(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053907
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】高分子合成方法
(51)【国際特許分類】
C08G 61/12 20060101AFI20230406BHJP
C08F 12/30 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C08G61/12
C08F12/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149166
(22)【出願日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2021162662
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521430564
【氏名又は名称】藤木 弘直
(74)【代理人】
【識別番号】100087594
【弁理士】
【氏名又は名称】福村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】藤木 弘直
【テーマコード(参考)】
4J032
4J100
【Fターム(参考)】
4J032BA04
4J032BA14
4J032BB01
4J032BC01
4J032BC13
4J032BD02
4J032CG01
4J032CG06
4J100AB07P
4J100BA56P
4J100CA01
4J100DA56
4J100EA01
4J100FA03
4J100FA19
4J100HA55
4J100HC71
4J100HE05
4J100HE12
4J100JA45
(57)【要約】
【課題】重合によって得られる重合性高分子の製造方法であり、特には導電性高分子の全く新規の製造方法を提供することを課題とする。
【手段】水系溶媒中で、酸化性気体のファインバブルを、水系溶媒中で重合可能な単量体及び/又は前記単量体のオリゴマーに、接触させることによって重合を生起させることを特徴とする高分子合成方法を手段とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系溶媒中で、酸化性気体のファインバブルを、水系溶媒中で重合可能な単量体及び/又は前記単量体のオリゴマーに、接触させることによって重合を生起させることを特徴とする高分子合成方法。
【請求項2】
酸化性気体がオゾン及び/又は酸素である請求項1に記載の高分子合成方法。
【請求項3】
前記単量体が、水系溶媒中で重合反応により導電性高分子を形成可能な単量体、又は水系溶媒中で重合反応により水溶性高分子を形成可能な単量体である前記請求項1又は2に記載の高分子合成方法。
【請求項4】
前記水系溶媒中で重合反応により導電性高分子を形成可能な単量体が、(1)下記式(1)で示される3,4-ジアルコキシチオフェン及び/若しくはカルボン酸とスルホン酸とのいずれか一方もしくは両方を置換する単量体、又は(2)ピロール及び/若しくはカルボン酸とスルホン酸とのいずれか一方もしくは両方を置換する単量体であり、
【化1】
[ただし、式中、R
1 およびR
2 は相互に独立して水素またはC
1-4 のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC
1-4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されていても良い。]
重合により前記水溶性高分子を形成可能な単量体が、カルボン酸及び/又はスルホン酸を置換する水溶性酸誘導体を含むものである前記請求項2又は請求項3に記載の高分子合成方法。
【請求項5】
導電性高分子のドーパントとなり得るポリアニオンの存在下に、水系溶媒中で、オゾン及び/又は酸素のファインバブルを、請求項4に記載の3,4-ジアルコキシチオフェンおよびその誘導体あるいはそれらのオリゴマーを重合させる前記請求項1~4のいずれか一項に記載の高分子合成方法。
【請求項6】
水系溶媒中、スチレンスルホン酸塩を用いてオゾン及び又は酸素のファインバブルを用いて酸化重合し、ポリスチレンスルホン酸塩を得る請求項2記載の高分子合成方法。
【請求項7】
水系溶媒中で、酸化性気体のファインバブルを、水系溶媒中で自己ドープ型導電性高分子を合成可能な単量体及び/又は前記単量体のオリゴマーに、接触させることによって酸化重合を生起させることを特徴とする高分子合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化性気体のファインバブルを用いて酸化重合可能な単量体を酸化重合して高分子を合成する方法に関する。更に詳しくは導電性高分子又は水溶性高分子を得る新規の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性高分子が実際に多くの用途に使用されてきている。例えば帯電防止膜や光学用途用の導電膜、あるいはキャパシタの電極としての用途も進んでいる。導電性高分子自身もまた多くの展開がなされているが、代表的なものとしてエチレンジオキシエチレンがある。又最近は自己ドープ型の単量体を用いたエチレンジオキシエチレンの誘導体なども開発されている。
一方、これらの重合体の重合方法は 特許文献(1)に記載されているような酸化剤を用いた重合方法が殆どの場合踏襲されている。
一方、酸素ナノバブルによる化合物のアルコール中でのケトンやアルデヒドへの酸化方法が非特許文献1に記載されている。また、特許文献2にはやはり有機溶剤中での上記文献同様の有機化合物のナノバブルによる光酸化反応が報告されている。
しかしこれらはいずれも、有機溶媒中での反応であり、当該特許のように水系ではなく、かつ重合体を形成する方法を提示したものではない。
また、特許文献3には、水系溶媒中で、ポリアニオンの存在下に、重合開始剤により特定の3,4-ジアルコキシチオフェンを重合することにより導電性高分子を含有する被膜を有するフィルムを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-90060号
【特許文献2】特開2015-168867号
【特許文献3】特開2014-40549号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本プロセス化学会 2012サマーシンポジウム 講演要旨集,2012年 6月25日,254頁,2P-34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の導電性高分子製造方法は水溶液中で 酸化剤や、触媒を用いて製造されている。この従来の製造方法には以下の問題点がある。すなわち、この酸化剤の分解残渣や触媒の除去などに多くの費用がかかり、これによって、導電性高分子の製造コストを上昇させているという問題点、重合体に残渣として大量に含まれるスルホン酸や鉄イオンなどの不純物が導電性高分子の経年による劣化を促進しているという問題点である。これらの問題点を解決するために、イオン交換法や限外濾過法によってこれらの不純物を除去することが知られている。しかしながら、このような不純物除去の方法はコストが嵩み、また不純物の全量を除去することができるものではなく、しかもイオン交換剤の排出などの環境に与える負荷も大きい。
また、従来から知られている水溶性高分子を、触媒を用いて製造する場合においても、上記と同様に、得られた水溶性高分子中に触媒残渣等が含まれており、上記と同様の問題点がある。
本発明の課題は、これらの問題点を解決しうる全く新規の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明の手段は、
(1) 水系溶媒中で、酸化性気体のファインバブルを、水系溶媒中で重合可能な単量体及び/又は前記単量体のオリゴマーに、接触させることによって重合を生起させることを特徴とする高分子合成方法であり、
(2) 酸化性気体がオゾン及び/又は酸素である前記(1)に記載の高分子合成方法であり、
(3) 前記単量体が、水系溶媒中で重合反応により導電性高分子を形成可能な単量体、又は水系溶媒中で重合反応により水溶性高分子を形成可能な単量体である前記(1)又は(2)に記載の高分子合成方法であり、
(4) 前記水系溶媒中で重合反応により導電性高分子を形成可能な単量体が、(1)下記式(1)で示される3,4-ジアルコキシチオフェン及び/若しくはカルボン酸とスルホン酸とのいずれか一方もしくは両方を置換する単量体、又は(2)ピロール及び/若しくはカルボン酸とスルホン酸とのいずれか一方もしくは両方を置換する単量体であり、
【0007】
【0008】
[ただし、式中、R1 およびR2 は相互に独立して水素またはC1-4 のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC1-4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されていても良い。]
重合により前記水溶性高分子を形成可能な単量体が、カルボン酸及び/又はスルホン酸を置換する水溶性酸誘導体を含むものである前記(2)又は(3)に記載の高分子合成方法であり、
(5) 導電性高分子のドーパントとなり得るポリアニオンの存在下に、水系溶媒中で、オゾン及び/又は酸素のファインバブルを、前記(4)に記載の3,4-ジアルコキシチオフェンおよびその誘導体あるいはそれらのオリゴマーを重合させる前記(1)~(4)のいずれか一項に記載の高分子合成方法であり、
(6) 水系溶媒中、スチレンスルホン酸塩を用いてオゾン及び又は酸素のファインバブルを用いて酸化重合し、ポリスチレンスルホン酸塩を得る前記(2)に記載の高分子合成方法であり、
(7) 水系溶媒中で、酸化性気体のファインバブルを、水系溶媒中で自己ドープ型導電性高分子を合成可能な単量体及び/又は前記単量体のオリゴマーに、接触させることによって酸化重合を生起させることを特徴とする高分子合成方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水系溶媒中で酸化重合を行って製造している高分子の製造において酸化剤や触媒を用いる代わりに酸化性の気体をファインバブルにし、このファインバブルを重合性単量体と接触させることにより、容易に酸化重合を起こして高分子を得ることができる。
さらに言うと、本発明によると、常温で液体又は固体の酸化剤を使用することなく、ファインバブルとなっている酸化性の気体と、導電性高分子又は水溶性高分子の原料となる単量体及び/又は前記単量体のオリゴマーとを水系溶媒中で接触させることにより、導電性高分子又は水溶性高分子を製造することができる。本発明によると、製造された導電性高分子又は水溶性高分子には常温で液体又は固体であった酸化剤の残渣や酸化剤の分解物が含まれていない。したがって、本発明は、前記酸化剤の残渣やその分解物を除去することを目的とする洗浄操作又は洗浄工程を不要とする、コストの低減した新規な製造方法を提供することができる。
本願発明の導電性高分子合成方法においては、酸化性の気体のファインバブルを水系溶媒中で単量体に接触させる際に選択されるその単量体によって、自己ドープ型導電性高分子を製造することができる。この自己ドープ型導電性高分子を製造する際には、ドーパントになる水溶性高分子例えばポリスチレンスルホン酸を不要にするので、自己ドープ型導電性高分子の製造方法はドーパント不要となり、効率の良い製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための好適な形態は、水系溶媒中で、導電性高分子の原料となる単量体及び/又は前記単量体のオリゴマーを酸化重合させることによる導電性高分子の製造方法であって、
前記酸化重合を、酸化性気体のファインバブルを前記水系溶媒に導入することにより、行うことを要旨とする導電性高分子の製造方法である。
本発明を実施するための好適な他の形態は、水系溶媒中で、水溶性高分子の原料となる単量体及び/又は前記単量体のオリゴマーを酸化重合させることによる水溶性高分子の製造方法であって、前記酸化重合を酸化性気体のファインバブルを前記水系溶媒に導入することにより、行うことを要旨とする水溶性高分子の製造方法である。
【0011】
導電性高分子の製造方法及び水溶性高分子の製造方法のいずれであっても、酸化性気体のファインバブルを前記単量体及び/又は前記単量体のオリゴマーに接触させることが重要である。
本発明の方法におけるファインバブルは、一般社団法人ファインバブル産業会のホームページに記載された定義による。
すなわち、ファインバブルには、マイクロバブルとウルトラファインバブルとの二種がある。
マイクロバブルは直径が100μm未満で1μm(=0.001mm)以上の泡である。ウルトラファインバブルは、直径1μm未満の泡である。なお、このマイクロバブル及びウルトラファインバブルの用語は国際標準化機構(ISO)}で世界各国の代表者が合議して定義された。
【0012】
マイクロバブル及びウルトラファインバブルの製造原理は、
(1)旋回流方式
円筒状の本体の内部に向けて接線方向より高速で液を圧入し、内部に旋回流を発生させ、上端面中央の孔より噴出させる。この時、旋回液流の回転軸付近は動圧分だけ減圧になるため、下端面の孔よりガスを吸引することができる。吸引されたガスは上端面の孔を通過する際に微細化されてマイクロバブルが形成される。
(2)エゼクター式
ガス分散器内にキャビテーションが発生するように流路を変形させ、ウルトラファインバブルを発生させる。
(3)ベンチュリ式
流体流路の途中にストローと呼ばれる絞り部分があるベンチュリ中に、液体と気体を同時に流すと液流速の急激な変化により発生した衝撃波が大気泡を粉砕してウルトラファインバブルを発生させる。
(4)加圧溶解方式
空気と水の混相を予圧し、溶解ガス成分を過飽和させた水を制作しておき、 減圧弁を用いて水中にフラッシュさせると、過飽和分のガス成分が水中からウルトラファインバブルとなって析出される。
(5)超音波振動式
超音波の振動を液中に伝えて液中でキャビテーションを起こし、これによってウルトラファインバブルを発生させる。
(6)混合蒸気直接接触凝集式
予めスチームと非凝集性のガスを混合し、ノズルから冷却水中に混合蒸気からなる気泡を分散させ、気泡中のスチーム成分は冷却されて水化するために体積が著しく減少するが、非凝集性のガス成分の存在のために完全には凝集できずにウルトラファインバブルが生成する。
(7)超微細孔式
ナノレベルの微細孔より気相を噴出させ更に微細孔境界に液流を与えることで、気相が微細に切断されウルトラファインバブルが発生する。
【0013】
マイクロバブル及びウルトラファインバブル(これらを総称してファインバブルと称される。)の発生方法には上記のような方法があるが、本発明においては前記いずれの方式ないし方法も採用可能であり、より適した方法として前記旋回流式及び加圧溶解方式が挙げられる。
また、本発明においてはマイクロバブルの発生装置及びウルトラファインバブル発生装置として、市販の発生装置、例えばLigaric社製のバヴィタスやバヴィット、国産のマイクロバブル発生装置やウルトラファインバブル発生装置を使用することができる。
【0014】
本発明に係る、高分子、特に導電性高分子又は水溶性高分子の製造方法においては、酸化性気体のファインバブルが水系溶媒に導入される。
酸化性気体としては、オゾン及び酸素を挙げることができる。酸化性気体はオゾン及び酸素のいずれか一種を単独で使用することができ、またオゾン及び酸素を混合して使用することもできる。酸化性気体の水系溶媒中に導入するガス供給量としては、0.5~1.5リットル/分で、1~60分が好適である。
【0015】
水系溶媒は、特許文献4に記載の公知の溶媒を使用することができ、好適には、水、あるいは水と水混和性有機溶媒との混合物であり、より好適には水である。水混和性有機溶媒と水とを混合する場合、水混和性有機溶媒を、水と水混和性有機溶媒との総量に対して、10質量%以下とするのが好ましい。
【0016】
水混和性有機溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルアセトアミド、N , N-ジメチルホルムアミド、N , N-ジメチルアセトアミド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のアミド化合物;クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、D-グルコース、D-グルシトール、イソプレングリコール、ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価脂肪族アルコール類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物;ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物;ジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類;3-メチル-2-オキサゾリジノン等の複素環化合物;アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物;ジメチルスルホキシドに代表されるスルホキシド類;等を好適に用いることができる。これらの水混和性有機溶媒は、単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物で用いてもよい。上記水混和性有機溶媒の中でも、作業環境をより損ないにくく、しかも沸点が水より低く、容易に塗膜を形成できることから、エタノール、イソプロパノールが好ましい。
【0017】
本発明に係る、高分子特に導電性高分子の製造方法においては、水系溶媒中でファインバブルと接触させる単量体は、導電性高分子の原料になるのであれば特に制限がなく、好適な単量体として、(1)ピロール及びその誘導体、並びに(2)チオフェン及びその誘導体を挙げることができる。(2)チオフェンの誘導体として、式(1)で示される3,4-ジアルコキシチオフェンなどを挙げることができる。
【0018】
【0019】
上記式(1)で示される3,4-ジアルコキシチオフェンにおいて、R1およびR2のC1-4のアルキル基としては、好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基などを挙げることができる。R1およびR2が一緒になったC1-4 のアルキレン基としては好ましくは、1,2-アルキレン基、1,3-アルキレン基などを挙げることができ、具体的には、メチレン基、1,2 -エチレン基、1,3 -プロピレン基などを挙げることができ、その中でも特に、1,2-エチレン基が好ましい。また、C1-4のアルキレン基は、置換されていても良く、その場合の好ましい置換基としては、C1-12のアルキル基あるいはフェニル基を挙げることができる。置換されたC 1-4 のアルキレン基としては、好ましくは、1 , 2 - シクロヘキシレン基、2 ,3-ブチレン基を挙げることができる。このようなアルキレン基の代表例としてR1およびR2のいずれもC1-12のアルキル基で置換された1,2-アルキレン基は、エテン、プロペン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセン、スチレンなどのα-オレフィン類を臭素化して得られる1,2-ジブロモアルカン類から誘導される。
【0020】
本発明の方法において、高分子として水溶性高分子を製造する場合には、ファインバブルと接触させる単量体は、後述するポリアニオンと称される水溶性高分子を合成することのできる水溶性単量体、例えば、カルボン酸基及び/又はスルホン酸基を含有する水溶性の重合性単量体を挙げることができ、さらには、水中で分散重合可能な不飽和結合を有する重合性モノマーも、本発明の方法における単量体として使用することができる。
【0021】
本発明の製造方法において、水系溶媒中でファインバブルと接触させる単量体は、前記式(1)で示されるモノマーの重合体にドーパントとして共存するポリアニオンを形成するモノマーであってもよい。
【0022】
前記ポリアニオンとして、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等のポリカルボン酸類;ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等のポリスルホン酸類;等を挙げることができる。これらの中で、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。ポリアニオン化合物の分子量は、特に限定されないが、通常、重量平均分子量(Mw)が1,000~2,000,0 00の範囲であり、さらに好ましくは2,000~1,000,000の範囲であり、より好ましくは10,000~500,000の範囲である。特に、上記分子量の範囲のポリスチレンスルホン酸を用いるのが好ましい。ポリスチレンスルホン酸のスルホン化率は、特に限定されるものではないが、好ましくは、80~100%、さらに好ましくは85~95%の範囲である。ここで、「スルホン化率」とは、ポリスチレンスルホン酸において、分子中のスルホン酸基を有するスチレン単位(A)およびスルホン酸基を有していないスチレン単位(B)の合計(A+B)に対する(A)の割合(%)を指していう。
【0023】
ポリスチレンスルホン酸を得る方法としては、ポリスチレンをスルホン化する方法と、スチレンスルホン酸ナトリウムを高分子化する方法が挙げられる。後者のスチレンスルホン酸ナトリウムを高分子化する方法は、前者のポリスチレンをスルホン化する方法に比べて、純度の高いポリスチレンスルホン酸が得られやすい。この方法では、適量のイオン交換水にスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、得られる溶液に酸化性気体のファインバブルを吹き込むことによりスチレンスルホン酸ナトリウムを重合し、高分子化する。なお、酸化性気体のファインバブルを水溶液中でスチレンスルホン酸ナトリウムと接触させて得られるポリスチレンスルホン酸ナトリウムには、過硫酸塩、過酸化水素、遷移金属のような酸化剤の残渣又はそれらの分解物が含まれていない。また、重合の温度としては、特に限定されないが、好ましくは10~90℃である。得られた反応液を陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂で処理して、ポリスチレンスルホン酸を得ることができる。
【0024】
本発明に係る高分子の製造方法、特に導電性高分子の製造方法において、ポリアニオンを使用する場合、その3,4-ジアルコキシチオフェン100質量部に対して好ましくは10~300質量部であり、さらに好ましくは50~250質量部であり、より好ましくは100~200質量部である。ポリアニオンを3,4-ジアルコキシチオフェン100質量部に対して10質量部以上使用することにより、ポリアニオンの添加による導電性向上効果を十分に発現でき、ポリアニオンを3.4-ジアルコキシチオフェン100質量部に対して300質量部以下使用することにより、ポリアニオンを過剰に添加しないことによる表面抵抗値の抑制が働き、導電性能の維持を期待できる。特に、一般的に導電率が低下すると言われているポリアニオンの使用量、すなわちポリアニオンが3,4-ジアルコキシチオフェン100質量部に対して2倍に相当する200質量部以下の条件でも、十分な性能を発揮できる。また、ポリアニオンの比率を低くすることにより、ポリアニオン由来の吸湿性を低減することができ、ポリアニオンによる金属への腐食性を緩和できる。
【0025】
前記好適な単量体特にピロール誘導体、及びチオフェン誘導体において、その分子骨格内にスルホン酸及び/又はカルボン酸を置換している誘導体は、これを酸化性気体のファインバブルに接触させると自己ドープ型導電性高分子を生成することができる。自己ドープ型導電性高分子はポリアニオンが存在していなくても高い導電性を有することができる。
【0026】
本発明の製造方法においては、導電性高分子は、例えば、以下の方法により製造できる。まず、ポリアニオンを水系溶媒に分散または溶解させ、これにより得られた溶液に、単量体例えば3,4-ジアルコキシチオフェンを添加してモノマー分散液を得る。次に、このモノマー分散液に酸化性気体のマイクロバブル及び/又はマイクロファインバブルを導入することにより単量体例えば、3,4-ジアルコキシチオフェンを酸化重合させる。その後、余剰の未反応モノマーを除去して精製し、ポリ(3,4-ジアルコキシチオフェン)とポリアニオンとが複合化した構造の導電性高分子の水分散液を得る。こうして得られた導電性高分子の水分散液の固形分濃度は、好ましくは0.1~4.0質量%であり、より好ましくは0.5~2.0質量%であり、さらに好ましくは1.0~1.5質量%である。
【0027】
本発明の好適な製造方法によると、例えばポリ(3,4-ジアルコキシチオフェン)とポリアニオンとが複合化した構造の導電性高分子の水分散液を得ることができる。この水分散液を導電性組成物として工業的に使用することができる。
この導電性組成物は、重合反応終了後に、重合反応生成液に水混和性有機溶媒、導電性向上剤、バインダ樹脂などをさらに混合して得ることもできる。導電性高分子の水分散液に、導電性向上剤および/ またはバインダ樹脂を均一に混合するために、高い剪断力を付与できる混合分散機を用いるのが好ましい。混合分散機としては、例えば、ホモジナイザ、高圧ホモジナイザ、ビーズミル等が挙げられ、中でも、高圧ホモジナイザが好ましい。高圧ホモジナイザを用いた分散処理としては、例えば、分散処理を施す前の複合体溶液を高圧で対向衝突させる処理、オリフィスやスリットに高圧で通す処理等が挙げられる。混合分散機により分散処理を施すと、原理上、処理により得られる導電性高分子の水分散液の温度が高くなる。そのため、分散処理前の水分散液の温度を-20~60℃にすることが好ましく、-10~40℃にすることがより好ましく、-5 ~30℃にすることが特に好ましい。水分散液の温度を-20℃ 以上にすれば、凍結を防止でき、60℃ 以下にすれば、導電性高分子またはポリアニオンの変質を防止できる。また、分散処理後の導電性高分子の水分散液を、例えば、冷媒温度-30~2℃の熱交換器に通して冷却しても良い。
なお、前記導電性向上剤、バインダ樹脂は、特許文献3に開示されたものを制限なく採用することができる。
【0028】
本発明の製造方法により得ることのできる前記導電性組成物に含有させることのできる成分としては、例えば、充填剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、表面改質剤、脱泡剤、可塑剤、抗菌剤、界面活性剤、金属微粒子などを好適に挙げることができる。これらの成分は、1種単独または2種以上を併用しても良い。さらには、上記成分に属する材料も1種のみを用いても良く、あるいは2種以上を併用しても良い。
【0029】
本発明の製造方法により得られる導電性高分子を含有する導電性組成物は、それを用いて形成される塗膜を有するフィルムに形成することができる。上記導電性高分子または上記導電性組成物は、優れた導電性を発揮するのみならず、透明性、高温下での放置による導電性の低下の少ない高耐熱性などの性能も保持する。このことから、上記導電性高分子または上記導電性組成物は、帯電防止フィルムの他、導電性塗料、固体電解コンデンサ、タッチスクリーン、有機LED、有機EL、リチウム二次電池、有機薄膜太陽電池、導電性高分子繊維などにも利用できる。
【0030】
前記塗膜を有するフィルムは、基材となるフィルム(基材フィルムという)と、該基材フィルムの少なくとも片面に形成された導電性塗膜とを有する。上記導電性高分子または上記導電性組成物を導電体として用いてなる塗膜を有するフィルムを製造する場合、基材フィルムに導電性高分子または導電性組成物の分散液を塗布した後、あるいは基材フィルムを当該分散液中に浸漬した後、乾燥によって揮発成分を除去することにより、塗膜を有するフィルムを得ることができる。乾燥温度は、特に限定されないが、好適には40℃以上で、かつ塗膜や基材フィルムにダメージを与えない温度以下である。
【0031】
前記基材フィルムへ上記水分散液の供給法の具体例としては、スピンコート法、ローラコート法、バーコート法、ディップコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スプレーコート法、ドクターブレードコート法、ニーダーコート法などを挙げることができる。基材フィルムは、特に限定されるものではなく、透明な材料で成る基体であればより好ましく、その材料の種類、基体の形状、構造、大きさ、厚みなどについては、目的に応じて適宜選択できる。本明細書において、「透明」は、無色透明の他、有色透明、無色半透明および有色半透明のいずれをも含むように広義に解釈される。透明な基体の材料としては、例えば、樹脂を好適に挙げることができる。当該樹脂の種類は、特に限定されるものではなく目的に応じて適宜選択でき、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂( 結晶性または非晶性)、ポリブチレンテレフタレート樹脂( 結晶性または非晶性) 、ポリエチレンナフタレート樹脂( 結晶性または非晶性) 、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリ酢酸ビニ樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブタジエン樹脂、酢酸セルロース、硝酸セルロース、アクリロニトリル- ブタジエン- スチレン共重合樹脂( A B S 樹脂) などを挙げることができ、これらの内の1種を用い、あるいは2 種以上を併用しても良い。シートを延伸処理する場合には、非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリスチレンフィルムなどのようにガラス転移温度の低い樹脂フィルムを好適に用いる。基材フィルムとして、ガラス転移温度の低い樹脂フィルムを用いる場合には、表面外観の劣化を防止するために、乾燥温度を8 0 ℃ 以下にすることが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法により得られる導電性高分子を含有する導電性組成物を用いて形成される塗膜を有するフィルムにおいて、塗膜の厚みは、特に限定されるものではなく目的に応じて適宜選択でき、例えば、好適には、0.01~10μmの範囲に設定できる。塗膜の厚みを0 .01μ m以上とすると、塗膜を有するフィルムの表面抵抗率をより安定化させることができ、塗膜の厚みを10μm以下とすると、透明な基体と塗膜との密着性をより高めることができる。
【実施例0033】
以下に実施例を挙げるが本発明の内容は、これに限定されるものではない。
本発明ではポリスチレンスルホン酸をドーパントとするエチレンジオキシチオフェンの重合を例としてあげる。
【0034】
(実施例1)
ポリスチレンスルホン酸の重合
1リッターのフラスコにイオン交換水500gを入れ100gのスチレンスルホン酸ナトリウムをいれる。これらを攪拌しながらファインバブル発生装置(株式会社ダン・タクマ製、型式A0-1)をオゾン発生装置(株式会社インパル製、型式IPS-010BE-H)を介して毎分1リッターの3%オゾン含有ファインバブルを前記フラスコの内容物に30分間通気した。この後、生じたポリスチレンスルホン酸ナトリウムを、イオン交換樹脂を用いてポリスチレンスルホン酸を製造した。これらの濃度を調整し、10%ポリスチレンスルホン酸水溶液とした。
【0035】
(実施例2)
ポリスチレンスルホン酸の重合
前記実施例1と同様にして反応溶液の中内部にオゾンに変えて酸素のファインバブルを毎分1リッターで30分間通気した。この後、生じたポリスチレンスルホン酸ナトリウムをイオン交換樹脂を用いて ポリスチレンスルホン酸を製造した。
これらの濃度を調整し、10%ポリスチレンスルホン酸水溶液とした。
【0036】
(実施例3)
導電性高分子ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸の合成
1リッターのフラスコにイオン交換水3750g、実施例1で得られたポリスチレンスルホン酸10%溶液を125g、エチレンジオキシチオフェンを5g投入し攪拌機で攪拌しながら、前記実施例1と同じ方法でオゾンファインバブルガスを毎分1リッターのオゾンファインバブルを25分間通気した、溶液は無色透明から青黒く変色した。これらの一部を取り出し、ガラス基板に膜厚約0.1mmにコーティングし、表面抵抗計(日東精工アナリティク株式会社製、製品名ロレスタ-GX MCT-T700)で導電率を測定したところ表面抵抗値は4×104(Ω/□)であった。
【0037】
(実施例4)
1リッターの光反応用フラスコに、前記実施例2と同様にイオン交換水3750gと前記実施例1で得られたポリスチレンスルホン酸10%溶液を125g、エチレンジオキシチオフェンを5g投入し、光反応用フラスコの内容物にオゾンに変えて空気のファインバブルを毎分1リッターで30分間通気した。
前記実施例2と同様に反応液をガラス板状に塗布し、前記実施例3と同様にして表面抵抗を図ったところ7×106(Ω/□)であった。
【0038】
(比較例1)
実施例3と同様に1リッターのフラスコにイオン交換水3750gに実施例1で得られたポリスチレンスルホン酸10%溶液を125g、エチレンジオキシチオフェンを5g投入し攪拌機で攪拌しながら、実施例1と同じ方法でオゾンのファインバブルの代わりにガス通気口の先に熱帯魚飼育用のセラミックエアーストーンを取り付けて3%のオゾンガスを毎分1リッターで5分間通気したところ、溶液は無色透明から部分的に薄く黒色変色した。これらの一部を取り出し、ガラス基板にコーティングし、そのコーティングフィルム(膜厚は約0.1μm)の導電率を前記実施例3と同様にして測定したところ表面抵抗値は1×1013(Ω/□)以上であり、測定不能であった。