(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053768
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】光学活性カルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/09 20060101AFI20230406BHJP
C07C 61/22 20060101ALI20230406BHJP
C07C 69/75 20060101ALI20230406BHJP
C07C 67/347 20060101ALI20230406BHJP
C07B 53/00 20060101ALI20230406BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230406BHJP
【FI】
C07C51/09
C07C61/22
C07C69/75 Z
C07C67/347
C07B53/00 C
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163005
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】落合 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】西山 章
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC28
4H006AC46
4H006AC81
4H006AD16
4H006BA10
4H006BA37
4H006BB11
4H006BB14
4H006BB31
4H006BE10
4H006BJ20
4H006BS20
4H006KA31
4H039CA40
4H039CF10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】医薬品合成に重要な光学活性カルボン酸を簡便に合成する手法を提供する。
【解決手段】下記式(3)または(4)で表されるジエノフィル化合物と、1,3-ブタジエンを金属触媒存在下作用させ、下記式(5)または(6)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を調製する工程;得られたシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を、水存在下、酸または塩基で処理し、光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸またはその塩を得る加水分解工程;及び加水分解工程で得られた前記光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸またはその塩を、酸性水溶液の存在下、有機溶媒で抽出する分液工程;を含むことにより、簡便に化学純度の高い光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を取得することができる。
(式中、R
1及びR
2は、炭素数1~6のアルキル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)または(2)
【化1】
で表される光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸の製造方法であって、
下記式(3)または(4)
【化2】
(式中、R
1及びR
2は炭素数1~6のアルキル基を表す。)で表されるジエノフィル化合物と、1,3-ブタジエンを金属触媒存在下作用させ、下記式(5)または(6)
【化3】
(式中、R
1及びR
2は前記に同じ。)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を調製する工程;
得られたシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を、水存在下、酸または塩基で処理し、前記光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸またはその塩を得る加水分解工程;及び
加水分解工程で得られた前記光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸またはその塩を、酸性水溶液の存在下、有機溶媒で抽出する分液工程;
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記R1が、エチル基またはイソプロピル基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記R2が、メチル基、エチル基、n-プロピル基またはイソプロピル基である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属触媒が四塩化チタンである、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品中間体として有用である光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸は医薬品合成において重要な合成中間体である。例えばエドキサバンに代表される抗血液凝固剤の中間体合成に用いられているほか、市中肺炎の治療薬として上市されているレファムリン、免疫抑制剤として用いられるFK-506、インフルエンザ治療薬として用いられるタミフル、及び肺線維症治療への適用が検討されているBMS986278などの中間体合成にも使われている。そのため、光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸については数多くの合成方法論が研究されてきた。
【0003】
例えばフェニルエチルアミンを用いて3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を光学分割することにより、光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸が得られることが知られている(特許文献1)。また、D-パントラクトンを不斉補助基として用いる不斉ディールス・アルダー反応により光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を得る方法も報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/067824号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2010/071122号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フェニルエチルアミンによる光学分割を用いた特許文献1では、複数回の晶析が必要であり、また3-シクロヘキセン-1-カルボン酸取得のためには、脱塩操作が必要であるなど、化学純度の高い光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を得るには操作が煩雑になるという問題があった。
また、D-パントラクトンを不斉補助基として用いた特許文献2では、化学純度の高い光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を得ているが、そこに至るには、目的物をシクロヘキシルアミンとの塩として析出させ、続いて脱塩操作を行うなど煩雑な操作が必要であった。
【0006】
本発明の目的は、様々な医薬品の重要中間体である、光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を、高化学純度で簡便に得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意検討の結果、本発明者らは特定のジエノフィルを用いた立体選択的なディールス・アルダー反応と続く加水分解を行うと、分液操作によって簡便に化学純度の高い光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸が得られることを見いだし、本発明を完成した。本発明は以下の通りである。
[1] 下記式(1)または(2)
【化1】
で表される光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸の製造方法であって、
下記式(3)または(4)
【化2】
(式中、R
1及びR
2は炭素数1~6のアルキル基を表す。)で表されるジエノフィル化合物と、1,3-ブタジエンを金属触媒存在下作用させ、下記式(5)または(6)
【化3】
(式中、R
1及びR
2は前記に同じ。)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を調製する工程;
得られたシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を、水存在下、酸または塩基で処理し、前記光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸またはその塩を得る加水分解工程;及び
加水分解工程で得られた前記光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸またはその塩を、酸性水溶液の存在下、有機溶媒で抽出する分液工程;
を含むことを特徴とする製造方法。
[2] 前記R
1が、エチル基またはイソプロピル基である、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記R
2が、メチル基、エチル基、n-プロピル基またはイソプロピル基である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 前記金属触媒が四塩化チタンである、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
立体選択的ディールス・アルダー反応成績体であるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体は、加水分解により、光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸に誘導することが可能である。この際、晶析などの煩雑な操作を経ることなく、化学純度の高い光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を簡便に入手可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の方法についての詳細を述べる。本明細書において、「当量」とは、「モル当量」(原料1モルに対する物質量(モル比))を意味する。
【0010】
本発明は、下記式(1)で表される(S)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸、または下記式(2)で表される(R)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸の製造方法に関する。なお、本明細書において、式(1)または(2)で表される(S)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸または(R)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を、「光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸」という場合がある。
【0011】
【0012】
本発明の製造方法は、下記式(3)または(4)
【化5】
(式中、R
1及びR
2は炭素数1~6のアルキル基を表す。)で表されるジエノフィル化合物と、1,3-ブタジエンを金属触媒存在下作用させ、下記式(5)または(6)
【化6】
(式中、R
1及びR
2は前記に同じ。)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を調製する工程(以下、工程aという場合がある);
得られたシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を、水存在下、酸または塩基で処理し、前記光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸またはその塩を得る加水分解工程(以下、工程bという場合がある);及び
加水分解工程で得られた前記光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸またはその塩を、酸性水溶液の存在下、有機溶媒で抽出する分液工程(以下、工程cという場合がある);を含む。
【0013】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0014】
[工程a]
工程aで調製される式(5)または(6)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体は、金属触媒の存在下、式(3)または(4)で表されるジエノフィル化合物と、1,3-ブタジエンの不斉ディールス・アルダー反応によって得ることができる。従来のD-パントラクトンを不斉補助基として用いる不斉ディールス・アルダー反応により(S)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を得る方法では、D-パントラクトンが高価であるという問題も有していた。さらに、エナンチオマーである(R)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を得るためには、L-パントラクトンを用いる必要があるが、L-パントラクトンは入手が困難であり、D-パントラクトンの立体反転反応によりL-パントラクトンを得るにしても、作業の煩雑さ及びコストの観点から好ましくない。一方、本発明で用いられるジエノフィル化合物は、式(3)及び式(4)のどちらの立体構造を有する化合物も安価で入手可能または安価な原料を用いて簡便に合成可能であるため、式(3)または(4)で表されるジエノフィル化合物を用いることは、コストの観点、ひいては工業的製造の観点からも好ましい。
【0015】
なお工程aにおいて、原料として式(3)で表されるジエノフィル化合物を用いた場合には、式(5)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体が得られ、原料として式(4)で表されるジエノフィル化合物を用いた場合には、式(6)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体が得られる。
【0016】
以下、式(3)または(4)で表されるジエノフィル化合物を、単に「光学活性ジエノフィル化合物」又は「ジエノフィル化合物」という場合があり、式(5)または(6)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を、単に「光学活性シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体」又は「シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体」という場合がある。
【0017】
式(3)~式(6)中、R1及びR2を示す炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などが挙げられる。
【0018】
R1としては、炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、エチル基またはイソプロピル基であることがより好ましい。
R2としては、炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基又はイソプロピル基であることがさらに好ましい。
【0019】
工程aにおいて、1,3-ブタジエンの量は特に限定されないが、ジエノフィル化合物に対して1当量~100当量が好ましく、10当量~50当量がより好ましい。
【0020】
工程aで用いられる金属触媒としては、ルイス酸が好ましく、例えば、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、スカンジウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、ハフニウム、鉛、ビスマス、ランタナム、セリウム、イッテルビウムからなる群から選ばれる金属原子のハロゲン化物;ジエチルアルミニウムクロライドのようなアルキル金属ハロゲン化物;チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシドのようなチタンテトラアルコキシド;または、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体のような三フッ化ホウ素エーテル錯体が挙げられる。金属触媒としては、金属原子のハロゲン化物を用いることが好ましく、金属原子の塩化物を用いることがより好ましく、四塩化チタンを用いることが特に好ましい。
【0021】
工程aで用いられる金属触媒の量は特に限定されないが、ジエノフィル化合物に対して0.1当量~1当量が好ましく、0.3当量~0.8当量がより好ましい。
【0022】
工程aの反応は溶媒の存在下で行うことが好ましい。工程aで用いられる溶媒は、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;ジメチルプロピレンウレア等のウレア系溶媒;ヘキサメチルホスホン酸トリアミド等のホスホン酸トリアミド系溶媒が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。好ましくはテトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン、アセトン、アセトニトリル、及びクロロベンゼンからなる群から選択される少なくとも1種であり、更に好ましくはトルエン及び塩化メチレンからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0023】
工程aで用いられる溶媒の量は、特に限定されないが、ジエノフィル化合物に対して、2倍~50倍(v/w)が好ましく、10倍~40倍(v/w)がより好ましい。なお本明細書において、体積vの単位はmLであり、質量wの単位はgである。
【0024】
工程aの反応温度は、特に限定されないが、-78℃~60℃が好ましく、-40℃~20℃がより好ましい。
工程aの反応時間は、特に限定されないが、30分~120時間が好ましく、48時間~96時間がより好ましい。
【0025】
ジエノフィル化合物、金属触媒、1,3-ブタジエンおよび溶媒の添加方法や添加順序は特に限定されないが、例えば、ジエノフィル化合物及び溶媒を含む溶液に金属触媒を添加するなどして得られた、ジエノフィル化合物、金属触媒、及び溶媒を含む組成物に1,3-ブタジエンガスを直接導入して反応を行う方法が挙げられる。
【0026】
工程aで得たシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体は後続工程にそのまま使用できる十分な純度を有しているが、後続工程の収率、もしくは純度を更に高める目的で、金属触媒のクエンチ;pH調整などの液性調整;有機溶媒などの溶媒による抽出;抽出有機溶媒の水洗;濃縮、分別蒸留などの気化を伴う処理などの、固体化を伴わない簡便な精製手法により、さらに純度を高めてもよい。晶析や析出物のろ過などの固体化を伴う処理は、析出操作や結晶分離操作が煩雑であり、かつ容器への析出物の付着やフィルターへの析出物の目詰まりなどのトラブルが発生し易く、工業的に不利である。
【0027】
前記クエンチでは、十分量の塩基を固体、液体、又は溶液(好ましくは水溶液)として加えることが好ましく、水溶液として加えることがより好ましい。クエンチで使用する塩基は、特に限定されないが、ナトリウム、カリウムもしくはリチウムなどのアルカリ金属;或いはマグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属;の水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩などが挙げられ、好ましくはアルカリ金属の炭酸塩または炭酸水素塩である。炭酸塩または炭酸水素塩を使用すると、pH調整の為の処理を行わなくても、pHが好ましい範囲になる。
【0028】
工業的製造の場合、工程aで得たシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体をそのまま工程bに供する方が簡便で好ましい。「そのまま」とは、溶媒洗浄、気化を伴う処理などを行わないことを指し、反応混合物のままでもよく、反応混合物中の金属触媒をクエンチしたままでもよく、クエンチ後にpH調整を行ったままでもよく、反応混合物のまま、又はクエンチしたままであることが好ましい。後述するように工程bでは、加水分解を目的とする酸または塩基での処理が選択的に実施することを要件とするところ、反応混合物のまま工程bの操作を行う場合は、工程bで塩基処理による加水分解を行うこととし、この塩基処理による加水分解がクエンチを兼ねてもよい。
【0029】
[工程b]
工程bは、工程aで得たシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を水存在下、酸または塩基で処理して加水分解を行い、式(1)または式(2)で表される光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸、或いはその塩を得る工程である。なお、工程bにおいて、原料として式(5)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を用いた場合には、式(1)で表される(S)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸またはその塩が得られ、原料として式(6)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を用いた場合には、式(2)で表される(R)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸またはその塩が得られる。
【0030】
工程bに用いる塩基は、特に限定されないが、ナトリウム、カリウムもしくはリチウムなどのアルカリ金属;或いはマグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属;の水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩などが挙げられ、好ましくはアルカリ金属の水酸化物である。これら塩基は、固体として添加してもよいが、水溶液などの液体として添加することが好ましい。
【0031】
工程bに用いる酸は、塩化水素またはその水溶液(塩酸)、臭化水素またはその水溶液(臭化水素酸)、硫酸などが挙げられる。酸は、水溶液として添加することが好ましい。
【0032】
工程bに用いる酸または塩基の量は、特に限定されないが、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体に対して0.5~10当量が好ましく、1~5当量がより好ましい。
【0033】
工程bに用いる溶媒は、水を含んでいればよいが、水と有機溶媒の混合溶媒であることが好ましい。前記有機溶媒としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;ジメチルプロピレンウレア等のウレア系溶媒;ヘキサメチルホスホン酸トリアミド等のホスホン酸トリアミド系溶媒が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。工程bに用いる溶媒としては、水とアルコール系溶媒の混合溶媒であることが好ましく、水とエタノールの混合溶媒であることがより好ましい。
【0034】
工程bに用いる水の量は、特に限定されないが、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体に対して、1~10倍(v/w)が好ましく、1~5倍(v/w)がより好ましい。なお、水の添加方法としては、上記酸や塩基の水溶液として添加してもよいし、水を反応容器に直接導入してもよい。
また、有機溶媒を用いる場合、有機溶媒の使用量は、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体に対して、例えば1~10倍(v/w)であり、好ましくは1~5倍(v/w)である。
【0035】
工程bの反応温度は、特に限定されないが、0℃~60℃が好ましく、0℃~40℃がより好ましい。
工程bの反応時間は、特に限定されないが、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の消失が確認されるまで行うことが好ましい。工程bの反応時間は、例えば10分~10時間であり、好ましくは30分~5時間である。
【0036】
シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体、酸または塩基、および溶媒の添加方法や添加順序は特に限定されない。
【0037】
上述の通り、工程bの加水分解により、光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸またはその塩が得られる。ここで、光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸の塩とは、工程bにおいて、塩基を用いた際に得られる化合物であり、塩基由来の塩である。
【0038】
なお工程bにおいて、塩基を用いて加水分解反応を行った場合、加水分解反応終了後に、得られた反応液を有機溶媒で洗浄することが好ましい。また、酸を用いて加水分解反応を行った場合、加水分解反応終了後に得られた反応液を塩基性化処理した後、有機溶媒で洗浄することが好ましい。このような洗浄工程を経ることにより、ディールス・アルダー反応に由来する副生成物を容易に除去することができる。
【0039】
塩基性化処理に用いる塩基は、特に限定されないが、ナトリウム、カリウムもしくはリチウムなどのアルカリ金属;或いはマグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属;の水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩などが挙げられ、好ましくはアルカリ金属の水酸化物である。これら塩基は、固体として添加してもよいが、水溶液などの液体として添加することが好ましい。
【0040】
洗浄工程に用いる有機溶媒としては、水と混和しない有機溶媒を適宜使用でき、例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。当該洗浄に用いる有機溶媒としては、炭化水素系溶媒であることが好ましく、トルエンであることがより好ましい。
【0041】
洗浄工程に用いる有機溶媒の量は、特に限定されないが、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体に対して、1~10倍(v/w)が好ましく、1~5倍(v/w)がより好ましい。
【0042】
洗浄工程においては、加水分解反応終了後に得られた反応液に対して、上記有機溶媒と共に水を添加することが好ましい。洗浄工程において添加する水の量は、特に限定されないが、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体に対して、1~10倍(v/w)が好ましく、1~5倍(v/w)がより好ましい。
【0043】
[工程c]
工程cは、工程bによって得られた光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸またはその塩を含む溶液から、分液にて目的物である光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を抽出する工程である。工程bで得られた溶液には、目的物である光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸またはその塩と、加水分解により生じた不斉補助基由来物(HO-CHR2-COOHなど)が含まれる。本発明の方法では、該不斉補助基由来物を分液操作によって簡便に除去できる。そのため、従来行われてきた造塩晶析工程やそれに続く脱塩工程等の煩雑な操作を行わなくとも、化学純度の高い光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を簡便に入手可能である。
【0044】
工程cは、酸性水溶液の存在下行われる。これにより、工程bで得られた反応溶液に光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸の塩が含まれる場合、該塩はフリーの光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸に変換される。酸性水溶液としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸などが挙げられる。
【0045】
酸性水溶液の量は特に限定されないが、反応溶液のpHが1~5となる量で使用することが好ましく、pHが1~4となる量で使用することがより好ましい。なお、酸性水溶液は、工程bで得られた反応溶液に別途添加してもよく、また工程bで酸を用いて加水分解を行った場合、反応溶液のpHが上記範囲にあれば、新たに酸性水溶液を添加する必要はない。
【0046】
抽出溶媒として用いられる有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、及びハロゲン系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、酢酸エチル、トルエン、及び塩化メチレンからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。工程cの抽出溶媒は、工程bの洗浄溶媒と同じであることが好ましい。
【0047】
抽出溶媒の量は、特に限定されないが、工程bで用いるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体に対して、1~20倍(v/w)が好ましく、2~10倍(v/w)がより好ましい。
【0048】
また、工程cの系中において含まれる水の量は、工程bで用いるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体に対して、1~20倍(v/w)が好ましく、2~10倍(v/w)がより好ましい。なお当該水は、工程b由来の水、酸性水溶液由来の水、及び工程cにおいて任意に添加する水の合計量を示す。
【0049】
抽出により得られた光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を含む有機溶媒は、水で洗浄することが好ましい。洗浄の回数は特に限定されないが、1~3回程度で十分であり、好ましくは1又は2回である。
1回の洗浄に用いる水の量は、特に限定されないが、工程bで用いるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体に対して、1~10倍(v/w)が好ましく、1~5倍(v/w)がより好ましい。
【0050】
工程cの抽出により得られた有機層から、公知の手法(例えば、減圧下での濃縮)にて有機溶媒を除くことにより、目的の光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を得ることができる。
【0051】
本発明の方法で取得した光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸は、化学純度が高く、様々な医薬品やその中間体合成に用いることができる。本発明の方法で得られる光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸の化学純度は、80.0%以上とすることができ、より好ましくは90.0%以上、さらに好ましくは95.0%以上、特に好ましくは98.0%以上である。
【0052】
また本発明の方法によれば、好ましい態様において、煩雑な操作を行わなくとも光学純度が良好な光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を得ることができる。本発明の方法で得られる光学活性3-シクロヘキセン-1-カルボン酸の光学純度は、好ましくは65%de以上、より好ましくは70%de以上である。
【実施例0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前及び/又は後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
なお、実施例の欄において、収量とは、純度を考慮しない取得物そのものの量を指す意味で使用する。
【0054】
本実施例で変換率、含量、光学純度および化学純度評価に用いたガスクロマトグラフィーの分析条件は以下の通りである。
(分析条件)
カラム:CYCLODEXB(長さ30.0m、内径0.25mm、液相の膜厚0.25μm)
気化室温度:250.0℃
キャリアガス:ヘリウム
カラム温度:
【表1】
検出器:300.0℃
保持時間:メシル体 13.7分
ジエノフィル 10.0分
シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体 14.9分
【0055】
【0056】
L-乳酸エチル(1.50g、12.7mmol、1.2eq.)、トリエチルアミン (2.15g、21.2mmol、2.0eq.)、テトラヒドロフラン(20.8mL、テトラヒドロフラン中のL-乳酸エチルのモル濃度;0.61M)を仕込み、外温0℃に温調した。その後、アクリロイルクロリド(0.96g、10.2mmol、1.0eq.)を滴下した。1.5時間攪拌後、反応液に水(9.6mL、アクリロイルクロリドの10倍(v/w))を加え、抽出した。その後、テトラヒドロフランで2回再抽出後、飽和食塩水で洗浄した。有機層を外温30℃で濃縮し、真空乾燥後、式(4a)で表されるジエノフィルを取得した(収量1.78g、純分1.16g、6.74mmol、GC収率66.1%)。
1H NMR(CDCl3):6.49(d,J=17.0Hz,1H),6.20(q,J=11.0Hz,1H),5.91(d,J=11.0Hz,1H),5.15(q,J=7.0Hz,1H),4.22(q,J=7.0Hz,2H),1.54(d,J=7.0Hz,3H),1.28(t,J=7.0Hz,3H)
【0057】
(実施例1)
【化8】
式(4a)で表されるジエノフィル(28.2g、164mmol、1eq.)をトルエン(750mL、ジエノフィルの26.5倍(v/w))に溶かした溶液に、TiCl
4(10.8mL、d=1.73g/cm
3、98.3mmol、0.60eq.)を-18℃で滴下して加えた。同温度で30分攪拌した後、1,3-ブタジエンガス(221.6g、4097mmol、25.0eq.)を吹き込んだ。反応混合物を同温度で72時間撹拌した後、この混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(435mL、ジエノフィルの15倍(v/w))を加えた。混合物を分液し、有機相1を得た。水相をトルエン(730mL、ジエノフィルの25倍(v/w))で抽出し、有機相2を得た。有機相1及び有機相2を合一した有機層を飽和食塩水(290mL、ジエノフィルの10倍(v/w))で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過後、有機層を減圧下(40℃、20mmHg)で濃縮し、式(6a)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を液体として得た(収量38.0g、純分30.2g、GC収率81.4%、69.5%de)。
【0058】
(実施例1-1)加水分解(トルエン抽出)
【化9】
【0059】
式(6a)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体(2.26g、10.0mmol、1eq.)にエタノール(6.8mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の3倍(v/w))を加えた溶液に対し、30%NaOH水溶液(4.0g、30mmol、3.0eq.)を室温で添加した。1時間撹拌後、原料が消失したことを確認した後、トルエン(4.5mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))と水(4.5mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))を加え撹拌し、水層を取得した。2M塩酸を用いてpHを3に調整した。トルエン(11.3mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の5倍(v/w))を用いて抽出した。得られた有機層を水(4.5mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))で2回洗浄した。得られた有機層を減圧下濃縮したところ、式(2)で表される(R)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸をオイルとして取得した(収量1.13g、純分1.08g、8.58mmol、収率85.8%、化学純度99.7area%)。
【0060】
(実施例1-2)加水分解(酢酸エチル抽出)
【化10】
【0061】
式(6a)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体(2.26g、10.0mmol、1eq.)にエタノール(6.8mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の3倍(v/w))を加えた溶液に対し、30%NaOH水溶液(4.0g、30mmol、3.0eq.)を室温で添加した。1時間撹拌後、原料が消失したことを確認した後、トルエン(4.5mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))と水(4.5mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))を加え撹拌し、水層を取得した。2M塩酸を用いてpHを3に調整した。酢酸エチル(11.3mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の5倍(v/w))を用いて抽出した。得られた有機層を水(4.5mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))で2回洗浄した。得られた有機層を減圧下濃縮したところ、式(2)で表される(R)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸をオイルとして取得した(収量1.29g、純分1.20g、8.64mmol、収率86.4%、化学純度98.3area%)。
【0062】
(実施例1-3)加水分解(塩化メチレン抽出)
【化11】
【0063】
式(6a)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体(2.26g、10.0mmol、1.0eq.)にエタノール(6.8mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の3倍(v/w))を加えた溶液に対し、30%NaOH水溶液(4.0g、30mmol、3.0eq.)を室温で添加した。1時間撹拌後、原料が消失したことを確認した後、トルエン(4.5mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))と水(4.5mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))を加え撹拌し、水層を取得した。2M塩酸を用いてpHを3に調整した。塩化メチレン(11.3mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の5倍(v/w))を用いて抽出した。得られた有機層を水(4.5mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))で2回洗浄した。得られた有機層を減圧下濃縮したところ、式(2)で表される(R)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸をオイルとして取得した(収量1.10g、純分1.10g、8.69mmol、収率86.9%、化学純度99.7area%)。
【0064】
【0065】
L-乳酸エチル(12.5g、105.6mmol、1eq.)、トリエチルアミン(17.1g、169.0mmol、1.6eq.)、トルエン(165.0mL、トルエン中のL-乳酸エチルのモル濃度;0.64M)を仕込み、外温0℃に温調した。その後、メタンスルホニルクロリド(13.3g、116.2mmol、1.1eq.)を滴下した。1.5時間攪拌後、反応液をろ過した。ろ液に水(62mL、L-乳酸エチルの5倍(v/w))を加え、2回洗浄した。有機層を外温40℃で濃縮し、真空乾燥後、式(3a’)で表されるメシル体を取得した(収量20.28g、純分19.5g、GC収率94.3%)。
1H NMR(CDCl3):5.12(q,J=7.0Hz,1H),4.26(q,J=7.5Hz,1H),3.16(s,3H),1.61(d,J=7.0Hz,3H),1.32(t,J=7.5Hz,3H)
【0066】
【0067】
式(3a’)で表されるメシル体(18.8g、95.7mmol、1eq.)、炭酸ナトリウム(13.2g、124.4mmol、1.3eq.)、ジメチルアセトアミド(219.7mL、メシル体の11.7倍(v/w))を仕込み、外温70℃に温調した。その後、アクリル酸(8.96g、124.4mmol、1.3eq.)を滴下した。18時間攪拌後、反応液にトルエン(376mL、メシル体の20倍(v/w))、水(238mL、メシル体の12.7倍(v/w))を加え、分液した。得られた有機層を水(188mL、メシル体の10倍(v/w))で洗浄した。有機層を外温40℃で濃縮し、真空乾燥後、式(3a)で表されるジエノフィルを取得した(収量20.8g、純分12.9g、GC収率78.5%)。
【0068】
(実施例2)立体選択的ディールス・アルダー反応
【化14】
【0069】
式(3a)で表されるジエノフィル(2.00g、10.9mmol、1eq.)、トルエン(49.1mL、ジエノフィルの24.6倍(v/w))を仕込み、ジャケット温度-18℃に温調した。その後、TiCl4(0.72mL、d=1.73g/cm3、6.6mmol、0.6eq.)を滴下した。0.5時間攪拌後、反応液に1,3-ブタジエンガス(14.8g、273.3mmol、25.0eq.)を吹き込んだ。その後、72時間攪拌し、変換率95.7%となった。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(30.0mL、ジエノフィルの15倍(v/w))を加え、クエンチした。クエンチ液を分液後、トルエン(60.0mL、ジエノフィルの30倍(v/w))にて再抽出し、飽和食塩水(30.0mL、式(3a)で表されるジエノフィルの15倍(v/w))で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した(30℃、ca.40mmHg)。濃縮液を真空乾燥し、式(5a)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を取得した(収量2.50g、純分2.29g、GC収率92.5%、71.4%de)。
1H NMR(CDCl3):5.72-5.67(m,2H),5.09(q,J=7.2Hz,1H),4.25-4.15(m,2H),2.68-2.62(m,1H),2.36-2.23(m,2H),2.18-2.01(m,3H),1.78-1.68(m,1H),1.50(d,J=7.0Hz,3H),1.28(t,J=7.2Hz,3H)
【0070】
(実施例2-1~2-3)加水分解
【化15】
式(6a)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を式(5a)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体に変更すること以外は、実施例1-1~1-3と同様の方法で、式(1)で表される(S)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を取得する。
【0071】
【0072】
L-乳酸イソプロピル(3.00g、22.7mmol、1eq.)とトリエチルアミン(4.59g、45.4mmol、2.0eq.)のテトラヒドロフラン(37.2mL、テトラヒドロフラン中のL-乳酸イソプロピルのモル濃度;0.6M)溶液に、0℃で塩化アクリロイル(3.29g、36.3mmol、1.6eq.)を加えた。同温度で2時間攪拌した後、水(約33mL)と飽和食塩水(9mL)を加えた。混合物をトルエン(33mL)で2回抽出した。1回目と2回目の抽出で得られた有機抽出液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(33mL)で洗浄した。次いで飽和食塩水(17mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製し、式(4b)で表されるジエノフィル(純分3.45g、18.5mmol、収率81.6%、99.8%ee)を無色のオイルとして得た。
1H NMR(CDCl3):6.49(dd,J=17.5,1.2Hz,1H),6.20(dd,J=17.5,10.3Hz,1H),5.90(dd,J=10.3,1.2Hz,1H),5.10(q,J=7.5Hz,1H),5.07(dq,J=6.3,6.3Hz,1H),1.52(d,J=7.5Hz,1H),1.27(d,J=6.3Hz,1H),1.24(d,J=6.3Hz,1H)
【0073】
(実施例3)立体選択的ディールス・アルダー反応
【化17】
【0074】
式(4b)で表されるジエノフィル(3.20g、17.2mmol、1eq.)、トルエン73.6gを仕込み、ジャケット温度-18℃に温調した。その後、TiCl4(1.13mL、10.3mmol、0.6eq.)を滴下した。0.5時間攪拌後、反応液に1,3-ブタジエンガス(23.24g、429.6mmol、25.0eq.)を吹き込んだ。その後、72時間攪拌し、変換率89.5%となった。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(48mL、ジエノフィルの15倍(v/w))を加え、クエンチした。クエンチ液を分液し、有機層1を得た。また、水層をトルエン(96.0mL、ジエノフィルの30倍(v/w))にて再抽出し、有機層2を得た。有機層1及び有機層2を合一した有機層は飽和食塩水(48.0mL、ジエノフィルの15倍(v/w))で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した(30℃、ca.40mmHg)。濃縮液を真空乾燥し、式(6b)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体をオイルとして取得した(収量3.80g、GC収率84.4%、79.6%de)。
1H NMR(CDCl3):5.69(s,2H),5.06-5.01(m,2H),2.68-2.62(m,1H),2.31-2.28(m,2H),2.15-2.08(m,3H),1.75-1.69(m,1H),1.48(d,J=7.0Hz,3H),1.26(d,J=6.5Hz,3H),1.23(d,J=6.0Hz,3H)
【0075】
【0076】
式(6b)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体(2.40g、10.0mmol、1eq.)にエタノール(7.2mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の3倍(v/w))を加えた溶液に対し、30%NaOH水溶液(4.0g、30mmol、3.0eq.)を室温で添加した。1時間撹拌後、原料が消失したことを確認した後、トルエン(4.8mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))と水(4.8mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))を加え撹拌し、水層を取得した。2M塩酸を用いてpHを3に調整した。トルエン(12.0mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の5倍(v/w))を用いて分液操作を行い有機層を得た。得られた有機層は水(4.8mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))で2回洗浄した。得られた有機層を濃縮し、式(2)で表される(R)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸を得た(収量1.04g、純分1.04g、収率80.2%、化学純度99.7area%)。
【0077】
【0078】
式(4c’)で表される化合物(2.00g、13.7mmol、1eq.)とトリエチルアミン(2.77g、27.4mmol、2.0eq.)のテトラヒドロフラン(22.5mL、テトラヒドロフラン中の式(4c’)で表される化合物のモル濃度;0.61M)の溶液に、0℃で塩化アクリロイル(1.98g、21.9mmol、1.6eq.)を滴下して加えた。同温度で2時間攪拌した後、水(20mL)と飽和食塩水(5.3mL)を加えた。混合物をトルエン(20mL)で2回抽出した。1回目と2回目の抽出で得られた有機抽出液を飽和食塩水(10mL)で洗浄した。有機相を減圧下で濃縮し、残渣を得た。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=15:1)で精製し、式(4c)で表されるジエノフィル(純分2.26g、11.9mmol、収率82.4%)を無色のオイルとして得た。
1H NMR(CDCl3):6.49(dd,J=17.2,1.7Hz,1H),6.22(dd,J=17.2,10.5Hz,1H),5.91(dd,J=10.5,1.7Hz,1H),4.90(d,J=4.6Hz,1H),4.25-4.20(m,2H),2.30-2.26(m,1H),1.28(t,J=7.2Hz,3H),1.03(d,J=7.2Hz,3H),1.01(d,J=7.2Hz,3H)
【0079】
(実施例4)立体選択的ディールス・アルダー反応
【化20】
【0080】
式(4c)で表されるジエノフィル(1.77g、8.8mmol、1.0eq.)、トルエン(46.9mL、ジエノフィルの26.5倍(v/w))を仕込み、ジャケット温度-18℃に温調した。その後、TiCl4(0.58mL、d=1.73g/cm3、5.3mmol、0.6eq.)を滴下した。0.5時間攪拌後、反応液に1,3-ブタジエンガス(12.0g、220.9mmol、25.0eq.)を吹き込んだ。その後、72時間攪拌し、変換率41.9%となった。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(27mL、ジエノフィルの15倍(v/w))を加え、クエンチした。クエンチ液を分液後、トルエン(54mL、ジエノフィルの30倍(v/w))にて再抽出し、飽和食塩水(27mL、ジエノフィルの15倍(v/w))で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した(30℃、ca.40mmHg)。濃縮液を真空乾燥し、式(6c)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体を取得した(収量1.81g、純分0.73g、GC収率32.9%、82.3%de、化学純度48.3area%)。
1H NMR(CDCl3):5.70(s,2H),4.84(d,J=1.67Hz,1H),4.26-4.15(m,2H),2.72-2.66(m,1H),2.33-2.30(m,2H),2.27-2.22(m,1H),2.19-2.03(m,3H),1.80-1.71(m,1H),1.28(t,J=7.00Hz,3H),1.01(dd,J=6.75,1.67Hz,3H),0.99(d,J=6.75Hz,3H)
【0081】
【0082】
式(6c)で表されるシクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体(2.54g、10.0mmol、1eq.)にエタノール(7.6mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の3倍(v/w))を加えた溶液に対し、30%NaOH水溶液(4.0g、30mmol、3.0eq.)を室温で添加した。1時間撹拌後、原料が消失したことを確認した後、トルエン(5.1mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))と水(5.1mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))を加え撹拌し、水層を取得した。2M塩酸を用いてpHを3に調整した。トルエン(12mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の5倍(v/w))を用いて分液操作を行い有機層を得た。得られた有機層を水(5.1mL、シクロヘキセンカルボン酸エステル誘導体の2倍(v/w))を加え2回洗浄したところ、式(2)で表される(R)-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸のトルエン溶液を得た(純分1.26g、収率99.7%、化学純度83.0area%)。