(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053902
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】水系分散液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/00 20060101AFI20230406BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20230406BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230406BHJP
B22F 1/0545 20220101ALI20230406BHJP
【FI】
B22F9/00 B
B22F9/24 F
B22F1/00 K
B22F1/0545
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144794
(22)【出願日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2021162863
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉 楠
(72)【発明者】
【氏名】草刈 剛
(72)【発明者】
【氏名】岸田 透
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017AA08
4K017BA02
4K017CA08
4K017EJ01
4K017FB01
4K017FB07
4K018BA01
4K018BB05
4K018BD04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】長期間保存しても凝集が生じにくく、分散性に優れる水系分散液及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、水系媒体と、少なくとも1種の金属粒子と、銀粒子とを含む水系分散液であって、前記水系媒体に対する前記金属粒子の含有割合が0.1~10000質量ppmであり、前記水系媒体に対する前記銀粒子の含有割合が30質量ppm未満であり、下記式(1)
D=│(D6W―D0)│/D0・・(1)
(ここで、式(1)中、D6Wは下記貯蔵条件Aで得られた水系分散液のDLS測定値(nm)、D0は下記貯蔵条件Aで貯蔵する直前の水系分散液のDLS測定値(nm)を示す)
で表されるDの値が3.0以下である、水系分散液。
<貯蔵条件A>
水系分散液100mLを110mL容量の容器に空気雰囲気で密封し、当該容器を40℃で一定に保持した恒温槽に静置させて6週間貯蔵する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系媒体と、少なくとも1種の金属粒子と、銀粒子とを含む水系分散液であって、
前記水系媒体に対する前記金属粒子の含有割合が0.1~10000質量ppmであり、前記水系媒体に対する前記銀粒子の含有割合が30質量ppm未満であり、
下記式(1)
D=│(D6W―D0)│/D0 (1)
(ここで、式(1)中、D6Wは下記貯蔵条件Aで得られた水系分散液のDLS測定値(nm)、D0は下記貯蔵条件Aで貯蔵する直前の水系分散液のDLS測定値(nm)を示す)
で表されるDの値が3.0以下である、水系分散液。
<貯蔵条件A>
水系分散液100mLを110mL容量の容器に空気雰囲気で密封し、当該容器を40℃で一定に保持した恒温槽に静置させて6週間貯蔵する。
【請求項2】
前記少なくとも1種の金属粒子が白金粒子である、請求項1に記載の水系分散液。
【請求項3】
前記金属粒子の平均一次粒子径が0.1~1000nmであり、前記銀粒子の平均一次粒子径が0.1~1000nmである、請求項1に記載の水系分散液。
【請求項4】
前記金属粒子100質量部あたり、前記銀粒子が0.1質量部以上、50質量部以下含まれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の水系分散液。
【請求項5】
水系分散液の製造方法であって、
前記水系分散液は、水系媒体と、少なくとも1種の金属粒子と、銀粒子とを含み、前記水系媒体に対する前記金属粒子の含有割合が0.1~10000質量ppmであり、
下記の工程1
工程1:前記水系媒体に対する前記銀粒子の含有割合を30質量ppm未満に調節する工程、
を備える、水系分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系分散液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子の分散液は、バルク金属には無い特異な性質を有することから、電子材料分野、磁性材料分野、触媒材料分野等の種々の分野に広く利用されている。その他、金属ナノ粒子の分散液は、その金属の選択によっては抗菌作用、抗ウイルス作用、消臭作用等の機能を発揮することもできることから、極めて有用な材料である(例えば、特許文献1等を参照)。
【0003】
斯かる金属ナノ粒子の分散液は、金属ナノ粒子の性質上、凝集等が生じやすいという問題があることから、分散性を向上させた金属ナノ粒子の分散液の製造が望まれている。この観点から、安定な分散性を有する金属ナノ粒子分散液の製造技術の検討も広く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属ナノ粒子の分散液の分散性を高める手段としては、分散安定剤を添加する方法、金属粒子の表面処理をすることで凝集を防止させる方法などが知られている。しかしながら、分散安定剤を添加する方法であっても金属ナノ粒子の分散性を安定化させることは難しく、時間の経過と共に安定性が低下するといった問題があり、また、過度の分散安定剤の添加によって金属ナノ粒子が発揮できる効果が阻害されることもある。金属粒子の表面処理をする方法では、表面処理を行うための工程が別途必要となり、製造工程が煩雑化しやすいという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、長期間保存しても凝集が生じにくく、分散性に優れる水系分散液及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、少なくとも1種の金属粒子と銀粒子とを所定の割合で含むようにすることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
水系媒体と、少なくとも1種の金属粒子と、銀粒子とを含む水系分散液であって、
前記水系媒体に対する前記金属粒子の含有割合が0.1~10000質量ppmであり、前記水系媒体に対する前記銀粒子の含有割合が30質量ppm未満であり、
下記式(1)
D=│(D6W―D0)│/D0 (1)
(ここで、式(1)中、D6Wは下記貯蔵条件Aで得られた水系分散液のDLS測定値(nm)、D0は下記貯蔵条件Aで貯蔵する直前の水系分散液のDLS測定値(nm)を示す)
で表されるDの値が3.0以下である、水系分散液。
<貯蔵条件A>
水系分散液100mLを110mL容量の容器に空気雰囲気で密封し、当該容器を40℃で一定に保持した恒温槽に静置させて6週間貯蔵する。
項2
前記少なくとも1種の金属粒子が白金粒子である、項1に記載の水系分散液。
項3
前記金属粒子の平均一次粒子径が0.1~1000nmであり、前記銀粒子の平均一次粒子径が0.1~1000nmである、項1又は2に記載の水系分散液。
項4
前記金属粒子100質量部あたり、前記銀粒子が0.1質量部以上、50質量部以下含まれる、項1~3のいずれか1項に記載の水系分散液。
項5
水系分散液の製造方法であって、
前記水系分散液は、水系媒体と、少なくとも1種の金属粒子と、銀粒子とを含み、前記水系媒体に対する前記金属粒子の含有割合が0.1~10000質量ppmであり、
下記の工程1
工程1:前記水系媒体に対する前記銀粒子の含有割合を30質量ppm未満に調節する工程、
を備える、水系分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水系分散液は、長期間保存しても凝集が生じにくく、分散性に優れる。また、本発明の水系分散液及びその製造方法によれば、長期間保存しても凝集が生じにくく、分散性に優れる水系分散液を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
1.水系分散液
本発明の水系分散液は、水系媒体と、少なくとも1種の金属粒子と、銀粒子とを含み、前記水系媒体に対する前記金属粒子の含有割合が0.1~10000質量ppmであり、前記水系媒体に対する前記銀粒子の含有割合が30質量ppm未満であり、
下記式(1)
D=│(D6W―D0)│/D0 (1)
(ここで、式(1)中、D6Wは下記貯蔵条件Aで得られた水系分散液のDLS測定値(nm)、D0は下記貯蔵条件Aで貯蔵する直前の水系分散液のDLS測定値(nm)を示す)
で表されるDの値が3.0以下である。
貯蔵条件Aは以下に示すとおりである。
<貯蔵条件A>
水系分散液100mLを110mL容量の容器に空気雰囲気で密封し、当該容器を40℃で一定に保持した恒温槽に静置させて6週間貯蔵する。
【0012】
本発明の水系分散液は、長期間保存しても凝集が生じにくく、分散性に優れる。
【0013】
水系媒体は特に限定されず、例えば、水、炭素数1~3等の低級アルコール、あるいは、これらの混合溶媒が挙げられる。水は、蒸留水、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水、電解水などの各種の水を用いることができる。分散安定性がより良好になりやすいという観点から、水系媒体は、水を90質量%以上含むことができ、99質量%以上含むことが特に好ましい。水系媒体は、水のみであってもよい。
【0014】
前記金属粒子において、金属の種類は銀以外である限り、特に限定されない。例えば、前記金属粒子において、金属の種類として、白金、金、銅等を挙げることができる。前記金属粒子は、通常は、金属元素単体で形成されるが、金属の酸化物等の金属化合物であってもよい。前記金属粒子は、合金が含まれていてもよい。
【0015】
本発明の水系分散液の分散安定性が向上しやすい点で、前記金属粒子は、白金粒子であることが好ましい。すなわち、本発明の水系分散液は、少なく白金粒子を含むことが好ましい。本発明の水系分散液に含まれる金属粒子は1種のみでもよいし、異なる2種以上であってもよい。
【0016】
銀粒子は、銀(Ag)を構成成分とする粒子であって、通常は、銀元素単体で形成されるが、銀の酸化物等の銀化合物が含まれていてもよい。銀粒子は、銀と他の金属元素との合金が含まれていてもよい。
【0017】
本発明の水系分散液は、分散安定性が向上しやすい点で、白金粒子及び銀粒子を含むことが特に好ましい。また、水系分散液が白金粒子及び銀粒子を含む場合は、例えば、微生物防除作用、抗菌作用、抗ウイルス作用、消臭作用等の機能を発揮することができる。
【0018】
本発明の水系分散液が白金粒子及び銀粒子を含む場合は他の金属粒子が含まれていてもよいし、他の金属粒子が含まれていなくてもよい。他の金属粒子が含まれている場合、その含有割合は特に限定されず、白金粒子及び銀粒子の全量に対して、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0019】
前記金属粒子の平均一次粒子径は特に限定されず、例えば、0.1~1000nmであり、また、前記銀粒子の平均一次粒子径は特に限定されず、例えば、0.1~1000nmである。ここでいう平均一次粒子径は、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)で測定された値をいう。前記金属粒子及び前記銀粒子の平均一次粒子径は、1~800nmであることが好ましく、5~500nmであることがより好ましい。前記金属粒子と銀粒子との平均一次粒子径は互いに異なっていてもよく、また、好ましい平均一次粒子径の範囲も異なっていてもよい。
【0020】
本発明の水系分散液において、前記金属粒子と銀粒子との含有割合は特に限定されない。例えば、本発明の水系分散液は、前記金属粒子100質量部あたり、前記銀粒子が0.1質量部以上、50質量部以下含まれることが好ましい。この場合、本発明の水系分散液は、長期間保存しても粒子の凝集が発生しにくく、分散安定性に優れるものとなる。
【0021】
本発明の水系分散液は、前記金属粒子100質量部あたり、前記銀粒子が1質量部以上含まれることがより好ましく、2質量部以上含まれることがさらに好ましく、3質量部以上含まれることが特に好ましい。また、本発明の水系分散液は、前記金属粒子100質量部あたり、前記銀粒子が50質量部未満含まれることがより好ましく、30質量部以下含まれることがさらに好ましく、20質量部以下含まれることがよりさらに好ましく、10質量部以下含まれることが特に好ましい。
【0022】
本発明の水系分散液は、前記水系媒体に対する前記金属粒子の含有割合が0.1~10000質量ppmであり、前記水系媒体に対する前記銀粒子の含有割合が30質量ppm未満である。これにより、本発明の水系分散液は、長期間保存しても粒子の凝集が発生しにくく、分散安定性に優れるものとなる。
【0023】
水系媒体に対する金属粒子の含有割合が10000質量ppmを超えると、金属粒子の凝集が発生し、水系分散液の分散安定性が悪化する。また、水系媒体に対する銀粒子の含有割合が30質量ppm以上になると、銀粒子の凝集が発生し、水系分散液の分散安定性が悪化する。水系媒体に対する金属粒子の含有割合が0.1~10000質量ppmであり、かつ、水系媒体に対する銀粒子の含有割合が30質量ppm未満であることで初めて水系分散液は、長期間保存しても粒子の凝集が発生しにくく、分散安定性に優れるものとなる。特に、金属粒子が白金粒子である場合、すなわち、本発明の水系分散液に含まれる粒子が所定量範囲の白金粒子及び銀粒子の組み合わせである場合、特に顕著に分散安定性が向上する。
【0024】
本発明の水系分散液は、水系媒体に対する金属粒子及び銀粒子の含有割合がいずれも0.1質量ppmを下回る場合、水系分散液の機能が発揮されにくくなり、特に金属粒子が白金粒子である場合は、前述の微生物防除作用、抗菌作用、抗ウイルス作用、消臭作用等の機能を発揮しにくい。
【0025】
水系媒体に対する金属粒子の含有割合は、0.1質量ppm以上であることが好ましく、1質量ppm以上であることがより好ましく、5質量ppm以上であることがさらに好ましく、10質量ppm以上であることが特に好ましく、また、10000質量ppm以下であることが好ましく、1000質量ppm以下であることがより好ましく、500質量ppm以下であることがさらに好ましく、200質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0026】
水系媒体に対する銀粒子の含有割合は、0.1質量ppm以上であることが好ましく、1質量ppm以上であることがより好ましく、2質量ppm以上であることがさらに好ましく、5質量ppm以上であることが特に好ましく、また、30質量ppm以下が好ましく、25質量ppm以下がより好ましく、20質量ppm以下がさらに好ましく、15質量ppm以下が特に好ましい。
【0027】
本発明の水系分散液のpHは特に限定されず、例えば、pHは3~7であることが好ましく、3.5~6であることがさらに好ましく、3.5~4.5であることが特に好ましい。
【0028】
本発明の水系分散液は、本発明の効果が阻害されない限りは、種々の添加剤を含むことができる。
【0029】
本発明の水系分散液の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を広く採用することができる。例えば、前記金属粒子の前駆体と銀粒子の前駆体とを混合する方法により、本発明の水系分散液を製造することもできる(以下、「製造方法A」と表記する)。あるいは、市販の金属(ナノ)粒子分散液と銀(ナノ)粒子分散液を混合して製造することもできる。
【0030】
製造方法Aにおいて、金属粒子の前駆体とは、例えば、金属を含む化合物であり、化学処理をすることで、金属粒子を形成することができる化合物を意味する。例えば、金属粒子が白金粒子の場合は、白金粒子の前駆体とは、化学処理をすることで、白金粒子を形成することができる化合物を意味する。同様に、銀粒子の前駆体とは、例えば、銀を含む化合物であり、化学処理をすることで、銀粒子を形成することができる化合物を意味する。
【0031】
前記金属粒子の前駆体としては、例えば、金属源を錯化することで得ることができる。金属源としては、例えば、金属(例えば、白金)の酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、クロリド錯体等が例示される。金属源の錯化処理は、例えば、各種有機塩を使用し、該有機塩を金属源と反応させることで行うことができる。中でも、有機塩としてはクエン酸三ナトリウムを使用することが好ましい。クエン酸三ナトリウムは水和物であってもよい。金属源の錯化は、例えば、水中で行うことができる。
【0032】
金属源を錯化処理するにあたり、金属源と有機塩との使用割合は特に限定されない。例えば、金属源に含まれる金属1モルに対し、有機塩1~5モル用いることができる。
【0033】
同様に、銀粒子の前駆体としては、例えば、銀錯体を挙げることができる。銀錯体は、例えば、銀源を錯化することで得ることができる。銀源としては、例えば、銀の酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩等が例示される。銀源の錯化処理は、例えば、各種有機塩を使用し、該有機塩を銀源と反応させることで行うことができる。中でも、有機塩としてはクエン酸三ナトリウムを使用することが好ましい。クエン酸三ナトリウムは水和物であってもよい。銀源の錯化は、例えば、水中で行うことができる。
【0034】
銀源を錯化処理するにあたり、銀源と有機塩との使用割合は特に限定されない。例えば、銀源に含まれる白金1モルに対し、有機塩1~5モル用いて銀源を錯化処理することができる。
【0035】
製造方法Aにおいて、金属粒子の前駆体と銀粒子の前駆体とを混合する方法は特に限定されない。例えば、金属粒子の前駆体の前記水系溶媒の溶液(例えば、水溶液)と、銀粒子の前駆体の前記水系溶媒の溶液(例えば、水溶液)とを混合する方法を挙げることができる。金属粒子の前駆体と銀粒子の前駆体とを混合するにあたって、混合時の温度も特に限定されず、例えば、室温、具体的には15~35℃とすることができる。
【0036】
金属粒子の前駆体と銀粒子の前駆体とを混合して混合液を得た後、さらに該混合液に酸を添加することもできる。この酸の添加によって、混合液のpHが適切に調節され、これにより粒子の生成が促進されて金属粒子と銀粒子を含む分散液を容易、かつ、速やかに得ることができる。酸としては、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;酢酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸等を挙げることができる。これらの中でも、生成後の複合粒子の分散安定性が良好であるという観点から、有機酸を使用することが好ましく、クエン酸を使用することが特に好ましい。
【0037】
以上の製造方法Aによって分散液を得た後、必要に応じて水系媒体を混合して、金属粒子及び銀粒子の濃度を所望の範囲に調節することができる。
【0038】
特に、水系分散液の製造方法(例えば、製造方法A)は、下記の工程1を備えることが好ましい。
工程1:前記水系媒体に対する前記銀粒子の含有割合を30質量ppm未満に調節する工程。
【0039】
水系分散液の製造方法は、工程1を備えることで、優れた分散安定性を有することができる。
【0040】
前記水系媒体に対する前記銀粒子の含有割合を30質量ppm未満に調節する方法は特に限定されない。例えば、前記製造方法Aで生成する銀粒子の生成量を調節することによる方法、前記製造方法Aで使用する銀錯体の使用量を調節することによる方法、前記製造方法Aで使用する水系媒体の使用量を調節することによる方法、得られた水系分散液に水系媒体を添加することによる方法、水系分散液から水系媒体を減少させることによる方法、水系分散液に銀粒子を添加する方法及び水系分散液に銀粒子を除去する方法等で、前記水系媒体に対する前記銀粒子の含有割合を30質量ppm未満に調節することができる。従って、これらの各方法は、水系分散液の分散安定化方法としても好適である。
【0041】
本発明の水系分散液は、下記式(1)
D=│(D6W―D0)│/D0 (1)
で表されるDの値が3.0以下である。
【0042】
ここで、式(1)中、D6Wは下記貯蔵条件Aで得られた水系分散液のDLS測定値(nm)、D0は貯蔵条件Aで貯蔵する直前の水系分散液のDLS測定値(nm)を示す。貯蔵条件Aは下記のとおりである。
貯蔵条件A;水系分散液100mLを110mL容量の容器に空気雰囲気で密封し、当該容器を40℃で一定に保持した恒温槽に静置させて6週間貯蔵する。
【0043】
D値を算出するにあたって使用するDLS測定値は、例えば、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)を用いて、水系分散液の原液濃度あるいは10倍希釈した濃度で25℃にて計測することができる。
【0044】
式(1)において、D0を測定するための水系分散液は、製造直後であってもよいし、製造から所定期間経過したものであってもよい。例えば、D0を測定するための水系分散液は、5℃以下の低温保管で製造から5日以内のものであることが好ましい。また、式(1)において、D0の値は、例えば、10~500nmであることが好ましく、15~300nmであることがより好ましい。
【0045】
Dの値が3.0以下であることで、水系分散液は、長期間保存しても凝集が生じにくく、分散性に優れるものとなる。Dの値は、好ましくは2以下、より好ましくは1以下、さらに好ましくは0.5以下、特に好ましくは0.2以下である。
【0046】
水系分散液のDの値は、前述のように、少なくとも水系媒体に対する前記金属粒子の含有割合が0.1~10000質量ppm、かつ、水系媒体に対する前記銀粒子の含有割合が30質量ppm未満の範囲となるように両者の含有量を調節することで、所望の範囲に制御することができる。
【0047】
特に、前述の製造方法Aで水系分散液を製造することで、Dの値を所望の範囲に制御しやすい。また、前記工程1を備える方法は、水系分散液のDの値を3.0以下に制御しやすい。従って、製造方法Aで水系分散液を製造方法又は工程1を備える方法は、水系分散液の分散安定性を向上させる方法として好適である。
【0048】
本発明の水系分散液は、粒子の凝集が発生しにくく、長期間にわたって安定な分散性を維持することができることから、例えば、保存を必要とする各種用途に好適である。本発明の水系分散液は、工業的な用途(例えば、含水パルプ、塗工紙、紙用塗工液、塗料、バインダ一、接着剤、ラテックス、インキ、エッチ液、浸し水、木材、繊維、木粉、プラスチック、セメン卜混和剤、シーリング剤、樹脂エマルション、建材原料等の多くの工業製品又は工業用原材料)に加え、特に安全性等が重視される植栽培等の農業分野、抗菌ボトル等の食品分野、細胞培養基材等の理化学資材等、各種の用途にも適用することが可能であり、特に、抗菌剤、防藻剤、バイオフィルム形成抑制剤、抗ウイルス剤として有用である。
【実施例0049】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0050】
(製造例1;銀粒子の前駆体)
硝酸銀0.104gと、クエン酸三ナトリウム二水和物0.130gとを970mLのイオン交換水(25℃)に溶解させ、30分間撹拌し、銀錯体を含む水溶液を調製した。このように得られた銀錯体を銀粒子の前駆体とした。
【0051】
(製造例2;白金粒子の前駆体)
塩化白金(II)酸カリウム0.426gと、クエン酸三ナトリウム二水和物0.130gとを、20mLのイオン交換水(25℃)に溶解させ、30分間撹拌し、白金錯体を含む水溶液を調製した。このように得られた白金錯体を白金粒子の前駆体とした。
【0052】
(比較例1)
製造例2で得られた白金錯体を含む水溶液の10mlを、製造例1で得られた銀錯体を含む水溶液に60分かけて攪拌しながら滴下し、滴下終了後、さらに60分間撹拌を続け、混合液を得た。得られた混合液に、50%クエン酸水溶液を約0.6mL滴下することで混合液のpHを4に調整し、洗浄用水を20ml追加し、さらに60分間撹拌することで、白金粒子と銀粒子とを含む水系分散液を得た。得られた水系分散液中の粒子の含有量をICP-MS(パーキンエルマー社製ElanDRCII)で確認したところ、白金粒子が100質量ppm、銀粒子が66質量ppmであった。水系分散液の製造直後において、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)で水系分散液のDLS測定をしたところ、水系分散液には平均粒子径が138nmである粒子が観測された。
【0053】
(実施例1)
製造例2で得られた白金錯体を含む水溶液20mLを、製造例1で得られた銀錯体を含む水溶液147mL及びイオン交換水823mlとの調製液に60分かけて攪拌しながら滴下し、混合液を得た。得られた混合液に、50%クエン酸水溶液を約0.6mL滴下することで混合液のpHを4に調整し、洗浄用水を10ml追加し、さらに60分間撹拌することで、白金粒子と銀粒子とを含む水系分散液を得た。得られた水系分散液中の粒子の含有量をICP-MS(パーキンエルマー社製ElanDRCII)で確認したところ、白金粒子が200質量ppm、銀粒子が10質量ppmであった。水系分散液の製造直後において、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)で水系分散液のDLS測定をしたところ、水系分散液には平均粒子径が45nmである粒子が観測された。
【0054】
(実施例2)
製造例2で得られた白金錯体を含む水溶液10mLを、製造例1で得られた銀錯体を含む水溶液147mLを833mlのイオン交換水に添加した調製液に、60分かけて攪拌しながら滴下し、混合液を得たこと以外は、実施例1と同様の製造方法で白金粒子と銀粒子を含む水系分散液を得た。得られた水系分散液中の粒子の含有量をICP-MS(パーキンエルマー社製ElanDRCII)で確認したところ、白金粒子が100質量ppm、銀粒子が10質量ppmであった。水系分散液の製造直後において、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)で水系分散液のDLS測定をしたところ、水系分散液には平均粒子径が43nmである粒子が観測された。
【0055】
(実施例3)
製造例2で得られた白金錯体を含む水溶液4mLを、製造例1で得られた銀錯体を含む水溶液294mLを692mLのイオン交換水に添加した調製液に、60分かけて攪拌しながら滴下し、混合液を得たこと以外は、実施例1と同様の製造方法で白金粒子と銀粒子を含む水系分散液を得た。得られた水系分散液中の粒子の含有量をICP-MS(パーキンエルマー社製ElanDRCII)で確認したところ、白金粒子が40質量ppm、銀粒子が20質量ppmであった。水系分散液の製造直後において、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)で水系分散液のDLS測定をしたところ、水系分散液には平均粒子径が162nmである粒子が観測された。
【0056】
(実施例4)
製造例2で得られた白金錯体を含む水溶液50mLを、製造例1で得られた銀錯体を含む水溶液294mLを646mLのイオン交換水に添加した調製液に、60分かけて攪拌しながら滴下し、混合液を得たこと以外は、実施例1と同様の製造方法で白金粒子と銀粒子を含む水系分散液を得た。得られた水系分散液中の粒子の含有量をICP-MS(パーキンエルマー社製ElanDRCII)で確認したところ、白金粒子が500質量ppm、銀粒子が20質量ppmであった。水系分散液の製造直後において、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)で水系分散液のDLS測定をしたところ、水系分散液には平均粒子径が168nmである粒子が観測された。
【0057】
(実施例5)
製造例2で得られた白金錯体を含む水溶液10mLを、製造例1で得られた銀錯体を含む水溶液367mLを613mLのイオン交換水に添加した調製液に、60分かけて攪拌しながら滴下し、混合液を得たこと以外は、実施例1と同様の製造方法で白金粒子と銀粒子を含む水系分散液を得た。得られた水系分散液中の粒子の含有量をICP-MS(パーキンエルマー社製ElanDRCII)で確認したところ、白金粒子が100質量ppm、銀粒子が25質量ppmであった。水系分散液の製造直後において、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)で水系分散液のDLS測定をしたところ、水系分散液には平均粒子径が167nmである粒子が観測された。
【0058】
(比較例2)
製造例2で得られた白金錯体を含む水溶液10mLを、製造例1で得られた銀錯体を含む水溶液441mLを539mLのイオン交換水に添加した調製液に、60分かけて攪拌しながら滴下し、混合液を得たこと以外は、実施例1と同様の製造方法で白金粒子と銀粒子を含む水系分散液を得た。得られた水系分散液中の粒子の含有量をICP-MS(パーキンエルマー社製ElanDRCII)で確認したところ、白金粒子が100質量ppm、銀粒子が30質量ppmであった。水系分散液の製造直後において、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)で水系分散液のDLS測定をしたところ、水系分散液には平均粒子径が167nmである粒子が観測された。
【0059】
(評価結果)
表1には、実施例及び比較例の水系分散液中の白金粒子及び銀粒子の含有量(質量ppm)及び、白金粒子100質量部あたりの銀粒子の含有割合を示しており、また、表1には、実施例及び比較例の水系分散液を下記貯蔵条件Aで貯蔵して得られた水系分散液のDLS測定値D6w(nm)及び下記貯蔵条件Aで貯蔵する直前の水系分散液のDLS測定値D0(nm)を示しており、また、下記式(1)で表されるD値の計算結果も示している。
D=│(D6W―D0)│/D0 (1)
(ここで、式(1)中、D6Wは下記貯蔵条件Aで得られた水系分散液のDLS測定値(nm)、D0は下記貯蔵条件Aで貯蔵する直前の水系分散液のDLS測定値(nm)を示す)
<貯蔵条件A>
水系分散液100mLを110mL容量の容器に空気雰囲気で密封し、この水系分散液が密封された容器を40℃で一定に保持した恒温槽に静置させて6週間貯蔵した。なお、DLS測定には、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)を用いた。
【0060】
表1から、実施例で得られた水系分散液は長期間貯蔵してもDLS測定値にほとんど変化はなく、分散安定性に優れるものであった。D値が3を超える比較例では、貯蔵後に凝集物、沈殿物の発生が目視にて明らかであり、分散安定性に劣るものであった。
【0061】