(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054694
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】医療用セメントキット、及びそれを用いて調製される医療用セメント
(51)【国際特許分類】
A61L 24/06 20060101AFI20230407BHJP
A61L 24/00 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
A61L24/06
A61L24/00 210
A61L24/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163698
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボスケット フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】マリン エリア
(72)【発明者】
【氏名】ペッツォッティ ジュセッペ
(72)【発明者】
【氏名】朱 文亮
(72)【発明者】
【氏名】金村 成智
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】足立 哲也
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB04
4C081AC04
4C081BA12
4C081CA081
4C081CE02
4C081CE11
4C081DA11
4C081DA15
4C081DC12
(57)【要約】
【課題】高い骨伝導性を有する医療用セメントを調製するための医療用セメントキットの提供。
【解決手段】ポリメチルメタクリレート、及び重合開始剤を含む粉末剤と、メチルメタクリレートを含む液剤と、を有する医療用セメントキットであって、クルクミンと、アミノ酸と、を含む、医療用セメントキット。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメチルメタクリレート、及び重合開始剤を含む粉末剤と、
メチルメタクリレートを含む液剤と、
を有する医療用セメントキットであって、
クルクミンと、
アミノ酸と、
を含む、医療用セメントキット。
【請求項2】
前記粉末剤は、クルクミン、及びアミノ酸を含む、請求項1に記載の医療用セメントキット。
【請求項3】
前記アミノ酸は、プロリン、及びメチオニンから選択される少なくとも一つを含む、請求項1又は2に記載の医療用セメントキット。
【請求項4】
前記アミノ酸は、プロリンを含む、請求項3に記載の医療用セメントキット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の医療用セメントキットを用いて調製される医療用セメント。
【請求項6】
前記クルクミンの含有量は、3~7重量%である、請求項5に記載の医療用セメント。
【請求項7】
前記アミノ酸の含有量は、3~7重量%である、請求項5又は6に記載の医療用セメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用セメントキット、及び医療用セメントに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用セメントは、人体の骨の補綴、人工関節等の移植物の固定、及び歯科用修復物の歯牙への接着等の医療行為に使用されている。医療用セメントは、重合開始剤の存在下、ポリメチルメタクリレート等の重合体の粉体を含む粉剤と、メチルメタクリレート等の単量体の液体を含む液剤とを、混合して調製される。なお、ポリメチルメタクリレート、及び重合開始剤を含む粉末剤と、メチルメタクリレートを含む液剤と、を有する医療用セメントキットが、既に市販されている。
【0003】
非特許文献1には、クルクミンを添加することで、生体適合性、及び抗菌作用を向上した、医療用セメントが開示されている。クルクミンは、ウコン(Curcuma longa)等に含まれる黄色のポリフェノール化合物であり、ハーブサプリメント、化粧品原料、食品香料、及び食品着色料等に利用されている。また、クルクミンは、抗菌作用や、抗真菌作用等の効果を有することが知られている。さらに、非特許文献1には、クルクミンを添加した医療用セメントは、細胞の生存率、及び増殖が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tarik Eren et al.”Biocidal Activity of Bone Cements Containing Curcumin and Pegylated Quaternary Polyethylenimine” Journal of Polymers and the Environment (2020) 28:2469-2480
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のポリメチルメタクリレートを含む医療用セメントは、取り扱いや加工が容易で安価である一方、新しい骨の形成を誘導する機能(以下、「骨伝導性」と記載する場合がある)が低いという問題点があった。
【0006】
非特許文献1に記載のクルクミンを添加した医療用セメントにより、骨伝導性の向上が図られるものの、更なる骨伝導性の向上が求められていた。
【0007】
本発明は、高い骨伝導性を有する医療用セメントを調製するための、医療用セメントキットの提供を目的としている。また、本発明は、上記医療用セメントキットで調製される、高い骨伝導性を有する医療用セメントの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリメチルメタクリレート、及び重合開始剤を含む粉末剤と、メチルメタクリレートを含む液剤と、を有する医療用セメントキットであって、クルクミンと、アミノ酸と、を含む、医療用セメントキット、及びその医療用セメントキットを用いて調製される医療用セメントである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医療用セメントキットで調製される医療用セメントは、高い骨伝導性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1に係る、医療用セメントの表面粗さの測定結果を示すグラフである。
【
図2】実施例2に係る、医療用セメントの骨伝導性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0012】
(1)本発明の一実施形態は、ポリメチルメタクリレート、及び重合開始剤を含む粉末剤と、
メチルメタクリレートを含む液剤と、
を有する医療用セメントキットであって、
クルクミンと、
アミノ酸と、
を含む、医療用セメントキットである。
【0013】
上記(1)の医療用セメントキットを用いれば、高い骨伝導性を有する医療用セメントが、調製できる。
【0014】
(2)上記(1)に記載の医療用セメントキットにおいて、上記粉末剤は、クルクミン、及びアミノ酸を含む。これにより、医療用セメントキットの操作性が向上する。
【0015】
(3)上記(1)又は(2)に記載の医療用セメントキットにおいて、上記アミノ酸は、プロリン、及びメチオニンから選択される少なくとも一つを含む。
【0016】
(4)上記(3)に記載の医療用セメントキットにおいて、上記アミノ酸は、プロリンを含む。
【0017】
上記(3)及び(4)に記載の医療用セメントキットによれば、調製される医療用セメントの骨伝導性が、更に向上する。
【0018】
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の医療用セメントキットを用いて調製される医療用セメント。この医療用セメントは、高い骨伝導性を有する。
【0019】
(6)上記(5)に記載の医療用セメントにおいて、上記クルクミンの含有量は、3~7重量%である。
【0020】
(7)上記(5)又は(6)に記載の医療用セメントにおいて、上記アミノ酸の含有量は、3~7重量%である。
【0021】
上記(6)及び(7)の医療用セメントは、更に高い骨伝導性を有する。
【0022】
本発明の一実施形態に係る医療用セメントキットは、ポリメチルメタクリレート、及び重合開始剤を含む粉末剤と、メチルメタクリレートを含む液剤と、を有し、クルクミンと、アミノ酸と、を含む。
【0023】
上記粉末剤は、ポリメチルメタクリレートを含有する。上記粉末剤が含有するポリメチルメタクリレートの濃度は、10重量%以上であれば良く、20~99重量%が好ましい。これにより、上記粉末剤、及び上記液剤が混合された際、メチルメタクリレートの重合反応による医療用セメントの形成が、円滑に行われる。
【0024】
上記粉末剤は、ポリメチルメタクリレートに加え、重合開始剤を含有する。重合開始剤は、メチルメタクリレートの重合を開始させる公知の成分を用いれば良く、特に制限されない。重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、1,4-ジベンゾイルベンゼン、カンファーキノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、4-ベンゾイル安息香酸、2-ベンゾイル安息香酸、2-ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンジル、p-アニシル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、O-トシルベンゾイン、1-ベンゾイルシクロヘキサノール、2-ベンゾイル-2-プロパノール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-イソニトロスポルピオフェノン、2-エチルアントラキノン、2-クロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、1,4-ジベンゾイルベンゼン、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド、2,4-ジクロルベンゾイルパーオキシド、m-トリルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ[(o-ベンゾイル)ベンゾイルパーオキシ]ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、及びt-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等が挙げられる。本実施形態の重合開始剤としては、過酸化ベンゾイルが好ましい。
【0025】
上記粉末剤が含有する重合開始剤の濃度は、上記粉末剤、及び上記液剤が混合された際、メチルメタクリレートの重合反応による、医療用セメントの形成が開始される濃度であれば良い。例えば、上記粉末剤における、重合開始剤の濃度は、0.1重量%以上であればよく、好ましくは、0.5~3重量%である。これにより、上記粉末剤、及び上記液剤が混合された際、メチルメタクリレートの重合反応による医療用セメントの形成が、円滑に行われる。
【0026】
上記粉末剤は、上述のポリメチルメタクリレート、及び重合開始剤以外に、メタクリル酸共重合体を含有することもできる。メタクリル酸共重合体としては、ポリメチルメタクリレートと、後述のエチレングリコール系ジメタクリレートとの共重合体が挙げられる。上記粉末剤が含有するメタクリル酸共重合体の濃度は、10重量%以上であればよく、20~99重量%が好ましい。これにより、上記粉末剤、及び上記液剤が混合された際、メチルメタクリレートや、エチレングリコール系ジメタクリレート等の重合反応による医療用セメントの形成が、円滑に行われる。
【0027】
上記粉末剤は、上述のポリメチルメタクリレート、及び重合開始剤以外に、造影剤を含有することもできる。上記粉末剤が、造影剤を含むことで、医療行為後の医療用セメントの状態を、X線検査により確認することができる。造影剤としては、例えば、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、イオヘキソール、イオペントール、イオジキサノール、イオビトリドール、イオメプロール、イオパミドール、イオプロミド、イオトロラン、イオベルソール、及びイオキシラン等が挙げられる。
【0028】
上記粉末剤が含有する造影剤の濃度は、医療行為後のX線検査により医療用セメントの状態を確認できる濃度であれば良い。例えば、造影剤の濃度は、3重量%以上であればよく、好ましくは、5~15重量%である。これにより、医療用セメントの形成における重合反応への、造影剤の添加による影響が抑えられると共に、医療行為後の、X線検査による医療用セメントの状態の十分な確認が可能となる。
【0029】
上記液剤は、メチルメタクリレートを主成分として含有する。上記液剤が含有するメチルメタクリレートの濃度は、60体積%以上であればよく、80~99体積%が好ましい。これにより、上記粉末剤、及び上記液剤が混合された際、重合反応による医療用セメントの形成が、円滑に行われる。
【0030】
上記液剤は、エチレングリコール系ジメタクリレートを含有することもできる。エチレングリコール系ジメタクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられ、エチレングリコールジメタクリレートが好ましい。上記液剤がエチレングリコールジメタクリレートを含有することで、上記粉末剤、及び上記液剤の混合で得られる医療用セメントの機械的性質が向上する。
【0031】
上記液剤が含有するエチレングリコール系ジメタクリレートの濃度は、エチレングリコール系ジメタクリレートの種類に基づき、適宜調整すれば良い。エチレングリコール系ジメタクリレートが、エチレングリコールジメタクリレートの場合、上記粉末剤における、エチレングリコールジメタクリレートの濃度は、1~20体積%が好ましい。これにより、上記粉末剤、及び上記液剤の混合により、より機械的性質が向上した、医療用セメントが調製される。
【0032】
上記液剤は、重合促進剤を含有することもできる。重合促進剤としては、例えば、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-プロピルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ベンゼンスルフィン酸、及びトルエンスルフィン酸カルシウム等が挙げられる。上記液剤が、重合促進剤を含有することにより、上記粉末剤、及び上記液剤の混合による医療用セメントの形成が促進される。本実施形態の重合促進剤としては、N,N-ジメチル-p-トルイジンが、好ましい。
【0033】
上記液剤が含有する重合促進剤の濃度は、重合促進剤の種類に基づき、上記粉末剤、及び上記液剤の混合による医療用セメントの形成が促進されるよう、適宜調整すれば良い。重合促進剤が、N,N-ジメチル-p-トルイジンの場合、上記液剤におけるN,N-ジメチル-p-トルイジンの濃度は、1~4体積%が好ましい。これにより、上記粉末剤、及び上記液剤が混合された際、重合反応による医療用セメントの形成が、円滑に行われる。
【0034】
上記液剤は、重合禁止剤を含有することもできる。重合禁止剤を含有することにより、上記液剤に含まれる、上述のメチルメタクリレートや、エチレングリコール系ジメタクリレートの自家重合を抑制することができる。重合禁止剤としては、例えば、ヒドロキノンや、tert-ブチルヒドロキノン等が挙げられる。上記液剤が含有する重合禁止剤の濃度は、例えば、0.01~0.001重量体積%とすることができる。
【0035】
実施形態の医療用セメントキットは、クルクミン、及びアミノ酸を含有する。クルクミン、及びアミノ酸は、それぞれ、上記粉末剤や、上記液剤に添加しても良いし、上記医療用セメントキットの別剤に含有させることもできる。医療用セメントキットの操作性の観点から、クルクミン、及びアミノ酸は、それぞれ、上記粉末剤や、上記液剤に添加されることが好ましい。これにより、医療用セメントの調製時に、上記別剤を添加する工程が省略できる。
【0036】
クルクミン、及びアミノ酸を、上記別剤に含有させる場合、クルクミンとアミノ酸の両方を含有する添加剤としても良いし、クルクミンを含有するクルクミン剤と、アミノ酸を含有するアミノ酸剤とに分けることもできる。クルクミン、及びアミノ酸を、それぞれ、上記粉末剤や、上記液剤に添加する場合、クルクミンとアミノ酸の両方を、上記粉末剤、及び上記液剤の少なくとも一つに含有させることも出来るし、クルクミンとアミノ酸を別々に、上記粉末剤、又は上記液剤に含有させることもできる。
【0037】
本実施形態の医療用セメントキットでは、クルクミン、及びアミノ酸は、上記粉末剤に含有させることが好ましい。上記液剤にクルクミンやアミノ酸を含有させた場合、沈殿が発生する可能性が有る。この場合、上記液剤を攪拌し、クルクミンやアミノ酸を分散させる必要がある。一方、上記粉末剤にクルクミンを含有させた場合、上記攪拌作業が不要となるため、医療用セメントキットの操作性が、更に向上する。
【0038】
本実施形態の医療用セメントキットにおける、クルクミン、及びアミノ酸の濃度は、上記医療用セメントキットにより調製される医療用セメントに含有されるクルクミンの濃度が3~7重量%、及びアミノ酸の濃度が3~7重量%となるように、医療用セメントキットを構成する上述の各剤に含有させれば良い。例えば、上記粉末剤にクルクミンを含有させる場合、上記粉末剤におけるクルクミンの濃度は、3~10重量%が好ましい。上記粉末剤にプロリンを含有させる場合、上記粉末剤におけるプロリンの濃度は、3~10重量%が好ましい。上記粉末剤にメチオニンを含有させる場合、上記粉末剤におけるメチオニンの濃度は、3~10重量%が好ましい。これにより、医療用セメントキットで調製される医療用セメントの骨伝導性が、向上する。
【0039】
本実施形態の医療用セメントキットに含有されるアミノ酸は、特に制限されないが、プロリン、及びメチオニンが好ましく、プロリンが特に好ましい。後述の実施例で示されるように、クルクミンと、プロリン又はメチオニンと、を含有する医療用セメントキットで調製される医療用セメントは、クルクミンを単独で含有する医療用セメントキットで調製される医療用セメントに比べ、骨伝導性が向上する。特に、クルクミンとプロリンの組み合わせを含有する医療用セメントキットで調製される医療用セメントは、骨伝導性が、顕著に向上する。
【0040】
本実施形態の医療用セメントキットで調製される医療用セメントは、ポリメチルメタクリレート、クルクミン、及びアミノ酸を含有する。医療用セメントに含有されるクルクミンの濃度は、3~7重量%が好ましい。医療用セメントに含有されるアミノ酸の濃度は、3~7重量%が好ましい。クルクミン、及びアミノ酸を、上記濃度で含有する医療用セメントは、高い骨伝導性を有する。
【実施例0041】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0042】
[医療用セメントキット]
市販の医療用セメントキットとして、ポリメチルメタクリレート、メタクリル酸共重合体、及び過酸化ベンゾイルを含む粉末剤と、メチルメタクリレート、N,N-ジメチル-p-トルイジン、及びエチレングリコールジメタクリレートを含む液剤とを含む、松風クイックレジンO(株式会社松風製)を用いた。
【0043】
本実施例では、クルクミン(富士フイルム和光純薬株式会社製)、L-メチオニン(株式会社ナラカイテスク製)、及びL-プロリン(富士フイルム和光純薬株式会社製)は、上述の松風クイックレジンO(株式会社松風製)の粉末剤や液剤に添加せず、それぞれ別剤として使用した。
【0044】
[医療用セメント]
上述の医療用セメントキットを用い、以下の医療用セメントを調製した。
(CTRL)
コントロールとして、医療用セメントキット(松風クイックレジンO)を用いて調製した医療用セメント。
(PC5)
医療用セメントキット(松風クイックレジンO)の粉末剤、及び液剤を混合する際に、調製される医療用セメントに、5重量%のクルクミンが含有されるよう、クルクミンを添加して調製した医療用セメント。
(5%L-Met)
医療用セメントキット(松風クイックレジンO)の粉末剤、及び液剤を混合する際に、調製される医療用セメントに、5重量%のクルクミン、及び5重量%のL-メチオニンが含有されるよう、クルクミン、及びL-メチオニンを添加して調製した医療用セメント。
(5%L-Pro)
医療用セメントキット(松風クイックレジンO)の粉末剤、及び液剤を混合する際に、調製される医療用セメントに、5重量%のクルクミン、及び5重量%のL-プロリンが含有されるよう、クルクミン、及びL-プロリンを添加して調製した医療用セメント。
【0045】
[実施例1:表面粗さ測定]
レーザー顕微鏡の50倍撮影により、算術平均粗さ(Ra)、最大高さ粗さ(Rz)、及び粗さ曲線のクルトシス(Rku)を測定した結果を、
図1に示す。
図1から明らかなように、CTRL、PC5、5%L-Met、及び5%L-Pro間で、Ra、Rz、及びRkuのいずれにも大きな差は見られなかった。このことから、クルクミンや、アミノ酸の添加は、医療用セメントの表面粗さに影響を及ぼさないことが示唆された。
【0046】
[実施例2:骨伝導特性の評価]
マウス骨髄間質幹細胞株(KUSA-A1)を、10%のウシ胎児血清および1%のペニシリン-ストレプトマイシン溶液(ナカライテスク株式会社製)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(ナカライテスク株式会社製)(以下、完全培地)に懸濁し、CTRL、PC5、5%L-Met、及び5%L-Pro(各N=4)のセメント基板上に播種し、37℃、5%CO2の条件下で24時間培養した。
【0047】
2日目、完全培地に、50mg/mLのアスコルビン酸、10mMのb-グリセロールリン酸塩、100mMのヒドロコルチゾンを添加した石灰化誘導培地に交換し、37℃、5%CO2の条件下で13日間培養した。なお、石灰化誘導培地は、1週間に2回培地交換しながら培養を続けた(合計4回)。
【0048】
培養開始から2週間後、各サンプルにおける、ハイドロキシアパタイト(以下、「HAP」と記載する)で覆われた面積を、3次元レーザー顕微鏡を用いて測定した結果を、
図2に示す。
【0049】
図2から、CTRLではHAPが殆ど形成されないことが分かる。一方、PC5は、CTRLよりも、HAPの面積率が約8倍に増加している。これは、上述の非特許文献1の内容を裏付ける結果である。ここで、5%L-Met、及び5%L-Proは、CTRLよりも、HAPの面積率が、それぞれ約9倍、及び約17倍に増加している。すなわち、PC5よりも、5%L-Met、及び5%L-Proの方が、骨伝導特性が向上することが明らかとなった。特に、5%L-Proは、PC5よりも、HAPの面積率が約2倍に増加することが示された。
【0050】
実施例2の骨伝導特性の評価結果から、ポリメチルメタクリレートを含む医療用セメントへの、クルクミン、及びアミノ酸の組み合わせの添加は、クルクミン単独の添加よりも、医療用セメントの骨伝導特性を向上させることが示唆された。特に、医療用セメントへの、クルクミン、及びL-プロリンの組み合わせの添加は、医療用セメントの骨伝導特性を顕著に向上させることが示された。