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特開2023-54653電源システム、及び電源システムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054653
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】電源システム、及び電源システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/01 20060101AFI20230407BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20230407BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20230407BHJP
【FI】
H02J3/01
H02J3/38 110
H02M7/48 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163629
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】宇田 怜史
【テーマコード(参考)】
5G066
5H770
【Fターム(参考)】
5G066AD14
5G066EA03
5G066FB15
5G066HB09
5G066JB03
5H770AA05
5H770BA15
5H770CA04
5H770CA05
5H770CA06
5H770EA01
5H770EA30
5H770GA13
5H770HA02Y
5H770HA03Y
(57)【要約】
【課題】接続される負荷に関わらず、高調波電圧に起因する過電圧を抑制することができる信頼性に優れた電源システム、及び電源システムの制御方法を提供する。
【解決手段】電源システムは、エネルギー貯蔵装置と、エネルギー貯蔵装置のDC出力をAC出力に変換するDC-AC変換器と、DC-AC変換器を制御する制御部(60)を備える。制御部(60)は、電流に含まれた高調波電流の大きさを検出する高調波電流検出部(61)と、高調波電流の大きさに応じてDC-AC変換器を制御して、AC出力に含む高調波電圧を操作する高調波補償制御部(62)と、AC出力の無効電力の位相を取得する無効電力取得部(63)と、無効電力が進相である場合に、高調波補償制御部(62)の動作を停止させる高調波補償指令部(64)と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー貯蔵装置と、
前記エネルギー貯蔵装置のDC出力をAC出力に変換して負荷に出力する変換器と、
前記AC出力の電流を計測する電流計測器と、
前記AC出力の電圧を計測する電圧計測器と、
前記変換器を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記電流に含まれた高調波電流の大きさを検出する高調波電流検出部と、
前記高調波電流の大きさに応じて前記変換器を制御して、前記AC出力に含む高調波電圧を操作する高調波補償制御部と、
前記AC出力の無効電力の位相を取得する無効電力取得部と、
前記無効電力が進相である場合に、前記高調波補償制御部の動作を停止させる高調波補償指令部と、を備える、電源システム。
【請求項2】
前記高調波補償指令部は、前記無効電力が進相でない場合に、
前記高調波電流の大きさが電流設定値以上であれば、前記高調波補償制御部を動作させ、
前記高調波電流の大きさが電流設定値未満であれば、前記高調波補償制御部の動作を停止させる、請求項1に記載の電源システム。
【請求項3】
前記高調波電流検出部は、複数の次数の高調波電流ごとに高調波電流の大きさを検出し、
前記高調波補償指令部は、複数の次数の前記高調波電流のうち、いずれかの前記高調波電流の大きさが当該次数の高調波電流について定められた電流設定値以上であれば前記高調波補償制御部を動作させる、請求項2に記載の電源システム。
【請求項4】
エネルギー貯蔵装置と、
前記エネルギー貯蔵装置のDC出力をAC出力に変換して負荷に出力する変換器と、
前記AC出力の電流に含まれた高調波電流の大きさを検出する高調波電流検出部と、
前記高調波電流の大きさに応じて前記変換器を制御して、前記AC出力に含む高調波電圧を操作する高調波補償制御部と、
前記AC出力の無効電力の位相を取得する無効電力取得部と、を備えた電源システムの制御方法であって、
前記高調波電流の大きさを検出する検出工程と、
前記AC出力の無効電力の位相を取得する取得工程と、
前記無効電力が進相である場合に、前記高調波補償制御部の動作を停止させる停止工程と、を備える電源システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電源システム、及び電源システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統やマイクログリッドなどに適用される電源システムは、エネルギー貯蔵装置と、このエネルギー貯蔵装置のDC出力をAC出力に変換して負荷に出力する変換器とを備える。このような電源システムとして、上記負荷が接続される連系点での高調波を抑制する高調波補償制御部を備えたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-032435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高調波補償制御部を備えた電源システムでは、上記連系点に接続される負荷の特性によっては、高調波の抑制を行うことができずに、逆に、当該高調波補償制御部の動作によって高調波電圧を増大させてしまうことがあることが判明した。この結果、従来の電源システムでは、過電圧が生じて、電源システムの信頼性が低下するという問題が発生するおそれがあった。
【0005】
本開示は上記の問題点を鑑みてなされたものであり、接続される負荷に関わらず、高調波電圧に起因する過電圧を抑制することができる信頼性に優れた電源システム、及び電源システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示の一側面に係る電源システムは、エネルギー貯蔵装置と、前記エネルギー貯蔵装置のDC出力をAC出力に変換して負荷に出力する変換器と、前記AC出力の電流を計測する電流計測器と、前記AC出力の電圧を計測する電圧計測器と、前記変換器を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記電流に含まれた高調波電流の大きさを検出する高調波電流検出部と、前記高調波電流の大きさに応じて前記変換器を制御して、前記AC出力に含む高調波電圧を操作する高調波補償制御部と、前記AC出力の無効電力の位相を取得する無効電力取得部と、前記無効電力が進相である場合に、前記高調波補償制御部の動作を停止させる高調波補償指令部と、を備える。
【0007】
また、本開示の一側面に係る電源システムの制御方法は、エネルギー貯蔵装置と、前記エネルギー貯蔵装置のDC出力をAC出力に変換して負荷に出力する変換器と、前記AC出力の電流に含まれた高調波電流の大きさを検出する高調波電流検出部と、前記高調波電流の大きさに応じて前記変換器を制御して、前記AC出力に含む高調波電圧を操作する高調波補償制御部と、前記AC出力の無効電力の位相を取得する無効電力取得部と、を備えた電源システムの制御方法であって、前記高調波電流の大きさを検出する検出工程と、前記AC出力の無効電力の位相を取得する取得工程と、前記無効電力が進相である場合に、前記高調波補償制御部の動作を停止させる停止工程と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、接続される負荷に関わらず、高調波電圧に起因する過電圧を抑制することができる信頼性に優れた電源システム、及び電源システムの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態に係る電源システムを示す概略構成図である。
図2図1に示した制御部の具体的な構成を示すブロック図である。
図3】上記制御部の制御ロジックを示す図である。
図4図2に示した高調波補償指令部の具体的な構成を示す図である。
図5図1に示した負荷の種類と無効電力及び高調波電流との関係を示す表である。
図6】上記負荷の種類と高調波補償指令との関係を示す表である。
図7】比較例の制御ロジックの具体例を示す図である。
図8】上記比較例での高調波補償動作の具体例を説明する図である。
図9】上記比較例での動作波形の具体例を示す波形図である。
図10】上記比較例での連系点電圧を高速フーリエ変換して、各周波数における電圧成分の大きさを示した結果例を示す図である。
図11】上記電源システムでの高調波補償動作の具体例を説明する図である。
図12】上記電源システムでの高調波補償動作の具体例を説明する図である。
図13】上記電源システムでの連系点電圧を高速フーリエ変換して、各周波数における電圧成分の大きさを示した結果例を示す図である。
図14】上記電源システムでの負荷条件の変更例を示す表である。
図15】上記電源システムにおいて、図14に従い負荷条件を変更した場合での高調波補償動作の具体例を説明する図である。
図16】上記電源システムにおいて、図15の時点T25以降での高調波補償動作の具体例を説明する図である。
図17】上記電源システムにおいて、図14の負荷条件を変更した場合での連系点電圧を高速フーリエ変換して、各周波数における電圧成分の大きさを示した結果例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0011】
<電源システム1が適用される電力系統100の構成>
図1は、本開示の実施形態に係る電源システム1を示す概略構成図である。図1には、電源システム1が適用された電力系統100の全体が示されている。電源システム1は、エネルギー貯蔵装置10を備えた、電力を貯蔵できるシステムである。電源システム1の出力する交流電力(AC出力)は、連系点RTに接続される、複数のフィーダ90に供給される。
【0012】
それぞれのフィーダ90は、ブレーカ91と負荷92とから構成される。それぞれのフィーダ90において、ブレーカ91は、当該フィーダ90内で短絡事故が発生すると、過電流の所定時間の継続を検出してトリップし、当該フィーダ90を電力系統100から解列させる。負荷92は、非線形負荷であり得て、例えば、R負荷、RL負荷、RC負荷、C負荷、または整流器負荷を取り得る。
【0013】
なお、図1には示されないが、電力系統100には、太陽光発電システムや風力発電システム等の自然エネルギーによる発電システムが、電源システム1に並列配置されていてもよい。あるいは、ディーゼル発電機やコジェネレーションシステム等の、燃料を用いる発電システムが電源システム1に並列配置されていてもよい。電源システム1は、少なくともこれらいずれかの発電システムの出力のバックアップとして適用され得る。その意味で電源システム1は、無停電電源システム(UPS:Uninterruptible Power Supply)でもある。
【0014】
電力系統100の具体例として、離島内や山間部の孤立した電力系統(例えば、マイクログリッドの電力系統)を挙げることができる。そのような電力系統で自然エネルギーによる発電システムが用いられていれば、エネルギー貯蔵装置10を備えた電源システム1が適用されることで、自然エネルギーを利用する電力供給の平滑化が図られる。あるいは、そのような電力系統100で燃料を用いる発電システムが用いられていれば、発電システムの故障に備えたバックアップ電源としても電源システム1が採用され得る。
【0015】
しかし、電力系統100の具体例としては、離島内や山間部の孤立した電力系統に限られるものではなく、自然エネルギーを用いた発電システムやその他の発電システムを利用する工場内の電力系統であってもよい。工場内の電力系統であっても、本開示例の効果、作用は同様に奏される。
【0016】
実施形態に係る電源システム1は、電力系統100に対する電力の供給を行っている時に、フィーダ90において短絡事故が発生した際にも、なるべく運用を停止せず、電力系統100に対する電力の供給を継続するように動作する。以下の説明においては、理解を容易にするため、電力系統100に対して電源システム1のみが電力の供給を行っているかのように記載している。しかし、電源システム1が電力系統100に対する電力の供給を行っておれば、他の発電システムと並列運用していても、電源システム1の動作は同様である。
【0017】
<電源システム1の構成>
図1に示されるように、電源システム1は、エネルギー貯蔵装置10、DC-AC変換器20(変換器)、電流計測器30、連系リアクトル40、電圧計測器50、及び制御部60を備えている。
【0018】
電源システム1は、後述するように、高調波電圧の抑制のための高調波補償制御部を備える、自立系BESS(Battery Energy Storage System)を構成している。すなわち、電源システム1では、上記非線形負荷等の影響によって高調波が電力系統100に生じる場合でも、後に詳述するように当該高調波を適切に補償することにより、電力系統100に対する高調波電圧などの悪影響を抑えることができる。
【0019】
エネルギー貯蔵装置10は、入力された電力を内部にエネルギーとして保持し、保持したエネルギーを必要に応じて直流電力(DC出力)として出力する装置である。エネルギー貯蔵装置10は、リチウムイオン電池、NaS(ナトリウム・硫黄)電池、レドックスフロー電池、鉛蓄電池等の、2次電池を備えた装置であり得る。
【0020】
しかしエネルギー貯蔵装置10は2次電池を備えた装置に限られるものではない。エネルギー貯蔵装置10として、キャパシタ、超伝導電力貯蔵ユニット、フライホイール式電力貯蔵ユニット、圧縮空気式電力貯蔵ユニットなど、電気エネルギーを貯蔵する機能を備えた任意のユニットを用いることができる。なお、エネルギー貯蔵装置10が直流電力として出力する装置であるとは、一旦内部で交流電力として出力した電力を、整流回路やコンバータ等で直流化して出力する場合も含む概念である。
【0021】
DC-AC変換器20は、エネルギー貯蔵装置10が出力する直流電力(DC出力)を、交流電力(AC出力)に変換する装置である。DC-AC変換器20は、制御部60からの出力指令としてのPWM(Pulse Width Modulation)信号により、直流電力を、電力系統100が利用する所要の電圧、周波数の交流電力に変換する。
【0022】
電流計測器30は、電源システム1が出力する交流電力(AC出力)の電流を計測し、その情報を制御部60に伝達する。また、電圧計測器50は、連系リアクトル40を介して、電源システム1が出力する交流電力(AC出力)の電圧を計測し、その情報を制御部60に伝達する。尚、連系リアクトル40は、高次の高調波の抑制に寄与するように構成されていてもよい。
【0023】
<制御部60の構成>
次に、図2及び図3も参照して、制御部60の構成、及びその動作について具体的に説明する。図2は、図1に示した制御部の具体的な構成を示すブロック図である。図3は、上記制御部の制御ロジックを示す図である。
【0024】
図2に示されるように、制御部60は、上記AC出力の電流に含まれた高調波電流の大きさを検出する高調波電流検出部61と、当該高調波電流の大きさに応じてDC-AC変換器20を制御して、当該AC出力に含む高調波電圧を操作する高調波補償制御部62と、当該AC出力の無効電力の位相を取得する無効電力取得部63と、上記高調波補償制御部62に対して、高調波電流の大きさと無効電力の位相とを基に作成した高調波補償指令を出力する高調波補償指令部64と、を備える。
【0025】
図3において、高調波電流検出部61は、電流計測器30の計測結果に基づいて、1つの次数nの高調波電流の大きさを検出するBPF(バンドパスフィルタ)61Aを備えている。BPF61Aは、検出した高調波電流の大きさに応じた信号を、高調波補償制御部62に設けられた高調波信号発生器62Aと高調波補償指令部64とに出力する。
【0026】
無効電力取得部63には、図3に示されるように、電流計測器30からの上記電流の計測結果と、電圧計測器50からの上記電圧の計測結果とが入力される。そして、無効電力取得部63は、入力した電流の計測結果及び電圧の計測結果を基に上記AC出力の無効電力の位相が進相であるか否かを判断して、高調波補償指令部64に出力する。すなわち、無効電力取得部63は、無効電力が高調波電流に対して、進相であるか否かを示す極性通知信号を高調波補償指令部64に出力する。
【0027】
高調波補償制御部62は、上記高調波信号発生器62Aと、高調波信号発生器62Aに順次接続された乗算器62B及び加算器62Cとを備える。高調波信号発生器62Aは、BPF61Aからの高調波電流の大きさと上記次数nの回路インピーダンスの値(jnωL)とに応じて、当該次数nの高調波電圧を補償(抑制)する高調波補償電圧(制御量)信号を算出する。高調波信号発生器62Aは、求めた高調波補償電圧を乗算器62Bに出力する。
【0028】
乗算器62Bには、高調波補償指令部64から高調波補償指令として「1」の値のON信号または「0」の値のOFF信号が入力されるようになっている。そして、乗算器62Bは、高調波補償指令と高調波補償電圧との乗算結果を加算器62Cに出力する。すなわち、乗算器62Bは、ON信号を入力した場合に、制御量としての高調波補償電圧を加算器62Cに出力し、OFF信号を入力した場合に、高調波補償電圧を出力せずに、「0」の値を加算器62Cに出力する。
【0029】
加算器62Cには、乗算器62Bからの乗算結果(高調波)と、基本波AVR65の機能ブロックからの基本電圧(基本波)とが入力されるようになっており、これらの乗算結果と基本電圧とを加算する。そして、加算器62Cは、DC-AC変換器20に上記PWM信号を出力するPWM66の機能ブロックに対して、加算結果を出力する。
【0030】
PWM66の機能ブロックは、入力した加算結果を基にPWM信号を作成して、DC-AC変換器20に出力する。DC-AC変換器20は、入力したPWM信号に従って2次電池10Aからの直流電力を、上述の所要の電圧、周波数の交流電力に変換する。また、DC-AC変換器20は、高調波補償電圧がPWM信号に反映されている場合に(上記高調波補償指令がON信号である場合に)、上記高調波補償電圧によって連系点RTでの高調波歪みを抑制する電圧を、変換後の交流電力の電圧として出力する。
【0031】
すなわち、高調波補償制御部62では、PWM66の機能ブロックは加算器62Cで足し合わされた上記高調波と上記基本波との波形の出力が得られるように、DC-AC変換器20を制御する。これにより、DC-AC変換器20は、連系点RTでの高調波歪みを抑制するよう連系リアクトル40の電圧を制御するための高調波補償電圧を出力して、高調波歪みが抑制される。
【0032】
高調波補償指令部64は、BPF61Aからの高調波電流の大きさと、無効電力取得部63からの極性通知信号とを入力する。そして、高調波補償指令部64は、これらの高調波電流の大きさと極性通知信号とに基づいて、高調波補償制御部62を動作させるか動作させないかを決定して、高調波補償指令を生成する。
【0033】
具体的には、高調波補償指令部64は、無効電力が進相である場合に、高調波補償指令としてOFF信号を生成して、高調波補償制御部62の動作を停止させる。また、高調波補償指令部64は、無効電力が進相でない場合に、高調波電流の大きさが所定の電流設定値以上であれば、高調波補償指令としてON信号を生成して、高調波補償制御部62を動作させる。
【0034】
一方、高調波補償指令部64は、無効電力が進相でない場合に、高調波電流の大きさが上記電流設定値未満であれば、高調波補償指令としてOFF信号を生成して、高調波補償制御部62の動作を停止させる。すなわち高調波補償制御部62からの出力を0とし、高調波補償電圧をDC-AC変換器20に発生させないようにする。
【0035】
<高調波補償指令部64の詳細な構成>
ここで、図4図6も参照して、高調波補償指令部64の詳細な構成、及びその動作について具体的に説明する。図4は、図2に示した高調波補償指令部64の具体的な構成を示す図である。図5は、図1に示した負荷の種類と無効電力及び高調波電流との関係を示す表である。図6は、上記負荷の種類と高調波補償指令との関係を示す表である。
【0036】
図4に示されるように、高調波補償指令部64は、高調波電流の大きさが上記電流設定値以上であるか否かについて判別することによって当該高調波電流の大きさについての判別を行う電流判別64Aの機能ブロックと、電流判別64Aに接続されて、当該電流判別64Aの判別結果を遅延するON・OFFディレー64Bの機能ブロックとを備える。
【0037】
また、高調波補償指令部64は、無効電力が0以上であるか否かについて判別することによって当該無効電力の位相についての判別を行う電力判別64Cの機能ブロックと、電力判別64Cに接続されて、当該電力判別64Cの判別結果を遅延するON・OFFディレー64Dの機能ブロックとを備える。
【0038】
さらに、高調波補償指令部64は、ON・OFFディレー64B及び64Dの各機能ブロックからの判別結果のAND結果を求めるAND回路64Eを備えている。そして、AND回路64Eは、上記AND結果を基に高調波補償指令としてON信号またはOFF信号を生成して、乗算器62Bに出力する。
【0039】
具体的にいえば、図5に示されるように、上記負荷92が無負荷、R負荷、または整流器負荷である場合、無効電力はほぼ0である。無効電力がほぼ0であれば、電力判別64Cの機能ブロックは、「1」の値のON信号を出力する。また、負荷92がRL負荷である場合、無効電力は+Q(遅相)であり0以上の非負値となる。無効電力が非負値すなわち進相の無効電力でなければ、電力判別64Cの機能ブロックは、「1」の値のON信号を出力する。
【0040】
また、負荷92がRC負荷である場合、無効電力は-Q(進相)であり0未満である。無効電力が負値すなわち進相の無効電力であれば、電力判別64Cの機能ブロックは、「0」の値のOFF信号を出力する。このように電力判別64Cの機能ブロックは、無効電力に応じてON信号またはOFF信号を出力する。
【0041】
負荷92が無負荷、R負荷、RL負荷、またはRC負荷である場合、通常高調波電流は大きくない。高調波電流の大きさが上記電流設定値未満であれば、電流判別64Aの機能ブロックは、「0」の値のOFF信号を出力する。また、負荷92が整流器負荷である場合、通常高調波電流は大きい。高調波電流の大きさが上記電流設定値以上であれば、電流判別64Aの機能ブロックは、「1」の値のON信号を出力する。このように電流判別64Aの機能ブロックは、高調波電流の大きさに応じてON信号またはOFF信号を出力する。
【0042】
ON・OFFディレー64Bの機能ブロックは、電流判別64Aの機能ブロックからのON信号またはOFF信号を、所定期間(例えば、50msec~100msec)遅延して、AND回路64Eに出力する。この所定期間の遅延は、高調波電流の判別におけるハンチングの防止のためである。また、ON・OFFディレー64Dの機能ブロックは、電力判別64Cの機能ブロックからのON信号またはOFF信号を、所定期間(例えば、50msec~100msec)遅延して、AND回路64Eに出力する。この所定期間の遅延は、高調波電流の判別におけるハンチングの防止のためである。
【0043】
AND回路64Eは、図6に示されるように、ON・OFFディレー64B及び64Dの各機能ブロックからの「1」の値のON信号または「0」の値のOFF信号に従って、高調波補償指令としての「1」の値のON信号または「0」の値のOFF信号を作成する。つまり、AND回路64Eは、負荷92が無負荷、R負荷、RL負荷、またはRC負荷である場合、OFF信号の高調波補償指令を出力して、高調波補償制御部62の動作を停止させる。また、AND回路64Eは、負荷92が整流器負荷である場合、ON信号の高調波補償指令を出力して、高調波補償制御部62を動作させる。
【0044】
以上のように、本実施形態の電源システム1では、負荷92の種類に応じて、高調波補償制御部62の動作の有無が決定されるので、負荷92に対応して高調波を適切に補償することが可能となり、電力系統100に対する高調波電圧の悪影響を適切に抑えることができるようになるのである。
【0045】
尚、上記の説明では、高調波電流検出部61が1つの次数の高調波電流の大きさを検出するBPF61Aを備えて、当該1つの次数の高調波電流の大きさを検出する構成について説明した。しかしながら、本実施形態はこれに限定されるものではなく、高調波電流検出部61が複数の次数(例えば、5次、7次、11次、13次)の各高調波電流の大きさを検出する構成でもよい。
【0046】
上記のように、複数の次数の高調波電流の大きさを検出する場合には、高調波電流検出部61において、複数の次数の周波数にそれぞれ対応した複数のBPFを設けることで、当該高調波電流検出部61は、複数の次数の高調波電流ごとに高調波電流の大きさを検出すればよい。また、高調波補償指令部64は、複数の次数の高調波電流のうち、いずれかの高調波電流の大きさが当該次数の高調波電流について定められた所定の電流設定値以上であれば高調波補償制御部62を動作させてもよい。
【0047】
具体的にいえば、高調波補償指令部64において、複数の次数ごとに、電流判別64Aの機能ブロック、ON・OFFディレー64Bの機能ブロック、電力判別64Cの機能ブロック、ON・OFFディレー64Dの機能ブロック、及びAND回路64Eを設ける。さらに、複数のAND回路64EのAND結果のOR結果を求めるOR回路を設置して、当該OR回路のOR結果に基づき、高調波補償指令としての「1」の値のON信号または「0」の値のOFF信号を作成すればよい。
【0048】
尚、上記の説明以外に、複数の次数ごとに、電流判別64Aの機能ブロック及びON・OFFディレー64Bの機能ブロックを設けて、複数のON・OFFディレー64Bの機能ブロックのOR結果を求める電流判別用のOR回路を設置する。さらに、複数の次数で共通する一組の電力判別64Cの機能ブロック及びON・OFFディレー64Dの機能ブロックを設けて、電流判別用のOR回路とのAND結果を求めるAND回路を設置して、当該AND回路のAND結果に基づき、高調波補償指令としての「1」の値のON信号または「0」の値のOFF信号を作成する構成でもよい。
【0049】
このように、複数の次数ごとに高調波電流の大きさを検出して、いずれかの高調波電流の大きさが当該次数の高調波電流について定められた上記電流設定値以上であれば高調波補償制御部62を動作させる場合には、接続される負荷92に関わらず、高調波補償対象となる次数の高調波電圧をより確実に抑制することができる。
【0050】
<電源システム1の動作>
続いて、電源システム1の動作について説明する。まず、電源システム1の基本的な動作について説明する。上述のように、本実施形態の電源システム1では、エネルギー貯蔵装置10の電力を負荷92に供給する場合、高調波電流検出部61が電流計測器30の計測結果を基に負荷92へのAC出力の電流に含まれた高調波電流の大きさを検出する検出工程を行う。
【0051】
次に、無効電力取得部63は、電圧計測器50の計測結果を基に上記AC出力の無効電力の位相を取得する取得工程を行う。その後、高調波補償指令部64は、無効電力取得部63から無効電力が進相であることを通知されると、高調波補償制御部62の動作を停止させる停止工程を行う。
【0052】
<RC負荷投入時の動作>
次に、従来の電源システムにおいては、高調波を適切に補償できないおそれがある、RC負荷が負荷として投入された場合での動作について説明する。
【0053】
[比較例での動作]
まず、図7図10を参照して、比較例において、RC負荷が負荷92として投入された場合での動作を具体的に説明する。図7は、比較例の制御ロジックの具体例を示す図である。図8は、上記比較例での高調波補償動作の具体例を説明する図である。図9は、上記比較例での動作波形の具体例を示す波形図である。図10は、上記比較例での連系点電圧を高速フーリエ変換して、各周波数における電圧成分の大きさを示した結果例を示す図である。
【0054】
図7に示されるように、比較例では、DC-AC変換器120を介して、2次電池100AからのDC出力をAC出力に変換して、連系リアクトル40及び連系点RTに接続されたRC負荷90Aに供給する。比較例では、電流計測器130及びBPF161Aを用いて、AC出力の電流に含まれた高調波電流Ihの大きさを検出し、高調波信号発生器162Aによって高調波補償電圧Vhc(=jnωL・Ih)を算出して加算器162Cに出力する。
【0055】
尚、上記AC出力の電圧をVhとし、連系リアクトル140及びRC負荷90Aを含んだインピーダンスをZhsとした場合、高調波電流Ihは、図7に示されるように、上記AC出力の電圧Vhを、DC-AC変換器120側から見た、インピーダンスZhsにて除算した値となる。
【0056】
そして、比較例では、高調波補償の制御量である、上記高調波補償電圧Vhcと、基本波AVR165の機能ブロックからの基本電圧とが加算器162Cで加算されて、PWM166の機能ブロックに出力される。そして、比較例では、PWM166の機能ブロックが加算器162Cからの加算結果を基にPWM信号を作成して、DC-AC変換器120に出力する。これにより、比較例では、RC負荷90Aが連系点RTに接続された場合でも、検出した高調波電流Ihの大きさに基づいて、高調波補償の制御動作が行われる。
【0057】
比較例では、図8に示されるように、上記インピーダンスZhsが容量性であるか、または誘導性であるかによって、高調波の補償が適切に行われずに、高調波電圧の歪みを逆に大きくすることがある。
【0058】
すなわち、図8に示されるように、インピーダンスZhsが容量性である場合、高調波補償電圧Vhcは、AC出力の電圧Vhに対して、極性が逆であり、当該電圧Vhに含まれた高調波電圧を補償(抑制)するように作用する。尚、インピーダンスZhsが容量性である場合とは、電力系統のLC共振点よりも、制御しようとする高調波が低い周波数となっている状態のことをいう。
【0059】
一方、インピーダンスZhsが誘導性である場合、高調波補償電圧Vhcは、AC出力の電圧Vhに対して、極性が同一であり、当該電圧Vhに含まれた高調波電圧を拡大するように作用する。尚、インピーダンスZhsが誘導性である場合とは、電力系統のLC共振点よりも、制御しようとする高調波が高い周波数となっている状態のことをいう。
【0060】
このように、比較例では、常時、高調波電流の大きさに基づく高調波補償の制御動作が行われているため、高調波電圧を増大させて過電圧を生じることがあり、DC-AC変換器120に損傷が生じて電源システムの信頼性が低下するおそれがあった。
【0061】
具体的には、比較例では、インピーダンスZhsが誘導性である場合において、高調波補償の制御動作が行われると、例えば、図9の時点T11から時点T12の間で示されるように、RC負荷90Aに供給される連系点電圧及び連系点電流が共に拡大する。すなわち、図9のA部拡大に示されるように、三相の各相の連系点電圧及び三相の各相の連系点電流での歪みが各々大きくなっている。
【0062】
また、図10に示されるように、比較例では、上記連系点電圧に対して、5次(300Hz)の高調波電圧は、基本波に対して48.7%と非常に拡大した値となった。また、比較例では、THD(全高調波歪率)の値も、58.83%と非常に高い値となった。
【0063】
[本実施形態での動作]
次に、図11図13も参照して、本実施形態の電源システム1において、比較例の図9のケースと同じRC負荷が負荷92として投入された場合での動作を具体的に説明する。図11は、上記電源システム1での高調波補償動作の具体例を説明する図である。図12は、上記電源システム1での高調波補償動作の具体例を説明する図である。図13は、上記電源システム1での連系点電圧を高速フーリエ変換して、各周波数における電圧成分の大きさを示した結果例を示す図である。
【0064】
本実施形態では、RC負荷が負荷92として投入された場合、図6に示したように、高調波補償指令部64は、高調波補償指令として「0」の値のOFF信号を乗算器62Bに出力する。このため、本実施形態では、高調波補償制御部62の動作が停止される。
【0065】
具体的にいえば、図11の時点T0で負荷92(RC負荷)が投入されると、有効電力P[W]は大きくなる。一方、無効電力Q[Var]は、0以下、例えば、-10[Var]の電力設定値SH1未満の値となる。それゆえ、無効電力Q[Var]の位相は進相となり、高調波電流の大きさに関わらず、高調波補償指令はOFF信号となって、高調波補償制御部62を動作させない。
【0066】
その結果、本実施形態では、例えば、図11の時点T1から時点T2の間で示されるように、負荷92(RC負荷)に供給される連系点電圧及び連系点電流は変化(拡大)しない。すなわち、図11のB部拡大に示されるように、三相の各相の連系点電圧及び三相の各相の連系点電流での歪みは生じていない。
【0067】
図12に示されるように、5次高調波電圧の大きさ及び7次高調波電圧の大きさは図12のグラフV5及びV7でそれぞれ示されるように、上記時点T0以降若干増えるものの、例えば、10[V]の電圧値SH2未満の非常に小さい値に収まる。よって、高調波補償指令の値は、時点T0を経過しても「0」の値のOFF信号で維持される。
【0068】
また、図13に示されるように、本実施形態では、上記連系点電圧の、5次(300Hz)の高調波電圧は、基本波に対して0.6664%と非常に小さい値となった。また、本実施形態では、THD(全高調波歪率)の値も、1.19%と非常に低い値となった。
【0069】
<負荷条件の変更時の動作>
次に、図14図17も参照して、本実施形態の電源システム1において、負荷92の種類を順次変えて負荷条件を変更した場合での動作について説明する。図14は、上記電源システム1での負荷条件の変更例を示す表である。図15は、上記電源システム1において、図14に従い負荷条件を変更した場合での高調波補償動作の具体例を説明する図である。図16は、上記電源システム1において、図15の時点T25以降での高調波補償動作の具体例を説明する図である。図17は、上記電源システム1において、図14の負荷条件を変更した場合での連系点電圧を高速フーリエ変換して、各周波数における電圧成分の大きさを示した結果例を示す図である。
【0070】
本実施形態において、負荷92として、例えば、図14に示される負荷条件で切替番号I~IVの順番に順次切り替えた場合での動作について具体的に説明する。
【0071】
本実施形態では、図15の時点T20でDC-AC変換器20がAC出力を開始すると、連系点電圧が所定の電圧に立ち上がる。その後、本実施形態では、図15の時点T21で無負荷の状態からR負荷が負荷92として投入されると(切替I)、連系点電流が流れ始め、有効電力Pが正となる。無効電力Qはほぼ0の値で維持される。すなわち、この無効電力Qは、電力設定値SH1(例えば、-10[Var])以上の値である。連系点電流に含まれる高調波電流は非常に小さく、上記電流設定値未満であるので、高調波補償指令は、OFF信号で維持される。
【0072】
なお、5次高調波電圧の大きさ及び7次高調波電圧の大きさは図15のグラフV5及びV7でそれぞれ示されるように、電流設定値に対応する、例えば、10[V]の電圧値SH2未満の値となる。
【0073】
次に、図15の時点T22でR負荷がRL負荷に切り替えられて負荷92として投入されると(切替II)、有効電力Pは若干低減する。また、遅相の無効電力Qが生じるようになり、無効電力Qは正値である。連系点電流に含まれる高調波電流は非常に小さく、上記電流設定値未満であるので、高調波補償指令は、OFF信号で維持される。このため、高調波補償指令は、OFF信号で維持される。また、5次高調波電圧及び7次高調波電圧は図15のグラフV5及びV7でそれぞれ示されるように、上記時点T22以降若干変動するが、上記電圧値SH2未満の値で維持される。
【0074】
次に、図15の時点T23でRL負荷がRC負荷に切り替えられて負荷92として投入されると(切替III)、有効電力Pは若干変動した後に安定する。また、無効電力Qは、0よりも小さい、上記電力設定値SH1未満の負値となる。すなわち、無効電力が進相であると判別されて、連系点電流に含まれる高調波電流の大きさに関わらず、高調波補償指令は、OFF信号で維持される。また、5次高調波電圧の大きさ及び7次高調波電圧の大きさは図15のグラフV5及びV7でそれぞれ示されるように、上記時点T23以降若干大きくなるが、上記電圧値SH2未満の値で維持される。
【0075】
次に、図15の時点T24でRC負荷が整流器負荷に切り替えられて負荷92として投入されると(切替IV)、有効電力Pは、時点T24以降に若干小さい値となって維持される。また、遅相の無効電力Qが生じるようになり、無効電力Qは正値である。整流器負荷の非線形性は大きく、連系点電流に含まれる高調波電流の大きさは、上記電流設定値以上となるので、高調波補償指令は、時点T25でOFF信号からON信号に切り替えられる。これにより、高調波補償制御部62の動作が行われる。なお、5次高調波電圧の大きさ及び7次高調波電圧の大きさは図15のグラフV5及びV7でそれぞれ示されるように、上記時点T24以降増大する。
【0076】
また、連系点電圧は若干小さくなるが時点T25で高調波補償の動作が実施されると上記所定の電圧に復帰する。また、連系点電流は、若干小さくなった後、時点T25で若干大きくなって安定する。
【0077】
以上のように、本実施形態の電源システム1では、連系点RTに接続される負荷の種類に対応して、高調波補償制御部の動作を実施または停止させるようになっている。
【0078】
また、本実施形態の電源システム1では、高調波補償の動作が実施されると、連系点電圧及び連系点電流は、図16のグラフに示すように、ともに歪みの発生が抑制された波形となる。また、高調波補償の動作により、高調波電圧の歪みが抑制されるので、図17に示されるように、上記連系点電圧の、5次(300Hz)の高調波電圧は、基本波に対して1.006%と低減された。また、本実施形態では、THD(全高調波歪率)の値も、4.99%と低い値となった。
【0079】
以上のように構成された本実施形態の電源システム1、及びその制御方法では、制御部60は電流に含まれた高調波電流の大きさを検出する高調波電流検出部61と、高調波電流の大きさに応じてDC-AC変換器20を制御して、AC出力に含む高調波電圧を操作する高調波補償制御部62と、AC出力の無効電力の位相を取得する無効電力取得部63と、無効電力が進相である場合に、高調波補償制御部62の動作を停止させる高調波補償指令部64と、を備えている。これにより、本実施形態では、図15に例示したように、接続される負荷92に関わらず、高調波電圧に起因する過電圧を抑制することができる信頼性に優れた電源システム1を構成することができる。
【0080】
また、本実施形態では、高調波補償指令部64は、上記無効電力が進相でない場合に、高調波電流の大きさが電流設定値以上であれば、高調波補償制御部62を動作させ、高調波電流の大きさが電流設定値未満であれば、高調波補償制御部62の動作を停止させる。これにより、本実施形態では、接続される負荷92に関わらず、高調波補償制御部62の適切な動作を確実に行わせることができ、高調波電圧に起因する過電圧を確実に抑制することができる。
【0081】
また、上記実施形態の説明において、各相の制御は、特に相ごとに区別されず、一括の制御によって実行されるように記載された。その際に制御部は、電圧測定値や電流測定値として、電圧は各相の中で最小の値、電流は各相の中で最大の値を採用するようにして制御を実行すればよい。あるいは、電流測定値として3相瞬時実効値(各相の瞬時電圧値の二乗平均平方根)を採用してもよい。しかし各相の制御は、制御部が、相毎に別個に行うものであってもよい。この場合、電流設定値が一括に定められるものであっても、相毎に定められるものであってもよい。
【0082】
〔ソフトウェアによる実現例〕
電源システム1の各機能ブロック(特に、制御部60)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0083】
後者の場合、電源システム1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。
【0084】
上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0085】
〔まとめ〕
上記の課題を解決するために、本開示の一側面に係る電源システムは、エネルギー貯蔵装置と、前記エネルギー貯蔵装置のDC出力をAC出力に変換して負荷に出力する変換器と、前記AC出力の電流を計測する電流計測器と、前記AC出力の電圧を計測する電圧計測器と、前記変換器を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記電流に含まれた高調波電流の大きさを検出する高調波電流検出部と、前記高調波電流の大きさに応じて前記変換器を制御して、前記AC出力に含む高調波電圧を操作する高調波補償制御部と、前記AC出力の無効電力の位相を取得する無効電力取得部と、前記無効電力が進相である場合に、前記高調波補償制御部の動作を停止させる高調波補償指令部と、を備える。
【0086】
上記構成によれば、接続される負荷に関わらず、高調波電圧に起因する過電圧を抑制することができる信頼性に優れた電源システムを提供することができる。
【0087】
上記一側面に係る電源システムにおいて、前記高調波補償指令部は、前記無効電力が進相でない場合に、前記高調波電流の大きさが電流設定値以上であれば、前記高調波補償制御部を動作させ、前記高調波電流の大きさが電流設定値未満であれば、前記高調波補償制御部の動作を停止させてもよい。
【0088】
上記構成によれば、接続される負荷に関わらず、高調波補償制御部の適切な動作を確実に行わせることができ、高調波電圧に起因する過電圧を確実に抑制することができる。
【0089】
上記一側面に係る電源システムにおいて、前記高調波電流検出部は、複数の次数の高調波電流ごとに高調波電流の大きさを検出し、前記高調波補償指令部は、複数の次数の前記高調波電流のうち、いずれかの前記高調波電流の大きさが当該次数の高調波電流について定められた電流設定値以上であれば前記高調波補償制御部を動作させてもよい。
【0090】
上記構成によれば、接続される負荷に関わらず、高調波補償対象となる次数の高調波電圧をより確実に抑制することができる。
【0091】
また、本開示の一側面に係る電源システムの制御方法は、エネルギー貯蔵装置と、前記エネルギー貯蔵装置のDC出力をAC出力に変換して負荷に出力する変換器と、前記AC出力の電流に含まれた高調波電流の大きさを検出する高調波電流検出部と、前記高調波電流の大きさに応じて前記変換器を制御して、前記AC出力に含む高調波電圧を操作する高調波補償制御部と、前記AC出力の無効電力の位相を取得する無効電力取得部と、を備えた電源システムの制御方法であって、前記高調波電流の大きさを検出する検出工程と、前記AC出力の無効電力の位相を取得する取得工程と、前記無効電力が進相である場合に、前記高調波補償制御部の動作を停止させる停止工程と、を備える。
【0092】
上記構成によれば、接続される負荷に関わらず、高調波電圧に起因する過電圧を抑制することができる信頼性に優れた電源システムの制御方法を提供することができる。
【0093】
本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
1 電源システム
10 エネルギー貯蔵装置
20 DC-AC変換器(変換器)
30 電流計測器
50 電圧計測器
60 制御部
61 高調波電流検出部
62 高調波補償制御部
63 無効電力取得部
64 高調波補償指令部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17