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  • 特開-水素ガス発生装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054688
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】水素ガス発生装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/02 20060101AFI20230407BHJP
   F22B 1/28 20060101ALI20230407BHJP
   F22G 3/00 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
C01B3/02 B
F22B1/28 Z
F22G3/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163691
(22)【出願日】2021-10-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】520462573
【氏名又は名称】有限会社カミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】金田 浩
(57)【要約】
【課題】加熱槽からの沸騰水の飛沫が水素ガスに混入して吸引器具へと到達することを効果的に防止することができる加熱式の水素ガス発生装置を提供する。
【解決手段】原料水供給手段と、原料水を加熱して発生する水蒸気を更に加熱して水素ガスと酸素ガスを発生させる加熱槽4と、水蒸気を液化し除去する気液分離槽5と、気液分離槽5から水素ガスを流出させ冷却する冷却部6と、を備える水素ガス発生装置1であって、加熱槽4は、内部に収容される原料水を水面上方及び下方から加熱する加熱手段が設けられている加熱領域Hと、加熱領域Hの上方において加熱領域Hよりも長く設けられている冷却領域Cとを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料水を供給する原料水供給手段と、
前記原料水供給手段から供給される原料水を加熱して発生する水蒸気を更に加熱して水素ガスと酸素ガスを発生させる有底筒状の加熱槽と、
発生した水素ガス及び酸素ガスを含む水蒸気を前記加熱槽の上部から流出させる流出管と、
前記流出管から流入する水蒸気を液化し除去する気液分離槽と、
前記気液分離槽から水素ガスを流出させ冷却する冷却部と、
を備え、
前記加熱槽は、内部に収容される原料水を水面上方及び下方から加熱する加熱手段が設けられている加熱領域と、前記加熱領域の上方において前記加熱領域よりも長く設けられている冷却領域とを備えることを特徴とする水素ガス発生装置。
【請求項2】
前記加熱槽は、内部に原料水を収容可能な磁性を有する筒状管と、前記筒状管の周囲に巻回された加熱手段である高周波コイルとを有し、前記高周波コイルは前記筒状管に磁界を発生させ渦電流を誘導することにより前記筒状管を加熱することを特徴とする請求項1に記載の水素ガス発生装置。
【請求項3】
前記筒状管の外側に断熱材層が設けられ、前記断熱材層の外側に前記高周波コイルが巻回されていることを特徴とする請求項2に記載の水素ガス発生装置。
【請求項4】
前記原料水供給手段は、原料水を収容する貯水槽と、前記貯水槽に導管を介して連続して設けられ前記加熱槽に原料水を供給するパスカルタンクと、前記パスカルタンク内に設けられた水位センサと、前記導管の途中に設けられ前記水位センサの検出結果に応じて開閉する電磁弁と、を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の水素ガス発生装置。
【請求項5】
前記気液分離槽は前記貯水槽に連結されていて、前記気液分離槽で水蒸気が液化して生じた水が前記貯水槽に送られることを特徴とする請求項4に記載の水素ガス発生装置。
【請求項6】
前記加熱槽は水蒸気を680℃以上690℃以下に加熱することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の水素ガス発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の水蒸気から水素ガスを発生させる水素ガス発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野や自動車産業において水素の需要が高まっている。例えば医療分野においては、体内に過剰に発生した活性酸素種による細胞傷害に起因する細胞の老化やがんの発生等を防止すべく、水素ガスの吸引が行われている。また、水素を燃焼させることでタービンを回転させて発電する水素発電も開発されている。
【0003】
医療用の水素ガスの供給は、従来は水素ガスを封入したガスボンベにより行われていたが、近年は水素ガスの吸引が行われる病院等に設けられた水素ガス発生装置により行われるようになっている。
【0004】
主な水素ガス発生装置として、水を電気分解して水素ガスを発生する装置(電気分解式水素ガス発生装置)と、水蒸気を加熱して水素ガスを発生する装置(加熱式水素ガス発生装置)の2種類の装置がある。
【0005】
電気分解式水素ガス発生装置は、電解槽内に水と電解質を投入し、電気を流すことで電解槽の陰極側に水素ガスを発生させる装置である。このタイプの水素ガス発生装置は、簡易な構成を用いて水素ガスを発生することができるが、水に添加する電解質が必要となり手間とコストがかかり、また、副次的に有害なオゾンが発生してしまうこともある。
【0006】
一方、加熱式水素ガス発生装置は、加熱槽内の水を加熱手段を用いて加熱して水蒸気にすると共に、水蒸気を更に過熱することで発生する水素ガスと酸素ガスを得る装置である(特許文献1参照)。このタイプの水素ガス発生装置は、水のみを用いて水素ガスを発生させることが可能であるため簡易かつ低コストで稼働することができ、また、有害なオゾンの発生も抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-151400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、加熱式水素ガス発生装置では、加熱槽から水素ガスを回収して鼻カニューレ等の吸引器具へと導出する際に、加熱槽内で急激に沸騰する水から生じる飛沫が水素ガスに交じって吸引器具へと到達してしまい、水素ガスを吸引する者(吸引者)に不快感を生じるという問題があった。
【0009】
しかし、従来の加熱式水素ガス発生装置においては、水蒸気となった水が吸引器具に到達することについては水素ガスの冷却を行い水蒸気を除去する等の対策が行われているが、この沸騰水の飛沫の混入については対策がなされていなかった。
【0010】
本発明はこのような問題を解決することを課題とするものであって、加熱槽からの沸騰水の飛沫が水素ガスに混入して吸引器具へと到達することを効果的に防止することができる加熱式の水素ガス発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水素ガス発生装置であって、原料水を供給する原料水供給手段と、前記原料水供給手段から供給される原料水を加熱して発生する水蒸気を更に加熱して水素ガスと酸素ガスを発生させる有底筒状の加熱槽と、発生した水素ガス及び酸素ガスを含む水蒸気を前記加熱槽の上部から流出させる流出管と、前記流出管から流入する水蒸気を液化し除去する気液分離槽と、前記気液分離槽から水素ガスを流出させ冷却する冷却部と、を備え、前記加熱槽は、内部に収容される原料水を水面上方及び下方から加熱する加熱手段が設けられている加熱領域と、前記加熱領域の上方において前記加熱領域よりも長く設けられている冷却領域を備えることを特徴とする。
【0012】
上記発明において、前記加熱槽は、内部に原料水を収容可能な磁性を有する筒状管と、前記筒状管の周囲に巻回された加熱手段である高周波コイルとを有し、前記高周波コイルは前記筒状管に磁界を発生させ渦電流を誘導することにより前記筒状管を加熱することが好ましい。
【0013】
また、上記発明において、前記筒状管の外側に断熱材層が設けられ、前記断熱材層の外側に前記高周波コイルが巻回されていることが好ましい。
【0014】
また、上記発明において、前記原料水供給手段は、原料水を収容する貯水槽と、前記貯水槽に導管を介して連続して設けられ前記加熱槽に原料水を供給するパスカルタンクと、前記パスカルタンク内に設けられた水位センサと、前記導管の途中に設けられ前記水位センサの検出結果に応じて開閉する電磁弁と、を備えることが好ましい。
【0015】
更に、上記発明において、前記気液分離槽は前記貯水槽に連結されていて、前記気液分離槽で水蒸気が液化して生じた水が前記貯水槽に送られることが好ましい。
【0016】
また、上記発明において、前記加熱槽は水蒸気を680℃以上690℃以下に加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水素ガス発生装置によれば、加熱槽からの沸騰水の飛沫が水素ガスに混入して吸引管へと到達することを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に従う水素ガス発生装置の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明に従う水素ガス発生装置の実施形態について説明する。なお、図面は、本実施形態を説明するにあたって必要な部分を優先して示していて、説明が特段不要な部分は省略している。
【0020】
図1は、本発明に従う水素ガス発生装置1の一実施形態を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態に係る水素ガス発生装置1は、貯水槽2と、パスカルタンク3と、加熱槽4と、気液分離槽5と、冷却部6と、吸引部7と、電磁弁9と、制御部10とを主な構成として備えて構成されている。
【0021】
貯水槽2は、水素ガスの原料となる水(原料水W)を収容するタンクである。貯水槽2は、下部において導管81を介してパスカルタンク3に連結されている。導管81の途中には電磁弁9が設けられていて、電磁弁9の開閉を制御することにより貯水槽2からパスカルタンク3及び加熱槽4への給水量が調整される。電磁弁9の開閉制御は、後述するように、制御部10により行われる。貯水槽2は、非磁性体であって耐熱性を有する材料により形成されていて、本実施形態においてはSUS304により形成されている。また、導管81も非磁性体であって耐熱性を有する材料により形成されていて、本実施形態においてはSUS304により形成されている。なお、貯水槽2と、パスカルタンク3と、水位センサ31と、電磁弁9とをまとめて原料水供給手段と称する。
【0022】
パスカルタンク3は、貯水槽2から加熱槽4へと供給される原料水Wの供給量を調整するための機構であり、タンク本体30の内部に水位センサ31が設けられている。パスカルタンク3は非磁性体であって耐熱性を有する材料により形成されていて、本実施形態においてはSUS304により形成されている。
【0023】
パスカルタンク3は、その内部の水位が加熱槽4内の水位と等しくなるように設計されている。すなわち、パスカルタンク3内に所定の量の原料水Wが供給されると、加熱槽4にもパスカルタンク3内の水位と同じ水位になるように原料水Wが供給される。そして、パスカルタンク3内の水位を水位センサ31で検知し、検知結果に応じて電磁弁9を開閉することによりパスカルタンク3内の水位を調節し、これにより間接的に加熱槽4内の水位を調節する。加熱槽4内は600℃を超える高温になるため、内部に水位センサを設けても破損してしまうおそれがある。そこでパスカルタンク3を用いることで間接的に加熱槽4内の水位の調節が行われている。
【0024】
水位センサ31は、本実施形態においてはパスカルタンク3の上部を起点にして底部に向けて伸びる、長さが異なる2つの棒状の電極(第1電極31a、第2電極31b)を備えて構成されている。第1電極31a及び第2電極31bは、各々の先端位置まで水位が到達したことを検知する。
【0025】
第1電極31aは第2電極31bよりも長い電極であり、水面検出部である先端部が第2電極31bの先端部よりもパスカルタンク3の底部に近い位置にある。第2電極31bは、第1電極31aよりも短い電極であり、その先端部は第1電極31aの先端部分よりも上側の位置にある。
【0026】
第1電極31aは、加熱槽4による加熱が行われる際に最低限必要である水量を示す水位(最低水位L1)に対応する位置に先端部が位置し、加熱槽4内の水位がこの最低水位L1に到達したことを間接的に検出する。この最低水位を下回る場合、十分な量の過熱水蒸気を得ることができず、そのため十分な量の水素ガスを得ることができない。
【0027】
第2電極31bは、加熱槽4による加熱が行われる際の最大水位L2に対応する位置に先端部が位置し、加熱槽4内の水位がこの最大水位L2に到達したことを間接的に検出する。この最大水位L2は、水量が多すぎるため水温及び水蒸気の加熱が十分に行えなくなるおそれが生じる水量を示す水位である。
【0028】
加熱槽4は、導管82を介してパスカルタンク3に連結されていて、パスカルタンク3から流入する原料水Wを加熱し水蒸気を発生させると共に、発生した水蒸気を更に加熱することで水素ガスと酸素ガスを発生させる有底筒状の構成である。加熱槽4は、原料水Wが注入される筒状管41と、筒状管41の周囲に設けられた断熱材層42と、断熱材層42の周囲に巻回された高周波コイル43とを主な構成として備えている。
【0029】
筒状管41は、磁性を有すると共に、耐食性、耐熱性を有する金属により形成されている有底円筒状の構成であり、本実施形態においてはステンレス材の一種であるSUS430により形成されている。筒状管41の下部にはパスカルタンク3から供給される原料水Wを導く導管82が接続されている。また、筒状管41の上部中央部分には、加熱槽4と気液分離槽5とを連結して筒状管41から水素ガスと酸素ガスを含む水蒸気を流出させる流出管であるフレキシブル管83が接続されている。フレキシブル管83は非磁性体であって耐熱性を有する材料により形成されていて、本実施形態においてはSUS304により形成されている。
【0030】
断熱材層42は、ゾノトライト結晶を基材とした断熱材により形成される層であり、筒状管41の周囲を覆うように設けられている。筒状管41に高周波コイル43を直接巻回した場合には、高周波コイル43による加熱時に筒状管41と高周波コイル43の熱が高くなりすぎて両方が焼け付いてしまうおそれがある。この焼き付きを防止するため、断熱材層42が形成されている。
【0031】
高周波コイル43は、外部から10,000Hz以上の高周波交流電流の供給を受けて筒状管41に磁界を発生させ、この磁界により筒状管41に渦電流を誘導することにより筒状管41を加熱する加熱手段である。高周波コイル43は、筒状管41の長手方向における中央部分よりも下側に巻回されている。
【0032】
加熱槽4のうち、高周波コイル43が断熱材層42を介して筒状管41に巻回されている部分を加熱領域Hという。この加熱領域Hにおいて、高周波コイル43は、筒状管41の内部に収容される原料水を水面上方及び下方から加熱する。加熱領域Hは、加熱槽4の上下方向における中央部よりも下側に設けられている。
【0033】
そして、加熱槽4のうち、加熱領域Hよりも上方であって高周波コイル43が設けられていない部分を冷却領域Cという。冷却領域Cは、加熱領域Hで加熱された水素ガスと酸素ガスを含む水蒸気を冷却するために設けられている。
【0034】
気液分離槽5は、フレキシブル管83を介して加熱槽4に接続されていて、加熱槽4から送られてくる水素ガスと酸素ガスを含む水蒸気を冷却するタンク状の機構である。水蒸気が冷却され凝縮することで発生する原料水Wはタンクの下部に貯留される。気液分離槽5は、非磁性体であって耐熱性を有する材料により形成されていて、本実施形態においてはSUS304により形成されている。気液分離槽5の上壁部には、フレキシブル管83と、ループ部62に気体を導く導管61が接続されている。また、気液分離槽5の周壁であって底部の近傍には、気液分離槽5内で生じた原料水Wを貯水槽2に戻す導管84が接続されている。
【0035】
冷却部6は、気液分離槽5に接続された導管61と、導管61を複数回ループさせて形成されたループ部62と、ループ部62を冷却する冷却ファン63を備えて構成されている。冷却部6の導管61及びループ部62は、非磁性体であって耐熱性を有する材料により形成されていて、本実施形態においてはSUS304により形成されている。
【0036】
導管61は、耐熱性の管状部材により形成されている。本実施形態において導管61は熱伝導性に優れた金属製のものを想定していて、本実施形態においてはSUS304により形成されているが、本発明においてはこれに限らず、樹脂製等のものであってもよい。
【0037】
ループ部62は、導管61をループ状に変形することで導管61の中途部分に形成されていて、本実施形態においては6周のループにより形成されている。ループ部62は導管61と同一の素材で形成されていることが加工の面から好ましく、本実施形態においては導管61と同じくSUS304により形成されている。
【0038】
冷却ファン63は、図示しない電源からの電力供給を受けて作動しループ部62に対して冷却風Bを送ることでループ部62内の気体を冷却する空冷機構である。
【0039】
吸引部7は、冷却部6に連続して設けられた構成であり、ループ部62に連続して形成された導管71と、導管71の端部に接続されたポンプ72と、ポンプ72から水素ガスが送られる吸引管73と、吸引管73の先端に着脱可能に取り付けられる鼻カニューレ74を有している。
【0040】
導管71は、ループ部62と同一の素材(本実施形態においてはSUS304)により形成されている。
【0041】
ポンプ72は、ループ部62から水素ガスを吸い込み、吸引管73へと水素ガスを送る。
【0042】
吸引管73は弾性を有する樹脂材料により形成されている。
【0043】
鼻カニューレ74は樹脂製の部材であり、使用者の鼻腔にフィットする形状を有している。鼻カニューレ74は吸引管73に対して着脱可能であり、使用者毎に交換可能とすることが衛生面から好ましい。
【0044】
制御部10は、水位センサ31、電磁弁9及び高周波コイル43に接続されていて、水位センサ31からの検出信号に基づき電磁弁9の開閉制御を行うと共に、高周波コイル43への電源供給を行う制御手段である。
【0045】
次に、上述した構成を備える水素ガス発生装置1の具体的な動作について説明する。まず、水素ガス発生装置1の図示しない電源スイッチが操作され電源がオンになると、制御部10は、高周波コイル43への電源供給を開始すると共に、パスカルタンク3内の原料水の水量を水位センサ31により検出し、パスカルタンク3内の水面が第1電極31aから第2電極31bの間に位置するように電磁弁9を開閉することで、間接的に加熱槽4内の原料水量の調整を行う。
【0046】
具体的には、第1電極31aによる水位の検出が行われない場合には、制御部10は電磁弁9を開き、貯水槽2からパスカルタンク3への注水を行う。
【0047】
そして、第1電極31aによる水位の検出が行われると、制御部10は電磁弁9を閉じ、貯水槽2からパスカルタンク3への注水を停止する。このとき、制御部10から電磁弁9に対して弁を閉じる指令が発せられるが、電磁弁9がその指令を受けてから弁を閉じる動作を開始し、完全に弁が閉じるまでの間にタイムラグが生じる。そのタイムラグの間、貯水槽2からパスカルタンク3への注水が継続されるため、注水が完全に停止した際のパスカルタンク3内の水位は、最低水位L1よりも高く最大水位L2よりも低い位置、すなわち最低水位L1と最大水位L2の間に位置する(最適水位)。
【0048】
そして、加熱槽4内の原料水が加熱され沸騰するが、このとき導管82を通じて高温の原料水がパスカルタンク3内にも到達し、パスカルタンク3内の原料水も沸騰した状態となる。この沸騰状態にある原料水の水面から跳ね上がる飛沫が第2電極31bにかかることで、第2電極31bは断続的に水を検知し、この断続的な検知に基づき制御部10はパスカルタンク3内の原料水が適切な水量で沸騰状態にあることを検知する。第2電極31bによる沸騰検知が継続している間、制御部10は電磁弁9の閉鎖を継続する。
【0049】
そして、沸騰に伴い次第に加熱槽4及びパスカルタンク3内の原料水量が減少し、水位が低下していく。パスカルタンク3内の水位が低下すると、沸騰した原料水からの飛沫が第2電極31bにかからなくなる。このとき制御部10は、第1電極31aが原料水に浸った状態で原料水の検知をしている場合でも、電磁弁9を開き、再び第2電極31bによる断続的な水の検知が行われるまで注水を行う。そして、第2電極31bが断続的に水を検知すると、制御部10は電磁弁9を閉じる。
【0050】
また、何らかの原因でパスカルタンク内の水位が最適水位を超え第2電極31bの先端部分が原料水に浸り、第2電極31bが連続的に原料水を検知する場合には、制御部10は電磁弁9を閉じる。この電磁弁9の閉鎖は、沸騰により水位が低下し、第2電極31bによる断続的な水の検知が行われなくなるまで行われる。
【0051】
そして、制御部10は、高周波コイル43による筒状管41の加熱を、筒状管41内の水蒸気の温度が650℃以上700℃以下、好ましくは680℃以上690℃以下になるように行う。この温度範囲に水蒸気を加熱することにより、水蒸気に含まれる水分子の一部が偶発的に分解し、水素ガスと酸素ガスを発生することができる。水蒸気の温度が650℃未満になると、十分な量の水素ガスを発生することができない。また、水蒸気の温度が700℃を超えると、その後の気液分離槽5において十分に水蒸気を冷却し液化して分離することができず、冷却部6や吸引部7に水蒸気や水滴が到達してしまい、使用者に不快感を与えるおそれがある。
【0052】
そして、高周波コイル43により加熱された原料水が沸騰して水蒸気となり、更にその水蒸気が加熱され水素ガスと酸素ガスが発生すると、これらの混合気体が加熱槽4の加熱領域Hから冷却領域Cへと移動する。混合気体はこの冷却領域Cにおいて冷却された後、フレキシブル管83を介して気液分離槽5へと移動する。このフレキシブル管83においても混合気体の冷却が行われる。
【0053】
次に、混合気体は、気液分離槽5に到達するが、その間に冷却が進行し、混合気体中の水蒸気が液化する。水蒸気の液化により生じた水は気液分離槽5の底に溜まるが、このとき混合気体中の多くの酸素ガスも水に溶けて除かれる。そして残った水素ガスと一部の酸素は気液分離槽5から導管61を経てループ部62へと導かれる。
【0054】
ループ部62へと導かれた水素ガス及びこれに混入している酸素ガスは、冷却ファン63からの送風により空冷されて吸引者による安全な吸引が可能な温度になる。そして、冷却された水素ガス及びこれに混入する酸素ガスは、下流の吸引部7へと導かれ、吸引管73の先端に取り付けられる鼻カニューレ74を経て吸引者により吸引される。
【0055】
水素ガスを吸引することにより体内に過剰に発生した活性酸素種による細胞傷害に起因する細胞の老化やがんの発生等を防止することができる。また、水素ガスに混入している酸素ガスは、呼吸に用いられるものであることは勿論のこと、疲労軽減効果や疲労回復効果等の効能があるため、同時に接種することは好ましい。
【0056】
このように、本実施形態に係る水素ガス発生装置1によると、原料水の沸騰と水蒸気の加熱が行われる加熱領域Hと気液分離槽5へと繋がるフレキシブル管83との間に加熱領域Hよりも長い冷却領域Cが設けられていることにより、沸騰する原料水から舞い上がった飛沫がフレキシブル管83に到達することなく冷却領域C内で落下するため、加熱槽からの沸騰水の飛沫が水素ガスに混入して吸引器具に到達することを効果的に防止することができる。
【0057】
なお、本発明は上述した実施形態に限られず、種々の変形を加えることができる。例えば、上述した実施形態においてはパスカルタンク3内に2つの電極31a、31bを有する静電容量式の水位センサ31を設けることで水位の調整が行われているが、本発明においてはこれに限らず、フロート式や差圧式等、他の種類の水位センサを用いてもよい。何れの種類の水位センサを用いる場合でも、少なくとも上述した実施形態において設けられていた最低水位L1及び最大水位L2の2つの水位を計測できるようにすることが好ましい。
【0058】
また、上述した実施形態においては加熱槽4の加熱手段として磁性体の筒状管41と高周波コイル43を用いたが、本発明においてはこれに限らず、電熱ヒータ等の他の加熱手段を用いることができる。ただし、他の加熱手段を用いる場合でも、加熱は水蒸気の温度が650℃以上700℃以下、好ましくは680℃以上690℃以下になるように行う必要がある。
【符号の説明】
【0059】
1:水素ガス発生装置
2:貯水槽
3:パスカルタンク
4:加熱槽
5:気液分離槽
6:冷却部
7:吸引部
10:制御部
31:水位センサ
31a:第1電極
31b:第2電極
41:筒状管
42:高周波コイル
61:導管
62:ループ部
63:冷却ファン
71:導管
72:ポンプ
73:吸引管
74:鼻カニューレ
81、82:導管
83:フレキシブル管
図1