える。
【0057】
図7の実験データは、節杭14を用いて粘土質地盤の杭穴1に実際に施工した周面強化型の杭8に対する載荷試験の結果を複数例プロットしたものであり、地盤の一軸圧縮強さの平均値と実際の杭8に作用する周面摩擦力の関係を示したものである。
【0058】
図7の実線は、式(3)の一例である算定式を示すものであり、計算値≦実測値を満足する範囲で係数A、Bを適当に定めて求めた計算値に基づくものである。図7に実線で示す算定式は、T=qである。図7を見ると、全ての実測値が算定式を上回っていることがわかる。つまり、粘度質地盤に周面強化型の杭基礎10を施工した場合、特性値Tを(q)とした下記式(1-4)が成り立つことが実証されたことになる。
Rf≦(q)Lψω・・・(1-4)
【0059】
また、図7の一点鎖線は、係数Aを上記範囲の最大値(A=37)にして且つ係数Bを最小値(B=0)にして式(3)に入力した計算値を示したものであり、図7の二点鎖線は、係数Aを最小値(A=0)にして且つ係数Bを上記範囲の最大値(B=1.0)にして式(3)に入力した計算値を示したものである。つまり、図7の実測値に基づく式(3)の係数Aの最大値は37であり、係数Bの最大値は1.0であると言える。
【0060】
また、上記範囲における係数A及び係数Bの組み合わせは無数に存在する。しかし、図7の実測値から係数Aの適正値と係数Bの適正値を判断すると、係数Aは0であることが望ましく、係数Bは0.5≦B≦1.5であることが望ましいと言える。
【0061】
以上のように、本実施形態によると、杭基礎10の各杭8の杭周面部6の拡大比ωを調節して周面摩擦力を調節することができ、杭8の周面摩擦力を適切に評価することができる。このため、当該杭基礎10が地盤Gから受ける先端支持力を必要以上に高くすることなく、当該杭基礎10が地盤Gから受ける支持力を許容支持力より大きくすることができる。
【0062】
また、本実施形態によると、杭基礎10の各杭8を施工するための杭穴1の杭周掘削部22の径と拡大掘削部24の径の差を小さくすることができ、機械式の掘削機を用いた杭穴1の掘削が可能となる。これにより、杭基礎10の施工コストを抑えることができ、施工を容易にすることができる。
【0063】
さらに、本実施形態によると、例えば、杭穴1を掘削する際に、杭周掘削部22の径(すなわち、杭周掘削部22の拡大比ω)を先に決めて、当該杭8の支持力が許容支持力に対して足りない分を計算して、拡大掘削部24の径を調節することで不足分を補うことができる。このため、杭基礎10の設計の自由度を高めることができ、杭基礎10の設計を容易にすることができる。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上述した実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0065】
1…杭穴、2…杭本体、3…支持層、4…根固め部、6…杭周面部、8…杭、10…杭基礎、12…ストレート杭、14…節杭、16…節部、22…杭周掘削部、24…拡大掘削部、100…建築物、G…地盤。
図1
図2
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図7