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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005424
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】光学ガラスおよび光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/078 20060101AFI20230111BHJP
   C03C 3/064 20060101ALI20230111BHJP
   C03C 3/089 20060101ALI20230111BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20230111BHJP
   C03C 3/062 20060101ALI20230111BHJP
   C03C 3/076 20060101ALI20230111BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C03C3/078
C03C3/064
C03C3/089
C03C3/097
C03C3/062
C03C3/076
G02B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107312
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】桑谷 俊伍
(72)【発明者】
【氏名】中塚 祐太郎
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA04
4G062BB01
4G062DA05
4G062DA06
4G062DB01
4G062DC01
4G062DC02
4G062DC03
4G062DD01
4G062DD02
4G062DD03
4G062DE01
4G062DF01
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4G062EA03
4G062EA04
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4G062EB04
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4G062EG02
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4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH02
4G062HH03
4G062HH05
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4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM02
4G062NN02
4G062NN29
4G062NN33
4G062NN34
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高屈折率高分散特性を備えつつ、比重が小さく均質性の良い光学ガラス、および前記光学ガラスからなる光学素子を提供する。
【解決手段】質量%表示で、SiOの含有量が20~51%、TiOの含有量が20~40%、NaOの含有量が5~28%、BaOの含有量が2.0%未満である光学ガラスとする。好ましくは、屈折率ndが1.67~1.77、アッベ数νdが26~33であり、さらに好ましくは、比重が3.40以下である光学ガラスである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%表示で、
SiOの含有量が20~51%、
TiOの含有量が20~40%、
NaOの含有量が5~28%、
BaOの含有量が2.0%未満、
LiO、NaO、KOおよびCsOの合計含有量(RO)が8~28%、
SiO、BおよびPの合計含有量(SiO+B+P)に対するSiOの含有量の質量比[SiO/(SiO+B+P)]が0.90以上、
Oに対するSiOの含有量の質量比[SiO/RO]が1.5~3.2、
TiOおよびNbの合計含有量(TiO+Nb)に対するSiOの含有量とROの合計(SiO+RO)の質量比[(SiO+RO)/(TiO+Nb)]が2.6以下、
TiO、NbおよびZrOの合計含有量(TiO+Nb+ZrO)に対するTiOの含有量の質量比[TiO/(TiO+Nb+ZrO)]が0.90以上、
MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量(R´O)に対するCaOおよびBaOの合計含有量(CaO+BaO)の質量比[(CaO+BaO)/R´O]が0.90以上、
Oに対するNaOおよびKOの合計含有量の質量比[(NaO+KO)/RO]が0.98以上、
NaO、KOおよびCaOの合計含有量に対するBaOの含有量の質量比[BaO/(NaO+KO+CaO)]が0.15以下、
TiOおよびNbの合計含有量に対するBaOの含有量の質量比[BaO/(TiO+Nb)]が0.12以下、
である光学ガラス。
【請求項2】
屈折率ndが1.67~1.77、アッベ数νdが26~33である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
比重が3.40以下である請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスおよび光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
高い屈折率とともに高分散特性(低アッベ数)を有する光学ガラスは、各種レンズなどの光学素子材料として需要が高い。例えば、高屈折率低分散性のレンズと組合せることにより、コンパクトで高機能な色収差補正用の光学系を構成することができる。さらに、高屈折率高分散特性のレンズの光学機能面を非球面化することにより、各種光学系の一層の高機能化、コンパクト化を図ることができる。
【0003】
ガラスのネットワーク形成成分であるSiOに、高屈折率高分散特性を付与するNbやTiOなどの成分を加えた高屈折率高分散光学ガラスが知られている。特許文献1~3には、このような高屈折率高分散光学ガラスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-097036号公報
【特許文献2】特表2016-521237号公報
【特許文献3】特開2018-168011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に開示された光学ガラスのように、SiO-Nb-TiO系でアルカリ金属成分の含有量が多いと、ガラス熔融中に熔融ガラスによって熔融槽を構成する煉瓦(耐火物)が侵蝕されることがある。この結果、ガラス中に耐火物由来の異物が混入し、ガラスを汚染することがある。また、熔融槽の寿命が短くなるという問題が生じる。
【0006】
ガラス中の異物は光の散乱源になり、光学ガラスとしての品質を低下させる。また、ガラスを加熱、軟化して成形する時に、異物が結晶析出の起点となり、ガラスが失透しやすくなる。
【0007】
また、SiO-Nb-TiO系の高屈折率高分散ガラスは、比較的多くのNbを含むため、比重が大きいという問題がある。特許文献3に開示された光学ガラスでは、Nbの含有量は低減されているがBaOの含有量が多いため、比重を十分に低減できていない。
【0008】
本発明は、上記問題を解決し、高屈折率高分散特性を備えつつ、比重が小さく、均質性の良い光学ガラス、ならびに前記光学ガラスからなる光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)質量%表示で、
SiOの含有量が20~51%、
TiOの含有量が20~40%、
NaOの含有量が5~28%、
BaOの含有量が2.0%未満、
LiO、NaO、KOおよびCsOの合計含有量(RO)が8~28%、
SiO、BおよびPの合計含有量(SiO+B+P)に対するSiOの含有量の質量比[SiO/(SiO+B+P)]が0.90以上、
Oに対するSiOの含有量の質量比[SiO/RO]が1.5~3.2、
TiOおよびNbの合計含有量(TiO+Nb)に対するSiOの含有量とROの合計(SiO+RO)の質量比[(SiO+RO)/(TiO+Nb)]が2.6以下、
TiO、NbおよびZrOの合計含有量(TiO+Nb+ZrO)に対するTiOの含有量の質量比[TiO/(TiO+Nb+ZrO)]が0.90以上、
MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量(R´O)に対するCaOおよびBaOの合計含有量(CaO+BaO)の質量比[(CaO+BaO)/R´O]が0.90以上、
Oに対するNaOおよびKOの合計含有量の質量比[(NaO+KO)/RO]が0.98以上、
NaO、KOおよびCaOの合計含有量に対するBaOの含有量の質量比[BaO/(NaO+KO+CaO)]が0.15以下、
TiOおよびNbの合計含有量に対するBaOの含有量の質量比[BaO/(TiO+Nb)]が0.12以下、
である光学ガラス。
【0010】
(2)屈折率ndが1.67~1.77、アッベ数νdが26~33である(1)に記載の光学ガラス。
【0011】
(3)比重が3.40以下である(1)または(2)に記載の光学ガラス。
【0012】
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、高屈折率高分散特性を備えつつ、比較的比重が小さく、均質性の良い光学ガラスを提供することができる。また、本発明の一態様によれば、前記光学ガラスからなる光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明および本明細書において、光学ガラスのガラス組成は、特記しない限り、酸化物基準で表示する。ここで「酸化物基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されて光学ガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいい、各ガラス成分の表記は慣習にならい、SiO、TiOなどと記載する。ガラス成分の含有量および合計含有量は、特記しない限り質量基準であり、「%」は「質量%」を意味する。
【0015】
ガラス成分の含有量は、公知の方法、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)等の方法で定量することができる。また、本明細書および本発明において、構成成分の含有量が0%とは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、該成分が不可避的不純物レベルで含まれることを許容する。
【0016】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0017】
本実施形態に係る光学ガラスは、SiO、TiO、NaOを必須成分として含む。
【0018】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、SiOの含有量は20~51%である。SiOの含有量の好ましい下限は25%、より好ましい下限は30%、更に好ましい下限は33%である。屈折率を維持する観点から、SiOの含有量の好ましい上限は50%、より好ましい上限は49%、更に好ましい上限は48%である。
【0019】
SiOは、ガラスネットワーク形成成分である。SiOの含有量が20%より少ないとガラスの熱的安定性が低下し、液相温度が上昇する。また、熔融時のガラスの粘性が低下し、熔融槽などを構成する煉瓦(耐火物)が侵蝕されやすくなる。SiOの含有量が51%よりも多いと屈折率ndが低下し、所要の光学特性を有するガラスを作ることが難しくなる。SiOの含有量を上記範囲とすることで、熱的安定性を維持し、耐火物の侵蝕を抑制できる。
【0020】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、TiOの含有量は20~40%である。TiOは高屈折率高分散特性を付与する成分である。NbやZrOも同様に高屈折率高分散特性を付与するが、NbやZrOと比較し、TiOはガラスの比重を増大させにくい。TiOの含有量が40%より多いと、分散が高くなり過ぎたり、ガラスの熱的安定性が低下したり、ガラスの着色が強まる。一方、TiOの含有量が20%未満であると、所望の屈折率を得ることが困難になる。
【0021】
したがって、所望の屈折率を得る観点から、TiOの含有量の好ましい下限は22%、より好ましい下限は24%、更に好ましい下限は25%である。熱的安定性の維持、着色の抑制、所望の分散を実現する観点から、TiOの含有量の好ましい上限は38%、より好ましい上限は36%、更に好ましい上限は35%である。TiOの含有量を上記範囲とすることで、比重の増大を抑えつつ、ガラスの熱的安定性を維持し、所要の光学特性を実現できる。
【0022】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、NaOの含有量は5~28%である。NaOはガラスの熔融性を改善し、熔融ガラスの粘度を調整する機能を有する。NaOの含有量が5%未満であると、粘度調整機能が不十分になる。一方、NaOの含有量が28%より多いと、屈折率が低下したり、熔融ガラスの粘度が低下して熔融ガラスによる耐火物の侵蝕が著しくなる。
【0023】
したがって、熔融性の改善、熔融ガラスの粘度を適正にする観点から、NaOの含有量の下限は、好ましくは8%であり、さらには10%、12%、13%の順により好ましい。一方、ガラス熔融時における耐火物の侵蝕を抑制し、所望の屈折率を実現する観点から、NaOの含有量の上限は、好ましくは25%であり、さらには23%、21%、19%、17%の順により好ましい。
【0024】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、BaOの含有量は2.0%未満である。BaOは比重を増大させる成分である。したがって、BaOの含有量の好ましい上限は1.5%、より好ましい上限は1.0%、更に好ましい上限は0.5%である。BaOの含有量の好ましい下限は0%である。BaOの含有量は0%であってもよい。BaOの含有量を上記範囲とすることで、比重の増大を抑制できる。
【0025】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、LiO、NaO、KOおよびCsOの合計含有量(以下、「RO」と記載することがある。)は8~28%である。LiO、NaO、KO、CsOはガラスの熔融性を改善する働きをする成分である。ROが8%未満になると、熔融性が低下し、原料の熔け残りが生じやすくなったり、熔融ガラスに粘度が高くなり過ぎ、熔融ガラスの流動性が低下して単位時間あたりのガラスの生産量が低下してしまう。一方、ROが28%よりも多くなると、熔融ガラスの粘度が低下し、煉瓦などの耐火物で構成された熔融槽が熔融ガラスにより侵蝕されやすくなる。
【0026】
したがって、ROの下限は、好ましくは9%であり、さらには10%、12%、13%の順により好ましい。耐火物の侵蝕を抑制する観点から、ROの好ましい上限は26%、より好ましい上限は24%、さらに好ましい上限は22%である。ROを上記範囲とすることで、熔融性、ガラスの生産性を維持できる。
【0027】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、SiO、BおよびPの合計含有量(SiO+B+P)に対するSiOの含有量の質量比[SiO/(SiO+B+P)]は0.90以上である。本実施形態に係る光学ガラスにおいて、ネットワーク形成成分は、主としてSiOであり、SiO以外にネットワーク形成成分になり得るBやPの含有量と比較し、SiOの含有量が格段に多い。
【0028】
したがって、質量比[SiO/(SiO+B+P)]の好ましい下限は0.95であり、より好ましい下限は0.98である。該質量比の好ましい上限は1である。該質量比は1であってもよい。該質量比を上記範囲とすることで、上記所望の性質を得ることができる。
【0029】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、LiO、NaO、KOおよびCsOの合計含有量ROに対するSiOの含有量の質量比[SiO/RO]は1.5~3.2である。該質量比が1.5未満であると、熔融ガラスによる耐火物の侵蝕が大きくなり、侵蝕された熔融槽の壁面から粒子状の耐火物が熔融ガラス中に混入してガラスを汚染したり、熔融槽の寿命が短くなるという問題が生じやすくなる。一方、該質量比が3.2よりも大きくなると、熔融性が低下し、原料が熔け残りやすくなる、熔融ガラスの粘度が高くなり過ぎ、単位時間あたりのガラスの生産量が低下するという問題が生じやすくなる。
【0030】
したがって、質量比[SiO/RO]の下限は、好ましくは1.7であり、さらには1.9、2.1、2.3の順により好ましい。また、該質量比の好ましい上限は3.1、より好ましい上限は3.0である。該質量比を上記範囲とすることで、熔融ガラスによる耐火物の侵蝕を抑制し、また熔融性の低下を抑制できる。
【0031】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、TiOおよびNbの合計含有量(TiO+Nb)に対するSiOの含有量とROの合計(SiO+RO)の質量比[(SiO+RO)/(TiO+Nb)]は2.6以下である。ガラス成分の中で、TiO、Nbは屈折率を高める働きが強く、SiO、アルカリ金属酸化物は、TiOやNbと比べて屈折率を高める働きが弱い。
【0032】
したがって、質量比[(SiO+RO)/(TiO+Nb)]の好ましい上限は2.5、より好ましい上限は2.3、更に好ましい上限は2.1である。また、該質量比の好ましい下限は1.4、より好ましい下限は1.5、更に好ましい下限は1.6である。該質量比を上記範囲とすることで、屈折率の高いガラスを得ることができる。
【0033】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、TiO、NbおよびZrOの合計含有量(TiO+Nb+ZrO)に対するTiOの含有量の質量比[TiO/(TiO+Nb+ZrO)]は0.90以上である。該質量比の好ましい下限は0.95、より好ましい下限は0.98である。該質量比の好ましい上限は1である。該質量比は1であってもよい。屈折率を高める働きが強いTiO、Nb、ZrOの中で、比較的比重を増大させにくい成分はTiOである。該質量比を上記範囲とすることで、所望の屈折率を得つつ、比重の増大を抑制できる。
【0034】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量(R´O)に対するCaOおよびBaOの合計含有量(CaO+BaO)の質量比[(CaO+BaO)/R´O]は0.90以上である。該質量比の好ましい下限は0.95、より好ましい下限は0.98である。該質量比の好ましい上限は1である。該質量比は1であってもよい。アルカリ土類金属酸化物の中で、適量の導入により、ガラスの熱的安定性を維持する働きが強い成分はCaOとBaOである。該質量比を上記範囲とすることで、ガラスの熱的安定性を維持できる。また、本実施形態に係る光学ガラスでは、BaOの含有量を低減しつつ、上記質量比を上記範囲とすることで、比重の増大を抑制できる。
【0035】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、ROに対するNaOおよびKOの合計含有量の質量比[(NaO+KO)/RO]は0.98以上である。該質量比の好ましい下限は0.99である。該質量比の好ましい上限は1である。該質量比は1であってもよい。アルカリ金属酸化物の中でLiOは比較的耐火物を侵蝕する働きが強く、CsOは他のアルカリ金属酸化物と比べ比重を増大させやすい。アルカリ金属酸化物の中でNaOとKOはガラスの熱的安定性を維持する働きに優れている。したがって、該質量比を上記範囲とすることで、耐火物の侵蝕および比重の増大を抑制し、ガラスの熱的安定性を維持できる。
【0036】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、NaO、KOおよびCaOの合計含有量に対するBaOの含有量の質量比[BaO/(NaO+KO+CaO)]は0.15以下である。該質量比の好ましい上限は0.12、より好ましい上限は0.10である。該質量比の好ましい下限は0である。該質量比は0であってもよい。NaO、KOおよびCaOはガラスの熔融性を改善する働きを有する。また、BaOは比重を増大させる成分である。したがって、該質量比を上記範囲とすることで、熔融性を改善し、また比重の増大を抑制できる。
【0037】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、TiOおよびNbの合計含有量に対するBaOの含有量の質量比[BaO/(TiO+Nb)]は0.12以下である。該質量比の好ましい上限は0.10、より好ましい上限は0.08である。該質量比の好ましい下限は0である。該質量比は0であってもよい。TiOおよびNbは高屈折率高分散特性を付与する成分である。また、BaOは比重を増大させる成分である。したがって、該質量比を上記範囲とすることで、所望の高屈折率高分散特性を維持しつつ、比重の増大を抑制できる。
【0038】
本実施形態に係る光学ガラスにおける上記以外のガラス成分の含有量および比率について、以下に非制限的な例を示す。
【0039】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、SiOの含有量に対するCaOおよびTiOの合計含有量の質量比[(CaO+TiO)/SiO]の好ましい上限は1.10、より好ましい上限は1.08、更に好ましい上限は1.07である。該質量比の好ましい下限は0.90、より好ましい下限は0.92、更に好ましい下限は0.93である。熱的安定性が良好なガラスを得る観点から、該質量比は上記範囲とすることが好ましい。
【0040】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量(R´O)の上限は、好ましくは20%であり、さらには16%、14%、12%の順により好ましい。また、R´Oの下限は、好ましくは2%であり、さらには4%、5%、6%の順により好ましい。熔融性を改善し、また、熱的安定性が低下するのを抑制する観点から、R´Oを上記範囲とすることが好ましい。
【0041】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、CaOの含有量に対するBaOの含有量の質量比[BaO/CaO]の上限は、好ましくは0.30であり、さらには0.28、0.26の順により好ましい。また、該質量比の下限は、好ましくは0である。該質量比は0であってもよい。比重の増大を抑制する観点から、該質量比を上記範囲とすることが好ましい。
【0042】
Oは、NaOと同様、ガラスの熔融性を改善し、熔融ガラスの粘度を適正な範囲に調整する働きをする。KOを過剰に導入すると、屈折率が低下したり、熔融ガラスの侵蝕性が高まるおそれが生じる。KOの含有量の好ましい上限は7%、より好ましい上限は6%、更に好ましい上限は5%である。KOの含有量の好ましい下限は0%である。質量%表示におけるKOの含有量はNaOの含有量よりも少ないほうが好ましい。
【0043】
LiOは、ガラスの熔融性を改善する働きをする成分である。しかし、LiOが他のアルカリ金属酸化物と比較し、耐火物を侵蝕しやすい。そのため、LiOの含有量の好ましい範囲は0~3%、より好ましい範囲は0~2%、更に好ましい範囲は0~1%である。LiOの含有量が0%であってもよい。
【0044】
CsOは、他のアルカリ金属酸化物と比較し、比重を大きくしやすい。また、CsOは原料コストが高い成分でもある。そのため、CsOの含有量の好ましい範囲は0~5%、より好ましい範囲は0~3%、更に好ましい範囲は0~1%である。CsOの含有量が0%であってもよい。
【0045】
CaOは、ガラスの熱的安定性や熔融性を改善する働きや、アッベ数を調整する働きを有する。CaOが過剰になると、ガラスの熱的安定性が低下したり、屈折率が低下するおそれが生じる。CaOの含有量の好ましい上限は15%、より好ましい上限は13%、更に好ましい上限は12%である。また、CaOの含有量の好ましい下限は3%、より好ましい下限は5%、更に好ましい下限は6%である。
【0046】
MgO、SrOは、CaO、BaOとともに熔融性を改善する働きを有するが、いずれの成分の含有量が過剰になってもガラスの熱的安定性が低下するおそれがある。MgOの含有量の好ましい範囲は0~10%、より好ましい範囲は0~5%、更に好ましい範囲は0~3%である。MgOの含有量は0%であってもよい。SrOの含有量の好ましい範囲は0~10%、より好ましい範囲は0~5%、更に好ましい範囲は0~3%である。SrOの含有量は0%であってもよい。
【0047】
上記性質、特性を得る観点から、SiO、TiO、NaO、KO、CaOおよびBaOの合計含有量が96%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましく、99.5%以上であることが更に好ましい。
【0048】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Pの含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには、8%、5%、3%の順により好ましい。また、Pの含有量の下限は、好ましくは0%である。Pの含有量は0%であってもよい。屈折率が高く、比重が低減された光学ガラスを得るために、Pの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0049】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Bの含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには、8%、5%、3%の順により好ましい。また、Bの含有量の下限は、好ましくは0%である。Bの含有量は0%であってもよい。Bは、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有するが、Bの含有量が多すぎると、屈折率が低下するおそれがある。そのため、Bの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0050】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Alの含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには、8%、5%、3%、1%、0.5%の順により好ましい。Alの含有量の下限は、好ましくは0%である。Alの含有量は0%であってもよい。Alは化学的耐久性を高める働きを有するが、Alの含有量が多すぎると、ガラスの熔融性が悪化するおそれがある。そのため、Alの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0051】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、ZrOの含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには、8%、5%、3%、1%、0.5%の順により好ましい。ZrOの含有量の下限は、好ましくは0%である。ZrOの含有量は0%であってもよい。ZrOは高屈折率化に寄与する成分である。一方、ZrOの含有量が多すぎると、熱的安定性が低下し、また、比重が増加するおそれがある。そのため、ZrOの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0052】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Nbの含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには、8%、5%、3%の順により好ましい。Nbの含有量の下限は、好ましくは0%である。Nbの含有量は0%であってもよい。
【0053】
Nbは、高屈折率化に寄与する成分であり、ガラス安定性を改善する働きを有する。一方で、Nbの含有量が多すぎると、比重が増加するおそれがあり、また、熱的安定性が低下するおそれがある。そのため、Nbの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0054】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、WOの含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには、8%、5%、3%の順により好ましい。WOの含有量の下限は、好ましくは0%である。WOの含有量は0%でもよい。
【0055】
WOは、高屈折率化に寄与する成分である。一方、WOの含有量が多すぎると、熱的安定性が低下し、比重が増加するおそれがあり、またガラスの着色が増大して、透過率が低下するおそれがある。そのため、WOの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0056】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Biの含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには、8%、5%、3%の順により好ましい。また、Biの含有量の下限は、好ましくは0%である。Biの含有量は0%でもよい。
【0057】
Biは、適量を含有させることによりガラスの熱的安定性を改善する働きを有する。また、高屈折率化に寄与する成分である。一方、Biの含有量が多すぎると比重が増加する。さらに、ガラスの着色が増大する。そのため、Biの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0058】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、ZnOの含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには、8%、5%、3%の順により好ましい。また、ZnOの含有量の下限は、好ましくは0%である。ZnOの含有量は0%でもよい。
【0059】
ZnOは、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有するガラス成分である。しかし、ZnOの含有量が多すぎると比重が上昇する。そのため、ガラスの熱的安定性を改善し、所望の光学特性を維持する観点から、ZnOの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0060】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Taの含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには、8%、5%、3%の順により好ましい。また、Taの含有量の下限は、好ましくは0%である。Taの含有量は0%でもよい。
【0061】
Taは、高屈折率化に寄与する成分である。また、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有するガラス成分でもある。一方、Taの含有量が多くなると、ガラスの熱的安定性が低下し、ガラスを熔融するときに、ガラス原料の熔け残りが生じやすくなる。また、比重が増大する。そのため、Taの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0062】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Laの含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには、8%、5%、3%の順により好ましい。また、Laの含有量の下限は、好ましくは0%である。Laの含有量は0%でもよい。
【0063】
Laは、高屈折率化に寄与する成分である。一方、Laの含有量が多くなると比重が増大し、またガラスの熱的安定性が低下する。そのため、比重の増加およびガラスの熱的安定性の低下を抑制する観点から、Laの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0064】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Yの含有量の上限は、好ましくは10%であり、さらには、8%、5%、3%の順により好ましい。また、Yの含有量の下限は、好ましくは0%である。Yの含有量は0%でもよい。
【0065】
は、高屈折率化に寄与する成分である。一方、Yの含有量が多くなり過ぎるとガラスの熱的安定性が低下し、製造中にガラスが失透しやすくなる。そのため、ガラスの熱的安定性の低下を抑制する観点から、Yの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0066】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Scの含有量は、好ましくは2%以下である。また、Scの含有量の下限は、好ましくは0%である。Scの含有量は0%でもよい。
【0067】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、HfOの含有量は、好ましくは2%以下である。また、HfOの含有量の下限は、好ましくは0%である。HfOの含有量は0%でもよい。
【0068】
Sc、HfOは、ガラスの高分散性を高める働きを有するが、高価な成分である。そのため、Sc、HfOの各含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0069】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Luの含有量は、好ましくは2%以下である。また、Luの含有量の下限は、好ましくは0%である。Luの含有量は0%でもよい。
【0070】
Luは、ガラスの高分散性を高める働きを有するが、分子量が大きいことから、ガラスの比重を増加させるガラス成分でもある。そのため、Luの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0071】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、GeOの含有量は、好ましくは2%以下である。また、GeOの含有量の下限は、好ましくは0%である。GeOの含有量は0%でもよい。
【0072】
GeOは、ガラスの高分散性を高める働きを有するが、一般的に使用されるガラス成分の中で、突出して高価な成分である。そのため、ガラスの製造コストを低減する観点から、GeOの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0073】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Gdの含有量の上限は、好ましくは3.0%であり、より好ましくは2.0%である。また、Gdの含有量の下限は、好ましくは0%である。Gdの含有量は0%でもよい。
【0074】
Gdは、高屈折率化に寄与する成分である。一方、Gdの含有量が多くなり過ぎるとガラスの熱的安定性が低下する。また、Gdの含有量が多くなり過ぎるとガラスの比重が増大し、好ましくない。そのため、ガラスの熱的安定性を良好に維持しつつ、比重の増大を抑制する観点から、Gdの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0075】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Ybの含有量は、好ましくは2%以下である。また、Ybの含有量の下限は、好ましくは0%である。Ybの含有量は0%でもよい。
【0076】
Ybは、ガラスの比重を増大させる成分である。また、Ybの含有量が多すぎるとガラスの熱的安定性が低下する。ガラスの熱的安定性の低下を防ぎ、比重の増大を抑制する観点から、Ybの含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0077】
本実施形態に係る光学ガラスは、主として上述のガラス成分、すなわち、必須成分としてSiO、TiO、NaO、任意成分としてBaO、KO、LiO、CsO、CaO、MgO、SrO、P、B、Al、ZrO、Nb、WO、Bi、ZnO、Ta、La、Y、Sc、HfO、Lu、GeO、Gd、およびYbで構成されていることが好ましく、上述のガラス成分の合計含有量は、95%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましく、99.5%以上が一層好ましい。
【0078】
本実施形態に係る光学ガラスは、基本的に上記ガラス成分により構成されることが好ましいが、本発明の作用効果を妨げない範囲において、その他の成分を含有することも可能である。また、本発明において、不可避的不純物の含有を排除するものではない。
【0079】
(その他の成分)
本実施形態に係る光学ガラスは、上記成分の他に、清澄剤としてSb、CeO等を少量含有することもできる。なお、本明細書では、清澄剤の含有量は、外割の表示とし、酸化物基準で表示する全てのガラス成分の合計含有量に含まない。したがって、清澄剤以外の全ガラス成分の合計含有量を100質量%としたときの清澄剤の総量は、好ましくは1質量%以下であり、さらには0.5質量%以下、0.1質量%以下とすることが好ましい。清澄剤の含有量は0質量%であってもよい。
【0080】
Pb、Cd、As、Th等は、環境負荷が懸念される成分である。
そのため、それぞれPbO、CdO、ThOの含有量は、いずれも0~0.1%であることが好ましく、0~0.05%であることがより好ましく、0~0.01%であることが一層好ましく、PbO、CdO、ThOを実質的に含まないことが特に好ましい。
【0081】
Asの含有量は、0~0.1%であることが好ましく、0~0.05%であることがより好ましく、0~0.01%であることが一層好ましく、Asを実質的に含まないことが特に好ましい。
【0082】
更に、本実施形態に係る光学ガラスは、可視領域の広い範囲にわたり高い透過率が得られる。こうした特長を活かすには、着色性の元素を含まないことが好ましい。着色性の元素としては、Cu、Co、Ni、Fe、Cr、Eu、Nd、Er等を例示することができる。いずれの元素とも、100質量ppm未満であることが好ましく、0~80質量ppmであることがより好ましく、0~50質量ppm以下であることが更に好ましく、実質的に含まれないことが特に好ましい。
【0083】
また、Ga、Te、Tb等は、導入が不要な成分であり、高価な成分でもある。そのため、質量%表示によるGa、TeO、TbOの含有量の範囲は、いずれも、それぞれ0~0.1%であることが好ましく、0~0.05%であることがより好ましく、0~0.01%であることが更に好ましく、0~0.005%であることが一層好ましく、0~0.001%であることがより一層好ましく、実質的に含まれないことが特に好ましい。
【0084】
(ガラス特性)
[アッベ数νd、屈折率nd]
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、他の光学特性を有するガラスからなるレンズと組合せて色収差を補正する観点から、アッベ数νdは26以上であることが好ましく、26.5以上であることがより好ましく、27以上であることが更に好ましい。アッベ数νdの好ましい上限は33、より好ましい上限は32.5、更に好ましい上限は32である。
【0085】
同等の集光力でありながら、レンズの光学機能面の曲率の絶対値を減少させる(レンズの光学機能面のカーブを緩くする)ことができるため、屈折率ndの高い光学ガラスが望まれる。本実施形態に係る光学ガラスにおいて、屈折率ndの好ましい下限は1.67、より好ましい下限は1.675、更に好ましい下限は1.68である。
【0086】
一方、屈折率を過度に高くすると、高屈折率成分の相対比が高くなり、ガラスの比重が増大する。比重の増大を抑える観点から、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、屈折率ndの好ましい上限は1.77、より好ましい上限は1.765、更に好ましい上限は1.76である。
【0087】
[透過率]
本実施形態に係る光学ガラスは、着色が極めて少ない光学ガラスであることができる。かかる光学ガラスは、カメラレンズ等の撮像用の光学素子や、プロジェクタ等の投射用の光学素子の材料として好適である。
【0088】
一般に光学ガラスの着色度は、λ80、λ70、λ5などにより表される。厚さ10.0mm±0.1mmのガラス試料について波長200~700nmの範囲で分光透過率を測定し、外部透過率が80%となる波長をλ80、外部透過率が70%となる波長をλ70、外部透過率が5%となる波長をλ5とする。
本実施形態に係る光学ガラスの好ましいλ80は480nm以下、好ましいλ70は440nm以下、好ましいλ5は380nm以下である。
【0089】
[ガラス転移温度Tg]
本実施形態に係る光学ガラスのガラス転移温度Tgは、好ましくは640℃以下である。ガラス転移温度が低いと、ガラスを再加熱、軟化してプレス成形する際の加熱温度を低くすることができる。その結果、ガラスとプレス成形型との融着を抑制しやすくなる。また加熱温度を低くすることができるので、ガラスの加熱装置、プレス成形型等の熱的消耗を低減することもできる。更に、ガラスのアニール温度も低くすることができるので、アニール炉の寿命を延ばすことができる。ガラス転移温度は、より好ましくは635℃以下、更に好ましくは630℃以下である。
【0090】
[比重]
本実施形態に係る光学ガラスの比重は、好ましくは3.40以下ある。比重は、より好ましくは3.20以下、更に好ましくは3.10以下、特に好ましくは3.00以下である。
【0091】
[用途]
本実施形態に係る光学ガラスの好ましい態様は、光学レンズ用光学ガラスまたはプリズム用光学ガラスである。
【0092】
[製造方法]
本実施形態に係る光学ガラスは、例えば所要の特性が得られるようにガラス原料を調合、熔融、成形することにより得ることができる。ガラス原料としては、例えば酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩等を用いることができる。ガラスの熔融法および成形法としては、公知の方法を用いることができる。
【0093】
[プレス成形用ガラス素材とその製造方法、およびガラス成形体の製造方法]
本発明の一態様によれば、本実施形態に係る光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、本実施形態に係る光学ガラスからなるガラス成形体、およびそれらの製造方法を提供することができる。
プレス成形用ガラス素材のプレス成形は、加熱して軟化した状態にあるプレス成形用ガラス素材をプレス成形型でプレスすることにより行うことができる。加熱、プレス成形は、ともに大気中で行うことができる。プレス成形用ガラス素材の表面に、窒化ホウ素などの粉末状離型剤を均一に塗布し、加熱、プレス成形すると、ガラスと成形型の融着を確実に防止できる他、プレス成形型の成形面に沿ってガラスをスムーズに延ばすことができる。プレス成形後にアニールしてガラス内部の歪を低減することにより、均質な光学素子ブランクを得ることができる。
【0094】
プレス成形用ガラス素材の例としては、精密プレス成形用プリフォーム、光学素子ブランクをプレス成形するためのガラス素材(プレス成形用ガラスゴブ)等があり、目的とするプレス成形品の質量に相当する質量を有するガラス塊が挙げられる。
【0095】
また、プレス成形用ガラス素材は、プリフォームとも呼ばれ、そのままの状態でプレス成形に供されるものに加え、切断、研削、研磨などの機械加工を施すことによりプレス成形に供されるものも含む。切断方法としては、ガラス板の表面の切断したい部分にスクライビングと呼ばれる方法で溝を形成し、溝が形成された面の裏面から溝の部分に局所的な圧力を加えて、溝の部分でガラス板を割る方法や、切断刃によってガラス板をカットする方法などがある。また、研削方法としてはカーブジェネレーターを用いた球面加工やスムージング加工などが挙げられる。研磨方法としては、酸化セリウムや酸化ジルコニウム等の砥粒を用いた研磨が挙げられる。
【0096】
[光学素子ブランクとその製造方法]
本発明の一態様によれば、本実施形態に係る光学ガラスからなる光学素子ブランクを提供することができる。光学素子ブランクは、製造しようとする光学素子の形状に近似する形状を有するガラス成形体である。光学素子ブランクは、製造しようとする光学素子の形状に加工する際に除去する加工代を加えた形状にガラスを成形する方法等により作製することができる。例えば、プレス成形用ガラス素材を加熱、軟化してプレス成形する方法(リヒートプレス法)、公知の方法で熔融ガラス塊をプレス成形型に供給しプレス成形する方法(ダイレクトプレス法)等により光学素子ブランクを作製することができる。
【0097】
[光学素子とその製造方法]
本発明の一態様によれば、本実施形態に係る光学ガラスからなる光学素子を提供することができる。光学素子の種類としては、球面レンズ、非球面レンズ等のレンズ、プリズム、回折格子等を例示することができる。レンズの形状としては、両凸レンズ、平凸レンズ、両凹レンズ、平凹レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ等の諸形状を例示することができる。光学素子は、本実施形態に係る光学ガラスからなるガラス成形体を加工する工程を含む方法により製造することができる。加工としては、切断、切削、粗研削、精研削、研磨等を例示することができる。こうした加工を行う際、上記ガラスを使用することにより、破損を軽減することができ、高品質の光学素子を安定して供給することができる。
【実施例0098】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0099】
(実施例1)
表1(1)~(3)に示すガラス組成になるように、各成分を導入するための原料としてそれぞれ相当する酸化物等を用い、原料を秤量し、十分に混合して調合原料とした。
【0100】
この調合原料を白金製の坩堝に入れ、加熱、熔融した。熔融後、熔融ガラスを鋳型に流し込み、ガラス転移温度付近まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、ガラスの転移温度付近で約1時間アニール処理した後、炉内で室温まで放冷することにより、表1(1)~(3)に示す組成を有する光学ガラスを得た。
【0101】
得られた光学ガラスを光学顕微鏡により拡大観察したところ、結晶の析出、白金坩堝に由来する白金粒子等の異物、泡は認められず、脈理も見られなかった。
【0102】
得られた光学ガラスの諸特性は、以下に示す方法により測定した。結果を表2に示す。
【0103】
(i)屈折率nd、ng、nF、nCおよびアッベ数νd
降温速度-30℃/時間で降温して得られたガラスについて、日本光学硝子工業会規格の屈折率測定法により、屈折率nd、ng、nF、nCを測定し、式(1)に基づきアッベ数νdを算出した。
νd=(nd-1)/(nF-nC) ・・・(1)
【0104】
(ii)透過率(λ80、λ70、およびλ5)
厚さ10.0mm±0.1mmのサンプルについて波長200~700nmの範囲で分光透過率を測定した。外部透過率が80%となる波長をλ80、外部透過率が70%となる波長をλ70、外部透過率が5%となる波長をλ5とした。
【0105】
(iii)ガラス転移温度Tg
NETZSCH社製の示差走査熱量分析装置(DSC3300)を使用し、昇温速度10℃/分にて測定した。
【0106】
(iv)比重
アルキメデス法により測定した。
【0107】
【表1(1)】
【0108】
【表1(2)】
【0109】
【表1(3)】
【0110】
【表2】
【0111】
(実施例2)
耐火物製の熔融槽、白金合金製の清澄槽、作業槽(攪拌槽)を備えるガラス熔解炉を用い、実施例1において作製した各光学ガラスが得られるように調合したバッチ原料を熔融槽に投入してガラスを熔融した。
【0112】
バッチ原料は、熔融槽内で熔融されて熔融ガラスとなり、熔融槽と清澄槽、清澄槽と作業槽を連結するパイプを通り、熔融槽から清澄槽へ、清澄槽から作業槽へと流れる過程で清澄、均質化され、作業槽の底部に取り付けられた流出パイプを通って、成形用鋳型の中に流し込まれた。
【0113】
鋳型でガラスを成形し、成形したガラスをアニールして光学ガラスを得た。得られた光学ガラスを観察したところ、原料の熔け残り、耐火物の混入、結晶の析出は認められなかった。
【0114】
このようにして、実施例1で得た各光学ガラスを連続式のガラス熔解炉を用いて生産した。なお、上記ガラス熔解炉は公知の構造を有するものである。
【0115】
(実施例3)
実施例2において作製した各光学ガラスを用いて、公知の方法により、レンズブランクを作製し、レンズブランクを研磨等の公知方法により加工して各種レンズを作製した。
【0116】
作製した光学レンズは、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、凹メニスカスレンズ、凸メニスカスレンズ等の各種レンズである。
【0117】
ガラスが低比重であるため、各レンズとも同等の光学特性、大きさを有するレンズよりも重量が小さく、各種撮像機器、特に省エネ可能という理由等によりオートフォーカス式の撮像機器用として好適である。同様にして、実施例2で作製した各種光学ガラスを用いてプリズムを作製した。
【0118】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0119】
例えば、上記に例示されたガラス組成に対し、明細書に記載の組成調整を行うことにより、本発明の一態様にかかる光学ガラスを作製することができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。