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特開2023-5445熱可塑性樹脂フィルム、プリプレグ、およびプリプレグ積層体
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  • 特開-熱可塑性樹脂フィルム、プリプレグ、およびプリプレグ積層体 図1
  • 特開-熱可塑性樹脂フィルム、プリプレグ、およびプリプレグ積層体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005445
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルム、プリプレグ、およびプリプレグ積層体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230111BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08J5/18
C08J5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107371
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 侑平
(72)【発明者】
【氏名】由井 博
【テーマコード(参考)】
4F071
4F072
【Fターム(参考)】
4F071AA45
4F071AC14
4F071AC15
4F071AC19
4F071AE07
4F071AF05C
4F071AF47Y
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4F072AA08
4F072AB10
4F072AD37
4F072AE07
4F072AF19
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH21
(57)【要約】
【課題】難燃性と薄肉製膜性に優れるとともに、エチレンカーボネートやアセトン等の溶剤に対する耐溶剤性に優れた熱可塑性樹脂フィルム、プリプレグ、およびこれを用いたプリプレグ積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムは、炭素繊維に含浸させてプリプレグを形成するためのものであり、ポリエステル樹脂とリン系難燃剤とを少なくとも含有し、熱可塑性樹脂フィルムの全体に対するリン系難燃剤におけるリン元素含有量が1.6質量%以上2質量%未満であり、JIS K 7114に準拠して測定された、エチレンカーボネート中及びアセトン中に23℃で30分浸漬した後の重量減少率が5%未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維に含浸させてプリプレグを形成するための熱可塑性樹脂フィルムであって、
ポリエステル樹脂とリン系難燃剤とを少なくとも含有し、
前記熱可塑性樹脂フィルムの全体に対する前記リン系難燃剤におけるリン元素含有量が1.6質量%以上2質量%未満であり、
JIS K 7114に準拠して測定された、エチレンカーボネート中及びアセトン中に23℃で30分浸漬した後の重量減少率が5%未満であることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂を90質量%超含むことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
前記リン系難燃剤が、環状ホスファゼンとポリホスフォネートとを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
有機金属塩を含有することを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項5】
UL94規格に準拠したVTM試験において、VTM-2に適合する難燃性以上の難燃性を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを前記炭素繊維に含浸させたことを特徴とするプリプレグ。
【請求項7】
請求項6に記載のプリプレグを積層したことを特徴とするプリプレグ積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維に含浸させて、熱可塑性炭素繊維強化樹脂の中間材料であるプリプレグを形成するための熱可塑性樹脂フィルム、プリプレグ、およびこれを用いたプリプレグ積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂は、軽量で優れた強度、および高い耐久性などの特性から、自動車、航空機、土木仮設資材など幅広い分野で利用されている。炭素繊維強化樹脂としては、含浸させる樹脂の性質の違いにより、熱硬化性炭素繊維強化樹脂と、熱可塑性炭素繊維強化樹脂とがある。このうち、熱可塑性炭素繊維強化樹脂は、成形時間が短く、また加熱によってリサイクル利用が可能であるといった利点から、特に自動車用の材料として用いられている。
【0003】
熱可塑性炭素繊維強化樹脂は、中間材料であるプリプレグを用いて製造される。プリプレグは、炭素繊維のトウ(束)を開繊して、熱可塑性樹脂を炭素繊維に含浸させることによって得られ、プリプレグの中でも、炭素繊維のトウ(束)を開繊して一方向に整列させたものを、一方向(UD)プリプレグという。
【0004】
ここで、例えば、電気自動車のバッテリーケースを最終成形品とした場合、電池の発熱量が増大した場合の難燃性、リチウムイオン二次電池向け電解液の溶媒として使用されるエチレンカーボネートやバッテリーケースの塗装・接着工程において使用されるアセトン等の溶媒に対する耐溶剤性(耐薬品性)、及び炭素繊維と熱可塑性樹脂との接着性を向上するための薄肉製膜性が必要となる。
【0005】
そこで、例えば、60~88質量%のポリカーボネート樹脂と、12~40質量%のリン系難燃剤とを含有し、240℃におけるメルトマスフローレート(MFR)が9~120×0.01cc/secであるポリカーボネート樹脂組成物が提案されている。そして、このような構成により、連続繊維強化材の含浸性、及び難燃性に優れたポリカーボネート樹脂組成物、及び難燃性に優れたポリカーボネートプリプレグを提供することができると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の熱可塑性樹脂と有機リン酸金属塩(b)とを溶融混練して得られた難燃性マスターバッチに、希釈樹脂である熱可塑性樹脂を溶融混練することにより形成された難燃性樹脂組成物が提案されている。そして、このような構成により、難燃性に優れた熱可塑性樹脂成形品を提供することができると記載されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、ポリカーボネート樹脂をポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル(他の結晶性樹脂)とアロイ化したポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。そして、このような構成により、ポリカーボネート樹脂の耐溶剤性を向上させることができると記載されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2016/186100号
【特許文献2】特開2015-63646号公報
【特許文献3】特開2019-151711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1に記載のポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性を有するものの、ポリカーボネート樹脂が非晶性樹脂であるため、耐溶剤性に乏しく、電気自動車のバッテリーケースに使用した場合、リチウムイオン二次電池の電解液の液漏れに起因する腐食を防止することができないという問題があった。
【0010】
また、上記特許文献2に記載の難燃性樹脂組成物は、難燃剤フィラー(有機リン酸金属塩)を含有するため、20μmtの薄肉成形が困難であるという問題があった。
【0011】
また、上記特許文献3に記載のポリカーボネート樹脂組成物においては、ポリカーボネート樹脂をポリブチレンテレフタレート樹脂とアロイ化した場合であっても、プリプレグ積層体に含まれる溶剤によりダメージを受けたポリカーボネート樹脂の部分から、プリプレグ積層体の全体にダメージが広がるため、アロイ化による耐溶剤性の向上は困難であるという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、難燃性と薄肉製膜性に優れるとともに、エチレンカーボネートやアセトン等の溶剤に対する耐溶剤性に優れた熱可塑性樹脂フィルム、プリプレグ、およびこれを用いたプリプレグ積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、炭素繊維に含浸させてプリプレグを形成するための熱可塑性樹脂フィルムであって、ポリエステル樹脂とリン系難燃剤とを少なくとも含有し、熱可塑性樹脂フィルムの全体に対するリン系難燃剤におけるリン元素含有量が1.6質量%以上2質量%未満であり、JIS K 7114に準拠して測定された、エチレンカーボネート中及びアセトン中に23℃で30分浸漬した後の重量減少率が5%未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、難燃性と薄肉製膜性に優れるとともに、エチレンカーボネートやアセトン等の溶剤に対する耐溶剤性に優れた熱可塑性樹脂フィルム、プリプレグ、およびこれを用いたプリプレグ積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るプリプレグの製造方法の一例を説明するための模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るプリプレグの製造方法の他の一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0017】
<熱可塑性樹脂フィルム>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、シート状の連続炭素繊維の一面および他面にそれぞれ配置して、または、シート状の連続炭素繊維を本発明の熱可塑性樹脂フィルムの一面および他面にそれぞれ配置して、後述のフィルムスタッキング法により、炭素繊維に含浸させて、プリプレグを形成するための樹脂フィルムである。
【0018】
この熱可塑性樹脂フィルムは、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノキシ樹脂等のポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂と、難燃剤とを含有するフィルムである。
【0019】
また、熱可塑性樹脂としては、熱硬化性樹脂に比べて耐衝撃性、耐熱特性、及びリサイクル性に優れ、低コストであるポリカーボネート樹脂、フェノキシ樹脂、及びポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂を使用することが好ましい。
【0020】
また、テレフタル酸(またはテレフタル酸ジメチル)と多価アルコール(1,4-ブタンジオール)を脱水縮合させて得られるポリブチレンテレフタレート樹脂は、耐溶剤性(耐薬品性)が高く、炭素繊維への含浸性に優れているため、特に好ましい。
【0021】
また、ポリエステル樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂を使用する場合、ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂を90質量%超含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましく、100質量%含むことがさらに好ましい。ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂を90質量%超含む場合は、耐溶剤性を有する熱可塑性樹脂フィルム及びプリプレグ積層体を得ることができる。
【0022】
また、熱可塑性樹脂フィルムの全体に対するポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が83質量%以上87質量%未満であることが好ましく、85質量%以上86質量%以下がより好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が83質量%未満の場合は、熱可塑性樹脂フィルムにおける難燃剤の割合が多くなるため、穴あき、及びブロッキングに起因する加工不良が生じる場合がある。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が87質量%以上の場合は、熱可塑性樹脂フィルムにおける難燃剤の割合が少なくなるため、難燃効果を十分に発揮することができない場合がある。
【0023】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂のメルトマスフローレート(MFR)が1~10g/10分であることが好ましく、2~8g/10分であることがより好ましい。メルトマスフローレート(MFR)が1g/10分未満の場合は、難燃剤との混合が不十分になる場合があり、メルトマスフローレート(MFR)が10g/10分よりも大きい場合は、ポリブチレンテレフタレート樹脂は溶融張力が非常に低いため、ダイから押し出した直後に樹脂がドローダウンしてしまい、薄肉成形が困難になる場合がある。
【0024】
なお、上記のメルトマスフローレートは、JIS K 7210:1999の規定に準拠して測定することにより得られる。
【0025】
また、熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、10~100μmが好ましく、12~60μmがより好ましく、15~30μmがさらに好ましい。熱可塑性樹脂フィルムの厚さが10μm以上であれば、プリプレグにおいて、炭素繊維に対して樹脂成分が不足することに起因する含浸不良(炭素繊維間における空隙の発生)を防止することができる。また、熱可塑性樹脂フィルムの厚さが100μm以下であれば、プリプレグにおいて、過剰な樹脂成分に起因する炭素繊維の体積含有率(Vf値)の低下を防止することができるため、プリプレグ積層体にした時の強度の低下を防止することができる。また、特に、熱可塑性樹脂フィルムの厚さが15~30μ(例えば、20μm)であれば、水素結合成分を含む樹脂からなる薄いフィルムを形成することができる(すなわち、薄肉製膜化ができる)ため、フィルムの界面における水素結合成分が増え、結果として、接着性を向上することが可能になる。
【0026】
なお、ここでいう「体積含有率(Vf値)」は、JIS K 7075(炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率および空洞率試験方法)の燃焼法に準拠して測定されたものをいう。
【0027】
また、難燃剤としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂に対する分散性に優れ、薄肉成形が可能なリン系難燃剤が使用される。より具体的には、例えば、リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウム塩、環状ホスファゼン、及びポリホスフォネート等が挙げられる。なお、これらの難燃剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
このうち、耐熱性に優れ、ポリブチレンテレフタレート樹脂の加工温度において分解せず、高い難燃性を有する環状ホスファゼンや、リン化合物の共重合体であり、ブロッキングが小さく混錬が容易でありながらも、高い難燃性を有するポリホスフォネートを使用することが好ましい。
【0029】
リン系難燃剤として環状ホスファゼンを使用する場合、熱可塑性樹脂フィルムの全体に対する環状ホスファゼンの含有量が3質量%以上7質量%未満であることが好ましく、4質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。環状ホスファゼンの含有量が3質量%未満の場合は、リン元素の含有率が低くなるため、難燃性を十分に発揮することができない場合がある。また、環状ホスファゼンの含有量が7質量%以上の場合は、リン系難燃剤の割合が多くなるため、穴あき、及びブロッキングに起因する加工不良が生じる場合がある。
【0030】
また、リン系難燃剤としてポリホスフォネートを使用する場合、熱可塑性樹脂フィルムの全体に対するポリホスフォネートの含有量が7質量%以上12質量%未満であることが好ましく、10質量%以上11質量%以下がさらに好ましい。ポリホスフォネートの含有量が7質量%未満の場合は、リン元素の含有率が低くなるため、難燃性を十分に発揮することができない場合がある。また、ポリホスフォネートの含有量が12質量%以上の場合は、リン系難燃剤の割合が多くなるため、穴あき、及びブロッキングに起因する加工不良が生じる場合がある。
【0031】
なお、環状ホスファゼンとポリホスフォネートは、リン元素含有率が非常に高く、相溶性に良好であるため、併用することが好ましい。
【0032】
また、熱可塑性樹脂フィルムの全体に対するリン系難燃剤におけるリン元素含有量が1.6質量%以上2重量%未満であることが好ましい。リン系難燃剤におけるリン元素含有量が1.6質量%未満の場合は、リン元素の含有量が低くなるため、難燃性を十分に発揮することができない場合がある。また、リン系難燃剤のリン元素含有量が2質量%以上場合は、熱可塑性樹脂フィルムの全体に対するリン系難燃剤の割合が多くなるため、穴あき、及びブロッキングに起因する加工不良が生じる場合がある。
【0033】
なお、2種類のリン系難燃剤(例えば、上述の環状ホスファゼンとポリホスフォネート)を併用する場合は、2種類のリン系難燃剤におけるリン元素の合計の含有量が1.6質量%以上2重量%未満であることが好ましい。
【0034】
また、プリプレグ積層体の難燃性を確保するとの観点から、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、UL94規格に準拠したVTM試験(UL94/VTM燃焼試験)において、VTM-2以上、好ましくはVTM-1以上、より好ましくはVTM-0以上の難燃性を有することが好ましい。
【0035】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、表面自由エネルギーが30mJ/m以上60mJ/m以下であることが好ましい。表面自由エネルギーが30mJ/m未満の場合は、炭素繊維との接着性が著しく低下し、高強度のプリプレグを製造できないという不都合が生じる場合がある。また、表面自由エネルギーが60mJ/mよりも大きい場合は、熱可塑性樹脂フィルムの巻き送りができないほどブロッキングする場合があるため、フィルム化が困難になる場合がある。
【0036】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいては、表面自由エネルギーに対する水素結合成分の割合が6%以上35%以下であることが好ましい。水素結合成分の割合が6%以上35%以下であれば、熱可塑性樹脂フィルムと炭素繊維のサイジング剤成分との相溶性が向上し、プリプレグにおいて熱可塑性樹脂フィルムと炭素繊維の接着性が向上するため、プリプレグ積層体における空隙率を低下させることが可能になる。その結果、空隙の周辺に発生する応力集中を緩和させることができるため、プリプレグ積層体の強度を長期にわたって向上させることが可能になる。
【0037】
なお、ここで言う「空隙率」とは、プリプレグ積層体において、熱可塑性樹脂が未含浸である部分の体積比率のことをいい、JIS K 7075(炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率および空洞率試験方法)の燃焼法に準拠して測定したものをいう。
【0038】
また、熱可塑性樹脂フィルムと炭素繊維の接着性が向上するため、プリプレグおよびプリプレグ積層体の表面における繊維の羽立が抑制され、外観や触感に優れたプリプレグおよびプリプレグ積層体を提供することができる。
【0039】
なお、プリプレグ積層体における空隙率をより一層低下させるとの観点から、表面自由エネルギーに対する水素結合成分の割合は10%以上30%以下が好ましい。
【0040】
また、水素結合成分量としては、3.0mJ/m以上20mJ/m以下が好ましく、4.0mJ/m以上20mJ/m以下がより好ましい。
【0041】
このように、本発明の熱可塑性樹脂フィルムを使用することにより、空隙率が低く、長期にわたって強度に優れるプリプレグ積層体を得ることができる。
【0042】
なお、この「表面自由エネルギー」は、各種液滴の接触角(測定温度:25℃)を測定し、その値に基づいて、OWRK理論(Owens-Wendt-Rable-Kaelble)により求めることができる。より具体的には、「分散成分」としてジヨードメタンの液滴を使用するとともに、「水素結合成分(=極性成分)」として純水の液滴を使用し、全自動接触角計を使用して、JIS R 3257に準拠して、温度が25℃、相対湿度が50%の条件下で、ジヨードメタンと純水の接触角を測定し、これらから分散成分と水素結合成分(極性成分)の各々の表面自由エネルギーを求め、求めた各表面自由エネルギーの和から、OWRK理論の計算式を用いて、熱可塑性樹脂フィルムの表面における表面自由エネルギー[mJ/m]を求めるとともに、表面自由エネルギーに対する水素結合成分の割合[%]を算出する。なお、各表面エネルギーは、例えば、表面自由エネルギー解析ソフトを使用して求めることができる。
【0043】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいては、フィルムの機械軸(長手)方向(以下、「MD」という。)と直交する方向(以下、「TD」という。)において、熱可塑性樹脂の融点付近の加熱温度で2分間加熱した場合の加熱収縮率が7.0%未満であることが好ましく、3.0%未満であることがより好ましい。TDにおける加熱収縮率が7.0%未満の場合は、後述のフィルムスタッキング法によりプリプレグを製造する際に、熱可塑性樹脂フィルムのTDにおける熱収縮(ネックイン)が発生しないため、炭素繊維がプリプレグの中央部に寄ることを防止することができる。従って、面内で均一な特性を有するプリプレグを実現することができる。
【0044】
なお、この「加熱収縮率」は、50mm(TD)×100mm(MD)の熱可塑性樹脂フィルムのMDの両端部をTDに沿ってアルミニウムテープで厚さ0.3mmのSUS板上に固定し、オーブンに入れて、ダンパーの開度50%、融点近傍付近の加熱温度(170℃)で2分間維持した後に、樹脂フィルムのTDの最も収縮した部分の長さ(mm)を測定し、50mmに対する割合からTDの加熱収縮率を算出することができる。
【0045】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいては、JIS K 7114の「プラスチック-液体薬品への浸せき効果を求める試験方法」に準拠して測定された、エチレンカーボネート中及びアセトン中に23℃で30分浸漬した後の重量減少率が5%未満である。重量減少率が5%未満であれば、例えば、プリプレグ積層体を電気自動車のバッテリーケースに使用した場合、リチウムイオン二次電池向け電解液の溶媒として使用されるエチレンカーボネートや、バッテリーケースの塗装・接着工程において使用されるアセトン等の溶媒に対する耐溶剤性(耐薬品性)を向上させることができる。
【0046】
なお、ここで言う「重量減少率」とは、以下の式(1)により算出されるものを言う。
【0047】
[数1]
重量減少率[%]=[(浸漬前のフィルムの重量-浸漬後のフィルムの重量)/浸漬前のフィルムの重量]×100 (1)
【0048】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムには、熱可塑性樹脂フィルムの特性を損なわない範囲において、上述の熱可塑性樹脂以外に、有機金属塩、帯電防止剤、及び相溶化剤が含有されていてもよい。
【0049】
有機金属塩は、熱可塑性樹脂フィルムの難燃性を向上させるためのものであり、例えば、有機スルホン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。なお、これらの有機金属塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
また、有機スルホン酸アルカリ金属塩としては、例えば、有機スルホン酸カリウム塩、有機スルホン酸リチウム塩、有機スルホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0051】
また、有機金属塩を使用する場合、炭素繊維への含浸性の観点から、熱可塑性樹脂フィルム全体に対する有機金属塩の含有量は、0.01~1.0質量%が好ましく、0.05~0.5質量%がより好ましく、0.1~0.3質量%がさらに好ましい。
【0052】
帯電防止剤としては、親水基を有する有機系帯電防止剤が使用でき、低分子型の導電性モノマー(界面活性剤)や高分子型の導電性ポリマーが挙げられる。また、低分子型の導電性モノマーとしては、非イオン、アニオン、カチオン、及び両性タイプが挙げられ、高分子型の導電性ポリマーとしては、ポリエーテルやイオン電導性ポリマーが挙げられる。
【0053】
なお、熱可塑性樹脂フィルムの水素結合成分量を増加させるとの観点から、低分子型の導電性モノマーを使用することが好ましい。低分子型の導電性モノマーとしては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の多価アルコール脂肪酸エステル、塩化アルキルトリメチルアンモニウム等の第四級アンモニウム塩、及びアルカンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸系化合物が挙げられる。なお、これらの帯電防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
そして、親水基を有する有機系帯電防止剤を使用することにより、熱可塑性樹脂フィルムの水素結合成分量が増加するため、非常に高い極性を有する炭素繊維のサイジング剤成分との相溶性が向上し、結果として、プリプレグにおいて熱可塑性樹脂フィルムと炭素繊維の接着性が向上することになる。
【0055】
また、帯電防止剤を使用する場合、フィルム表面の親水化効果およびフィルム成型性を向上させるとの観点から、熱可塑性樹脂フィルム全体に対する帯電防止剤の含有量は、熱可塑性樹脂フィルム100質量%のうち、0.1~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましい。
【0056】
また、相溶化剤としては、ランダムポリマー型とグラフト・ブロックポリマー型が使用できる。より具体的には、例えば、ポリスチレンとポリカプロラクトンとのブロックコポリマー、カプロラクトンで変性させたスチレン/無水マレイン酸/不飽和誘導体コポリマー、無水マレイン酸をグラフトしたε-ポリカプロラクトン、及びメタクリル酸グリシジル-スチレン-アクリロニトリル共重合体とポリカーボネートとのブロック共重合体等が挙げられる。
【0057】
そして、本発明においては、このような相溶化剤を使用することにより、熱可塑性樹脂フィルムの成形性を向上することができる。
【0058】
また、相溶化剤を使用する場合、熱可塑性樹脂フィルムを所望の厚み(例えば、20μm)で製膜するとの観点から、熱可塑性樹脂フィルム全体に対する相溶化剤の含有量は、熱可塑性樹脂フィルム100質量%のうち、0.05~5質量%が好ましく、0.1~1質量%がより好ましい。
【0059】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、例えば、インフレーション法、Tダイ押出し法、カレンダー法などによって製造される。
【0060】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムをTダイ押出し法によって製造する場合は、単軸、または2軸押出機のシリンダー温度とダイス温度を熱可塑性樹脂組成物の融点、ガラス転移点より5℃から150℃高い温度に設定し、熱可塑性樹脂を押出機に投入し、スクリュー回転数5~50rpmで溶融混練し、Tダイから押し出し、厚さ10~100μmの熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
【0061】
<プリプレグ>
本発明のプリプレグは、連続炭素繊維を開繊・含浸機に供給して、本発明の熱可塑性樹脂フィルムによって挟み込む、または本発明の熱可塑性樹脂フィルムを連続炭素繊維によって挟み込んで、炭素繊維に熱可塑性樹脂フィルムを積層し、加熱・加圧処理により、熱可塑性樹脂を炭素繊維に含浸させる、フィルムスタッキング法により得られる。
【0062】
図1は、本発明の実施形態に係るプリプレグの製造方法の一例を説明するための模式図である。
【0063】
プリプレグの製造する際には、まず、開繊・含浸機10の供給ローラ対11により、シート状の連続炭素繊維CSをプレートヒーター12に向けて搬送するとともに、連続炭素繊維CSの一面および他面に、熱可塑性樹脂フィルムRF1,RF2を積層して、シート状の連続炭素繊維CSと熱可塑性樹脂フィルムRF1,RF2からなる積層体を作製する。次に、この積層体を、図中の矢印の方向に搬送させて、第1ローラ対13と第2ローラ対14により挟持させた状態で、プレートヒーター12を通過させて、加熱・加圧処理を行う。そうすると、積層体の熱可塑性樹脂フィルムRF1,RF2が軟化して、シート状の連続炭素繊維CS中に含浸され、本発明のプリプレグPを得ることができる。
【0064】
また、図2は、本発明の実施形態に係るプリプレグの製造方法の他の一例を説明するための模式図である。この場合、まず、開繊・含浸機10の供給ローラ対11により、熱可塑性樹脂フィルムRFをプレートヒーター12に向けて搬送するとともに、熱可塑性樹脂フィルムRFの一面および他面に、シート状の連続炭素繊維CS1,CS2を積層して、熱可塑性樹脂フィルムRFとシート状の連続炭素繊維CS1,CS2からなる積層体を作製する。次に、この積層体を、図中の矢印の方向に搬送させて、第1ローラ対13と第2ローラ対14により挟持させた状態で、プレートヒーター12を通過させて、加熱・加圧処理を行う。そうすると、積層体の熱可塑性樹脂フィルムRFが軟化して、シート状の連続炭素繊維CS中に含浸され、本発明のプリプレグPを得ることができる。
【0065】
そして、上述の所定の厚さを有する熱可塑性樹脂フィルムを使用して、フィルムスタッキング法を用いてプリプレグを製造することにより、炭素繊維に対して樹脂成分を均一に含浸することが可能になるため、プリプレグを製造する際の歩留まりを向上させることができ、結果として、プリプレグの製造コストを抑制することが可能になる。
【0066】
また、フィルムスタッキング法で熱可塑性樹脂フィルムを炭素繊維に含浸させる場合、熱可塑性樹脂の融点付近の温度で予備含浸させて、本含浸を行う。熱可塑性樹脂の融点を超える温度域では熱可塑性樹脂フィルムが破断してしまい、それ以下の温度では予備含浸が不足する。また、熱可塑性樹脂の融点付近で熱可塑性樹脂フィルムのTDに熱収縮(ネックイン)が生じると、炭素繊維がプリプレグの中央部に寄ってしまい、面内で物性のバラつきが生じる可能性がある。このため、熱可塑性樹脂フィルムの寸法安定性が求められる。熱可塑性樹脂フィルムの寸法安定性の評価は、例えば、上述のごとく、庫内温度を熱可塑性樹脂の融点付近の加熱温度に設定したオーブンで2分間の加熱を行い、加熱収縮率を測定することにより行う。
【0067】
また、プリプレグの厚さは、50~300μmが好ましく、60~150μmがより好ましい。プリプレグの厚さが50μm未満の場合は、プリプレグ積層体を作製する際に、必要なプリプレグの枚数が増加してしまうため、加工時間が長くなり、生産性が低下する場合がある。また、プリプレグの厚さが小さいため、プリプレグを構成する熱可塑性樹脂フィルムの厚さも小さくする(例えば、10μm未満にする)必要があり、プリプレグにおいて、炭素繊維に対して樹脂成分が不足することに起因する含浸不良が発生する場合がある。一方、プリプレグの厚さが300μmよりも大きい場合は、プリプレグを構成する熱可塑性樹脂フィルムの厚さも大きくする(例えば、100μmよりも大きくする)必要があるため、プリプレグにおいて、過剰な樹脂成分に起因する炭素繊維の体積含有率(Vf値)の低下が生じて、プリプレグ積層体において強度が低下する場合がある。
【0068】
<プリプレグ積層体>
本発明のプリプレグ積層体は、複数枚のプリプレグを、繊維が一方向に引き揃えられているUD(Unidirectional)方向に積層して、加熱・加圧処理を行うことにより作製される。なお、プリプレグの積層枚数は、プリプレグ積層体の厚さに基づいて、適宜変更することができる。例えば、プリプレグ積層体の厚さが1.5~2.5mmの場合、40~60枚のプリプレグを積層することができる。
【0069】
また、本発明のプリプレグ積層体においては、強度を向上させるとの観点から、空隙率が2.0%未満であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。
【0070】
また、同様に、本発明のプリプレグ積層体の強度を向上させるとの観点から、プリプレグ積層体における炭素繊維の体積含有率(Vf値)が40~60%であることが好ましい。
【0071】
なお、この「空隙率、及び繊維体積含有率(Vf)」は、JIS K 7075(炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率および空洞率試験方法)の燃焼法に準拠して算出される。
【0072】
また、上述のごとく、本発明のプリプレグ積層体は強度に優れており、自動車部品用途として使用するとの観点から、曲げ強度が1000MPa以上であることが好ましく、1100MPa以上であることがより好ましい。
【0073】
また、例えば、アルミ合金の曲げ弾性率は70GPa以上の高弾性率を示すが、アルミ等の金属との代替を可能にするとの観点から、本発明のプリプレグ積層体の曲げ弾性率は90GPa以上であることが好ましい。
【0074】
なお、ここで言う「曲げ強度、及び曲げ弾性率」とは、JIS K 7074の「炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法」の規定に準拠して測定した値のことをいう。
【0075】
また、例えば、電気自動車のバッテリーケースとして使用可能な難燃性を確保するとの観点から、本発明のプリプレグ積層体は、UL94規格に準拠したV試験(UL94/V燃焼試験)において、V-1以上、好ましくはV-0以上の難燃性を有することが好ましい。
【0076】
また、本発明のプリプレグ積層体においては、エチレンカーボネートに対する、JIS K 7070:1999の「繊維強化プラスチックの耐薬品性試験方法」に準拠して測定された曲げ強度の保持率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。また、同様に、アセトンに対する、JIS K 7070:1999の「繊維強化プラスチックの耐薬品性試験方法」に準拠して測定された曲げ強度の保持率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。このような構成により、エチレンカーボネート、及びアセトンに対する耐溶剤性(耐薬品性)を向上させることができる。
【0077】
なお、ここで言う「曲げ強度の保持率」とは、以下の式(2)により算出されるものを言う。
【0078】
[数2]
曲げ強度の保持率[%]=(エチレンカーボネート(またはアセトン)に浸漬後の曲げ強度/エチレンカーボネート(またはアセトン)に浸漬前の曲げ強度)×100 (2)
【0079】
また、ここで言う「曲げ強度」とは、JIS K 7074の「炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法」の規定に準拠して測定した値のことをいう。
【0080】
また、本発明のプリプレグ積層体においては、JIS K 7070:1999の「繊維強化プラスチックの耐薬品性試験方法」に準拠して測定された吸水後の強度の保持率が80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。このような構成により、吸水後も高い強度を維持することができる。
【0081】
なお、ここで言う「吸水後の強度の保持率」とは、以下の式(3)により算出されるものを言う。
【0082】
[数3]
吸水後の強度の保持率[%]=(水に浸漬後の強度/水に浸漬前の強度)×100 (3)
【0083】
また、ここで言う「強度」とは、JIS K 7074の「炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法」の規定に準拠して測定した値のことをいう。
【0084】
以上に説明したように、本発明においては、耐溶剤性と難燃性に優れ、湿度の高い使用環境下でも強度の劣化を抑制することができるプリプレグ積層体を提供することができる。また、アルミ合金よりも軽量であり、強度も高いことから、金属の代替品として提供することが可能である。
【実施例0085】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0086】
熱可塑性樹脂フィルムの作製に使用した材料を以下に示す。
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂1(ポリプラスチック社製、商品名:700FP、MFR:7g/10分)
(2)ポリブチレンテレフタレート樹脂2(Sobic社製、商品名:Valox357、MFR:8g/10分、ポリカーボネート樹脂を10~50質量%含有したもの、難燃性・耐薬品グレード)
(3)ポリブチレンテレフタレート樹脂3(BASF社製、商品名:B4500、MFR:21g/10分)
(4)ポリブチレンテレフタレート樹脂4(ポリプラスチック社製、商品名:201NF、MFR:9.4g/10分、難燃剤フィラー(径:5~20μm)を含有したもの)
(5)ポリブチレンテレフタレート樹脂5(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:SEF-500、MFR:5g/10分、難燃剤フィラー(径:2~20μm)を含有したもの)
(6)ポリブチレンテレフタレート樹脂6(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:5710N2、MFR:7g/10分、難燃剤フィラー(径:2~20μm)を含有したもの)
(7)ポリカーボネート樹脂1(住化ポリカーボネート社製、商品名:CR3440、MFR:7g/10分、ポリブチレンテレフタレート樹脂を10~50質量%含有したもの、耐薬品グレード)
(8)ポリカーボネート樹脂2(帝人社製、商品名:MN4400Z、MFR:6g/10分、難燃性グレード)
(9)ポリアミド樹脂フィルム(三菱ケミカル社製、商品名:ダイアミロンC-Z)
(10)リン系難燃剤1:環状ホスファゼン(伏見製薬所製、商品名:ラビトルFP110、リン元素の含有量:3.4質量%)
(11)リン系難燃剤2:ポリホスフォネート(エフアールエックスポリマーズ社製、商品名:Nofia HM1100、リン元素の含有量:10.6質量%)
(12)有機金属塩(有機スルホン酸カリウム塩、三菱マテリアル社製、商品名:ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム)
【0087】
(実施例1)
<熱可塑性樹脂フィルムの作製>
まず、ポリブチレンテレフタレート樹脂とリン系難燃剤と有機金属塩とを表1に記載の割合(いずれも質量%)で配合し、ブレンダーにて混合した後、二軸押出機(日本製鋼所社製)に投入して、ストランド状に溶融樹脂を押し出した後に冷却し、ペレタイザーを用いてペレット化した。次に、単軸押出機のシリンダー温度とダイス温度を230℃に設定し、上述のペレットをTダイから押し出すことにより、厚さが20μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、2種類のリン系難燃剤(リン系難燃剤1、及びリン系難燃剤2)におけるリン元素の合計の含有量は1.6質量%であった。
【0088】
<熱可塑性樹脂フィルムの耐溶剤性評価>
次に、JIS K 7114(プラスチック-液体薬品への浸せき効果を求める試験方法)に従い、上述の式(1)を用いて、得られた熱可塑性樹脂フィルムの重量減少率を測定し、溶剤(エチレンカーボネートとアセトン)に対する耐溶剤性(耐薬品性)を評価した。
【0089】
より具体的には、得られた熱可塑性樹脂フィルムを60mm四方に取り出したものを試料として、室温(23℃)において、20mLの溶剤(エチレンカーボネート中及びアセトン中)に30分間浸漬させて、重量変化率を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0090】
<難燃性評価(UL94/VTM燃焼試験)>
次に、UL94規格に準拠したVTM試験(UL94/VTM燃焼試験)に従い、得られた熱可塑性樹脂フィルムの難燃性を評価した。なお、TDの難燃性は、50mm(MD)×200mm(TD)のフィルムを試料として、MDの難燃性は、50mm(TD)×200mm(MD)のフィルムを試料として用いた。MD、TD両方向で達成した結果を表1に示す。
【0091】
<プリプレグの作製>
次に、得られた樹脂フィルムと炭素繊維トウ(東レ社製、商品名:T700SC-1200)を図2に示す開繊・含浸機10に供給し、熱可塑性樹脂フィルムを連続炭素繊維で挟み込み、230℃の温度において、10m/分の割合で加熱・加圧処理を御行うことにより、幅が130mm、厚さが65μmのプリプレグを得た。
【0092】
<プリプレグ積層体の作製>
次に、作製したプリプレグをプレス金型サイズ(200mm角)に切削したものを48枚用意し、炭素繊維が同一の方向に配列されるように重ね合わせた。そして、この積層体をプレス金型に入れ、245℃の温度、5MPaの圧力で15分間熱プレス処理を行い、厚さが2.0mmであるプリプレグ積層体を作製した。
【0093】
<プリプレグ積層体の耐溶剤性評価>
次に、JIS K 7070:1999(繊維強化プラスチックの耐薬品性試験方法)に従い、上述の式(2)を用いて、得られたプリプレグ積層体の曲げ強度保持率を算出し、溶剤(エチレンカーボネートとアセトン)に対する耐溶剤性(耐薬品性)を評価した。
【0094】
より具体的には、プリプレグ積層体を120mm(繊維方向)×60mm(繊維方向と直行する方向)に取り出し、試験片の端面をガラス繊維テープで保護して、10日間、溶剤に浸漬させた。なお、溶剤がエチレンカーボネートの場合は50℃で浸漬させ、アセトンの場合は0℃にて浸漬を行った。浸漬後、100mm(繊維方向)×15mm(繊維方向と直行する方向)に切り出したものを試料として、曲げ強度を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0095】
<難燃性評価(UL94/V燃焼試験)>
次に、UL94規格に準拠したV試験(UL94/V燃焼試験)に従い、得られたプリプレグ積層体の難燃性を評価した。なお、プリプレグ積層体を125mm(繊維方向)×13mm(繊維方向と直行する方向)に取り出したものを試料として用いた。以上の結果を表1に示す。
【0096】
<曲げ強度の測定>
次に、JIS K 7074(炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法)に従い、4点曲げ法により、得られプリプレグ積層体における曲げ強度を算出した。
【0097】
より具体的には、得られたプリプレグ積層体から、幅が15mm、長さが100mmとなるように切り出したサンプルを作製し、4点曲げ治具を設置した引張試験機(島津製作所社製、商品名:オートグラフ5000)を用いて、クロスヘッド速度が5.0mm/分、支点スパンが81mm、圧子スパンが27mm、支点径が4mm、および圧子径が10mmの条件で、4点曲げ測定を行ない、曲げ強度[MPa]を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0098】
<耐吸水性評価>
次に、JIS K 7070:1999(繊維強化プラスチックの耐薬品性試験方法)に従い、上述の式(3)を用いて、得られたプリプレグ積層体における吸水後の強度保持率を算出し、耐吸水性を評価した。
【0099】
より具体的には、プリプレグ積層体を120mm(繊維方向)×60mm(繊維方向と直行する方向)に取り出し、試験片の端面をガラス繊維テープで保護して、常温で10日間、純水に浸漬させた。浸漬後、100mm(繊維方向)×15mm(繊維方向と直行する方向)に切り出したものを試料として、曲げ強度を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0100】
(実施例2~3、比較例1~13)
熱可塑性樹脂フィルムを形成する材料、各材料の配合割合、及び各加工温度を表1~2に示す内容に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、表1~2に示す厚さを有する熱可塑性樹脂フィルム、プリプレグ、及びプリプレグ積層体を作製した。
【0101】
そして、上述の実施例1と同様にして、耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/VTM燃焼試験)、プリプレグ積層体の耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/V燃焼試験)、曲げ強度の測定、及び耐吸水性評価を行った。以上の結果を表1~2に示す。
【0102】
なお、比較例1においては、リン系難燃剤1(環状ホスファゼン)の含有量が7質量%以上であるため、穴あきに起因する加工不良が生じ、熱可塑性樹脂フィルムを作製することができなかった。従って、耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/VTM燃焼試験)、プリプレグ積層体の耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/V燃焼試験)、曲げ強度の測定、及び耐吸水性評価を行わなかった。
【0103】
また、比較例2においては、リン系難燃剤2(ポリホスフォネート)の含有量が12質量%以上であるため、穴あきに起因する加工不良が生じ、熱可塑性樹脂フィルムを作製することができなかった。従って、耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/VTM燃焼試験)、プリプレグ積層体の耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/V燃焼試験)、曲げ強度の測定、及び耐吸水性評価を行わなかった。
【0104】
また、比較例4においては、熱可塑性樹脂フィルムの全体に対するリン系難燃剤のリン元素含有量が2.0質量%であるため、ブロッキングに起因する加工不良が生じ、熱可塑性樹脂フィルムを作製することができなかった。従って、耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/VTM燃焼試験)、プリプレグ積層体の耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/V燃焼試験)、曲げ強度の測定、及び耐吸水性評価を行わなかった。
【0105】
また、比較例7においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂のMFRが10g/10分よりも大きい(21g/10分)ため、ダイから押し出した直後に樹脂がドローダウンしてしまい、熱可塑性樹脂フィルムを作製することができなかった。従って、耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/VTM燃焼試験)、プリプレグ積層体の耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/V燃焼試験)、曲げ強度の測定、及び耐吸水性評価を行わなかった。
【0106】
また、比較例8においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂が難燃剤フィラー(径:5~20μm)を含有しているため、20μm以下の厚さを有する熱可塑性樹脂フィルムを作製することができなかった(すなわち、薄肉成形を行うことができなかった)。従って、耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/VTM燃焼試験)、プリプレグ積層体の耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/V燃焼試験)、曲げ強度の測定、及び耐吸水性評価を行わなかった。
【0107】
また、比較例9においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂が難燃剤フィラー(径:2~20μm)を含有しているため、20μm以下の厚さを有する熱可塑性樹脂フィルムを作製することができなかった(すなわち、薄肉成形を行うことができなかった)。従って、耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/VTM燃焼試験)、プリプレグ積層体の耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/V燃焼試験)、曲げ強度の測定、及び耐吸水性評価を行わなかった。
【0108】
また、比較例10においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂が難燃剤フィラー(径:2~20μm)を含有しているため、20μm以下の厚さを有する熱可塑性樹脂フィルムを作製することができなかった(すなわち、薄肉成形を行うことができなかった)。従って、耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/VTM燃焼試験)、プリプレグ積層体の耐溶剤性評価、難燃性評価(UL94/V燃焼試験)、曲げ強度の測定、及び耐吸水性評価を行わなかった。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
表1に示すように、実施例1~3の熱可塑性樹脂フィルムにおいては、熱可塑性樹脂フィルムの全体に対するリン系難燃剤のリン元素含有量が1.6質量%以上2質量%未満であるため、穴あき、及びブロッキングに起因する加工不良を生じることなく(すなわち、薄肉製膜性に優れ)、UL94規格に準拠したVTM試験(UL94/VTM燃焼試験)において、VTM-2に適合する難燃性を有する熱可塑性樹脂フィルムを得ることができることが分かる。
【0112】
また、実施例1~3の熱可塑性樹脂フィルムにおいては、JIS K 7114に準拠して測定された、エチレンカーボネート中及びアセトン中に23℃で30分浸漬した後の重量減少率が5%未満であるため、溶剤(エチレンカーボネートとアセトン)に対する耐溶剤性(耐薬品性)に優れていることが分かる。
【0113】
また、実施例1~3のプリプレグ積層体においては、UL94規格に準拠したV試験(UL94/V燃焼試験)において、V-0に適合する難燃性を有するとともに、JIS K 7070:1999(繊維強化プラスチックの耐薬品性試験方法)に準拠して測定された曲げ強度の保持率が80%以上であるため、溶剤(エチレンカーボネートとアセトン)に対する耐溶剤性(耐薬品性)に優れていることが分かる。
【0114】
また、実施例1~3のプリプレグ積層体においては、曲げ強度が1000MPa以上であるため、強度に優れるとともに、吸水後の強度の保持率が90%以上であるため、吸水後も高い強度を維持することができることが分かる。
【0115】
一方、比較例3の熱可塑性樹脂フィルムにおいては、熱可塑性樹脂フィルムの全体に対するリン系難燃剤のリン元素含有量が1.6質量%未満(1.5質量%)であるため、UL94規格に準拠したVTM試験(UL94/VTM燃焼試験)において、VTM-notとなり、VTM-2に適合する難燃性を有する熱可塑性樹脂フィルムを得ることができないことが分かる。
【0116】
また、比較例5の樹脂フィルムにおいては、難燃剤が含有されておらず、熱可塑性樹脂フィルムの全体に対するリン系難燃剤のリン元素含有量が1.6質量%未満であるため、UL94規格に準拠したVTM試験(UL94/VTM燃焼試験)において、VTM-notとなり、VTM-2に適合する難燃性を有する熱可塑性樹脂フィルムを得ることができないことが分かる。
【0117】
また、比較例6の樹脂フィルムにおいては、樹脂とリン系難燃剤等との相溶性が悪く、加工不良によりフィルムに厚みムラが発生したため、UL94規格に準拠したVTM試験(UL94/VTM燃焼試験)において、VTM-notとなり、VTM-2に適合する難燃性を有する熱可塑性樹脂フィルムを得ることができないことが分かる。また、比較例6において使用されているポリブチレンテレフタレート樹脂2には、非晶性樹脂のポリカーボネート樹脂が10~50質量%含まれており、ポリエステル樹脂のうちポリブチレンテレフタレート樹脂が90質量%以下のため、JIS K 7114に準拠して測定された重量減少率が5%以上(16.1%)となり、アセトンに対する耐溶剤性(耐薬品性)に劣ることが分かる。
【0118】
また、比較例11のの樹脂フィルムにおいては、ポリカーボネート樹脂が非晶性樹脂であるため、JIS K 7114に準拠して測定された重量減少率が5%以上となり、溶剤(エチレンカーボネートとアセトン)に対する耐溶剤性(耐薬品性)に劣ることが分かる。
【0119】
また、比較例12の樹脂フィルムにおいては、難燃剤が含有されておらず、熱可塑性樹脂フィルムの全体に対するリン系難燃剤のリン元素含有量が1.6質量%未満であるため、UL94規格に準拠したVTM試験(UL94/VTM燃焼試験)において、VTM-notとなり、VTM-2に適合する難燃性を有する熱可塑性樹脂フィルムを得ることができないことが分かる。
【0120】
また、比較例13の樹脂フィルムにおいては、ポリアミド樹脂により形成されるとともに、難燃剤が含有されておらず、熱可塑性樹脂フィルムの全体に対するリン系難燃剤のリン元素含有量が1.6質量%未満であるため、UL94規格に準拠したVTM試験(UL94/VTM燃焼試験)において、VTM-notとなり、VTM-2に適合する難燃性を有する熱可塑性樹脂フィルムを得ることができないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
以上説明したように、本発明は、炭素繊維に含浸させて、プリプレグを形成するための熱可塑性樹脂フィルム、プリプレグ、およびこれを用いたプリプレグ積層体に適している。
【符号の説明】
【0122】
10 開繊・含浸機
11 供給ローラ対
12 プレートヒーター
13 第1ローラ対
14 第2ローラ対
CS,CS1,CS2 炭素繊維
P プリプレグ
RF,RF1,RF2 熱可塑性樹脂フィルム
図1
図2