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特開2023-54778損傷電流の存在下での電気生理学的マッピング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054778
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】損傷電流の存在下での電気生理学的マッピング
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/346 20210101AFI20230407BHJP
   A61B 5/367 20210101ALI20230407BHJP
【FI】
A61B5/346
A61B5/367
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022159356
(22)【出願日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】17/492,933
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレス・クラウディオ・アルトマン
(72)【発明者】
【氏名】バディム・グリナー
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127GG05
4C127GG07
4C127LL08
(57)【要約】
【課題】信号ベースライン変動の存在下で電気生理学的マッピングを可能にすること。
【解決手段】システムは、インターフェース及びプロセッサを含む。インターフェースは、患者の心臓で取得された電位図を受信するように構成されている。プロセッサは、(i)電位図に存在する損傷電流のレベルを推定し、(ii)推定された損傷電流のレベルに基づいて、その後の分析で電位図を使用するか否かを決定するように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心臓で取得された電位図を受信するように構成されたインターフェースと、
プロセッサであって、
前記電位図に存在する損傷電流のレベルを推定し、
前記推定された損傷電流のレベルに基づいて、その後の分析で前記電位図を使用するか否かを決定するように構成された、プロセッサと、を備える、システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記損傷電流のレベルが閾値を下回る場合に前記電位図を使用し、前記損傷電流のレベルが前記閾値を上回る場合に前記電位図を破棄するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記電位図は、血液中に浸漬された参照電極と組織と接触している感知電極との間で取得された単極信号である、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記電位図のピークレベルを閾値と比較することによって前記損傷電流のレベルを推定するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記電位図に注釈を付け、前記注釈をEPマップで使用することによって、前記電位図を使用するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記プロセッサは、前記電位図の局所活性化時間(LAT)値に注釈を付けるように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
カテーテルによって患者の心臓で取得された少なくとも2つのEP信号を受信するように構成されたインターフェースと、
プロセッサであって、
前記少なくとも2つのEP信号を使用して、前記少なくとも2つのEP信号から導出されたEP信号に存在する損傷電流のレベルを推定し、
前記推定された損傷電流のレベルに基づいて、その後の分析で前記電位図を使用するか否かを決定するように構成された、プロセッサと、を備える、システム。
【請求項8】
前記プロセッサは、前記少なくとも2つのEP信号のうちの1つを選択することによって前記EP信号を導出するように構成されている、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記少なくとも2つのEP信号のうちの1つは、血液中に浸漬された参照電極及び表面電極を使用して取得された電位図であり、前記少なくとも2つのEP信号のうちのもう1つは、組織と接触している感知電極及び前記表面電極を使用して取得された電位図である、請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
前記表面電極がWCT端子である、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記プロセッサは、前記EP信号のうちの少なくとも2つを比較することによって前記損傷電流のレベルを推定するように構成されている、請求項7に記載のシステム。
【請求項12】
前記プロセッサは、前記導出されたEP信号に注釈を付け、前記注釈をEPマップで使用することによって、前記導出されたEP信号を使用するように構成されている、請求項7に記載のシステム。
【請求項13】
前記プロセッサは、前記導出されたEP信号の局所活性化時間(LAT)値に注釈を付けるように構成されている、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
患者の心臓で取得された電位図を受信することと、
前記電位図に存在する損傷電流のレベルを推定することと、
前記推定された損傷電流のレベルに基づいて、その後の分析で前記電位図を使用するか否かを決定することと、を含む、方法。
【請求項15】
前記損傷電流のレベルが閾値を下回る場合に前記電位図を使用し、前記損傷電流のレベルが前記閾値を上回る場合に前記電位図を破棄することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記電位図は、血液中に浸漬された参照電極と組織と接触している感知電極との間で取得された単極信号である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記損傷電流のレベルを推定することは、前記電位図のピークレベルを閾値と比較することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記電位図に注釈を付け、前記注釈をEPマップで使用することによって、前記電位図を使用することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記電位図の局所活性化時間(LAT)値に注釈を付けることを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
カテーテルによって患者の心臓で取得された少なくとも2つのEP信号を受信することと、
前記少なくとも2つのEP信号を使用して、前記少なくとも2つのEP信号から導出されたEP信号に存在する損傷電流のレベルを推定することと、
前記推定された損傷電流のレベルに基づいて、その後の分析で前記電位図を使用するか否かを決定することと、を含む、方法。
【請求項21】
前記少なくとも2つのEP信号のうちの1つを選択することによって前記EP信号を導出することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも2つのEP信号のうちの1つは、血液中に浸漬された参照電極及び表面電極を使用して取得された電位図であり、前記少なくとも2つのEP信号のうちのもう1つは、組織と接触している感知電極及び前記表面電極を使用して取得された電位図である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記表面電極がWCT端子である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記EP信号のうちの少なくとも2つを比較することによって前記損傷電流のレベルを推定することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記導出されたEP信号に注釈を付け、前記注釈をEPマップで使用することによって、前記導出されたEP信号を使用することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記導出されたEP信号の局所活性化時間(LAT)値に注釈を付けることを含む、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、電気生理学的信号の処理に関し、具体的には、信号ベースライン変動の存在下で電気生理学的マッピングを可能にすることに関する。
【背景技術】
【0002】
電気生理学的信号ノイズを説明するための様々な方法が特許文献で提案されている。例えば、米国特許出願公開第2007/0021679号は、心臓内の別個であるが重ね合わされた事象に対応する電気的活動を識別及び分離するための表面心電図信号及び心臓内信号の分析を記載している。分析では、各事象の空間位相、時間位相、速度、スペクトル、及び再現性を評価して、すべての空間次元での活性化の均一性を判断する。分析では、これらの分析から得られた数値指標を使用して不整脈を診断する。分析では、これらの指標を使用して不整脈回路の位置を特定し、アブレーション又は永久的なカテーテルの位置決めのために電極カテーテルの移動をこの場所に向ける。分析では、表面心電図からのこれらの指標の変動性を用いて、心房性不整脈及び心室性不整脈の傾向を反映する微妙な心拍間変動を示す。分析は通常、ベースライン補正後に実行され、これにより、分析はベースライン変動を含むノイズ要因の影響を受けなくなる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
以下で説明する本発明の一実施形態は、インターフェース及びプロセッサを含むシステムを提供する。インターフェースは、患者の心臓で取得された電位図を受信するように構成されている。プロセッサは、(i)電位図に存在する損傷電流のレベルを推定し、(ii)推定された損傷電流のレベルに基づいて、その後の分析で電位図を使用するか否かを決定するように構成されている。
【0004】
一部の実施形態では、プロセッサは、損傷電流のレベルが閾値を下回る場合に電位図を使用し、損傷電流のレベルが閾値を上回る場合に電位図を破棄するように構成されている。
【0005】
一部の実施形態では、電位図は、血液中に浸漬された参照電極と組織と接触している感知電極との間で取得された単極信号である。
【0006】
一実施形態では、プロセッサは、電位図のピークレベルを閾値と比較することによって損傷電流のレベルを推定するように構成されている。
【0007】
別の実施形態では、プロセッサは、電位図に注釈を付け、注釈をEPマップで使用することによって、電位図を使用するように構成されている。
【0008】
一部の実施形態では、プロセッサは、電位図の局所活性化時間(local activation time、LAT)値に注釈を付けるように構成されている。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、インターフェース及びプロセッサを含むシステムが更に提供される。インターフェースは、カテーテルによって患者の心臓で取得された少なくとも2つのEP信号を受信するように構成されている。プロセッサは、(a)少なくとも2つのEP信号を使用して、少なくとも2つのEP信号から導出されたEP信号に存在する損傷電流のレベルを推定し、(b)推定された損傷電流のレベルに基づいて、その後の分析で電位図を使用するか否かを決定するように構成されている。
【0010】
一部の実施形態では、プロセッサは、少なくとも2つのEP信号のうちの1つを選択することによってEP信号を導出するように構成されている。
【0011】
一部の実施形態では、少なくとも2つのEP信号のうちの1つは、血液中に浸漬された参照電極及び表面電極を使用して取得された電位図であり、少なくとも2つのEP信号のうちのもう1つは、組織と接触している感知電極及び表面電極を使用して取得された電位図である。
【0012】
一実施形態では、表面電極はWCT端子である。
【0013】
別の実施形態では、プロセッサは、EP信号のうちの少なくとも2つを比較することによって損傷電流のレベルを推定するように構成されている。
【0014】
一部の実施形態では、プロセッサは、導出されたEP信号に注釈を付け、注釈をEPマップで使用することによって、導出されたEP信号を使用するように構成されている。
【0015】
一部の実施形態では、プロセッサは、導出されたEP信号の局所活性化時間(LAT)値に注釈を付けるように構成されている。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、患者の心臓で取得された電位図を受信することを含む方法が更に提供される。電位図に存在する損傷電流のレベルが推定される。推定された損傷電流のレベルに基づいて、その後の分析で電位図を使用するか否かが決定される。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、カテーテルによって患者の心臓で取得された少なくとも2つのEP信号を受信することを含む方法が更に提供される。少なくとも2つのEP信号を使用して、少なくとも2つのEP信号から導出されたEP信号に存在する損傷電流のレベルが推定される。推定された損傷電流のレベルに基づいて、その後の分析で電位図を使用するか否かが決定される。
【0018】
本発明は、その実施形態の以下の詳細な説明を図面と併せて読むことにより、より完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態による、カテーテルベースの電気生理学的(electrophysiological、EP)感知及び信号分析システムの概略描画図である。
図2】本発明の一実施形態による、図1のシステムによって取得された単極電位図の概略グラフであって、電位図に対する損傷電流の劣化効果を示す概略グラフである。
図3】本発明の一実施形態による、歪んだ電位図を検出して回避することにより、EPマッピング時に損傷電流を許容する方法を説明するフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態による、電位図のピーク振幅を閾値と比較することにより損傷電流によって歪んだ電位図を検出し、そのような電位図をドロップする方法を説明するフローチャートである。
図5】本発明の別の実施形態による、ベースライン信号を比較することにより損傷電流によって歪んだ電位図を検出する方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
概要
心臓内電気生理学的(EP)マッピングは、不整脈を引き起こす異常のような心臓EP波伝播異常を特徴付けるために適用されることのあるカテーテルベースの方法である。典型的なカテーテルベースの手順では、複数の感知電極を含むカテーテルの遠位端が心臓に挿入されて、心腔の壁組織上の測定された場所を含むデータ点のセットと、EP信号(例えば、心臓内電位図(electrogram、EGM))のそれぞれのセットとを感知し、そこからEPマッピングシステムが心腔のEPマップを生成することができる。これに加えて、利用可能な心臓データには、マルチチャネル(例えば、12チャネル)の心臓外心電図(electrocardiogram、ECG)も含まれる場合がある。
【0021】
EP信号取得の間、周知の信号アーティファクトは、「損傷電流」の存在であり、これは、取得された信号に非常に低い周波数成分(例えば、DC)が存在するため、ベースラインシフト又はベースライン変動として現れる。損傷電流は通常、取得電極が心臓細胞を押し、次に細胞が分極することによって引き起こされる。原理的には、信号にハイパスフィルタを適用することで、損傷電流をフィルタで除外することを試みることが可能であり、しかしながら、フィルタリングされた信号には、信号の分析時に局所活性化時間(late activation time)(LAT)の注釈のエラーのようなエラーを引き起こすアーティファクトがまだ残っている可能性がある。
【0022】
本明細書に記載される本発明の実施形態は、EPマッピング手順における損傷電流の影響を検出及び軽減するための方法及びシステムを提供する。いくつかの開示された技術は、損傷電流の存在を検出するために、マッピングに使用される取得された電位図を分析する。特定の電位図(本明細書では単に「EP信号」又は「信号」とも呼ばれる)において損傷電流が、例えば、以下に説明するアルゴリズムの1つによって検出された場合、その信号はマッピングには使用されない。損傷電流が検出されない場合、信号は、LATマップなどのEPマップで活性化として注釈を付けることによって使用される。
【0023】
一部の実施形態では、電位図信号は、中央参照電極を有するバスケットカテーテルなどの多電極カテーテルを使用して取得される。これらの実装では、電位図は、バスケットの中央参照電極(組織と接触せず、局所接地と見なされる)と組織と接触しているスパイン電極との間で測定される単極信号である。これらの実施形態では、プロセッサは、取得された信号(典型的には信号のピークレベル)が事前設定された閾値、例えば50μV又は100μVより大きい場合、損傷電流が存在すると仮定する。通常、ピーク信号が閾値よりも大きい場合、それは、マッピングには使用されない。
【0024】
中央参照電極を有する多電極カテーテルは、開示された技術と一致する他の方法で実現することができる。例えば、マルチアームカテーテルは、カテーテルのシャフトの遠位端、アームの起点のすぐ近位に配置されたそのような参照電極を含むことができる。そのようなカテーテルの非限定的な例は、米国特許出願公開第2017/0172442号及び同第2017/0319144号に記載されており、これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
上記の技術の背後にある理論的根拠は、典型的には、損傷電流によるベースラインレベルの変化は、中央電極ではなくスパイン電極によって取得されるということである。対照的に、遠距離場伝送又は局所環境条件(例えば、瘢痕組織から)などの他の要因によって引き起こされるベースラインレベルの変化は、通常、両方の電極によって取得される。
【0026】
一実施形態では、中央電極のベースラインレベルVCREは、以下に説明するウィルソン結合電極(Wilson Central Terminal、WCT)表面電極構成に対して測定される。(表面電極は、前述のECGの取得にも使用することができる。)同様に、スパイン電極のベースラインレベルVSEは、WCTセットに対して測定される。VCRE=VSE(所定の許容範囲内)の場合、損傷電流は存在しないと見なされ、したがって、信号はマッピングのために受け入れられる可能性があり、VCRE≠VSEの場合、損傷電流が存在すると見なされ、信号はマッピングのために受け入れられない。
【0027】
システムの説明
図1は、本発明の一実施形態による、カテーテルベースの電気生理学的(EP)感知及び信号分析システム20の概略描画図である。本明細書に記載の実施形態では、カテーテル21は、心臓26のEPマッピングに使用される。更に、ECG記録機器35は、プロセス中にシステム20によって感知された様々なタイプのECG信号を受信することができる。
【0028】
挿入図25に示すように、システム20は、カテーテルのシャフト22の遠位端に取り付けられた多電極バスケットアセンブリ40を有するカテーテル21を含む。カテーテル21のシャフト22は、医師30によって患者28の心臓26内に案内される。医師30は、カテーテルの近位端付近でマニピュレータ32を使用してシャフト22を操作しながら、シース23を通してシャフト22を挿入する。
【0029】
一実施形態では、バスケットアセンブリ40は、心臓26の心腔のEPマッピングを実行して、心腔表面50から電気生理学的信号を取得するように構成される。挿入図45は、心臓26の心腔内のバスケットカテーテル40の拡大図を示す。図示のように、バスケットカテーテル40は、バスケット形状を形成するスパイン上に結合された電極48のアレイを含む。バスケットアセンブリ40は、血液プールのみと接触する中央参照電極58を更に含む。カテーテル21の近位端は、制御コンソール24に接続されて、例えば、電極48によって取得された電位図を送信する。
【0030】
バスケットカテーテル40は、参照電極58を使用して、バスケットの中央電極(組織と接触せず、局所接地と見なされる)と組織と接触しているスパイン電極48との間の電位差を測定することによって単極電位図を取得することができる。上述のように、腔表面50の組織に過度の力を及ぼす電極48によって取得される単極電位図は、信号を劣化させる損傷電流(例えば、ベースラインシフト)を受ける可能性がある。開示された技術は、上記及び図3の方法に記載されているように、損傷電流を受けている生データ(取得されたデータ点)の一部で構築されたEPマップの劣化を軽減する。
【0031】
コンソール24は、カテーテル21の電極48からEP信号(例えば、ECG及びEGM)及び非EP信号(位置信号など)を受信するための好適なフロントエンド及びインターフェース回路38を有するプロセッサ41、典型的には汎用コンピュータを含む。EP信号はプロセッサのメモリ47に記憶される。
【0032】
EP信号を受信するために、プロセッサ41は、シャフト22内を通るワイヤを介して電極48に接続される。インターフェース回路38は、ECG記録機器35とすることができる12リードECG装置からなどのECG信号、及び体表面電極49からの非ECG信号を受信するように更に構成される。典型的には、電極49は、患者28の胸部及び脚の周囲の皮膚に取り付けられる。プロセッサ41は、ケーブル39を通るワイヤによって電極49に接続されて、電極49から信号を受信する。
【0033】
体表面電極49のうちの4つは、標準ECGプロトコルに従って、MA(右腕)、LA(左腕)、ML(右脚)、及びLL(左脚)と名付けられている。ウィルソン結合電極(WCT)は、4つの名前が付けられた体表面電極49のうちの3つによって形成することができ、結果として生じるECG信号VWCTは、インターフェース回路38によって受信される。
【0034】
EPマッピング手順中、電極48の場所は、それらが患者の心臓26内にある間、追跡される。その目的で、電気信号は、電極48と体表電極49との間で渡される。この信号に基づいて、患者の身体上の電極22の既知の位置が与えられると、プロセッサ28は、患者の心臓内の各電極22の推定される場所を計算する。そのような追跡は、米国特許第8,456,182号(その開示が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているBiosense-Webster(Irvine California)製のActive Current Location(ACL)システムを使用して実行することができる。
【0035】
したがって、プロセッサは、EGMなどの電極48から受信した任意の所与の信号を、信号が取得された場所と関連付けることができる。プロセッサ41は、これらの信号に含まれる情報を使用して(例えば、EP信号に注釈を付けるために)、局所活性化時間(LAT)マップなどのEPマップを構築して、ディスプレイに提示する。
【0036】
プロセッサ41は、典型的には、本明細書に記載の機能を実施するようにソフトウェアでプログラムされる。ソフトウェアは、例えば、ネットワークを介して電子形式でプロセッサにダウンロードされてもよく、あるいは、ソフトウェアは、代替的に又は追加的に、磁気メモリ、光学メモリ、又は電子メモリなどの非一時的な有形媒体上に提供及び/又は記憶されてもよい。特に、プロセッサ41は、以下で更に説明するように、図3及び図4に含まれる本明細書に開示されたような専用アルゴリズムを実行し、このアルゴリズムは、プロセッサ41が開示されたステップを実行することを可能にする。
【0037】
図1に描かれた実施形態は、特に心臓マッピングのためにバスケットカテーテルを使用することに関するが、前述の弓形Lasso(登録商標)カテーテル又はマルチアームPentaray(登録商標)カテーテルなどの他の遠位端アセンブリを使用することができる。更に、異なる遠位端アセンブリを更に使用して、電気アブレーションを実施することができる。
【0038】
心臓電気生理学的信号のベースラインシフト
図2は、本発明の一実施形態による、図1のシステム20によって取得された単極電位図202の概略グラフであり、これは、電位図に対する損傷電流の劣化効果を示す。描かれた波形は、カテーテルアセンブリ40の電極48の1つとその中央参照電極58との間の電位差である。
【0039】
損傷電流の存在は、単極振幅における振幅204のベースラインシフトとして表される。このシフトは信号の広がりを引き起こす。図示の実施形態では、ベースラインシフトにより、信号が所定の閾値206を超える。これは、損傷電流によって劣化したEP信号を検出し、(例えば、EPマップを構築するため)使用から除外するための基準として使用することができる。例えば、プロセッサは、取得されたEP信号振幅が事前設定された閾値206、例えば50μV又は100μVよりも大きい場合、損傷電流が存在すると仮定するように構成することができる。
【0040】
EPマッピングにおける損傷電流の許容
図3は、本発明の一実施形態による、歪んだ電位図を検出し、それらの使用を回避することによって、EPマッピング時に損傷電流を許容する方法を説明するフローチャートである。提示された実施形態によれば、アルゴリズムは、電位図取得ステップ302において、インターフェース回路38がカテーテル21によって取得された電位図を受信することから始まるプロセスを実行する。次に、プロセッサ41は、損傷電流検出ステップ304において、取得された電位図に損傷電流が存在する場合に、アルゴリズムを適用して、以下の図4及び図5で説明する方法の1つ、又は他の方法によって検出する。
【0041】
チェックステップ306において、プロセッサ41は、損傷電流を検出したか否かをチェックする。答えが「はい」である場合、プロセッサは、信号ドロップステップ308において、EPマップでの使用から電位図をドロップする。答えが「いいえ」である場合、プロセッサは、信号使用ステップ310において、EPマップで電位図を使用する。電位図を使用することは、電位図上のLAT値に注釈を付けて、データ点をLATマップに含めることを意味する場合がある。
【0042】
心臓電気生理学的信号における損傷電流の存在を検出する方法
図4は、本発明の一実施形態による、電位図のピーク振幅を閾値と比較することによって損傷電流によって歪んだ電位図を検出し、そのような電位図をドロップする方法を説明するフローチャートである。提示された実施形態によれば、アルゴリズムは、単極電位図取得ステップ402において、インターフェース回路38が、カテーテル21によって取得された単極電位図、例えば電位図202を受信することから始まるプロセスを実行する。次に、プロセッサ41は、損傷電流検出ステップ404において、取得された電位図に損傷電流が存在する場合に、アルゴリズムを適用して、所与の関心のあるウィンドウ(window of interest、WOI)におけるピーク電位図信号を閾値206と比較することによって検出する。
【0043】
チェックステップ406において、プロセッサ41は、閾値206を超えているか否かをチェックする。答えが「はい」である場合、プロセッサは、信号ドロップステップ408において、EPマップでの使用から単極電位図をドロップする。答えが「いいえ」である場合、プロセッサは、信号使用ステップ410において、EPマップで単極電位図を使用する。電位図を使用することは、電位図上のLAT値に注釈を付けて、そのデータ点をLATマップ及び/又は電位マップに含めることを意味する場合がある。
【0044】
図5は、本発明の別の実施形態による、ベースライン信号を比較することによって損傷電流によって歪んだ電位図を検出する方法を説明するフローチャートである。提示された実施形態によれば、アルゴリズムは、参照信号取得ステップ502において、インターフェース回路38が、図1に記載されたWCT端子に対する中央参照電極58からのEP信号を受信することから始まるプロセスを実行する。次に、プロセッサ41は、参照ベースライン信号測定ステップ504において、アルゴリズムを適用して信号のベースライン電位成分VCREを測定する。
【0045】
並行して、インターフェース回路38は、組織信号取得ステップ506において、WCT端子に対するスパイン電極48からのEP信号を受信する。次に、プロセッサ41は、組織ベースライン信号測定ステップ508において、アルゴリズムを適用して、組織信号のベースライン電位成分VSEを測定する。
【0046】
ベースライン信号比較ステップ510において、プロセッサ41は、2つのベースライン信号が(所与の許容範囲まで)等しいか否かをチェックする。答えが「いいえ」である場合、プロセッサは、電極48と58との間のそれぞれの単極電位図信号が特定レベルの損傷電流を受けていることを示す(512)。答えが「はい」である場合、プロセッサは、損傷電流が検出されなかったことを示す(514)。
【0047】
プロセッサは、例えば、ステップ410の条件に基づいて、又は閾値との比較(VSE-VCRE)によって、それぞれの単極電位図を使用する、又はドロップすることができる。
【0048】
上記の実施形態は例として引用したものであり、本発明は、上記で特に図示及び説明されたものに限定されないことが理解されるであろう。むしろ、本発明の範囲は、上記の様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせの両方、並びに前述の説明を読むことで当業者に想到されるであろう、先行技術において開示されていないそれらの変形及び修正を含む。参照により本特許出願に組み込まれる文献は、本出願の不可欠な部分と見なされるべきであり、ただし、これらの組み込まれた文献においていずれかの用語が本明細書で明示的又は暗示的になされた定義と矛盾するように定義されている限り、本明細書の定義のみが考慮されるべきである。
【0049】
〔実施の態様〕
(1) 患者の心臓で取得された電位図を受信するように構成されたインターフェースと、
プロセッサであって、
前記電位図に存在する損傷電流のレベルを推定し、
前記推定された損傷電流のレベルに基づいて、その後の分析で前記電位図を使用するか否かを決定するように構成された、プロセッサと、を備える、システム。
(2) 前記プロセッサは、前記損傷電流のレベルが閾値を下回る場合に前記電位図を使用し、前記損傷電流のレベルが前記閾値を上回る場合に前記電位図を破棄するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(3) 前記電位図は、血液中に浸漬された参照電極と組織と接触している感知電極との間で取得された単極信号である、実施態様1に記載のシステム。
(4) 前記プロセッサは、前記電位図のピークレベルを閾値と比較することによって前記損傷電流のレベルを推定するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(5) 前記プロセッサは、前記電位図に注釈を付け、前記注釈をEPマップで使用することによって、前記電位図を使用するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
【0050】
(6) 前記プロセッサは、前記電位図の局所活性化時間(LAT)値に注釈を付けるように構成されている、実施態様4に記載のシステム。
(7) カテーテルによって患者の心臓で取得された少なくとも2つのEP信号を受信するように構成されたインターフェースと、
プロセッサであって、
前記少なくとも2つのEP信号を使用して、前記少なくとも2つのEP信号から導出されたEP信号に存在する損傷電流のレベルを推定し、
前記推定された損傷電流のレベルに基づいて、その後の分析で前記電位図を使用するか否かを決定するように構成された、プロセッサと、を備える、システム。
(8) 前記プロセッサは、前記少なくとも2つのEP信号のうちの1つを選択することによって前記EP信号を導出するように構成されている、実施態様7に記載のシステム。
(9) 前記少なくとも2つのEP信号のうちの1つは、血液中に浸漬された参照電極及び表面電極を使用して取得された電位図であり、前記少なくとも2つのEP信号のうちのもう1つは、組織と接触している感知電極及び前記表面電極を使用して取得された電位図である、実施態様7に記載のシステム。
(10) 前記表面電極がWCT端子である、実施態様9に記載のシステム。
【0051】
(11) 前記プロセッサは、前記EP信号のうちの少なくとも2つを比較することによって前記損傷電流のレベルを推定するように構成されている、実施態様7に記載のシステム。
(12) 前記プロセッサは、前記導出されたEP信号に注釈を付け、前記注釈をEPマップで使用することによって、前記導出されたEP信号を使用するように構成されている、実施態様7に記載のシステム。
(13) 前記プロセッサは、前記導出されたEP信号の局所活性化時間(LAT)値に注釈を付けるように構成されている、実施態様12に記載のシステム。
(14) 患者の心臓で取得された電位図を受信することと、
前記電位図に存在する損傷電流のレベルを推定することと、
前記推定された損傷電流のレベルに基づいて、その後の分析で前記電位図を使用するか否かを決定することと、を含む、方法。
(15) 前記損傷電流のレベルが閾値を下回る場合に前記電位図を使用し、前記損傷電流のレベルが前記閾値を上回る場合に前記電位図を破棄することを含む、実施態様14に記載の方法。
【0052】
(16) 前記電位図は、血液中に浸漬された参照電極と組織と接触している感知電極との間で取得された単極信号である、実施態様14に記載の方法。
(17) 前記損傷電流のレベルを推定することは、前記電位図のピークレベルを閾値と比較することを含む、実施態様14に記載の方法。
(18) 前記電位図に注釈を付け、前記注釈をEPマップで使用することによって、前記電位図を使用することを含む、実施態様14に記載の方法。
(19) 前記電位図の局所活性化時間(LAT)値に注釈を付けることを含む、実施態様18に記載の方法。
(20) カテーテルによって患者の心臓で取得された少なくとも2つのEP信号を受信することと、
前記少なくとも2つのEP信号を使用して、前記少なくとも2つのEP信号から導出されたEP信号に存在する損傷電流のレベルを推定することと、
前記推定された損傷電流のレベルに基づいて、その後の分析で前記電位図を使用するか否かを決定することと、を含む、方法。
【0053】
(21) 前記少なくとも2つのEP信号のうちの1つを選択することによって前記EP信号を導出することを含む、実施態様20に記載の方法。
(22) 前記少なくとも2つのEP信号のうちの1つは、血液中に浸漬された参照電極及び表面電極を使用して取得された電位図であり、前記少なくとも2つのEP信号のうちのもう1つは、組織と接触している感知電極及び前記表面電極を使用して取得された電位図である、実施態様20に記載の方法。
(23) 前記表面電極がWCT端子である、実施態様22に記載の方法。
(24) 前記EP信号のうちの少なくとも2つを比較することによって前記損傷電流のレベルを推定することを含む、実施態様20に記載の方法。
(25) 前記導出されたEP信号に注釈を付け、前記注釈をEPマップで使用することによって、前記導出されたEP信号を使用することを含む、実施態様20に記載の方法。
【0054】
(26) 前記導出されたEP信号の局所活性化時間(LAT)値に注釈を付けることを含む、実施態様25に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
【外国語明細書】