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特開2023-54402射出圧力測定装置、射出圧力測定方法および成形システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054402
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】射出圧力測定装置、射出圧力測定方法および成形システム
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/32 20060101AFI20230407BHJP
   B22D 17/20 20060101ALI20230407BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20230407BHJP
   B29C 45/17 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
B22D17/32 J
B22D17/20 Z
B29C45/26
B29C45/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163217
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 高弘
(72)【発明者】
【氏名】福島 聡
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AP03
4F202AP04
4F202AR03
4F202AR04
4F202CA11
4F202CB01
4F202CM02
4F202CM03
4F202CS10
4F206AP03
4F206AP04
4F206AR03
4F206AR04
4F206JA07
4F206JL02
4F206JM04
4F206JP13
4F206JP27
4F206JQ81
4F206JQ88
4F206JT33
(57)【要約】
【課題】人手による格別な作業を加えることなく、射出圧力を正確に測定できる装置を提供すること。
【解決手段】本発明の射出圧力測定装置は、金型(14,15)に臨み、成形体を金型(14,15)から押し出す押出ピン(21)と、押出ピン(21)の駆動源であるサーボモータ(35)と、サーボモータ(35)の駆動を制御するコントローラ(5)と、を備える。コントローラ(5)は、金型のキャビティ(16)に充填される成形体の溶融原料が押出ピン(21)を押圧することで生ずるサーボモータ(35)のトルクに基づいて、溶融原料の射出圧力(IP)を求める。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型に臨み、成形体を前記金型のキャビティから押し出す押出ピンと、
前記押出ピンの駆動源であるサーボモータと、
前記サーボモータの駆動を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記キャビティに充填される前記成形体の溶融原料が前記押出ピンを押圧することで生ずる前記サーボモータのトルクに基づいて、前記溶融原料の射出圧力を求める、
ことを特徴とする射出圧力測定装置。
【請求項2】
前記コントローラの指示に基づいて前記射出圧力を表示するディスプレイを備える、
請求項1に記載の射出圧力測定装置。
【請求項3】
前記ディスプレイは、
進行中の成形について求められる前記射出圧力を即時に表示するか、または、
過去に求められた前記射出圧力を表示する、
請求項2に記載の射出圧力測定装置。
【請求項4】
前記ディスプレイは、
前記射出圧力を線図として表示するか、または、
前記射出圧力の代表値として表示する、
請求項2または請求項3に記載の射出圧力測定装置。
【請求項5】
回転駆動力を出力する前記サーボモータと、
前記サーボモータと前記押出ピンの間に介在し、前記サーボモータの前記回転駆動力を直線運動に変換する運動変換機構と、を備える、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の射出圧力測定装置。
【請求項6】
前記金型は、金属材料のダイカスト鋳造用の金型か、または、樹脂材料の射出成形用の金型であり、
前記溶融原料は、前記ダイカスト鋳造用の溶湯か、または、前記射出成形用の溶融樹脂である、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の射出圧力測定装置。
【請求項7】
金型のキャビティに充填される成形体の溶融原料の前記キャビティにおける射出圧力を測定する方法であって、
前記成形体を前記金型の前記キャビティから押し出す押出ピンの駆動源であるサーボモータに生ずるトルクを検出する第1ステップと、
前記第1ステップで検出される前記トルクに基づいて前記射出圧力を求める第2ステップと、を備える、
ことを特徴とする射出圧力測定方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の射出圧力測定装置と、
前記金型について開閉動作を行う型締装置と、
前記金型の前記キャビティに前記成形体の前記溶融原料を射出する射出装置と、を備える、
ことを特徴とする成形システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型のキャビティに射出される溶湯または溶融樹脂からなる溶融原料における圧力を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばダイカスト鋳造において、金型のキャビティに溶湯を射出したときに、キャビティの内部に発生する圧力は、鋳造体の品質を左右する。したがって、ダイカスト鋳造の現場においては、この射出圧力を求めることが必要とされる。射出圧力は、溶湯を射出するシリンダヘッドおよびロッドに設けられる圧力計による圧力値に基づいて算出されるか、プランジャロッドまたは押出シリンダロッドに設けられるひずみゲージまたはロードセルによるひずみ値に基づいて算出される。後者は前者よりも正確な射出圧力を求めることができる。しかし、後者は、ひずみゲージやロードセルなどを取り付ける作業などの人手による各種作業が発生する。
【0003】
特許文献1は、金型のキャビティに対する溶湯の充填が完了したか否かを判定できる圧力検出装置を開示する。しかし、特許文献1の圧力検出装置は、高圧の充填圧力を直接的に検出して充填が完了したと判定するのではなく、充填圧力に比して低圧の空気圧を検出して充填が完了したことを判定するものであり、射出圧力を求めるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-132679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、人手による格別な作業を行うことなく、射出圧力を正確に測定できる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る射出圧力測定装置は、金型に臨み、成形体を金型のキャビティから押し出す押出ピンと、
押出ピンの駆動源であるサーボモータと、サーボモータの駆動を制御するコントローラと、を備える。
本発明に係るコントローラは、キャビティに充填される成形体の溶融原料が押出ピンを押圧することで生ずるサーボモータのトルクに基づいて、溶融原料の射出圧力を求める。
【0007】
本発明に係る射出圧力測定装置は、好ましくは、コントローラの指示に基づいて射出圧力を表示するディスプレイを備える。
【0008】
本発明に係るディスプレイは、好ましくは、進行中の成形について求められる射出圧力を即時に表示するか、または、過去に求められた射出圧力を表示する。
【0009】
本発明に係るディスプレイは、好ましくは、射出圧力を線図として表示するか、または、
射出圧力の代表値として表示する。
【0010】
本発明に係る射出圧力測定装置は、好ましくは、回転駆動力を出力するサーボモータと、サーボモータと押出ピンの間に介在し、サーボモータの回転駆動力を直線運動に変換する運動変換機構と、を備える。
【0011】
本発明に係る射出圧力測定装置において、好ましくは、金型は金属材料のダイカスト鋳造用の金型か、または、樹脂材料の射出成形用の金型であり、溶融原料はダイカスト鋳造用の溶湯か、または、射出成形用の溶融樹脂である。
【0012】
本発明は、金型のキャビティに充填される成形体の溶融原料のキャビティにおける射出圧力を測定する方法を提供する。
この射出圧力測定方法は、成形体を金型のキャビティから押し出す押出ピンの駆動源であるサーボモータに生ずるトルクを検出する第1ステップと、第1ステップで検出されるトルクに基づいて射出圧力を求める第2ステップと、を備える。
【0013】
本発明は、以上で説明したいずれかの射出圧力測定装置と、金型について開閉動作を行う型締装置と、金型のキャビティに成形体の溶融原料を射出する射出装置と、を備える成形システムをも提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、サーボモータにより押出ピンを駆動することを前提とし、成形体の溶融原料が押出ピンを押圧することで生ずるサーボモータのトルクに基づいて射出圧力を求めることができる。つまり、本発明によれば、押出ピンに直に作用する溶融原料によりサーボモータに生ずるトルクに基づいて射出圧力を求めるので、求められる射出圧力の精度は高い。しかも、トルクを検出する機能を備えるサーボモータを用いれば、射出圧力を求めるためのひずみゲージを取り付けるなどの人手による格別な作業を必要としない。さらに、サーボモータのトルクは射出圧力の微小な変化を反映するので、求められる射出圧力は正確である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るダイカスト鋳造システムの概略構成を示す部分断面図である。
図2図1のダイカスト鋳造システムの部分拡大図である。
図3図1のダイカスト鋳造システムの動作例を示す図である。
図4図1のダイカスト鋳造システムにおける鋳造体の押出動作における前進動作および後退動作におけるサーボータに生ずるトルクおよび回転数ならびに押出板の実測位置を示す線図である。
図5図1のダイカスト鋳造システムの射出開始から型開前におけるサーボモータに生ずるトルクおよび回転数ならびに押出板の実測位置を示す線図である。
図6図1のダイカスト鋳造システムのコントローラに記憶されるデータの一例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態は本発明をダイカスト鋳造システム1に適用する一例であり、ダイカスト鋳造システム1は溶湯のキャビティ16への射出による射出圧力IPを、押出ピン21の駆動源であるサーボモータ35に生ずるトルクTに基づいて求める。このトルクTは回転が停止しているサーボモータ35に対する押出ピン21の射出圧力IPによる負荷である。以下、図1図6を参照してダイカスト鋳造システム1を説明する。
【0017】
[ダイカスト鋳造システム1の概略構成:図1
ダイカスト鋳造システム1は、図1に示すように、型締装置2と射出装置3を主たる要素として備える。本実施形態においては主に射出圧力IPに関与する型締装置2を対象として説明する。したがって、射出装置3はその一部である射出スリーブ4のみが図1に示されている。射出スリーブ4は、固定金型14と可動金型15との間に形成されるキャビティ16に射出対象である溶湯を射出する。また、ダイカスト鋳造システム1は、型締装置2および射出装置3の動作を制御するコントローラ5を備える。ただし、本実施形態は射出圧力IPをサーボモータ35に生ずるトルクTから求めるところ、つまり射出圧力測定装置、方法に焦点を当てるため、コントローラ5の機能としては射出圧力IPを求めることを中心に後述する。
【0018】
[型締装置2:図1
型締装置2は、図1に示すように、所望の形状の鋳造体を得るための一対の固定金型14および可動金型15をそれぞれ支持する固定盤12および可動盤13を備える。型締装置2は、固定金型14と可動金型15の開閉動作を行う。可動盤13の内部には、後述する押出機構20を収容、保持する収容空隙13Aが設けられる。固定金型14と可動金型15の間には、所望する鋳造体に倣う形状のキャビティ16が形成される。射出スリーブ4から射出される溶湯は、固定金型14と可動金型15の間に設けられ湯道17を通ってキャビティ16に充填される。アルミニウムやアルミニウム合金などの溶湯がキャビティ16に充填されることで、本発明の成形体に該当する鋳造体が得られる。なお、図1などにおいて、溶湯の図示は省略される。
固定盤12および可動盤13は、基台19の上に設けられる。固定盤12はその位置が固定されるが、可動盤13は、図示を省略する駆動源、例えば油圧シリンダ、電動モータなどにより、固定盤12に対して進退移動が可能である。
【0019】
[押出機構20:図1図2
可動盤13および可動金型15の側には、図1および図2に示すように、押出機構20が設けられる。押出機構20は、鋳造体をキャビティ16から取り出すために、鋳造体を可動金型15の側から押し出す。押出機構20は、その駆動源としてサーボモータ35を用いる。
【0020】
押出機構20は、図1および図2に示すように、押出ピン21と、押出ピン21の後端21Bが固定され、前後方向に往復移動可能な押出板23と、を備える。
押出ピン21は、金属材料、例えばステンレス鋼で作製され、可動金型15を貫通してその先端21Fがキャビティ16に臨む。ここでは4本の押出ピン21が示されているが、これはあくまで一例に過ぎず、4本未満または5本以上の押出ピン21を設けてもよい。
押出板23は、サーボモータ35の回転駆動力に基づいて往復移動が可能とされ、押出ピン21の後端21Bを固定する。したがって、押出板23が前進すると押出ピン21も前進し、押出板23が後退すると押出ピン21も後退する。なお、ここでいう前進とは鋳造体を押し出す向き、つまり図1においては右側に移動することをいい、後退とはキャビティ16から離れる向き、つまり図1においては左側に移動することをいう。
【0021】
押出機構20は、図1および図2に示すように、前後方向に貫通する押出ピン21を摺動可能に支持する第1固定体25と、ボールねじ軸31の後端側を回転可能に支持する第2固定体27と、を備える。第1固定体25と第2固定体27の間には押出板23が設けられ、押出板23は第1固定体25と第2固定体27の間で前後方向に往復移動が可能とされる。
【0022】
第1固定体25は、可動盤13の収容空隙13Aに配置、固定される。第1固定体25は、押出ピン21を摺動可能に支持するのに加えて、後述するボールねじ軸31の前端側を回転可能に支持する。この支持は、第1固定体25の中心に固定される、例えば玉軸受けからなる第1軸受26を介して行われる。
第2固定体27は、可動盤13の後端側に配置、固定される。第2固定体27は、その中心に固定される、例えば玉軸受けからなる第2軸受28を介してボールねじ軸31の後端側を回転可能に支持する。
【0023】
次に、押出機構20は、図1および図2に示すように、サーボモータ35の回転駆動力を直線運動に変換して押出板23を前後方向に移動させるボールねじ29を備える。つまり、押出機構20は、サーボモータ35と押出ピン21の間に介在する本発明における運動変換機構としてボールねじ29を備えている。ボールねじ29はボールねじ軸31とボールねじナット33から構成される。ボールの記載は省略される。
ボールねじ軸31は、押出板23を貫通し、前端側が第1固定体25に第1軸受26を介して回転可能に支持され、後端側が第2固定体27に第2軸受28を介して回転可能に支持される。なお、ボールねじ軸31における第1軸受26および第2軸受28に支持される部分は、ねじ溝が形成されていなくてもよい。ボールねじナット33は、押出板23の中心に固定され、その内部をボールねじ軸31が貫通する。ボールねじ軸31およびボールねじナット33は、従来公知の構成を備えており、例えばボールねじ軸31が時計回りに回転するとボールねじナット33が前進し、ボールねじ軸31が反時計回りに回転するとボールねじナット33が後退する。ボールねじナット33の前進または後退に伴って、押出板23および押出ピン21が前進または後退する。
【0024】
次に、押出機構20は、図1および図2に示すように、押出ピン21の駆動源であるサーボモータ35と、サーボモータ35の出力軸36と、ボールねじ軸31と接続され、サーボモータ35の回転駆動力をボールねじ軸31に伝える従動軸41と、を備える。サーボモータ35は、可動盤13の後端側に固定される。出力軸36には駆動側プーリ37が軸支され、従動軸41には従動側プーリ39が軸支される。駆動側プーリ37と従動側プーリ39は駆動力を伝達するベルト43が掛け回される。
サーボモータ35は、生ずるトルクTを検出する機能を備えることが必要であり、このトルクTは、回転数Rとともにコントローラ5に送られる。トルクTを検出する機能を備えていれば、サーボモータ35についてその他の要求は任意である。
【0025】
[押出機構20の押出動作:図3
次に、図3を参照して押出機構20の押出動作を説明する。
図3(a)は鋳造状態における型締装置2を示し、図3(b)は鋳造後に可動盤13および可動金型15を固定盤12および固定金型14に対して後退させて型開きしている状態を示している。なお、図3(a),(b)において、鋳造体の記載は省略されている。
鋳造状態においては図3(a)に示すように押出ピン21の先端は可動金型15のキャビティ15Aの縁に沿った位置に留まるが、型開状態においては図3(b)に示すように押出ピン21の先端側が可動金型15のキャビティ15Aの内部に突き出すことで、鋳造体をキャビティ15Aから押し出す。
【0026】
[コントローラ5:図1図4図5図6
次に、コントローラ5について説明する。
コントローラ5は、図4などを参照して説明する射出圧力IPを求める手順(圧力算出手順)を実行するのに必要な要素を備えている。この要素としては、圧力算出手順を実行するためのプログラムがある。また、この要素としては、圧力算出手順を実行するのに必要なサーボモータ35のトルクT(測定データ)の検出および記憶がある。
また、図1に示すように、コントローラ5にはディスプレイ6が付属している。ディスプレイ6は、コントローラ5の指示に従って種々のデータを表示する。表示するデータとしては、図4図6に示されるものが例示される。
【0027】
[押出ピンからコントローラ5が得るデータ:図4図5
次に、押出ピン21に関してコントローラ5が得ることのできるデータについて、図4および図5を参照して説明する。
押出ピン21はサーボモータ35により鋳造体を押し出す動作が行われる。したがって、コントローラ5は、押出動作の過程で、押出ピン21に関して、サーボモータ35の回転数RおよびトルクTを検出できる。また、押出ピン21は押出動作の過程でその位置が移動されるので、コントローラ5は押出ピン21を動作させる押出板23の実測位置PPを検出できる。以上を前提として、図4を参照しながら鋳造品の押出動作をしている間にコントローラ5が取得するデータを説明し、次いで、図5を参照しながら押出動作に入る前であって、射出開始から型開きする前までの間にコントローラ5が取得するデータを説明する。
【0028】
[押出ピン21が往復移動する押出動作:図4
押出動作は、図4に示すように、押出ピン21が鋳造体をキャビティから押し出すための前進動作と、鋳造体を押し出した後の後退動作と、を含む。つまり、押出ピン21はこの間に往復移動する。図4はサーボモータ35の回転数RおよびトルクT、ならびに押出板23の実測位置PPを線図として示しており、この線図はコントローラ5の指示によりディスプレイ6に例えば即時に表示できる。次に説明する図5の線図も同様である。
前進動作において、押出ピン21(押出板23)が所定の距離だけ前進するようにサーボモータ35の回転数Rを増減させる。後退動作においても、押出ピン21(押出板23)が所定の距離だけ後退するようにサーボモータ35の回転数Rを増減させる。このサーボモータ35の加速動作、減速動作および等速動作時にトルクTが変動し、前進動作と後退動作の間のサーボモータ35の停止中はトルクTが「0」となる。
複数本の押出ピン21がある場合のトルクTは、複数本分の合計値とすることができるし、平均値とすることもできる。
【0029】
[押出ピン21が定位置に留まる射出開始から型開きまで:図5
次に、図5を参照して、射出開始から型開きまでの間の同様のデータを説明する。ただし、この間において、押出ピン21は定位置に留まっており、サーボモータ35は駆動が停止される。この定位置において、図3(a)に示すように、押出ピン21の先端21Fがキャビティ15Aの縁に沿っている。
このようにサーボモータ35には駆動指令が出されていないにも関わらず、トルクTが立ち上がり、その状態が継続する。サーボモータ35の回転数Rおよび押出ピン21の実測位置PPはほぼゼロの付近に留まる。したがって、このトルクTの立ち上がりは押出ピン21を定位置に維持するために生ずるトルクTと推察される。他にトルクを生じさせる要因がないためである。したがって、コントローラ5が射出開始から型開きまでの間に取得するトルクTに基づいて、射出圧力IPを求めるこができる。ここで、ダイカスト鋳造システム1においては、固定金型14よび可動金型15の間のキャビティ16で射出圧力IPが生じると、以下の機械的な要素からなる経路を経て射出圧力IPはサーボモータ35の出力軸36に伝わり、サーボモータ35にトルクTを生じさせる。したがって、本実施形態においては、ボールねじ29における推力Faを算出して求めることにより、射出圧力IPを求めることができる。
[機械的な要素からなる経路]
射出圧力IP→押出ピン21→押出板23→ボールねじ29→従動軸41→従動側プーリ39→駆動側プーリ37→サーボモータ35の出力軸36
【0030】
本実施形態によれば、押出ピン21に直に作用する溶湯によりサーボモータ35に生ずるトルクTに基づいて射出圧力IPを求めるので、求められる射出圧力の精度は高い。しかも、トルクTを検出する機能を備えるサーボモータ35を用いているので、射出圧力IPを求めるためのひずみゲージを取り付けるなどの人手による格別な作業を必要としない。さらに、サーボモータ35のトルクTは射出圧力の微小な変化を反映するので、求められる射出圧力IPは正確である。さらに、本実施形態によれば、鋳造の過程において射出圧力IPを常時検知することができる。
【0031】
押出ピン21が射出圧力IPを受けると、ボールねじ29に推力Faが生ずる。この推力Faは以下の式(1)で求められる。また、射出圧力IPは、以下の式(2)により求めることができる。コントローラ5は、式(1)および式(2)を実行するためのプログラムを備え、サーボモータ35からトルクTを検出(第1ステップ)すると、式(1)および式(2)を実行して、射出圧力IPを求める(第2ステップ)。射出圧力IPは、トルクTを取得したならば即時に求めることができるし、トルクTをコントローラ5の記憶領域に保存し、所定の期間が経過してから求めることもできる。即時に求められる射出圧力IPは、図5に示すようにトルクTなどと一緒にグラフ中に示すことができるとともに、コントローラ5の記憶領域に保存してもよい。また、即時に求められる射出圧力IPの線図は、直後にディスプレイ6に表示できるし、コントローラ5に記憶し、必要なときにディスプレイ6に表示してもよい。
【0032】
Fa=2・π・η・T/(L×10-3)…式(1)
IP=Fa/A21…式(2)
【0033】
Fa:発生推力(N), T:サーボモータ35のトルク(N・m)
η:ボールねじ29の効率, L:ボールねじ29のリード(mm)
IP:射出圧力(MPa) A21:押出ピン21の先端の合計面積(mm
【0034】
コントローラ5に記憶されるトルクTおよび射出圧力IPの例が図6(a),(b),(c)に示されている。
その中で図6(a)は最もデータ量が少ない例を示しており、成形がなされた日付(DATE)、当該成形を特定する識別情報(ch ID)、押出実測位置、サーボモータ35の回転数およびサーボモータ35に生ずるトルクTが対応して記憶される。図6(a)における押出実測位置、モータ回転数およびトルクTのそれぞれは、射出開始から型開きまでの間の代表値である。代表値としては、典型的には平均値が該当するが、その他に最大値、最小値、標準偏差などの値を代表値として扱うことができる。
【0035】
次に、図6(a)に示される記憶データ群の場合には、当該データ群のトルクTを式(1),(2)に代入して射出圧力IPを算出により求める。この形態は、鋳造を行っている最中には当該データ群の記憶にとどめ、後に当該データ群を用いてトルクTを求めることになる。これに対して、図6(b)に記憶されるデータ群は、鋳造を行っている最中に当該データ群の中のトルクTを用いて射出圧力IPが求められる。図6(c)は、トルクTについて測定された最小値(min)、最大値(max)および平均値(ave)の三つを含んでいる。平均値に加えて最小値、最大値を含むことにより、射出圧力IPについて一歩進んだ評価を行うことができる。
図6(a),(b),(c)に示される射出圧力IP、トルクTなどの代表値は、ディスプレイ6に即時に表示してもよいし、コントローラ5に記憶した後に必要なときにディスプレイ6に表示してもよい。
【0036】
[効 果]
以下、本実施形態に係るダイカスト鋳造システム1が奏する効果を説明する。
ダイカスト鋳造システム1は、押出ピン21の駆動源としてサーボモータ35を用いる。金型のキャビティ16に充填される溶湯(溶融原料)が押出ピン21を押圧することでサーボモータ35にトルクTが生じることを知見するに至り、このトルクTに基づいて溶融原料の射出圧力IPを求める。
このように押出ピン21に直に作用する溶湯によりサーボモータ35に生ずるトルクTに基づいて射出圧力IPを求めるので、求められる射出圧力の精度は高い。しかも、トルクTを検出する機能を備えるサーボモータ35を用いるので、射出圧力IPを求めるためのひずみゲージを取り付けるなどの人手による格別な作業を必要としない。さらに、サーボモータのトルクは射出圧力の微小な変化を反映するので、求められる射出圧力は正確である。
【0037】
ダイカスト鋳造システム1は、コントローラ5の指示に基づいて射出圧力IPを表示するディスプレイ6を備える。したがって、ダイカスト鋳造システム1によれば、ディスプレイ6を参照することにより、視覚を通じて射出圧力IPを明確に認識できる。
【0038】
ディスプレイ6に表示されるのは、進行中の成形について求められる射出圧力IPであってもよいし、過去に求められた射出圧力IPであってもよい。したがって、このダイカスト鋳造システム1によれば、進行中の成形における射出圧力IPをリアルタイムで認識して対応することができる。また、このダイカスト鋳造システム1によれば、過去の射出圧力IPを遡って認識できるので、過去の射出の評価をできる。
【0039】
ディスプレイ6に表示される射出圧力IPは、線図であってもよいし、代表値であってもよい。線図であれば射出圧力IPの経時的な傾向を認識しやすいし、代表値であれば例えば設定値を超過したなどの数値的な評価をしやすい。この場合、設定値を合わせて表示すれば、それ以降に設定値を修正するのに活用できる。
【0040】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、以上の実施形態において、回転駆動されるサーボモータ35を例示し、ボールねじ29を用いてサーボモータ35の回転駆動力を直線運動に変換するが、本発明は直線運動するリニアサーボモータを用いることができる。そうすれば、回転駆動力を直線運動に変換するボールねじ29などの運動変換機構を省くことができる。
【0041】
また、以上の実施形態においては、成形装置として金属材料を対象とするダイカスト鋳造を例示したが、樹脂材料を対象とする射出成形への適用もできる。射出成形においても、固定盤、可動盤、固定金型および可動金型を備え、固定金型と可動金型の間にキャビティが形成されるところはダイカスト鋳造と同じである。キャビティに射出されるのが溶融樹脂であるが、キャビティ内で凝固して得られる成形体を取り出すために、固定金型と可動金型を型開きした後に押出ピンで押し出すところも、ダイカスト鋳造と同じである。そして、射出成形においては、成形体の押出ピンはキャビティにおいて、射出成形中の溶融樹脂から射出圧力IPを受ける。
【符号の説明】
【0042】
1 ダイカスト鋳造システム
2 型締装置
3 射出装置
4 射出スリーブ
5 コントローラ
6 ディスプレイ
12 固定盤
13 可動盤
13A 収容空隙
14 固定金型
14A キャビティ
15 可動金型
15A キャビティ
16 キャビティ
17 湯道
19 基台
20 押出機構
21 押出ピン
21B 後端
21F 先端
23 押出板
25 第1固定体
26 第1軸受
27 第2固定体
28 第2軸受
29 ボールねじ
31 ボールねじ軸
33 ボールねじナット
35 サーボモータ
36 出力軸
37 駆動側プーリ
39 従動側プーリ
41 従動軸
43 ベルト
IP 射出圧力
T トルク
R 回転数
PP 実測位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6