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特開2023-54882ダム管理支援装置およびダム管理支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054882
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】ダム管理支援装置およびダム管理支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/20 20060101AFI20230410BHJP
【FI】
E02B7/20 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163840
(22)【出願日】2021-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森田 晃弘
【テーマコード(参考)】
2D019
【Fターム(参考)】
2D019AA43
(57)【要約】
【課題】ダム管理用制御処理設備の操作卓から離れた場所でダム水文量を計算する。
【解決手段】携帯可能であるとともにダム制御設備2と通信可能であり、ダム制御設備2の貯水位計測装置22から貯水池の貯水位の計測値を取得するとともにダム制御設備2の入出力装置23からゲート・バルブの開度の計測値を取得してダム水文量を計算する手段としての演算部35を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯可能であるとともにダム制御設備と通信可能であり、
前記ダム制御設備の貯水位計測装置から貯水池の貯水位の計測値を取得するとともに前記ダム制御設備の入出力装置からゲート・バルブの開度の計測値を取得してダム水文量を計算する手段を有する、
ことを特徴とするダム管理支援装置。
【請求項2】
前記ダム制御設備から、各ダムに固有の貯水位~総貯水量対応表を取得する、
ことを特徴とする請求項1に記載のダム管理支援装置。
【請求項3】
前記ダム制御設備から、各ダムの放流設備の種類および形状ごとに固有の貯水位~開度~放流量対応表を取得する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のダム管理支援装置。
【請求項4】
ダムの放流操作の選択肢の集合を表示部に表示させるとともに前記選択肢ごとの選択数の集計の結果を前記表示部に表示させる手段をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載のダム管理支援装置。
【請求項5】
ダム制御設備と通信可能な携帯端末を、
前記ダム制御設備の貯水位計測装置から貯水池の貯水位の計測値を取得するとともに前記ダム制御設備の入出力装置からゲート・バルブの開度の計測値を取得してダム水文量を計算する手段として機能させる、
ことを特徴とするダム管理支援プログラム。
【請求項6】
前記携帯端末を、
前記ダム制御設備から、各ダムに固有の貯水位~総貯水量対応表を取得するように機能させる、
ことを特徴とする請求項5に記載のダム管理支援プログラム。
【請求項7】
前記携帯端末を、
前記ダム制御設備から、各ダムの放流設備の種類および形状ごとに固有の貯水位~開度~放流量対応表を取得するように機能させる、
ことを特徴とする請求項5または6に記載のダム管理支援プログラム。
【請求項8】
前記携帯端末を、
ダムの放流操作の選択肢の集合を表示部に表示するとともに前記選択肢ごとの選択数の集計の結果を前記表示部に表示するように機能させる、
ことを特徴とする請求項5から7のうちのいずれか1項に記載のダム管理支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダム管理支援装置およびダム管理支援プログラムに関し、例えばダム管理用制御処理設備と連携して用いられて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
放流設備を操作規則等に基づき確実かつ容易に操作するためにダムの流水管理に関わる演算処理や放流設備の操作ならびに操作の支援を行うための設備として、種々の計測機器などが収集した情報を用いてダム水文量の演算を行うダム管理用制御処理設備が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】国土交通省「ダム管理用制御処理設備 標準設計仕様書」,平成28年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のダム管理用制御処理設備は、ダム諸量を確認する場合は、ダム管理用制御処理設備の操作卓に操作員が実際に触れてダム管理用制御処理設備を操作して演算を行わせる必要があるので、ダム管理用制御処理設備が設置されているダム管理所の操作室等へと赴く必要がある。このため、悪天候などでダム(特に、ダム管理所の操作室)に近づけない場合やダム管理所の操作室から離れた場所での作業中にはダム諸量を確認することができない、という問題がある。
【0005】
そこでこの発明は、ダム管理用制御処理設備の操作卓から離れた場所でダム水文量を計算することが可能な、ダム管理支援装置およびダム管理支援プログラムを提供することを目的とする。この発明は、また、ダムの放流操作の内容の検討を支援することが可能な、ダム管理支援装置およびダム管理支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明に係るダム管理支援装置は、携帯可能であるとともにダム制御設備と通信可能であり、前記ダム制御設備の貯水位計測装置から貯水池の貯水位の計測値を取得するとともに前記ダム制御設備の入出力装置からゲート・バルブの開度の計測値を取得してダム水文量を計算する手段を有する、ことを特徴とする。
【0007】
この発明に係るダム管理支援装置は、前記ダム制御設備から、各ダムに固有の貯水位~総貯水量対応表を取得する、ようにしてもよい。
【0008】
この発明に係るダム管理支援装置は、前記ダム制御設備から、各ダムの放流設備の種類および形状ごとに固有の貯水位~開度~放流量対応表を取得する、ようにしてもよい。
【0009】
この発明に係るダム管理支援装置は、ダムの放流操作の選択肢の集合を表示部に表示させるとともに前記選択肢ごとの選択数の集計の結果を前記表示部に表示させる手段をさらに有する、ようにしてもよい。
【0010】
また、この発明に係るダム管理支援プログラムは、ダム制御設備と通信可能な携帯端末を、前記ダム制御設備の貯水位計測装置から貯水池の貯水位の計測値を取得するとともに前記ダム制御設備の入出力装置からゲート・バルブの開度の計測値を取得してダム水文量を計算する手段として機能させる、ことを特徴とする。
【0011】
この発明に係るダム管理支援プログラムは、前記携帯端末を、前記ダム制御設備から、各ダムに固有の貯水位~総貯水量対応表を取得するように機能させる、ようにしてもよい。
【0012】
この発明に係るダム管理支援プログラムは、前記携帯端末を、前記ダム制御設備から、各ダムの放流設備の種類および形状ごとに固有の貯水位~開度~放流量対応表を取得するように機能させる、ようにしてもよい。
【0013】
この発明に係るダム管理支援プログラムは、前記携帯端末を、ダムの放流操作の選択肢の集合を表示部に表示するとともに前記選択肢ごとの選択数の集計の結果を前記表示部に表示するように機能させる、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係るダム管理支援装置やダム管理支援プログラムによれば、ダム制御設備から貯水池の貯水位の計測値やゲート・バルブの開度の計測値を取得してダム水文量を計算するようにしているので、ダム制御設備の操作卓から離れた場所でダム水文量を計算することが可能となり、延いては、荒天時、緊急時、さらに種々の場所での執務中に、ダム制御設備が設置されているダム管理所の操作室へと行くことなくダム水文量を迅速に確認することが可能となる。
【0015】
この発明に係るダム管理支援装置やダム管理支援プログラムによれば、ダム制御設備から、各ダムに固有の貯水位~総貯水量対応表を取得するようにした場合には、最新の貯水位~総貯水量対応表に従って適正にダム水文量の演算を行うことが可能となる。
【0016】
この発明に係るダム管理支援装置やダム管理支援プログラムによれば、ダム制御設備から、各ダムに固有の貯水位~開度~放流量対応表を取得するようにした場合には、最新の貯水位~開度~放流量対応表に従って適正にダム水文量の演算を行うことが可能となる。
【0017】
この発明に係るダム管理支援装置やダム管理支援プログラムによれば、ダムの放流操作の選択肢ごとの選択数の集計の結果を表示部に表示させるようにした場合には、ダムの放流操作の内容の検討を支援することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の実施の形態に係るダム管理支援装置としての携帯端末を含むダム管理システムの概略構成を示す機能ブロック図である。
図2図1のダム管理支援装置としての携帯端末の概略構成を示す機能ブロック図である。
図3図2の携帯端末の表示部における表示画面の例であり、ダム水文量の計算の結果および検討要請ボタンを表示する画面の例を示す図である。
図4図2の携帯端末の表示部における表示画面の例であり、ダムの放流操作の選択肢の集合を表示する画面の例を示す図である。
図5図2の携帯端末の表示部における表示画面の例であり、ダムの放流操作の選択肢ごとの選択数の集計の結果を表示する画面の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0020】
図1は、この発明の実施の形態に係るダム管理支援装置としての携帯端末3を含むダム管理システム1の概略構成を示す機能ブロック図である。実施の形態におけるダム管理システム1は、主に、ダム制御設備2と、ダム管理支援プログラム341によって動作する複数のダム管理支援装置としての携帯端末3と、サーバ7と、を有する。ダム制御設備2と携帯端末3とサーバ7とは、通信ネットワーク8を介して相互に通信可能に構成される。
【0021】
実施の形態に係るダム管理支援装置としての携帯端末3は、携帯可能であるとともにダム制御設備2と通信可能であり、ダム制御設備2の貯水位計測装置22から貯水池の貯水位の計測値を取得するとともにダム制御設備2の入出力装置23からゲート・バルブの開度の計測値を取得してダム水文量を計算する手段としての演算部35を有する。
【0022】
また、実施の形態に係るダム管理支援プログラム341は、ダム制御設備2と通信可能な携帯端末3を、ダム制御設備2の貯水位計測装置22から貯水池の貯水位の計測値を取得するとともにダム制御設備2の入出力装置23からゲート・バルブの開度の計測値を取得してダム水文量を計算する手段(即ち、演算部35)として機能させる、ようにしている。
【0023】
ダム制御設備2は、放流設備を操作する際のダムの流水管理に関わる演算処理や放流設備の操作ならびに操作の支援を行うためにダムに設置される機序であり、例えば、「ダム管理用制御処理設備 標準設計仕様書(国土交通省,平成28年8月)」および「ダム管理用制御処理設備 標準設計仕様書・同解説(国土交通省,平成28年8月)」(前記2つをまとめて「標準設計仕様書等」と呼ぶ)に規定されている設計仕様に従う構成や機能を備える機序である。
【0024】
ダム制御設備2は、例えば標準設計仕様書等に規定されている設計仕様のうちこの発明に特に関係する構成として、放流操作装置21,貯水位計測装置22,入出力装置23,情報入力・提供装置24,表示装置25,制御系LAN26,および情報系LAN27を有する。
【0025】
放流操作装置21は、例えば下記の処理を行う。なお、放流設備5は、具体的には例えば、1つ若しくは複数のゲートやバルブである。
【0026】
1)ダム水文量演算処理
ダムに設置されている貯水位計4ならびに放流設備5の開度計51および流量計52などの計測値をもとに各種の演算処理を行い、貯水池諸量(別言すると、ダム諸量)として、貯水位,流入量,および放流量に纏わる諸量を計算する。
【0027】
2)操作演算処理
ア)各ダムの操作規則等に従い、ダムから放流を行うための放流方式に基づいてダムから放流すべき水量の目標値(「目標全放流量」と呼ぶ)を算出する。
イ)目標全放流量を使用する放流設備に配分し、放流設備1門ごとの目標放流量を算出する。
ウ)各ゲート・バルブに配分された放流設備1門ごとの目標放流量を現在の貯水位で放流可能なゲート・バルブ開度(「目標開度」と呼ぶ)に換算する。なお、目標開度は、各ゲート・バルブの「貯水位~開度~放流量対応表」または「放流量算出式」の逆算により算出する。
【0028】
放流操作装置21は、放流設備5の操作に関する処理として、目標開度で放流設備5を操作するための起動指令(別言すると、開閉信号)を生成し、前記起動指令(開閉信号)を制御系LAN26を介して入出力装置23へと送信する。
【0029】
貯水位計測装置22は、貯水位計4によって計測される計測データ信号の入力を受け、必要に応じて所定の処理を施したうえで、前記計測データ信号に基づくダム貯水池の貯水位の計測値を制御系LAN26を介して放流操作装置21へと送信する。
【0030】
入出力装置23は、放流設備5の操作に関する処理として、放流操作装置21から送信される起動指令(開閉信号)の入力を受け、前記起動指令(開閉信号)を例えば光ケーブルを介して放流設備5へと送信する。
【0031】
入出力装置23は、また、放流設備5の開度計51および流量計52などによって計測/取得される計測データ信号や状態情報信号の入力を受け、必要に応じて所定の処理を施したうえで、前記計測データ信号や状態情報信号に基づく計測値や状態情報を制御系LAN26を介して放流操作装置21へと送信する。
【0032】
入出力装置23は、具体的には例えば、放流設備5の開度計51によって計測されるゲート・バルブの開度(具体的には、鉛直開度,円弧開度)の計測値、放流設備5の流量計52によって計測されるゲート・バルブにおける流量の計測値、放流設備5から出力されるゲート・バルブの状態信号、および、放流設備5から出力されるゲート・バルブが目標開度に達したことを表す信号を制御系LAN26を介して放流操作装置21へと送信する。
【0033】
情報入力・提供装置24は、例えば下記の処理を行う。
【0034】
1)通信処理
関連設備6からの情報の入力を受け、また、関連設備6へと情報を出力する。情報入力・提供装置24が情報の入力を受ける元の関連設備6は、具体的にはテレメータ装置や種々の観測装置などである。また、情報入力・提供装置24が情報を出力する先の関連設備6は、具体的には上位局向け通信装置,電話応答通報装置,および種々の観測装置などである。
【0035】
2)流域水文量の演算処理
雨量・水位観測設備からテレメータで伝送される観測値をもとに各種の演算処理を行って雨量諸量(具体的には、局別雨量,流域平均雨量)および河川諸量(具体的には、局別河川水位,局別河川流量)を算出する。
【0036】
表示装置25は、一覧表,グラフ,および模式図などにより下記の情報を表示する。
1)ダム状況に関する情報
現在のダム状況を把握するための貯水位,流入量,放流量などのダム水文量情報。
2)流域状況に関する情報
現在の流域状況を把握するための雨量,河川水位・流量などの流域水文量情報。
3)操作に関する情報
ゲート・バルブを操作するために必要となる現在の放流量および開度,目標放流量,目標開度の情報。
4)警報通報に関する情報
ダム状況が注意すべき状態であることを操作員に周知するための警報通報情報。
【0037】
制御系LAN26(LAN:Local Area Network の略)は、FL-netによって標準化されたオープンPLCネットワークとして構成される。放流操作装置21,貯水位計測装置22,および入出力装置23は、制御系LAN26を介して通信を行う。
【0038】
情報系LAN27は、TCP/IPに従った接続が可能なネットワークとして構成される。放流操作装置21,情報入力・提供装置24,および表示装置25は、情報系LAN27を介して通信を行う。
【0039】
情報系LAN27は通信ネットワーク8に接続され、これにより、ダム制御設備2と携帯端末3とが情報系LAN27および通信ネットワーク8を介して相互に通信可能に接続される。
【0040】
通信ネットワーク8は、信号の送受信が可能な、LANやWAN(Wide Area Network の略),インターネット,および専用線などの種々の通信形態を含む各種の無線や有線の通信回線網である。
【0041】
サーバ7は、通信ネットワーク8を介してダム制御設備2や携帯端末3と通信可能に構成され、また、所定のプログラムがインストールされて実行されることによって下記に説明する処理を行うように構成される。
【0042】
携帯端末3は、ダムの運用管理の統括者ならびに関係者および操作者のそれぞれが携帯する機器であり、例えば、携帯電話,スマートフォン,タブレット,またはPDA(Personal Digital Assistant / Personal Data Assistance の略)などの携帯可能な機器にダム管理支援プログラム341がインストールされて実行されることによって実現される。
【0043】
各携帯端末3は、当該の携帯端末3の使用者が具体的に特定され得るように、ダムの運用管理の統括者ならびに関係者および操作者の各々により、例えばユーザ名/IDやパスワードが入力されるなどしてユーザ設定が予め行われる。ユーザ設定が行われると、必要に応じて、当該の携帯端末3の識別情報と使用者情報との組み合わせがサーバ7へと送信され、サーバ7において携帯端末3およびユーザの登録が行われる。この場合には、サーバ7は、ダムの運用管理の統括者が使用している携帯端末3Aとダムの運用管理の関係者や操作者が使用している携帯端末3Bとを区別することができるようになる。
【0044】
携帯端末3は、機器自体の装備として、表示部31,入力部32、通信部33,および記憶部34を有する(図2参照)。
【0045】
表示部31は、例えば液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence の略)ディスプレイによって構成される。表示部31は、タッチパネルとしての機能を備えるようにしてもよい。この実施の形態では、表示部31が表示機能と入力機能とを備えるタッチバネルによって構成され、表示部31とともに入力部32も実現される。
【0046】
通信部33は、携帯端末3を通信ネットワーク8に通信可能(具体的には例えば、無線通信可能)に接続する通信インターフェースによって構成される。
【0047】
記憶部34は、例えばROM(Read Only Memory の略),RAM(Random Access Memory の略),フラッシュメモリ,HDD(Hard Disk Drive の略)によって構成され、携帯端末3を実施の形態に係るダム管理支援装置として動作させるために用いられるダム管理支援プログラム341や各種データを記憶する。
【0048】
携帯端末3には、ダム管理支援プログラム341が実行されることにより、演算部35,検討提起部36,および操作選択部37が構成される(図2参照)。
【0049】
演算部35は、ダム水文量を計算する。演算部35は、少なくとも下記の各項目を計算する。なお、ダム水文量としての下記の項目は、標準設計仕様書等に規定されている項目であり、標準設計仕様書等に規定されている計算仕法や計算式に従って計算される。
【0050】
1)有効容量内貯水量
演算部35は、下記の数式1に従って有効容量内貯水量Vh〔m3〕を計算する。
(数1) Vh = Va-VL
ここに、Vh:有効容量内貯水量〔m3
Va:平滑貯水位に相当する総貯水量〔m3
VL:最低水位に相当する総貯水量〔m3
【0051】
2)有効容量内空容量
演算部35は、下記の数式2に従って有効容量内空容量Vc〔m3〕を計算する。
(数2) Vc = Vs-Va
ここに、Vc:有効容量内空容量〔m3
Vs:サーチャージ水位に相当する総貯水量〔m3
Va:平滑貯水位に相当する総貯水量〔m3
【0052】
3)有効容量内貯水率
演算部35は、下記の数式3に従って有効容量内貯水率Vpcs〔%〕を計算する。
(数3) Vpcs = Vh/(Vs-VL)×100
ここに、Vpcs:有効容量内貯水率〔%〕
Vh:有効容量内貯水量〔m3
Vs :サーチャージ水位に相当する総貯水量〔m3
VL :最低水位に相当する総貯水量〔m3
【0053】
4)ゲート・バルブ1門毎放流量
演算部35は、ゲート・バルブ1門毎放流量Qgij〔m3/秒〕を、各ダムに固有の貯水位~開度~放流量対応表を用いて計算する。なお、iは放流設備の種別を表す識別子であり、jはゲート・バルブを相互に区別する識別子である。
【0054】
演算部35は、上記の有効容量内貯水量Vh,有効容量内空容量Vc,および有効容量内貯水率Vpcsを計算する際に、貯水位計測装置22によって取得されているダム貯水池の貯水位の計測値を情報系LAN27および通信ネットワーク8を介して取得するとともに、入出力装置23によって取得されているゲート・バルブの開度の計測値を情報系LAN27および通信ネットワーク8を介して取得する。なお、ダム水文量の計算では、計測貯水位に対して平滑処理が施されて平滑化された平滑貯水位が用いられる(具体的な処理内容については、標準設計仕様書等を参照)。
【0055】
演算部35は、また、記憶部34に予め記憶されて格納されている各ダムに固有の貯水位~総貯水量対応表ならびに最低水位およびサーチャージ水位も用いて、上記の有効容量内貯水量Vh,有効容量内空容量Vc,および有効容量内貯水率Vpcsを計算する。
【0056】
演算部35は、また、記憶部34に予め記憶されて格納されている各ダムの放流設備の種類および形状ごとに固有の貯水位~開度~放流量対応表を用いて、上記のゲート・バルブ1門毎放流量Qgijを求める。
【0057】
ここで、演算部35は、上記の有効容量内貯水量Vh,有効容量内空容量Vc,および有効容量内貯水率Vpcsを計算する際に、ダム制御設備2の放流操作装置21がダム水文量演算処理を行うために保持している(具体的には例えば、ダム制御設備2に備えられているハードディスクなどの記憶装置に記憶されて格納されている)、各ダムに固有の貯水位~総貯水量対応表を情報系LAN27および通信ネットワーク8を介して取得する(別言すると、ダウンロードする)ようにしてもよい。
【0058】
演算部35は、また、上記のゲート・バルブ1門毎放流量Qgijを求める際に、ダム制御設備2の放流操作装置21がダム水文量演算処理を行うために保持している(具体的には例えば、ダム制御設備2に備えられているハードディスクなどの記憶装置に記憶されて格納されている)、各ダムの放流設備の種類および形状ごとに固有の貯水位~開度~放流量対応表を情報系LAN27および通信ネットワーク8を介して取得する(別言すると、ダウンロードする)ようにしてもよい。
【0059】
ダム水文量演算処理に用いられる貯水位~総貯水量対応表や貯水位~開度~放流量対応表は必要に応じて変更されてダム制御設備2において切り替えられる場合がある。このため、演算部35がダム水文量を計算する際に、ダム制御設備2の放流操作装置21がダム水文量演算処理を行うために保持している貯水位~総貯水量対応表や貯水位~開度~放流量対応表を情報系LAN27および通信ネットワーク8を介して取得することにより、最新の対応表、言い換えると、ダム制御設備2がダム水文量演算処理を行う際に実際に使用している対応表に従って適正にダム水文量の演算が行われ得る。
【0060】
貯水位~総貯水量対応表や貯水位~開度~放流量対応表は、ダム制御設備2から情報系LAN27および通信ネットワーク8を介して、演算部35がダム水文量の計算を行うたびに取得されるようにしてもよく、または、予め設定される所定の間隔で取得されるようにしてもよく、或いは、携帯端末3の使用者の指示/操作に応じて取得されるようにしてもよい。
【0061】
演算部35は、ダム水文量として、上記の項目に加えて、利水容量内貯水率,発電使用水量(他機関),直接取水量,分水量,ゲート種別毎放流量(管理用発電放流含む),ダム放流量,下流放流量,全放流量,全流入量,注水量,自己流入量,および調整流量のうちの少なくとも1つを計算するようにしてもよい。なお、ダム水文量としての前記の項目も、標準設計仕様書等に規定されている項目であり、標準設計仕様書等に規定されている計算仕法や計算式に従って計算される。
【0062】
演算部35は、ダム水文量の計算の結果得られる有効容量内貯水量Vh,有効容量内空容量Vc,有効容量内貯水率Vpcs,およびゲート・バルブ1門毎放流量Qgijの各値、ならびに、前記ゲート・バルブ1門毎放流量Qgijの合計値〔m3/秒〕を表示部31に表示させる。
【0063】
図3は、放流設備として、非常用洪水吐および常用洪水吐に加えて1号ゲートおよび2号ゲートの2つの放流用ゲートを有するダムの場合の例である。
【0064】
上記のゲート・バルブ1門毎放流量Qgijの合計値は、すなわちダムからの放流量である。なお、演算部35は、分水量(即ち、ダム貯水池から流域外へと導水される水量であり、貯水位~ゲート・バルブ開度~分水量対応表から計算される)や自然越流量(即ち、ゲートレスの自然越流方式の放流設備からの流量であり、貯水位~自然越流量対応表から計算される)を計算して、ゲート・バルブ1門毎放流量Qgijの合計値に分水量や自然越流量を加えた値をダム放流量〔m3/秒〕として表示部31に表示させるようにしてもよい。この場合の貯水位~ゲート・バルブ開度~分水量対応表や貯水位~自然越流量対応表は、記憶部34に予め記憶されて格納されるようにしてもよく、或いは、ダム制御設備2の放流操作装置21がダム水文量演算処理を行うために保持している貯水位~ゲート・バルブ開度~分水量対応表や貯水位~自然越流量対応表が情報系LAN27および通信ネットワーク8を介して取得されるようにしてもよい。
【0065】
検討提起部36は、検討要請ボタン361を表示部31に表示させる。検討提起部36は、例えば、演算部35によってダム水文量の計算が行われるたびに、演算部35によって表示されているダム水文量の計算の結果とともに、検討要請ボタン361を表示部31に表示させる(図3参照)。
【0066】
ダムの運用管理の統括者または関係者もしくは操作者によって検討要請ボタン361が操作(別言すると、押下)されると、検討提起部36は、ダムの運用管理の統括者ならびに関係者および操作者による検討の開始を促すための検討要請信号をサーバ7へと送信する。
【0067】
サーバ7は、携帯端末3から送信される検討要請信号を受信すると、ダムの放流操作の選択肢の集合を携帯端末3それぞれへと送信する。
【0068】
この際、サーバ7が送信するダムの放流操作の選択肢の集合は、サーバ7内に1つが予め記憶されて格納されているようにしてもよく、または、サーバ7内に予め記憶されて格納されている複数の中から選択されるようにしてもよく、或いは、検討要請ボタン361を操作したダムの運用管理の統括者または関係者もしくは操作者によって作成されるようにしてもよい。
【0069】
サーバ7が送信するダムの放流操作の選択肢の集合がサーバ7内に予め記憶されて格納されている複数の中から選択される場合には、携帯端末3において検討要請ボタン361が操作されて検討要請信号がサーバ7へと送信されることにより、サーバ7内に予め記憶されて格納されているダムの放流操作の選択肢の集合が複数種類前記携帯端末3へと送信され、前記携帯端末3の表示部31にダムの放流操作の選択肢の集合が複数種類表示され、前記携帯端末3の使用者によって前記複数種類の集合のうちのいずれかが選択され、前記選択されたダムの放流操作の選択肢の集合の情報がサーバ7へと送信されて、サーバ7が前記情報に基づいてダムの放流操作の選択肢の集合を携帯端末3それぞれへと送信するようにしてもよい。
【0070】
サーバ7が送信するダムの放流操作の選択肢の集合が検討要請ボタン361を操作した統括者または関係者もしくは操作者によって作成される場合には、携帯端末3において検討要請ボタン361が操作されることにより、ダムの放流操作の選択肢の集合の入力/作成画面が前記携帯端末3の表示部31に表示され、前記携帯端末3の使用者によってダムの放流操作の選択肢それぞれが入力されて選択肢の集合が作成され、前記作成されたダムの放流操作の選択肢の集合の内容がサーバ7へと送信されて、サーバ7が前記内容に基づいてダムの放流操作の選択肢の集合を携帯端末3それぞれへと送信するようにしてもよい。
【0071】
携帯端末3の操作選択部37は、サーバ7から送信されるダムの放流操作の選択肢の集合を受信すると、前記ダムの放流操作の選択肢の集合(具体的には例えば、複数の選択肢の各々に対応する選択肢ボタン371a,371b,371c)を表示部31に表示させる。
【0072】
図4に示す例では、ダムの放流操作の選択肢として、「放流量の増加」(選択肢ボタン371a),「現状維持」(選択肢ボタン371b),および「放流量の減少」(選択肢ボタン371c)の3つが表示される。
【0073】
操作選択部37は、ダムの放流操作の選択肢の集合のうちの1つが選択される(具体的には例えば、複数の選択肢の各々に対応する選択肢ボタン371a,371b,371cのうちの1つが押下される)と、前記選択された選択肢の情報を選択肢情報としてサーバ7へと送信する。
【0074】
サーバ7は、各携帯端末3から送信される選択肢情報を受信すると、前記選択肢情報に基づいてダムの放流操作の選択肢ごとに選択数を集計し、前記集計の結果を携帯端末3それぞれへと送信する。
【0075】
携帯端末3の操作選択部37は、サーバ7から送信されるダムの放流操作の選択肢ごとの選択数の集計の結果を受信すると、前記集計の結果を表示部31に表示させる(図5参照)。
【0076】
ダムの運用管理の統括者は、携帯端末3Aの表示部31に表示される、ダムの放流操作の選択肢ごとの選択数の集計の結果を確認し、ダムの放流操作の内容を検討する。
【0077】
なお、ダムの放流操作における放流量の程度についての選択肢の集合が表示部31に表示されて、ダムの運用管理の統括者または関係者もしくは操作者によって前記放流量の程度が選択されるようにしてもよい。また、選択肢ごとの選択数の集計の結果をふまえてダムの運用管理の統括者が決定したダムの放流操作の内容が表示部31に表示されて、ダムの運用管理の関係者もしくは操作者に対して前記放流操作の内容について了承するか否かの確認が行われるようにしてもよい。
【0078】
実施の形態に係るダム管理支援装置としての携帯端末3やダム管理支援プログラム341によれば、ダム制御設備2から貯水池の貯水位の計測値やゲート・バルブの開度の計測値を取得してダム水文量を計算するようにしているので、ダム制御設備2の操作卓から離れた場所でダム水文量を計算することが可能となり、延いては、荒天時、緊急時、さらに種々の場所での執務中に、ダム制御設備2が設置されているダム管理所の操作室へと行くことなくダム水文量を迅速に確認することが可能となる。
【0079】
実施の形態に係るダム管理支援装置としての携帯端末3やダム管理支援プログラム341によれば、また、ダム制御設備2から、各ダムの放流設備の種類および形状ごとに固有の貯水位~総貯水量対応表や貯水位~開度~放流量対応表を取得するようにした場合には、最新の対応表に従って適正にダム水文量の演算を行うことが可能となる。
【0080】
実施の形態に係るダム管理支援装置としての携帯端末3やダム管理支援プログラム341によれば、また、ダムの放流操作の選択肢ごとの選択数の集計の結果を表示部31に表示させるようにしているので、ダムの放流操作の内容の検討を支援することが可能となる。
【0081】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0082】
具体的には、上記の実施の形態では図1に概略構成を示すダム制御設備2(特に、標準設計仕様書等に規定されている設計仕様に従う構成や機能を備える機序であり、具体的には例えば、ダム管理用制御処理設備)がこの発明に係るダム管理支援装置としての携帯端末3と連携するようにしているが、この発明に係るダム管理支援装置としての携帯端末3と連携するダム制御設備は図1に概略構成を示すダム制御設備2に限定されるものではなく、他の構成を備えるダム制御設備がこの発明に係るダム管理支援装置としての携帯端末3と連携するようにしてもよい。
【0083】
また、上記の実施の形態ではこの発明に係るダム管理支援装置としての携帯端末3が検討提起部36および操作選択部37を有するようにしているが、検討提起部36や操作選択部37を有することはこの発明において必須の構成ではなく、この発明に係るダム管理支援装置は、検討提起部36や操作選択部37を有することなく、演算部35を有して、少なくとも、ダム水文量を計算して前記計算の結果を表示部31に表示するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 ダム管理システム
2 ダム制御設備
21 放流操作装置
22 貯水位計測装置
23 入出力装置
24 情報入力・提供装置
25 表示装置
26 制御系LAN
27 情報系LAN
3 携帯端末(ダム管理支援装置)
3A ダムの運用管理の統括者が操作している携帯端末
3B ダムの運用管理の関係者や操作者が操作している携帯端末
31 表示部
32 入力部
33 通信部
34 記憶部
341 ダム管理支援プログラム
35 演算部
36 検討提起部
361 検討要請ボタン
37 操作選択部
371a,371b,371c 選択肢ボタン
4 貯水位計
5 放流設備
51 開度計
52 流量計
6 関連設備
7 サーバ
8 通信ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5