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特開2023-54658ポリアミド多孔質膜及びポリアミド多孔質膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054658
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】ポリアミド多孔質膜及びポリアミド多孔質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20230407BHJP
   B29C 67/20 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
C08J9/00 A CFG
B29C67/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163634
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(71)【出願人】
【識別番号】000223045
【氏名又は名称】東洋濾紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上原 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】撹上 将規
(72)【発明者】
【氏名】山延 健
(72)【発明者】
【氏名】増田 彩香
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
【テーマコード(参考)】
4F074
4F214
【Fターム(参考)】
4F074AA71
4F074CA03
4F074CA04
4F074CA05
4F074CA06
4F074CC02X
4F074CC02Y
4F074CC04X
4F074CC04Y
4F074CC28X
4F074DA08
4F074DA10
4F074DA23
4F074DA43
4F214AA29
4F214AC03
4F214AG20
4F214UA32
4F214UB01
4F214UC30
4F214UF01
4F214UG27
4F214UW02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】良好な多孔質構造を有するポリアミド多孔質膜、及び有機溶剤、酸等を使用することなく製造することができ、良好な多孔質構造を有するポリアミド多孔質膜の製造方法の提供。
【解決手段】ポリアミド樹脂の凝集体であるノード10と、上記ノードを連結し、且つポリアミド樹脂により構成されるフィブリル11とを含む多孔質構造を有する、ポリアミド多孔質膜。ポリアミド樹脂を含有するポリアミドフィルムを幅拘束延伸し、前記ポリアミド樹脂の凝集体であるノードと、前記ノードを連結し、且つポリアミド樹脂により構成されるフィブリルとを含む多孔質構造を形成する、ポリアミド多孔質膜の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂の凝集体であるノードと、
前記ノードを連結し、且つポリアミド樹脂により構成されるフィブリルと
を含む多孔質構造を有する、ポリアミド多孔質膜。
【請求項2】
前記フィブリルが一方向に延びる、請求項1に記載のポリアミド多孔質膜。
【請求項3】
前記ノードが、前記フィブリルが延びる方向とは異なる方向に延びる、請求項2に記載のポリアミド多孔質膜。
【請求項4】
前記フィブリルが延びる方向の破断強度が50MPa以上である、請求項2又は請求項3のいずれか一項に記載のポリアミド多孔質膜。
【請求項5】
25℃で測定した窒素透過係数が、1×10-13mol・m/(m・s・Pa)以上である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のポリアミド多孔質膜。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂がポリカプロラクタムを含む、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のポリアミド多孔質膜。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂の全質量に対する前記ポリカプロラクタムの含有率が、70質量%以上である、請求項6に記載のポリアミド多孔質膜。
【請求項8】
ポリアミド多孔質膜の全質量に対する前記ポリアミド樹脂の含有率が50質量%以上である、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のポリアミド多孔質膜。
【請求項9】
前記フィブリルの平均長さが、1μm~500μmである、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載のポリアミド多孔質膜。
【請求項10】
前記ノードの幅が、1μm~500μmである、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載のポリアミド多孔質膜。
【請求項11】
ポリアミド多孔質膜の表面におけるフィブリルの面積割合が10%~90%である、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載のポリアミド多孔質膜。
【請求項12】
厚みが、1μm~500μmである、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載のポリアミド多孔質膜。
【請求項13】
ポリアミド樹脂を含有するポリアミドフィルムを幅拘束延伸し、前記ポリアミド樹脂の凝集体であるノードと、前記ノードを連結し、且つポリアミド樹脂により構成されるフィブリルとを含む多孔質構造を形成する、ポリアミド多孔質膜の製造方法。
【請求項14】
前記ポリアミド樹脂がポリカプロラクタムを含む、請求項13に記載のポリアミド多孔質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリアミド多孔質膜及びポリアミド多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は高い融点を有するエンジニアリングプラスチックである。ポリアミド樹脂は、極性官能基であるアミド基(-CO-NH-)を有しており、酸素、硫黄、窒素、ハロゲン等の電気陰性度の大きい原子を含む吸着質と水素結合を形成するため、ポリアミド樹脂を含有する多孔質膜は良好な分離能をもつフィルターとしての利用が期待されている。例えば、ポリアミド樹脂を含有する多孔質膜は、大規模集積回路(Large Scale Integration:LSI)洗浄用の超純水に混入する金属粒子等の不純物の検定、除去等をするためのフィルターに有用であると考えられる。
【0003】
ポリアミド樹脂を含有する多孔質膜として、特許文献1には、表層が孔径5~50μmのハニカム多孔構造を有し、内部が三次元網目状に形成され、かつ網目内部の空孔が連続気孔構造を有し、上記ハニカム多孔構造と上記網目状構造が連通して形成される、ポリアミド多孔質膜が開示される。
特許文献2には、芳香族ポリアミドを含む多孔質膜において、上記多孔質膜が開口率の異なる表面を有し、開口率の小さい方の表面(小開口率面)の開口率Paと、開口率の大きい方の表面(大開口率面)の開口率Pbとの比Pa/Pbが0.05以上0.90以下であり、かつ、少なくとも一方の表面の酸素原子と炭素原子との比(O/C)が0.05以上0.40以下である、多孔質膜が開示される。
特許文献3には、微細な貫通孔を有する、多孔質構造を持ち、空孔率15~85%、孔径0.01~5μm、膜厚10~50μmである多孔質ポリアミドフィルムであって、かつ、膜の断面方向に、微多孔質からなる層と相対的に大きな空隙または開口部を有する層とが積み重なった構造を有し、且つ上記2層が貫通微細孔により互いに連結されている、フィルター用多孔質ポリアミドフィルムが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-106261号公報
【特許文献2】特開2007-254577号公報
【特許文献3】特開2001-113143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
今般、本発明者らは、従来公知のポリアミド樹脂を含有する多孔質膜が有する多孔質構造にはさらなる改善の余地があるとの知見を得た。
また、本発明者らは、従来公知のポリアミド樹脂を含有する多孔質膜は、有機溶剤、酸等を使用した方法(湿式法、トラックエッチング法を利用した方法)により製造されており、この多孔質膜をフィルターとして使用した場合、多孔質膜に残存する有機溶剤、酸等が超純水等に混入するおそれがあるとの新たな問題を見出した。
【0006】
本開示の解決しようとする課題は、良好な多孔質構造を有するポリアミド多孔質膜を提供することである。
本開示の解決しようとする課題は、有機溶剤、酸等を使用することなく製造することができ、良好な多孔質構造を有するポリアミド多孔質膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1> ポリアミド樹脂の凝集体であるノードと、
上記ノードを連結し、且つポリアミド樹脂により構成されるフィブリルと
を含む多孔質構造を有する、ポリアミド多孔質膜。
<2> 上記フィブリルが一方向に延びる、上記<1>に記載のポリアミド多孔質膜。
<3> 上記ノードが、上記フィブリルが延びる方向とは異なる方向に延びる、上記<2>に記載のポリアミド多孔質膜。
<4> 上記フィブリルが延びる方向の破断強度が50MPa以上である、上記<2>又は<3>のいずれか1つに記載のポリアミド多孔質膜。
<5> 25℃で測定した窒素透過係数が、1×10-13mol・m/(m・s・Pa)以上である、上記<1>~<4>のいずれか1つに記載のポリアミド多孔質膜。
<6> 上記ポリアミド樹脂がポリカプロラクタムを含む、上記<1>~<5>のいずれか1つに記載のポリアミド多孔質膜。
<7> 上記ポリアミド樹脂の全質量に対する上記ポリカプロラクタムの含有率が、70質量%以上である、上記<6>に記載のポリアミド多孔質膜。
<8> ポリアミド多孔質膜の全質量に対する上記ポリアミド樹脂の含有率が50質量%以上である、上記<1>~<7>のいずれか1つに記載のポリアミド多孔質膜。
<9> 上記フィブリルの平均長さが、1μm~500μmである、上記<1>~<8>のいずれか1つに記載のポリアミド多孔質膜。
<10> 上記ノードの幅が、1μm~500μmである、上記<1>~<8>のいずれか1つに記載のポリアミド多孔質膜。
<11> ポリアミド多孔質膜の表面におけるフィブリルの面積割合が10%~90%である、上記<1>~<10>のいずれか1つに記載のポリアミド多孔質膜。
<12> 厚みが、1μm~500μmである、上記<1>~<11>のいずれか1つに記載のポリアミド多孔質膜。
<13> ポリアミド樹脂を含有するポリアミドフィルムを幅拘束延伸し、上記ポリアミド樹脂の凝集体であるノードと、上記ノードを連結し、且つポリアミド樹脂により構成されるフィブリルとを含む多孔質構造を形成する、ポリアミド多孔質膜の製造方法。
<14> 上記ポリアミド樹脂がポリカプロラクタムを含む、上記<13>に記載のポリアミド多孔質膜の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、良好な多孔質構造を有するポリアミド多孔質膜を提供することができる。
本開示によれば、有機溶剤、酸等を使用することなく製造することができ、良好な多孔質構造を有するポリアミド多孔質膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1のポリアミド多孔質膜表面のSEM画像を示す。
図2図2は、図1の一部を拡大したSEM画像を示す。
図3図3は、実施例2のポリアミド多孔質膜表面のSEM画像を示す。
図4図4は、図3の一部を拡大したSEM画像を示す。
図5図5は、比較例2の延伸フィルム表面のSEM画像を示す。
図6図6は、比較例3の延伸フィルムのSEM画像及びSEM画像の一部を拡大した画像を示す。
図7図7は、気体透過性評価の一実施形態を説明するための模式図である。
図8図8は、実施例1のポリアミド多孔質膜の試験片の各ブロックの気体透過係数を示す図である。
図9図9は、実施例2のポリアミド多孔質膜の試験片の各ブロックの気体透過係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は下記実施形態に限定されるものではない。下記実施形態において、その構成要素は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0011】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0012】
本開示において、各成分には、該当する物質が複数種含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
【0013】
(ポリアミド多孔質膜)
本開示のポリアミド多孔質膜は、ポリアミド樹脂の凝集体であるノードと、ノードを連結し、且つポリアミド樹脂により構成されるフィブリルとを含む多孔質構造を有する。
【0014】
本開示によれば、良好な多孔質構造を有するポリアミド多孔質膜を提供することできる。
【0015】
上記効果が奏される理由は以下のように推測されるが、これに限定されない。
本開示のポリアミド多孔質膜は、ポリアミド樹脂の凝集体であるノードと、ノードを連結し、且つポリアミド樹脂により構成されるフィブリルとを含む構造を有する。ノード間に形成されるフィブリルにスリット状の細孔が形成され、且つフィブリルは、ノードにより保持されるため、良好な多孔質構造が形成されると推測される。
【0016】
本開示のポリアミド多孔質膜は、ポリアミド樹脂の凝集体であるノードと、上記ノードを連結するフィブリルとを含む多孔質構造を有する。多孔質構造において、ノードを連結するフィブリルが細孔を形成し、上記細穴を液体及び気体が通過することができるため、本開示のポリアミド多孔質膜は、不純物除去のためのフィルター等として好適に使用することができる。
【0017】
フィブリルは、一方向に延びることが好ましい。本開示のポリアミド多孔質膜において、フィブリルが一方向に延びることにより、多孔質構造が良好に形成されるとともに、多孔質構造が良好に維持され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
一実施形態において、上記一方向は、後述するポリアミド多孔質膜の製造方法において実施する幅拘束延伸の延伸方向である。
【0018】
ノードは、一方向に延びることが好ましく、フィブリルが延びる方向とは異なる方向に延びることが好ましい。
本開示のポリアミド多孔質膜において、ノードが一方向に延びることにより、多孔質構造が良好に形成されるとともに、多孔質構造が良好に維持され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
一実施形態において、上記一方向は、後述するポリアミド多孔質膜の製造方法において実施する幅拘束延伸の延伸方向に対し垂直方向である。
【0019】
フィブリルが一方向に延び、且つノードが延びる方向とは異なる方向に延びる場合、ノードの延びる方向と、フィブリルの延びる方向とがなす角度は、45°~135°であることが好ましく、60°~120°であることがより好ましく、70°~110°であることがさらに好ましい。ノードの延びる方向と、フィブリルの延びる方向とがなす角度を上記数値範囲内とすることにより、多孔質構造が良好に形成されるとともに、多孔質構造が良好に維持され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
【0020】
上記角度の測定は、以下の方法により測定する。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、ポリアミド多孔質膜の表面のSEM画像を得る。
次に、1000μm×1000μmの観察領域において、ノードの延びる方向と、フィブリルの延びる方向とがなす角度の平均値を求め、これを上記角度とする。
【0021】
フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させるという観点からは、水銀圧入法で測定した本開示のポリアミド多孔質膜が有する細孔の細孔径は、500nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
上記細孔径の上限は、特に限定されるものではなく、1000nm以上とすることができる。
【0022】
フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させるという観点からは、本開示のポリアミド多孔質膜が有する細孔径の比表面積は、1m/g以上であることが好ましく、5m/g以上であることがより好ましい。
本開示において、細孔径の比表面積は、水銀圧入法により測定する。
【0023】
フィブリルの平均長さは、1μm~500μmであることが好ましく、5μm~100μmであることがより好ましい。
フィブリルの平均長さを上記数値範囲内とすることにより、多孔質構造が良好に形成され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
【0024】
ノードの幅は、1μm~500μmであることが好ましく、5μm~100μmであることがより好ましい。
ノードの幅を上記数値範囲内とすることにより、多孔質構造が良好に維持され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
【0025】
本開示において、フィブリルの平均長さ及びノードの幅は、以下の方法により測定する。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、ポリアミド多孔質膜の表面のSEM画像を得る。
次に、1000μm×1000μmの観察領域に含まれるフィブリルの長さ及びノードの帯の幅をすべて測定し、これらの平均値をフィブリルの平均長さ及びノードの幅とする。
【0026】
ポリアミド多孔質膜の表面におけるフィブリルの面積割合は、10%~90%であることが好ましく、25%~75%であることがより好ましく、40%~70%がさらに好ましい。
フィブリルの面積割合を90%以下とすることにより、多孔質構造が良好に形成されるとともに、多孔質構造が良好に維持され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
【0027】
フィブリルの面積割合の測定は、以下の方法により測定する。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、ポリアミド多孔質膜の表面のSEM画像を得る。
次に、1000μm×1000μmの観察領域を画像処理し、ピクセル比によりフィブリルの面積割合を測定する。
【0028】
本開示のポリアミド多孔質膜は、ポリアミド樹脂を含む。
ポリアミド樹脂は、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリンラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン2,6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン4,6)、ポリヘキサメチレンジアジパミド(ナイロン6,6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6,10)、ポリへキサメチレンデカミド(ナイロン6,12)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン8,6)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン10,6)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン12、10)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン10,12)、メタキシレンジアミン6ナイロン、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン11,6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリテトラメチレンスクシナミド(ナイロン4,4)、ポリテトラメチレングルタミド(ナイロン4,5)、ポリテトラメチレンアゼラミド(ナイロン4,9)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン4,10)、ポリテトラメチレンドデカミド(ナイロン4,12)、ポリペンタメチレンスクシナミド(ナイロン5,4)、ポリペンタメチレングルタミド(ナイロン5,5)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン5,6)、ポリペンタメチレンアゼラミド(ナイロン5,9)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン5,10)、ポリペンタメチレンドデカミド(ナイロン5,12)、ポリヘキサメチレンスクシナミド(ナイロン6,4)、ポリヘキサメチレングルタミド(ナイロン6,5)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ナイロン6,9)、ポリノナメチレンアジパミド(ナイロン9,6)、ポリノナメチレンアゼラミド(ナイロン9,9)、ポリノナメチレンセバカミド(ナイロン9,10)、ポリノナメチレンドデカミド(ナイロン9,12)、ポリデカメチレンアゼラミド(ナイロン10,9)、ポリドデカメチレンアジパミド(ナイロン12,6)、ポリドデカメチレンアゼラミド(ナイロン12,9)、ポリドデカメチレンセバカミド(ナイロン12,10)、ポリドデカメチレンドデカミド(ナイロン12,12)、ナイロン9,2、ナイロン10,2、ナイロン12,2、ナイロン6,2及びこれらの共重合体からなる群より選択される1種以上のナイロンを含むことができる。
多孔質構造が良好に形成され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができるという観点からは、ポリアミド樹脂は、ポリカプロラクタム、ポリエチレンジアミンアジパミド及びこれらの共重合体からなる群より選択される1種以上のポリアミドを含むことが好ましく、ポリカプロラクタムを含むことがより好ましい。
【0029】
上記ポリアミド樹脂に含まれるポリアミドは、荷電修飾されたものであってもよい。荷電修飾されたポリアミドをポリアミド樹脂が含むことにより、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。特に、金属粒子等に対する吸着性能を向上させることができる。
ポリアミドの荷電修飾に使用することのできる材料は、従来公知の材料を使用することができ、例えば、エピクロヒドリンとポリジアリルメチルアミンとの反応物等が挙げられる。
【0030】
ポリアミド樹脂がポリカプロラクタムを含む場合、ポリアミド樹脂の全質量に対するポリカプロラクタムの含有率は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが最も好ましく、100質量%であってもよい。
ポリカプロラクタムの含有率を上記数値範囲内とすることにより、多孔質構造が良好に形成され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
【0031】
ポリアミド多孔質膜の全質量に対するポリアミド樹脂の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
ポリアミド樹脂の含有率を上記数値範囲内とすることにより、多孔質構造が良好に形成され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
上記ポリアミド樹脂の含有率の上限は、特に限定されるものではなく、95質量%以下とすることができる。
【0032】
本開示のポリアミド多孔質膜は、有機溶剤及び酸を含有しない、又は有機溶剤及び酸の少なくとも一方を含有し、且つポリアミド多孔質膜の質量に対する合計含有率が5質量%未満であることが好ましく、有機溶剤及び酸を含有しないことがより好ましい。
ポリアミド多孔質膜中における有機溶剤及び酸の含有率が小さいことにより、フィルターとして使用した場合に、超純水中等への有機溶剤及び酸の混入を防止することができる。
有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1ブタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロエタノール等のアルコール溶媒、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチレンホスホルアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホン、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、2-ブタノン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。
酸としては、ギ酸、硝酸、硫酸等が挙げられる。
【0033】
本開示のポリアミド多孔質膜の25℃で測定した窒素透過係数は、1×10-13mol・m/(m・s・Pa)以上であることが好ましく、5×10-13mol・m/(m・s・Pa)以上であることがより好ましく、1×10-12mol・m/(m・s・Pa)以上であることがさらに好ましい。
本開示のポリアミド多孔質膜の窒素透過係数を上記数値範囲内とすることにより、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
上記窒素透過係数の上限は、特に限定されるものではなく、1×10-8mol・m/(m・s・Pa)以下とすることができる。
【0034】
本開示において、窒素透過係数の測定は、以下のようにして行う。
まず、本開示のポリアミド多孔質膜を直径30mmの円形に切り出し、試験片とする。
次いで、25℃の環境において、膜拡散測定装置の測定セルに、上記円形の試験片をセットする。
次いで、高圧側ガス溜に窒素ガスを導入し、セル低圧側を真空引きする。
セル高圧側バルブを開いて窒素ガスを導入して、ガス透過測定を開始する。
この際の電圧変化の時間変化を記録し、下記式に従って、窒素透過係数を算出する(低圧側及び高圧側の電圧(1V=1.6KPa))。
膜拡散測定装置としては、グラフテック株式会社製のデータロガーGL20を接続したツクバリカセイキ株式会社製のK-315N-01又はこれと同程度の装置を使用することができる。
Q1=(V/(R×T×P×A))×(dp/dt)
p1=Q1×L
(式中、
Q1:窒素透過度(mol/(m・s・Pa))
p1=窒素透過係数(mol・m/(m・s・Pa))
V:セル低圧側容積(L)
A:透過面積(m)(なお、π=3.14)
T:試験温度(℃)
P:供給気体差圧(Pa)
dp/dt:単位時間(t)における低圧側の圧力(p)変化(Pa/s)
L:試験片の厚み)
【0035】
本開示のポリアミド多孔質膜の厚みは、1μm~500μmであることが好ましく、10μm~500μmであることがより好ましく、10μm~100μmであることがさらに好ましい。
ポリアミド多孔質膜の厚みを1μm以上とすることにより、ポリアミド多孔質膜の強度を向上することができ、加工等を行う際における破断を抑制することができる。
ポリアミド多孔質膜の厚みを500μm以下とすることにより、多孔質構造が良好に連通し、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
本開示において、ポリアミド多孔質膜の厚みの測定は、マイクロメーターにより任意の5点を計測した値の平均値として求められる。マイクロメーターとしては、例えば、株式会社ミツトヨ製のMDH-25MB又はこれと同等の装置を使用することができる。
【0036】
フィブリルが一方向に延びる場合、加工等を行う際における破断を抑制する観点からは、本開示のポリアミド多孔質膜のフィブリルが延びる方向への破断強度は、50MPa以上であることが好ましく、100MPa以上であることがより好ましい。破断強度の上限は特に限定されるものではなく、500MPa以下とすることができる。
【0037】
フィブリルが一方向に延びる場合、加工等を行う際における破断を抑制する観点からは、本開示のポリアミド多孔質膜のフィブリルが延びる方向に対し垂直方向への破断強度は、20MPa以上であることが好ましく、30MPa以上であることがより好ましい。破断強度の上限は特に限定されるものではなく、500MPa以下とすることができる。
【0038】
本開示のポリアミド多孔質膜のフィブリルが延びる方向への破断強度に対するフィブリルが延びる方向に対し垂直方向への破断強度の比(フィブリルが延びる方向に対し垂直方向への破断強度/フィブリルが延びる方向への破断強度)は、1/10~9/10であることが好ましく、2/10~7/10であることがより好ましい。
破断強度の比を上記数値範囲内とすることにより、多孔質構造が良好に形成されると共に、加工等を行う際における破断を抑制することができる。
【0039】
本開示において、ポリアミド多孔質膜の破断強度の測定は、引張り試験により行う。
具体的には、ポリアミド多孔質膜から、長さ12mm、幅3mmのダンベル片(試験片)を切り出す。
試験片の切り出しは、幅拘束延伸により製造したポリアミド多孔質膜の延伸方向がダンベル片の長手方向、延伸方向に対して垂直方向がダンベル片の短手方向となるように行う。
試験片に対して、引張試験機を用いて、試験速度20mm/min及び19.8℃の条件において引張試験を行う。記録された応力チャートにおける最大応力を、フィルム断面積で割った値を引張り破断強度とする。
引張試験機としては、ORIENTEC社製のテンシロン万能試験機RTC-1325A又はこれと同程度の装置を使用することができる。
【0040】
本開示のポリアミド多孔質膜は、ポリアミド樹脂の凝集体であるノードと、上記ノードを連結するフィブリルとを含む多孔質構造を有しており、種々の分野における液体又は気体に含まれる不純物を除去するための吸着フィルターに好適に使用することができる。
本開示のポリアミド多孔質膜は、LSI等を洗浄するための洗浄水(超純水等)の水質を検定するためのフィルターとしても使用することができる。
【0041】
(ポリアミド多孔質膜の製造方法)
本開示のポリアミド多孔質膜の製造方法は、ポリアミドフィルムを幅拘束延伸し、上記ポリアミド樹脂の凝集体であるノードと、上記ノードを連結し、且つポリアミド樹脂により構成されるフィブリルとを含む多孔質構造を形成することを含む。
幅拘束延伸とは、フィルムの短手方向(TD;transverse direction)を拘束し、短手方向への延伸を防止しつつ、長手方向(機械方向(MD;machine direction))へ行う延伸のことを指す。
短手方向は、長手方向と直交する方向を意味する。
【0042】
本開示によれば、有機溶剤、酸等を使用することなく製造することができるポリアミド多孔質膜を提供することできる。
【0043】
上記効果が奏される理由は以下のように推測されるが、これに限定されない。
本開示のポリアミド多孔質膜の製造方法においては、ポリアミド樹脂を含有するフィルムを幅拘束延伸することにより、幅拘束方向に延びるポリアミド樹脂の凝集体であるノードと、延伸方向に延び、上記ノードを連結するフィブリルとを含む多孔質の構造が形成される。そのため、多孔質膜の製造に、有機溶剤を使用する湿式法、酸を使用するトラックエッチング法等を利用する必要がない。よって、本開示の製造方法により製造されるポリアミド多孔質膜には、有機溶剤、酸等の存在量が少なく抑えられ、吸着フィルターとして使用しても、超純水中等に有機溶剤、酸等が混入しにくい。
本開示の製造方法により製造されるポリアミド多孔質膜は、ポリアミド樹脂の凝集体であるノードと、ノードを連結するフィブリルとを含む構造を有する。ノード間に形成されるフィブリルにスリット状の細孔が形成され、且つフィブリルは、ノードにより保持されるため、良好な多孔質構造が形成されると推測される。
【0044】
フィブリルは、延伸方向に延びることが好ましい。フィブリルが延伸方向に延びることにより、多孔質構造が良好に形成されるとともに、多孔質構造が良好に維持され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
【0045】
ノードは、延伸方向とは異なる一方向に延びることが好ましい。ノードが延伸方向とは異なる一方向に延びることにより、多孔質構造が良好に形成されるとともに、多孔質構造が良好に維持され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
【0046】
ノードの延びる方向と、フィブリルの延びる方向とがなす角度は、45°~135°であることが好ましく、60°~120°であることがより好ましく、70°~110°であることがさらに好ましい。ノードの延びる方向と、フィブリルの延びる方向とがなす角度を上記数値範囲内とすることにより、多孔質構造が良好に形成されるとともに、多孔質構造が良好に維持され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
【0047】
本開示のポリアミド多孔質膜の製造方法により製造されるポリアミド多孔質膜が有する細孔の細孔径、細孔径の比表面積、フィブリルの平均長さ、ノードの幅、フィブリルの面積割合、並びにポリアミド多孔質膜の厚み及び破断強度の好ましい数値範囲等については、上記した通りであるため、ここでは記載を省略する。
【0048】
ポリアミドフィルムの幅拘束延伸を行う温度をTとしたとき、下記式(1)を満たすことが好ましく、下記式(2)を満たすことがより好ましい。
ポリアミドフィルムの幅拘束延伸を行う温度をTとしたとき、下記式(1)を満たすことにより、多孔質構造が良好に形成され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
本開示において、融点は、JIS K 7121(1987)に準じ、示差走査熱量測定(DSC)で求めた融解ピーク温度である。
なお、本開示において、融点の測定は、差走査熱量計(例えば、DSC7200、株式会社日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、昇温速度10℃/分で行う。
T≧ポリアミド樹脂の融点-40℃ (1)
T≧ポリアミド樹脂の融点-20℃ (2)
【0049】
ポリアミドフィルムの幅拘束延伸を行う温度は、185℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。
ポリアミドフィルムの幅拘束延伸を行う温度が185℃以上であることにより、多孔質構造が良好に形成され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
上記温度の上限は、特に限定されるものはなく、ポリアミド樹脂の融点+50℃以下とすることができる。
幅拘束延伸を行う温度は、幅拘束延伸時のポリアミドフィルムの表面付近温度を指し、表面温度は、延伸機内に設置した熱電対により測定される。
【0050】
ポリアミドフィルムの幅拘束延伸におけるMDへの延伸倍率は、1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、1.8倍以上であることがさらに好ましい。幅拘束延伸においては、TDへの延伸倍率は1に制限される。
ポリアミドフィルムの幅拘束延伸におけるMDへの延伸倍率を1.1倍以上とすることにより、多孔質構造が良好に形成され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
ポリアミドフィルムの幅拘束延伸におけるMDへの延伸倍率は、5倍以下であることが好ましく、4倍以下であることがより好ましく、3.5倍以下であることがさらに好ましい。
ポリアミドフィルムの幅拘束延伸におけるMDへの延伸倍率を5倍以下とすることにより、ポリアミド多孔質膜の強度を向上することができ、加工等を行う際における破断を抑制することができる。
なお、上記延伸倍率は、幅拘束延伸を行う直前のポリアミドフィルムの長さを基準として求める。すなわち、幅拘束延伸前に二軸延伸を行う場合は、二軸延伸後のポリアミドフィルムの長さを基準として、上記延伸倍率を求める。
【0051】
ポリアミドフィルムの幅拘束延伸方向の長さをX(mm)としたとき、ポリアミドフィルムの幅拘束延伸における延伸速度は、0.1X/min~10X/minであることが好ましく、0.5X/min~5X/minであることがより好ましい。
ポリアミドフィルムの幅拘束延伸における延伸速度を上記数値範囲内とすることにより、多孔質構造が良好に形成され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
【0052】
ポリアミドフィルムの幅拘束延伸は、2回以上行ってもよい。各幅拘束延伸における温度、延伸倍率及び延伸速度は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0053】
ポリアミドフィルムの幅拘束延伸を行う前に、ポリアミドフィルムを二軸延伸してもよい。幅拘束延伸前に、ポリアミドフィルムを二軸延伸することにより、多孔質構造が良好に形成され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
【0054】
ポリアミドフィルムの二軸延伸を行う温度は、ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上であることが好ましい。
二軸延伸を行う温度をポリアミド樹脂のガラス転移温度以上とすることにより、多孔質構造が良好に形成され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
ポリアミドフィルムの二軸延伸を行う温度は、140℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることがさらに好ましい。
上記温度の上限は、特に限定されるものはなく、ポリアミド樹脂の融点+50℃以下とすることができる。
なお、本開示において、ガラス転移温度は、JIS K 7121(1987)に準じ、DSCで求めた中間点ガラス転移温度である。
二軸延伸を行う温度は、二軸延伸時のポリアミドフィルムの表面付近の温度を指し、表面温度は、延伸機内に設置した熱電対により測定される。
【0055】
ポリアミドフィルムの二軸延伸時におけるMD及びTDへの延伸倍率は、1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、1.8倍以上であることがさらに好ましい。
ポリアミドフィルムの二軸延伸時における延伸倍率を1.1倍以上とすることにより、二軸延伸に続く幅拘束延伸により、多孔質構造が良好に形成され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
ポリアミドフィルムの二軸延伸時におけるMD及びTDへの延伸倍率は、5倍以下であることが好ましく、4倍以下であることがより好ましく、3.5倍以下であることがさらに好ましい。
ポリアミドフィルムの二軸延伸における延伸倍率を5倍以下とすることにより、ポリアミド多孔質膜の強度を向上することができ、加工等を行う際における破断を抑制することができる。
なお、MD及びTDへの延伸倍率は、同じであっても異なっていてもよい。また、MD延伸してからTD延伸を同時に行う同時二軸延伸であってもよく、MD延伸してからTD延伸する逐次二軸延伸であってもよい。
なお、上記延伸倍率は、二軸延伸を行う直前のポリアミドフィルムの長さを基準として求める。
【0056】
ポリアミドフィルムの二軸延伸方向の長さをそれぞれY(mm)及びZ(mm)としたとき、ポリアミドフィルムの二軸延伸における延伸速度は、0.1Y(Z)/min~10Y(Z)/minであることが好ましく、0.5Y(Z)/min~5Y(Z)/minであることがより好ましい。
ポリアミドフィルムの二軸延伸における延伸速度を上記数値範囲内とすることにより、二軸延伸に続く幅拘束延伸により、多孔質構造が良好に形成され、フィルター等として使用した場合の不純物の除去性能を向上させることができる。
【0057】
幅拘束延伸に使用するポリアミドフィルムは従来公知の方法により作製してもよく、市販されるものを使用してもよい。
例えば、ポリアミド樹脂を含有する原料ペレットを溶融プレス成形することにより作製することができる。
ポリアミド樹脂の好ましい組成等は上記した通りであり、ここでは記載を省略する。
また、上記原料ペレットは、有機溶剤及び酸を含有しないことが好ましい。
原料ペレットが有機溶剤及び酸を含有しないことにより、製造されるポリアミド多孔質膜をフィルターとして使用した場合に、超純水中等への有機溶剤及び酸の混入を防止することができる。
【実施例0058】
以下、上記実施形態を実施例により具体的に説明するが、上記実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
ポリカプロラクタムの原料ペレット(東レ(株)製、アラミンCM1041LO、融点225℃)を、真空オーブン中において、80℃で6時間乾燥させ、水分を十分に除去した。
乾燥させた原料ペレットをスペーサーの中に置き、ポリイミドシート(宇部興産(株)社製、ユーピレックス(登録商標)125S)及びステンレスプレートにより挟み、日本ボールドウィン株式会社製の真空プレス成形機を用いて、ポリカプロラクタムの融点(225℃)以上である250℃にて7分間保持した後、2分間2MPaの圧力で数回空気抜きを行い、5MPaの圧力で溶融プレス成形を行った。その後、室温まで徐冷し、厚さ150μmのプレスフィルムを得た。得られたプレスフィルムは吸水防止のためデシケータ内で保存した。
【0060】
得られたプレスフィルムを30mm×30mmのサイズに切り出し、エアーチャック機能及び応力検知器を装備した二軸延伸機にセットした。上記二軸延伸機では、セットしたフィルムの上下方向から、ブロワーにより熱風を吹き付けることによりフィルムを加熱することができる。ポリカプロラクタムのガラス転移温度(47℃)以上である、160℃で、上記原反フィルムを3分間保持した後、温度を保ったまま、延伸速度20mm/minで、同時二軸延伸し、厚さ60μmの二軸延伸フィルムを得た。延伸倍率は、MD(長手方向)及びTD(短手方向)への延伸倍率は、共に、2倍とした。
【0061】
上記二軸延伸フィルムを上記二軸延伸機にセットした。セットした延伸フィルムの短手方向を固定した。ポリカプロラクタムのガラス転移温度(47℃)以上である、200℃で、上記延伸フィルムを3分間保持した後、温度を保ったまま、延伸速度20mm/minで、幅拘束延伸し、厚さ40μmのポリアミド多孔質膜を得た。MDへの延伸倍率は、2倍とした。
【0062】
上記ポリアミド多孔質膜を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、図1に示すように、ポリカプロラクタムの凝集体であるノード10と、ノード10を連結するフィブリル11とを有する多孔質構造が観察された。なお、図1中の矢印は、幅拘束延伸における延伸方向を示す。
図1からも明らかなように、ノード10及びフィブリル11は、異なる方向に延びていることが分かる。ノードの延びる方向と、フィブリルの延びる方向とがなす角度を測定したところ、90°であった。
また、フィブリルの面積の割合は、50%であった。
また、ノードの幅を測定したところ、25μmであった。フィブリルの平均長さは25μmであった
また、図2は、ポリアミド多孔質膜のフィブリル11が形成される箇所(図1における四角で囲まれる箇所)の8倍拡大像である。
【0063】
<実施例2>
実施例1において作製したプレスフィルムを上記二軸延伸機にセットした。ポリカプロラクタムのガラス転移温度(47℃)以上である、160℃で、上記原反フィルムを3分間保持した後、温度を保ったまま、延伸速度20mm/minで、幅拘束延伸し、厚さ90μmの幅拘束延伸フィルムを得た。延伸倍率は、MDへの延伸倍率は、共に、2倍とした。
【0064】
上記幅拘束延伸フィルムを30mm×30mmのサイズに切り出し、上記二軸延伸機にセットした。セットした延伸フィルムの短手方向を固定した。ポリカプロラクタムのガラス転移温度(47℃)以上である、200℃で、上記延伸フィルムを3分間保持した後、温度を保ったまま、延伸速度20mm/minで、幅拘束延伸し、厚さ70μmのポリアミド多孔質膜を得た。延伸倍率は、MDへの延伸倍率は、2倍とした。
【0065】
上記ポリアミド多孔質膜を、走査型電子顕微鏡により観察したところ、図3に示すように、ポリカプロラクタムの凝集体であるノード20と、ノード20を連結するフィブリル21とを有する多孔質構造が観察された。なお、図3の矢印は、幅拘束延伸における延伸方向を示す。
図3からも明らかなように、ノード20及びフィブリル21は、異なる方向に延びていることが分かる。ノードの延びる方向と、フィブリルの延びる方向とがなす角度を測定したところ、65°であった。
また、フィブリルの面積の割合は、35%であった。
また、ノードの幅を測定したところ、35μmであった。フィブリルの長さは、20μmであった。
また、図4は、ポリアミド多孔質膜のフィブリル21が形成される箇所(図3における四角で囲まれる箇所)の8倍拡大像である。
【0066】
<比較例1>
実施例1において作製したプレスフィルムを用意した。
【0067】
<比較例2>
実施例1において作製した二軸延伸フィルムを用意した。
上記二軸延伸フィルムを、走査型電子顕微鏡により観察したところ、図5に示すように、ノード及びフィブリルを有する多孔質構造は観察されなかった。
【0068】
<比較例3>
実施例1において作製したプレスフィルムを一軸延伸機(ORINTEC社製、テンシロン万能試験機RTC-1325A)にセットした。上記一軸延伸機では、セットしたフィルムの上下方向から、ブロワーにより熱風を吹き付けることによりフィルムを加熱することができる。ポリカプロラクタムのガラス転移温度(47℃)以上である、200℃で、上記原反フィルムを3分間保持した後、温度を保ったまま、延伸速度1/minで、一軸延伸し、厚さ100μmの延伸フィルムを得た。延伸倍率は、2倍とした。
【0069】
上記一軸延伸フィルムを、走査型電子顕微鏡により観察したところ、図6に示すように、フィブリルのみが観察され、ノードは観察されなかった。
また、図6には、延伸フィルムのフィブリルが形成される箇所(SEM画像の四角で囲まれる箇所)の8倍拡大像も併せて示す。
【0070】
<<多孔質構造の評価>>
実施例1及び実施例2のポリアミド多孔質膜、比較例1のプレスフィルム、比較例2の二軸延伸フィルム、並びに比較例3の一軸延伸フィルムを直径30mmの円形に切り出し、試験片とした。
次いで、25℃の環境において、グラフテック株式会社製のデータロガーGL20を接続した膜拡散測定装置(ツクバリカセイキ株式会社製、K-315N-01)の測定セルに、上記円形の試験片をセットした。
次いで、高圧側ガス溜に窒素ガスを導入し、セル低圧側を真空引きした。
セル高圧側バルブを開いて窒素ガスを導入して、ガス透過測定を開始した。
この際の電圧変化の時間変化を記録し、下記式に従って、窒素透過係数を算出した(低圧側及び高圧側の電圧(1V=1.6KPa))。
Q=(V/(R×T×P×A))×(dp/dt)
p=Q×L
(式中、
Q:気体透過度(mol/(m・s・Pa))
p=気体透過係数(mol・m/(m・s・Pa))
V:セル低圧側容積(L)
A:透過面積(m)(なお、π=3.14)
T:試験温度(℃)
P:供給気体差圧(Pa)
dp/dt:単位時間(t)における低圧側の圧力(p)変化(Pa/s)
L:試験片の厚み
【0071】
実施例1のポリアミド多孔質膜の気体透過係数(窒素透過係数)は、2.9×10-12mol・m/(m・s・Pa)であり、良好な多孔質構造が形成されていることが分かる。
実施例2のポリアミド多孔質膜の気体透過係数(窒素透過係数)は、4.4×10-11mol・m/(m・s・Pa)であり、良好な多孔質構造が形成されていることが分かる。
比較例1のプレスフィルム及び比較例2の二軸延伸フィルムの気体透過係数(窒素透過係数)は、共に5.0×10-15mol・m/(m・s・Pa)であり、気体透過性を確認することはできず、多孔質構造が良好に形成されていないことが分かる。
比較例3の一軸延伸フィルムは、多孔質構造が形成されておらず、気体透過係数を測定することができなかった。
【0072】
実施例1及び実施例2において製造したポリアミド多孔質膜の試験片が、部分的に多孔質構造が形成されているのではなく、全体に多孔質構造が形成されていることを示すべく、別途以下の試験を行った。
【0073】
上記試験片30を図6に示すように、各ブロックの面積が7.07×10-4mmとなるように、直径30mmの円形を4つのブロックに分け、各ブロックの気体透過係数を上記同様測定した。
なお、測定に使用しない試験片20のブロックは、図6に示すように、気体透過係数が、5.0×10-15mol・m/(m・s・Pa)未満のテープ31により塞いだ。
【0074】
実施例1のポリアミド多孔質膜の試験片におけるブロック1~ブロック4の気体透過係数の測定結果を図7に示す。図7から、ブロック1~ブロック4はいずれも気体透過係数が1×10-13mol・m/(m・s・Pa)以上であり、全体に良好な多孔質構造が形成されていることが分かる。
実施例2のポリアミド多孔質膜の試験片におけるブロック1~ブロック4の気体透過係数の測定結果を図8に示す。図8から、ブロック1~ブロック4はいずれも気体透過係数が1×10-13mol・m/(m・s・Pa)以上であり、全体に良好な多孔質構造が形成されていることが分かる。
【0075】
<実施例3>
ポリカプロラクタムの原料ペレット(東レ(株)製、アラミンCM1041LO、融点225℃)を、真空オーブン中において、80℃で6時間乾燥させ、水分を十分に除去した。
乾燥させた原料ペレットをスペーサーの中に置き、ポリイミドシート(宇部興産(株)社製、ユーピレックス(登録商標)125S)及びステンレスプレートにより挟み、日本ボールドウィン株式会社製の真空プレス成形機を用いて、ポリカプロラクタムの融点(225℃)以上である250℃にて7分間保持した後、30MPaの圧力で溶融プレス成形を行った。その後、室温まで徐冷し、厚さ150μmのプレスフィルムを得た。得られたプレスフィルムは吸水防止のためデシケータ内で保存した。
【0076】
得られたプレスフィルムを30mm×30mmのサイズに切り出し、エアーチャック機能及び応力検知器を装備した二軸延伸機にセットした。上記二軸延伸機では、セットしたフィルムの上下方向から、ブロワーにより熱風を吹き付けることによりフィルムを加熱することができる。ポリカプロラクタムのガラス転移温度(47℃)以上である、160℃で、上記原反フィルムを3分間保持した後、温度を保ったまま、延伸速度20mm/minで、同時二軸延伸し、厚さ60μmの二軸延伸フィルムを得た。延伸倍率は、MD(長手方向)及びTD(短手方向)への延伸倍率は、共に、2倍とした。
【0077】
上記二軸延伸フィルムを、上記二軸延伸機にセットし、延伸フィルムの短手方向を固定した。ポリカプロラクタムのガラス転移温度(47℃)以上である、200℃で、上記延伸フィルムを3分間保持した後、温度を保ったまま、延伸速度20mm/minで、幅拘束延伸し、厚さ40μmのポリアミド多孔質膜を得た。MDへの延伸倍率は、2倍とした。
【0078】
上記ポリアミド多孔質膜を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、ポリカプロラクタムの凝集体であるノードと、ノードを連結するフィブリルとを有する多孔質構造が観察された(図示せず)。
ノード及びフィブリルは、異なる方向に延びており、ノードの延びる方向と、フィブリルの延びる方向とがなす角度を測定したところ、80°であった。
また、フィブリルの面積の割合は、50%であった。
また、ノードの幅を測定したところ、45μmであった。フィブリルの長さは45μmであった。
【0079】
<比較例4>
実施例3において作製したプレスフィルムを用意した。
【0080】
<比較例5>
実施例3において作製した二軸延伸フィルムを用意した。
上記二軸延伸フィルムを、走査型電子顕微鏡により観察したところ、ノード及びフィブリルを有する多孔質構造は観察されなかった(図示せず)。
【0081】
<<破断強度の測定>>
実施例3のポリアミド多孔質膜、比較例1のプレスフィルム及び比較例2の二軸延伸フィルムから、長さ12mm、幅3mmのダンベル片(試験片)を切り出した。
実施例3のポリアミド多孔質膜からの試験片の切り出しは、幅拘束延伸により製造したポリアミド多孔質膜の延伸方向がダンベル片の長手方向、延伸方向に対して垂直方向がダンベル片の短手方向となるように行った。
【0082】
試験片に対して、引張試験機を用いて、試験速度20mm/min及び25℃の条件において引張試験を行い、記録された応力チャートにおける最大応力を、フィルム断面積で割った値を引張り破断強度とした。
引張試験機としては、ORIENTEC社製のテンシロン万能試験機RTC-1325Aを使用した。
【0083】
上記破断強度の測定を、実施例3のポリアミド多孔質膜のMDに対し、3回ずつ行い、平均値を求めたところ、143.9MPaであった。
比較例1のプレスフィルム及び比較例2の二軸延伸フィルムに対しても、同様に、破断強度を測定したところ、78.4MPa、109.8MPaであった。
比較例2の二軸延伸フィルムの破断強度に比べ、実施例3のポリアミド多孔質膜のMDの破断強度が優れる理由は、MDへの幅拘束延伸によりフィブリルが形成されたためと推測される。
【0084】
上記破断強度の測定を、実施例3のポリアミド多孔質膜のTDに対し、3回ずつ行い、平均値を求めたところ、47.2MPaであった。
【符号の説明】
【0085】
10、20:ノード、11、21:フィブリル、30:試験片、31:テープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9