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特開2023-54064クロルヘキシジンを含有する医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054064
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】クロルヘキシジンを含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/155 20060101AFI20230406BHJP
   A61K 31/16 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 31/231 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230406BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230406BHJP
   C07C 279/18 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
A61K31/155
A61K31/16
A61K31/231
A61K9/08
A61K47/18
A61P27/02
C07C279/18
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018808
(22)【出願日】2023-02-10
(62)【分割の表示】P 2019534575の分割
【原出願日】2018-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2017151083
(32)【優先日】2017-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】梅崎 慎也
(72)【発明者】
【氏名】松本 直樹
(57)【要約】
【課題】医薬組成物の防腐性を保つため、医薬組成物中のクロルヘキシジンの安定性を保つ手段を見出すこと。
【解決手段】本発明によれば、エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられた、クロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物は、該医薬組成物中のクロルヘキシジン又はその塩の含有量の経時的低下が制御される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンオキサイドガス(以下、EOGともいう。)滅菌された容器に入れられた、クロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬組成物の中でも特に点眼剤は、目に直接投与されるために、点眼時まで無菌状態を保たれることが厳しく求められている。そのため、点眼剤を製造する際には容器を無菌化する必要があり、ガンマ線滅菌、電子線滅菌、EOG滅菌、過酸化水素水滅菌、高圧蒸気滅菌などの滅菌処理が行われている。
【0003】
特許文献1には、分子内にフッ素原子を含有するプロスタグランジン誘導体を含有する医薬組成物をEOG滅菌された容器に入れることが記載されている。
【0004】
さらに、開封後の微生物汚染を防ぐために、通常、点眼剤にはベンザルコニウム塩化物、クロルヘキシジン等の防腐剤が添加されている。しかしながら、医薬組成物中のクロルヘキシジン又はその塩の含有量が経時的に低下することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0139648号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、医薬組成物中のクロルヘキシジン又はその塩の含有量の経時的低下を抑制し、長期的に防腐性を保ち安全な医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、クロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物を電子線滅菌された容器に入れると、クロルヘキシジン又はその塩の含有量の経時的低下が起こることを見出だし、更にクロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物をエチレンオキサイドガス滅菌容器に入れると、熱や光によるクロルヘキシジン又はその塩の含有量の経時的低下を抑制できることを見出だして、本発明を完成させた。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1)エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられた、クロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物。
【0009】
(2)クロルヘキシジン又はその塩の含有量が、0.0001~0.1%(w/v)である、(1)に記載の医薬組成物。
【0010】
(3)エデト酸又はその塩をさらに含有する、(1)又は(2)に記載の医薬組成物。
【0011】
(4)エデト酸又はその塩の含有量が、0.0001~3%(w/v)である、(3)に記載の医薬組成物。
【0012】
(5)ビマトプロスト、ラタノプロスト又はトラボプロストをさらに含有する、(1)~(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0013】
(6)ビマトプロストの含有量が、0.01~0.05%(w/v)である、(5)に記載の医薬組成物。
【0014】
(7)ラタノプロスト又はトラボプロストの含有量が、0.001~0.01%(w/v)である、(5)に記載の医薬組成物。
【0015】
(8)容器が、ポリエチレン製又はポリプロピレン製である、(1)~(7)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0016】
(9)エチレンオキサイドガス滅菌容器の残留エチレンオキサイド濃度が、0~10ppmである、(1)~(8)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0017】
(10)点眼剤である(1)~(9)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0018】
(11)水溶液である、(1)~(10)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0019】
(12)クロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物を、エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れることによる、クロルヘキシジン又はその塩を安定化する方法。
【0020】
(13)容器をエチレンオキサイドガスで滅菌し、その中にクロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物を入れることを含む、医薬品を製造する方法。
【0021】
(14)容器をエチレンオキサイドガスで滅菌し、その中にクロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物を入れることで得られる、医薬品。
【0022】
本発明は、更に以下にも関する。
【0023】
(15)クロルヘキシジン又はその塩を含有し、エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられた、眼疾患の治療及び/又は予防のための医薬組成物。
【0024】
(16)眼疾患の治療及び/又は予防における使用のための、クロルヘキシジン又はその塩を含有し、エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられた、医薬組成物。
【0025】
(17)眼疾患の治療及び/又は予防するための医薬の製造のための、クロルヘキシジン又はその塩を含有し、エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられた、医薬組成物の使用。
【0026】
(18)眼疾患の治療及び/又は予防する方法であって、クロルヘキシジン又はその塩を含有し、エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられた、医薬組成物を、それを必要とする対象に有効量投与することを含む、方法。
【0027】
(19)クロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物がエチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられた、医薬用製品。
【0028】
なお、前記(1)から(19)の各構成は、任意に2以上を選択して組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、医薬組成物中のクロルヘキシジン又はその塩の含有量の経時的低下を抑制することができ、エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられたクロルヘキシジン又はその塩を含有する長期的に防腐性を保つ医薬組成物を提供することができる。また、本発明の医薬組成物は、細胞障害性が低く、医薬品として安全に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれに特に限定されない。
【0031】
本発明の医薬組成物は、エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられた、クロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物である。
【0032】
本発明の医薬組成物に含有されるクロルヘキシジンは、式(1):
【化1】

で表される化合物であり、化学名1-[amino-[6-[amino-[amino-(4-chlorophenyl)amino-methylidene]amino-methylidene]aminohexylimino]methyl]imino-N-(4-chlorophenyl)-methanediamine等で表される化合物である。
【0033】
本発明の医薬組成物に含有されるクロルヘキシジンは、クロルヘキシジンの塩であってもよく、医薬として許容される塩であれば特に制限はない。クロルヘキシジンの塩としては無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。
【0034】
無機酸との塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩が挙げられ、塩酸塩が好ましい。
【0035】
有機酸との塩の例としては、酢酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、アラニン、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、没食子酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸ラウリル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸等との塩が挙げられ、グルコン酸塩、酢酸塩が好ましい。
【0036】
本発明の医薬組成物において、クロルヘキシジン及びその塩は、水和物又は溶媒和物の形態をとってもよい。
【0037】
本発明の医薬組成物において、クロルヘキシジン又はその塩の含有量は、医薬として許容される量であれば、特に制限されないが、その下限が、例えば0.0001%(w/v)、好ましくは0.0005%(w/v)、より好ましくは0.0007%(w/v)、更に好ましくは0.001%(w/v)、特に好ましくは0.002%(w/v)であり、その上限が、例えば0.1%(w/v)、好ましくは0.01%(w/v)、より好ましくは0.007%(w/v)、更に好ましくは0.006%(w/v)、特に好ましくは0.005%(w/v)である。さらに、それらの上限と下限は適宜組み合わせて使用することができる。例えば、下限の0.002%(w/v)と上限の0.1%(w/v)、0.01%(w/v)、0.007%(w/v)、0.006%(w/v)及び0.005%(w/v)を組み合わせて、0.002~0.1%(w/v)、0.002~0.01%(w/v)、0.002~0.007%(w/v)、0.002~0.006%(w/v)、0.002~0.005%(w/v)のように範囲を設定することができる。より具体的には、本発明の医薬組成物において、クロルヘキシジン又はその塩の含有量は、例えば、0.0001~0.1%(w/v)が好ましく、0.0005~0.01%(w/v)がより好ましく、0.0007~0.007%(w/v)がさらにより好ましく、0.001~0.006%(w/v)が特に好ましく、0.002~0.005%(w/v)が最も好ましい。なお、本発明の防腐剤が使用される医薬組成物においてクロルヘキシジンの塩が含有される場合、これらの値は塩の質量を基準にした含有量である。なお、「%(w/v)」は、本発明の医薬組成物100mL中に含まれる対象成分(ここでは、クロルヘキシジン)の質量(g)を意味する。対象成分が界面活性剤等の添加剤等である場合も同様であり、またその塩や水和物が含有される場合は、これらの値は塩や水和物の質量を基準にした含有量である。
【0038】
本発明の医薬組成物は、必要に応じて添加剤を含有することができる。添加剤の例としては、界面活性剤、緩衝化剤、等張化剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、粘稠化剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0039】
本発明の医薬組成物には、医薬品の添加物として使用可能な界面活性剤を適宜配合することができ、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を配合することができる。
【0040】
アニオン性界面活性剤の例としては、リン脂質等が挙げられ、リン脂質としてはレシチン等が挙げられる。
【0041】
カチオン性界面活性剤の例としては、アルキルアミン塩、アルキルアミンポリオキシエチレン付加物、脂肪酸トリエタノールアミンモノエステル塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、脂肪酸ポリアミン縮合物、アルキルイミダゾリン、1-アシルアミノエチル-2-アルキルイミダゾリン、1-ヒドロキシルエチル-2-アルキルイミダゾリン等が挙げられる。
【0042】
非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ショ糖脂肪酸エステル、ビタミンE TPGS等が挙げられる。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が好ましく、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40が最も好ましい。
【0043】
本発明の医薬組成物に界面活性剤を配合する場合の界面活性剤の含有量は、界面活性剤の種類等により適宜調整することができるが、0.001~10%(w/v)が好ましく、0.01~5%(w/v)がより好ましく、0.1~3%(w/v)がさらに好ましく、0.2~2%(w/v)が最も好ましい。
【0044】
本発明の医薬組成物には、医薬品の添加物として使用可能な緩衝剤を配合することができる。緩衝剤の例としては、リン酸又はその塩、ホウ酸又はその塩、クエン酸又はその塩、酢酸又はその塩、炭酸又はその塩、酒石酸又はその塩、ε-アミノカプロン酸、トロメタモール等、或いはそれらの水和物が挙げられる。
【0045】
リン酸塩の例としては、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、無水リン酸一水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム十二水和物、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等が挙げられ、ホウ酸の塩としては、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等が挙げられ、クエン酸塩の例としては、クエン酸一水和物、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等が挙げられ、酢酸塩の例としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等が挙げられ、炭酸塩の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、酒石酸塩の例としては、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム等が挙げられる。
【0046】
本発明の医薬組成物に緩衝剤を配合する場合の緩衝剤の含有量は、緩衝剤の種類等により適宜調整することができるが、0.001~10%(w/v)が好ましく、0.01~5%(w/v)がより好ましく、0.1~3%(w/v)がさらに好ましく、0.2~2%(w/v)が最も好ましい。
【0047】
本発明の医薬組成物には、医薬品の添加物として使用可能な等張化剤を適宜配合することができる。等張化剤の例としては、イオン性等張化剤や非イオン性等張化剤等が挙げられる。イオン性等張化剤の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等が挙げられ、塩化ナトリウムが好ましい。非イオン性等張化剤の例としてはグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられ、マンニトールが好ましい。
【0048】
本発明の医薬組成物に等張化剤を配合する場合の等張化剤の含有量は、等張化剤の種類等により適宜調整することができるが、0.01~10%(w/v)が好ましく、0.05~8%(w/v)がより好ましく、0.1~7%(w/v)がさらに好ましく、0.5~5%(w/v)が最も好ましい。
【0049】
本発明の医薬組成物には、医薬品の添加物として使用可能な安定化剤を適宜配合することができる。安定化剤の例としては、エデト酸又はその塩、クエン酸又はその塩が挙げられる。安定化剤の例としては、エデト酸、エデト酸一ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられ、エデト酸二ナトリウムが好ましく、エデト酸二ナトリウム二水和物が特に好ましい。
【0050】
本発明の医薬組成物に安定化剤を配合する場合の安定化剤の含有量は、安定化剤の種類等により適宜調整することができるが、0.0001~3%(w/v)が好ましく、0.0005~1%(w/v)がより好ましく、0.001~0.1%(w/v)がさらに好ましく、0.01~0.05%(w/v)が最も好ましい。
【0051】
本発明の医薬組成物には、クロルヘキシジン及びその塩のほか、医薬品の添加物として使用可能な防腐剤を適宜配合することができる。防腐剤の例としては、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール等が挙げられる。
【0052】
本発明の医薬組成物に防腐剤を配合する場合の防腐剤の含有量は、防腐剤の種類等により適宜調整することができるが、0.0001~3%(w/v)が好ましく、0.0005~2%(w/v)がより好ましく、0.0007~1%(w/v)がさらに好ましく、0.001~0.1%(w/v)が最も好ましい。
【0053】
本発明の医薬組成物には、医薬品の添加物として使用可能な抗酸化剤を適宜配合することができる。抗酸化剤の例としては、アスコルビン酸、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0054】
本発明の医薬組成物に抗酸化剤を配合する場合の抗酸化剤の含有量は、抗酸化剤の種類等により適宜調整することができるが、0.0001~1%(w/v)が好ましく、0.0005~0.5%(w/v)がより好ましく、0.01~0.1%(w/v)がさらに好ましく、0.001~0.01%(w/v)が最も好ましい。
【0055】
本発明の医薬組成物には、医薬品の添加物として使用可能な粘稠化剤を適宜配合することができる。粘稠化剤の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0056】
本発明の医薬組成物に粘稠化剤を配合する場合、その含有量は、粘稠化剤の種類等により適宜調整することができる。本発明の医薬組成物において、粘稠化剤の含有量は、その下限が、例えば0.001%(w/v)、好ましくは0.0015%(w/v)、より好ましくは0.005%(w/v)、更に好ましくは0.01%(w/v)、特に好ましくは0.1%(w/v)であり、最も好ましくは0.3%(w/v)であり、その上限が、例えば5%(w/v)、好ましくは4%(w/v)、より好ましくは3%(w/v)、更に好ましくは2%(w/v)、特に好ましくは1%(w/v)であり、最も好ましくは0.9%(w/v)である。さらに、それらの上限と下限は適宜組み合わせて使用することができる。より具体的には、本発明の医薬組成物において、粘稠化剤の含有量は、例えば、0.001~5%(w/v)であり、0.0015~4%(w/v)が好ましく、0.005~3%(w/v)がより好ましく、0.01~2%(w/v)がさらに好ましく、0.1~1%(w/v)が特に好ましく、0.3~0.9%(w/v)が最も好ましい。本発明の医薬組成物は、粘稠化剤を含まなくてもよい。
【0057】
本発明の医薬組成物には、医薬品の添加物として使用可能なpH調整剤を適宜配合することができる。pH調整剤の例としては、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、塩酸、水酸化ナトリウム、クエン酸が好ましい。
【0058】
本発明の医薬組成物のpHは、医薬として許容されるpHであれば特に制限はなく、4.0~8.5が好ましく、4.5~8.0がより好ましく、5.0~7.8がさらに好ましく、5.5~7.5が最も好ましい。
【0059】
本発明の医薬組成物は、1つ又は複数の、好ましくは1~3つの、より好ましくは1つ又は2つの薬物を含有することができる。薬物の例としては、フルオロメトロン、ハイドロコルチゾン、トリアムシノロン、フルオシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等のステロイド、イソプロピルウノプロストン、ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト等のプロスタグランジン誘導体、シクロスポリン、シロリムス、FK506等の免疫抑制剤、オロパタジン、アゼラスチン等の抗アレルギー剤、インドメタシン、ブロムフェナク、ジクロフェナク等の非ステロイド性抗炎症剤、ドルゾラミド、ブリンゾラミドなどの炭酸脱水酵素阻害剤、チモロール、カルテオロール等のβ受容体遮断薬等が挙げられる。本発明の医薬組成物は、好ましくは眼科用の薬物、更に好ましくはプロスタグランジン誘導体、より更に好ましくはビマトプロスト、ラタノプロスト又はトラボプロストをさらに含有することができる。
【0060】
本発明の医薬組成物に薬物を配合する場合、その含有量は、薬物の種類等により適宜調整することができるが、0.00001~10%(w/v)が好ましく、0.0005~5%(w/v)がより好ましく、0.001~3%(w/v)がさらに好ましく、0.001~2%(w/v)が最も好ましい。
【0061】
本発明の医薬組成物は、エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられる。本発明の医薬組成物をエチレンオキサイドガス滅菌容器に入れた後、エチレンオキサイドガス滅菌容器は通常の方法で封をすることができる。
【0062】
本発明の医薬組成物において、エチレンオキサイドガス滅菌容器は、エチレンオキサイドガスを用いて滅菌された容器であれば特に制限はなく、例えば点眼容器、好ましくはマルチドーズ型点眼容器が挙げられる。マルチドーズ型点眼容器とは複数回使用することを目的にキャップ等の開閉を自由に行えるようにした点眼容器である。逆流防止機能等の防腐効果を発揮するための特別な構造を有するPFMD(Preservative Free Multi Dose)点眼容器に入れてもよい。点眼容器は1部材または複数の部材から形成されてもよく、1ピース型点眼容器、2ピース型点眼容器又は3ピース型点眼容器のいずれでもよい。なお、例えば、3ピース型点眼容器であれば、本発明の医薬組成物を保持する容器本体と中栓、キャップの3部材から形成されるし、またブロー成形と薬液充填を同時に行う一体成型型容器もその部材数に即して前記の点眼容器に含まれる。また、容器が複数の部材から形成される場合には、同一の素材による部材で形成されてもよく、異なる素材による部材で形成されてもよい。さらに、素材が部材の一部又は全部を構成し、またはコーティングしている場合であってもよい。容器は、市販されているか、又は公知の方法で製造されるものを使用できる。
【0063】
本発明の医薬組成物において、エチレンオキサイドガス滅菌容器の素材には特に制限はなく、樹脂を使用することができ、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリプロピレン-ポリエチレンコポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレンなどが挙げられる。さらにポリエチレンは、その密度によって分類され、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等が挙げられる。好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン-エチレンコポリマー、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられ、特に好ましくは、ポリプロピレン、プロピレン-エチレンコポリマーなどが挙げられる。ここで、プロピレン-エチレンコポリマーとは、エチレン成分を含有するプロピレン重合体であれば特に制限されないが、好ましくは、エチレン成分を10モル%以下含有するプロピレン重合体である。
【0064】
本発明において、エチレンオキサイドガス滅菌容器は、残留エチレンオキサイド濃度が、例えば、0~10ppmであり、0~5ppmが好ましく、0~1ppmがより好ましく、0~0.5ppm以下がさらに好ましく、検出されないのが最も好ましい。日本医療用プラスチック協会「医療用具の残留エチレンオキサイドの定量法」に従って測定することができる。
【0065】
本発明において、エチレンオキサイドガス滅菌は、エチレンオキサイドガスを用いて容器を滅菌できれば特に制限はないが、例えば、所定の温度、所定の相対湿度の下、所定の時間、容器をエチレンオキサイドガスに曝すことによって、滅菌することができ、その後、必要に応じてエチレンオキサイドガスを除去するためにエアレーションを行うことができる。
【0066】
本発明において、エチレンオキサイドガス滅菌で使用されるガスは、エチレンオキサイドガスのみであっても、二酸化炭素などとの混合ガスであっても良い。混合ガスを用いる場合のエチレンオキサイドガスとそのほかのガスの割合は、体積比で、例えば、5:95~50:50であり、10:90~40:60が好ましく、15:85~30:70がより好ましく、20:80が最も好ましい。
【0067】
本発明において、エチレンオキサイドガス滅菌の温度は、例えば、20~80℃、好ましくは30~60℃である。
【0068】
本発明において、エチレンオキサイドガス滅菌の相対湿度は、例えば、20~90%、好ましくは30~80%である。
【0069】
本発明において、エチレンオキサイドガス滅菌の時間は、例えば、1~10時間、好ましくは2~5時間である。
【0070】
本発明において、エチレンオキサイドガス滅菌後、エアレーションは必ずしも実施する必要はないが、エアレーションを実施する場合は、例えば、空気、窒素、アルゴン、二酸化炭素を使用することができ、エアレーション時間は、好ましくは8時間以上、より好ましくは12時間以上、最も好ましくは24時間以上である。
【0071】
本発明の医薬組成物は室温にて保存する場合でも、クロルヘキシジン又はその塩が長期間安定に保たれるが、より低温で保存することにより、さらに長期間クロルヘキシジン又はその塩を安定に保つことができる。本願発明の医薬組成物を保存する場合、保存温度は-30℃以上30℃以下が好ましく、-25℃以上25℃以下がより好ましく、-15℃以上15℃以下がさらに好ましい。
【0072】
本発明の医薬組成物は、それが調製された時点に比較してある保管期間後に少なくとも60%のクロルヘキシジン又はその塩の濃度を保持している場合(つまり、残存率が60%以上である場合)、医薬的に安定な製剤であるといえる。本発明の医薬組成物は、医薬組成物の調製された時点のクロルヘキシジン又はその塩の量と比較して、ある保管期間後に、医薬組成物中のクロルヘキシジン又はその塩の濃度が、60~100%、好ましくは70~99.9%、より好ましくは80~99.8%、さらに好ましくは90~99.7%、特に好ましくは95~99.6、最も好ましくは97~99.5%で維持されている。
【0073】
本発明の医薬組成物は、1週間~5年間、好ましくは1ヶ月~4年間、より好ましくは3ヶ月~3年間、最も好ましくは6ヶ月~2年間での保管期間にわたって安定である。
【0074】
本発明の医薬組成物の剤形は、医薬品として使用可能なものであれば特に制限されないが、例えば、点眼剤であり、当該技術分野における通常の方法に従って製造することができる。
【0075】
本発明の医薬組成物は、例えば、溶液のほか懸濁剤やエマルジョンであってもよく、溶媒又は分散媒は水であることが好ましく、水溶液であることが最も好ましい。
【0076】
本発明は、エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられた、クロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物を含む、医薬用製品を提供する。また、本発明は、クロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物と、前記医薬組成物を入れたエチレンオキサイドガス滅菌容器とを含む、医薬用製品を提供する。また、本発明は、クロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物が、エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられた、医薬用製品を提供する。本発明の医薬用製品は、クロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物が、エチレンオキサイドガス滅菌容器に収容された状態にあるものである。医薬用製品は、眼科用製品、耳鼻咽喉科用製品、皮膚用製品であることが好ましく、眼科用製品であることがより好ましい。眼科用製品としては、例えば、点眼剤、注射剤、眼軟膏、挿入剤等の製品が挙げられる。
【0077】
上記の本発明の医薬組成物の詳細な説明は、本発明のクロルヘキシジン又はその塩を安定化する方法、医薬品を製造する方法、医薬品、医薬組成物の使用、眼疾患の治療及び/又は予防する方法、並びに、医薬用製品にも適用される。
【0078】
本発明のクロルヘキシジン又はその塩を安定化する方法は、クロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物を、エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れることを含む。
【0079】
本発明のクロルヘキシジン又はその塩を安定化する方法によれば、医薬組成物中のクロルヘキシジン又はその塩の安定性が保たれ、その含有量の低下が制御される。
【0080】
本発明の医薬品を製造する方法する方法は、容器をエチレンオキサイドガスで滅菌し、その中にクロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物を入れることを含む。
【実施例0081】
以下に製剤例並びに安定性試験及び細胞障害性試験の結果を示すが、これらは本発明をより良く理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0082】
製剤例
以下に本発明の代表的な製剤例を示す。なお、下記製剤例において各成分の配合量は製剤1mL中の含量である。
【0083】
製剤例1
クエン酸ナトリウム一水和物 0.2mg
クロルヘキシジングルコン酸塩 0.01mg
エデト酸二ナトリウム二水和物 0.1mg
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 6.5
【0084】
製剤例2
リン酸水素二ナトリウム十二水和物 5mg
クロルヘキシジングルコン酸塩 0.03mg
D-マンニトール 30mg
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.5
【0085】
製剤例3
ビマトプロスト 30mg
クエン酸ナトリウム一水和物 0.2mg
クロルヘキシジングルコン酸塩 0.01mg
エデト酸二ナトリウム二水和物 0.1mg
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 6.5
【0086】
製剤例4
トラボプロスト 4mg
リン酸水素二ナトリウム十二水和物 5mg
クロルヘキシジングルコン酸塩 0.03mg
D-マンニトール 30mg
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.5
【0087】
なお、前記製剤例1及び2におけるクロルヘキシジン及び添加剤の種類や配合量、並びに、pHを適宜調整し所望の組成物を得ることができる。
【0088】
安定性試験
1.被験製剤の調製
ビマトプロスト0.06g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物0.716g、クエン酸一水和物0.028g、エデト酸二ナトリウム二水和物0.02g、塩化ナトリウム1.66g、水で0.2%に希釈したクロルヘキシジングルコン酸塩液2mLを水180mLに溶解し、水酸化ナトリウム/希塩酸を加えてpHを調整した後に全量を200mLとし、実施例1の製剤を調製した。また、同様の方法により、実施例2~26及び比較例1~5の製剤を調製した。
【0089】
2.試験方法
・実施例
5mL用の樹脂製容器(ポリエチレン、東ソー製ペトロセン)にエチレンオキサイドガス滅菌処理(エチレンオキサイド/二酸化炭素濃度20%/80%(V/V)、温度40℃、相対湿度50%、3時間滅菌)を施した後、同容器に実施例1~26の製剤5mLを入れて、打栓をし、キャップを装栓した。温度;60℃又は50℃、湿度:成り行き、及び遮光下の条件、又は、温度:約25℃、湿度:成り行き、及び1000lx/hrの条件で表2~7に記載した期間保存した後に、高速液体クロマトグラフィー法にて製剤中のクロルヘキシジンの濃度を測定し、保存開始時の濃度を基準(100%)としてクロルヘキシジンの残存率を算出した。その結果を表1~7に示す。高速液体クロマトグラフィー法は、Waters社製UPLCを用いて、次の条件により測定した。カラム AQCUITY BEH C18 (100mmx2.1mm,粒子径1.7μm)を50℃付近の一定温度に保ち、pH2.5のトリエチルアミン・過塩素酸溶液/アセトニトリルを約0.5mL毎分の流量でグラジエント機能により、アセトニトリルの割合を制御して測定を行った。
【0090】
・比較例
比較例1~5の製剤につき、エチレンオキサイドガス滅菌処理を電子線滅菌処理(加速電圧4.0MV、電子流20mA、18kGy)に変えた点を除いて、実施例1~26と同様の操作でクロルヘキシジンの含有率を算出した。
【0091】
3.試験結果及び考察
試験結果を表1~7に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
【表7】
【0099】
表1~7から分かるように、エチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられた実施例1~26の製剤は、電子線照射滅菌された容器に入れられた比較例1~5の製剤より、熱及び光のいずれに対してもクロルヘキシジンの高い残存率を示した。以上の結果より、薬物の有無や種類によらず、クロルヘキシジン又はその塩を含有する医薬組成物をエチレンオキサイドガス滅菌容器に入れることで、該医薬組成物中のクロルヘキシジン又はその塩の熱及び光に対する安定性が保たれ、その含有量の低下が制御されることが分かった。
【0100】
細胞障害性試験
1.被験製剤の調製
実施例1の製剤と同様の方法により、実施例27~29及び比較例6の製剤を調製した。
【0101】
2.試験方法
SV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T:理化学研究所 バイオリソースセンター、Cell No.:RCB2280)を96ウエルプレートに播種(1×10細胞/ウエル)し、10%FBS含有D-MEM/F12培地で2日間培養した。培地をDMEM/F-12、または実施例27~29、または比較例6の製剤に交換した後、前記角膜上皮細胞を30分間または60分間培養した。Cell Proliferation Assay Kit(Promega社製、カタログ番号:G3580)を用いて、生細胞数(490nmの吸光度に相当する)を測定した。DMEM/F-12群に対する各実施例および比較例の吸光度値の百分率を算出し、細胞生存率(%)とした。
【0102】
3.試験結果及び考察
試験結果を表8に示す。
【0103】
【表8】
【0104】
表8から分かるように、防腐剤としてクロルヘキシジンを含む実施例27~29の製剤は、SofZia(登録商標)(ホウ酸、プロピレングリコール、D-ソルビトール、塩化亜鉛からなる防腐系)を含む比較例6の製剤より、はるかに高い細胞生存率を示した。以上の結果より、本発明の医薬組成物は細胞障害性が低く、医薬品として安全に使用することができることが分かった。