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特開2023-54301音制御装置、音制御方法及び音制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054301
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】音制御装置、音制御方法及び音制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/04 20060101AFI20230406BHJP
【FI】
H04R3/04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027101
(22)【出願日】2023-02-24
(62)【分割の表示】P 2018139711の分割
【原出願日】2018-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120189
【弁理士】
【氏名又は名称】奥 和幸
(72)【発明者】
【氏名】加来 文伸
(72)【発明者】
【氏名】菅原 啓太郎
(57)【要約】
【課題】車内空間における音響的な影響を排除しつつ、周波数特性等を適切に行って音楽を放音させることが可能な音制御装置を提供する。
【解決手段】放音されるべき音に対応する音データ、及び、当該音が放音される車内空間の音を集音するマイクMCにより集音された当該音に相当する集音データの少なくともいずれか一方に基づいて、音を放音する際の音データの周波数特性の調整に用いられる調整値を更新するか否かを判定する周波数特性分析部1と、当該更新を行うと判定された場合に上記調整値を更新し、当該更新後の調整値を用いて周波数特性が調整された音データに対応する音をスピーカSPから放音させるイコライザ値設定部2と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放音されるべき原音に対応する原音情報、及び、当該原音が放音される空間の音を集音する集音手段により集音された当該音に相当する集音情報の少なくともいずれか一方に基づいて、前記原音を放音する際の前記原音情報の周波数特性の調整に用いられる調整値を更新する更新処理を行うか否かを判定する判定手段と、
前記更新処理を行うと判定された場合に前記調整値を更新し、当該更新後の前記調整値を用いて前記周波数特性が調整された前記原音情報に対応する前記原音を放音手段から放音させる更新手段と、
を備えることを特徴とする音制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、音制御装置、音制御方法及び音制御プログラムの技術分野に属する。より詳細には、音の調整態様を制御する音制御装置及び音制御方法並びに当該音制御装置に用いられる音制御プログラムの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両にオーディオ装置を搭載し、移動中に音楽を楽しむことが行われる。ここで、車両の内部空間(以下、当該内部空間を単に「車内空間」と称する)の形状等による音響的な特性は、車種によって変わる他、乗車している搭乗者の数や乗車位置、又はその移動環境に起因する音(例えばいわゆる風切り音やロードノイズ、又は雨音等の気象状況に起因する音等)の影響によって、その都度変わる。よって、音響的な特性が変わっても原音に対応した音楽を楽しむためには、上記車内空間に原音を放音する際の周波数特性等を、当該車内空間の音響的な特性に対応させて補正することを含めて調整することが必要となる。そして、このような補正を含む調整を行う場合、従来では、車両が停止している状態で既定のテスト音を車内空間に放音し、その音響的な特性を評価することが行われていた。しかしながらこの場合、その車両の移動環境や搭乗者の乗車位置等を反映させた補正を含む調整はできない。そこで、移動中に車内空間に放音されている音楽を用いて上記周波数特性等の補正を含む調整を行うことが検討されている。このような検討に関連する先行技術の一例としては、例えば下記特許文献1に記載された技術がある。この特許文献1に記載されている技術では、車両の移動中に放音されている音楽によって、その周波数特性等を補正して調整する構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-299957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されている技術を用いた場合には、例えば上記移動環境の影響が大きい場合や、放音対象たる原音自体の周波数特性に偏りがあるような場合等、その補正を含む調整のために既定された測定条件が具備されていない場合には、当該補正を含む調整を適切に行うことができないという問題点があった。
【0005】
そこで本願は、上記の問題点に鑑みて為されたもので、その課題の一例は、上記車内空間における音響的な影響を排除しつつ、周波数特性等の調整を適切に行って音楽を放音させることが可能な音制御装置及び音制御方法並びに当該音制御装置に用いられる音制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、放音されるべき原音に対応する原音情報、及び、当該原音が放音される空間の音を集音する集音手段により集音された当該音に相当する集音情報の少なくともいずれか一方に基づいて、前記原音を放音する際の前記原音情報の周波数特性の調整に用いられる調整値を更新する更新処理を行うか否かを判定する判定手段と、前記更新処理を行うと判定された場合に前記調整値を更新し、当該更新後の前記調整値を用いて前記周波数特性が調整された前記原音情報に対応する前記原音を放音手段から放音させる更新手段と、を備える。
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項9に記載の発明は、原音が放音される空間の移動速度を示す速度情報を取得する速度情報取得手段と、前記取得された速度情報に基づいて、前記原音を放音する際の当該原音に対応する原音情報の周波数特性の調整に用いられる調整値を更新する更新処理を行うか否かを判定する判定手段と、前記更新処理を行うと判定された場合に前記調整値を更新し、当該更新後の調整値を用いて前記周波数特性が調整された前記原音情報に対応する前記原音を放音手段から放音させる更新手段と、を備える。
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項10に記載の発明は、判定手段と、更新手段と、を備え、集音手段及び放音手段に接続された音制御装置において実行される音制御方法において、放音されるべき原音に対応する原音情報、及び、当該原音が放音される空間の音を集音する前記集音手段により集音された当該音に相当する集音情報の少なくともいずれか一方に基づいて、前記原音を放音する際の前記原音情報の周波数特性の調整に用いられる調整値を更新する更新処理を行うか否かを前記判定手段により判定する判定工程と、前記更新処理を行うと判定された場合に前記調整値を前記更新手段により更新し、当該更新後の前記調整値を用いて前記周波数特性が調整された前記原音情報に対応する前記原音を放音手段から放音させる更新工程と、を含む。
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項11に記載の発明は、集音手段及び放音手段に接続されたコンピュータを、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の音制御装置として機能させるように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る音制御装置の概要構成を示すブロック図である。
図2】実施例に係る音場調整装置の概要構成を示すブロック図である。
図3】実施例に係る音場調整処理を示すフローチャートである。
図4】実施例に係る音場調整処理の細部を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本願を実施するための形態について、図1を用いて説明する。なお図1は、実施形態に係る音制御装置の概要構成を示すブロック図である。
【0012】
図1に示すように、実施形態に係る音制御装置Sは、マイク等の集音手段MCに接続された判定手段1と、スピーカ等の放音手段SPに接続された更新手段2と、を備えて構成されている。
【0013】
この構成において判定手段1は、放音されるべき原音に対応する原音情報、及び、当該原音が放音される空間の音を集音する集音手段MCにより集音された当該音に相当する集音情報の少なくともいずれか一方に基づいて、上記原音を放音する際の上記原音情報の周波数特性の調整に用いられる調整値を更新する更新処理を行うか否かを判定する。
【0014】
そして更新手段2は、上記更新処理を行うと判定された場合に上記調整値を更新し、当該更新後の調整値を用いて上記周波数特性が調整された上記原音情報に対応する上記原音を放音手段SPから放音させる。
【0015】
以上説明したように、実施形態に係る音制御装置Sの動作によれば、上記原音情報及び上記集音情報の少なくともいずれか一方に基づいて、原音を放音する際の原音情報の周波数特性の調整に用いられる調整値を更新する更新処理を行うか否かを判定するので、集音情報等に基づき、原音が放音される空間の影響を排除しつつ、原音情報の周波数特性の調整を適切に行って放音させることができる。
【実施例0016】
次に、上述した実施形態に対応する具体的な実施例について、図2乃至図4を用いて説明する。なお以下に説明する実施例は、車両に搭載されたカーオーディオ装置から例えば音楽等の音を再生する場合において、当該車両の車内空間の形状や搭乗者の数及び位置、或いは移動時に発生する外乱音の影響に対応した周波数特性調整値を設定し、当該再生される音に対応する音データの周波数特性を当該周波数特性調整値に従って調整する音場調整装置に本願を適用した場合の実施例である。このとき、上記外乱音としては、例えば、移動時に発生するロードノイズや風切り音やエンジン音、或いは上記雨音等の気象状況に起因する音等が挙げられる。また、上記「周波数特性調整値」とは、いわゆるイコライザ特性を実現するための調整値であり、具体的には、当該音データの周波数帯域毎の音圧を調整するための調整値である。更に、上記車内空間が本願に係る「空間」の一例に相当する。
【0017】
また、図2は実施例に係る音場調整装置の概要構成を示すブロック図であり、図3は実施例に係る音場調整処理を示すフローチャートであり、図4は実施例に係る音場調整処理の細部を説明する概念図である。このとき図2では、図1に示した実施形態に係る音制御装置Sにおける各構成部材に相当する実施例の構成部材それぞれについて、当該音制御装置Sにおける各構成部材と同一の部材番号を用いている。
【0018】
図2に示すように、実施例に係る音場調整装置SSは、再生対象たる上記音の音データが種々のファイル形式で記録されているスマートフォンSMと、実施形態の放音手段SPの一例としてのスピーカSPに接続された上記カーオーディオ装置16と、にそれぞれ接続されている。なお、上記スマートフォンSMに代えていわゆる音楽プレーヤが接続されていてもよい。そして実施例に係る音場調整装置SSは、実施形態に係る集音手段MCの一例としてのマイクMCと、実施形態に係る判定手段1の一例としての周波数特性分析部1と、実施形態に係る更新手段2の一例としてのイコライザ値設定部2と、上記スマートフォンSMに有線又は無線により接続される通信部10と、オーディオデコーダ11と、加速度センサ12と、周波数特性調整部13と、オーディオエンコーダ14と、上記カーオーディオ装置16に有線又は無線により接続される通信部15と、により構成されている。このとき、上記周波数特性分析部1、上記イコライザ値設定部2、上記オーディオデコーダ11、上記周波数特性調整部13及び上記オーディオエンコーダ14は、音場調整装置SSに備えられた図示しないCPU、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等のハードウェアロジック回路によりハードウェア的に実現されていてもよいし、後述する実施例に係る音場調整処理を示すフローチャートに相当するプログラムを上記ROM等に記憶し、これを上記CPU等が読み出して実行することにより、ソフトウェア的に実現されてもよい。また、図2に破線で示すように、上記周波数特性分析部1及び上記イコライザ値設定部2により、実施形態に係る音制御装置Sの一例を構成している。更に、上記周波数特性分析部1が、本願に係る「速度情報取得手段」及び「放音判定手段」の一例に相当する。
【0019】
以上の構成において、スマートフォンSMには、上述したように再生対象たる音楽等の音データが予め記録されており、当該スマートフォンSMにおける再生開始操作等により、当該音データが音場調整装置SSの通信部10に出力される。この再生対象たる音楽が、本願に係る「原音」の一例に相当する。これにより通信部10は、スマートフォンSMから入力された上記音データに対して予め設定された入力インターフェース処理を施してオーディオデコーダ11に出力する。そしてオーディオデコーダ11は、当該出力されてきた音データに対して予め設定された復号方式に基づいた復号処理を施し、上記周波数特性としての既定の周波数帯域毎の音圧を検出可能な形式の音データ(例えば、PCM(Pulse Code Modulation)形式の音データ)として周波数特性分析部1及び周波数特性調整部13に出力する。
【0020】
一方加速度センサ12は、音場調整装置SSが搭載されている上記車両に加わる加速度の大きさ及び方向を検出し、当該検出された加速度を示す加速度データを生成して周波数特性分析部1に出力する。なお当該加速度データは、周波数特性分析部1において後述するように積分され、上記車両の速度を示す速度データに変換されて実施例に係る音場調整処理に供される。このとき加速度センサ12自体において上記加速度データを積分し、上記速度データとして周波数特性分析部1に出力するように構成してもよい。他方マイクMCは、音場調整装置SSが搭載されている上記車両の車内空間にある音を集音し、上記周波数特性としての既定の周波数帯域毎の音圧を検出可能な形式の集音データとして周波数特性分析部1に出力する。このマイクMCにより集音される音には、後述するように実施例に係るスピーカSPから放音された音楽等の音の他、当該車両が移動中である場合における上記外乱音等が含まれている。
【0021】
次に周波数特性分析部1は、オーディオデコーダ11からの上記音データ、加速度センサ12により検出された加速度データに対応した速度データ及びマイクMCからの上記集音データに基づいて、実施例に係る音場調整処理における周波数特性分析処理を主として実行する。このとき、加速度センサ12から上記加速度データが出力されている場合、周波数特性分析部1はこれを積分し、上記速度データを生成して上記周波数特性分析処理に供させる。そして当該周波数特性分析処理の結果は、イコライザ値設定部2に出力される。これによりイコライザ値設定部2は、上記周波数特性分析処理の結果に基づいて、スピーカSPを介して放音される上記音データの上記周波数特性(即ち、上記既定の周波数帯域ごとの音圧)の調整に用いられる周波数特性調整値を更新するための実施例に係る音場調整処理における補正値を設定し、周波数特性調整部13に出力する。
【0022】
一方周波数特性調整部13は、車両が停止している時の上記車内空間本来の大きさや形状(即ち、搭乗者が搭乗しておらず且つ荷物等も搭載されていない状態の当該車内空間としての大きさや形状)に対応させて、再生対象たる音楽の種類(例えば、「ロック」、「クラシック」又は「ポップス」等の種類)ごとに(つまり当該種類別に)、その車内空間に放音する場合に最適な音データとしての周波数特性を示す周波数特性データ(以下、当該周波数特性データを「種類別周波数特性データ」と称する)を、図示しないメモリ内に予め記憶している。この種類別周波数特性データは、例えば予めユーザにより上記音楽の種類ごとに選択又は設定される上記周波数特性調整値に相当する周波数特性データである。なおこの他に、音楽の種類や車両の大きさ等とは無関係にユーザが任意に設定した周波数特性調整値が上記図示しないメモリに予め記憶されていてもよい。
【0023】
そして周波数特性調整部13は、イコライザ値設定部2から上記補正値が出力されていない場合、オーディオデコーダ11から出力されている音データに対応した上記種類別周波数特性データを用いて当該音データの周波数特性を調整し、当該周波数特性の調整後の音データをオーディオエンコーダ14に出力する。他方周波数特性調整部13は、イコライザ値設定部2から上記補正値が出力されている場合、当該出力が継続されている間は、オーディオデコーダ11から出力されている音データに対応した上記種類別周波数特性データの周波数特性調整値を、イコライザ値設定部2からの上記補正値を用いて更新し、当該更新後の周波数特性調整値を用いてその周波数特性が調整された音データをオーディオエンコーダ14に出力する。
【0024】
その後オーディオエンコーダ14は、周波数特性調整部13から出力されてきた音データに対して、上記オーディオデコーダ11における復号処理の復号形式に対応した符号化形式による符号化処理を施し、当該符号化後の音データを通信部15に出力する。そして通信部15は、オーディオエンコーダ14から出力された上記符号化後の音データに対して予め設定された出力インターフェース処理を施してカーオーディオ装置16に出力する。これによりカーオーディオ装置16は、当該符号化後の音データに対して予め設定された増幅処理等を施し、スピーカSPを介して上記車内空間に放音させる。
【0025】
次に、実施例に係る音場調整処理について、より具体的に図2乃至図4を用いて説明する。
【0026】
対応するフローチャートを図3に示すように、実施例に係る音場調整処理は、例えば、実施例に係る音場調整装置SSが搭載されている車両のいわゆるACC(Accessory)スイッチがオンとされること等により開始される。
【0027】
実施例に係る音場調整処理が開始されると、先ず周波数特性分析部1は、その周波数特性を調整するべき音データ(即ち、その時点で再生されるべき音楽等の音データ)がスマートフォンSMから入力されているか否かを判定する(ステップS1)。より具体的に周波数特性分析部1は、例えば、スマートフォンSMにおける操作内容又はカーオーディオ装置16における再生対象の選択操作等を検出し、その検出結果に基づいて当該再生されるべき音データが周波数特性分析部1に入力されているか否かを判定する。ステップS1の判定において、再生されるべき音データが周波数特性分析部1に入力されていない場合(ステップS1:NO)、周波数特性分析部1は後述するステップS9に移行する。このステップS1により、その周波数特性が調整対象ではない音データ(例えば、カーオーディオ装置16においてラジオ放送を介して受信された音データを再生すべきことが選択されている場合等)に対して実施例に係る音場調整処理が施されることが防止される。
【0028】
一方ステップS1の判定において、再生されるべき音データが周波数特性分析部1に入力されている場合(ステップS1:YES)、周波数特性分析部1は次に、入力されている音データの周波数特性を分析し、その分析結果を例えば上記RAM等に一時的に記憶する(ステップS2)。そして周波数特性分析部1は、ステップS2で分析した周波数特性が実施例に係る音場調整処理を行うために適切な周波数特性であるか否かを判定する(ステップS3)。このステップS3において具体的に周波数特性分析部1は、例えばステップS2で分析した周波数特性が可聴周波数帯域の全域に渡って予め設定された音圧閾値以上であるか否かを判定し、当該周波数特性が当該全域に渡って当該音圧閾値以上である場合には上記適切な周波数特性であると判定する。或いは周波数特性分析部1は、ステップS2で分析した周波数特性に特定の周波数帯域での偏りがあるか否かを判定し、当該偏りがない場合には上記適切な周波数特性であると判定する。
【0029】
ステップS3の判定において、ステップS2で分析した周波数特性が実施例に係る音場調整処理を行うために適切な周波数特性でない場合(ステップS3:NO)、周波数特性分析部1は後述するステップS9に移行する。一方ステップS3の判定において、ステップS2で分析した周波数特性が実施例に係る音場調整処理を行うために適切な周波数特性である場合(ステップS3:YES)、周波数特性分析部1は次に、マイクMCから上記集音データを取得し(ステップS4)、更に当該取得した集音データの周波数特性と上記音データの周波数特性との間の相関係数γを算出する(ステップS5)。
【0030】
ここで、ステップS5で算出される相関係数γとは、例えば対象となる各周波数帯域における上記音データの周波数特性としての音圧を「パラメータx」とし、当該対象となる各周波数帯域における上記集音データの周波数特性としての音圧を「パラメータy」としたとき、以下の式(1)で示される相関係数γである。なお以下の式(1)において、「Sxy」はパラメータxとパラメータyの共分散であり、「S」はパラメータxの標準偏差であり、「S」はパラメータyの標準偏差である。また、「n」は同じ周波数帯域についてのパラメータxとパラメータyとの対の総数(即ち、分割された周波数帯域の数)であり、「x」はパラメータxとしての個々の音圧であり、「y」はパラメータyとしての個々の音圧であり、
はパラメータxの平均値であり、
はパラメータyの平均値である。
【0031】
【数1】
【0032】
ここで、上記式(1)で定義される相関係数γについて詳細には、例えばインターネット上のURL「https://sci-pursuit.com/math/statistics/correlation-coefficient.html」に詳しい。この相関係数γが予め設定された相関閾値以上である場合、パラメータx(即ち、上記音データの周波数特性としての音圧)とパラメータy(即ち、上記集音データの周波数特性としての音圧)との間に相関があるということになる。これを実施例に係る音場調整処理に当て嵌めると、当該相関があるということは、集音データとして、「実施例に係る音場調整処理に適する程度の音量があり」且つ「上記外乱音等のノイズが当該音場調整処理に障害となるような大きさではない」ということになる。
【0033】
そこで周波数特性分析部1は、ステップS5で算出された相関係数γが上記相関閾値以上であるか否かを判定する(ステップS6)。ステップS6の判定において、算出された相関係数γが上記相関閾値未満である場合(ステップS6:NO)、周波数特性分析部1は後述するステップS9に移行する。一方ステップS6の判定において、算出された相関係数γが上記相関閾値以上である場合(ステップS6:YES)、周波数特性分析部1は次に、加速度センサ12において検出された加速度又は当該加速度に対応する速度が、予め設定された速度閾値以上であるか否かを判定する(ステップS7)。ここで、当該速度閾値の具体例としては、例えば、実施例に係る音場調整装置SSが搭載されている車両が走行していない状態で実施例に係る音場調整処理を行うこととする場合には、当該速度閾値としては例えば時速5キロメートルとされる。また、当該車両の低速走行時の、ロードノイズ等の上記外乱音が少ない状態で実施例に係る音場調整処理を行うこととする場合には、当該速度閾値としては例えば時速30キロメートルとされる。そして周波数特性分析部1は、上記加速度データが加速度センサ12から出力されているときはそれを積分してステップS7の判定に用いると共に、上記加速度データを積分した速度データが加速度センサ12から出力されているときは、当該速度データをそのままステップS7の判定に用いる。このステップS7は、音場調整装置SSが搭載されている車両の速度が上記速度閾値より大きい場合は上記外乱音が大きいと予測されることから、実施例に係る音場調整処理を行わないようにするための判定である。ステップS7の判定において、当該車両の速度が上記速度閾値より大きい場合(ステップS7:NO)、周波数特性分析部1は後述するステップS9に移行する。一方ステップS7の判定において、当該車両の速度が上記速度閾値以下である場合(ステップS7:YES)、周波数特性分析部1は、上記音データ及び上記集音データそれぞれの周波数特性データをイコライザ値設定部2に出力する。
【0034】
次にイコライザ値設定部2は、実施例に係る音場調整処理を行う条件(上記ステップS1、上記ステップS3、上記ステップS6及び上記ステップS7参照)が全て整ったとして、オーディオデコーダ11から出力されている音データに対応した上記種類別周波数特性データの周波数特性調整値を更新するための上記補正値を算出する(ステップS8)。
【0035】
ここで、ステップS8における補正値の算出について図4を用いて具体的に説明する。先ず、上記ステップS7において、図4上に示す周波数特性を有する音データ(上記ステップS2参照)としての周波数特性データと、同じく図4上に示す周波数特性を有する集音データとしての周波数特性データと、が出力されているとする。ここで、上記集音データの周波数特性には、元の音データ自体としての周波数特性と、当該音データに相当する音が放音される車内空間本来の周波数特性(即ち、車両が停止しており、搭乗者が搭乗しておらず且つ荷物等も搭載されていない状態の当該車内空間としての大きさや形状に対応した周波数特性)と、当該音データに相当する音が実際に放音されている時の車内空間としての周波数特性(即ち、搭乗者が搭乗し、荷物等も搭載されており、更に上記外乱音がある状態の当該車内空間としての周波数特性)と、が反映されていることになる。そこでステップS8においてイコライザ値設定部2は、上記集音データの周波数特性から上記音データの周波数特性を減算する処理を、上記既定の周波数帯域毎に行い、当該減算処理の結果としての差分データを算出する(図4下参照)。なお、図4下では、周波数帯域ごとの上位差分を破線で示しており、差分がゼロである周波数を一点鎖線矢印で示している。この差分データに相当する周波数特性には、図4上に示されている周波数特性の音データが放音されている際に用いられている種類別周波数特性データ(以下、「放音種類別周波数特性データ」と称する)により示される周波数特性と、上記車内空間本来の周波数特性と、上記音データに相当する音が実際に放音されている時の車内空間としての周波数特性と、の三つが少なくとも反映されていることになる。その後イコライザ値設定部2は、上記差分データとしての周波数特性が、上記放音種類別周波数特性データにより示される周波数特性となるように、当該放音種類別周波数特性データの周波数特性調整値を更新するための上記補正値を算出する。より具体的に、例えばその時点で設定されている種類別周波数特性データ(即ち上記放音種類別周波数特性データ)に対応した種類が「ロック」である場合、イコライザ値設定部2は、図4下に示す差分データとしての周波数特性が、ロック用の種類別周波数特性データの周波数特性調整値により示される周波数特性となるように、上記更新用の補正値を算出する。この更新用の補正値を用いた更新により放音種類別周波数特性データを補正することで、結果的に、上記音データに相当する音が実際に放音されている時の車内空間としての周波数特性(即ち、上記車内空間本来の周波数特性、及び上記音データに相当する音が実際に放音されている時の車内空間としての周波数特性)の影響を排除することができることになる。その後イコライザ値設定部2は、当該算出された補正値を周波数特性調整部13に出力する。
【0036】
これにより周波数特性調整部13は、上述したように、イコライザ値設定部2から上記補正値が出力されていない場合(図3ステップS1:NO、同ステップS3:NO、同ステップS6:NO、又は同ステップS7:NOの場合)、オーディオデコーダ11から出力されている音データに対応した上記種類別周波数特性データ(即ち、周波数特性調整値を更新しない元の種類別周波数特性データ)を用いて当該音データの周波数特性を調整し、当該周波数特性の調整後の音データをオーディオエンコーダ14に出力する(ステップS9)。一方、イコライザ値設定部2から上記更新用の補正値が出力されている場合、当該出力が継続されている間は、周波数特性調整部13は、上記種類別周波数特性データの周波数特性調整値を、イコライザ値設定部2からの上記補正値を用いて更新し、当該更新後の補正値を用いてその周波数特性が調整された音データをオーディオエンコーダ14に出力する(ステップS9)。
【0037】
その後音場調整装置SSは、例えば、実施例に係る音場調整装置SSが搭載されている車両のACCスイッチがオフとされたことを検出すること等により、実施例に係る音場調整処理を終了するか否かを判定する(ステップS10)。ステップS10の判定において、実施例に係る音場調整処理を継続する場合(ステップS10:NO)、音場調整装置SSは、上記ステップS1に戻って上述してきた処理を繰り返す。一方ステップS10の判定において、実施例に係る音場調整処理を終了する場合(ステップS10:YES)、音場調整装置SSはそのまま当該音場調整処理を終了する。
【0038】
以上説明したように、実施例に係る音場調整処理によれば、車内空間に放音される音の音データ及び集音データの少なくともいずれか一方に基づいて、当該音を放音する際の音データの周波数特性の調整に用いられる調整値の更新(図3ステップS8及びステップS9参照)を行うか否かを判定する(図3ステップS1、同ステップS3、同ステップS6及び同ステップS7参照)ので、集音データ等に基づき、車内空間の影響を排除しつつ、音データの周波数特性の調整を適切に行って放音させることができる。なお、実施例に係る音場調整処理によれば、結果的に、上記車内空間の影響だけでなく、例えばカーオーディオ装置16に含まれる音響回路自体やスピーカSPの構造等が周波数特性に与える影響も排除することができる。
【0039】
また、上記更新が、集音データの周波数特性が上記種類別周波数特性データにより示される周波数特性となるように元の種類別周波数特性データに相当する周波数特性調整値を更新する処理であるので、集音データの周波数特性等に基づいてより適切にその調整を行うことができる。
【0040】
更に、上記種類別周波数特性データがユーザにより選択又は設定される周波数特性の周波数特性データであるので、当該ユーザの嗜好に合わせて適切に周波数特性の調整を行わせることができる。
【0041】
更にまた、音データの周波数特性が可聴周波数帯域において適正である場合(換言すれば、当該周波数帯域が既定の音圧閾値以上である場合。図3ステップS3参照。)に上記更新を行うので、より適切に周波数特性の調整を行わせることができる。
【0042】
また、集音データの周波数特性と、音データの周波数特性と、の間の類似度に対応した相関係数γに基づいて上記更新を行うか否かを判定するので(図3ステップS5及び同ステップS6参照)、更に適切に周波数特性の調整を行わせることができる。
【0043】
更に、音が放音される車内空間の移動の速度が既定の速度閾値以下であるときに取得された集音データに基づいて上記更新を行うか否かを判定するので(図3ステップS7参照)、更に適切に周波数特性の調整を行わせることができる。
【0044】
更にまた、再生対象の音(音楽等)が車内空間に放音されていることが示されている時に取得された集音データを用いて上記更新を行うか否かを判定するので(図3ステップS1参照)、更に適切に周波数特性の調整を行わせることができる。
【0045】
なお上述した実施例において、上記周波数特性調整値を全周波数帯域において平坦(フラット)な状態とし、更に図4下に示す差分データが全周波数帯域においてゼロデシベルとなるように周波数特性調整値を更新することで、再生対象たる音の原音に相当する周波数特性で当該音を聴取することができる。
【0046】
また上述した実施例では、上記相関係数γを用いる意義として、上記集音データとして「実施例に係る音場調整処理に適する程度の音量があり」且つ「上記外乱音等のノイズが当該音場調整処理に障害となるような大きさではない」ことを判定するために用いることとした。しかしながら、「上記外乱音等のノイズが当該音場調整処理に障害となるような大きさではないことを判定する」ことのみにその意義を限るのであれば、相関係数γを用いることなく上記加速度センサ12からの加速度データのみを用いて当該判定を行ってもよいし、また、相関係数γを用いて「上記外乱音等のノイズが当該音場調整処理に障害となるような大きさではないことを判定する」ことで、加速度センサ12自体を不要とすることもできる。
【0047】
更に、実施例に係る音場調整装置SSから見てスピーカSP側にある装置(例えば実施例に係るカーオーディオ装置16)が再生対象たる音の音源を切替え可能であり、音場調整装置SSでは現在の音源を示す情報を得ることができない場合において、異なる音源が再生されているときには実施例に係る音場調整処理を適切に行うことができないという問題があるが、実施例に係る相関係数γを用いることで、当該スピーカSP側にある装置において、再生対象たる音の音源が切り換えられていないか(即ち、再生対象たる音楽等の音が再生されているか否か)を判定することもできる。
【0048】
[変形例]
次に、上述した実施形態に対応する変形例について、それぞれ説明する。
【0049】
先ず第1変形例として、上述した実施例では、図3に示すステップS1、同ステップS3、同ステップS6及び同ステップS7により音データの周波数特性の上記補正値の更新を行うか否かを判定したが、これ以外に、当該音データの周波数特性の調整自体を行うか否かを上記ステップS1等により判定してもよい。この場合でも、車内空間の影響を排除しつつ、より適切に音データの周波数特性の調整を行って放音させることができる。
【0050】
次に第2変形例として、上述した実施例では、図3に示すステップS1、同ステップS3、同ステップS6及び同ステップS7を複合的に用いて上記調整値の更新を行うか否かを判定したが、これ以外に、音場調整装置SSが搭載されている車両(換言すれば、その車内空間)の移動の速度を示す速度データのみに基づいて、上記調整値の更新又は当該周波数特性の調整自体を行うか否かを判定するように構成してもよい。この場合でも、車両(車内空間)の移動による影響を排除しつつ、音データの周波数特性の調整を適切に行って放音させることができる。
【0051】
また第3変形例として、上述した実施例では、周波数特性を調整する前の音データとしての周波数特性と、集音データの周波数特性と、を用いて上記周波数特性調整値の更新を行うか否かを判定したが、これ以外に、周波数特性調整部13による調整後の周波数特性(即ち、周波数特性調整部13から出力直後の音データの周波数特性)と、集音データの周波数特性と、を用いて上記周波数特性調整値の更新又は当該周波数特性の調整自体を行うか否かを判定してもよい。これは、周波数特性調整部13による調整後の周波数特性も、放音される音に対応する音データの周波数特性であることによる。この第3変形例の構成によれば、図4下に示す差分データに相当する周波数特性には、上記車内空間本来の周波数特性と、上記音データに相当する音が実際に放音されている時の車内空間としての周波数特性と、が代表的に反映されることになる。そこで、この差分データの大きさが小さくなるように実施例に係る補正値を用いた更新を行うことで、車内空間に放音される音の周波数特性を、所望される周波数特性(いわゆるリファレンスとしての周波数特性)に近づけることができる。
【0052】
更に第4変形例として、上述した実施例では、カーオーディオ装置16と音源としてのスマートフォンSMとが実施例に係る音場調整装置SSに接続された構成となっていたが、これ以外に、音源の蓄積機能及び対応する音データの再生機能を音場調整装置内に含ませるように構成してもよい。この場合には、上記通信部10及び通信部15は不要となる。このように構成することで、実施形態は、既存のカーオーディオ製品(より具体的には、カーナビゲーション装置、車両に搭載可能なオーディオ装置又はCD/DVD/BD/USB/チューナ搭載プレーヤ等)にも適用可能となる。
【0053】
更にまた第5変形例として、いわゆるスマートスピーカに実施形態を適用することも可能である。より具体的には、実施例に係るカーオーディオ装置16とスピーカSPを音場調整装置内に含ませるように構成することができる。
【0054】
また第6変形例として、上述した実施例では、音楽等の音を再生対象としたが、これ以外に、人の音声を再生対象として上記周波数特性調整値又は実施例に係る補正値を設定してもよい。この場合における上記相関係数γの算出は、人の音声に含まれる周波数帯域に限定して行えばよい。
【0055】
更に第6変形例として、上述した実施例(図3ステップS9参照)において、周波数特性調整値の更新を行わない場合)に、過去に更新された周波数特性調整値を継続して使用しつつ調整を行ってもよいし、周波数特性調整部13による調整自体を行わない(即ち、周波数特性調整部13の機能をオフとして、オーディオデコーダ11から出力された音データをそのままオーディオエンコーダ14に出力する(即ちスルー)する)ように構成してもよい。
【0056】
更に、図3に示したフローチャートに相当するプログラムを、光ディスク又はハードディスク等の記録媒体に記録しておき、或いはインターネット等のネットワークを介して取得しておき、これを汎用のマイクロコンピュータ等に読み出して実行することにより、当該マイクロコンピュータ等を実施例に係る音場調整装置SSの上記CPUとして機能させることも可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 判定手段(周波数特性分析部)
2 更新手段(イコライザ値設定部)
13 周波数特性調整部
16 カーオーディオ装置
S 音制御装置
SS 音場調整装置
SP 放音手段(スピーカ)
MC 集音手段(マイク)
SM スマートフォン
図1
図2
図3
図4