(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005418
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ホルダー一体複合型回折光学素子
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
G02B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107299
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000147350
【氏名又は名称】株式会社精工技研
(72)【発明者】
【氏名】平尾 朋三
【テーマコード(参考)】
2H249
【Fターム(参考)】
2H249AA03
2H249AA13
2H249AA41
2H249AA45
2H249AA68
(57)【要約】
【課題】 複合型回折光学素子とレンズ等の他部材が簡便に精度良く固定でき、光源への位置決めが容易で、界面反射を制御することで性能劣化を抑制し、温度や湿度に関する性能変化を抑えるホルダー一体複合型回折光学素子を提案する。
【解決手段】 弾性材料で形成されたホルダーHに、使用波長で十分透明な弾性材料で形成された平行平板Mが固定され、この平行平板Mの少なくともいずれか一方の面に、光回折を発生させる微細構造MSが、エネルギー硬化型樹脂を用いて形成され、ホルダーHの内部には他部品を位置決めしながら収納できるテーパー形状HTを少なくとも1つ有し、外形部には組立や成形の位置決めに使用できる略円弧形状HRを有する、ホルダー一体複合型回折光学素子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材料で形成されたホルダーHに、使用波長で十分透明な弾性材料で形成された平行平板Mが固定され、この平行平板Mの少なくともいずれか一方の面に、光回折を発生させる微細構造MSが、エネルギー硬化型樹脂を用いて形成され、ホルダーHの内部には他部品を位置決めしながら収納できるテーパー形状HTを少なくとも1つ有し、外形部には組立や成形の位置決めに使用できる略円弧形状HRを有する、ホルダー一体複合型回折光学素子。
【請求項2】
外形部の位置決めに使用できる略円弧形状HRは4つで、かつホルダーHの4隅に形成され、以下の(1)式を満足するように構成される、請求項1に記載のホルダー一体複合型回折光学素子。
0.01<HRL/RL・・・(1)
HRL 略円弧形状HRの長さ
RL 略円弧形状HRの4点に外接する仮想円Rの円周長さ
【請求項3】
ホルダーHの内部に形成される全ての位置決めに使用するテーパー形状HTが以下の(2)式を満足するように構成される、請求項1から2に記載のホルダー一体複合型回折光学素子。
1°<HTA<45°・・・(2)
HTA テーパー形状HTと平行平板Mに直行する軸との為す角
【請求項4】
平行平板Mと微細構造MSを形成するエネルギー硬化型樹脂が(3)式を満たすように構成される、請求項1から3に記載のホルダー一体複合型回折光学素子。
|MI-MSI|≦0.1・・・(3)
MI 平行平板を形成する弾性材料の使用波長での屈折率
MSI・・・エネルギー硬化型樹脂の使用波長での屈折率
【請求項5】
少なくとも1つ以上の光を屈折させるレンズ形状を有するレンズ部材Lが、ホルダーHの内部に形成されたテーパー形状HTを介して固定され、内部のテーパー形状HTとレンズ部材Lのテーパー形状LTの間に形成される空間Gがゼロから0.02mmとなるように構成された請求項1から4に記載のホルダー一体複合型回折光学素子。
【請求項6】
平行平板Mがガラスで形成されることを特徴とする請求項1から4に記載のホルダー一体複合型回折光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光源やLED光源から出射される光を特定のパターンへ変換するホルダー一体の複合型回折光学素子(DОE)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、平板上に微細な凹凸形状が付与された回折光学素子とLEDや固体レーザー、面発光型レーザー(VCSEL)を組み合わせて、特定のパターンを投影し、3次元計測や顔認証、案内表示、レーザー加工等に利用できる、光投影モジュールが広く普及している。
【0003】
弾性部材に固定されたガラス基板上にUV光や熱エネルギーで硬化する透明樹脂を使用して精度良くレンズ形状を形成する複合型レンズ作成手法が、特許文献1に開示されている。
【0004】
硬化型樹脂材料をもちいて、同一の形状を持つレンズを安価にかつ大量に製造し、かつダイシング等の個片化工程を経ても不良が発生しづらい手法が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5179680号
【特許文献2】特開2013-122480
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
回折光学素子は、光源と組み合わせることで機能を発現する。回折光学素子を光源と組み合わせるために、作成した回折光学素子は、ホルダー等に固定され、このホルダーを介して光源に固定される。この回折光学素子を固定するホルダーの中には、回折光学素子以外の部品が組み込まれることもある。
【0007】
近年、より微細で複雑な投影パターンが求められてきており、光源と回折光学素子の間に、コリメータレンズに代表される、光源から出射する光を屈折作用で略平行、あるいは平行に近い角度に制御するレンズ部材が配置されることが増えている。
【0008】
さらに、微細で複雑な投影パターンを実現するためには、回折光学素子と光源の間の位置ズレを精密に制御する必要がある。
【0009】
また、コリメータレンズ等の部材を配置する場合は、レンズ部材、回折光学素子、光源のそれぞれの位置を精密に制御しなければならない。
【0010】
回折光学素子を大量にかつ安価に作成するため、ウェハ形状で一括して多数の回折光学素子を形成し、その後ダイシング等の切断手法を用いて、個片化する方法もある。
【0011】
このような手法で個片化された回折光学素子は、切断時の加工誤差が大きいため、ホルダーに搭載した後、光源と組み合わせる際にパターンを投影しながらの調整が必要となり、膨大な組立コストが発生する。
【0012】
さらに、ホルダーの中にレンズ等の他部材を配置する際に、部材同士の位置精度を確保する必要があるが、回折光学素子の外形に対する精度が確保できないため、ホルダー内での各部材を高精度に位置決めすることはできない。
【0013】
また、回折光学素子に関して、温湿度による寸法変化が発生すると、微細構造の周期パターンの変化や、各部材との位置関係の変化が発生し、結果として目的の投影パターンが得られないことがある。
【0014】
上記の温湿度変化を抑えるために、ガラスと樹脂材料を組み合わせた複合型回折光学素子も提案されているが、上述の通りウェハ形状で形成した場合は、個片化工程での加工誤差が発生するため、位置決め精度の問題を解決することは難しい。
【0015】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、ホルダー対して精密に複合型回折格子を位置決めし、かつ後から組み込まれるレンズ等の他部材も精密に固定することが可能となる、ホルダー一体複合型回折光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上の問題を解決するため本発明によるホルダー一体複合型回折光学素子は、弾性材料で形成されたホルダーHに、使用波長で十分透明な弾性材料で形成された平行平板Mが固定され、この平行平板Mの少なくともいずれか一方の面に、光回折を発生させる微細構造MSが、エネルギー硬化型樹脂を用いて形成され、ホルダーHの内部には他部品を位置決めしながら収納できるテーパー形状HTを少なくとも1つ有し、外形部には組立や成形の位置決めに使用できる略円弧形状HRを有するように構成される。
【0017】
ここで使用するエネルギー硬化型樹脂は、外部からエネルギーを受けることにより、架橋反応あるいは重合反応が進む材料のことを指す。外部エネルギーとしては、例えば、熱や紫外線、電子線などが挙げられる。この様なエネルギー硬化型樹脂としては、エネルギーのタイプによって、熱硬化型、紫外線硬化型、電子線硬化型などが挙げられ、材料系のタイプとしては、シリコーン系、エポキシ系、アクリル系が一般的に知られている。この様に、エネルギー硬化型樹脂の種類は多岐に渡るが、光学的に充分透明であれば、本発明の樹脂レンズ材料として、使用可能である。ここでの透明との限定は、使用波長範囲で使用に耐えうる程度に、材料の光吸収及び散乱が少ないことを意味する。
【0018】
このような構成をとることで、ホルダーHに対して事前に平行平板Mを固定することができる。ホルダーHに形成された略円弧形状HRを微細構造パターンMSの形成に使用することで、微細構造パターンMSとホルダーHの中心を精密に一致させることが可能となる。事前に平行平板Mを固定するが、微細構造パターンMSを形成する基準は、ホルダーHの略円弧形状HRなので、平行平板Mは両面の平面部だけが重要となる。外形部形状はホルダーHに固定できる形状であれば、どのような形状でも可であり、かつ外形精度は不要である。
【0019】
ホルダーHの内部に形成されたテーパー形状HTの中心を、ホルダーHの外形部に形成された略円弧形状HRの中心と一致させて、ホルダーHを形成することで、ホルダーH基準で、レンズ等の他部材をホルダーに高精度に位置決めすることが可能となる。
【0020】
さらに、微細構造パターンMSの中心は、ホルダーHの略円弧形状HRの中心とほぼ一致させて形成されるため、テーパー形状HTの中心に配置されるレンズ等の他部材は、ホルダーHを介して、微細構造パターンMSと精密に位置決めして配置することが可能である。
【0021】
さらに、本発明では、ホルダーHの外形部に形成された略円弧形状HRは、4か所であることが、好適である。成形や組立の位置決めに使用する際には4か所の円弧形状HRが位置決め用のジグ等に均等に接触することで、簡便にジグ等とホルダーHの中心を一致させることが可能となる。
【0022】
また、円弧形状HRの長さと、4つの円弧形状HRに外接する仮想円の円周長さの比が、0.01以上であることが望ましい。この比以下となると、円弧形状HRの長さが不足して、位置決めとして十分機能しない。
【0023】
さらに、ホルダーHの内部に形成される他部材を固定するためのテーパー形状HTと、ホルダーHに固定された平行平板Mの平面と直行する軸の為す角度は1°から45°の間が望ましい。
【0024】
為す角が1°以下となると、ホルダーHを射出成形等で作成する際に、離型時の抵抗が大きくなり、ホルダーHを精度良く成形できない。また、為す角が45°以上となると、位置決めのためのテーパー角度がのろくなり、他部材を精密に位置決めすることが困難になる。
【0025】
ホルダーHに固定された平行平板Mの材料が持つ使用波長での屈折率と、平行平板Mの上に形成される光回折を起こす微細構造MSを形成するエネルギー硬化型樹脂の使用波長での屈折率の差は0.1以下であることが好適である。
【0026】
一般的に、異なる材料を接合した界面では、屈折率差によって界面反射が発生する。本願の場合、平行平板Mに使用する材料と、微細構造MSの屈折率を完全に一致させることは困難であるが、この屈折率差が0.1以下であれば、界面反射は、実用上問題無いレベルとなる。屈折率の差が0.1を超えた場合は、界面反射が大きくなり、設計外の光線の量が増え、結果として設計性能を満たすことが困難になる。
【0027】
さらに、本願では、ホルダーHの内部に少なくとも1つ以上のテーパー形状HTが形成されているが、このテーパー形状HTに、屈折作用を持つレンズLが少なくとも1つ以上設置された際、レンズLが持つテーパー形状LTとホルダーHの持つテーパー形状HTの空間Gが、レンズLを設置した後、0.02mm以下とすることが望ましい。
【0028】
テーパー同士で合わせるため、当然テーパー同士が干渉しないためには、空間Gはゼロ以上となる。クリアランスは大きい方が、組立はしやすくなるが、クリアランスが大きすぎると当然、位置決め精度は低下する。回折光学素子と屈折レンズの位置決め精度については、空間Gの数値が0.02mmであれば、位置決め精度としては十分である。
【0029】
ホルダーHに固定された平行平板Mは、ガラス材料で形成されることが好適である。
【0030】
本願では光回折を起こす微細構造Mは、エネルギー硬化型樹脂で形成される。エネルギー硬化型樹脂は、樹脂材料のため温度や湿度に対して、寸法変化が起こることが知られている。
【0031】
上述のとおり、本願の微細構造Mの構造パターンは温度や湿度により変化する。本願の平行平板Mをガラス材料で形成すると、微細構造Mはガラスに固定されることになる。ガラス材料は温度や湿度に対してほぼ寸法変化が起こらないため、ガラス上に固定されたエネルギー硬化型樹脂で形成された微細構造Mも、樹脂単体で形成された回折光学素子よりは、温度や湿度に対して寸法変化が少なくなる。よって、温度や湿度による性能劣化を抑えることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明のホルダー一体複合型回折光学素子によれば、ホルダーHを基準として、複合型回折光学素子とレンズ等の他部材が簡便に精度良く固定でき、光源への位置決めが容易で、界面反射を制御することで性能劣化を抑制し、温度や湿度に関する性能変化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】ホルダー一体複合型回折光学素子の構造断面図
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図を参照して、本発明の実施の形態例について説明する。なお、各図は、本発明に係る一構成例を図示するものであり、本発明が理解できる程度に各構成要素の断面形状や配置関係等を概略的に示しているに過ぎず、本発明を図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の条件等を用いることがあるが、これらの材料および条件は好適例の一つに過ぎず、従って、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0035】
図1は本発明のホルダー一体複合型回折光学素子の構成図である。ホルダーHの投影面側に平行平板Mが固定され、光源側には他部材を位置決めするテーパー形状HTが形成され、平行平板Mの光源側面MBにエネルギー硬化型樹脂で形成された光回折を起こす微細構造MSが固定されている。ホルダーHの外形部には成形や組立の位置決め基準となる略円弧形状HRが形成されている。
【0036】
ここで、以降の図面について、複合型回折光学素子を挟んで光線入射側を光源側、光線出射側を投影側とするとき、平行平板Mの光源側面をMB、投影側面をMAとし、同様に微細構造MSの光源側をMSB、投影側をMSA、テーパー部に設置されるレンズ部材Lの光源側をLB,投影側をLAとする。また、平行平板Mが複数枚で構成される場合は、投影面側から順にM1,M2と順に数字を付する。微細構造MSとレンズ部材L、テーパー形状HTも同様に、複数構成となった場合は、投影面側から順に数字を付する。
【実施例0037】
図2は、第1の実施例におけるホルダー一体複合型回折光学素子の構成図である。ホルダーHの内部に平行平板Mが固定され、平面部MBに微細構造MSがエネルギー硬化型樹脂で形成されている。微細構造MSの構造パターンは便宜上大きく図示しているが、本来は数十nmから数μm程度のピッチと段差である。
【0038】
ホルダーHの外形部には、4か所の略円弧形状HRが形成されている。4つの略円弧形状HRは同じ形状となっており、1つの略円弧形状HRの長さは0.39mmである。この略円弧形状HRに外接する仮想円の円周長さRLは4.71mmである。両者から計算される比は0.083となり請求項2の数式を満たす。平行平板Mの外形は四角形となっている。便宜上四角形状としているが微細構造パターンMSを形成するために十分な領域の平面が確保でき、かつホルダーHに固定できる形状であれば、台形でも平行四辺形でも、その外形形状に制約はない。ホルダーHの内部には1つのテーパー形状HTが形成されており、平行平板Mの平面との為す角HTAは30°である。
【0039】
ここで
図3を用いて、ホルダーHに精度良く複合型回折光学素子を固定する方法を説明する。
【0040】
最初に、ホルダーHに略四角形の透明な弾性部材で形成された平行平板Mを接着等の手法で固定する。ホルダーHの略円弧形状部HRは、精密な円筒穴形状を持つジグJAの第1円筒穴JA1に固定される。微細構造パターン面JB1が付与されたジグJBの微細構造パターン面JB1にUV硬化型樹脂が滴下される。ジグJBは、ジグJA内に形成された第2円筒穴JA2に沿って挿入され、所定の位置で停止する。UV硬化型樹脂が平行平板Mの光源側面MBに接触し、径方向に樹脂が広がる。所定の位置まで樹脂が広がった後、平行平板Mの投影面側MAからUV光が照射され、UV硬化型樹脂が硬化する。硬化が完了した後、ジグJBがジグJAから抜き取られる。ジグJAからホルダーHを取り出すと、ホルダーHの略円弧形状HR基準で、微細構造MSが形成されたホルダー一体複合型回折光学素子が完成する。
【0041】
ここで複合型回折光学素子とは、異なる材料を接合して形成された回折光学素子を指す。例えば、UV硬化型樹脂で形成された平行平板に対して、熱硬化型樹脂で微細構造を形成した場合も複合型回折光学素子とみなす。熱可塑性樹脂とエネルギー硬化型樹脂の組み合わせも複合型回折格子と言える。
【0042】
また実施例1では、UV硬化型樹脂を使用しているが、熱硬化型樹脂を使用する場合、ジグJBを加熱すれば良い。よって、今回提示した製造例はエネルギー硬化型樹脂の種類を問わない。
ホルダーHにはテーパー形状が形成され、テーパー形状HTと平行平板Mに直行する軸との為す角HTAは45°である。テーパー形状HTには、光を平行に制御するレンズ部材Lが固定され、テーパー形状HTとレンズ部材Lのテーパー間に形成される空間Gは0.02mmである。