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特開2023-54314情報処理装置、制御方法、プログラム及び記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054314
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】情報処理装置、制御方法、プログラム及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20230406BHJP
【FI】
G01C21/28
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027365
(22)【出願日】2023-02-24
(62)【分割の表示】P 2021562651の分割
【原出願日】2020-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2019218074
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正浩
(57)【要約】
【課題】車両の姿勢を好適に推定可能な情報処理装置を提供する。
【解決手段】車載機1の制御部15は、地物の位置情報を含む地図データであるランドマークデータLDから、車両の近傍に存在する、路面上に描かれた地物の複数の位置情報を取得する。そして、制御部15は、取得した複数の位置情報に基づき求めた近似平面に対する法線ベクトルを算出する。そして、制御部15は、自車両の向きと、法線ベクトルとに基づき、自車両のピッチ角又はロール角の少なくとも一方を算出する。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地物の位置情報を含む地図データから、移動体の近傍に存在する地物の複数の位置情報を取得する取得部と、
前記複数の位置情報に基づき求めた近似した平面に対する法線ベクトルを算出する法線ベクトル算出部と、
前記移動体の向きと、前記法線ベクトルとに基づき、前記移動体のピッチ角又はロール角の少なくとも一方を算出する角度算出部と、
を有する情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の姿勢の推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーダやカメラなどの計測部の計測データに基づいて、自車位置推定などを行う技術が知られている。例えば、特許文献1には、計測センサの出力と、予め地図上に登録された地物の位置情報とを照合させることで自己位置を推定する技術が開示されている。また、特許文献2には、カルマンフィルタを用いた自車位置推定技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-257742号公報
【特許文献2】特開2017-72422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、車両は道路面に拘束されており、車両のロール角やピッチ角や上下方向の変化は、サスペンションによる変動はあるものの無視できる程度に小さい。よって、計測部の計測データに基づく一般的な車両の自己位置推定では、車両の平面位置及び方位を推定すべきパラメータとして設定している。一方、勾配が大きい坂道や横断勾配を含む道路などの走行時では、車両の平面位置及び方位を推定するだけでは、ピッチ角やロール角の変化に対応できず、計測部が計測した地物の計測位置と地図上の地物の位置との対応付けが適切に行われない場合がある。この場合、自己位置推定に使用する計測データが少なくなり、自己位置推定のロバスト性が低下する可能性がある。ここで、ピッチ角やロール角の変化に対応するため、ピッチ角やロール角を自己位置推定の推定パラメータとして加えた場合、推定パラメータの増加に起因して計算負荷が増加し、必要な周期での自己位置推定が安定的に終わらなくなるという問題が生じる。また、IMU(Inertial Measurement Unit)のデータから車両のピッチ角やロール角を求める方法が存在するが、一般的なIMUでは感度誤差やオフセットがあるために、ピッチ角やロール角を正確に計算できないという問題もあった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、車両の姿勢を好適に推定可能な情報処理装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項に記載の発明は、情報処理装置であって、地物の位置情報を含む地図データから、移動体の近傍に存在する地物の複数の位置情報を取得する取得部と、前記複数の位置情報に基づき求めた近似した平面に対する法線ベクトルを算出する法線ベクトル算出部と、前記移動体の向きと、前記法線ベクトルとに基づき、前記移動体のピッチ角又はロール角の少なくとも一方を算出する角度算出部と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】運転支援システムの概略構成図である。
図2】車載機の機能的構成を示すブロック図である。
図3】地図DB(DataBase)の概略的なデータ構造の一例を示す。
図4】状態変数ベクトルを2次元直交座標で表した図である。
図5】予測ステップと計測更新ステップとの概略的な関係を示す図である。
図6】自車位置推定部の機能ブロックの一例である。
図7】(A)区画線の位置情報を明示した道路上の車両の俯瞰図である。(B)区画線の位置情報を明示した道路上の車両の側面図である。
図8】車両のヨー角と進行方向ベクトルとの関係を示すxy平面図である。
図9】法線ベクトルと進行方向ベクトルのなす角と車両のピッチ角との関係を示す図である。
図10】車両のヨー角と横方向ベクトルとの関係を示すxy平面図である。
図11】法線ベクトルと横方向ベクトルのなす角と車両のロール角との関係を示す図である。
図12】(A)平坦な路面を走行する車両及び道路の側面図である。(B)点群データに車両のピッチ角に基づく座標変換を行わない場合において、勾配が大きい路面を走行する車両及び道路の側面図である。
図13】点群データに車両のピッチ角に基づく座標変換を行う場合において、勾配が大きい路面を走行する車両及び道路の側面図である。
図14】車両の位置姿勢推定処理の手順を示すフローチャートの一例である。
図15】車両のロール角・ピッチ角の推定処理の手順を示すフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の好適な実施形態によれば、情報処理装置は、地物の位置情報を含む地図データから、移動体の近傍に存在する、路面上に描かれた地物の複数の位置情報を取得する取得部と、前記複数の位置情報に基づき求めた近似した平面に対する法線ベクトルを算出する法線ベクトル算出部と、前記移動体の車両の向きと、前記法線ベクトルとに基づき、前記移動体のピッチ角又はロール角の少なくとも一方を算出する角度算出部と、を有する。
【0009】
一般に、移動体は路面に拘束されており、路面の傾きに応じた移動体のピッチ角及びロール角が生じる。従って、この態様では、情報処理装置は、路面上に描かれた地物の位置情報に基づき路面を近似した平面の法線ベクトルを算出する。これにより、情報処理装置は、算出した法線ベクトルと移動体の向きとの関係に基づき、移動体のピッチ角又はロール角の少なくとも一方を好適に算出することができる。
【0010】
上記情報処理装置の一態様では、前記角度算出部は、水平面上において前記移動体の進行方向の向きを示すベクトルと、前記法線ベクトルとの内積に基づき、前記ピッチ角を算出する。この態様により、情報処理装置は、移動体の水平面上での進行方向と近似平面の法線ベクトルとのなす角に基づき、移動体のピッチ角を好適に求めることができる。
【0011】
上記情報処理装置の他の一態様では、前記角度算出部は、水平面上において前記移動体の横方向の向きを示すベクトルと、前記法線ベクトルとの内積に基づき、前記ロール角を算出する。この態様により、情報処理装置は、移動体の水平面上での横方向と近似平面の法線ベクトルとのなす角に基づき、移動体のロール角を好適に求めることができる。
【0012】
上記情報処理装置の他の一態様では、情報処理装置は、前記移動体に設けられた計測部が出力する地物の計測データを前記ピッチ角又はロール角の少なくとも一方に基づき座標変換したデータと、地図データに登録された前記地物の位置情報との照合を行うことで、前記移動体の位置推定を行う位置推定部をさらに有する。この態様では、情報処理装置は、計測部が出力する計測データと、地図データに基づく地物の位置情報との照合(マッチング)により移動体の位置推定を行う。このとき、情報処理装置は、算出したピッチ角又はロール角に基づき計測データを座標変換する。これにより、情報処理装置は、坂道や横断勾配が高い道路上での走行により車両のピッチ角又はロール角の変化が生じた場合であっても、計測データを用いて好適に移動体の位置推定を行うことができる。
【0013】
上記情報処理装置の他の一態様では、前記地図データには、複数の地物の位置情報が登録されており、前記位置推定部は、前記移動体の周辺の地物が前記複数の地物に含まれる場合、当該周辺の地物の前記座標変換したデータが含まれると予測される予測範囲を前記周辺の地物の位置情報に基づき設定し、当該予測範囲に含まれる前記データと、前記周辺の地物の位置情報との照合を行うことで、前記移動体の位置推定を行う。情報処理装置は、算出したピッチ角又はロール角に基づき計測データを座標変換することで、ピッチ角又はロール角が生じる路面上を車両が走行する場合でも、計測対象の地物の計測データを、当該地物の位置情報に基づき設定した予測範囲内に含めることができる。よって、情報処理装置は、坂道や横断勾配が高い道路上での走行により車両のピッチ角又はロール角の変化が生じた場合であっても、計測部により得られる地物の計測データを用いて好適に移動体の位置推定を行うことができる。
【0014】
上記情報処理装置の他の一態様では、情報処理装置は、前記近似した平面の方程式に基づき算出される当該平面の基準位置からの高さと、前記移動体の路面からの高さの情報とに基づき、前記移動体の基準位置からの高さを算出する高さ算出部をさらに備える。基準位置は、地図などで用いられる絶対座標系において基準となる位置であって、例えば標高0mの位置を示す。この態様によれば、情報処理装置は、ピッチ角又はロール角の算出に用いる平面の方程式に基づき、移動体の基準位置からの高さを好適に算出することができる。
【0015】
本発明の他の好適な実施形態によれば、情報処理装置が実行する制御方法であって、地物の位置情報を含む地図データから、移動体の近傍に存在する、路面上に描かれた地物の複数の位置情報を取得し、前記複数の位置情報に基づき求めた近似した平面に対する法線ベクトルを算出し、前記移動体の車両の向きと、前記法線ベクトルとに基づき、前記移動体のピッチ角又はロール角の少なくとも一方を算出する。情報処理装置は、この制御方法を実行することで、路面上に描かれた地物の複数の位置情報に基づく近似平面の法線ベクトルと移動体の向きとの関係に基づき、移動体のピッチ角又はロール角の少なくとも一方を好適に算出することができる。
【0016】
本発明の他の好適な実施形態によれば、プログラムは、地物の位置情報を含む地図データから、移動体の近傍に存在する、路面上に描かれた地物の複数の位置情報を取得する取得部と、前記複数の位置情報に基づき求めた近似した平面に対する法線ベクトルを算出する法線ベクトル算出部と、前記移動体の車両の向きと、前記法線ベクトルとに基づき、前記移動体のピッチ角又はロール角の少なくとも一方を算出する角度算出部としてコンピュータを機能させる。コンピュータは、このプログラムを実行することで、路面上に描かれた地物の複数の位置情報に基づく近似平面の法線ベクトルと移動体の向きとの関係に基づき、移動体のピッチ角又はロール角の少なくとも一方を好適に算出することができる。好適には、上記プログラムは、記憶媒体に記憶される。
【実施例0017】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。なお、任意の記号の上に「^」または「-」が付された文字を、本明細書では便宜上、「A」または「A」(「A」は任意の文字)と表す。
【0018】
(1)運転支援システムの概要
図1は、本実施例に係る運転支援システムの概略構成である。運転支援システムは、移動体である車両と共に移動する車載機1と、ライダ(Lidar:Light Detection and Ranging、または、Laser Illuminated Detection And Ranging)2と、ジャイロセンサ3と、車速センサ4と、GPS受信機5とを有する。
【0019】
車載機1は、ライダ2、ジャイロセンサ3、車速センサ4、及びGPS受信機5と電気的に接続し、これらの出力に基づき、車載機1が設けられた車両の位置(「自車位置」とも呼ぶ。)の推定を行う。そして、車載機1は、自車位置の推定結果に基づき、設定された目的地への経路に沿って走行するように、車両の自動運転制御などを行う。車載機1は、道路付近に設けられた目印となる地物や区画線などのランドマークに関する情報(「ランドマークデータLD」と呼ぶ。)及び道路データ等を含む地図データベース(DB:DataBase)10を記憶する。そして、車載機1は、このランドマークデータLDが示すランドマークの位置とライダ2の計測結果とを照合させて自車位置の推定を行う。
【0020】
ライダ2は、水平方向および垂直方向の所定の角度範囲に対してパルスレーザを出射することで、外界に存在する物体までの距離を離散的に測定し、当該物体の位置を示す3次元の点群情報を生成する。この場合、ライダ2は、照射方向を変えながらレーザ光を照射する照射部と、照射したレーザ光の反射光(散乱光)を受光する受光部と、受光部が出力する受光信号に基づくスキャンデータを出力する出力部とを有する。スキャンデータは、受光部が受光したレーザ光に対応する照射方向と、上述の受光信号に基づき特定される当該レーザ光の応答遅延時間とに基づき生成される。なお、一般的に、対象物までの距離が近いほどライダの距離測定値の精度は高く、距離が遠いほど精度は低い。ライダ2、ジャイロセンサ3、車速センサ4、GPS受信機5は、それぞれ、出力データを車載機1へ供給する。なお、車載機1は、本発明における「情報処理装置」の一例であり、ライダ2は、本発明における「計測部」の一例である。
【0021】
なお、運転支援システムは、ジャイロセンサ3に代えて、又はこれに加えて、3軸方向における計測車両の加速度及び角速度を計測する慣性計測装置(IMU)を有してもよい。
【0022】
(2)車載機の構成
図2は、車載機1の機能的構成を示すブロック図である。車載機1は、主に、インターフェース11と、記憶部12と、通信部13と、入力部14と、制御部15と、情報出力部16と、を有する。これらの各要素は、バスラインを介して相互に接続されている。
【0023】
インターフェース11は、ライダ2、ジャイロセンサ3、車速センサ4、及びGPS受信機5などのセンサから出力データを取得し、制御部15へ供給する。また、インターフェース11は、制御部15が生成した車両の走行制御に関する信号を車両の電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)へ供給する。
【0024】
記憶部12は、制御部15が実行するプログラムや、制御部15が所定の処理を実行するのに必要な情報を記憶する。本実施例では、記憶部12は、ランドマークデータLDを含む地図DB10を記憶する。図3は、地図DB10のデータ構造の一例を示す。図3に示すように、地図DB10は、施設情報、道路データ、及びランドマークデータLDを含む。
【0025】
ランドマークデータLDは、ランドマークとなる地物ごとに当該地物に関する情報が関連付けられた情報であり、ここでは、ランドマークのインデックスに相当するランドマークIDと、位置情報と、種別情報と、サイズ情報とを含む。位置情報は、緯度及び経度(及び標高)等により表わされたランドマークの絶対的な位置を示す。なお、ランドマークが区画線(路面上に描かれた地物)の場合、対応する位置情報として、区画線の離散的な位置を示す座標データが少なくとも含まれている。種別情報は、ランドマークの種別を示す情報であり、少なくとも対象のランドマークが区画線であるか否かを識別可能な情報である。サイズ情報は、ランドマークの大きさを表す情報であり、例えば、ランドマークの縦又は/及び横の長さ(幅)を示す情報であってもよく、ランドマークに形成された面の面積を示す情報であってもよい。
【0026】
なお、地図DB10は、定期的に更新されてもよい。この場合、例えば、制御部15は、通信部13を介し、地図情報を管理するサーバ装置から、自車位置が属するエリアに関する部分地図情報を受信し、地図DB10に反映させる。なお、記憶部12は、地図DB10を記憶しなくともよい。この場合、例えば、制御部15は、通信部13を介して、ランドマークデータLDを含む地図データを記憶するサーバ装置と通信を行うことで、自車位置推定処理等に必要な情報を必要なタイミングにより取得する。
【0027】
入力部14は、ユーザが操作するためのボタン、タッチパネル、リモートコントローラ、音声入力装置等であり、経路探索のための目的地を指定する入力、自動運転のオン及びオフを指定する入力などを受け付ける。情報出力部16は、例えば、制御部15の制御に基づき出力を行うディスプレイやスピーカ等である。
【0028】
制御部15は、プログラムを実行するCPUなどを含み、車載機1の全体を制御する。本実施例では、制御部15は、姿勢角算出部17と、自車位置推定部18とを有する。制御部15は、本発明における「取得部」、「法線ベクトル算出部」、「角度算出部」、「位置推定部」、「高さ算出部」及びプログラムを実行する「コンピュータ」の一例である。
【0029】
姿勢角算出部17は、ランドマークデータLDを参照し、車両のピッチ角又はロール角の少なくとも一方を算出する。自車位置推定部18は、インターフェース11から供給される各センサの出力信号及び地図DB10に基づき、車載機1が載置された車両の位置(自車位置)の推定を行う。本実施例では、自車位置推定部18は、後述するように、車両の平面位置(即ち緯度及び経度により特定される水平面上の位置)とヨー角(即ち方位)とを推定パラメータとして設定する。
【0030】
(3)自車位置推定の概要
まず、自車位置推定部18による自車位置の推定処理の概要について説明する。
【0031】
自車位置推定部18は、ランドマークに対するライダ2による距離及び角度の計測値と、地図DB10から抽出したランドマークの位置情報とに基づき、ジャイロセンサ3、車速センサ4、及び/又はGPS受信機5の出力データから推定した自車位置を補正する。本実施例では、自車位置推定部18は、ベイズ推定による状態推定手法に基づき、ジャイロセンサ3、車速センサ4等の出力データから自車位置を予測する予測ステップと、直前の予測ステップで算出した自車位置の予測値を補正する計測更新ステップとを交互に実行する。これらのステップで用いる状態推定フィルタは、ベイズ推定を行うように開発された様々のフィルタが利用可能であり、例えば、拡張カルマンフィルタ、アンセンテッドカルマンフィルタ、パーティクルフィルタなどが該当する。このように、ベイズ推定に基づく位置推定は、種々の方法が提案されている。
【0032】
本実施例では、一例として、自車位置推定部18は、拡張カルマンフィルタを用いた自車位置推定を行う。以下では、拡張カルマンフィルタを用いた自車位置推定について簡略的に説明する。
【0033】
図4は、状態変数ベクトルを2次元直交座標で表した図である。図4に示すように、xyの2次元直交座標上で定義された平面での自車位置は、座標「(x、y)」、自車の方位(ヨー角)「ψ」により表される。ここでは、ヨー角ψは、車の進行方向とx軸とのなす角として定義されている。座標(x、y)は、例えば緯度及び経度の組合せに相当する絶対位置、あるいは所定地点を原点とした位置を示すワールド座標である。
【0034】
図5は、予測ステップと計測更新ステップとの概略的な関係を示す図である。図6は、自車位置推定部18の機能ブロックの一例を示す。図6に示すように、自車位置推定部18は、デッドレコニングブロック21と、位置予測ブロック22と、座標変換ブロック23と、ランドマーク探索・抽出ブロック24と、位置補正ブロック25とを有する。
【0035】
図5に示すように、自車位置推定部18は、予測ステップと計測更新ステップとを繰り返すことで、自車位置を示す状態変数ベクトル「X」の推定値の算出及び更新を逐次的に実行する。なお、図5では、計算対象となる基準時刻(即ち現在時刻)「t」の状態変数ベクトルを、「X(t)」または「X^(t)」と表記している(「状態変数ベクトルX(t)=(x(t)、y(t)、ψ(t))」と表記する)。ここで、予測ステップで推定された暫定的な推定値(予測値)には当該予測値を表す文字の上に「-」を付し、計測更新ステップで更新された,より精度の高い推定値には当該値を表す文字の上に「^」を付す。
【0036】
具体的には、図5及び図6に示すように、予測ステップでは、自車位置推定部18のデッドレコニングブロック21は、車両の移動速度「v」と角速度「ω」(これらをまとめて「制御値u(t)=(v(t)、ω(t))」と表記する。)を用い、前回時刻からの移動距離と方位変化を求める。自車位置推定部18の位置予測ブロック22は、直前の計測更新ステップで算出された時刻t-1の状態変数ベクトルX(t-1)に対し、求めた移動距離と方位変化を加えて、時刻tの自車位置の予測値(「予測自車位置」とも呼ぶ。)X(t)を算出する。また、これと同時に、予測自車位置X(t)の誤差分布に相当する共分散行列「P(t)」を、直前の計測更新ステップで算出された時刻t-1での共分散行列「P(t-1)」から算出する。
【0037】
計測更新ステップでは、自車位置推定部18の座標変換ブロック23は、ライダ2から出力される点群データを、地図DB10と同一の座標系であるワールド座標系に変換する。この場合、座標変換ブロック23は、時刻tで位置予測ブロック22が出力する予測自車位置(即ち車両の平面位置及び方位)と、時刻tで姿勢角算出部17が出力する車両の高さと姿勢角(ここではピッチ角又はロール角の少なくとも一方)とに基づき、時刻tでライダ2が出力する点群データの座標変換を行う。この座標変換の詳細については後述する。
【0038】
そして、自車位置推定部18のランドマーク探索・抽出ブロック24は、地図DB10に登録された計測対象のランドマークの位置ベクトルと、座標変換ブロック23によりワールド座標系に変換されたライダ2の点群データとの対応付けを行う。この場合、ランドマーク探索・抽出ブロック24は、ランドマークデータLDと、位置予測ブロック22が出力する予測自車位置と、に基づき、ライダ2による検出範囲内でのランドマークの存否を判定する。そして、ランドマーク探索・抽出ブロック24は、検出可能なランドマークがランドマークデータLDに登録されている場合には、当該ランドマークを検出する範囲を定める予測ウィンドウ「Wp」を設定する。この場合、ランドマーク探索・抽出ブロック24は、座標変換されたライダ2の点群データの座標(ワールド座標)空間において、ランドマークデータLDに基づく対象のランドマークの位置情報を中心とする所定サイズの予測ウィンドウWpを設定する。予測ウィンドウWpは、例えば立方体であってもよい。そして、ランドマーク探索・抽出ブロック24は、予測ウィンドウWp内において、所定の閾値以上の反射率となる高反射率の点群データの計測点の有無を判定する。そして、ランドマーク探索・抽出ブロック24は、このような計測点が存在する場合に、上述の対応付けができたと判定し、対応付けができたランドマークのライダ2による計測値「Z(t)」と、予測自車位置X(t)及び地図DB10に基づくランドマークの位置を示すベクトル値である計測予測値「Z(t)」とを決定する。この場合、ランドマーク探索・抽出ブロック24は、予測ウィンドウWp内において点群データから抽出した計測点が示す位置の代表位置(例えば座標値の平均に基づく位置)を、対象のランドマークの計測値Z(t)として算出する。
【0039】
そして、自車位置推定部18の位置補正ブロック25は、以下の式(1)に示すように、計測値Z(t)と計測予測値Z(t)との差分値にカルマンゲイン「K(t)」を乗算し、これを予測自車位置X(t)に加えることで、更新された状態変数ベクトル(「推定自車位置」とも呼ぶ。)X(t)を算出する。
【0040】
【数1】
また、計測更新ステップでは、自車位置推定部18の位置補正ブロック25は、予測ステップと同様、推定自車位置X(t)の誤差分布に相当する共分散行列P(t)(単にP(t)とも表記する)を共分散行列P(t)から求める。カルマンゲインK(t)等のパラメータについては、例えば拡張カルマンフィルタを用いた公知の自己位置推定技術と同様に算出することが可能である。
【0041】
なお、自車位置推定部18は、複数の地物に対し、地図DB10に登録された地物の位置ベクトルとライダ2のスキャンデータとの対応付けができた場合、選定した任意の一組の計測予測値及び計測値等に基づき計測更新ステップを行ってもよく、対応付けができた全ての計測予測値及び計測値等に基づき計測更新ステップを複数回行ってもよい。なお、複数の計測予測値及び計測値等を用いる場合には、自車位置推定部18は、ライダ2から遠い地物ほどライダ計測精度が悪化することを勘案し、ライダ2と地物との距離が長いほど、当該地物に関する重み付けを小さくするとよい。
【0042】
このように、予測ステップと計測更新ステップが繰り返し実施され、予測自車位置X(t)と推定自車位置X(t)が逐次的に計算されることにより、もっとも確からしい自車位置が計算される。
【0043】
(4)姿勢角の算出
次に、ランドマークデータLDを用いた姿勢角算出部17による車両の姿勢角であるピッチ角及びロール角の算出方法について説明する。
【0044】
(4-1)ピッチ角の算出
まず、姿勢角算出部17による車両のピッチ角の算出方法について説明する。
【0045】
姿勢角算出部17は、ランドマークデータLDを参照し、自車位置推定部18が予測又は推定した自車平面位置x、y(即ち(x、y)又は(x、y))の周辺に存在する区画線(白線)を探索する。そして、姿勢角算出部17は、探索した区画線に対応するランドマークデータLDを参照し、当該区画線の「n」個のワールド座標系の位置情報を取得する。なお、ランドマークが区画線の場合、ランドマークデータLDには、位置情報として、例えば数メートル間隔で、区画線の離散的な位置(離散点)を示す緯度経度高度の座標データが含まれている。姿勢角算出部17が取得する区画線のn個のワールド座標系の位置情報は、「路面上に描かれた地物の複数の位置情報」の一例である。
【0046】
図7(A)は、区画線60~62の位置情報を明示した道路上の車両の俯瞰図である。図7(B)は、区画線62の位置情報を明示した道路上の車両の側面図である。図7(A)では、区画線60~62が存在する道路を車両が走行している。そして、区画線60には、ランドマークデータLDに登録された位置情報が示す位置P1~P3が存在し、区画線61には、ランドマークデータLDに登録された位置情報が示す位置P4~P6が存在し、区画線62には、ランドマークデータLDに登録された位置情報が示す位置P7~P14が存在する。
【0047】
この場合、姿勢角算出部17は、ランドマークデータLDを参照し、自車位置推定部18が予測又は推定した自車平面位置x、y(ここでは(x、y))から所定距離以内に区画線60~62が存在することを認識する。そして、姿勢角算出部17は、当該区画線60~62に対応するランドマークデータLDを参照することで、区画線60~62上の計14個(即ちn=14)の位置P1~P14のワールド座標系の位置情報を取得する。
【0048】
次に、姿勢角算出部17は、路面を平面とみなし、路面を近似した平面の方程式を、以下の式(2)により表す。
【0049】
【数2】
そして、姿勢角算出部17は、算出したn個の区画線位置ベクトル
(x、y、z)、(x、y、z)、…、(x、y、z
を式(2)に代入することで、式(3)に示されるn個の式からなる連立方程式を得る。
【0050】
【数3】
ここで、式(3)を行列により表現すると、以下の式(4)が得られる。
【0051】
【数4】
ここで、左辺のn×3型行列を「C」、同左辺の3×1型行列(ベクトル)を「a」、右辺のn×1型行列(ベクトル)を「b」とすると、式(4)は、以下の式(5)により表される。
【0052】
【数5】
そして、式(5)を変形すると、正規方程式として以下の式(6)が得られる。
【0053】
【数6】
従って、姿勢角算出部17は、nが3以上の場合には、以下の式(7)に基づく最小2乗法により、式(2)に示す平面方程式の係数ベクトル「a=[a、b、c]」を算出することができる。
【0054】
【数7】
また、式(2)の平面方程式を変形すると、以下の式(8)が得られる。
【0055】
【数8】
式(8)から、平面の法線ベクトル「Vn」は、以下の式(9)により表される。
【0056】
【数9】
また、姿勢角算出部17は、xy平面上での車両の向きベクトル「Vx」を、自車位置推定部18により予測又は推定されるヨー角に基づき決定する。図8は、車両のヨー角(ここではψとする)と進行方向ベクトルVxとの関係を示すxy平面図である。進行方向ベクトルVxのz成分は0であり、かつ、x成分及びy成分は、夫々、車両のヨー角の余弦及び正弦に比例することから、進行方向ベクトルVxは、以下の式(10)により与えられる。
【0057】
【数10】
この場合、法線ベクトルVnと進行方向ベクトルVxのなす角「θ’」は、法線ベクトルVnと進行方向ベクトルVxとの内積計算を含む以下の式(11)により示される。
【0058】
【数11】
そして、姿勢角算出部17は、法線ベクトルVnと進行方向ベクトルVxのなす角θ’に基づき、車両のピッチ角「θ」を算出する。
【0059】
図9は、法線ベクトルVnと進行方向ベクトルVxのなす角θ’と車両のピッチ角θとの関係を示す図である。図9に示すように、法線ベクトルVnと進行方向ベクトルVxのなす角θ’は、車両のピッチ角θよりも90度(即ちπ/2)だけ大きい。また、車両は路面に拘束されていることから、車両の進行方向における路面の傾きは、車両のピッチ角θに等しい。よって、姿勢角算出部17は、以下の式(12)に基づき、ピッチ角θを算出する。
【0060】
【数12】
このように、姿勢角算出部17は、区画線のランドマークデータLDに基づくn個の区画線位置ベクトルから算出した平面方程式の係数ベクトルと、自車位置推定部18が予測又は推定したヨー角とに基づき、好適に車両のピッチ角を算出することができる。
なお、式(7)で求めた係数ベクトル「a=[a、b、c]」と自車平面位置x、yを式(2)に代入することで、車両の高さz若しくはzを求めることができる。
【0061】
(4-2)ロール角の推定
姿勢角算出部17は、ピッチ角の算出と同様、ランドマークデータLDに基づくn個の区画線位置ベクトルに基づき、式(9)に示される法線ベクトルVnを算出する。
【0062】
また、姿勢角算出部17は、xy平面上での車両の横方向ベクトル「V」を、自車位置推定部18により予測又は推定されるヨー角に基づき決定する。図10は、車両のヨー角(ここではψとする)と横方向ベクトルVとの関係を示すxy平面図である。図10に示すように、横方向ベクトルVは、自車位置推定部18により予測又は推定されるヨー角(ここではψとする)を、xy平面に沿って90度(π/2)だけ回転させた方向に相当する。よって、横方向ベクトルVは、以下の式(13)により与えられる。
【0063】
【数13】
この場合、法線ベクトルVnと横方向ベクトルVとのなす角「φ’」は、法線ベクトルVnと横方向ベクトルVとの内積計算を含む以下の式(14)により示される。
【0064】
【数14】
そして、姿勢角算出部17は、法線ベクトルVnと横方向ベクトルVのなす角φ’に基づき、車両のロール角「φ」を算出する。
【0065】
図11は、法線ベクトルVnと横方向ベクトルVのなす角φ’と車両のロール角φとの関係を示す図である。図11に示すように、法線ベクトルVnと横方向ベクトルVのなす角φ’は、車両のロール角φよりも90度(即ちπ/2)だけ大きい。また、車両は路面に拘束されていることから、車両の横方向における路面の傾きは、車両のロール角φに等しい。よって、姿勢角算出部17は、以下の式(15)に基づき、ロール角φを算出する。
【0066】
【数15】
このように、姿勢角算出部17は、ランドマークデータLDに基づくn個の区画線位置ベクトルから算出した平面方程式の係数ベクトルと、自車位置推定部18が予測又は推定したヨー角とに基づき、好適に車両のロール角を算出することができる。
【0067】
(5)点群データの座標変換
次に、姿勢角算出部17が算出したピッチ角による点群データの座標変換について説明する。
【0068】
自車位置推定部18の座標変換ブロック23は、姿勢角算出部17が算出したピッチ角θを用いて、以下の式(16)に示す回転行列「Rθ」を生成する。
【0069】
【数16】
ここで、ライダ2によりn個の3次元データを検出した場合、これらのn個の3次元データを行列により表した「X」は、以下の式(17)により表される。
【0070】
【数17】
この場合、座標変換ブロック23は、以下の式(18)により、ピッチ角θに関する点群データの座標変換を行う。
【0071】
【数18】
その後、座標変換ブロック23は、式(18)のX’の各行に対応するn個の3次元データに対し、予測又は推定された3次元の自車位置(x、y、z)の値を加算する。これにより、x、y、zの3次元位置についてもワールド座標系に変換された点群データが生成される。そして、座標変換ブロック23は、ワールド座標系に変換された点群データを、ランドマーク探索・抽出ブロック24に供給する。
【0072】
次に、ピッチ角θとロール角φの両方を勘案した座標変換について説明する。座標変換ブロック23は、姿勢角算出部17が算出したピッチ角θに基づく回転行列Rθと、ロール角φに基づく回転行列「Rφ」とを用いて、ライダ2が出力するn個の3次元データを示す行列Xに乗じる回転行列「R」を、以下の式(19)に基づき作成する。
【0073】
【数19】
この場合、位置予測ブロック22は、以下の式(20)によりピッチ角θ及びロール角φに関する点群データのワールド座標系への座標変換を行う。
【0074】
【数20】
その後、座標変換ブロック23は、式(20)のX’に対しヨー角ψに基づく回転行列を同様に乗じることで、ヨー角ψに関する点群データのワールド座標系への座標変換を行う。また、座標変換ブロック23は、座標変換後のX’の各行に対応するn個の3次元データに対し、予測又は推定した自車位置(x、y、z)の値を加算することで、3次元位置に関するワールド座標系への座標変換を行う。そして、座標変換ブロック23は、上述の処理によりワールド座標系に変換された点群データを、ランドマーク探索・抽出ブロック24に供給する。
【0075】
なお、座標変換ブロック23は、ライダ2が計測した距離及びスキャン角度の組み合わせに基づくライダ2を基準とした3次元上の位置の各々を示す点群データを、車両座標系に変換する処理をさらに行ってもよい。車両座標系は、車両の進行方向と横方向を軸とした車両の座標系である。この場合、座標変換ブロック23は、ライダ2の車両に対する設置位置及び設置角度の情報に基づき、ライダ2を基準とした座標系から車両座標系に点群データを変換し、車両座標系に変換した点群データを、さらに上述した方法によりワールド座標系に変換する。車両に設置されたライダが出力する点群データを車両座標系に変換する処理については、例えば、国際公開WO2019/188745などに開示されている。
【0076】
また、座標変換ブロック23は、ピッチ角θとロール角φのうちロール角φのみを勘案した座標変換を行ってもよい。この場合、座標変換ブロック23は、式(19)に示される回転行列Rφを、ライダ2が出力するn個の3次元データを示す行列Xに乗じればよい。
【0077】
次に、上述の座標変換による効果について、図12及び図13を参照して補足説明する。
【0078】
図12(A)は、平坦な路面を走行する車両及び道路の側面図である。この場合、自車位置推定部18は、ランドマークデータLDを参照し、現在位置周辺に存在する標識「L1」をランドマークとして抽出した場合、当該標識L1の位置情報から標識L1の基準位置からの高さ(例えば標高)「h」を取得する。そして、自車位置推定部18は、この場合、予測又は推定された車両高さz(ここでは推定車両高さzとする)と標識L1との差「h-z」だけ車両より高い位置に予測ウィンドウWpを設定する。そして、自車位置推定部18は、予測ウィンドウWpの中にある反射強度の高いライダ2の点群データの計測点の平均値等に基づき計測値Z(t)を算出し、式(1)に基づく自車位置推定を行う。
【0079】
図12(B)は、点群データに車両のピッチ角に基づく座標変換を行わない場合において、勾配が大きい路面を走行する車両及び道路の側面図である。図12(B)では、路面勾配により車両にピッチ角が生じるため、点群データが上向きになる。よって、自車位置推定部18は、車両高さzとランドマークデータLDに基づく標識L1の高さとの差「h-z」だけ車両より高い位置を中心とする予測ウィンドウWpを設定した場合、予測ウィンドウWpに標識L1が含まれなくなる。よって、自車位置推定部18は、この場合、標識L1に対応するライダ2の点群データの計測点を検出できず、標識L1をランドマークとする自車位置推定処理を実行することができない。
【0080】
図13は、本実施例に基づき点群データに車両のピッチ角に基づく座標変換を行う場合に、勾配が大きい路面を走行する車両及び道路の側面図である。この場合、実施例に基づく算出手法により求めたピッチ角を用いた回転行列により、ライダ2が出力する点群データは、車両のピッチ角を考慮したワールド座標系への変換が行われる。従って、この場合、車両から点群データの各計測点までの高さは、ワールド座標系での高さとなる。よって、この場合、自車位置推定部18は、車両高さzと標識L1の高さとの差「h-z」だけ車両より高い位置を中心とする予測ウィンドウWpを設定することで、ライダ2が出力する点群データから、標識L1に対応する計測点を抽出することができる。
【0081】
バンクなどの横断勾配が存在する道路を走行する場合においても、車載機1は、点群データに車両のロール角に基づく座標変換を行うことで、設定した予測ウィンドウWpに基づき、計測対象となるランドマークの計測点を点群データから好適に抽出することができる。
【0082】
(6)処理フロー
次に、上述したピッチ角及びロール角の推定を含む車両の位置姿勢推定処理の具体的な処理フローについて、フローチャートを参照して説明する。
【0083】
(6-1)車両位置姿勢推定処理の概要
図14は、車両の位置姿勢推定処理の手順を示すフローチャートの一例である。車載機1の姿勢角算出部17及び自車位置推定部18は、図14に示すフローチャートの処理を、車両の位置及び姿勢の推定を行うべき所定の時間間隔毎に繰り返し実行する。なお、図14の各ステップの右に表示されている記号は、各ステップで算出される要素を表す。
【0084】
まず、自車位置推定部18のデッドレコニングブロック21は、ジャイロセンサ3、車速センサ4、及びGPS受信機5等の出力に基づく車両の移動速度と角速度を用いて、前回時刻からの移動距離と方位変化を求める。これにより、自車位置推定部18の位置予測ブロック22は、1時刻前(直前の処理時刻)に得られた推定自車位置x、y、ψから、現時刻の予測自車位置x、y、ψを算出する(ステップS11)。
【0085】
次に、姿勢角算出部17は、車両の高さ(例えば標高)・ロール角・ピッチ角の推定処理を行うことで、予測車両高さ「z」、予測ロール角「φ」及び予測ピッチ角「θ」を算出する(ステップS12)。この処理については、図15を参照して後述する。
【0086】
そして、自車位置推定部18の座標変換ブロック23は、ステップS12で算出されたロール角・ピッチ角に基づく回転行列R(式(19)参照)を生成する(ステップS13)。そして、座標変換ブロック23は、点群データをワールド座標系のデータに変換する(ステップS14)。その後、自車位置推定部18(ランドマーク探索・抽出ブロック24及び位置補正ブロック25)は、座標変換後の点群データとランドマークデータLDとを用いて式(1)に基づく自車位置推定処理を行い、現時刻での推定自車位置x、y、ψを算出する(ステップS15)。その後、姿勢角算出部17は、算出された現時刻での推定自車位置x、y、ψを用いて、再びステップS12と同様の車両の高さ・ロール角・ピッチ角推定処理を行うことで、推定車両高さ「z」、推定ロール角「φ」及び推定ピッチ角「θ」を算出する(ステップS16)。この処理については、図15を参照して後述する。
【0087】
(6-2)車両高さ・ロール角・ピッチ角推定処理
図15は、図14のステップS12及びステップS16で実行する車両高さ・ロール角・ピッチ角推定処理の手順を示すフローチャートの一例である。
【0088】
まず、姿勢角算出部17は、ランドマークデータLDを参照し、予測自車位置x、y又は推定自車位置x、yの周辺に存在する区画線の位置情報を抽出する(ステップS21)。例えば、姿勢角算出部17は、予測自車位置x、y又は推定自車位置x、yから所定距離以内の位置を示す座標データを含む区画線のランドマークデータLDを地図DB10から抽出する。
【0089】
次に、姿勢角算出部17は、ステップS21で抽出した区画線の座標データが3個未満であるか否か判定する(ステップS22)。そして、姿勢角算出部17は、ステップS21で抽出した区画線の座標データが3個未満である場合(ステップS22;Yes)、1時刻前の予測車両高さz又は推定車両高さzを、求めるべき予測車両高さz又は推定車両高さzとして定める(ステップS28)。さらに、ステップS28では、姿勢角算出部17は、1時刻前に算出したロール角φ(φ若しくはφ)又はピッチ角θ(θ若しくはθ)を、求めるべき現時刻でのロール角φ(φ若しくはφ)又はピッチ角θ(θ若しくはθ)として定める。
【0090】
一方、ステップS21で抽出した区画線の座標データの数nが3個以上(n≧3)である場合(ステップS22;No)、姿勢角算出部17は、ワールド座標系のn個の区画線の座標データから、式(4)及び式(5)に従い行列Cとベクトルbを作成する(ステップS23)。次に、姿勢角算出部17は、式(7)に基づき、最小2乗法により係数ベクトルaを算出し、予測自車位置x、y又は推定自車位置x、yを式(2)の平面方程式に代入することで、現時刻での予測車両高さz又は推定車両高さzを算出する(ステップS24)。
【0091】
次に、姿勢角算出部17は、算出した係数ベクトルaから、式(9)に示される法線ベクトルVnを特定する(ステップS25)。そして、姿勢角算出部17は、予測又は推定された車両のヨー角(方位)ψ(ψ若しくはψ)を用いて、式(10)に示される進行方向ベクトルVx及び式(13)により示される横方向ベクトルVを算出する(ステップS26)。その後、姿勢角算出部17は、式(11)に基づき法線ベクトルVnと進行方向ベクトルVxの内積を算出すると共に、式(14)に基づき法線ベクトルVnと横方向ベクトルVの内積を算出し、求めるべき現時刻でのロール角φ(φ若しくはφ)又はピッチ角θ(θ若しくはθ)を算出する(ステップS27)。
【0092】
以上説明したように、本実施例に係る車載機1の制御部15は、地物の位置情報を含む地図データであるランドマークデータLDから、車両の近傍に存在する、路面上に描かれた地物の複数の位置情報を取得する。そして、制御部15は、取得した複数の位置情報に基づき求めた近似平面に対する法線ベクトルを算出する。そして、制御部15は、自車両の向きと、法線ベクトルとに基づき、自車両のピッチ角又はロール角の少なくとも一方を算出する。この態様により、車載機1は、ランドマークデータLDに基づき、ピッチ角又はロール角の少なくとも一方を高精度に算出することができる。
【0093】
(7)変形例
以下、上述の実施例に好適な変形例について説明する。以下の変形例は、組み合わせてこれらの実施例に適用してもよい。
【0094】
(変形例1)
車載機1は、式(1)に基づく自車位置推定を行わない場合においても、実施例に基づく車両のピッチ角又はロール角の少なくともいずれかの推定を行ってもよい。
【0095】
この場合、例えば、車載機1は、図14において、ステップS11とステップS12を繰り返し実行することで、ランドマークデータLDに基づき車両のピッチ角又はロール角の少なくともいずれかの推定を繰り返し行う。この場合であっても、車載機1は、推定したピッチ角又は/及びロール角を、ライダ2等の外界センサの出力データの座標変換又は坂道(バンク)検出処理などの種々の応用に使用することが可能である。
【0096】
(変形例2)
図1に示す運転支援システムの構成は一例であり、本発明が適用可能な運転支援システムの構成は図1に示す構成に限定されない。例えば、運転支援システムは、車載機1を有する代わりに、車両の電子制御装置が車載機1の姿勢角算出部17及び自車位置推定部18の処理を実行してもよい。この場合、地図DB10は、例えば車両内の記憶部又は車両とデータ通信を行うサーバ装置に記憶され、車両の電子制御装置は、この地図DB10を参照することで、ロール角又は/及びピッチ角の推定及び式(1)に基づく自車位置推定などを実行する。
【0097】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。すなわち、本願発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。また、引用した上記の特許文献等の各開示は、本書に引用をもって繰り込むものとする。
【符号の説明】
【0098】
1 車載機
2 ライダ
3 ジャイロセンサ
4 車速センサ
5 GPS受信機
10 地図DB
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15