(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054424
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】マルチウェルプレート、電気化学測定方法、測定装置、自動測定システム、及び、製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/02 20060101AFI20230407BHJP
G01N 27/27 20060101ALI20230407BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
G01N35/02 A
G01N27/27 A
G01N27/30 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163257
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(74)【代理人】
【識別番号】100199842
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 祥平
(72)【発明者】
【氏名】岡本 章玄
(72)【発明者】
【氏名】下川 航平
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058AA01
2G058CC02
2G058CC17
2G058GA11
(57)【要約】
【課題】 測定対象物の電気化学測定を迅速に実施できるマルチウェルプレートの提供。
【解決手段】 上向きに開口した複数のウェルと、上記ウェルの底部に配置された少なくとも2つの電極と、電気的に、上記電極の一つと接し、他の上記電極とは接しないようにして配置された柱状の導電性部材と、を有し、上記導電性部材の高さは、上記ウェルの深さよりも小さく、上記ウェルの平面視における、上記導電性部材の占有面積は、上記ウェルの底面積よりも小さい、マルチウェルプレート。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上向きに開口した複数のウェルと、
前記ウェルの底部に配置された少なくとも2つの電極と、
電気的に、前記電極の一つと接し、他の前記電極とは接しないようにして配置された柱状の導電性部材と、を有し、
前記導電性部材の高さは、前記ウェルの深さよりも小さく、
前記ウェルの平面視における、前記導電性部材の占有面積は、前記ウェルの底面積よりも小さい、マルチウェルプレート。
【請求項2】
前記電極と、前記導電性部材の材質が異なる、請求項1に記載のマルチウェルプレート。
【請求項3】
前記電極が、互いに所定の間隔をあけて配置された3つ以上の電極である、請求項1又は2に記載のマルチウェルプレート。
【請求項4】
前記導電性部材の天面に測定対象物が載置される、請求項1~3のいずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
【請求項5】
前記電極の少なくとも1つが参照電極である、請求項4に記載のマルチウェルプレート。
【請求項6】
前記電極が、作用電極、対電極、及び、参照電極からなり、前記作用電極上に前記導電性部材が配置されている、請求項5に記載のマルチウェルプレート。
【請求項7】
前記導電性部材の形状が錐台である、請求項1~6のいずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
【請求項8】
前記導電性部材が、複数の柱体を略同軸で積み重ねた形状であり、天面の面積が、底面の面積より大きい、請求項1~6のいずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
【請求項9】
前記導電性部材が、天面に配置された流体漏出防止機構を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
【請求項10】
前記電極と前記導電性部材とが、直接接している、請求項1~9のいずれか1項に記載のマルチウェルプレート。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のマルチウェルプレートの前記導電性部材上に、測定対象物を電気的に接するように載置することと、
前記測定対象物が載置された前記マルチウェルプレートについて、所定の条件に沿って電気化学測定を行うことと、を含む、電気化学測定方法。
【請求項12】
前記載置することの前に、前記所定の条件と同様の条件で、予備測定を行うことと、
前記予備測定の結果について、前記導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無を予め定められた基準に基づき判定することと、を含み、
前記劣化に由来する電気化学的応答が無い場合に、前記載置することを行う、請求項11に記載の電気化学測定方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載のマルチウェルプレートの前記電極と電気的に接続するための接続具、及び、前記接続具を介して前記電極の電気化学反応を制御する電気化学測定装置を含むリーダ装置と、
制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記導電性部材上に、測定対象物が電気的に接するように載置される前に、前記測定対象物の電気化学測定のための所定の条件と同様の条件で行われる予備測定の結果について、前記導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無を予め定められた基準に基づき判定する、予備測定解析部を有する、測定装置。
【請求項14】
測定対象物を作製し、請求項1~10のいずれか1項に記載のマルチウェルプレートの前記導電性部材上に前記測定対象物を載置する、試料調製装置と、
前記マルチウェルプレートの前記電極と電気的に接続するための接続具、及び、前記接続具を介して前記電極の電気化学反応を制御する電気化学測定装置を有するリーダ装置と、
前記試料調製装置と前記リーダ装置との間で前記マルチウェルプレートを搬送するプレート搬送装置と、
制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記導電性部材上に、前記測定対象物が電気的に接するように載置される前に、前記測定対象物の電気化学測定のための所定の条件と同様の条件で行われる予備測定の結果について、前記導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無を予め定められた基準に基づき判定する、予備測定解析部を有する、自動測定システム。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか1項に記載のマルチウェルプレートを製造するための製造方法であって、
基板上に電極形成用の組成物を塗布して、少なくとも2つの互いに離間した組成物層を形成することと、
前記組成物層の一つと直接接し、他の前記組成物層とは接しないように、前記導電性部材を載置することと、
前記組成物層を硬化させて、前記電極を形成するとともに、前記導電性部材を前記電極に固定することと、を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチウェルプレート、電気化学測定方法、測定装置、自動測定システム、及び、製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料科学分野において、優れた特性を有する新規材料の探索は、従来、以下のサイクルによって実施されてきた。
すなわち、(1)経験を積んだ技術者による新たな原料配合、及び、合成方法等の立案のステップ、(2)その配合や方法に基づき調製されたサンプルの特性評価のステップ、(3)特性評価の結果に基づく原料配合、及び、合成方法等の改良のステップを含むサイクルである。
【0003】
上記サイクルにおいては、各ステップが用手的に行われてきたために、試行できるサンプル数には自ずと制限があり、新規材料の探索のスピードにも限りがあった。
【0004】
しかし近年、人工知能技術、シミュレーション技術の急速な進歩に伴い、公表された論文に記載されたデータ、及び、膨大な実測データ等を基にした統計解析的手法、及び/又は、物理法則等に基づく計算科学的な手法によって、新たな原料配合、及び、その合成方法の立案が、従来とは比較にならないほどの量、及び、速度で自動的に実施できるようになってきている。
また、ロボット工学の進展によって、立案された原料配合、及び、合成方法に沿って、サンプル調製を自動で行う技術や装置も目覚ましい進歩を遂げている。
【0005】
上記のように、膨大な材料科学的なサンプルが自動的に生成される環境下において、新規材料探索を律速する可能性のあるステップの一つとして、サンプルの特性評価のステップが挙げられる。新規材料探索の全体の流れを円滑化するという観点で、膨大なサンプルを迅速に評価できる測定系の開発が強く望まれている。
【0006】
このような技術のうち、電気化学測定の分野においては、特許文献1に「複数種類の溶液がそれぞれ収容されて配列される複数個のリアクタに対して移動可能に設けられた挿入機構と、前記複数個のリアクタに収容された複数種類の溶液に挿入可能に前記挿入機構に取り付けられて電気化学測定装置に接続される電極部材とを備えることを特徴とする電気化学測定システム。」が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、多サンプルの電気化学特性のスクリーニングに使用できる二次元アレイ状に配置された複数のウェルと、それぞれのウェルの底部に配置された少なくとも2つの電極とを有するマルチウェルプレートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2019-510960号
【特許文献2】特開2021-036806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、例えば、新たな電池材料の探索に際し、特許文献1、及び、特許文献2に記載の技術を用いて、多種多数の測定対象物についての電気化学測定を迅速に実施できるかについて検討した。
【0010】
その結果、特許文献1に記載の電気化学測定システムによれば、多種多数の電解液の特性を迅速に評価することはできるものの、その他の電池材料、特に固形の材料(例えば、電極材料、触媒等)についての電気化学特性の評価は困難であることを知見した。
【0011】
また、特許文献2に記載のマルチウェルプレートを用いた場合、多種の電極材料を底部の作用電極上に載置することで、測定自体はできるものの、載置した電極材料が隣接する対電極、及び/又は、作用電極に接触して短絡する等の不具合が生じる場合があった。この点で、多種の測定対象物を作用電極上に載置して電気化学測定する方法を適用しようとすると、改善の余地があった。
【0012】
そこで本発明は、測定対象物の電気化学測定を迅速に実施できるマルチウェルプレートを提供することを課題とする。また本発明は電気化学測定方法、測定装置、自動測定システム、及び、製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0014】
[1] 上向きに開口した複数のウェルと、上記ウェルの底部に配置された少なくとも2つの電極と、電気的に、上記電極の一つと接し、他の上記電極とは接しないようにして配置された柱状の導電性部材と、を有し、上記導電性部材の高さは、上記ウェルの深さよりも小さく、上記ウェルの平面視における、上記導電性部材の占有面積は、上記ウェルの底面積よりも小さい、マルチウェルプレート。
[2] 上記電極と、上記導電性部材の材質が異なる、[1]に記載のマルチウェルプレート。
[3] 上記電極が、互いに所定の間隔をあけて配置された3つ以上の電極である、[1]又は[2]に記載のマルチウェルプレート。
[4] 上記導電性部材の天面に測定対象物が載置される、[1]~[3]のいずれかに記載のマルチウェルプレート。
[5] 上記電極の少なくとも1つが参照電極である、[4]に記載のマルチウェルプレート。
[6] 上記電極が、作用電極、対電極、及び、参照電極からなり、上記作用電極上に上記導電性部材が配置されている、[5]に記載のマルチウェルプレート。
[7] 上記導電性部材の形状が錐台である、[1]~[6]のいずれかに記載のマルチウェルプレート。
[8] 上記導電性部材が、複数の柱体を略同軸で積み重ねた形状であり、天面の面積が、底面の面積より大きい、[1]~[6]のいずれかに記載のマルチウェルプレート。
[9] 上記導電性部材が、天面に配置された流体漏出防止機構を有する、[1]~[8]のいずれかに記載のマルチウェルプレート。
[10] 上記電極と上記導電性部材とが、直接接している、[1]~[9]のいずれかに記載のマルチウェルプレート。
[11] [1]~[10]のいずれかに記載のマルチウェルプレートの上記導電性部材上に、測定対象物を電気的に接するように載置することと、上記測定対象物が載置された上記マルチウェルプレートについて、所定の条件に沿って電気化学測定を行うことと、を含む、電気化学測定方法。
[12] 上記載置することの前に、上記所定の条件と同様の条件で、予備測定を行うことと、上記予備測定の結果について、上記導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無を予め定められた基準に基づき判定することと、を含み、上記劣化に由来する電気化学的応答が無い場合に、上記載置することを行う、[11]に記載の電気化学測定方法。
[13] [1]~[10]のいずれかに記載のマルチウェルプレートの上記電極と電気的に接続するための接続具、及び、上記接続具を介して上記電極の電気化学反応を制御する電気化学測定装置を含むリーダ装置と、制御装置と、を有し、上記制御装置は、上記導電性部材上に、測定対象物が電気的に接するように載置される前に、上記測定対象物の電気化学測定のための所定の条件と同様の条件で行われる予備測定の結果について、上記導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無を予め定められた基準に基づき判定する、予備測定解析部を有する、測定装置。
[14] 測定対象物を作製し、[1]~[10]のいずれかに記載のマルチウェルプレートの上記導電性部材上に上記測定対象物を載置する、試料調製装置と、上記マルチウェルプレートの上記電極と電気的に接続するための接続具、及び、上記接続具を介して上記電極の電気化学反応を制御する電気化学測定装置を有するリーダ装置と、上記試料調製装置と上記リーダ装置との間で上記マルチウェルプレートを搬送するプレート搬送装置と、制御装置と、を有し、上記制御装置は、上記導電性部材上に、上記測定対象物が電気的に接するように載置される前に、上記測定対象物の電気化学測定のための所定の条件と同様の条件で行われる予備測定の結果について、上記導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無を予め定められた基準に基づき判定する、予備測定解析部を有する、自動測定システム。
[15] [1]~[10]のいずれかに記載のマルチウェルプレートを製造するための製造方法であって、基板上に電極形成用の組成物を塗布して、少なくとも2つの互いに離間した組成物層を形成することと、上記組成物層の一つと直接接し、他の上記組成物層とは接しないように、上記導電性部材を載置することと、上記組成物層を硬化させて、上記電極を形成するとともに、上記導電性部材を上記電極に固定することと、を含む製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測定対象物の電気化学測定を迅速に実施できるマルチウェルプレートが提供できる。また、本発明によれば、電気化学測定方法、測定装置、自動測定システム、及び、製造方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のウェルプレートの実施形態の分解斜視図である。
【
図2】本発明のウェルプレートが有するウェルの平面図である。
【
図4】ウェルプレートの底面図(下部基板の裏面)である。
【
図5】ウェルプレートを用いて電気化学測定を行うための測定装置の一実施形態のハードウェア構成図である。
【
図6】測定装置を構成する装置の1つであるリーダ装置の模式図である。
【
図8】ウェルプレート、及び、測定装置を用いて行う電気化学測定のフロー図である。
【
図9】ウェルプレートのウェル内にシート状の測定対象物が載置された状態を示す説明図である。
【
図11】本発明のウェルプレートの製造方法のフロー図である。
【
図13】作用電極にアルミニウム箔を用いて、実験条件をリニアスイープボルタンメトリとした場合の電気化学的応答を示す図である。
【
図14】本発明の測定装置のハードウェア構成図である。
【
図16】上記測定装置の制御装置の動作フロー図である。
【
図17】本発明の自動測定システムのハードウェア構成図である。
【
図18】上記自動測定システムの機能ブロック図である。
【
図19】自動測定システムの制御装置(のプロセッサ52)の動作フロー図である。
【
図20】水系の高濃度溶液である21M LiTFSA/H
2O (TFSA:bis (trifluoromethanesulfonyl) amide)を電解液として、サイクリックボルタンメトリ試験を行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することがある。
【0018】
[マルチウェルプレート]
本発明のマルチウェルプレート(以下、単に「ウェルプレート」ともいう。)は、上向きに開口した複数のウェルと、上記ウェルの底部に配置された少なくとも2つの電極と、電気的に、上記電極の一つと接し、他の上記電極とは接しないようにして配置された柱状の導電性部材と、を有し、上記導電性部材の高さは、上記ウェルの深さよりも小さく、上記導電性部材の平面視の占有面積は、上記ウェルの底面積よりも小さい、マルチウェルプレートである。
【0019】
上記ウェルプレートについて図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のウェルプレートの実施形態(以下、「本実施形態」ともいう。)の分解斜視図である。
【0020】
ウェルプレート10は、上部基板16と、上部基板16の底面側に接合される下部基板12とによって構成されている。
このうち、上部基板16は、上下方向にいずれも開口した円筒状のチューブ13、及び、複数のチューブ13を支えるスカート11を有している。円筒状のチューブ13は、下部基板12の天面と組み合わさることで、上向きに開口した底の有るウェル(凹部)を構成する。
【0021】
下部基板12上には、後述する3つの電極からなる電極セット15、及び、そのうちの作用電極20上に配置された円柱状の導電性部材14を一組として、上記が二次元マトリクス状に複数配置されている。
下部基板12の天面の領域17は、チューブ13と組み合わされたときに、ウェルの底部となる。
【0022】
上記のように、上部基板16、及び、下部基板12が接合されることにより、上向きに開口したウェルと、ウェルの底部に配置された電極セット15と、電極のうちの一つ(後述する作用電極20)の上に配置された円柱状の導電性部材14とが二次元的に(平面的に)複数並んだ、ウェルプレート10が形成される。
【0023】
図2は、ウェルの平面図であり、
図3は、ウェルの斜視図である。なお、
図3では、チューブ13の図示は省略されている。
電極セット15は、作用電極20、対電極22、及び、参照電極24からなり、いずれも薄膜状である。電極セット15は、典型的には、印刷技術を用いて配線基板である下部基板12上に形成されたものである。
【0024】
上記ウェルにおいて、電極セット15を構成する各電極は、所定の間隔をあけて配置されており、作用電極20を中心に、その周囲を囲むように対電極22、及び、参照電極24が配置されている。
【0025】
作用電極20上には、円柱状の導電性部材14が配置されている。ウェルプレート10において、導電性部材14は作用電極20と直接接している。導電性部材14と作用電極20とが直接接していると、より正確な測定結果が得られやすい。
【0026】
なお、作用電極と導電性部材とは、電気的に接していれば、直接接していなくてもよい。例えば、作用電極と導電性部材との間に、導電性の接着剤層が配置されていてもよい。
【0027】
導電性部材14の直径は、作用電極20と略同一である。作用電極20の略全体を、導電性部材14の底面が覆うように配置されている。
【0028】
本発明のウェルプレートにおいて、導電性部材の底面積は上記に制限されず、作用電極と電気的に接していれば、作用電極の面積よりも大きくてもよいし、小さくてもよい。作用電極の面積よりも導電性部材の底面積が大きい場合、導電性部材は他の電極(対電極、参照電極)に触れない様な形状、及び、大きさに調整される。
【0029】
図2に示されるように、ウェルの平面視における導電性部材14の占有面積は、ウェルの底面積よりも小さい。本ウェルプレートを用いて電気化学測定が行われる場合、ウェル内には電解液が満たされる。ウェルの底面積と同一であると、ウェル内での電解液の流通が妨げられるため電気化学測定が困難になる。
【0030】
また、導電性部材14の高さは、ウェルの深さ(チューブ13の高さ)よりも小さい。後述するとおり、導電性部材14の天面上には測定対象物が載置されて電気化学測定が行われる。
導電性部材14の高さが、ウェルの深さ以上であると、測定対象物を電解液と接触(電解液に浸漬)させにくく、電気化学測定が困難になる。
導電性部材の高さは、天面に載置した測定対象物の剛性に応じて、対電極、及び/又は、参照電極に測定対象物が触れない高さであれば特に制限されないが、一般に、ウェルの深さの1~70%が好ましい。
【0031】
図4は、ウェルプレート10の底面図(下部基板12の裏面)である。
作用電極20、及び、これに接続する下部基板12の配線21はビアホール30によって下部基板12の裏面へと引き出され、接続パッド31と電気的に接続されている。同様に、対電極22、及び、これに接続する配線23は、ビアホール32を介して接続パッド33と接続され、参照電極24、及び、これに接続する配線25は、ビアホール34を介して接続パッド35と接続されている。
【0032】
上記のように作用電極20、対電極22、及び、参照電極24は、それぞれ下部基板12の裏面へと引き出されているため、対応する接続パッド31、33、35に対して、それぞれ、電極の電気化学反応を制御するための電気化学測定装置(例えば、ポテンシオスタット、及び/又は、ガルバノスタット)を下部基板12の裏面から接続すれば、電気化学測定を行うことができる。
【0033】
ウェルプレート10の材質としては特に制限されないが、上部基板16、及び、下部基板12については絶縁性の材質が好ましい。具体的には、ガラス、及び、樹脂等が好ましい。樹脂としては特に制限されないが、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、及び、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、又は、環状ポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、及び、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂等のポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂;ポリメチルメタクリレート樹脂等のメタクリル系樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリサルホン樹脂;ポリエーテルサルホン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリメチルペンテン樹脂;ポリアクリロニトリル等のアクリル系樹脂;プロピオネート樹脂等の繊維素系樹脂等が挙げられる。
【0034】
作用電極20の材質は、測定対象に応じて適宜選択することができる。具体的には、金、及び、白金等の貴金属が挙げられる。また、銀、銅、カーボン(ガラス状カーボン)、及び、ホウ素(B)ドープダイヤモンド等でもよい。対電極22も上記と同様の材質から選択できる。参照電極24は、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極等を用いることができる。下部基板12の各配線、接続パッドについても、上記電極と同様の材質から選択できる。
【0035】
導電性部材14の材質は、上記作用電極、及び、対電極と同様の材質とすることもできるし、上記以外の導電性の材質としてもよい。中でも、導電性部材14の材質は、各電極の材質と異なっていることが好ましい。
【0036】
例えば、作用電極20、及び、対電極22を貴金属で形成した場合、一形態として、導電性部材14は、上記電極の材質よりイオン化傾向が高い金属であってもよい。このような金属としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、鉛、亜鉛、鈴、タングステン、チタン、及び、クロム等が挙げられる。
導電性部材14は、電極セット15を構成する各電極よりも厚く、使用する材料もより多い。上記のようなイオン化傾向がより高い金属は安価である場合が多く、導電性部材14の材質を上記のような金属とすることで、マルチウェルプレートの製造コストがより低減される。
【0037】
一方、導電性部材14を作用電極20、及び、対電極22と同様の材質とすると、より安定的に電気化学測定を行うことができる。
【0038】
ウェルプレートの形状、及び、大きさとしては特に制限されないが、一形態として、2004年にThe Society for Biomolecular Screening(SBS)を中心に定められた規格に準拠した形状、及び、大きさであってよい。
ウェルプレート10が有するウェルの数は、96個であるが、本発明のウェルプレートにおけるウェルの数は上記に制限されず、6、12、24、48、384、及び、1536等任意の数であってよく、96個以上が好ましく、ハンドリング性に優れる観点で96個がより好ましい。
【0039】
図5は、ウェルプレート10を用いて電気化学測定を行うための測定装置の一実施形態のハードウェア構成図であり、
図6は、測定装置を構成する装置の1つであるリーダ装置の模式図である。
【0040】
測定装置50は、ウェルプレート10を用いて電気化学測定を行うためのリーダ装置40と、その制御装置51とを含み、各装置はバスを介して相互にデータを授受できるよう構成されている。
【0041】
リーダ装置40は、本体42と、本体42上に配置されたトレイ47と、トレイ47を収容するカバー44とを有する。
ウェルプレート10は、トレイ47に嵌め合わされる。トレイ47は、その表面上にウェルプレート10の底面に形成された各接続パッド35と電気的に接触させるための複数の接続端子41、43、45(これらを併せて接続具46と称する)を有している。接続具46は、ウェルプレート10のウェルの個数分、設けられている。
【0042】
トレイ47にウェルプレート10が嵌め合わされると、トレイ47はカバー44内へとスライド移動し、カバー44内に設けされた(図示しない)配線によって、本体42内に配置された電気化学測定装置48と接続される。
【0043】
電気化学測定装置48は、典型的には、ポテンシオスタット、ガルバノスタット、及び、これらの組み合わせを含む装置であって、接続具46を介して接続された各ウェルの電極の電気化学反応を制御し、電気化学的応答を測定するためのハードウェア装置である。具体的には、作用電極20と対電極22との間に電圧を印加して、作用電極20と参照電極24との間の電位を制御して電流値を測定したり、作用電極20と対電極22と間の電流を制御して、作用電極20と参照電極24との間の電位を測定したりする機能を有し、ウェル毎に独立に上記を実施できる。
【0044】
なお、リーダ装置40は、上記以外にも、インピーダンス測定を行うための周波数アナライザ、応答電流を増幅するためのアンプ、及び、雰囲気を調整する(特に、嫌気状態に保持したり、雰囲気から水分を除去したりする)ための雰囲気調整装置等を有していてもよい。上記の装置はいずれも公知のものをリーダ装置40に組み込むことができる。
【0045】
制御装置51は、プロセッサ52、記憶デバイス53、表示デバイス54、入力デバイス55、及び、通信デバイス56を備えるコンピュータである。
【0046】
プロセッサ52は、例えば、マイクロプロセッサ、プロセッサコア、マルチプロセッサ、ASIC(application-specific integrated circuit)、FPGA(field programmable gate array)、及び、GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)等である。
【0047】
記憶デバイス53は、各種プログラム、及び、データを一時的に、及び/又は、非一時的に記憶する機能を有し、プロセッサ52の作業エリアを提供する。
記憶デバイス53は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、及び、SSD(Solid State Drive)等である。
【0048】
表示デバイス54は、解析結果、及び、操作手順等を表示できる。表示デバイス54は、液晶ディスプレイ、及び、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等でよい。
また、表示デバイス54は、入力デバイス55と一体として構成されていてもよい。この場合、表示デバイス54がタッチパネルディスプレイであって、GUI(Graphical User Interface)を提供する形態が挙げられる。
【0049】
入力デバイス55は、測定条件、及び、測定対象物の名称等の入力を受け付けたり、測定開始や終了の指示の入力を受けたりすることができる。入力デバイス55は、キーボード、マウス、スキャナ、及び、タッチパネル等でよい。
【0050】
通信デバイス56は、通信ネットワークに接続し、クライアント端末等から測定条件等の指示を受信したり、測定・解析結果をクライアント端末等に送信したりすることができる。通信デバイス56は、有線、又は、無線LAN(Local Area Network)、及び、Bluetooth(登録商標)通信カード、及び、光通信用のルータ等であってよい。
【0051】
通信デバイス56は、インターネットや他の通信機器との間で、TCP/IPなどの所定のプロトコルを用いて信号などを送受信する。また、通信デバイス56に接続される通信ネットワークは、有線、又は、無線によって接続されたネットワークであり、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信、及び、衛星通信等などである。
【0052】
図7は、測定装置50の機能ブロック図である。測定装置50は、リーダ装置40と、制御装置51とを有し、リーダ装置40は、接続具46、及び、電気化学測定装置48を有し、測定装置50は、測定部60、及び、解析部61を有している。
【0053】
測定部60は、記憶デバイス53に記憶されたプログラムを制御装置51のプロセッサ52が実行し、リーダ装置40が有する電気化学測定装置48を用いて、同じくリーダ装置40が有する接続具46を介して接続されている、ウェルプレート10の電極の電気化学反応を制御する機能である。
測定部60には、入力デバイス55、又は、通信デバイス56を介して測定条件が入力62される。
【0054】
解析部61は、記憶デバイス53に記憶されたプログラムを制御装置51のプロセッサ52が実行して実現される機能である。解析部61は、測定部60によって取得された電気化学的応答(測定データ)の解析を実施して、表示デバイス54に、及び/又は、通信デバイス56を介して出力63する。
【0055】
なお、測定装置50は、解析部61を有しているが、本発明の測定装置は、解析部を有していなくてもよい。測定装置が解析部を有していない場合、測定部60によって取得された測定データ(電気化学的応答)をそのまま出力63する形態であってもよい。
【0056】
図8は、ウェルプレート10、及び、測定装置50を用いて行う電気化学測定のフロー図である。
まず、ステップS10において、測定対象物がウェルプレート10の導電性部材14上に、測定対象物が電気的に接するように載置される。
【0057】
図9は、ウェルプレート10のウェル内にシート状の測定対象物70が載置された状態を示す説明図である。
測定対象物70は、導電性部材14の天面に載置されている。導電性部材14は、底面において作用電極20と電気的に接しており、これによって、測定対象物70についての電気化学測定が実施できる。
【0058】
測定対象物70の形状は特に制限されないが、シート状(薄膜状)が好ましい。シート状であると、電気化学反応が均一に起こりやすく、より正確な測定結果が得られる。
測定対象物70の大きさは特に制限されないが、ウェルの平面視における測定対象物の占有面積が、ウェルの底面積よりも小さいことが好ましい。測定対象物70が上記形態であると、電解液が測定対象物70の全体に行き渡りやすく、より正確な測定ができる。
【0059】
また、測定対象物70の厚みは特に制限されないが、一般に、0.001μm~5mmが好ましい。測定対象物70が薄く、及び/又は、剛性が低い場合、導電性部材14の天面に載置した測定対象物70がたわんで、対電極22、及び/又は、参照電極24と接触する場合がある。この場合、測定対象物70を別の導電性部材(シート状であることが好ましい)を支持体とし、これに積層して複合体としたうえで、導電性部材14上に載置してもよい。
【0060】
測定対象物70は、導電性部材14上に載置されていればよいが、電解液をウェル内に注入した際等に位置ずれが起きにくいように、及び/又は、導電性部材14と測定対象物70との電気的な接触をより確実にするために、両者の間に導電性の接着剤層等が配置されていてもよい。
【0061】
測定対象物70の形状は特に制限されず、頂点を有する多角形状、楕円、及び、円等いずれの形態であってもよい。なかでも、より均一なイオン伝導が惹起されやすく、より正確な測定結果が得られやすい観点では、頂点を有さない形状が好ましい。
【0062】
特許文献2に記載されたような電極付きウェルプレートを用いて、作用電極上に測定対象物を載置して、その電気化学特性を測定するという方法自体、従来は殆ど実施されてこなかった。本発明者は上記の技術常識にとらわれることなく、特許文献2に記載の電極付きウェルプレートの作用電極上に測定対象物を載置して、電気化学測定を試みた。しかし、作用電極上に測定対象物を載置しようとすると、測定対象物を載置する場所が、所期の場所からずれてしまったりして、対電極や参照電極と接触してしまうことがあった。
【0063】
このことは、用手的に実験を実施する場合には、ハンドリング性の低下につながるし、オートメーションを考慮すれば、測定対象物の載置の際の動作の裕度の低下につながる。
また、導電性部材14を有しないウェルプレートで測定する場合、測定対象物70の大きさについても、対電極22、及び、参照電極24と接しない程度(実質的には、作用電極20と同程度)に限られ、それ以上は大きくできなかった。ウェルプレートが有するウェルの数を多くするほど(多数のサンプルの測定を行うとするほど)、ウェルが小さくなるため、より測定対象物を小さくしなければならなかった。
【0064】
一方、後述する参考例のように、単セル型のプレートを用いれば、測定対象物の載置のためのスペースも十分であり、かつ、測定も可能であることを本発明者らは確認している。しかし、この場合、ウェルプレートのように、多数の測定対象物についての電気化学測定を一度に実施することはできなかった。
【0065】
ウェルプレート10は上記不具合をいずれも解決するものである。その特徴点の一つは、作用電極20上に導電性部材14を配置し、あたかも、対電極22、及び、参照電極24に対して作用電極20の位置を3次元的に(ウェルの高さ方向に)離間させていることである。
そのため、測定対象物70を導電性部材14の天面に載置した際に、対電極22、及び、参照電極24との短絡の虞がなく、副次的に、測定対象物70の面積をより大きくすることができるという効果も得られる。測定対象物70の面積をより大きくすると、電気化学測定後の測定対象物について他の評価試験に供する際により有利となる。
なお、測定対象物70と、チューブ13の内壁面71との間には電解液が流通するための隙間が確保されている。
【0066】
次に、ステップS11として、測定対象物70が載置されたウェルプレート10について、所定の条件に沿って電気化学測定が行われる。所定の条件とは、電極の電気化学反応の条件(電極・電位)、測定形式、及び、電解液の種類等を意味する。この条件は、測定部60に入力62される。
【0067】
電気化学測定の測定形式は特に制限されず、サイクリックボルタンメトリ、クロノアンペロメトリ、クロノポテンショメトリ、リニアスイープボルタンメトリ、ディファレンシャルパルスボルタンメトリ、及び、インピーダンス測定等が挙げられ、目的に応じて適宜選択されればよい。
【0068】
電気化学測定は、典型的には、ウェル内の電極セット15、及び、測定対象物70が電解液と接触するように、電解液をウェル内に注入された後、行われる。また、上記方法は、必要に応じて、得られた電気化学的応答を解析するステップを更に有していてもよい。
【0069】
上記の電気化学測定方法はウェルプレート10を用いるため、測定対象物70をセットしやすく、ハンドリング性に優れる。また、従来よりも測定対象物70の表面積を大きく取ることができる。
【0070】
(導電性部材の他の形態)
次に、ウェルプレート10における導電性部材14の変形例について説明する。ウェルプレート10において、導電性部材14は円柱状であるが、導電性部材は、柱状であればその形状は上記に制限されない。
導電性部材の形状としては、円柱、及び、角柱等の柱体、円錐台、及び、角錐台等の錐台、並びに、これらを組み合わせた形状が挙げられる。
【0071】
図10は、導電性部材の他の形態の模式図である。
図10(A)の導電性部材80は、円錐台(切頭錐体)であり、底面80aよりも天面80bの面積が大きく、側面80cはテーパ状となっている。
図10(B)の導電性部材81は上記の変形例であり、底面81aに対して天面81bが大きい点は同様であるが、側面81cが曲線的である点が異なっている。
図10(C)の導電性部材82は、円柱82aと円柱82bとを略同軸で積み重ねた側面視T字型の形状である。
【0072】
図10(A)~(C)に示された変形例は、いずれも底面に対して天面の面積が大きいため、底面の面積を作用電極と略同一とした場合でも、測定対象物を載置すべき天面の面積が広くとれる。そのため、測定対象物の剛性が低い場合にも、測定対象物がたわんで対電極22、及び、参照電極24と接触することがより抑制される。言い換えれば、剛性が低い測定対象物であっても、支持体と複合化しない状態での電気化学測定がより容易になる。
【0073】
図10(D)及び
図10(E)は、
図10(C)の導電性部材の変形例である。導電性部材83は、導電性部材82と同様に、円柱83aと円柱83bとを略同軸で積み重ねた形状である。更に、導電性部材83の天面には、円形の天面の周方向に沿って溝83cが形成されている。
【0074】
導電性部材83は、測定対象物の前駆体である組成物を導電性部材83の天面に塗布し、シート状に成型して測定対象物を得る場合に特に有用である。
導電性部材83は天面に溝83cを有しているため、組成物が導電性部材83から漏れ出る(溢れ出る)のを抑制することができる。溝83cが余剰の組成物を貯留するバッファーの機能を果たすからである。溝83cは流体漏出防止機構の一例である。
なお、溝83cは、天面の周方向に沿って、その全周にわたって1本形成されているが、溝である流体漏出防止機構の形態としては上記に制限されない。溝の本数、及び、形状は測定対象物の前駆体である組成物の性状等に応じて適宜変更できる。
【0075】
図10(E)は流体漏出防止機構を有する導電性部材の他の形態である。導電性部材84は、導電性部材82と同様に、円柱84aと円柱84bとを略同軸で積み重ねた形状である。更に、導電性部材84の天面には、その周縁端に枠体84cが配置されている。枠体84cによって、塗布された組成物が導電性部材84の外へと、より漏出しにくくなる。枠体の高さは、測定対象物の前駆体である組成物の性状等に応じて適宜変更できる。
【0076】
[ウェルプレートの製造方法]
本発明のウェルプレートは、典型的には、裏面への引き出し配線等が予め形成された下部基板の所定の位置に電極をパターニングし、作用電極上に導電性部材を配置し、そのうえで上部基板を接合することによって製造できる。また、電極が形成された下部基板と上部基板とを接合した後に、各セルに導電性部材を配置する方法も適用できる。
【0077】
電極のパターニング方法としては、蒸着法、スパッタリング法、フォトリソグラフィ法、及び、印刷法等が適用できる。なかでも印刷法は、より効率的である点、かつ、安価に製造できる点で好ましい。
【0078】
電極の印刷は公知の方法で行うことができ、その形式は特に制限されず、スクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、及び、カーテンコーター等を用いることができる。
【0079】
印刷に用いる電極形成用の組成物としては、例えば、各電極を構成するための導電性粒子、バインダー、及び、溶剤を含む組成物が使用できる。導電性粒子は、各電極の機能に合わせて選択されればよく、作用電極、及び、対電極であれば炭素、及び/又は、貴金属粉末等を用いることができ、参照電極であれば、塩化銀粒子等を用いることができる。
【0080】
より効率的にウェルプレートが製造できる観点で、本発明のウェルプレートの製造方法は、基板上に電極形成用の組成物を塗布して、少なくとも2つの互いに離間した組成物層を形成することと、組成物層の一つと直接接し、他の組成物層とは接しないように、導電性部材を載置することと、組成物層を硬化させて、電極を形成するとともに、導電性部材を電極に固定することと、を含むことが好ましい。
【0081】
図11は、上記製造方法のフロー図である。
ステップS50において、下部基板12上に電極形成用の組成物が塗布され、少なくとも2つの互いに離間した組成物層が形成される。このとき形成される組成物層には、硬化後に作用電極20となる組成物層が含まれることが好ましい。
組成物層を互いに離間させることで、それぞれが離間した電極となる。基板上には、硬化後に電極セットを構成する組成物層の組が、ウェルの数に対応する数、形成される。
【0082】
電極形成用の組成物としては特に制限されないが、各ウェルの底部に、作用電極20と、対電極22と、参照電極24とを有するウェルプレートを製造する場合、参照電極24を形成するための組成物は、作用電極20、及び/又は、対電極22を形成するための組成物とは、含まれる導電性粒子が異なる場合がある。例えば、作用電極20と対電極22とを形成するための電極形成用の組成物には炭素粒子が含まれ、参照電極24を形成するための電極形成用の組成物には、塩化銀粒子が含まれる場合等が挙げられる。
【0083】
この場合、本製造方法は、上記ステップS50の前に、下部基板12上に参照電極24を形成するステップを更に有することが好ましい。参照電極24を形成するステップには、更に詳細には、下部基板12上に参照電極形成用の組成物を塗布して、参照電極形成用の組成物層を形成するステップ、参照電極形成用の組成物層を硬化させて参照電極24を形成するステップが含まれる。
【0084】
上記ステップを含む本製造方法によれば、先に参照電極24が形成されるため、後段の導電性部材14の載置を行った後、更に電極形成(参照電極24の形成)を行う必要がない。作用電極20上に導電性部材14を載置した後に参照電極24を形成するのに比べて、導電性部材14を載置する前に参照電極24を形成する場合、印刷法等がより適用しやすく、より効率的である。
【0085】
次に、ステップS51において、組成物層の一つ(典型的には作用電極形成のための組成物層)と接し、他の組成物層(典型的には対電極形成用の組成物層)とは接しないように、導電性部材14が載置される。
作用電極形成用の組成物層の上に導電性部材14が載置されることで、組成物層を硬化させて電極が形成された後、導電性部材14によって電極同士が短絡するのが抑制される。
また、「直接接する」とは、電極形成用の組成物と導電性部材14とが、他の層を介さずに接することを意味する。
【0086】
次に、ステップS52において、組成物層を硬化させ、電極を形成するとともに、組成物層上に直接接するように載置されていた導電性部材14を、上記電極形成用組成物層により形成された電極上に固定する。
【0087】
組成物層の硬化の方法としては、加熱して溶媒を除去したり、加熱してバインダーを反応硬化させるたりする方法等が挙げられ、使用される電極形成用の組成物の種類・成分等に応じて適宜選択されればよい。
【0088】
本発明の製造方法は、電極形成用の組成物層が硬化される前に導電性部材14が載置されるため、電極形成用の組成物層の硬化によって、導電性部材14も併せて固定される。そのため、導電性部材14の固定のために新たにバインダーや接着剤を用いる必要がなく、効率に優れる。
【0089】
ステップS53において、下部基板12と上部基板16とが接合される。下部基板12と上部基板16とを接合する方法として特に制限されないが、絶縁性の接着剤を用いて接着する方法が挙げられる。
【0090】
[電気化学測定方法]
本発明の電気化学測定方法は、測定対象物をマルチウェルプレートの導電性部材上に載置する前に、載置後に行われる測定(本測定)の条件と同様の条件で予備測定を行うことと、予備測定の結果について、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無を予め定められた基準基づき判定することと、上記劣化に由来する電気化学的応答が無い場合に、測定対象物をマルチウェルプレートの導電性部材上に載置することと、測定対象物を載置したウェルプレートについて、所定の条件に沿って、電気化学測定を行うことと、を含む電気化学測定方法である。
【0091】
図12は、上記電気化学測定のフロー図である。
ステップS20は、測定対象物をマルチウェルプレートの導電性部材上に載置する前に(測定対象物を載置せずに)、本測定の条件と同様の条件で予備測定を行うステップである。
【0092】
予備測定は、導電性部材が、電極の電気化学反応の条件(電位、及び、電流等)、測定方式、及び、測定において使用される電解液等の組み合わせである本測定の測定条件によって、劣化するかを確認するための試験である。
導電性部材は、本測定の条件によっては、溶解する等して劣化する場合があることを本発明者らは知見している。
【0093】
一般的に電気化学測定に用いられる電極の材質は、様々な条件下で安定であるもの(例えば、貴金属、及び、ガラス状カーボン等)とされることが多い。しかし、このような材質は一般に高価であることが多い。
【0094】
本発明のマルチウェルプレートが有する導電性部材は柱状であり、薄膜状の各電極と比較すれば、一般に、製造のために必要な材料が多くなり易い。導電性部材の材質が貴金属等の場合、ウェルプレートは様々な条件下で優れた安定性を有する一方で、材質のコストがウェルプレートの全体のコストに与える影響が大きくなり易い。この観点では、一形態として、導電性部材をより安価な材質とすることが好ましい。
【0095】
つまり、製造のために必要な材料が、電極より多くなり易い導電性部材については、電極の材質とは異なる、より安価な(一般にイオン化傾向がより大きい)材質とすることが、一形態としては、好ましい。
【0096】
予備測定のステップは、上記のように導電性部材の材質が、電極の材質と異なる場合、特に、より安定性の低い材質である場合により有効である。すなわち、測定対象物を載置しないこと以外は、本測定の条件と同様の条件で予備測定を行うことによって、導電性部材が本測定中に劣化しないことを確認したうえで、本測定を行うことができ、より正確な測定結果が得られるのである。
【0097】
ステップS21は、予備測定の結果について、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無を予め定められた基準に基づき判定するステップである。導電性部材の劣化の形態としては、典型的には、導電性部材の溶解等が挙げられる。このような導電性部材の劣化は、特定の電気化学的応答として観察できるため、予め定められた基準に基づき、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無を判定することができる。
【0098】
以下では、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無について判定するために設定される具体的な基準の一例について説明する。
図13は、作用電極にアルミニウム箔を用いて、実験条件をリニアスイープボルタンメトリとした場合の電気化学的応答を示す図である。
【0099】
実験条件の詳細を説明する。まず、電解液として、(1)1 M LiCl/H2O、(2)21 M LiTFSA/H2Oの2種類の水溶液をそれぞれ使用した。
【0100】
対電極にはPtメッシュ、参照電極にはAg/AgCl電極を使用して,3極式のビーカーセルを用いて室温で実験を行った。電解液中に浸漬するアルミニウム箔の表面積は、どちらの電解液を用いた実験でも約2cm2となるようにした。
【0101】
リニアスイープボルタンメトリは、それぞれの開回路電位(-1.0V vs.Ag/AgCl付近)から,高電位に向かって5mV/sの走査速度で行った。
【0102】
図13に示されるとおり、1M LiCl/H
2O中では,-0.5 V vs.Ag/AgCl付近から数mAの大きな電流が観測された。これは、アルミニウム箔の溶解に伴う電流値の上昇である。
【0103】
一方で、21 M LiTFSA/H2O中では、1.0 V vs.Ag/AgClより高電位まで掃引しても、電流値の増大は観測されなかった。21 M LiTFSA/H2O中では、アルミニウムの表面が不動態化して、溶解が抑制されたことが示唆される。
【0104】
上記のように、溶解に伴う測定値の変化(電流値の上昇)を導電性部材の劣化の基準(指標)とすれば、導電性部材の劣化について判定することができる。
【0105】
図12に戻り、上記判定の結果について、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答がなかった場合(ステップS22:NO)、導電性部材上に測定対象物が載置され(ステップS10)、測定対象物が載置されたウェルプレートについて電気化学測定が行われる(ステップS11)。
なお、ステップS10、及び、ステップS11については、
図8においてすでに説明したとおりであり、ここでの説明は省略する。
【0106】
また、本電気化学測定方法は、ステップS10の前に、更に、ウェルプレート10の各ウェルから、予備測定に使用した電解液を廃棄するステップ、及び/又は、各ウェルを洗浄するステップを更に有していてもよい。
また、予備測定の結果をバックグラウンド測定結果とし、本測定の際に、対応するウェルにおける測定結果について、上記バックグウランド測定結果を考慮して解析するステップを更に有していてもよい。バックグラウンド測定結果を考慮する、とは、具体的には、予備測定結果をノイズとして本測定結果から除去する形態等が挙げられる。
【0107】
なお、予備測定の結果の判定(ステップS21)の結果、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答があった場合(ステップS22:YES)、ウェルプレートは廃棄され、測定は終了する。
【0108】
上記電気化学測定方法によれば、予備測定を行うことによって、より正確な測定結果が得られる。特に、作用電極と導電性部材との材質が異なる場合には、予備測定を含む上記電気化学測定方法は特に有用である。
【0109】
[測定装置]
本発明の測定装置は、マルチウェルプレートの電極と電気的に接続するための接続具、及び、接続具を介して電極の電気化学反応を制御する電気化学測定装置を含むリーダ装置と、制御装置と、を有し、制御装置は、マルチウェルプレートの導電性部材上に測定対象物が電気的に接するように載置される前に、測定対象物の電気化学測定のための所定の条件と同様の条件で行われる予備測定の結果、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無を予め定められた基準に基づき判定する予備測定解析部を有する。
【0110】
図14は、上記測定装置のハードウェア構成図である。測定装置90は、リーダ装置40と制御装置51とを有する。測定装置90は、ハードウェア構成としてはすでに説明した測定装置50と同様であるため、以下の説明は省略する。
【0111】
図15は、上記測定装置の機能ブロック図である。測定装置90は、リーダ装置40と、制御装置51とを有し、接続具46、電気化学測定装置48、測定部60、解析部61、及び、予備測定解析部91を有している。
【0112】
予備測定解析部91は、記憶デバイス53に記憶されたプログラムを制御装置51のプロセッサ52が実行して実現される機能である。予備測定解析部91は、導電性部材上に、測定対象物が電気的に接するように載置される前に、測定対象物の電気化学測定のための所定の条件と同様の条件で行われる予備測定の結果について、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無を予め定められた基準に基づき判定する機能である。
【0113】
図16は、上記測定装置の制御装置の動作フロー図である。
ステップS30において、制御装置51(のプロセッサ52)は、測定部60を制御して、測定対象物を導電性部材上に載置せずに、予備測定を実施させる。
【0114】
すでに説明したとおり、予備測定は、測定対象物を載置しないことを除いては、電極の電気化学反応の条件(電位、及び、電流等)、測定方式、並びに、使用する電解液等は、本試験と同様であることが好ましい。但し、例えば、電位を掃引する試験において、所定の条件の全範囲を実施する前に導電性部材が溶解する等して、劣化してしまうような場合には、予備試験と本試験との条件は必ずしも同一である必要はない。
【0115】
次に、ステップS31において、予備測定解析部91が制御され、予備測定の結果について、予め定められた基準に基づき導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無が判定される。
【0116】
本ステップにおいて、予備測定によって導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無が判定されるが、その判定基準については、本発明の電気化学測定方法の説明に記載したとおりであり、ここでは説明を省略する。
【0117】
上記判定の結果、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答がなかった場合(ステップS32:NO)、測定対象物を導電性部材上に載置可能であることが通知される(ステップS33)。通知の方法としては、表示デバイス54に表示する形態でも、通信デバイス56を介して、測定装置90外のデバイス(クライアント)に出力する形態であってよい。
なお、通知される情報は特に制限されないが、予備測定の結果そのものであってもよいし、判定結果であってもよい。
一方、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答があった場合(ステップS32:YES)、測定は終了する。
【0118】
次に、ステップS34において、測定部60が制御され、測定対象物が導電性部材上に載置されたウェルプレートについて本測定が行われる。この際、各ウェル内には所定の条件に沿って、電解液が注入されていることが好ましい。
また、本測定の条件は予備測定の条件と同様である。この条件は、測定部60が受け付けた外部からの入力62の情報であって、記憶デバイス53に記憶されていたものであってよい。
【0119】
次に、ステップS35において、本測定の結果が解析部61によって解析され、通知される。通知の方法は、表示デバイス54に表示する形態でも、通信デバイス56を介して、測定装置90外のデバイスに出力する形態であってもよい。
【0120】
上記測定装置90は予備測定解析部91を有しているため、所定の条件において導電性部材が劣化していないことを確認したうえで本測定を実施することができるため、より正確な測定結果を得ることができる。
【0121】
[自動測定システム]
本発明の自動測定システムは、測定対象物を作製し、マルチウェルプレートの導電性部材上に載置する、試料調製装置と、マルチウェルプレートの電極と電気的に接続するための接続具、及び、接続具を介して電極の電気化学反応を制御する電気化学測定装置を含むリーダ装置と、試料調製装置とリーダ装置との間でマルチウェルプレートを搬送するプレート搬送装置と、制御装置と、を有し、制御装置は、導電性部材上に、測定対象物が電気的に接するように載置される前に、測定対象物の電気化学測定のための所定の条件と同様の条件で行われる予備測定の結果について、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無を予め定められた基準に基づき判定する、予備測定解析部を有する。
【0122】
図17は、上記自動測定システムのハードウェア構成図であり、
図18は機能ブロック図である。
自動測定システム100は、試料調製装置101と、プレート搬送装置102と、リーダ装置40と、制御装置51とを有しており、各装置はバスを介して相互にデータを授受できるよう構成されている。
【0123】
試料調製装置101は、測定対象物(好ましくはシート状)を作製し、マルチウェルプレートの導電性部材上に、上記測定対象物を載置するための装置である。試料調製装置101は、測定対象物を合成し、必要に応じて所定の形状に成形するための自動合成装置103、及び、自動合成装置103によって合成された測定対象物をマルチウェルプレートの導電性部材上に載置するための載置装置104を含んで構成されている。
【0124】
自動合成装置103、及び、載置装置104は、いずれも制御装置51によって制御され、典型的には、入力デバイス55、又は、通信デバイス56によって入力、又は、取得された処方に基づき、測定対象物を合成する。
【0125】
自動合成装置103としては、例えば、特開2002-166160号公報に記載された自動合成装置、国際公開第2003-020418号に記載された混合液の液滴形成装置、特開2003-135977号公報に記載された自動合成装置、特開平11-236339号公報に記載された複数同時合成装置、特開2003-230839号公報に記載された迅速調製装置、特開平11-137990号公報に記載された合成反応装置、特開2003-083855号公報に記載された金属酸化物薄膜ライブラリー製造装置、特開2002-011343号公報に記載された無機化合物合成装置、特表2002-537544号公報に記載された装置、特表2020-504228号公報に記載された多元合金フィルムの調製装置、特開2002-079367号公報に記載された連続自動鋳造システム、及び、特開平01-286255号公報に記載された装置等が使用できる。これらの公知の装置を、測定の目的、及び/又は、対象物の種類等によって適宜選択できる。
【0126】
なお、自動合成装置103は、測定対象物の合成だけでなく、ウェルへの電解液の注入、使用済みの電解液の廃棄、及び、ウェルの洗浄等も併せて行ってもよい。これらは、上述の公知の装置、及び、後述する載置装置104を組み合わせて実施できる。
【0127】
また、合成された測定対象物を所定の形状に成形する必要がある場合、自動合成装置103に、特開2020-009557号公報等に記載の公知の加工装置を組み込めばよい。
【0128】
載置装置104としては、多関節ロボットシステム等の、公知の装置を用いることができる。このような装置としては、例えば、特開2015-167645号公報に記載のものが挙げられる。なお、載置装置104は、後述するプレート搬送装置102と機能的に一体として構成されていてもよい。
【0129】
試料調製装置101は、予備測定解析部91による導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答がなかった場合、制御装置51の制御によって、測定対象物の作製を行い、順次、ウェルプレートの導電性部材上に測定対象物を載置する。
【0130】
プレート搬送装置102は、制御装置51による制御のもと、試料調製装置101とリーダ装置40との間でウェルプレートを搬送する装置である。
なお、プレート搬送装置102は、試料調製装置101とリーダ装置40との間でウェルプレートを搬送すれば、他の位置へとウェルプレートを搬送してもよい。
【0131】
試料調製装置101とリーダ装置40との間を搬送する、とは、例えば、測定対象物を導電性部材上に載置させるために適したウェルプレートの位置(載置位置)、及び、リーダ装置40のトレイ47(測定位置)等にウェルプレートを搬送することを意味する。
【0132】
更に、プレート搬送装置102は、上記以外の位置にウェルプレートを搬送してもよい。そのような位置としては、例えば、自動測定システムが未使用のウェルプレートをスタックする機能を有する場合にはそのスタック位置、及び、使用済みウェルプレートを廃棄する場合には、廃棄位置等が挙げられる。
【0133】
プレート搬送装置102による、搬送経路の一形態について説明する。
まず、ウェルプレートは、スタック位置においてプレート搬送装置102によってピックアップされ、載置位置へと搬送される。
載置位置で電解液が各ウェルに注入された後、ウェルプレートは、プレート搬送装置102によって、測定位置に搬送される。
次に、リーダ装置40によって予備測定が行われた後、ウェルプレートは、プレート搬送装置102によって載置位置に搬送される。
次に、載置位置において、必要に応じてウェルの洗浄等が行われた後、各導電性部材に測定対象物が載置され、電解液が各ウェルに注入される。
その後、プレート搬送装置102によってウェルプレートは再度、測定位置に搬送される。
更に、測定が終了した後、ウェルプレートは、プレート搬送装置102によって廃棄位置に搬送される。
【0134】
このようなプレート搬送装置102としては、公知の装置を用いることができ、特開2020-153733号公報、特開2020-183885号公報、特表2021-519220号公報、特表2005-502479号公報、特開2000-040728号公報、及び、特開2010-169497号公報等に記載の装置を適宜組み込むことができる。
【0135】
なお、自動測定システム100が有するリーダ装置40、及び、制御装置51のハードウェア構成については、すでに説明した測定装置50と同様であるため、説明を省略する。
【0136】
図19は、自動測定システム100の制御装置51(のプロセッサ52)の動作フロー図である。
まず、ステップS40として、制御装置51は、プレート搬送装置102を制御してウェルプレートをリーダ装置40にセットする。すなわち、プレート搬送装置102は、導電性部材上に測定対象物が電気的に接するように載置される前に、ウェルプレートをリーダ装置40の測定位置に搬送し、測定ができる状態にする。
【0137】
次に、ステップS41として、制御装置51は、予備測定解析部91を制御して、測定対象物を載置せずに、測定部60に予備測定を実施させる。
【0138】
すでに説明したとおり、予備測定は、測定対象物を載置しないことを除いては、電極の電気化学反応の条件(電位、及び、電流等)、測定方式、並びに、使用する電解液等は、本試験と同様であることが好ましい。上記の測定条件は、外部から測定部60へと入力62される。
【0139】
次に、ステップS42において、予備測定解析部91が制御され、予備測定の結果について、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答の有無を予め定められた基準に基づき判定される。
【0140】
本ステップにおける判定基準等については、本発明の電気化学測定方法の説明に記載したとおりであり、ここでは説明を省略する。
【0141】
上記判定の結果、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答がなかった場合(ステップS43:NO)、プレート搬送装置102が制御され、ウェルプレートが測定位置から載置位置へと返送されるとともに、試料調製装置101が制御され、測定対象物の調製が開始される(ステップS44)。
【0142】
なお、この際、試料調製装置101は、予備測定に使用した電解液の廃棄と、ウェルの洗浄とを併せて行ってもよい。
【0143】
なお、本フローにおいては、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答がなかったことを確認した後、試料調製装置101が制御され、測定対象物の調製が開始されているが、本自動測定システムを用いた測定方法における、測定対象物の調製開始タイミングは上記に制限されない。
判定結果を待たずに(例えば、予備測定の実施中等に)、測定対象物の調製が開始されてもよい。
【0144】
その場合、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答がないことが確認された後、制御装置51は、プレート搬送装置102を制御して、ウェルプレートを測定位置から載置位置へと搬送し、更に、試料調製装置101を制御して、予備測定に使用した電解液の廃棄と、ウェルの洗浄とを実施させてもよい。
【0145】
一方、導電性部材の劣化に由来する電気化学的応答が得られた場合(ステップS43:YES)、制御装置51は測定を終了する。
【0146】
次に、ステップS45において、制御装置51は、試料調製装置101を制御して、ウェルプレートの導電性部材上に測定対象物を載置する。このとき、併せて電解液が各ウェルに注入されることが好ましい。
次に、ステップS46において、制御装置51は、プレート搬送装置102を制御して、測定対象物が導電性部材上に載置されたウェルプレートをリーダ装置40の測定位置にセットする。
【0147】
次に、ステップS47において、測定部60が制御され、測定対象物が導電性部材上に載置されたウェルプレートについて本測定が行われる。
本測定の条件は予備測定の条件と同様であり、典型的には、測定部60が受け付けた外部からの入力62の情報であって、記憶デバイス53に記憶されていたものである。
【0148】
次に、ステップS48において、本測定の結果が解析部61によって解析され、通知される。通知の方法は、表示デバイス54に表示する形態でも、通信デバイス56を介して、自動測定システム外のデバイスに出力する形態等であってよい。
【0149】
本自動測定システムは、試料調製装置、プレート搬送装置、及び、リーダ装置を備えるため、測定対象物の合成、成形、載置、及び、測定を自動で行うことができる。更に、制御装置が、予備測定解析部を有しているため、導電性部材を有するウェルプレートを使用した場合でも、導電性部材の劣化が起こりにくく、より正確な測定結果が得られやすい。
【実施例0150】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0151】
[電極付きウェルプレートの作製]
リジット基板の一方側の面に96個(8×12)の3電極セット(WE、CE、RE)に対応した回路パターン(Cu回路上にNi/Auメッキ、Agペーストの積層体)が形成され、各電極回路が、内層回路、及び、ビアホールによって、他方側の面に形成された接続パッドと接続された基板を準備し、各電極をスクリーン印刷法によって形成した。
【0152】
WE及びCEの形成には、十条ケミカル製の導電性カーボンペースト「JELCON CH-8」(一液硬化型)を用いた。また、REの形成には、ビー・エー・エス製の「参照電極用銀塩化銀インク」(一液硬化型)を用いた。
【0153】
具体的には、まず、回路パターンのREに対応する所定の位置に、上記の銀塩化銀インクの膜厚が、1回あたり15~40μmで1~3回塗布し、銀塩化銀インク層を形成した。次に、基板を含めた全体を120℃のオーブンで5分間加熱し、銀塩化銀インク層を乾燥硬化させ、REを形成した。
【0154】
次に、回路パターンのWE、CEに対応する所定の位置に、上記のカーボンペーストの膜厚が銀塩化銀インク層と同程度となるように塗布し、カーボンペースト層を形成した。
【0155】
次に、乾燥後にWEとなるカーボンペースト層上に、アルミニウム製の円柱状部材(φ=3mm、WEの大きさと略同じ)を載置した。
次に、円柱状部材を載置した状態のまま、基板を含めた全体を120℃のオーブンで15分間加熱し、カーボンペースト層を乾燥硬化させることで、WE、CEを形成するとともに、WE上に載置された円柱状部材を固定した。
【0156】
上記のようにして形成された底部基板上に、96個の円筒が二次元マトリクス状に配置され、底部に接着剤が塗布された基体を積層し、接着剤を乾燥硬化させて、96個のウェルと、上記ウェルの底部に形成された電極セットを有する電極付きウェルプレートを作製した。
【0157】
[参考例]
Liイオン電池の正極として利用されるLiMn2O4の粉末を以下の手順で作製した。ビーカーに所定の量の硝酸リチウム、硝酸マンガン六水和物、クエン酸を混合した水溶液を用意して、ホットプレートの上で加熱した。
【0158】
ホットプレートの温度は、400℃から始めて、水の蒸発が進行するにつれて200℃まで下げた。その後、再度ホットプレートの温度を400℃に上げることにより、ビーカー内に残存した混合物が着火して、ガス発生を伴いながらLiMn2O4の前駆体が合成された。得られた粉末を電気炉に入れて600℃で10時間の熱処理を行うことにより、LiMn2O4の粉末を得た。
【0159】
(Al箔上への塗布)
所定の量のLiMn2O4の粉末、導電助剤、結着剤をNMP(N-メチル-2-ピロリドン)中に分散させたスラリーを作製して、Al箔上にハンドコーターを用いて塗布した。その後、120℃で12時間の真空乾燥を行うことで、NMPを揮発させて塗布電極を得た。
【0160】
(電極の打ち抜き)
得られた塗布電極は,トリミングカッターを用いてφ5mmに裁断した。
【0161】
(プリント電極への貼り付け)
単一セルのプリント電極の作用電極に導電性の両面テープを貼り、その上にφ5mmの塗布電極を乗せることで接着した。
【0162】
(電気化学測定とその結果)
図20は、水系の高濃度溶液である21M LiTFSA/H
2O(TFSA:bis(trifluoromethanesulfonyl)amide)を電解液として、サイクリックボルタンメトリ試験を行った結果である。
使用したプリント電極の対電極はPt、参照電極はAg/AgClであり、測定は室温で行った。走査速度は5mV/sとして、0.2~1.2V vs. Ag/AgClの範囲で電位を走査した。得られた結果は,LiMn
2O
4の典型的なプロファイルと一致しており、約1.0V vs. Ag/AgCl以上の高電位で観測される酸化電流はLiMn
2O
4からのLiの脱離、約1.0V vs. Ag/AgCl以下の電位で観測される還元電流はLiイオンの挿入に対応すると考えられる。以上の結果から、プリント電極を利用して電池材料の評価が可能であることが示された。
本発明のマルチウェルプレートを用いることにより、多量の測定対象物について、迅速に電気化学測定を行うことができる。本発明のマルチウェルプレートの一形態では、作用電極上に配置された導電性部材を有していて、測定対象物は上記導電性部材上に載置される。
つまり、導電性部材の天面(測定対象物の載置位置)に対して、ウェル底部に配置された対電極、及び、参照電極がウェルの高さ方向に三次元的に離間している。そのため、測定対象物と対電極、及び/又は、参照電極が接触して短絡が発生することが抑制される。更に、測定対象物の表面積(大きさ)をより大きくすることが可能であり、電気化学測定後の測定対象物を他の測定に供する際により有利である。
本発明のマルチウェルプレートを用いれば、多くのシート状の測定対象物について、迅速に電気化学測定ができる。更に、各ウェルで測定条件(電位・電流、測定方式、及び、電解液の種類等)を変更すれば、1プレートで様々な測定を同時並行できる。
本発明のマルチウェルプレートは、電極材料、及び、触媒等の電池に用いられる材料の評価、及び、金属材料の腐食過程の評価等、主としてシート状で固体の測定対象物の電気化学測定を行う際に、広く利用することができる。
10:ウェルプレート、11:スカート、12:下部基板、13:チューブ、14:導電性部材、15:電極セット、16:上部基板、17:領域、20:作用電極、21、23、25:配線、22:対電極、24:参照電極、30、32、34:ビアホール、31、33、35:接続パッド、40:リーダ装置、41、43、45:接続端子、42:本体、44:カバー、46:接続具、47:トレイ、48:電気化学測定装置、50、90:測定装置、51:制御装置、52:プロセッサ、53:記憶デバイス、54:表示デバイス、55:入力デバイス、56:通信デバイス、60:測定部、61:解析部、70:測定対象物、71:内壁面、80、81、83、84:導電性部材、80a、81a:底面、80b、81b:天面、80c、81c:側面、82a、82b、83a、83b、84a、84b:円柱、83c:溝、84c:枠体、91:予備測定解析部、100:自動測定システム、101:試料調製装置、102:プレート搬送装置、103:自動合成装置、104:載置装置