(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053904
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】断層撮影装置用の多重ビーム分割及びリダイレクト装置、断層撮影装置、及び試料の3次元断層画像を取得するための方法
(51)【国際特許分類】
G21K 1/06 20060101AFI20230406BHJP
G01N 23/04 20180101ALI20230406BHJP
【FI】
G21K1/06 M
G01N23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147387
(22)【出願日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】21200564.9
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用、超圧縮センシングによるミリ秒X線トモグラフィ法の開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】517099270
【氏名又は名称】ドイチェス エレクトローネン-シンクロトロン デズィ
【氏名又は名称原語表記】Deutsches Elektronen-Synchrotron DESY
【住所又は居所原語表記】Notkestrasse 85, 22607 Hamburg, Bundesrepublik Deutschland
(71)【出願人】
【識別番号】522367997
【氏名又は名称】ヨーロピアン エックスレイ フリーエレクトロン レーザー ファシリティ ゲー エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】矢代 航
(72)【発明者】
【氏名】ペレス ビジャヌエバ パブロ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァゴヴィッチ パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ベルッチ ヴァレリオ
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA02
2G001AA04
2G001BA11
2G001CA01
2G001CA02
2G001CA04
2G001DA09
2G001EA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、多重ビーム分割及びリダイレクト装置(4)、断層撮影装置(2)、及び試料(42)の3次元断層画像を取得する方法に関するものである。
【解決手段】多重ビーム分割及びリダイレクト装置(4)は、少なくとも2つのビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)を含み、それらは一次ビーム(20)の入射ビーム経路(22)上に配置される。すべてのビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)は、一次ビーム(20)を散乱することによってビームレット(31、32、33、34、35、36)を生成し、一次ビーム(20)は減衰するように配置される。ビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)は互いに距離(18)をおいて配置され、すべてのビームレット(11、12、13、14、15、16)は、入射ビーム経路(22)から離れた位置にある測定点(40)に向けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断層撮影装置(2)用の多重ビーム分割及びリダイレクト装置(4)であって、
一次ビーム(20)の入射ビーム経路(22)上に配置される、少なくとも2つのビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)を備え、
すべてのビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)は、前記一次ビーム(20)を散乱させることによってビームレット(31、32、33、34、35、36)を生成するとともに、
前記一次ビーム(20)を減衰するように構成され、ここで前記ビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)は互いに距離(18)をおいて配置され、
前記ビームレット(11、12、13、14、15、16)は、前記入射ビーム経路(22)から離れた測定点(40)に向けられている、多重ビーム分割及びリダイレクト装置(4)。
【請求項2】
前記ビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)は、結晶であり、
前記一次ビーム(20)を前記結晶の格子面に散乱させることによって前記ビームレット(31、32、33、34、35、36)を生成し、
前記ビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)は振幅スプリッタであることを特徴とする、請求項1に記載の装置(4)。
【請求項3】
前記ビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)のうちの少なくとも1つが、前記一次ビーム(20)を反射配置で散乱するように構成されているか、或いは、前記ビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)のうちの少なくとも1つが、前記一次ビーム(20)を透過配置で散乱するように構成されているか、の少なくとも一方の構成を有することを特徴とする、請求項1に記載の装置(4)。
【請求項4】
前記ビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)のそれぞれは、特定の結晶物質を選択する構成と、特定の格子面で前記一次ビーム(20)を回折するように結晶の向きを調整する構成と、の少なくとも一方によって、前記一次ビーム(20)のうち特定のエネルギースペクトル幅を散乱させることを特徴とする、請求項1に記載の装置(4)。
【請求項5】
前記一次ビーム(20)は、パルス化されたX線ビーム、ガンマ線ビーム、中性子ビーム、又は極端紫外線(EUV)ビームであり、
前記極端紫外線(EUV)ビームの波長は120nm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の装置(4)。
【請求項6】
前記ビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)は、ビームレット方向(31a、32a、33a、34a)に沿って前記ビームレット(31、32、33、34、35、36)を生成するように構成され、
前記ビームレット(31、32、33、34、35、36)のそれぞれの前記ビームレット方向(31a、32a、33a、34a)は、前記一次ビーム(20)の方向に対して異なるビームレット角度(θ1,θ2,θ3,θ4)をなすことを特徴とする、請求項1に記載の装置(4)。
【請求項7】
前記ビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)は、第1のビームスプリッタ(11)及び第2のビームスプリッタ(14)を含み、
前記第1のビームスプリッタ(11)によって生成される第1のビームレット(31)は、前記第2のビームスプリッタ(14)によって生成される第2のビームレット(34)と角度(δ)をなし、
前記角度(δ)は0.1°~179.9°の間であることを特徴とする、請求項1に記載の装置(4)。
【請求項8】
前記ビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)の少なくとも1つは、湾曲結晶及び/又はモザイク結晶を含む構成と、
原子番号が3~92の元素からなる若しくは含む結晶である構成と、の少なくとも一方を有することを特徴とする、請求項1に記載の装置(4)。
【請求項9】
前記ビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)は、単結晶を含む単一の部品(80)の一部であり、
前記単一の部品は、互いに向きの異なる複数の散乱表面(81、82、83)を含む、請求項1に記載の装置(4)。
【請求項10】
少なくとも1つの一次ビームスプリッタ(70)と、少なくとも2つのビームスプリッタグループ(71、72)と、を備え、
前記ビームスプリッタグループ(71、72)は、前記ビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)を含み、
前記一次ビームスプリッタ(70)は、前記入射ビーム経路(22)上に配置され、前記一次ビーム(20)を散乱させることによって二次ビーム(74)を生成し、前記一次ビーム(20)を減衰するように構成され、
減衰された前記一次ビーム(20)は、前記入射ビーム経路(22)に沿って下流に伝播し、前記二次ビーム(74)は二次ビーム経路(76)に沿って下流に伝播し、
前記ビームスプリッタグループ(71、72)のうちの1つは、前記入射ビーム経路(22)上の前記一次ビームスプリッタ(70)の下流に配置されており、他の前記ビームスプリッタグループ(71、72)は、前記二次ビーム経路(76)上に配置されている、請求項1に記載の装置(4)。
【請求項11】
パルス一次ビーム(20)の単一パルスから生成された前記ビームレット(31、32、33、34、35、36)のうち、前記測定点(40)に到達する最初と最後のビームレットの時間差が、マイクロ秒未満であるように構成される、請求項1に記載の装置(4)。
【請求項12】
光源(5)と、少なくとも1つの画像検出器(6)と、請求項1~11のうちのいずれかに記載の装置(4)と、を備える断層撮影装置(2)であって、
前記光源(5)は、前記一次ビーム(20)を発生するように構成され、
前記画像検出器(6)は、前記測定点(40)を通過した後に前記ビームレット(31、32、33、34、35、36)の強度を測定するように配置及び構成され、
前記断層撮影装置(2)は、前記測定点(40)において試料(42)の3次元画像データセットを、前記画像検出器(6)で測定された前記ビームレット(31、32、33、34、35、36)の前記強度と、ビームレット角度(θ1,θ2,θ3,θ4)と、から取得するように構成され、
前記ビームレット角度(θ1,θ2,θ3,θ4)は、それぞれ、前記ビームレット(31、32、33、34、35、36)と、前記一次ビーム(20)と、のなす角である、断層撮影装置(2)。
【請求項13】
前記入射ビーム経路(22)上の前記多重ビーム分割及びリダイレクト装置(4)の下流に配置される結晶分光器(50)を備え、
前記結晶分光器(50)は、前記一次ビーム(20)のすべてのエネルギースペクトルを実質的に回折し、回折分光器ビーム(52)を生成するように構成された湾曲結晶を含み、
前記回折分光器ビーム(52)を撮影するための分光器画像検出器(54)は、前記回折分光器ビーム(52)のビーム経路上に配置され、
前記分光器画像検出器(54)は、2次元検出器である、請求項12に記載の断層撮影装置(2)。
【請求項14】
前記ビームレット(31、32、33、34、35、36)の少なくとも1つの経路上の、前記測定点(40)の上流及び下流の少なくとも一方に配置される、少なくとも1つの集光素子(60、61)を備える、請求項12に記載の断層撮影装置(2)。
【請求項15】
試料(42)の3次元断層画像を取得する方法であって、
前記試料(42)は、測定点(40)に配置され、
一次ビーム(20)は、入射ビーム経路(22)に沿って伝播し、
少なくとも2つのビームスプリッタ(11、12、13、14、15、16)は、互いに距離(18)をおいて前記入射ビーム経路(22)上に配置され、それぞれがビームレット(31、32、33、34、35、36)を生成し、前記一次ビーム(20)は散乱させることによって減衰し、
すべての前記ビームレット(31、32、33、34、35、36)は、前記入射ビーム経路(22)から離れた位置にある前記測定点(40)に向けて伝播し、
前記ビームレット(31、32、33、34、35、36)の強度は、前記測定点(40)を通過した後に、少なくとも1つの画像検出器(6)を用いて測定され、
前記測定点(40)における前記試料(42)の3次元画像データセットは、前記少なくとも1つの画像検出器(6)で測定された前記ビームレット(31、32、33、34、35、36)の強度と、ビームレット角度(θ1,θ2,θ3,θ4)にと、より取得され、
前記ビームレット角度(θ1,θ2,θ3,θ4)は、前記ビームレット(31、32、33、34、35、36)のそれぞれが前記一次ビーム(20)となす角である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断層撮影装置用の多重ビーム分割及びリダイレクト(ビームの向きを変える)装置に関する。本発明は更に、断層撮影装置、及び試料(被写体)の3次元断層画像を取得するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの科学技術分野及びその応用分野においては、試料に関する3次元情報を取得することが非常に重要である。3次元撮像技術の確立された方法には、コンピュータ断層撮影(CT)又はコンピュータラミノグラフィ(CL)があり、X線ビームを使用して試料を分析する。通常、試料を所定の軸の周りに回転するか、又は、光源及び検出器を試料の周りに回転する。様々な角度から試料の投影像が撮影され、様々なアルゴリズムにより試料の3次元情報を有する3次元データが構成される。
【0003】
このアプローチは、試料内の非常に高速なプロセスの動的な3次元情報を取得するための3次元データ取得時間を改善したい場合に、問題に直面する。取得時間を改善するために、試料をこれまで以上に速く回転させる必要があり、その時点で遠心力が試料に影響を及ぼし始める。また、光源と検出器を回転する場合、ある時点で、回転速度の増加は物理的限界に直面する。この物理的限界を回避するための試みとして、多重ビーム実験配置が提案されている。多重ビーム実験配置では、試料は同時に複数のビームに異なる角度から照射される。
【0004】
非特許文献1では、分析される試料の上流に単結晶が置かれ、単結晶にX線ビームを入射する。単結晶はビームスプリッタとして機能し、入射X線ビームを結晶の複数の格子面で散乱させ、これにより、試料を照射する複数の回折ビームレットを生成する。複数のビームレットが試料を透過することで、複数の角度からの投影像が同時に取得でき、これらから3次元断層画像が取得できる。しかし、この方法では、試料を結晶のすぐ側に配置する必要があり、分析される試料の大きさと可能な測定のタイプを制限する。
【0005】
非特許文献2は、双曲線形状に沿って配置されたマルチブレードを有するシリコン結晶を備えた多重ビームX線光学系を開示している。X線ビームを入射すると、ブラッグ回折によりシリコン結晶からX線ビームが生じ、複数の角度から試料を照射する。このようにして、ある角度範囲の投影像が同時に取得できる。しかし、マルチブレードを有するシリコン結晶の作製は複雑であり、また、この方法は大きいサイズのX線ビームを必要とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「Hard x-ray multi-projection imaging for single-shot approaches」「Optica」2018年11月29日、5巻12号
【非特許文献2】「Multibeam x-ray optical system for high-speed tomography」「Optica」2020年5月12日、7巻5号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、多重ビーム分割及びリダイレクト装置、断層撮影装置、及び試料の3次元断層画像を取得するための方法を提供することであり、これにより、柔軟で非常に高速なデータ取得が可能になり、従来技術の技術的制約を克服できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
目的は、断層撮影装置用の多重ビーム分割及びリダイレクト装置によって解決され、多重ビーム分割及びリダイレクト装置は、少なくとも2つのビームスプリッタを含み、それらはともに一次ビーム(入射ビーム)の経路上に配置され、ここで、すべてのビームスプリッタは、一次ビームを散乱させることによってビームレットを生成し、一次ビームを減衰させるように、且つ互いに距離を空けて配置され、すべてのビームレットは、入射ビーム経路から離れた測定位置(試料位置)に向けられる。
【0009】
一次ビームは、経路に沿って伝播する間に、ビームスプリッタによって散乱されるたびに減衰される。各ビームスプリッタでは、一次ビームが散乱され、それによって各ビームスプリッタによりビームレットが生成される。ビームスプリッタによって生成された後、ビームレットはそれぞれの経路に沿って測定点までまっすぐに伝播する。測定点には、分析される試料が配置される。試料を透過した後、ビームレットの強度分布を測定して、試料に関する3次元情報を取得する。測定された強度分布は、通常、断層撮影法では投影像と呼ばれる。投影像のセットは、3次元断層画像の取得に適した3D画像データを提供する。
【0010】
ビームレットは、一次ビーム経路上で互いに距離をおいて配置されたビームスプリッタによって生成されるため、すべてのビームレットは異なる方向から測定点に到達し、断層撮影のための広い角度範囲を提供する。この角度範囲の達成には単一の一次ビームのみで十分であり、試料の大きさには制限はない。
【0011】
上記の最先端の実験配置と比較して、本発明の多重ビーム分割及びリダイレクト装置では、一次ビームの特性、ビームレットの数、ビームレットが測定点に到達する方向、及びビームレットのエネルギーが、すべて容易に調整可能なため、柔軟性が極めて高い。
【0012】
本明細書の文脈において、「断層撮影」という用語は、異なる方向から試料の投影像が撮影され、その後、一般に知られている再構成アルゴリズムを使用して再構成される撮像技術を指す。ここで、断層画像は、断層再構成の数学的プロセスに基づいて取得され、これにより、3D試料情報を有する3D画像データが得られる。断層撮影技術は、特に医療診断の分野でよく知られているものでは、試料は360°全周にわたってスキャンされる。しかし、これは断面画像の断層撮影再構成には絶対に必要というわけではない。この観点から、「断層撮影」という用語は、360°全周の検査技術に限定されると理解されるべきではない。医療診断に用いられる断層撮影技術とは対照的に、本発明の態様断層撮影装置は、360°以下、例えば0°~180°の範囲のスキャン角度で断層撮影を実施するように構成されている。
【0013】
更に、この明細書の文脈では、「ビーム」及び「ビームレット」という用語は、指向性のあるエネルギー放射ビームを指し、電磁波ビーム及び粒子ビームを含んでいる。これらの用語は、特に集束ビーム(1点の方向に向かうビーム)に限定されるものではないと理解される。更に、「ビームレット」という用語は、一次ビームの一部が散乱/反射されて生じるビームを指し、その強度が一次ビームと比較して弱いことを意味すると理解される。本発明の「ビームレット」は測定点に向けて伝播する。ビーム及びビームレットは必ずしも集光されるのではないが、集光することができる。したがって、例えば、測定点の上流、又は下流でビームレットを集光することにより、投影像の倍率を調整することができる。
【0014】
ビームスプリッタ間の距離は、事前に決定された特定の距離である。距離は、ビームレットを測定点に向ける必要があるという前提条件によって事前に決定される。しかし、これは距離が固定されることを意味しない。ビームスプリッタは可動式であってもよく、その結果、ビームスプリッタ間の距離は所望の値に調整され得る。測定中でさえ、ビームレットの位置を改善するために、ビームスプリッタ間の距離を僅かに変更する場合もありうる。具体的には、少なくとも2つの連続するビームスプリッタ間の距離は、互いに異なる。例えば、第1のビームスプリッタと第2のビームスプリッタとの間の距離は、第2のビームスプリッタと第3のビームスプリッタとの間の距離より大きくても、小さくてもよい。
【0015】
好ましくは、少なくとも2つのビームスプリッタは結晶であり、それらは一次ビームを結晶の格子面により散乱することによってビームレットを生成する。このときビームスプリッタは振幅スプリッタになる。
【0016】
この明細書の文脈では、振幅スプリッタはビームスプリッタであり、入射ビームの振幅を分割する。対照的に、波面スプリッタはビームスプリッタであり、入射ビームのビームプロファイルを分割する。
【0017】
X線ビームが固体に当たると、そのビームは固体中の原子によって散乱される。固体が結晶の場合、X線ビームが結晶に適切な入射角で当たると、格子面により反射されたX線の強め合いの干渉により散乱ビームが生成される。ビームスプリッタの1つとして使用される結晶は、その格子面の1つで一次ビームを散乱させ、それによってビームレットを生成し、一次ビームを減衰させる。
【0018】
可視光スペクトル領域において通常使用されるビームスプリッタはX線又はガンマ線などの高エネルギービームに使用できないため、これらのビーム用のビームスプリッタとして使用できることが結晶のメリットである。
【0019】
X線ビームが結晶で散乱される角度は、ビームの波長、ビームを散乱する格子面の間隔、及びミラー指数として与えられる回折の次数に依存する。このため、結晶は適切な方向に配置される必要があり、その結果、一次ビームは適切な角度で結晶に入射し、特定の波長の一次ビームが所望のミラー指数の格子面によって散乱される。
【0020】
例えば、第1のビームスプリッタは(111)格子面で一次ビームを散乱するように配置でき、第2のビームスプリッタは(004)格子面で一次ビームを散乱するように配置でき、第3のビームスプリッタは(333)格子面で一次ビームを散乱するように配置できる。
【0021】
具体的には、ビームスプリッタの少なくとも1つを、単一の元素のみを含む結晶にする。結晶性物質としては、例えば、ダイヤモンド、シリコン、ゲルマニウム、又はタングステンがあるが、元素周期表のリチウムからウランまでの任意の元素であり得る。ビームスプリッタは、単結晶又は多結晶性物質で、例えば、モザイク結晶又は欠陥のある単結晶でもよい。ビームスプリッタはまた、複数の化学元素で構成されてもよく、例えば、SiC、SiGe、GaAs、CdTeがあるが、結晶構造をとる周期表の化学元素の任意の組み合わせでよい。ビームスプリッタは、有機結晶を形成する複雑な分子の結晶からも作製され得る。
【0022】
ビームスプリッタとして使用される振幅スプリッタの代わりに、波面スプリッタ、例えば、結晶、回折格子、多層膜又はミラーを用いてもよい。この場合、各ビームレットのビームサイズは小さいが、エネルギーバンド幅をより広くできる配置が考えられる。このような配置における波面スプリッタとしては、ビームサイズを拡大できる非対称反射の使用が特に有用であり、入射一次ビームのエネルギーバンド幅を大きくできるだけでなく、ビームレットのビームサイズを大きくでき、波面分割により一次ビームが小さく分割されてしまう効果を相殺できる。この配置は、単色性の高い一次ビームの場合に特に有用である。すなわち、この場合、振幅スプリッタを用いた配置は、いちばん上流のビームスプリッタが一次ビームの大部分を回折するために使用できないためである。単色性の高い一次ビームの場合でも、複数のビームレットの生成は一連の波面スプリッタを用いれば実現でき、非対称反射によるビームサイズ拡大のために、十分な大きさのビームレットが維持できる。
【0023】
本発明の態様による多重ビーム分割及びリダイレクト装置により、例えば、シンクロトロン放射光を用いれば、3D情報をkHzオーダーのサンプリングレートで実現することができる。X線自由電子レーザ(XFEL)は、MHz領域のサンプリングレートでパルス列を生成することができ、MHz領域の繰り返し周波数で生成される各パルスを使用して、MHzサンプリングレートで3D情報を取得できる。HzレートからMHzレートまでのパルス列を生成できるXFELの場合、本発明は、単一のX線パルスによる露光によって、ピコ秒からナノ秒オーダーのサンプリングレートで2D及び3D画像の取得を可能にする。多重ビーム分割及びリダイレクト装置の技術により、試料を透過し、かつ角度的に分離されたファン状のビームレット群が生成でき、各ビームレットは、入力スペクトルから狭エネルギーバンド幅を選択できるため、各ビームレットにより異なるX線エネルギーに対する投影像が取得できる。これにより、エネルギー分解3D情報が取得できる高度な断層撮影技術が実現できる。多重ビーム分割及びリダイレクト装置は一次ビームを1つの平面内で分割するため、2つ以上の一次ビームが存在する場合には、複数の平面に対して実現可能である。試料への入射ビームの数は、投影像の数を決める。1μm未満の高い空間分解能は、集光光学系、例えば、具体的にはナノメートルスケールの焦点サイズを有する集光素子を試料の前に使用して、拡大光学系を活用するか、或いは、拡大/縮小光学系を試料の直後に配置して、可視光顕微鏡、例えば、デフォーカス顕微鏡と同様の配置にすることによって実現できる。
【0024】
更に、本発明の多重ビーム分割及びリダイレクト装置を用いて、X線3D撮像において試料回転によって決まる限界を克服でき、MHzに至る3D画像データ取得レートを達成することが可能である。3D動画は、ミリ秒からナノ秒のフレーム間隔で取得してよい。3D画像の取得レートは、試料自体の回転速度、又は試料まわりの回転速度で決まる遠心力に起因する基本的な物理的限界によって制限されない。
【0025】
本発明の多重ビーム分割及びリダイレクト装置はまた、X線を用いた撮像に対するピコ秒及びフェムト秒の壁を乗り越える。本発明の多重ビーム分割及びリダイレクト装置では、2D画像の取得レートが検出器の取得レートの限界によって制限されない。実際、ナノ秒のフレームレート未満で動作する検出器はなく、フレームレートの限界は、基本的な物理的限界、つまり電子の半導体内での電荷キャリア移動度の限界によって決まっており、2D検出器のサンプリングレートを1ナノ秒未満にすることはできない。したがって、ピコ秒のフレームレートで動作する検出器は存在しなかった。本明細書で記述される実験配置では、この基本的な限界の問題を回避することができる。
【0026】
更に、本発明の多重ビーム分割及びリダイレクト装置は、3D撮像に関するピコ秒の壁を乗り越え、ピコ秒オーダーの時間間隔のフレームレートの3D動画、すなわち、3DGHz動画を実現する。本発明の多重ビーム分割及びリダイレクト装置を用いて、ピコ秒の時間スケールで3D画像を記録することが可能である。3D画像の取得レートは、回転速度で決まる基本的な物理的限界によって、又は検出器のフレームレートの限界によって制限されない。
【0027】
ビームスプリッタによって生成されたビームレットは、試料を透過して、試料の投影像をそれぞれ異なる投影方向からそれぞれ生成する。各投影像は、それぞれのビームレットに対してそれぞれ異なる検出器によって記録されてもよく、すべての投影像を撮影するのに十分な視野の単一の検出器によって、又は複数の検出器の組み合わせによって撮影されてもよい。各ビームレットは、異なる光路を伝播した後に試料に到達するため、各ビームレットは異なる距離を伝播し、それゆえ、投影像は、伝播距離の差を光速で割って求まる時間に相当する時間差を有する。この時間差は、ビームスプリッタ間の距離に依存し、実際の応用においては、ピコ秒からナノ秒オーダーに設定できる。すべての投影像は、試料も、ビームスプリッタ、光源又は検出器も動かすことなく記録される。試料又は検出器を回転させる代わりに、ビームが試料の周りを「回転」する。投影像の撮影時間の差は、ピコ秒オーダーからナノ秒オーダーである。
【0028】
多重ビーム分割及びリダイレクト装置は、3つのモダリティで使用され得る。
【0029】
3DMHz撮像の場合、すべての投影像の時間差はサブマイクロ秒又はナノ秒オーダーであればよく、投影像のピコ秒オーダーの時間差は重要ではない。投影像のピコ秒の時間差は、kHz3D撮像には更に重要ではなく、その場合はすべての投影像の時間差がサブミリ秒又はマイクロ秒の時間範囲であればよい。したがって、3DMHzオーダー又はkHzオーダーのサンプリングレートでの撮像に対しては、試料の速度が適切であれば、すべての投影像は同時に取得されたものと見なされ得る。これらの投影から、3DMHz又はkHz画像を再構成することが可能であり、各画像は、言及されたサンプリングレートで撮影された断層撮影フレームである。当然、3DMHz又はkHzの動画を取得するため、投影像を記録するカメラ又は検出器は、MHz又はkHzのフレームレートで動作する必要がある。
【0030】
2DGHz撮像の場合、投影像間の時間差はピコ秒オーダーである。様々な物質と格子面方位をビームスプリッタとして選択することにより、動的現象の2D画像をピコ秒の時間スケールで、つまりGHz2D動画で記録することができる。多重ビーム分割及びリダイレクト装置を使用すると、2DGHz動画は、ピコ秒以下のパルス幅の単バンチのX線を使用することにより、「低速」検出器を用いてさえも撮影され得る。実際、各検出器によって記録された画像は、他の検出器との間にピコ秒オーダーの時間差があり、それらはGHz2D動画に組み込まれ得る。
【0031】
上記のマルチビーム分割及びリダイレクト装置は、別のビーム分割方法及び配置と組み合わせて、3DGHz撮像を実現することもできる。実際に、一次ビームは、前述の多重ビーム分割及びリダイレクト装置の入射ビームとして2つ以上に分割できて、それぞれの多重ビーム分割及びリダイレクト装置を使用するのに十分な強度を有し得る。したがって、一次ビームの各ブランチは、多重ビーム分割及びリダイレクト装置の入射ビームとして使用され得て、すべての多重ビーム分割及びリダイレクト装置は同じ試料を撮像する。多重ビーム分割及びリダイレクト装置と、ビームスプリッタと、を適切な距離に配置すると、すべての多重ビーム分割及びリダイレクト装置から生じるビームレットを、正確に同時刻に、異なる方向から試料に当てることができる。したがって、これらのビームレットは異なる角度から、正確に同時に試料の投影像を生成し、得られた投影像から試料の3D画像を再構成することができる。一般には、各多重ビーム分割及びリダイレクト装置から生じるビームレットはピコ秒オーダーの時間差を有する。したがって、上記の複数の多重ビーム分割及びリダイレクト装置は、試料の投影像のセットを生成し、各セットは、別のセットに対してピコ秒オーダーの時間差があり、各セットは、正確に同時に、しかし異なる角度から撮影された複数の投影像を与え得る。各セットから試料の瞬間的な3D画像を再構成し得るが、これらの3D画像は別のセットとピコ秒オーダーの時間差があるため、各フレームの時間差がピコ秒の3D動画、つまり3DGHz動画を実現する。
【0032】
結晶ビームスプリッタの他に、ビームスプリッタは、屈折型又は反射型のマイクロ及びナノ微細加工プロセスで作製されたビームスプリッタであり得る。マイクロ及びナノプロセスで作製されたビームスプリッタでは、ビーム分割のために作製された周期構造によるコヒーレント回折を使用する。例として、回折格子、透明な支持膜の上に作製された周期的2D構造、及びゾーンプレートなどがある。屈折及び反射型のビームスプリッタは、可視光用のビームスプリッタのように、ビーム分割のためにコヒーレント回折の代わりに屈折又は反射を使用する。これらのタイプのビームスプリッタは、主に、UV光を含む比較的低いエネルギーのビームで使用される。これらのビームスプリッタとしては、多層膜構造、並びに、マイクロ及びナノプロセスで作製された構造があり、例えばキャピラリレンズ、ラウエレンズなどがある。多層膜ミラーや、微小角入射ミラーも使用でき、ビームスプリッタとみなし得る。通常、このタイプのビームスプリッタは波面ビームスプリッタとして機能するが、十分に薄い場合には、ミラーは振幅ビームスプリッタとしても使用され得る。
【0033】
好ましくは、少なくとも2つのビームスプリッタのうちの少なくとも1つが、反射配置で一次ビームを散乱するように構成されているか、或いは、少なくとも2つのビームスプリッタのうちの少なくとも1つが、透過配置で一次ビームを散乱するように構成されているか、の少なくとも一方の構成を有する。
【0034】
反射配置は、ブラッグケースとも呼ばれるが、特に対称ブラッグケースでは、一次ビームを回折する格子面は結晶の主表面に平行である。透過配置は、ラウエケースとも呼ばれるが、特に対称ラウエケースでは、一次ビームを回折する格子面は結晶の主表面に垂直である。本発明の文脈において、結晶の主表面は、一次ビームが最初に当たる表面として定義される。
【0035】
本発明の一実施形態によると、ビームスプリッタのそれぞれは、具体的には、特定の結晶性物質を選択する構成と、特定の格子面で一次ビームを回折するように結晶方位を調整する構成と、の少なくとも一方によって、一次ビームのエネルギースペクトルのうちの特定のエネルギースペクトル幅(一次ビームのエネルギースペクトルの異なる一部であって、異なる平均エネルギー及びエネルギーバンド幅)を散乱するように構成及び/又は調整される。
【0036】
多重ビーム分割及びリダイレクト装置は、一次ビームのエネルギースペクトルの異なる一部を散乱するようにすべてのビームスプリッタを構成及び/又は調整することにより、エネルギーバンド幅を有する一次ビームを効率的に使用できる。加えて、ビームスプリッタによって生成されたすべてのビームレットは、一次ビームの強度がビームスプリッタを透過する際に連続的に減衰したとしても、依然として十分な、そして実質的に同じエネルギーを有し得ることも保証される。
【0037】
異なる結晶性物質は、異なる格子面間隔を提供する。ビームスプリッタに用いる物質を変えて、これによって格子面間隔を変えることで、ある角度において異なるエネルギーのビームが散乱される。これにより、測定点の方向に散乱させるビームレットのエネルギーを調整することができる。ビームレットのエネルギーの調整は、ある結晶の方位を変えて、異なる格子面間隔を有する別の格子面で一次ビームを回折するように調整することによっても達成され得る。
【0038】
具体的には、一次ビームは、白色ビーム、ピンクビーム、単色ビームの少なくとも一つであり、ここで、白色ビームのエネルギーバンド幅dE/Eは実質的に100であり、ピンクビームのエネルギーバンド幅dE/Eは実質的に10-2であり、単色ビームのエネルギーバンド幅dE/Eは実質的に10-4である。Eは平均X線エネルギーであり、dEはX線エネルギーのエネルギーバンド幅の半分である。
【0039】
白色ビームとピンクビームは、広いエネルギーバンド幅のスペクトルを有する点で有利である。スペクトルのエネルギーバンド幅が広いため、各ビームスプリッタは、多数のビームスプリッタが含まれている場合でさえ、一次ビームのエネルギースペクトルの異なる一部を散乱することが可能である。単色ビームは狭いエネルギーバンド幅を提供し、単一のエネルギー、すなわち一次ビームのエネルギーでの試料の撮影を可能にする。
【0040】
好ましくは、一次ビームは、具体的には、パルス化されたX線ビーム、ガンマ線ビーム、中性子ビーム、又は極端紫外線(EUV)ビームであり、ここでEUVビームの波長は120nm未満である。例えば、一次ビームの波長は0.01~1nmである。この波長は、一次ビームに適していることが示されている。しかし、さらに波長が長い、又は短い一次ビームも、使用される場合がある。
【0041】
X線は、3Dデータを取得するために広く使用されるツールである。実験室光源からシンクロトロン光源及びX線自由電子レーザ(XFEL)源に至るまで多くの高輝度X線源が存在し、多重ビーム分割及びリダイレクト装置の一次ビームとして最適なX線ビームを提供する。ガンマ線は主にその発生源がX線とは異なり、必ずしもエネルギースペクトルが異なるわけではないため、ガンマ線も多重ビーム分割及びリダイレクト装置の一次ビームに適する。加えて、多重ビーム分割及びリダイレクト装置はまた、中性子ビームでも使用され得る。これは中性子回折がX線回折と非常に似ているためである。
【0042】
中性子用のビームスプリッタでは、X線ビームスプリッタと同じコヒーレント回折のメカニズムを使用できる。これは、中性子はX線と同様に波として扱うことができるためである。中性子用ビームスプリッタの実施形態においては、中性子吸収の散乱断面積が大きくない物質、例えば、ホウ素などの使用が好ましい。当然、これらの実施形態では、ビームスプリッタの散乱角はビームレットの強度と同様に再計算する必要がある。
【0043】
UV用については、前述のすべてのタイプのビームスプリッタが存在し、結晶性ビームスプリッタ、回折格子、マイクロ及びナノプロセスで作製されたビームスプリッタ、並びに屈折又は反射ビームスプリッタが挙げられる。
【0044】
好ましくは、少なくとも2つのビームスプリッタは、ビームレット方向に沿ってビームレットを生成するように構成される。ここで、各ビームレットのビームレット方向は、一次ビームの方向に対して異なる角度をなすものとする。
【0045】
例えば、ブラッグ回折により一次ビームを散乱する結晶ビームスプリッタの場合には、各ビームスプリッタによる散乱は異なるブラッグ角度で生じる。
【0046】
一次ビームの方向に対して異なるビームレット角度をなすビームレットを生成することにより、すべてのビームレットは異なる方向から測定点に到達し、これによって断層撮影のための広い角度範囲を提供する。
【0047】
少なくとも2つのビームスプリッタは、好ましくは、第1のビームスプリッタ及び第2のビームスプリッタを含み、ここで第1のビームスプリッタによって生成される第1のビームレットは、第2のビームスプリッタによって生成される第2のビームレットとのある角度をなし、その角度は0.1°~179.9°の間であって、具体的には0.1°~90°、0.1°~60°の間であってもよい。
【0048】
ビームレットがなす角度が大きくなると、より大きい角度範囲で断層撮影ができる。連続するビームスプリッタのビームレット間の角度は、具体的には、常に0°より高く180°より低くなる。
【0049】
例えば、2つの連続するビームスプリッタのビームレット間の角度は、少なくとも1°である。
【0050】
好ましくは、ビームスプリッタの少なくとも1つは、湾曲結晶及び/又はモザイク結晶を含む構成と、原子番号が3~92の元素からなる結晶、もしくは、原子番号3~92の元素を含む結晶である。また、より好ましくは、原子番号が3、6、9、32、及び49の元素から選択された少なくとも二つの元素からなる構成であり、より好ましくは、原子番号が3,6,9,32,49の元素から選択される少なくとも二つの元素を含む結晶である。
【0051】
リチウムの原子番号は3であり、炭素の原子番号は6であり、フッ素の原子番号は9であり、ゲルマニウムの原子番号は32であり、そしてインジウムの原子番号は49である。湾曲結晶、モザイク結晶、及び/又は原子番号の大きい元素からなる結晶を使用することにより、結晶エネルギーバンド幅、つまり散乱されたビームレットのエネルギーバンド幅を広げられる。エネルギーバンド幅の広い結晶では、結晶は一次ビームのエネルギースペクトルのより広いエネルギー幅を回折する。これに加えて、結晶を透過した後の一次ビームの発散は増加する。結晶のエネルギーバンド幅は、結晶によって散乱されたビームレットのエネルギーの半値全幅(FWHM)である。
【0052】
具体的には、結晶、は例えば、単に結晶内の格子面の湾曲によって曲げられる。結晶内の格子面の湾曲は、例えば、選択的なイオン注入及び/又は明確な組成勾配を導入することにより達成され得る。モザイク結晶は、互いにわずかに方位の異なる多数の結晶子で構成される結晶、又は内部欠陥若しくは歪みがある結晶である。
【0053】
結晶のエネルギーバンド幅の拡大は、また、原子番号の大きい元素、例えばゲルマニウム又はインジウムを使用することで達成され得る。複数の元素からなる結晶では、例えばアンチモン化合物がビームスプリッタとして選択される場合、結晶の平均原子番号は、具体的には、少なくとも32、例えば少なくとも49である。
【0054】
具体的には、ビームレットのフラックス(単位時間あたりのX線フォトン数)は、結晶のスペクトルアクセプタンスを広げること、及び微小角入射配置を用いた非対称回折を用いることの少なくとも一方によって増やすことができる。後者ではビームサイズが拡大される。
【0055】
好ましくは、少なくとも2つのビームスプリッタは、1つの単一の部品、具体的には単結晶の一部であり、この単一の部品は、互いに角度の異なる複数の散乱表面からなる。具体的には、この単一の部品は、曲げられたり、溝が掘られたり、又はパターン化されたりすることで、複数の散乱表面を有する。上記単一の部品は、例えば、単結晶を含む。この実験配置は、単一スプリッタ配置とも呼ばれる。この配置の有利な点は、散乱表面の大きさを10μmオーダーまで小さくできるため、非常に省スペースな配置が実現できることである。この配置では、回折素子の間を小さくできるため、ビームレット間の時間遅延をフェムト秒オーダーにでき、THzサンプリングレートで非常に高速な2D撮像が可能になる。具体的には、複数の単結晶が入射ビーム経路に沿って配置される。
【0056】
単一スプリッタ配置で用いる単結晶は溝付き結晶であり得て、ここで溝は機械的加工、エッチング、レーザ加工、及び/又は別の作製技術によって作製され得る。
【0057】
単一スプリッタ配置で用いる単結晶は、結晶性物質及びアモルファス物質のパターンを含むパターン化された結晶であり得て、ここで、結晶の一部のアモルファス化は、化学的方法、熱的方法、機械的方法、レーザ照射、イオン注入、及び/又はリソグラフィによって達成され得る。
【0058】
単一スプリッタ配置で用いる単結晶は、異なる格子面間隔や、異なる化学組成であり得るものであって、化学ドーピングを有する結晶性物質のパターンを含むパターン化された結晶であり得る。具体的には、結晶性物質は、基板物質との化学反応を伴う若しくは伴わない気相堆積技術、及び別の堆積技術で堆積され得るものであり、具体的にはスパッタ堆積法若しくはレーザ堆積法によって作製される。別の方法として、結晶性物質内に応力を発生させて、単結晶内において、いくつかの層の格子面間隔とその位置を変える技術を用いても作製される。
【0059】
単一スプリッタ配置で用いる単結晶はパターン化された結晶であり得て、ここでパターンは、標準的なリソグラフィ技術を用いて、又は放射線によって誘起された若しくは放射線を補助的に用いることで生じる物質のエロージョン/アブレーションによって導入できる。パターンは、結晶表面の一部又は複数の部分が放射線のマスクとして働くことによって形成され得る。
【0060】
具体的には、多重ビーム分割及びリダイレクト装置は、再結合された結晶を含み、それは、その結晶によって生成されたビームレットを測定点に集束させるように構成及び配置される。これにより、大きな試料の撮影が可能になる。
【0061】
好ましくは、多重ビーム分割及びリダイレクト装置は、少なくとも1つの一次ビームスプリッタ、及び少なくとも2つのビームスプリッタグループを含み、上記ビームスプリッタグループは上記ビームスプリッタを含み、一次ビームスプリッタは、入射ビーム経路上に配置され、一次ビームを散乱させることによって二次ビームを生成し、一次ビームを減衰させるように構成され、減衰された一次ビームは入射ビーム経路に沿って下流に伝播し、二次ビームは二次ビーム経路に沿って下流に伝播し、ビームスプリッタグループのうちの1つは、一次ビームスプリッタの下流の入射ビーム経路上に配置されており、他のビームスプリッタグループのうちの別のものは、二次ビーム経路上に配置されている。
【0062】
言い換えると、一次ビームは複数のブランチに分割され、複数のビームスプリッタグループに向けられる。有利なことに、断層撮影のための角度範囲は、異なるビームスプリッタグループからのビームレットが異なる側から測定点に向かうため、更に拡大される。角度範囲を更に増大するために、一次ビームは複数回分割され得る。一次ビームは、一次ビームスプリッタによって分割される。一次ビームスプリッタは、具体的には、振幅スプリッタ若しくは波面スプリッタとして使用される結晶、又は波面スプリッタとして使用されるミラーである。特に、一次ビームスプリッタは、一次ビームを分割し、その結果、第1のビームスプリッタグループによって生成されたビームレットを含む面は、第2のビームスプリッタグループによって生成されたビームレットを含む面とは非平行の平面になり得る。これにより、異なる視点から3D撮影が可能になる。
【0063】
好ましくは、多重ビーム分割及びリダイレクト装置は、パルス一次ビームの単一パルスから生成されたすべてのビームレットのうち最初のビームレットと最後のビームレットが測定点に到達する時間差がマイクロ秒未満、例えば、ナノ秒未満、1ピコ秒から1ナノ秒のオーダーであるように構成される。
【0064】
単一パルスから生成されたビームレット間の時間差を、ナノ秒又はピコ秒オーダーに保つことによって、非常に高速な動的プロセスの3次元断層画像を取得することが可能である。
【0065】
具体的には、多重ビーム分割及びリダイレクト装置は、異なる物質でできた少なくとも2つのビームスプリッタを含み、ここで異なる物質の格子面間隔の差は、例えば、65%未満、20%未満、5%未満である。
【0066】
非常に類似した格子定数を備える2つ以上のビームスプリッタを用いることにより、ピコ秒又はフェムト秒オーダーの非常に短い時間差を有する2つ以上のビームレットが生成され、干渉法に利用され得る。更に高速な干渉法は、この光学系の小型化により実現され得る。実際に、ビームレット間の時間差は光学系の大きさに比例する。このような小型化された光学系は、異なる2つの元素の濃度勾配を有する結晶、例えばSixGe1-xに溝を掘って曲げることによって実現され得て、その結果、溝に挟まれた結晶の表面は格子定数の勾配を有し、各表面はわずかに異なる物質として機能するがほぼ同じ格子定数を有し、同じエネルギーのビームレットを回折するが、時間の間隔はそれらの間の距離に比例する。このタイプの光学系は非常に小型化され得るため、結晶表面の大きさは、それらの間隔が10μmオーダーになるまで小さくできる可能性があり、したがって、ビームレット間の時間距離はフェムト秒オーダーになり得る。これらのビームレットは同じエネルギーを有するため、それらは干渉してフェムト秒オーダーの干渉法が可能になる。
【0067】
具体的な実験配置としては、表面が平坦な結晶、及び/又は正規化マスクが、一次ビーム経路上の多重ビーム分割及びリダイレクト装置の前方に配置され、ここで前者は、透過配置において一次ビームを回折するように構成及び配置される。表面が平坦な結晶の利点は、ボルマン三角形と呼ばれる現象に起因するビームの不均一性を平滑化できることである。一実施形態では、表面が平坦な結晶は、ダイヤモンド又はより軽い物質で作られている。別の実施形態によると、表面が平坦な結晶はダイヤモンドより重い物質から作られている。正規化マスクは、一次ビームの空間構造を除去するように構成される。別の方法として、一次ビームの空間構造は画像解析アルゴリズムによっても除去される。
【0068】
本発明の目的は、断層撮影装置によって更に達成される。断層撮影装置は、光源、少なくとも1つの画像検出器、及び前述の実施形態のいずれかによる多重ビーム分割及びリダイレクト装置を含み、ここで光源は一次ビームを発生するように構成され、ここで少なくとも1つの画像検出器は、測定点を通過した後にビームレットの強度を測定するように配置及び構成され、ここで断層撮影装置は、測定点において試料の3次元画像データセットを、画像検出器で測定された各ビームレットの強度と、各ビームレットが一次ビームとなす角度と、から取得するように構成される。
【0069】
断層撮影装置は、多重ビーム分割及びリダイレクト装置と同じ又は類似の機能、利点、及び特性を具体化し、したがって、これは繰り返すべきでない。
【0070】
これに加えて、断層撮影装置は、当技術分野で周知の断層撮影法を使用して、3次元画像データセットから3次元断層画像を生成する。
【0071】
光源は、X線源、ガンマ線源、及び/又は中性子源であり得る。具体的には、光源は、実験室光源、シンクロトロン光源、XFEL光源、及び別の任意のタイプの適切な光源の少なくとも一つである。
【0072】
画像検出器は、具体的には、間接撮像型のX線、ガンマ、中性子、及び/又はUV画像検出器であり、具体的には、シンチレータ及び可視光検出器、例えば電荷結合デバイス(CCD)、又は相補型金属酸化膜半導体(CMOS)、又は科学計測用CMOS(sCMOS)を含む。別の実施形態によると、画像検出器は、直接撮像型フォトンカウンティング又は積分型検出器である。例えば、画像検出器は、少なくとも1つのカメラ、及び/又は大面積画像検出器を含む。
【0073】
一実施形態では、単一の画像検出器は、測定点を通過するすべてのビームレットを検出するように配置される。単一の検出器は、例えば湾曲した検出器である。別の実施形態によると、ビームレットは複数の画像検出器によって検出される。例えば、すべてのビームレットは異なる画像検出器によって検出される。例えば、検出器の少なくとも1つはカメラであり、ここで少なくとも1つのカメラの位置、及びカメラの数は、所望の視野角及び取得時間に基づいて選択される。
【0074】
好ましくは、断層撮影装置は、入射ビーム経路上の多重ビーム分割及びリダイレクト装置の下流に配置された結晶分光器を含み、ここで結晶分光器は、例えば湾曲結晶であり、それは一次ビームのエネルギースペクトル全体を実質的に回折し、回折分光器ビームを生成するように構成され、ここで、回折分光器ビームを撮影するように構成された分光器画像検出器は、回折分光器ビームのビーム経路上に配置され、ここで、分光器画像検出器は、具体的には2次元検出器である。
【0075】
結晶分光器は、一次ビームに対して多数のブラッグ角を与える曲げやすい湾曲結晶からなる。結晶分光器と分光器画像検出器を用いると、ビームレットで使用されるエネルギー幅を調べられるため、ビームスプリッタの位置合わせに役立てることができる。
【0076】
好ましくは、断層撮影装置は、少なくとも1つの集光素子を含み、それは測定点の上流、及び下流の少なくとも一方において、ビームレットの少なくとも1つの経路上に配置される。
【0077】
具体的には、集光素子は、X線集光素子、ガンマ線集光素子、及び中性子集光素子の少なくとも一つである。X線集光素子は、例えば、フォーカス又はデフォーカスX線レンズである。集光素子の利点は、ビームレットを拡大又は縮小できることである。例えば、直接撮像型画像検出器を使用する場合には、可視光用のレンズを拡大に使用できないが、X線集光素子を用いれば拡大撮影ができる。
【0078】
別の断層撮影装置の具体例では、少なくとも2つの光源を含み、それぞれが一次ビームを生成し、それぞれの一次ビームは、それぞれ、異なる多重ビーム分割及びリダイレクト装置に入射される。この装置の有利な点は、180°を超える広い角度範囲で投影像の取得が可能になり、異なる平面内で投影像を取得できる点である。
【0079】
本発明の目的は、試料の3次元断層画像を取得する方法によって更に達成される。ここで試料は測定点に配置され、一次ビームは入射ビーム経路に沿って伝播し、少なくとも2つのビームスプリッタが互いにある距離をおいて入射ビーム経路上に配置され、それぞれが一次ビームを散乱させることによってビームレットを生成するとともに一次ビームを減衰させ、すべてのビームレットは入射ビームから離れた位置にある測定点の方向に伝播し、これは入射ビーム、測定点を通過した後のビームレットの強度は、少なくとも1つの画像検出器を用いて測定され、測定点における試料の3次元画像データセットは、少なくとも1つの画像検出器で測定された各ビームレットの強度と、各ビームレットが一次ビームとなす角度から取得するように構成される。
【0080】
また、この方法は、断層撮影装置及び本発明の多重ビーム分割及びリダイレクト装置と同じ類似の特徴、利点、及び特性を具体化する。
【0081】
試料の360°全周をカバーするために、試料は、第1の画像の取得後、次の第2の画像の取得前に回転され得る。
【0082】
この方法の一実施形態によると、2つのビームスプリッタは結晶であり、一次ビームを結晶の格子面で散乱させることによってビームレットを生成する。例えば、ここでの、ビームスプリッタは振幅スプリッタである。
【0083】
好ましくは、少なくとも2つのビームスプリッタのうちの少なくとも1つは、一次ビームを反射配置において散乱させる構成と、少なくとも2つのビームスプリッタのうちの少なくとも1つは、一次ビームを透過配置において散乱させる構成と、の少なくとも一つを有する。
【0084】
各ビームスプリッタは、好ましくは、一次ビームのエネルギースペクトルの異なる一部を、具体的に特定の結晶物質を選択する構成、及び結晶の向きを調整する構成の少なくとも一方によって散乱させ、一次ビームを特定の格子面により回折させる。
【0085】
好ましくは、一次ビームは、例えばパルス化されたX線ビーム、ガンマ線ビーム、又は中性子ビームである。
【0086】
少なくとも2つのビームスプリッタは、好ましくは、ビームレット方向に沿ってビームレットを生成し、ここで各ビームレットのビームレット方向は、一次ビームの方向とは異なるビームレット角度をなす。
【0087】
好ましくは、少なくとも2つのビームスプリッタは、第1のビームスプリッタ及び第2のビームスプリッタを含み、ここで第1のビームスプリッタによって生成される第1のビームレットは、第2のビームスプリッタによって生成される第2のビームレットとある角度をなし、ここで角度は0.1°~179.9°の間であり、具体的には、角0.1°~90°、0.1°~60°の間であってもよい。
【0088】
ビームスプリッタの少なくとも1つは、好ましくは、湾曲結晶及び/又はモザイク結晶である構成と、3~92の元素からなる結晶、もしくは、原子番号3~92の元素を含む結晶である。より好ましくは、原子番号が3、6、9、32、及び49の元素から選択された少なくとも二つの元素からなる構成であり、より好ましくは、原子番号が3,6,9,32,49の元素から選択される少なくとも二つの元素を含む結晶である。
【0089】
一実施形態によると、少なくとも2つのビームスプリッタは、単結晶の一部であり、ここで単結晶は、複数の散乱表面を含むように溝を掘って曲げられ、複数の散乱表面は互いにある角度をなす。
【0090】
好ましくは、少なくとも1つの一次ビームスプリッタは、入射ビーム経路上に配置され、一次ビームを散乱させることによって二次ビームを生成し、一次ビームを減衰させ、ここで減衰された一次ビームは入射ビーム経路に沿って下流に伝播し、二次ビームは二次ビーム経路に沿って下流に伝播し、ここで少なくとも2つのビームスプリッタを含む少なくとも2つのビームスプリッタグループのうちの1つは、入射ビーム経路上の一次ビームスプリッタの下流に配置され、少なくとも2つのビームスプリッタグループのうちの別のものは、二次ビーム経路上に配置される。
【0091】
好ましくは、パルス一次ビームの単一パルスから生成されたすべてのビームレットのうち最初のビームレットと最後のビームレットが測定点に到達する時間差は、マイクロ秒未満、例えばナノ秒未満である。
【0092】
一実施形態によると、結晶分光器は、入射ビーム経路上の多重ビーム分割及びリダイレクト装置の下流に配置され、ここで結晶分光器は、一次ビームのエネルギースペクトル全体を実質的に回折し、かつ回折分光器ビームを生成するように構成された湾曲結晶を含み、ここで分光器画像検出器は、回折分光器ビームのビーム経路上に配置され、回折分光器ビームを撮影する。ここで分光器画像検出器は、例えば2次元検出器である。
【0093】
好ましくは、少なくとも1つの集光素子は、ビームレットのうちの少なくとも1つの経路上の、測定点の上流、及び/又は下流に配置される。
【0094】
例えば、各ビームレットは異なるエネルギーを有するため、試料を回転すると、エネルギー分解断層撮影が実現され得る。すなわち、試料の回転ごとに異なるX線エネルギーに対応する複数の3D画像を取得することが可能である。また、エネルギー分解断層撮影は、一次ビームスプリッタと又は複数の光源と組み合わせても実現できる。すなわち、同じ試料を撮影する多重ビーム分割及びリダイレクト装置を生成し、同じエネルギーのビームレットを用いて異なる方向から試料を透過させ、これによって、試料を回転することなく、異なるX線エネルギーに対応する複数の3D画像を取得できる。
【0095】
本発明の更なる特徴は、特許請求の範囲及び図面とともに、本発明による実施形態の説明から明らかになるであろう。本発明による実施形態は、個々の特性又はいくつかの特性の組み合わせを満たし得る。
【0096】
本発明を以下で説明する。ただし、以下の例示的実施形態は、本発明の一般的な教示内容を制限するものではない。以下は、本文中には詳細が説明されていないが、本発明に伴う詳細のすべてに関連する内容を開示する図面について述べている。図面は以下を示している。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【
図1】多重ビーム分割及びリダイレクト装置を備えた断層撮影装置の反射配置における一実施形態の概略図である。
【
図2】多重ビーム分割及びリダイレクト装置を備えた断層撮影装置の透過配置における一実施形態の概略図である。
【
図3】結晶分光器を備えた断層撮影装置の一実施形態の概略図である。
【
図4】一次ビームスプリッタ、及び複数のビームスプリッタグループを備えた断層撮影装置の一実施形態の概略図である。
【
図5】複数の散乱表面を備えた単結晶を有する断層撮影装置の一実施形態の概略図である。
【
図6】ビームスプリッタとして機能する複数の単結晶を備えた断層撮影装置の一実施形態の概略図である。
【
図7】光学部材と非光学部材を含む、単一部品ビームスプリッタの概略図である。
【
図8】光学部材と非光学部材を含む、2次元、単一部品ビームスプリッタの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0098】
図面では、項目の重複を防ぐために、同じ、又は類似の要素、又はそれぞれ対応する部品に同じ符号を付けている。
【0099】
図1は、断層撮影装置2の第1の実施形態の概略図を示す。断層撮影装置2は、光源5、多重ビーム分割及びリダイレクト装置4、及び画像検出器6を含む。光源5は、例えば、入射ビーム経路22に沿って一次ビーム20を発生するX線源である。多重ビーム分割及びリダイレクト装置4は、入射ビーム経路22上に配置された複数のビームスプリッタ11、12、13、14を含む。ビームスプリッタ11、12、13、14は結晶であり、それぞれがブラッグ回折により一次ビーム20を散乱させ、したがって回折ビームレット31、32、33、34を生成し、一次ビーム20を減衰させる。各ビームレット31、32、33、34は、ビームレット方向31a、32a、33a、34aに伝播し、測定点40に集束し、測定点40に試料42が配置される。測定点40の下流のビームレット31、32、33、34の経路上に、画像検出器6が配置され、ビームレット31、32、33、34によって生成された強度分布を撮影する。ビームレット31、32、33、34が異なる方向から試料42を透過するため、強度分布を測定することによって試料42の3次元画像データセットが取得できる。3次元画像データセットから、試料42の3次元断層画像が計算され得る。画像検出器6は、間接撮像型画像検出器又は直接撮像型画像検出器であり得る。
【0100】
ビームレット31、32、33、34を測定点40に集束するために、ビームスプリッタ11、12、13、14間の距離18と、ビームレット31、32、33、34が一次ビーム20の方向となすビームレット角度θ1、θ2、θ3、θ4を適切に調整する必要がある。ブラッグの法則によると、ビームレット角度θ1、θ2、θ3、θ4は散乱角(ブラッグ角の2倍)に対応し、一次ビーム20の波長と、一次ビーム20を散乱させる格子面の格子面間隔に依存する。したがって、所定の波長を有する一次ビーム20のビームレット角度θ1、θ2、θ3、θ4を変えるには、格子面間隔も変える必要がある。これは、適切な格子定数を有する物質を選択し、一次ビーム20が所望のミラー指数を有する格子面により散乱されるように結晶の向きを調整することによって行われる。
【0101】
例えば、約0.069nmの波長を有する単色X線一次ビームは3つのビームスプリッタに入射する場合、第1のビームスプリッタはゲルマニウムで作製され、一次ビームが(022)格子面で散乱されるように結晶の向きが調整され、約10°のビームレット角度でビームレットを生成する。第2のビームスプリッタはシリコンで作製され、一次ビームが(004)格子面で散乱されるように結晶の向きが調整され、約14°のビームレット角度でビームレットを生成する。第3のビームスプリッタは炭素で作製され、一次ビームが(333)格子面で散乱されるように結晶の向きが調整され、約30°のビームレット角度でビームレットを生成する。
【0102】
広いエネルギースペクトルを有する一次ビーム20、例えばピンクビーム又は白色ビームが使用される場合、ビームスプリッタ11、12、13、14は、このエネルギースペクトルの異なる一部をそれぞれ散乱するように構成され得る。これにより、一次ビームのエネルギースペクトルの大部分を断層撮影に利用することが可能になる。当然ではあるが、ビームスプリッタ11、12、13、14は、適切な物質から作製され、互いに正しい方位及び距離18に配置される必要があり、その結果、エネルギースペクトルの異なる一部から生成されたビームレット31、32、33、34は、依然として測定点40に集束する。
【0103】
多重ビーム分割及びリダイレクト装置4の第1のビームスプリッタ11からのビームレットと最後のビームスプリッタ14からのビームレットのなす角度δは、
図1に示される断層撮影装置2の投影角度範囲を定義する。断層撮影のための広い角度範囲を実現するために、角度δは可能な限り大きくなるように選択される必要がある。
【0104】
図2は、断層撮影装置2の第2の実施形態の概略図を示す。この実施形態では、一次ビーム20は、
図2には示されていない大きな光源、例えば、シンクロトロン光源又はXFEL光源によって生成される。加えて、ビームスプリッタ11、12、13、14は、反射配置(ブラッグケース)の代わりに透過配置(ラウエケース)で一次ビーム20を散乱させるように構成される。
【0105】
ビームレット31のビーム経路上に、集光素子60が、測定点40の前方に配置され、別の集光素子61が、測定点40の下流に配置されている。集光素子60、61は、例えばX線集光素子であり、X線を拡大及び縮小して、測定点40を通過するときのビームレット31の空間的サイズを変化させる。
【0106】
図3は、断層撮影装置2の第3の実施形態の概略図を示す。この実施形態では、2つのビームスプリッタ11、12のみが、入射ビーム経路22上に配置される。ビームスプリッタ11、12によって生成された各ビームレット31、32に対して、別個の画像検出器6が与えられている。加えて、結晶分光器50は、入射ビーム経路22上のビームスプリッタ11、12の下流に配置されている。結晶分光器50は、例えば曲げやすい湾曲結晶であり、これは、一次ビーム20が散乱する多数の表面を与え、これによって回折分光器ビーム52を生成する。分光器画像検出器54は、例えば2次元検出器であり、回折分光器ビーム52を撮影して、一次ビーム20の全エネルギースペクトルを測定する。したがって、全エネルギースペクトルのうちどの一部がビームスプリッタ11、12によってビームレット31、32として散乱されるかを調べることが可能である。一次ビーム20のうちビームレット31、32として散乱されるエネルギーをモニターすることにより、ビームスプリッタ11、12の位置合わせが可能になる。一次ビームのカメラ56は、入射ビーム経路22上の結晶分光器50の下流に配置され、残りの一次ビーム20の強度分布を測定する。
【0107】
図4は、断層撮影装置2の第4の実施形態の概略図を示す。この実施形態では、一次ビームスプリッタ70は、第1のビーム20の経路上の、第1のビームスプリッタグループ71のビームスプリッタ11、12、13、14の前方に配置される。一次ビームスプリッタ70は、一次ビーム20の一部を二次ビーム74に分割し、これは、一次ビーム20とある角度をなす。
図4に示される例では、この角度は約90°である。しかしながら、一次ビーム20と二次ビーム74のなす角度は、0°~180°の間の任意の角度であり得る。二次ビーム74の二次ビーム経路76上には、ビームスプリッタ15、16を備えた第2のビームスプリッタグループ72が配置されている。ビームスプリッタ11、12、13、14と同様に、ビームスプリッタ15、16は、二次ビーム74を散乱させることによってビームレット35、36を生成し、ビームレット35、36を測定点40に集束させるように構成及び配置される。
【0108】
この実施形態による断層撮影装置2を用いると、ビームスプリッタ11、12、13、14、15、16を試料42の異なる側に配置できるため、より広い角度範囲で断層撮影が実現できる。第1のビームスプリッタグループ71のビームスプリッタ11、12、13、14及び第2のビームスプリッタグループ72のビームスプリッタ15、16は、単一の多重ビーム分割及びリダイレクト装置4の一部であってもよく、又は各ビームスプリッタグループ71、72として、異なる多重ビーム分割及びリダイレクト装置4を構成してもよい。
【0109】
角度範囲を更に大きくするために、一次ビーム20、及び/又は二次ビーム74は、複数の一次ビームスプリッタ70によって複数回分割され得て、それぞれのビームスプリッタグループ71、72を用いて更に多くのビームブランチを生成し得る。
【0110】
図5は、前述の単一スプリッタ配置の断層撮影装置2の第5の実施形態の概略図を示す。この実施形態では、ビームスプリッタ11、12、13は、単一の部品、この場合は単結晶80として実現される。すなわち、単一の部品は、単結晶を含み、具体的には、単結晶80からなる。以下、この単一の部品を単結晶80として説明する。単結晶80には、複数の散乱表面81、82、83を分けるために溝が掘られており、曲げられることによって、散乱表面81、82、83のうちの2つの面はある角度をなしている。したがって、生成されるビームレット31、32、33は、わずかに異なる位置から、わずかに異なる角度で測定点40に到達する。
図5の結晶80は3つの散乱表面81、82、83のみを有しているが、任意の数の散乱表面を結晶80に与えることができる。
【0111】
単結晶80の散乱表面の大きさは10μmオーダーまで小さくできるため、単結晶80をビームスプリッタ11、12、13として使用すると、実験配置の小型化が可能になる。加えて、ビームレット31、32、33の光路長差が非常に小さく、ビームレット31、32、33間の時間遅延はフェムト秒オーダーである。これにより、2D撮像用のTHzサンプリングレートが可能になる。
【0112】
図6は、複数の単結晶80をビームスプリッタとして用いた断層撮影装置2の一実施形態の概略図を示す。単結晶80はすべて、入射ビーム経路22上に配置され、すべての単結晶80のすべての散乱表面81、82、83からビームレット31、32、33が生成し、測定点40に伝播する。
【0113】
図7は、光学部材84及び非光学部材85を含む単結晶80の概略図を示す。光学部材84は、一次ビーム20を測定点40の方向に散乱させ、単結晶80の散乱表面81、82、83として機能するように構成されている。非光学部材85は、光学部材84の領域を互いに分離している。単結晶80は、溝付き結晶又はパターン化結晶であり得る。パターンは、結晶性及びアモルファス物質、異なる格子面間隔、異なる化学組成、若しくは異なるドーピング元素/濃度を有する結晶性物質のパターン、及び/又はリソグラフィ技術、若しくは材料の局所的アブレーションによって得られるパターンであり得る。最後の例は、結晶表面の一部をアブレーションに対してマスクすることで達成され得る。
【0114】
図8は、光学部材84及び非光学部材85を含む2次元の単一部品ビームスプリッタの概略図である。光学部材84は、格子状にパターン化されている。一次ビーム20は、各光学部材によって測定点40に向かって2次元的に散乱される。
【0115】
図面のみから得られるものを含むすべての名前が付けられた特性、及び別の特性と組み合わせて開示されている個々の特性は、単独及び組み合わせで、本発明にとって重要であるとみなされる。本発明による実施形態は、個々の特性、又はいくつかの特性の組み合わせによって実現され得る。「特に」、「具体的に」又は「例えば」という言葉と組み合わされた特徴は、好ましい実施形態として扱われるべきである。
【符号の説明】
【0116】
2 断層撮影装置
4 多重ビーム分割及びリダイレクト装置
5 光源
6 画像検出器
11,12,13,14,15,16 ビームスプリッタ
18 距離
20 一次ビーム
22 入射ビーム経路
31,32,33,34,35,36 ビームレット
31a,32a,33a,34a ビームレット方向
40 測定点
42 試料
50 結晶分光器
52 回折分光器ビーム
54 分光器画像検出器
56 一次ビームカメラ
60 集光素子
61 集光素子
70 一次ビームスプリッタ
71,72 ビームスプリッタグループ
74 二次ビーム
76 二次ビーム経路
80 単結晶
81,82,83 散乱表面
84 光学部材
85 非光学部材
δ 角度
θ1,θ2,θ3,θ4 ビームレット角度