(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054493
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】覆材式屋根構造
(51)【国際特許分類】
E04B 7/16 20060101AFI20230407BHJP
E04H 15/54 20060101ALI20230407BHJP
E04H 15/44 20060101ALI20230407BHJP
E04H 3/14 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
E04B7/16 B
E04H15/54
E04H15/44
E04H3/14 C
E04H3/14 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163372
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】517064843
【氏名又は名称】河野 久米彦
(71)【出願人】
【識別番号】502410196
【氏名又は名称】株式会社 横河システム建築
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 久米彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼柳 隆
(72)【発明者】
【氏名】宮田 智夫
(72)【発明者】
【氏名】朱 大立
(72)【発明者】
【氏名】村岡 真
(72)【発明者】
【氏名】今井 卓司
(72)【発明者】
【氏名】大関 信彦
【テーマコード(参考)】
2E141
【Fターム(参考)】
2E141AA07
2E141BB01
2E141CC01
2E141DD02
2E141EE23
2E141EE26
2E141EE38
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することであり、すなわち屋根桁に取り付ける位置で覆材(例えば、屋根膜)に局所的な応力を作用させることなく、開閉式の屋根を実現することができる覆材式屋根構造を提供することである。
【解決手段】本願発明の覆材式屋根構造は、施設の屋根構造であって、略平行に配置される複数の屋根桁と、施設の一部や全部を覆うシート状の覆材、屋根桁の桁軸方向に間隔を設けて配置される複数の覆材係止手段、屋根桁の桁軸方向に連続して配置される緩衝体を備えたものである。緩衝体は、上フランジの下面側端部付近に固定される。また覆材係止手段は上フランジにピン結合され、覆材の端部が覆材係止手段に取り付けられる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施設の屋根構造であって、
平行又は略平行に配置される複数の屋根桁と、
前記施設の一部又は全部を覆うシート状の覆材と、
前記屋根桁の桁軸方向に間隔を設けて配置される複数の覆材係止手段と、
前記屋根桁の桁軸方向に連続して又は間隔を設けつつ断続的に配置される緩衝体と、を備え、
前記屋根桁は、腹板と、該腹板の上部に設けられる上フランジと、を含んで構成され、
また複数の前記屋根桁のうち一部又は全部が、前記屋根桁の桁軸方向と垂直又は略垂直であって水平又は略水平な桁軸直角方向に移動可能であり、
前記緩衝体は、前記上フランジの下面側であって端部付近に固定され、
前記覆材係止手段は、前記上フランジの下面側であって前記緩衝体よりも前記腹板側で、鉛直又は略鉛直面内で回転可能となるように該上フランジにピン結合され、
隣接する一方の前記屋根桁の前記覆材係止手段に前記覆材の一端が取り付けられるとともに、隣接する他方の前記屋根桁の前記覆材係止手段に該覆材の他端が取り付けられ、
隣接する前記屋根桁の間隔が拡がるように該屋根桁が移動すると、前記覆材は展張し、
展張した前記覆材は、前記緩衝体の下端に接触することによって、前記上フランジへの接触が回避される、
ことを特徴とする覆材式屋根構造。
【請求項2】
前記覆材係止手段は、支持材と、把持材と、連結体と、を有し、
前記支持材は、ピン結合となるように前記上フランジに取り付けられ、
前記把持材は、前記覆材の端部を把持し、
前記連結体は、前記支持材と前記把持材とを連結する、
ことを特徴とする請求項1記載の覆材式屋根構造。
【請求項3】
前記連結体は、前記支持材と前記把持材との間隔を調整することによって、前記覆材係止手段を伸縮し得る、
ことを特徴とする請求項2記載の覆材式屋根構造。
【請求項4】
前記緩衝体が2以上の列で配置された、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の覆材式屋根構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、競技場など施設の屋根の構造に関するものであり、より具体的には、膜屋根など施設を覆う材料を具備する覆材式屋根構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
競技場やイベント会場など多くの観客を収容する施設は、雨天時でも実施できるように屋根が取り付けられることがある。さらに、好天時には自然環境で競技等が実施できるように、開閉式の屋根を採用する施設も増えている。
【0003】
従来、開閉式の屋根は、屋根を構成する複数の桁(以下、「屋根桁」という。)が移動する構造が主流であった。すなわち
図7に示すように、隣り合う屋根桁RG間に例えば膜材(以下、「膜屋根RF」という。)を架け渡すように取り付け、屋根桁RGが移動して屋根桁RG間が拡がると膜屋根RFが展張して屋根が閉じた状態(以下、「閉扉状態」という。)とされ(
図7(b)の左側)、逆に屋根桁RG間が縮まると膜屋根RFが折り畳まれて屋根が開いた状態(以下、「開扉状態」という。)とされる(
図7(b)の右側)わけである。
図7(a)は開閉式屋根が設置される施設の例であるサッカー競技場SCを示す平面図であり、
図7(b)はサッカー競技場SCの屋根が開閉する状況を示す平面図である。
【0004】
建築物の主要構造部である屋根は、原則として不燃でなければならない。したがって、屋根材として膜屋根RFを採用する場合、不燃性の材料を選択する必要がある。屋根膜RFは、基布をガラス繊維とするA種とB種、基布を合成繊維とするC種とテント倉庫用に分類され、このうちA種とB種が不燃材である。つまり、屋根材としてはA種もしくはB種の屋根膜RFを採用することが望ましい。たとえば、1988年に建設された東京ドームではA種の屋根膜RFを採用しており、20年以上にわたって十分な機能と強度が保たれている。
【0005】
一方でA種やB種の屋根膜RFは、基布をガラス繊維とするが故に、折り曲げるなど過度の変形には耐えられない。つまりA種やB種の屋根膜RFをサッカー競技場SCに適用する場合、不燃性という点では望ましい反面、開閉式とするには不向きと考えられる。それでも、サッカー競技場SCといった施設の屋根にA種やB種の屋根膜RFを適用したうえで開閉式の構造としたいという要望はあった。そこで特許文献1では、屋根膜RFに過度な変形を加えることなく屋根の開閉を可能にする発明を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で開示される発明は、屋根膜RFにあらかじめ中折れ部を設けることによって屋根膜RFを折り畳む位置が限定され、つまり不測の変形を抑制することができ、これにより屋根膜RFに過度な変形を加えることを抑えることができる。したがって、サッカー競技場SCの開閉式屋根にも、A種やB種の屋根膜RFを適用することができるわけである。
【0008】
ところで屋根桁RGは、
図8(a)に示すように腹板PW(いわゆるウェブ)と上フランジPFからなるT形鋼(CT形鋼)や、さらに下フランジを有するH形鋼(あるいはI形鋼)が用いられることが多く、また屋根膜RFの一端は上フランジPFの下面側に固定されるのが一般的であった。より詳しくは
図8(a)に示すように、屋根膜RFの一端を上下の挟持プレートPSで挟み込んだうえでボルトBLを縫い付け、上フランジPFの下面に溶接固定されたガセットプレートPGに上方の挟持プレートPSを取り付けるわけである。もちろん
図8(a)に示す構造はあくまで一例であるが、いずれにしろ屋根膜RFの一端は3方向(水平方向と鉛直方向、回転方向)が拘束された状態で上フランジPFの下面側に固定されていた。
【0009】
そのため、
図8(b)に示すように屋根膜RF間が拡がって展張した状態の屋根膜RFには、過度な変形が生じることなく集中的な応力が作用することはないが、
図8(c)に示すように屋根膜RF間が縮まって折り畳まれた状態の屋根膜RFには、極端に折れ曲がった部分(図に示す「折部」)が生じており大きな応力が作用している。このような応力(いわば曲げによる応力)が繰り返し作用すると、当然ながら屋根膜RFのうち当該部分は損傷しやすく、特にA種やB種の屋根膜RFでは使用に耐えられない程度の損傷が生じることもある。
【0010】
また、
図8(b)に示すように屋根膜RFが展張された状態では、屋根膜RFと上フランジPFの間に雨水などの水が浸入しやすく、したがって屋根膜RFを固定するための一連の治具(ガセットプレートPGや挟持プレートPSなど)の腐食が進行することで屋根膜RFが屋根桁RGから離脱するおそれもあった。さらに、
図8(b)に示すように屋根膜RFが展張した状態では、強風などによって屋根膜RFが上下に振動することもあり、その場合は屋根膜RFが上フランジPFの端部に接触するととなり、屋根膜RFのうち当該部分が損傷するおそれもあった。
【0011】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することであり、すなわち屋根桁に取り付ける位置で覆材(例えば、屋根膜)に局所的な応力を作用させることなく、開閉式の屋根を実現することができる覆材式屋根構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、略鉛直面(鉛直面を含む)内で回転可能となるように覆材(例えば、屋根膜)を上フランジにピン結合するとともに、覆材が上フランジに接触しないように緩衝体を設ける、という点に着目して開発されたものであり、従来にはない発想に基づいて行われた発明である。
【0013】
本願発明の覆材式屋根構造は、施設の屋根構造であって、略平行(平行を含む)に配置される複数の「屋根桁(屋根を構成する桁)」と、施設の一部(あるいは全部)を覆うシート状の「覆材」、屋根桁の桁軸方向に間隔を設けて配置される複数の「覆材係止手段」、屋根桁の桁軸方向に連続して(あるいは間隔を設けつつ断続的に)配置される緩衝体を備えたものである。屋根桁は、腹板と腹板の上部に設けられる上フランジを含んで構成され、複数の屋根桁のうち一部(あるいは全部)が軸直角方向に移動可能である。緩衝体は、上フランジの下面側であって端部付近に固定される。覆材係止手段は、上フランジの下面側であって緩衝体よりも前記腹板側で、略鉛直面(鉛直面を含む)内で回転可能となるように上フランジにピン結合される。また、隣接する一方の屋根桁の覆材係止手段に覆材の一端が取り付けられるとともに、隣接する他方の屋根桁の覆材係止手段に覆材の他端が取り付けられる。そして、隣接する屋根桁の間隔が拡がるように屋根桁が移動すると覆材は展張し、展張した覆材は緩衝体の下端に接触することによって上フランジへの接触が回避される。
【0014】
本願発明の覆材式屋根構造は、覆材係止手段が支持材と把持材、連結体を具備するものとすることもできる。支持材はピン結合となるように上フランジに取り付けられ、把持材は覆材の端部を把持し、連結体は支持材と把持材とを連結するものである。
【0015】
本願発明の覆材式屋根構造は、覆材係止手段が支持材と把持材、連結体を具備するものであって、さらに連結体が支持材と把持材との間隔を調整することによって覆材係止手段の全長を伸縮し得るものとすることもできる。
【0016】
本願発明の覆材式屋根構造は、緩衝体が2以上の列で配置されたものとすることもできる。
【発明の効果】
【0017】
本願発明の覆材式屋根構造には、次のような効果がある。
(1)覆材の端部が上フランジにピン結合されるため回転方向の挙動が自由となり、覆材に局所的な応力集中が生じることを抑制することができる。したがって、開閉式屋根であってもA種やB種の屋根膜を適用することができる。
(2)緩衝体が設けられることから展張された屋根膜と上フランジの間に雨水などが浸入するおそれが軽減され、その結果、覆材係止手段の腐食の進行も抑制することができる。
(3)また、緩衝体が設けられることから展張した覆材が上フランジに接触することがなく、すなわち接触に伴う覆材の損傷を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)は本願発明の覆材式屋根構造が設けられたサッカー競技場を模式的に示す上方から見た平面図、(b)は覆材式屋根構造を省略したサッカー競技場を模式的に示す上方から見た平面図。
【
図2】(a)は展張した状態の覆材が取り付けられた屋根桁を模式的に示す部分断面図(鉛直面で切断)、(b)は折り畳まれた状態の覆材が取り付けられた屋根桁を模式的に示す部分断面図(鉛直面で切断)。
【
図3】(a)は長さ調整が可能な覆材係止手段を模式的に示す部分断面図、(b)は長さが変化しない覆材係止手段を模式的に示す部分断面図。
【
図4】屋根桁に桁軸方向に間隔を設けて取り付けられた複数の覆材係止手段を模式的に示す下方から見た平面図。
【
図5】屋根桁に桁軸方向に連続してあるいは間隔を設けつつ断続的に配置された緩衝材を模式的に示す下方から見た平面図。
【
図6】(a)は覆材式屋根構造を使用する過程で覆材が展張した状態を示すステップ図、(b)は覆材式屋根構造を使用する過程で覆材が折り畳まれた状態を示すステップ。
【
図7】(a)は開閉式屋根が設置される施設の例であるサッカー競技場SCを上方から見た平面図、(b)はサッカー競技場の屋根が開閉する状況を模式的に示す平面図。
【
図8】(a)は屋根膜の一端を上フランジの下面側に固定する従来構造を模式的に示す部分断面図、(b)は屋根膜間が拡がって展張した状態の屋根膜を模式的に示す断面図、(c)は屋根膜間が縮んで折り畳まれた状態の屋根膜を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願発明の覆材式屋根構造の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。なお、本願発明の覆材式屋根構造は、競技場やコンサート会場、催事場などあらゆる施設の屋根に利用することができるが、便宜上ここでは競技場(特に、サッカー競技場)の例で説明することとする。
【0020】
図1(a)は、本願発明の覆材式屋根構造100が設けられたサッカー競技場SCを模式的に示す平面図である。なお参考として、
図1(b)に覆材式屋根構造100を省略したサッカー競技場SCを示している。
図1(a)に示すように本願発明の覆材式屋根構造100は、複数の屋根桁110(屋根を構成する桁)と覆材120、そして後述する覆材係止手段と緩衝体を含んで構成される。
【0021】
屋根桁110は、断面寸法に比して軸方向寸法(長さ)が卓越したいわゆる軸部材であってサッカー競技場SCの一端から他端に架け渡され、側面視で直線状やアーチ状、多角形状など種々の形状とすることができる。便宜上ここでは、
図1(a)にも示すようにサッカー競技場SC上に配置された屋根桁110の軸方向(図では上下方向)のことを「桁軸方向」、この桁軸方向に対して垂直な方向(図では左右方向)のことを「桁軸直角方向」ということとする。ただし、これら桁軸方向と桁軸直角方向は略水平面(水平面を含む)上で設定される方向である。また、屋根桁110は桁軸直角方向に移動するが、屋根が閉じる(閉扉する)方向(図では右方向)のことを「前方」、屋根が開く(開扉する)する方向(図では左方向)のことを「後方」ということとする。なお
図1(a)では、左右に2分割した覆材式屋根構造100がそれぞれ桁軸直角方向に移動する構成とされているが、これに限らずどちらか一方(例えば左側)にのみ覆材式屋根構造100を配置する構成とすることもできる。
【0022】
図2は、覆材120が取り付けられた屋根桁110を模式的に示す部分断面図(鉛直面で切断)であり、(a)は覆材120が展張した状態を示す図、(b)は覆材120が折り畳まれた状態を示す図である。この図に示すように、覆材120の一端(図では右端)が覆材係止手段130に係止され、覆材120を係止した覆材係止手段130が屋根桁110に取り付けられ、また緩衝体140が屋根桁110に固定されている。なお、便宜上この図では右側の覆材120と覆材係止手段130を省略して示している。
図1に示すように、覆材120は桁軸直角方向に隣接する屋根桁110の間に架け渡されるように取り付けられ、すなわち覆材120の一端(例えば、右端)が覆材係止手段130を介して屋根桁110に取り付けられるとともに覆材120の他端(例えば、左端)が覆材係止手段130を介して屋根桁110に取り付けられる。また、
図2に示すように、覆材係止手段130は略鉛直面(鉛直面を含む)内で回転可能となるように屋根桁110に取り付けられ(つまり、ピン結合とされ)、これにより覆材120も略鉛直面(鉛直面を含む)内で回転可能となるように屋根桁110に取り付けられる(つまり、ピン結合とされる)。
【0023】
以下、本願発明の覆材式屋根構造100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0024】
(屋根桁)
屋根桁110は、上記したように断面寸法に比して軸方向寸法が卓越したいわゆる軸部材であり、
図2に示すように腹板111(ウェブ)と、この腹板111に上方に設けられる上フランジ112を含んで構成される部材である。例えば屋根桁110としては、T形鋼(CT形鋼)や、さらに下フランジを有するH形鋼(あるいはI形鋼)を用いることができる。
【0025】
屋根桁110は桁軸直角方向に移動可能であり、屋根桁110が前方に移動することで屋根が閉じた状態(閉扉状態)とされ、逆に屋根桁110が後方に移動することで屋根が開いた状態(開扉状態)とされる。屋根桁110を移動させるにあたっては、例えばウィンチ等を利用して屋根桁110を牽引する機構や、屋根桁110がレール上を自走する機構など、従来用いられている種々の技術を利用することができる。なお、すべての屋根桁110が桁軸直角方向に移動可能となる構成とすることもできるし、複数の屋根桁110のうち一部のみが桁軸直角方向に移動可能となる構成とすることもできる。例えば
図1(a)では、最も左端と右端の屋根桁110はサッカー競技場SCの一部に固定して移動不可とし、残りの屋根桁110を移動可能としている。
【0026】
(覆材)
覆材120は、肉厚寸法に比して平面寸法(幅と長さ)が卓越したシート状の部材であり、A種やB種の屋根膜を利用することができる。上記したとおり、覆材120は桁軸直角方向に隣接する屋根桁110の間に架け渡されるように取り付けられ、屋根桁110が閉扉状態となるように(つまり前方に)移動すると
図2(a)に示すように覆材120が展張することでサッカー競技場SCの全部(あるいは一部)が覆われ、逆に屋根桁110が開扉状態となるように(つまり後方に)移動すると
図2(b)に示すように覆材120が折り畳まれることでサッカー競技場SCの全部(あるいは一部)が開放される。なお覆材120は、A種やB種の屋根膜のほか、C種やテント倉庫用の膜屋根を利用することもできるし、足場を隠すために利用される目隠しシートなど、シート状のあらゆる材料を利用することができる。覆材120として膜屋根を利用する場合はもちろんサッカー競技場SCを降雨等から守ることができ、メッシュが設けられた目隠しシートを利用する場合はサッカー競技場SCに日陰を作ることができるわけである。
【0027】
(覆材係止手段)
覆材係止手段130は、その一端で覆材120を係止するとともに、他端で屋根桁110にピン結合される部材である。
図3は覆材係止手段130の一例を模式的に示す部分断面図であり、(a)は長さ調整が可能な覆材係止手段130を示し、(b)は長さが変化しない覆材係止手段130を示している。
【0028】
図3(a)に示す覆材係止手段130は、支持材131と把持材132、連結体133を含んで構成される。このうち支持材131は、周囲にネジが設けられた支持本体部131aと、この支持本体部131aの一端(図では右端)に固定される環状(リング状)の支持結合部131bによって構成される。また把持材132は、周囲にネジが設けられた把持本体部132aと、この把持本体部132aの一端(図では左端)に固定される板状の第1プレート132bによって構成される。そして、連結体133の一端(図では右側)に設けられた挿通孔に支持材131の支持本体部131aが螺合するとともに、連結体133の他端(図では左側)に設けられた挿通孔に把持材132の把持本体部132aが螺合することで、連結体133を介して支持材131と把持材132が連結される。つまり
図3(a)に示す覆材係止手段130は従来のターンバックル構造であり、支持本体部131aや把持本体部132aの締め込み長(螺合長)を調整することによって、支持材131と把持材132と間隔を変更することができ、すなわち覆材係止手段130の全長を変更する(つまり伸縮する)ことができる。
【0029】
覆材係止手段130は、支持材131の支持結合部131bによって屋根桁110にピン結合される。具体的には
図2に示すように、上フランジ112の下面側であって腹板111寄りに取り付けられた環状(リング状)のフランジ結合部113の中央孔と、支持結合部131bの中央孔の位置を合わせたうえでピンを挿通することによって、覆材係止手段130を屋根桁110にピン結合する。これにより、覆材係止手段130は略鉛直面内で回転可能となるように屋根桁110に取り付けられ、覆材120も略鉛直面内で回転可能となるように屋根桁110に取り付けられる。そして覆材120をピン結合としたことによって、
図8(c)では折り畳まれた状態の屋根膜RFに極端に折れ曲がった部分が生じているのに対して、
図2(b)ではこのような極端な変形部分が生じることなく、覆材120に局所的な応力(いわば曲げによる応力)が繰り返し作用することを回避できるわけである。
【0030】
覆材120は、把持材132の第1プレート132bによって把持される。具体的には
図3に示すように、第1プレート132bと板状の第2プレート134で覆材120の端部を挟持し、第1プレート132bに設けられた挿通孔と、第2プレート134に設けられた挿通孔、そして覆材120に設けられた挿通孔にボルト135をねじ込むことによって覆材120は把持される。
【0031】
図4に示すように屋根桁110には、桁軸方向に間隔を設けて複数の覆材係止手段130が取り付けられる。
図4は、屋根桁110に取り付けられた複数の覆材係止手段130を模式的に示す下方から見た平面図である。もちろん、腹板111を挟んで両側の上フランジ112に覆材係止手段130(つまり、フランジ結合部113)が取り付けられる。したがって覆材120は、桁軸方向に沿った複数点で屋根桁110に支持される。なお、
図4のうち腹板111よりも左側に示すように覆材120の端部(図では右側)が波型となるように覆材係止手段130に取り付けることもできるし、
図4のうち腹板111よりも右側に示すように覆材120の端部(図では左側)が直線状となるように覆材係止手段130に取り付けることもできる。
【0032】
覆材係止手段130は、
図3(a)に示すようなターンバックル式の構造とするほか、連結体133を単なるカプラーとすることで長さ(支持本体部131aと把持本体部132aの間隔)が変更されないように支持材131と把持材132を連結する構造とすることもできる。あるいは
図3(b)に示すように、把持材132と連結体133を含まない構成とすることもできる。この場合の支持材131は、支持本体部131aと支持結合部131b、この支持本体部131aの一端(図では左端)に固定される板状の支持プレート131cによって構成される。そして、支持プレート131cと第2プレート134で覆材120の端部を挟持し、支持プレート131cに設けられた挿通孔と、第2プレート134の挿通孔、覆材120の挿通孔にボルト135をねじ込むことによって覆材120は把持される。
【0033】
(緩衝体)
緩衝体140は、
図2(a)に示すように、緩衝支持材141と緩衝材142を含んで形成されるものであり、止水壁141上フランジ112の下面側であって覆材係止手段130よりも外側、すなわち上フランジ112の端部付近(端部を含む)に固定される。
【0034】
緩衝体140は、展張した覆材120が上フランジ111に接触することによる損傷を防止するための部材であり、より詳しくは
図2(a)に示すように、展張した覆材120の上方に緩衝体140が介在することによって上フランジ111に接触することを回避するものである。そのため、覆材120の上面に接触する緩衝材142は、合成ゴムといった樹脂材など覆材120を傷つけない材料で形成される。また、
図5のうち腹板111よりも左側に示すように、緩衝材142は屋根桁110の桁軸方向に連続して配置される。あるいは
図5のうち腹板111よりも左側に示すように、屋根桁110の桁軸方向に間隔を設けつつ断続的に緩衝材142を配置することもできるし、2以上の列(図では2列)に緩衝材142を配置することもできる。
図5は、屋根桁110に取り付けられた緩衝材142を模式的に示す下方から見た平面図である。なお、この図では断続的となるように2列の緩衝材142を配置しているが、もちろん連続して2以上の列で緩衝材142を配置することもできる。また、断続的となるように2以上の列で緩衝材142を配置する場合、設けられる間隔が重ならないように(いわゆる芋継ぎとならないように)、すなわちこの間隔が千鳥配置となるように緩衝材142を設置するとよい。
【0035】
緩衝支持材141は、その上端で上フランジ111に固定されることによって、その下端に取り付けられた緩衝材142を支持するものである。この緩衝支持材141は、棒状や筒状とすることもできるし、薄板の壁面状とすることもできる。壁面状の緩衝支持材141を桁軸方向に連続して(あるいは間隔を設けつつ断続的に)設置することによって、
図2(a)に示すように展張された屋根膜120と上フランジ111の間に雨水などが浸入することを防ぐことができ、その結果、覆材係止手段130やフランジ結合部113の腐食進行を抑制することができて好適となる。
【0036】
(使用例)
図6は本願発明の覆材式屋根構造100を使用したときのステップ図であり、(a)は覆材120が展張した状態を示す部分断面図(鉛直面で切断)、(b)は覆材120が折り畳まれた状態を示す部分断面図(鉛直面で切断)である。
【0037】
図6(a)では、屋根桁110が前方に移動することによって隣接する2つの屋根桁110の間隔が拡がっており、その結果、覆材120が展張した閉扉状態とされている。このとき、展張した覆材120の上面が緩衝体140(特に緩衝材142)に当接することで上フランジ111への接触が回避されており、すなわち上フランジ111への接触に伴う損傷が防止されている。また壁面状の緩衝支持材141が、展張された屋根膜120と上フランジ111の間に雨水などが浸入することを防いでおり、すなわち覆材係止手段130やフランジ結合部113の腐食進行が抑制されている。
【0038】
図6(b)では、屋根桁110が後方に移動することによって隣接する2つの屋根桁110の間隔が縮まっており、その結果、覆材120が折り畳まれた開扉状態とされている。このとき、覆材120が覆材係止手段130を介して屋根桁110にピン結合されていることから、覆材120に極端な変形部分が生じることなく、すなわち覆材120への局所的な応力(いわば曲げによる応力)の繰り返し作用が回避されている。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本願発明の覆材式屋根構造は、野球場、サッカー競技場、陸上競技場といった種々の競技場や、コンサートをはじめ種々のイベントを行う興行施設、あるいは大規模工場、アーケード等をもつ商業施設などで採用することができる。特に、A種やB種の屋根膜など不燃の屋根膜が必要とされる施設の開閉屋根に対して、好適に採用することができる。
【符号の説明】
【0040】
100 本願発明の覆材式屋根構造
110 屋根桁
111 腹板
112 上フランジ
113 フランジ結合部
120 覆材
130 覆材係止手段
131 支持材
131a 支持本体部
131b 支持結合部
131c 支持プレート
132 把持材
132a 把持本体部
132b 第1プレート
133 連結体
134 第2プレート
135 ボルト
140 緩衝体
BL ボルト
PF 上フランジ
PG ガセットプレート
PS 挟持プレート
PW 腹板
RF 膜屋根
RG 屋根桁
SC サッカー競技場