(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054514
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20230407BHJP
F04D 29/12 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
F16J15/34 H
F04D29/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163410
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 淳矢
(72)【発明者】
【氏名】冨田 優記
【テーマコード(参考)】
3H130
3J041
【Fターム(参考)】
3H130AA03
3H130AB23
3H130AB60
3H130AC04
3H130BA24F
3H130BA88F
3H130DA02X
3H130DC02X
3J041BA04
3J041BB01
3J041BD01
3J041DA04
3J041DA20
(57)【要約】
【課題】回転密封環が帯電するのを抑制することができるメカニカルシールを提供する。
【解決手段】メカニカルシール1は、回転軸71に一体回転可能に設けられ回転密封環13を有する回転側ユニット2と、回転軸71を包囲しているケーシング72に設けられ回転密封環13が摺動することで被密封流体を機内領域73に密封する静止側ユニット3と、を備える。静止側ユニット3は、機内領域73にフラッシング流体を導入する導入路50を有する。回転側ユニット2は、回転密封環13におけるフラッシング流体との接触面13bに沿って回転密封環13の回転方向にフラッシング流体の流れを発生させるための凹凸部21を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に一体回転可能に設けられ、回転密封環を有する回転側ユニットと、
前記回転軸を包囲しているケーシングに設けられ、前記回転密封環が摺動することで被密封流体を機内領域に密封する静止側ユニットと、を備え、
前記静止側ユニットは、前記機内領域にフラッシング流体を導入する導入路を有する、メカニカルシールであって、
前記回転側ユニットは、前記回転密封環における前記フラッシング流体との接触面に沿って、前記回転密封環の回転方向に前記フラッシング流体の流れを発生させるための凹凸部を有する、メカニカルシール。
【請求項2】
前記回転側ユニットは、前記回転密封環の外周に嵌合された第1円筒部材を有し、
前記凹凸部は、前記第1円筒部材の外周に形成されている、請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記凹凸部は、前記第1円筒部材の径方向外側に突出する凸部を有し、
前記凸部は、前記第1円筒部材の軸方向に直線状に延びている、請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記凹凸部は、前記第1円筒部材の外周に形成された雄ねじで構成されている、請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記回転側ユニットは、前記雄ねじの径方向外側に環状の隙間をあけて配置された第2円筒部材をさらに有する、請求項4に記載のメカニカルシール。
【請求項6】
前記第2円筒部材には、径方向に貫通する貫通孔が形成されている、請求項5に記載のメカニカルシール。
【請求項7】
前記回転側ユニットは、前記回転密封環と前記回転軸とを電気的に接続するための導線をさらに有する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、火力発電所のボイラーに給水するポンプでは、配管内等でのスケール発生抑制のため表面に酸化被膜を形成し、防食する複合水処理(CWT)が行われる。このような環境で使用されるメカニカルシールの機内領域には、被密封流体として電気抵抗率の高い超純水がフラッシング流体として導入される(特許文献1参照)。機内領域に導入されたフラッシング流体は、回転密封環と静止側部材(遊動環等)との摺動部付近を流れて機外に排出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のメカニカルシールにおいて、フラッシング流体として用いられる超純水は、電気抵抗率が高い。このため、回転密封環の回転中に、フラッシング流体として導入される超純水と回転密封環との相対速度が大きくなると、両者間の摩擦が増大することによって、回転密封環が帯電しやすくなる。このように回転密封環が帯電すると、回転密封環が電気的な要因で損傷(放電や腐食等)するおそれがある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、回転密封環が帯電するのを抑制することができるメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、回転軸に一体回転可能に設けられ、回転密封環を有する回転側ユニットと、前記回転軸を包囲しているケーシングに設けられ、前記回転密封環が摺動することで被密封流体を機内領域に密封する静止側ユニットと、を備え、前記静止側ユニットは、前記機内領域にフラッシング流体を導入する導入路を有する、メカニカルシールであって、前記回転側ユニットは、前記回転密封環における前記フラッシング流体との接触面に沿って、前記回転密封環の回転方向に前記フラッシング流体の流れを発生させるための凹凸部を有する、メカニカルシールである。
【0007】
本発明によれば、回転密封環が回転軸と共に回転することで、回転側ユニットの凹凸部によって、回転密封環におけるフラッシング流体との接触面に沿って、回転密封環の回転方向にフラッシング流体の流れが発生する。これにより、フラッシング流体と回転密封環との相対速度が小さくなるので、フラッシング流体と回転密封環との摩擦が低減される。したがって、電気抵抗率の高いフラッシング流体を用いても、回転密封環が帯電するのを抑制することができる。その結果、回転密封環が電気的な要因で損傷するのを抑制することができる。
【0008】
(2)前記回転側ユニットは、前記回転密封環の外周に嵌合された第1円筒部材を有し、前記凹凸部は、前記第1円筒部材の外周に形成されているのが好ましい。
この場合、回転密封環とは別部材の第1円筒部材に凹凸部が形成されるので、回転密封環に凹凸部を形成することができない場合でも、回転側ユニットに凹凸部を設けることができる。
【0009】
(3)前記凹凸部は、前記第1円筒部材の径方向外側に突出する凸部を有し、前記凸部は、前記第1円筒部材の軸方向に直線状に延びているのが好ましい。
この場合、第1円筒部材の軸方向に直線状に延びる凸部により、回転密封環の回転方向へのフラッシング流体の流れを比較的大きくすることができる。
【0010】
(4)前記凹凸部は、前記第1円筒部材の外周に形成された雄ねじで構成されているのが好ましい。
この場合、第1円筒部材の外周に形成された雄ねじにより、回転密封環の回転方向へのフラッシング流体の流れを発生させることができる。
【0011】
(5)前記回転側ユニットは、前記雄ねじの径方向外側に環状の隙間をあけて配置された第2円筒部材をさらに有するのが好ましい。
この場合、第1円筒部材側の雄ねじと第2円筒部材との間に形成された環状の隙間において、フラッシング流体は、雄ねじに沿って螺旋状に回転しながら第1円筒部材の軸方向に流れやすくなる。このようにフラッシング流体が流れると、第1円筒部材を介して回転密封環が冷却されるので、回転密封環と静止側ユニットとの摺動部の発熱を抑えることができる。その結果、前記摺動部における摩耗の発生を抑制することができる。
【0012】
(6)前記第2円筒部材には、径方向に貫通する貫通孔が形成されているのが好ましい。
この場合、第1円筒部材側の雄ねじと第2円筒部材との間の隙間において軸方向に流れるフラッシング流体は、貫通孔を通過して第2円筒部材の径方向外側に流れるので、前記隙間にフラッシング流体が滞留するのを抑制することができる。これにより、前記隙間に滞留するフラッシング流体の温度上昇に起因して、回転密封環の冷却が阻害されるのを抑制することができる。
【0013】
(7)前記回転側ユニットは、前記回転密封環と前記回転軸とを電気的に接続するための導線をさらに有するのが好ましい。
この場合、フラッシング流体と回転密封環との摩擦により回転密封環が帯電しても、その帯電した電気は導線により回転軸に逃げやすくなる。これにより、回転密封環が電気的な要因で損傷するのをさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、メカニカルシールの回転密封環が帯電するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るメカニカルシールの断面図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係るメカニカルシールの拡大断面図である。
【
図5】本発明の第3実施形態に係るメカニカルシールの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[第1実施形態]
<全体構成>
図1は、本発明の第1実施形態に係るメカニカルシールの断面図である。
図1において、メカニカルシール1は、例えば火力発電所のボイラーに給水するポンプに用いられ、ポンプの内部において超純水を被密封流体として密封するものである。メカニカルシール1は、ポンプの回転軸71と、回転軸71を包囲しているケーシング72との間において、回転軸71の軸方向(以下、単に「軸方向」という)に沿って配置されている。
【0017】
本実施形態のメカニカルシール1は、回転軸71に一体回転可能に設けられた回転側ユニット2と、ケーシング72に設けられた静止側ユニット3とを備えている。なお、本明細書では、便宜上、
図1の左側を軸方向一方側といい、
図1の右側を軸方向他方側という(
図2、
図4及び
図5についても同様)。
【0018】
<回転側ユニット>
回転側ユニット2は、スリーブ11、ストッパリング12、回転密封環13、及び補強環(第1円筒部材)14を備えている。スリーブ11は、回転軸71の外周に嵌合して固定された円筒状のスリーブ本体11aと、スリーブ本体11aの軸方向他端部から径方向外側に延びる円環部11bと、円環部11bの径方向外端から軸方向一方側に延びる円筒部(第2円筒部材)11cと、を有している。
【0019】
スリーブ本体11aの軸方向一端部の内周には、その周方向の所定箇所にキー溝11dが形成されている。キー溝11dと回転軸71の外周面と間にはキー部材15が挿入されている。スリーブ本体11aの軸方向一方側における回転軸71の外周には、キー部材15が軸方向一方側に抜け出さないようにストッパリング12が嵌め込まれている。
【0020】
ストッパリング12の軸方向他端部は、スリーブ本体11aの軸方向一端部の外周に嵌合されており、その嵌合部分にはセットスクリュー16がストッパリング12の径方向に締め込まれている。以上により、スリーブ11は、回転軸71に固定されている。スリーブ本体11aの軸方向他端部の内周面と回転軸71の外周面との間は、Oリング17によりシール(二次シール)されている。円環部11bの軸方向他方側および円筒部11cの径方向外側には、カバーリング18が配置されている。カバーリング18は、ボルト19により円環部11bに固定されている。
【0021】
スリーブ本体11aと円筒部11cとの間には、回転密封環13が配置されている。回転密封環13は、炭化ケイ素(SiC)の焼結体の表面を、電気抵抗率が低いダイヤモンド膜(図示省略)で覆って構成されている。回転密封環13の軸方向一方側の端面にはシール面13aが形成されている。回転密封環13の外周面は、補強環14を介して円筒部11cに取り付けられている。補強環14の詳細については後述する。円筒部11cの内周面と回転密封環13の外周面との間は、Oリング20によりシール(二次シール)されている。
【0022】
<静止側ユニット>
静止側ユニット3は、シールケース31、リテーナ32、静止密封環33、アダプタ34、及び遊動環35を備えている。シールケース31は、円環状に形成されている。シールケース31の径方向外側部は、ケーシング72の軸方向一方側の側面に当接した状態で、ボルト36によりケーシング72に固定されている。シールケース31の軸方向他方側の側面とケーシング72の軸方向一方側の側面との間は、Oリング37によりシール(二次シール)されている。シールケース31の径方向内側部の軸方向他方側には、円環状の環状溝31aが形成されている。
【0023】
リテーナ32は、シールケース31の環状溝31aに嵌め込まれた状態で、ボルト38によりシールケース31に固定されている。リテーナ32の外周面と環状溝31aの内周面との間は、Oリング39によりシール(二次シール)されている。リテーナ32の軸方向他方側の外周には、静止密封環33が軸方向に移動可能に取り付けられている。静止密封環33の軸方向他方側の端面には押圧面33aが形成されている。
【0024】
リテーナ32と静止密封環33との間には、スプリング40が設けられている。スプリング40は、リテーナ32に対して静止密封環33を軸方向他方側へ付勢している。静止密封環33の内周面とリテーナ32の外周面との間は、Oリング41によりシール(二次シール)されている。
【0025】
アダプタ34は、ケーシング72内においてシールケース31の軸方向他方側に配置されている。アダプタ34は、円筒状に形成されたアダプタ本体34aと、アダプタ本体34aの軸方向他端部から径方向外側に突出する円環状の突出部34bと、を有している。アダプタ本体34aの軸方向一端部は、リテーナ32の外周に固定された状態で、シールケース31の環状溝31aに嵌め込まれている。アダプタ本体34aの軸方向の途中部には、径方向に貫通する貫通孔34cが形成されている。貫通孔34cは、アダプタ本体34aの周方向に複数形成されている。
【0026】
突出部34bの外周面は、ケーシング72の内周面に嵌合されている。突出部34bの外周面とケーシング72の内周面との間は、Oリング42によりシール(二次シール)されている。これにより、アダプタ本体34aとケーシング72との間であって、かつシールケース31と突出部34bとの間には、環状の第1流路44が形成されている。
【0027】
遊動環35は、例えばカーボンからなり、静止密封環33と回転密封環13との間で軸方向に挟圧保持されている。遊動環35の外周面は、球面状に形成されており、アダプタ34の内周面に嵌合して支持されている。遊動環35の軸方向一方側には、静止密封環33の押圧面33aに接触する押圧面35aが形成されている。これにより、遊動環35は、スプリング40の付勢力により静止密封環33を介して軸方向他方側に押圧されている。遊動環35における押圧面35aよりも径方向外側の側面と静止密封環33の押圧面33aとの間は、Oリング43によりシール(二次シール)されている。静止側ユニット3には、遊動環35とリテーナ32との間から、静止密封環33とアダプタ本体34aとの間にわたって、環状の第2流路45が形成されている。
【0028】
遊動環35の軸方向他方側には、回転密封環13のシール面13aが摺動するシール面35bが形成されている。これにより、ケーシング72内における回転密封環13及び遊動環35の両シール面13a,35bよりも径方向外側には、被密封流体(超純水)が密封される機内領域73が形成されている。遊動環35には、軸方向に貫通する連通孔35cが形成されている。
【0029】
<導入路>
ケーシング72には、外部から第1流路44にフラッシング流体を供給する供給路72aと、機内領域73のフラッシング流体をケーシング72の外部に排出する排出路72bと、が形成されている。フラッシング流体は、回転密封環13及び遊動環35の摺動部(シール面13a,35b)を冷却及び潤滑する流体である。本実施形態のフラッシング流体は、被密封流体と同じ流体(超純水)からなる。
【0030】
供給路72aから第1流路44に供給されたフラッシング流体は、アダプタ本体34aの貫通孔34c、第2流路45、及び遊動環35の連通孔35cを通過し、機内領域73に導入される。したがって、第1流路44、貫通孔34c、第2流路45、及び連通孔35cは、供給路72aから機内領域73にフラッシング流体を導入する導入路50として構成されている。
【0031】
機内領域73に導入されたフラッシング流体は、回転密封環13及び遊動環35の両シール面13a,35bを冷却した後、排出路72bからケーシング72の外部に排出される。回転密封環13におけるシール面13aよりも径方向外側には、フラッシング流体が接触する接触面13bが、機内領域73に露出して形成されている。
【0032】
<補強環>
図2は、回転側ユニット2の要部拡大断面図である。回転側ユニット2の補強環14は、回転密封環13を補強する部材である。補強環14の内周面は、回転密封環13の外周面に焼き嵌めにより固定されている。補強環14における軸方向他方側の端部14aは、スリーブ11の円筒部11cの内周側に挿入されている。補強環14の端部14aには、径方向に貫通する挿入孔14bが形成されている。挿入孔14bには、円筒部11cに固定されたピン22の先端部が挿入されている。これにより、回転密封環13及び補強環14は、スリーブ11を介して回転軸71と共に回転するようになっている。
【0033】
<凹凸部>
図3は、補強環14を軸方向から見た正面図である。
図2及び
図3に示すように、補強環14の外周には、径方向に凹凸状に形成された凹凸部21が設けられている。本実施形態の凹凸部21は、補強環14における端部14aよりも軸方向一方側の外周に一体に形成されている。凹凸部21は、複数(図例では4つ)の凸部21aと、複数(図例では4つ)の凹部21bと、によって構成されている。
【0034】
複数の凸部21aは、補強環14の外周面において周方向に所定間隔をあけて形成されている。各凸部21aは、補強環14の外周面から径方向外側に突出しており、軸方向に直線状に延びている。複数の凹部21bは、周方向に隣り合う凸部21a,21a同士の間に形成されている。各凹部21bの底面は、補強環14の外周面により周方向に円弧状に形成されている。本実施形態では、凹部21bの周方向の長さL2は、凸部21aの周方向の長さL1よりも長い。
【0035】
以上の構成により、回転密封環13及び補強環14と共に凹凸部21が回転することで、凹凸部21の周辺において回転密封環13の回転方向にフラッシング流体の流れが発生する。これにより、
図2の白抜き矢印で示すように、導入路50を通過して機内領域73に流入したフラッシング流体は、回転密封環13の接触面13bに沿って回転密封環13の回転方向に流れた後、排出路72b(
図1参照)から外部に排出される。
【0036】
<作用効果>
第1実施形態のメカニカルシール1によれば、回転密封環13が回転軸71と共に回転することで、回転側ユニット2の凹凸部21によって、回転密封環13におけるフラッシング流体との接触面13bに沿って、回転密封環13の回転方向にフラッシング流体の流れが発生する。これにより、フラッシング流体と回転密封環13との相対速度が小さくなるので、フラッシング流体と回転密封環13との摩擦が低減される。したがって、電気抵抗率の高いフラッシング流体(超純水)を用いても、回転密封環13が帯電するのを抑制することができる。その結果、回転密封環13が電気的な要因で損傷するのを抑制することができる。
【0037】
また、凹凸部21は、回転密封環13とは別部材の補強環14の外周に形成されるので、回転密封環13に凹凸部21を形成することができない場合でも、回転側ユニット2に凹凸部21を設けることができる。特に、本実施形態のように、加工が困難なSiC製の回転密封環13を用いる場合に有効である。
【0038】
また、回転密封環13を補強する補強環14が、凹凸部21が形成される部材(第1円筒部材)を兼用するので、メカニカルシール1の構成を簡素化することができる。
【0039】
また、凹凸部21の凸部21aは、補強環14の軸方向に直線状に延びているので、後述する第2実施形態の凹凸部21(雄ねじ21c)と比較して、回転密封環13の回転方向への超純水の流れを大きくすることができる。
【0040】
なお、本実施形態の凹凸部21は、補強環14と一体に形成されているが、補強環14とは別体に設けられてもよい。また、凹凸部21は、回転側ユニット2における補強環14以外の構成部材に設けられていてもよい。例えば、スリーブ11の円筒部11cの外周面に凹凸部21を設けてもよいし、補強環14が不要な場合には回転密封環13の外周面に凹凸部21を設けてもよい。また、凹凸部21の凸部21a及び凹部21bの個数は、本実施形態に限定されない。
【0041】
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態に係るメカニカルシール1の拡大断面図である。第2実施形態は、凹凸部21及び円筒部11cの各構成が第1実施形態と異なる。
図4に示すように、本実施形態の凹凸部21は、補強環14の外周において軸方向全体にわたって形成された雄ねじ21cによって構成されている。雄ねじ21cは、その締め込み方向が回転密封環13の回転方向となるように形成されている。
【0042】
円筒部11cの内周には、軸方向他方側から軸方向一方側に向かって、小径面11c1および大径面11c2が、この順に連続して形成されている。小径面11c1の内周側には、補強環14の端部14aが挿入されている。大径面11c2は、小径面11c1よりも大径に形成されている。大径面11c2は、雄ねじ21cの径方向外側において環状の隙間25をあけて配置されている。隙間25の軸方向一方側は開口しており、円筒部11cの軸方向一方側の機内領域73と連通している。
【0043】
円筒部11cには、大径面11c2から外周面まで径方向に貫通する貫通孔11eが形成されている。カバーリング18にも、円筒部11cの貫通孔11eに対応する位置において径方向に貫通する貫通孔18aが形成されている。円筒部11c及びカバーリング18の貫通孔11e,18aは、それぞれ周方向に所定間隔をあけて複数形成されている。これにより、円筒部11c及びカバーリング18の貫通孔11e,18aは、隙間25と、カバーリング18の径方向外側の機内領域73とを連通している。
【0044】
以上の構成により、回転密封環13及び補強環14と共に雄ねじ21cが回転することで、雄ねじ21cの周辺において回転密封環13の回転方向にフラッシング流体の流れが発生する。これにより、
図4の白抜き矢印で示すように、導入路50を通過して機内領域73に流入したフラッシング流体は、回転密封環13の接触面13bに沿って回転密封環13の回転方向に流れた後、雄ねじ21cに沿って螺旋状に回転しながら隙間25の軸方向一方側から軸方向他方側へ流れやすくなる。
【0045】
隙間25の軸方向他方側に流れたフラッシング流体は、貫通孔11e,18aを通過して回転側ユニット2の径方向外側の機内領域73に流れた後、排出路72b(
図1参照)から外部に排出される。本実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様であるため、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0046】
第2実施形態のメカニカルシール1においても、回転密封環13が回転軸71と共に回転することで、回転側ユニット2の凹凸部21(雄ねじ21c)によって、回転密封環13におけるフラッシング流体との接触面13bに沿って、回転密封環13の回転方向にフラッシング流体の流れが発生する。これにより、フラッシング流体と回転密封環13との相対速度が小さくなるので、フラッシング流体と回転密封環13との摩擦が低減される。したがって、電気抵抗率の高いフラッシング流体(超純水)を用いても、回転密封環13が帯電するのを抑制することができる。その結果、回転密封環13が電気的な要因で損傷するのを抑制することができる。
【0047】
また、雄ねじ21cは、回転密封環13とは別部材の補強環14の外周に形成されるので、回転密封環13に雄ねじ21cを形成することができない場合でも、回転側ユニット2に雄ねじ21cを設けることができる。特に、本実施形態のように、加工が困難なSiC製の回転密封環13を用いる場合に有効である。
【0048】
また、回転密封環13を補強する補強環14が、雄ねじ21cが形成される部材(第1円筒部材)を兼用するので、メカニカルシール1の構成を簡素化することができる。
【0049】
また、雄ねじ21cと円筒部11cとの間に形成された環状の隙間25において、フラッシング流体は、雄ねじ21cに沿って螺旋状に回転しながら軸方向一方側から軸方向他方側に流れやすくなる。このようにフラッシング流体が流れると、補強環14を介して回転密封環13が冷却されるので、回転密封環13及び遊動環35の摺動部(シール面13a,35b)の発熱を抑えることができる。その結果、前記摺動部における摩耗の発生を抑制することができる。
【0050】
また、隙間25において軸方向に流れるフラッシング流体は、円筒部11c及びカバーリング18の貫通孔11e,18aを通過して円筒部11cの径方向外側に流れる。これにより、隙間25にフラッシング流体が滞留するのを抑制することができる。その結果、隙間25に滞留するフラッシング流体の温度上昇に起因して、回転密封環13の冷却が阻害されるのを抑制することができる。
【0051】
なお、本実施形態の雄ねじ21cは、補強環14の外周の軸方向全体にわたって形成されているが、補強環14の外周において少なくとも大径面11c2と対向する位置に形成されていればよい。また、円筒部11cは、第1実施形態と同様に、凹凸部21(雄ねじ21c)との間に隙間25を形成しなくてもよい。その場合、円筒部11c及びカバーリング18には、貫通孔11e,18aを形成する必要はない。
【0052】
[第3実施形態]
図5は、本発明の第3実施形態に係るメカニカルシール1の拡大断面図である。第3実施形態は、第2実施形態の変形例であり、回転側ユニット2が導線27を備えている点で第2実施形態と異なる。
図5に示すように、導線27は、スリーブ本体11aと回転密封環13との間において周方向に複数(図例では1個の図示)配置されている。
【0053】
各導線27の一端部は、スリーブ本体11aの外周面に沿って配置され、取付部材28に接続されている。取付部材28は、ボルト29によりスリーブ本体11aの外周面に接触して固定されている。スリーブ本体11aを含むスリーブ11及び取付部材28は、導電性の部材からなる。これにより、各導線27の一端部は、取付部材28及びスリーブ本体11aを介して回転軸71に電気的に接続されている。
【0054】
各導線27の他端部は、径方向外側に折り曲げられ、回転密封環13の内周面に接触している。これにより、各導線27は、回転密封環13と回転軸71とを、取付部材28及びスリーブ本体11aを介して電気的に接続している。本実施形態の他の構成は、第2実施形態と同様であるため、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0055】
第3実施形態のメカニカルシール1においても、第2実施形態と同様の作用効果を奏する。また、回転密封環13と回転軸71は導線27により電気的に接続されているので、フラッシング流体と回転密封環13との摩擦により回転密封環13が帯電しても、その帯電した電気は導線27により回転軸71に逃げやすくなる。これにより、回転密封環13が電気的な要因で損傷するのをさらに抑制することができる。
【0056】
なお、導線27のスリーブ本体11aに対する固定構造は、本実施形態に限定されるものではない。また、導線27は、回転密封環13の内周面に固定されていてもよい。また、導線27は、第1実施形態の回転側ユニット2に備えられていてもよい。
【0057】
[その他]
上記各実施形態のメカニカルシール1は、火力発電所のボイラーに給水するポンプ以外の回転機器にも適用することができる。また、上記各実施形態のメカニカルシール1は、遊動環35を備えていなくてもよい。その場合、静止密封環33の押圧面33aをシール面とし、当該シール面に回転密封環13のシール面13aを摺動させればよい。また、上記各実施形態のメカニカルシール1では、フラッシング流体として被密封流体を用いているが、被密封流体以外の流体を用いてもよい。その場合、被密封流体と混ざっても支障がない流体を用いればよい。また、上記各実施形態の回転側ユニット2は、カバーリング18を備えていなくてもよい。
【0058】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1 メカニカルシール
2 回転側ユニット
3 静止側ユニット
11c 円筒部(第2円筒部材)
11e 貫通孔
13 回転密封環
13b 接触面
14 補強環(第1円筒部材)
21 凹凸部
21a 凸部
21c 雄ねじ
25 隙間
27 導線
50 導入路
71 回転軸
72 ケーシング
73 機内領域