(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053905
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】炭素繊維強化プラスチック積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 5/28 20060101AFI20230406BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20230406BHJP
B29C 70/34 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
B32B5/28 Z
B29C70/10
B29C70/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147882
(22)【出願日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2021162594
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】寺師 信夫
(72)【発明者】
【氏名】磯部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小泉 浩二
【テーマコード(参考)】
4F100
4F205
【Fターム(参考)】
4F100AA37A
4F100AA37B
4F100AA37C
4F100AB01B
4F100AD00B
4F100AD11A
4F100AD11B
4F100AD11C
4F100AG00B
4F100AJ04B
4F100AK04B
4F100AK05B
4F100AK07B
4F100AK21B
4F100AK25B
4F100AK27B
4F100AK41B
4F100AK46B
4F100AK47B
4F100AK49B
4F100AK53A
4F100AK53B
4F100AK53C
4F100AK69B
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA08
4F100DG03B
4F100DG04A
4F100DG04C
4F100DG10B
4F100DH00A
4F100DH00C
4F100EC01
4F100EJ17
4F100GB31
4F100GB87
4F100JB13B
4F100JK01
4F205AA05
4F205AB25
4F205AD16
4F205AG03
4F205HA14
4F205HA36
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB11
4F205HC02
4F205HC08
4F205HF05
4F205HT16
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】炭素繊維強化プラスチック積層体の耐衝撃性を向上できる。
【解決手段】本発明の炭素繊維強化プラスチック積層体10は、複数のCFPR層11が抄造層12を介して積層された積層構造を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭素繊維強化プラスチックで構成された層が抄造層を介して積層された積層構造を備える、炭素繊維強化プラスチック積層体。
【請求項2】
請求項1記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
JIS K 7086に従ってDCB試験(モードI)を行ったとき、き裂進展初期のモードI層間破壊靭性値をGICとし、き裂進展途中のモードI層間破壊靭性値の平均をGIRとしたとき、
GICが400~1,400J/m2であり、GIRが400~2,000J/m2である、炭素繊維強化プラスチック積層体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
JIS K 7086に従ってENF試験(モードII)を行ったとき、荷重-COD曲線における初期の直線の傾きより5%小さい直線が荷重-COD曲線と交わる交点の荷重値において得られるモードII層間破壊靭性値をGIIC(P5)、荷重-COD曲線の最大荷重値において得られるモードII層間破壊靭性値をGIIC(Pmax)としたとき、
GIIC(P5)が800~2,000J/m2であり、GIIC(Pmax)が800~4,000J/m2である、炭素繊維強化プラスチック積層体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記抄造層は強化短繊維を含む、炭素繊維強化プラスチック積層体。
【請求項5】
請求項1または2に記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記抄造層の少なくとも一部が、前記炭素繊維強化プラスチックで構成された層に入り込んでいる、炭素繊維強化プラスチック積層体。
【請求項6】
請求項1または2に記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記炭素繊維強化プラスチックで構成された層は、炭素長繊維が一定方向に配列している、炭素繊維強化プラスチック積層体。
【請求項7】
請求項1または2に記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記抄造層の厚みが0.01~0.8mmである、炭素繊維強化プラスチック積層体。
【請求項8】
請求項1または2に記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記抄造層は高密度ポリエチレンを含む、炭素繊維強化プラスチック積層体。
【請求項9】
請求項1または2に記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記抄造層は熱硬化性樹脂を含む、炭素繊維強化プラスチック積層体。
【請求項10】
請求項4に記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記強化短繊維は、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、およびエチレンビニルアルコール繊維の中から選ばれる1種または2種以上を含む、炭素繊維強化プラスチック積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチック積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
高い強度と軽量さを併せ持つ材料として、プラスチックに繊維を入れて強度を向上させた複合材料である繊維強化プラスチック(FRP)が知られている。とくに、繊維として炭素繊維を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は軽量かつ高強度・高剛性の設計が可能で、電気的特性や耐腐食性にも優れ、さまざまな用途での開発が進められている。例えば、金属材料に代わる材料として航空宇宙構造物、自動車・二輪車の構造用部材、大型の産業用機械部品、スポーツ用品などへ広く適用されている。
このようなCFRPは、炭素繊維に熱硬化性樹脂等を含浸させてプリプレグと呼ばれる板状の材料に加工され、かかるプリプレグを複数枚積み重ね、加熱圧着し硬化させた構造体として用いられる(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、従来のCFRPは、プリプレグを複数枚積み重ね、加熱圧着し硬化させるものであったため、外部からの衝撃によってプリプレグ同士の界面やプリプレグを構成する炭素繊維と樹脂との間が剥離し、層間剥離が生じる場合があった。そこで、特許文献2には、かかる層間剥離を抑制するため、プリプレグを積層する工程において、カーボンナノチューブを含有する樹脂薄膜をプリプレグの層間に挿入する製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-57340号公報
【特許文献2】特開2018-16030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるような従来技術は、層間剥離が生じやすいものであった。また、特許文献2に開示される技術は、カーボンナノチューブを樹脂中に分散させ樹脂に靭性を付与することで層間の強度を高めようとするものであったが、カーボンナノチューブは粒状であり、炭素繊維に絡まるものではなかった。そのため、特許文献2に開示される技術においても、層間剥離を抑制する点で依然として改善の余地があった。
【0006】
また、従来のCFRPは炭素繊維を熱硬化性樹脂で固めているので硬度が非常に高い。そのため、CFRPを含むプリプレグ等のシートが複数枚積層された構造体を加工する際に、かかるシート間で層間剥離が生じたり、耐衝撃性が不十分である場合があった。
【0007】
本発明者は、CFRPが積層された構造体における層間剥離の課題に着目し鋭意検討を行ったところ、新たに抄造層を介してCFRPを積層させることで層間剥離を効果的に抑制でき、良好な耐衝撃性が得られることを見出した。
ここで、抄造層とは、繊維を多量の溶媒中に分散させ抄くことで、繊維を平面上で均等に絡ませながら層状に堆積させて得られるものである。本発明者によれば、かかる抄造層中の繊維の絡まりがCFRP間を効果的に補強することによって、層間破壊靭性を向上させて層間剥離を抑制する結果、良好な耐衝撃性が得られることが知見され、本発明が完成された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の炭素繊維強化プラスチック積層体が提供される。
【0009】
[1] 複数の炭素繊維強化プラスチックで構成された層が抄造層を介して積層された積層構造を備える、炭素繊維強化プラスチック積層体。
[2] [1]記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
JIS K 7086に従ってDCB試験(モードI)を行ったとき、き裂進展初期のモードI層間破壊靭性値をGICとし、き裂進展途中のモードI層間破壊靭性値の平均をGIRとしたとき、
GICが400~1,400J/m2であり、GIRが400~2,000J/m2である、炭素繊維強化プラスチック積層体。
[3] [1]または[2]に記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
JIS K 7086に従ってENF試験(モードII)を行ったとき、荷重-COD曲線における初期の直線の傾きより5%小さい直線が荷重-COD曲線と交わる交点の荷重値において得られるモードII層間破壊靭性値をGIIC(P5)、荷重-COD曲線の最大荷重値において得られるモードII層間破壊靭性値をGIIC(Pmax)としたとき、
GIIC(P5)が800~2,000J/m2であり、GIIC(Pmax)が800~4,000J/m2である、炭素繊維強化プラスチック積層体。
[4] [1]乃至[3]いずれか一つに記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記抄造層は強化短繊維を含む、炭素繊維強化プラスチック積層体。
[5] [1]乃至[4]いずれか一つに記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記抄造層の少なくとも一部が、前記炭素繊維強化プラスチックで構成された層に入り込んでいる、炭素繊維強化プラスチック積層体。
[6] [1]乃至[5]いずれか一つに記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記炭素繊維強化プラスチックで構成された層は、炭素長繊維が一定方向に配列している、炭素繊維強化プラスチック積層体。
[7] [1]乃至[6]いずれか一つに記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記抄造層の厚みが0.01~0.8mmである、炭素繊維強化プラスチック積層体。
[8] [1]乃至[7]いずれか一つに記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記抄造層は高密度ポリエチレンを含む、炭素繊維強化プラスチック積層体。
[9] [1]乃至[8]いずれか一つに記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記抄造層は熱硬化性樹脂を含む、炭素繊維強化プラスチック積層体。
[10] [1]乃至[9]いずれか一つに記載の炭素繊維強化プラスチック積層体であって、
前記強化短繊維は、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、およびエチレンビニルアルコール繊維の中から選ばれる1種または2種以上を含む、炭素繊維強化プラスチック積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭素繊維強化プラスチック積層体の耐衝撃性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の炭素繊維強化プラスチック積層体を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態の炭素繊維強化プラスチック積層体の断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。煩雑さを避けるため、同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合がある。また、図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応するものではない。
【0014】
<炭素繊維強化プラスチック積層体>
図1に示すように、本実施形態の炭素繊維強化プラスチック積層体10は、2つの炭素繊維強化プラスチックで構成された層(以下「CFPR層11」とも表記する)が抄造層12を介して積層された積層構造を備える。すなわち、本実施形態の炭素繊維強化プラスチック積層体10は、CFPR層11a、抄造層12、およびCFPR層11bがこの順に積層している。これにより、CFPR層11aと抄造層12、CFPR層11bと抄造層12とのそれぞれの層間破壊靭性が向上し、炭素繊維強化プラスチック積層体10の層間剥離を効果的に抑制でき、良好な耐衝撃性が得られる。
【0015】
なお、本実施形態では、CFPR層11が二層である場合について説明するが、CFPR層11および抄造層12の積層数はこれに限られない。CFPR層11の間に抄造層12が配置されるように積層されればよい。
また、炭素繊維強化プラスチック積層体10の厚みは、CFPR層11および抄造層12それぞれの厚みおよび積層数によって調整することができる。また、抄造層12の厚みは、後述するプレ抄造層の厚み及び圧縮の程度とその積層数によって調整することができる。
【0016】
本実施形態の炭素繊維強化プラスチック積層体10は、抄造層12の少なくとも一部が、CFPR層11に入り込んでいる。
図2に示すように、CFPR層11を構成する複数の炭素長繊維21同士の隙間に、抄造層12の少なくとも一部がCFPR層11に含浸している。
抄造層12の一部としては、抄造層12を構成する繊維、及び任意の樹脂成分等が挙げられる。これにより、抄造層12とCFPR層11との層間破壊靭性をより強固にできる。
例えば、CFPR層11と抄造層12とを積層させる際に加熱加圧処理条件を制御することで抄造層12の少なくとも一部をCFPR層11内へ含浸させることができる。
【0017】
さらに、抄造層12が任意の樹脂成分等を含まない場合は、CFPR層11に含まれる樹脂成分が浸み出し、抄造層12の繊維に絡まることができる。これにより、炭素繊維強化プラスチック積層体10の層間破壊靭性を向上することができる。
【0018】
本実施形態の炭素繊維強化プラスチック積層体10は、JIS K 7086に従ってDCB試験(モードI)を行ったとき、き裂進展初期のモードI層間破壊靭性値をGICとし、き裂進展途中のモードI層間破壊靭性値の平均をGIRとしたとき、GICが400~1,400J/m2であり、GIRが400~2,000J/m2であることが好ましく、GICが1,000~1,800J/m2であり、GIRが1,000~2,000J/m2であることがより好ましい。
すなわち、本実施形態の炭素繊維強化プラスチック積層体10は、GICおよびGIRを上記数値範囲とすることで、層間破壊靭性を高くすることができ、層間に亀裂が生じにくいとともに、かりに一部に亀裂が生じたとしても、亀裂の進行を抑制でき、亀裂が層間内に進行して層間剥離に繋がることを抑制できる。かかる理由の詳細は明らかではないが、抄造層12の繊維が層間で絡まりながら位置することで亀裂の進行を止めることができると考えられる。その結果、良好な耐衝撃性が得られやすくなる。
【0019】
本実施形態の炭素繊維強化プラスチック積層体10は、JIS K 7086に従ってENF試験(モードII)を行ったとき、荷重-COD曲線における初期の直線の傾きより5%小さい直線が荷重-COD曲線と交わる交点の荷重値において得られるモードII層間破壊靭性値をGIIC(P5)、荷重-COD曲線の最大荷重値において得られるモードII層間破壊靭性値をGIIC(Pmax)としたとき、GIIC(P5)が800~2,000J/m2であり、GIIC(Pmax)が800~4,000J/m2あることが好ましく、GIIC(P5)が1,000~2,000J/m2であり、GIIC(Pmax)が1,000~4,000J/m2あることがより好ましく、GIIC(P5)が1,300~2,000J/m2であり、GIIC(Pmax)が2,500~4,000J/m2あることがさらに好ましい。
すなわち、本実施形態の炭素繊維強化プラスチック積層体10は、GIIC(P5)およびGIIC(Pmax)を上記数値範囲内とすることで、高い層間の靭性が得られ、衝撃等による層間剥離を抑制できる。かかる理由の詳細は明らかではないが、抄造層12の繊維が層間で絡まりながら位置することでクッションのように衝撃を吸収でき、亀裂の進行を止めることができると考えられる。その結果、良好な耐衝撃性が得られやすくなる。
【0020】
上記のようなモードI層間破壊靭性値およびモードII層間破壊靭性値を満たす炭素繊維強化プラスチック積層体10は、抄造層12を介在させつつ、抄造層12に含まれる強化短繊維の含有量や種類を調整したり、抄造層12に含まれる樹脂材料を適切に組み合わせる等して実現することができる。
【0021】
以下、本実施形態の炭素繊維強化プラスチック積層体10を構成する各層について説明する。
【0022】
[CFPR層]
本実施形態のCFPR層11は、炭素繊維強化プラスチックで構成された層である。すなわち、CFPR層11は、複数の炭素長繊維21に樹脂15が含浸されたシート状の部材である。より詳細には、
図2に示すように、抄造層12の一方に配置するCFPR層11aは、複数の炭素長繊維21aに樹脂15aが含浸されたシート状の部材であり、抄造層12の他方に配置するCFPR層11bは、複数の炭素長繊維21bに樹脂15bが含浸されたシート状の部材である。
本実施形態において複数の炭素長繊維21の向きは、一定方向にそろっていることが好ましく、
図2に示すように、炭素長繊維21の長さ方向に配向していることが好ましい。
なお、
図2では、複数の炭素長繊維21が長さ方向に配向して面を構成することで得られる層が一層である例が示されているが、これに限られない。たとえば、複数の炭素長繊維21によって構成された面が複数積層されたものであってもよく、また、束状にランダムに積み上げられた炭素長繊維21によって構成される層であってもよい。
【0023】
また、炭素繊維強化プラスチック積層体10においては、複数のCFPR層11を炭素長繊維21の配向方向が互いに異なるように必要数を積層してもよい。例えば、複数のCFPR層11を90度ずつ回転させるようにして、炭素長繊維21の延びる方向が直交するように交互に積層させてもよい。これにより、炭素繊維強化プラスチック積層体10において、炭素長繊維21の配向方向による機械的強度の異方性を低減できる。
なお、
図1、2においては、炭素長繊維21が繊維の長さ方向に配向し、CFPR層11aおよびCFPR層11bの炭素長繊維21は同じ方向に配向している。
【0024】
炭素長繊維21は、CFPR層11の一方の端部から他方の端部まで連続していることが好ましいが、一部が不連続であってもよい。
また、例えば、炭素長繊維21が配向する方向における炭素繊維強化プラスチック積層体10の長さを100とした場合、炭素長繊維21の長さは、50~100%の長さであることが好ましく、80~100%であることがより好ましい。
【0025】
炭素長繊維21の含有量は、CFPR層11を構成する全繊維に対して、好ましくは50~100体積%であり、より好ましくは60~99体積%であり、さらに好ましくは70~98体積%である。
炭素長繊維21の含有量を上記下限値以上とすることにより、炭素繊維強化プラスチック積層体10の所望の機械的強度を向上させることができる。一方、上記上限値以下とすることにより、炭素長繊維21以外の強化繊維を用いることができ、設計の幅を広げることができる。
【0026】
炭素長繊維21の繊維径は、特に限定されないが、層間破壊靭性を向上しやすくし、良好な機械的強度と加工性を得る観点から、1~20μmが好ましく、2~15μmであることがより好ましい。
【0027】
炭素長繊維21の繊維径および繊維長は、例えば電子顕微鏡で観察し、繊維径および長さを測定することができる。
【0028】
CFPR層11を構成する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、シアネート樹脂、およびポリイミド樹脂等の公知の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0029】
[抄造層]
本実施形態の抄造層12は、複数のCFPR層11同士を密着させるために用いられる。
本実施形態の抄造層12は、強化短繊維を多量の溶媒中に分散させ抄くことで、強化短繊維を均等に絡ませながら層状に堆積させて得られたものである。また、抄造することで、強化短繊維の割合を高めつつ、より均等に絡ませることができる。かかる強化短繊維の絡まりにより、層間破壊靭性を飛躍的に向上できると考えられる。
【0030】
(強化短繊維)
強化短繊維としては、例えば、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、およびエチレンビニルアルコール繊維の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
なかでも、高い層間破壊靭性を得る観点から、金属繊維、炭素繊維、およびガラス繊維であることが好ましい。
【0031】
本実施形態の抄造層12の厚みは、好ましくは0.01~0.8mmであり、より好ましくは0.1~0.3mmである。
抄造層12の厚みを上記下限値以上とすることにより、層間の靭性を高めることができる。一方、抄造層12の厚みを上記上限値以下とすることにより、層間剥離を抑制しつつ、層間の良好な密着性を保持できる。
抄造層12の厚みは、炭素繊維強化プラスチック積層体10の断面を観察したとき、一方のCFPR層11の炭素長繊維21の外縁から、他方のCFPR層11の炭素長繊維21の外縁までの距離を複数測定し、その平均値を算出することで得られる。
また、抄造層12の厚みは、抄造層12に含まれる強化短繊維の含有量等によって調整できる。
【0032】
強化短繊維の含有量は、後述の任意の無機フィラーの含有量との合計量に応じて適宜調整されることが好ましい。
強化短繊維と無機フィラーの合計の含有量が、抄造層12全体に対して50~95体積%であることが好ましく、60~90体積%であることがより好ましく、70~80体積%であることがさらに好ましい。
強化短繊維と無機フィラーの合計の含有量を上記下限値以上とすることにより、抄造層12全体の機械的強度を保持しつつ、層間破壊靭性を良好にできる。一方、強化短繊維と無機フィラーの合計の含有量を上記上限値以下とすることにより、良好な成形性を保持できる。
【0033】
本実施形態の抄造層12は、強化短繊維を含むことで層間破壊靭性を十分に向上させることができるが、強化短繊維以外に、目的に応じて、パルプ繊維、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、無機フィラー、および凝集剤等の他の成分を含んでもよい。
【0034】
(パルプ繊維)
本実施形態に係る抄造層12は、抄造層12の製造過程におけるハンドリング性を良好にする観点から、パルプ繊維を含んでもよい。
パルプ繊維としては、特に限定されるものではないが、例えば、リンターパルプや木材パルプ等のセルロース繊維、ケナフ、ジュート、竹などの天然繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維やその共重合体、芳香族ポリエステル繊維、ポリベンザゾール繊維、メタ型アラミド繊維やその共重合体、アクリル繊維、アクリロニトリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維をフィブリル化したパルプ状繊維が挙げられる。パルプ繊維としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
(熱可塑性樹脂)
本実施形態の熱可塑性樹脂としては、α-オレフィン系樹脂およびα-オレフィンを用いた共重合体、ポリエステル樹脂、およびポリスチレン樹脂等が挙げられる。
α-オレフィン系樹脂およびα-オレフィンを用いた共重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。なかでもポリエチレンが好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましい。抄造層12が高密度ポリエチレン(HDPE)を含むことで、炭素繊維強化プラスチック積層体10の層間破壊靭性を効果的に向上できる。
【0036】
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT)等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0037】
(熱硬化性樹脂)
本実施形態の熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、および不飽和ポリエステル樹脂などを用いることができる。熱硬化性樹脂としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。熱硬化性樹脂としては、なかでも、フェノール樹脂、エポキシ樹脂が好ましい。
【0038】
上記フェノール樹脂としては、具体的には、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、アリールアルキレン型フェノール樹脂などが挙げられる。フェノール樹脂として、これらの中の1種類を単独で用いてよいし、異なる重量平均分子量を有する2種類以上を併用してもよく、1種類または2種類以上と、それらのプレポリマーとを併用してもよい。
【0039】
エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等に例示されるトリフェニル型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂(ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂)、ビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂;臭素化ビスフェノールA型、臭素化フェノールノボラック型などの臭素化型エポキシ樹脂;トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂などが挙げられる。エポキシ樹脂としては、これらの中から1種を単独で用いてよいし、異なる2種類以上を併用してもよい。
【0040】
(無機フィラー)
本実施形態において、無機フィラーは、機械的強度を高くするために用いられる。
無機フィラーとしては、例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、結晶または溶融シリカ、表面処理シリカ、タルク、カオリン、クレー、マイカ、ドロマイト、ウォラストナイト、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスビーズ、ジルコン、およびモリブデン化合物の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。なかでも、抄造層12全体として機械的強度と成形性のバランスを向上させやすくする観点から、溶融シリカが好ましく、クレーがより好ましく、これらの混合物であってもよい。
【0041】
無機フィラーは、表面処理が施されたものであってもよい。表面処理としては、例えば、予めシランカップリング剤等のカップリング剤によるものが挙げられる。これにより、無機フィラーの凝集を抑制し、良好な分散性を得ることができる。
カップリング剤としては、例えばγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等の1級アミノシランを用いることができる。
カップリング剤を用いる場合、その含有量は、特に限定されないが、無機フィラー100重量部に対して0.05~3重量部であるのが好ましく、0.1~2重量部であるのがより好ましい。
【0042】
無機フィラーの形状としては、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、球状、真球状および無定形状といった粒状;、真針状、繊維状、板状等が挙げられる。
無機フィラーが粒状の場合、その平均粒径は、0.1~100μmであることが好ましく、0.1~50μmであることがより好ましく、0.1~20μmであることがさらに好ましい。
無機フィラーの平均粒径を、上記下限値以上とすることにより、良好な分散性を得つつ、機械的強度が向上できる。一方、無機フィラーの平均粒径を、上記上限値以下とすることにより、分散性を保持し、機械的強度を安定化できる。
無機フィラーの材料として、繊維状のものを選択した場合、カット処理などにより、繊維長を短くすることが好適である。無機フィラーとしては、最長径が100μm以下であることが好ましく、90μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることがさらに好ましい。また繊維状の場合、その断面径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0043】
無機フィラーの平均粒径は、体積基準粒度分布の累積50%となる粒子径(D50)であり、市販のレーザー式粒度分布計(たとえば、株式会社島津製作所製、SALD-7000)で測定することができる。
【0044】
(凝集剤)
本実施形態に係る抄造層12は、例えば、凝集剤を含んでもよい。これにより、任意の樹脂成分と、強化短繊維とをフロック上に凝集させることができる。
凝集剤としては、具体的には、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤などを用いることができる。このようなものとして、例えば、カチオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド、ホフマンポリアクリルアミド、マンニックポリアクリルアミド、両性共重合ポリアクリルアミド、カチオン化澱粉、両性澱粉、ポリエチレンオキサイドなどを挙げることができる。これらの高分子凝集剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、高分子凝集剤として、ポリマー構造や分子量、水酸基やイオン性基などの官能基量などは、必要特性に応じて特に制限無く使用可能である。
【0045】
(その他の成分)
本実施形態に係る抄造層12は、さらに、例えば、抄造薬剤、イオン交換剤、凝集剤、導電性付与剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、相溶化剤、分散剤、結晶核剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、発泡剤、抗菌剤、制震剤、防臭剤、摺動性改質剤、および帯電防止剤などが例示される。
【0046】
[製法]
本実施形態の抄造層12は、予めプレ抄造層を得たのちに、CFPR層とともに加熱加圧されることで得られる。プレ抄造層は、公知の方法で得ることができるが、例えば、以下の方法で得ることができる。
【0047】
まず、強化短繊維等の繊維と上記の樹脂成分などの任意成分(ただし、凝集剤を除く)を分散媒中で分散して、スラリーを調製する。
【0048】
上記の樹脂成分としては、熱硬化性樹脂、熱可塑樹脂などの樹脂を単独で分散媒中に添加してもよく、また、硬化剤および硬化促進剤などを含む樹脂混練物として、分散媒中に添加してもよく、両者をともに添加してもよい。
【0049】
上記の樹脂混練物としては、例えば、熱硬化性樹脂、硬化剤、および硬化促進剤等と混合して調製した熱硬化性樹脂組成物を用いることができる。この場合、熱硬化性樹脂組成物は、25℃で固体であることが好ましく、粉粒状、粉末状または顆粒状であることがより好ましい。
【0050】
また、熱硬化性樹脂としては、上記の熱硬化性樹脂と同様のものが挙げられる。
硬化剤としては、熱硬化性樹脂を硬化させるものでは特に限定されず、公知のものを用いることができるが、例えば、フェノール系硬化剤が挙げられる。熱硬化性樹脂と硬化剤の含有量は、熱硬化性樹脂と硬化剤に応じて適宜設定される。例えば、硬化剤としてのフェノール系硬化剤と、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂は、全熱硬化性樹脂中のエポキシ基数(EP)と全フェノール樹脂のフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP)/(OH)は、好ましくは、0.8以上1.6以下、より好ましくは0.9以上1.3以下、さらに好ましくは1.0以上1.2以下となるように調整される。
硬化促進剤としては、熱硬化性樹脂と硬化剤との反応を促進させるものであれば特に限定されず公知のものを用いることができるが、例えば、イミダゾール系化合物が挙げられる。
【0051】
熱硬化性樹脂組成物を得る方法としては、例えば、熱硬化性樹脂、硬化剤、および硬化促進剤等とをミキサーを用いて混合した後、二軸ロール等を用いて、例えば70~90℃、5~10分混練することにより混練物を得て、得られた混練物を冷却後、粉砕する方法等が挙げられる。このような方法により、硬化性樹脂、硬化剤、および硬化促進剤といった各成分が均一に分散した熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
熱硬化性樹脂組成物が粉粒状、粉末状または顆粒状であるである場合、その平均粒径(d50)は、10~100μmが好ましく、20~80μmがより好ましく、30~70μmであることがさらに好ましい。これにより、得られる積層体の層間破壊靭性を効果的に高めることができる。
【0052】
また、上記の分散媒としては限定されず、具体的には、水;エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、2-ヘプタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸メチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン、イソプロピルエーテル、ジオキサン、フルフラールなどのエーテル類などが挙げられる。
【0053】
次に、分散液に、必要に応じて凝集剤を添加して、凝集物を形成する。なお、強化短繊維および樹脂成分が十分に凝集し、凝集物を形成する場合、凝集工程は行わなくてもよい。
つづけて、底面にメッシュを備える容器に、上記のスラリーを入れることによって、分散媒と凝集物とを分離し、メッシュ上に凝集物を残存させ、平坦なシート形状の凝集物を得る。シートの厚みは、材料スラリー中の上記各材料の量を調整したり、再度スラリーを作製して分離工程を行ったりすることによって調整することができる。
その後、脱水プレス、および乾燥することで、分散媒を取り除き、熱硬化性樹脂を含む場合はBステージ状態のプレ抄造層とすることができる。
【0054】
プレ抄造層は、後にCFPR層とともに加熱加圧されることで、熱硬化性樹脂を含む場合は完全硬化され、抄造層12となる。プレ抄造層の厚みは、強化短繊維の割合や無機フィラーの割合等によって適宜調整することができる。
【0055】
[用途]
炭素繊維強化プラスチック積層体10の用途は特に限定されない。用途としては、例えば、自動車、航空機、鉄道車両、船舶、事務機器、汎用機械、家庭用電化製品、電機機器、各種筺体、構造・機構部品などを挙げることができる。もちろん、これら以外の用途も排除されない。
【0056】
<炭素繊維強化プラスチック積層体の製造方法>
本実施形態の炭素繊維強化プラスチック積層体10の製造方法の一例について説明する。
まず、CFPR層11およびプレ抄造層をそれぞれ準備する。CFPR層11およびプレ抄造層は、公知の方法により得ることができる。
【0057】
次に、プレ抄造層を介在させるようにしてCFPR層11を積層し、上下方向から、加熱加圧して一体化させ、CFPR層11および抄造層12の積層構造を得る。例えば、加熱加圧方法としては、特に限定されないが、プレス成形やオートクレーブを用いる方法が挙げられる。また、加熱加圧条件としては、CFPR層11に応じて適宜調整されることが好ましいが、例えば、130~180℃、0.4~40MPa、2~4時間とすることが好ましい。なお、加熱加圧方法としてオートクレーブを用いる場合は、0.4~1MPaとすることが好適である。
この過程で、CFPR層11中の炭素長繊維21と炭素長繊維21の間に介在する樹脂成分と、プレ抄造層に含まれる任意の樹脂成分は、溶融または軟化状態を経て硬化することによって、CFPR層11および抄造層12が一体化できる。このとき、CFPR層11中の炭素長繊維21と炭素長繊維21の間に介在する樹脂成分が抄造層12中の繊維に含浸したり、抄造層12中の繊維が炭素長繊維21と炭素長繊維21の間に入り込み、絡まることで、炭素繊維強化プラスチック積層体10の層間破壊靭性を効果的に高め、良好な耐衝撃性をえることができる。また、プレ抄造層は圧縮され、得られる抄造層12の厚みは、プレ抄造層の厚みよりも小さいものとなる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0059】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0060】
(1)熱硬化性樹脂組成物の作成
表1に示す重量割合となるように、以下の原料をミキサー混合した後、二軸ロールを用いて80℃で、5分間混錬し、得られた混錬物を、冷却、粉砕することにより、平均粒径がともに50μmのエポキシ樹脂組成物1およびエポキシ樹脂組成物2をそれぞれ得た。
(原料)
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:「EPICLON N-680」DIC社製、当量214
・ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂:「EPICRON HP-7200」DIC社製、当量261
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂:「YD-012」日鉄ケミカル&マテリアル社製、当量650
・フェノールノボラック樹脂(硬化剤):「A-1087」住友ベークライト社製、当量130
・イミダゾール系硬化促進剤:「2PHZ-PW」四国化成社製
【0061】
【0062】
(2)プレ抄造層の作製
プレ抄造層として、以下のものを用意した。
・強化短繊維1:カーボン繊維、東邦テナックス社製「HT C110」繊維長3mm
・強化短繊維2:カーボン繊維、東邦テナックス社製「HT C110」繊維長6mm
・強化短繊維3:カーボン繊維、東レ製「T800SC」繊維長6mm
・パルプ繊維:帝人社製「トワロン1094」(登録商標)
・高密度ポリエチレン:三井化学社製「SWP E400」
・エポキシ樹脂組成物1:上記(1)で得られたもの
・エポキシ樹脂組成物2:上記(1)で得られたもの
【0063】
次に、以下の手順でシート状のプレ抄造層を調製した。
分散媒としての水に、上記の原料を表2に示す体積割合(体積%;合計100体積%)となるように加え、20分間撹拌して、固形分濃度0.15重量%のスラリーを得た。
得られたスラリーに、あらかじめ調製したポリ(メタ)アクリル酸エステルエマルジョン(ハイモ株式会社製の「ハイモロック DR-9300」)を、スラリー中の固形分に対して300ppmとなるように添加し、スラリー中の固形分を凝集させた。
次いで、凝集物を含むスラリーを、30メッシュの金属網(スクリーン)で濾過し、スクリーン上に残ったシート状の凝集物を、圧力3MPaでプレスして脱水率が20%となるように脱水した。脱水した凝集物を、70℃で3時間乾燥させて、シート状抄造体(厚み1mm)を得た。
なお、脱水率とは、素形体(脱水前)に含まれる水の質量を100%としたとき、脱水後の素形体(抄造体)に含まれる水の質量を示す。
【0064】
(3)CFPR層の作製
CFPR層として、以下のものを用意した。
・CFPR1:トレカ(登録商標)プリプレグ「P3252S-15」東レ社製(厚み0.14mm)炭素繊維含有率67質量%、エポキシ樹脂含有率33質量%
【0065】
(4)炭素繊維強化プラスチック積層体の作製
プレ抄造層を介在するように複数のCFPR層を積層し、プレス成形で130℃、5MPaで、4時間、加熱硬化することで一体化し、CFPR層、プレ抄造層、CFPR層の順の積層体を得た。なお、得られた積層体の厚みが2mm(層間破壊靭性試験用)のものと、4mm(耐衝撃性試験用)のものとなるよう、CFPR層(0.14mm)およびプレ抄造層(1mm)の層数をそれぞれ調整した。また、積層体における抄造層の厚み(プレ抄造層が圧縮成形されたのちに得られた層)はいずれも0.2mmであった。
【0066】
(5)炭素繊維強化プラスチック積層体の物性の測定
得られた炭素繊維強化プラスチック積層体について、以下の測定・評価を行った。
【0067】
[モードI層間破壊靭性値]
JIS K 7086に従ってDCB試験(モードI)を行ったとき、き裂進展初期のモードI層間破壊靭性値(GIC)、き裂進展途中のモードI層間破壊靭性値の平均値(GI)をそれぞれについて測定した。
【0068】
[モードII層間破壊靭性値]
JIS K 7086に従ってENF試験(モードII)を行ったとき、荷重-COD曲線における初期の直線の傾きより5%小さい直線が荷重-COD曲線と交わる交点の荷重値において得られるモードII層間破壊靭性値(GIIC(P5))、荷重-COD曲線の最大荷重値において得られるモードII層間破壊靭性値(GIIC(Pmax))をそれぞれについて測定した。
【0069】
(6)評価
・耐衝撃性
得られた炭素繊維強化プラスチック積層体を用いて、JIS K 7211-2に準拠して、以下の条件で落錘衝撃試験を行い、その後、超音波探傷検査法(SAT)により層間破壊された寸法(直径:mm)を測定した。
条件:試験片厚さ 4mm
落錘衝突エネルギー 1.8J
ストライカー先端直径 φ20mm
試験温度 常温
【0070】