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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053807
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】導入補助器具
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/06 20060101AFI20230406BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61M 39/06 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
A61M25/06 550
A61M25/00 534
A61M39/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163077
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】森 健作
【テーマコード(参考)】
4C066
4C267
【Fターム(参考)】
4C066QQ15
4C267AA05
4C267AA15
4C267BB02
4C267BB04
4C267BB07
4C267BB08
4C267BB40
4C267BB52
4C267CC08
4C267EE01
4C267EE03
4C267HH08
(57)【要約】
【課題】分枝にアプローチする際に生じ得る血管損傷の可能性を低減しつつ、分枝へ医療器具を導入するときに発揮するバックアップ力を高めること。
【解決手段】血管(大動脈A)の分枝(B)に対して医療器具(カテーテル22)を導入するときに用いる導入補助器具(11)は、近位端(11P)から先細った形状を有する遠位端(11E)に至る第1通路(P1)と、近位端(11P)から側孔(Hs)に至る第2通路と、を有するチューブ(アウターシース111)を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管の分枝に対して医療器具を導入するときに用いる導入補助器具であって、
近位端から先細った形状を有する遠位端に至る第1通路と、前記近位端から側壁に設けられた側孔に至る第2通路と、を有するチューブを備えている、
ことを特徴とする導入補助器具。
【請求項2】
前記近位端から前記第2通路に導入された可撓性を有するインナーチューブであって、先端が前記側孔に至るインナーチューブを更に備えている、
ことを特徴とする請求項1に記載の導入補助器具。
【請求項3】
前記インナーチューブの前記先端の近傍は、前記第2通路に導入されていない状態において、段差が生じないように連続的且つ滑らかに曲げられている、
ことを特徴とする請求項2に記載の導入補助器具。
【請求項4】
前記チューブの前記近位端から突出している前記インナーチューブには、前記側孔から当該インナーチューブが突出している突出量に対応する目盛りが付されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の導入補助器具。
【請求項5】
前記チューブの前記近位端に設けられた固定機構であって、前記第2通路における前記インナーチューブの位置の固定及び開放を切り替える固定機構を更に備えている、
ことを特徴とする請求項2~4の何れか1項に記載の導入補助器具。
【請求項6】
前記チューブの前記近位端に設けられた第1止血弁であって、前記血管から前記第2通路へ流入した血液を止血する第1止血弁を更に備えている、
ことを特徴とする請求項2~5の何れか1項に記載の導入補助器具。
【請求項7】
前記インナーチューブの近位端に設けられた第2止血弁であって、前記血管から前記インナーチューブに流入した血液を止血する第2止血弁を更に備えている、
ことを特徴とする請求項2~6の何れか1項に記載の導入補助器具。
【請求項8】
前記チューブの前記近位端に設けられた第3止血弁であって、前記血管から前記第1通路へ流入した血液を止血する第3止血弁を更に備えている、
ことを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の導入補助器具。
【請求項9】
前記チューブの前記近位端の近傍には、当該チューブの中心軸の軸回りにおける側孔が設けられている方位を示す目盛り及び目印の少なくとも何れかが付されている、
ことを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載の導入補助器具。
【請求項10】
前記側孔及び前記第2通路の各々を、それぞれ、第1側孔及び1本目の第2通路として、
前記チューブは、前記側壁に設けられた第2側孔~第n側孔(nは、2以上の整数)と、前記近位端から第i側孔に至るi本目の第2通路(iは、2≦i≦nの整数)と、を更に有する、
ことを特徴とする請求項1~9の何れか1項に記載の導入補助器具。
【請求項11】
血管の分枝に対して医療器具を導入するときに用いる導入補助器具であって、
近位端から先細った形状を有する遠位端に至る第1通路と、当該第1通路から分岐したうえで側壁に設けられた側孔に至る第2通路と、を有するチューブを備えている、
ことを特徴とする導入補助器具。
【請求項12】
前記側孔を、第1側孔として、
前記チューブは、前記側壁に設けられた第2側孔~第n側孔(nは、2以上の整数)と、前記第1通路から分岐したうえで第i側孔に至るi本目の第2通路(iは、2≦i≦nの整数)と、を更に有する、
ことを特徴とする請求項11に記載の導入補助器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管の分枝に対してカテーテルに代表される医療器具を導入するときに用いる導入補助器具に関する。
【背景技術】
【0002】
血管の分枝に対してカテーテルに代表される医療器具を導入するときに、特許文献1の図1に示されているような導入補助器具を用いる場合がある。分枝は、特許文献1において、側枝管状器管と呼ばれている。
【0003】
この導入補助器具は、先端部、本体部、及びバックアップ提供部を含み、且つ、可撓性を有する管状体を備えている。
【0004】
先端部は、管状体の両端部のうち、導入補助器具の操作者からみて遠い側の端部を構成する。本体部は、管状体の主たる区間を構成する。この主たる区間は、管状体の両端部のうち、導入補助器具の操作者からみて近い側の端部から、先端部の近傍までに区間である。バックアップ提供部は、先端部と本体部との間に設けられている。特許文献1に記載の導入補助器具において、バックアップ提供部は、分枝近傍の血管の形状に応じて湾曲されている。また、湾曲部の側壁の一部には、管状体の内部に設けられた内部通路とつながった開口部(以下において、側孔と称する)が設けられている。
【0005】
この導入補助器具は、血管の分枝に対してカテーテルに代表される医療器具を導入するときに、バックアップ提供部が分枝の先端側(遠位端側)から手元側(近位端側)へまたがるように、且つ、側孔が分枝の入口の方角を向くように配置される(特許文献1の図3図7参照)。導入補助器具をこのように配置することにより、バックアップ提供部の少なくとも一部が分枝近傍の血管の内壁に当接する。したがって、バックアップ提供部の側孔から分枝へ医療器具を導入するときに、バックアップ提供部は、生じ得る自身のしなりを抑制しやすくなり、結果として、自身の位置を血管内部において固定しやすくする。すなわち、バックアップ提供部は、側孔から分枝へ医療器具を導入するときに、自身の位置を血管内において固定するバックアップ力を生じさせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-036393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バックアップ力を高めるためには、バックアップ提供部を構成する材料の可撓性を低下させ、バックアップ提供部を変形しにくく構成することが考えられる。
【0008】
しかしながら、バックアップ提供部を構成する材料の可撓性を低下させればさせるほどバックアップ提供部の柔軟性が失われる。そのため、バックアップ提供部を構成する材料の可撓性を低下させればさせるほど、バックアップ提供部を分枝の近傍まで導入するときに、バックアップ提供部が血管壁に与え得るストレスは、増大する。
【0009】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、血管の分枝に対して医療器具を導入するときに用いる導入補助器具において、分枝にアプローチする際に生じ得る血管損傷の可能性を低減しつつ、分枝へ医療器具を導入するときに発揮するバックアップ力を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る導入補助器具は、血管の分枝に対して医療器具を導入するときに用いる導入補助器具である。本導入補助器具においては、近位端から先細った形状を有する遠位端に至る第1通路と、前記近位端から側壁に設けられた側孔に至る第2通路と、を有するチューブを備えている、構成が採用されている。
【0011】
特許文献1に記載された従来の導入補助器具の場合、先細った形状を有する遠位端が導入補助器具の先端を構成する。このように、従来の導入補助器具では先細った遠位端が血管内に露出するため、分枝にアプローチする際に血管損傷を生じさせるリスクが高い。特に、分枝の位置に合わせて側孔の位置及び向きを調整する際には、導入補助器具の先端を構成する遠位端が血管壁に突き刺さりかねないため、危険である。また、バックアップ力を高めるために遠位端を構成する材料の可撓性を低下させた場合には、上述したリスクは、一層高まる。
【0012】
上記の構成によれば、導入補助器具の近位端から第1通路を経て遠位端より先まで金属製のガイドワイヤーを通すことができる。そのため、本導入補助器具の先端は、遠位端ではなくガイドワイヤーにより構成される。その結果、分枝にアプローチする際に導入補助器具の先細った先端が血管壁に突き当たることなく、安全に側孔の位置を変えることができる。
【0013】
同時に、第1通路の内部をガイドワイヤーが通ることによって、単体の場合と比較してチューブの硬性を増すことができる。したがって、本導入補助器具は、分枝へ医療器具を導入するときに発揮するバックアップ力を高めることができる。
【0014】
また、本発明の第2の態様に係る導入補助器具においては、上述した第1の態様に係る導入補助器具の構成に加えて、前記近位端から前記第2通路に導入された可撓性を有するインナーチューブであって、先端が前記側孔に至るインナーチューブを更に備えている、構成が採用されている。
【0015】
上記の構成によれば、第2通路に導入されたインナーチューブを、医療器具を通すためのインナーシースとして用いることができる。したがって、第2通路の内部で引っかかりが生じないので、医療器具を容易に差し替えることができる。
【0016】
また、本発明の第3の態様に係る導入補助器具においては、上述した第2の態様に係る導入補助器具の構成に加えて、前記インナーチューブの前記先端の近傍は、前記第2通路に導入されていない状態において、段差が生じないように連続的且つ滑らかに曲げられている、構成が採用されている。
【0017】
上記の構成によれば、段差が生じないように連続的且つ滑らかにインナーチューブの先端の近傍が曲げられているので、インナーチューブに医療器具を挿通するときに引っかかることなく容易に挿通できる。さらに、側孔から突出させるインナーチューブの突出量を調整することにより、インナーチューブの先端の向きを調整することができる。したがって、インナーチューブの突出量を調整することにより、インナーチューブの先端から突出する医療器具の向きを調整することができる。
【0018】
また、本発明の第4の態様に係る導入補助器具においては、上述した第3の態様に係る導入補助器具の構成に加えて、前記チューブの前記近位端から突出している前記インナーチューブには、前記側孔から当該インナーチューブが突出している突出量に対応する目盛りが付されている、構成が採用されている。
【0019】
上記の構成によれば、作業者は、チューブの近位端から突出しているインナーチューブに付された目盛りを読み取ることにより、インナーチューブの側孔からの突出量を把握することができる。側孔から突出するインナーチューブの向き(すなわち、インナーチューブの先端から突出する医療器具の向き)は、突出量とおおよそ対応しているので、作業者は、目盛りを読み取ることにより側孔から突出するインナーチューブの向きを把握することができる。
【0020】
また、本発明の第5の態様に係る導入補助器具においては、上述した第2の態様~第4の態様の何れか一態様に係る導入補助器具の構成に加えて、前記チューブの前記近位端に設けられた固定機構であって、前記第2通路における前記インナーチューブの位置の固定及び開放を切り替える固定機構を更に備えている。
【0021】
上記の構成によれば、作業者は、固定機構を解放の状態にすることによりインナーチューブの突出量を調整することができ、固定機構を固定の状態にすることによりインナーチューブの突出量を固定することができる。
【0022】
また、本発明の第6の態様に係る導入補助器具は、上述した第2の態様~第5の態様の何れか一態様に係る導入補助器具の構成に加えて、前記チューブの前記近位端に設けられた第1止血弁であって、前記血管から前記第2通路へ流入した血液を止血する第1止血弁を更に備えている。
【0023】
上記の構成によれば、前記血管から前記第2通路への血液の逆流を抑制することができる。
【0024】
また、本発明の第7の態様に係る導入補助器具は、上述した第2の態様~第6の態様の何れか一態様に係る導入補助器具の構成に加えて、前記インナーチューブの近位端に設けられた第2止血弁であって、前記血管から前記インナーチューブに流入した血液を止血する第2止血弁を更に備えている。
【0025】
上記の構成によれば、前記血管から前記インナーチューブへの血液の逆流を抑制することができる。
【0026】
また、本発明の第8の態様に係る導入補助器具は、上述した第1の態様~第7の態様の何れか一態様に係る導入補助器具の構成に加えて、前記チューブの前記近位端に設けられた第3止血弁であって、前記血管から前記第1通路へ流入した血液を止血する第3止血弁を更に備えている。
【0027】
上記の構成によれば、前記血管から前記第1通路への血液の逆流を抑制することができる。
【0028】
また、本発明の第9の態様に係る導入補助器具においては、上述した第1の態様~第8の態様の何れか一態様に係る導入補助器具の構成に加えて、前記チューブの前記近位端の近傍には、当該チューブの中心軸の軸回りにおける側孔が設けられている方位を示す目盛り及び目印の少なくとも何れかが付されている、構成が採用されている。
【0029】
作業者は、血管に導入されたチューブに設けられた側孔の軸回りにおける方位をエックス線透視下で概ね把握することができる。しかしながら、エックス線透視は2次元画像であるため、側孔の位置を三次元的に把握することが難しい。また、近位端における第1通路及び第2通路の配置と、側孔の向きとを、作業者が予め対応付けて記憶しておくことによって、作業者は、近位端における第1通路及び第2通路の配置を手がかりに側孔の軸回りにおける方位を概ね把握することができる。しかしながら、この方法は直感的ではないため、作業者の負担になり得る。上記の構成によれば、チューブの近位端に付された目盛り及び目印の少なくとも何れかを読み取ることにより、作業者は、側孔の軸回りにおける方位をより正確に、且つ、直感的に把握することができる。
【0030】
また、本発明の第10の態様に係る導入補助器具は、上述した第1の態様~第9の態様の何れか一態様に係る導入補助器具の構成に加えて、前記側孔及び前記第2通路の各々を、それぞれ、第1側孔及び1本目の第2通路として、前記チューブは、前記側壁に設けられた第2側孔~第n側孔(nは、2以上の整数)と、前記近位端から第i側孔に至るi本目の第2通路(iは、2≦i≦nの整数)と、を更に有する。
【0031】
上記の構成によれば、血管の分枝に対して医療器具を用いてアプローチする場合に、n個の側孔及びn本の第2通路を用いて、最大でn本の医療器具を用いることができる。
【0032】
上述した課題を解決するために、本発明の第9の態様に係る導入補助器具は、血管の分枝に対して医療器具を導入するときに用いる導入補助器具である。本導入補助器具においては、近位端から先細った形状を有する遠位端に至る第1通路と、当該第1通路から分岐したうえで側壁に設けられた側孔に至る第2通路と、を有するチューブを備えている、構成が採用されている。
【0033】
上記のように構成された本発明の態様11に係る導入補助器具は、本発明の態様1に係る導入補助器具と同様の効果を奏する。
【0034】
上述した課題を解決するために、本発明の第12の態様に係る導入補助器具は、前記側孔を、第1側孔として、前記チューブは、前記側壁に設けられた第2側孔~第n側孔(nは、2以上の整数)と、前記第1通路から分岐したうえで第i側孔に至るi本目の第2通路(iは、2≦i≦nの整数)と、を更に有する。
【0035】
上記の構成によれば、血管の分枝に対して医療器具を用いてアプローチ場合に、n個の側孔及びn本の第2通路を用いて、最大でn本の医療器具を用いることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の一態様によれば、分枝にアプローチする際に生じ得る血管損傷の可能性を低減しつつ、分枝へ医療器具を導入するときに発揮するバックアップ力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の一実施形態に係る導入補助システムの平面図である。
図2】(a)は、図1に示した導入補助システムの導入補助器具が備えているアウターシースの近位端を拡大した平面図である。(b)は、図1に示した導入補助システムの導入補助器具が備えているアウターシースの遠位端及び側孔を拡大した平面図である。
図3】(a)は、図1に示した導入補助システムの導入補助器具が備えているインナーシースの平面図である。(b)~(e)は、それぞれ、前記導入補助器具が備えているアウターシースにおける架橋区間の拡大断面図である。
図4】(a)~(c)は、それぞれ、図1に示した導入補助システムを用いて大動脈の分枝にカテーテルを導入する場合の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
〔導入補助システム〕
本発明の一実施形態に係る導入補助システム10について、図1図3を参照して説明する。図1は、導入補助システム10の平面図である。図2の(a)は、導入補助システム10の導入補助器具11の近位端11Pを拡大した平面図である。図2の(b)は、導入補助器具11の遠位端11E及び側孔Hsを拡大した平面図である。図3の(a)は、導入補助器具11が備えているインナーシース115の平面図である。図3の(b)~(e)は、それぞれ、導入補助器具11が備えているアウターシース111おける架橋区間の拡大断面図である。
【0039】
図1に示すように、導入補助システム10は、導入補助器具11と、ガイドワイヤー21と、カテーテル22と、を備えている。導入補助器具11は、本発明の一実施形態でもある。
【0040】
<導入補助システムの概要>
導入補助システム10は、大動脈瘤(腹部大動脈瘤及び胸部大動脈瘤)に代表される血管疾患の検査及び治療の少なくとも何れかに用いることを想定している。導入補助システム10は、血管疾患を有している患者の血管(例えば腹部大動脈)の分枝に対して医療器具(例えばカテーテル)を導入するときに用いる導入補助システムである。同様に、導入補助器具11は、血管の分枝に対して選択的に医療器具を導入するときに用いる導入補助器具である。本実施形態では、分枝に導入する医療器具としてカテーテルを用い、カテーテルを腹部大動脈の分枝に導入する場合を例にして、導入補助システム10及び導入補助器具11について説明する。以下において、腹部大動脈のことを大動脈Aと称する。
【0041】
導入補助器具11の遠位端11Eは、患者の所定の部位(例えば大腿部の付け根)から大動脈Aに導入され、腹部大動脈瘤である大動脈瘤AAを通り過ぎる位置まで大動脈A中を押し進められる(図4参照)。なお、導入補助システム10の使用方法については、図4を参照して後述する。なお、導入補助システム10及び導入補助器具11は、腹部大動脈瘤だけでなく胸部大動脈瘤にも適用できる。また、導入補助システム10及び導入補助器具11は、大動脈疾患において、大動脈瘤だけでなく大動脈解離、及び、大動脈ステントグラフト留置後にも使用可能である。また、導入補助システム10及び導入補助器具11は、上大静脈又は下大静脈の分枝に対して選択的に医療器具を導入する場合にも適用できる。また、導入補助システム10及び導入補助器具11は、下大静脈から右心房内を経て上大静脈に遠位端11Eを到達させ、右心房を介して心臓内に医療器具を導入する場合にも適用できる。
【0042】
<ガイドワイヤー>
ガイドワイヤー21は、金属製のワイヤーである。ガイドワイヤー21としては、医療用として販売されているワイヤーのうち、直径や硬さなどの仕様が適切なものを選択すればよい。ガイドワイヤー21は、近位端11Pのうち分岐部112から第1通路P1を経て遠位端11Eの先まで挿通されている。図1に示すように、ガイドワイヤー21のうち遠位端11Eから突出した部分は、柔軟であり丸められている。
【0043】
ガイドワイヤー21の先端が柔軟で丸められていることにより、遠位端11Eが大動脈A中を大動脈瘤AAまで押し進められる間、及び、カテーテル22を分枝Bに導入する間、ガイドワイヤー21の先端が血管損傷を生じさせるリスクを低減することができる。また、ガイドワイヤー21の先端が遠位端11Eから突出していることにより、遠位端11Eの先端が血管壁に対して直接接触することを防ぐため、遠位端11Eの先端が血管損傷を生じさせるリスクを低減することができる。
【0044】
<カテーテル>
カテーテル22は、樹脂製のカテーテルである。カテーテル22としては、医療用として販売されているカテーテルのうち、外径や、内径や、硬さや、形状などの仕様が適切なものを選択すればよい。カテーテル22は、近位端11Pのうち固定部114から第2通路P2を経て側孔Hsまで挿通されている。
【0045】
なお、固定部114から側孔Hsに至る第2通路P2には、まずインナーシース115が挿通されている(図1参照)。インナーシース115の先端は、側孔Hsから突出している。そのうえで、カテーテル22は、インナーシース115の内部を挿通されている。図1に示した状態において、インナーシース115の先端は、側孔Hsから突出しており、且つ、カテーテル22の先端は、インナーシース115の先端から突出している。ただし、これらの突出量は、手術を実施するオペレーターが、固定部114から突出しているインナーシース115及びカテーテル22の位置を調整することによって制御することができる。
【0046】
<導入補助器具>
図1及び図2に示すように、導入補助器具11は、アウターシース111と、分岐部112と、継手部113と、固定部114と、インナーシース115と、継手部116と、アウターシースフラッシュポート117と、インナーシースフラッシュポート118と、止血弁119と、止血弁120と、を備えている。
【0047】
分岐部112、継手部113、固定部114、及びインナーシース115は、手術中において患者の血管外に位置し、オペレーターが操作することができる。したがって、分岐部112、継手部113、固定部114、及びインナーシース115のことを導入補助器具11の近位端11Pと称する。
【0048】
(アウターシース)
アウターシース111は、一方の端部から他方の端部に至る貫通孔であって、第1通路P1として機能する貫通孔が形成された樹脂製のチューブである。
【0049】
アウターシース111の典型的な長さは、60cm程度である。本実施形態では、アウターシース111の長さを60cmとし、遠位端11Eの長さL1を5cmとし、アウターシース111から側孔Hsの先端までの長さL2を20cmとし、側孔Hsの長さL3を6cmとし、側孔Hsの先端からアウターシース111の根本までの長さL4を40cmとしている(図1参照)。ただし、アウターシース111における各部の長さL1,L2,L3,L4は、これに限定されない。なお、遠位端11E及び側孔Hsについては、後述する。
【0050】
また、アウターシース111の典型的な外径は、4mm(12フレンチ)程度である。アウターシース111の外径は、これに限定されないものの、大腿動脈から大動脈Aに至る挿入経路の内径を下回る範囲内で当該内径に近い値に設定されていることが好ましい。この構成によれば、バックアップ力を高めることができる。また、大動脈Aの内部において、アウターシース111が大動脈Aの血管壁方向に撓む余地を減らすことができるので、カテーテル22を分枝Bに導入するときに生じる位置ずれを抑制することができる。
【0051】
アウターシース111の外径及び硬度および側孔の位置は、大動脈瘤AA形成されている位置や、患者の大腿動脈から大動脈Aに至る挿入経路の太さなどに応じて、適宜設計することができる。例えば、腹部大動脈瘤用のアウターシース111の場合、アウターシース111の外径を大きく、硬度を高く、且つ長さL2を長く、長さL4を短く(すなわち、図1の状態において側孔Hsの位置をより上側すなわち近位側に)設計してもよい。また、胸部大動脈瘤用のアウターシース111の場合、アウターシース111の外径を小さく、硬度を低く、且つ長さL2を短く、長さL4を長く(すなわち、図1の状態において側孔Hsの位置をより下側すなわち遠位側に)設計してもよい。また、アウターシース111の外径及び硬度は、アウターシース111の全区間を通じて一定であってもよいし、予め定められた区間毎に異なっていてもよい。例えば、後述する遠位端11E及び側孔Hsを含む架橋区間は、高い硬度を有し、アウターシース111の根本から前記架橋区間までの区間は、低い硬度を有する構成を採用してもよい。ここで、架橋区間とは、遠位端11Eを大動脈瘤AAよりも先まで導入した場合に、図4に示す大動脈瘤AAを架橋する区間である。この構成によれば、導入部位(例えば大腿部付け根)から分枝Bまでに存在する途中の血管(例えば腹部大動脈)に与え得るストレスを過剰に増大させることなく、バックアップ力を高めることができる。なお、本実施形態では、アウターシース111の先端から40cmまでの区間を架橋区間と呼ぶ。これは、大動脈瘤AAの長さは最大で10~15cm程度であり、側孔の位置をその上端から下端まで移動させることができ、且つ側孔がいかなる位置にあっても大動脈Aを跨いで上下の5cm程度の大動脈壁への接地部分を確保するためである。ただし、架橋区間の長さは、これに限定されず、長さL2と長さL3との和(本実施形態においては、26cm)を上回る範囲において適宜定めることができる。架橋区間の長さは、例えば、30cmであってもよい。
【0052】
架橋区間の軸方向に沿ってみた場合の形状は、大動脈瘤AAの近傍における大動脈Aの形状に対応していることが好ましい。大動脈瘤AAが腹部大動脈瘤である場合、大動脈瘤AAの近傍における大動脈Aは、直線状に延伸されている場合がおおい。したがって、本実施形態においては、架橋区間の形状として直線状を採用している(図3の(b)~(e)参照)。ただし、架橋区間の形状は、曲線状であってもよい。大動脈瘤AAとして胸部大動脈瘤を想定する場合、大動脈瘤AAの近傍における大動脈Aが曲がっている場合もあるためである。
【0053】
アウターシース111の両端のうち根本(図1に示した状態における上側の端部)は、近位端11Pの一部を構成する分岐部112に接続されている。また、アウターシース111の両端のうち先端(図1に示した状態における下側の端部)は、何にも接続されていない自由端である。
【0054】
アウターシース111の先端を含む一部区間は、手術中において患者の血管内に導入される。アウターシース111の先端から所定の長さL1の区間は、先細りのテーパー形状に成型されている(図3の(b)参照)。以下においては、テーパー形状に成型されている区間を遠位端11Eと称する。遠位端11Eの長さL1は、適宜定めることができるが、一例として5cmである。アウターシース111における遠位端11E及びその近傍の形状は、ダイレーターの形状に近い。
【0055】
以上のように、第1通路P1は、導入補助器具11の近位端11Pから遠位端11Eに至るように形成されている。第1通路P1の直径は、ガイドワイヤー21の直径を上回っていればよく、特に限定されない。遠位端11Eが大動脈Aに導入された場合に、大動脈Aから第1通路P1へ流入する血液の量を抑制するためには、第1通路P1の直径は、ガイドワイヤー21の直径を上回る範囲内で小さいほうが好ましい。
【0056】
また、アウターシース111には、第1通路P1として機能する貫通孔とは別の貫通孔であって、第2通路P2として機能する貫通孔が形成されている。すなわち、アウターシース111は、2孔式のチューブである。第2通路P2として機能する貫通孔は、近位端11Pに接続されている根本から側孔Hsに至るように形成されている。側孔Hsは、アウターシース111の側壁に設けられた開口であり、第2通路P2と連通している(図2の(b)及び図3の(b)参照)。
【0057】
第2通路P2の直径は、後述するインナーシース115の直径を上回っていればよく、特に限定されない。遠位端11Eが大動脈Aに導入された場合に、大動脈Aから第2通路P2へ流入する血液の量を抑制するためには、第2通路P2の直径は、インナーシース115の直径を上回る範囲内で小さいほうが好ましい。また、図3には図示を省略しているものの、側孔Hsには、血管の一例である大動脈Aから第2通路P2への血液の流入を抑制する逆止弁が設けることもできる。
【0058】
側孔Hsが設けられている位置は、架橋区間のうち遠位端11Eを除いた区間において適宜定めることができる。すなわち、図1及び図3の(b)に示すように、長さL2は、長さL1(本実施形態では、5cm)を上回り、直線状の形態を呈する大動脈の部分(胸部下行大動脈~腹部大動脈、大動脈A)の全長(凡そ40cm)を下回る区間内において適宜定めることができる。また、成人の大動脈Aを想定した場合、長さL2は、5cm以上25cm以下であることが好ましい。本実施形態では、長さL2の一例として、20cmを採用している。
【0059】
また、図3の(b)~(e)に示すように、側孔Hsにおいて、遠位端11E側を構成する内壁がなだらかなスロープを形成する。この構成によれば、インナーシース115を第2通路P2に容易に挿通させることができる。また、図4の(a)に示すように、インナーシース115の曲げ角が小さい方向にもカテーテル22を導くことができる。インナーシース115の曲げ角については、後述する。
【0060】
また、インナーシース115には、側孔Hsのから突出した部分の曲げ角を変化させるための機械的な機構が設けられていてもよい。この機構は、曲げ角調整機構として機能する。このような機構は、すでに市場に出回っているので、アウターシース111に適用可能である。この構成によれば、オペレーターは、曲げ角調整機構を調整することにより、カテーテル22の方向を分枝Bの方向に一致させることができる。
【0061】
なお、本実施形態においては、アウターシース111の根本の近傍に、目盛りSC1を付している(図2の(a)参照)。アウターシース111の根本は、手術中において患者の血管外に位置する区間であり、オペレーターが手術中にも目視することができる区間である。
【0062】
目盛りSC1は、アウターシース111の中心軸の軸回りにおける側孔Hsが設けられている方位を示す。目盛りSC1は、例えば、側孔Hsが設けられている方位を基準方位として、30度毎に付された12個の目盛りにより構成することができる。また、目盛りSC1は、例えば、側孔Hsが設けられている方位を基準方位として、90度毎に付された目盛りにより構成することもできる。また、目盛りの代わりに文字(例えば、前後左右を表すA,L,R,P)などのオブジェクトを目印として用いることもできる。
【0063】
(分岐部)
図2の(a)に示すように、分岐部112は、近位端11Pのうちアウターシース111に接続される部分を構成し、先端側から手元側に向かって径が拡大する円錐台形状の部材である。本実施形態において、分岐部112は、アウターシース111よりも高い剛性を有する樹脂製である。図2の(a)に示した状態において、円錐台形状である分岐部112の一対の底面のうち、先端側の底面(面積が狭い底面)にアウターシース111の根本が接続されている。以下においては、上述した一対の底面のうち、先端側の底面(面積が狭い底面)を第1底面と呼び、手元側の底面(面積が広い底面)を第2底面と呼ぶ。
【0064】
アウターシース111と同様に、分岐部112の内部には第1通路P1と第2通路P2とが形成されている。分岐部112の第1底面において、第1通路P1と第2通路P2とは、アウターシース111における場合と同様に近接している。
【0065】
分岐部112は、アウターシース111において並走している第1通路P1と第2通路P2とを、互いに独立した別個の接続ポートに分岐するように構成されている。したがって、第1通路P1と第2通路P2との間隔は、分岐部112の第1底面から第2底面へ近づくにしたがって広がる。
【0066】
(第2経路側の継手部)
図2の(a)に示すように、継手部113は、分岐部112における第2通路P2の接続ポートに接続された筒状部材である。本実施形態において、継手部113は、樹脂製である。継手部113の内部には、第2通路P2が形成されている。本実施形態においては、継手部113の側面には第2通路Pに連通するアウターシースフラッシュポート117と活栓とを接続可能な接続機構が設けられている。分岐部112にアウターシースフラッシュポート117が設けられていることにより、第2通路P2をフラッシュ(ヘパリン加生理食塩水を注入)することができる。
【0067】
なお、継手部113の長さは、適宜定めることができる。また、継手部113は、省略することもできる。継手部113を省略する場合、分岐部112の接続ポートには、後述する固定部114を接続すればよい。
【0068】
(固定部)
図2の(a)に示すように、固定部114は、継手部113の両端のうち分岐部112とは逆側の端部(手元側の端部)に接続されている。固定部114の内部には第2通路P2が形成されている。そのうえで、固定部114は、第2通路P2を挿通しているインナーシース115との間に生じる摩擦力をオン又はオフに切り替えることができる。上述した継手部113と固定部114とは、第2通路P2における導入ポートである。
【0069】
インナーシース115の位置は、当該摩擦力がオンである状態において固定部114に対して固定され、当該摩擦力がオフである状態において固定部114に対して開放される。固定部114において上述した摩擦力を切り替える機構は、プッシュ式であってもよいし、回転式であってもよい。このように構成された固定部114は、近位端11Pの一部に設けられた固定機構であって、第2通路P2におけるインナーシース115の位置の固定及び開放を切り替える固定機構の一例である。
【0070】
また、本実施形態においては、固定部114の内部には、第2通路P2から固定部114の外部へ血液が漏れ出すことを抑制する止血弁が設けられている。このように、固定部114は、固定機構の一例であり、近位端11Pの一部に設けられた第1止血弁であって、大動脈Aから第2通路P2へ流入した血液を止血する第1止血弁の一例でもある。なお、本実施形態では、固定部114として固定機構と第1止血弁とが一体化されている。ただし、固定機構と、第1止血弁とは、継手部113の手手元側の端部に別個に設けられていてもよい。
【0071】
また、固定部114は、継手部113の両端のうち分岐部112とは逆側の端部と一体に成型されていてもよい。
【0072】
(インナーシース)
インナーシース115は、一方の端部から他方の端部に至る貫通孔が形成された樹脂製のチューブである。インナーシース115は、可撓性を有する樹脂製である。インナーシース115の硬度は、アウターシース111の硬度を下回る範囲内において適宜定めることができる。インナーシース115は、近位端11Pに設けられた導入ポートである継手部113及び固定部114から第2通路P2に導入されたインナーチューブの一例である。
【0073】
本実施形態において、インナーシース115の手元側の端部には、継手部が設けられている(図2の(a)参照)。この継手部の内部には、インナーシース115の貫通孔に連通する通路が形成されている。本実施形態においては、この継手部の側面には上述した貫通孔に連通するインナーシースフラッシュポート118と活栓とを接続可能な接続機構が設けられている。この分岐部にインナーシースフラッシュポート118が設けられていることにより、インナーシース115の貫通孔をフラッシュすることができる。
【0074】
また、上述した継手部の手元側の端部には、止血弁119が接続されている。止血弁119は、インナーシース115の近位端に設けられた第2止血弁であって、大動脈Aからインナーシース115に流入した血液を止血する第2止血弁の一例である。インナーシース115の手元側の端部に設けられた継手及び止血弁119は、インナーシース115における導入ポートである。
【0075】
図1及び図2の(b)に示した状態において、インナーシース115の先端は、アウターシース111の側壁に設けられた側孔Hsから僅かに突出している。
【0076】
図3の(a)に示すように、インナーシース115の先端の近傍は、第2通路P2に導入されていない状態において、段差が生じないように連続的且つ滑らかに曲げられている。ここで、「インナーシース115が滑らかに曲げられている状態」とは、インナーシース115を図3の(a)に示すように平面視した場合において、インナーシース115の輪郭を表す関数を想定したときに、その関数が連続的微分可能な状態であることを意味する。なお、連続的微分可能とは、ある関数fに導関数f’が存在し、且つ、そのf’が連続関数となることを意味する。図3の(b)においては、インナーシース115の曲げられていない区間における中心軸が延伸されている方向を矢印A1で示し、インナーシース115の先端における中心軸の接線方向であって、インナーシース115の内部から外部へ向かう方向を矢印A2で示している。矢印A1と矢印A2とのなす角をインナーシース115の曲げ角とすると、本実施形態では、曲げ角として180度を採用している。ただし、第2通路P2に導入されていない状態におけるインナーシース115の先端の曲げ角は、これに限定されない。例えば、曲げ角が異なる複数種類のインナーシース115を予め用意しておき、大動脈瘤AAにおける分枝Bの方向に応じて、適切な曲げ角を有するインナーシース115を選択してもよい。
【0077】
一方、インナーシース115を第2通路P2に挿通させ、インナーシース115の先端を側孔Hsから突出させた場合、インナーシース115の曲げ角は、インナーシース115における前記側壁からの突出量を調整することにより制御することができる(図3の(b)~(e)参照)。図3の(b)~(e)の各々は、インナーシース115の曲げ角が、それぞれ、45度、90度、135度、及び180度の場合を示している。図3の(b)~(e)に示すように、インナーシース115の曲げ角は、前記突出量が大きくなればなるほど、180度以下の範囲内において大きくなる。
【0078】
なお、図3の(b)に示した状態において、インナーシース115の先端は、アウターシース111の側壁よりも引っ込んでいるので、この場合における突出量は、負である。このように、突出量は、負であってもよい。
【0079】
なお、インナーシース115の前記突出量は、オペレーターが固定部114に対するインナーシース115の相対位置を調整することにより制御することができる。
【0080】
本実施形態では、インナーシース115のうち、近位端11Pの一部を構成する固定部114から突出する側の一部区間には、目盛りSC2が付されている。目盛りSC2は、インナーシース115の前記突出量に対応する目盛りである。固定部114から突出する部分における目盛りSC2の値と、インナーシース115の曲げ角とを予め対応付けておくことにより、オペレーターは、大動脈瘤AA内における矢印A2の向かう方角を把握することができる。
【0081】
(第1通路側の継手部)
図2の(a)に示す様に、継手部116は、分岐部112における第1通路P1の接続ポートに接続された筒状部材である。本実施形態において、継手部116は、樹脂製である。継手部116の内部には、第1通路P1が形成されている。本実施形態においては、継手部116の両端部のうち分岐部112とは逆側の端部(手元側の端部)には、後述する止血弁120が接続されている。
【0082】
(第1通路における止血弁)
図2の(a)に示す様に、止血弁120は、継手部116の手元側の端部に固定されている。止血弁120の内部には、第1通路P1が形成されている。止血弁120は、近位端11Pの一部に設けられた第3止血弁であって、大動脈Aから第1通路P1へ流入した血液を止血する第3止血弁の一例である。
【0083】
<導入補助器具の第1の変形例>
図1図4に示した導入補助器具11においては、アウターシース111の側壁に1つの側孔Hsが設けられており、且つ、アウターシース111は、近位端11Pから側孔Hsに至る1本の第2通路P2を有する。この側孔Hs及び第2通路P2の各々は、それぞれ、第1側孔及び1本目の第2通路の一例である。
【0084】
ただし、導入補助器具11の第1の変形例においては、アウターシース111は、その側壁に設けられた第2側孔~第n側孔(nは、2以上の整数)と、近位端11Pから第i側孔に至るi本目の第2通路(iは、2≦i≦nの整数)と、を更に有するように構成されていてもよい。これにともない、近位端11Pの一部を構成する分岐部112の内部には、1本の第1通路P1と、n本の第2通路P2とが形成されていればよい。また、n本の第2通路P2の各々における手元側の端部には、それぞれ、図2に示した継手部113、固定部114、及びフラッシュポート117が設けられていればよい。
【0085】
ここで、nは、2以上の整数であればよく、その上限値は、アウターシース111の直径と、第1通路P1の直径と、n本の第2通路P2の各々の直径と、に鑑み、適宜定めることができる。nの例としては、2,3,4,5,6が挙げられる。ただし、nは、7以上であってもよい。なお、アウターシース111の直径は、大腿動脈から大動脈Aに至る挿入経路の内径を下回る範囲内で、適宜設定することができる。
【0086】
アウターシース111の側面において、第1側孔Hs~第n側孔の各々の配置の仕方は、限定されず、適宜定めることができる。例えば、nが2以上6以下である場合、第i側孔Hsの各々は、アウターシース111の中心軸の軸回りにおいて、均等に(できるだけ対称性が高くなるように)配置されていてもよい。すなわち、第i側孔Hsの各々は、中心軸の軸回りにおいて360°/nごとに配置されていてもよい。
【0087】
アウターシース111の横断面(アウターシース111の中心軸に直交する断面)を断面視した場合に、1本の第1通路P1及びn本の第2通路P2の配置の仕方は、限定されず、適宜定めることができる。例えば、nが2以上6以下である場合、第1通路P1をアウターシース111の中心領域(中心軸を含む領域)に配置し、n本の第2通路P2の各々を、アウターシース111の外縁領域(中心領域を取り囲む領域であって、横断面において円環状の領域)に配置することができる。この場合、i本目の第2通路P2(iは、2≦i≦nの整数)は、それぞれ、アウターシース111の中心軸の軸回りにおいて、均等に(できるだけ対称性が高くなるように)配置されることが好ましい。すなわち、i本目の第2通路P2の各々は、中心軸の軸回りにおいて360°/nごとに配置されるのが好ましい。
【0088】
<導入補助器具の第2の変形例>
図1図4に示した導入補助器具11においては、近位端11Pから遠位端11Eの全区間に亘って、第1通路P1と第2通路P2とが独立して設けられている構成が採用されている。ただし、導入補助器具11の第2の変形例においては、近位端11Pから、アウターシース111のうち近位端11P側の一部区間に亘って、第1通路P1と第2通路P2とが一体に設けられている構成を採用することもできる。すなわち、導入補助器具11の一変形例は、近位端11Pから遠位端11Eに至る第1通路と、当該第1通路から分岐したうえでアウターシース111の側壁に設けられた側孔Hsに至る第2通路と、を有するアウターシース111を備えていてもよい。
【0089】
この場合、アウターシース111の根本に接続され、且つ、近位端11Pを構成する分岐部112を単なるコネクターに置き換えればよい。このコネクターにYコネクターを接続することにより、ガイドワイヤー21を挿通させるための導入ポート(第1通路P1の導入ポート)と、インナーシース115を挿通させるための導入ポート(第2通路P2の導入ポート)と、を分離することができる。Yコネクターにおける、第1通路P1の導入ポートの内径、及び、第2通路P2の導入ポートの内径の各々は、それぞれ、ガイドワイヤー21の直径及びインナーシース115の直径に応じて適宜選択又は設計すればよい。
【0090】
また、導入補助器具11の第2の変形例においては、図1図4に示した導入補助器具11のアウターシース111に設けられている側孔Hsを第1側孔として、アウターシース111は、その側壁に設けられた第2側孔~第n側孔(nは、2以上の整数)と、第1通路P1から分岐したうえで第i側孔に至るi本目の第2通路(iは、2≦i≦nの整数)と、を更に有するように構成されていてもよい。なお、アウターシース111の根本に接続されるコネクターは、1本の第1通路P1と、n本の第2通路P2とを有し、これらの各通路を分離できるように構成されていればよい。
【0091】
上述した第1の変形例と同様に、アウターシース111の側面において、第1側孔Hs~第n側孔の各々の配置の仕方は、限定されず、適宜定めることができる。例えば、nが2以上6以下である場合、第i側孔Hsの各々は、アウターシース111の中心軸の軸回りにおいて、均等に(できるだけ対称性が高くなるように)配置されていてもよい。すなわち、第i側孔Hsの各々は、中心軸の軸回りにおいて360°/nごとに配置されていてもよい。
【0092】
また、第1通路P1と、第i側孔Hsの各々と、の間に介在するi本目の第2通路P2の配置の仕方は、限定されず、適宜定めることができる。なお、第2の変形例においても、n本の第2通路P2の各々は、アウターシース111の中心軸の軸回りにおいて、均等に(できるだけ対称性が高くなるように)配置されることが好ましい。
【0093】
また、第1通路P1の導入ポートには、上述した止血弁120が設けられていることが好ましい。また、第2通路P2の導入ポートには、上述した固定部114が設けられていることが好ましい。
【0094】
(固定部)
固定部114は、継手部113の両端のうち分岐部112とは逆側の端部に接続されている。固定部114の内部には第2通路P2が形成されている。そのうえで、固定部114は、第2通路P2を挿通しているインナーシース115との間に生じる摩擦力をオン又はオフに切り替えることができる。
【0095】
インナーシース115の位置は、当該摩擦力がオンである状態において固定部114に対して固定され、当該摩擦力がオフである状態において固定部114に対して開放される。固定部114において上述した摩擦力を切り替える機構は、プッシュ式であってもよいし、回転式であってもよい。このように構成された固定部114は、近位端11Pの一部に設けられた固定機構であって、第2通路P2におけるインナーシース115の位置の固定及び開放を切り替える固定機構の一例である。
【0096】
また、固定部114の内部には、第2通路P2から固定部114の外部へ血液が漏れ出すことを抑制する止血弁が設けられていることが好ましい。
【0097】
〔使用方法〕
導入補助システム10及び導入補助器具11の使用方法について、図1及び図4を参照して説明する。図4の(a)~(c)は、それぞれ、導入補助器具11を用いて大動脈Aの分枝Bにカテーテル22を導入する場合の模式図である。図4の(a)~(c)は、それぞれ、大動脈瘤AAに対する分枝Bの角度が異なる場合を示している。
【0098】
導入補助システムの概要の項に上述したように、本実施形態では、大動脈Aの分枝Bに導入する医療器具としてカテーテル22を用い、カテーテル22を分枝Bに導入する場合を例にして、導入補助システム10及び導入補助器具11について説明する。なお、図4においては、分枝Bに大動脈瘤AAが形成されている状態を模擬的に示している。
【0099】
本使用方法は、第1の導入工程と、方向決定工程と、第2の導入工程と、を含んでいる。
【0100】
第1の導入工程は、導入補助器具11の遠位端11Eを含む架橋区間を大動脈瘤AAに対する所定の位置まで導入する工程である。まず、患者の所定の部位(例えば大腿部の付け根)から、大動脈Aのうち大動脈瘤AAをこえた部分まで、ガイドワイヤー21の先端を導入する。そのうえで、ガイドワイヤー21の手元側の端部からかぶせる形で、導入補助器具11の先端から第1通路P1にガイドワイヤー21を挿通させる。先端が細まった遠位端11Eを用いて大腿動脈壁を押し広げつつ導入補助器具11を大動脈Aに導入し、前記所定の位置まで大動脈A中を押し進める。前記所定の位置は、図4の各図に示すように、遠位端11Eが大動脈瘤AAを通り過ぎた位置である。遠位端11Eが大動脈瘤AAを通り過ぎることにより、架橋区間が大動脈瘤AAを架橋し、側孔Hsが大動脈瘤AA内に位置する。
【0101】
方向決定工程は、側孔Hsからインナーシース115の先端を突出させる工程である。まず、導入補助器具11の第2通路P2にインナーシース115を挿通させ、且つ、インナーシース115の貫通孔にカテーテル22を挿通する。ここで、側孔Hsからのインナーシース115の先端の突出量を調整することにより、図3の(b)に示した矢印A2の方向を分枝Bの方向と一致させる(図4の(a)~(c)参照)。
【0102】
第2の導入工程は、インナーシース115の先端からカテーテル22の先端を突出させることにより、カテーテル22の先端を分枝Bに導入する工程である。第2の導入工程においては、カテーテル22の貫通孔に挿通させたガイドワイヤーを、カテーテル22とともに分枝Bに導入する場合もある。ガイドワイヤー及びカテーテル22を分枝Bに導入する場合、カテーテル22にガイドワイヤーを挿通させ、ガイドワイヤーを分枝Bに挿入したのちにカテーテル22をかぶせて挿入する場合が多い。矢印A2の方向と分枝Bの方向とが一致しておらずカテーテル22の先端を分枝Bに導入できない場合、第2の導入工程においても前記突出量を微調整し、矢印A2の方向を分枝Bの方向と一致させることもできる。
【0103】
特許文献1の導入補助器具(例えば、特許文献1の図3図7参照)と比較して、導入補助器具11は、遠位端11Eを含む区間(特許文献1におけるバックアップ区間)が大動脈瘤AAを架橋した状態において、大動脈Aの血管壁に当接する側壁の長さが長い。そのため、導入補助システム10及び導入補助器具11は、バックアップ力を増強させるために可塑性を低下させ硬性を高めても、当接する血管(例えば腹部大動脈)に与え得るストレスを過剰に増大させることなく、側孔Hsから分枝Bへ医療器具を導入することができる。この効果は、遠位端11Eを含む区間が大動脈瘤AA近傍の大動脈Aの形状に近い形状(すなわち直線状)に成型されており、且つ、アウターシース111の外径が導入経路の血管の内径を下回る範囲内で当該内径に近い値に設定されていることにより得られる。また、側孔の長軸方向の高さや短軸方向の角度を先端が血管に突き当たることがなく、安全に変更可能である。この効果は導入補助器具11が2孔性で第1経路を通過したガイドワイヤーが常に先端を通過している構造により得られる。
【0104】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0105】
10 導入補助システム
11 導入補助器具
11P 近位端
11E 遠位端
111 アウターシース
Hs 側孔
112 分岐部
113 継手部
114 固定部
115 インナーシース
P1 第1通路
P2 第2通路
SC1 目盛り
SC2 目盛り
21 ガイドワイヤー
22 カテーテル
図1
図2
図3
図4