(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054545
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】多層シート
(51)【国際特許分類】
B32B 7/02 20190101AFI20230407BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20230407BHJP
E04F 15/16 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
B32B7/02
B32B27/12
E04F15/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163462
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】591196315
【氏名又は名称】金星製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】勝間 敬
(72)【発明者】
【氏名】和田 忍
(72)【発明者】
【氏名】井上 仁志
(72)【発明者】
【氏名】西田 素子
【テーマコード(参考)】
2E220
4F100
【Fターム(参考)】
2E220AA15
2E220AA16
2E220AA44
2E220AB03
2E220AB10
2E220AC01
2E220BA19
2E220BB20
2E220CA07
2E220DB09
2E220EA02
2E220FA01
2E220GA07X
2E220GA22X
2E220GA24X
2E220GB33X
2E220GB34X
2E220GB35X
2E220GB37X
4F100AK04A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100DC11A
4F100DG03B
4F100DG15B
4F100GB07
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4F100JD05C
4F100JD15B
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】薄型で所望の吸水能力を有しながら、吸水前後の厚みの変化が小さい多層シートを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の多層シートは、液透過層と吸水層とを有する多層シートであって、前記多層シートの厚みが3mm以下であり、液戻り量が2.2g以下であり、吸水量が580g/m2~2,000g/m2であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液透過層と吸水層とを有する多層シートであって、
前記多層シートの厚みが3mm以下であり、
液戻り量が2.2g以下であり、
吸水量が580g/m2~2,000g/m2であることを特徴とする多層シート。
【請求項2】
吸水層側にさらに防水層を有する請求項1に記載の多層シート。
【請求項3】
前記吸水層が、短繊維不織布を含む請求項1または2に記載の多層シート。
【請求項4】
前記吸水層が、エアレイド不織布である請求項1~3に記載の多層シート。
【請求項5】
前記液透過層の液透過速度が6秒以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項6】
前記液透過層が、開口を有するシートおよび/またはフィルムである請求項1~5のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項7】
表面ドライネス値が、40%以上である請求項1~6のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項8】
吸水前後の厚みの変化率が10%以下である請求項1~7のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項9】
床用シートである請求項1~8のいずれか一項に記載の多層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療現場の手洗い場や、各種水回り、検査室・手術時には、洗浄水、血液、体液、薬液などで床が汚染されないように、床用シートが使用されている。この床用シートは、床の汚れの防止だけでなく、医療従事者、設備などの汚染を防止するという役目とともに、床に飛散した水滴などによる転倒防止のために使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、長繊維不織布層、吸水性短繊維不織布層および防水層がこの順に積層された多層シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医療現場の床用シートには、飛散した液体を吸収すること、さらに、一旦吸収した液体を逆戻りさせないこと、吸収後のドライ感などが求められている。また、床用シート自体の厚みも重要である。床用シートの厚みが大きくなると床との段差が生じるので、台車やカートを通すことが難しくなる。従来使用されている床用シートは、吸水性能が十分ではなく、改良の余地があった。本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、薄型で所望の吸水能力を有しながら、吸水前後の厚みの変化が小さい多層シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の多層シートは、液透過層と吸水層とを有する多層シートであって、前記多層シートの厚みが3mm以下であり、液戻り量が2.2g以下であり、吸水量が580g/m2~2,000g/m2であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、薄型で所望の吸水性能を有しながら、吸水前後の厚みの変化が小さいシートを提供することができる。また、本発明の多層シートは、吸水後のドライ感にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る多層シートの一例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の多層シートは、液透過層と吸水層とを有する多層シートであって、前記多層シートの厚みが3mm以下であり、液戻り量が2.2g以下であり、吸水量が580g/m2~2,000g/m2であることを特徴とする。
【0010】
本発明の多層シートは、液透過層と吸水層とが積層された多層シートである。前記多層シートの厚みは、3mm以下であり、2.8mm以下であることが好ましく、2.5mm以下であることがより好ましい。厚みが3mmを超えると、床用シートとして使用する際に、床との段差が大きくなるので好ましくない。本発明の多層シートの厚みの下限は、特に限定されないが、0.1mmが好ましく、0.2mmがより好ましく、0.3mmがさらに好ましい。なお、本発明の多層シートが後述する防水層を有する場合、液透過層と吸水層と防水層とが積層された多層シートが、前記厚みの範囲を満足することが好ましい。
【0011】
本発明の多層シートが有する液透過層について説明する。前記液透過層は、液透過性を有するシートであれば特に限定されない。
【0012】
前記液透過層の液透過速度は、6秒以下であることが好ましく、5秒以下であることがより好ましい。液透過層の液透過速度が6秒を超えると、多層シートの吸水速度が低下する。その結果、多層シート上に、水滴などが残りやすくなり、転倒などのおそれが生じる。
【0013】
前記液透過層は、例えば、開口を有することが好ましい。水滴などが、開口を介して液透過層を透過しやすくなる。
【0014】
前記開口の形状としては、特に限定されないが、円形;楕円形;三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形;不定形などを挙げることができる。前記液透過層が有する開口の形状は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。前記液透過層が有する開口の形状としては、円形が好ましい。
【0015】
前記開口の大きさは、特に限定されないが、例えば、開口の最小外接円径(直径)が、1.2mm以下であることが好ましく、1.1mm以下がより好ましく、1.0mm以下がさらに好ましい。開口の最小外接円径が大きくなりすぎると、多層シートの表面強度が低下して破損しやすくなる場合がある。前記開口の最小外接円径の下限は、特に限定されないが、0.1mmが好ましく、0.15mmがより好ましく、0.2mmがさらに好ましい。なお、開口の最小外接円径は、単位面積(1cm2)当たりの開口の最小外接円径の個数平均径であることが好ましい。
【0016】
前記液透過層の開口率は、20%以上が好ましく、22%以上がより好ましく、24%以上がさらに好ましく、75%以下が好ましく、65%以下がより好ましく、55%以下がさらに好ましい。前記液透過層の開口率が、前記範囲内であれば、多層シートの吸収速度が高くなる。なお、前記開口率は、単位面積(1cm2)当たりの開口面積の総和を百分率で示したものである。
【0017】
前記液透過層としては、液透過性シートおよび/または液透過性フィルムであることが好ましく、開口を有する液透過性シートおよび/または液透過性フィルムであることがさらに好ましい。前記シートおよび/またはフィルムを構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレートなどの炭素数が1~6のヒドロキシカルボン酸系ポリエステル、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族系ポリエステル;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの半芳香族系ポリエステル;ポリアリレートなどの芳香族系ポリエステル;アクリル樹脂;ビニリデン(塩化ビニルまたは塩化ビニリデン共重合系);アラミド、ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリウレタン;エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールなどのポリビニル化合物;および、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)、アセテート、トリアセテート、セロファンなどを挙げることができる。
【0018】
本発明では、液透過層として、開口を有するポリオレフィンシートおよび/またはポリオレフィンフィルムを使用することが好ましく、開口を有するポリエチレンシートおよび/またはポリエチレンフィルムを使用することがより好ましい。
【0019】
「シート」および「フィルム」は、薄く、一般にその厚さが長さと幅の割には小さい平らな形体のものである。例えば、厚さに関して言えば、狭義では100μm以上のものをシートと称し、100μm未満のものをフィルムと称することがある。しかし、シートとフィルムの境界は明確ではなく、本発明において特に両者を区別する場合を除き、本発明においては「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとし、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むのとする。
【0020】
本発明の多層シートが有する吸水層について説明する。
【0021】
前記吸水層の吸水量としては、例えば、600g/m2以上であることが好ましく、650g/m2以上であることがより好ましく、700g/m2以上であることがさらに好ましく、2,000g/m2以下であることが好ましく、1,900g/m2以下であることがより好ましい。吸水層の吸水量が前記範囲内であれば、例えば、多層シートに飛散した液体を吸収することができ、転倒や汚染の拡大を防止することができる。
【0022】
前記吸水層は、吸水前後で、厚みが変化しないものが好ましい。吸水後に厚みが厚くなると、床用シートとして使用する際に、床との段差が大きくなるので好ましくない。このような観点から、例えば、吸水量が25g/g以上の吸水性樹脂を含有するものは好ましくない。吸水量が25g/g以上の吸水性樹脂としては、例えば、紙おむつ、尿パッドなどに使用される吸水性樹脂を挙げることができ、具体的には、アクリル酸、でんぷんを含む多糖類、アミノ酸などを主成分とする架橋重合体の中和物が挙げられる。
【0023】
前記吸水層は、短繊維不織布であることが好ましく、エアレイド不織布であることが好ましい。エアレイ法とは、例えば、熱接着性合成繊維を含有する短繊維を空気流に均一分散させながら搬送し、吐出部に設けた細孔を有するスクリーンから吹き出した前記短繊維を、下部に設置された金属またはプラスチックのネットに落としネット下部で空気をサクションしながら、前記短繊維をネット上に堆積させて不織布を作製する方法である。前記熱接着性合成繊維は、短繊維を結合して得られるエアレイド不織布の保形性を高める。
【0024】
このように、エアレイ法で製造された不織布は、幅方向および厚み方向へ短繊維をランダムに3次元配向させることが可能である。そのため、エアレイド不織布は、空隙が多くなり、吸水量が増加する。また、エアレイド不織布は、吸水しても厚みの変化が小さいという特徴を有する。
【0025】
エアレイド不織布を構成し得る短繊維について説明する。前記短繊維は、特に限定されないが、例えば、合成繊維、再生繊維、半合成繊維、無機繊維、天然繊維などを挙げることができる。
【0026】
前記合成繊維としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレートなどの炭素数が1~6のヒドロキシカルボン酸系ポリエステル、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族系ポリエステル繊維;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの半芳香族系ポリエステル繊維;ポリアリレートなどの芳香族系ポリエステル繊維;アクリル繊維;ビニリデン繊維(塩化ビニルまたは塩化ビニリデン共重合系;アラミド、ナイロンなどのポリアミド繊維;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維;ポリウレタン繊維;エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールなどのポリビニル化合物からなる繊維;および、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維などを挙げることができる。
【0027】
再生繊維としては、例えば、レーヨンポリノジック、および、キュプラなどを挙げることができる。半合成繊維としては、例えば、アセテート、トリアセテート、および、プロミックスなどを挙げることができる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維などを挙げることができる。天然繊維としては、例えば、羊毛、綿、麻、パルプなどを挙げることができる。
【0028】
前記短繊維として、熱接着性複合繊維を使用することも好ましい。前記熱接着性複合繊維としては、例えば、低融点成分を鞘成分とし、高融点成分を芯成分とする芯鞘型、一方が低融点成分、他方が高融点成分であるサイドバイサイド型などが挙げられる。これらの複合短繊維の両方の成分の組み合わせとしては、PP(ポリプロピレン)/PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)/PE、PP/低融点共重合PP、PET/低融点共重合ポリエステルなどが挙げられる。
【0029】
前記低融点成分である熱接着成分の融点は、80℃~180℃が好ましく、より好ましくは90℃~160℃である。80℃未満の場合、繊維の耐熱性が低いので、製造工程においてトラブルが生じやすく、一方、180℃を超えると、エアレイド不織布の製造工程における熱処理温度を高くする必要が生じ、生産性が低下する。
【0030】
前記短繊維は、繊維長が0.4mm~20mmであることが好ましく、0.6mm~10mmであることがより好ましく、1mm~4mmがさらに好ましい。繊維長が0.4mm未満の場合は、強度や剛性アップの効果が十分でなく、一方、20mmを超えると、繊維どうしが絡まり易くなり、製造工程においてトラブルが生じやすくなる。
【0031】
吸水層の目付は、30g/m2以上が好ましく、40g/m2以上がより好ましく、50g/m2以上がさらに好ましく、200g/m2以下が好ましく、170g/m2以下がより好ましく、150g/m2以下がさらに好ましい。吸水層の目付が、前記範囲内であれば、取扱性と吸水量のバランスが良くなる。
【0032】
本発明の液透過性層と吸水層は、密度勾配のある一体型のシートであってもよい。具体例としては、層間で繊維の太さや密度が異なる多層構造の不織布などを挙げることができる。
【0033】
本発明の多層シートは、吸水層側にさらに防水層を有することも好ましい。この好ましい態様においては、液透過層と、吸水層と、防水層とがこの順で積層される。
【0034】
以下、前記防水層について説明する。前記防水層は、多層シートが吸水した液体が漏出しないようにするものである。前記防水層は、防水性能を有するものであれば特に限定されず、例えば、防水シートおよび/または防水フィルムなどを挙げることができる。防水シートおよび/または防水性フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、アセテートなどの樹脂成分からなるシートおよび/フィルムが挙げられる。
【0035】
防水層の厚みは特に制限はないが、0.01mm以上が好ましく、0.02mm以上がより好ましく、0.1mm以下が好ましく、0.09mm以下がより好ましい。防水層が薄すぎると、ピンホールなどが発生しやすくなり、防水性が低下する場合がある。また、防水層が厚くなり過ぎると、柔軟性が低下する。
【0036】
本発明の多層シートの製造方法について説明する。本発明の多層シートの液透過層と吸水層とは、例えば、ホットメルト接着剤で固定することができる。また、前記液透過層と吸水層とをニードルパンチにより固定することも好ましい。例えば、前記液透過層として使用するシートおよび/またはフィルムであって、開口のないシートおよび/またはフィルムを吸水層に積層してから、ニードルパンチにより、シートおよび/またはフィルムに開口を設けるとともに、フィルムと吸水層とを一体化することができる。
【0037】
本発明の多層シートの吸水層に対して、防水層を形成するための積層方法は、特に限定されるものではく、熱ラミネート、押出ラミネート、ドライラミネート、ホットメルトラミネートなど公知の積層手段が採用される。
【0038】
防水層を積層する方法として、例えば、押出ラミネート法を採用することが好ましい。まず、液透過層と吸水層とを予め一体化する。防水層を構成する樹脂を押出成形機で溶融混練し、Tダイより膜状に押出し、吸水層側にラミネートする。この方法により、液透過層と吸水層との予備積層体に、防水層を一体的に積層成形することができる。
【0039】
また、本発明の多層シートの吸水層と防水層とを、例えば、ホットメルト接着剤で固定することも好ましい。
【0040】
本発明の多層シートの吸水量としては、例えば、580g/m2以上であることが好ましく、620g/m2以上であることがより好ましく、700g/m2以上であることがさらに好ましく、2000g/m2以下であることが好ましく、1900g/m2以下であることがより好ましい。多層シートの吸水量が前記範囲内であれば、例えば、多層シートに飛散した液体を吸収することができ、転倒や汚染の拡大を防止することができる。
【0041】
本発明の多層シートの液戻り量は、2.2g以下であることが好ましく、2g以下であることがさらに好ましい。液戻り量を小さくすることにより、液戻りした水滴などによる転倒防止ができる。液戻り量は、特に限定されるものではないが、0gであることが好ましい。
【0042】
本発明の多層シートは、表面ドライネス値が、40%以上であることが好ましく、45%以上であることが好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。多層シートの表面ドライネス値が前記範囲内であると、吸水した部分から液が染みだしておらず、汚染を広げにくくなるからである。
【0043】
本発明の多層シートの吸水前後の厚みの変化率は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がより好ましく、0%が特に好ましい。吸水後の厚みが、吸水前の厚みよりも大きくなると、段差が大きくなり転倒の原因になるからである。
厚みの変化率は、以下の式で表される。
厚みの変化率=(吸水後の厚み-吸水前の厚み)/吸水前の厚み×100
【0044】
図1は、本発明の多層シートの一例を模式的に示す説明図である。多層シート1は、液透過層3と吸水層5と防水層7とを有する。吸水層5は、透過層3と防水層7との間に位置する。液透過層3は、開口9を有している。本発明の多層シートを床用シートとして使用する場合には、透過層3側を上面にして使用する。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0046】
[測定方法」
(1)吸水量
5cm×5cmの試料を作製し、その質量(Ag)を測定する。前記試料を1分間水道水に浸し、45度に傾斜した平面に防水層側が接触するように試料を載置した。30秒間静置することにより、余分な水を取り除いた。その後、試料の質量(Bg)を測定し、吸水後の質量とした。
吸水量は、以下の式にて算出した。
吸水量(g/m2)=(B-A)×400
【0047】
(2)厚み
厚み測定器(大栄FS-60DS、測定端子φ50mm)を用いて測定した。
【0048】
(3)液戻り性
濾紙の質量(Ag)を測定する。12.5cm×15cmの試料の中心部にスポイトで5mLの水を注入し、5分間静置する。その後、液注入部に濾紙(90φ濾紙重量20g±1g)を載せ、30秒静置する。試験後の濾紙の質量(Bg)を測定し、以下の式にて液戻り量を算出した。
液戻り量(g)=B-A
【0049】
(4)液透過性試験方法
垂直に立てた円筒(内径25.4mm)の開口部の下端に、金網(目開き150μm、株式会社三商販売のバイオカラム焼結ステンレスフィルター30SUS)と、コック(内径2mm)付き細管(内径4mm、長さ8cm)とが備えられた濾過円筒管を用意し、金網上に直径28mmの大きさにカットした測定試料をセットしコックを閉鎖した状態で円筒管内に、水100mLを投入する。次いで、目開きが150μmで直径が25mmである金網を先端に備えた直径2mmの円柱棒を濾過円筒管内に挿入して、金網と測定試料とが接するようにし、この状態で1分間放置した後、コックを開いて液を流し、濾過円筒管内の液面が60mLの目盛り線から40mLの目盛り線に達する(つまり20mLの液が通過する)までの時間(T1)(秒)を計測する。計測された時間T1(秒)を用い、次式から液透過速度を算出する。尚、式中、T0(秒)は、濾過円筒管内に測定試料を入れないで、水20mlが金網を通過するのに要する時間を計測した値である。
【0050】
液透過速度(秒)=(T1-T0)
測定は5回行い(n=5)、上下各1点の値を削除し、残る3点の平均値を測定値とした。尚、これらの測定は23±2℃、相対湿度50±5%で行い、測定の前に試料を同環境で24時間以上保存した後で測定する。
【0051】
(5)SDMEによる表面ドライネス値
SDMEによる表面ドライネス値は、SDME(Surface Dryness Measurement Equipment)試験器(WK system社製)を用いて次の手順で測定した。SDME試験器の検出器を、十分に湿らした試料(試料を覆う程度の水に浸し、60分間放置したもの)の上に置き0%ドライネス値を設定した。次に、SDME試験器の検出器を、乾いた試料(50℃で2時間加熱乾燥したもの)の上に置き、100%ドライネスを設定し、SDME試験器の校正を行った。
【0052】
次に、測定する試料の中央にアクリル樹脂製リング(内径70mm、外径80mm、長さ50mm、質量50g)をセットし、0.9%生理食塩水5mLを注入した。注入してから2分後にアクリル樹脂製リングを取り去り、試料の中央にSDME検出器を試料に接触するようにセットして、測定を開始した。測定開始後、5分後の値をSDMEによる表面ドライネス値とした。
【0053】
(6)モニター評価試験
25cm×40cmのサンプルシートを床に貼り、水道水20ccを高さ75cmから投入した。サンプルシートと同じ大きさの濾紙を床に貼ったサンプルとならべて隙間がないように配置し液投入から2分後に、サンプルシートと濾紙の上に5Kgの4輪カートを秒速0.8mで通過させた。この時、液投入部分上に少なくとも車輪の2つを通過させた。カートの通過しやすさと、濾紙に残った車輪あとにより使用感のモニター評価を実施した。
評価基準:
○:良い
△:普通
×:良くない
【0054】
[多層シートの作製]
(多層シート1)
液透過層と吸水層と防水層とをこの順に積層して、多層シートを作製した。液透過層と吸水層との接着、および、吸水層と防水層との接着は、ホットメルト接着剤を用いて行った。液透過層、吸水層、防水層としては、以下のものを用いた。
液透過層:Berry社製HS-52(開口率26%のポリエチレン製シート:液透過速度4.00秒)
吸水層1:目付70g/m2、厚み1.2mmmのエアレイド不織布
防水層:東レフィルム加工株式会社社製のトレテックR213
【0055】
(多層シート2)
吸水層として、目付125g/m2、厚み2mmのエアレイド不織布(吸水層2)を用いた以外は、多層シート1と同様にして多層シート2を作製した。
【0056】
(多層シート3)
液透過性層として、Berry社製PTA(開口率45%のポリエチレン製シート:液透過速度:2.35秒)を用いた以外は、多層シート1と同様にして多層シート3を作製した。
【0057】
(多層シート4)
吸水層として、目付125g/m2、厚み2mmのエアレイド不織布(吸水層2)を用いた以外は、多層シート3と同様にして多層シート4を作製した。
【0058】
(多層シート5)
吸水層として、目付60g/m2、厚み1mmのエアレイド不織布(吸水層3)を用いた以外は、多層シート3と同様にして多層シート5を作製した。
【0059】
(多層シート6)
吸水層として、目付60g/m2、厚み0.9mmのエアレイド不織布(吸水層4)を用いた以外は、多層シート3と同様にして多層シート6を作製した。
【0060】
(多層シート7)
吸水層として、目付150g/m2、厚み2.9mmのエアレイド不織布(吸水層5)を用いた以外は、多層シート3と同様にして多層シート7を作製した。
【0061】
(多層シート8)
液透過性層として、金星製紙株式会社製スパンレース不織布WJ40R(液透過速度:6.05秒)を用いた以外は、多層シート1と同様にして多層シート8を作製した。
【0062】
(多層シート9)
液透過性層として、金星製紙株式会社製スパンレース不織布WJ40R(液透過速度:6.05秒)を用いた以外は、多層シート2と同様にして多層シート9を作製した。
【0063】
(多層シート10)
不織布層が防水層に積層された市販の多層シート(厚み0.7mm)を評価した
【0064】
(多層シート11)
不織布層が防水層に積層された市販の多層シート(厚み0.4mm)を評価した
【0065】
多層シートの構成および評価結果を表1に示した。
【0066】
【0067】
表1の結果から、液透過層と吸水層とを有する多層シートであって、前記多層シートの厚みが3mm以下であり、液戻り量が2.2g以下であり、吸水量が580g/m2~2,000g/m2である多層シート1~6は、所望の吸水能力を有しながら、吸水前後の厚みの変化が小さいことが分かる。
本発明の多層シートは、メディカルドレープ、検査、手術台用の吸水シート、ドリップシート、医療現場の床用シートなどとして好適に使用することができる。また、医療・介護現場のみでなく、防汚・吸水性が求められる場所や状況、例えば居住空間(台所、風呂場・脱衣所・トイレまわり)、店舗での水回り、公共施設などでも使用することができる。食品向け各種ドリップシート、結露防止シート、ペットシート、厨房用の吸油シート、産業用の洗浄水吸収シート、切削油吸収シート、研究機関での試薬等吸収シートとして好適に使用することができる。