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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053865
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】半導体光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/227 20060101AFI20230406BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
H01S5/227
H01S5/323
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191093
(22)【出願日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2021163083
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301005371
【氏名又は名称】日本ルメンタム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅 一輝
(72)【発明者】
【氏名】中原 宏治
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA26
5F173AB14
5F173AD12
5F173AH14
5F173AP37
5F173AP42
5F173AP47
5F173AR81
(57)【要約】
【課題】埋め込み層42の結晶品質の低下を防止することを目的とする。
【解決手段】半導体光素子は、ストライプ状に延び、活性層28を含む複数層からなる下部メサ構造24と、下部メサ構造24の両側を埋め込んでリン化インジウムからなる埋め込み層42と、ストライプ状に延び、リンを含まない材料から構成された最下層36を含む複数層からなり、最下層36は下部メサ構造24の最上層34から突出する底面を有し、底面が下部メサ構造24および埋め込み層42に接触する上部メサ構造26と、を有する。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストライプ状に延び、活性層を含む複数層からなる下部メサ構造と、
前記下部メサ構造の両側を埋め込んでリン化インジウムからなる埋め込み層と、
ストライプ状に延び、リンを含まない材料から構成された最下層を含む複数層からなり、前記最下層は前記下部メサ構造の最上層から突出する底面を有し、前記底面が前記下部メサ構造および前記埋め込み層に接触する上部メサ構造と、
を有する半導体光素子。
【請求項2】
請求項1に記載された半導体光素子であって、
前記埋め込み層は、前記最下層の前記底面に接触する部分において最も厚みが大きい半導体光素子。
【請求項3】
請求項2に記載された半導体光素子であって、
前記埋め込み層の、前記最下層の前記底面に接触する前記部分が凸部になっている半導体光素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、
前記上部メサ構造の側面および前記埋め込み層の上面を覆う絶縁層をさらに有する半導体光素子。
【請求項5】
請求項4に記載された半導体光素子であって、
前記埋め込み層の一部が、前記下部メサ構造の前記最上層と前記絶縁層との間に介在し、
前記絶縁層は、前記最上層に接触しない半導体光素子。
【請求項6】
請求項4又は5に記載された半導体光素子であって、
前記絶縁層は、前記埋め込み層との接触面を有し、
前記接触面は、前記最下層の前記底面よりも低い位置にある半導体光素子。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、
前記埋め込み層の下地は、リン化インジウムから構成されている半導体光素子。
【請求項8】
請求項7に記載された半導体光素子であって、
前記埋め込み層の前記下地は、基板の上にあるバッファ層である半導体光素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、
前記最下層の材料がInGaAlAs、InAlAs、InGaAsのいずれかである半導体光素子。
【請求項10】
ストライプ状に延びて活性層を含む複数層からなる下部メサ構造を有し、前記下部メサ構造の上でストライプ状に延びて最下層を含む複数層からなる上部メサ構造を有し、前記最下層は、前記下部メサ構造の最上層から突出する底面を有してリンを含まない材料から構成されているメサストライプ構造を形成する工程と、
前記メサストライプ構造を形成した後に、前記下部メサ構造の両側に、結晶成長によって、リン化インジウムからなる埋め込み層を、前記底面に接触するように形成する工程と、
を含む半導体光素子の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載された半導体光素子の製造方法であって、
前記結晶成長は、前記上部メサ構造が前記底面を除いてパターニングマスクで覆われた状態で行われる半導体光素子の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載された半導体光素子の製造方法であって、
前記パターニングマスクは、前記上部メサ構造の側面に沿って前記底面を超えるように突出している半導体光素子の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載された半導体光素子の製造方法であって、
前記パターニングマスクは、前記下部メサ構造の前記最上層から間隔をあけた位置で、前記最上層から離れる方向に突出している半導体光素子の製造方法。
【請求項14】
請求項10から13のいずれか1項に記載された半導体光素子の製造方法であって、
前記メサストライプ構造を形成する工程は、
前記上部メサ構造および前記下部メサ構造になる多層を成膜する工程と、
前記上部メサ構造になる積層および前記下部メサ構造の前記最上層になる層に対して、前記上部メサ構造に対応する領域を残すように、エッチングを行う工程と、
前記下部メサ構造の前記最上層に対するエッチング反応は抑制される一方で、前記下部メサ構造の前記最上層以外の層になる積層に対してエッチングが進行する第1選択エッチングを行う工程と、
前記上部メサ構造の前記最下層に対するエッチング反応は抑制される一方で、前記下部メサ構造の前記最上層になる前記エッチングされた層に対してエッチングが進行する第2選択エッチングを行う工程と、
を含み、
前記第1選択エッチングおよび前記第2選択エッチングは、前記下部メサ構造に対応する領域が残るように行われる半導体光素子の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載された半導体光素子の製造方法であって、
前記第1選択エッチングを行う工程の前に、前記上部メサ構造に対応する前記領域を覆うエッチングマスクを形成する工程をさらに含む半導体光素子の製造方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載された半導体光素子の製造方法であって、
前記多層が成膜される下地および前記最上層になる前記層は、リン化インジウムから構成されており、
前記第2選択エッチングでは、前記多層の前記下地がエッチングされる半導体光素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体光素子において、横方向への電流の拡散を抑制して緩和振動周波数を増大するために、メサストライプ構造の両脇に半導体層からなる埋め込み(BH:Buried Heterostructure)層を設けたBH構造が知られている。また、メサストライプ構造のすべてを埋め込むのではなく、多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)を含む部分のみを埋め込むことでMQWの光閉じ込め係数を大きくする構造も知られている(特許文献1,2及び3)。
【0003】
特許文献2で開示されている半導体光素子は、MQWを含む下部メサ構造と回折格子層等を含む上部メサ構造の2段構造になっている。上部メサ構造が下部メサ構造よりも幅において広いので、上部メサ構造の底面が下部メサ構造から露出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-165133号公報
【特許文献2】特開2018-56212号公報
【特許文献3】特開2021-27310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
埋め込み層の形成にMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を適用すると、基板から結晶が成長する一方で、上部メサ構造の露出している底面からも結晶が成長する。このように異なる方向に成長した結晶の界面では結晶欠陥や空洞が発生することがあり、その結果、埋め込み層の結晶品質が低下し、半導体光素子の信頼性および特性の低下につながることがある。
【0006】
本開示は、埋め込み層の結晶品質の低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
半導体光素子は、ストライプ状に延び、活性層を含む複数層からなる下部メサ構造と、前記下部メサ構造の両側を埋め込んでリン化インジウムからなる埋め込み層と、ストライプ状に延び、リンを含まない材料から構成された最下層を含む複数層からなり、前記最下層は前記下部メサ構造の最上層から突出する底面を有し、前記底面が前記下部メサ構造および前記埋め込み層に接触する上部メサ構造と、を有する。
【0008】
半導体光素子の製造方法は、ストライプ状に延びて活性層を含む複数層からなる下部メサ構造を有し、前記下部メサ構造の上でストライプ状に延びて最下層を含む複数層からなる上部メサ構造を有し、前記最下層は、前記下部メサ構造の最上層から突出する底面を有してリンを含まない材料から構成されているメサストライプ構造を形成する工程と、前記メサストライプ構造を形成した後に、前記下部メサ構造の両側に、結晶成長によって、リン化インジウムからなる埋め込み層を、前記底面に接触するように形成する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係る半導体光素子の平面図である。
図2図1に示す半導体光素子のII-II線断面図である。
図3A】半導体光素子の製造方法を説明する図である。
図3B】半導体光素子の製造方法を説明する図である。
図3C】半導体光素子の製造方法を説明する図である。
図3D】半導体光素子の製造方法を説明する図である。
図3E】半導体光素子の製造方法を説明する図である。
図3F】半導体光素子の製造方法を説明する図である。
図3G】半導体光素子の製造方法を説明する図である。
図4】第2の実施形態に係る半導体光素子の断面図である。
図5】第3の実施形態に係る半導体光素子の平面図である。
図6図5に示す半導体光素子のVI-VI線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を具体的かつ詳細に説明する。全図において同一の符号を付した部材は同一又は同等の機能を有するものであり、その繰り返しの説明を省略する。なお、図形の大きさは倍率に必ずしも一致するものではない。
【0011】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る半導体光素子の平面図である。図2は、図1に示す半導体光素子のII-II線断面図である。半導体光素子は、半導体レーザである。半導体光素子は、上面および下面にそれぞれ上側電極10および下側電極12を有し、これらの間に電圧が印加される(電流が注入される)ようになっている。これにより、メサストライプ構造14の端面から、例えば1.3μm帯又は1.55μm帯で、レーザ光を発振するようになっている。出射側の端面には、誘電体からなる無反射のコーティング膜16が形成されている。逆側の端面には、誘電体からなる高反射のコーティング膜18が形成されている。
【0012】
半導体光素子は、リン化インジウム(InP)からなる基板20を有する。基板20に、InPからなるバッファ層22(下側クラッド層)が積層されている。上側電極10の一部は、バッファ層22の上方に配置されている。そのため、上側電極10とバッファ層22との間には寄生容量が発生する。寄生容量を小さくするには、上側電極10とバッファ層22の距離を大きくすることが考えられる。なお、バッファ層22は省略してもよい。
【0013】
[メサストライプ構造]
半導体光素子は、メサストライプ構造14を有する。上側電極10の少なくとも一部は、メサストライプ構造14の上にある。バッファ層22の一部は、凸部になってメサストライプ構造14に含まれる。言い換えると、バッファ層22は、凸部以外の領域で上面が低くなっている。メサストライプ構造14は、幅が異なる少なくとも2段の積層構造になっている。メサストライプ構造14は、バッファ層22に近い方から順に、下部メサ構造24と、下部メサ構造24よりも幅が広い上部メサ構造26を含む。
【0014】
[下部メサ構造]
下部メサ構造24は、ストライプ状に延びる。下部メサ構造24は、複数層からなる。下部メサ構造24は、バッファ層22に近い方から順に、下側SCH(Separate Confinement Heterostructure)層30、活性層28、上側SCH層32、最上層34が積層されて構成されている。活性層28は、MQWであってもバルクであってもよい。下部メサ構造24の最上層34は、バッファ層22と同じInPからなる。なお、下側SCH層30、活性層28および上側SCH32は、光学特性を担保可能な厚みになっているので、他の目的で厚みを変更することは難しい。
【0015】
直接変調型半導体レーザの3dB帯域は、レーザの緩和振動周波数frによって、1.55frに制限されるため、高速化には緩和振動周波数frの向上が必要である。MQWを活性層28として有する半導体レーザでは、緩和振動周波数fr、1量子井戸当たりの光閉じ込め係数ΓQW、活性層28の幅Wおよび駆動電流Iの間に以下の関係がある。ここで、駆動電流Iは注入電流から閾値電流を引いた電流である。
【0016】
【数1】
【0017】
したがって、活性層28の幅Wを小さくすることは、光閉じ込め係数ΓQW/Wの値を大きくし、緩和振動周波数frを増大し、帯域f3dBを向上させることにつながる。
【0018】
[上部メサ構造]
上部メサ構造26は、ストライプ状に延びる。上部メサ構造26は、複数層からなる。上部メサ構造26の最下層36は、リン(P)を含まない材料(例えばInGaAlAs、InAlAs、InGaAs)から構成される。最下層36は、下部メサ構造24の最上層34から突出する底面を有する。底面は下部メサ構造24に接触する。最下層36より上には、InPからなる上側クラッド層38と、コンタクト層40が設けられている。
【0019】
[埋め込み層]
下部メサ構造24の両側は、埋め込み層42で埋め込まれている。埋め込み層42は、結晶性および応力の観点から、基板20と同じ材料からなることが望ましい。埋め込み層42はInPからなる。埋め込み層42は、p型InP、n型InP、FeやRuをドーパントとする高抵抗型InPであってもよく、あるいはp型InP、n型InPおよび高抵抗型InPからなる群から選択された材料の積層体であってもよい。埋め込み層42の下地(基板20の上にあるバッファ層22)も、InPから構成されている。
【0020】
埋め込み層42は、下部メサ構造24の両側に配置されているが、上部メサ構造26には隣接しない。このような構造では、埋め込み層42で埋め込まれない部分(上部メサ構造26)の幅を、活性層28の幅よりも大きくすると、光閉じ込め係数ΓQW/Wの値が大きくなり、緩和振動周波数frの増大および帯域f3dBの向上につながる。
【0021】
上述したように、バッファ層22は、凸部(メサストライプ構造14の一部)以外の領域で上面が低くなっており、その領域の上では埋め込み層42が厚くなっている。埋め込み層42が半絶縁性であれば、その上にある上側電極10とバッファ層22の距離が大きくなり、寄生容量が小さくなる。
【0022】
上部メサ構造26の最下層36の底面(その端部)が埋め込み層42に接触する。埋め込み層42は、上部メサ構造26の最下層36の底面に接触する部分において、最も厚みが大きくなっている。埋め込み層42の、最下層36の底面に接触する部分は、凸部になっている。
【0023】
例えば、埋め込み層42がFe-InPからなる場合、下側SCH層30または上側SCH32に含まれるドーパントとFeが相互拡散する。これにより、埋め込み層42は、下部メサ構造24に隣接する部分において、実効的に薄い高抵抗層(半絶縁層)となり、寄生容量が増加し得る。したがって、下部メサ構造24のすぐ両側で、埋め込み層42の厚さを他の領域より厚くすることで、寄生容量増加の影響を抑えることができる。これは、下部メサ構造24の最上層34よりも上部メサ構造26の最下層36が幅において大きいことから得られる効果である。
【0024】
[絶縁層]
上部メサ構造26の側面および埋め込み層42の上面が絶縁層44に覆われている。絶縁層44は、例えばSiOからなる。絶縁層44の表面に上側電極10がある。絶縁層44は、上部メサ構造26の上に開口またはスリットを有し、上側電極10は、コンタクト層40と電気的および物理的に接続されている。
【0025】
絶縁層44は、埋め込み層42との接触面を有する。接触面は、上部メサ構造26の最下層36の底面よりも低い位置にある。絶縁層44は、下部メサ構造24の最上層34には接触しない。埋め込み層42の一部が、下部メサ構造24の最上層34と絶縁層44との間に介在する。
【0026】
[半導体光素子の製造方法]
図3A図3Gは、半導体光素子の製造方法を説明する図である。半導体光素子の製造方法は、メサストライプ構造14の形成を含む。メサストライプ構造14の形成は、多層の形成を含む(図3A)。多層の下地であるバッファ層22はInPからなる。バッファ層22を省略した構造であれば、InPからなる基板20が下地となる。多層から、図2に示す上部メサ構造26および下部メサ構造24を形成する。
【0027】
[多層の形成]
多層の成膜は、有機金属気相成長法(MOCVD)を用いて、一括連続して、あるいは複数工程で行う。多層は、下側SCH層30になる層30A、活性層28になる層28A、上側SCH層32になる層32A、下部メサ構造24の最上層34になる層34A、上部メサ構造26の最下層36になる層36A、上側クラッド層38になる層38A、コンタクト層40になる層40Aを含む。下側SCH層30になる層30Aおよび上側SCH層32になる層32Aは、InGaAsP、InGaAlAsまたはInAlAsから形成する。活性層28になる層28Aは、InGaAsPやInGaAlAsなどの4元系で形成する。下部メサ構造24の最上層34になる層34Aは、InPから形成する。上部メサ構造26の最下層36になる層36Aは、リン(P)を含まない材料(例えばInGaAlAs)から形成する。
【0028】
メサストライプ構造14(光軸方向)に沿って、第1被覆膜46を多層の上に形成しておく。ここでは第1被覆膜46はSiOとした。第1被覆膜46は、上部メサ構造26(図2)に対応する領域に形成する。
【0029】
[上部メサ構造の形成]
図3Bに示すように、上部メサ構造26になる積層および下部メサ構造24の最上層34(図2)になる層34Aに対して、エッチングを行う。第1被覆膜46をマスクとするエッチングによって、上部メサ構造26になる積層および下部メサ構造24の最上層34になる層34Aは、上部メサ構造26に対応する領域を残して除去される。これにより、上部メサ構造26が形成される。
【0030】
[エッチングマスクの形成]
図3Cに示すように、先のエッチング終了後に残った第1被覆膜46に第2被覆膜50を重ねる。第2被覆膜50は、上部メサ構造26の上面と側面を覆い、下部メサ構造24の最上層34になる被エッチング層34Bの側面を覆い、下部メサ構造24の二番目層(上側SCH32)になる層32Aの上面を覆う。上部メサ構造26の上面では、第1被覆膜46および第2被覆膜50が重なるので厚くなり、それ以外の領域では第2被覆膜50のみが形成されるので薄くなる。
【0031】
図3Dに示すように、第1被覆膜46および第2被覆膜50をエッチングして、エッチングマスク48を形成する。エッチングマスク48は、上部メサ構造26に対応する領域を覆う。ここではエッチングマスク48はSiOとした。
【0032】
積層された第1被覆膜46および第2被覆膜50に対して、垂直方向に異方性ドライエッチングを行うと、水平面ではエッチングが進行して第2被覆膜50が除去されるが、第1被覆膜46は残る。これにより形成されるエッチングマスク48は、上部メサ構造26の上面と側面を覆い、下部メサ構造24の最上層34になる被エッチング層34Bの側面を覆い、それ以外の領域が露出する。
【0033】
エッチングマスク48は、下部メサ構造24の最上層34になる被エッチング層34Bの側面に隣接する部分では、裾広がり形状(庇形状)になっている。これは、ステッパーや電子線描画装置でパターニングしてから異方性ドライエッチングを行うことで形成可能である。あるいは、第2被覆膜50の膜厚を制御することで形成してもよい。
【0034】
[第1選択エッチング]
図3Eに示すように、エッチングマスク48を介して第1選択エッチング(例えばウェットエッチング)を行う。第1選択エッチングでは、下部メサ構造24の最上層34に対するエッチング反応は抑制される一方で、下部メサ構造24の最上層34以外の層になる積層に対してエッチングが進行する。第1選択エッチングは、下部メサ構造24に対応する領域が残るように行われる。
【0035】
具体的には、下側SCH層30になる層30A、活性層28になる層28Aおよび上側SCH層32になる層32Aを選択的にエッチングする。これにより、下部メサ構造24の最上層34よりも下にある層を、上部メサ構造26より狭い幅に形成することができる。幅は、エッチング時間によって決まる。エッチングされる部分の高さは、エッチング反応が抑制される材料の層(バッファ層22と被エッチング層34B)の間の間隔である。
【0036】
バッファ層22はほとんどエッチングされない。下部メサ構造24の最上層34になる被エッチング層34Bもほとんどエッチングされないので、上部メサ構造26の最下層36もエッチングされない。被エッチング層34Bは、上部メサ構造26の形状に影響を与えないようにする機能を有する。その結果、信頼性および特性に優れた半導体光素子を実現することができる。
【0037】
[第2選択エッチング]
図3Fに示すように、エッチングマスク48を介して第2選択エッチングを行う。第2選択エッチングでは、上部メサ構造26の最下層36に対するエッチング反応は抑制される一方で、下部メサ構造24の最上層34になる被エッチング層34Bに対してエッチングが進行する。第2選択エッチングは、下部メサ構造24に対応する領域が残るように行われる。第2選択エッチングでは、多層の下地がエッチングされる。
【0038】
例えば、InPを選択的にエッチングする水溶液(例えば、塩酸、リン酸、水の混合液)でウェットエッチングを行う。これにより、バッファ層22および下部メサ構造24の最上層34になる被エッチング層34Bをエッチングする。ここで、上部メサ構造26の最下層36が構成元素にリン(P)を含まない材料からなる。そのため、下部メサ構造24の最上層34と上部メサ構造26の最下層36の境界でエッチングが止まり、上部メサ構造26がエッチングされない。以上の工程によって、上部メサ構造26と下部メサ構造24を含むメサストライプ構造14が形成される。
【0039】
[埋め込み層の形成]
図3Gに示すように、メサストライプ構造14を形成した後に、埋め込み層42を、下部メサ構造24の両側に、上部メサ構造26の最下層36の底面に接触するように形成する。その形成は、結晶成長(例えばMOCVD)によって行う。
【0040】
結晶成長は、上部メサ構造26が、底面を除いて、パターニングマスク52で覆われた状態で行われる。ここでは、上述したエッチングマスク48をそのまま残してパターニングマスク52として使用する。パターニングマスク52は、上部メサ構造26の側面に沿って底面を超えるように突出している。パターニングマスク52は、下部メサ構造24の最上層34から間隔をあけた位置で、最上層34から離れる方向に突出している。
【0041】
本実施形態では、バッファ層22の表面からInPが成長する一方で、上部メサ構造26の最下層36が構成元素にリン(P)を含まない材料であるため、その底面からはInPの成長が起こらない。したがって、埋め込み層42には結晶欠陥や空洞が発生せず、これにより優れた信頼性および特性が得られる。なお、下側SCH層30、活性層28および上側SCH層32を構成する元素にリンが含まれていないとしても、結晶面の関係から側面にInPが成長する。
【0042】
本実施形態は、バッファ層22(バッファ層22がなければ基板20)、下部メサ構造24の最上層34および埋め込み層42が同じ材料(InP)であるときに特に有効となる。ここで同じ材料とは、ゲスト材料(例えばドーパント)の違いは含まず、ホスト材料(基本となる材料)が同じことを意味する。
【0043】
[絶縁層の形成およびその後の工程]
パターニングマスク52を除去し、その後に、上部メサ構造26の上面および両側面と、埋め込み層42の上面を覆うように、絶縁層44を形成する(図2)。その後、上部メサ構造26の上面で、絶縁層44の一部を除去し、コンタクト層40の上面を露出させ、蒸着により上側電極10を形成する。上側電極10は、コンタクト層40と電気的および物理的に接続される。また、基板20の下側にも、蒸着により下側電極12を形成する。こうして、半導体光素子が完成する。
【0044】
[第2の実施形態]
図4は、第2の実施形態に係る半導体光素子の断面図である。半導体光素子は、DFB(Distributed Feedback)レーザ、DBR(Distributed Bragg Reflector)レーザおよびDR(Distributed Reflector)レーザのいずれであってもよい。p型InPで構成された基板220上に、p型InPバッファ層222が積層されている。
【0045】
下部メサ構造224は、p型の下側SCH層230と、アンドープの歪InGaAlAsからなるMQWである活性層228と、n型の上側SCH層232と、n型のInP下部メサ構造224の最上層234が積層されて構成されている。
【0046】
上部メサ構造226は、下部メサ構造224に近い方から順に、最下層236と、n型InP層からなる第1層間半導体層254と、n型InGaAsPからなる回折格子層256と、n型InP層からなる第2層間半導体層258と、n型InGaAsPからなる調整半導体層260と、n型InPからなる上側クラッド層238と、n型コンタクト層240が積層されて構成されている。なお、p型とn型は逆であってもよい。上側電極210は、コンタクト層240に接する側から、Ti/Pt/Auの3層構造になっている。下側電極212はAuZn系の材料で構成されている。
【0047】
第1の実施形態と同様に、上部メサ構造226の最下層236は、構成元素にリン(P)を含まない材料で形成されており、第1の実施形態で説明したプロセスで、結晶性に優れた埋め込み層242を形成することができる。
【0048】
本実施形態は、上部メサ構造226に回折格子が含まれている点で、第1の実施形態と相違する。第1層間半導体層254、回折格子層256および第2層間半導体層258は、フローティング型の回折格子を形成するために設けられている。回折格子層256は、周期的な回折格子を有し、例えば、紙面に垂直な方向にλ/4シフト構造が導入されている。
【0049】
半導体光素子は、下部メサ構造224の幅を狭くすることで活性層228におけるΓQW/Wの増大による緩和振動周波数frの向上効果を達成している。しかし半導体光素子はレーザ素子でもあり、レーザの特性において回折格子の結合係数κの値は他の特性の観点においても重要なパラメータである。例えば、結合係数κは戻り光耐力やサイドモード抑圧比などに影響を与える。
【0050】
調整半導体層260は、回折格子の結合係数κを増大させるために設けられた層である。調整半導体層260は、上側クラッド層238より高い屈折率を持つ材料で構成されており、調整半導体層260を備えることでκを調整することが可能となっている。その他の構成は、第1の実施形態の半導体光素子と同じ構成である。
【0051】
[第3の実施形態]
図5は、第3の実施形態に係る半導体光素子の平面図である。図6は、図5に示す半導体光素子のVI-VI線断面図である。半導体光素子は、半導体レーザ362と電界吸収型光変調器364を集積したEA-DFBレーザ(Distributed Feedback Laser Integrated with Electro-absorption Modulator)である。
【0052】
n型InPで構成された基板320上に、n型InPバッファ層322が積層されている。下部メサ構造324は、n型の下側SCH層330と、アンドープの歪InGaAlAsからなるMQWである吸収層328と、p型の上側SCH層332と、p型のInPからなる下部メサ構造324の最上層334が積層されて構成されている。上部メサ構造326は、下部メサ構造324に近い方から順に、最下層336と、p型InPからなる上側クラッド層338と、p型コンタクト層340が積層されて構成されている。なお、p型とn型は逆であってもよい。
【0053】
半導体レーザ362の上側電極310の他に、電界吸収型光変調器364の上側電極366がある。下側電極312は、半導体レーザ362および電界吸収型光変調器364に共通の電極であっても構わないし、別々の電極であってもよい。基板320の下面には、下側電極312が形成されている。
【0054】
半導体光素子は、半導体レーザ362と電界吸収型光変調器364の両方に跨るメサストライプ構造314を備えている。半導体レーザ362と電界吸収型光変調器364との間には、バルクの導波路構造がある。あるいは、バルクの導波路構造を含まず、半導体レーザ362と電界吸収型光変調器364を直接接続した構造であっても構わない。メサストライプ構造314は2段で構成されている。半導体レーザ362のメサストライプ構造314は例えば、第2の実施形態で説明した半導体光素子と同じ構造である。
【0055】
電界吸収型光変調器364において、下部メサ構造324が埋め込み層342で挟まれる。吸収層328の幅を狭くすることで吸収層328の単位体積当たりの電界強度を強めることができ、低電圧駆動の面で有利となる。しかし、上部メサ構造326の幅を狭くすると、抵抗が大きくなる。そこで、上部メサ構造326を下部メサ構造324より広くすることで抵抗の増大を抑えつつ、吸収層328の電界強度を大きくすることができている。
【0056】
本実施形態でも、上部メサ構造326の最下層336は、構成元素にリン(P)を含まない材料(例えばInGaAlAs)で構成されており、第1の実施形態で説明したプロセスで、結晶性に優れた埋め込み層342を形成することができる。
【0057】
[実施形態の概要]
(1)ストライプ状に延び、活性層28または吸収層328を含む複数層からなる下部メサ構造24と、前記下部メサ構造24の両側を埋め込んでリン化インジウムからなる埋め込み層42と、ストライプ状に延び、リンを含まない材料から構成された最下層36を含む複数層からなり、前記最下層36は前記下部メサ構造24の最上層34から突出する底面を有し、前記底面が前記下部メサ構造24および前記埋め込み層42に接触する上部メサ構造26と、を有する半導体光素子。
【0058】
上部メサ構造26の最下層36がリンを含まない材料から構成されるので、その底面からリン化インジウムの結晶が成長しにくい。そのため、リン化インジウムからなる埋め込み層42の結晶品質の低下を防止することができる。
【0059】
(2)(1)に記載された半導体光素子であって、前記埋め込み層42は、前記最下層36の前記底面に接触する部分において最も厚みが大きい半導体光素子。
【0060】
(3)(2)に記載された半導体光素子であって、前記埋め込み層42の、前記最下層36の前記底面に接触する前記部分が凸部になっている半導体光素子。
【0061】
(4)(1)から(3)のいずれか1つに記載された半導体光素子であって、前記上部メサ構造26の側面および前記埋め込み層42の上面を覆う絶縁層44をさらに有する半導体光素子。
【0062】
(5)(4)に記載された半導体光素子であって、前記埋め込み層42の一部が、前記下部メサ構造24の前記最上層34と前記絶縁層44との間に介在し、前記絶縁層44は、前記最上層34に接触しない半導体光素子。
【0063】
(6)(4)又は(5)に記載された半導体光素子であって、前記絶縁層44は、前記埋め込み層42との接触面を有し、前記接触面は、前記最下層36の前記底面よりも低い位置にある半導体光素子。
【0064】
(7)(1)から(6)のいずれか1つに記載された半導体光素子であって、前記埋め込み層42の下地は、リン化インジウムから構成されている半導体光素子。
【0065】
(8)(7)に記載された半導体光素子であって、前記埋め込み層42の前記下地は、基板20の上にあるバッファ層22である半導体光素子。
【0066】
(9)(1)乃至(8)のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、前記最下層36の材料がInGaAlAs、InAlAs、InGaAsのいずれかである半導体光素子。
【0067】
(10)ストライプ状に延びて活性層28または吸収層328を含む複数層からなる下部メサ構造24を有し、前記下部メサ構造24の上でストライプ状に延びて最下層36を含む複数層からなる上部メサ構造26を有し、前記最下層36は、前記下部メサ構造24の最上層34から突出する底面を有してリンを含まない材料から構成されているメサストライプ構造14を形成する工程と、前記メサストライプ構造14を形成した後に、前記下部メサ構造24の両側に、結晶成長によって、リン化インジウムからなる埋め込み層42を、前記底面に接触するように形成する工程と、を含む半導体光素子の製造方法。
【0068】
上部メサ構造26の最下層36がリンを含まない材料から構成されるので、その底面からリン化インジウムの結晶が成長しにくい。そのため、リン化インジウムからなる埋め込み層42の結晶品質の低下を防止することができる。
【0069】
(11)(10)に記載された半導体光素子の製造方法であって、前記結晶成長は、前記上部メサ構造26が前記底面を除いてパターニングマスク52で覆われた状態で行われる半導体光素子の製造方法。
【0070】
(12)(11)に記載された半導体光素子の製造方法であって、前記パターニングマスク52は、前記上部メサ構造26の側面に沿って前記底面を超えるように突出している半導体光素子の製造方法。
【0071】
(13)(12)に記載された半導体光素子の製造方法であって、前記パターニングマスク52は、前記下部メサ構造24の前記最上層34から間隔をあけた位置で、前記最上層34から離れる方向に突出している半導体光素子の製造方法。
【0072】
(14)(10)から(13)のいずれか1つに記載された半導体光素子の製造方法であって、前記メサストライプ構造14を形成する工程は、前記上部メサ構造26および前記下部メサ構造24になる多層を成膜する工程と、前記上部メサ構造26になる積層および前記下部メサ構造24の前記最上層34になる層34Aに対して、前記上部メサ構造26に対応する領域を残すように、エッチングを行う工程と、前記下部メサ構造24の前記最上層34に対するエッチング反応は抑制される一方で、前記下部メサ構造24の前記最上層34以外の層になる積層に対してエッチングが進行する第1選択エッチングを行う工程と、前記上部メサ構造26の前記最下層36に対するエッチング反応は抑制される一方で、前記下部メサ構造24の前記最上層34になる前記被エッチング層34Bに対してエッチングが進行する第2選択エッチングを行う工程と、を含み、前記第1選択エッチングおよび前記第2選択エッチングは、前記下部メサ構造24に対応する領域が残るように行われる半導体光素子の製造方法。
【0073】
(15)(14)に記載された半導体光素子の製造方法であって、前記第1選択エッチングを行う工程の前に、前記上部メサ構造26に対応する前記領域を覆うエッチングマスク48を形成する工程をさらに含む半導体光素子の製造方法。
【0074】
(16)(14)又は(15)に記載された半導体光素子の製造方法であって、前記多層が成膜される下地および前記最上層34になる前記層34Aは、リン化インジウムから構成されており、前記第2選択エッチングでは、前記多層の前記下地がエッチングされる半導体光素子の製造方法。
【0075】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、実施形態を説明した構成は、実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えることができる。
【符号の説明】
【0076】
10 上側電極、12 下側電極、14 メサストライプ構造、16 コーティング膜、18 コーティング膜、20 基板、22 バッファ層、24 下部メサ構造、26 上部メサ構造、28 活性層、30 下側SCH層、32 上側SCH層、34 最上層、34B 被エッチング層、36 最下層、38 上側クラッド層、40 コンタクト層、42 埋め込み層、44 絶縁層、46 第1被覆膜、48 エッチングマスク、50 第2被覆膜、52 パターニングマスク、210 上側電極、212 下側電極、220 基板、222 バッファ層、224 下部メサ構造、226 上部メサ構造、228 活性層、230 下側SCH層、232 上側SCH層、234 最上層、236 最下層、238 上側クラッド層、240 コンタクト層、242 埋め込み層、254 第1層間半導体層、256 回折格子層、258 第2層間半導体層、260 調整半導体層、310 上側電極、312 下側電極、314 メサストライプ構造、320 基板、322 バッファ層、324 下部メサ構造、326 上部メサ構造、328 吸収層、330 下側SCH層、332 上側SCH層、334 最上層、336 最下層、338 上側クラッド層、340 コンタクト層、342 埋め込み層、362 半導体レーザ、364 電界吸収型光変調器、366 上側電極。

図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4
図5
図6