IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054196
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】組織後退装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/02 20060101AFI20230406BHJP
【FI】
A61B17/02
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025315
(22)【出願日】2023-02-21
(62)【分割の表示】P 2020167555の分割
【原出願日】2017-09-29
(31)【優先権主張番号】62/402,649
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】スミス、ポール
(72)【発明者】
【氏名】ブレッチビール、スコット
(72)【発明者】
【氏名】ウェールズ、ライアン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ダニー シュー-ファン
(72)【発明者】
【氏名】レイビン、サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】アンデション、ニクラス
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ジャーリャン
(57)【要約】
【課題】標的組織の切除を補助するための組織後退装置を提供する。
【解決手段】本発明は、組織切除分野に関する。特に、本発明は、標的組織の可視性を向上し且つ切除器具が妨害されないようにするために、切除術の間に、組織を持ち上げて後退させる医療装置に関する。より詳細には、本発明は、被拘束姿勢から緩和姿勢に移動して切除術の間標的組織の切除部分を動かないようにして後退させる組織後退装置に関する。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送カテーテルと、
前記搬送カテーテルのルーメン内に摺動可能に配置された長尺状可撓性要素とを備え、
前記長尺状可撓性要素は、近位端、遠位端、及び近位端及び遠位端の間に延びる中間部を備え、前記長尺状可撓性要素の近位端及び遠位端はそれぞれ、1つ以上の組織アンカーを備え、且つ標的組織の第1の部位及び標的組織の第2の部位に埋め込まれて、前記標的組織を隣接する組織から剥離するために、前記標的組織に対して持ち上げる力を付与するように構成されており、
前記長尺状可撓性要素は、前記近位端及び前記遠位端が前記中間部と高低差のない平坦状の第1の姿勢と、前記近位端及び前記遠位端が前記中間部と高低差のある湾曲状の第2の姿勢との間で移動可能に構成されており、第1の姿勢から第2の姿勢に移動したとき、前記標的組織は隣接する組織から離隔する方向に移動する、標的組織の切除を補助する為のシステム。
【請求項2】
前記長尺状可撓性要素の前記1つ以上の組織アンカーは、前記標的組織に埋め込まれた時、前記長尺状可撓性要素が前記標的組織表面から離脱されることを防止する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記長尺状可撓性要素は、弾性生体適合性材料で形成されており、前記弾性生体適合性材料の弾性力により前記平坦状の第1の姿勢から前記湾曲状の第2の姿勢に移動可能である、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記長尺状可撓性要素は、少なくとも1つのガイド部材を備え、前記少なくとも1つのガイド部材は、内部を貫通して延びるルーメンを画定する、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つのガイド部材は、前記長尺状可撓性要素の長さに沿って取り付けられた複数のガイド部材を含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記少なくとも1つのガイド部材のルーメン内に摺動可能に受承される制御ワイヤをさらに備える、請求項4又は5に記載のシステム。
【請求項7】
前記長尺状可撓性要素は、前記制御ワイヤが前記少なくとも1つのガイド部材のルーメン内に配置されている時、前記平坦状の第1の姿勢で保持され、前記制御ワイヤが前記少なくとも1つのガイド部材のルーメン内に配置されていない時、前記平坦状の第1の姿勢から前記湾曲状の第2の姿勢に移動するように構成されている、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
少なくとも1つの安定器をさらに備え、前記安定器は、前記長尺状可撓性要素に取り付けられた前記少なくとも1つのガイド部材に沿って配置され且つ前記少なくとも1つのガイド部材から外方に延びて前記標的組織に係合するように構成されている、請求項4~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記安定器は、フック又はかかり返しから選択される1つ以上の組織係合要素からなる、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記長尺状可撓性要素は、一対の平行するワイヤ要素からなる、請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記長尺状可撓性要素は、少なくとも1つのガイド部材を備え、前記一対の平行するワイヤ要素は、前記少なくとも1つのガイド部材によって互いに連結されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記長尺状可撓性要素は前記長尺状可撓性要素の長さに沿って取り付けられた複数のガイド部材を含み、前記一対の平行するワイヤ要素は、前記複数のガイド部材によって互いに連結され、前記複数のガイド部材の間で前記長尺状可撓性要素の長手軸線から離間する方向に外方に向かって湾曲するように構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記長尺状可撓性要素は、同長尺状可撓性要素の側面から径方向外方に延びる1つ以上のアームをさらに備え、前記1つ以上のアームは前記標的組織に係合して、前記標的組織を隣接する組織から剥離するために、前記標的組織に対して持ち上げる力を付与するように構成されている、請求項1~12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記搬送カテーテルは、内視鏡の作業チャンネル内に摺動可能に配置される、請求項1~13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
搬送カテーテルと、
前記搬送カテーテルのルーメン内に摺動可能に配置された長尺状可撓性要素とを備え、
前記長尺状可撓性要素は、標的組織の第1の部位及び第2の部位に係合して前記標的組織を隣接する組織から剥離するために、前記標的組織に対して持ち上げる力を付与するように構成された近位端及び遠位端を備え、
前記長尺状可撓性要素は、拘束された時の平坦状の第1の姿勢と、拘束されていない時の湾曲状の第2の姿勢との間で移動可能に構成されており、第1の姿勢から第2の姿勢に移動したとき、前記標的組織は隣接する組織から離隔する方向に移動する、標的組織の切除を補助する為のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織切除分野に関する。具体的には、標的組織の可視化を改善し且つ切除器具を妨害することがないように、切除手術の間、組織を持ち上げて後退させる医療装置に関する。より詳細には、本発明は、切除手術の間、拘束姿勢から緩和姿勢に移動して標的組織の切除した部分を動かないようにして後退させる組織後退装置に関する。
【背景技術】
【0002】
切除手術中には標的組織の可視化が困難であることから、消化器系等の狭い体内通路内からの病変部の外科的切除は、効率が悪く時間を要し得る。この問題は、手術中に部分切除した標的組織が作業部位を塞ぐ結果、可視性がさらに低下して切除器具を妨害する為、より深刻となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-321482号公報
【発明の概要】
【0004】
いくつかの態様では、本発明は、組織の可視性や操作性を改善する為に、切除術の間に、標的組織を動かないようにして後退させる組織後退装置に関する。
一態様では、本発明は、第1標的組織部分に係合するように構成された近位端と、第2標的組織部分に係合するように構成された遠位端と、長尺状可撓性要素に固定された少なくとも1つのガイド部材とを備える長尺状可撓性要素からなる組織後退装置に関し、少なくとも1つのガイド部材は、内部を貫通して延びる管腔を形成する。長尺状可撓性部材は、第1姿勢(被制限、被拘束、被収容、又は搬送姿勢)と第2姿勢(緩和、自由、又は展開姿勢)との間で移動する。
【0005】
別の態様では、本発明は、第1標的組織部分に係合するように構成された近位端と、第2標的組織部分に係合するように構成された遠位端と、長尺状可撓性要素に固定された少なくとも1つのガイド部材とを備える長尺状可撓性要素からなる組織後退装置に関し、少なくとも1つのガイド部材は、内部を貫通して延びる管腔を形成し、少なくとも1つのガイド部材の管腔の内部に摺動可能に受承される制御ワイヤを備え、長尺状可撓性要素は、制御ワイヤが少なくとも1つのガイド部材の腔所の内部に配置されている時の第1姿勢(被制限、被拘束、被収容、又は搬送姿勢)と制御ワイヤが少なくとも1つのガイド部材の管腔内部に配置されていない時の第2姿勢(緩和、自由、又は展開姿勢)との間で移動する。少なくとも1つのガイド部材は、長尺状可撓性要素の長さに沿って固定された複数のガイド部材を備える。少なくとも1つのガイド部材の端部は、キャップを備える。長尺状可撓性要素は、第1姿勢時に実質的に平坦である。長尺状可撓性要素は、第2姿勢時には、長軸に沿って湾曲する。長尺状可撓性要素は、織成されたメッシュを備え得る。追加的にまたは代替的に、長尺状可撓性要素は、複数の平行要素からなる。複数の並行要素は、少なくとも1つ以上のガイド部材によって互いに対して固定され得る。平行要素の一部は、長尺状可撓性要素の長軸から外方に湾曲する。制御ワイヤは、少なくとも1つのガイド部材の管腔所内部に配置された際に平行要素の間を通過する。長尺状可撓性要素の近位端と遠位端は、1つ以上の組織アンカー、例えば、タイン、フォーク、フック、フィンガー、かかり返し、ループ、及びクリップのうちの少なくともいずれか一方等を備える。追加的に又は代替的に、フック及びかかり返しのうちの少なくとも一方等の1つ以上の安定具が長尺状可撓性要素に固定される。長尺状可撓性要素は、限定ではないが、アクリレートをベースとするポリマー、ポリウレタンをベースとするポリマー、ポリノルボルネンをベースとするポリマー、ポリラクチドをベースとするポリマー等のポリマーから形成される。追加的にまたは代替的に、長尺状可撓性要素は、限定ではないが、白金、タングステン、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル‐チタン合金及び上述した又はその他の金属からなる合金などの金属又は金属合金から形成される。
【0006】
別の態様では、本願は、搬送カテーテルと、搬送カテーテルの管腔内部に摺動可能に受承される長尺状可撓性要素からなるシステムに関する。長尺状可撓性要素は、第1標的組織分に係合するように構成された近位端と、第2標的組織部分に係合するように構成された遠位端と、長尺状可撓性要素に固定された少なくとも1つのガイド部材と、少なくとも1つのガイド部材は、内部を貫通して延びる管腔を形成し、且つ少なくとも1つのガイド部材の管腔内部に摺動可能に受承される制御部材と、を備える。長尺状可撓性要素は、制御要素が少なくとも1つのガイド部材の管腔内に配置されているときの第1姿勢(被拘束、被制限、被収容、又は搬送姿勢)と、少なくとも1つのガイド部材の管腔内部に配置されていないときに第2姿勢(緩和、自由、又は展開姿勢)との間で移動する。制御ワイヤの近位端は、搬送カテーテルの端部を超えて延びる。搬送カテーテルは、内視鏡の作業チャネルの内部に摺動可能に受承される。追加的に又は代替的に、少なくとも1つのガイド部材は、長尺状可撓性要素の長さに沿って固定される。
【0007】
さらに別の態様では、本発明は、搬送カテーテルの遠位端が標的組織の第1部分の上にくるように標的組織の近傍の位置に内視鏡の作業チャネルを通過して搬送カテーテルを前進させる工程からなる方法に関し、搬送カテーテルの作業チャネルは、第1標的組織部分に係合するように構成された近位端と、第2標的組織部分に係合するように構成された遠位端と、長尺状可撓性要素に固定された少なくとも1つのガイド部材とからなる長尺状可撓性要素と、少なくとも1つのガイド部材は、内部を貫通する管腔を形成し、且つ少なくとも1つのガイド部材の管腔の内部に摺動可能に受承される制御ワイヤと、からなり、長尺状可撓性要素は、制御ワイヤが少なくとも1つのガイド部材の管腔の内部に配置されている時の第1姿勢と、制御ワイヤが少なくとも1つのガイド部材の管腔の内部に配置されていない時の第2姿勢との間で移動することと、長尺状可撓性要素が搬送カテーテルの遠位端を超えて標的組織の第1部分に係合するように制御ワイヤを遠位方向に前進させる工程と、長尺状可撓性要素の近位端が搬送カテーテルの遠位端を超えて移動するように搬送カテーテルを近位方向に後退させる工程と、長尺状可撓性要素の近位端が、標的組織の第2部分に係合するように長尺状可撓性要素の近位端に対して搬送カテーテルの遠位端を動かす工程と、制御ワイヤが少なくとも1つのガイド部材の管腔内部から取り除かれるように、制御ワイヤを近位方向に後退させる工程とからなる。方法は、切除などの組織の除去要素を、内視鏡の作業チャネルを貫通して前進させる工程と、長尺状可撓性要素が第1姿勢から第2姿勢に移動した際に標的組織の周囲に沿って切除する工程とをさらに含みうる。
【0008】
本発明の非限定的な例が、添付の図面を参照して例示により説明されている。図面は、略式図であって、縮尺通りに記載することを意図したものではない。図面では、図示されている同一又は実施的に同一の構成要素は、一般に、1個の数字で示されている。簡潔に示すために、当業者が発明を理解するのに必要ではない場合には、図面においては、必ずしも全ての構成要素が付番されているわけではなく、また本発明の各実施形態の全ての構成要素が示されているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本発明の実施形態に係る拘束坦姿勢の組織後退装置を示す図。
図1B】本発明の実施形態に係る緩和湾曲姿勢の組織後退装置を示す図。
図2A】本発明の実施形態に係る組織後退装置の両端部に配置し得る組織アンカー要素を示す図。
図2B】本発明の実施形態に係る組織後退装置の両端部に配置し得る組織アンカー要素を示す図。
図2C】本発明の実施形態に係る組織後退装置の両端部に配置し得る組織アンカー要素を示す図。
図2D】本発明の実施形態に係る組織後退装置の両端部に配置し得る組織アンカー要素を示す図。
図3】本発明の実施形態に係る組織後退装置の下面に配置された組織安定器を示す図。
図4A】本発明の実施形態に係る平行姿勢の組織後退装置の一部を示す図。
図4B】本発明の実施形態に係る湾曲姿勢の組織後退装置の一部を示す図。
図5】本発明の実施形態に係る搬送システムの管腔内部に配置された図1Aの組織後退装置を示す図。
図6A】本発明の実施形態に係る標的組織上に組織後退装置を配置する方法を示す図。
図6B】本発明の実施形態に係る標的組織上に組織後退装置を配置する方法を示す図。
図6C】本発明の実施形態に係る標的組織上に組織後退装置を配置する方法を示す図。
図6D】本発明の実施形態に係る標的組織上に組織後退装置を配置する方法を示す図。
図7A】本発明の実施形態に係る組織後退装置を用いた標的組織の切断を示す図。
図7B】本発明の実施形態に係る組織後退装置を用いた標的組織の切断を示す図。
図7C】本発明の実施形態に係る組織後退装置を用いた標的組織の切断を示す図。
図8A】本発明の別の実施形態に係る拘束平坦姿勢の組織後退装置を示す図。
図8B】本発明の実施形態に係る緩和湾曲姿勢の組織後退装置を示す図。
図9】本発明の実施形態にかかる標的組織の対立する平面に沿って配置された2つの組織後退装置を示す図。
図10A】本発明の別の実施形態に係る拘束姿勢の組織後退装置を示す図。
図10B】本発明の別の実施形態に係る緩和姿勢の組織後退装置を示す図。
図11A】本発明の別の実施形態に係る拘束姿勢の組織後退装置を示す図。
図11B】本発明の別の実施形態に係る緩和姿勢の組織後退装置を示す図。
図11C】本発明の別の実施形態に係る搬送姿勢の組織後退装置を示す図。
図12A】本発明の別の実施形態に係る拘束姿勢の組織後退装置を示す図。
図12B】本発明の別の実施形態に係る緩和姿勢の組織後退装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面は、本発明の一般的又は例示的な実施形態を記載することを意図していることに留意されたい。したがって、図面は、本発明の範囲を限定すると理解すべきではない。本発明は、添付の図面を参照して、以下により詳細に説明される。
【0011】
本発明をさらに詳細に説明する前に、本発明は、説明されている特定の実施形態に制限されない為、様々な実施形態が可能であることを理解されたい。この明細書で使用されている用語は、特定の実施形態を説明する目的の為だけのものであり、添付した請求項の範囲を超えて限定することを意図していない。別途定義されていない場合には、ここで使用されている全ての技術用語は、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者が一般に理解することのできる同一の意味を有する。最後に、本願の実施形態は、消化器系の組織を切除する為の医療装置とシステムとを特別に参照して説明されているが、医療装置は、腹腔や胃腸管系や胸腔等の組織を切除する為にも使用し得ると理解しなければならない。さらに、内視鏡粘膜下切除術(ESD)、経口内視鏡的筋層切開術(POEM)、胆嚢摘出術、ビデオ補助胸腔鏡手術(VATS)等の様々な医療施術は、ここで開示されている医療装置から恩恵を受けることが可能である。
【0012】
本明細書で用いられているように、「遠位」という用語は、患者の体内に装置を挿入した際に医療従事者から最も離れている端部を指し、「近位」という用語は、医療装置を患者の体内に挿入した際に医療従事者に最も近い端部を指す。
【0013】
ここで使用されている「組織の後退」又は「後退」という用語は、切除術の間に組織の位置をコントロールすることができる性能を指す。例えば、「後退」は、標的組織の切除した部分を動かないようにして標的組織の残っている部分(非切除部)から持ち上げて視認しやすくするために切除面から持ち上げるとともに切除要素をより正確に操作する為に標的組織に張力を付与することを意味する。
【0014】
この明細書で使用されているように、「標的組織」という用語は、不健康、又は病変した(癌性の、前癌性の)、又は所望されない、組織部分を意味する。「標的組織」には、不健康、又は病変が疑われる組織も含まれるが、そのような組織の状態は、生検で病態を確認する為に外科的に切除する必要がある。「標的組織」の外科的な切除は、確実に全てを除去して、取り残し又は除去されずに残された「標的組織」細胞が体の他の部位に転移する可能性を最小限にする為に、一般に「標的組織」周囲の健康な組織部分の除去を伴うことを理解しなければならない。
【0015】
一実施形態では、本発明は、内視鏡の作業チャネルを閉鎖したり塞いだりすることが無いようにする等、切除された標的組織部分を後退させ且つ動かないようにして、切除術の間に標的組織の可視性とアクセス性を改善する組織後退装置を提供する。図1A~1Bに示されているように、一実施形態では、本願の組織後退装置は、第1標的組織部分に係合するように構成された近位端112と、第2標的組織部分に係合するように構成された遠位端114と、第1表面116(上面、又は上方表面)と、第2表面118(下面、又は下方表面)と、からなる長尺状可撓性要素110(例えば、スパイン)を備える。複数のガイド部材130は、長尺状可撓性要素110の長さに沿って配置される。図1A~1Bのガイド部材130は、長尺状可撓性要素110の第2表面118に沿って等間隔で配置されているが、ガイド部材は、均等又は非均等パターンで第1及び第2表面116,118の少なくともいずれかに一方に配置し得る。代替的には、ガイド部材は、長尺状可撓性要素110の第1又は第2表面116,118のうちのいずれか一方と接線方向に又は同一平面にあってよい。加えて、図1A~1Bに示されている長尺状可撓性要素110は、5個のガイド部材130を備えているが、ガイド部材130の数は、5個以下(例えば、4個又はそれ以下)又は5個以上(例えば、6個又はそれ以上)であってもよいと理解されたい。円形状で示されているが、ガイド部材は、断面に任意の様々な形状、例えば半円形、卵形、四角形、長方形等を取りうる。長尺状可撓性要素は、様々な長さを有し得る(例えば、約6インチ(1インチ=2.54センチメートル)、約5インチ、約4インチ、約3インチ、約2.75インチ、約2.0インチ、約1.5インチ、約1.0インチなど)。各ガイド部材130は、内部を貫通して延びる管腔132を形成する。一実施形態では、ガイド部材130の最遠位端(長尺状可撓性要素110の遠位端114に最も近いガイド部材)は、キャップ134を備える。一実施形態では、長尺状可撓性要素110は、複数のガイド部材130によって互いに連結された平行要素又はワイヤ126a,126bからなる。組織後退装置は、長尺状可撓性要素110の長軸に沿って各ガイド部材130の対応する管腔132に摺動可能に受承される制御ワイヤ140(例えば、押さえるマンドレル)をさらに備え得る。図1Aに関して、制御ワイヤ140が各ガイド部材130の管腔132の内部に配置された時には、長尺状可撓性要素110は、第1姿勢(被制限、被拘束、被収容、又は搬送姿勢)に保持される。図1Bに関して、制御ワイヤ140が各ガイド部材130の管腔132の内部に配置されていない時には(取り除かれている)、長尺状可撓性要素110は、第2姿勢(緩和、自由、又は展開姿勢)に移動する。
【0016】
第1姿勢では、長尺状可撓性要素110は、第2表面118の実質的に全てが組織表面に接して配置されるように、平坦又は平面姿勢を備える。一実施形態では、長尺状可撓性要素110は、幅と厚さとを備え、長尺状可撓性要素110が切除術中に巻き上がったりねじれたりすることがないように、幅は、厚さを上回る。例えば、長尺状可撓性要素は、厚さ(例えば、約0.04インチ(1インチ=2.54センチメートル)、約0.035インチ、約0.030インチ、約0.025インチ、約0.020インチ)よりも大きな幅(例えば、約0.070インチ、約0.065インチ、約0.060インチ、約0.055インチ、約0.050インチ)を備え、いくつかの場合には、幅は、厚さよりも約2倍大きい。長尺状可撓性要素110は、例えば、白金、タングステン、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びニッケル‐チタン合金(例えば、ニチノール)等の金属及び金属合金、アクリレートをベースとするポリマー、ポリウレタンをベースとするポリマー、ポリノルボルネンをベースとするポリマー、及びポリラクチドをベースとするポリマー等のポリマー、及びそれらの任意の組み合わせ等を含む様々な弾性生体適合性材料から形成し得る。
【0017】
被制限姿勢にある時には、上記材料内部に保存されている「力」により、長尺状可撓性要素110は、埋め込まれた組織に、上方に持ち上げる又は後退させる一定の圧力を付与して保持することができる。標的組織の被切除部分をより簡単に視認することができ且つより効率的に切除し得るように、第1姿勢の平坦状又は平面形状から第2姿勢の湾曲(例えば、丸まった又は半球状)形状に移動する長尺状可撓性要素110に備わる性質により、標的組織の切除部分を切断面の上に持ち上げたり上昇させたりすることができる。第2姿勢の形状は、緩和又は非拘束姿勢を取る長尺状可撓性要素の材料に所望の記憶を付与したり設定する為に、操作中に制御することができる。
【0018】
図2A~2Dでは、長尺状可撓性要素110の近位端と遠位端112,114は、切除術が完了する前に組織表面から長尺状可撓性要素110が離脱することを防止するために、非限定例であるが、例えば、ワイヤ突起又はタイン(図2A)、ワイヤフォーク、フィンガー又はフック(図2B)、ワイヤ端(図2C)及びループのうちの少なくともいずれか一方、クリップ又はかかり返し(図2D)等、の様々なアンカー姿勢を備え得る。追加的に又は代替的に、近位端と遠位端112,114は、組織の貫通を容易にするために鋭利又は尖った尖端を備えることが好ましい。一実施形態では、これらの(及び他の)ワイヤアンカー要素は、ニチノール等の形状記憶材料からなり、配置された際に下方に指向するように熱により設定されているが、展開前には搬送カテーテル内部において直線姿勢に拘束されている。標的組織の内部に埋め込まれた際には、近位端と遠位端112,114は、標的組織表面に対して下向きに長尺状可撓性要素110の第2表面118を同時に駆動又は押して、上向き(例えば、持ち上げる)と外向き(例えば、長軸方向に)に後退させる力を標的組織内に生じさせる。
【0019】
図3では、一実施形態において、1つ以上の安定器325(例えば、フック、かかり返しなど)が長尺状可撓性要素410の第2表面318に固定された1つ以上のガイド部材330に沿って配置されて、そこから外方に延びる。標的組織に対して長尺状可撓性要素310の第2表面318に沿って付与される圧力によって、安定器325は、近位端と遠位端312,314の間に標的組織の一部を係合することができる。安定器325によって提供される追加的な組織の係合によって、標的組織に追加的な後退力を付与するとともに、長尺状可撓性要素310が切除術中に巻き返ったりねじれたりすることをさらに防止又は最小限にし得る。
【0020】
図4A~4Bでは、一実施形態において、1つ以上のガイド部材430の間に平行するワイヤ426aと426bの部分は、長尺状可撓性要素410を配置した後、外方に広がって又は倒れて表面積が増大した部分を1つ以上提供してさらなる安定性を付与する(巻き返り、又はねじれ耐性など)。例えば、平行するワイヤ426a,426bの1つ以上の部分は、拘束時に姿勢が直線状(図4A)になり、搬送管を出た際に外方に倒れる(図4B)ように製造過程で熱処理し得る。
【0021】
図5では、一実施形態において、本発明は、搬送カテーテル550(例えば、オーバーチューブ、拘束シース)の管腔556内部に第1姿勢で(被拘束)摺動可能に配置された長尺状可撓性要素510からなる搬送システムを備える。制御ワイヤ540は、制御ワイヤ540の近位端(図示略)が搬送カテーテル550の近位端(図示略)を超えて延びるように、搬送カテーテル550の管腔556を貫通して延びる。
【0022】
図6Aでは、使用時であり且つ例示の方法において、内視鏡660は、内視鏡660の遠位端664が標的組織72の近傍に配置されるように体内通路の中を前進される。図5のカテーテルなどの搬送システムは、次に、搬送カテーテル650の遠位端644が標的組織72の第1部分の上に配置されるように内視鏡660の作業チャネル666を貫通して前進される。制御ワイヤの近位端は、次に、長尺状可撓性要素610の遠位端614が搬送カテーテル650の遠位端654を越えて移動するように遠位方向に前進される。最遠位のガイド部材630のキャップ634(図6B)は、制御ワイヤ640が遠位の力を生じる表面を提供すると理解されたい。制御ワイヤ640は、標的組織72の第1部分の内部に長尺状可撓性要素610の遠位端614を埋め込む為にさらに遠位方向に前進される。代替的には、制御ワイヤは、その場にアンカーを埋め込む為に前進されたカテーテル又は内視鏡を固定する。一実施形態では、遠位端614は、搬送カテーテル650から出た際に拘束姿勢から展開姿勢に移動する。展開姿勢になることにより、標的組織とより強く係合する為のより大きな(より広い)表面積を提供する。図6Bでは、制御ワイヤ640によって長尺状可撓性要素610に遠位方向の力が付与されている(維持される)間に、搬送カテーテル650は、長尺状可撓性要素610の近位端612を搬送カテーテル650の遠位端654を越えて移動させる為に、近位方向に後退させられる。図6Cでは、搬送カテーテル650の遠位端654は、標的組織72の第2部分の内部に近位端612を埋め込む為に、長尺状可撓性要素610の近位端612に対して遠位方向の力を発生又は付与するように前進される。近位端612に対する搬送カテーテル650の遠位端654が生じる遠位方向の力によって、長尺状可撓性要素610は、標的組織72の第2部分の内部に近位端612が埋め込まれる前に(又は、間に)湾曲又は内方に屈曲させられる。搬送カテーテル650の遠位端654により付与される遠位方向の力が取り除かれると、長尺状可撓性要素610は、非屈曲姿勢に回復して、標的組織72の第1部分と第2部分の中にそれぞれ近位端と遠位端612,614をさらに押し込んで係合させ得る。代替的には、十分な遠位方向の圧力を制御ワイヤに付与すれば、搬送カテーテルの遠位端に長尺状可撓性要素を係合させなくともアンカーを埋め込むのに十分に長尺状可撓性要素を湾曲させ得る。追加的に又は代替的に、アンカーは、遠位方向の圧力をほとんど又は全く付与しなくとも自ら配置または埋め込まれ得る。図6Dでは、制御ワイヤ640は、次に、各ガイド部材630の管腔632の内部から近位方向に後退させられて除去される。制御ワイヤ640が除去されると、長尺状可撓性要素610は、その第1姿勢から第2姿勢に移動する内在性の傾向により標的組織72にさらに固定される為、近位端と遠位端612,614に上向き且つ外向きの力を付与する。標的組織72の表面に対する長尺状可撓性要素610の第2表面618を同時に駆動又は押す圧力も生じる。転移に繋がる可能性のある癌性細胞を取り残す可能性を最小限にするために、ある外科的手術では、標的組織外縁の外側又は外縁を超えた健康な組織部分(例えば、非病変部分)の内部に近位端と遠位端612,614の一方又は両方を埋め込むことが望ましい場合があることを理解されたい。そのような場合には、組織は、切除された組織内部に埋め込まれたアンカーを有する長尺状可撓性要素の側のみから後退される。
【0023】
図7A~7Cでは、切除要素768は、次に、周囲の健康な組織70から標的組織72を切除する為に、内視鏡760の作業チャネル766を貫通して前進させられる。標的組織72が切除されたら、病変組織に固定された長尺状可撓性要素710の一部は、第1姿勢から第2姿勢に移動して、切除要素768と内視鏡カメラ769から病変標的組織72を持ち上げて引っ張る。標的組織が完全に切除されたら、長尺状可撓性要素710とそれに固定されている標的組織72とは、生検の為に、適切な把持要素(図示略)を用いて内視鏡760の作業チャネル766を貫通して取り除かれ得る。代替的には、長尺状可撓性要素710とそれに固定されている標的組織72とは、生体の自然な通路を介して取り除く為に体内通路内に留置され得る。重要なことは、長尺状可撓性要素710は、切除術の間、内視鏡760の作業チャネル766を占有しない為、医療従事者は、所与の医療施術に必要とされる追加の医療器具を導入して操作することができる。
【0024】
図8A~8Bでは、一実施形態において、本発明の組織後退装置は、様々な織成又は織り合わされた形状のポリマー、金属又は合金で形成されたメッシュ状の構造からなる長尺状可撓性要素810を備える。長尺状可撓性要素810の近位端と遠位端812,814は、ベルクロ(登録商標)様の方法で第1と第2標的組織部分に係合するように構成された複数の自由ワイヤ端824(例えば、ワイヤ尖)を備え得る。一実施形態では、長尺状可撓性要素810の表面は、制御ワイヤ(図示略)を受承する1つ以上のガイド部材を備え得る。上述したように、制御ワイヤは、中央管腔(図8A)の内部に配置された時には、第1姿勢(被拘束)に長尺状可撓性要素810を保持し、中央管腔(図8B)の内部に配置されていない時には、長尺状可撓性要素を第2姿勢(緩和)に復帰させることができる。長尺状可撓性要素810は、上述したように搬送カテーテルと内視鏡とを用いて標的組織内部と上に配置され得る。
【0025】
図9では、一実施形態において、1つ以上の長尺状可撓性要素910a,9910bは、標的組織72に配置されて複数の組織後退平面を提供する。例えば、第1長尺状可撓性要素910aは、標的組織72の第1平面に沿って配置され、第2長尺状可撓性要素910bは、標的組織72の第2平面に沿って第1長尺状可撓性要素910aの上に直交して配置される。複数の長尺状可撓性要素を用いて複数の後退平面を利用可能にすることにより、大きな形状及び不規則な形状のうちの少なくともいずれか一方の標的組織を安全に且つ効率的に切除し、又は繊細な生体構造及び周囲において組織を切除する為に必要とされる組織後退力を付与し得る。
【0026】
図10Aでは、一実施形態において、本発明の組織後退装置は、上述したように、長尺状可撓性要素1010を備え、且つ長尺状可撓性要素1010の中央部分1013から径方向外方に延びる第1と第2アーム1028a,1028b(例えば、ストリップ、ペタル、脚等)をさらに備える。第1アーム1028aの端部1029aは、第3標的組織部分に係合して、第2アーム1028bの端部1029bは、第4標的組織部分に係合する。複数のガイド部材1030は、第1アームと第2アーム1028a、1028bからなる第1表面1016(例えば、上面)に配置される。各ガイド部材1030は、内部を貫通して延びる管腔1032を形成する。一実施形態では、第1アームと第2アーム1028a,1028bの最遠位のガイド部材1030の端部(端部1029a,1029bに最も近いガイド部材)は、制御ワイヤが遠位で力を生じる表面を付与する為に、キャップ1034を備える。最後に、組織後退装置は、第1と第2アーム1028a,1028bからなる第1表面1016に沿って配置された各ガイド部材1030の管腔1032にそれぞれ摺動可能に受承される第1と第2制御ワイヤ1040a,1040bをさらに備える。例えば、第1制御ワイヤ1040aは、長尺状可撓性要素1010の近位部分1017の第1表面1016に沿って延びて、中央部1013で約90度の角度で曲がって第1アーム1028a上のガイド部材1030の管腔1032に摺動可能に受承される。第2制御ワイヤ1040bは、長尺状可撓性要素1010の近位部分1017の第1表面1016に沿って第1制御ワイヤ1040aに平行して延びて、中央部1013で約90度の角度で曲がって第2アーム1028b上のガイド部材1030の管腔1032に摺動可能に受承される。図には示されていないが、図1A~1Bに示されているように、追加の制御ワイヤ(第3制御ワイヤ)を、長尺状可撓性要素1010の第2表面1018(例えば、下面)に沿って配置することもできる。第1と第2制御ワイヤ1040a、1040bが各ガイド部材1030の管腔1032の内部にそれぞれ配置された時には、第1アームと第2アーム1028a,1028bは、第1姿勢(被拘束)に保持される。図10Bに関して、第1と第2制御ワイヤ1040a、1040bは、各ガイド部材1030の管腔1032の内部にそれぞれ配置されない時には(除去された)、第1と第2アーム1028a,1028bは、第2姿勢(緩和)に移動する。被拘束姿勢にある時には、上記材料の内部に保存されている「力」により、長尺状可撓性要素1010は、埋め込まれた標的組織の複数の平面に沿って上方に持ち上げる又は後退させる一定の圧力を付与して保持し得る。
【0027】
図10Bに示されている組織後退装置は、上述した搬送カテーテルの管腔内部に摺動可能に配置され得る。一実施形態では、組織後退装置の長尺状可撓性要素1010部分は、上述した工程に従って標的組織上に配置される。第1と第2制御ワイヤ1040a,1040bは、次に、端部1029a、1029bが、第3,第4組織部分にそれぞれ係合するように、第1と第2アーム1028a,1028bが外方に平面姿勢(図10A)をなすように遠位方向に前進される。長尺状可撓性要素のアームは、様々な形状で形成することができ、各アームの端部1029a,1029bは、例えば図2A~2Dに示されているように、任意の組織アンカー構成を含みうる。
【0028】
図11Aでは、別の実施形態において、本発明の組織後退装置は、図1Aに示されているように、長尺状可撓性要素1110の遠位部分1115から径方向に延びる第1と第2アーム1128a,1128bと、長尺状可撓性要素1110の近位部分1117から径方向に延びる第3と第4アーム1128c,1128dとをさらに備える。第1アーム1128aの端部1129aは、第3標的組織部分に係合し、第2アーム1128bの端部1129bは、第4標的組織部分に係合し、第3アーム1128cの端部1129cは、第5標的組織部分に係合し、第4アーム1028dの端部1129dは、第6標的組織部分に係合し得る。複数のガイド部材1030が、第1、第2、第3、及び第4アーム1128a~dからなる第1表面1118(上面)に沿って配置され得る。各ガイド部材1130は、内部を貫通して延びる管腔を形成する。一実施形態では、各第1、第2、第3、第4アーム1028a~dの最遠位のガイド部材1130(端部1129a~dに最も近いガイド部材)は、制御ワイヤが遠位に力を生じる表面を提供する為に、端部キャップを備える。最後に、組織後退装置は、第1、第2、第3、第41128a~dからなる第1表面1118に沿って配置された各ガイド部材1130の管腔にそれぞれ摺動可能に受承される第1、第2、第3制御ワイヤ1140a,1140b,1140cをさらに備え得る。例えば、第1制御ワイヤ1140aは、長尺状可撓性要素1110の第1表面1118に沿って延びて、第1と第2アーム1128a,1128b上のガイド部材1130の管腔に摺動可能に受承されるフォーク又はスプリットを備える。代替的には、長尺状可撓性要素1110の第1アーム1128aと第2アーム1128bとは、別々に配置できるように別の又は異なる制御ワイヤ(図示略)を備える。第1制御ワイヤ1140bは、第1制御ワイヤ1140aの一部に平行して延びて、長尺状可撓性要素1110の近位部分1117で90度以上の角度で曲がって、第3アーム1128c上のガイド部材1130の管腔に摺動可能に受承される。第3制御ワイヤ1140cは、第1制御ワイヤ1140aの一部に平行して延びて、長尺状可撓性要素1110の近位部分1117で90度以上の角度で曲がって、第4アーム1128d上のガイド部材1130の管腔に摺動可能に受承される。図には示されていないが、例えば、図1A~1Bに示されているように、追加の制御ワイヤ(第4制御ワイヤ)が、長尺状可撓性要素1110の第2表面(下面)に沿って配置され得る。
【0029】
第1、第2、第3制御ワイヤ1140a~1140cが、各ガイド部材1130の管空腔内部にそれぞれ配置された時には、第1、第2、第3、第4アーム1128a~dは、第1姿勢(被拘束)に保持される。図11Bでは、第1、第2、第3調節ワイヤ1140a~c(図示略)は、各ガイド部材1130の内部に配置されていない時(取り除かれている)には、第1、第2、第3、第4アーム1128a~dは、第2姿勢(緩和)に移動する。追加的に又は代替的に、長軸に沿っている遠位と近位アームは、他のアームと同様に拘束されていない時には、第2姿勢に向かって折り畳まれ得る。図11Cでは、一実施形態において、第1、第2、第3、第4アーム1128a~dは、十分な可撓性を有する又は変形可能な材料で形成される為、搬送カテーテルの管腔内部に拘束された時には、長尺状可撓性要素に沿って内方に縮小し得る。被拘束姿勢にある時には、上記材料の内部に保存されている「力」により、長尺状可撓性要素1110は、埋め込まれた標的組織の複数の平面に沿って上に持ち上げる又は後退させる一定の圧力を付与して保持し得る。
【0030】
図11Cに示されている組織後退装置は、上述したように搬送カテーテルの管腔内部に摺動可能に配置し得る。一実施形態では、組織後退装置の長尺状可撓性要素1110の部分は、上述した工程に従って標的組織部位上に配置される。第1、第2、第3調節ワイヤ(図示略)は、次に、端部1129a~dが第3、第4、第5、第6組織にそれぞれ係合するように、外方に向かって展開姿勢(図11A)に促すべく遠位方向に前進させられる。各アームの端部1129a~dは、図2A~2D等に示されているように、任意の組織アンカー構成を備え得る。
【0031】
図12A~12Dでは、一実施形態において、本発明の組織後退装置は、第1姿勢(被拘束)(図12B)と第2姿勢(緩和、巻回又は縮小)(図12A)の間で移動する形状記憶材料からなるシート1210を備え得る。複数の組織アンカー1224を、シート1210の周囲1210aに配置し得る。図12A~12Bの組織アンカー1224がシート1210の周囲1210aに沿って実質的に等間隔で配置されているが、組織アンカーは、均等又は均等でないパターンで周囲1210aに配置されてよいと理解されなければならない。上記形状記憶材料の内部に蓄えられている「力」によって、埋め込まれた標的組織の複数の平面に沿って、上に持ち上げる又は後退させる一定の圧力を付与して保持し得る。図12Aに示されているように、シート1210は、第1緩和姿勢、円筒形状姿勢で巻き取られて搬送カテーテル(図示略)の管腔内部に摺動可能に配置されて拘束されて搬送される。シート1210は、搬送カテーテルの遠位端を超えて遠位方向に前進させられて、図12Bの第2拘束姿勢に展開されて、組織アンカー1224は、標的組織の複数の部分に係合可能になる。追加的に又は代替的に、シート1210に正確に配置して標的組織内部で少なくともいくつかの組織アンカー1224と係合するように十分な圧力を付与する為に、医療装置(生検鉗子)が、搬送カテーテルを貫通して前進される。シート1210が、第2姿勢(図12B)で標的組織に固定されたら、シート1210の中央部分は、医療装置に接触(押す、たたく、打つ)されることにより、シート1210が、第1形状記憶姿勢(図12A)に復帰して、標的組織に対して上向きに持ち上げる又は後退させる圧力を生じるように、刺激し得る。この明細書に記載されている組織後退装置は、任意の数、形状、大きさ及び方向のうちの少なくとも1つのアーム及び組織アンカーを備え得ると解されたい。
【0032】
この明細書で開示され且つ請求項に記載されている全ての装置及び方法のうちの少なくとも一つは、本発明に関して必要以上の実験を要することなく製造し且つ実施することができる。本発明に係る装置及び方法は、好ましい実施形態の用語で説明されているが、当業者であれば、本発明の概念、主旨及び範囲から逸脱することなく、装置及び方法のうちの少なくともいずれか一方、及びこの明細書に記載されている工程又は工程の順序で適用できることが理解できる。よって、当業者が理解し得る類似の代替形態及び変更形態の全ては、添付の請求項で定義されているように、本発明の主旨、範囲及び概念に入ると考えられる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
【手続補正書】
【提出日】2023-03-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
拘束された平坦状姿勢から湾曲状緩和姿勢の間で移動可能な長尺状可撓性要素を備え、前記長尺状可撓性要素は、第1の標的組織部位に係合するように構成された第1端と、第2の標的組織部位に係合するように構成された第2端とを有する、組織後退装置。
【請求項2】
前記平坦状姿勢及び前記湾曲状緩和姿勢は、前記長尺状可撓性要素を熱処置することによって設定されている、請求項1に記載の組織後退装置。
【請求項3】
前記長尺状可撓性要素は、シートに力が付与されたことに応答して前記平坦状姿勢から前記湾曲状緩和姿勢に移動するように構成されている、請求項1または2に記載の組織後退装置。
【請求項4】
前記長尺状可撓性要素は、前記長尺状可撓性要素が解放されたとき、前記湾曲状緩和姿勢をなすように、予め前記湾曲状緩和姿勢に設定されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の組織後退装置。
【請求項5】
前記長尺状可撓性要素の第1端及び第2端の少なくとも一方から延びる複数のアンカーをさらに備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の組織後退装置。
【請求項6】
前記複数のアンカーは、タイン、フォーク、フック、フィンガー、かかり返し、ル、クリップ、またはそれらの組み合わせである、請求項5に記載の組織後退装置。
【請求項7】
前記複数のアンカーは、前記長尺状可撓性要素の周囲に沿って配置されている、請求項5に記載の組織後退装置。
【請求項8】
組織係合要素は、前記長尺状可撓性要素の前記第1端及び前記第2端のうちの少なくとも一方から長手方向に延びる、請求項1~7のいずれか一項に記載の組織後退装置。
【請求項9】
長尺状可撓性要素を備える組織後退装置であって、前記長尺状可撓性要素は、
第1の標的組織部位に係合するように構成された近位端と、
前記近位端に対向し且つ第2の標的組織部位に係合するように構成された遠位端と、
前記近位端から前記遠位端の間に延びる少なくとも2つのワイヤと、
を備え、
前記長尺状可撓性要素は、前記ワイヤが互いに平行をなす第1姿勢と、前記ワイヤが互いに外方に離間した第2姿勢との間で移動可能である、組織後退装置。
【請求項10】
前記長尺状可撓性要素に取り付けられた少なくとも1つのガイド部材をさらに備え、前記少なくとも1つのガイド部材は、内部を貫通して延びるルーメンを画定している、請求項9に記載の組織後退装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つのガイド部材の前記ルーメン内に摺動可能に受け入れられる制御ワイヤをさらに備える、請求項10に記載の組織後退装置。
【請求項12】
前記長尺状可撓性要素は、前記少なくとも1つのガイド部材の前記ルーメンに対して前記制御ワイヤを位置決めすることに応答して、前記第1姿勢及び前記第2姿勢との間で移動可能である、請求項11に記載の組織後退装置。
【請求項13】
前記長尺状可撓性要素は、前記長尺状可撓性要素をカテーテルに対して位置決めすることに応答して、前記第1姿勢及び前記第2姿勢の間で移動可能である、請求項9~12のいずれか一項に記載の組織後退装置。
【請求項14】
前記ワイヤは、前記長尺状可撓性要素が解放されたとき、前記第2姿勢をなすように、前記第2姿勢に予め設定されている、請求項9~13のいずれか一項に記載の組織後退装置。
【請求項15】
前記ワイヤは、前記第2姿勢において互いに離間したとき、標的組織に対してほぼ平行をなす平面を形成する、請求項9~14のいずれか一項に記載の組織後退装置。
【請求項16】
前記長尺状可撓性要素の前記近位端に設けられた第1の組織アンカー及び、前記長尺状可撓性要素の前記遠位端に設けられた第2の組織アンカーをさらに備える、請求項9~15のうちの少なくともいずれか一項に記載の組織後退装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
この明細書で開示され且つ請求項に記載されている全ての装置及び方法のうちの少なくとも一つは、本発明に関して必要以上の実験を要することなく製造し且つ実施することができる。本発明に係る装置及び方法は、好ましい実施形態の用語で説明されているが、当業者であれば、本発明の概念、主旨及び範囲から逸脱することなく、装置及び方法のうちの少なくともいずれか一方、及びこの明細書に記載されている工程又は工程の順序で適用できることが理解できる。よって、当業者が理解し得る類似の代替形態及び変更形態の全ては、添付の請求項で定義されているように、本発明の主旨、範囲及び概念に入ると考えられる。
(付記)
(付記1)
搬送カテーテルと、
前記搬送カテーテルのルーメン内に摺動可能に配置された長尺状可撓性要素とを備え、
前記長尺状可撓性要素は、近位端、遠位端、及び近位端及び遠位端の間に延びる中間部を備え、前記長尺状可撓性要素の近位端及び遠位端はそれぞれ、1つ以上の組織アンカーを備え、且つ標的組織の第1の部位及び標的組織の第2の部位に埋め込まれて、前記標的組織を隣接する組織から剥離するために、前記標的組織に対して持ち上げる力を付与するように構成されており、
前記長尺状可撓性要素は、前記近位端及び前記遠位端が前記中間部と高低差のない平坦状の第1の姿勢と、前記近位端及び前記遠位端が前記中間部と高低差のある湾曲状の第2の姿勢との間で移動可能に構成されており、第1の姿勢から第2の姿勢に移動したとき、前記標的組織は隣接する組織から離隔する方向に移動する、標的組織の切除を補助する為のシステム。
(付記2)
前記長尺状可撓性要素の前記1つ以上の組織アンカーは、前記標的組織に埋め込まれた時、前記長尺状可撓性要素が前記標的組織表面から離脱されることを防止する、付記1に記載のシステム。
(付記3)
前記長尺状可撓性要素は、弾性生体適合性材料で形成されており、前記弾性生体適合性材料の弾性力により前記平坦状の第1の姿勢から前記湾曲状の第2の姿勢に移動可能である、付記1又は2に記載のシステム。
(付記4)
前記長尺状可撓性要素は、少なくとも1つのガイド部材を備え、前記少なくとも1つのガイド部材は、内部を貫通して延びるルーメンを画定する、付記1~3のいずれか1つに記載のシステム。
(付記5)
前記少なくとも1つのガイド部材は、前記長尺状可撓性要素の長さに沿って取り付けられた複数のガイド部材を含む、付記4に記載のシステム。
(付記6)
前記少なくとも1つのガイド部材のルーメン内に摺動可能に受承される制御ワイヤをさらに備える、付記4又は5に記載のシステム。
(付記7)
前記長尺状可撓性要素は、前記制御ワイヤが前記少なくとも1つのガイド部材のルーメン内に配置されている時、前記平坦状の第1の姿勢で保持され、前記制御ワイヤが前記少なくとも1つのガイド部材のルーメン内に配置されていない時、前記平坦状の第1の姿勢から前記湾曲状の第2の姿勢に移動するように構成されている、付記6に記載のシステム。
(付記8)
少なくとも1つの安定器をさらに備え、前記安定器は、前記長尺状可撓性要素に取り付けられた前記少なくとも1つのガイド部材に沿って配置され且つ前記少なくとも1つのガイド部材から外方に延びて前記標的組織に係合するように構成されている、付記4~7のいずれか1つに記載のシステム。
(付記9)
前記安定器は、フック又はかかり返しから選択される1つ以上の組織係合要素からなる、付記8に記載のシステム。
(付記10)
前記長尺状可撓性要素は、一対の平行するワイヤ要素からなる、付記1~9のいずれか1つに記載のシステム。
(付記11)
前記長尺状可撓性要素は、少なくとも1つのガイド部材を備え、前記一対の平行するワイヤ要素は、前記少なくとも1つのガイド部材によって互いに連結されている、付記10に記載のシステム。
(付記12)
前記長尺状可撓性要素は前記長尺状可撓性要素の長さに沿って取り付けられた複数のガイド部材を含み、前記一対の平行するワイヤ要素は、前記複数のガイド部材によって互いに連結され、前記複数のガイド部材の間で前記長尺状可撓性要素の長手軸線から離間する方向に外方に向かって湾曲するように構成されている、付記10に記載のシステム。
(付記13)
前記長尺状可撓性要素は、同長尺状可撓性要素の側面から径方向外方に延びる1つ以上のアームをさらに備え、前記1つ以上のアームは前記標的組織に係合して、前記標的組織を隣接する組織から剥離するために、前記標的組織に対して持ち上げる力を付与するように構成されている、付記1~12のいずれか1つに記載のシステム。
(付記14)
前記搬送カテーテルは、内視鏡の作業チャンネル内に摺動可能に配置される、付記1~13のいずれか1つに記載のシステム。
(付記15)
搬送カテーテルと、
前記搬送カテーテルのルーメン内に摺動可能に配置された長尺状可撓性要素とを備え、
前記長尺状可撓性要素は、標的組織の第1の部位及び第2の部位に係合して前記標的組織を隣接する組織から剥離するために、前記標的組織に対して持ち上げる力を付与するように構成された近位端及び遠位端を備え、
前記長尺状可撓性要素は、拘束された時の平坦状の第1の姿勢と、拘束されていない時の湾曲状の第2の姿勢との間で移動可能に構成されており、第1の姿勢から第2の姿勢に移動したとき、前記標的組織は隣接する組織から離隔する方向に移動する、標的組織の切除を補助する為のシステム。