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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054532
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】緊急仮設橋及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 15/12 20060101AFI20230407BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20230407BHJP
   E01D 15/20 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
E01D15/12
E01D1/00
E01D15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163445
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000204192
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】石田 正利
(72)【発明者】
【氏名】谷脇 孝一
(72)【発明者】
【氏名】珠玖 義樹
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 和敏
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅義
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059BB12
2D059BB18
2D059BB19
2D059BB22
2D059BB28
2D059GG57
(57)【要約】
【課題】水害発生時に、人命救助、物資搬送等のために緊急に架設可能な仮設橋を提供する。
【解決手段】 架設起点側岸1と到達側岸2との間の増水域3の距離よりも長いスパンを有し、内部空間21が通路となるエアビーム20を、架設起点側岸1で膨張展開して製作する。エアビーム20を、架設起点側岸1に設けた橋端支持体30に一端を支持させて橋端支持体30のターンテーブル31を介して、その旋回中心周りに、他端が到達側岸2に位置するまで略水平旋回させる。エアビーム他端を到達側岸のエアバッグ橋台25上に支持させる。これにより架設起点側1と到達側岸2との間に緊急仮設橋としてのエアビーム橋10を構築する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架設起点側岸と到達側岸との間の水域距離よりも長いスパンを有し、内部空間が通路となるエアビームを、前記架設起点側岸で膨張展開して製作し、
前記エアビームを、前記架設起点側岸に設けた橋端支持体に一端を支持させて前記橋端支持体の旋回中心周りに、他端が前記到達側岸に位置するまで略水平旋回させ、前記他端を前記到達側岸に支持させ、
前記架設起点側と前記到達側岸との間に前記エアビームからなる緊急仮設橋を構築することを特徴とする緊急仮設橋の構築方法。
【請求項2】
前記エアビームは、前記橋端支持体に設けられたターンテーブルの略水平回動に伴い、前記ターンテーブルの回動中心周りに旋回するようにした請求項1に記載の緊急仮設橋の構築方法。
【請求項3】
前記エアビームは、供給された圧縮空気により膨張して細長略円筒形状をなし、長手方向の側面同士が接合された複数本からなるエアチューブが前記内部空間を囲む略円筒のトンネル状をなすように膨張展開する請求項1に記載の緊急仮設橋の構築方法。
【請求項4】
前記エアビームの他端を、前記架設起点側からの送気により膨張させたエアバッグからなる橋台で支持する請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の緊急仮設橋の構築方法。
【請求項5】
前記橋端支持体は、柱を有し、前記エアビームのスパン中間位置が前記柱の頂部から延在する引張部材により吊持される請求項1に記載の緊急仮設橋の構築方法。
【請求項6】
前記橋端支持体を、膨張前に巻き畳まれた前記エアビーム、組立前の前記橋端支持体を、前記架設起点側に運搬した車両上に構築するようにした請求項1に記載の緊急仮設橋の構築方法。
【請求項7】
架設起点側岸と到達側岸との間の水域距離よりも長いスパンを有し、供給された圧縮空気により膨張して細長略円筒形状をなし、長手方向の側面同士が接合された複数本からなるエアチューブが内部空間を囲む略円筒のトンネル状をなすエアビームが、前記架設起点側岸と前記到達側岸との間に架設され、前記エアビームの前記内部空間が通路となることを特徴とする緊急仮設橋。
【請求項8】
前記エアビームは、一端が前記架設起点側岸に設けられた橋端支持体の一部に支持され、他端が前記到達側岸に設けられた橋台で支持された請求項7に記載の緊急仮設橋。
【請求項9】
前記橋台は、前記架設起点側からの送気により膨張したエアバッグからなる請求項8に記載の緊急仮設橋。
【請求項10】
前記エアビームは、前記スパンの中間位置が、前記橋端支持体に立設された柱の頂部から延在する引張部材により吊持された請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の緊急仮設橋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緊急仮設橋に係り、台風等による水害発生時に、人命救助、物資搬送等に供するために緊急に架設することができる緊急仮設橋及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
台風等による風水害により既存橋梁が損壊、流失したような場合に、応急的に既存橋梁の機能を維持させるための仮設橋が種々実用化されている。これらの仮設橋は比較的供用期間が長く、既存橋梁の仕様、構造に近い規模の橋梁が求められるため、分割された橋梁部材をヤードで組み立てたり、大型クレーンによる架橋が行われている。
【0003】
また、河川の氾濫に限らず、台風等による増水により道路等が冠水して寸断された状況において、たとえば人命救助、緊急物資の供給等、人の通行、人力による物資等の搬送が可能な程度の耐荷重を有した、緊急に架設する仮設橋も必要とされている(非特許文献1)。
【0004】
このような緊急に架設が必要な橋梁(緊急仮設橋と称す。)では、橋梁部材を、ほぼ完成した状態で架設現場に搬入できること、対岸へのアクセスの困難性を考慮し、仮設橋を片側の岸から架設できること、仮設橋の桁端を支持する基台(橋台)の構築が容易であることが必要である。
【0005】
このような要求に適合する橋梁部材として、非特許文献1にはアルミニウム部材や木材等の軽量部材を用いたトラス橋の開発例が紹介されている。非特許文献1に開示された緊急仮設橋としてのトラス橋は、アルミニウム合金製のX字形の部材の頂点がピン接合により連続してパンタグラフ状に連結されたシザース構造からなり、起点側の岸でX字形を折り畳んだ状態で組まれたトラス部材を油圧駆動システムによって対岸に向けて水平方向に伸長して所定あるいは規定の橋長の仮設橋を架設することができる。
【0006】
また、非特許文献1には、軽量なエアビームをケーブルで補強したエアブリッジも提案されている(非特許文献2)。エアビームを桁材としたエアーブリッジは、エアビーム上に床版としての薄肉板を載せ、エアビームの長手方向の両端を定着端とする複数本の鋼線ケーブルをエアビーム外面に沿って螺旋をなすようにたすき掛けに巻き付けることで、エアビームを補強した構造からなる。エアビームの空気圧を利用してケーブルに引張力を与えるとともに、床版となる薄肉板にプレストレスを導入した超軽量の橋梁となっている。なお、特許文献1には、非特許文献2のエアブリッジに用いられる、エアビーム外面にケーブルを螺旋をなして巻回した構造体の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3906079号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】小野修一、“招待論文 急速架設を実現するための構造を有する緊急仮設橋”、[online]、2016年3月、土木学会、構造工学論文集vol.62A、[令和2年11月5日検索]、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/structcivil/62A/0/62A_1272/_article/-char/ja/>
【非特許文献2】鈴木圭、「超軽量エアービームの災害復旧への活用」、橋梁と基礎、株式会社建設図書、2012年8月、p.111-114
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に開示されたシザース構造の緊急仮設橋は、X字形を構成する比較的重量のある多数枚のプレート部材からなり、両岸に接地するまで徐々に伸びるシザース構造の梁が片持ち梁構造となるため、片持ち梁の支点(支持)側において十分な質量のカウンターウエイトを準備する必要がある。また、シザース構造のトラス部材を伸長させるための油圧駆動システムの設備も大がかりなものとなる。
【0010】
これに対して非特許文献2に開示されたエアビームを用いたエアブリッジでは、構造体であるエアビームを伸長させるための設備は圧縮空気送気手段のみでよい。しかし、このエアブリッジでは、エアビームを仮設橋の桁部材として確実に機能させるために、供用時にエアビーム外面にたすき掛けに巻回されたケーブルの引張緊張力及びエアビームのエア圧を常時管理する必要がある。
【0011】
出願人は、上述した従来の技術が有する問題点を解消した緊急仮設橋を提案している(特願2021-40876)。この緊急仮設橋では、まずアルミニウム製部材からなる先行仮設桁を、橋梁部材としての軽量床版が準備された架設起点側から対岸まで架設し、その先行仮設桁上に軽量の床版を連続して敷設するようになっている。そして対岸まで連続して敷設された軽量床版を構造的に一体化することで利用者が通行可能な橋梁構造を実現している。
【0012】
したがって、上述の緊急仮設橋では、先行仮設桁を架設した後に、本設の軽量床版を敷設する工程を必要とする。全体工程は迅速に行えるように設定されているが、簡易な橋梁部材を一気に対岸まで架設させるというきわめて緊急な要請には応えられないおそれもある。
【0013】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、水害発生時等に仮設橋を、架設起点側で所定の橋梁長に完成させておき、その仮設橋を一気に対岸まで架設させることができるようにした、きわめて簡易な施工手順で、緊急かつ安全に架設することができる緊急仮設橋及びその構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は緊急仮設橋の構築方法として、架設起点側岸と到達側岸との間の水域距離よりも長いスパンを有し、内部空間が通路となるエアビームを、前記架設起点側岸で膨張展開して製作し、前記エアビームを、前記架設起点側岸に設けた橋端支持体に一端を支持させて前記橋端支持体の旋回中心周りに、他端が前記到達側岸に位置するまで略水平旋回させ、前記他端を前記到達側岸に支持させ、前記架設起点側と前記到達側岸との間に前記エアビームからなる緊急仮設橋を構築することを特徴とする。
【0015】
前記エアビームは、前記橋端支持体に設けられたターンテーブルの略水平回動に伴い、前記ターンテーブルの回動中心周りに旋回させることが好ましい。
【0016】
前記エアビームは、供給された圧縮空気により膨張して細長略円筒形状をなし、長手方向の側面同士が接合された複数本からなるエアチューブが前記内部空間を囲む略円筒のトンネル状をなすように膨張展開させることが好ましい。
【0017】
前記エアビームの他端を、前記架設起点側からの送気により膨張させたエアバッグからなる橋台で支持させることが好ましい。
【0018】
前記橋端支持体は、柱を有し、前記エアビームのスパン中間位置が前記柱の頂部から延在する引張部材により吊持させることが好ましい。
【0019】
前記橋端支持体を、膨張前に巻き畳まれた前記エアビーム、組立前の前記橋端支持体を、前記架設起点側に運搬した車両上に構築することが好ましい。
【0020】
本発明の緊急仮設橋は、架設起点側岸と到達側岸との間の水域距離よりも長いスパンを有し、供給された圧縮空気により膨張して細長略円筒形状をなし、長手方向の側面同士が接合された複数本からなるエアチューブが内部空間を囲む略円筒のトンネル状をなすエアビームが、前記架設起点側岸と前記到達側岸との間に架設され、前記エアビームの前記内部空間が通路となることを特徴とする。
【0021】
前記エアビームは、一端が前記架設起点側岸に設けられた橋端支持体の一部に支持され、他端が前記到達側岸に設けられた橋台で支持されることが好ましい。
【0022】
前記橋台は、前記架設起点側からの送気により膨張したエアバッグからなることが好ましい。
【0023】
前記エアビームは、前記スパンの中間位置が、前記橋端支持体に立設された柱の頂部から延在する引張部材により吊持されることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
以上に述べたように、本発明によれば、台風等による水害発生時に、人命救助、物資搬送等に供する緊急仮設橋の構築及び架設作業を迅速、安全に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の緊急仮設橋の一実施形態の架設完了状態を示した斜視図。
図2図1に示した緊急仮設橋を側方から見た側面図。
図3図1に示した緊急仮設橋の橋梁部材(エアビーム)を架設起点側で膨張させる作業手順を示した施工順序図((a)~(f))。
図4】緊急仮設橋の構築方法における施工手順を示した施工順序図((a)~(d))。
図5】緊急仮設橋の構築方法における施工手順を示した施工順序図((e)~(g))。
図6】緊急仮設橋の架設状態を示した施工状態説明図((a)、(b))。
図7】橋梁部材(エアビーム)の複数の実施形態の断面形状を示した断面図。
図8図7(c)に示した断面形状のエアビームの平面図。
図9】エアバッグ橋台の構成例及び膨張状態を例示した部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る緊急仮設橋の構成及び橋梁部材の膨張、展開、および構築、架設状態について、添付図面を参照して説明する。
【0027】
図1図2は、一例として、既存橋梁が流失した河川あるいは増水による冠水で道路が寸断され、通行遮断されて孤立した地点において、一方の岸側(架設起点側)1から孤立した他方の岸(到達側2)に向けて架設起点側1と到達側2との間の増水域3を跨ぐように緊急仮設橋10が架設された状態を示している。この緊急仮設橋10は、架設起点側1の岸際に沿って停車させた車両4上に設置された橋端支持体30の一部として立設されたトラス柱35に掛け渡された吊りワイヤWによってスパン中間位置が吊持されたトンネル状をなす略円筒形状のエアビーム構造体20(以下、エアビーム20と記す。)を橋梁本体とし、そのエアビーム20の略円筒状の内部空間21を通路として移動することで、孤立した岸側(到達側2)にいた被災者Mを安全な岸側(架設起点側1)に避難させることができる。
【0028】
[エアビーム橋の構成]
上記構成からなる緊急仮設橋10(以下、構造上の特徴からエアビーム橋10と記す。)の主構成としてのエアビーム20は、図1図3に示したように、渦巻き状に巻き畳まれた運搬時(図3(a))と、供給された圧縮空気によって膨張展開することで全体が細長円筒形状の膨張完了時(図3(e))と、さらに架設完了時(図1,2,図3(f))とでその形状が変化する。まず、膨張完了時の細長円筒形状のエアビーム20としての全体形状について、図3(e)を参照して説明する。エアビーム20は、図3(e)に断面および縦断形状を示したように、12本の細長形状の直径約300mmのエアチューブ22,22,…を、最終的な円筒形状の外面を覆う外皮シート23を介して膨張時にエアチューブ22同士が密着して隣接する略円環形状をなすように連結させた気密性布製材料からなる。本実施形態では、膨張完了時の円環形状のエアビーム20の外径は約1,800mm、内部空間21の直径(円環内径)は、約1,200mmに設定されている。エアビーム20の長さは、架設させる岸間の距離に応じた長さ(スパン)が採用されるが、本実施形態ではスパン12mとなっている。なお、膨張前の初期状態のエアビーム20は、平面状の細長袋状体からなる。その細長袋状体を、図3(a)に示したように、渦巻きコイル状に巻き取ることで、運搬に容易なコンパクトな形状(以下、図3(a)に示した渦巻き状にまとめられた状態をコイル体Cと記す。)とすることができる。一方、仮設橋(エアビーム橋10)の他の支点には略直方体状に膨張したエアバッグ製の橋台25(以下、エアバッグ橋台25と記す。)が構築されている。このエアバッグ橋台25は、図2及び図9各図に示したように、エアビーム橋10が架設完了した状態での橋梁の安定した設置状態を確保するために、エアバッグの膨張量を調整してその高さを適宜設定することができる。
【0029】
エアチューブ22の素材としては、ポリアミド繊維織物からなる基布に塩化ビニル樹脂コーティングされた、膨張時に所定直径の円筒形状となる細長袋状の樹脂シートが使用されている。コーティング樹脂としてはシリコーン樹脂やウレタン樹脂等も好適である。
【0030】
外皮シート23の素材としては、ポリエステル(たとえばポリエチレンテレフタレート:PET)織布、塩化ビニル樹脂コーティングPET織布(たとえばターポリン)、ポリプロピレン(PP)織布、ポリエチレン(PE)織布等の各種織布を用いることができる。なお、外皮シート23は、仮設橋設置時における外力による裂け、破れを防止する役割を果たすとともに、曲げモーメントが作用する部材であるエアビーム橋10の引張側抵抗材としても機能するため、伸び剛性が高いものが望ましく、例えば伸び率が20%以下であることが好ましい。
【0031】
[橋端支持体の構成]
橋端支持体30の構成について、図1図2図4図5各図を参照して説明する。橋端支持体30は、架設起点側1の岸際に沿って停車させた車両(トラック)4上に設置された鋼製トラス構造体で、図1図4(a)に示したように、渦巻きコイル状に巻き取られた膨張前の状態のエアビーム20(以下、コイル体Cと記す。)と、トラス構造体となる組立前の鋼材8とを積載して現地まで搬入してきたトラック4上に組み立てられることで、エアビーム橋10の架設起点位置における一方の橋梁支点としての役割を果たす。その構成としては、トラック4の荷台上に設置されたターンテーブル31上に2本の主桁32間を横架材33で補剛して長方形の平面形状に組み立てられた架台フレーム34と、架台フレーム34上に4本の斜柱35aをトラス形状に組み立てた櫓状のトラス柱35と、架台フレーム34、トラス柱35が負担する荷重を地盤支持させるアウトリガー36と、エアビーム20の一端を支持するビーム台座37とからなる。ターンテーブル31は、トラス柱35が図5(f)に示したように、膨張展開完了状態のエアビーム20の一端を支持して吊り上げた状態の全荷重作用時において、手動でもスムースな平面内回転が可能なベアリングが内蔵された、既製品の平面リング状の支持部材である。架台フレーム34は、図1,2に示したように、フレームの一部にカウンターウエイト38を積載することができ、このカウンターウエイト38によるウエイト調整により、エアビーム20を吊持した状態でその荷重が作用した際に、ターンテーブル31の回転時のバランス調整が図られている。カウンターウエイト38としては、従来の鋳鉄製の錘を用いる他、所定容量を貯水可能な水嚢(ウォータータンク)を用い、図示しないポンプ等によって増水域3から水を汲み上げて水嚢に貯水して所定質量を確保することも好ましい。この場合には、重量物である錘等を現地に搬入する必要がなく、資機材搬入の負担を軽減することができる。
【0032】
トラス柱35は、図1,2に示したように、架台フレーム34の主桁上に各柱脚が設けられた4本の斜柱35aと、斜柱35aを中間高さで補剛するつなぎ梁35bと、トラス形状を保形するようにX字形に架設されたタイロッド35cとで構成され、柱頂部には架設される吊りワイヤWを挿通して挿通方向を折り返すアイナット35dが取り付けられている。吊りワイヤWの端部は架台フレーム34の主桁32の後端部に設けられたアイナット32aに定着されるようになっている。架台フレーム34の先端部には膨張したエアビーム20の端部を支持するフレーム状のビーム台座37が設けられている。このビーム台座37は、エアビーム20が仮設橋として設置された際の橋梁の片方の支点構造として機能する(図2)。アウトリガー36は、図1図6(a)に示したように、直交して四方に延びる4本の張り出しビーム36aと、トラック4の荷台から張り出した張り出しビーム36aの先端を支持する支持脚36bと、支持脚36b下端の接地プレート36cとからなり、4本の張り出しビーム36aの中心点はターンテーブル31の回転中心と一致している。
【0033】
[エアビームの膨張展開作業]
エアビーム20を膨張展開させる作業手順について、図3(a)~(f)を参照して説明する。図3(a)は、後に膨張展開してエアビーム20となる渦巻き状に巻回されたコイル体Cを示している。このコイル体Cには複数の圧縮空気供給ホース7の給気口11,12が設けられている。給気口11は、複数本のエアチューブ22,22,…のうち、膨張展開した状態で下段に位置するエアチューブ22Lの端面に設けられ、エアビーム20の膨張展開作業の最初の段階でブロア6から延びた圧縮空気供給ホース7が接続される。そして、図3(b)に示したように、まずコイル体Cにおいて最外側となる下段エアチューブ22Lの給気口11に圧縮空気を送気する。これにより下段エアチューブ22Lが端部から膨張して伸長し、コイル体Cが矢印方向に回動して巻き解かれるように展開され、最終的にわずかに厚みのある平面マット状のエアビーム20となる(図3(c))。この段階から圧縮空気供給ホース7が接続された給気口12から、断面形状で環状に連結されたエアビーム20の他のエアチューブ22に圧縮空気を連続供給することで、徐々にエアビーム20全体が膨張し(図3(d))、最終的に各エアチューブ22は図3(e)に示した細長い円筒形状となり、各エアチューブ22で囲まれた内部空間21を有するエアビーム20が形成され、エアビーム20は膨張完了状態となる。なお、給気口11,12は、エアビーム20の架設起点側1の内面、外面、各エアチューブ22の側面のいずれの部位にも設けることができ、その設置個数も膨張展開のパターンに応じて適宜設定することが好ましい。
【0034】
[エアバッグ橋台の構成と構築]
図3(f)は、エアビーム20が架設起点側1から到達側2に架設された後に、到達側2(対岸)の橋台となるエアバッグ橋台25を膨張構築させた状態を示している。このエアバッグ橋台25は、エアビーム20の先端下面に、あらかじめ折り畳んだ状態で取り付けられていた膨張形状が略直方体のエアバッグ26を膨張させたもので、架設後にエアバッグ26のみを膨張させるために、最下段のエアチューブ22L内には送気ホース27があらかじめ収容されており、図3(e)の状態に膨張展開したエアビーム20の先端側が対岸(到達側2)に到達した段階で、送気ホース27を介して圧縮空気をエアバッグ26に供給することで、所定の橋台高さからなる略直方体形状のエアバッグ橋台25を構築することができる。図3各図では、エアバッグ橋台25には単一の袋状体からなるエアバッグ26を用いた例を示したが、多層構造の袋状体からなるエアバッグ26を用いたエアバッグ橋台25の構成については、図9各図を参照して後述する。
【0035】
[エアビーム橋の架設作業]
以下、エアビーム橋10の構築手順と架設作業について、図4図5各図を参照して説明する。
図4(a)は、トラック4の荷台にコイル体Cを積載してエアビーム橋10の片方の支点構造となる側(架設起点側1)の岸際まで搬入した状態を示している。また同図には、すでに搬入された、橋端支持体30の架台フレーム34やトラス柱35に組み立てられる複数の鋼材8も示されている。以後、図4(b)に示したように、荷降ろしされたエアビーム20のコイル体Cの膨張展開作業と、トラック4の荷台に橋端支持体30を構築する作業が並行して行われる。コイル体Cの膨張展開のために、エアビーム20の後端にはブロア6からの圧縮空気供給ホース7が連結され、エアビーム20の下段のエアチューブ22Lを膨張させることで、エアビーム20の展開作業が進行する。一方、トラック4の荷台にはターンテーブル31が設置され、このターンテーブル31上に架台フレーム34が組まれていく。
【0036】
図4(c)は、地上で組み立てられたトラス柱35の一方の柱下端をトラック4の荷台上に設置された架台フレーム34の柱脚アンカープレート(図示せず)にセットし、トラス柱35の一方の柱脚部分を支点として回動させて起立させ、トラス柱35の各柱脚部を架台フレーム34上に設けられた柱脚アンカープレート(図示せず)に固定し、架台フレーム34上にトラス柱35を構築する状態を示している。この作業後に架台フレーム34の先端側にビーム台座37を取り付ける。
【0037】
図4(d)は、膨張完了状態のエアビーム20を、トラック4の荷台上の架台フレーム34に積載する直前の状態を示している。この状態から、図1図5(e),(f)に示したように、架台フレーム34の主桁32の後端部のアイナット32aを定着端としてトラス柱35の頂部のアイナット35dを経由して逆V字形状に掛け渡された吊りワイヤWを、エアビーム20の長さ方向のほぼ中央位置の下半部を斜めに掛け渡した状態で、吊りワイヤWを車載ウインチ39で巻回することで、エアビーム20の後端部20aを引き寄せるように持ち上げて、後端部20aをビーム台座37上に載置する(図5(e))。エアビーム20の端部をビーム台座に載置した状態で吊りワイヤWを巻き上げてエアビーム20を水平状態に保持する(図5(f))。このとき架台フレーム34の後端側には、エアビーム20吊り上げ時の重心調整のためのカウンターウエイト38が積載され、エアビーム20の水平状態のバランスが保持されている。なお、吊りワイヤWのエアビーム20の外皮シート23に接触する範囲には、帯状の保護ベルト28が取り付けられており、エアビーム20の外皮シート23が吊りワイヤWとの擦れ等で傷つかないように保護されている。また、吊りワイヤWの定着端近傍にテンショナTを介装させることで吊りワイヤWの長さ調整を行ってエアビーム20の保持状態を制御することも好ましい。
【0038】
[エアビームの旋回作業]
エアビーム橋10の主構成部分となるエアビーム20の旋回作業について、図6(a),(b)を参照して説明する。図6(a),(b)は、図5(f),(g)に示したエアビーム橋10の架設状態と同じ状態を、通行遮断された増水域3と両岸1,2がわかるように模式的に平面視して示した施工説明図である。図6(a)の段階では、まだエアバッグ橋台25は構築されていない状態にある。架設起点側1で橋端支持体30で水平保持状態(図6(a))にあるエアビーム20は、その水平状態を保持しながら、図6(b)に示したように、橋端支持体30のターンテーブル31を回動させることで、橋端支持体30を回転中心として、エアビーム20の先端が増水域3の対岸側2に位置するまで約90°旋回されることで増水域3を跨ぐように架設されることになる。このターンテーブル31による旋回動作は、小型ウインチ等の動力機(図示せず)を利用してもよいし、手動でも行うことができる。エアビーム20の先端が対岸側2の所定位置に到達したら、橋端支持体30側に設備されたブロア6(図3(f))を用いてエアビーム20先端に折り畳んだ状態で取り付けられていたエアバッグ26を膨張させ、エアバッグ橋台25を構築することで、エアビーム橋10としての水平安定を図ってエアビーム橋10の架設作業を完了させる。その後、エアビーム20の内部空間21を通行するための図示しないステップや手摺等の安全設備を設けて、仮設橋として通行可能な状態とする(図1図5(g))。
【0039】
図7各図は、各種形状からなるエアビームの断面形状を示した断面図である。図7(a)は、本明細書で説明した実施形態における略円環状をなすエアビーム20の断面形状である。この断面形状のエアビーム20は、エアチューブ22を円環状に配置して膨張させているため、構造上極めて安定した形状であるが、床面21aが湾曲しているため、内部空間21を通過する際に、歩行者の足下が安定しない。そこで、図7(b)に示したように、底面のエアチューブ22Lを水平に配列して内部空間21の形状を略半円形とすることも好ましい。さらに、床面21aとなるエアチューブ22Lの上面に比較的剛性のある樹脂シート(図示せず)等を敷設することで床面の安定性を高めることも好ましい。
【0040】
また、トンネル状をなすエアビーム20の内面の膜材(シート)として、摩擦係数0.5以下の比較的滑らかな素材を用いることが好ましい。または塗布後の仕上がり面が同等の摩擦係数を有する塗料を膜面に塗布したり、同等の摩擦係数を有する樹脂シートを貼付したり敷設したりすることも可能である。これにより、トンネル内の資材、物資の運搬や避難者の通行や担架等の移動をスムーズに行うことが可能となる。
【0041】
図7(c)は、エアチューブ22を略U字形に連結してなる、橋上方が開放したエアビーム20の一例を示している。このエアビーム20は、通行可能な床面を大きく確保することができる利点がある。一方、床面となるエアチューブ22Lに荷重がかかり断面変形が生じると、側壁に相当する部分のエアチューブ22Sが内方に傾くように変形する可能性がある。この変形を防止するために、図8に示したように、エアビーム20の長手方向に沿って複数本のストラット部材29を、対向するエアチューブ22S間に掛け渡すように配置することが好ましい。このストラット部材29は、エアチューブ22の側面にあらかじめ形成しておいたポケット状のブラケット(図示せず)に端部を支持させる構造等の簡易な構造で対応可能である。
【0042】
図9(a)~(c)は、図3各図に示したエアバッグ26に対して多層構造の袋状体からなるエアバッグ26を用いてエアバッグ橋台25を構成するようにした構成例を示した説明図である。図9(a)に示したエアバッグ26は膨張時に、例えば図3(f)に示したエアバッグ25より薄い膨張厚(高さ)からなる3個のエアバッグ26a,26b、26cを一体的に積層した状態で折り畳まれてなるエアバッグ26である。各エアバッグ26a,26b、26cには個々独立に送気可能な送気ホース27が接続されている。これにより、各層のエアバッグごとに独立して圧縮空気を供給することできる。たとえば図9(b),(c)に示したように、到達側2の岸と架設起点側1(図示せず)の地盤高に高低差がある場合に、エアバッグ26a,26b、26cのうち、所定の設置高さが得られるエアバッグ26だけ膨張させることで架設されたエアビーム橋10を水平に安定して設置させることができる。また、エアビーム20にわずかな高低差(勾配)をつけ、緩いスロープ状のエアビーム橋10とすることもできる。このようなエアビーム橋10では、負傷者を乗せたソリ状のストレッチャー等を被災した岸側(到達側2)からエアビーム橋10の内部空間21内を滑らせるようにして効率よく移動させることも可能である。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1 架設起点側(岸)
2 到達側(岸)
4 車両(トラック)
6 ブロア
7 圧縮空気供給ホース
10 緊急仮設橋(エアビーム橋)
20 エアビーム
21 内部空間
22 エアチューブ
25 エアバッグ橋台
26 エアバッグ
28 保護ベルト
30 橋端支持体
31 ターンテーブル
34 架台フレーム
35 トラス柱
36 アウトリガー
37 ビーム台座
38 カウンターウエイト
W 吊りワイヤ
C コイル体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9