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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054530
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】レーザー加工用ゴム印材
(51)【国際特許分類】
   B41K 1/54 20060101AFI20230407BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20230407BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20230407BHJP
   B41K 1/02 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
B41K1/54 B
C08L21/00
C08K3/26
B41K1/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163443
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【弁護士】
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 憲次
(72)【発明者】
【氏名】横田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】宮島 一人
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC01W
4J002AC01X
4J002AC06W
4J002AC06X
4J002AC08W
4J002AC08X
4J002DE108
4J002DE236
4J002DJ036
4J002EK000
4J002FD016
4J002FD140
4J002FD147
4J002FD158
4J002GC00
(57)【要約】
【課題】強度を確保するとともにレーザー加工性に優れたレーザー加工用ゴム印材を提供する。さらに、これらに加えて、レーザー加工時に発生する臭気を抑制することもできるレーザー加工用ゴム印材とする。
【解決手段】本発明のレーザー加工用ゴム印材は、少なくとも、ゴム、加硫剤、充填剤を混錬、加硫して得られるものであって、前記充填剤に炭酸マグネシウムを含むことを特徴とする。より好ましくは、前記充填剤に少なくとも炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムとの複合物を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ゴム、加硫剤、充填剤を混錬、加硫して得られるレーザー加工用ゴム印材であって、
前記充填剤に炭酸マグネシウムを含むことを特徴とするレーザー加工用ゴム印材。
【請求項2】
前記充填剤に少なくとも炭酸カルシウムを含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザー加工用ゴム印材。
【請求項3】
前記炭酸マグネシウムが、炭酸カルシウムとの複合物として含まれていることを特徴とする請求項1に記載のレーザー加工用ゴム印材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー加工用ゴム印材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザー加工により印面を形成するゴム印材が知られている。特許文献1には、基材ゴムに炭酸カルシウムが配合されることにより、レーザー光による加工性が向上したゴム印材が記載されている。しかし、このようなゴム印材には、引張強度に改善の余地があった。
【0003】
ゴム印材の強度を高めるために用いられる補強剤としては、様々な種類の充填剤が知られている。特許文献2には、このような充填剤の例として、炭酸カルシウム、コロイド粘土、二酸化珪素(シリカ)、カーボンブラック、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどが列記されている。これらの充填剤を添加することによりゴム印材の強度を高めることが可能となるが、用いる充填剤の種類によってはレーザー加工性を低下させてしまう。例えばシリカなど融点の高い物質では、レーザー加工時に融け残って印面が削りにくくなるおそれがある。
【0004】
また、ゴム印材にレーザー加工を施すと、熱でゴムが溶けることに伴い強いゴム臭が発生するという問題があった。特許文献3には、原料としてシリコーンゴム(反応性オルガノポリシロキサン)を用いることによりレーザー加工時に発生するゴム臭を低減することが記載されている。しかし、シリコーンゴムは高価なうえに加工時間が長くかかる。また、引張強度が弱いという欠点があり、細かい文字などの再現性が不良となるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-42842号公報
【特許文献2】特開平7-149032号公報
【特許文献3】特開2010-280788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、強度を確保するとともにレーザー加工性に優れたレーザー加工用ゴム印材を提供することである。さらに、これらに加えて、レーザー加工時に発生する臭気を抑制することもできるレーザー加工用ゴム印材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、上記した課題を解決すべく研究を行った。その結果、レーザー加工用ゴム印材の原料中に充填剤として炭酸マグネシウムを含有させることによって、ゴムの強度を高めるだけでなく優れたレーザー加工性を実現することが可能となることを発見した。
【0008】
すなわち、本発明のレーザー加工用ゴム印材は、少なくとも、ゴム、加硫剤、充填剤を混錬、加硫して得られるものあって、前記充填剤に炭酸マグネシウムを含むことを特徴とする。
【0009】
また、前記充填剤に少なくとも炭酸カルシウムを含む構成とすることが好ましい。
【0010】
さらに、発明者は、充填剤に炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムとの複合物を含有させることにより、上記した効果に加えて、レーザー加工時に発生する臭気を抑制することも可能となることを発見した。
【0011】
すなわち、本発明のレーザー加工用ゴム印材は、前記充填剤に含まれる炭酸マグネシウムが、炭酸カルシウムとの複合物である構成とすることがより好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、強度を確保するとともにレーザー加工性に優れたレーザー加工用ゴム印材を提供することができる。また、本発明では、これらに加えて、レーザー加工時に発生する臭気を抑制することもできるレーザー加工用ゴム印材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。本発明のレーザー加工用ゴム印材は、少なくとも、ゴム、加硫剤、充填剤を混錬、加硫して得られるものである。
【0014】
(ゴム成分)
本発明のレーザー加工用ゴム印材のゴム成分としては、公知の天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリウレタンゴム、アクリルゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、メチルビニルシリコーンゴム等が使用できる。
【0015】
(加硫剤)
加硫剤(架橋剤)としては、公知の沈降硫黄、硫黄、セレン、テルル、塩化硫黄などの硫黄系加硫剤、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3ビス(t-ブチルパーオキシ-i-プロピル)ベンゼンなどの過酸化物等を用いることができる。これらは、いずれかを単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0016】
(充填剤)
本発明のレーザー加工用ゴム印材は、充填剤に炭酸マグネシウムを含む。炭酸マグネシウムの含有量は、ゴム成分100質量部に対して5~50質量部であることが好ましく、10~30質量部であることがより好ましい。充填剤に炭酸マグネシウムを含むことによって、ゴムの引張強度などの物理的性能が向上するとともに、レーザー加工性がよくなり、レーザー加工深度も得やすくなる。充填剤に炭酸マグネシウムを含有することによってレーザー加工性が向上するメカニズムは明らかでないが、炭酸マグネシウムの分解温度がレーザー光による加工温度とほぼ同じ約350度であることなどが寄与している可能性がある。
【0017】
また、本発明のレーザー加工用ゴム印材は、充填剤に、上記した炭酸マグネシウムに加えてさらに炭酸カルシウムを含むことが好ましい。炭酸カルシウムの含有量は、ゴム成分100質量部に対して10~70質量部であることが好ましく、30~50質量部であることがより好ましい。充填剤に炭酸マグネシウムと炭酸カルシウムとを含むことによって、炭酸マグネシウム単体で添加する場合と比較してゴムの引張強度及びゴム硬度をより高めることができる。
【0018】
また、本発明のレーザー加工用ゴム印材は、充填剤に、少なくとも炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムとの複合物を含むことがさらに好ましい。実施形態においては、炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムとの複合物として、ドロマイト鉱石を焼成し、水化、炭酸ガス化合によって微粒子としたカルシウム・マグネシウム炭酸塩(製品名:白鉛華AAまたは白鉛華A、白石工業株式会社製)を用いている。炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムとの複合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して10~100質量部であることが好ましく、30~80質量部であることがより好ましい。なお、炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムとの複合物の含有量を100質量部以上とすると、ゴムの硬度が硬くなりすぎるため好ましくない。
【0019】
充填剤に炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムとの複合物を含有することにより、レーザー加工時に発生する臭気を抑制することができる。臭気抑制のメカニズムは明らかでないが、以下の経過によるものと予測している。(1)炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムとの複合物中の炭酸マグネシウムが、レーザー光によって分解される。(2)炭酸マグネシウムが分解された箇所が微細空孔となり、前記複合物の表面積が増える。(3)表面積が増えた前記複合物が、レーザー加工に伴って発生する臭気を捕捉する。
【0020】
なお、充填剤には、上記したものの他に、クレー、タルク、マイカ、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化ケイ素・酸化アンチモン・酸化スズ・黒酸化鉄・赤酸化鉄などを雲母に被覆させた金属酸化物被覆雲母などが含有されていてもよい。これらは、いずれかを単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0021】
(添加物)
さらに、本発明のレーザー加工用ゴム印材には、必要に応じて、各種添加物も使用することができる。例えば、アミン系の老化防止剤、ワセリン、可塑剤などの軟化剤、亜鉛華などの加硫助剤、グアニジン系の加硫促進剤などを有効量添加することができる。これらも、いずれかを単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0022】
(製造方法)
本発明のレーザー加工用ゴム印材の製造方法は特に限定されず、原料を公知の方法で配合、混錬し、加硫することによって得ることができる。
【0023】
(レーザー加工)
本発明のレーザー加工用ゴム印材の印面は、レーザー光線により彫刻して作製する。レーザー光線による彫刻はレーザー加工機を使用する。本発明に用いられるレーザー加工機は、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー等の各種レーザー、X-Yテーブル方式、回転テーブル方式等の各種駆動方式など、公知のレーザー加工機を使用することができる。彫刻後のレーザー加工用ゴム印材は、レーザー加工機から取り出した後、洗浄機にて表面及び内部を洗浄しゴム屑やカーボン屑を除去し、乾燥機にて乾燥させる。
【実施例0024】
表1に示す配合に従って、ゴム、加硫剤、充填剤等を混錬、加硫し、実施例1~3及び比較例1のレーザー加工用ゴム印材のサンプルを調製した。
【0025】
【表1】
【0026】
<評価>
(レーザー加工深度及びレーザー加工性)
調製後、25℃で1週間保管した各サンプルに対して、炭酸ガスレーザー(加工条件:出力80W、加工速度250mm/sec、同一の加工文字を使用)を用いて、一定面積(約50mm×20mm)に印面の彫刻加工を行い、洗浄及び乾燥を実施した。乾燥直後のサンプルの加工深度を計測するとともに、加工後の印面について次のように評価した。
○:レーザビーム非照射部分が溶融せず、シャープなエッジの印面を形成した。
×:レーザビーム非照射部分が溶融し、ガタガタな印面を形成した。
【0027】
(その他の特性)
レーザー加工後の各サンプルにつき、底面変色(〇:変色なし、×:変色あり)、洗浄性(〇:良好、×:不良)、ベタつき(〇:ベタつきなし、×:ベタつきあり)の評価を行った。
【0028】
(硬度)
硬度の測定は、試験対象となるレーザー加工用ゴム印材を硬い剛性のある平らな面に置き、押し針がレーザー加工用ゴム印材の測定面に対して直角になるようにA型硬度計を保持し、加圧面に衝撃が加わらない程度に、なるべく速やかに試験片測定面に密着させて、目盛を読み込むことによって測定した。この測定方法はJIS K6253に準拠する。なお、ゴム印材の硬度はA型硬度計で測定した値において60±3程度であることが推奨されている。さらに、硬度が60~63程度であることがより好ましい。
【0029】
(引張強度)
引張強度の測定は、加硫ゴムの引張試験方法JIS6251に準拠して行い、試験片の寸法はダンベル状2号形とした。
【0030】
(レーザー加工直後の臭気)
乾燥直後のサンプルから発生するゴム臭気を、判定者3名による官能試験を行い判定した。官能試験の評価基準は以下のとおりである。なお、各サンプルに対する判定者3名の評価は同一であった。
〇:サンプルに鼻を近づけると(5cm程度)、弱い臭気を感じる。
△:サンプルに鼻を近づけると(5cm程度)、強い臭気を感じる。
×:サンプルに鼻を近づけなくても(30cm程度)、強い臭気を感じる。
【0031】
(結果)
表1に示されるように、各実施例及び比較例1において、レーザー加工性及びレーザー加工深度はいずれも良好であった。その他の特性も同様に良好で、硬度についても全例がほぼ同等の値であり、いずれも好適な範囲であった。各実施例と比較例1とで大きな違いがみられたのは引張強度である。充填剤に塩基性炭酸マグネシウムを含む実施例1~3は、塩基性炭酸マグネシウムを含まない比較例1より大きな引張強度を示した。
【0032】
また、前述したように、レーザー加工性及びレーザー加工深度に関し、実施例1にはレーザー加工性を向上させる炭酸カルシウムが含有されていないにもかかわらず、比較例1と同等に良好な結果を示した。このことから、充填剤に炭酸マグネシウムを含むことにより、引張強度のみならずレーザー加工性をも向上させる効果が得られることが判明した。
【0033】
また、実施例1と比較例1とを添加量の観点から対比すると、比較例1の炭酸カルシウムの添加量が50質量部であるのに対し、実施例1の塩基性炭酸マグネシウムの添加量は13質量部と少ないにもかかわらず、実施例1の方が比較例1より大きな引張強度を示した。すなわち、塩基性炭酸マグネシウムは炭酸カルシウムより少ない量で、ゴムの強度をより増加させることができる。同様に、塩基性炭酸マグネシウムは炭酸カルシウムより少ない量でレーザー加工性を向上させることが可能と言える。
【0034】
次に、各実施例における引張強度を比較する。まず、実施例1と実施例2とを対比すると、塩基性炭酸マグネシウムに加えて炭酸カルシウムを添加することにより、さらに引張強度が増していることが分かる。さらに、実施例2と実施例3とを対比すると、実施例2のように塩基性炭酸マグネシウムと炭酸カルシウムとが単体で含有されている場合よりも、実施例3のようにこれらが複合物として含有されている場合に、さらにゴムの引張強度が増していることが分かる。
【0035】
次に、レーザー加工直後の臭気について各実施例及び比較例1を対比すると、炭酸カルシウム・塩基性炭酸マグネシウム複合物を含む実施例3において、臭気を抑制する顕著な効果が得られることが判明した。
【0036】
以上、現時点において最も好ましいと思われる実施形態を例に挙げて本発明について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能である。