(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053794
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】忌避剤及び忌避方法
(51)【国際特許分類】
A01N 25/18 20060101AFI20230406BHJP
A01N 35/06 20060101ALI20230406BHJP
A01N 43/90 20060101ALI20230406BHJP
A01N 35/02 20060101ALI20230406BHJP
A01N 65/22 20090101ALI20230406BHJP
A01N 31/16 20060101ALI20230406BHJP
A01N 65/28 20090101ALI20230406BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20230406BHJP
A01N 27/00 20060101ALI20230406BHJP
A01N 37/40 20060101ALI20230406BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20230406BHJP
A01M 29/34 20110101ALI20230406BHJP
【FI】
A01N25/18 102D
A01N35/06
A01N43/90 101
A01N35/02
A01N65/22
A01N31/16
A01N65/28
A01N37/02
A01N27/00
A01N37/40
A01P17/00
A01M29/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163052
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 正明
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA16
2B121CA02
2B121CC21
2B121FA13
4H011AC06
4H011BB01
4H011BB03
4H011BB05
4H011BB06
4H011BB08
4H011BB22
4H011DA21
4H011DD05
(57)【要約】
【課題】ムカデ類及びヤスデ類の双方に対して忌避効果が得られ、空間内へ設置可能な忌避剤を提供する。
【解決手段】ムカデ類及びヤスデ類の忌避剤であって、ローズマリーオイル、ティーツリーオイル、メントン、1,8-シネオール、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、酢酸、リモネン、ツジョン、サリチル酸メチル及びヘキサナールからなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有し、前記有効成分を空間内に揮散させて用いられることを特徴とする忌避剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムカデ類及びヤスデ類の忌避剤であって、
ローズマリーオイル、ティーツリーオイル、メントン、1,8-シネオール、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、酢酸、リモネン、ツジョン、サリチル酸メチル及びヘキサナールからなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有し、
前記有効成分を空間内に揮散させて用いられることを特徴とする忌避剤。
【請求項2】
前記揮散させる空間1m3に対する前記有効成分の合計の含有量が40mg~50gであることを特徴とする請求項1に記載の忌避剤。
【請求項3】
ムカデ類及びヤスデ類の忌避方法であって、
請求項1又は2に記載の忌避剤を空間内に設置し、前記忌避剤における前記有効成分を前記空間内に揮散させることでムカデ類及びヤスデ類を忌避することを特徴とする忌避方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、忌避剤及び忌避方法に関し、詳しくはムカデ類及びヤスデ類を忌避するための忌避剤及び忌避方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ムカデ類やヤスデ類は、見た目の不快感や、毒を有するため咬まれた際に腫れるなど人体に害を及ぼすため、防除の対象とされている。そのため、これらの忌避剤として各種精油の適用等が種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ピレスロイド系殺虫成分としてのシフルトリンと、植物体から調製された匍匐害虫に対する忌避成分としてのシナモンパウダーと、ジプロピレングリコール及び/ 又はトリプロピレングリコールを鉱物質担体に配合してなる匍匐害虫防除用粉剤が提案されている。また、特許文献2では、pHが8.8~12であり、且つpHを前記範囲に調整する有効量で、pH調整剤としての無機塩を含有する溶液である、多足類及びゴキブリ類の少なくとも一方の忌避剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-112773号公報
【特許文献2】特開2016-113418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、害虫に対して忌避効果を示す天然精油や単一成分が報告されているものの、害虫にはムカデ類やヤスデ類の他、カメムシ、ダンゴムシ、アリ等多種多様な害虫が存在する。害虫の種類によってその生態は大きく異なり、忌避成分がどの害虫にどの程度効果を奏するかは不詳である。
【0006】
例えば、特許文献1では、かかる匍匐害虫防除用粉剤を散粉することで防除効力を発揮する害虫として、ゴキブリ、ダニ、アリ等と共にムカデやヤスデが開示されている。しかしながら、実際に防除効力を確認しているのはクロヤマアリというアリ類のみであって、他の害虫に対しても防除効力を示すかは不明である。
【0007】
本発明では、害虫の中でも特に、攻撃性が強く、接触した瞬間に咬みつくムカデ類と、不快な臭いを発生させるヤスデ類に着目したが、ムカデ類を忌避してもヤスデ類を忌避せず、また、ヤスデ類を忌避してもムカデ類を忌避しないというように、同一の忌避成分がムカデ類とヤスデ類の双方に忌避効果を示すとは限らない。
【0008】
また、害虫の忌避剤の態様として、噴霧型、散布型、粉剤、設置型等、様々な態様があるが、特に設置型の場合、人体への影響が少ない安全な成分により忌避剤が構成されることが求められる。
【0009】
そこで、本発明は、ムカデ類及びヤスデ類の双方に対して忌避効果が得られ、空間内へ設置可能な、忌避剤及び忌避方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定の成分がムカデ類とヤスデ類の双方に対して忌避効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の課題は下記[1]~[3]により達成される。
[1] ムカデ類及びヤスデ類の忌避剤であって、ローズマリーオイル、ティーツリーオイル、メントン、1,8-シネオール、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、酢酸、リモネン、ツジョン、サリチル酸メチル及びヘキサナールからなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有し、前記有効成分を空間内に揮散させて用いられることを特徴とする忌避剤。
[2] 前記揮散させる空間1m3に対する前記有効成分の合計の含有量が40mg~50gであることを特徴とする前記[1]に記載の忌避剤。
[3] ムカデ類及びヤスデ類の忌避方法であって、前記[1]又は[2]に記載の忌避剤を空間内に設置し、前記忌避剤における前記有効成分を前記空間内に揮散させることでムカデ類及びヤスデ類を忌避することを特徴とする忌避方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る忌避剤によれば、ムカデ類及びヤスデ類の双方に対して忌避効果が得られる。また、上記忌避剤は人体への影響が少ない安全な成分を有効成分とするため、空間内へ設置可能である。
本発明に係る忌避方法についても同様に、空間内へ忌避剤を設置させて有効成分を空間内に揮散させることで、ムカデ類及びヤスデ類の双方に対する忌避効果を発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<忌避剤>
本実施形態に係る忌避剤の対象害虫はムカデ類及びヤスデ類である。
上記忌避剤は、ローズマリーオイル、ティーツリーオイル、メントン、1,8-シネオール、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、酢酸、リモネン、ツジョン、サリチル酸メチル及びヘキサナールからなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有し、上記有効成分を空間内に揮散させて用いられることを特徴とする。
【0013】
上記有効成分はいずれも、人体への影響が少ない安全な成分である。有効成分は室温(常温)で自然揮散するため、本実施形態に係る忌避剤を空間内に単に設置するのみでも、有効成分が空間内に揮散され、ムカデ類及びヤスデ類の双方に対する忌避効果が発現する。また、忌避剤に対して熱や風等の外部エネルギーを与えることにより、有効成分を空間内に揮散させてもよい。熱や風を用いて有効成分を揮散させる場合には、揮散速度を制御しやすい。
上記有効成分はいずれも室温で液体状態であり、液体担体や溶剤等、忌避についての有効成分以外の役目を兼ねてもよい。
【0014】
有効成分のうち、ローズマリーオイルとは、地中海沿岸の諸国に広く分布するシソ科の常緑低木であるローズマリー(学名:Rosmarinus officinalis)の葉や花を蒸留して採取される精油であり、淡緑色の液体である。本実施形態におけるローズマリーオイルとしては、例えば、ローズマリー・シネオール、ローズマリー・ベルベノン、ローズマリー・カンファー等が挙げられる。
【0015】
ティーツリーオイルとは、オーストラリアの湿地に生息するフトモモ科植物ティーツリー(tea tree、学名:Melaleuca alternifolia)から得られる芳香性のある無色から淡黄色の精油である。本実施形態におけるティーツリーオイルとは、例えば、フトモモ科レプトスペルムム属、ネズモドキ属、メラレウカ属、ブラッシノキ属、カロタムヌス属、オソブルニア属のいずれかに属する植物から得られる精油が挙げられる。
【0016】
メントンとは、(2S,5R)-trans-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサン-1-オンの化合物であり、無色からわずかに薄い黄色、澄明の液体である。ペニーロイヤルやペパーミント、フウロソウ属の植物(ゼラニウム)等の精油に含まれる成分の一種でもある。
【0017】
1,8-シネオールとは、無色から淡黄色澄明の液体の化合物であり、ユーカリ・ポリブラクテア(E. polybractea)等のユーカリ属(Eucalyptus)の植物の精油に含まれる成分の一種でもある。また、ローリエ、ヨモギ、バジリコ、ニガヨモギ、ローズマリー、セージなどの葉からも抽出できる。
【0018】
シンナミックアルデヒドとは、淡黄色の粘性のある液体の化合物であり、シナモン等のニッケイ属樹木の樹皮の精油に含まれる成分の一種でもある。
【0019】
オイゲノールとは、無色から淡黄色の油状液体の化合物であり、クローブの精油の他、ピメント、ローリエ、シナモン等の精油等にも含まれる成分でもある。
【0020】
酢酸とは、無色の液体の化合物であり、酢等に含まれる成分でもある。
【0021】
リモネンとは、柑橘類の果皮に含まれる代表的な単環式のモノテルペンであり、無色透明の液体の化合物である。d体、l体、ラセミ体が存在するが、本明細書におけるリモネンとは、それらのいずれであってもよく、また、それらの混合物でもよい。
【0022】
ツジョンとは、無色の液体の化合物であり、ニガヨモギ、ヨモギ、セージ等の精油に含まれる成分の一種でもある。メチル基の無機が異なるαとβの異性体があるが、本明細書におけるツジョンとは、それらのいずれであってもよく、また、これらの混合物でもよい。
【0023】
サリチル酸メチルとは、無色の油状液体の化合物であり、カバノキ科のカバノキ属、ツツジ科のシラタマノキ、イチヤクソウ科等の植物にも含まれる成分でもある。
【0024】
ヘキサナールとは、無色の液体の化合物であり、大豆等に含まれる成分でもある。
【0025】
本実施形態における有効成分は、上記のうち1種でも2種以上でもよい。
ムカデ類及びヤスデ類に対する忌避効果の高さの観点から、有効成分は、ローズマリーオイル、1,8-シネオール、酢酸、ツジョン及びサリチル酸メチルからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ローズマリーオイル、1,8-シネオール、酢酸及びツジョンからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ローズマリーオイル、1,8-シネオール及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。
【0026】
本実施形態に係る忌避剤における上記有効成分の含有量は、忌避剤そのもののスケールや、忌避剤を設置する空間の広さによって異なる。そのため、忌避剤を設置し、有効成分を揮散させる空間1m3に対する有効成分の合計の含有量は、ムカデ類及びヤスデ類への忌避効果を効果的に得る観点から、40mg以上が好ましく、80mg以上がより好ましく、100mg以上がさらに好ましい。また、人間が忌避剤の香りを刺激臭と感じるのを防ぐ観点から、上記有効成分の合計の含有量は、50g以下が好ましく、10g以下がより好ましく、2g以下がさらに好ましい。
なお、厳密には、用いる有効成分の種類によって最適な含有量は異なるが、上記範囲内であれば、有効成分の種類を問わず、好ましい。
【0027】
本実施形態に係る忌避剤は各種製剤として用いることができ、空間内に設置できれば形態は問わないが、例えば、液剤、ゲル剤、ゾル剤、粒剤、顆粒剤、粉剤、錠剤、シート剤等が挙げられる。中でも、屋内で使用する観点から液剤、ゲル剤、シート剤がより好ましい。
【0028】
本実施形態に係る忌避剤は、有効成分のみからなってもよく、製剤化にあたって、本発明の効果を損なわない範囲において、上記有効成分以外の他の成分を含有してもよい。
他の成分として担体等を用いて製剤化する場合には、有効成分を固体担体や液体担体と混合する方法、有効成分を固体担体に含浸する方法、有効成分を固体担体に混合した後に成形加工する方法等が挙げられる。
【0029】
固体担体としては、例えば、タルク、蝋石、カオリン、炭酸カルシウム、ベントナイト、珪石、長石、含水二酸化珪素、酸性白土、珪藻土粉末、軽石粉末等の鉱物質粉末;木粉、トウモロコシ澱粉、シルク粉末等の動物質粉末;ブドウ糖、ショ糖、乳糖等の糖類;炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類等が挙げられる。
中でも、飛散しにくく、水分等で溶解しない等の観点からは、鉱物質粉末が好ましく、タルク、クレー、珪石、長石、カオリンがより好ましい。これらの固体担体は1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
液体担体としては、例えば、水、アルコール、炭化水素等を用いることができ、さらに、増粘性高分子化合物を含むジェル状液体、界面活性剤を含む乳剤としてもよい。中でも、揮散量をコントロールし、忌避効果を持続させやすい観点から、増粘性高分子化合物を含むジェル状液体が好ましい。ただし、液体担体に本実施形態における有効成分が含まれる場合には、液体担体に含まれる有効成分も、本実施形態における有効成分の合計の含有量に含まれる。
これらの液体担体は1種又は2種以上を用いることができる。また、本実施形態における有効成分を液体担体と混合させた後に、ゲル化剤を用いて固化させたり、吸水性ポリマーに含浸させてもよい。
【0031】
担体以外の上記他の成分としては、例えば、溶剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、香料、着色剤、撥水剤、防腐剤、pH調整剤、オイル類、増粘剤、展着剤等が挙げられる。
【0032】
溶剤としては、例えば、水、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、炭化水素類、芳香族類等が挙げられる。ただし、溶剤に本実施形態における有効成分が含まれる場合には、溶剤に含まれる有効成分も、本実施形態における有効成分の合計の含有量に含まれる。溶剤が忌避剤における有効成分ではない場合、溶剤は有効成分の揮散量を抑制し、持続期間を伸ばす観点で、ミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジオクチル、プロピレングリコールなどがより好ましい。
【0033】
界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルアリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類のポリオキシエチレン化物、ポリエチレングリコールエーテル類、多価アルコールエステル類等が挙げられる。
【0034】
紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)エンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系が挙げられる。
【0035】
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、γ-オリザノール、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0036】
香料としては、例えば、バラ油、ラベンダー油、ベルガモット油、シナモン油、シトロネラ油、レモン油、ハッカ油等の精油類、ピネン、リナロール、メントール、シトラール、シトロネラール、バニリン、ボルネオール等の芳香物質類、これらの配糖体、天然香料、合成香料、調合香料等が挙げられる。ただし、香料に本実施形態における有効成分が含まれる場合には、香料に含まれる有効成分も、本実施形態における有効成分の合計の含有量に含まれる。
【0037】
着色剤としては、例えば、青色1号、緑色202号、紫色201号等の法定色素、リボフラビン、クロロフィル等の天然色素等が挙げられる。
【0038】
撥水剤としては、例えば、シリコーンオイル等が挙げられる。
【0039】
防腐剤としては、例えば、フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、パラベン類、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0040】
pH調整剤としては、例えば、クエン酸、リン酸、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、コハク酸等が挙げられる。
【0041】
オイル類としては、例えば、シリコーンオイル類、植物油、動物油、合成油、石油類等が挙げられる。ただし、オイル類に本実施形態における有効成分が含まれる場合には、オイル類に含まれる有効成分も、本実施形態における有効成分の合計の含有量に含まれる。
【0042】
増粘剤としては、例えば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子化合物、ベントナイト等の粘土鉱物が挙げられる。
【0043】
展着剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等が挙げられる。
【0044】
忌避剤の設置場所は、揮散した有効成分が効果を発現する濃度以上気中濃度となるように、屋外のような開放空間ではなく、家屋内であることが好ましい。具体的には、玄関や窓際等の外部からの侵入経路となり得る場所や、物置き等のムカデ類やヤスデ類が好むものに近い場所、寝室、居室、浴室、洗面所、トイレ等の居住空間等が挙げられる。また、ムカデ類が潜みやすい場所、靴箱、台所のシンク下、クローゼット、押入れ、家具の下等の空間等が挙げられる。本実施形態に係る忌避剤を、このような場所に設置することで、有効成分が空間内に揮散し、ムカデ類及びヤスデ類の双方に対して忌避効果を発揮する。
【0045】
本実施形態に係る忌避剤の対象はムカデ類及びヤスデ類であるが、ムカデ類としては、トビズムカデ、アオズムカデ、ジムカデ、イッスンムカデ等が挙げられる。また、ヤスデ類としては、ババヤスデ、ヤケヤスデ、アカヤスデ等が挙げられる。
【0046】
<忌避方法>
本実施形態に係る忌避方法の対象害虫はムカデ類及びヤスデ類であり、有効成分を含む忌避剤を空間内に設置し、上記有効成分をかかる空間内に揮散させることを特徴とする。
忌避剤は、上記<忌避剤>に記載のものと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0047】
本実施形態に係る忌避方法において、忌避剤を空間内に設置し、有効成分を空間内に揮散させた際の、有効成分の合計の気中濃度は、ムカデ類及びヤスデ類への忌避効果を効果的に得る観点から40mg/m3以上が好ましく、80mg/m3以上がより好ましく、100mg/m3以上がさらに好ましい。また、人間が忌避剤の香りを刺激臭と感じるのを防ぐ観点から、上記気中濃度は、50g/m3以下が好ましく、10g/m3以下がより好ましく、2g/m3以下がさらに好ましい。
【0048】
有効成分の合計の気中濃度は、忌避剤を設置する空間の気密性や、室温、湿度、等の影響を受ける。目安として、忌避剤において、揮散させる空間1m3に対する有効成分の合計の含有量が40mg程度であれば、有効成分の合計の気中濃度は40mg/m3程度となる。また、上記含有量が50g程度であれば、上記気中濃度は50g/m3程度となる。
【0049】
実際に気中濃度を測定する際の測定方法は特に限定されないが、例えば、忌避剤の設置された空間の気体を採取し、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等を用いて分析できる。気体を採取する際は、設置された忌避剤から1cm程度離れた位置の気体、またはムカデ類及びヤスデ類の侵入経路もしくは侵入されたくない場所の気体を採取する。
気中濃度の測定は「一般用医薬品及び医薬部外品としての殺虫剤の室内空気中濃度測定方法 ガイドライン」に記載の方法を用いてもよい。
【実施例0050】
以下、実施例より本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0051】
<実施例1-1~1-11及び比較例1-1~1-19>
1cm×5cmのろ紙の先端に、表1に記載の有効成分を5μL含浸させて試験検体とした。試験検体を供試虫の触覚から1cm程度離れた場所に近づけ、供試虫の反応を最大30秒間観察した。
これは、揮散させる空間1m3に対する有効成分の含有量が約150mgに相当する。また、供試虫は、ムカデ類としてトビズムカデを、ヤスデ類としてババヤスデをそれぞれ用いた。
評価基準は下記のとおりである。
5 試験検体を近づけて供試虫がUターンした。
4 試験検体を近づけると、供試虫は触角で反応し、その場で立ち止まった。
3 試験検体を近づけると、供試虫の触角が5秒以上有効成分に反応して小刻みに揺れた。
2 試験検体を近づけると、供試虫の触角が5秒未満有効成分に反応して小刻みに揺れた。
1 試験検体を近づけても、供試虫は反応しなかった。
結果を表1に示すが、供試虫であるトビズムカデ及びババヤスデの結果が共に2以上であれば忌避効果が奏されたとして好ましく、共に3以上がより好ましく、共に4以上がさらに好ましく、一方が4以上で他方が5が特に好ましい。
【0052】
【0053】
<実施例2-1~2-7及び比較例2-1>
容積が10L又は200Lのテドラー(登録商標)バッグを用意し、有効成分として1,8シネオールを表2に記載の気中濃度になるように滴下させたガラスシャーレをテドラー(登録商標)バッグ内に設置し、空気で満たした状態で口を閉じた。その後、12時間放置し、有効成分を空間内に自然揮散させた。
次いで、有効成分の全量が空気中に揮散していることを確認し、試験検体としてテドラー(登録商標)バッグ内の空気を供試虫にあて供試虫の反応を観察した。供試虫は、ムカデ類としてトビズムカデを、ヤスデ類としてババヤスデをそれぞれ用いた。
評価基準は下記のとおりであり、結果を表2の「忌避効果」に示す
◎:試験検体を近づけて5秒以内に、供試虫がUターンもしくはその場から立ち去った。
〇:試験検体を近づけて10秒以内に、供試虫がUターンもしくはその場から立ち去った。
△:試験検体を近づけてから5秒以上、供試虫の触角が反応した。
×:試験検体を近づけても、供試虫は全く反応を示さなかった。
【0054】
【0055】
表1の結果より、本実施形態における有効成分を含む忌避剤とすると、ムカデ類及びヤスデ類に対する忌避効果を示すことが分かった。また、実施例1-1のメントンに対し、類似の構造を有し、ケトン基を有さない比較例1-14のp-メンタンは、ムカデ類に対しては同等の忌避効果を示したにも関わらず、ヤスデ類への忌避効果が全く見られなかった。
【0056】
表2の結果より、有効成分の気中濃度は、例えば、空間1m3あたり40mg程度の低い値でも、忌避効果を示すことが確認できた。また、かかる気中濃度が高いほど、忌避効果は強く奏され、5g/m3以上の濃度となると、それ以上効果に大きな差は見られなかった。
ムカデ類やヤスデ類といった多足類は屋外から屋内に侵入する害虫になり、侵入経路は玄関や窓などの隙間から侵入する。その後、寝室など生活環境に侵入し、特にムカデ類の場合には人間に対し咬害を引き起こす。これに対し、本試験の結果よりムカデ類及びヤスデ類の侵入経路や入ってきてほしくない場所などに忌避効果を示す気中濃度の有効成分が漂っていれば、ムカデ類やヤスデ類といった多足類の忌避ができる可能性が示された。
【0057】
また、比較例1-3、1-7~1-11、1-14、1-18の有効成分であるカプロン酸、ヒノキオイル、テルピネン-4-オール、α-ピネン、1-オクテン-3-オール、プレゴン、p-メンタン、オイルマスタードは、ムカデ類に対して特異的に忌避効果を発揮する成分であるとの知見が得られた。一方で、比較例1-2、1-5、1-13の有効成分であるネロール、カプロン酸アリル、カルバクロール等は、ヤスデ類に対して特異的に忌避効果を発揮する成分であるとの知見が得られた。中でも特に、ネロールおよびカルバクロールは、ヤスデ類の忌避効果が非常に高かった。