(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054716
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】ヘッドマウントディスプレイ及びそれを用いる手術支援システム
(51)【国際特許分類】
A61B 34/20 20160101AFI20230407BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
A61B34/20
H04N5/64 511A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163744
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】395011218
【氏名又は名称】エフ・エーシステムエンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521433163
【氏名又は名称】松浦 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110777
【弁理士】
【氏名又は名称】宇都宮 正明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】中村 康則
(72)【発明者】
【氏名】中村 将滋
(57)【要約】
【課題】観察者が片手で表示部の位置や角度を細かく調整し易く、使い勝手を向上させたヘッドマウントディスプレイを提供する。
【解決手段】このヘッドマウントディスプレイは、観察者の頭部に装着される頭部装着部と、右眼用の第1の表示部及び左眼用の第2の表示部と、長手方向に第1及び第2の表示部を並べて保持するフレームと、頭部装着部に第1の軸を中心として回動可能に取り付けられた第1のアームリンク部と、第1のアームリンク部に第2の軸を中心として回動可能に取り付けられると共に、フレームの第1の端部と第2の端部との中間部分に第3の軸を中心として回動可能に取り付けられた第2のアームリンク部とを備え、第1~第3の軸が互いに略平行であって、フレームを操作することにより、第1又は第2のアームリンク部が回動して、頭部装着部に対する表示部の位置及び角度の調整が可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察者の頭部に装着される頭部装着部と、
右眼用の第1の表示部及び左眼用の第2の表示部と、
長手方向に前記第1及び第2の表示部を並べて保持するフレームと、
前記頭部装着部に第1の軸を中心として回動可能に取り付けられた第1のアームリンク部と、
前記第1のアームリンク部に第2の軸を中心として回動可能に取り付けられると共に、前記フレームの前記長手方向における第1の端部と第2の端部との中間部分に第3の軸を中心として回動可能に取り付けられた第2のアームリンク部と、
を備え、前記第1~第3の軸が互いに略平行であって、前記フレームを操作することにより、前記第1又は第2のアームリンク部が回動して、前記頭部装着部に対する前記第1及び第2の表示部の位置及び角度の調整が可能であるヘッドマウントディスプレイ。
【請求項2】
前記第1の軸上に配置され、前記頭部装着部に対する前記第1のアームリンク部の角度を変化させるために最小限必要となるトルクの大きさを手動で調節するための取手を有する第1の調節機構と、
前記第2の軸上に配置され、前記第1のアームリンク部に対する前記第2のアームリンク部の角度を変化させるために最小限必要となるトルクの大きさを手動で調節するための取手を有する第2の調節機構と、
前記第3の軸上に配置され、前記第2のアームリンク部に対する前記フレームの角度を変化させるために最小限必要となるトルクの大きさを手動で調節するための取手を有する第3の調節機構と、
の内の少なくとも1つをさらに備え、前記頭部装着部に対する前記第1及び第2の表示部の位置及び角度をロックしたりリリースしたりすることが可能である、請求項1に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項3】
前記フレームが、前記第1及び第2の端部にそれぞれ設けられた第1の凸部及び第2の凸部を有し、
前記フレームの前記第1及び第2の凸部に脱着可能な2つのキャップをさらに備える、請求項1又は2に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項4】
前記2つのキャップの各々が、前記フレームの第1又は第2の凸部と嵌合する凹部が設けられた取付部と、前記第1~第3の軸に略直交する面に沿って前記取付部から張り出した縁部とを有する、請求項3に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項5】
前記第2のアームリンク部が、前記フレームの前記第1の端部と前記第2の端部との略中央部分に前記第3の軸を中心として回動可能に取り付けられている、請求項1~4のいずれか1項に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項6】
3次元画像信号に基づいて右眼用画像信号及び左眼用画像信号を生成し、前記右眼用画像信号及び前記左眼用画像信号を前記第1及び第2の表示部にそれぞれ供給することにより、前記第1及び第2の表示部に3次元立体画像を表示させるデコーダーをさらに備える、請求項1~5のいずれか1項に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項7】
内視鏡内から被写体を撮像して視差を伴う複数の画像信号をそれぞれ生成する複数の撮像素子と、
前記複数の画像信号に基づいて3次元画像信号を生成するエンコーダーと、
請求項6に記載のヘッドマウントディスプレイと、
を備える手術支援システム。
【請求項8】
3次元画像信号によって表される患者の画像において所定の部位又は領域を認識する手順(a)と、画像認識結果に基づいて3次元画像信号に画像処理を施すことにより、手術のガイドとなる情報を3次元画像信号に追加する手順(b)とをCPUに実行させるプログラムが記録された記録媒体と、
前記CPUから供給される3次元画像信号に基づいて3次元立体画像を表示する請求項6に記載のヘッドマウントディスプレイと、
を備える手術支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドマウントディスプレイに関し、特に、医療用に用いられるヘッドマウントディスプレイに関する。さらに、本発明は、そのようなヘッドマウントディスプレイを利用して手術を支援する手術支援システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display)は、エンターテインメントの道具として利用されることが多かった。しかしながら、近年においては、その有用性から、医療分野等における利用が注目されるようになっている。
【0003】
ヘッドマウントディスプレイは、単眼用と両眼用とに大別され、また、2D(2次元)用と3D(3次元)用とに分類できる。3D用のヘッドマウントディスプレイにおいては、輻輳眼球運動や3D画像の視覚的な調整が目のストレスの原因となり、これが大きな問題になっている。特に、長時間手術(4時間ないし5時間に及ぶ手術)の場合には、これを回避したいという要望が大きい。
【0004】
関連する技術として、特許文献1には、使い勝手を向上させたヘッドマウントディスプレイが開示されている。このヘッドマウントディスプレイは、保持部4を含む頭部装着部と、観察時に観察者の片眼の前方に配置される表示部6と、頭部装着部と表示部6との間を連結するアーム部8と、第1及び第2の連結機構9及び10とを備えている。
【0005】
第1の連結機構9は、保持部4に対する軸X1回りの回動方向θx1のアーム部8の回動が可能で、保持部4に対するアーム部8の位置決めが可能となるように、保持部4とアーム部8の基端部とを連結する。第2の連結機構10は、アーム部8に対する軸X2回りの回動方向θx2の表示部6の回動に関し、観察時における表示部6の位置決めのための所定の調整範囲内における連続的な位置で表示部6を自在に位置決めできるように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-33308号公報(要約書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されているように、アーム部8と第1及び第2の連結機構9及び10とによって表示部6を支持するようにすれば、表示部6の位置及び角度を調整する際の使い勝手が向上する。しかしながら、特許文献1のヘッドマウントディスプレイには表示部6が1つしか設けられていないので、3D立体画像を観察することができない。
【0008】
特許文献1に開示されているヘッドマウントディスプレイにおいて3D立体画像を観察できるようにするためには、左眼用と右眼用の2つの表示部を設けると共に、それらを支持するためにアーム部と第1及び第2の連結機構とを左右に設けることが考えられる。しかしながら、その場合には、表示部の位置や角度を調整する際に、左右のアーム部や連結機構を同期して操作する必要があるので、片手で表示部の位置や角度を細かく調整することが困難になってしまう。また、表示部を移動させるために要するトルクを小さ目に設定すると、重力や遠心力等の外力によって表示部が容易に移動してしまうので、特に手術中においては大きな問題となる。
【0009】
さらに、医療分野においては、外科医が手術中に手にする器械の洗浄や滅菌を行う必要がある。従って、外科医がヘッドマウントディスプレイを装着して手術中に表示部の位置や角度を調整する場合には、手術に先立ってヘッドマウントディスプレイの洗浄や滅菌を行う必要がある。特に、洗浄には洗浄装置が用いられることが多いので、凹凸がなく平滑な器械の洗浄は容易であるが、複雑な形状を有するヘッドマウントディスプレイの洗浄は困難である。
【0010】
そこで、上記の点に鑑み、本発明の第1の目的は、例えば、視力、斜視、乱視等の個人差があっても目のストレスを低減して3D立体画像を観察できるようにするために、観察者が片手で表示部の位置や角度を細かく調整し易く、使い勝手を向上させたヘッドマウントディスプレイを提供することである。また、本発明の第2の目的は、安心して手術に用いることが可能なヘッドマウントディスプレイを提供することである。さらに、本発明の第3の目的は、そのようなヘッドマウントディスプレイを利用して手術を支援する手術支援システム等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題の少なくとも一部を解決するため、本発明の第1の観点に係るヘッドマウントディスプレイは、観察者の頭部に装着される頭部装着部と、右眼用の第1の表示部及び左眼用の第2の表示部と、長手方向に前記第1及び第2の表示部を並べて保持するフレームと、前記頭部装着部に第1の軸を中心として回動可能に取り付けられた第1のアームリンク部と、前記第1のアームリンク部に第2の軸を中心として回動可能に取り付けられると共に、前記フレームの前記長手方向における第1の端部と第2の端部との中間部分に第3の軸を中心として回動可能に取り付けられた第2のアームリンク部とを備え、前記第1~第3の軸が互いに略平行であって、前記フレームを操作することにより、前記第1又は第2のアームリンク部が回動して、前記頭部装着部に対する前記第1及び第2の表示部の位置及び角度の調整が可能である。
【0012】
本発明の第1の観点によれば、立体画像を観察することが可能なヘッドマウントディスプレイにおいて、頭部装着部に第1のアームリンク部を介して取り付けられた第2のアームリンク部がフレームの第1の端部と第2の端部との中間部分を支持することにより、観察者が片手で表示部の位置や角度を細かく調整し易く、使い勝手を向上させたヘッドマウントディスプレイを提供することができる。
【0013】
また、本発明の第2の観点に係るヘッドマウントディスプレイは、前記第1の軸上に配置され、前記頭部装着部に対する前記第1のアームリンク部の角度を変化させるために最小限必要となるトルクの大きさを手動で調節するための取手を有する第1の調節機構と、前記第2の軸上に配置され、前記第1のアームリンク部に対する前記第2のアームリンク部の角度を変化させるために最小限必要となるトルクの大きさを手動で調節するための取手を有する第2の調節機構と、前記第3の軸上に配置され、前記第2のアームリンク部に対する前記フレームの角度を変化させるために最小限必要となるトルクの大きさを手動で調節するための取手を有する第3の調節機構との内の少なくとも1つをさらに備え、前記頭部装着部に対する前記第1及び第2の表示部の位置及び角度をロックしたりリリースしたりすることが可能である。
【0014】
本発明の第2の観点によれば、可動部の動き易さを手動で調節するために少なくとも1つの調節機構が設けられるので、例えば、外科医がヘッドマウントディスプレイを装着して長時間手術を行う場合に、表示部の位置及び角度を調整後にロックしてから手術を開始することができる。従って、安心して手術に用いることが可能なヘッドマウントディスプレイを提供することができる。
【0015】
また、本発明の第3の観点に係るヘッドマウントディスプレイにおいては、前記フレームが、前記第1及び第2の端部にそれぞれ設けられた第1の凸部及び第2の凸部を有し、前記ヘッドマウントディスプレイが、前記フレームの前記第1及び第2の凸部に脱着可能な2つのキャップをさらに備える。
【0016】
本発明の第3の観点によれば、手術に先立って、2つのキャップの洗浄や滅菌を行ってから、それらをフレームの第1の凸部及び第2の凸部に取り付けることにより、外科医がヘッドマウントディスプレイを装着して手術を行う場合に、キャップを介してフレームを操作して表示部の位置や角度を調整することができる。従って、安心して手術に用いることが可能なヘッドマウントディスプレイを提供することができる。
【0017】
さらに、本発明の第4の観点に係る手術支援システムは、内視鏡内から被写体を撮像して視差を伴う複数の画像信号をそれぞれ生成する複数の撮像素子と、前記複数の画像信号に基づいて3次元画像信号を生成するエンコーダーと、3次元画像信号に基づいて右眼用画像信号及び左眼用画像信号を生成し、前記右眼用画像信号及び前記左眼用画像信号を前記第1及び第2の表示部にそれぞれ供給することにより、前記第1及び第2の表示部に3次元立体画像を表示させるデコーダーをさらに備える前記ヘッドマウントディスプレイとを備える。
【0018】
本発明の第4の観点によれば、内視鏡を用いた外科手術において、内視鏡内から見た鮮明な3次元立体画像をヘッドマウントディスプレイに表示させるので、外科医による手術をより安全なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るヘッドマウントディスプレイを観察者に装着した状態を示す斜視図。
【
図2】
図1に示すヘッドマウントディスプレイの一部を拡大して示す斜視図。
【
図3】本発明の一実施形態に係る手術支援システムの構成例を示すブロック図。
【
図4】
図3に示す手術支援サーバーの構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0021】
<ヘッドマウントディスプレイ>
図1は、本発明の一実施形態に係るヘッドマウントディスプレイを観察者に装着した状態を示す斜視図であり、
図2は、
図1に示すヘッドマウントディスプレイの一部を拡大して示す斜視図である。
【0022】
図1及び
図2に示すように、このヘッドマウントディスプレイは、観察者の頭部に装着される頭部装着部としてのヘッドバンド10と、右眼用の第1の表示部21及び左眼用の第2の表示部22と、長手方向(
図2に示すx軸方向)に第1の表示部21及び第2の表示部22を並べて保持するフレーム30と、DC電源や画像信号をヘッドマウントディスプレイに供給する接続ケーブル40とを備えている。
【0023】
画像観察時には、ヘッドバンド10が観察者の頭部に装着されて、第1の表示部21及び第2の表示部22が観察者の右眼及び左眼の前方にそれぞれ配置される。第1の表示部21及び第2の表示部22は、非透過型でも透過型でも良いが、
図1には、一例として、非透過型のディスプレイが示されている。第1の表示部21及び第2の表示部22は、供給される2次元画像信号又は3次元画像信号に基づいて2次元平面画像又は3次元立体画像を表示する。
【0024】
良好な装着状態を得るために、ヘッドバンド10には、観察者の頭部の大きさに合わせてバンドの内径を調節するために用いられる調節ネジ11が設けられていても良い。なお、本実施形態においては、頭部装着部の一例としてヘッドバンド10が用いられるが、頭部装着部は、ヘッドバンド10に限定されるものではなく、例えば、ヘルメット等でも良い。
【0025】
ヘッドバンド10とフレーム30とは、ヘッドマウント50と、第1のアームリンク部51及び第2のアームリンク部52と、フレームマウント53とによって連結されている。フレーム30及びヘッドマウント50~フレームマウント53等の材料としては、例えば、アルミニウム若しくはチタン等の金属やその合金、又は、プラスチック等を用いることができる。
【0026】
図2に拡大して示すように、ヘッドバンド10には、ヘッドマウント50が固定されており、フレーム30には、フレームマウント53が固定されている。第1のアームリンク部51は、ヘッドマウント50を介してヘッドバンド10に、第1の軸X1を中心として回動可能に取り付けられている。
【0027】
また、第2のアームリンク部52は、第1のアームリンク部51に、第2の軸X2を中心として回動可能に取り付けられると共に、フレームマウント53を介してフレーム30に、第3の軸X3を中心として回動可能に取り付けられている。ここで、第2のアームリンク部52は、フレーム30の長手方向における第1の端部31と第2の端部32との中間部分(望ましくは、略中央部分)に、第3の軸X3を中心として回動可能に取り付けられている。
【0028】
このようなヘッドマウントディスプレイにおいて、観察者の右眼及び左眼と第1の表示部21及び第2の表示部22との間の距離を変化させることにより、視覚上の画面の大きさを調整することができる。例えば、57インチサイズの据置型ディスプレイと同等の大画面を表示させることも可能である。
【0029】
通常は、眼精疲労を抑えるために、なるべく遠くに結像した像を形成することが望ましい。特に、3次元立体画像を表示する場合には、眼球の輻輳角と焦点距離との間に差が生じる状態も眼精疲労の原因になるので、正確な立体感を得るために、観察者の右眼及び左眼に対する第1の表示部21及び第2の表示部22の位置及び角度を細かく調整する必要がある。
【0030】
そのためにも、本実施形態に係るヘッドマウントディスプレイにおいては、観察者がフレーム30を操作することにより、第1のアームリンク部51又は第2のアームリンク部52が回動して、ヘッドバンド10に対する第1の表示部21及び第2の表示部22の位置及び角度の調整、即ち、立体視点の調整が可能となっている。具体的には、以下の調整が可能である。
【0031】
(1)第1のアームリンク部51及び第2のアームリンク部52が回動することにより、ヘッドバンド10と第1の表示部21及び第2の表示部22との間の距離の調整が可能である。
(2)第1のアームリンク部51が回動することにより、ヘッドバンド10に対する第1の表示部21及び第2の表示部22の方向の調整が可能である。
(3)第2のアームリンク部52が回動することにより、ヘッドバンド10に対する第1の表示部21及び第2の表示部22の角度の調整が可能である。
【0032】
フレーム30を支持するリンク機構において、第1の軸X1~第3の軸X3は、互いに略平行であり、望ましくは、フレーム30の長手方向(x軸方向)に略平行である。第1のアームリンク部51について、軸間の長さをL1、y軸方向からの回転角をθ1とし、第2のアームリンク部52について、軸間の長さをL2、第1のアームリンク部51の長手方向からの回転角をθ2とすると、第1の軸X1を原点とする第3の軸X3の座標(Dx、Dy、Dz)は、次式で表される。
【0033】
Dx≒0
Dy=L1cosθ1+L2cos(θ1+θ2)
Dz=L1sinθ1+L2sin(θ1+θ2)
また、第1の軸X1と第3の軸X3との間の距離Dは、次式で表される。
D=(Dx2+Dy2+Dz2)1/2
【0034】
ここで、第1のアームリンク部51、第2のアームリンク部52、及び、フレーム30の各部は、x軸方向に直交するyz面内でしか移動することができない。従って、観察者が片手でフレーム30を操作して第1の表示部21及び第2の表示部22を移動させても、ヘッドバンド10がずれない限り、第1の表示部21及び第2の表示部22がx軸方向にずれることはない。
【0035】
このように、本実施形態によれば、立体画像を観察することが可能なヘッドマウントディスプレイにおいて、ヘッドバンド10に第1のアームリンク部51を介して取り付けられた第2のアームリンク部52がフレーム30の第1の端部31と第2の端部32との中間部分を支持することにより、観察者が片手で第1の表示部21及び第2の表示部22の位置や角度を細かく調整し易く、使い勝手を向上させたヘッドマウントディスプレイを提供することができる。
【0036】
また、医療分野への応用に関し、内視鏡手術において据置型モニターを使用する場合には、各種の機器や術野部位によって被写体が見辛くなるので、内視鏡画像の全体を観察することが難しかったり、視点移動が大きくなるので、首や手術姿勢にストレスを感じることがある。
【0037】
それに対し、ヘッドマウントディスプレイを使用する場合には、遮るものが無いので内視鏡画像の全体を観察することが可能である。また、フレーム30の位置や角度をずらしたり、視点を左右や下方に移動させて第1の表示部21及び第2の表示部22から目をそらしたりすることにより、周辺の情景や手元を自由に見ることができる。
【0038】
さらに、ヘッドマウントディスプレイは、持ち運びに便利なので、接続ケーブル40が届く範囲内であれば、いつでも利用することができる。なお、長時間(4時間ないし5時間)の手術を行っても疲労が蓄積し難いように、ヘッドマウントディスプレイの重量は、280g以下にすることが望ましい。
【0039】
また、第1の表示部21及び第2の表示部22の位置及び角度の調整を容易にしようとして、第1の表示部21及び第2の表示部22を移動させるために要するトルクを小さ目に設定すると、重力や遠心力等の外力によって第1の表示部21及び第2の表示部22が容易に移動してしまうので、特に医療分野においては大きな問題となる。
【0040】
そこで、本実施形態に係るヘッドマウントディスプレイは、第1の調節機構54と、第2の調節機構55と、第3の調節機構56との内の少なくとも1つをさらに備えても良い。それにより、ヘッドバンド10に対する第1の表示部21及び第2の表示部22の位置及び角度をロックしたりリリースしたりすることが可能になる。ここで、「リリース」とは、ロック状態を解除して、ヘッドバンド10に対して第1の表示部21及び第2の表示部22を僅かな力で移動できる状態にすることをいう。
【0041】
第1の調節機構54は、第1の軸X1上に配置されて、第1のアームリンク部51をヘッドマウント50に回動可能に取り付け、ヘッドバンド10に対する第1のアームリンク部51の角度を変化させるために最小限必要となるトルクの大きさを手動で調節するための取手を有している。
【0042】
第2の調節機構55は、第2の軸X2上に配置されて、第2のアームリンク部52を第1のアームリンク部51に回動可能に取り付け、第1のアームリンク部51に対する第2のアームリンク部52の角度を変化させるために最小限必要となるトルクの大きさを手動で調節するための取手を有している。
【0043】
第3の調節機構56は、第3の軸X3上に配置されて、フレームマウント53を第2のアームリンク部52に回動可能に取り付け、第2のアームリンク部52に対するフレーム30の角度を変化させるために最小限必要となるトルクの大きさを手動で調節するための取手を有している。
【0044】
第1の調節機構54~第3の調節機構56は、ドライバーやレンチやスパナ等の工具を使わずに操作が可能な機械要素部品であり、例えば、ねじを締め付けたり緩めたりするために掴んで回すことができる蝶ボルトやノブボルトやローレット等のつまみネジを含んでいる。
図1及び
図2には、一例として、第1の調節機構54~第3の調節機構56の全てを設ける場合が示されているが、それらの内の少なくとも1つの替わりとして、通常のネジやナットを使用しても良い。
【0045】
可動部の動き易さを手動で調節するために第1の調節機構54~第3の調節機構56の内の少なくとも1つを設けることにより、例えば、外科医がヘッドマウントディスプレイを装着して長時間手術を行う場合に、第1の表示部21及び第2の表示部22の位置及び角度を調整後にロックしてから手術を開始することができる。従って、安心して手術に用いることが可能なヘッドマウントディスプレイを提供することができる。
【0046】
また、外科医がヘッドマウントディスプレイを装着して手術中に第1の表示部21及び第2の表示部22の位置や角度を調整する場合には、手術に先立ってヘッドマウントディスプレイの洗浄や滅菌を行う必要がある。特に、洗浄には洗浄装置が用いられることが多いので、凹凸がなく平滑な器械の洗浄は容易であるが、複雑な形状を有するヘッドマウントディスプレイの洗浄は困難である。
【0047】
そこで、本実施形態においては、フレーム30が、第1の端部31及び第2の端部32にそれぞれ設けられた第1の凸部(第1のノブ)61及び第2の凸部(第2のノブ)62を有しており、ヘッドマウントディスプレイが、フレーム30の第1の凸部61及び第2の凸部62にそれぞれ脱着可能な2つのキャップ71及び72をさらに備えても良い。
【0048】
キャップ71及び72の材料としては、例えば、合成樹脂等を用いることができる。手術に先立って、キャップ71及び72の洗浄や滅菌を行ってから、それらがフレーム30の第1の凸部61及び第2の凸部62にそれぞれ取り付けられる。また、手術の度にキャップ71及び72を取り替えても良い。
【0049】
図2に拡大して示すように、キャップ72は、フレーム30の第2の凸部62と嵌合する凹部が設けられた取付部72aと、第1の軸X1~第3の軸X3に略直交する面に沿って取付部72aから張り出した縁部72bとを有している。キャップ72は、フレーム30の一方の側面の半分以上を覆うことにより、観察者(外科医)の指がフレーム30の本体に触れることを防止する役割を果たす。
【0050】
図2に示す例においては、フレーム30の第2の凸部62が、円柱形状を有しており、キャップ72の取付部72aが、片側(x軸方向における上面)が塞がれた中空円筒形状を有しており、キャップ72の縁部72bが、取付部72aの直径よりも大きい直径を有する円盤形状を有している。
図2には示されていないが、フレーム30の第1の凸部61とキャップ71についても同様である。また、第1の調節機構54~第3の調節機構56の内の少なくとも1つを設ける場合には、ヘッドマウントディスプレイが、その調節機構の取手に脱着可能なキャップをさらに備えても良い。
【0051】
本実施形態によれば、手術に先立って、キャップ71及び72の洗浄や滅菌を行ってから、それらをフレーム30の第1の凸部61及び第2の凸部62に取り付けることにより、外科医がヘッドマウントディスプレイを装着して手術を行う場合に、キャップ71又は72を介してフレーム30を操作して、第1の表示部21及び第2の表示部22の位置及び角度の調整を外科医固有の立体視点で行うことができる。従って、安心して手術に用いることが可能なヘッドマウントディスプレイを提供することができる。
【0052】
<手術支援システム>
次に、本発明の一実施形態に係る手術支援システムについて説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る手術支援システムの構成例を示すブロック図である。
図3に示すように、この手術支援システムは、手術支援ロボット100と、エンコーダー200と、本発明の一実施形態に係るヘッドマウントディスプレイ300とを含み、さらに、手術支援サーバー400を含んでも良い。
【0053】
手術支援ロボット100は、例えば、マスタースレイブ型内視鏡を含み、ロボットマニピュレーターを用いた手術に使用される。その場合に、手術支援ロボット100は、内視鏡に設けられたマニピュレーター110と、内視鏡内から被写体を撮像して視差を伴う複数の画像信号をそれぞれ生成する複数の撮像素子(
図3においては、右撮像素子121及び左撮像素子122を示す)とを備えている。
【0054】
マニピュレーター110は、内視鏡を用いて行われる胸腔又は腹腔の手術において、患者に対する低侵襲な手術を可能にするために、手術支援サーバー400からの遠隔操作によって動作する。マニピュレーター110のアームの先端には人間の手首に相当する関節があり、先端を自由に曲げることができる。
【0055】
右撮像素子121及び左撮像素子122は、例えば、内視鏡内において互いに距離を隔てて配置されており、右眼用画像を表す右眼用画像信号と左眼用画像を表す左眼用画像信号とをそれぞれ生成する。なお、手術支援ロボット100の替わりに、マニュアルで動作し、右撮像素子121及び左撮像素子122が設けられた内視鏡を用いても良い。
【0056】
エンコーダー200は、右撮像素子121及び左撮像素子122から出力される複数の2次元画像信号に基づいて3次元画像信号を生成する。例えば、エンコーダー200は、右眼用画像(例えば、1920×1080画素)と左眼用画像(例えば、1920×1080画素)とで構成される立体画像を水平方向に合成することにより、サイドバイサイド方式のハイビジョン信号(例えば、3840×1080画素の3次元画像信号)を生成する。このようにして生成された3次元画像信号は、DC電源と共に、ヘッドマウントディスプレイ300にリアルタイムに供給される。
【0057】
ヘッドマウントディスプレイ300は、画像を表示するために、右眼用の第1の表示部21及び左眼用の第2の表示部22と、デコーダー80とを備えている。また、ヘッドマウントディスプレイ300は、有線又は無線により外部との間で通信を行う通信回路90をさらに備え、ネットワークを介して外部のコンピューター又はスマートフォン等の情報端末と接続する機能を有するスマートグラスタイプでも良い。
【0058】
第1の表示部21及び第2の表示部22の各々は、有機EL(Electro-Luminescence:エレクトロルミネッセンス)パネル又は液晶パネル等の表示パネルと、光学レンズと、ケースと、回路基板とを含んでいる。例えば、表示パネルは、シリコンチップに設けられたアクティブマトリクス方式の複数の画素回路を含んでいる。各々の画素回路は、OLED等の発光素子や、複数のトランジスター等を含んでいる。シリコンチップには、それらの画素回路を駆動する駆動回路等も設けられている。
【0059】
デコーダー80は、エンコーダー200から供給される3次元画像信号に基づいて右眼用画像信号及び左眼用画像信号を生成し、それらの画像信号を第1の表示部21及び第2の表示部22にそれぞれ供給して、第1の表示部21及び第2の表示部22に3次元立体画像を表示させる。それにより、表示された画像があたかも奥行や立体感を持つかのように観察者に知覚させることができる。
【0060】
本発明の一実施形態に係る手術支援システムによれば、内視鏡を用いた外科手術において、内視鏡内から見た鮮明な3次元立体画像をヘッドマウントディスプレイ300に表示させるので、外科医による手術をより安全なものとすることができる。
【0061】
<手術支援サーバー>
図4は、
図3に示す手術支援サーバーの構成例を示すブロック図である。手術支援サーバー400は、例えば、手術支援プログラムがインストールされたコンピューターで構成される。
【0062】
図4に示すように、手術支援サーバー400は、操作部410と、表示部420と、音声入出力部430と、通信回路440と、インターフェース450と、CPU(中央演算装置)460と、格納部470とを含んでいる。インターフェース450~格納部470は、バスラインを介して互いに接続されている。なお、
図3及び
図4に示す構成要素の一部を省略又は変更しても良いし、あるいは、
図3及び
図4に示す構成要素に他の構成要素を付加しても良い。
【0063】
操作部410は、例えば、キーボードやマウス等を含み、各種の命令やデータを手術支援サーバー400に入力するために用いられる。表示部420は、例えば、有機ELディスプレイ又は液晶ディスプレイ等を含み、操作画面等を表示する。音声入出力部430は、例えば、マイクロフォン、アンプリファイアー、及び、スピーカー等を含み、音声信号を電気信号に変換したり、又は、電気信号を音声信号に変換したりする。
【0064】
通信回路440は、有線通信又は無線通信を行うことにより、ネットワークを介して手術支援ロボット100又はヘッドマウントディスプレイ300(
図3)等との間でデータ通信を行う。インターフェース450は、操作部410~通信回路440に接続されると共に、それらとCPU460との間で各種の命令やデータを伝達する。CPU460は、格納部470に格納されている各種のソフトウェア(手術支援プログラムを含む)に従って、各種の演算やデータ処理を行う。
【0065】
格納部470は、上記のソフトウェアに加えて、電子情報の処理に用いられる各種のデータを格納している。格納部470における記録媒体(記憶媒体)としては、内蔵ハードディスク、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、磁気テープ、RAM(ランダムアクセスメモリー)、ROM(リードオンリーメモリー)、CD-ROM、又は、DVD-ROM等を用いることができる。
【0066】
ここで、CPU460と格納部470に格納されているソフトウェア(手術支援プログラム)とによって、ロボット遠隔操作部461と、画像信号管理部462と、画像認識処理部463とが、機能ブロックとして構成される。
【0067】
ロボット遠隔操作部461は、操作部410を用いた外科医による操作に従って、手術支援ロボット100のマニピュレーター110(
図3)を遠隔操作によって動作させる。画像信号管理部462は、エンコーダー200によって生成される3次元画像信号を格納部470に蓄積し、必要に応じて、格納部470に保管されている3次元画像信号を読み出して表示部420又はヘッドマウントディスプレイ300(
図3)に供給する。
【0068】
画像認識処理部463は、必要に応じて、エンコーダー200によって生成される3次元画像信号によって表される患者の画像において所定の部位又は領域を認識する。画像認識結果は、画像として表示部420に表示されたり、又は、音声として音声入出力部430から出力されても良い。以下に、画像認識処理部463によって行われる画像認識処理の一例について説明する。
【0069】
まず、画像認識処理部463は、3次元画像信号によって表される画像(以下においては、「入力画像」ともいう)における人間の部位又は領域等を概略的に検出する。次に、画像認識処理部463は、格納部470に予め格納されている学習データに基づいて、3次元画像信号に部位認識処理を施すことにより、入力画像における人間の複数の部位又は領域(例えば、右心房、左心房、右心室、左心室)の位置を特定する複数の特徴点を抽出し、それらの特徴点の座標を求める。
【0070】
この部位認識処理においては、対象となる部位又は領域の画像を形状とテクスチャーとに分けて、それらを主成分分析によって次元圧縮することにより、少ないパラメーターで対象の形状の変化とテクスチャーの変化とを表現することが可能となる。それにより、形状及びテクスチャーの情報を、低次元のパラメーターで表現することができる。さらに、対象が、画像中のどこに、どんなサイズで、どんな向きで存在するかという広域的な変化に関するパラメーターが用いられる。
【0071】
画像認識処理部463は、それらのパラメーターによって学習データにおける部位又は領域のモデルを局所的及び広域的に変化させて比較画像を生成し、比較画像と入力画像とを比較して、誤差が最小となるようなパラメーターを求める。それにより、画像認識処理部463は、入力画像において、学習データに基づいて指定された所定の部位又は領域に対応する部分を認識することができる。
【0072】
また、画像認識処理部463は、画像認識結果に基づいて3次元画像信号に画像処理を施すことにより、手術のガイドとなる情報を3次元画像信号に追加しても良い。例えば、3次元画像信号によって表される患者の画像において、手術の対象となる部位又は領域が、輝度を上げたり又は色を変えたりして強調表示される。
【0073】
このように、手術支援プログラムは、エンコーダー200によって生成される3次元画像信号によって表される患者の画像において所定の部位又は領域を認識する手順(a)と、画像認識結果に基づいて3次元画像信号に画像処理を施すことにより、手術のガイドとなる情報を3次元画像信号に追加する手順(b)とをCPU460に実行させる。CPU460は、画像処理が施された3次元画像信号をヘッドマウントディスプレイ300に供給する。
【0074】
ヘッドマウントディスプレイ300は、手術支援サーバー400のCPU460から供給される3次元画像信号に基づいて3次元立体画像を表示する。ヘッドマウントディスプレイ300は、手術支援プログラムが記録された記録媒体と共に、手術支援システムとしてユーザーに提供されても良い。そのような記録媒体としては、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、磁気テープ、不揮発性メモリー、CD-ROM、又は、DVD-ROM等を用いることができる。
【0075】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、当該技術分野において通常の知識を有する者によって、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、ヘッドマウントディスプレイ、特に、医療用に用いられるヘッドマウントディスプレイ、及び、そのようなヘッドマウントディスプレイを利用して手術を支援する手術支援システム等において利用することが可能である。
【符号の説明】
【0077】
10…ヘッドバンド、11…調節ネジ、21…第1の表示部、22…第2の表示部、30…フレーム、31…第1の端部、32…第2の端部、40…接続ケーブル、50…ヘッドマウント、51…第1のアームリンク部、52…第2のアームリンク部、53…フレームマウント、54…第1の調節機構、55…第2の調節機構、56…第3の調節機構、61…第1の凸部、62…第2の凸部、71及び72…キャップ、72a…取付部、72b…縁部、80…デコーダー、90…通信回路、100…手術支援ロボット、110…マニピュレーター、121…右撮像素子、122…左撮像素子、200…エンコーダー、300…ヘッドマウントディスプレイ、400…手術支援サーバー、410…操作部、420…表示部、430…音声入出力部、440…通信回路、450…インターフェース、460…CPU、461…ロボット遠隔操作部、462…画像信号管理部、463…画像認識処理部、470…格納部