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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054901
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】座屈拘束材を有するブレース
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20230410BHJP
【FI】
E04B1/58 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163879
(22)【出願日】2021-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100096611
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 清
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】南川 貴明
(72)【発明者】
【氏名】長島 泰介
(72)【発明者】
【氏名】立花 和樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】西濱 惇矢
(72)【発明者】
【氏名】前川 利雄
(72)【発明者】
【氏名】南 遼太
(72)【発明者】
【氏名】服部 翼
(72)【発明者】
【氏名】野田 亜久里
(72)【発明者】
【氏名】青木 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】仙葉 香織
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AA53
2E125AC14
2E125AC23
(57)【要約】
【課題】鋼からなる芯材の周囲に複数の木質部材からなる座屈拘束材を装着したブレースにおいて、座屈拘束材を簡単な構造にするとともに、木質部材の割れや接合された複数の木質部材間の剥離を抑え、十分な強度を有する座屈拘束材とする。
【解決手段】 鋼製の細長いプレート状の芯材11の周囲を囲むように複数の木質部材を結合して座屈拘束材21とする。複数の木質部材を結合するボルトは、芯材の軸線とほぼ直角となる方向に座屈拘束材を貫通するものであって、芯材の両側でほぼ平行に配置された第1のボルト25aと第2のボルト25bとを含む。座屈拘束材は、木の繊維の方向が芯材の軸線とほぼ直角となった板材を含む複数の板材を貼り合わせた集成部材である合板23a,23bを含み、合板は芯材11の両側で第1のボルトと第2のボルトとの間で連続するものとする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の細長いプレート状の芯材と、
前記芯材の軸線方向に沿って配置され、前記芯材の周囲を囲むように結合された複数の木質部材からなる座屈拘束材と、
複数の前記木質部材を結合するボルトと、を有し、
前記ボルトは、前記芯材の軸線とほぼ直角となる方向に前記座屈拘束材を貫通するものであって、前記芯材の両側でほぼ平行に配置された第1のボルトと第2のボルトとを含み、
第1のボルトと第2のボルトとは、前記芯材の軸線方向に沿ってそれぞれ複数が配列されており、
前記座屈拘束材は、木の繊維の方向が前記芯材の軸線とほぼ直角となった板材を含む複数の板材を貼り合わせた集成部材を含み、
該集成部材は、前記第1のボルトが貫通する位置と第2のボルトが貫通する位置との間で連続するものであって、前記芯材を挟んで対向する位置に一対が配置されていることを特徴とする座屈拘束材を有するブレース。
【請求項2】
前記座屈拘束材は、一対の前記集成部材を互いに当接して構成されており、
前記集成部材の互いに当接される面には、前芯材の幅広面を当接面と直角にして差し入れることができる溝が形成され、
前記芯材が、一対の前記集成部材の対向する位置に設けられた双方の溝内に収容されていることを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束材を有するブレース。
【請求項3】
前記座屈拘束材は、前記芯材の表裏となる2つの幅広面とそれぞれ対向する一対の幅広面対向部材を有し、
前記集成部材は、厚さが0.5mm~5.5mmの複数の薄い板材を貼り合わせた合板を含み、一対の前記幅広面対向部材の双方と対向するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束材を有するブレース。
【請求項4】
前記合板の前記幅広面対向部材と対向する面の反対側の面には木質の剛性補強部材が当接され、
前記第1のボルト及び第2のボルトが前記剛性補強部材、前記合板及び前記幅広面対向部材を締め付けて、圧接するものであることを特徴とする請求項3に記載の座屈拘束材を有するブレース。
【請求項5】
一対の前記集成部材は、前記芯材の幅広面とそれぞれ対向するものであり、
一対の前記集成部材の間には、該集成部材間の間隔を保持する一対の間隔保持部材が、前記芯材の両側で介挿されており、
前記ボルトは、前記集成部材及び前記間隔保持部材を貫通するものであることを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束材を有するブレース。
【請求項6】
前記座屈拘束材を構成する複数の木質部材が互いに当接される当接面を横切るように複数のラグスクリュー又はビスがねじ込まれており、
前記ラグスクリュー又はビスは、前記座屈拘束材に曲げ変形が生じたときに当接される双方の木質部材間の当接面に沿った相対的な変位を拘束するのに必要な本数が使用されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の座屈拘束材を有するブレース。
【請求項7】
前記木質部材には、前記芯材の軸線方向とほぼ直角となる方向で前記第1のボルトが貫通する位置から第2のボルトが貫通する位置に至るようにラグスクリュー又はビスがねじ込まれていることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかに記載の座屈拘束材を有するブレース。
【請求項8】
前記芯材の外周面と前記座屈拘束材の前記外周面と対向する面との間に弾性体層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の座屈拘束材を有するブレース。
【請求項9】
前記座屈拘束材の前記芯材の外周面と対向する面には、摩擦低減効果を有するとともに撥水性を有する皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の座屈拘束材を有するブレース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱と梁とを主な構造部材とする建築物において水平方向の力に抵抗するために用いられるブレースに係り、特に圧縮力が作用したときの座屈を抑止するための座屈拘束材を備えたブレースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブレースは一般に柱と梁とで囲まれた枠内、又は梁、基礎及び柱で囲まれた矩形の枠内で傾斜した方向に配置され、構造躯体に水平方向の力が作用したときに変形を拘束するものである。ブレースには水平力の方向によって圧縮力又は引張力が作用するが、いずれの方向に力が作用するときにも有効に機能するためには、圧縮力が作用したときに座屈するのを抑止しなければならない。特に、ブレースに塑性変形が生じるのを許容して地震時等の震動エネルギーを吸収し、震動を減衰させようとするときには、座屈が防止されることによって震動エネルギーを有効に吸収することが可能となる。
【0003】
柱及び梁が鋼で構成されるときには、一般にブレースも鋼部材とされるが、近年は構造部材の木質化技術が多く提案されており、ブレースも座屈拘束材として木質材を用いる提案が、例えば特許文献1及び特許文献2等に開示されている。これらの技術は、鋼からなる芯材を囲むように木質部材を装着し、芯材に曲げ変形が生じるのを木質部材で拘束するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-174932号公報
【特許文献2】特開2020-183701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1又は特許文献2に記載されているように、鋼からなる芯材を囲むように木質部材を取り付けるためには、複数の木質部材を組み合わせて芯材に取り付ける必要がある。このように座屈拘束材が複数の木質部材で構成されていると、芯材の座屈を拘束することによって複数の木質部材の結合を引き離す方向の力が作用する。また、芯材の軸線方向に繊維が伸びる木質部材に割れを生じさせようとする力が作用する。このため、木質部材を組み合わせた座屈拘束材には、複数の木質部材を強固に結合するとともに木質部材に軸線方向の割れが生じるのを有効に抑制することが求められる。
【0006】
特許文献1に記載の座屈拘束ブレースは、複数のラミナを積層した集成材の間に鋼からなる板状の芯材を挟み込むように装着したものであるが、芯材の両側に装着した集成材を一体に維持する強度が不足する場合が考えられる。また、集成材に割れが生じる可能性がある。
一方、特許文献2に記載の座屈拘束ブレースは、芯材の周囲に装着した複数の木質部材を2方向に貫通するボルトで締め付けて座屈拘束材を構成するものであり、構造が複雑となって木質部材の加工及び組み立てに多くの作業が必要となっている。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、鋼からなる芯材の周囲に装着する複数の木質部材からなる座屈拘束材を簡単な構造にするとともに、木質部材の割れや接合された複数の木質部材間の剥離を抑え、十分な強度を有する座屈拘束材を備えたブレースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 鋼製の細長いプレート状の芯材と、 前記芯材の軸線方向に沿って配置され、前記芯材の周囲を囲むように結合された複数の木質部材からなる座屈拘束材と、 複数の前記木質部材を結合するボルトと、を有し、 前記ボルトは、前記芯材の軸線とほぼ直角となる方向に前記座屈拘束材を貫通するものであって、前記芯材の両側でほぼ平行に配置された第1のボルトと第2のボルトとを含み、 第1のボルトと第2のボルトとは、前記芯材の軸線方向に沿ってそれぞれ複数が配列されており、 前記座屈拘束材は、木の繊維の方向が前記芯材の軸線とほぼ直角となった板材を含む複数の板材を貼り合わせた集成部材を含み、 該集成部材は、前記第1のボルトが貫通する位置と第2のボルトが貫通する位置との間で連続するものであって、前記芯材を挟んで対向する位置に一対が配置されている座屈拘束材を有するブレースを提供する。
【0009】
上記ブレースでは、鋼製の芯材に圧縮力が作用したときに、芯材を囲むように設けられた座屈拘束材が芯材の曲げ変形を拘束し、芯材の座屈が防止される。座屈拘束材には、芯材から該芯材の軸線と直角方向の力が作用するが、ボルトが貫通する方向にはボルトの締め付ける力によって木質部材の割れや接合された複数の木質部材間の剥離が抑えられる。一方、配列された2つのボルト列の間では、一対の集成部材に芯材の軸線とほぼ直角となる方向に木の繊維が伸びた板材が含まれることによって、座屈拘束材の割れや破壊が防止される。したがって、座屈拘束材は芯材の周囲を囲んで芯材の曲げ変形を強固に拘束するものとなる。
また、複数の木質部材を結合する複数のボルトは、芯材の両側で同一の方向に貫通されており、複数の木質部材を結合する構造を簡略化することができ、木質部材の加工及び組み立てが容易となる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の座屈拘束材を有するブレースにおいて、 前記座屈拘束材は、一対の前記集成部材を互いに当接して構成されており、 前記集成部材の互いに当接される面には、前芯材の幅広面を当接面と直角にして差し入れることができる溝が形成され、 前記芯材が、一対の前記集成部材の対向する位置に設けられた双方の溝内に収容されているものとする。
【0011】
このブレースでは、1対の集成部材で座屈拘束材の主要部が構成され、プレート状の芯材に装着して結合する作業を効率よく行うことが可能となる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の座屈拘束材を有するブレースにおいて、 前記座屈拘束材は、前記芯材の表裏となる2つの幅広面とそれぞれ対向する一対の幅広面対向部材を有し、 前記集成部材は、厚さが0.5mm~5.5mmの複数の薄い板材を貼り合わせた合板を含み、一対の前記幅広面対向部材の双方と対向するように配置されているものとする。
【0013】
このブレースでは、2つのボルト列が貫通する位置間で連続する集成部材として合板が用いられており、合板はほぼ直交する方向に木の繊維が伸びる複数の薄い板材が張り合わされていることにより、2つのボルト列が貫通する位置間における座屈拘束材の割れや破壊を有効に防止することができる。そして、芯材の幅広面と対向する一対の幅広面対向部材と上記合板とを組み合わせることによって、芯材の座屈を拘束できるように正確に芯材を囲うことが簡単な加工で可能となる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の座屈拘束材を有するブレースにおいて、 前記合板の前記幅広面対向部材と対向する面の反対側の面には木質の剛性補強部材が当接され、 前記第1のボルト及び第2のボルトが前記剛性補強部材、前記合板及び前記幅広面対向部材を締め付けて、圧接するものとする。
【0015】
このブレースでは、合板に剛性補強部材を重ね合わせ、ボルトで締め付けることにより、簡単な構造で座屈拘束材の曲げ剛性を有効に増大させることができる。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1に記載の座屈拘束材を有するブレースにおいて、 一対の前記集成部材は、前記芯材の幅広面とそれぞれ対向するものであり、 一対の前記集成部材の間には、該集成部材間の間隔を保持する一対の間隔保持部材が、前記芯材の両側で介挿されており、 前記ボルトは、前記集成部材及び前記間隔保持部材を貫通するものとする。
【0017】
このブレースでは、座屈拘束材を構成する一対の集成部材及び間隔保持部材の加工量が少なく、部材数も少なくなっており、芯材に効率よく装着することが可能となる。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5までのいずれかに記載の座屈拘束材を有するブレースにおいて、 前記座屈拘束材を構成する複数の木質部材が互いに当接される当接面を横切るように複数のラグスクリュー又はビスがねじ込まれており、 前記ラグスクリュー又はビスは、前記座屈拘束材に曲げ変形が生じたときに当接される双方の木質部材間の当接面に沿った相対的な変位を拘束するのに必要な本数が使用されているものとする。
【0019】
芯材の軸線方向に長い複数の木質部材が結合されていると、座屈拘束材に曲げモーメントが作用したときに結合された木質部材間にせん断力が作用し、互いに当接された木質部材間でずれ、つまり当接面に沿った相対的な変位を生じさせようとする力が生じる。上記ブレースでは木質部材間の当接面を横切るように貫入されたラグスクリュー又はビスによって上記せん断力による木質部材間のずれが防止され、木質部材間のずれによって座屈拘束材の曲げ剛性が低下するのを抑制することができる。
【0020】
請求項7に係る発明は、請求項1から請求項6までのいずれかに記載の座屈拘束材を有するブレースにおいて、 前記木質部材には、前記芯材の軸線方向とほぼ直角となる方向で前記第1のボルトが貫通する位置から第2のボルトが貫通する位置に至るようにラグスクリュー又はビスがねじ込まれているものとする。
【0021】
このブレースでは、ラグスクリュー又はビスによって、第1のボルトが貫通する位置と第2のボルトが貫通する位置との間を有効に補強し、座屈拘束材の割れや破壊が抑制される。
【0022】
請求項8に係る発明は、請求項1から請求項7までのいずれかに記載の座屈拘束材を有するブレースにおいて、 前記芯材の外周面と前記座屈拘束材の前記外周面と対向する面との間に弾性体層が形成されているものとする。
【0023】
このブレースでは、芯材に圧縮力が作用したときに芯材から座屈拘束材に作用する横方向の力が、弾性体層によって分散される。これにより、座屈拘束材に集中して大きな力が作用するのを回避し、座屈拘束材の破壊を抑制することが可能となる。
【0024】
請求項9に係る発明は、請求項1から請求項7までのいずれかに記載の座屈拘束材を有するブレースにおいて、 前記座屈拘束材の前記芯材の外周面と対向する面には、摩擦低減効果を有するとともに撥水性を有する皮膜が形成されているものとする。
【0025】
このブレースでは、芯材に圧縮力又は引張力が作用したときに座屈拘束材による芯材の軸線方向のひずみを拘束する力が低減される。これにより、芯材は円滑に伸縮する。また、座屈拘束材の芯材と対向する面に水分が浸透するのが防止され、良好な乾燥状態が維持される。
【発明の効果】
【0026】
以上、説明したように、本発明の座屈拘束材を有するブレースでは、木質部材からなる座屈拘束材を、鋼からなる芯材の周囲に簡単な構造で装着することができるとともに、木質部材の割れや接合された複数の木質部材間の剥離を生じることなく、有効に芯材の座屈を抑止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態であるブレースが使用された建築物の構造躯体の一部を示す概略側面図である。
図2図1に示す座屈拘束材を有するブレースの一部を示す概略斜視図である。
図3図2に示す座屈拘束材を有するブレースの概略断面図である。
図4図2に示す座屈拘束材を有するブレースの概略断面図である。
図5図2に示す座屈拘束材を有するブレースの分解組み立て図である。
図6】本発明の他の実施形態である座屈拘束材を有するブレースの一部を示す概略斜視図である。
図7図6に示す座屈拘束材を有するブレースの概略断面図である。
図8】本発明の他の実施形態である座屈拘束材を有するブレースの一部を示す概略斜視図である。
図9図8に示す座屈拘束材を有するブレースの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるブレースが使用された建築物の構造躯体の一部を示す概略側面図である。図2は、図1に示す座屈拘束材を有するブレースの一部を示す概略斜視図、図3及び図4は概略断面図であり、図5は同じブレースの分解組み立て図である。
このブレース1は、柱2,3と、下層階の梁4と、上層階の梁5とで矩形に形成された構造躯体の枠内に取り付けられ、2つが傾斜方向を互いに逆方向にして、それぞれ下端が下層階の梁4と柱2,3との接合部、上端が上層階の梁5の支間中央部に接合されている。これにより柱と梁とを主な構造部材とする建築物に水平方向の力が作用したときに、下層階と上層階との間の層間変形を抑制するものとなり、2つのブレース1の一方には圧縮力、他方には引張力が作用するものである。
【0029】
上記ブレース1は、鋼からなる芯材11と、この芯材を囲むように設けられた座屈拘束材21とを備えるものである。
上記芯材11は、鋼からなる帯状の板材で構成され、両端部には中央部分より幅を拡大した拡幅部11aを有するものである。拡幅部11aには帯状の芯材11とほぼ垂直に、ほぼ同じ厚さの鋼板からなる端部補強部材12が溶接によって両面に接合され、十字形の断面形状となっている。そして、拡幅部11a及び端部補強部材12にはそれぞれ複数のボルト孔13が設けられ、構造躯体に設けられた接合用プレート6との間に架け渡すように当接された添接板を介して構造躯体とボルト接合されるものである。
【0030】
上記座屈拘束材21は、複数の木質部材を組み合わせ、芯材11の軸線方向に沿って周囲を囲むように設けられたものである。複数の木質部材は、芯材の表裏となる2つの幅広面とそれぞれ対向する一対の幅広面対向部材22a,22bと、芯材11の厚さ方向に幅を有して一対の幅広面対向部材の双方に当接される合板23a,23bと、この合板の幅広面対向部材22a,22bと対向する面の反対側の面に当接される剛性補強部材24a,24bとを含むものである。これら木質部材は、芯材11の軸線方向にほぼ同じ長さを有するものであり、芯材11の中央部分から両端付近の拡幅部11aの一部を囲むことができる長さとなっている。
上記幅広面対向部材22a,22b、上記合板23a,23b及び上記剛性補強部材24a,24bは、図5に示すように、接合時に対応する位置にボルト孔30が形成されており、それぞれのボルト孔にボルト25a,25bを貫通し、ナット26a,26bで締め付けて接合されるものである。
【0031】
上記幅広面対向部材22a,22bは、無垢の木材、単板積層材(LVL:Laminated Veneer Lumber)、直交集成板(CLT:Cross Laminated Timber)等を用いることができ、芯材11の幅広面と対向する面の幅は、芯材11の中央部分の幅よりやや広くなっている。そして、対向面は芯材11の幅広面と接触又はわずかの間隙を設けて芯材11の両面に対向するものである。芯材11と接触して配置されるときには、強く圧接されるものではなく対向面に沿って芯材11と幅広面対向部材22a,22bとが芯材11の軸線方向に相対的な変位を許容するものである。また、間隙を設けて対向するときには、芯材11の曲げ変形を拘束して座屈を有効に抑止することができる程度の間隙とするものであり、例えば、1.0mm程度以下とするのが望ましい。
【0032】
幅広面対向部材22a,22bの端部付近には、芯材11との対向面に溝22cが形成されており、芯材11の端部に設けられている端部補強部材12が入り込むものとなっている。この溝22c内でも、端部補強部材12と幅広面対向部材22a,22bとは、接触又は近接しており、軸線方向の相対的な変位を許容する。また、溝22cは、芯材11が伸縮したときに幅広面対向部材22a,22bによって端部補強部材の相対的な変位が拘束されないように、端部補強部材12の長さ方向の寸法に対して余裕を設けて形成されている。
【0033】
上記合板23a,23bは、本発明の集成部材であり、例えば厚さが0.5mm~5.5mmの複数の薄い板材を、繊維の方向がほぼ直交するように交互に貼り合わせたものを採用することができる。この合板23a,23bの厚さは、10mm~30mm程度のものを使用するのが望ましい。
上記合板23a,23bは、芯材11の両面と対向するように配置された一対の幅広面対向部材22a,22bの双方と対向する幅を有するものであり、芯材11の両側に配置された幅広面対向部材22a,22bを挟み込むように当接して一対が設けられている。そして、合板23a,23bの表面が芯材11の幅の狭い面と接触又はわずかの間隙を設けて対向している。
これらの合板23a,23bの端部付近には、芯材の拡幅部11aと干渉しないようにスリット23cが設けられている。スリット23cは、芯材11の軸線方向に拡幅部11aの範囲より広く余裕があり、拡幅部11aがこのスリット23c内に収容されて、芯材11が伸縮したときに相対的な変位を許容するものとなっている。
【0034】
上記剛性補強部材24a,24bは、上記幅広面対向部材22a,22bと同様に、無垢の木材、単板積層材、直交集成板等を用いることができ、合板23a,23bの全面に重ね合わせて設けられている。この剛性補強部材24a,24bの断面の寸法は、芯材11の座屈を抑止するのに必要な曲げ剛性を備えるように適宜に設定することができるものである。
【0035】
上記ボルト25a,25bは、図3(a)に示すように芯材11の幅広面とほぼ平行に配置され、芯材11の一方の幅広面から離れた位置に第1のボルト25aが配置され、他方の幅広面から離れた位置に第2のボルト25bが配置されている。第1のボルト25a及び第2のボルト25bは、芯材11を囲むように積層された剛性補強部材24a,24b、合板23a,23b及び幅広面対向部材22a,22bを貫通するものであり、芯材11の軸線方向に沿ってそれぞれ複数が配列されている。それぞれのボルト25a,25bには、頭部及びこれらのボルトにねじり合わされたナット26a,26bに当接して座金27が装着されており、ボルト25a,25bの締め付ける力が木質部材に円滑に伝わるものとされている。
【0036】
このようなブレース1では、建築物の構造躯体に両端が結合された芯材11は、建築物の上層階と下層階との層間変形に抵抗し、圧縮力が作用するときにも座屈拘束材21によって曲げ変形が拘束され、座屈が抑止される。そして、芯材11に圧縮方向の塑性変形が生じる場合には座屈が拘束されることによって応力―ひずみ曲線が大きなループを描くことになり、有効に震動のエネルギーを吸収することが可能となる。
一方、座屈拘束材21は、複数の木質部材がボルトによって強固に結合されるとともに、第1のボルト25aと第2のボルト25bとの間には、芯材11の軸線方向及びこれと直角となる方向に強い引張強度を有する合板23a,23bが配置されている。これにより、第1のボルト25aと第2のボルト25bとの間で座屈拘束材21に割れが生じたり、破壊が生じたりするのが抑えられる。また、複数の木質部材を組み合わせて結合するボルト25a,25bが全て同方向に配列されたものであり、構造が簡単となって、芯材11の周囲に組み付ける作業を効率よく行うことが可能となる。
【0037】
なお、剛性補強部材24a,24b、合板23a,23b及び幅広面当接部材22a,22bの一体性を高めるために、図4(a)に示すように、剛性補強部材24a,24b及び合板23a,23bを貫通し、幅広面当接部材22a,22bに至るラグスクリュー28又はビスを貫入することができる。これにより、木質部材を強く圧接するとともに部材間の当接面に沿ったずれ、つまり相対変位を有効に抑制することができる。
また、剛性補強部材24a,24bとして無垢の木材又は単板の繊維の方向を芯材11の軸線方向に揃えた単板積層材(LVL)を用いるときには、図4(b)に示すように剛性補強部材24a,24bの側面からビス29をねじ込むこともできる。これにより、第1のボルト25aと第2のボルト25bとの間で剛性補強部材24a,24bが割れるのを抑制することができる。このときビス29は、第1のボルト25aが貫通する位置から第2のボルト25bが貫通する位置に至るようにねじ込むのが望ましい。
【0038】
一方、幅広面対向部材22a,22b及び合板23a,23bの芯材11と対向する面には、摩擦低減効果を有するとともに撥水性を有する皮膜を形成することができる。皮膜は、例えばシリコーン樹脂の塗布又は吹き付け等によって形成されたものとすることができる。これにより、幅広面対向部材22a,22b及び合板23a,23bの芯材11と対向する面付近に水分が浸透するのを防ぐとともに、芯材11と座屈拘束材21との間の摩擦が低減され、芯材11の軸線方向の変形が座屈拘束材21に拘束されない。したがって、芯材11に塑性変形が生じるときの震動エネルギーを吸収する効果が良好に維持される。
また、幅広面対向部材22a,22b及び合板23a,23bと芯材11との間に薄い弾性部材を介挿することもできる。弾性部材の薄い層は、1mm以下の厚さとするのが望ましく、液状化した合成ゴムの吹き付けまたは塗布等を芯材11又は幅広面対向部材22a,22bの表面に行うことによって形成することができる。
【0039】
なお、上記ブレース1では、芯材11の中央部分が合板23a,23bの表面と接触又はわずかの間隙を設けて対向しているが、合板に溝を設けて芯材の側縁部が該溝内に入り込むものであってもよい。このときには、幅広面対向部材の芯材との対向面は、芯材の幅広面より小さくなっている。
【0040】
図6は、本発明の他の実施形態であるブレースの一部を示す概略斜視図であり、図7は同じブレースの断面図である。
このブレース8では、座屈拘束材31が集成部材である二つの木質部材32a,32bで芯材を囲むものとなっており、これらをボルト33a,33bによって締め付け、結合するものとなっている。芯材14は、2つの木質部材32a,32bの対向面に溝を切削して形成された空間内に収容される。このブレース8で用いられる芯材14は、図2から図5までに示すブレース1で用いられる芯材11と同じものである。
【0041】
上記木質部材32a,32bは、本発明の集成部材であって、直交する方向に繊維が伸びる複数の単板を交互に貼り合わせた積層材を用いるものである。それぞれの単板の厚さは、例えば3mm~7mm程度のものを用いることができ、二つの木質部材32a.32bが接合される面とほぼ平行に積層されている。
二つの木質部材32a,32bのそれぞれには、互いに対向する面に溝が切削されている。この溝32cは、二つの木質部材32a,32bを重ね合わせたときに、正確に対向する位置に設けられており、溝32cの幅は芯材14を構成する帯状の鋼板の厚さよりわずかに大きい寸法となっている。また、深さは芯材14の幅広面の半分が収容されるものとなっている。したがって、図7(a)に示すように芯材14を双方の木質部材32a,32bに形成された溝32c内に収容することができ、これらの木質部材32a,32bを互いに密接させることによって座屈拘束材31が構成されている。このように溝32c内に収容された芯材14と溝32cの内面との間は接触又はわずかの間隙をおいて対向している。
【0042】
上記木質部材32a,32bは、芯材14の中央部分と両端付近の拡幅部14aの一部を囲むことができる長さとなっている。そして、拡幅部14aでは、図7(b)に示すように端部補強部材15が設けられて断面が十字形となった芯材14を囲むものとなっている。つまり、木質部材32a,32bの両端部付近では、端部補強部材15が二つの木質部材32a,32b間に納まるように、溝32cの両側に深さが端部補強部材15の厚さの約半分となる切り欠き部32dが設けられている。この切り欠き部32dは、芯材14が伸縮したときに端部補強部材15と干渉しないように端部補強部材15が設けられた範囲より広く余裕をもって形成されている。また、芯材14が差し入れられる溝32cは、両端部の拡幅部14aと対応する部分では深さが大きくなっている。
【0043】
二つの木質部材32a,32bを結合するボルト33a,33bは、図2から図5までに示す実施の形態で用いられるボルトと同じものであり、芯材14の両側方にそれぞれ複数の第1のボルト33aと第2のボルト33bとが配列されている。これらのボルト33a,33bは、芯材14の幅広面に沿った方向に双方の木質部材32a,32bを貫通し、ナット34a,34bをねじり合わせて2つの木質部材32a,32bを締め付けている。なお、二つの木質部材32a,32bの接合面は、ボルト33a,33bで締め付けるとともに、接着剤を塗布して接着することもできる。
【0044】
このようなブレース8では、図2から図5に示すブレース1と同様に、座屈拘束材によって芯材14の座屈が防止されるとともに、芯材14の軸線方向には伸縮を許容するものである。そして二つの木質部材32a,32bには、直交する方向に繊維が伸びる複数の単板を交互に貼り合わせた積層材が用いられ、芯材14の軸線と直角となる方向にも大きな引張強度を有している。したがって、ボルト33a,33bによって二つの木質部材32a,32bが強固に結合されるとともに、第1のボルト33aと第2のボルト33bとの間で割れが生じたり、破壊したりするのが防止される。
また、座屈拘束材31は二つの木質部材32a,32bとボルト33a,33bとで主要部が構成されており、少ない部材数で芯材14を囲むことができ、組み立てる作業が簡略化される。
【0045】
なお、このブレース8では、木質部材32a,32bとして薄い単板を積層した積層材を用いているが、これに代えて単板の厚さが15mm~30mm程度の直交集成板(CLT)を用いることもできる。また、第1のボルト33a及び第2のボルト33bを横切る方向にビスをねじ込み、木質部材の割れに対する補強をすることもできる。
一方、木質部材32a,32bに形成された溝32c内には、シリコーン樹脂の皮膜を形成しても良く、弾性体の薄い層を形成するものであっても良い。
【0046】
図8は、本発明の他の実施形態であるブレースの一部を示す概略斜視図であり、図9は、同じブレースの断面図である。
このブレース9では、座屈拘束材41が、二つの矩形断面の木質部材42a,42bと、二つの木質部材42a,42bを結合するときにこれらの間隔を保持する二つの間隔保持部材43a,43bと、これらを締め付けて結合するボルト44a,44bとで主要部が構成されている。上記二つの木質部材42a,42bは、芯材16の幅広面とそれぞれ対向し、芯材16の両側に配置された間隔保持部材43a,43bを挟み込んで結合されており、間隔保持部材43a,43bとともに芯材16を囲むものである。芯材16は、図2から図5までに示すブレースと同じものが用いられており、両端付近に拡幅部16aを有し、これらの拡幅部16aには端部補強部材17が取り付けられている。
【0047】
上記木質部材42a,42bは、本発明の集成部材であって、直交する方向に繊維が伸びる複数の単板を交互に貼り合わせた積層材からなるものである。単板は二つの木質部材42a,42bが互いに対向する面とほぼ平行に積層され、それぞれの単板の厚さが、例えば3mm~7mm程度のものを用いることができる。
上記間隔保持部材43a,43bは、厚さが芯材16よりわずかに大きい木質の板材であり、図9(a)に示すように一対が芯材16の両側に配置され、2つの木質部材42a,42bに挟み込まれている。そして、第1のボルト44aと第2のボルト44bとが芯材16の両側で2つの木質部材42a,42bとこれらに挟み込まれた間隔保持部材43a,43bとを貫通し、これらを締め付けている。したがって、芯材16は2つの木質部材42a,42bと2つの間隔保持部材43a,43bとによって囲まれ、芯材16と2つの木質部材42a,42bとは接触又はわずかの間隙を設けて対向している。また、間隔保持部材43a,43bも芯材16の幅の狭い側面と接触またはわずかの間隙をおいて対向しており、芯材16の座屈を拘束するものとなっている。
なお、二つの木質部材42a,42bと間隔保持部材43a,43bとの当接面は、ボルト44a,44bで締め付けるとともに、接着剤を塗布して接着することもできる。
【0048】
上記木質部材42a,42b及び上記間隔保持部材43a,43bは、芯材16の中央部分と両端付近の拡幅部16aの一部を囲むことができる長さとなっている。そして、拡幅部16aでは図9(b)に示すように、木質部材42a,42bに溝42dが形成され、芯材16に付加された端部補強部材17が上記溝内に収容されるものとなっている。この溝42dは、芯材16に圧縮変形が生じたときに木質部材42a,42bが端部補強部材17と干渉しないように、芯材16に圧縮力が生じていないときの端部補強部材17と対応する範囲より広く設けられている。
【0049】
このようなブレース9では、芯材16の伸縮は拘束することなく、座屈を拘束することができる。そして、二つの木質部材42a,42bには、繊維の方向が直交する積層材が用いられ、第1のボルト44aと第2のボルト44bとの間で割れが生じたり、破壊したりするのが防止される。
また、座屈拘束材41は簡単な加工で芯材16を囲むことができ、作業の効率が向上する。
【0050】
なお、このブレース9でも、木質部材42a,42bとして直交集成板(CLT)を用いることができ、第1のボルト44a及び第2のボルト44bを横切る方向にはビスをねじ込んで補強することもできる。また、木質部材及び間隙保持部材の芯材と対向する面には、シリコーン樹脂の皮膜を形成しても良く、弾性体の薄い層を形成するものであっても良い。
【0051】
以上に説明した座屈拘束材を有するブレースは、本発明の実施の形態であって、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の範囲内で適宜に設計することができるものである。
【符号の説明】
【0052】
1:ブレース, 2:柱, 3:柱, 4:下層階の梁, 5:上層階の梁, 6:接合用プレート, 8:ブレース, 9:ブレース,
11:芯材, 11a:芯材の拡幅部, 12:端部補強部材, 13:ボルト孔, 14:芯材, 14a:芯材の拡幅部, 15:端部補強部材, 16:芯材, 16a:芯材の拡幅部, 17:端部補強部材,
21:座屈拘束材, 22a,22b:幅広面対向部材, 22c:幅広面対向部材に設けられた溝, 23a,23b:合板, 23c:スリット, 24a,24b:剛性補強部材, 25a:第1のボルト, 25b:第2のボルト, 26a,26b:ナット, 27:座金, 28:ラグスクリュー, 29:ビス, 30:ボルト孔,
31:座屈拘束材, 32a,32b:木質部材, 32c:木質部材に設けられた溝, 32d:切り欠き部, 33a,33b:ボルト, 34a,34b:ナット,
41:座屈拘束材, 42a,42b:木質部材, 42d:木質部材の端部に設けられた溝, 43a,43b:間隔保持部材, 44a:第1のボルト, 44b:第2のボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9