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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054496
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】多重冷凍システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/83 20180101AFI20230407BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20230407BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
F24F11/83
F25B1/00 399Y
F24F5/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163380
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】503164502
【氏名又は名称】荏原冷熱システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】内村 知行
(72)【発明者】
【氏名】上総 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】磯辺 剛司
(72)【発明者】
【氏名】中村 知亮
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260AB06
3L260BA41
3L260CB36
3L260CB42
3L260FA10
3L260FA16
3L260FB32
(57)【要約】
【課題】通常の冷凍機を複数台連結することで多重冷凍サイクルを構成しながら、簡便な制御で安定した運転を可能とし、開発・設計の工数を極限まで小さくすることで、安価に省エネルギー化を達成できる多重冷凍システムを提供する。
【解決手段】複数の冷凍機1,2,3の全体における被冷却液の目標出口温度をToutとし、運転中の複数の冷凍機のうち最も下流の冷凍機から数えてN台目の冷凍機の被冷却液の入口温度の測定値をTin(N)とすると、N台目の冷凍機の制御部は、算定式T(N)=Tin(N)-(Tin(N)-Tout)/Nを用いて、N台目の冷凍機の被冷却液の目標出口温度T(N)を算定するように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の冷凍機を有する多重冷凍システムであって、
前記複数の冷凍機のそれぞれは、液相の冷媒を蒸発させて冷媒ガスを生成する蒸発器と、冷媒ガスを圧縮する圧縮機と、圧縮された冷媒ガスを凝縮させて液相の冷媒を生成する凝縮器と、前記蒸発器に流入する被冷却液の入口温度を測定する入口温度センサと、前記蒸発器から流出した前記被冷却液の出口温度を測定する出口温度センサと、前記冷媒の循環流量を制御する制御部を備え、
前記複数の冷凍機の蒸発器は直列に連結されており、
前記複数の冷凍機の全体における前記被冷却液の目標出口温度をToutとし、運転中の前記複数の冷凍機のうち最も下流の冷凍機から数えてN台目の冷凍機の前記被冷却液の入口温度の測定値をTin(N)とすると、前記N台目の冷凍機の制御部は、
算定式T(N)=Tin(N)-(Tin(N)-Tout)/N
を用いて、前記N台目の冷凍機の前記被冷却液の目標出口温度T(N)を算定するように構成されている、多重冷凍システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記被冷却液の現在の出口温度と前記目標出口温度T(N)との差をなくすための出力制御演算の周期よりも長い周期で前記目標出口温度T(N)を前記算定式を用いて算定するように構成されている、請求項1に記載の多重冷凍システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記算定された目標出口温度T(N)よりも低い温度から、前記算定された目標出口温度T(N)まで、徐々に前記N台目の冷凍機の目標出口温度を上昇させるように構成されている、請求項1または2に記載の多重冷凍システム。
【請求項4】
複数の前記制御部のうちの1つは親機として機能し、他の制御部は子機として機能し、前記親機は、前記複数の冷凍機のそれぞれの冷凍負荷が所定の最小冷凍負荷を下回ったときは、前記複数の冷凍機のうちの少なくとも1つの運転を停止させるように構成されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の多重冷凍システム。
【請求項5】
前記親機は、前記N台目の冷凍機の子機に、運転中の前記冷凍機のうち最も下流の冷凍機から数えてN台目の冷凍機であることを示す信号を送信するように構成されている、請求項4に記載の多重冷凍システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
冷媒が循環する複数の冷凍サイクルを有する多重冷凍システムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍機の省エネルギーを図る方法として、二重冷凍サイクルを用いる方法がある。二重冷凍サイクルとは、図6に示すように、所望の温度の被冷却液を得るために、通常の構成である単一冷凍サイクル(点線のサイクル)を、被冷却液、冷却液のそれぞれ中温で2つの冷凍サイクルに分割する方法である。このようにすると、低温側サイクルでは冷却液出口温度が下がり凝縮圧力が小さくなり、高温側サイクルでは被冷却液出口温度が上がり蒸発圧力が大きくなる結果、必要となる動力が小さくなり、省エネルギー化を達成することができる。各冷凍サイクルは、いわゆる逆ランキンサイクルを用いる圧縮式冷凍サイクルや、吸収式冷凍サイクルである。一般には圧縮式冷凍サイクルにおける改善が著しいため、二重冷凍サイクルは圧縮式の冷凍機でよく使用されている。
【0003】
なお、分割サイクル数は3以上としてもよく、理論上は分割サイクル数が多いほど省エネルギー効果が大きい。本明細書では2つ以上の分割サイクルを「多重冷凍サイクル」と称する。
【0004】
多重冷凍サイクルを使用した圧縮式の冷凍機はこれまでも製品化されているが、冷凍サイクルを2つ以上に分割する、つまり圧縮機が2台以上に相当する台数必要になる。たとえば、二段圧縮サイクルであれば、二段圧縮型の冷凍機を2台使用するか、あるいは二段圧縮型の圧縮機を2回路有する圧縮機1台を設けるために、どうしてもコスト高になり、現状では販売台数はきわめて少ない。そのため、開発・設計に要する工数も相対的に大きくなり、なかなか普及しない実情がある。
【0005】
通常の冷凍機を2台以上直列に接続することで、多重冷凍サイクルと同等の効果を得ることもできるが、この場合の冷凍機の制御として上流機と下流機とを連動させ、被冷却液出口温度等を目標温度に安定させることが難しかった。たとえば、2台の冷凍機を1台の冷凍機として運転しようとすれば、2台の冷凍機の調量弁開度を等しくする、あるいは可変速型の圧縮式電動冷凍機であれば電動機の回転速度(運転周波数)を等しくすれば、上流と下流の冷凍機をほぼ同じ冷凍負荷で運転することができる。しかしながら、そのためには冷凍機の制御装置を専用に設計するなど大がかりな変更が必要となり、検証等を含めれば開発・設計の負荷が極めて大きい。
【0006】
また、個別の冷凍機に目標温度を与えて運転することもできるが、後述するように、この場合は冷凍負荷がほぼ一定であるか、あるいは変流量制御を用いて被冷却液温度が変化しないようにしなければ運転に支障が出る。
【0007】
図7は、1台の冷凍機に2台の圧縮機を搭載する場合の、二重冷凍サイクルの冷凍機の従来例を示す模式図である。本例の冷凍機は、冷凍機内には2組の蒸発器501,502、凝縮器503,504、圧縮機505,506、膨張弁507,508、温度センサ511,512を有する二重冷凍サイクルである。二重冷凍サイクルの制御は1台の制御部514で行う。制御部514は圧縮機505,506の回転速度や調量弁(吸い込みベーンなど)を制御して、冷凍機の出力を増減させる。一般には、制御部514は、冷凍機全体としての被冷却液出口温度T1を監視し、T1が目標温度を下回れば冷凍機の出力を低下させ、上回れば冷凍機の出力を増加させることで被冷却液出口温度T1を目標温度に保つ。
【0008】
この場合、制御部514は、2つの冷凍サイクルに対し、圧縮機505,506の回転速度や調量弁は個別に制御するのではなく、2つの冷凍サイクルに同じ指令値(回転速度や調量弁開度)を与えて運転するのが一般的である。なぜなら、二重冷凍サイクルでは2つの冷凍サイクルの負荷がほぼ等しいときに最も省エネルギー運転となるが、2つの冷凍サイクルは数度の温度差の条件で運転されるため、個別に最適に制御しようとしても、その効果は小さいからである。また、個別制御のためには被冷却液の中間温度(T2’)を取得する必要もある。しかしながら、冷凍機の構造によっては中間温度の取得自体が難しいことも多く、そのためのコストも見合わないため、そのような制御は行う必要性が小さい。結果として、前述したように、2つの冷凍サイクルに同じ指令値を与えて運転を行うことが、トータルコストを考えた場合には最も適切である。
【0009】
その一方で、前述したとおり、二重冷凍サイクル専用の冷凍機は販売数が少ないため、開発に要する費用を回収するのが難しい。特に、制御系の開発には検証に多くのコスト(特に試験時のエネルギーコスト)がかかるため、その費用の回収が難しく、二重冷凍サイクルの効果はわかっていても開発するのが困難な状況がある。
【0010】
図8は、2台の冷凍機を連結して二重冷凍サイクルを構成した従来例を示す模式図である。この例では、上流側と下流側の2つの冷凍機は機械的に連結される。下流側の冷凍機の制御部514は被冷却液出口温度T1を監視し、この被冷却液出口温度T1が目標温度に維持されるように、圧縮機505の回転速度や調量弁開度を制御する。上流側の冷凍機の制御部515は、制御部514の圧縮機505に対する指令値(回転速度や調量弁開度)と同じ指令値を上流側冷凍機の圧縮機506に与えることで、先の例と同等の効果を得ることができる。
【0011】
しかし、実際にはこのような制御は簡単ではない。その理由の一つには、下流側の制御部514の指令値をそのまま上流側の圧縮機506に与えると、若干の温度条件等の違いからいわゆるサージングなどの問題を生じることがある。また、指令値の伝送に使用されるデジタル通信にはタイムラグが生じやすく、圧縮機の制御などでは不具合の原因にもなりかねない。また、圧縮機の制御には圧力条件などの条件が複雑に関係しているため、開発コストもかかる。以上のような理由があり、このような制御を実際に適用することは困難である。
【0012】
このような問題を回避するには、上流側冷凍機の出口温度の目標値と下流側冷凍機の出口温度の目標値を個別に定め、それら目標値に基づいて各冷凍機を制御するという方法がある。この方法に依れば、各冷凍機は従来の一般的な単一冷凍サイクルの制御と全く同じ制御を行えばよいので、冷凍機のリスクは最小化され、開発コストも極小化できる。しかし、この方法では以下に述べるように下流側の冷凍機に冷凍負荷が集中するため、機器の劣化度合い等が偏り、そもそも上下流の冷凍機で均等に冷凍負荷を分担すべき二重冷凍サイクルの効果が低下してしまう。
【0013】
図9は、3台の冷凍機を連結して三重冷凍サイクルを構成した従来例を示す模式図である。3つの冷凍機611,612,613のそれぞれの構成は、図8を参照して説明した冷凍機と同じであるので、その詳細を省略する。被冷却液は冷凍機613、冷凍機612、冷凍機611の順で移送され、所望の温度T1となって、客先の設備へと送られる。しかし、入口の温度T2は、客先の設備から還ってきた被冷却液の温度であり、一般には客先の負荷によって大きく変動する。
【0014】
冷凍機611,612,613は、それぞれ所定の温度を目標値として運転される。たとえば、仮に、定格の負荷において目標温度T1=7℃、被冷却液の入口温度T2=19℃とすると、定格運転での冷凍機613,612間の中間温度T2’は15℃であり、定格運転での冷凍機612,611間の中間温度T2”は11℃である。したがって、温度T2’、T2”、T1は冷凍機613,612,611の目標温度にそれぞれ設定される。仮に、冷凍機611,612,613の冷凍負荷が一定であるか、あるいは、いわゆる被冷却液変流用制御を用いてT2が一定となるように冷凍機611,612,613を運転するのであれば、このような運転制御でもよい。しかし、実際には多くの場合、被冷却液入口温度T2は大きく変動する。
【0015】
たとえば、被冷却液入口温度T2が12℃に低下したとする。このとき、被冷却液入口温度T2は目標温度T2’=15℃よりも低いので、冷凍機613は停止(軽負荷停止)する。中間温度T2’はそのまま12℃である。冷凍機612は、その入口温度が12℃であるので、目標温度であるT2”=11℃まで冷却すべく運転するが、通常の負荷の25%での運転となる。一方で、冷凍機611はその入口温度が定格運転時の温度である11℃であるので、ほぼ100%の負荷で運転することになる。このように、個別の冷凍機の目標温度を定めてしまうと、後段の冷凍機に負荷が集中してしまい、運転時間等に大きな差異が生じ、効率的な運転ができない。また、運転台数が少なくなることで省エネルギーの効果も当然小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007-183077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このように、複数台の冷凍機を連結して多重冷凍サイクルを構成しようとすると、その温度制御方法が大きな課題となる。
【0018】
そこで、本発明は、通常の冷凍機を複数台連結することで多重冷凍サイクルを構成しながら、簡便な制御で安定した運転を可能とし、開発・設計の工数を極限まで小さくすることで、安価に省エネルギー化を達成できる多重冷凍システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
一態様では、複数の冷凍機を有する多重冷凍システムであって、前記複数の冷凍機のそれぞれは、液相の冷媒を蒸発させて冷媒ガスを生成する蒸発器と、冷媒ガスを圧縮する圧縮機と、圧縮された冷媒ガスを凝縮させて液相の冷媒を生成する凝縮器と、前記蒸発器に流入する被冷却液の入口温度を測定する入口温度センサと、前記蒸発器から流出した前記被冷却液の出口温度を測定する出口温度センサと、前記冷媒の循環流量を制御する制御部を備え、前記複数の冷凍機の蒸発器は直列に連結されており、前記複数の冷凍機の全体における前記被冷却液の目標出口温度をToutとし、運転中の前記複数の冷凍機のうち最も下流の冷凍機から数えてN台目の冷凍機の前記被冷却液の入口温度の測定値をTin(N)とすると、前記N台目の冷凍機の制御部は、
算定式T(N)=Tin(N)-(Tin(N)-Tout)/N
を用いて、前記N台目の冷凍機の前記被冷却液の目標出口温度T(N)を算定するように構成されている、多重冷凍システムが提供される。
【0020】
本発明によれば、各冷凍機の負荷は平準化されるので、多重冷凍サイクルの効果を最大化できる。また、各冷凍機の運転時間も平準化できる。さらに、本発明によれば、複数の冷凍機の運転中において冷凍機間での制御信号の送受信がないので、制御信号の遅延がなく、簡便な制御で安定した運転が可能となる。結果として、開発・設計の工数を極限まで小さくでき、安価で省エネルギー運転が可能な多重冷凍システムが実現できる。
【0021】
一態様では、前記制御部は、前記被冷却液の現在の出口温度と前記目標出口温度T(N)との差をなくすための出力制御演算の周期よりも長い周期で前記目標出口温度T(N)を前記算定式を用いて算定するように構成されている。
本発明によれば、被冷却液の現在の出口温度と目標出口温度T(N)との差に基づいた冷凍能力の制御が安定するので、各冷凍機の運転が安定する。
【0022】
一態様では、前記制御部は、前記算定された目標出口温度T(N)よりも低い温度から、前記算定された目標出口温度T(N)まで、徐々に前記N台目の冷凍機の目標出口温度を上昇させるように構成されている。
本発明によれば、被冷却液の現在の出口温度と目標出口温度T(N)との差に基づいた冷凍能力の制御が安定するので、各冷凍機の運転が安定する。
【0023】
一態様では、複数の前記制御部のうちの1つは親機として機能し、他の制御部は子機として機能し、前記親機は、前記複数の冷凍機のそれぞれの冷凍負荷が所定の最小冷凍負荷を下回ったときは、前記複数の冷凍機のうちの少なくとも1つの運転を停止させるように構成されている。
各冷凍機の冷凍負荷が最小冷凍負荷を下回ると、冷凍機の運転効率は低下する。本発明によれば、冷凍負荷が所定の最小冷凍負荷を下回ったときは、少なくとも1つの冷凍機の運転が停止されるので、運転中の冷凍機の冷凍負荷が上昇し、最小冷凍負荷を上回る。結果として、各冷凍機の運転効率が向上する。
【0024】
一態様では、前記親機は、前記N台目の冷凍機の子機に、運転中の前記冷凍機のうち最も下流の冷凍機から数えてN台目の冷凍機であることを示す信号を送信するように構成されている。
子機は、自身の冷凍機がN台目の冷凍機であることを示す信号を一旦受け取れば、親機との信号の送受信はせずに、子機は親機から完全に独立して上記算定式を用いて被冷却液の目標出口温度T(N)を算定することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、各冷凍機の負荷は平準化されるので、多重冷凍サイクルの効果を最大化できる。また、各冷凍機の運転時間も平準化できる。さらに、本発明によれば、複数の冷凍機の運転中において冷凍機間での制御信号の送受信がないので、制御信号の遅延がなく、簡便な制御で安定した運転が可能となる。結果として、開発・設計の工数を極限まで小さくでき、安価で省エネルギー運転が可能な多重冷凍システムが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】3台の冷凍機を直列に連結した多重冷凍システムの一実施形態を示す模式図である。
図2】多重冷凍システムの他の実施形態を示す模式図である。
図3】多重冷凍システムのさらに他の実施形態を示す模式図である。
図4】多重冷凍システムのさらに他の実施形態を示す模式図である。
図5】制御部の一実施形態を示す模式図である。
図6】二重冷凍サイクルの従来例を示す模式図である。
図7】1台の冷凍機に2台の圧縮機を搭載する場合の、二重冷凍サイクルの冷凍機の従来例を示す模式図である。
図8】2台の冷凍機を連結して二重冷凍サイクルを構成した従来例を示す模式図である。
図9】3台の冷凍機を連結して三重冷凍サイクルを構成した従来例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、3台の冷凍機を直列に連結した多重冷凍システムの一実施形態を示す模式図である。図1に示すように、多重冷凍システムは、3台の冷凍機1,2,3を備えている。第1冷凍機1は、液相の冷媒を蒸発させて冷媒ガスを生成する蒸発器11と、冷媒ガスを圧縮する圧縮機12と、圧縮された冷媒ガスを凝縮させて液相の冷媒を生成する凝縮器13と、蒸発器11に流入する被冷却液の入口温度を測定する入口温度センサ14と、蒸発器11から流出した被冷却液の出口温度を測定する出口温度センサ15と、冷媒の循環流量を制御する制御部16を備えている。
【0028】
蒸発器11、圧縮機12、および凝縮器13は、矢印で描かれた冷媒配管によって連結されている。冷媒は、冷媒配管を通って蒸発器11、圧縮機12、凝縮器13を循環する。第1冷凍機1は、蒸発器11と凝縮器13との間に位置する膨張機構としての膨張弁17をさらに備えている。膨張弁17は、蒸発器11と凝縮器13との間を延びる冷媒配管に取り付けられている。凝縮器13から蒸発器11に流れる冷媒は膨張弁17を通過することで、冷媒の圧力と温度が低下する。膨張弁17を通過した冷媒は、蒸発器11に流入する。
【0029】
第2冷凍機2は、同様に、蒸発器21、圧縮機22、凝縮器23、膨張弁27、制御部26、入口温度センサ24、出口温度センサ25を備えており、第3冷凍機3も、蒸発器31、圧縮機32、凝縮器33、膨張弁37、制御部36、入口温度センサ34、出口温度センサ35を備えている。第2冷凍機2および第3冷凍機3のこれらの構成要素の機能は、第1冷凍機1と基本的に同じであるので、それらの重複する説明を省略する。
【0030】
複数の冷凍機1,2,3の複数の蒸発器11,12,13は、被冷却液移送ライン41により直列に連結されている。すなわち、第3冷凍機3の蒸発器31の被冷却液出口は第2冷凍機2の蒸発器21の被冷却液入口に連結され、第2冷凍機2の蒸発器21の被冷却液出口は第1冷凍機1の蒸発器11の被冷却液入口に連結されている。複数の冷凍機1,2,3の複数の凝縮器13,23,33は、冷却液移送ライン42により直列に連結されている。すなわち、第1冷凍機1の凝縮器13の冷却液出口は第2冷凍機2の凝縮器23の冷却液入口に連結され、第2冷凍機2の凝縮器23の冷却液出口は第3冷凍機3の凝縮器33の冷却液入口に連結されている。
【0031】
被冷却液(例えば冷水)は、被冷却液移送ライン41を通って、まず、第3冷凍機3の蒸発器31内に流入する。蒸発器31内で被冷却液と冷媒液との熱交換が行われる。この熱交換の結果、被冷却液は冷却され、その一方で冷媒液は被冷却液により加熱されて蒸発し、冷媒ガスとなる。冷却された被冷却液は、被冷却液移送ライン41を通って第2冷凍機2の蒸発器21に送られ、その一方で冷媒ガスは、圧縮機32に送られる。圧縮機32は、冷媒ガスを圧縮し、圧縮された冷媒ガスを凝縮器33に送る。凝縮器33では、冷媒ガスは、冷却液移送ライン42を通って移送される冷却液により冷却されて凝縮し、冷媒液となる。第2冷凍機2および第1冷凍機1でも、同じようにして被冷却液が冷却され、最終的に第1冷凍機1の蒸発器11から流出する。なお、冷凍機1,2,3の諸元は、全体として需要先の所用を満たすように設計すればよいことは言うまでもない。また、連結される冷凍機の数は、3台に限られず、2台であってもよいし、または4台以上であってもよい。
【0032】
搬送動力を低減するために被冷却液の流量を可能な限り低くし、被冷却液の出入り温度差を大きくすることで省エネルギーを図る、いわゆる大温度差空調という思想がある。多重冷凍サイクルは被冷却液の出入り温度差が大きいほどその効果が大きいので、多重冷凍サイクルは大温度差空調に適している。また、大温度差空調では被冷却液の流量が低いため、冷凍機の標準的な設計条件から外れて特殊設計を余儀なくされるケースもあるが、図1のように複数の冷凍機1,2,3を直列に接続することで冷凍機一台当たりの被冷却液の出入り温度差は比較的小さく抑えられ、冷凍機1,2,3は標準設計条件(一般に、5℃差)に近い条件で設計できるため、標準仕様で対応できる範囲が広くなるという利点もある。
【0033】
例えば、1台の冷凍機を12℃の出入り温度差の条件で設計するには、5℃の出入り温度差の条件での設計に比べて42%程度の被冷却液の流量となり、そのままでは管内流速が極端に低下する。そのため、いわゆるパス数を増やすなどの対応が必要となる。結果として、冷凍機の水室や伝熱管の構造が複雑になったり、伝熱効率が悪化したりすることがある。これに対し、本実施形態のように3台の冷凍機1,2,3を直列に接続すると、1台当たりの被冷却液の出入り温度差は4℃となり、被冷却液流量は標準の設計に対して1.25倍と大きく変わらず、標準の設計のままで冷凍機を使用することができる。
【0034】
なお、冷却液の入口温度は冷却塔と外気条件とで決まり、冷却液の出口温度は流量で決まるため、冷却液の流量が変わらなければ冷却液の出口温度がそのために上昇し、むしろ所用動力が大きくなってしまう。サイクルとしては冷却液の流量を増やすことで出口温度を維持することが理想であるが、冷却液ポンプの所用動力が増加したり、差圧が極度に増大したりすることもあるので、冷却液が流れる凝縮器は直列に接続せず、並列に接続することもある。図2は、凝縮器13,23,33が並列に接続された一実施形態を示す模式図である。
【0035】
図1および図2において、第3冷凍機3の制御部36は「親機」として機能する。複数の冷凍機1,2,3に対する運転指令は、第3冷凍機3の制御部36に対して手動入力または遠隔からの信号で与えられる。第3冷凍機3の制御部36は、負荷状態等から判断して3台の冷凍機1,2,3のそれぞれを運転するかどうかを判断し、第2冷凍機2の制御部26および第1冷凍機1の制御部16に対して、運転指令CMD2およびCMD1を与える。どの冷凍機をどのような組み合わせで運転するかについては様々な方法がある。たとえば同じ形式の冷凍機が直列に接続されている場合に最も単純な方法は、増数する場合はその時点で最も運転時間の短い冷凍機を始動し、減数する場合にはその時点で最も運転時間の長い冷凍機を停止することである。このようにすると、冷凍機の運転時間を均一化し、特定の冷凍機のみ運転時間が長くなりメンテナンスの回数が増えることなどを抑止できる。
【0036】
制御部16,26,36のそれぞれは、プログラムが格納された記憶装置と、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置を備えている。これら制御部16,26,36として、一般に、マイコン、シーケンサなどの機器組み込み用の制御機器が用いられることが多いが、制御部16,26,36の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0037】
本実施形態では、運転中の冷凍機に対する負荷を平準化するために、運転中の複数の冷凍機のうち最も下流の冷凍機から数えてN台目の冷凍機の制御部は、以下の算定式T(N)を用いて、N台目の冷凍機の被冷却液の目標出口温度T(N)を算定するように構成されている。
算定式T(N)=Tin(N)-(Tin(N)-Tout)/N
ここで、Toutは複数の冷凍機1,2,3の全体における被冷却液の目標出口温度であり、Tin(N)はN台目の冷凍機の被冷却液の入口温度の測定値である。上記算定式は、制御部16,26,36のそれぞれの記憶装置内に格納されている。
【0038】
たとえば、3台すべての冷凍機1,2,3が運転中である場合、第3冷凍機3は最も下流から3台目の冷凍機であるのでNは3となる。第3冷凍機3の制御部36は、目標出口温度T(3)を以下のように算定する。
T(3)=Tin(3)-(Tin(3)-Tout)/3
Tin(3)は、第3冷凍機3の蒸発器31に流入する被冷却液の入口温度を測定する入口温度センサ34によって測定される。目標出口温度Toutは、予め設定された温度である。
同じように、第2冷凍機2の制御部26は、目標出口温度T(2)を以下のように算定する。
T(2)=Tin(2)-(Tin(2)-Tout)/2
Tin(2)は、第2冷凍機2の蒸発器21に流入する被冷却液の入口温度を測定する入口温度センサ24によって測定される。
【0039】
前述の条件を上記式に当てはめると、Tin(3)=12℃、Tout=7℃であるから、T(3)≒10.3℃、T(2)≒8.6℃となり、各冷凍機1,2,3の負荷はそれぞれ約42%となり、負荷は平準化される。また、3台の冷凍機1,2,3が運転するので冷凍サイクルが3分割され、省エネ効果が最大化される。
【0040】
上記算定式を用いた演算は、冷凍機1,2,3の温度制御における温度に対する応答時間よりも十分に長い時間間隔で実行し、各冷凍機1,2,3の目標出口温度T(N)を更新することが望ましい。具体的には、制御部16,26,36のそれぞれは、被冷却液の現在の出口温度と目標出口温度T(N)との差をなくすための出力制御演算の周期よりも長い周期で、目標出口温度T(N)を上記算定式を用いて算定するように構成されている。被冷却液の現在の出口温度は、出口温度センサ15,25,35によって測定される。たとえば、被冷却液の現在の出口温度と目標出口温度T(N)との差をなくすための出力制御演算は1秒程度の周期で行われているので、上記算定式を用いた目標出口温度T(N)の算定は、出力制御演算の周期よりも十分に長い、たとえば1分程度の周期で行うことが望ましい。このような動作によれば、被冷却液の現在の出口温度と目標出口温度T(N)との差に基づいた冷凍能力の制御が安定するので、各冷凍機の運転が安定する。
【0041】
複数の制御部16,26,36のうちの1つは親機として機能し、他の制御部は子機として機能する。本実施形態では、第3冷凍機3の制御部36は親機として機能する。親機は、複数の冷凍機1,2,3のそれぞれの冷凍負荷が所定の最小冷凍負荷を下回ったときは、複数の冷凍機1,2,3のうちの少なくとも1つの運転を停止させるように構成されている。通常、各冷凍機の冷凍負荷が最小冷凍負荷を下回ると、冷凍機の運転効率は低下する。本実施形態によれば、冷凍負荷が所定の最小冷凍負荷を下回ったときは、少なくとも1つの冷凍機の運転が停止されるので、運転中の冷凍機の冷凍負荷が上昇し、最小冷凍負荷を上回る。結果として、各冷凍機の運転効率が向上する。
【0042】
冷凍負荷の変動により運転台数を増減したときなどでは、急激に目標出口温度T(N)が変わってしまうことがある。そこで、制御部16,26,36のそれぞれは、算定された目標出口温度T(N)よりも低い温度から、算定された目標出口温度T(N)まで、徐々にN台目の冷凍機の目標出口温度を上昇させるように構成されている。より具体的には、制御部16,26,36のそれぞれは、算定された目標出口温度T(N)よりも低い温度から、算定された目標出口温度T(N)まで、所定の上昇率(たとえば、1分間に1℃の上昇率)でN台目の冷凍機の目標出口温度を上昇させる。
【0043】
例えば、3台の冷凍機1,2,3が運転しているとき、第3冷凍機3の被冷却液の入口温度Tin(3)が17℃、目標出口温度Toutが7℃であれば、第2冷凍機2の被冷却液の入口温度は13.6℃となる。上記算定式によれば、第2冷凍機2の目標出口温度T(2)は10.3℃と算定される。冷凍負荷の減少により第3冷凍機3を停止したとすると、第2冷凍機2の被冷却液の入口温度は17℃に上昇する。結果として、第2冷凍機2の目標出口温度T(2)は12℃と算定され、目標温度が1.7℃上昇する。この目標出口温度T(2)をただちに第2冷凍機2の制御部26に出力制御演算の目標値として適用すると、制御の不安定化が懸念される。
【0044】
そこで、第2冷凍機2の制御部26は、算定された目標出口温度T(2)よりも低い温度から、算定された目標出口温度T(2)まで、所定の上昇率で第2冷凍機2の目標出口温度を上昇させる。たとえば、第2冷凍機2の制御部26は、最初に、目標出口温度を10.3℃から11.3℃に上昇させ、その1分後に11.3℃から12℃に上昇させる。このような段階的な上昇により、第2冷凍機2の制御部26の制御動作の不安定化を抑止できる。実際の上昇率や演算周期は、冷凍機の特性に合せて調整するのがよい。
【0045】
上記算定式から明らかなとおり、各冷凍機の制御部は自分よりも下流で運転中の台数N-1と、共通の目標出口温度Toutのみを取得すれば、上記算定式から目標出口温度T(N)を算定することができる。したがって、最上流の被冷却液の入口温度Tin(3)を伝送するためのアナログ通信や、冷凍負荷率を別途演算する必要がない。すなわち、個々の冷凍機の付属的機能として、全く同じ制御ロジックで実装できることが、本実施形態の大きな利点である。
【0046】
目標出口温度T(N)を算定するためには、各冷凍機は自分より下流の運転台数N-1の情報を取得する必要がある。複数の制御部16,26,36のうちの1つは親機として機能し、他の制御部は子機として機能する。親機は、N台目の冷凍機の子機に、運転中の冷凍機のうち最も下流の冷凍機から数えてN台目の冷凍機であることを示す信号を送信するように構成されている。子機は、自身の冷凍機がN台目の冷凍機であることを示す信号を一旦受け取れば、親機との信号の送受信はせずに、子機は親機から完全に独立して上記算定式を用いて被冷却液の目標出口温度T(N)を算定することができる。
【0047】
本実施形態では、最上流の第3冷凍機3の制御部36を「親機」とし、親機から子機(第2冷凍機2の制御部26および第1冷凍機1の制御部16)に与える運転指令を共有することで、子機は自分より下流の運転台数N-1の情報を取得することができる。すなわち、第3冷凍機3の制御部36(親機)から子機へと運転を指令する場合、第2冷凍機2を運転したい場合は運転指令CMD2をアクティブにし、第1冷凍機1を運転したい場合は運転指令CMD1をアクティブにする。なお、運転指令をアクティブにするとは、たとえば有電圧信号(あるいはソース信号)であれば+5V等の規定の電圧を出力することであり、無電圧信号(あるいはシンク信号)であれば信号線をグランド電位(0V)に接続することである。ただし、運転の指示と停止の指示とを取り決め(プロトコル)により伝送できる運転指令であればその形式は特に限定されない。
【0048】
第3冷凍機3と第1冷凍機1の間にある第2冷凍機2の制御部26は、運転指令CMD2のステータス(アクティブまたは非アクティブ)を第3冷凍機3の制御部36(親機)から受け取ると同時に、運転指令CMD1のステータス(アクティブまたは非アクティブ)を第3冷凍機3の制御部36(親機)から受け取る。したがって、第2冷凍機2の制御部26は、運転指令CMD2がアクティブであるときに、運転指令CMD1がアクティブまたは非アクティブであるかにより下流で第1冷凍機1が運転しているかどうかの情報を得ることができる。
【0049】
第2冷凍機2の制御部26は、運転指令CMD1がアクティブな場合は前述の算定式に従って目標出口温度T(2)を算定し、運転指令CMD1が非アクティブの場合は目標出口温度T(1)=Toutを決定する。なお、第2冷凍機2の制御部26は、第1冷凍機1が運転中であるか否かの情報を第1冷凍機1の制御部16から直接信号として受け取ってもよい。なお、親機である第3冷凍機3の制御部36は、自らが運転停止を決定するのであるから当然運転台数の情報は持っている。第1冷凍機1が運転中のときは、どのような条件であっても、第1冷凍機1の被冷却液の目標出口温度はToutである。
【0050】
以上のようにすることで、共通のプログラムを有する制御部を用いながら、単純な信号線のみを用いて、各冷凍機は自身の運転すべき目標出口温度を算定することができ、簡便な手間で複数台の冷凍機を直列に接続し、運転することが可能となる。
【0051】
本実施形態によれば、各冷凍機の負荷は平準化されるので、多重冷凍サイクルの効果を最大化できる。また、各冷凍機の運転時間も平準化できる。さらに、本実施形態によれば、複数の冷凍機の運転中において冷凍機間での制御信号の送受信がないので、制御信号の遅延がなく、簡便な制御で安定した運転が可能となる。結果として、開発・設計の工数を極限まで小さくでき、安価で省エネルギー運転が可能な多重冷凍システムが実現できる。
【0052】
図3は、多重冷凍システムのさらに他の実施形態を示す模式図である。本実施形態では、5台の冷凍機1~5が連結されている。各冷凍機の詳細な構成は、図1を参照して説明した実施形態と同じであるので、その詳細な図示を省略する。本実施形態では、冷凍機1~5の制御部16~56は、1本の通信線(CMDx)で接続されている。これは、いわゆるバス接続であり、すべての制御部16~56は各制御部に送られた信号を受け、各冷凍機は与えられた指令に従って運転する。この場合、先の実施形態と同様に、親機は子機に対して運転指令を発する。あるいは、台数制御を実行する運転指示装置(図示せず)を別途設け、この運転指示装置から指令を行うこととしてもよい。この場合、運転指示装置から冷凍機1~5に対して、運転指令が与えられる。このとき、冷凍機の運転台数やどの冷凍機を運転するかについては、前述した運転時間等を参照して決定することができるのは言うまでもない。
【0053】
ここで、図3に示す多重冷凍システムの運転制御の一例について説明する。たとえば、第3冷凍機3の制御部36に運転指令が通信線CMDxを通じて送られたとき、第1冷凍機1~第5冷凍機5のそれぞれの制御部16~56も、同じくその第3冷凍機3への運転指令を受ける。したがって、第5冷凍機5と第4冷凍機4の制御部46,56は、自分の下流で運転する冷凍機が1台増えたことを認識することができる。同様に、停止指令に対しても同じ処理を行うことで、各制御部は自らが受け持つ冷凍機の下流で何台の冷凍機が運転しているかを、常時認識することができる。
【0054】
この実施形態では、各制御部は、運転指令が与えられた冷凍機の最下流からの設置順と、自らの設置順がわかっていれば、その両者の単純な大小判断のみで運転台数の増減を知ることができ、やはり各制御部で共通のプログラムを用いて適切な運転が可能となる。したがって、各冷凍機の制御部は自身の目標出口温度を上記実施形態と同じように定めることができる。
【0055】
各制御部による運転台数の認識は、その制御部が運転指令を受け取ったときや、一定の時間ごとに他の冷凍機が運転しているかどうかを確認する動作としてもよく、各制御部から上流の冷凍機の制御部に定期的に運転中であることを通知することとしてもよい。また、運転指示装置(図示せず)からある冷凍機の制御部に運転指令を与える際に、その冷凍機よりも下流で運転している冷凍機の数を通知することとしてもよい。いずれにせよ、このような通信手段により、各冷凍機の制御部は、自身よりも下流で運転している冷凍機の台数を認識することができる。なお、故障している冷凍機があった場合、たとえば、運転指示装置はその冷凍機に対して運転指令を与えないようにする。故障している冷凍機に運転指令を与えないことで、その冷凍機は運転台数に入らないことになるので、一部の冷凍機が故障していても冷凍システムの全体の運転が可能である。
【0056】
なお、このように運転台数を確認する周期は、刻々と変化する被冷却液の温度の測定周期よりも、非常に少なくてよい。すなわち、従来の技術で説明したような圧縮機の制御とは異なり、デジタル通信を使用しても問題ないこととなる。このため、本実施形態のように温度情報(アナログ値)を頻繁にやり取りする必要がないことは、通信線の負荷を減じることにつながり、これも本実施形態の利点である。
【0057】
なお、連結する冷凍機の台数は、理論上は多いほど省エネルギー効果が高くなるが、実際にはあまり多くの冷凍機を直列に接続すると冷凍機1台あたりの出入り温度差が極端に小さくなるため、蒸発器の設計が困難になることが多い。そのため、実際に接続する台数は、2~3台が通常であり、客先の温度条件(被冷却液の出入り温度差が大きいなど)によるが、実務上は5台程度まで直列に接続できれば十分であると考えられる。そのため、接続台数には仕様上の上限を設けても構わない。
【0058】
図4は、多重冷凍システムのさらに他の実施形態を示す模式図である。各冷凍機の詳細な構成は、図1を参照して説明した実施形態と同じであるので、その詳細な図示を省略する。本実施形態は、最小である2台の冷凍機1,2を連結した多重冷凍システムである。2台の冷凍機1,2の制御部16,26には親子関係はなく、それぞれ直接指示または遠隔からの指示に従って2台の冷凍機1,2が運転する。
【0059】
本実施形態では、第1冷凍機1の制御部16は、第1冷凍機1が運転中であることを示す運転信号ACK1を第2冷凍機2の制御部26に送信する。これにより、第2冷凍機2の制御部26は、第1冷凍機1が運転中であることを認識するとともに、この運転信号に基づいて被冷却液の目標出口温度をToutからT(2)に切り替える。この場合、制御部26の持つ被冷却液の目標出口温度の切替機能等を活用すると、従来の制御部に回路を追加するだけでこのような機能を実装できる。
【0060】
図5は、図4に示す第2冷凍機2の制御部26の構造の一実施形態を示す模式図である。制御部26は、主制御回路61と、信号発生器62と、信号切替器63を有している。信号切替器63は、主制御回路61と信号発生器62に接続されている。第2冷凍機2に流入する被冷却液の温度Tin(2)は、入口温度センサ24(図1参照)によって測定される。被冷却液の温度Tin(2)の測定値は、主制御回路61に入力され、さらに主制御回路61から出力される。温度Tin(2)の測定値は、電気信号からなるアナログ信号の形態で主制御回路61から出力される。例えば、アナログ信号は、0~50℃に対応する4~20mAの電気信号である。すなわち、範囲0~50℃内の温度値は、範囲4~20mA内の電気信号に一対一で対応する。
【0061】
主制御回路61から出力された温度Tin(2)の測定値(電気信号)は、信号切替器63を経由して、主制御回路61に再度入力される。主制御回路61は、入力された電気信号を温度値に変換する変換器(図示せず)を有しており、この変換器は4~20mAの電気信号を3.5~28.5℃の温度値に変換するように予め調整されている。範囲4~20mA内の電気信号は、範囲3.5~28.5℃内の温度値に一対一で対応する。この温度値の範囲3.5~28.5℃は、0~50℃の範囲を以下の算定式を用いて予め変換することによって得られた範囲である。
T(2)=Tin(2)-(Tin(2)-Tout)/2
ここでは、Toutは7℃である。
【0062】
信号切替器63には、継電器(リレー)を使用することができる。運転信号ACK1がアクティブの場合、主制御回路61から出力された温度Tin(2)の測定値(電気信号)は、信号切替器63を経由して、主制御回路61に入力される。運転信号ACK1が非アクティブの場合、信号発生器62から発せられた信号が信号切替器63を経由して主制御回路61に入力される。信号発生器62の信号は、Toutに相当するアナログ信号(電気信号)である。したがって、第1冷凍機1が運転されていないときには、第2冷凍機2はToutを目標出口温度として運転することになる。本実施形態によれば、第2冷凍機2は第1冷凍機1が運転中のときは目標出口温度T(2)で運転され、第1冷凍機1が停止中のときはで目標出口温度Toutで運転される。
【0063】
これらの信号の機能は通常の冷凍機には標準の機能として設けられていることが多く、この場合は信号切替器63と信号発生器62のみを既存の冷凍機に追加すればよいので、きわめて簡便に本実施形態の機能を冷凍機に実装できる。さらに、Tin(2)が主制御回路61に入力されていない場合に、自動的に被冷却液の目標出口温度をToutとする機能(フェイルセーフ機能)がある制御部であれば、信号発生器62も不要となる。
【0064】
以上のようにすることで、複数台の冷凍機を直列に接続し、運転台数が変化しても、標準化された(統一された)プログラムを用いて、最小の通信(台数が少なければ単純な接点信号のみ)で適切な負荷配分が行われ、省エネルギー化を図った多重冷凍システムを構成できる。
【0065】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0066】
1,2,3 冷凍機
11,21,31 蒸発器
12,22,32 圧縮機
13,23,33 凝縮器
14,24,34 入口温度センサ
15,25,35 出口温度センサ
16,26,36 制御部
17,27,37 膨張弁
41 被冷却液移送ライン
42 冷却液移送ライン
61 主制御回路
62 信号発生器
63 信号切替器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9