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特開2023-54092硫化物固体電解質材料及びそれを用いた電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054092
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質材料及びそれを用いた電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20230406BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230406BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230406BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230406BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01B1/10
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020426
(22)【出願日】2023-02-14
(62)【分割の表示】P 2018130161の分割
【原出願日】2018-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2017172876
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 出
(72)【発明者】
【氏名】本田 和義
(57)【要約】
【課題】硫化水素の発生量が少ない硫化物固体電解質材料を提供する。
【解決手段】 31P-NMRスペクトルにおいて、化学シフトが87.6ppm以上88.4ppm以下の範囲内に定義される第1ピーク成分の強度が、化学シフトが83.6ppm以上84.4ppm以下の範囲内に定義される第2ピーク成分の強度の、0.42倍以下である硫化物固体電解質材料とする。ここで、第1ピーク成分が実質的に観察されない場合、化学シフトが87.6ppm以上88.4ppm以下の範囲内に第1ピーク成分が存在すると仮定し、硫化物固体電解質材料の31P-NMRスペクトルに対してマルチガウシアンフィッティングを行い、フィッティングカーブにおけるピークの強度を第1ピーク成分の強度と定義する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
31P-NMRスペクトルにおいて、化学シフトが87.6ppm以上88.4ppm以下の範囲内に定義される第1ピーク成分の強度が、前記化学シフトが83.6ppm以上84.4ppm以下の範囲内に定義される第2ピーク成分の強度の、0.42倍以下である、
硫化物固体電解質材料。
ここで、前記第1ピーク成分が実質的に観察されない場合、化学シフトが87.6ppm以上88.4ppm以下の範囲内に前記第1ピーク成分が存在すると仮定し、前記硫化物固体電解質材料の31P-NMRスペクトルに対してマルチガウシアンフィッティングを行い、フィッティングカーブにおけるピークの強度を前記第1ピーク成分の強度と定義する。
【請求項2】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された電解質層と、
を備え、
前記正極、前記負極、及び前記電解質層からなる群より選ばれる少なくとも1つは、請求項1に記載の硫化物固体電解質材料を含有する、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硫化物固体電解質材料及びそれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、正極、負極及びこれらの間に配置された電解質層を備えている。電解質層には、非水電解液又は固体電解質が含まれている。広く使用されている電解液は可燃性であるため、電解液を用いたリチウム二次電池には、安全性を確保するためのシステムが必要である。固体電解質は不燃性であるため、上記システムを簡素化できる。固体電解質を用いた電池は、全固体電池と呼ばれる。
【0003】
固体電解質には、大きく分けて、有機固体電解質と無機固体電解質とがある。前者は高分子固体電解質とも呼ばれる。室温における有機固体電解質のイオン伝導度は10-6S/cm程度であるため、有機固体電解質を用いた全固体電池を室温で動作させることは困難である。後者には、酸化物固体電解質と硫化物固体電解質とがある。
【0004】
特許文献1には、立方晶系Argyrodite型結晶構造を有するリチウムイオン電池用硫化物固体電解質化合物が開示されている。特許文献2には、表面に自らが酸化されてなる酸化物層を有する硫化物固体電解質粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/104702号
【特許文献2】特開2012-94445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
硫化物固体電解質には、有害な硫化水素が発生しやすいという課題がある。本開示は、硫化水素の発生量が少ない硫化物固体電解質材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る硫化物固体電解質材料は、リチウム、りん、ハロゲン、及び、硫黄を含有する硫化物を含む硫化物層と、前記硫化物層の上に配置され、リチウム、りん、前記ハロゲン、及び、酸素を含有する酸化物を含む酸化物層とを備える。前記硫化物固体電解質材料の31P-NMRスペクトルにおいて、化学シフトが87.6ppm以上88.4ppm以下の範囲内に定義される第1ピーク成分の強度が、前記化学シフトが83.6ppm以上84.4ppm以下の範囲内に定義される第2ピーク成分の強度の、0.42倍以下である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、硫化水素の発生量が少ない硫化物固体電解質材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態1に係る硫化物固体電解質材料の概略断面図である。
図2図2は、実施形態2に係る電池の概略断面図である。
図3図3は、変形例に係る電解質層の概略断面図である。
図4図4は、実施例1、比較例1及び比較例4の硫化物固体電解質材料の31P-NMR測定の結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例1の硫化物固体電解質材料のXPS測定の結果を示すグラフである。
図6図6は、実施例1、比較例1、比較例2及び比較例4の硫化物固体電解質材料の31P-NMR測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
一般的な硫化物固体電解質材料には、水分に接触すると有害な硫化水素ガスが発生するという課題がある。特許文献1は、立方晶系Argyrodite型結晶構造を有する硫化物固体電解質材料の構成元素及び組成を適切に調整することによって、硫化水素の発生量が少ない硫化物固体電解質材料を提供できることを開示している。特許文献2に開示された硫化物固体電解質粒子によれば、酸化物活物質と硫化物固体電解質材料との反応によって生じる高抵抗層の生成を抑制できることが開示されている。ただし、硫化物固体電解質材料の酸化物層の有無と硫化水素の発生量との関係は明らかにされていない。
【0011】
一般的に、硫化物材料のイオン伝導性は高く、硫化物材料からの硫化水素の発生量は多い。酸化物材料のイオン伝導性は低く、酸化物材料からの硫化水素の発生量は少ない。水分に直接接触する硫化物固体電解質材料の表層部のみに酸化物材料からなる酸化物層が配置されていると、酸化物層が硫化物層と水分との直接接触を妨げる。そのため、高いイオン伝導性を保ちつつ、硫化水素の発生量が低減されうる。
【0012】
本開示の第1態様に係る硫化物固体電解質材料は、
硫化物材料を含む硫化物層と、
前記硫化物材料の酸化物を含む酸化物層と、
を備え、
前記酸化物層は、前記硫化物層の表面上に位置し、
前記硫化物材料は、Li、P、S及びハロゲン元素Xを構成元素として含み、
31P-NMR測定によって得られたスペクトルにおいて、88ppm付近のピーク成分を第1ピーク成分と定義し、前記第1ピーク成分のピーク強度をZaと定義し、84ppm付近のピーク成分を第2ピーク成分と定義し、前記第2ピーク成分のピーク強度をZbと定義したとき、Za/Zb≦0.42を満たす。
【0013】
第1態様によれば、硫化水素の発生量が少ない硫化物固体電解質材料を提供できる。
【0014】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係る硫化物固体電解質材料の前記ハロゲン元素XがIである。第2態様によれば、イオン伝導性がさらに高められるとともに、硫化水素の発生量がより十分に抑制されうる。
【0015】
本開示の第3態様において、例えば、第1又は第2態様に係る硫化物固体電解質材料の前記硫化物材料は、Li2S-P25-LiXを含む。Li2S-P25-LiXが硫化物材料として硫化物層に含まれていると、電池の放電特性がさらに向上する。
【0016】
本開示の第4態様において、例えば、第1~第3態様のいずれか1つに係る硫化物固体電解質材料の前記硫化物材料は、Li2S-P25-LiIを含む。第4態様によれば、
イオン伝導性がさらに高められるとともに、硫化水素の発生量がより十分に抑制されうる。
【0017】
本開示の第5態様に係る電池は、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された電解質層と、
を備え、
前記正極、前記負極及び前記電解質層からなる群より選ばれる少なくとも1つは、第1~第4態様のいずれか1つに係る硫化物固体電解質材料を含む。
【0018】
第5態様によれば、優れた出力特性を有し、硫化水素の発生量が少ない電池を提供できる。
【0019】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0020】
(実施形態1)
図1に示すように、本実施形態の硫化物固体電解質材料10は、酸化物層11及び硫化物層12を備えている。硫化物層12は、硫化物材料を含む層である。酸化物層11は、硫化物層12に含まれた硫化物材料の酸化物を含む層である。酸化物層11は、硫化物層12の表面上に位置している。本実施形態では、硫化物固体電解質材料10は、コアシェル構造を有する。硫化物層12がコアであり、酸化物層11がシェルである。以下、「硫化物固体電解質材料10」を「電解質材料10」と略記することがある。
【0021】
硫化物材料は、Li、P、S及びハロゲン元素Xを構成元素として含む。電解質材料10の31P-NMR測定によって得られたスペクトルにおいて、88ppm付近のピーク成分を第1ピーク成分と定義し、第1ピーク成分のピーク強度をZaと定義し、84ppm付近のピーク成分を第2ピーク成分と定義し、第2ピーク成分のピーク強度をZbと定義する。第2ピーク成分のピーク強度Zbに対する第1ピーク成分のピーク強度Zaの比率(Za/Zb)が0.42以下である。このような構成によれば、硫化水素の発生量が少ない電解質材料10が提供されうる。
【0022】
本開示において、「ピーク成分」とは、スペクトルに顕在するピークに限定されず、スペクトルに対してマルチガウシアンフィッティングを行うことによって特定される潜在的なピーク成分をも含意する。本開示において、「Xの範囲内に定義されるピーク成分」とは、当該ピーク成分の頂点がXの範囲内に位置することを意味する。当該ピークのピーク幅はXの範囲よりも狭くてもよいし、広くてもよい。
【0023】
Li、P及びSを構成元素として含む硫化物固体電解質材料は、高いイオン伝導性を有する。X(X:ハロゲン元素)が構成元素としてさらに含まれていると、硫化物固体電解質材料のイオン伝導性をさらに高めることができる。
【0024】
Li、P、S及びXを構成元素として含む硫化物固体電解質材料は、様々な構造をとりうる。硫化物固体電解質材料のイオン伝導性及び硫化水素の発生量は、その構造に応じて変化する。
【0025】
例えば、硫化物固体電解質材料がLi、P、S及びXを構成元素として含み、31P-NMR測定によって得られたスペクトルにおいて、84ppm付近のピークに由来する構造を有するとき、その硫化物固体電解質材料のイオン伝導性は高く、硫化水素の発生量は少ない。
【0026】
例えば、硫化物固体電解質材料がLi、P、S及びXを構成元素として含み、31P-NMR測定によって得られたスペクトルにおいて、88ppm付近のピークに由来する構造を有するとき、その硫化物固体電解質材料のイオン伝導性は低く、硫化水素の発生量は多い。
【0027】
硫化物固体電解質材料が硫化物層及び酸化物層を有する場合、酸化物層が硫化物層と水分との直接接触を妨げる。そのため、高いイオン伝導性を保ちつつ、硫化水素の発生量が低減されうる。しかし、88ppm付近のピークに由来する構造の含有比率が高い場合、酸化物層だけで、硫化物固体電解質材料からの硫化水素の発生を十分に抑制することは難しい。
【0028】
硫化物固体電解質材料の31P-NMR測定によって得られたスペクトルにおいて、88ppm付近のピーク成分を第1ピーク成分と定義し、第1ピーク成分のピーク強度をZaと定義し、84ppm付近のピーク成分を第2ピーク成分と定義し、第2ピーク成分のピーク強度をZbと定義する。第2ピーク成分のピーク強度Zbに対する第1ピーク成分のピーク強度Zaの比率(Za/Zb)が0.42以下であるとき、硫化水素の発生が十分に抑制されうる。
【0029】
31P-NMR測定においては、りん酸アンモニウムが0ppmの化学シフトを示す基準物質として使用されうる。NMR測定では、測定ごとに磁場の状態が厳密には異なるため、出力としての化学シフトに測定誤差が生じる。測定誤差は、例えば、±0.4ppmである。本開示において「88ppm付近」及び「84ppm付近」の語句は、それぞれ、「88±0.4ppm」及び「84±0.4ppm」を意味する。
【0030】
本実施形態の電解質材料10に含まれたハロゲン元素Xは、I(ヨウ素)であってもよい。この場合、イオン伝導性がさらに高められるとともに、硫化水素の発生量がより十分に抑制されうる。
【0031】
硫化物層12の硫化物材料としては、Li2S-P25-LiXが使用されうる。Li2S-P25-LiXは、高い電気化学的安定性及び高いイオン伝導性を有する。Li2
-P25-LiXが電解質材料10の硫化物層12に含まれていると、電池の放電特性がさらに向上する。Li2S-P25-LiXは、硫化物層12の主成分でありうる。「主
成分」の語句は、質量比にて最も多く含まれた成分を意味する。Li2S-P25-Li
Xとしては、例えば、Li6PS5F、Li6PS5Cl、Li6PS5Br、Li6PS5I、Li728F、Li728Cl、Li728Br、Li728I、αLi2S-βP25-(100-α-β)LiF、αLi2S-βP25-(100-α-β)LiCl、αLi2S-βP25-(100-α-β)LiBr、αLi2S-βP25-(100-α-β)LiI(α及びβは、0より大きい数)などが使用されうる。硫化物材料は、結晶材料であってもよく、ガラス材料であってもよい。ハロゲン元素XがI(ヨウ素)であるとき、硫化物層12の硫化物材料としては、Li2S-P25-LiIが使用されうる
。この場合、イオン伝導性がさらに高められるとともに、硫化水素の発生量がより十分に抑制されうる。
【0032】
酸化物層11は、硫化物層12に含まれた硫化物材料が酸化されることによって形成された層であってもよい。例えば、硫化物層12が硫化物材料としてLi2S-P25-L
iX(X:ハロゲン元素)を含むとき、酸化物層11は、Li2S-P25-LiXが酸
化されることによって形成された酸化物を含む。「硫化物層12に含まれた硫化物材料が酸化される」とは、硫化物層12に含まれた硫化物材料の硫黄結合の一部又は全部が酸素結合で置換されることを意味する。例えば、硫化物層12が硫化物材料としてLi2S-
25-LiXを含むとき、硫黄結合として、1つのリンに4つの硫黄が結合したPS4 3-の構造が硫化物材料に主に含まれる。この場合、酸化物層11の酸化物は、PS4 3-の硫黄結合の一部又は全部を酸素結合で置換することによって得られる構造の少なくとも1つを含む。そのような構造としては、PS33-、PS22 3-、PSO3 3-及びPO4 3-が挙
げられる。
【0033】
電解質材料10が酸化物層11を有することを確認するために、31P-NMR測定が使用されうる。例えば、酸化物層11に含まれたPS22 3-、PSO3 3-及びPO4 3-の構造に由来するピークは、それぞれ、70ppm、38ppm及び10ppmの近傍に現れる。
【0034】
酸化物層11が硫化物層12の表面上に位置することは、イオンスパッタリングによるエッチングとXPS分析との組み合わせによって確認されうる。酸化物層11が存在する場合、O1s軌道に帰属されるピークが明確に観測される。スパッタリングに使用されるイオンとしては、アルゴンイオン、C60クラスターイオンなどが挙げられる。酸化物層11が硫化物層12の表面上に位置する場合、電解質材料10の表面(例えば、粒子の表面)から電解質材料10の内部に向かって酸素含有量が連続的に減少する。
【0035】
他方、酸化物層が均一に分散している場合、硫化物固体電解質材料の表面(例えば、粒子の表面)から内部に向かって酸素含有量が一定の値を示す。この場合、硫化物固体電解質材料の表面に硫化物層が露出するため、硫化物層と水分との接触を十分に防ぐことができず、硫化水素の発生を十分に抑制することが難しい。
【0036】
電解質材料10の形状は特に限定されない。電解質材料10の形状は、例えば、針状、鱗片状、球状又は楕円球状である。電解質材料10は、粒子であってもよい。電解質材料10の形状が粒子状(例えば、球状)である場合、電解質材料10のメジアン径(d50)は、0.1μm以上100μm以下であってもよい。電解質材料10が適切な大きさを有していると、電解質材料10に占める酸化物層11の割合(例えば、体積比)も適切な範囲に収まる。これにより、十分なイオン伝導性が確保される。電解質材料10が適切な大きさを有していると、正極又は負極において、活物質、導電助剤などの他の材料と電解質材料10とが良好な分散状態を形成できる。これらは、電池の放電特性の向上に寄与する。
【0037】
電解質材料10の粒子のメジアン径は、0.5μm以上10μm以下であってもよい。このような構成によれば、イオン伝導性がさらに高まるとともに、電解質材料10と活物質などの他の材料とのより良好な分散状態が形成されうる。
【0038】
電解質材料10の粒子のメジアン径は、活物質粒子のメジアン径より小さくてもよい。このような構成によれば、電解質材料10と活物質などの他の材料とのより良好な分散状態が形成されうる。
【0039】
粒子のメジアン径は、レーザー回折式粒度計などによって測定される粒度分布において、体積累積50%に相当する粒径(d50)を意味する。
【0040】
電解質材料10が粒子状(例えば、球状)の場合、酸化物層11の厚さは、例えば、1nm以上300nm以下であり、5nm以上50nm以下であってもよい。酸化物層11の厚さがこのような範囲に調整されていると、電解質材料10に占める酸化物層11の割合が適切な範囲に収まる。これにより、十分なイオン伝導性が確保される。
【0041】
酸化物層11の厚さは、XPS分析によって求めることができる。電解質材料10の最表面における酸素/硫黄元素比率(硫黄原子の数に対する酸素原子の数の比率)を「x」と定義する。硫化物層12の酸素/硫黄元素比率を「z」と定義する。イオンスパッタリングとXPS分析とを交互に行い、XPSスペクトルを所定の間隔(例えば、10nm間隔)で取得する。各深さ位置において、酸素/硫黄元素比率を算出する。酸素/硫黄元素比率が(x-z)/4に概ね一致したときの深さを酸化物層11の厚さとみなすことがで
きる。硫化物層12の酸素/硫黄元素比率「z」もXPS分析によって特定することができる。例えば、イオンスパッタリングを十分な時間実施すると、酸素/硫黄元素比率は、ある漸近値に向かって漸近的に減少する。その漸近値を比率「z」とみなすことができる。
【0042】
酸化物層11は、硫化物層12の表面を完全に被覆していてもよいし、硫化物層12の表面の一部のみを被覆していてもよい。
【0043】
電解質材料10は、下記の方法によって製造されうる。
【0044】
Li、P、S、X(X:ハロゲン元素)、Li2S、P25、LiXなどを含む前駆体
原料を、メカノケミカルミリング法、溶融急冷法などの方法によって反応させる。これにより、ガラス状の硫化物固体電解質材料が得られる。
【0045】
得られたガラス状の硫化物固体電解質材料を熱処理すると、ガラスセラミックス状の硫化物固体電解質材料が得られる。熱処理温度は、280℃よりも低い温度であってもよく、230℃程度であってもよい。280℃よりも低い温度で熱処理を実施することによって88ppm付近にピークを有する結晶相の析出が抑制される。これにより、イオン伝導性の低下及び硫化水素の発生量の増加が抑制される。熱処理温度が230℃程度であるとき、88ppm付近にピークを有する結晶相の析出が抑制され、84ppm付近にピークを有する結晶相が析出する。これにより、イオン伝導性が向上し、硫化水素の発生量が低減する。熱処理時間は、例えば、0.1~12時間であり、0.5~4時間であってもよい。
【0046】
次に、ガラスセラミックス状の硫化物固体電解質材料を任意の酸素分圧に制御された電気炉内に配置する。ガラスセラミックス状の硫化物固体電解質材料を熱処理することによって、硫化物固体電解質材料と酸素とが反応し、酸化処理が行われる。熱処理温度は、230℃よりも低い温度であってもよく、210℃程度であってもよい。230℃よりも低い温度で熱処理を実施することによって、88ppm付近にピークを有する結晶相の析出が抑制される。これにより、イオン伝導性の低下及び硫化水素の発生量の増加が抑制される。通常、88ppm付近にピークを有する結晶相は、280℃以上の温度で熱処理が行われたときに生成する。酸化処理の工程においては、硫化物固体電解質材料と酸素とが反応する際に硫化物固体電解質材料が自己発熱する。その結果、硫化物固体電解質材料の温度が局所的に280℃以上の温度に達し、88ppm付近にピークを有する結晶相が析出することがある。そのため、酸化処理において、熱処理温度は、230℃よりも低い温度であってもよい。熱処理温度が210℃程度であるとき、自己発熱による局所的な温度の上昇が抑制されつつ、十分な反応速度で酸化反応が進行する。熱処理温度の下限は、例えば、100℃である。熱処理時間は、例えば、0.1~12時間であり、0.5~4時間であってもよい。
【0047】
酸素分圧の制御には、酸素ガスを用いてもよい。あるいは、所定の温度で酸素を放出する酸化剤を酸素源として用いてもよい。酸化剤の種類は特に限定されず、KMnO4など
の無機酸化剤が使用されうる。酸化剤の量、酸化剤の設置場所、酸化剤の充填度合いなどの条件を調整することによって、酸化の度合い(例えば、酸化物層11の厚さ)を調整することができる。例えば、ガラスセラミックス状の硫化物固体電解質材料に対する電気炉内の酸素の割合が、0.1cc/mg以下に調整される。これにより、過度に酸化が進むことが抑制されうる。
【0048】
以上の各工程を経て、電解質材料10が得られる。
【0049】
(実施形態2)
以下の実施形態2において、実施形態1と重複する説明は適宜省略される。実施形態2にかかる電池には、実施形態1で説明した硫化物固体電解質材料が使用されている。
【0050】
図2に示すように、本実施形態に係る電池20は、正極21、負極23及び電解質層22を備えている。正極21は、正極活物質粒子24と硫化物固体電解質材料10とを含む。電解質層22は、正極21と負極23との間に配置されている。正極21及び負極23の両者に電解質層22が接している。電解質層22は、硫化物固体電解質材料10を含む。負極23は、負極活物質粒子25と硫化物固体電解質材料10とを含む。電池20は、例えば、全固体リチウム二次電池である。本実施形態の電池20は、実施形態1で説明した硫化物固体電解質材料10を含むため、優れた出力特性を発揮する。電池20における硫化水素の発生量も少ない。
【0051】
本実施形態において、正極21、負極23及び電解質層22のそれぞれが硫化物固体電解質材料10を含む。少なくとも電解質層22に本開示の硫化物固体電解質材料10が含まれていてもよい。正極21、負極23及び電解質層22の中で、電解質層22が最も多量に電解質材料を含むので、本開示の硫化物固体電解質材料10を電解質層22に用いることによって、電池20における硫化水素の発生量を最も効率的に低減できる。ただし、正極21、負極23及び電解質層22からなる群より選ばれる少なくとも1つに硫化物固体電解質材料10が含まれている限り、硫化水素の発生を抑制する効果が得られる。正極21、負極23及び電解質層22のそれぞれは、本開示の硫化物固体電解質材料10以外の硫化物固体電解質材料を含んでいてもよい。
【0052】
正極21は、金属イオンを吸蔵及び放出する特性を有する材料を含む。金属イオンの例は、リチウムイオンである。正極21は、例えば、正極活物質(例えば、正極活物質粒子24)を含む。正極21は、硫化物固体電解質材料10を含んでいてもよい。
【0053】
正極活物質としては、リチウムを含有する遷移金属酸化物、リチウムを含有しない遷移金属酸化物、遷移金属フッ化物、ポリアニオン材料、フッ素化ポリアニオン材料、遷移金属硫化物、遷移金属オキシフッ化物、遷移金属オキシ硫化物、遷移金属オキシ窒化物などが使用されうる。特に、正極活物質として、リチウム含有遷移金属酸化物を用いた場合には、電池20の製造コストを下げることができるとともに、電池20の平均放電電圧を高めることができる。
【0054】
正極活物質として、Li(NiCoAl)O2及びLiCoO2から選ばれる少なくとも1つが正極21に含まれていてもよい。これらの遷移金属酸化物は、電池20に高いエネルギー密度を付与しうる。
【0055】
正極活物質粒子24のメジアン径は、0.1μm以上100μm以下であってもよい。正極活物質粒子24が適切な大きさを有していると、正極21において、正極活物質粒子24と硫化物固体電解質材料10とが良好な分散状態を形成できる。その結果、電池20に優れた放電特性が付与される。また、正極活物質粒子24の内部にリチウムイオンが素早く拡散できるので、電池20を高出力で動作させるのに有利である。正極活物質粒子24のメジアン径は、硫化物固体電解質材料10の粒子のメジアン径よりも大きくてもよい。これにより、正極活物質粒子24と硫化物固体電解質材料10とが良好な分散状態を形成できる。
【0056】
正極21において、正極活物質粒子24の体積と硫化物固体電解質材料10の体積との合計に対する正極活物質粒子24の体積vの比率は、例えば、30%以上95%以下である。正極活物質粒子24の体積と硫化物固体電解質材料10の体積との合計に対する硫化
物固体電解質材料10の体積(100-v)の比率は、例えば、5%以上70%以下である。正極活物質粒子24の量及び硫化物固体電解質材料10の量が適切に調整されている場合、電池20のエネルギー密度を十分に確保できるとともに、電池20を高出力で動作させることが可能である。
【0057】
正極21の厚さは、10μm以上500μm以下であってもよい。正極21の厚さが適切に調整されている場合、電池20のエネルギー密度を十分に確保できるとともに、電池20を高出力で動作させることが可能である。
【0058】
電解質層22は、本開示の硫化物固体電解質材料10を含む層である。電解質層22は、硫化物固体電解質材料10に加え、硫化物固体電解質材料10とは異なる第2の硫化物固体電解質材料を含んでいてもよい。このとき、硫化物固体電解質材料10と第2の硫化物固体電解質材料とが電解質層22に均一に分散していてもよい。第2の硫化物固体電解質材料は、例えば、硫化物固体電解質材料10の組成と異なる組成を有する。第2の硫化物固体電解質材料は、硫化物固体電解質材料10の構造と異なる構造を有していてもよい。
【0059】
電解質層22の厚さは、1μm以上500μm以下であってもよい。電解質層22の厚さが適切に調整されている場合、正極21と負極23との短絡を確実に防止できるとともに、電池20を高出力で動作させることが可能である。
【0060】
電池20は、電解質層22に代えて、図3に示す電解質層28を備えていてもよい。電解質層28は、第1電解質層26及び第2電解質層27を有する。第2電解質層27は、第1電解質層26によって覆われている。詳細には、第2電解質層27は、第1電解質層26によって包まれている。電解質層28の2つの主面は、第1電解質層26によって形成されている。ただし、第2電解質層27の一部が電解質層28の表面に現れていてもよい。「主面」は、最も広い面積を有する面を意味する。
【0061】
第1電解質層26は、本開示の硫化物固体電解質材料10を含む層である。第2電解質層27は、硫化物固体電解質材料10を含んでいてもよく、第2の硫化物固体電解質材料を含んでいてもよく、それらの両方を含んでいてもよい。第1電解質層26は、質量基準で、第2電解質層27よりも多くの硫化物固体電解質材料10を含んでいてもよい。
【0062】
図3に示す電解質層28によれば、第2電解質層27の周りに第1電解質層26が位置しており、第2電解質層27が第1電解質層26によって保護されている。第1電解質層26に含まれた硫化物固体電解質材料10によって第2電解質層27への水分の浸入が抑制される。これにより、第2電解質層27に水分が浸入することに起因する硫化水素の発生が抑制される。第2電解質層27には、硫化水素を発生しやすいがイオン伝導率のより高い電解質材料を用いることができる。これにより、電池20のイオン伝導率をより高めることができる。
【0063】
負極23は、金属イオンを吸蔵及び放出する特性を有する材料を含む。金属イオンの例は、リチウムイオンである。負極23は、例えば、負極活物質(例えば、負極活物質粒子25)を含む。負極23は、硫化物固体電解質材料10を含んでいてもよい。
【0064】
負極活物質としては、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、珪素化合物などが使用されうる。金属材料は、単体の金属であってもよく、合金であってもよい。金属材料の例として、リチウム金属、リチウム合金などが挙げられる。炭素材料の例として、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、非晶質炭素などが挙げられる。容量密度の観点から、珪素(Si)、錫(Sn)、珪素化合物及び錫化合
物からなる群より選ばれる少なくとも1つが負極活物質として好適に使用されうる。
【0065】
負極活物質粒子25のメジアン径は、0.1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質粒子25が適切な大きさを有していると、負極活物質粒子25と硫化物固体電解質材料10とが良好な分散状態を形成できる。その結果、電池20に優れた放電特性が付与される。また、負極活物質粒子25の内部にリチウムイオンが素早く拡散できるので、電池20を高出力で動作させるのに有利である。負極活物質粒子25のメジアン径は、硫化物固体電解質材料10の粒子のメジアン径よりも大きくてもよい。これにより、負極活物質粒子25と硫化物固体電解質材料10とが良好な分散状態を形成できる。
【0066】
負極23において、負極活物質粒子25の体積と硫化物固体電解質材料10の体積との合計に対する負極活物質粒子25の体積Vの比率は、例えば、30%以上95%以下である。負極活物質粒子25の体積と硫化物固体電解質材料10の体積との合計に対する硫化物固体電解質材料10の体積(100-V)の比率は、例えば、5%以上70%以下である。負極活物質粒子25の量及び硫化物固体電解質材料10の量が適切に調整されている場合、電池20のエネルギー密度を十分に確保できるとともに、電池20を高出力で動作させることが可能である。
【0067】
負極23の厚さは、10μm以上500μm以下であってもよい。負極23の厚さが適切に調整されている場合、電池20のエネルギー密度を十分に確保できるとともに、電池20を高出力で動作させることが可能である。
【0068】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、イオン伝導性を高める目的で、硫化物固体電解質材料10とは異なる第2の硫化物固体電解質材料が含まれていてもよい。第2の硫化物固体電解質材料として、Li2S-P25、Li2S-SiS2、Li2S-B23、Li2S-GeS2、Li3.25Ge0.250.754、Li10GeP212などが使用されうる。これらの硫化物材料にLiX(X:F、Cl、Br、I)、Li2O、MOq、LipMOq(M:P、Si、Ge、B、Al、Ga、In、Fe又はZn)(p、q:自然数)などが添加されてもよい。
【0069】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、イオン伝導性を高める目的で、酸化物固体電解質が含まれていてもよい。酸化物固体電解質として、LiTi2(PO43及びその元素置換体を代表と
するNASICON型固体電解質、(LaLi)TiO3系のペロブスカイト型固体電解
質、Li14ZnGe416、Li4SiO4、LiGeO4及びそれらの元素置換体を代表とするLISICON型固体電解質、Li7La3Zr212及びその元素置換体を代表とす
るガーネット型固体電解質、Li3N及びそのH置換体、Li3PO4及びそのN置換体な
どが使用されうる。
【0070】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、イオン伝導性を高める目的で、ハロゲン化物固体電解質が含まれていてもよい。ハロゲン化物固体電解質としては、Li3InBr6、Li3InCl6、Li2FeCl4、Li2CrCl4、Li3OClなどが使用されうる。
【0071】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、イオン伝導性を高める目的で、錯体水素化物固体電解質が含まれていてもよい。錯体水素化物固体電解質としては、LiBH4-LiI、LiBH4-P25などが使用されうる。
【0072】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、イオン伝導性を高める目的で、有機ポリマー固体電解質が含まれていてもよい。有機ポリマー固体電解質として、高分子化合物とリチウム塩との化合物が使用されうる。高分子化合物はエチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有することで、高分子化合物はリチウム塩を多く含有することができるので、イオン導電率をより高めることができる。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO249)、LiC(SO2CF33などが使用
されうる。リチウム塩として、これらから選ばれる1種のリチウム塩が単独で使用されてもよいし、これらから選ばれる2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。
【0073】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、リチウムイオンの授受を容易にし、電池の出力特性を向上する目的で、非水電解液、ゲル電解質又はイオン液体が含まれていてもよい。
【0074】
非水電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶けたリチウム塩とを含む。非水溶媒としては、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、フッ素溶媒などが使用されうる。環状炭酸エステル溶媒の例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどが挙げられる。鎖状炭酸エステル溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどが挙げられる。環状エーテル溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソランなどが挙げられる。鎖状エーテル溶媒の例としては、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンなどが挙げられる。環状エステル溶媒の例としては、γ-ブチロラクトンなどが挙げられる。鎖状エステル溶媒の例としては、酢酸メチルなどが挙げられる。フッ素溶媒の例としては、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、フルオロジメチレンカーボネートなどが挙げられる。非水溶媒として、これらから選ばれる1種の非水溶媒が単独で使用されてもよいし、これらから選ばれる2種以上の非水溶媒の混合物が使用されてもよい。
【0075】
非水電解液には、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート及びフルオロジメチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素溶媒が含まれていてもよい。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO249)、LiC(SO2CF33などが使用されうる。リチウム塩として、これらから選ばれる1種
のリチウム塩が単独で使用されてもよいし、これらから選ばれる2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5~2mol/リットルの範囲にある。
【0076】
ゲル電解質として、非水電解液を含浸しているポリマー材料が使用されうる。ポリマー材料として、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、エチレンオキシド結合を有するポリマーなどが使用されうる。
【0077】
イオン液体を構成するカチオンは、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウムなどの脂肪族鎖状4級塩類、ピロリジニウム類、モルホリニウム類、イミダゾリニウム類、テトラヒドロピリミジニウム類、ピペラジニウム類、ピペリジニウム類などの脂肪族環状アンモニウム、ピリジニウム類、イミダゾリウム類などの含窒素ヘテロ環芳香族カチオンなどであってもよい。イオン液体を構成するアニオンは、PF6 -、BF4 -、SbF6 -、AsF6 -、SO3CF3 -、N(SO2CF32 -、N(SO2252 -、N(SO
2CF3)(SO249-、C(SO2CF33 -などであってもよい。イオン液体はリチウム塩を含有していてもよい。
【0078】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、粒子同士の密着性を向上させる目的で、結着剤が含まれてもよい。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸及びヘキサジエンから選ばれる2種以上の材料の共重合体も結着剤として使用されうる。上記の材料から選ばれる2種以上の混合物を結着剤として使用してもよい。
【0079】
正極21及び負極23から選ばれる少なくとも1つには、電子導電性を高める目的で、導電助剤が含まれていてもよい。
【0080】
導電助剤として、天然黒鉛、人造黒鉛などのグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維、フッ化カーボン、アルミニウム粉末などの金属粉末、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸カリウムウィスカーなどの導電性ウィスカー、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物などが使用されうる。
【0081】
導電助剤の形状は特に限定されない。導電助剤の形状は、例えば、針状、鱗片状、球状又は楕円球状である。導電助剤は、粒子であってもよい。
【0082】
正極活物質粒子24及び負極活物質粒子25は、界面抵抗を低減する目的で、被覆材料によって被覆されていてもよい。正極活物質粒子24の表面の一部のみが被覆材料によって被覆されていてもよく、正極活物質粒子24の表面の全部が被覆材料によって被覆されていてもよい。同様に、負極活物質粒子25の表面の一部のみが被覆材料によって被覆されていてもよく、負極活物質粒子25の表面の全部が被覆材料によって被覆されていてもよい。
【0083】
被覆材料としては、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、高分子固体電解質、錯体水素化物固体電解質などの固体電解質が使用されうる。被覆材料は、酸化物固体電解質であってもよい。酸化物固体電解質は、優れた高電位安定性を有する。酸化物固体電解質を被覆材料に用いることによって、電池20の充放電効率が向上する。
【0084】
被覆材料として使用できる酸化物固体電解質としては、LiNbO3などのLi-Nb
-O化合物、LiBO2、Li3BO3などのLi-B-O化合物、LiAlO2などのLi-Al-O化合物、Li4SiO4などのLi-Si-O化合物、Li2SO4、Li4Ti512などのLi-Ti-O化合物、Li2ZrO3などのLi-Zr-O化合物、Li2
oO3などのLi-Mo-O化合物、LiV25などのLi-V-O化合物、Li2WO4
などのLi-W-O化合物が挙げられる。
【実施例0085】
<比較例1>
露点-60℃以下のAr雰囲気のアルゴングローブボックス内において、モル比でLi2S:P25:LiI=60:20:20となるように、Li2S粉末、P25粉末及びLiI粉末を秤量した。これらを乳鉢に入れて粉砕及び混合した。遊星型ボールミルを用い、510rpmの回転数で10時間にわたって混合物をミリング処理し、ガラス状の固体電解質を得た。ガラス状の固体電解質を不活性雰囲気下、230℃、2時間の条件で熱処理した。これにより、比較例1のガラスセラミックス状の硫化物固体電解質材料を得た。
【0086】
<比較例2>
熱処理温度を280℃に変更したことを除き、比較例1と同じ方法によって比較例2のガラスセラミック状の硫化物固体電解質材料を得た。
【0087】
<比較例3>
露点-60℃以下のAr雰囲気のアルゴングローブボックス内において、モル比でLi2S:P25=75:25となるように、Li2S粉末とP25粉末とを秤量した。これらを乳鉢に入れて粉砕及び混合した。遊星型ボールミルを用い、510rpmの回転数で10時間にわたって混合物をミリング処理し、ガラス状の固体電解質を得た。ガラス状の固体電解質を不活性雰囲気下、270℃、2時間の条件で熱処理した。これにより、比較例3のガラスセラミックス状の硫化物固体電解質材料であるLi2S-P25粉末を得た。
【0088】
<比較例4>
露点-60℃以下のAr雰囲気のアルゴングローブボックス内において、比較例1で作製したガラスセラミックス状の硫化物固体電解質材料(Li2S-P25-LiI、Li2S:P25:LiI=60:20:20)を500mg秤量し、密閉容器に封入した。密閉容器の内部を排気した後、17.5ccの酸素ガスを密閉容器に導入した。その後、密閉容器を電気炉内に配置し、230℃、450秒の条件で硫化物固体電解質材料を熱処理した。これにより、比較例4の硫化物固体電解質材料を得た。比較例4の硫化物固体電解質材料は、酸化物層を有する。
【0089】
<比較例5>
露点-60℃以下のAr雰囲気のアルゴングローブボックス内において、比較例3で作製したガラスセラミックス状の硫化物固体電解質材料(Li2S-P25、Li2S:P2
5=75:25)を500mg秤量し、密閉容器に封入した。密閉容器の内部を排気し
た後、28.0ccの酸素ガスを密閉容器に導入した。その後、密閉容器を電気炉内に配置し、300℃、2400秒の条件で硫化物固体電解質材料を熱処理した。これにより、比較例5の硫化物固体電解質材料を得た。比較例5の硫化物固体電解質材料は、酸化物層を有する。
【0090】
<実施例1>
露点-60℃以下のAr雰囲気のアルゴングローブボックス内において、比較例1で作製したガラスセラミックス状の硫化物固体電解質材料(Li2S-P25-LiI、Li2S:P25:LiI=60:20:20)を500mg秤量し、密閉容器に封入した。密閉容器の内部を排気した後、17.5ccの酸素ガスを密閉容器に導入した。その後、密閉容器を電気炉内に配置し、210℃、5000秒の条件で硫化物固体電解質材料を熱処理した。これにより、実施例1の硫化物固体電解質材料を得た。実施例1の硫化物固体電解質材料は、酸化物層を有する。
【0091】
31P-NMR測定]
実施例1、比較例1、比較例2及び比較例4の硫化物固体電解質材料を用いて、以下の条件で31P-NMR測定を実施した。0ppmの化学シフトを示す基準物質としてりん酸アンモニウムを採用した。
試料回転数:20kHz
測定積算回数:32回
緩和時間:30秒
【0092】
[イオン導電率の測定]
実施例1及び比較例1~5の硫化物固体電解質材料のイオン導電率を下記の方法で測定した。
【0093】
絶縁性外筒に80mgの硫化物固体電解質材料を入れ、360MPaの圧力で硫化物固体電解質材料を加圧成形し、電解質層を得た。電解質層の厚さをノギスにて測定した。次に、電解質層の上面及び下面のそれぞれに金属In箔(厚さ200μm)を配置した。金属In箔及び電解質層を80MPaの圧力で加圧成形し、金属In箔、電解質層及び金属In箔からなる積層体を作製した。次に、積層体の上面及び下面のそれぞれにステンレス鋼集電体を配置した。各集電体に集電リードを取り付けた。最後に、絶縁性フェルールで絶縁性外筒を密閉し、絶縁性外筒の内部を外気から遮断した。このようにして、イオン導電率測定用の電気化学セルを作製した。
【0094】
上記の電気化学セルを25℃の恒温槽に配置した。交流インピーダンス法によって、電圧振幅±10mV、測定周波数0.01Hz~1MHzの条件で抵抗測定を実施した。測定された抵抗値、電極の面積、及び、電解質層の厚さを用い、イオン導電率を算出した。
【0095】
[硫化水素の発生量の測定]
実施例1及び比較例1~5の硫化物固体電解質材料の硫化水素の発生量を下記の方法で測定した。
【0096】
露点-60℃以下のAr雰囲気のアルゴングローブボックス内で、硫化物固体電解質材料を80mg秤量した。内径9.5mmの粉末成形金型に秤量した硫化物固体電解質材料を入れ、360MPaの圧力で加圧成形した。成形後、粉末成形金型から硫化物固体電解質材料のペレットを取り出し、密閉可能なガラス容器の中にペレットを配置した。温度25℃、相対湿度50%の加湿雰囲気の恒温槽内にガラス容器を配置し、ガラス容器の内部を加湿雰囲気に置換した。その後、ガラス容器を密閉し、60分間にわたってペレットを加湿雰囲気に暴露させた。ガラス容器を密閉した時点から60分後のガラス容器の内部の硫化水素量をポータブルガスモニター(理研計器社製、GX-2012)を用いて測定した。硫化水素量をペレットの重量で割り、単位重量あたりの硫化水素の発生量(cm3
g)を算出した。
【0097】
[XPS測定]
実施例1の硫化物固体電解質材料のXPS測定を以下の条件で実施した。C60クラスターイオンによる硫化物固体電解質材料のスパッタリングとXPS測定とを繰り返し実施した。つまり、XPS深さ分析を以下の条件で実施した。得られた4つのスペクトルにおけるピーク面積強度を算出した。酸素(O)、リチウム(Li)、りん(P)及び硫黄(S)の各ピーク面積強度の総和に対する、酸素(O)のピーク面積強度から、硫化物固体電解質材料の酸素含有量(atom%)を算出した。
【0098】
測定装置:PHI社製VersaProbe
X線源:単色化AlKα線(1486.6eV)
測定スペクトル:O1s、Li1s、P2p、S2p
スパッタリング条件:C60+、10.0kV
スパッタリング速度:約2nm/min(SiO2換算)
【0099】
図4は、実施例1、比較例1及び比較例4の硫化物固体電解質材料の31P-NMR測定の結果を示すグラフである。比較例1は、-20~50ppmの範囲にピークを有していなかった。比較例4及び実施例1は、38ppm近傍及び10ppm近傍のそれぞれにピークを有していた。38ppm近傍のピーク及び10ppm近傍のピークは、それぞれ、PSO3 3-構造及びPO4 3-構造に対応する。つまり、比較例4及び実施例1は、少なくとも、PSO3 3-構造及びPO4 3-構造を含む酸化物層を有していた。比較例1は、酸化物層を有していなかった。
【0100】
図5は、実施例1の硫化物固体電解質材料のXPS測定の結果を示すグラフである。グラフは、具体的には、スパッタリング時間と酸素含有量との関係を示している。スパッタリング時間が短い領域、すなわち、硫化物固体電解質材料の表面に近い領域で酸素含有量が多かった。スパッタリング時間が長い領域、すなわち、硫化物固体電解質材料の内部の領域で酸素含有量が少なかった。酸素含有量は、硫化物固体電解質材料の表面から内部に向かって連続的に減少していた。図5に示す結果から、酸化物層が実施例1の硫化物固体電解質材料の表層部に位置することが確認された。
【0101】
図6は、実施例1、比較例1、比較例2及び比較例4の硫化物固体電解質材料の31P-NMR測定の結果を示すグラフである。比較例2及び比較例4のスペクトルは、88ppm付近と84ppm付近にピークを示した。比較例1及び実施例1のスペクトルは、84ppm付近にピークを示したが、88ppm付近のピークは殆ど確認されなかった。
【0102】
実施例1及び比較例1~5の硫化物固体電解質材料のイオン導電率及び硫化水素の発生量を表1に示す。実施例1、比較例1、比較例2及び比較例4の硫化物固体電解質材料の31P-NMR測定の結果から、ピーク強度の比率(Za/Zb)を算出した。結果を表1に示す。ピーク強度Zaは、88ppm付近の第1ピーク成分のピーク強度である。ピーク強度Zbは、84ppm付近の第2ピーク成分のピーク強度である。
【0103】
ピーク強度は、次の方法によって算出した。すなわち、ガウス分布を用い、得られたスペクトルのフィッティングを行う。実施例1及び比較例1のスペクトルのように、88ppm付近にピークが実質的に観察されない場合においても、88ppm付近に第1ピーク成分が存在すると仮定し、スペクトルのフィッティングを行う。実際に得られたスペクトルに含まれたピークの強度に代えて、フィッティングカーブにおける各ピークの強度がピーク強度Za及びZbとして採用されうる。
【0104】
具体的には、比較例1、2、4、実施例1の第1ピーク成分のピーク位置は、それぞれ、88.0ppm、87.9ppm、88.1ppm、88.0ppmに設定した。比較例1、2、4、実施例1の第2ピーク成分のピーク位置は、それぞれ、83.7ppm、84.2ppm、84.0ppm、84.1ppmに設定した。
【0105】
なお、実施例1及び比較例1のフィッティングにおいて、第1ピーク成分と第2ピーク成分の他に、92ppm付近のピーク成分と78ppm付近のピーク成分が存在するものとして設定された。
【0106】
【表1】
【0107】
比較例3及び比較例5は、構成元素としてハロゲン元素を含まなかったため、それらのイオン導電率は、1×10-3S/cm以下であり、低かった。比較例3及び比較例5の硫化水素の発生量は、1×10-2cm3/gよりも多かった。酸化物層を有する比較例5の
硫化水素の発生量は、酸化物層を有さない比較例3の硫化水素の発生量よりも少なかった。構成元素としてハロゲン元素が含まれていない場合には、酸化物層の形成過程において300℃の高温で固体電解質材料を熱処理したとしても硫化物材料の結晶構造が変化しにくく、88ppm付近にピークを有する結晶相の析出が抑制される。そのため、イオン導電率が高く、硫化水素の発生量が少ない固体電解質材料が得られる。併せて、酸化物層が硫化物層と水分との接触を抑制するので、硫化水素の発生がさらに抑制される。
【0108】
比較例1は、84ppm付近の第2ピーク成分に由来する構造を主に含んでいた。比較例1のイオン導電率は高かった。比較例1の硫化水素の発生量は比較的少なかった。しかし、比較例1の硫化水素の発生量は1×10-2cm3/g以上であり、十分に少ないとは
言えない。
【0109】
比較例2は、88ppm付近の第1ピーク成分に由来する構造及び84ppm付近の第2ピーク成分に由来する構造の両者を含んでいた。比較例2のイオン導電率は低かった。比較例2の硫化水素の発生量は多かった。
【0110】
比較例4は、酸化物層を有していた。比較例4は、230℃での酸化処理を経て得られた。そのため、比較例4は、88ppm付近の第1ピーク成分に由来する構造を有していた。その結果、比較例4において、イオン導電率が低下し、硫化水素の発生量が増加した。
【0111】
実施例1は、210℃での酸化処理を経て得られた。そのため、実施例1は、88ppm付近の第1ピーク成分に由来する構造を殆ど有していなかった。実施例1において、84ppm付近の第2ピーク成分のピーク強度Zbに対する88ppm付近の第1ピーク成分のピーク強度Zaの比率(Za/Zb)は0.42であった。このため、実施例1は、1×10-3S/cm以上の高いイオン導電率及び1×10-2cm3/g以下の低い硫化水
素の発生量を示した。イオン導電率は、例えば、1×10-3S/cm以上である。イオン導電率は、高ければ高いほど望ましいので、その値に上限は無い。
【0112】
ピーク強度の比率(Za/Zb)の下限値は特に限定されない。比率(Za/Zb)の下限値は理論的にはゼロである。
【0113】
以上に説明したように、酸化物層を形成することによって、硫化水素の発生量が抑制さ
れうる。LiXを含む硫化物固体電解質材料の表面に酸化物層を形成する際、酸化に伴う自己発熱によって結晶構造が変化する可能性がある。本開示の技術によれば、酸化物層を形成する際の熱処理温度を十分に下げることによって結晶構造の変化が抑制される。その結果、硫化水素の発生量の少ない硫化物固体電解質材料が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本開示技術は、例えば、全固体リチウム二次電池に有用である。
【符号の説明】
【0115】
10 硫化物固体電解質材料
11 酸化物層
12 硫化物層
20 電池
21 正極
22 電解質層
23 負極
24 正極活物質粒子
25 負極活物質粒子
26 第1電解質層
27 第2電解質層
28 電解質層
図1
図2
図3
図4
図5
図6