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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054472
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】出汁用の水
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20230407BHJP
【FI】
A23L27/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163339
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 貴生
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛之
【テーマコード(参考)】
4B047
【Fターム(参考)】
4B047LG02
4B047LG04
4B047LG42
4B047LG55
4B047LP01
(57)【要約】
【課題】手軽に、所望の味の出汁を得る。
【解決手段】出汁用の水は、原水と、水のアルカリ度を高める成分であって、前記原水に添加されてアルカリ度を調整する成分と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水と、
水のアルカリ度を高める成分であって、前記原水に添加されてアルカリ度を調整する成分と、を含む出汁用の水。
【請求項2】
前記水のアルカリ度を高める成分は、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、及び炭酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上である請求項1に記載の出汁用の水。
【請求項3】
請求項1から請求項2までのいずれか1項に記載の出汁用の水であって、
前記出汁用の水のアルカリ度が100mg/L以上である出汁用の水。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の出汁用の水であって、
前記出汁用の水の硬度が100mg/L以下である出汁用の水。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、出汁用の水に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、魚節類から呈味成分を抽出することによる出汁の製造方法を開示する。特許文献1には、硬度30mg/Lである市販のミネラルウォーターを用いてだし汁を抽出した場合に、高い呈味力を有する出汁が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-79614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出汁をとる際、出汁の味を決める要因の1つに出汁の抽出に使用した水が挙げられる。料理に精通した者は、経験を元に、既存の水から出汁の抽出に適した水を選択するための知見を有している。しかし、既存の水の選択のみによって、所望の味の出汁を抽出することは困難である。まして、一般の者は、既存の水から出汁の抽出に適した水を選択するための知見すらない。このため、一般の者にとって、出汁の味は、抽出に使用した水任せであるのが実情である。
【0005】
本開示は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、所望の味の出汁を得ることができる出汁用の水を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の出汁用の水は、原水と、水のアルカリ度を高める成分であって、前記原水に添加されてアルカリ度を調整する成分と、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
出汁とは、出汁原料を煮出したり、水に浸漬したりして味を引き出した液体である。出汁原料は、一般的に出汁の製造に使われるものであればよく、例えば、鰹節等の魚節、鰯等を干して乾燥した煮干し、昆布、椎茸等が挙げられる。出汁用の水は、出汁をとるために用いられる水である。すなわち、本実施形態の出汁は、出汁用の水と、出汁原料から抽出された抽出物と、を含んだ液体である。出汁は、各種の料理に使用できる。
【0008】
アルカリ度は、水を塩酸、硫酸などの強酸で滴定し、所定のpH値に達するまでに消費した酸の量に対応する炭酸カルシウム量(mg/L)で表したものである。本開示のアルカリ度(mg/L)は、JIS K0101 13.1に準拠して測定した酸消費量(pH4.8)である。本開示の硬度(mg/L)は、JIS K0101 15.1に準拠して測定した全硬度である。
【0009】
本願発明者らは、出汁用の水のアルカリ度と出汁の味との間に、所定の関係、例えば、特定の範囲における正の相関関係があることを新たに見出した。本開示の出汁用の水は、このような知見に基づき開発されたものである。なお、出汁の旨味及び塩味等の味は味覚センサーによって測定できる。旨味及び塩味の適正値は、料理によって異なる。料理ごとの旨味及び塩味の適正値は、例えば、専門パネラーによる官能評価試験を実施して、予め決定できる。本実施形態では、旨味及び塩味等の出汁の味の適正値に基づき、出汁用の水のアルカリ度を設定する。以下、原水と、水のアルカリ度を高める成分とについて説明してから、出汁用の水のアルカリ度及び硬度について説明する。
【0010】
原水は、飲食に適した種々の水を用いることができる。原水は、コストの面、及び、品質の安定性の観点から、水道水を浄水器によってろ過して得られた水であることが好ましい。浄水器は、活性炭、精密ろ過膜、及び逆浸透膜などのろ材を用いて水道水中の溶存物質などを減少させる機能をもつ水処理器具である。以下、水道水を浄水器によってろ過して得られた水を、単に、「浄水器によってろ過された水」、「浄水」とも称する。原水は、浄水器によってろ過された水以外にも、水道水、天然水、及び市販のミネラルウォーターなどを用いることができる。原水のアルカリ度は、水の採取場所等によって異なり、特に限定されない。原水が浄水器によってろ過された水である場合において、原水のアルカリ度は、浄水器の性能によっても変動し得る。原水のアルカリ度は、例えば、出汁用の水のアルカリ度に比して低ければよい。原水は、硬度が低い水であることが望ましい。具体的には、原水の硬度は100mg/L以下であることが望ましい。原水の硬度が高い場合には、イオン交換手法などによって硬度成分を除去して原水を得てもよい。
【0011】
水のアルカリ度を高める成分は、特に限定されず、飲食に適した種々の成分を用いることができる。以下、水のアルカリ度を高める成分を、単に成分Aとも称する。成分Aは、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、及び炭酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。これらの中でも、pHの維持の観点から、炭酸水素ナトリウムであることが特に好ましい。
【0012】
成分Aは、原水に添加されて、出汁用の水のアルカリ度を調整する。成分Aの添加量は、出汁用の水のアルカリ度に応じて適宜決定できる。以下、出汁用の水のアルカリ度をXmg/Lに調整する場合について、原水75mLに対する成分Aの添加量Ymgの決定方法を説明する。アルカリ度がXmg/Lよりも低い原水を準備する。原水75mLに、成分Aを少量ずつ添加し、溶解させて、得られた水溶液のアルカリ度を測定する。水溶液のアルカリ度の測定値がXmg/Lに達するまで成分Aを添加し、添加した成分Aの合計量を算出する。算出した合計量を、原水75mLに対する成分Aの添加量Ymgとして特定する。
【0013】
出汁用の水のアルカリ度は、旨味及び塩味の適正値に応じて設定でき、特に限定されない。出汁用の水のアルカリ度は、100mg/L以上であることが好ましい。水のアルカリ度を100mg/L以上とすることによって、出汁成分の抽出効率がよくなり、出汁の抽出により好適となる。
【0014】
出汁用の水の硬度は、特に限定されない。出汁用の水の硬度は、100mg/L以下であることが好ましい。水の硬度を100mg/L以下とすることによって、出汁の濁りを抑制し、料理の美観を損ねることを防止できるようになる。なお、硬度が80mg/L以下になるとさらに濁りを抑制できるので、より好適である。
【0015】
出汁用の水の形態は特に限定されない。出汁用の水は、流通しやすく、かつ、手軽に使用できる点から、所定のアルカリ度に調整されて、ペットボトル等の容器に封入された形態であることが好ましい。
【0016】
出汁用の水の製造方法は特に限定されない。出汁用の水の製造方法は、例えば、水道水を浄水器によってろ過して原水を得て、原水に成分Aを添加してアルカリ度を調整する。水道水を浄水器によってろ過した後に、アルカリ度を調整する場合には、ろ材が出汁用の水のアルカリ度に影響を与えることを避け得る。
【0017】
以上説明したように、本実施形態の出汁用の水は、原水と、水のアルカリ度を高める成分であって、原水に添加されてアルカリ度を調整する成分と、を含む。この構成によれば、出汁用の水を用いて出汁をとることによって、手軽に、所望の味の出汁を得ることができる。詳細には、原水よりもアルカリ度の高い出汁用の水を用いた場合には、原水を用いた場合に比して、旨味及び塩味の強い出汁をとることができる。
【0018】
以下、実験1及び実験2によって本開示を更に具体的に説明する。
<実験1>
1.出汁用の水の調製
比較例1として、愛知県常滑市で取得した水道水を用いた。比較例1のアルカリ度、硬度、及びpHは、表1の通りである。
比較例2として、上記の水道水を浄水器によってろ過した浄水を用いた。浄水器は、浄水カートリッジとしてLIXIL社製、JF-43Nを備えた浄水器を使用した。比較例2のアルカリ度、硬度、及びpHは、表1の通りである。
上記の浄水に成分Aとして炭酸水素ナトリウムを添加してアルカリ度を調整し、実施例1から5の出汁用の水を得た。実施例1から5のアルカリ度、硬度、及びpHは、表1の通りである。炭酸水素ナトリウムの添加量は、比較例1及び比較例2は0mgであり、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5の順で多かった。
【0019】
2.出汁の調製
市販されている(株)久原本家製の昆布、焼きあご、かつお節、うるめいわしからなる「茅乃舎だし」8g(1パック)を、実施例1から5の出汁用の水400mLによって、95℃、2.5分の条件で煮出して、出汁を得た。また、比較例1及び比較例2の水についても、同様にして、出汁を得た。
【0020】
3.出汁の旨味及び塩味の測定
実施例1から5の出汁用の水、及び比較例1から2の水の各々で煮出した出汁について、(株)インテリジェントセンサーテクノロジー製の味覚センサー「TS-5000Z」を用いて、旨味及び塩味を測定した。その結果を表1に併記する。
【0021】
4.出汁の濁りの測定
得られた出汁の濁りを目視にて観察した。その結果を、表1に併記する。表1中、「なし」は出汁の濁りが観察されないことを意味する。
【0022】
【表1】
【0023】
5.結果
表1に示したように、実施例1から5の出汁用の水でとった出汁は、比較例1の水(水道水)及び比較例2の水(浄水)でとった出汁よりも旨味及び塩味が強かった。実施例1から5の出汁用の水は、アルカリ度が高い程、出汁の旨味及び塩味が強かった。本実施例の出汁用の水を用いることによって、手軽に、所望の味の出汁を得ることができる。
【0024】
<実験2>
1.出汁用の水の調整
実験1で使用した水のうち実施例5の水について、さらに硬度を調整する成分として塩化カルシウムを添加して硬度を調整し、実施例6から11の出汁用の水を得た。実施例6から11のアルカリ度、硬度、及びpHは、表2の通りである。
【0025】
2.出汁の調整
実験1と同じ手法によって出汁を得た。
【0026】
3.出汁の濁りの測定
実験1と同じ手法によって出汁の濁りを測定した。その結果を表2に併記する。表2中、「なし」は出汁の濁りが観察されないことを意味する。「わずかに白濁」は、わずかな白濁が観察されることを意味する。「明らかに白濁」は、明らかな白濁が観察されることを意味する。
【0027】
【表2】
【0028】
4.結果
硬度が100mg/L以下である実施例5から9は、出汁の濁りが抑制されていた。また、実施例5から9のうち、硬度が80mg/L以下である実施例5から7は、出汁の濁りがより一層抑制されていた。
【0029】
本開示によれば、おいしい出汁を取るのに好適な出汁用の水を提供できる。
【0030】
本開示は上記で詳述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の形態で実施できる。