(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053932
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】神経障害性幻肢痛の治療に使用するための少なくともアミトリプチリンを含むゲル状局所医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/137 20060101AFI20230406BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20230406BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230406BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230406BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230406BHJP
【FI】
A61K31/137
A61P25/04
A61K9/06
A61K47/38
A61K47/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022158283
(22)【出願日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】2110426
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】519382570
【氏名又は名称】アルゴセラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】パオラ プリンチペ ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク ラルマン
(72)【発明者】
【氏名】セリーヌ グレコ
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ ティロロワ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB31
4C076CC01
4C076DD38
4C076EE32
4C076FF35
4C076FF68
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA01
4C206FA07
4C206KA05
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA47
4C206MA83
4C206NA10
4C206ZA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】神経障害性幻肢痛の局所治療に使用するための組成物を提供する。
【解決手段】アミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つを含む水性ゲル状の医薬組成物であって、アミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つの総含有量が、前記組成物の総質量に対して10~30質量%である、組成物とする。前記組成物が、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースポリマー、プロピレングリコール等のポリオールを含み、脂肪物質を含まないことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経障害性幻肢痛の局所治療に使用するための、少なくともアミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つを含む水性ゲル状の医薬組成物であって、アミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つの総含有量が、前記組成物の総質量に対して10~30質量%である、組成物。
【請求項2】
神経障害性幻肢痛の皮膚治療に使用するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
予防又は治療に使用するための、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
アミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つの総含有量が、前記組成物の総質量に対して10~25質量%、好ましくは10~20質量%、より好ましくは10~15質量%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、少なくとも1つのセルロースポリマー;好ましくはセルロースエーテルから;より好ましくは非イオン性セルロースエーテルから;更により好ましくは(a)(C1-C4)アルキルセルロース、例えばメチルセルロース及びエチルセルロース、(b)(ポリ)ヒドロキシ(C1-C4)アルキルセルロース、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース、(c)混合セルロースの(ポリ)ヒドロキシ(C1-C4)アルキル-(C1-C4)アルキルセルロース、例えばヒドロキシプロピル-メチルセルロース、ヒドロキシエチル-メチルセルロース、ヒドロキシプロピル-エチルセルロース、ヒドロキシエチル-エチルセルロース、及びヒドロキシブチル-メチルセルロース、並びに(d)これらの混合物から選択される少なくとも1つのセルロースポリマーを含み;より好ましくは、前記組成物が、少なくとも1つの(ポリ)ヒドロキシ(C1-C4)アルキルセルロース、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースを含み;並びに更により好ましくは、前記組成物が、少なくともヒドロキシエチルセルロースを含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、少なくとも1つのC2-C8ポリオール;好ましくはC3-C6ポリオール、エチレングリコール、及びこれらの混合物から;より好ましくはプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブチレングリコール、ペンタン-1,2-ジオール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ペンチレングリコール、グリセロール、エチレングリコール、及びこれらの化合物の混合物から選択される少なくとも1つのC2-C8ポリオールを含み;より好ましくは、前記組成物が、少なくともプロピレングリコールを含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
粘度が、20℃及び大気圧で、400~2500mPa・s;好ましくは600~2000mPa・s;及びより好ましくは800~1500mPa・sであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
含水量が、前記組成物の総質量に対して65質量%以上、好ましくは65~90質量%;より好ましくは70~90質量%、更により好ましくは75~85質量%であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
脂肪物質を含まないことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
pHが3~8、好ましくは4~7、及びより好ましくは5~6であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
(i)前記組成物の総質量に対して10~30質量%、好ましくは10~20質量%、より好ましくは10~15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容される塩の1つ;
(ii)前記組成物の総質量に対して0.1~10質量%の少なくとも1つのセルロースポリマー;
(iii)前記組成物の総質量に対して0.1~15質量%の少なくとも1つのC2-C8ポリオール;並びに
(iv)水、好ましくは前記組成物の総質量に対して65~90質量%の範囲の含有量の水
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経障害性幻肢痛の局所治療に使用するための、アミトリプチリンを含む局所医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
神経障害性幻肢痛は、例えば手、前腕、又は脚などの肢の切断又は求心路遮断後に生じる疼痛である。
これらの疼痛は、欠損した、又は求心路遮断後の肢の範囲に痛みや不快な感覚(電気的な刺激、刺痛、灼熱感、けいれん等)が生じる幻肢痛現象と考えられる。こうした疼痛は肢全体に及ぶこともあれば、欠損した肢の一部分にのみ及ぶこともある。
幻肢痛は一般に肢の欠損から6ヵ月以内に生じる。幻肢痛は肢切断者の約60~80%が経験し、切断術後何年も続くことがある。
肢切断者で幻肢痛が生じる機序は現時点で完全には解明されていない。しかしながら、中枢及び末梢神経系が、特に脳の新たな神経連絡の構築及び/又は脊髄後角ニューロンの変化を通して重要な役割を果たしているとみられる。
特許文献1(Algotherapeutixが出願し、特許文献2としても公開されている)及び非特許文献1は、化学療法後の末梢神経障害性疼痛を治療するための高濃度アミトリプチリン含有クリーム状局部組成物の使用について説明している。
幻肢痛の治療には既に様々な治療法が構想されている。しかし現時点で、非特許文献2で報告されているように、既知の治療法は十分ではない。特に、疼痛、生活の質、治療の満足度、及び有害作用という観点での臨床的に意義のある転帰について、ボツリヌス毒素A、オピオイド、抗うつ剤、NMDA受容体拮抗薬、抗痙攣薬、カルシトニン、及び局所麻酔薬の短期及び長期有効性は定かでない。
より具体的には、かつて経口アミトリプチリンは幻肢痛の治療候補と考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/197307号
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/0197326号明細書
【特許文献3】米国特許第4131576号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Rossignol,J.et al.,“High concentration of topical amitriptyline for treating chemotherapy-induced neuropathies”.Support Care Cancer 27,3053-3059(2019)
【非特許文献2】Nikolajsen,L et al.“Phantom limb pain”.British Journal of Anaesthesia,2001,87(1),pp.107-116
【非特許文献3】Robinson,L.R.et al.“Trial of Amitriptyline for Relief of Pain in Amputees:Results of a Randomized Controlled Study 1”.Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 85,no 1(2004):1 6
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、経口アミトリプチリン治療は満足できるものではなく、特に非特許文献3による科学研究では、得られた結果は幻肢痛治療におけるアミトリプチリンの使用に有利なものではなく、更なる研究で他の治療候補を開発し、試験する必要があると結論付けられた。
従って、神経障害性幻肢痛の治療に有効な医薬組成物の開発が本当に必要とされている。
これらの医薬組成物が重大な有害作用を殆ど又は全く引き起こさないことにも関心が持たれている。
驚くことに、アミトリプチリンをベースとする組成物を局所に適用すると、神経障害性幻肢痛を効果的に治療できることが発見された。
神経障害性幻肢痛と化学療法誘発性神経障害性幻肢痛の原因は恐らく同じではないため、この発見は尚更驚きである。
実際、化学療法誘発性疼痛は主に化学療法に使用する薬剤固有の化学毒性によるものであり、これが軸索に直接害を与え、神経脱髄を生じさせることがある。
一方、神経障害性幻肢痛は、脳の可塑性及び/又は痛覚伝達の基本的な神経生理学的機序の変化の結果であると思われる。
【0006】
しかしながら、特許文献1及び非特許文献1に記載のクリーム状組成物は、経時安定性の点で十分に満足できるものではない。
確かに、クリームは一般に経皮透過性に優れ、薬剤全体の可溶性が良好であるため、活性物質の局所投与に日常的に使用されている剤形である。しかしながら、特許文献1による、クリーム状、より具体的には水中油型エマルション形態の組成物の物理化学的安定性は、特に医薬品として使用するには十分でない。
塩酸アミトリプチリンは両親媒性物質であり、塩の形態で水溶性である。しかしながら、これらの電解質の存在が、おそらく油球の表面帯電をマスクし、油/水界面の平衡を乱すことによって、水中油型エマルションを不安定化していることが予想外に見出された。この不安定化はエマルションの相分離を引き起こし、最終的には油と水が完全に分離する。同時に化学反応が起こり、最初は白色だったエマルションが黄変する。この相分離と黄変は、特に医薬品として組成物を販売する際に問題となる。
従って、神経障害性幻肢痛の治療に有効であり、全身性の有害作用を殆ど又は全く引き起こず、且つ特に経時的にも温度変化に対しても安定している医薬組成物の開発が本当に必要とされている。
より具体的には、アミトリプチリンが高濃度であっても(即ち、組成物の総質量に対するアミトリプチリン濃度が10質量%以上であっても)良好な物理化学的安定性を有する医薬組成物に関心が持たれている。
使用の質が良好な組成物にも関心が持たれている。
しかしながら、驚くことに、少なくともアミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つを含む水性ゲル状の局所医薬組成物は、アミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つの総含有量が組成物の総質量に対して10~30質量%であると、神経障害性幻肢痛を効果的に治療でき、且つ良好な物理化学的経時安定性を有することが見出された。
【0007】
従って本発明は、少なくともアミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つを含む水性ゲル状医薬組成物であって、アミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つの総含有量が組成物の総質量に対して10~30質量%である、神経障害性幻肢痛の局所治療に使用するための医薬組成物に関する。
本発明による組成物は、神経障害性幻肢痛の治療に特に有効であることが観察された。
より具体的には、本発明による組成物は、肢(例えば手、前腕、又は脚)の切断又は求心路遮断後に生じる神経障害性疼痛の治療に極めて有効である。
また、本発明による医薬組成物は、皮膚からのアミトリプチリンの浸透を促し、全身移行性が低く、従って良好な治療効果が得られることが観察された。
更に本発明による組成物は、好ましくはアミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つの濃度が組成物の総質量に対して10~25質量%、及び特に10~20質量%の時に高いバイオアベイラビリティを有する。実際、高濃度ではアミトリプチリンは再編成され、バイオアベイラビリティを制限する可能性のある凝集物の形成を引き起こす傾向がある。
【0008】
更に本発明による組成物は、環境温度で、但しより高い保管温度でも、経時的に特に安定している。本発明による組成物で、環境温度(25℃)の条件下で少なくとも24ヵ月間、及び高温(40℃)の条件下で6ヵ月間の安定性試験を実施した。これらの試験後、本発明による組成物は、物理的(粘度)にも化学的(pH、活性物質及び分解生成物のアッセイ)にも外観に変化がなかった。
また本発明による組成物は、強酸性、強アルカリ性、熱、光、及び酸化条件下で強制分解を行った。観察された分解生成物は、国際標準ICH Q3B(医薬品規制調和国際会議)の許容範囲内に留まっていた。
更に、本発明による組成物は賦形剤をわずかしか含まないため、組成物の局所忍容性を向上させる(アレルギーや刺激のリスクが低い)。本発明による組成物の局所投与には、副作用が殆ど又は全くない。
本発明による組成物は良好な使用特性も有する。即ち、組成物は、半透明、無臭で、手触りが良い(べとべとしない)。
加えて本発明による組成物は、ポンプボトルを用いて極めて容易に投与できる。こうしたポンプボトルは、活性物質の投与量を高い精度で良好に再現する上で特に有用である。
その上、本発明による組成物は、痛みを緩和し、皮膚の健康と潤いを回復させることを可能にし得る。
本発明の更なる特徴、態様、及び利点は、以下の説明及び実施例を読むことにより、より明確となろう。
【0009】
本明細書では、別段の定めがない限り、
- 語句「少なくとも1つの」は、語句「1つ又は複数の」と等しく、互いに代替可能であり、
- 語句「○~○」は、語句「○~○の範囲」と等しく、互いに代替可能であり、境界値が含まれることを意味し、
- 語句「脂肪アルコール」は、9~40個の炭素原子を含むアルコールを示し、
- 語句「脂肪酸」は、9~40個の炭素原子を含む酸を示し、
- 語句「脂肪エーテル」は、9~40個の炭素原子を含むエーテルを示し、
- 語句「脂肪エステル」は、9~40個の炭素原子を含むエステルを示し、
- 語句「ポリオキシアルキレン化」は、本発明では、単位-(O-アルキル)n-に相当し、式中、nは、2~200、好ましくは2~40、より好ましくは2~20までの幅がある整数であり、アルキルは、好ましくはエチル又はプロピルを表し、
- 語句「ポリオキシエチレン化」は、本発明では、単位-(O-CH2CH2)n-に相当し、式中、nは、2~200、好ましくは2~40、より好ましくは2~20までの幅がある整数である。
【0010】
本発明による医薬組成物は、神経障害性幻肢痛の局所治療に使用する。
有利には、本発明による医薬組成物は、好ましくは皮膚経路で使用する。有利には、医薬組成物は、好ましくは皮膚に適用する。
有利には、本発明による医薬組成物は、好ましくは肢(例えば手、前腕、又は脚)の少なくとも1つの切断及び/又は少なくとも1つの求心路遮断後に生じる神経障害性疼痛の局所治療に使用する。
特に、医薬組成物は、予防目的(例えば、肢の少なくとも1つの切断及び/又は少なくとも1つの求心路遮断を経験したものの、まだ神経障害性疼痛を経験していない人)にも治療目的(例えば、肢の少なくとも1つの切断及び/又は少なくとも1つの求心路遮断を経験し、既に神経障害性疼痛を経験している人)にも同じように良好に使用できる。
より具体的には、本発明による医薬組成物は、切断術の抜糸直後、即ち、好ましくは抜糸の30秒から12時間後に、その後引き続き1回又は複数回、予防目的で適用できる。
【0011】
アミトリプチリン
本発明による組成物は、少なくともアミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つを含む。
本発明に従って、アミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つの総含有量は、組成物の総質量に対して10~30質量%である。
アミトリプチリンは以下の式(I)を有する。
【化1】
本発明の範囲内において、用語「薬学的に許容されるアミトリプチリンの塩」は、医薬組成物と適合性のある塩、即ち、ヒトに投与することを目的とした塩を示す。特に、薬学的に許容されるアミトリプチリンの塩という用語は、アミトリプチリンの水和物、溶媒化合物、酸性塩、例えば塩酸塩、及び包接化合物を示す。
とりわけ好ましいアミトリプチリンの塩として、塩酸アミトリプチリンが使用できる。
好ましくは、アミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つの総含有量は、組成物の総質量に対して10~25質量%、より好ましくは10~20質量%、更により好ましくは10~15質量%である。
より好ましくは、塩酸アミトリプチリンの総含有量は、組成物の総質量に対して10~25質量%、より好ましくは10~20質量%、更により好ましくは10~15質量%である。
とりわけ、アミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つ、例えば塩酸アミトリプチリンの総含有量が、本発明による組成物の総質量に対して10~25質量%、より好ましくは10~20質量%である場合、驚くことに、本発明による組成物のアミトリプチリンのバイオアベイラビリティが著しく向上することが観察された。
実際、高濃度ではアミトリプチリンは再編成され、バイオアベイラビリティを制限する可能性のある凝集物の形成を引き起こす傾向があることが観察されている。
好ましくは、本発明による組成物は、上記の割合のアミトリプチリン及び/又はその薬学的に許容される塩の1つを、疼痛を治療する単独の薬剤として含有する。
【0012】
本発明による医薬組成物は水性ゲル状である。
Clinical Data Interchange Standards Consortium(CDISC)に従って、薬用ゲルは、溶液又はコロイド分散系に硬さを与えるゲル化剤を含有する半固形剤型である。ゲルは懸濁粒子を含有できる。
本発明に従って、本発明による水性ゲル状組成物は、粘度が400~2500mPa・s(20℃及び大気圧で)である粘性水系組成物を含むと理解される。
好ましくは、本発明による水性ゲル状組成物の粘度は、20℃及び大気圧で、400~2500mPa・s;より好ましくは600~2000mPa・s;及び更により好ましくは800~1500mPa・sである。
例として、本発明による水性ゲル状組成物の粘度は、Brookfield LV粘度計で、63番スピンドルを用いて、回転数50rpm(毎分回転数)、温度20.0±2.0℃、高さ40mm及び直径35mmの30mL容器で測定する。粘度計の校正は、スピンドルを瓶の底から1cmのところまでゲル中に沈めて行う。粘度は測定が安定した時点で読み取る。
本発明による組成物は、例えば水中油型エマルション又は油中水型エマルションなどのエマルション形態ではない。つまり、本発明による組成物は油相を含まない。
有利には、本発明による組成物は脂肪物質を含まない。
本発明に従って、用語「脂肪物質」は、25℃及び大気圧(760mmHg又は1.013.105Pa)で水に不溶性の、即ち、水への溶解度が5%未満、及び好ましくは1%未満、更により好ましくは0.1%未満の有機化合物を示す。脂肪物質の例として、ワックス、炭化水素、9~40個の炭素原子を含む脂肪アルコール、9~40個の炭素原子を含む脂肪酸、9~40個の炭素原子を含む脂肪エステル、好ましくは9~40個の炭素原子を含む脂肪エーテル、シリコーン、及びこれらの混合物が挙げられる。
本発明による組成物は水を含む。
好ましくは、総含水量は、本発明による組成物の総質量に対して65質量%以上、より好ましくは65~90質量%;更により好ましくは70~90質量%、更により好ましくは75~85質量%である。
【0013】
好ましくは、本発明による組成物は、少なくとも1つのセルロースポリマーを含む。
用語「セルロース」ポリマーは、本発明に従って、非置換セルロースに加えて、任意に置換され、それらの鎖構造中にβ-1,4結合で結合したグルコース残基を有する任意の多糖類化合物を示し、セルロース誘導体はアニオン性、カチオン性、両性、又は非イオン性であり得る。
よって、本発明に従って使用できるセルロースポリマーは、微結晶形態を含む非置換セルロース及び置換セルロースから選択できる。
より好ましくは、使用できるセルロースポリマーは、それらの構造にC10-C30脂肪側鎖を含まない。
好ましくは、使用できるセルロースポリマー(複数可)は平均分子量が5000~1,500,000、より好ましくは50,000~800,000、更により好ましくは400,000~800,000である。
本発明に従って使用できるセルロースポリマーのうち、セルロースエーテル、セルロースエステル、及びセルロースエーテルエステルが区別できる。
セルロースエステルには、無機セルロースエステル(硝酸セルロース、硫酸セルロース、又はリン酸セルロース等)、有機セルロースエステル(モノ酢酸セルロース、トリ酢酸セルロース、アミドプロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、又は酢酸トリメリット酸セルロース等)、並びに混合有機/無機セルロースエステル、例えば酢酸酪酸硫酸セルロース及び酢酸プロピオン酸硫酸セルロースがある。セルロースエーテルエステルのうち、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート及びエチルセルローススルファートが挙げられる。
非イオン性セルロースエーテルのうち、(C1-C4)アルキルセルロース、例えばメチルセルロース及びエチルセルロース(例えばDOW CHEMICALのEthocel standard100 Premium);(ポリ)ヒドロキシ(C1-C4)アルキルセルロース、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(例えばAQUALONのNatrosol250 HHR)、並びにヒドロキシプロピルセルロース(例えばAQUALONのKlucel EF);混合セルロースの(ポリ)ヒドロキシ(C1-C4)アルキル-(C1-C4)アルキルセルロース(mixed (poly)hydroxy(C1-C4)alkyl-(C1-C4)alkylcellulose celluloses)、例えばヒドロキシプロピル-メチルセルロース(例えばDOW CHEMICALのMethocel E4M)、ヒドロキシエチル-メチルセルロース、ヒドロキシエチル-エチルセルロース(例えばAKZO NOBELのBermocoll E481FQ)、並びにヒドロキシブチル-メチルセルロースが挙げられる。
アニオン性セルロースエーテルのうち、(ポリ)カルボキシ(C1-C4)アルキルセルロース及びこれらの塩が挙げられる。例として、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルメチルセルロース(例えばAQUALONのBlanose 7M)、及びカルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、並びにこれらのナトリウム塩が挙げられる。
カチオン性セルロースエーテルのうち、カチオン性セルロース誘導体、例えばセルロースコポリマー、及び水溶性の第4級アンモニウムモノマーでグラフトしたセルロース誘導体、並びに特に特許文献3に記載されているもの、例えば(ポリ)ヒドロキシ(C1-C4)アルキルセルロース、例えば特にメタクリロイルエチル-トリメチルアンモニウム、メタクリルアミドプロピル-トリメチルアンモニウム、ジメチル-ジアリルアンモニウム塩でグラフトしたヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、又はヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。この定義に一致する市販品は、より具体的には、「Celquat(登録商標)L200」及び「Celquat(登録商標)H100」という商品名でNational Starchから販売されている製品である。
【0014】
好ましくは、セルロースポリマー(複数可)は、それらの構造にC10-C30脂肪側鎖を含まないセルロースポリマーから;より好ましくはセルロースエーテルから;更により好ましくは非イオン性セルロースエーテルから;更により好ましくは(a)(C1-C4)アルキルセルロース、例えばメチルセルロース及びエチルセルロース、(b)(ポリ)ヒドロキシ(C1-C4)アルキルセルロース、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース、(c)混合セルロースの(ポリ)ヒドロキシ(C1-C4)アルキル-(C1-C4)アルキルセルロース、例えばヒドロキシプロピル-メチルセルロース、ヒドロキシプロピル-エチルセルロース、ヒドロキシエチル-メチルセルロース、ヒドロキシエチル-エチルセルロース、及びヒドロキシブチル-メチルセルロース、並びに(d)これらの混合物から選択する。
より好ましくは、本発明による組成物は、少なくとも1つの(ポリ)ヒドロキシ(C1-C4)アルキルセルロース、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース;より好ましくは、少なくともヒドロキシエチルセルロースを含む。
好ましくは、本発明による組成物が少なくとも1つのセルロースポリマーを含む場合、セルロースポリマー(複数可)の総含有量は、本発明による組成物の総質量に対して0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%、更により好ましくは1~2.5質量%である。
好ましくは、本発明による組成物が少なくとも1つのセルロースポリマーを含む場合、(ポリ)ヒドロキシ(C1-C4)アルキルセルロース(複数可)の総含有量は、本発明による組成物の総質量に対して0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%、更により好ましくは1~2.5質量%である。
好ましくは、本発明による組成物が少なくとも1つのセルロースポリマーを含む場合、ヒドロキシエチルセルロースの総含有量は、本発明による組成物の総質量に対して0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%、更により好ましくは1~2.5質量%である。
【0015】
好ましくは、本発明による組成物は少なくとも1つのC2-C8ポリオールを含む。
本発明による用語「C2-C8ポリオール」は、任意に1つ又は複数の酸素原子で中断され、且つ異なる炭素原子に担持された少なくとも2個の遊離ヒドロキシル基(-OH)を持つC2-C8炭化水素鎖からなる有機化合物を示し、この化合物は、液体状態で、環境温度(25℃)及び大気圧(即ち1.013.105Pa)で、任意に環式又は非環式、直鎖又は分岐である。
好ましくは、使用できるC2-C8ポリオール(複数可)は非環式で非芳香性である。
使用できるC2-C8ポリオールは、それらの構造中に、2~8個の炭素原子、好ましく2~6個の炭素原子、より好ましくは2~5個の炭素原子を含む。
より具体的には、使用できるポリオール(複数可)は、2~10個のヒドロキシ基、より好ましくは2~5個のヒドロキシ基、より好ましくは2~3個のヒドロキシ基を含む。
好ましくは、使用できる本発明の、又は前記C2-C8ポリオール(複数可)は、C3-C6ポリオール、エチレングリコール、及びこれらの混合物から選択する。
より好ましくは、本発明に従って使用できる本発明の、又は前記C2-C8ポリオール(複数可)は、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブチレングリコール、ペンタン-1,2-ジオール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ペンチレングリコール、グリセロール、エチレングリコール、及びこれらの化合物の混合物から選択し;より好ましくは、組成物は少なくともプロピレングリコールを含む。
好ましくは、本発明による組成物が少なくとも1つのC2-C8ポリオールを含む場合、C2-C8ポリオール(複数可)の総含有量は、本発明による組成物の総質量に対して0.1~15質量%、より好ましくは0.5~10質量%、更により好ましくは1~6質量%、及び更により好ましくは3~6質量%である。
好ましくは、本発明による組成物が少なくとも1つのC2-C8ポリオールを含む場合、プロピレングリコールの総含有量は、本発明による組成物の総質量に対して0.1~15質量%、より好ましくは0.5~10質量%、更により好ましくは1~6質量%、及び更により好ましくは3~6質量%である。
好ましくは、本発明による組成物が、少なくとも1つのセルロースポリマー及び少なくとも1つのC2-C8ポリオールを含む場合、一方のC2-C8ポリオール(複数可)の総含有量の、他方のセルロースポリマー(複数可)の総含有量に対する質量比は、0.01~150、より好ましくは0.1~20、更により好ましくは0.4~6、より好ましくは1~6、又は1.2~6の範囲である。
有利には、本発明による組成物が、少なくとも1つのセルロースポリマー及び少なくとも1つのC2-C8ポリオールを含む場合、セルロースポリマー(複数可)の質量による総含有量はC2-C8ポリオール(複数可)の質量による総含有量よりも真に少ない。
【0016】
好ましくは、本発明による組成物は界面活性剤を含まない。
本発明の特定の実施形態に従って、組成物は、任意に、少なくとも1つの界面活性剤を更に含むことができる。
本発明に従って使用できる界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性及び/又は双性イオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤、並びにこれらの混合物から選択できる。
より好ましくは、本発明に従って使用できる界面活性剤(複数可)は、非イオン性界面活性剤から選択する。
使用できる非イオン性界面活性剤は、アルキルポリグルコシド(APG)、オキシアルキレン化グリセロールエステル、任意にオキシアルキレン化した脂肪酸及びソルビタンエステル、任意に脂肪酸及びグリセロールエステルと関連したポリオキシアルキレン化(特にポリオキシエチレン化及び/又はポリオキシプロピレン化)脂肪酸エステル、例えばICIからArlacel165の商品名で市販されているステアリン酸PEG-100とステアリン酸グリセリルの混合物、オキシアルキレン化糖エステル、並びにこれらの混合物から選択できる。
アルキルポリグルコシドとして、6~30個の炭素原子及び好ましくは8~16個の炭素原子を含むアルキル基を有し、並びに好ましくは1.2~3のグルコシド単位を含むグルコシド基を有するものが挙げられる。アルキルポリグルコシドは、例えば、デシルグルコシド(アルキル-C9/C11-ポリグルコシド(1.4))、例えばKao ChemicalsからMydol 10(登録商標)という商品名で市販されている製品又はCognisからPlantacare 2000UP(登録商標)という商品名で市販されている製品;カプリリル/カプリルグルコシド、例えばCognisからPlantacare KE3711(登録商標)という商品名で市販されている製品;ラウリルグルコシド、例えばCognisからPlantacare 1200UP(登録商標)という商品名で市販されている製品;ココグルコシド、例えばCognisからPlantacare 818UP(登録商標)という商品名で市販されている製品;カプリリルグルコシド、例えばCognisからPlantacare 810UP(登録商標)という商品名で市販されている製品;及びこれらの混合物から選択できる。
オキシアルキレン化グリセロールエステルは、具体的には、グリセリル及び脂肪酸エステルのポリオキシエチレン化誘導体、並びにこれらの水素化誘導体である。これらのオキシアルキレン化グリセロールエステルは、例えば、水素化及びオキシエチレン化したグリセリル及び脂肪酸エステル、例えばGoldschmidtからRewoderm LI-S80という商品名で市販されている水添パーム油脂肪酸PEG-200グリセリル;オキシエチレン化ヤシ油脂肪酸グリセリル、例えばGoldschmidtからTegosoft GCという商品名で市販されているヤシ油脂肪酸PEG-7グリセリル及びGoldschmidtからRewoderm LI-63という商品名で市販されているヤシ油脂肪酸PEG-30グリセリル;オキシエチレン化ステアリン酸グリセリル;並びにこれらの混合物から選択できる。
オキシアルキレン化糖エステルは、具体的には、脂肪酸及び糖エステルのポリエチレングリコールエーテルである。これらのオキシアルキレン化糖エステルは、例えばオキシエチレン化グルコースエステル、例えばAmercholからGlucamate DOE120という商品名で市販されているジオレイン酸PEG-120メチルグルコースから選択できる。
【0017】
好ましくは、本発明に従って使用できる非イオン性界面活性剤のアルキレンオキシドのモル数は、2~400;より好ましくは4~250まで変化する。
本発明の代替的な実施形態に従って、組成物は、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤;より好ましくは、ポリオキシアルキレン化グリセロールエステルから選択される非イオン性界面活性剤;更により好ましくは、水素化及びポリオキシエチレン化グリセリル及び脂肪酸エステル、例えば水添パーム油脂肪酸PEG-200グリセリル、ポリオキシエチレン化ヤシ油脂肪酸グリセリル、例えばヤシ油脂肪酸PEG-7グリセリル及びヤシ油脂肪酸PEG-30グリセリル、ポリオキシエチレン化ステアリン酸グリセリル、並びにこれらの混合物から選択される少なくとも1つの非イオン性界面活性剤を含む。この代替的な実施形態に従って更により好ましくは、組成物は少なくとも1つのポリオキシエチレン化ヤシ油脂肪酸グリセリルを含む。
好ましくは、本発明による組成物が少なくとも1つの界面活性剤を含む場合、界面活性剤(複数可)の総含有量は、本発明による組成物の総質量に対して0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%、更により好ましくは1~4質量%である。
好ましくは、本発明による組成物が少なくとも1つの界面活性剤を含む場合、非イオン性界面活性剤(複数可)の総含有量が、本発明による組成物の総質量に対して0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%、更により好ましくは1~4質量%である。
好ましくは、本発明による組成物が少なくとも1つの界面活性剤を含む場合、(ポリ)オキシアルキレン化グリセロールエステル(複数可)の総含有量は、本発明による組成物の総質量に対して0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%、更により好ましくは1~4質量%である。
【0018】
好ましくは、本発明による組成物は抗酸化剤を含まない。
本発明の代替的な実施形態に従って、組成物は少なくとも1つの抗酸化剤;より好ましくは、トコフェロール及びこれらのエステル、例えば酢酸トコフェロール、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、及びこれらの混合物から選択される抗酸化剤を更に含む。
好ましくは、本発明による組成物は金属イオン封鎖剤を含まない。
本発明の代替的な実施形態に従って、組成物は少なくとも1つの金属イオン封鎖剤;より好ましくは(a)エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びこれらの塩、例えばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩(二ナトリウムEDTA)、(b)ホスホン誘導体及びこれらの塩、例えばヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン)酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン)酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン)酸、ジエチレン-トリアミンペンタ(メチレンホスホン)酸、(c)ポリアミンポリマー、例えばポリアルキレンポリアミン及びこれらの誘導体、特にポリエチレンイミン、(d)キレート作用を有するデンドリマー、(e)タンパク質、例えばスペルミン、スペルミジン、トランスフェリン、フェリチン、(f)カルボン酸、例えばフィチン酸、クエン酸、リンゴ酸、ニトリロ酢酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、シュウ酸、(g)メシル酸デフェロキサミン、及びこれらの混合物から選択される金属イオン封鎖剤を更に含む。
「金属イオン封鎖剤」(「キレート剤」としても知られる)の定義は当業者にはよく知られており、金属イオンとキレートを形成できる化合物又は化合物の混合物を指す。キレートは無機錯体であり、化合物(金属イオン封鎖剤又はキレート剤)は金属イオンに配位しており、即ち、金属イオンと1つ又は複数の結合を形成する(金属イオンを含む環の形成)。
金属イオン封鎖剤(又はキレート剤)は、一般に、金属イオンとの結合を形成できる少なくとも2個の電子供与原子を含む。
【0019】
本発明の更に代替的な実施形態に従って、組成物は、少なくとも1つの金属イオン封鎖剤及び少なくとも1つの抗酸化剤を含む。
本発明の更に代替的な実施形態に従って、組成物は、脂肪物質、金属イオン封鎖剤、及び/又は抗酸化剤を含まない。
好ましくは、本発明による組成物のpHは、3~8、より好ましくは4~7、及びより好ましくは5~6である。
これらの組成物のpHは、一般に使用するアルカリ化剤及び/又は酸性化剤を用いて所望の値に調整できる。アルカリ化剤のうち、例として、アンモニア、アルカノールアミン、無機又は有機水酸化物が挙げられる。酸性化剤のうち、例として、無機酸又は有機酸、例えば塩酸、オルトリン酸、カルボン酸、例えば酢酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、スルホン酸が挙げられる。
更に本発明による組成物は、医薬品で一般的に使用される添加剤又は賦形剤、例えば1つ又は複数の香料、緩衝剤、色素、抗菌剤、及び/又は抗真菌剤を含有することができる。
抗菌剤として、好ましくはパラベン、及びより好ましくはメチルパラベンを使用する。
これらの添加剤又は賦形剤は、本発明による組成物中に、組成物の総質量に対して0~20%の量で存在し得る。
当業者は、これらの任意選択の添加剤又は賦形剤及びこれらの量を、本発明による組成物の特性を損なわないよう注意して選択できる。
【0020】
特に好ましくは、本発明による局所投与用の水性ゲル状医薬組成物は以下の組成物CP1であって、
- 組成物の総質量に対して10~30質量%、好ましくは10~25質量%、より好ましくは10~20質量%、更により好ましくは10~15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容される塩の1つ
- 組成物の総質量に対して0.1~10質量%、好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは1~2.5質量%の上述の少なくとも1つのセルロースポリマー
- 組成物の総質量に対して0.1~15質量%、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~6質量%、及び更により好ましくは3~6質量%の上述の少なくとも1つのC2-C8ポリオール
- 任意に、組成物の総質量に対して0.1~10質量%、好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは1~4質量%の上述の少なくとも1つの非イオン性界面活性剤
- 任意に、0~3質量%の上述の少なくとも1つの金属イオン封鎖剤及び/又は上述の少なくとも1つの抗酸化剤
- 任意に、0.01~0.5質量%の少なくとも1つの抗菌剤、好ましくはメチルパラベン
- 任意に、pHを3~8、好ましくは4~7、より好ましくは5~6に保持するために、0~1質量%の上述の1つ又は複数のpH調整剤
- 総含有量が組成物の総質量に対して65質量%以上、好ましくは65~90質量%;より好ましくは70~90質量%、更により好ましくは75~85質量%の水
を含む。
この組成物CP1の代替的な実施形態に従って、組成物CP1は、脂肪物質、界面活性剤、金属イオン封鎖剤、及び/又は抗酸化剤を含まない。
【0021】
特に好ましくは、本発明による局所投与用の水性ゲル状医薬組成物は以下の組成物CP2であって、
- 組成物の総質量に対して10~30質量%、好ましくは10~25質量%、より好ましくは10~20質量%、更により好ましくは10~15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容される塩の1つ
- 組成物の総質量に対して0.1~10質量%、好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは1~2.5質量%の、好ましくは平均分子量が50,000~800,000の上述の少なくとも1つの非イオン性セルロースエーテル
- 組成物の総質量に対して0.1~15質量%、好ましくは0.5~10質量%、更により好ましくは1~6質量%、及びより好ましくは3~6質量%の、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブチレングリコール、ペンタン-1,2-ジオール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ペンチレングリコール、グリセロール、エチレングリコール、及びこれらの化合物の混合物から選択される少なくとも1つのC2-C8ポリオール
- 任意に、組成物の総質量に対して0.1~10質量%、好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは1~4質量%の上述の少なくとも1つのオキシアルキレン化グリセロールエステル
- 任意に、0~3質量%の上述の少なくとも1つの金属イオン封鎖剤及び/又は少なくとも1つの抗酸化剤
- 任意に、0.01~0.5質量%の少なくとも1つの抗菌剤、好ましくはメチルパラベン
- 任意に、pHを3~8、好ましくは4~7、より好ましくは5~6に保持するために、0~1質量%の上述の1つ又は複数のpH調整剤
- 総含有量が組成物の総質量に対して65質量%以上、好ましくは65~90質量%;より好ましくは70~90質量%、更により好ましくは75~85質量%の水
を含む。
この組成物CP2の代替的な実施形態に従って、組成物CP2は、脂肪物質、界面活性剤、金属イオン封鎖剤、及び/又は抗酸化剤を含まない。
【0022】
組成物CP1及びCP2は、神経障害性幻肢痛の治療に特に有効である。
本発明は、本発明による上述の組成物の1つ又は複数の局所投与を含む、局所経路、好ましくは皮膚経路による、神経障害性幻肢痛の治療方法にも関する。
特に、医薬組成物は、予防目的(例えば、肢の少なくとも1つの切断及び/又は少なくとも1つの求心路遮断を経験したものの、まだ神経障害性疼痛を経験していない人)にも治療目的(例えば、肢の少なくとも1つの切断及び/又は少なくとも1つの求心路遮断を経験し、既に神経障害性疼痛を経験している人)にも同じように良好に使用できる。
より具体的には、本発明による医薬組成物は、切断術の抜糸直後、即ち、好ましくは抜糸の30秒から12時間後に、その後引き続き1回又は複数回、予防目的で適用できる。
以下の実施例で、本発明による組成物及びこれらの組成物の利点を説明する。これらは、決して本発明を限定するものではない。
【実施例0023】
実施例1
水性ゲル状の製剤A(本発明)及びクリーム状の製剤B(対照)に含まれるアミトリプチリンの経皮吸収のex vivo比較試験。
以下の水性ゲル(組成物A)を以下の表に記載する成分から調製した。成分の量は質量%として表す。
【表1】
【0024】
組成物B(クリーム)は、組成物Bの総質量に対して10質量%の塩酸アミトリプチリン、及び90質量%のGaldermaから市販されているExcipial Hydrocreme(登録商標)クリームを含む。
組成物A及びBはそれぞれ別々のヒト皮膚試料に塗布した。組成物ごとに、3人の異なるドナーから得た3つの皮膚試料、即ち9つの試料を用いて実験を3回くり返した。
皮膚試料はフランツセルにセットし、表面温度32℃±1℃に加熱する。
スパチュラを使って1セル当たり10mg(皮膚1cm
2当たり5mg相当)の組成物A又はBを各皮膚試料の上に均一に塗布する。
皮膚試料は塗布の16時間後に洗い流す。
ピンセットで各皮膚試料をペーパータオル上に置いた(真皮を下向きに)。
接着ストリップを用いて角質層を除去する。
角質層を除去後、試料に穴を空ける。次いで、真皮から表皮を分離し、それぞれを別々のビンに入れる。
続いて、様々な試料の抽出を行った。
この浸透プロファイルは、非特許文献1に記載の試験において臨床有効性を示している。
これらの抽出の結果を以下の表にまとめる。
【表2】
【0025】
アミトリプチリンの全身移行が投与量の0.1%未満であることも観察された。その結果、アミトリプチリンの全身移行は無視できる。
本発明による水性ゲルAは、対照クリームBで得られたアミトリプチリンの皮膚浸透プロファイルと同様に、アミトリプチリンの十分な皮膚浸透プロファイルを有していることがわかる。
組成物Aと組成物Bで得られるバイオアベイラビリティが同程度であることもわかる。
組成物Aが神経障害性幻肢痛の治療に特に有効であることも観察された。
【0026】
実施例2
本発明による別の水性ゲル状医薬組成物(組成物A’)を以下の表に記載する成分から調製した。成分の量は質量%として表す。
【表3】
【0027】
本発明による組成物A’は、十分なアミトリプチリンの皮膚浸透プロファイル及びアミトリプチリンのバイオアベイラビリティを有していることが観察された。
組成物A’が神経障害性幻肢痛の治療に特に有効であることも観察された。
【0028】
実施例3
水性ゲル状の製剤C(本発明)及びクリーム状の製剤B(対照)の安定性試験。
以下の水性ゲル(組成物C)を以下の表に記載する成分から調製した。成分の量は質量%として表す。
【表4】
【0029】
組成物B(クリーム)は、組成物Bの総質量に対して10質量%の塩酸アミトリプチリン、及び90質量%のGaldermaから市販されているExcipial Hydrocreme(登録商標)クリームを含む。
組成物B及びCをそれぞれ40℃のオーブンに設置した。
次いで、組成物の安定性を経時的に目視で評価した(オーブンに入れた時点のT
0、オーブンに入れて24時間後のT
24、オーブンに入れて3ヵ月後のT
3ヵ月)。
これらの抽出の結果を以下の表にまとめる。
【表5】
【0030】
本発明による水性ゲル状組成物Cでは、40℃で3ヵ月後でもシネレシスが観察されなかった。
また、水中油型エマルション形態の対照組成物Bでは、40℃でわずか24時間後に相分離が観察されている。
更に、本発明による組成物Cで、40℃で6ヵ月間の完全な安定性試験を実施した。
結果を以下の表6及び7にまとめる。
【表6】
【0031】
【0032】
本発明による水性ゲル状組成物Cでは、40℃で6ヵ月後でもシネレシスが観察されなかった。
実施した各試験で大きな変動は観察されなかった。
従って、本発明による水性ゲル状組成物の物理化学的安定性が良好であることがわかる。
本発明による水性ゲル状組成物Cが神経障害性幻肢痛の治療に特に有効であることも観察された。