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特開2023-5468シート状送達物を目的部位に送達するための医療機器および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005468
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】シート状送達物を目的部位に送達するための医療機器および方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 31/00 20060101AFI20230111BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20230111BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
A61M31/00
C12N5/071
C12N1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107398
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】早川 浩一
【テーマコード(参考)】
4B065
4C066
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BD05
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA46
4C066AA01
4C066AA10
4C066BB10
4C066CC06
4C066DD06
(57)【要約】
【課題】 本発明は、簡便な機構と、簡単な作業で、シート状送達物の形状を保持しながら目的部位に送達するための医療機器を実現することを目的とする。
【解決手段】 シート状送達物を目的部位に送達するための医療機器であって、アーチ状部を有する本体と、該アーチ状部の外面および内面を折り返すように摺動する摺動体と、摺動体に着脱可能な支持体とを含み、シート状送達物を載置した支持体を摺動体に取り付けて摺動させることにより、シート状送達物が外面上にある適用位置と、シート状送達物が内面上にある保護位置とに移動させることができる、前記医療機器。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状送達物を目的部位に送達するための医療機器であって、アーチ状部を有する本体と、該アーチ状部の外面および内面を折り返すように摺動する摺動体と、摺動体に着脱可能な支持体とを含み、シート状送達物を載置した支持体を摺動体に取り付けて摺動させることにより、シート状送達物が外面上にある適用位置と、シート状送達物が内面上にある保護位置とに移動させることができる、前記医療機器。
【請求項2】
支持体が可撓性を有し、支持体の一端が摺動体に取り付けられており、摺動体を摺動させることにより、支持体を本体の先端側に突き出すことができる、請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
支持体を本体の先端側に突き出た状態から、本体の外面上に旋回させることができる、請求項2に記載の医療機器。
【請求項4】
支持体が柔軟性を有し、支持体の下面が摺動体に取り付けられており、摺動体を摺動させることにより、支持体を本体の先端側で折り返すことができる、請求項1に記載の医療機器。
【請求項5】
支持体が孔を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項6】
シート状送達物を目的部位に送達するための方法であって、
請求項1~5のいずれか一項に記載の医療機器を提供するステップ、
シート状送達物を支持体に載置するステップ、
支持体を保護位置に移動させるステップ、
医療機器を目的部位に近接させるステップ、および
シート状送達物を適用位置に移動させるステップ
を含む、前記方法。
【請求項7】
目的部位への近接が、体腔内に経腹腔的に挿入された筒状体に医療機器を挿通することにより行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
シート状送達物を体腔内に経腹腔的に挿入して目的部位に送達するための請求項6または7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状送達物を目的部位に送達するための医療機器および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、損傷した組織等の修復のために、種々の細胞を移植する試みが行われている。例えば、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患により損傷した心筋組織の修復のために、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、間葉系幹細胞、心臓幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の利用が試みられている(非特許文献1)。
【0003】
このような試みの一環として、スキャフォールドを利用して形成した細胞構造物や、細胞をシート状に形成したシート状細胞培養物が開発されてきた(非特許文献2)。
シート状細胞培養物の治療への応用については、火傷などによる皮膚損傷に対する培養表皮シートの利用、角膜損傷に対する角膜上皮シート状細胞培養物の利用、食道がん内視鏡的切除に対する口腔粘膜シート状細胞培養物の利用などの検討が進められており、その一部は臨床応用の段階に入っている。
【0004】
シート状細胞培養物を目的部位に投与する手術方法に関して、人体に対する低侵襲な手術方法として内視鏡下手術が広く用いられており、シート状細胞培養物を目的部位に送達して投与するための様々な器具が提案されている。
例えば、特許文献1に記載された運搬投与器具は、シート支持部材を筒状にして外筒内に格納することにより、人体に対する侵襲の度合いを低くして、移植部位までシート状の治療用物質を運搬することができる。
【0005】
特許文献2に記載されたシート貼付装置は、シート支持部の表面に沿って配置された棒状部材を、シート支持部の表面に沿って移動させることにより剥離させて、シート状の物質を目的部位に貼付することができる。
特許文献3に記載された運搬投与具は、シート支持体に、シート状治療用物質を吸着保持させる陰圧と、シート支持体からシート状治療用物質を離脱させる陽圧を付与可能なシート脱着手段で、シートを投与することができる。
特許文献4に記載された移送器具は、本体部に対して変位自在に設けられる変位体と、変位体を覆うように巻回され、本体部に接続されるベルト体とを備え、変位体を変位させることで、ベルト体に載置された生体移植片を移送することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-511号公報
【特許文献2】特開2016-187601号公報
【特許文献3】特開2008-173333号公報
【特許文献4】特開2012-30045号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Haraguchi et al., Stem Cells Transl Med. 2012 Feb;1(2):136-41
【非特許文献2】Sawa et al., Surg Today. 2012 Jan;42(2):181-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上記のようなシート状送達物の形状を保持しながら、効率よく目的部位に送達することは困難であるなど問題に直面した。したがって、本発明は、このような問題を解決し、簡便な機構と、簡単な作業で、シート状送達物の形状を保持しながら目的部位に送達するための医療機器を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進める中で、アーチ状部を有する本体上を摺動する摺動体を利用することにより、シート状送達物の形状を保持しながら、効率よく目的部位に送達できることを初めて見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を続けた結果、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下に関する。
[1]シート状送達物を目的部位に送達するための医療機器であって、アーチ状部を有する本体と、該アーチ状部の外面および内面を折り返すように摺動する摺動体とを含み、シート状送達物を載置した摺動体を摺動させることにより、シート状送達物が外面上にある適用位置と、シート状送達物が内面上にある保護位置とに移動させることができる、前記医療機器。
[2]摺動体が摺動方向に延伸する凸部を有する、[1]に記載の医療機器。
[3]摺動体が孔を有し、摺動体と本体との間に入れた流体を孔から放出させることができる、[1]または[2]に記載の医療機器。
[4]摺動体の内側端部に接続された長尺体をさらに含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の医療機器。
[5]摺動体の外側端部に接続された筒体をさらに含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の医療機器。
【0011】
[6]摺動体が周方向に拡縮可能である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の医療機器。
[7]シート状送達物を目的部位に送達するための方法であって、[1]~[6]のいずれか一項に記載の医療機器を提供するステップ、シート状送達物を摺動体に載置するステップ、シート状送達物を保護位置に移動させるステップ、医療機器を目的部位に近接させるステップ、およびシート状送達物を適用位置に移動させるステップを含む、前記方法。
[8]目的部位への近接が、体腔内に経腹腔的に挿入された筒状体に医療機器を挿通することにより行われる、[7]に記載の方法。
[9]シート状送達物を体腔内に経腹腔的に挿入して目的部位に送達するための[7]または[8]に記載の方法。
【0012】
[10]シート状送達物を目的部位に送達するための医療機器であって、アーチ状部を有する本体と、該アーチ状部の外面および内面を折り返すように摺動する摺動体とを含み、摺動体は低密着性の剥離部を有し、シート状送達物を載置した剥離部を本体の先端部で折り返すことにより、アーチ状のシート状送達物を本体の先端側に突き出すことができる、前記医療機器。
[11]剥離部が伸縮性を有する、[10]に記載の医療機器。
[12]剥離部が複数の凸部を有する、[10]または[11]に記載の医療機器。
[13]剥離部が本体の先端部で折り返されることでシート状送達物から離脱する、[10]~[12]のいずれか一項に記載の医療機器。
[14]シート状送達物をアーチ状部の内面に載置できるように構成されている、[10]~[13]のいずれか一項に記載の医療機器。
[15]摺動体が拡張可能である、[10]~[14]のいずれか一項に記載の医療機器。
【0013】
[16]シート状送達物を目的部位に送達するための方法であって、[11]~[15]のいずれか一項に記載の医療機器を提供するステップ、シート状送達物を剥離部に載置するステップ、医療機器を目的部位に近接させるステップ、およびシート状送達物を本体の先端側に突き出すステップを含む、前記方法。
[17]目的部位への近接が、体腔内に経腹腔的に挿入された筒状体に医療機器を挿通することにより行われる、[16]に記載の方法。
[18]シート状送達物を体腔内に経腹腔的に挿入して目的部位に送達するための[16]または[17]に記載の方法。
【0014】
[19]シート状送達物を目的部位に送達するための医療機器であって、アーチ状部を有する本体と、該アーチ状部の外面および内面を折り返すように摺動する摺動体と、摺動体に着脱可能な支持体とを含み、シート状送達物を載置した支持体を摺動体に取り付けて摺動させることにより、シート状送達物が外面上にある適用位置と、シート状送達物が内面上にある保護位置とに移動させることができる、前記医療機器。
[20]支持体が可撓性を有し、支持体の一端が摺動体に取り付けられており、摺動体を摺動させることにより、支持体を本体の先端側に突き出すことができる、[19]に記載の医療機器。
[21]支持体を本体の先端側に突き出た状態から、本体の外面上に旋回させることができる、[20]に記載の医療機器。
[22]支持体が柔軟性を有し、支持体の下面が摺動体に取り付けられており、摺動体を摺動させることにより、支持体を本体の先端側で折り返すことができる、[19]に記載の医療機器。
【0015】
[23]支持体が孔を有する、[19]~[22]のいずれか一項に記載の医療機器。
[24]シート状送達物を目的部位に送達するための方法であって、[19]~[23]のいずれか一項に記載の医療機器を提供するステップ、シート状送達物を支持体に載置するステップ、支持体を保護位置に移動させるステップ、医療機器を目的部位に近接させるステップ、およびシート状送達物を適用位置に移動させるステップを含む、前記方法。
[25]目的部位への近接が、体腔内に経腹腔的に挿入された筒状体に医療機器を挿通することにより行われる、[24]に記載の方法。
[26]シート状送達物を体腔内に経腹腔的に挿入して目的部位に送達するための[24]または[25]に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡便な機構と、簡単な作業で、シート状送達物の形状を保持しながら、効率よく目的部位に送達することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の第1実施態様に係る医療機器を示す概念図である。
図2図2は、本発明の第1実施態様に係る医療機器の使用例を示す図である。
図3図3は、本発明の第1実施態様の医療機器の第1変形例を示す概念図である。
図4図4は、本発明の第1実施態様の医療機器の第2変形例を示す概念図である。
図5図5は、本発明の第2実施態様に係る医療機器の使用例を示す図である。
図6図6は、本発明の第3実施態様に係る医療機器の使用例を示す図である。
図7図7は、本発明の第3実施態様の医療機器の第1変形例の使用例を示す図である。
図8図8は、本発明に係る医療機器の変形例を示す概念図である。
図9図9は、本発明に係る医療機器の変形例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、「シート状送達物」とは、生体に送達されて治療等に用いられるシート状の医薬品や再生医療等製品、医療機器などを意味する。シート状は、フィルム状、膜状(高粘度の物体)を含む。シート状の医薬品は、組織接着剤、局所麻酔剤などを含む。シート状の再生医療等製品は、移植片、細胞培養物などを含む。シート状の医療機器は、癒着防止材、止血材、創傷被覆材などを含む。
本発明において、「移植片」とは、生体内へ移植するための構造物を意味し、特に生細胞を構成成分として含む移植用構造物を意味する。本発明の移植片としては、これに限定するものではないが、例えばシート状細胞培養物、スフェロイド、細胞凝集塊等が挙げられ、好ましくはシート状細胞培養物またはスフェロイド、より好ましくはシート状細胞培養物である。
【0019】
本発明において「シート状細胞培養物」とは、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層(多層)体、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。また、シート状細胞培養物は、細胞が明確な層構造を示すことなく、細胞1個分の厚みを超える厚みを有する3次元構造を有してもよい。例えば、シート状細胞培養物の垂直断面において、細胞が水平方向に均一に整列することなく、不均一に(例えば、モザイク状に)配置された状態で存在していてもよい。
【0020】
シート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、シート状細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがある。本発明のシート状細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本発明のシート状細胞培養物は、フィブリン等を塗布することで、その物理的強度を補強することもできる。
【0021】
シート状細胞培養物を構成する細胞は、シート状細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたもの(iPS細胞由来接着細胞)であってもよい。シート状細胞培養物を構成する細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。iPS細胞由来接着細胞の非限定例としては、iPS細胞由来の心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
【0022】
本発明において、「医療機器」とは、ヒトもしくは動物の疾病の診断、治療もしくは予防に使用されること、またはヒトもしくは動物の身体の構造もしくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等を指す。
【0023】
本発明において、「目的部位」とは、シート状送達物を適用(貼付)する部分を指す。目的部位としては、例えば、臓器の表面、臓器の損傷部位、臓器の吻合部位などが挙げられる。目的部位は、典型的には、心臓、心臓の表面、心臓の損傷部位、心臓の吻合部位などである。また、目的部位は、管腔臓器における損傷(創傷)が存在する部位、例えば管腔壁内側の損傷部位や、損傷が存在する部位に対応する管腔壁の反対側等が挙げられる。「管腔臓器」は、体腔に収納されている内腔を有する臓器、すなわち管状または袋状の構造を有する臓器を意味し、例えば消化管系、循環器系、尿路系、呼吸器系、生殖器系の臓器等が挙げられる。
【0024】
消化管系の臓器としては、食道、胃、十二指腸、膵臓、胆のう、胆管、小腸、大腸、直腸等が挙げられる。中でも管腔壁が薄く、穿孔発生のリスクが高いことや、種々の消化液に暴露される厳しい環境にあるために損傷の悪化が進行しやすいこと等から、十二指腸が最も好ましい。
【0025】
一態様において、シート状送達物は、保護液に浸漬されている。「シート状送達物」とは、移植片の形状および機能を維持することができる液体であれば特に限定されず、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝液(PBS)、ハンクス平衡塩液、細胞培養液、水等の液体またはそれらの混合物である。
【0026】
本発明において、「シート状送達物を目的部位に送達する」とは、シート状送達物を本体の基端側から、目的部位により近い先端側に移動させることをいう。本体の基端側とは、医療機器を操作する操作者側であり、本体の先端側とは、基端側の反対側であり、目的部位により近く、シート状送達物を送達する側である。
本発明において、「本体」とは、シート状送達物を支持できる面を有する板状部材をいう。本体は、アーチ状の部分(アーチ状部)を有し、アーチ状部は、内面および該内面の反対側にある外面を有する。本体が、例えば、4枚の板状部材を連結した、断面が四角形の筒形状を有する場合は、アーチ状部はコの字形を含むロの字形であり、内側の凹んでいる面を内面、その反対側にある外側の突出している面を外面という。
【0027】
本体が、例えば、1枚の板状部材を円形に丸めた、断面が円形の円筒状を有する場合は、アーチ状部はCの字形を含むО(オー)の字形であり、内面および外面は曲面である。本体が、例えば、1枚の板状部材を半円形に丸めた、断面が半円形の半円筒状を有する場合は、アーチ状部はCの字形であり、内面および外面は曲面である。すなわち、アーチ状部とは、本体におけるロの字形、コの字形、Оの字形、またはCの字形のアーチ状の部分をいう。ロの字形はコの字形を、Оの字形はCの字形を包含する。本発明において、アーチ状部の凹んでいる側を、内面、凹面、内側、内部、アーチ状部の突出している側を外面、凸面、外側、外部という場合がある。アーチ状は、弧状も含む。
【0028】
アーチ状部の内面と外面のどちらか一方は平面であってもよく、例えば、内面が凹面で外面が平面、内面が平面で外面が凸面であってもよい。本体は剛性を有し、その凹面にシート状送達物を配置することで、シート状送達物を外力から保護することができ、凸面または凹面にシート状送達物を配置することで、シート状送達物を凸状または凹状に保持することができる。本体は、凹面および/または凸面を有するアーチ状部を少なくとも一部に有していればよく、断面が半円形、円形、四角形、多角形の部材でもよい。本体は、複数のシート状送達物を直線的に支持することができるように、長尺状であることが好ましい。
【0029】
本体の材料としては、特に限定されず、各種公知の材料を単独でまたは複数組み合わせて用いることができる。このような材料としては、例えば、金属、軟質塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーンゴム、天然ゴム、合成ゴム、スチレンーエチレンーブチレンースチレン共重合体(SEBS)、スチレンーエチレンープロピレンースチレン共重合体(SEPS)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ナイロンなどのポリアミド樹脂及びポリアミドエラストマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル樹脂及びポリエステルエラストマー、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂、フッ素ゴム、フッ素樹脂、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
本発明において、「摺動体」とは、シート状送達物をその形状を維持した状態で表面に載置することができる帯状体をいう。摺動体は、本体の面形状に沿って摺動することができ、外面(凸面)上を摺動するときは、凸面に沿った凸状に、内面(凹面)上を摺動するときは、凹面に沿った凹状に変形する。帯状体は、本体に沿って摺動できる長さを有し、その上に、一つのシート状送達物を支持することもできるし、複数のシート状送達物を直線的に支持することもできる。摺動体は、本体の長軸方向に沿って摺動し、本体の先端部で折り返されることで、内面から外面、外面から内面に移動する。すなわち、摺動体は、折り返されることで上下反転し、シート状送達物を載置した支持面も上下反転する。
【0031】
摺動体の材料としては、特に限定されず、各種公知の材料を単独でまたは複数組み合わせて用いることができる。このような材料としては、例えば、金属、軟質塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーンゴム、天然ゴム、合成ゴム、スチレンーエチレンーブチレンースチレン共重合体(SEBS)、スチレンーエチレンープロピレンースチレン共重合体(SEPS)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ナイロンなどのポリアミド樹脂及びポリアミドエラストマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル樹脂及びポリエステルエラストマー、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂、フッ素ゴム、フッ素樹脂等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
本発明において、「孔」とは、摺動体、支持体などのシート状送達物を載置する支持面に設けられた1以上の貫通孔をいい、シート状送達物を支持している面の反対側から流体を送り込み、孔を通して流体を吐出することで、シート状送達物を支持面から剥離させて貼付することができる。孔は、流体を吐出できればよく、支持面のシート状送達物の縁部付近に接する部分に少なくとも1つ設けられていれば、シート状送達物の剥離をその縁部付近から行うことができる。
【0033】
孔は、シート状送達物の剥離位置を調節できるように、支持面に離散的に複数配置されることが好ましい。例えば、複数の孔の少なくとも1つをシート状送達物の縁部付近に設け、シート状送達物の剥離をその縁部付近から行い、その後に他の孔から流体を吐出することで、シート状送達物を段階的に剥離することもできる。複数の孔の配置は、例えば、2×2~40×40、5×5~20×20など、行×列のマトリックス配置とすることができ、孔同士の間隔は、例えば、0.05mm~10mm、0.5mm~2mmとすることができ、孔の径は、例えば、0.05mm~10mm、0.3~0.6mmとすることができるが、これらに限定されず、当業者であればシート状送達物のサイズ、シート状送達物と支持面との接着度合いなどに合わせて自由に選択することができる。支持面の構造を網目構造とすることで、複数の孔のマトリックス配置を達成することもできる。
【0034】
本発明において、「流体」とは、シート状送達物を傷つけることなく押し出して剥離することができる、気体と液体の総称をいう。液体は、少なくとも1種の成分から構成され、その成分としてはとくに限定されないが、例えば、水、水溶液、非水溶液、懸濁液、乳液などの液体から構成される。液体を構成する成分は、シート状送達物に与える影響が少ないものであればとくに限定されない。シート状送達物が生体由来材料からなる膜である場合、液体を構成する成分は、生体適合性のもの、すなわち、生体組織や細胞に対して炎症反応、免疫反応、中毒反応などの望まない作用を起こさないか、少なくともかかる作用が小さいものが好ましい。
【0035】
本発明において、「支持体」とは、シート状送達物をその形状を維持した状態で支持することができる平面を有する板状体をいう。支持体は可撓性を有し、シート状送達物を支持した状態で湾曲させて、本体の内側などに沿って格納することができ、本体から露出させるとその復元性で平面状に展開させることができる。支持体の材料としては、特に限定されず、各種公知の材料を単独でまたは複数組み合わせて用いることができる。このような材料としては、例えば、金属、軟質塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーンゴム、天然ゴム、合成ゴム、スチレンーエチレンーブチレンースチレン共重合体(SEBS)、スチレンーエチレンープロピレンースチレン共重合体(SEPS)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ナイロンなどのポリアミド樹脂及びポリアミドエラストマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル樹脂及びポリエステルエラストマー、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂、フッ素ゴム、フッ素樹脂等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
本発明において、「筒状体(管状体)」とは、内部に空間を有するパイプ状の長尺物をいう。筒状体は、その両端に開口部を有し、送達物を内部空間を通して先端側に送達することができる。筒状体としては、送達物を外力から保護できる程度の剛性を有するものであればとくに限定されず、市販の筒状体を含む任意のものを用いることができる。筒状体の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ガラス、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられるがこれに限定されない。
【0037】
筒状体は、可撓性を有する材料により構成してもよく、その場合は、腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術などに際して体内に挿入するための通路が湾曲していても、その通路の形態に合わせて湾曲させたり、筒状体と目的部位との相対的な角度を調節するために屈曲させたりすることができる。筒状体の外径は、特に限定されないが、例えば、2.2~25mm、好ましくは、5~20mmとすることができる。筒状体の内径は、特に限定されないが、例えば、2~20mm、好ましくは、3~15mmとすることができる。
【0038】
本発明において、「剥離部」とは、摺動体におけるシート状送達物を載置する部分をいい、「低密着性」とは、シート状送達物と剥離部との間の密着性が低いことをいう。摺動体の剥離部は、低密着性材料で作成するか、表面に低密着性材料を塗布することにより、実現することができる。低密着性の度合いは、例えば、剥離部上のシート状送達物に引張加重を加え、剥離したときの荷重を測定することで数値化でき、剥離荷重は、典型的には、0.0001N~0.5N、好ましくは0.001N~0.1Nである。当業者であれば、様々な材料を使用してシート状送達物と剥離部との密着性を調べることで、最適な低密着性材料を見つけ出すことができる。
【0039】
低密着性の剥離部は、摺動体におけるシート状送達物を載置する部分に加工を施すことで、実現することもできる。たとえば、摺動体の一部に複数の凸部を形成し、シート状送達物と複数の凸部とが接することで接触面積を減少させることで、低密着性の剥離部を実現することもできる。低密着性の剥離部は、摺動体におけるシート状送達物を載置する部分に伸縮性を持たせることで、実現することもできる。すなわち、例えば、伸縮性の剥離部を本体の先端部で外側から内側に折り返すとき、内側に引っ張られた剥離部は伸びる。剥離部が伸びる(面積が大きくなる)と、その上に載置されている伸びないシート状送達物は剥離部から離脱する。伸縮性の剥離部は、元の長さに対して、例えば、1.1~5倍、1.8~4倍、2~3倍程度の長さに伸びるように構成することができる。
当業者であれば、様々な材料を使用してシート状送達物と剥離部との密着性を調べることで、最適な伸縮性材料を見つけ出すことができる。
【0040】
本体、摺動体、凸部、孔、長尺体、筒体、支持体、筒状体などのサイズや材料は、目的部位に送達するシート状送達物のサイズや種類、連続的に送達する複数のシート状送達物の枚数、目的部位との距離、操作性、重量、コストなどを考慮して自由に選択することができる。シート状送達物が、例えば、直径が約60mmのシート状細胞培養物である場合、本体の径は、2.2~25mm、好ましくは5~20mm、より好ましくは10~15mmとすることができる。
【0041】
以下、本発明の好適な実施態様に係る医療機器ついて、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施態様に係る医療機器を示す概念図、図2は、第1実施態様に係る医療機器の使用例を示す図、図3は、第1実施態様の医療機器の第1変形例を示す概念図、図4は、第1実施態様の医療機器の第2変形例を示す概念図、図5は、本発明の第2実施態様に係る医療機器の使用例を示す図、図6は、本発明の第3実施態様に係る医療機器の使用例を示す図、図7は、第3実施態様の医療機器の第1変形例の使用例を示す図である。
なお、本願における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は、実際の大きさを示すものではない。
【0042】
第1実施態様
まず、本発明の第1実施態様について説明する。
図1に示されるように、本発明の第1実施態様に係る医療機器Mは、本体1および摺動体2を含む。本体1は、円筒形状を有する長尺の円筒体であり、Оの字形のアーチ状部の内面は凹曲面、外面は凸曲面を成す。摺動体2は、円筒形状を有する長尺の帯状体であり、本体1の外径より大きな内径を有する。摺動体2は、本体1の外面および内面を折り返すように摺動させることができ、本体1の外面形状および内面形状に沿って変形する。本体1の先端部は、摺動体2の摺動を円滑にし、摺動体2の摩耗を抑えるため、断面がR形状をなしていることが望ましい。
【0043】
摺動体2は、例えば、本体1の基端側(図1右側)から外側に通し、先端方向(図1左方向)に引っ張り、本体1の先端部で内側に折り返し、折り返された部分を基端方向に引っ張ることで、本体1の内面および外面を覆うことができる。そして、摺動体2の内側端部21を本体1の基端方向に引っ張ることで、摺動体2を本体1の外面から内面に、逆に摺動体2の外側端部22を本体1の基端方向に引っ張ることで、摺動体2を本体1の内面から外面に折り返すように摺動させることができる。
【0044】
摺動体2の内側端部21は、本体1の内側を軸方向に進退できる長尺体3に(斜線で示される部分において)接続することができる。摺動体2の外側端部22は、本体1の外側を軸方向に進退できる筒体4に(斜線で示される部分において)接続することができる。すなわち、長尺体3および筒体4は、摺動体2を操作するための操作部として機能し、これらを本体1の先端方向に押したり、基端方向に引っ張ったりすることで、摺動体2を本体1に対して摺動させることができる。
【0045】
図1に示されるように、シート状送達物Sを医療機器Mに設置する際は、まず、シート状送達物Sを本体1の外面にある摺動体2の支持面上に載置する(載置位置)。次に、図2aに示されるように、長尺体3を基端方向に引っ張ることで、支持面を本体1の内面に引き込む。支持面は、本体1の先端で折り返されることで外面側から内面側に上下反転し、シート状送達物Sはその形状を保持した状態で、内面(凹面)上で外力から保護された状態になる(保護位置)。
【0046】
次に、シート状送達物Sを本体1の内面に保持した状態で、医療機器Mを体腔内に経腹腔的に挿入することで、シート状送達物Sの形状を保持しながら目的部位Tに近接させることができる。そして、図2bに示されるように、体腔内に挿入された筒体4を指などで把持し、長尺体3を本体1に押し込み、摺動体2の支持面を本体1の内側から外側に露出させ(適用位置)、シート状送達物Sを剥離して、目的部位Tに適用することができる。
【0047】
複数のシート状送達物Sを目的部位Tに適用する場合は、複数のシート状送達物Sを摺動体2の摺動方向に直線的に載置し、図2aと同様に操作することで、複数のシート状送達物Sを本体1の凹面上に保護することができる。そして、体腔内に挿入した医療機器Mを図2bと同様に操作することで、複数のシート状送達物Sを本体1の内側から外側に移動させ、複数のシート状送達物Sを目的部位Tに適用することができる。
【0048】
シート状送達物Sの目的部位Tへの適用は、シート状送達物Sを支持している摺動体2の支持面が目的部位T側に向くように本体1を回転させ、目的部位Tにシート状送達物Sを押し付けて剥離する、鉗子Cなどを使用して摺動体2からシート状送達物Sを剥離して、目的部位Tに載置するなどして実現することができる。複数のシート状送達物Sを目的部位Tへ適用する場合は、本体1の内側から外側にシート状送達物Sを1枚ずつ移動させながら、目的部位Tへ適用することができる。
【0049】
本体1は、シート状送達物Sを外力から保護できる凹面を有する限り、どのような形状でもよい。本体1が、例えば、断面が半円形(Cの字形)やコの字形の板状部材であり、摺動体2がリボン形状の帯状体であっても、アーチ状部の内面(凹面)側に摺動体2を移動させながら、本体1をヘラのように使用して、シート状送達物Sをすくい上げて載置することで適切に保護することができる。そして、図2aに示されるように、筒体4を本体1の先端側に移動してシート状送達物Sを覆うことで、シート状送達物Sをさらに適切に保護することもできる。
【0050】
図3は、医療機器Mの第1変形例を示す概念図である。本変形例において、摺動体2は複数の凸部23を有する。摺動体2は、本体1の外面上にあるときは、本体1の外径に従い、内面上にあるときは、本体1の内径に従って縮径する。すなわち、本体1の内面に引き込まれたシート状送達物Sが、凸部23同士の距離が狭まった状態で把持されることで、シート状送達物Sをより確実に摺動体2に固定することができる。
【0051】
図4は、医療機器Mの第2変形例を示す概念図である。本変形例において、摺動体2は支持面に孔24を有し、シート状送達物Sを支持している面と反対側から流体を送り込むことで、シート状送達物Sを摺動体2から離脱させて目的部位Tに投下することができる。図4aは、本体1の基端側をバルブVで閉じ、本体1の側面にあるポートPから摺動体2の内側端部21に向けて流体を送り込む場合、図4bは、筒体4の基端側をバルブVで閉じ、筒体4の側面にあるポートPから摺動体2の外側端部22に向けて流体を送り込む場合を示す。
【0052】
第1実施態様の医療機器Mの使用は、以下の工程によって順次行うことができる。
(1)医療機器Mを提供する
(2)シート状送達物Sを摺動体2に載置する
(3)シート状送達物Sを保護位置に移動させる
(4)医療機器Mを目的部位Tに近接させる
(5)シート状送達物Sを適用位置に移動させる
(6)シート状送達物Sを剥離する
(7)シート状送達物Sを目的部位Tに適用する
【0053】
工程(1)~(5)により、シート状送達物Sを目的部位Tに送達することができる。(2)において、シート状送達物Sは、本体1の内側の摺動体2または外側の摺動体2に載置することができる。(3)において、シート状送達物Sを筒体4で覆うこともできる。(4)において、体腔内に経腹腔的に挿入された筒状体に医療機器Mを挿通して目的部位Tに近接させることもできる。(7)において、シート状送達物Sを目的部位Tに投下して適用することもできる。
【0054】
以上のように、本発明によれば、簡便な機構と、簡単な作業で、シート状送達物の形状を保持しながら、効率よく目的部位に送達することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。
【0055】
第2実施態様
以下、本発明の好適な実施態様2に係る医療機器ついて、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図5に示されるように、本発明の第2実施態様に係る医療機器Mは、本体1およびリボン形状の摺動体2を含む。摺動体2は、シート状送達物Sを支持するための剥離部を有する。剥離部は、摺動体2におけるシート状送達物Sを支持する部分であり、その表面は低密着性を有する。図5aに示されるように、シート状送達物Sを医療機器Mに設置する際は、まず、摺動体2の剥離部を本体1のアーチ状部の外面に移動して(載置位置)、シート状送達物Sを剥離部上に載置する。
【0056】
図5bに示されるように、長尺体3を基端方向に引っ張ることで、剥離部を本体1の内面に引き込む。剥離部は、本体1の先端で折り返されて外面側から内面側に上下反転する一方で、シート状送達物Sは反転せずに本体1の先端側に突き出る。すなわち、外面上にアーチ状に保持されたシート状送達物Sは、剥離部と共に先端方向に移動し、先端部で剥離部が折り返されると、低密着性の剥離部からシート状送達物Sが離脱する。アーチ状で一定の強度を有するシート状送達物Sは、その形状を保持した状態で本体1の先端側に突き出た状態になる(適用位置)。シート状送達物Sに一定の強度を持たせるために、シート状送達物Sにフィブリン等を塗布して補強することもできる。
【0057】
すなわち、図5bに示されるように、シート状送達物Sは摺動体2から剥離された状態で先端側に突き出るため、鉗子Cなどで簡単に掴んで(挟んで)目的部位Tに適用することができる。また、図5cに示されるように、シート状送達物Sが目的部位T側に向くように本体1を回転させ、目的部位Tにシート状送達物Sを載置することも、回転させずに本体1の先端(シート状送達物S)を目的部位Tに押し付けることもできる。図5bの状態からシート状送達物Sをさらに突き出し、シート状送達物Sを摺動体2から離脱させて目的部位Tに投下することもできる。
【0058】
図5aとは反対に、摺動体2の剥離部を本体1のアーチ状部の内面に移動した状態で、シート状送達物Sを載置することもできる。すなわち、本体1のアーチ状部が、コの字形、Cの字形のように一部が開放されている場合は、剥離部を内面に移動した状態(載置位置)で、本体1をヘラのように使用して、シート状送達物Sをすくい上げて載置することができる。これにより、シート状送達物Sが内面上で保護され(保護位置)、剥離部を本体1の内側から外側に折り返すように摺動させることで、アーチ状のシート状送達物Sを本体1の先端側に突き出すこともできる(適用位置)。本体1の一部が開放されている場合、摺動体2を筒体4(図示せず)に接続して、筒体4を本体1の先端側に移動して、さらに適切にシート状送達物Sを保護することもできる。
【0059】
本発明の医療機器Mの使用は、以下の工程によって順次行うことができる。
(1)医療機器Mを提供する
(2)シート状送達物Sを剥離部に載置する
(3)医療機器Mを目的部位Tに近接させる
(4)シート状送達物Sを本体1の先端方向に突き出す
(5)シート状送達物Sを目的部位Tに適用する
【0060】
工程(1)~(4)により、シート状送達物Sを目的部位Tに送達することができる。(2)において、シート状送達物Sは、本体1の内側にある剥離部または外側にある剥離部に載置することができる。摺動体2を筒体4に接続する場合、(3)において、筒体4を本体1の先端側に移動してシート状送達物Sを覆うこともできる。(3)において、体腔内に経腹腔的に挿入された筒状体に医療機器Mを挿通して目的部位Tに近接させることもできる。(4)と(5)の間に、(6)シート状送達物Sを摺動体2から離脱させる工程を含んでもよい。(5)において、シート状送達物Sを目的部位Tに投下して適用することもできる。
【0061】
以上のように、本発明によれば、簡便な機構と、簡単な作業で、シート状送達物の形状を保持しながら、効率よく目的部位に送達することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。
【0062】
第3実施態様
以下、本発明の好適な実施態様3に係る医療機器ついて、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図6に示されるように、本発明の第3実施態様に係る医療機器Mは、本体1、摺動体2および支持体5を含む。摺動体2は、リボン形状の帯状体であり、本体1の基端部と先端部との間で軸方向に沿って巻回されている。摺動体2の一部は、長尺体3に接続することができ、長尺体3を本体1に対して進退させることで、摺動体2を先端方向、または基端方向に摺動させることができる。
【0063】
支持体5は、その一端を接続部51を介して摺動体2に接続することができ、摺動体2の摺動に追従するように、本体1の外面および内面上を摺動することができる。図6aに示されるように、支持体5は可撓性を有し、支持体5を本体1の先端側に突き出すと平面状に展開され、その面にシート状送達物Sを載置することができる。シート状送達物Sを載置する際は、シート状送達物Sを載置した支持体5を摺動体2に取り付けることもできる。
【0064】
次に、図6bに示されるように、摺動体2が接続された長尺体3を基端方向に引っ張ることで、支持体5を本体1のアーチ状部の内面に引き込む。支持体5は、本体1の先端部に押し付けられることで湾曲し、シート状送達物Sを内側に支持した状態で本体1の内面に格納される。次に、シート状送達物Sを本体1の内面に保持した状態で、医療機器Mを体腔内に経腹腔的に挿入することで、シート状送達物Sの形状を保持しながら、効率よく目的部位Tに近接させることができる。
【0065】
そして、図6cに示されるように、摺動体2が接続された長尺体3を本体1に押し込み、支持体5を本体1の先端側に突き出して展開させることで、シート状送達物Sを目的部位Tに適用することができる(適用位置)。また、図6dに示されるように、長尺体3をさらに本体1の先端方向に押し込み、摺動体2に接続された支持体5の一端(接続部51)を本体1のアーチ状部の外側に反転させることで、支持体5を本体1の外面上に旋回させることもできる(適用位置)。
【0066】
図6cに示されるように、支持体5が本体1の外面上にある場合は、シート状送達物Sが目的部位T側に向いている為、本体1を回転させる必要がなく操作が簡単である。支持体5は、孔(図示せず)を有していてもよく、支持体5のシート状送達物Sを支持している面の反側から、孔を通して流体を吐出することで、シート状送達物Sを支持体5から離脱させて目的部位Tに投下することもできる。
【0067】
図7は、第3実施態様の医療機器Mの第1変形例を示す概念図である。本変形において、支持体5は柔軟性を有し、その両端の接続部51を摺動体2に接続することができる。図7aに示されるように、シート状送達物Sを載置する際は、摺動体2(支持体5)を本体1の外面上に移動させて載置する(載置位置)。次に、図7cに示されるように、支持体5が接続された摺動体2を本体1の内面に引き込むことで、シート状送達物Sが内面上で保護された状態になる(保護位置)。
【0068】
シート状送達物Sを本体1の内面に保持した状態で、医療機器Mを体腔内に経腹腔的に挿入することで、シート状送達物Sの形状を保持しながら、効率よく目的部位Tに近接させることができる。そして、図7eに示されるように、長尺体3を本体1の先端方向に押し込み、支持体5を本体1の外面上に反転させることで(適用位置)、シート状送達物Sを剥離して、目的部位Tに適用することができる。
【0069】
図6dにおいては、可撓性を有する支持体5が、矢印で示されるように大きく旋回するのに対して、図7bおよび図7dにおいては、本体1の先端部で摺動体2が折り返されると、それに追従して柔軟性を有する支持体5が、矢印で示されるように小さく旋回する(折り返される)。支持体5が小さく旋回することにより、支持体5が目的部位Tなどを不用意に傷つけるなどの問題を防ぐことができる。
【0070】
第3実施態様の医療機器Mの使用は、以下の工程によって順次行うことができる。
(1)医療機器Mを提供する
(2)シート状送達物Sを支持体5に載置する
(3)支持体5を保護位置に移動させる
(4)医療機器Mを目的部位Tに近接させる
(5)シート状送達物Sを適用位置に移動させる
(6)シート状送達物Sを剥離する
(7)シート状送達物Sを目的部位Tに適用する
【0071】
工程(1)~(5)により、シート状送達物Sを目的部位Tに送達することができる。(2)において、シート状送達物Sを載置した支持体5を摺動体2に取り付けてもよいし、摺動体2に取り付けられた支持体5を本体1の先端側に突き出した状態でシート状送達物Sを載置してもよい。(3)において、支持体5を筒体4で覆うこともできる。(4)において、体腔内に経腹腔的に挿入された筒状体に医療機器Mを挿通して目的部位Tに近接させることもできる。
【0072】
(6)において、支持体5に設けられた孔から流体を吐出することで、シート状送達物Sを支持体5から剥離することもできる。(7)において、シート状送達物Sを目的部位Tに投下して適用することもできる。(5)と(6)の間に、(8)支持体5を鉗子Cなどで把持し、摺動体2から取り外す工程を含んでもよい。(7)において、取り外された支持体5を目的部位Tに投下してシート状送達物Sを適用することもできる。
【0073】
支持体5の一端を接続する場合、(5)における適用位置は、支持体5を本体1の先端側に突き出した状態(図6c)、または、支持体5を本体1の外面上に旋回させた状態(図6d)をとることができる。支持体5に設けられた孔から流体を吐出する場合は、支持体5を本体1の先端側に突き出した状態で行うことが好ましい。支持体5の両端を接続する場合、適用位置は、支持体5を本体1の外面上に旋回させた状態(図7e)になるので、本体1の支持体1側を目的部位Tに押し付けることで、シート状送達物Sを適用することができる。
【0074】
以上のように、本発明によれば、簡便な機構と、簡単な作業で、シート状送達物の形状を保持しながら、効率よく目的部位に送達することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。
【0075】
以上、本発明を図示の実施態様について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。第1~第3実施態様の構成は、適宜組み合わせることができる。
本発明においては、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することもできる。
【0076】
変形例として、例えば、図8aに示されるように、摺動体2の外周がシート状送達物Sの直径より大きくなるように拡張可能にして、シート状送達物Sの載置や適用を行うこともできる。そして、図8bに示されるように、摺動体2を収縮させて外径を小さくすることで、低侵襲な医療機器Mを実現することもできる。摺動体2を拡張するには流体を注入する必要があるため、長尺体3と筒体4に弁体Vを設け、少なくとも一方に注入ポートPを設ける。
【0077】
また、変形例として、本体1の外径よりも大幅に径が大きく拡張した摺動体2と、載置された大面積のシート状送達物Sを本体1の内面に効率よく収納する(図8c)ため、図9に示されるように、本体1の先端にギザギザの波状の凹凸を設けることで、摺動体2が本体1の内面で摺星形にしわが寄る様に収容することもできる。本体1の内面の断面をギザギザにすることで(非図示)、同様の効果を発揮することもできる。
【符号の説明】
【0078】
1 本体
2 摺動体
21 内側端部
22 外側端部
23 凸部
24 孔
3 長尺体
4 筒体
5 支持体
51 接続部
S シート状送達物
T 目的部位
C 鉗子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9