(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054676
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】凍結保存容器
(51)【国際特許分類】
A01N 1/02 20060101AFI20230407BHJP
【FI】
A01N1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163667
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】515225448
【氏名又は名称】ミツボシプロダクトプラニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 弘
(72)【発明者】
【氏名】向井 徹
(72)【発明者】
【氏名】中田 久美子
(72)【発明者】
【氏名】秋元 亮二
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011CA01
4H011CB04
4H011CC01
(57)【要約】
【課題】凍結効率が良く、凍結保存による精子の運動性の低下を抑えることができる凍結保存容器を提供する。
【解決手段】採精された精子を凍結保存するための凍結保存容器1である。
そして、底部2bを有して上端が開口2aされた円筒状の本体部2と、本体部の開口を塞ぐための蓋部11と、本体部の内空に対して底部側から開口側に向けて窪むように設けられる中空凸部21とを備えている。
ここで、中空凸部の頂部211は、本体部の高さ方向の上半部に位置するようにする。例えば、中空凸部の頂部の位置(液体容量V2)で、本体部の液体容量V1の70%以上が収容されるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
採精された精子を凍結保存するための凍結保存容器であって、
底部を有して上端が開口された円筒状の本体部と、
前記本体部の前記開口を塞ぐための蓋部と、
前記本体部の内空に対して底部側から開口側に向けて窪むように設けられる中空凸部とを備えていることを特徴とする凍結保存容器。
【請求項2】
前記中空凸部の頂部は、前記本体部の高さ方向の上半部に位置することを特徴とする請求項1に記載の凍結保存容器。
【請求項3】
前記中空凸部の前記頂部の位置で、前記本体部の液体容量の70%以上が収容されることを特徴とする請求項2に記載の凍結保存容器。
【請求項4】
前記本体部は前記底部に向けて先細る形状に形成されるとともに、前記中空凸部は前記本体部の前記開口に向けて先細る形状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の凍結保存容器。
【請求項5】
前記本体部の内周面と前記中空凸部との隙間はピペットの先端の径よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の凍結保存容器。
【請求項6】
前記本体部の前記底部より下方に延びる円環状の高台部を備え、前記高台部の下端開口と前記中空凸部の内空とが連通していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の凍結保存容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採精された精子を凍結保存するための凍結保存容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工授精(AIH:Artificial Insemination of Husband)、体外受精(IVF:In Vitro Fertilization)、顕微授精(ICSI:Intracytoplasmic sperm injection)などの生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)では、採精容器によって精子を採取することが行われている。
【0003】
通常、医療機関では、精子検査や所定の処置を行うまでの間、患者の精液を採精容器に収容した状態で保管している。一方、特許文献1に開示されているように、採取した精子を凍結保存することによって、長期間にわたって精子の劣化やエイジング(老化)を抑えることも行われている。
【0004】
すなわち、液体窒素などの冷媒を使用して、凍結保存容器に収容された精子を急速凍結して極度に低い温度で保存させることで、時間的に制限のない保存が可能となる。そして、時機が到来した際に凍結保存容器ごと解凍し、生殖補助医療における受精着床に使用する。この解凍後の精子の運動性によって、不妊治療の成功率は影響を受けることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているような円筒状で内空断面が長さ方向に一定の凍結保存容器は、容器壁面近くの部分では凍結するが、中心部がシャーベット状になるなど凍結効率が低く、解凍後に生殖医療に使用可能な精子数が大幅に減ることが判明した。特に、凍結保存容器の管の直径が大きくなり液体窒素に触れる面との距離が大きくなると、劣化の傾向は強くなる。
【0007】
そこで、本発明は、凍結効率が良く、凍結保存による精子の運動性の低下を抑えることができる凍結保存容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の凍結保存容器は、採精された精子を凍結保存するための凍結保存容器であって、底部を有して上端が開口された円筒状の本体部と、前記本体部の前記開口を塞ぐための蓋部と、前記本体部の内空に対して底部側から開口側に向けて窪むように設けられる中空凸部とを備えていることを特徴とする。
【0009】
ここで、前記中空凸部の頂部は、前記本体部の高さ方向の上半部に位置する構成とすることが好ましい。例えば、前記中空凸部の前記頂部の位置で、前記本体部の液体容量の70%以上が収容されるようにする。
【0010】
また、前記本体部は前記底部に向けて先細る形状に形成されるとともに、前記中空凸部は前記本体部の前記開口に向けて先細る形状に形成されている構成とすることができる。さらに、前記本体部の内周面と前記中空凸部との隙間はピペットの先端の径よりも大きくなるように設定することが好ましい。そして、前記本体部の前記底部より下方に延びる円環状の高台部を備え、前記高台部の下端開口と前記中空凸部の内空とが連通している構成とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明の凍結保存容器は、円筒状の本体部の内空に対して底部側から上端側に向けて窪むように中空凸部が設けられている。すなわち、液体窒素などの冷媒やそれにより発生する冷気は、本体部の外周面に接触するだけでなく、中空凸部の内空にも入り込んで、中心側からも収容液を冷却する。
【0012】
このため、凍結効率が良く、凍結保存液などの収容液の全体が均等に短時間で凍結されることになって、凍結保存による精子の運動性の低下を抑えることができる。要するに、本体部の底部側に設けられる高台部の下端開口から中空凸部の内空に向けて、冷媒や冷気を効率よく取り込むことができる。
【0013】
また、中空凸部の頂部が本体部の高さ方向の上半部に位置する構成であれば、収容液の大半が本体部の中心側から冷却されるようになる。特に、中空凸部の頂部位置で本体部の液体容量の70%以上が収容されるようになっていれば、凍結保存による精子の運動性の低下を大幅に抑えることができる。
【0014】
さらに、本体部が底部に向けて先細る形状に形成されるとともに、中空凸部が本体部の開口に向けて先細る形状に形成されていれば、収容液を本体部に入れやすいうえに、収容液を取り出す際に、本体部と中空凸部との隙間にピペットの先端を挿入しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態の凍結保存容器の構成を説明する断面図である。
【
図2】蓋部が装着された状態の凍結保存容器の構成を説明する斜視図である。
【
図3】蓋部を外した状態の凍結保存容器の構成を説明する斜視図である。
【
図4】採精容器による採精状況を模式的に示した説明図である。
【
図5】採精容器から精子を回収する処置を示した説明図である。
【
図6】凍結保存容器を冷却する処置を示した説明図である。
【
図7】解凍後の凍結保存容器から収容液を回収する処置を示した説明図である。
【
図8】複数の検体を使って、凍結保存による精子運動率の変化を確認した実験結果を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の凍結保存容器1の構成を説明する断面図である。また、
図2及び
図3は、蓋部が装着された状態と外した状態の凍結保存容器の構成を説明する斜視図である。
【0017】
不妊原因は、女性側、男性側の双方に原因があり得るが、男性不妊症の患者の場合、精液検査の所見が基準値を下回る場合が多い。男性が受ける検査としては、造精機能を調べる目的の標準精液検査、精子機能を調べる目的の高度精子機能検査1などがある。標準精液検査では、WHOラボマニュアル基準に基づいて総運動率が検査項目となり、40%以上が正常を示す基準値となる。この他にも男性が受ける検査項目には、精液量、精子濃度、総精子数、前進運動率、正常精子形態率、白血球数、高度精子機能検査2(ORP検査(酸化ストレスレベル))などがある。
【0018】
そして、精子の運動性が低い場合は、精子無力症と診断される。精子無力症とは、精子運動率が40%以下、前進運動率が32%以下のことをいう。健常男性の精子運動率は、通常60%-80%で、この運動率が低下すると受精能が落ちると言われている。
【0019】
一方、採取した精子を、すぐに生殖補助医療に使用せずに凍結保存をし、時機が到来した際に解凍して、生殖補助医療に使用することがある。この凍結保存は、場合によっては保存期間が長期になることもあるが、凍結保存による精子の劣化やエイジング(老化)は極力、抑えられることが好ましい。
【0020】
凍結保存をする場合は、液体窒素などの冷媒を使用して、凍結保存容器1に収容された採精された精子を急速凍結させる。本実施の形態の凍結保存容器1は、
図1に示すように、円筒状の本体部2と、本体部2の開口2aを塞ぐための蓋部11と、本体部2の中心に設けられる中空凸部21とを備えている。また、本体部2の底部2bより下方に延びる円環状の高台部22が設けられる。
【0021】
本体部2は、底部2bを有して上端が開口2aされた円筒状に形成される。さらに好ましくは、本体部2は、底部2bに向けて先細る形状に形成される。例えば、開口2aの直径D1を10mm程度にした場合に、底部2bの直径D2を9mm程度にする。
【0022】
蓋部11は、本体部2の上端にねじ込むことで装着される。本体部2の上端面と蓋部11との間には、シール材12が介在される。
図3に示すような上端部にネジ溝が設けられた本体部2の開口2aに対して、収容液を収容した後に蓋部11を装着して開口2aを塞ぐと、
図2に示すような凍結保存が可能な状態になる。
【0023】
そして、本実施の形態の凍結保存容器1には、本体部2の内空に対して底部2b側から開口2a側に向けて窪むように中空凸部21が設けられる。中空凸部21の内空は、
図1に示すように、高台部22の下端開口と連通している。すなわち、本体部2の外周面と中心(軸心)側とを、温度などが同じ状態の液体窒素などの冷媒や空気(冷気)に接触させることができる。
【0024】
底部2b側から開口2aに向けて隆起するように形成される中空凸部21は、本体部2の開口2aに向けて先細る円錐状に形成されていることが好ましい。すなわち、中空凸部21の底部2b側の直径D4より中空凸部21の頂部211の直径D3を小さくする。
【0025】
この凍結保存容器1の本体部2には、精子が混和された凍結保存液が収容液として収容される。すなわち収容液は、本体部2の底部2bから、本体部2の内周面と中空凸部21との間の断面環状の隙間に充填され、中空凸部21の頂部211より上方では、本体部2の断面円形の内空に充填される。
【0026】
例えば、上端(開口2a)の直径D1を10.4mm、底部2bの直径D2を9.3mm、高さH2が2.0mmの高台部22を含めた高さH1が28.0mmで、肉厚が0.6mmの本体部2及び中空凸部21を成形する。この本体部2の上端での液体容量V1は1.0cc、中空凸部21の頂部211の位置での液体容量V2は0.7ccとなる。すなわち、中空凸部21の頂部211の位置で、本体部2の液体容量V1の約70%、または70%以上の収容液が収容できるようにする。
【0027】
凍結保存容器1には、検体の取り違えを防ぐために、
図2に示すようなラベル部13が設けられる。ラベル部13には、患者の識別情報や採取日などの情報が印字やシールなどによって付与される。
【0028】
次に、本実施の形態の凍結保存容器1の使用方法について、採精から順を追って説明する。採精容器3は、
図4に示すように、精子Sを収容する貯留部31を有する容器本体32と、採精後に貯留部31を密閉空間にするための内蓋33とを備えている。
【0029】
容器本体32は、精子Sを収容する円錐状の内容器321と、内容器321の周囲を被覆する円筒状の外容器322とが一体に成形されている。内容器321は、上方の投入口が漏斗状に広がっているので、採精が行いやすい。
【0030】
一方、内蓋33も、ポリプロピレンによって截頭円錐状に成型されている。内容器321のテーパー部分(截頭円錐形部分)の内周面と、内蓋33の外周面とは、ほぼ同じ形状であり、容器本体32の軸線に対するテーパー部分の傾斜角度は、10°から30°程度にすることができる。
【0031】
貯留部31は、内容器321の下部と内蓋33の底面に囲まれた空間が該当する。すなわち、内容器321において円筒状に形成される貯留部31より上部の截頭円錐状の内周面には、内蓋33の外周面が密着し、内蓋33の底面は、貯留部31の天井面となる(
図5参照)。
【0032】
ここで、精子(精液)の1回の採精量は、3cc-10cc程度であることから、貯留部31の容積も、10ccより少し大きくなる程度に形成されていればよい。また、内容器321の内周面及び貯留部31の内面は、精液が壁面に付着しにくく流れ落ちやすくなるように、鏡面加工が施されている。容器本体32が透明又は半透明であれば、精子Sが貯留部31に収容されていることや採精量を、患者自身が目視で簡単に確認することができる。
【0033】
そして、内容器321の容積を小さくするように、内容器321の内部に挿入される内蓋33の上縁には、容器本体32の上縁に設けられたネジ溝と噛み合うネジ溝を有する把持部331が設けられる。患者は、採精後に素早く上蓋が付いた状態の内蓋33を容器本体32に嵌め合わせて、ねじ込むことで容器本体32に内蓋33をしっかりと固定する。こうすることで、採精後の精子Sが空気に接触することがなくなり、酸化による精子Sの劣化を抑制することができる。
【0034】
すなわち、この把持部331のネジ溝を、容器本体32のネジ溝にねじ込むと、容器本体32に対して内蓋33がしっかりと固定され、底のある円筒状の貯留部31と内蓋33の底面とに囲まれた空間に封入された精子Sは、空気に触れたり漏れたりすることなく医療機関まで運搬される。
【0035】
図5は、採精容器3から精子Sを回収する処置の状況を示した説明図である。貯留部31となる内容器321の底部の中央には、回収部311が設けられている。回収部311は、精子Sを回収するシリンジ5の針51(カヌラ)によって穿孔しやすいように形成された円形の薄肉部である。回収部311は、例えば直径1mm程度で、厚さ0.1mm程度に周囲より薄肉にして形成されている。
【0036】
そこで、シリンジ5の針51を貯留部31の回収部311に挿し込んで、貯留部31に収容された精子Sをシリンジ5に回収する。この際、内蓋33は嵌めたままの状態で良いので、精子Sと外気との接触を避けることができ、精子Sの酸化やゴミ等の侵入を防ぐことができる。
【0037】
シリンジ5によって回収された精子Sは、スピッツ管に移された後に、洗浄処理が行われる。続いて、遠心による濃縮やswim up法などの精子調製法を用いて良質な精子Sを選別して回収する。なお、これらの採精された精子Sに対する処置は、凍結保存後に解凍してから行うこともできる。
【0038】
回収された良質な精子Sは、凍結保存液と混和させる。要するに、結晶化した水分が精子Sを損傷することを防ぐために、精子凍結保存液(Sperm Freezing medium)と混和させる。
【0039】
このようにして凍結保存液と精子Sとが混和された精子含有液体が、本実施の形態の凍結保存容器1に収容される収容液となる。
図3に示すように蓋部11が外された本体部2の開口2aから、ピペット4(
図7参照)などを使って収容液を注入する。
【0040】
本体部2への注入は、精子Sと凍結保存液とを別々に行い、本体部2内で混和させることもできる。本体部2には、頂部211の位置を目安にして、0.7ccから1.0ccの収容液が収容される。収容後は、本体部2の開口2aを、蓋部11をねじ込むことによって塞ぐ(
図2参照)。
【0041】
本体部2の側面のラベル部13には、収容液の注入前、又は蓋部11を装着した後に、患者の名前や識別番号などの識別情報や採取日などの情報が記入される。これによって検体の取り違えを防ぐことができる。ラベル部13は、本体部2の広い外周面を利用して設けられるので、多くの情報を記入することができる。
【0042】
凍結保存容器1の凍結は、複数本に対して同時に行うことができる。例えば、
図6に示すように、1本の凍結用のケーン6に6個の凍結保存容器1をセットして、凍結のための処理を行うことができる。
【0043】
凍結処理を行う際には、いきなりマイナス196℃の窒素タンクに凍結保存容器1がセットされたケーン6を投入して凍結させるのではなく、徐々に冷却するのが好ましい。
図6は、液体窒素71の気相による冷却処理を、模式的に示した図である。
【0044】
例えば発泡スチロールなどの貯留箱7に液体窒素71などの冷媒を溜めて、そこから立ち上る液体窒素71の2℃から5℃程度の冷気に、ケーン6に装着された凍結保存容器1を当てることで、精子Sを含む収容液を徐々に冷却する。こうすることで、精子Sへの凍結によるダメージを軽減することができる。
【0045】
この冷却の際には、本体部2の外周面が冷気によって冷却されるだけでなく、中心に設けられた円錐状の中空凸部21の内空にも冷気が入り込んで、効率的に収容液を冷却することができる。
【0046】
なお、
図6はあくまでイメージ図で、実際の処置方法を示しているわけではない。例えば、冷却によって簡易凍結が始まる場合は、蓋部11が上になるような向きにケーン6をして、収容液が底部2bから溜まった状態で凍結させる必要がある。
【0047】
液体窒素71の気相による冷却処理を行った凍結保存容器1は、凍結保存用のケーン6に装着された状態でマイナス196℃の液体窒素が貯留された蓋付きの窒素タンク(図示省略)に投入され、保管される。
【0048】
この際も、本体部2の外周面だけでなく、中心に設けられた円錐状の中空凸部21の内空にも液体窒素が入り込んで、収容液が効率的かつ均等に凍結されることになる。マイナス196℃の極度に低い温度では、精子Sが劣化や加齢することがないので、凍結保存には時間的な制限がない。
【0049】
凍結保存された精子Sを生殖補助医療に使用する時機が到来した際には、ラベル部13に印字された情報から該当する凍結保存容器1を選んで窒素タンクから取り出し、30℃から35℃程度の微温湯に浸して、振りながら融解させる。
【0050】
このようにして凍結保存容器1の収容液を解凍させた後に、蓋部11を外して、
図7に示すように、ピペット4の先端を本体部2の中に挿し込み、保存された精子Sを含有する収容液を吸い上げることで採取する。
【0051】
凍結保存容器1の本体部2は、底部2bに向けて先細りする形状になっているが、中空凸部21は、本体部2の開口2aに向けて先細りする形状になっているので、本体部2の内周面と中空凸部21との間には、保存された精子Sの採取に使用されるピペット4の先端を通すだけの隙間が確保されている。例えば、3mmから4mm程度の隙間となるように、本体部2及び中空凸部21は製作されている。
【0052】
このため、ピペット4の先端を本体部2の底部2bまで到達させて、収容液の全量を吸い上げることができる。吸い上げられた精子Sを含有する収容液は、スピッツ管に移され、人工授精(AIH)、体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)などの生殖補助医療(ART)に使用される。
【0053】
続いて、本実施の形態の凍結保存容器1によって凍結保存された精子Sが受けた影響を確認するために行った実験について説明する。実験では、凍結前と解凍後の精子Sの精子運動率(%)の変化を調べた。
【0054】
また、本実施の形態の凍結保存容器1(実施例1)の効果を確認するために、比較例による実験も行った。比較例として使用した容器は、従来から使用されている円筒状の保存容器で、本実施の形態の凍結保存容器1の中空凸部21に該当する構成がない、一定の太さ(直径)の円筒容器である。詳細には、高さ29.0mm、直径12.0mmの円筒形で、液体容量が1.2ccとなる保存容器を使用した。
【0055】
一方、実施例1として使用した凍結保存容器1は、
図1を参照しながら説明すると、高さH1が28.0mm、上端の直径D1が10.4mm、底部2bの直径D2が9.3mm、肉厚が0.6mmである。本体部2の液体容量V1は上端で1.0ccとなるが、実験では中空凸部21の頂部211の位置となる液体容量V2が0.7ccとなる範囲内で使用した。
【0056】
実験には、5体の検体(A-E)を使用した。凍結前の検体(A-E)の精子運動率は、58.7%から68.5%であった。これらの検体(A-E)を、実施例1の凍結保存容器1と、比較例の保存容器にそれぞれ注入し、上述したような凍結処理を施して、一定期間、窒素タンクの中で凍結保存した後に、取り出して解凍した。
【0057】
その結果、実施例1の凍結保存容器1で凍結保存した精子Sの精子運動率は、56.4%から63.0%であった。一方、比較例の保存容器で凍結保存した精子Sの精子運動率は、29.4%から41.1%であった。
図8は、この凍結保存による精子運動率の変化を、変化率として示した棒グラフである。
【0058】
この棒グラフを見ると分かるように、実施例1の凍結保存容器1で凍結保存した精子Sの精子運動率は、凍結前と凍結後で比較して、ほとんど変化していないことがわかる。具体的には、変化率は92.0%から96.0%の範囲に収まり、凍結保存による精子運動率の低下は、10%以下に抑えられていることがわかる。
【0059】
これに対して比較例の保存容器で凍結保存した精子Sの精子運動率は、凍結前と凍結後で比較して、半減していることがわかる。具体的には、変化率は51.0%から60.0%の範囲となり、いずれの検体(A-E)についても、大幅な精子運動率の低下がみられる。
【0060】
上述したように超低温の窒素タンクで凍結保存している間には、精子Sの劣化は生じないと考えられるので、こうした結果となった原因として、凍結に至るまでの状態の変化の違いがあるものと推定できる。
【0061】
すなわち、実施例1の凍結保存容器1は、中空凸部21を有しているため、本体部2に収容された収容液の全体が、効率よく均等に凍結されることになって、凍結に至るまでの段階での精子Sの劣化を抑えることができたと推測できる。
【0062】
これに対して比較例の保存容器を使用した場合は、保存容器の外周面に隣接する部分に比べて中心部の凍結が遅く、シャーベット状になっている時間が長くなるので、その間に精子Sの劣化が進行するものと推測できる。この結果、解凍後に生殖医療に使用可能な精子数が大幅に減ることは、上記背景技術で説明した通りである。
【0063】
次に、本実施の形態の凍結保存容器1の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の凍結保存容器1は、円筒状の本体部2の内空に対して底部2b側から上端の開口2a側に向けて窪むように中空凸部21が設けられている。すなわち、液体窒素などの冷媒やそれにより発生する冷気は、本体部2の外周面に接触するだけでなく、中空凸部21の内空にも入り込んで、中心側からも収容液を冷却する。
【0064】
このため、凍結効率が良く、凍結保存液などの収容液の全体が均等に短時間で凍結されることになって、凍結保存による精子の運動性の低下を抑えることができる。要するに、本体部2の底部2b側に設けられる高台部22の下端開口から中空凸部21の内空に向けて、冷媒や冷気を効率よく取り込むことができる。
【0065】
また、中空凸部21の頂部211の位置が、本体部2の高さ方向の上半部に位置する構成であれば、収容液の大半が本体部2の中心側から冷却されるようになる。特に、中空凸部21の頂部211の位置で本体部2の液体容量V1の約70%、または70%以上が収容されるようになっていれば、凍結保存による精子の運動性の低下を大幅に抑えることができる。
【0066】
さらに、本体部2が底部2bに向けて先細る形状に形成されるとともに、中空凸部21が本体部2の開口2aに向けて先細る形状に形成されていれば、収容液を本体部2に入れやすいうえに、収容液を取り出す際に、本体部2と中空凸部21との隙間にピペット4の先端を挿入しやすくなる。これによって、収容液の全量を、容易に吸い上げることができる。
【0067】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0068】
例えば、前記実施の形態では、底部2bに向けて先細る形状の本体部2について説明したが、これに限定されるものではなく、高さ方向に一定の太さ(直径)の本体部であってもよい。また、中空凸部21についても、高さ方向に一定の太さ(直径)のものであってもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 :凍結保存容器
11 :蓋部
13 :ラベル部
2 :本体部
2a :開口
2b :底部
21 :中空凸部
211 :頂部
22 :高台部
4 :ピペット
S :精子
V1 :(本体部の)液体容量
V2 :(頂部の位置の)液体容量