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  • 特開-内燃機関用潤滑油組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053749
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】内燃機関用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20230406BHJP
   C10M 133/56 20060101ALI20230406BHJP
   C10M 133/12 20060101ALI20230406BHJP
   C10M 133/06 20060101ALI20230406BHJP
   C10M 133/20 20060101ALI20230406BHJP
   C10M 129/68 20060101ALI20230406BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20230406BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20230406BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230406BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230406BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M133/56
C10M133/12
C10M133/06
C10M133/20
C10M129/68
C10N10:12
C10N30:08
C10N40:25
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162975
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江龍 翔瑚
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB31C
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BE02C
4H104BE07C
4H104BE13C
4H104BF03C
4H104DA02A
4H104EA02A
4H104EA03C
4H104EB07
4H104EB08
4H104FA06
4H104LA04
4H104LA20
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】低い硫酸灰分を維持しながら、省燃費性と酸化安定性を向上させた内燃機関用潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】(A)100℃における動粘度が2.0mm/s以上5.0mm/s以下の潤滑油基油、(B)モリブデン系摩擦調整剤を組成物全量基準でモリブデン量として50質量ppm以上2000質量ppm以下、
(C)窒素を含有する無灰摩擦調整剤、(D)分散剤としてコハク酸イミドまたはその誘導体、(E)酸化防止剤としてアミン系無灰酸化防止剤、および
(F)金属系清浄剤を組成物全量基準で金属量として、1000質量ppm以上2200質量ppm以下、含有し、組成物の硫酸灰分が0.9質量%以下であり、そして、窒素管理指数が、0.60以下である、内燃機関用潤滑油組成物により、前記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)100℃における動粘度が2.0mm/s以上5.0mm/s以下の潤滑油基油、
(B)モリブデン系摩擦調整剤を組成物全量基準でモリブデン量として50質量ppm以上2000質量ppm以下、
(C)窒素を含有する無灰摩擦調整剤、
(D)分散剤としてコハク酸イミドまたはその誘導体、
(E)酸化防止剤としてアミン系無灰酸化防止剤、および
(F)金属系清浄剤を組成物全量基準で金属量として、1000質量ppm以上2200質量ppm以下、
含有し、
組成物の硫酸灰分が0.9質量%以下であり、そして、
下記の式で表される窒素管理指数が、0.60以下である、内燃機関用潤滑油組成物
式(A):(N(B)*1.1+N(C)*1.9)/(N(D)+N(E)*1.2)
前記式中、N(B)は、組成物全量基準におけるモリブデン系摩擦調整剤由来の窒素の量(質量ppm)であり、N(C)は、組成物全量基準における窒素を含有する無灰摩擦調整剤由来の窒素の量(質量ppm)であり、N(D)は、組成物全量基準におけるコハク酸イミドまたはその誘導体由来の窒素の量(質量ppm)であり、N(E)は、組成物全量基準におけるアミン系無灰酸化防止剤由来の窒素の量(質量ppm)である。
【請求項2】
N(C)が、10質量ppm以上であり、
N(D)が、350質量ppm以上であり、そして
N(E)が、410質量ppm以上である、請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
(G)粘度指数向上剤をさらに含み、
粘度指数向上剤のMw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)が、2.3以上である、請求項1または2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項4】
モリブデン系摩擦調整剤の含有量が、組成物全量基準で、モリブデン量として500質量ppm以上1000質量ppm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項5】
窒素を含有する無灰摩擦調整剤が、炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基を有する、アミノ酸化合物、アミン化合物、ウレア化合物、脂肪酸エステル化合物、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1つである、請求項1~4のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用潤滑油組成物に関する。詳細には、低い硫酸灰分を維持しながら、省燃費性と酸化安定性を向上させた内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関はその発明以来、長年にわたり種々の輸送手段の動力源を担ってきた。近年、内燃機関に求められる省燃費性は高まる一方である。この要求に対応するために、内燃機関用潤滑油にも高い省燃費性が求められている。
【0003】
内燃機関用潤滑油の省燃費性の向上を目的として、摩擦調整剤が使用されている。例えば、特許文献1には、摩擦調整剤として、モリブデン系摩擦調整剤または無灰摩擦調整剤を含む、優れた燃費低減効果を有するエンジン油が開示されている。特許文献2には、排出ガス浄化装置への悪影響を少なくしかつ省燃費性を優れたものにしつつ、バイオ燃料が混入したときの粘度上昇を抑制する内燃機関用潤滑油組成物が開示されている。特許文献3には、低灰分化されつつも、清浄性、耐摩耗性、および摩擦低減効果をバランス良く向上させた潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開第2010-095662号公報
【特許文献2】国際公開第2017/170769号パンフレット
【特許文献3】特開第2017-149830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関用潤滑油には、省燃費性や低い硫酸灰分以外にも、様々な性能が要求される。例えば、酸化安定性に劣る内燃機関用潤滑油を長期間使用すると、劣化が生じ、酸価および動粘度が増加する。特許文献1~3に記載の技術では、省燃費性および低い硫酸灰分のみではなく、酸化安定性に関しても兼ね備えた内燃機関用潤滑油を得ることは困難であった。
本発明の目的は、低い硫酸灰分を維持しながら、省燃費性と酸化安定性を向上させた内燃機関用潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、低い硫酸灰分を維持しながら、省燃費性と酸化安定性を向上させた内燃機関用潤滑油組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)を得るために、鋭意検討した。そこで、特定の成分(A)~(F)を組み合わせ、且つ窒素管理指数を、0.60以下に調整することによって、前記課題を解決できることを確認して、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、かかる知見に基づきなされたもので、次の通りのものである。
<1>
(A)100℃における動粘度が2.0mm/s以上5.0mm/s以下の潤滑油基油、
(B)モリブデン系摩擦調整剤を組成物全量基準でモリブデン量として50質量ppm以上2000質量ppm以下、
(C)窒素を含有する無灰摩擦調整剤、
(D)分散剤としてコハク酸イミドまたはその誘導体、
(E)酸化防止剤としてアミン系無灰酸化防止剤、および
(F)金属系清浄剤を組成物全量基準で金属量として、1000質量ppm以上2200質量ppm以下、
含有し、
組成物の硫酸灰分が0.9質量%以下であり、そして、
下記の式で表される窒素管理指数が、0.60以下である、内燃機関用潤滑油組成物
式(A):(N(B)*1.1+N(C)*1.9)/(N(D)+N(E)*1.2)
前記式中、N(B)は、組成物全量基準におけるモリブデン系摩擦調整剤由来の窒素の量(質量ppm)であり、N(C)は、組成物全量基準における窒素を含有する無灰摩擦調整剤由来の窒素の量(質量ppm)であり、N(D)は、組成物全量基準におけるコハク酸イミドまたはその誘導体由来の窒素の量(質量ppm)であり、N(E)は、組成物全量基準におけるアミン系無灰酸化防止剤由来の窒素の量(質量ppm)である。
<2>
N(C)が、10質量ppm以上であり、
N(D)が、350質量ppm以上であり、そして
N(E)が、410質量ppm以上である、<1>に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<3>
(G)粘度指数向上剤をさらに含み、
粘度指数向上剤のMw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)が、2.3以上である、<1>または<2>に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<4>
モリブデン系摩擦調整剤の含有量が、組成物全量基準で、モリブデン量として500質量ppm以上1000質量ppm以下である、<1>~<3>のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<5>
窒素を含有する無灰摩擦調整剤が、炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基を有する、アミノ酸化合物、アミン化合物、ウレア化合物、脂肪酸エステル化合物、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1つである、<1>~<4>のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物によれば、低い硫酸灰分を維持しながら、省燃費性と酸化安定性を向上させた内燃機関用潤滑油組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1~3および比較例1~3の潤滑油組成物における、窒素管理指数と、混合ガスを48時間継続して導入した後の40℃における動粘度の増加率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔A〕潤滑油基油
本発明の潤滑油組成物において使用される潤滑油基油としては、鉱油系基油または合成系基油のいずれも用いることができる。本発明の潤滑油組成物においては、鉱油系基油を潤滑油基油として用いることが好ましい。
【0011】
鉱油系基油としては、原油を常圧蒸留して得られる留出油を使用することができる。また、この留出油をさらに減圧蒸留して得られる留出油を、各種の精製プロセスで精製した潤滑油留分も使用することができる。精製プロセスとしては、水素化精製、溶剤抽出、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、硫酸洗浄、白土処理などを、適宜組み合わせることができる。これらの精製プロセスを適宜の順序で組み合わせて処理することにより、本発明の潤滑油組成物で使用できる潤滑油基油を得ることができる。異なる原油または留出油を異なる精製プロセスの組合せに供することにより得られた、性状の異なる複数の精製油の混合物も使用可能である。
【0012】
本発明の潤滑油組成物に用いられる鉱油系基油としては、API分類におけるグループIII基油に属するものを用いることが好ましい。APIグループIII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。複数の種類のグループIII基油を用いてもよく、一種のみを用いてもよい。
本発明の潤滑油組成物に用いられる鉱油系基油としては、API分類におけるグループII基油に属するものを用いることもできる。APIグループII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。複数の種類のグループII基油を用いてもよく、一種のみを用いてもよい。
【0013】
本発明の潤滑油組成物においては、潤滑油基油として鉱油系基油のみを含むこともでき、その他の潤滑油基油を含むこともできる。
【0014】
本発明の潤滑油組成物においては、潤滑油基油として合成系基油を用いてもよい。合成系基油としては、ポリα-オレフィンおよびその水素化物、イソブテンオリゴマーおよびその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル、ポリオールエステル、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、並びにこれらの混合物等が挙げられる。中でも、ポリα-オレフィンが好ましい。ポリα-オレフィンとしては、典型的には、炭素数2~32、好ましくは炭素数6~16のα-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー(1-オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンコオリゴマー等)およびそれらの水素化生成物が挙げられる。
【0015】
本発明の潤滑油組成物に含まれる潤滑油基油の100℃における動粘度は、2.0mm/s以上5.0mm/s以下である。本発明の潤滑油組成物に含まれる潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは3.0mm/s以上、より好ましくは3.3mm/s以上、さらに好ましくは3.5mm/s以上である。また、上限は、好ましくは4.8mm/s以下、より好ましくは4.6mm/s以下、さらに好ましくは4.4mm/s以下である。具体的な範囲としては、好ましくは3.0mm/s以上4.8mm/s以下、より好ましくは3.3mm/s以上4.6mm/s以下、さらに好ましくは3.5mm/s以上4.4mm/s以下である。潤滑油基油の100℃における動粘度が5.0mm/s以下であることにより、十分な省燃費性能を得ることができる。また、潤滑油基油の100℃における動粘度が2.0mm/s以上であることにより、潤滑箇所での油膜形成を確保でき、潤滑油組成物の蒸発損失も小さくすることができる。
【0016】
前記の100℃における動粘度は、全ての潤滑油基油を混合した状態での動粘度、すなわち、基油全体としての動粘度を意味する。すなわち、複数の基油が含まれる場合の、特定の1つの潤滑油基油の動粘度を意味するものではない。
なお、本明細書において「100℃における動粘度」とは、ASTM D-445に準拠して測定された100℃での動粘度を意味する。
【0017】
本発明の潤滑油組成物において、潤滑油基油の含有量は、組成物全量基準で、例えば、50質量%以上95質量%以下、好ましくは60質量%以上95質量%以下、より好ましくは65質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは70質量%以上90質量%以下である。
【0018】
〔B〕モリブデン系摩擦調整剤
本発明の潤滑油組成物は、モリブデン系摩擦調整剤を含む。モリブデン系摩擦調整剤としては、モリブデンジチオカーバメート(以下、単にMoDTCと称することがある。)が好ましい。本発明の潤滑油組成物がモリブデン系摩擦調整剤を含むことにより、摩擦係数を低減することができる。モリブデン系摩擦調整剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0019】
MoDTCとしては、例えば次の式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0020】
【化1】
【0021】
前記式(1)中、R~Rは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2~24のアルキル基または炭素数6~24の(アルキル)アリール基、好ましくは炭素数4~13のアルキル基または炭素数10~15の(アルキル)アリール基である。アルキル基は第1級アルキル基、第2級アルキル基、または第3級アルキル基のいずれでもよく、また直鎖でも分枝状でもよい。なお「(アルキル)アリール基」は「アリール基またはアルキルアリール基」を意味する。アルキルアリール基において、芳香環におけるアルキル基の置換位置は任意である。X~Xは、それぞれ独立に硫黄原子または酸素原子であり、X~Xのうち少なくとも1つは硫黄原子である。
【0022】
MoDTC以外のモリブデン系摩擦調整剤としては、例えば、モリブデンジチオホスフェート、酸化モリブデン、モリブデン酸、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫黄を含有するモリブデン系摩擦調整剤等を挙げることができる。MoDTC以外のモリブデン系摩擦調整剤としては、モリブデン酸ジアルキルアミン塩を用いることが好ましい。
【0023】
モリブデン系摩擦調整剤由来のモリブデンの量は、組成物全量基準で、50質量ppm以上2000質量ppm以下である。モリブデン系摩擦調整剤由来のモリブデンの量は、好ましくは200質量ppm以上、より好ましくは500質量ppm以上である。上限は、好ましくは1800質量ppm以下、より好ましくは1500質量ppm以下、さらに好ましくは1000質量ppm以下である。具体的な範囲としては、好ましくは200質量ppm以上1800質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以上1500質量ppm以下、さらに好ましくは500質量ppm以上1000質量ppm以下である。モリブデン含有量が50質量ppm以上であることにより、省燃費性能を改善することができる。またモリブデン含有量が2000質量ppm以下であることにより、潤滑油組成物の貯蔵安定性を高めることができる。油中のモリブデンの量は、JPI-5S-62に準拠して誘導結合プラズマ発光分光分析法(強度比法(内標準法))により測定されるものとする。
【0024】
〔C〕窒素を含有する無灰摩擦調整剤
本発明の潤滑油組成物は、窒素を含有する無灰摩擦調整剤を含む。本明細書において、無灰摩擦調整剤とは、金属元素を含まない摩擦調整剤を意味する。
窒素を含有する無灰摩擦調整剤は、炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基を有する、アミノ酸化合物、アミン化合物、ウレア化合物、脂肪酸エステル化合物、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
本発明の潤滑油組成物に成分(C)の無灰摩擦調整剤を含有させることによって、摩擦係数を低減することができる。本発明の潤滑油組成物は、成分(C)の無灰摩擦調整剤を単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。また、他の種類の無灰摩擦調整剤を含んでもよい。
【0025】
(炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基を有するアミノ酸化合物)
アミノ酸化合物としては、以下の一般式(2)に示す化合物を挙げることができる。
【0026】
【化2】
【0027】
ここで、R10は炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基であり、R11は炭素数1~4のアルキル基または水素であり、R12は水素または炭素数1~10のアルキル基である。このアルキル基は直鎖状または分岐状または環状構造を含むものでもよく、炭素原子はヘテロ原子で置換されていてもよく、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基などの官能基で修飾されていてもよい。R13は炭素数1~4のアルキル基または水素であり、nは0または1であり、Yは活性水素を有する官能基、当該官能基を有する炭化水素、当該官能基の金属塩もしくはエタノールアミン塩、またはメトキシ基である。一般式(2)中のYの活性水素を有する官能基としては、水酸基、またはアミノ基などが好適である。
【0028】
成分(E)の無灰摩擦調整剤としては、摩擦特性効果の持続性の向上などの点から、R10が炭素数18のアシル基(オレオイル基)、R11がメチル基、R12が水素、Yが水酸基、nが0である(Z)-N-メチル-N-(1-オキソ-9-オクタデシニル)グリシン(別名:N‐オレオイルサルコシン)が好ましい。
【0029】
20-(N-R21)-R22 (3)
(R20は、炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基であり、R21、R22は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、アシル基またはヒドロキシアルキル基である)
式(3)で表されるアミン化合物としては、例えばオレイルアミン、ステアリルアミン等が挙げられる。オレイルアミンが好ましい。
式(3)で表されるアミン化合物としてはまた、2,2’-(オクタデカン-1-イルイミノ)ジエタノールが好ましい。
【0030】
(炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基を有するウレア化合物)
ウレア化合物としては、下記式(4)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【0031】
30-NH-CO-NH (4)
(R30は、炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基である)
ウレア化合物は、好ましくは、脂肪族ウレア化合物であり、より好ましくはオクタデセニル尿素である。
【0032】
(炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基を有する脂肪酸エステル化合物)
脂肪酸エステル化合物とは、脂肪酸のカルボキシル基とアルコールとがエステル結合して形成される化合物を意味する。脂肪酸エステル化合物としては、直鎖状または分岐状の脂肪酸と、脂肪族1価アルコールまたは脂肪族多価アルコールとのエステルが例示される。脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。これらの脂肪酸エステル化合物の炭素数は、例えば7~31であることができる。脂肪酸エステル化合物としては、好ましくは脂肪酸と脂肪族多価アルコールとのエステルであり、より好ましくは直鎖状の脂肪酸と脂肪族多価アルコールとのエステルであり、さらに好ましくは直鎖状の不飽和脂肪酸と脂肪族多価アルコールとのエステルである。これらの脂肪族多価アルコールのエステルは、完全エステルであっても部分エステルであってもよく、好ましくは部分エステルである。これらの脂肪族多価アルコールのエステルとしては、グリセリンモノオレエートが好ましい。
【0033】
炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基において、炭素数は、好ましくは14~24、より好ましくは16~20、さらに好ましくは18である。炭素数12~30のアルキル基、アルケニル基、またはアシル基は、最も好ましくは、オクタデシル基、9-オクタデセニル基、またはオレオイル基である。アルキル基、アルケニル基、またはアシル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0034】
成分(C)の窒素を含有する無灰摩擦調整剤由来の窒素の量の下限は、10質量ppm以上が好ましく、50質量ppm以上がより好ましく、100質量ppm以上がさらに好ましい。上限は、組成物全量基準で、500質量ppm以下が好ましく、400質量ppm以下がより好ましく、300質量ppm以下がさらに好ましい。無灰摩擦調整剤由来の窒素の量の具体的な範囲としては、10質量ppm以上500質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以上400質量ppm以下がより好ましく、100質量ppm以上300質量ppm以下がさらに好ましい。無灰摩擦調整剤由来の窒素の量が10質量ppm以上であることにより、摩擦係数を低減することができる。
【0035】
無灰摩擦調整剤の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.001質量%以上5.0質量%以下であり、より好ましくは0.01質量%以上3.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下である。
【0036】
〔D〕コハク酸イミドまたはその誘導体
本発明の潤滑油組成物は、分散剤としてコハク酸イミドまたはその誘導体を含む。コハク酸イミドまたはその誘導体は、内燃機関用潤滑油組成物の分野において分散剤として使用されているものを用いることができる。コハク酸イミドは、ホウ素を含まないコハク酸イミドまたはホウ素を含むコハク酸イミドのいずれでもよいが、ホウ素を含まないコハク酸イミドであることが好ましい。ホウ素を含まないコハク酸イミドを使用することにより、ホウ素の増量による硫酸灰分の上昇を防止することができる。
なお、ホウ素を含まないコハク酸イミドとは、ホウ酸等によりアミノ基および/またはイミノ基の一部または全部が中和またはアミド化されていないコハク酸イミドをいい、例えば、ホウ素の含量が、コハク酸イミドを基準として、0.1質量%以下のものである。
【0037】
コハク酸イミドとしては、例えば、アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドまたはその誘導体を用いることができる。アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドの例としては、下記式(5)または(6)で表される化合物を挙げることができる。
【0038】
【化5】
【0039】
【化6】
【0040】
一般式(5)中、R40は炭素数40~400のアルキルまたはアルケニル基を表し、mは1~5、好ましくは2~4の整数を表す。R40の炭素数は好ましくは60~350である。
【0041】
一般式(6)中、R50およびR51は、それぞれ独立に炭素数40~400のアルキルまたはアルケニル基を表し、異なる基の組み合わせであってもよい。lは0~4、好ましくは1~4、より好ましくは1~3の整数を示す。R50およびR51の炭素数は好ましくは60~350である。
【0042】
一般式(5)および(6)におけるR40、R50、およびR51の炭素数が上記下限値以上であることにより、潤滑油基油に対する良好な溶解性を得ることができる。
【0043】
一般式(5)および(6)におけるアルキルまたはアルケニル基(R40、R50、およびR51)は直鎖状でも分枝状でもよい。その好ましい例としては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィンのオリゴマー、またはエチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基および分枝状アルケニル基を挙げることができる。なかでも慣用的にポリイソブチレンと呼ばれるイソブテンのオリゴマーから誘導される分枝状のアルキルまたはアルケニル基、またはポリブテニル基が最も好ましい。
一般式(5)および(6)におけるアルキルまたはアルケニル基(R40、R50、およびR51)の好適な数平均分子量は800以上8000以下、好ましくは2000以上7000以下である。数平均分子量は、それぞれゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる値(ポリスチレン換算により得られた分子量)を意味する。
【0044】
本発明の潤滑油組成物に含まれるコハク酸イミドまたはその誘導体由来の窒素の量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは350質量ppm以上、より好ましくは370質量ppm以上、さらに好ましくは400質量ppm以上である。上限は、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは800質量ppm以下、さらに好ましくは600質量ppm以下である。具体的な範囲としては、好ましくは350質量ppm以上1000質量ppm以下、より好ましくは370質量ppm以上800質量ppm以下、さらに好ましくは400質量ppm以上600質量ppm以下である。コハク酸イミドまたはその誘導体由来の窒素の量を前記範囲内にすることにより、低い硫酸灰分および清浄性を確保することができる。
【0045】
〔E〕アミン系無灰酸化防止剤
本発明の潤滑油組成物は、酸化防止剤としてアミン系無灰酸化防止剤を含む。アミン系無灰酸化防止剤は、内燃機関用潤滑油組成物の分野において使用されているものを用いることができる。アミン系無灰酸化防止剤としては、以下の一般式(7)の構造を有するアルキルジフェニルアミンが好ましい。
【0046】
【化7】
【0047】
式中、R60およびR61は同一でも異なっても良く、各々水素原子または炭素数1~16のアルキル基を示す。ただし、R60、R61が全て同時に水素にはならない。R60およびR61で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、およびヘキサデシル基等(これらのアルキル基は直鎖状でも分岐状でも良い。)が挙げられるが、中でも炭素数9の直鎖アルキル基であるノニル基が好ましい。
【0048】
本発明の潤滑油組成物において、アミン系無灰酸化防止剤の含有量は、組成物全量基準で、410質量ppm以上が好ましく、450質量ppm以上がより好ましい。また、1500質量ppm以下が好ましく、1200質量ppm以下がより好ましい。具体的な範囲としては、410質量ppm以上1500質量ppm以下が好ましく、450質量ppm以上1200質量ppm以下がより好ましい。アミン系無灰酸化防止剤の含有量が上記下限値以上であることにより、より良好な酸化安定性が得られ、上記上限値以下であることにより、アミン系無灰酸化防止剤が安定して潤滑油組成物中に溶解した状態を保つことができる。
【0049】
〔F〕金属系清浄剤
本発明の潤滑油組成物は、金属系清浄剤を含む。金属系清浄剤としては、例えば、カルシウム系清浄剤、マグネシウム系清浄剤、および/またはバリウム系清浄剤を用いることができる。これらの清浄剤は、ホウ酸、ホウ酸塩、炭酸、または炭酸塩により過塩基化されていてもよい。金属系清浄剤としては、サリシレート基を有する金属系清浄剤、スルホネート基を有する金属系清浄剤、またはフェネート基を有する金属系清浄剤を使用することができる。サリシレート基を有する金属系清浄剤を使用することが好ましい。
【0050】
本発明の潤滑油組成物が金属系清浄剤を含む場合、金属系清浄剤に由来する金属量の具体的な範囲としては、組成物全量基準で、1000質量ppm以上2200質量ppm以下、より好ましくは1200質量ppm以上2200質量ppm以下、さらに好ましくは1400質量ppm以上2100質量ppm以下である。本明細書において、別途指定のない限り、油中のカルシウム、マグネシウム、亜鉛、ホウ素、リンおよびモリブデンの各元素の含有量は、JPI-5S-62に準拠して誘導結合プラズマ発光分光分析法(強度比法(内標準法))により測定されるものとする。金属系清浄剤に由来する金属量を2200質量ppm以下とすることにより、硫酸灰分を低減し、さらに摩擦係数の値も低減することができる。
【0051】
本発明の潤滑油組成物において用いられる金属系清浄剤の塩基価の範囲としては、好ましくは150mgKOH/g以上600mgKOH/g以下、より好ましくは200mgKOH/g以上500mgKOH/g以下である。なお、本明細書において、金属系清浄剤の塩基価は、JIS K 2501:2003の9により測定される値である。
【0052】
〔G〕粘度指数向上剤
本発明の潤滑油組成物は、粘度指数向上剤を含むことが好ましい。粘度指数向上剤とは、潤滑油に添加することで、温度変化に伴う潤滑油の粘度変化を低減する機能を有する化合物を意味する。
粘度指数向上剤としては、本発明の効果が得られる限り、潤滑油組成物の分野で使用されている粘度指数向上剤を際限なく用いることができ、例えば、ポリブテン(PB)、ポリイソブテン(PIB)、エチレン-プロピレンコポリマー(EPC)、オレフィンコポリマー(OCP)、ポリ(メタ)アクリレート(PMA)、スチレン-ジエンコポリマー(SDC)等を挙げることができる。粘度指数向上剤としては、オレフィンコポリマー(OCP)またはポリ(メタ)アクリレート(PMA)が好ましく、ポリ(メタ)アクリレート(PMA)がより好ましい。ポリ(メタ)アクリレート(PMA)を用いることで、粘度指数を良好に保つことができる。
ポリ(メタ)アクリレート(PMA)としては、分散型ポリ(メタ)アクリレート、非分散型ポリ(メタ)アクリレート、および櫛型ポリ(メタ)アクリレートのいずれを使用してもよい。櫛型ポリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0053】
本明細書において、「分散型ポリ(メタ)アクリレート」とは窒素原子を含む官能基を有するポリ(メタ)アクリレート化合物を意味し、「非分散型ポリ(メタ)アクリレート」とは窒素原子を含む官能基を有しないポリ(メタ)アクリレート化合物を意味する。分散型または非分散型ポリ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリマー中の全単量体単位に占める下記一般式(8)で表される(メタ)アクリレート構造単位の割合が10~90モル%であるポリ(メタ)アクリレートを例示できる。
【0054】
【化8】
(式(8)中、R70は水素またはメチル基を表し、R71は炭素数1~5の直鎖状または分枝状の炭化水素基を表す。)
【0055】
ポリ(メタ)アクリレートのポリマー中の全単量体単位における、一般式(8)で表される(メタ)アクリレート構造単位の割合が90モル%を超える場合は、基油への溶解性、粘度温度特性の向上効果、または低温粘度特性に劣るおそれがあり、10モル%を下回る場合は、粘度温度特性の向上効果に劣るおそれがある。
【0056】
本明細書において、櫛型ポリ(メタ)アクリレートとは、式(9)で表されるモノマー(M-1)と式(10)で表されるモノマー(M-2)との共重合体であるポリ(メタ)アクリレートを意味する。櫛型ポリ(メタ)アクリレートは、式(10)におけるR15の数平均分子量(Mn)が、1,000以上10,000以下(好ましくは1,500以上8,500以下、より好ましくは2,000以上7,000以下)であるマクロモノマーである。
【0057】
【化9】
(式(9)中、R72は水素原子またはメチル基を表し、R73は炭素数6~18の直鎖状または分枝状の炭化水素基を表す。)
【0058】
【化10】
(式(10)中、R74は水素原子またはメチル基を表し、R75は炭素数19以上の直鎖状または分枝状の炭化水素基を表す。)
【0059】
櫛型ポリ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ブタジエンおよびイソプレンを共重合させることにより得られるポリオレフィンの水素化物から誘導されるマクロモノマーを採用できる。
本発明で使用されるポリ(メタ)アクリレートにおいて、ポリマー中の一般式(10)で表されるモノマー(M-2)に対応する(メタ)アクリレート構造単位は1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであっても良い。ポリマー中の全単量体単位に占める一般式(10)で表されるモノマー(M-2)に対応する構造単位の割合は、0.5~70モル%であることが好ましい。
【0060】
粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)は、例えば10,000以上1,000,000以下、好ましくは50,000以上900,000以下、より好ましくは100,000以上800,000以下、さらに好ましくは150,000以上600,000以下である。
【0061】
粘度指数向上剤のMw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)は、例えば2.3以上6.0以下、好ましくは2.5以上5.5以下、より好ましくは3.0以上5.0以下である。Mw/Mnを上記範囲内にすることにより、粘度指数を良好に保つことができる。
【0062】
本発明の潤滑油組成物に粘度指数向上剤が含まれる場合、その含有量は、潤滑油組成物の粘度指数が、好ましくは150以上350以下、より好ましくは170以上290以下となるように適宜調整することができる。
本発明の潤滑油組成物に粘度指数向上剤が含まれる場合、その含有量は、組成物全量基準で、例えば0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上である。上限は、例えば20質量%以下、好ましくは10質量%以下である。具体的な範囲としては、例えば0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0063】
本発明の潤滑油組成物では、潤滑油組成物の粘度指数と100℃動粘度との比(粘度指数/100℃動粘度)が29.8以上であることが好ましい。潤滑油組成物の粘度指数と100℃動粘度との比(粘度指数/100℃動粘度)が29.8以上であることで、SAE J300に規定されるウィンター粘度グレードが同等であってサマー粘度グレードが異なる潤滑油組成物において、粘度指数は粘度指数向上剤の添加率が高くなると増加する一方で、添加率に関わらず粘度温度特性が良好になる。
【0064】
本明細書において、粘度指数向上剤の重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnは、それぞれゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる値(ポリスチレン換算により得られた分子量)を意味する。
【0065】
(その他の添加剤)
本発明の潤滑油組成物は、さらにその性能を向上するために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている他の添加剤を含むことができる。そのような添加剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、流動点降下剤、および消泡剤等の添加剤を挙げることができる。
【0066】
フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、または2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールなどを挙げることができる。
本発明の潤滑油組成物がフェノール系無灰酸化防止剤を含む場合、その含有量は、組成物全量基準で、通常5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、また好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。
【0067】
リン系酸化防止剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を添加することが好ましい。例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、次の一般式(11)に示す化合物を挙げることができる。
【0068】
【化11】
【0069】
前記一般式(11)中のR80~R83は、それぞれ独立に、炭素数1~24の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基である。このアルキル基は、第1級でも、第2級でも、第3級であってもよい。ジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、第1級アルキル基を有するジチオリン酸亜鉛(プライマリーZnDTP)または第2級アルキル基を含有するジチオリン酸亜鉛(セカンダリーZnDTP)が好ましく、特には、第2級のアルキル基のジチオリン酸亜鉛を主成分とするものが、耐摩耗性を高めるため好ましい。
本発明においては、これらのジアルキルジチオリン酸亜鉛は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
本発明の潤滑油組成物に含まれるジアルキルジチオリン酸亜鉛由来のリンの量は、組成物全量基準で、例えば、400質量ppm以上2000質量ppm以下、好ましくは500質量ppm以上1000質量ppm以下、さらに好ましくは700質量ppm以上1000質量ppm以下である。
【0071】
(内燃機関用潤滑油組成物)
本発明の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、例えば1.9mPa・s以上3.5mPa・s以下、好ましくは2.0mPa・s以上3.4mPa・s以下、より好ましくは2.1mPa・s以上3.0mPa・s以下である。150℃におけるHTHS粘度が3.5mPa・s以下であることにより、良好な省燃費性能を得ることができる。150℃におけるHTHS粘度が1.9mPa・s以上であることにより、良好な潤滑性を得ることができる。
なお、150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D 4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を示す。
【0072】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、150以上350以下であることが好ましく、より好ましくは170以上290以下である。潤滑油組成物の粘度指数が200以上であることにより、150℃におけるHTHS粘度を維持しながら省燃費性能を向上させることができる。また、潤滑油組成物の粘度指数が350を超える場合には、蒸発性が悪化するおそれがある。
なお、本明細書において粘度指数とは、JIS K 2283-1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0073】
本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは20mm/s以上、より好ましくは22mm/s以上、さらに好ましくは24mm/s以上である。上限は、好ましくは46mm/s以下、より好ましくは42mm/s以下、さらに好ましくは40mm/s以下である。具体的な範囲としては、好ましくは20mm/s以上46mm/s以下、より好ましくは22mm/s以上42mm/s以下、さらに好ましくは24mm/s以上40mm/s以下である。潤滑油組成物の40℃における動粘度が46mm/s以下であることにより、十分な省燃費性能を得ることができる。また、潤滑油組成物の40℃における動粘度が20mm/s以上であることにより、潤滑箇所での油膜形成を確保でき、潤滑油組成物の蒸発損失も小さくすることができる。
なお、本明細書において「40℃における動粘度」とは、ASTM D-445に準拠して測定された40℃での動粘度を意味する。
【0074】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは5.0mm/s以上、より好ましくは6.0mm/s以上である。上限は、好ましくは12.0mm/s以下、より好ましくは10.0mm/s以下である。具体的な範囲としては、好ましくは5.0mm/s以上12.0mm/s以下、より好ましくは6.0mm/s以上10.0mm/s以下である。
【0075】
(窒素管理指数)
本発明の潤滑油組成物では、下記の式(A)で表される窒素管理指数が、0.60以下、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.45以下、最も好ましくは0.40以下である。
(A):(N(B)*1.1+N(C)*1.9)/(N(D)+N(E)*1.2)。
前記式中、N(B)は、組成物全量基準におけるモリブデン系摩擦調整剤由来の窒素の量(質量ppm)であり、N(C)は、組成物全量基準における窒素を含有する無灰摩擦調整剤由来の窒素の量(質量ppm)であり、N(D)は、組成物全量基準におけるコハク酸イミドまたはその誘導体由来の窒素の量(質量ppm)であり、N(E)は、組成物全量基準におけるアミン系無灰酸化防止剤由来の窒素の量(質量ppm)である。
油中のそれぞれの成分における窒素元素の含有量は、JIS K2609に準拠して化学発光法により測定されるものとする。
本発明者らは、窒素管理指数が増加すれば、40℃における動粘度の増加率も大きくなるということを見出した。窒素管理指数は、潤滑油の酸化および窒化に起因する劣化により生じる粘度増加を推定するに有用な指標である。窒素管理指数が0.60以下であることにより、潤滑油組成物がNOx吸収に伴う劣化に起因する40℃における動粘度の増加を低減することが可能となる。
【0076】
本発明の潤滑油組成物における窒素の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは500質量ppm以上2500質量ppm以下であり、より好ましくは1000質量ppm以上2000質量ppm以下である。
【0077】
本明細書において、硫酸灰分は、ASTM D874に準拠して測定される硫酸灰分を意味している。内燃機関用潤滑油組成物では、金属の量が増加すると、硫酸灰分が大きくなる。硫酸灰分が大きくなると、フィルタの寿命が短くなる。したがって、硫酸灰分を小さくすることが好ましい。本発明において、硫酸灰分は、0.9質量%以下であり、より好ましくは0.8質量%以下である。
【実施例0078】
実施例を用いて、以下に本発明を説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0079】
<潤滑油の配合>
各実施例および各比較例について表1~4に示す配合割合で、基油および添加剤を配合することによって、試験用潤滑油組成物を調製した。得られた試験用潤滑油組成物に対して、次に示す評価を行った。評価結果を表5~8に示す。
【0080】
(A)潤滑油基油
・潤滑油基油1:グループIII基油(水素化分解鉱油系基油) 動粘度4.2mm/s(100℃)、19.4mm/s(40℃)
・潤滑油基油2:グループII基油(水素化分解鉱油系基油) 動粘度3.0mm/s(100℃)、12.6mm/s(40℃)
・潤滑油基油3:ポリ-α-オレフィン 動粘度3.9mm/s(100℃)、17.4mm/s(40℃)
表1~4に示した質量比で潤滑油基油を混合し、潤滑油基油を調製した。表中、潤滑油基油の数値は潤滑油基油全量基準での質量比を表している。
【0081】
表1~4に記載の通り、添加剤を添加した。添加剤の詳細は以下の通りである。添加剤の配合量は、組成物全量基準である。
(B)モリブデン系摩擦調整剤
・モリブデン系摩擦調整剤1:モリブデン酸ジアルキルアミン塩(モリブデン含有量が10.0質量%、窒素含有量が1.2質量%)
・モリブデン系摩擦調整剤2:モリブデンジチオカーバメート(モリブデン含有量が10.1質量%、窒素含有量が1.5質量%)
(C)窒素を含有する無灰摩擦調整剤
・無灰摩擦調整剤1:N-オレオイルサルコシン((Z)-Nメチル-N-(1-オキソ-9-オクタデシニル)グリシン)、窒素含有量が3.78質量%
・無灰摩擦調整剤2:(9Z)-9-オクタデセンアミド、窒素含有量が3.00質量%
・無灰摩擦調整剤3:オクタデセニル尿素、窒素含有量が9.03質量%
・無灰摩擦調整剤4:(Z)-9-オクタデセン-1-アミン、窒素含有量が5.24質量%
・無灰摩擦調整剤5:2,2’-(オクタデカン-1-イルイミノ)ジエタノール、窒素含有量が4.05質量%
(D)コハク酸イミドまたはその誘導体
・分散剤1:コハク酸イミド系分散剤(ホウ素含有量が0.5質量%、窒素含有量が1.5質量%)
・分散剤2:コハク酸イミド系分散剤(ホウ素含有量が0.0質量%、窒素含有量が1.5質量%)
(E)アミン系酸化防止剤
・アミン系無灰酸化防止剤1:ビス(ノナン-1-イルフェニル)アミン、窒素含有量が3.6%
その他の酸化防止剤
・フェノール系無灰酸化防止剤1:ベンゼンプロパン酸,3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-,C7-C9側鎖アルキルエステル
・リン系酸化防止剤1:ジアルキルジチオリン酸亜鉛、亜鉛含有量が9.3質量%、リン含有量が8.5質量%、硫黄含有量が17.8質量%、セカンダリーZnDTP
・リン系酸化防止剤2:ジアルキルジチオリン酸亜鉛、亜鉛含有量が7.8質量%、リン含有量が7.0質量%、硫黄含有量が14.8質量%、プライマリーZnDTP
(F)金属系清浄剤
・金属系清浄剤1:炭酸カルシウムサリシレート(カルシウム含有量が8.0質量%、塩基価:230mgKOH/g)
・金属系清浄剤2:炭酸マグネシウムサリシレート(マグネシウム含有量が7.5質量%、塩基価:350mgKOH/g)
・金属系清浄剤3:炭酸マグネシウムスルホネート(マグネシウム含有量が9.1質量%、塩基価:400mgKOH/g)
(G)粘度指数向上剤
・粘度指数向上剤1:櫛型ポリ(メタ)アクリレート(重量平均分子量Mw490,000、Mw/Mn4.0)
・粘度指数向上剤2:櫛型ポリ(メタ)アクリレート(重量平均分子量Mw430,000、Mw/Mn5.2)
・粘度指数向上剤3:直鎖ポリ(メタ)アクリレート(重量平均分子量Mw460,000、Mw/Mn2.9)
・粘度指数向上剤4:直鎖ポリ(メタ)アクリレート(重量平均分子量Mw480,000、Mw/Mn2.8)
・粘度指数向上剤5:直鎖ポリ(メタ)アクリレート(重量平均分子量Mw440,000、Mw/Mn2.3)
・粘度指数向上剤6:分散型ポリ(メタ)アクリレート(重量平均分子量Mw270,000、Mw/Mn3.8)
・粘度指数向上剤7:オレフィンコポリマー(重量平均分子量Mw180,000、Mw/Mn1.5)
【0082】
<評価方法>
(1)硫酸灰分
硫酸灰分を、ASTM D874に準拠して測定した。
【0083】
(2)HTHS粘度および粘度指数
150℃におけるHTHS粘度を、ASTM D 4683に準拠して計測した。
また、粘度指数をJIS K 2283-2000に準拠して測定した。
【0084】
(3)酸価
JIS K2501:2003に準拠して測定した。
【0085】
(4)NOx吹込み試験
(4-1)NOx劣化油の調製
各潤滑油組成物150gを200mL四つ口フラスコに入れ、155℃のオイルバス中で加熱した。加熱と同時に、当該潤滑油組成物中に、空気(流量115ml/min)、窒素で希釈したNOガス(NO濃度:8000体積ppm)(流量20ml/min)(以下、混合ガスという)を32時間または48時間継続して導入し、NOx劣化油をそれぞれ得た。
(4-2)NOx劣化油の酸価の測定
JIS K2501:2003に準拠して、上記方法で得たNOx劣化油の酸価を測定した。NOx吹込み前の各潤滑油組成物の酸価と比較した。32時間経過後のNOx劣化油に関して、酸価の増加が2.7mgKOH/g以下であったものを酸化安定性が良好であると評価した。48時間経過後のNOx劣化油に関して、酸価の増加が3.8mgKOH/g以下であったものを酸化安定性が良好であると評価した。
(4-3)NOx劣化油の40℃における動粘度の測定
上記方法で得たNOx劣化油の40℃における動粘度をASTM D-445に準拠して測定した。NOx吹込み前の各潤滑油組成物の40℃における動粘度と比較した。32時間または48時間経過後のNOx劣化油に関して、40℃における動粘度の増加率が9%以下であったものを酸化安定性が良好であると評価した。
【0086】
(5)SRV試験(摩擦係数の評価)
摩擦係数の測定はOPTIMOL社製SRV試験機を使用した。試験片はASTM D5706、D5707、D6425準拠標準試験片であるシリンダー(サイズΦ15×22mm)とディスク(サイズΦ24×6.9mm)を用いた。試験条件は、荷重50N、振動数50Hz、振幅1.5mm、試験時間15分、試験温度80℃または100℃である。各々の摩擦係数は、試験時間10~15分の平均値を採用した。試験温度80℃において、摩擦係数が0.062以下且つ試験温度100℃において、摩擦係数が0.062以下のものを省燃費性が良好であると評価した。
【0087】
各試験用潤滑油組成物の評価結果を以下の表5~8に示す。
【0088】

【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
【表6】
【0094】
【表7】
【0095】
【表8】
【0096】
実施例1~25の各試験用潤滑油組成物は、いずれも硫酸灰分が0.9質量%以下となり、NOx吹込み試験後の酸価の増加および動粘度の増加率が少ない良好な酸化安定性を示し、SRV試験における摩擦係数が0.062と良好な省燃費性を示した。
窒素管理指数が0.60を超過した比較例1~3および5~6では、NOx吹込み試験後の40℃における動粘度の増加率が上昇し、比較例1と比較例3では、酸価の増加も上昇し、酸化安定性の低下が確認された。
硫酸灰分が0.9質量%を超過した比較例4および窒素を含有する無灰摩擦調整剤を含まない比較例7では、SRV試験における摩擦係数が上昇し、省燃費性の低下が確認された。
【0097】
図1は、実施例1~3および比較例1~3の潤滑油組成物における、窒素管理指数と混合ガスを48時間継続して導入した後の40℃における動粘度の増加率との関係を示したグラフである。窒素管理指数が増加すれば、混合ガスを48時間継続して導入した後の40℃における動粘度の増加率も大きくなるということが示された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物によれば、低い硫酸灰分を維持しながら、省燃費性と酸化安定性を向上させた内燃機関用潤滑油組成物を提供することができる。
図1