(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005423
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】温調装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
F25D 11/00 20060101AFI20230111BHJP
F25D 29/00 20060101ALI20230111BHJP
F25D 23/00 20060101ALI20230111BHJP
F25B 21/02 20060101ALI20230111BHJP
G05D 23/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
F25D11/00 101W
F25D29/00 A
F25D23/00 301B
F25B21/02 T
G05D23/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107311
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】504044540
【氏名又は名称】東邦ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】中田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 照顕
【テーマコード(参考)】
3L045
3L345
5H323
【Fターム(参考)】
3L045AA02
3L045AA05
3L045BA01
3L045CA02
3L045DA04
3L045LA05
3L045LA15
3L045MA02
3L045MA04
3L045MA05
3L045NA09
3L345AA02
3L345AA16
3L345AA26
3L345DD64
3L345EE04
3L345EE05
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3L345EE53
3L345FF04
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3L345FF32
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3L345HH42
3L345JJ16
3L345JJ28
3L345KK01
3L345KK02
3L345KK03
3L345KK04
5H323AA18
5H323BB03
5H323CA04
5H323CA06
5H323CB12
5H323CB43
5H323DA01
5H323GG04
5H323GG09
5H323KK05
5H323LL22
(57)【要約】 (修正有)
【課題】外気温の変動の際に安定的な温度管理が可能な温調装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】筐体と、筐体内に納められ、温調対象を収納する、伝熱性の部分を含む収納容器と、収納容器と第1面において熱的に接続される上段ペルチェ素子、前記上段ペルチェ素子の第2面と第1面において熱的に接続される下段ペルチェ素子、及び前記下段ペルチェ素子の第2面と熱的に接続される放熱フィンと、を含む温調ユニットと、温調ユニットを制御する制御デバイスと、上段ペルチェ素子の第1面側及び下段ペルチェ素子の第1面側の各温度を測定する温度センサと、を具備し、制御デバイスが、上段ペルチェ素子の第1面側の温度を示す測定値が設定値になるように上段ペルチェ素子を制御する第1制御部と、下段ペルチェ素子の第1面の温度を示す測定値が所定の基準値になるように下段ペルチェ素子を制御する第2制御部とを含む温調装置。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内に納められ、温調対象を収納する、伝熱性の部分を含む収納容器と、
前記収納容器と第1面において熱的に接続される上段ペルチェ素子、前記上段ペルチェ素子の第2面と、第1面において熱的に接続される下段ペルチェ素子、及び前記下段ペルチェ素子の第2面と熱的に接続される放熱フィンと、を含む温調ユニットと、
前記温調ユニットを制御する制御デバイスと、
前記上段ペルチェ素子の第1面側及び前記下段ペルチェ素子の第1面側の各温度を測定する温度センサと、を具備し、
前記制御デバイスが、
前記上段ペルチェ素子の第1面側の温度を示す測定値が設定値になるように前記上段ペルチェ素子を制御する第1制御部と、
前記下段ペルチェ素子の第1面の温度を示す測定値が所定の基準値になるように前記下段ペルチェ素子を制御する第2制御部と、を含むこと、
を特徴とする温調装置。
【請求項2】
前記温度センサは、前記収納容器の庫内温度を更に測定し、
前記第1制御部は、前記収納容器の庫内温度及び前記上段ペルチェ素子の第1面側の温度を示す測定値の間の差分に応じて前記設定値を補正し、補正された設定値を用いて前記上段ペルチェ素子を制御すること、
を特徴とする請求項1に記載の温調装置。
【請求項3】
前記温度センサは、外気の温度を更に測定し、
前記第2制御部は、前記外気の温度の測定値に応じて前記基準値を補正し、前記補正された基準値を用いて前記下段ペルチェ素子を制御すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の温調装置。
【請求項4】
前記第1制御部及び前記第2制御部が、前記温調ユニットの駆動開始から所定の期間内に、前記上段ペルチェ素子及び前記下段ペルチェ素子の駆動電力を最大設定出力の所定割合に制限すること、
を特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の温調装置。
【請求項5】
前記制御デバイスが、複数のペルチェ素子を有する1以上の段について、駆動出力に応じて前記複数のペルチェ素子の中から駆動すべきペルチェ素子を選択すること、
を特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の温調装置。
【請求項6】
前記温調ユニットが、前記上段ペルチェ素子と前記下段ペルチェ素子との間に介在する熱導体を更に含むこと、
を特徴とする請求項5に記載の温調装置。
【請求項7】
前記温調ユニットが、第1面において前記上段ペルチェ素子と、第2面において前記下段ペルチェ素子と、それぞれ熱的に接続された1以上の中段ペルチェ素子を更に含み、
前記温度センサが、前記中段ペルチェ素子の第1面の温度を更に測定し、
前記第1制御部が、前記中段ペルチェ素子の第1面の温度を示す測定値が前記設定値より所定の温度差に到達するように前記中段ペルチェ素子を制御すること、
を特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の温調装置。
【請求項8】
バッテリー駆動時における自重が20kg以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の温調装置。
【請求項9】
前記温度センサの測定値を記録する温度ロガーを更に具備すること、
を特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の温調装置。
【請求項10】
外部機器と通信するための無線又は有線の通信手段を更に具備すること、
を特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の温調装置。
【請求項11】
筐体と、
前記筐体内に納められ、温調対象を収納し、伝熱性の部分を含む収納容器と、
前記収納容器と第1面において熱的に接続される上段ペルチェ素子、前記上段ペルチェ素子の第2面と、第1面において熱的に接続される下段ペルチェ素子、及び前記下段ペルチェ素子の第2面と熱的に接続される放熱フィンと、を含む温調ユニットと、
前記上段ペルチェ素子の第1面側及び前記下段ペルチェ素子の第1面側の各温度を測定する温度センサと、を具備する温調装置の制御デバイスに対して、
前記上段ペルチェ素子の第1面側の温度を示す測定値が設定値になるように前記上段ペルチェ素子を制御させる手順と、
前記下段ペルチェ素子の第1面の温度を示す測定値が所定の基準値になるように前記下段ペルチェ素子を制御させる手順と、
を実行させることを特徴とする温調装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は温調装置及びその制御方法に関し、特に、試料、医薬品などの温調対象を所定の温度範囲に維持するのに好適な温調装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルチェ素子は、吸熱面と排熱面とを備え、両面の間で温度差を得るように動作する。
市販のペルチェ素子を組み込んだ温冷庫は、ペルチェ素子を定格フルパワーで動作させた場合、外気温の影響を受け、庫内温度は、外気温から一定の温度(例えばマイナス20℃)ほど低い温度になる。なお、ペルチェ素子は印加電圧の極性を変えることで、一方の面で加熱と冷却を切り替えることができる。
以下の説明では、便宜上、温調対象を冷却することを想定した記述を行うこととする。
【0003】
温調対象を外気温に左右されずに冷却するためには、ペルチェ素子の数を増やして冷却能力を高めればよい。また、過剰な冷却能力を押さえて一定の温度制御を行うためには、温調対象の温度を基にフィードバック制御すればよい(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2019/187849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ペルチェ素子では、冷却のための駆動電力が熱となるため、温調対象から吸収した熱量に加えて、ペルチェ素子において発生した熱量をペルチェ素子から排熱する必要がある。例えば外気温が高くなる等して、冷却の目標値が冷却能力の限界に近づくと、ペルチェ素子への供給電力が増え、ペルチェ素子における発熱量も更に増えることから、ペルチェ素子はより多くの電力量を消費するようになる。
【0006】
更に、例えば外気温の変動に伴ってペルチェ素子の放熱側の温度が変化し、ペルチェ素子の吸熱側の温度が変動すると、温度制御のバランスが崩れ、ペルチェ素子の安定的な制御が困難になる。
【0007】
そこで、本発明は、高い冷却能力を保持するとともに、外気温と目標値との差が大きい場合でもペルチェ素子への給電量を抑え、外気温の変動の際に安定的な温度管理が可能な温調装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決すべく、本発明は、
筐体と、
前記筐体内に納められ、温調対象を収納する、伝熱性の部分を含む収納容器と、
前記収納容器と第1面において熱的に接続される上段ペルチェ素子、前記上段ペルチェ素子の第2面と第1面において熱的に接続される下段ペルチェ素子、及び前記下段ペルチェ素子の第2面と熱的に接続される放熱フィンと、を含む温調ユニットと、
前記温調ユニットを制御する制御デバイスと、
前記上段ペルチェ素子の第1面側及び前記下段ペルチェ素子の第1面側の各温度を測定する温度センサと、を具備し、
前記制御デバイスが、
前記上段ペルチェ素子の第1面側の温度を示す測定値が設定値になるように前記上段ペルチェ素子を制御する第1制御部と、
前記下段ペルチェ素子の第1面の温度を示す測定値が所定の基準値になるように前記下段ペルチェ素子を制御する第2制御部と、を含むこと、
を特徴とする温調装置
を提供する。
【0009】
本発明の温調装置では、前記温度センサは、前記収納容器の庫内温度を更に測定し、前記第1制御部は、前記収納容器の庫内温度及び前記上段ペルチェ素子の第1面側の温度を示す測定値の間の差分に応じて前記設定値を補正し、補正された設定値を用いて前記上段ペルチェ素子を制御すること、が好ましい。ここで、収納容器の庫内温度とは、収納容器内の温度を推認させあるいは収納容器内の温度の指標となる温度であり、庫内に配置された温度センサにより直接的に測定されてもよいし、例えば、収納容器において温調ユニットとは反対側に位置する外周面に配置された温度センサによって間接的に測定されてもよい。
【0010】
また、本発明の温調装置では、前記温度センサは、外気の温度を更に測定し、前記第2制御部は、前記外気の温度の測定値に応じて前記基準値を補正し、前記補正された基準値を用いて前記下段ペルチェ素子を制御すること、が好ましい。
【0011】
また、本発明の温調装置では、前記第1制御部及び前記第2制御部が、前記温調ユニットの駆動開始から所定の期間内に、前記上段ペルチェ素子及び前記下段ペルチェ素子の駆動電力を最大設定出力の所定割合に制限すること、が好ましい。
【0012】
また、本発明の温調装置では、前記制御デバイスが、複数のペルチェ素子を有する1以上の段について、駆動出力に応じて前記複数のペルチェ素子の中から駆動すべきペルチェ素子を選択すること、が好ましい。
【0013】
また、本発明の温調装置では、前記温調ユニットが、前記上段ペルチェ素子と前記下段ペルチェ素子との間に介在する熱導体を更に含むこと、が好ましい。
【0014】
また、本発明の温調装置では、前記温調ユニットが、第1面において前記上段ペルチェ素子と、第2面において前記下段ペルチェ素子と、それぞれ熱的に接続された1以上の中段ペルチェ素子を更に含み、前記温度センサが、前記中段ペルチェ素子の第1面の温度を更に測定し、前記第1制御部が、前記中段ペルチェ素子の第1面の温度を示す測定値が前記設定値より所定の温度差に到達するように前記中段ペルチェ素子を制御すること、が好ましい。
【0015】
また、本発明の温調装置では、バッテリー駆動時における自重が20kg以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の温調装置は、前記温度センサの測定値を記録する温度ロガーを更に具備することが好ましい。
【0017】
また、本発明の温調装置は、外部機器と通信するための無線又は有線の通信手段を更に具備することが好ましい。
【0018】
また、本発明は、
筐体と、
前記筐体内に納められ、温調対象を収納し、伝熱性の部分を含む収納容器と、
前記収納容器と第1面において熱的に接続される上段ペルチェ素子、前記上段ペルチェ素子の第2面と、第1面において熱的に接続される下段ペルチェ素子、及び前記下段ペルチェ素子の第2面と熱的に接続される放熱フィンと、を含む温調ユニットと、
前記上段ペルチェ素子の第1面側及び前記下段ペルチェ素子の第1面側の各温度を測定する温度センサと、を具備する温調装置の制御デバイスに対して、
前記上段ペルチェ素子の第1面側の温度を示す測定値が設定値になるように前記上段ペルチェ素子を制御させる手順と、
前記下段ペルチェ素子の第1面の温度を示す測定値が所定の基準値になるように前記下段ペルチェ素子を制御させる手順と、
を実行させることを特徴とする温調装置の制御方法をも提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の温調装置及び制御方法によれば、ペルチェ素子を複数段とし、放熱フィン側の段のペルチェ素子を庫内温度の目標値とは別の基準値に追従するように制御することで、外気温と目標値との差が大きい場合でも、温調ユニットの消費電力を下げつつ、精密な温度制御を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る温調装置1の外観を示す斜視図である。
【
図2】蓋11を開いた状態の温調装置1の斜視図である。
【
図5】温調ユニット30の概略を示す斜視図、側面図及び分解図である。
【
図6】温度調節機能の概略を示すブロック図である。
【
図7】稼働素子数制御の概略を示すブロック図である。
【
図8】温調装置1の最小負荷時動作の概略を示すブロック図である。
【
図9】温調装置1の中負荷時動作の概略を示すブロック図である。
【
図10】温調装置1の最大負荷時動作の概略を示すブロック図である。
【
図11】温調装置1の起動時動作の概略を示すブロック図である。
【
図12】上段及び中段ペルチェ素子31,32の動作を示すフローチャート1である。
【
図13】上段及び中段ペルチェ素子31,32の動作を示すフローチャート2である。
【
図14】下段ペルチェ素子33の動作を示すフローチャートである。
【
図15】外気温度の変化に伴う庫内温度の変化の一例を示すグラフである。
【
図16】本実施形態の変形例1における温調ユニット130の概略を示す斜視図、側面図及び分解図である。
【
図17】本実施形態の変形例2における温調ユニット230の概略を示す斜視図、側面図及び分解図である。
【
図18】本実施形態の変形例3における温調ユニット330の概略を示す斜視図、側面図及び分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る温調装置及びその制御方法の代表的な実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために、必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合もある。
【0022】
1.温調装置1の概略
温調装置1は、試料、医薬品(バイオ製剤及び血液製剤を含む)などの温調対象を予め設定された温度範囲に維持しながら搬送することに好適に使用される。ただし、本発明は、搬送を伴う温調装置に限られない。以下、温調装置1が温調対象を設定値にまで冷却することを想定して説明を行うが、温調装置1は温調対象を設定値まで加温してもよい。
【0023】
温調装置1は、筐体10、伝熱性の収納容器20、温調ユニット30、制御デバイス50及び温度センサ41~46を含んで構成されている。温調装置1には、人手による搬送のためにベルト(図示せず)を装着可能である。温調装置1は、バッテリー駆動時において自重が例えば14kg~20kgであって、人手で搬送可能であることが好ましい。
【0024】
図1に示すように、筐体10は、全体として箱型を呈する。筐体10は、収納容器20、温調ユニット30、制御デバイス50、温度センサ41~46及びその他の構成部品を収納する。
図2に示すように、筐体10は、収納容器20を収納するために上方に向かって開口しており、断熱性の蓋11によって開閉自在に閉塞される。蓋11の内面側には、伝熱性に優れた金属製の伝熱板12が取り付けられ、蓋11を閉じた時に、収納空間Sが伝熱体で覆われるように構成されている。
【0025】
筐体10及び蓋11は、例えばポリプロピレンやABS樹脂などの合成樹脂、あるいは金属で作製されてよい。筐体10及び蓋11の内部には、例えば注入硬質発泡ウレタン、真空断熱材、発砲スチロール、あるいはそれらの組合せで形成される断熱材13,14が充填されている。
【0026】
図3に示すように、収納容器20は、筐体10の内側に装着され、温調対象の収納空間Sを形成する。収納容器20は、上方に向かって開口し、蓋11によって開閉自在に閉塞される。収納容器20は、全体として又は部分的に、例えばアルミニウム等の伝熱性を有する金属で作製されてよい。あるいは、収納容器20とは別体で伝熱性の部材を設けることも可能である。また、収納空間Sは、仕切り板21によって仕切られてもよい。
【0027】
温調ユニット30は、収納容器20の外面に接触して収納空間S内の温度(すなわち庫内温度)を、所定の許容範囲の下で、予め設定された目標値(すなわち設定値)に維持する。
図4に模式的に示すように、温調ユニット30は、複数段からなるペルチェ素子31~33、熱導体34~36、放熱フィン37、及び、放熱フィン37に冷却用空気を送風するファン(図示せず)を含んで構成される。
【0028】
図5に示すように、温調ユニット30は、上段ペルチェ素子31、中段ペルチェ素子32及び下段ペルチェ素子33の三段構成である。上段ペルチェ素子31、中段ペルチェ素子32及び下段ペルチェ素子33はそれぞれ、略平板状で、互いに略平行で対向する上面及び下面(第1面及び第2面)を有している。追って詳細に説明するが、上段ペルチェ素子31と中段ペルチェ素子32の間、及び、中段ペルチェ素子32と下段ペルチェ素子33の間に、それぞれ熱導体34,35が介在している。熱導体36は、上段ペルチェ素子31と収納容器20との間に配置され、これらの間を熱的に接続している。
【0029】
ここで、上段ペルチェ素子31及び中段ペルチェ素子32の役割は収納容器20の庫内温度の調節である。下段ペルチェ素子33の役割は上段ペルチェ素子31及び中段ペルチェ素子32の放熱側をある一定の温度に保つことである。
【0030】
ペルチェ素子31~33は板状の半導体熱電素子である。ペルチェ素子31~33の吸熱側及び放熱側の面の面積をS1,S2,S3とすれば、S1≦S2<S3である。本実施形態では、S1:S2:S3=1:2:4である。
【0031】
ペルチェ素子31~33は、制御の容易性及び製造コストの観点から、実質的に同じ寸法及び同じ性能のペルチェモジュールを1枚又は複数枚含んでいる。
図5の例では、上段ペルチェ素子31は1枚のペルチェモジュールから、中段ペルチェ素子32は2枚のペルチェモジュールから、下段ペルチェ素子33は4枚のペルチェモジュールから、それぞれ構成されている。
【0032】
温調ユニット30の動作は制御デバイス50によって制御される。すなわち、制御デバイス50は、温調装置1における所定の部位に設置された温度センサ41~46の検出信号に基づいて、収納容器20の庫内温度が設定値の許容範囲内に収まるように、温調ユニット30を制御する。
【0033】
制御デバイス50は、第1制御部51、第2制御部52、設定部53及び補正部54の各機能を備えている。ただし、第1制御部51、第2制御部52、設定部53及び補正部54の区分けは便宜的なものであり、ある機能部(例えば第1制御部51)が他の機能部(例えば第2制御部52)の機能を実行してもよいものとする。
【0034】
第1制御部51は、所定の制御フロー(
図12及び
図13参照)にしたがって上段ペルチェ素子31及び中段ペルチェ素子32に供給する電力を調整する。第2制御部52は、所定の制御フロー(
図14参照)にしたがって下段ペルチェ素子33に供給する電力を調整する。第1制御部51及び第2制御部52による制御の詳細は追って述べる。
【0035】
設定部53は、ユーザ入力に基づいて又は温調対象に応じて自動的に、庫内温度の目標値である設定値を設定する。また、設定部53は、設定値に基づいて、上段ペルチェ素子31の吸熱側の温度の目標値である上段目標値を設定する。上段目標値は設定値と同じでもよいし、設定値よりも低く設定されてもよい。更に、設定部53は、中段ペルチェ素子31の吸熱側の温度の目標値である中段目標値を設定する。中段目標値は上段目標値よりも所定の温度だけ低く設定される。設定部53は、下段ペルチェ素子33の吸熱側の温度の目標値である基準値を設定する。基準値は、ある一定の値に設定される。設定部53による処理の詳細は追って述べる。
【0036】
補正部54は、所定の条件の下で、設定値及び基準値を補正する。補正部54は、上段目標値を補正してもよい。補正部54による処理の詳細は追って述べる。
【0037】
本実施形態では、温調ユニット30の制御のために様々な温度センサが利用されている。代表的な温度センサとしては、収納容器20の庫内温度を計測して測定値Txを出力する温度センサ43、熱導体34,35の温度を計測して測定値Tcp2,Tcp3を出力する温度センサ42,44、熱導体36の温度を計測して測定値Tcp1を出力する温度センサ45、放熱フィン37の温度を計測して計測値Thを出力する温度センサ41、及び、外気の温度を測定して計測値Taを出力する温度センサ46がある(
図4参照)。ここで、温度センサ43は庫内温度を直接的に測定する必要はなく、収納容器20の特定の外面(例えば、温調ユニット30とは反対側に位置する外周面)の温度を、庫内温度を推認させないしは指標する温度として間接的に計測してもよい。温度センサ41~46として、サーミスタ及び半導体センサを好適に利用できるが、これらに限られるものではない。
【0038】
これら温度センサ41~46によって検出された温度データは表示装置63に表示されるとともに、サンプリング時刻とともに記憶装置62に記録される。すなわち、記憶装置62は温度ロガーとして機能する。記憶装置62には更に、温調装置1の各種設定及び制御プログラムが記憶される。表示装置63は、例えばタッチパネルスクリーンを備えることで入力装置を兼ねてもよい。
【0039】
温調装置1は、温調ユニット30等の構成要素に電力を供給するための電源63を有している。電源63としては、リチウムイオン二次電池などの内蔵バッテリーでもよいし、商用電源等の外部電源でもよい。温調装置1は、温調対象の搬送中は、内蔵バッテリーからの給電によって温調ユニット30を駆動させ、また、病院等の搬送先では、外部電源から温調ユニット30に給電しながら、内蔵バッテリーを充電することができる。
【0040】
更に、温調装置1は、外部機器と通信するための無線又は有線の通信手段として通信装置64を有している(
図4参照)。例えば、無線の通信部64は、無線PAN(Personal Area Network)、無線LAN(Local Area Network)、無線MAN(Metropolitan Area Network)又は無線WAN(Wide Area Network)に属する各種規格にしたがった通信モジュールを含んでいる。また、有線の通信部64は、Ethernetなどの規格にしたがった通信モジュールを含んでいる。したがって、温調装置1は、例えば、収集した温度データを外部サーバに送信することができ、また、外部コンピュータからの指示等を受信することができる。
【0041】
2.温調ユニット30の動作及び制御手法
2-1.基本動作
上段ペルチェ素子31は、収納容器20の庫内温度を設定値に近付けるべく、熱導体36を介して収納容器20から吸熱し、吸熱した熱を上段ペルチェ素子31の駆動に伴う熱と共に中段側の熱導体34に排熱する。また、中段ペルチェ素子32は、上段側の熱導体34から吸熱し、吸熱した熱を中段ペルチェ素子32の駆動に伴う熱と共に、下段側の熱導体35に排熱する。
【0042】
下段ペルチェ素子33は、中段ペルチェ素子32の排熱側の温度を基準値に保つべく、中段側の熱導体35から吸熱し(すなわち、上段及び中段ペルチェ素子31,32から排出される熱量を吸収し)、吸熱した熱を下段ペルチェ素子33の駆動に伴う熱と共に、フィンに排熱する。換言すると、下段ペルチェ素子33は、上段及び中段ペルチェ素子31,32の排熱側の温度を安定化させている。これにより、上段及び中段ペルチェ素子31,32は、温調対象からの吸熱量、自己の発熱量や外部環境の温度及び温度変化の影響をキャンセルできる。
【0043】
一例を挙げると、庫内温度の目標値である設定値は、プラス40~マイナス40℃の点に設定され、±2℃の誤差が許容されてよい。上段ペルチェ素子31の目標値(以下、上段目標値という。)は、設定値に基づいて設定される(
図6参照)。例えば、上段目標値は、設定値から所定の温度(例えば0℃~5℃)だけ低く(又は高く)設定されてよい。
【0044】
上段目標値は、上段ペルチェ素子31の吸熱側すなわち熱導体36の温度の測定値Tcp1と庫内温度の測定値Txとの温度差に基づいて補正されてもよい。例えば、上段目標値の補正は、庫内温度と設定温度の差分を目標値に加算又は減算することで行われる。
【0045】
中段ペルチェ素子32に対しては、上段目標値に一定の温度差をつけて同期する目標値(以下、中段目標値という。)が設定される。設定される温度差としては、例えば5℃~30℃である。
【0046】
下段ペルチェ素子33の基準値は、設定値、上段目標値及び中段目標値とは別に設定される。基準値は、結露の防止の観点から、例えば+5℃に設定され、±1℃の誤差が許容されてもよい。下段ペルチェ素子33は、吸熱側の熱導体35の温度の測定値Tcp3が基準値に近付くように制御される。
【0047】
基準値は、外気温度の測定値Taに基づいて補正されてもよい。例えば、基準値の補正は、外気温度により一定の係数を掛けることで行われる。
【0048】
2-2.熱導体
上述したとおり、上段、中段及び下段ペルチェ素子31~33の間には、熱導体34,35が配置されている。熱導体34,35は、アルミニウム合金などの金属材料で作製された板体であり、熱導体34,35のそれぞれに温度センサ42,44が取り付けられている。熱導体34,35は、上段、中段及び下段ペルチェ素子31~33を一定の距離だけ離間させることで、直接ペルチェ素子を重ねた状態で駆動する場合に起こり得る、輻射熱等による熱の戻りを抑制し、上段、中段及び下段ペルチェ素子31~33の間に十分な温度差を与える。つまり、熱導体34,35は、熱の逆流を抑制し、熱を所望の方向に整流する作用がある。
【0049】
ただし、熱導体34,35の厚みが大き過ぎると、熱導体34,35の容積(つまり熱容量)が大きくなり、熱導体34,35を冷却するために要するエネルギーが増える。また、上段及び下段目標値への到達時間が長くなり、温度制御に対するペルチェ素子の応答速度が低下する。上段及び下段目標値への到達後の温度安定性をも考慮し、熱導体34,35の厚みは、好ましくは3~8mmであり、より好ましくは4~6mmである。
【0050】
2-3.制御手法
上段ペルチェ素子31の温度制御には、例えば、PID制御をベースとした制御手法が用いられる。ただし、PID制御では、オーバーシュートの抑制のために上段目標値への到達の前から緩やかに温度調整を行うため、上段目標値への到達に時間がかかる。
【0051】
そこで、本実施形態では、庫内温度の測定値Txと熱導体36の温度の測定値Tcp1との差が所定範囲(例えば-5℃~+5℃)内である場合には、上段目標値を例えば「上段目標値-4℃」に補正することで、上段目標値までの到達時間を短縮している。上記の温度差が更に小さくなり例えば-3℃~+3℃ほどになると、上段目標値の補正を終了させ、元の目標値に戻す。これにより、オーバーシュートを抑制しつつ上段目標値への敏速な到達が可能となる。
【0052】
中段ペルチェ素子32の温度制御は、上段ペルチェ素子31の温度制御と同期させて行うこととする。ただし、中段目標値は、上段目標値よりもある一定の温度だけ低く(又は高く)設定される。
【0053】
下段ペルチェ素子33の温度制御には、PID制御をベースとした制御手法が用いられ、基準値を目標とした制御が行われる。ただし、吸熱側の負荷の増大による熱の流入の増大や外部環境温度の変化(例えば外気温の急激な上昇又は下降)による影響を抑制するべく、外気温に基づいて基準値に補正を掛け、熱導体44の温度の基準値からの逸脱を抑制している。なお、外気温の測定値Taが基準値を下回った場合には、下段ペルチェ素子33の電源の極性を切り替え、下段ペルチェ素子33の中段側の面を加温する。
【0054】
このように、下段ペルチェ素子33は、その吸熱側(中段側)において、排熱側(放熱フィン37側)での広範囲の温度環境に対応して安定した温度を提供するように制御される。このため、上段及び中段ペルチェ素子31,32に対して一定の温度を基準とした精密な温度制御が可能となる。
【0055】
2-4.中段及び下段ペルチェ素子32,33の駆動数の決定
上述のとおり、中段及び下段ペルチェ素子32,33は、それぞれ複数のペルチェモジュールを含んでいる。本実施形態では、中段ペルチェ素子33は2個のペルチェモジュールを、下段ペルチェ素子34は4個のペルチェモジュールを含んでいる(
図5参照)。
【0056】
中段及び下段ペルチェ素子32,33の消費電力を抑制する観点から、中段及び下段ペルチェ素子32,33の吸熱側と排熱側の温度差(例えば、測定値Tcp2及びTcp3の差、及び、測定値Tcp3及びThの差)に基づき、中段及び下段に含まれるペルチェモジュールの駆動数を変更する(
図7参照)。つまり、かかる温度差から導かれる中段及び下段ペルチェ素子32,33への給電量すなわち駆動電力が、中段及び下段ペルチェ素子32,33に供給可能な最大電力(最大設定出力)に対してどの程度の割合であるのか(つまりどの程度の余裕があるか)を評価し、評価結果に応じて中段及び下段におけるペルチェモジュールの駆動数を決定するのである。
【0057】
図8~
図10に一例を示すように、最小負荷、中負荷及び最大負荷といった負荷の程度に応じ、次のように中段及び下段のペルチェモジュールの駆動数を決定する。
-中段におけるペルチェモジュールの駆動数
温度差 駆動数
35℃以上 1
35℃未満 2
-下段におけるペルチェモジュールの駆動数
温度差 駆動数
45℃以上 1
40℃以上 2
35℃以上 3
35℃未満 4
【0058】
この点、中段及び下段ペルチェ素子32,33の駆動電力を一律に増加又は減少させることによる温調ユニット30の制御手法は、低電力駆動中のペルチェモジュールに一定の発熱が生じることからすれば、駆動電力の充分な低下を期待できない。
【0059】
2-5.起動時の省電力モード
例えば、室内に置かれた温調装置1に対して電源が投入された直後の場面を考える。収納容器20は冷却(又は加温)されておらず、庫内温度は室内温度と同じである。この状態において温調をスタートすると、温調装置は、各段のペルチェ素子はフルパワーで動作を始めるかもしれない。
【0060】
一般に、ペルチェ素子は、フルパワーの投入時には十分な冷却能力を示さず、発熱量が比較的多い駆動状態となる傾向にある。換言すれば、この状態のペルチェ素子のエネルギー効率は悪い。
【0061】
したがって、本実施形態では、スタート時限信号の出力から一定時間の間、温調ユニット30への投入電力を供給可能な最大電力の一定割合に制限する(
図11参照)。この状態での運転により、温調ユニット30の消費電力を抑制している。一例として、かかる運転モードの継続時間は1分間であるが、これに限られない。また、上限とする投入出力は、例えば、最大電力の60%~85%であるが、これに限られない。
【0062】
3.温調装置1の動作
温調装置1の動作を、特に温調ユニット30の温度管理の観点から説明する。かかる温度管理は主に制御デバイス50において実行される。
【0063】
以下の例では、上段及び中段ペルチェ素子31,32の温度管理が1つの制御フローの下で実行され、下段ペルチェ素子33の温度管理が別の制御フローの下で実行されるが、本発明はこれに限られるものではない。
【0064】
3-1.上段及び中段の温度管理
図12及び
図13を参照して、上段及び中段ペルチェ素子31,32の温度管理を説明する。
【0065】
電源が投入されると、上段及び中段ペルチェ素子31,32の温度管理が開始する。このとき、スタート時限信号が出力される。
【0066】
ステップS11において、電源投入又はスタート時限信号の出力から所定の時間(例えば1分)が経過しているかどうかを判定する。もし所定の時間が未経過であれば、ステップS12において上段及び中段ペルチェ素子31,32の駆動出力の上限を供給可能な最大電力の所定割合に制限し、そうでなければ次のステップS13に進む。
【0067】
ステップS13では、設定値が自動で又はユーザ入力に基づいて設定されるとともに、上段目標値が設定値に基づいて算出される。上段目標値は、例えば、設定値から所定の温度だけ低く(又は高く)設定される。そして、ステップS14において、上段ペルチェ素子31が、上段目標値を目指して例えばPID制御により制御される。
【0068】
ステップS15において、上段目標値に応じた中段目標値が設定される。中段目標値は、上段目標値よりも所定の値だけ低く設定される。
【0069】
次いで、ステップS16において、加熱モードの可否を判定する。判定条件は、例えば、外気温の測定値Taが設定値以下であるかどうかである。外気温が設定値以下である場合、収納容器20の庫内温度を上げる必要がある。
【0070】
加熱モードにすべきと判定されると、ステップS17において中段ペルチェ素子32への給電を中止し、ステップS18において上段ペルチェ素子31の出力を制限し、更にステップS19において上段ペルチェ素子31への印加電圧の極性を反転させる。これにより、上段ペルチェ素子31は収納容器20を加温する。そして、手順はステップS23に進む。
【0071】
あるいは、ステップS16において加熱モードにすべきでないと判定されると、ステップS20において中段ペルチェ素子32の両側の温度差(Tcp2-Tcp3)を取得する。この温度差が所定値(例えば35℃)未満であれば、ステップS21において、中段ペルチェ素子32を構成する2個のペルチェモジュールを両方とも動作させる。あるいは、温度差が所定値(例えば35℃)以上であれば、消費電力の抑制のため、ステップS22において、中段ペルチェ素子32における2個のペルチェモジュールのうち1個のみを動作させる。なお、ステップS21をデフォルトに設定してもよい。
【0072】
次いで、ステップS23において、上段目標値の安定判定を行う。
【0073】
デフォルトではステップS24に進み、上段ペルチェ素子31の吸熱側の温度の測定値Tcp1が上段目標値の所定の許容範囲(例えば±2℃)内に収まっているかどうかを判定する。そして、測定値Tcp1が上段目標値の許容範囲にあると判定されると、ステップS25に進み、測定値Tcp1が上段目標値の許容範囲を維持している時間、すなわち継続時間を計測する。
【0074】
そして、ステップS26において、継続時間が所定の規定値(例えば20分)を満たすかどうかを判定する。継続時間が規定値を満たすと判定されると、ステップS27において上段目標値が達成されているものと評価する。そうでない場合には、ステップS28において継続時間の計測をリセットする。
【0075】
なお、ステップS24において測定値Tcp1が上段目標値の許容範囲にないと判定されると、追って述べるステップS35に進む。
【0076】
あるいは、ステップS23において安定でないと判定されると、ステップS29に進んで上段目標値を補正する。
【0077】
次いで、ステップS30において、収納容器20の庫内温度の測定値Txが設定値の許容範囲(例えば±2℃)内であるかどうかを判定する。測定値Txが設定値の許容範囲内であると判定されると、ステップS31において、その状態の継続時間を計測する。
【0078】
そして、ステップS32において、計測した継続時間が所定の規定値(例えば20分)を満たすかどうかを判定する。継続時間が規定値を満たすと判定されると、ステップS33において庫内温度が安定しているものと判定し、そうでない場合には、ステップS34において継続時間の計測をリセットする。そして、ステップS35に進む。
【0079】
あるいは、ステップS30において測定値Txが設定値の許容範囲にないと判定されると、ステップS31~S34を経ずにステップS35へ進む。
【0080】
ステップS35において、上段ペルチェ素子31の吸熱側の温度の測定値Tcp1及び庫内温度の測定値Txが安定しているかどうかを判定する。上段ペルチェ素子31の温度及び庫内温度が安定していると判定されると、ステップS36において収納容器20の庫内が設定値に到達していると判断し、そうでない場合には、ステップS37において収納容器20の庫内が設定値に未到達であると判断して、一連の手順を終了する。
上記処理は所定の周期(例えば0.5秒)で繰り返し実行される。
【0081】
3-2.下段の温度管理
図14を参照して、下段ペルチェ素子33の温度管理を説明する。
電源が投入されると、下段ペルチェ素子33の温度管理が開始する。下段ペルチェ素子33の温度制御は、他段の温度制御と同期して開始することとする。
【0082】
ステップS51において、電源投入又はスタート時限信号の出力から所定の時間(例えば1分)が経過しているかどうかを判定する。もし所定の時間が未経過であれば、ステップS52において、駆動出力の上限を下段ペルチェ素子33へ供給可能な最大電力の所定割合に制限し、次のステップS53に進む。
【0083】
ステップS53において、下段ペルチェ素子33の温度目標である基準値を外気温の測定値Taに基づいて補正する。基準値は、上段及び中段目標値よりも高い又は低い温度に予め設定されている。そして、ステップS54において、基準値を目指して下段ペルチェ素子33を例えばPID制御により制御する。
【0084】
次いで、ステップS55において、加熱モードの可否を判定する。判定条件は、例えば、外気温の測定値Taが基準値(例えば5℃)以下であるかどうかである。下段ペルチェ素子33の主な役割が上段及び中段ペルチェ素子31,32の排熱側の温度を一定に維持することにあるからすれば、外気温が基準値以下である場合、上段及び中段ペルチェ素子31,32の排熱側の温度を上げる必要がある。
【0085】
加熱モードにすべきと判定されると、ステップS56において下段ペルチェ素子33の制御を停止し、ステップS62に進む。そうでない場合には、ステップS57において、下段ペルチェ素子33の両側の温度の測定値の差(Th-Tcp3)を取得し、その温度差に応じて処理をステップS58~S61に分岐させる。
【0086】
すなわち、温度差が例えば35℃未満であれば、ステップS58において、下段ペルチェ素子33中の4個のペルチェモジュールを全て動作させる(
図10参照)。このステップが最大負荷時の処理である。
あるいは、温度差が例えば35℃以上であれば、ステップS59において、3個のペルチェモジュールを動作させ、残りの1個を動作させない。あるいは、温度差が例えば40以上であれば、ステップS60において、2個のペルチェモジュールを動作させ、残りの2個を動作させない(
図9参照)。これらステップが中負荷時の処理である。
あるいは、温度差が例えば45℃以上であれば、ステップS61において、1個のペルチェモジュールのみを動作させ、残りの3個を動作させない(
図8参照)。このステップが最小負荷時の処理である。
【0087】
次いで、ステップS62において、下段ペルチェ素子33の基準値の許容範囲(例えば±0.5℃)内に収まっているかどうかを判定する。この許容範囲にあると判定されると、ステップS63において、この状態の継続時間を計測する。
【0088】
そして、ステップS64において、継続時間が所定の規定値(例えば20分)を満たすかどうかを判定する。継続時間が規定値を満たすと判定されると、ステップS65において下段ペルチェ素子33が安定しているものと評価し、そうでない場合には、ステップS66において継続時間計測をリセットする。そして、一連の処理を終了する。
【0089】
あるいは、ステップS62において下段ペルチェ素子33が基準値の許容範囲内に収まっていないと判定されると、ステップS63~S66を経ずに一連の処理を終了する。
上記処理は所定の周期(例えば1秒)で繰り返し実行される。
【0090】
以上の処理の結果、
図15に例示するように、庫内温度よりも高い外気温が、更に急上昇したり、庫内温度よりも急に低下したりした場合、あるいは庫内温度よりも低い外気温が庫内温度よりも高く急上昇したりする場合に、庫内温度の変動を小幅に抑えることができる。
図15の例では、外気温が+15℃から-28℃まで変化しているにも関わらず、庫内温度を目標値である-16℃の±0.2℃の範囲に収めている。
【0091】
このような外気温の変化は、室内から屋外への移動又は屋外から室内への移動に伴う環境温度の急激な変化を模している。このことから、温調装置1は、室内から屋外への移動又は屋外から室内への移動に伴う環境温度の急激な変化の影響を極力抑制して、庫内温度を迅速に安定化することができる。
【0092】
4.本実施形態の効果
本実施形態では、温調ユニット30を複数段のペルチェ素子で構成し、各段に異なる役割を割り当てている。つまり、上段・中段ペルチェ素子31,32を各々の目標値へ追従させ、下段ペルチェ素子33を基準値へ追従させている。したがって、上段・中段ペルチェ素子31,32の排熱側の温度が安定し、その結果、庫内温度と上段及び中段目標値との差が安定する。これにより、上段・中段ペルチェ素子31,32の排熱側の温度が高くなりすぎず、十分な吸熱量を確保できるため、冷却能力が高く効率の良い温調ユニット30の駆動が可能となる。
【0093】
また、中段及び下段に含まれる複数のペルチェモジュールの駆動枚数を、中段及び下段への供給電力に応じて調整することで、温調ユニット30の駆動電力を抑制できる。
【0094】
各段のペルチェ素子31~33の間に、所定の厚みを有する熱伝体34,35を介在させることで、上段及び下段ペルチェ素子31,32において発熱側から吸熱側への熱戻りを抑制できる。したがって、各段のペルチェ素子31~33を効率よく利用することができる。
【0095】
また、温調装置1の電源投入時に温調ユニット30への給電量を制限することで、相対的に効率の低いフルパワーでの動作を避け、その結果として消費電力を抑制している。
【0096】
このように、比較的効率の高い動作条件の下で温調ユニット30を利用することで、省電力を確保しているのである。それゆえ、温調装置1は、内蔵バッテリーをより長い時間利用することができ、比較的長距離の搬送に対応することができる。
【0097】
更に、ペルチェ素子の複数段重ねにより、温調ユニット30の駆動に必要な電圧を抑えることができるため、内蔵バッテリーを小型化できる等、温調装置1の軽量化を実現できる。それにより持運び性が向上する。
【0098】
また、温調ユニット30を、高性能だが高価な専用モジュールではなく、安価な汎用のモジュールで構成できるので、製造コストを抑制することができる。
【0099】
5.本実施形態の変形例1~3
図16~
図18を参照して、本実施形態の変形例1~3に係る温調装置を説明する。これらの変形例に係る温調装置は、主として温調ユニット130,230及び330において本実施形態に係る温調装置1と相違している。したがって、以下、温調ユニット130,230及び330を中心に、変形例1~3を説明する。
【0100】
5-1.変形例1
変形例1において、温調ユニット130は、上段、中段及び下段ペルチェ素子131,132,133を含む。また、上段ペルチェ素子131と中段ペルチェ素子132の間、及び、中段ペルチェ素子132と下段ペルチェ素子133の間に、それぞれ熱導体134,135が介在し、各段のペルチェ素子を熱的に接続している。また、上段ペルチェ素子131の吸熱側にも熱導体136が配置され、収納容器(図示せず)と上段ペルチェ素子131とを熱的に接続している。下段ペルチェ素子133の排熱側には放熱フィン137が取り付けられている。
【0101】
上段、中段及び下段ペルチェ素子131,132,133を構成するペルチェモジュールの枚数は、それぞれ、1枚、1枚、2枚である。下段のモジュール枚数を上段及び中段のモジュール枚数よりも増やすことで、上段及び中段ペルチェ素子131,132からの排熱を充分に下段ペルチェ素子133で吸熱できる。したがって、外気温の変化に関わらず、上段及び中段ペルチェ素子131,132の排熱側の温度を安定させることができ、効率的な温調ユニット130を構築することが可能となる。
【0102】
5-2.変形例2
変形例2では、温調ユニット230は、上段、中段及び下段ペルチェ素子231,232,233を含む。また、上段ペルチェ素子231と中段ペルチェ素子232の間、及び、中段ペルチェ素子232と下段ペルチェ素子233の間に、それぞれ熱導体234,235が介在し、各段のペルチェ素子を熱的に接続している。また、上段ペルチェ素子231の吸熱側にも熱導体236が配置され、収納容器(図示せず)と上段ペルチェ素子231とを熱的に接続している。下段ペルチェ素子233の排熱側には放熱フィン237が取り付けられている。
【0103】
上段、中段及び下段ペルチェ素子231,232,233を構成するペルチェモジュールの枚数は、それぞれ、2枚、2枚、4枚である。下段のモジュール枚数を上段及び中段のモジュール枚数よりも増やすことで、上段及び中段ペルチェ素子231,232からの排熱を充分に下段ペルチェ素子233で吸熱できる。したがって、外気温の変化に関わらず、上段及び中段ペルチェ素子231,232の排熱側の温度を安定させることができ、効率的な温調ユニット230を構築することが可能となる。
【0104】
変形例2における温調ユニット230は、変形例1における温調ユニット130と比較して、各段につき2倍の枚数のモジュールを含んでいる。したがって、変形例2における温調ユニット230は、変形例1における温調ユニット130よりも高い冷却性能を有する。
【0105】
5-3.変形例3
変形例3では、温調ユニット330は、上段、中段及び下段ペルチェ素子331,332,333を含む。また、上段ペルチェ素子331と中段ペルチェ素子332の間、及び、中段ペルチェ素子332と下段ペルチェ素子333の間に、それぞれ熱導体334,335が介在し、各段のペルチェ素子を熱的に接続している。また、上段ペルチェ素子331の吸熱側にも熱導体336が配置され、収納容器(図示せず)と上段ペルチェ素子331とを熱的に接続している。下段ペルチェ素子333の排熱側には放熱フィン337が取り付けられている。
【0106】
上段、中段及び下段ペルチェ素子331,332,333を構成するペルチェモジュールの枚数は、それぞれ、1枚、1枚、4枚である。下段のモジュール枚数を上段及び中段のモジュール枚数よりも増やすことで、上段及び中段ペルチェ素子331,332からの排熱を充分に下段ペルチェ素子333で吸熱できる。したがって、外気温の変化に関わらず、上段及び中段ペルチェ素子331,332の排熱側の温度を安定させることができ、効率的な温調ユニット330を構築することが可能となる。
【0107】
変形例3における温調ユニット330は、変形例1,2における温調ユニット130,230と比較して、上段及び中段のモジュール数に対する下段のモジュール数が2倍である。したがって、変形例3における温調ユニット330は、変形例1,2における温調ユニット130,230よりも外部環境の温度変化から影響を受けにくく安定であると考えられる。
【0108】
以上、本発明の代表的な実施形態及び変形例について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、かかる設計変更後の態様(変形例)も本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。
【0109】
例えば、温調ユニットは、上段、中段及び下段ペルチェ素子からなる構成に限られず、上段及び下段ペルチェ素子で構成することができるし、4段以上のペルチェ素子で構成することも可能である。
【0110】
また、上段、中段及び下段ペルチェ素子31~33は、それぞれ1枚のペルチェモジュールで構成されてもよい。
【符号の説明】
【0111】
1 温調装置
10 筐体
20 収納容器
30,130,230,330 温調ユニット
31,131,231,331 上段ペルチェ素子
32,132,232,332 中段ペルチェ素子
33,133,233,333 下段ペルチェ素子
34~36,134~136,234~236,334~336 熱導体
37,137,237,337 放熱フィン
41~46 温度センサ
50 制御デバイス