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特開2023-53935サイトカイン産生誘導能を高めるための乳酸菌の培養方法
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  • 特開-サイトカイン産生誘導能を高めるための乳酸菌の培養方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053935
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】サイトカイン産生誘導能を高めるための乳酸菌の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20230406BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230406BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/00 G
C12P21/02 K
C12P21/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158599
(22)【出願日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2021162791
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000208086
【氏名又は名称】大洋香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(72)【発明者】
【氏名】野本 康二
(72)【発明者】
【氏名】細田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】宮本 乃理子
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG02
4B064AG03
4B064AG07
4B064CA02
4B064CC03
4B064CD13
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA30X
4B065AC14
4B065BA21
4B065BB12
4B065CA24
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】食品素材で構成された乳酸菌用の培地を用いて、複雑な製造設備を必要としない条件下、高い収率で乳酸菌が得られ、かつ免疫調節作用を効率的に高める培養方法を提供する。
【解決手段】グルタミン酸又はグルタミン酸塩を0.2%以上含む培地で培養することを特徴とするサイトカイン産生誘導能を高めた乳酸菌の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミン酸又はグルタミン酸塩を0.2%以上含む培地で培養することを特徴とするサイトカイン産生誘導能を高めた乳酸菌の製造方法。
【請求項2】
サイトカインが炎症性サイトカインまたは抗炎症性サイトカインである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
サイトカインがIL-12、IL-10、TNF-α、IL-6またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
グルタミン酸又はグルタミン酸塩を0.2~6%含む培地で培養することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
グルタミン酸又はグルタミン酸塩を1~6%含む培地で培養することを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌発酵技術の分野に属し、乳酸菌の液体培養系における新規培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は古くからチーズ、ヨーグルト、漬物といった乳酸発酵食品として広く食されてきた。このような乳酸発酵食品は独特の風味を有し好まれているが、近年では嗜好品としてだけではなく、様々な機能性が期待されている。
【0003】
なかでも、アレルギー症状の緩和や上気道感染症の予防、症状軽減などといった免疫調節の効果、特に自然免疫に及ぼす作用には注目されてきた。例えば、乳酸菌が樹状細胞やマクロファージといった抗原提示細胞を刺激することで産生されたインターロイキン12(IL-12)がIgE抑制を介して、アレルギー症状を緩和することが報告されている(非特許文献1)。このとき、抗原提示細胞への刺激には乳酸菌の細胞壁や細胞表面の多糖などが関与することが明らかとなっている(非特許文献2、3)。
【0004】
一方で、乳酸菌の培養に用いられる培地としては、食品素材として使用できない試薬を含むため、直接食品用途に使用できないものの、主にMRS(deMan Rogosa Sharpe)培地が全ての乳酸菌の発育を促すため、研究用途でよく用いられている。
【0005】
このMRS培地を改変して、乳酸菌のもつ免疫調節効果を高める方法については、これまでも様々な研究がされてきた。例えば、MRS培地に塩化ナトリウムを加えて培養したラクトバチルス・サケイはIL-12産生誘導能が高くなること(非特許文献4)、MRS培地から肉エキスを抜いて培養したラクトバチルス・ガッセリはIL-12産生誘導能が高くなること(非特許文献5)、および、MRS培地を用いて中和培養したあと、培養後期において静置培養した乳酸菌はIL-12産生誘導能が高くなることが報告されている(特許文献1)。上述の方法にて、免疫調節作用を高められる理由としては、じっくりストレスをかけた培養による乳酸菌細胞壁の肥厚などが推測されている。
【0006】
ただし、中間原料としての乳酸菌は、複雑な製造設備を必要とせずに、乳酸菌を効率よく増やすことが望まれるが、上述のように乳酸菌にストレスをかけることは相反することになる。
【0007】
なお、IL-12はサイトカインの1つであり、サイトカインとして、IL-12などの炎症性サイトカイン、IL-10などの抗炎症性サイトカインが知られている。IL-10とIL-12は重要な免疫調節の役割を果たすことが報告されている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-131504号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Int Arch Allergy Immunol., 1998, Apr;115(4), 278-287
【非特許文献2】Langmuir., 2015, Feb;31(4), 1489-1495
【非特許文献3】J Dairy Sci., 2006、Sep;89(9), 3306-3317
【非特許文献4】ミルクサイエンス、2019、1号、68巻、37-43
【非特許文献5】Lett Appl Microbiol., 2011, Aug;53(2), 210-216
【非特許文献6】F1000Research., 2015, Dec, 1465
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、食品素材で構成された乳酸菌用の培地を用いて、複雑な製造設備を必要としない条件下、高い収率で乳酸菌が得られ、かつ免疫調節作用を効率的に高める培養方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、通常の培地に酵母エキス等から持ち込まれる量ひいては乳酸菌が生育に必要とする以上のグルタミン酸またはグルタミン酸塩を含む培地で培養することで、乳酸菌の免疫賦活効果を高められることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0012】
即ち、前記課題を解決する手段は、下記のとおりである。
[1]グルタミン酸又はグルタミン酸塩を0.2%以上含む培地で培養することを特徴とするサイトカイン産生誘導能を高めた乳酸菌の製造方法。
[2]サイトカインが炎症性サイトカインまたは抗炎症性サイトカインである、[1]に記載の製造方法
[3]サイトカインがIL-12、IL-10、TNF-α、IL-6またはそれらの組み合わせである、[1]に記載の製造方法。
[4]グルタミン酸又はグルタミン酸塩を0.2~6%含む培地で培養することを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]グルタミン酸又はグルタミン酸塩を1~6%含む培地で培養することを特徴とする[4]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、連続式pH中和装置のような複雑な設備を必要とせず、通常の培地よりも乳酸菌数が多くなる、ひいては乳酸菌に高いストレスをかけない条件下で乳酸菌の免疫賦活効果を高めることができる。より具体的には、通常の培地に比べて約1.1倍以上、約1.2倍以上、約1.3倍以上、約1.4倍以上、約1.5倍以上、約1.6倍以上、約1.7倍以上、約1.8倍以上、約1.9倍以上、約2倍以上、約2.5倍以上、約3倍以上高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムFL-664株(以下、FL-664)をMRSと食品用(FG)培地で培養したときのpH(A)と生菌数(B)の経時変化を示す。
図2図2は、MRS、あるいはFG培地で培養したFL-664でマウス脾臓細胞を24時間刺激したときに培地上清に含まれるIL-12(p40)量を乳酸菌添加量依存的に示す。p<0.01(two-way ANOVA with Tukey-Kramer method)
図3図3は、MRS、あるいはFG培地で培養したFL-664でマウス脾臓細胞を24時間刺激したときに培地上清に含まれるIL-10量を乳酸菌添加量依存的に示す。
図4図4は、MRS、あるいはFG培地で培養したFL-664でマウス脾臓細胞を24時間刺激したときに培地上清に含まれるTNF-α量を乳酸菌添加量依存的に示す。p<0.01(two-way ANOVA with Tukey-Kramer method)
図5図5は、MRS、あるいはFG培地で培養したFL-664でマウス脾臓細胞を24時間刺激したときに培地上清に含まれるIL-6量を乳酸菌添加量依存的に示す。p<0.01(two-way ANOVA with Tukey-Kramer method)
図6図6は、MRS、あるいはFG培地で培養したFL-664でマウス脾臓細胞を刺激したときに培地上清に含まれるIL-12(p40)量を経時的に示す。p<0.01(two-way ANOVA with Bonferroni method)
図7図7は、種々のグルタミン酸濃度にて培養したFL-664でマウス脾臓細胞を24時間刺激したときに培地上清に含まれるIL-12(p40)量を示す。**:p<0.01(one way ANOVA with Williamas method)。
図8図8は、グルタミン酸濃度を変えて培養した乳酸菌ラクトバチルス・パラカゼイNBRC15889株(以下NBRC15889)でマウス脾臓細胞を24時間刺激した時に培地上清に含まれるIL-12(p40)量を示す。**:p<0.01(unpaired t-test)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本開示に係る発酵処理に使用される乳酸菌としては、サイトカインの産生誘導能を有するものであれば特に限定されないが、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・パニス、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス、ラクトバチルス・アシドフィラス、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・プランタラム・サブスピーシーズ・プランタラム、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・クンキー、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ストレプトコッカス・サーモフィラスなどが挙げられ、特にラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・パラカゼイが好ましい。当業者はこれらから選ばれる1種以上を使用することができる。
【0017】
乳酸菌の菌株としては、ラクトバチルス・プランタラムとしては、ラクトバチルス・プランタラムFL-664等が挙げられる。また、ラクトバチルス・パラカゼイとしてはラクトバチルス・パラカゼイNBRC15889等が挙げられる。また、ラクトバチルス・ロイテリとしては、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112、ラクトバチルス・ロイテリJCM1081、ラクトバチルス・ロイテリJCM1084等の菌株が挙げられる。また、ラクトバチルス・パニスとしてはラクトバチルス・パニスJCM11053等が挙げられる。ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスとしては、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスJCM1002等が挙げられ、ラクトバチルス・アシドフィラスとしては、ラクトバチルス・アシドフィラスJCM1034等の菌株が挙げられる。ラクトバチルス・ブレビスとしてはラクトバチルス・ブレビスJCM1061等の菌株が挙げられ、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイとしては、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイJCM1109等が挙げられる。ラクトバチルス・ガセリとしては、ラクトバチルス・ガセリJCM1131等の菌株が挙げられ、ラクトバチルス・プランタラム・サブスピーシーズ・プランタラムとしてはラクトバチルス・プランタラム・サブスピーシーズ・プランタラムJCM1149等の菌株が挙げられる。ラクトバチルス・ファーメンタムとしては、ラクトバチルス・ファーメンタムJCM1173等の菌株が挙げられ、ラクトバチルス・クンキーとしては、ラクトバチルス・クンキーJCM16173等の菌株が挙げられる。ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスとしては、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスJCM5805等が挙げられ、ラクトバチルス・ヘルベティカスとしては、ラクトバチルス・ヘルベティカスFL-65株等が、ストレプトコッカス・サーモフィラスとしては、ストレプトコッカス・サーモフィラスFL-176株等が挙げられる。以上の菌株は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターなど国内外の公的微生物保存機関から分譲を受けることが可能である。
【0018】
本開示におけるサイトカインは特に限定されず、例えば、インターロイキン(IL)、ケモカイン、インターフェロン、および腫瘍壊死因子(TNF)、より具体的にエリスロポエチン、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-15、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-21、IL-22、IL-23、IL-25、IL-27、IL-37、IL-38、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、G-CSF、GM-CSF、M-CSF、TGF-β、TNF-α、TNF-βなどが挙げられる。より具体的な例として、本開示におけるサイトカインはIL-12、IL-10、TNF-α、IL-6またはそれらの組み合わせである。
【0019】
サイトカインのうち、IL-12をはじめTNF-α、IL-6、IFN-γなどは炎症性サイトカイン、IL-10をはじめ、IL-4などは抗炎症性サイトカインの役割がある代表的なサイトカインであり、生体の免疫維持・向上等にはそのバランスが重要と言われている。本開示においては、IL-12、IL-10の増加が確認されたことから、炎症、抗炎症の双方において調節作用が期待できる。
【0020】
本開示で使用する乳酸菌発酵の培地に用いられるグルタミン酸は、単独で添加することも、酵母エキスのように他のアミノ酸と混合されたものを添加することもできる。また、グルタミン酸の他に、アスパラギン酸のような他の酸性アミノ酸、グルタミン酸ナトリウムやグルタミン酸カリウムなどのグルタミン酸塩を添加することもできる。グルタミン酸又はグルタミン酸塩の配合量は、約0.2%以上、例えば約0.5%以上、好ましくは約1~約10%、より好ましくは約1.5~約8%、さらに好ましく約2~約6%、またはこれらの間の任意の数となるように配合することが可能である。具体的なグルタミン酸の配合量は、例えば、約1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5および6%である。
【0021】
本開示で使用する乳酸菌発酵の培地には、pH調整、および香料添加などを行うことも可能である。pH調整の範囲、および使用する物質は特に限定されず、水酸化ナトリウムおよび炭酸カリウム、クエン酸三ナトリウム等の無機塩の他、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、および酢酸等の有機酸を使用し、乳酸菌発酵に適したpH帯に調整することができる。使用する香料の種類や量も特に限定されず、必要な風味に合わせて調整することができる。
【0022】
上記のpH調整にはリン酸水素2カリウム-クエン酸のような緩衝液を用いることもできる。pH調整剤の濃度は、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などによって適宜選択することができ、通常は10~100mM、好ましくは20~50mMまたはこれらの間の任意の数であるが、これらの濃度に限定されない。
【0023】
培地には、一部の乳酸菌が生育に必要とするL-システイン、マンガン、およびオレイン酸等の栄養素を添加することも可能である。これらはそのまま用いることも、これらを含有する食品を添加することも可能である。
【0024】
上記のなかで特にマンガンは、マンガン単独で添加することはできないが、マンガン酵母やマンガン含有酵母エキスといった形態で添加することもできる。マンガン含有酵母エキスの濃度は、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などによって適宜選択することができ、通常は0.002~0.2%、好ましくは0.02%~0.2%またはこれらの間の任意の数であるが、これらの濃度に限定されない。
【0025】
本開示における発酵処理時間は、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約8時間~約108時間、好ましくは約12時間~約96時間、より好ましくは約16時間~約72時間またはこれらの間の任意の数であるが、これらの時間に限定されない。具体的な発酵時間は、例えば、約8、10、12、14、16、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、48、60、72、84、96、および108時間である。
【0026】
本開示における発酵処理温度は、原料、使用微生物、発酵時間、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約20~約45℃、好ましくは約25~約43℃、より好ましくは約30~約40℃またはこれらの間の任意の数であるが、これらの温度に限定されない。具体的な発酵時間は、例えば、約20、25、30、35、37、40、43、および45℃である。
【0027】
本開示における発酵処理開始時のpHは、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約pH3~9、好ましくは約pH4~8、より好ましくは約pH5~7またはこれらの間の任意の数であるが、これらのpHに限定されない。具体的なpHは、例えば、約3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、および9.0である。
【0028】
本明細書において「約」とは記載の数値の±10%、好ましくは±5%の範囲を意味する。
【0029】
以下、本開示に係る実施例を説明するが、本開示の技術的範囲はこの説明に限定されるものではない。
【実施例0030】
<pHの分析>
以下の実施例、比較例のpHは、卓上pHメーターLAQUA(株式会社堀場製作所)を用いて分析を行った。
【0031】
<乳酸菌数の測定>
以下の実施例、比較例サンプルの乳酸菌生菌数は、BCP加プレートカウントアガール(日水製薬株式会社)を用いて、メーカーの指定通りに測定した。また、死菌も含めた乳酸菌全菌数は、衛生試験法・注解(日本薬学会編、p83-84(2015))を参考にDAPI染色法にて行った。細胞に対する乳酸菌数添加量は全菌数にて決定した。
【0032】
<乳酸菌スターターの調製例>
MRS培地(メルク社)をメーカー指定通りに調製し、30℃に温度調整した。次いで、温度調整後の培養基にFL-664株0.05%を接種して生菌数1.0×10~1.0×10cfu/ml程度とし、30℃で20時間培養した。その後、発酵物を遠心分離して菌体を回収し、更に同量の滅菌生理食塩水にて懸濁し再度遠心分離して菌体を洗浄した。最終的に得られた菌体を滅菌生理食塩水にて再度懸濁し、生菌数1.0×10~2.0×10cfu/ml程度に調整したものをFL-664スターターとした。
【0033】
前記FL-664スターター調製例から、接種する乳酸菌をラクトバチルス・パラカゼイNBRC15889に置き換え、その他は同様の工程を取ることで、NBRC15889スターターを調製した。
【0034】
<実施例1-1:食品グレード(FG)培地での乳酸菌の培養例>
L-グルタミン酸ナトリウム(三菱商事ライフサイエンス株式会社)2%、ハイマルトースM70-75C(日本コーンスターチ株式会社)3%、酵母エキスSL-W(三菱商事ライフサイエンス株式会社)0.6%、イーストリッチマンガン(オリエンタル酵母工業株式会社)0.06%、リン酸水素二カリウム0.435%(米山化学工業株式会社)、液体クエン酸0.075%(扶桑化学工業株式会社)、水92.83%を混合し、食品グレード(FG)培地とした。混合した培地を90℃で15分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。殺菌後の培地に、上記で調製したFL-664スターターを1%接種し、30℃で24時間発酵させた。発酵の停止は80℃で5分間加熱することで行い、得られた発酵物を実施例1-1とした。
【0035】
<比較例1-1:MRS培地での乳酸菌の培養例>
MRS培地をメーカー指定通りに調製し、その後30℃まで冷却した。殺菌後の培地に、上記で調製したFL-664スターターを1%接種し、30℃で24時間発酵させた。発酵の停止は80℃で5分間加熱することで行い、得られた発酵物を比較例1-1とした。
【0036】
前記の実施例1-1、比較例1-1についてpHと生菌数の経時変化を観察した。結果を図1(A)、(B)に示す。
【0037】
FG培地では、12~48時間の観察中に継続して高い生菌数を保っていた。連続式中和装置などの特別な設備を必要とせず、MRS培地と比較しても高い収率で乳酸菌が培養出来ていることがわかる。安定した比較を行うために、以下の試験は定常期である培養開始24時間での比較を行っていくこととした。
【0038】
<細胞刺激に用いる乳酸菌の調製例>
実施例1-1、比較例1-1のように培養した乳酸菌をD-PBSで洗浄して、パインデックス#100(松谷化学工業株式会社)等のデキストリンを賦型剤として加え、凍結乾燥した。細胞刺激を行う際には、凍結乾燥した乳酸菌をD-PBSで遠心洗浄した後、適宜希釈した。
【0039】
<マウス脾臓細胞の準備>
12週齢まで飼育したBALB/c雄マウスは揮発性麻酔薬イソフルランの吸入麻酔下での心臓採血によって安楽死させた。取り出した脾臓は赤血球を取り除き、HBSS培地(ナカライテスク株式会社)で遠心洗浄した。洗浄した脾臓細胞は2.5×10cell/mlになるように10%FBS(GE Healthcare Life Science Hyclone Laboratories社製,Lot. No. AE28209315)を含む、RPMIに懸濁して準備した。
【0040】
<初代マウス脾臓細胞に対する刺激活性評価>
前記の実施例1-1、比較例1-1について、初代マウス脾臓細胞に対する刺激活性を、乳酸菌数の条件を振って調べた。細胞数:乳酸菌数=1:0.5~5になるように37℃・5%CO条件下で24時間刺激を行い、IL-12(P40)、IL-10、TNF-α、IL-6産生量を測定した。結果を図2~5に示す。
【0041】
FG培地で培養した乳酸菌を刺激に用いると、添加量依存的にIL-12、IL-10、TNF-α、IL-6産生量が多くなった。これにより、サイトカインの産生誘導能が高められることが確認された。
【0042】
<初代マウス脾臓細胞に対する刺激活性の経時変化>
前記の実施例1-1、比較例1-1について、初代マウス脾臓細胞に対する刺激活性の経時変化を調べた。細胞数:乳酸菌数=1:5になるように37℃・5%CO条件下で3~72時間刺激を行い、IL-12(p40)産生量を測定した。結果を図6に示す。FG培地ではIL-12産生量を測定した。結果を図6に示す。
【0043】
IL-12(p40)が産生される12~72時間のどの時間帯においても、FG培地で培養した乳酸菌を刺激に用いた方がIL-12(p40)産生量が多くなった。
【0044】
市販MRS培地に含まれるL-グルタミン酸濃度をHPLCで測定したところ、約0.02%含まれていたことから、L-グルタミン酸濃度違いによる初代マウス脾臓細胞に対する刺激活性を検証した。
【0045】
<実施例2-1~2-6、比較例2-1:L-グルタミン酸濃度違いによる検証>
前記の実施例1-1のうち、ハイマルトースM70-75Cをグルコース2.4%に、L-グルタミン酸ナトリウムを0.02~6%、培養時間を24時間とし、その他は同様の工程を取ることでL-グルタミン酸ナトリウムが0.2~6%の実施例2-1~2-6、L-グルタミン酸ナトリウムが0.02%の比較例2-1を調製した。
【0046】
前記の実施例2-1~2-6、比較例2-1について、初代マウス脾臓細胞に対する刺激活性を検証した。結果を図7に示す。
【0047】
培地へのL-グルタミン酸ナトリウム添加量依存的にIL-12(p40)産生量は多くなり、MRS培地と同等の0.02%添加と比較して、6%添加では1.6倍産生誘導能が高くなった。
【0048】
<実施例3-1、比較例3-1:乳酸菌種の違いによる検証>
スターターFL-664をNBRC15889に置き換え、L-グルタミン酸ナトリウム2%又は0.02%とし、その他は同様の工程を取ることでL-グルタミン酸ナトリウム2%の実施例3-1、L-グルタミン酸ナトリウム0.02%の比較例3-1を調製した。
【0049】
前記の実施例3-1、比較例3-1について、初代マウス脾臓細胞に対する刺激活性を調べた。細胞数:乳酸菌数=1:5になるように37℃・5%CO条件下で24時間刺激を行い、IL-12産生量を測定した。結果を図8に示す。
【0050】
2%添加時に0.02%添加時よりもIL-12産生量は多くなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8