(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054898
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置と、保線車両と、絶縁車輪の絶縁・短絡切替え方法
(51)【国際特許分類】
B61L 29/28 20060101AFI20230410BHJP
H02J 50/12 20160101ALI20230410BHJP
H02J 50/40 20160101ALI20230410BHJP
B61D 15/00 20060101ALI20230410BHJP
B61F 13/00 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
B61L29/28 E
H02J50/12
H02J50/40
B61D15/00 B
B61F13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163872
(22)【出願日】2021-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000101101
【氏名又は名称】アクト電子株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508188237
【氏名又は名称】精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(72)【発明者】
【氏名】塩野 幸策
(72)【発明者】
【氏名】上野 洋
(72)【発明者】
【氏名】片桐 天河
(72)【発明者】
【氏名】豊沢 幸克
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161AA10
5H161MM02
5H161MM14
5H161NN02
5H161PP06
5H161PP07
5H161PP12
5H161QQ01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電源電圧が安定して確実に得られ、送電コイルと受電コイルの間隔が変動しても確実に電磁誘導結合できる絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置を提供する。
【解決手段】二枚の送電コイルを受電コイルの両外側に間隔をあけて対向配置して、二枚の送電コイルの合成電圧が受電コイルに受電されるようにしたことにより、一方の送電コイルが受電コイルから離れても他方の送電コイルが受電コイルに接近して、電磁誘導可能な間隔が確保され、二枚の送電コイルの合成電圧が受電コイルに確実に受電される。送電側回路は電力を伝送する搬送波に周波数の異なる二以上の変調波で変調をかけた二以上の変調搬送波(制御信号)を生成して送電コイルに送る構成とし、受電側回路は制御信号に基づいて電力系電圧によりスイッチを操作して、絶縁車輪の内輪と外輪を完全短絡、部分短絡、完全絶縁に切替え可能とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電コイルと受電コイルとの電磁誘導結合により誘起される電圧によりスイッチが開閉操作されて、絶縁車輪の内輪と外輪が完全短絡と、完全絶縁と、部分短絡に切り替えられ、完全短絡時には遮断機が降り、表示灯が点灯し、警報機が鳴り、完全絶縁時には遮断機が降りず、表示灯が点灯せず、警報機が鳴らず、部分短絡時には遮断機が降りて表示灯が点灯するが警報機は鳴らないようにした絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置において、
受電コイルの両外側に、送電コイルを、間隔をあけて対向配置して、
両送電コイルの合成電圧が電磁誘導結合により非接触で受電コイルに給電できる、
ことを特徴とする絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置。
【請求項2】
請求項1記載の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置において、
絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置が、操作盤と、制御盤と、送電側回路と、送電コイルと、受電コイルと、受電側回路と、絶縁車輪を短絡・絶縁するスイッチと、ローパスフィルタ(LPF)を備え、
操作盤は制御盤を操作することができ、
制御盤は車両からの電源電圧を送電側回路へ給電することができ、操作盤からの指令に基づいて変調波の発振を切り替えて、送電側回路の動作を制御することができ、
送電側回路は前記電源電圧を送電コイルに伝送すると共に、操作盤からの指令に基づいて発振される周波数の異なる二以上の変調波で搬送波を変調させて変調搬送波(制御信号)を生成し、その制御信号を送電コイルに供給することができ、
受電コイルは送電コイルと電磁誘導結合して、二つの送電コイルの合成電圧に伴う電圧を誘起することができ、
受電側回路は受電した変調搬送波を整流して電力系電圧を取り出し、変調搬送波を検波し、変調波を復調して完全短絡用制御信号、部分短絡用制御信号、絶縁用制御信号を判別し、判別された制御信号に基づいて前記電力系電圧によりスイッチを操作して、絶縁車輪の内輪と外輪を完全短絡と、LPFを通して駆動する部分短絡と、完全絶縁とに切替え制御可能である、
ことを特徴とする絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置。
【請求項3】
請求項2記載の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置において、
変調波による搬送波の変調がPWM変調である、
ことを特徴とする絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置において、
送電コイル及び受電コイルは車軸の周方向に横長形状である、
ことを特徴とする絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置において、
送電コイルが送電側基板の表裏両面又はいずれか一方の面に印刷され、受電コイルが受電側基板の表裏両面又はいずれか一方の面に印刷され、
表裏両面に印刷されたコイルの場合は、巻き数が増加するように接続されている、
ことを特徴とする絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置において、
送電コイルは導線を巻いたコイルが送電側基板の表裏両面又はいずれか一方の面に固定され、受電コイルが受電側基板の表裏両面又はいずれか一方の面に固定され、表裏両面に固定したコイルの場合は、巻き数が増加するように接続されている、
ことを特徴とする絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置において、
送電コイルと受電コイルが電磁界共振結合できる、
ことを特徴とする絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置において、
受電側回路とスイッチがスイッチボックスに装備されている、
ことを特徴とする絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置。
【請求項9】
絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置が装備された保線車両であり、
絶縁・短絡切替え装置が請求項2から請求項8のいずれか1項に記載の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置であり、
車両の車上側に操作盤と制御盤を備え、
車両の床下側に送電側回路と、少なくとも二枚の送電コイルと、一枚以上の受電コイルと、受電側回路と、絶縁車輪を短絡・絶縁するスイッチと、ローパスフィルタ(LPF)を備え、
二枚の送電コイルは台車に取り付けられ、受電コイルは車軸の外周に円板状に取り付けられ二枚の送電コイルは受電コイルの両外側に電磁誘導可能な間隔をあけて対向配置されて、二枚の送電コイルに供給される電圧の合成電圧が受電コイルとの電磁誘導結合により非接触で受電コイルに受電されるようにしてあり、
受電側回路及びスイッチは絶縁車輪に取り付け、LPFは車軸に取り付けてある、
ことを特徴とする保線車両。
【請求項10】
請求項9記載の保線車両において、
受電側回路及びスイッチは個別に、又は一つのスイッチボックスにまとめて、絶縁車輪に取り付けてある、
ことを特徴とする保線車両。
【請求項11】
請求項9又は請求項10記載の保線車両において、
操作盤が車両の前方運転席と後方運転席に一つずつ配置されており、後から操作された操作盤からの指令が先に操作された操作盤からの指令に優先して制御盤を操作できるようにした、
ことを特徴とする保線車両。
【請求項12】
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の保線車両において、
操作盤が車両の前方運転席と後方運転席のいずれか一方にのみ配置され、
その操作盤でしか制御盤を操作できないようにした、
ことを特徴とする保線車両。
【請求項13】
請求項10から請求項12のいずれか1項に記載の保線車両において、
スイッチボックスが車軸又は絶縁車輪の近くに配置されて、絶縁車輪とケーブルで接続されている、
ことを特徴とする保線車両。
【請求項14】
送電コイルと受電コイルとの電磁誘導結合による誘起電圧によりスイッチを開閉操作して、絶縁車輪の内輪と外輪を完全短絡と、部分短絡と、完全絶縁とに切り替えて、完全短絡時には遮断機が降り、表示灯が点灯し、警報機が鳴り、部分短絡時には遮断機が降りて表示灯が点灯するが警報機は鳴らず、完全絶縁時には遮断機が降りず、表示灯が点灯せず、警報機が鳴らないようにした絶縁車輪の絶縁・短絡切替え方法であり、
送電側回路から送電コイルに、搬送波を周波数の異なる二以上の変調波で変調した二以上のPWM変調波を送電すると、受電コイルには電磁誘導結合によりPWM変調波がワイヤレスで受電され、受電側回路は受電されたPWM変調波を整流して電力系電圧を取り出すことができ、PWM変調波を検波し、変調波を復調して完全短絡用制御信号と部分短絡用制御信号と、絶縁用制御信号を生成し、これら制御信号に応じて、前記受電された電力系電圧により前記スイッチが開閉操作されて、絶縁車輪の内輪と外輪が完全短絡と、部分短絡と、完全絶縁に切り替えられるようにした、
ことを特徴とする絶縁車輪の絶縁・短絡切替え方法。
【請求項15】
請求項14記載の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え方法において、
操作盤からの指令により送電側回路から送信する制御信号を切り替えると、受電側回路に受電される制御信号が自動的に切り替えられるようにした、
ことを特徴とする絶縁車輪の絶縁・短絡切替え方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁車輪を完全絶縁と完全短絡とLPF短絡(部分短絡)に切替え可能な絶縁車輪絶縁・短絡切替え装置と、その切替え装置を備えた保線車両と、絶縁車輪の絶縁・短絡切替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路(レール:軌道)は保線車両を用いて保守作業が行われている。保守作業は、通常、夜間に行われる。踏切の保守作業も夜間に行われる。
【0003】
軌道には、踏切監視区域に列車が入ると、踏切の遮断機を降ろし、表示灯を点灯或いは点滅(以下「点灯」という。)させるための踏切制御信号(以下「遮断機・表示灯信号」という。)と、警報機を鳴らすための踏切制御信号(以下「警報機信号」という。)が流れている。遮断機・表示灯信号はDC~100Hz程度の低周波、警報機信号は8.5~10.5kHz程度の高周波であり、両信号は重畳されて流れている。
【0004】
営業列車の左右一対の車輪は、輪軸(車軸)で連結され、当該車軸を通して導通し、左右一対のレールが導通するようにしてあり、営業列車が踏切監視区域に入ると、軌道に流れている遮断機・表示灯信号と警報機信号が左右の車輪間に流れ、遮断機が降りて表示灯が点灯し、警報機が鳴るようにしてある。
【0005】
保線車両の車輪が営業列車の車輪と同じものであると、保線車両が踏切監視区域に入ったときも、踏切監視区域内で保守作業をしているときも、営業列車が通過する場合と同様の動作となり、遮断機が降り、表示灯が点灯し、警報機が鳴る。しかし、保線作業の多くは夜中に行われているため、夜中の保線作業中に警報機が鳴ると踏切付近の住民にとっては迷惑である。このため、保線車両には、内輪と外輪が絶縁材で絶縁されている絶縁車輪が装備されている。
【0006】
絶縁車輪が装備された保線車両は、踏切監視区域内の保線作業時は踏切内にとどまるが、踏切監視区域内にとどまらずに踏切を通過するだけの場合もある。絶縁車輪が絶縁状態のままでは、軌道を流れる遮断機・表示灯信号も警報機信号も流れないため、保線車両が踏切を通過しても遮断機が降りず、表示灯が点灯せず、警報機が鳴らず、踏切が通行止めにならない。これを解消するため、保線車両が踏切を通過するだけの場合は、絶縁車輪の内輪と外輪を短絡して左右一対の絶縁車輪が車軸を通して導通し、遮断機が降り、表示灯が点灯し、警報機が鳴って踏切の通行が遮断される完全短絡状態(営業列車が踏切を通過する場合と同様の状態)になり、踏切監視区域内にとどまって保線作業をするときは、絶縁車輪を部分短絡(LPF短絡)状態にして、遮断機が降り、表示灯が点灯し、警報機の鳴りが停止した状態になるようにしてある。保線車両が踏切を通過しないときや、踏切監視区域内にとどまらないときは、絶縁車輪は完全絶縁状態になっており、表示灯の点灯が停止し、遮断機が上がって踏切を通行できる状態になっている。これら、完全短絡状態、LPF短絡状態、完全絶縁状態に切り替える装置として特許文献1~4がある。
【0007】
特許文献1、2の絶縁・短絡切替え装置は、絶縁車輪の内輪と外輪を、台車側に装備された一次コイル(送電コイル)と車軸側に装備された二次コイル(受電コイル)の電磁誘導結合により誘起される電圧で接点を開閉して、完全短絡状態(通行止め)と完全絶縁状態(通行可能)に切り替えるものである。
【0008】
特許文献1、2の切替え装置を使用して完全絶縁状態にすれば、警報機が鳴らないので、踏切付近の住民に迷惑を掛けることなく、踏切付近及び踏切内で保線作業を行うことができるが、この状態では、踏切の遮断機が降りず、表示灯が点灯しないため、歩行者や自動車が踏切に侵入する恐れがあり、危険である。このため、踏切内作業時は完全短絡状態にするのではなく、遮断機は降り、表示灯は点灯するが、警報機だけが鳴らないようにする必要がある。
【0009】
特許文献3の切替え装置は、絶縁車輪の内輪と外輪を台車側に装備された送電コイルと車軸側に装備された受電コイルの電磁誘導結合により誘起される電圧で、左右一対の車輪間に設けた短絡回路のスイッチの接点を開閉し、閉時に絶縁車輪の内輪と外輪が短絡されて踏切が前記完全短絡状態になり、開時に内輪と外輪が短絡前の絶縁状態に戻って完全絶縁状態に切り替えられるようにしてある。更に、短絡回路にローパスフィルタ(LPF)を入れることにより、遮断機が降りて通行止めでき、表示灯は点灯するが、警報機は鳴らない状態(「LPF短絡」又は「部分短絡」という。)に切替え制御可能としたものである。この切替え装置を使用すれば静かで安全な状態で踏切内作業ができる。
【0010】
特許文献4の切替え装置は、本件出願人の出願であり、本件出願時には未公開であるが、特許文献1~3と同様に、完全短絡状態と完全絶縁状態に切替え可能であり、更に、台車と車軸の間隔が変動しても、送電コイルと受電コイル間で確実に誘起電圧を得ることができる。しかし、半導体スイッチを駆動できる電力を得ることはできるが、リレースイッチを駆動できる程の電力を得ることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実公平7-016534号公報
【特許文献2】特開2000-052980号公報
【特許文献3】特開2009-018598号公報
【特許文献4】特願2020-187409号
【0012】
特許文献1~3の切替え装置は、台車側の送電コイルと車軸側の受電コイルが電磁誘導結合する方式(トランス方式)であるため、両コイル間の電磁誘導結合を確実にするためには、両コイル間の間隔(ギャップ)を狭くしなければならない。しかし、保線車両の台車と車軸のギャップは、走行やレールが敷設されている地面(路面)の傾斜等により、左右方向(X軸方向)に横揺れしたり、縦方向(Y軸方向)に上下動したり、奥行き方向(Z軸方向)に変化したりすることがある。これら変動に伴って台車と車軸の間隔が変動し、両コイル間のギャップが変動する。広くなった場合、両コイル間の電磁誘導結合が不確実になり、必要な誘起電圧が得られないこともある。
【0013】
台車と車軸の間隔変動に対応できるようにするためには、両コイル間のギャップが広くなっても電磁誘導結合できるようにする(ギャップの動作範囲を広くする)か、機構的に間隔が広がらないようにすればよい。しかし、広くすると両コイル間で確実な電磁誘導結合が得られないため、広くするにも限度がある。また、ギャップを広くしても動作させるには送電コイルも受電コイルも大きくなる。車両には駆動車軸と従動車軸があり、受電コイルはそのいずれの車軸にも取り付け可能であるが、駆動車軸にはギヤボックスがあるため、取り付けスペースに制約がある。このため、台車に固定される送電コイルと車軸に取り付ける受電コイルのギャップ調整に精度が要求され、車軸への受電コイルの取り付け位置の設定が難しくなり、取り付けが面倒になる。
【0014】
特許文献3では、保線車両のスイッチに、機械式接点のスイッチ(例えば、リレー)を使用しているため、リレーの駆動に比較的大きな電流が必要になる。また、リレー接点が経年劣化で迅速な開閉、正確な開閉ができなくなり、誤動作の原因になるといった難点があった。
【0015】
特許文献4は、特許文献1~3のような難点はないが、送電コイルと受電コイルの数が多いため、アッセンブリが面倒であり、送・受電用コイルの間隔が変動しないような機構が必要となり、構造が複雑で、形が大きくなり、コスト高にもなる。また、コイルの品質と故障率、海外製のため市場から安定供給ができ難いという難点もある。また、半導体スイッチを駆動する程度の給電能力しかなく、リレーのような機械式スイッチ(以下「メカ式スイッチ」という。)を駆動できる電力を得ることはできなかった。このため、短絡・切替えスイッチとしてリレー(リレースイッチ)を使用している従来の短絡・切替え装置には利用できないという難点もあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の解決課題は、台車側の送電コイルと車軸側の受電コイルが確実に電磁誘導結合して安定した出力が得られるようにすること、台車と車軸の間隔変動により台車側の送電コイルと車軸側の受電コイルの間隔が変動しても確実に電磁誘導結合できるようにした(電磁誘導結合範囲を広くした)こと、簡易な手法で絶縁車輪を完全絶縁、完全短絡、部分短絡に切替え可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
[絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置1]
本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置の特徴の一つは、二枚の送電コイルを受電コイルの両外側に間隔をあけて対向配置して、二枚の送電コイルと受電コイルとの電磁誘導結合により、二枚の送電コイルの合成された電圧(以下「合成電圧」という。)が受電コイルに非接触で受電されるようにしたことにより、送受電コイルの動作間隔が広がり、受電電圧も安定するようにしたことにある。また、一方の送電コイルが受電コイルから離れても、他方の送電コイルが受電コイルに接近して電磁誘導可能な間隔が保持されるようにしたことにある。
【0018】
[絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置2]
本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置の他の特徴は、操作盤と、制御盤と、一次側回路(送電側回路)と、その出力側に設けた送電コイルと、送電コイルと電磁誘導結合可能な受電コイルと、受電コイルの出力側に設けた二次側回路(受電側回路)と、絶縁車輪を完全短絡・部分短絡・完全絶縁するスイッチと、LPFを備えている。操作盤は制御盤を操作することができ、制御盤は操作盤からの指令に基づいて車両からの電源電圧と完全短絡・部分短絡、完全絶縁の制御信号を送電側回路へ送ることができる。送電側回路は電力給電する搬送波に、操作盤の指令に基づいて、周波数の異なる信号で変調をかけて二以上の変調波(変調搬送波)を生成し、この変調搬送波を制御信号として送電コイルに送ることができる。送電コイルと受電コイルは電磁誘導結合して、変調搬送波をワイヤレスで受電することができる。受電側回路は受電した変調搬送波を整流して電力系電圧を取り出す電力系と、変調搬送波を検波し、変調波を復調して制御信号とする信号系を備える。信号系で復調した制御信号に基づいて、電力系より取り出した電力系電圧でスイッチを開閉操作して、絶縁車輪を完全短絡、LPFを通しての部分短絡、完全絶縁のいずれかに切替え可能とすることにある。この場合も、二枚の送電コイルを受電コイルの両外側に配置して、二枚の送電コイルの合成電圧が受電コイルに非接触で受電されるようにすることができる。
【0019】
[保線車両]
本発明の保線車両は前記絶縁・短絡切替え装置を装備したものである。その特徴は、車体の車上側に操作盤と制御盤を備え、車体の床下側に送電側回路と、少なくとも二つの送電コイルと、一つの受電コイルと、受電側回路と、スイッチと、LPFを備えたことにある。二つの送電コイルは床下側の台車に固定され、受電コイルは床下側の車軸の外周に固定されて、二つの送電コイルが受電コイルの両外側に間隔をあけて対向配置されている。受電側回路及びスイッチは絶縁車輪に取り付け、LPFは車軸に取り付けてある。受電側回路及びスイッチは一つのボックス(スイッチボックス)に搭載して絶縁車輪に取り付けることができる。
【0020】
[絶縁車輪の絶縁・短絡切替え方法]
本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え方法は、送電コイルと受電コイルとの電磁誘導結合により得られる誘起電圧によりスイッチが開閉操作されて、絶縁車輪を完全短絡、部分短絡、完全絶縁に切替え制御可能な方法である。その特徴は、電圧を給電する搬送波に、操作盤の指令に基づいて、周波数の異なる信号(変調波)で変調をかけて二以上の変調搬送波(制御信号)を生成し、その制御信号を送電コイルに送って、送電コイルと受電コイルの電磁誘導結合により受電コイルにワイヤレスで受電し、受電した変調搬送波を整流して電力系電圧を取り出し、受電した変調搬送波を検波し、変調波を復調して制御信号とし、復調した制御信号に基づいて、先に取り出した電力系電圧でスイッチを開閉操作して、絶縁車輪を完全短絡、LPFを通しての部分短絡、完全絶縁のいずれかに切り替えるようにした方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置は次のような効果がある。
(1)二枚の送電コイルを受電コイルの両外側に配置したので、二つの送電コイルの合成電圧が受電コイルに受電されることになり、安定して電圧を得ることができる。
(2)二枚の送電コイルを受電コイルの両外側に配置したので、車体と台車の横揺れにより、両コイルが横揺れして送電コイルと受電コイルの間隔が変動しても、少なくとも、一方の送電コイルと受電コイルの間隔が電磁誘導結合可能な間隔に保持されるので、電磁誘導結合範囲が広くなる。
(3)送電側回路から伝送される変調搬送波(制御信号)を受電側回路で復調し、その制御信号に基づいてスイッチの開閉を制御できるので、送電側回路、受電側回路の構成が簡易になる。
【0022】
本発明の保線車両は次のような効果がある。
操作盤と制御盤を車上側(運転席側)に設け、運転席からの操作が可能であるため、踏切通過時、悪天候時の操作が容易になる。
【0023】
本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え方法は次のような効果がある。
(1)電力伝送の搬送波に変調をかけて変調搬送波にし、その変調搬送波を復調して制御信号を得、復調した制御信号に基づいてスイッチの開閉を制御して絶縁車輪を完全短絡、部分短絡、完全絶縁に切り替えることが可能であるため、簡易な切替え方式になる。
(2)変調周波数を変えたり、増やしたりすることにより、多チャンネル(多種類)の制御信号を送ることができ、一組の送・受電コイルで、スイッチを多チャンネル制御ができ、小型軽量、信頼性の向上、低価格化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)は本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置を備えた保線車両の一例の概要図、(b)はスイッチボックスの説明図。
【
図2】(a)は本発明の送電コイルと受電コイルの配置説明図、(b)は二枚の送電コイルと電磁誘導結合して受電コイルに得られる受電電圧(合成電圧)の説明図。
【
図3】本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置の送電側回路の概要図。
【
図4】(a)本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置の受電側回路の概要図、(b)は電子式スイッチの説明図。
【
図5】本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え方法における送電側回路の信号説明図であり、(a)は800Hzの変調波の説明図、(b)は1.2kHzの変調波の説明図、(c)は150kHzの搬送波の説明図、(d)はPWM変調波の説明図、(e)は800Hzの変調波(a)の部分拡大図、(f)はPWM変調波(d)の部分拡大図。
【
図6】本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え方法における受電側回路の信号説明図であり、(a)は受電側回路で受電した変調波の波形図、(b)はPWM変調波を検波した後の波形図、(c)はHPF通過後の波形図、(d)はLPF通過後の波形図、(e)はコンパレータ通過後の波形図。
【
図7】本発明における送電コイルの説明図であり、(a)は表面図、(b)は裏面図、(c)は基板表面のコイルと基板裏面のコイルの結線説明図。
【
図8】本発明における受電コイルの説明図であり、(a)は表面図、(b)は裏面図、(c)は基板表面のコイルと基板裏面のコイルの結線説明図。
【
図9】本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置を備えた保線車両の他例の概要図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(絶縁・短絡切替え装置の実施形態)
本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置は、
図1(a)(b)のように、操作盤1の操作によって動作する制御盤2、送電コイル駆動回路(送電側回路)3、二つの送電コイル4a、4b、一つの受電コイル5、受電側回路6(
図4(a))、ローパスフィルタ(LPF)7、スイッチを備えている。スイッチは二つのリレースイッチSW1、SW2(
図4(a))又は二つの半導体スイッチ(MOS FETSW1、SW2(
図4(b))で構成される。この実施形態では、二つのリレースイッチSW1、SW2をまとめて、又は、二つの半導体スイッチ(MOS FETSW1、SW2)をまとめて、受電側回路6と共にスイッチボックス9(
図1(a)(b))に収容してある。
【0026】
(保線車両の実施形態)
本発明の保線車両は、前記絶縁・短絡切替え装置を装備したものである。一例として、
図1(a)では、操作盤1と制御盤2が車両の車上側(運転席側)に配置され、送電側回路3、二つの送電コイル4a、4b、一つの受電コイル5、LPF7、スイッチボックス9は車両の床下側に配置されている。送電側回路3と二つの送電コイル4は保線車両の台車10に取付け金具で取り付けて(固定して)ある。受電コイル5、LPF7は車軸Aに取付け金具で固定されている。受電側回路6とスイッチSW1、SW2が収容されたスイッチボックス9(
図1(a)(b))は一方の絶縁車輪Bに固定されている。受電側回路6とスイッチは別々にして絶縁車輪Bに固定することもできる。
【0027】
[保線車両]
保線車両は既存の絶縁車輪Bを備えている。
図1(a)の絶縁車輪Bは内輪B1と外輪B2と絶縁材Cが同心円状に配置されて、内輪B1と外輪B2が絶縁材Cで絶縁されている。二つの絶縁車輪Bは車軸Aで連結されて一本(一組)としてあり、一本の絶縁車輪Bが、一両の保線車両の台車10の前後に二本以上装備されている。なお、
図1(a)は説明の便宜上、絶縁車輪を横向きに図示してあるが、実際の絶縁車輪は
図1(a)において正面を向く。
【0028】
[操作盤の実施例1]
図1(a)の二つの操作盤1は同じものであり、車両の前方運転席と後方運転席に一つずつ配置されている。操作盤1は絶縁ボタン1a、短絡ボタン1b、LPF短絡ボタン1cを備えている。これらボタン1a~1cは押すとランプが点灯する照光式押しボタン式にしてある。一例として、絶縁ボタン1aを押すと青色、短絡ボタン1bを押すと赤色、LPF短絡ボタン1cを押すと橙色に点灯するようにしてある。ボタンの色、点灯色は異なる色であれば何色であってもよい。操作ボタンは押して操作するのではなく、他の操作方式であってもよい。
【0029】
図1(a)の二つの操作盤1は、後から操作された操作盤1からの指令が、先に操作された操作盤1からの指令に優先して制御盤2を操作できるようにすることも、前方運転席又は後方運転席にあるいずれかの操作盤1からの指令だけで制御盤2を操作できるように設定することもできる。
【0030】
[制御盤]
図1(a)の制御盤2は、操作盤1のボタン1a~1cのいずれかが操作されて操作されると、その操作に基づいて電源電圧(車両電源:+24V)を送電側回路3に給電する。また、送電側回路3の発振器OSC1、OSC2(
図3)のいずれか一方を動作させ、他方を停止させて、動作した発振器からパルス信号を発振させるとか、双方の発振器OSC1、OSC2の動作を停止させて、いずれからもパルス信号が発振されない(パルス信号”0”となる)ように制御することができる。
【0031】
[送電側回路]
図1(a)の送電側回路3は、
図3のように構成することができる。
図3の送電側回路3は制御盤2から給電される電源電圧(+24V)と、異なる三方式の制御信号を二つの送電コイル4に送電することができる。
【0032】
図3の送電側回路3は保護回路11、電源動作表示灯12、安定化電源13、3端子レギュレータ14、基準電圧、ゲートドライバー15、スイッチング素子Q1、Q2、三つの発振器OSC1、OSC2、OSC3、コンデンサC1を備えている。送電側回路3の出力端に二つの送電コイル4a、4bが接続されている。
【0033】
[保護回路、電源動作表示灯]
保護回路11は制御盤2から過電流や過電圧が供給されたときに送電系統を遮断して送電側回路3を保護するものである。電源動作表示灯12は制御盤2から送電側回路3に電源電圧(例えば、+24V)が供給されると点灯して、電源ONの状態であることを示す。
【0034】
[安定化電源、3端子レギュレータ]
安定化電源13は制御盤2から給電される電源電圧(例えば、+24V)を+20Vにして出力するものである。3端子レギュレータ14は、安定化電源13から出力される+20Vの電圧を内部電源(例えば、+5V)にして出力する。
【0035】
[ゲートドライバー、基準電源]
ゲートドライバー15は基準電源からゲート電圧が入力され、発振器OSC3から後記する変調搬送波(一例として、PWM変調波)が入力されると動作する。
【0036】
[スイッチング素子]
スイッチング素子Q1、Q2にはMOS FETが使用されており、ゲートドライバー15の出力信号を送電コイル4a、4bに供給する。
【0037】
[共振用コンデンサ]
共振用コンデンサC1は送電コイル4a、4bとの共振用であり、送電コイル4a、4bの入力側に接続されており、送電コイル4a、4bとの組み合わせにより、非接触で電磁界共振結合する。
【0038】
[発振器]
発振器OSC1と発振器OSC2は異なる周波数のパルス信号(変調波)を発振し、発振器OSC3は搬送波を発振する。一例として、発振器OSC1は800Hzのパルス信号(
図5(a))を、発振器OSC2は1.2kHzのパルス信号(
図5(b))を、発振器OSC3は150kHzの搬送波(
図5(c))を発振する。発振器OSC1、OSC2は操作盤1からの指令に基づいて発振し、発振器OSC1の発振時にはOSC2が発振を停止し、OSC2の発振時にはOSC1が発振を停止する。発振器OSC3は電源電圧(+24V)が給電されると発振を続ける。発振器OSC3から発振される150kHzの搬送波は発振器OSC1から発振される800Hzの変調波又は発振器OSC2から発振される1.2kHzの変調波でPWM変調されて、PWM変調波(変調搬送波:
図5(d))となる。
【0039】
[送電側回路の動作]
運転室の操作盤1の絶縁ボタン1a、短絡ボタン1b、LPF短絡ボタン1cのいずれかのボタンを操作すると、操作されたモード(絶縁、短絡、LPF短絡のいずれか)に応じて制御盤2が操作され、制御盤2を介して電源電圧(例えば、車両の+24V)が送電側回路3(
図3)に給電される。電源電圧+24Vは安定化電源13で+20Vに変換され、3端子レギュレータ14で+5Vに変換されて送電側回路の内部電源として出力される。
【0040】
操作盤1の短絡ボタン1bを操作すると、制御盤2を介して、送電側回路3の発振器OSC1が動作して800Hzのパルス信号(変調波1:
図5(a))を発振し、発振器OSC3から発振されている150kHzの搬送波(
図5(c))が800Hzの変調波でPWM変調されてPWM変調波(
図5(d))が生成される。この実施形態では、このPWM変調波を短絡用制御信号としてある。このとき、発振器OSC2は発振を停止している。
【0041】
操作盤1のLPF短絡ボタン1cを操作すると、制御盤2を介して発振器OSC2が動作して1.2kHzのパルス信号(変調波2:
図5(b))を発振し、発振器OSC3から発振されている150kHzの搬送波(
図5(c))が1.2kHzの変調波でPWM変調されてPWM変調波(
図5(d))が生成される。この実施形態では、このPWM変調波をLPF短絡用制御信号としてある。このとき、発振器OSC1は発振を停止している。
【0042】
操作盤1の絶縁ボタン1aを操作すると、制御盤2を介して発振器OSC1、OSC2のいずれも動作せず、800Hzの変調波1(
図5(a))も、1.2kHzの変調波2(
図5(b))も発振されず、発振”0”となる。また、発振器OSC3から発振されている150kHzの搬送波(
図5(c))は変調信号(800Hz、1.2kHz)が停止しているので無変調の信号となる。この実施形態では、無変調の信号を絶縁用制御信号としてある。
【0043】
この実施形態では、制御信号をPWM変調波(pulse width modulation wave:パルス幅変調波)としてあるが、他の方式、例えば、PFM変調波(pulse frequency modulation wave:パルス周波数変調波)、その他の変調方式、或いは周波数、振幅等が異なる三種以上の信号とすることができる。発振器OSC1、発振器OSC2、発振器OSC3が発振するパルス信号の周波数も他の周波数とすることができる。
【0044】
前記短絡用制御信号、LPF短絡用制御信号、絶縁用制御信号はゲートドライバー15に入力される。ゲートドライバー15はゲート電圧と発振器OSC3から搬送波が入力されると作動する。スイッチング素子Q1、Q2はゲートドライバー15の出力で作動し、前記PWM変調波(
図5(d))が送電コイル4a、4bに送電される。この信号は受電コイル5に電磁誘導結合でワイヤレス受電される。
【0045】
[送電コイル]
図1(a)の二つの送電コイル4a、4bは同じものである。送電コイル4a、4bは一例として、
図7(a)(b)に示すように、約1/4円形の送電側基板30の周方向にコイル30a、30bを横長に設けてある。送電コイル4a、4bの巻き径、巻き数、巻き形状等は任意に設計可能である。送電側基板30の形状は他の形状、例えば、半円形の板であってもよい。この場合は、コイル30a、30bの形状も送電側基板30の形状に合わせて変える(略半円状にする)。送電側基板30は絶縁樹脂製である。
【0046】
送電コイル4a、4bは一枚の送電側基板30の表裏両面に設けることも、片面にだけ設けることもできる。
図7(a)(b)は一枚の送電側基板30の基板表面と基板裏面の両面に設けた場合の一例である。表面に設けた表面側コイル30a(
図7(a))と、裏面に設けた裏面側コイル30b(
図7(b))を同じ形状、同じ巻き径、巻き数とし、表面側コイル30aの巻き終端31b(
図7(a))と、裏面側コイル30bの巻き始端31c(
図7(b))を
図7(c)のように接続(結線)して、コイルを送電側基板30の表裏いずれかの片面にだけ設けた場合の2倍の巻き数にしてある。表面側コイル30aの巻き始端31a(
図7(a))と裏面側コイル30bの巻き終端31d(
図7(b))は出力端としてある。
【0047】
送電コイル4a、4bは、導線を
図7(a)(b)のように横長に巻いたコイル30a、30bを送電側基板30に固定するとか、送電側基板30に印刷するなどして形成することができる。
【0048】
[送電コイルの固定]
図7(a)(b)の送電コイル4a、4bは、二枚を直列接続し、受電コイル5を中に挟む形で間隔をあけて保線車両の台車10(
図9)に金具で固定して、対向配置してある。
【0049】
[受電コイル]
図1(a)の受電コイル5は
図8(a)(b)のように、半円板状の二枚の受電側基板40の夫々の周方向に横長に設けて略半円形にしてある。受電コイル5の巻き径、巻き数、巻き形状、枚数等も任意に設計可能である。受電側基板40も絶縁樹脂製である。
【0050】
受電コイル5も、導線を
図8(a)(b)のように横長に巻いたコイル40a、40bを、受電側基板40に固定するとか、受電側基板40に印刷するなどして形成することができる。
【0051】
受電コイル5は
図8(a)(b)のように、二枚の受電側基板40の夫々の表面と裏面の両面に設けることができる。この場合は、
図8(a)のように受電側基板40の表面に設けた表面側コイル40aの巻き終端41bと、
図8(b)のように受電側基板40の裏面に設けた裏面側コイル40bの巻き始端41cを、
図8(c)のように接続(結線)して、コイルを受電側基板40の表裏いずれかの片面にだけ設けた場合の二倍の巻き数にすることができる。受電コイル5を一枚の基板の表裏両面に設けて、表裏両面のコイルを巻き数が多くなるように接続すれば、小型の受電コイルでもメカ式スイッチ(リレースイッチ)を駆動可能な電力を誘起できる。
【0052】
[受電コイルの固定]
図8(a)(b)の受電コイル5は半円状のものを円形に組み合わせて保線車両の車軸Aの外周に固定してある。受電コイル5は二枚の送電コイル4a、4bの間に電磁誘導結合可能な広さの間隔L1、L2(
図2(a))をあけて一枚固定してある。
【0053】
送電コイル4a、4bが、いずれか一方だけの場合は、受電コイル5に誘起される受電電圧は
図2(b)に示す4aだけ、4bだけのようになるが、二つの送電コイル4a、4bを
図2(a)のように受電コイル5の両外側に配置し、両送電コイル4a、4bの合成電圧が受電コイル5に誘起されるようにした場合は
図2(b)に示す4aと4bの合成になるため、送電コイルが一つだけの場合に比べて電磁誘導結合範囲が広く、安定した出力が得られる。また、一つだけの場合よりも、出力電圧が大きくなり、尚且つ電圧値の変動が少なく、安定した出力となる。合成電圧は送電コイル4a、4bを直列接続することにより得ることができる。受電コイル5も車軸Aの外周に、半円状のものを円形に組み合わせて二枚以上固定することもできる。この場合は、二枚以上の受電コイル5を直列接続して、それらコイルの合成出力が得られるようにすることができる。
【0054】
受電コイル5とその両外側に配置した送電コイル4a、4bの間隔L1、L2(
図2(a))は、保線車両の車軸と台車の変動幅(台車のレール幅方向への変動幅、上下変動幅、奥行き方向(レール長手方向)への変動幅)があっても、送電コイル4a、4bと受電コイル5が確実に電磁誘導結合でき、受電側に安定した出力が得られる間隔に設計して、電磁誘導結合範囲を広くしてある。
【0055】
[受電側回路]
図1(b)の受電側回路6は
図4(a)(b)の構成とすることができる。受電側回路6は送電コイル4a、4bと電磁誘導結合する受電コイル5の出力側に共振用コンデンサC2を介して接続されている。共振用コンデンサC2は受電コイル5との共振用であり、受電コイル5と組み合わせて非接触で効率の良い電磁界共振結合をするものである。
【0056】
図4(a)の受電側回路6は、送電コイル4a、4bとの電磁誘導結合により受電コイル5にワイヤレス受電されたPWM変調波を整流するブリッジ整流回路21、受電電圧安定化回路22、3端子レギュレータ23を備える。
【0057】
受電電圧安定化回路22は、送電コイル4a、4bと受電コイル5の相対的位置変動により変化している電圧を、安定した電圧(例えば、+12V)にして出力する。この電圧(+12V)はリレースイッチSW1、SW2の駆動、その他に使用される電力系の出力である。
【0058】
3端子レギュレータ23は受電電圧安定化回路22からの出力電圧を内部電源(例えば、+5V)にして出力する。この内部電源(+5V)はトーンデコーダ28a、28bの駆動、その他の機器の駆動に使用される。
【0059】
図4(a)の受電側回路6は検波回路24、ハイパスフィルタ(HPF)25、ローパスフィルタ(LPF)26、コンパレータ27、二つのトーンデコーダ28a、28b、リレースイッチSW1、SW2を備えている。この受電側回路6は受電コイル5で受電したPWM変調された搬送波から変調波を復調し、得られた制御信号により短絡スイッチ又はLPF短絡スイッチを閉(ON)にするものである。
【0060】
[トーンデコーダ]
図4(a)(b)は800Hz用のトーンデコーダ28aと、1.2kHz用のトーンデコーダ28bである。800Hz用のトーンデコーダ28aはコンパレータ27から800Hz±10%の周波数の信号が入力されると800Hzの信号(短絡用制御信号)を復調して出力する。1.2kHz用のトーンデコーダ28bはコンパレータ27から1.2kHz±10%の周波数の信号が入力されると1.2kHzの信号(LPF用制御信号)を復調して出力する。制御信号が無変調の場合は800Hz用、1.2kH用のいずれのトーンデコーダ28a、28bにも制御信号が入力されず、出力もない。この場合は、絶縁用制御信号と判別する。即ち、3方式の制御信号を判別する。
【0061】
[受電側回路の動作]
受電側回路6は、受電コイル5(
図4(a))でワイヤレス受電されたPWM変調波を整流回路(
図4(a))で整流し、受電電圧安定化回路22(
図4(a))を通して+12Vの電力系電圧を作り出すと共に、PWM変調波を検波回路24で検波(半波整流)し(
図6(b))、HPF25を通して直流変動分をカットし、高周波を通過させ(
図6(c))、LPF26を通して低周波を通過させ(
図6(d))、コンパレータ27を通して復調信号(
図6(e))とする。この復調方式は800Hzの変調波でも、1.2kHzの変調波であっても同じである。
【0062】
(絶縁・短絡切替え方法の実施形態)
本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え方法を次に説明する。次の説明は、一本の車軸A(
図1(a))に装備されている左右の絶縁車輪Bのうち、一方の右絶縁車輪Bの外輪B2と内輪B1を常時短絡しておき、他方の左絶縁車輪Bの外輪B2と内輪B1を絶縁・短絡して踏切の遮断機、表示灯、警報機を、前記した完全短絡状態と完全絶縁状態と部分短絡状態に切り替え操作する場合である。車両によっては、両方の絶縁車輪Bを切替え式とする場合もある。
【0063】
[完全短絡状態]
制御盤1の短絡ボタン1bが操作されると、送電側回路3(
図3)の発振器OSC1から800Hzの変調波が発振され、発振器OSC3から発振されている150kHzの搬送波がPWM変調される。このPWM変調波が送電側回路3から送電コイル4a、4bに送られて、送電コイル4a、4bと受電コイル5の電磁誘導結合により受電側回路6(
図4(a))にワイヤレス受電されると、800Hzの短絡用制御信号がトーンデコーダ28aに入力され、トーンデコーダ28aからの出力がリレースイッチSW1に入力される。これにより、リレースイッチSW1が受電側回路6にワイヤレス受電された電力系出力電圧(+12V)により駆動されて閉(ON)となり、絶縁車輪Bの内輪B1と外輪B2が短絡されて完全短絡状態となって、軌道を流れる低周波の遮断機・表示灯用信号と高周波の警報機用信号が左右の絶縁車輪Bに流れて遮断機が降り、表示灯が点灯し、警報機が鳴って、踏切が通行止めされる。
【0064】
操作盤1のLPF短絡ボタン1cが操作されると、送電側回路3(
図3)の発振器OSC2から1.2kHzの変調波が発振され、OSC3から発振されている150kHzの搬送波がPWM変調される。このPWM変調波が送電側回路3から送電コイル4に送られて、送電コイル4a、4bと受電コイル5の電磁誘導結合により受電側回路6(
図4(a))にワイヤレス受電されると、1.2kHzの短絡用制御信号がトーンデコーダ28bに入力され、トーンデコーダ28bからの出力がリレースイッチSW2に入力される。これにより、リレースイッチSW2が受電側回路6にワイヤレス受電された電力系出力電圧(+12V)により駆動されて閉(ON)となり、絶縁車輪Bの内輪B1と外輪B2がLPF7を通して短絡されて部分短絡状態となる。このとき、軌道を流れる低周波の遮断機・表示灯用信号がLPF7を通過して左右の絶縁車輪B間に流れるが、高周波の警報機用信号はLPF7でカットされて左右の絶縁車輪B間に流れない。このため、遮断機が降り、表示灯は点灯するが、警報機は鳴らない通行止めの状態になり、静かな状態で踏切内の保線作業を行うことができる。
【0065】
操作盤1の絶縁ボタン1aが操作されると、送電側回路3(
図3)の発振器OSC1、OSC2のいずれも変調波の発振を停止し、OSC3から発振されている150kHzの搬送波は無変調の状態になる。このときは、800Hzのトーンデコーダ28aにも、1.2kHzのトーンデコーダ28bにも信号が入力されないので、いずれのトーンデコーダ28a、28bからも出力がない。このため、リレースイッチSW1、SW2のいずれも開(OFF)となって、絶縁車輪Bの内輪B1と外輪B2が短絡前の絶縁状態のまま(完全絶縁状態)となり、軌道を流れる遮断機・表示灯用信号も警報機用信号も左右の絶縁車輪B間に流れず、遮断機が上がり、表示灯が消灯し、警報機が停止して、踏切が通行可能となる。
【0066】
リレースイッチSW1とリレースイッチSW2は同時ONになることはないように構成されている。
【0067】
[操作盤の実施例2]
発注者の仕様には、操作盤を運転席に一つだけ設けて、その操作盤を運転席だけでしか操作できないようにすることを条件とするものがある。
図9の操作盤1はこの仕様に応えるものである。操作盤1を一つの操作部60と二つの表示部60a、60bに分け、一つの操作部60を車上の運転席前部又は運転席後部のいずれか一方にだけ配置して、配置された運転席でしか操作できないようにし、二つの表示部60a、60bは運転席前部と運転席後部の夫々に配置して、操作部60の操作状況を運転席前部と運転席後部の双方で確認できるようにしたものである。
図9も説明の便宜上、絶縁車輪Bを横向きに図示してある。
【0068】
図1(a)の操作盤1は押しボタン式である、
図9の操作盤1の操作部60は切替え式スイッチであり、切替えスイッチ61を回して、絶縁、短絡、LPF短絡の三箇所に切替え可能としてある。また、切り替えた箇所(絶縁、短絡、LPF短絡)に応じて、表示部60a、60bの表示ランプ(絶縁ランプ、短絡ランプ、LPF短絡ランプ)が点灯するようにしてある。これら表示ランプは異なる色で点灯して目視判別し易くするのが望ましい。
【0069】
[スイッチの他の例]
図4(a)のスイッチはリレースイッチSW1、SW2であるが、本発明におけるスイッチは半導体スイッチ(電子式スイッチ)であってもよい。
図4(b)は電子式スイッチとしてMOS FETを使用した場合の一例である。電子式スイッチの場合は、800Hz用のトーンデコーダ28aからの出力をMOS FETSW1に入力し、その出力で絶縁車輪Bを完全短絡状態にする。1.2kHz用のトーンデコーダ28bからの出力はホトボル29(
図4(b))を介してMOS FETSW2に入力し、MOS FETSW2からの出力をLPF7(
図4(a)(b))を介して絶縁車輪Bに供給して、絶縁車輪Bを部分短絡状態にする。また、800Hz用のトーンデコーダ28a、1.2kHz用のトーンデコーダ28bのいずれからも出力がないときは、絶縁車輪Bが完全絶縁状態となるようにしてある。いずれの動作もリレースイッチの場合と同様である。
【0070】
本発明では、リレースイッチ、半導体スイッチのいずれでも実施可能であるが、実用化に際しては、いずれか1方式が注文時に指定されることになる。
【0071】
図1(a)のように車輪Bに取り付けられたスイッチボックス9内のリレースイッチSW1、SW2又は半導体スイッチMOS FETSW1、SW2(
図1(b))は、車軸Aに取り付けられたLPF7とケーブル50で接続されている。また、スイッチは絶縁車輪Bを短絡するケーブル51とも接続する必要がある。短絡時にケーブル50、51に流れる電流の最大値は約30Aと大きいので、太く、短いケーブルを使用する必要がある。ケーブルが太くなると剛性が高まり、引き回しなどの作業性が悪くなる。
図1(a)ではリレースイッチSW1、SW2又は半導体スイッチMOS FETSW1、SW2を受電側回路6と共にスイッチボックス9(
図1(b))にまとめて、一方の絶縁車輪B(
図1(a))に取り付ける(外付けする)ことにより、ケーブル50、51を短くして、作業し易くしてある。
【0072】
(その他の実施形態)
前記実施形態はあくまでも本発明の一例であるため、送電側回路、受電側回路の構成、それら回路の動作、搬送波の変調方式、台車及び車軸への絶縁・短絡切替え装置の取付け構造等はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱せず、解決課題を解決できる限りにおいて種々の変形、変更が可能である。
【0073】
前記実施形態は、左右の絶縁車輪の一方が常時短絡(
図1(a))で、他方を本発明の絶縁・短絡切替え装置で切替え制御する場合であるが、両方の絶縁車輪を本発明の絶縁・短絡切替え装置で切替え制御することもできる。
【0074】
送電コイルの形状、枚数、巻き数、受電コイルの形状、枚数、巻き数等も、他の形状、枚数、巻き数とすることがきる。
【0075】
前記説明は本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置を、一つの車両に装備した場合の説明であるが、本発明の絶縁車輪の絶縁・短絡切替え装置は車両が二以上連結されている場合は他の車両にも装備することができる。その場合は、
図1(a)、
図9のように、別車両用として、前記実施形態の送電側回路3、送電コイル4a、4b、受電コイル5、受電側回路6、スイッチSW1、SW2、LPF7、スイッチボックス9等と同様の機器や回路を用意し、それらを別車両に装備する。この場合、操作盤1、制御盤2は
図1(a)、
図9のものと兼用とすることも、別車両用のものを別途用意することもできる。
【符号の説明】
【0076】
1 操作盤
1a 絶縁ボタン
1b 短絡ボタン
1c LPF短絡ボタン
2 制御盤
3 送電側回路
4a、4b 送電コイル
5 受電コイル
6 受電側回路
7 ローパスフィルタ(LPF)
9 スイッチボックス
10 台車
11 保護回路
12 電源動作表示灯
13 安定化電源
14 3端子レギュレータ
15 ゲートドライバー
21 ブリッジ整流回路
22 受電電圧安定化回路
23 3端子レギュレータ
24 検波回路
25 HPF
26 LPF
27 コンパレータ
28a、28b トーンデコーダ
29 ホトボル
30 送電側基板
30a (送電側基板の)表面側コイル(送電コイル)
30b (送電側基板の)裏面側コイル(送電コイル)
31a (送電側基板の表面側コイルの)巻き始端(送電コイル)
31b (送電側基板の表面側コイルの)巻き終端(送電コイル)
31c (送電側基板の裏面側コイルの)巻き始端(送電コイル)
31d (送電側基板の裏面側コイルの)巻き終端(送電コイル)
40 受電側基板
40a (受電側基板の)表面側コイル(受電コイル)
40b (受電側基板の)裏面側コイル(受電コイル)
41a (受電側基板の表面側コイルの)巻き始端(受電コイル)
41b (受電側基板の表面側コイルの)巻き終端(受電コイル)
41c (受電側基板の裏面側コイルの)巻き始端(受電コイル)
41d (受電側基板の裏面側コイルの)巻き終端(受電コイル)
50、51 ケーブル
60 操作部
60a、60b 表示部
61 切替えスイッチ
A 車軸
B 絶縁車輪
B1 内輪
B2 外輪
C 絶縁材
C1、C2 共振用コンデンサ
L1、L2 送電コイルと受電コイルのギャップ(間隔)
MOS FETSW1、SW2 半導体スイッチ
OSC1、OSC2 (パルス波(変調波))発振器
OSC3 (搬送波)発振器
Q1、Q2 スイッチング素子
SW1、SW2 リレースイッチ