(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055020
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】立体編物構造体、および、熱交換器、フィルター部材、電極
(51)【国際特許分類】
D04B 1/22 20060101AFI20230410BHJP
F28F 1/12 20060101ALI20230410BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
D04B1/22
F28F1/12 D
D04B1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164104
(22)【出願日】2021-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】幸 俊彦
【テーマコード(参考)】
4L002
【Fターム(参考)】
4L002AA00
4L002AB02
4L002AC03
4L002BA00
4L002BB01
4L002EA00
4L002FA06
(57)【要約】
【課題】可動部を有する箇所に配設した場合であっても、可動部の動きに追従して伸縮し、塑性変形を抑制することが可能な立体編物構造体、および、この立体編物構造体を備えた熱交換器、フィルター部材、電極を提供する。
【解決手段】複数の単層編物15を積層した立体編物構造体10であって、単層編物15は、金属繊維11がループ形状を有して編み込まれた構造であり、積層された単層編物15の層間を層間金属繊維13が接続していることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単層編物を積層した立体編物構造体であって、
前記単層編物は、金属繊維がループ形状を有して編み込まれた構造であり、
積層された前記単層編物の層間を層間金属繊維が接続していることを特徴とする立体編物構造体。
【請求項2】
前記層間金属繊維が、前記単層編物を構成する前記金属繊維の一部であって、
前記層間金属繊維が、ループ形状を有して複数の前記単層編物を接続していることを特徴とする請求項1に記載の立体編物構造体。
【請求項3】
前記金属繊維は、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、チタン又はチタン合金のいずれかで構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の立体編物構造体。
【請求項4】
空隙率が85%以上99%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の立体編物構造体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の立体編物構造体を備えていることを特徴とする熱交換器。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の立体編物構造体を備えていることを特徴とするフィルター部材。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の立体編物構造体を備えていることを特徴とする電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属繊維を編んだ立体編物構造体、この立体編物構造体を備えた熱交換器、フィルター部材、電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば各種電池における電極及び集電体、熱交換器用部材、消音部材、フィルター部材、衝撃吸収部材等として、例えば、銅、アルミニウム、チタン等の金属の多孔質体が使用されている。
例えば、特許文献1には、金属管表面に金属多孔質層を形成した熱交換部材が提案されている。
特許文献2には、三次元網目構造の金属多孔質焼結体からなるフィルター部材が提案されている。
特許文献3には、アルミニウム繊維を焼結した構造の多孔質アルミニウム焼結体が開示されている。
特許文献4には、水電解装置の電極として、チタン繊維の焼結体を用いたものが開示されている。
【0003】
また、特許文献5には、金属線を編み込んだ金属線構造体が提案されている。この金属線構造体は平板状をなす単層構造とされており、これを複数積層した後に焼結することで、3次元構造とし、上述の熱交換器、フィルター部材、電極等として使用することが考えられる。
さらに、特許文献6には、人型ロボットを覆う排熱服と、送風機と、を有し、人型ロボットの外郭と排熱服との間に送風経路を設けて、人型ロボットの冷却を行う冷却装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-095529号公報
【特許文献2】特開2004-300526号公報
【特許文献3】特開2016-194117号公報
【特許文献4】特開2018-156798号公報
【特許文献5】特開平05-261146号公報
【特許文献6】特開2020-075350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献6に示す人型ロボットの冷却装置において、冷却効率を向上させるために、送風経路に特許文献1-4の金属多孔質体や特許文献5の金属線構造体を放熱フィンとして配置することが考えられる。
しかしながら、上述の金属多孔質体や金属線構造体においては、焼結によって固定された箇所が存在するために、人型ロボットの外郭のように可動部を有する箇所に配設した場合には、可動部の動作に追従して金属多孔質体や金属線構造体が伸縮せず、放熱フィン同士が緩衝して塑性変形してしまうおそれがあった。
なお、可動部を有する箇所に配設された熱交換器、フィルター部材、電極等においても、上述の問題が生じるおそれがあった。
【0006】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、可動部を有する箇所に配設した場合であっても、可動部の動きに追従して伸縮し、塑性変形を抑制することが可能な立体編物構造体、および、この立体編物構造体を備えた熱交換器、フィルター部材、電極を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の立体編物構造体は、複数の単層編物を積層した立体編物構造体であって、前記単層編物は、金属繊維がループ形状を有して編み込まれた構造であり、積層された前記単層編物の層間を層間金属繊維が接続していることを特徴としている。
【0008】
この構成の立体編物構造体によれば、金属繊維がループ形状を有して編み込まれた構造の単層編物が積層され、積層された前記単層編物の層間を層間金属繊維が接続している構造とされているので、金属繊維が焼結等によって固定されておらず、可動部の動作に追従して伸縮することができ、塑性変形を抑制することが可能となる。また、金属繊維が編み込まれた構造とされているので、金属多孔質体と同様に、熱伝導性、導電性を確保することができる。
よって、熱交換器(放熱フィン)、フィルター部材、電極等の各種部材として安定して利用することができる。
【0009】
ここで、本発明の立体編物構造体においては、前記層間金属繊維が、前記単層編物を構成する前記金属繊維の一部であって、前記層間金属繊維が、ループ形状を有して複数の前記単層編物を接続していることが好ましい。
この場合、前記単層編物を構成する前記金属繊維の一部が前記層間金属繊維とされ、複数の前記単層編物を接続しているので、さらに熱伝導性および導電性に優れている。
【0010】
また、本発明の立体編物構造体においては、前記金属繊維は、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、チタン又はチタン合金のいずれかで構成されていることが好ましい。
この場合、前記金属繊維は、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、チタン又はチタン合金のいずれかで構成されているので、熱伝導性、導電性を確保することができ、熱交換器(放熱フィン)、フィルター部材、電極等の各種部材としてさらに安定して利用することができる。
【0011】
さらに、本発明の立体編物構造体においては、空隙率が85%以上99%以下の範囲内であることが好ましい。
この場合、空隙率が上述の範囲内とされているので、立体編物構造体の内部に流体を円滑に流通させることができるとともに、金属繊維と流体との接触面積を確保することができる。よって、熱交換器(放熱フィン)、フィルター部材、電極等の各種部材としてさらに安定して利用することができる。なお、空隙率は、立体編物構造体に対する空隙率である。
【0012】
本発明の熱交換器は、上述の立体編物構造体を備えていることを特徴としている。
この構成の熱交換器においては、上述の立体編物構造体を備えているので、可動部を有する箇所に配設して使用することができる。また、立体編物構造体の内部を流通する流体と金属繊維との接触により、熱交換効率を向上させることができる。
【0013】
本発明のフィルター部材は、上述の立体編物構造体を備えていることを特徴としている。
この構成のフィルター部材においては、上述の立体編物構造体を備えているので、可動部を有する箇所に配設して使用することができる。また、立体編物構造体の内部に流体を流通させることで、流体中の物質をフィルタリングすることができる。
【0014】
本発明の電極は、上述の立体編物構造体を備えていることを特徴としている。
この構成の電極においては、上述の立体編物構造体を備えているので、可動部を有する箇所に配設して使用することができる。また、立体編物構造体の内部を流通する流体と金属繊維との接触により、反応を促進することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可動部を有する箇所に配設した場合であっても、可動部の動きに追従して伸縮し、塑性変形を抑制することが可能な立体編物構造体、および、この立体編物構造体を備えた熱交換器、フィルター部材、電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態である立体編物構造体の概略説明図である。(a)が通常状態の説明図、(b)が収縮状態の説明図、(c)が伸長状態の説明図である。
【
図2】本発明の実施形態である立体編物構造体の単層編物の拡大説明図である。
【
図3】本発明の実施形態である立体編物構造体の製造方法の説明図である。
【
図4】本発明の実施形態である立体編物構造体を備えた熱交換器(放熱フィン)の説明図である。
【
図5】本発明の実施形態である立体編物構造体を備えたフィルター部材の説明図である。
【
図6】本発明の実施形態である立体編物構造体を備えた電極の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態である立体編物構造体について、添付した図面を参照して説明する。
本実施形態である立体編物構造体10は、例えば、熱交換器(放熱フィン)、フィルター部材、電極として用いられるものである。
【0018】
図1に示すように、本実施形態である立体編物構造体10は、金属繊維11を編み込んで形成されたものであり、複数の単層編物15が積層された構造とされている。
単層編物15は、
図2に示すように、金属繊維11がループ形状12を有して編み込まれた構造とされている。
【0019】
そして、積層された前記単層編物の層間を層間金属繊維13が接続している構造とされている。
本実施形態では、単層編物15を構成する金属繊維11の一部が層間金属繊維13とされており、積層された単層編物15の層間を、層間金属繊維13によってループ形状12に編み込んで接続している。
すなわち、本実施形態である立体編物構造体10は、単層編物15の面方向(
図1の左右方向および奥行き方向)のみでなく、単層編物15の積層方向(
図1のZ方向)においても、編み込み構造とされている。
【0020】
単層編物15においては、編み込み構造とされていることから、単層編物15の面方向において伸縮可能となる。
本実施形態においては、上述のように、単層編物15の積層方向においても編み込み構造とされていることから、
図1に示すように、単層編物15の積層方向(
図1のZ方向)にも伸縮可能となる。
また、
図2に示すように、例えば
図2のX方向は金属繊維11が連続しているため、熱伝導性および導電性がY方向に比べて大きく、単層編物15内であっても方向によって熱伝導性および導電性が異なる構造となっている。さらに、積層方向においても編み込みの密度や頻度等を変更することで、熱伝導性および導電性を変化させることができる。
【0021】
ここで、金属繊維11は、使用用途に応じて各種金属で構成することができ、本実施形態では、例えば、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、チタン又はチタン合金のいずれかで構成されたものとすることが好ましい。
金属繊維11が、銅又は銅合金で構成されている場合には、導電性および熱伝導性に特に優れることになる。
金属繊維11が、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されている場合には、導電性および熱伝導性に優れるとともに耐食性にも優れる。また、立体編物構造体10の軽量化を図ることもできる。
金属繊維11が、チタン又はチタン合金で構成されている場合には、導電性および熱伝導性に優れるとともに耐食性にも優れる。また、立体編物構造体10のさらなる軽量化を図ることもできる。
【0022】
また、本実施形態である立体編物構造体10においては、金属繊維11が編み込まれた構造とされていることから、内部に空隙が存在することになる。そして、本実施形態では、立体編物構造体10の空隙率は85%以上99%以下の範囲内であることが好ましい。
なお、本実施形態である立体編物構造体10においては、上述のように、単層編物15の面方向および積層方向に伸縮可能とされているが、伸長した状態および収縮した状態においても、上述の空隙率を満足することが好ましい。
【0023】
次に、本実施形態である立体編物構造体10の製造方法について、
図3を参照して説明する。
まず、金属繊維11を編み込んで第一層目の単層編物15を形成する。次に、第一層目の単層編物15の一部の金属繊維11を用いて、第一層目の単層編物15のループ形状12に編み込みつつ第二層目の単層編物15を形成する。つまり、ループ形状12が層間金属繊維13を兼ねている。これを繰り返すことにより、本実施形態である立体編物構造体10が製造される。
本実施形態では、1本の金属繊維11を編み込むことにより、上述の構成の立体編物構造体10が構成されている。
【0024】
ここで、本実施形態である立体編物構造体10を備えた熱交換器20について、
図4を用いて説明する。
この熱交換器20は、立体編物構造体10からなる放熱フィン21を有している。この放熱フィン21(立体編物構造体10)は、
図4に示すように、発熱源となるロボット筐体25と、このロボット筐体25を覆う排熱服26と、の間に形成された送風経路27に挿入されて使用される。
【0025】
このとき、
図4に示すように、放熱フィン21(立体編物構造体10)の一の単層編物15Aとロボット筐体25とが接合され、放熱フィン21(立体編物構造体10)の他の単層編物15Bと排熱服26とが接合されており、放熱フィン21(立体編物構造体10)は、単層編物15がロボット筐体25側から排熱服26側へ積層されるように配置されている。
【0026】
この状態で、排熱服26とロボット筐体25との間の送風経路27に送風する。すると、送風経路27が膨らみ、排熱服26とロボット筐体25とが離間する方向に移動することになる。このとき、放熱フィン21(立体編物構造体10)は、単層編物15がロボット筐体25側から排熱服26側へ積層されるように配置されているので、積層方向(
図4のZ方向)に伸びるように変形する。このとき、積層された単層編物15同士の接触点が増加し、熱伝導が効率良く行われることになる。
【0027】
以上のような構成とされた本実施形態である立体編物構造体10によれば、金属繊維11がループ形状を有して編み込まれた構造の単層編物15が積層され、積層された単層編物15の層間を層間金属繊維が接続している構造とされているので、金属繊維11が焼結等によって固定されておらず、この立体編物構造体10を、可動部を有する各種装置に配設しても、可動部の動作に追従して立体編物構造体10が伸縮することになり、塑性変形を抑制することが可能となる。
また、金属繊維11が編み込まれた構造とされているので、金属多孔質体と同様に、熱伝導性、導電性を確保することができる。
【0028】
本実施形態において、前記層間金属繊維が、単層編物15を構成する金属繊維11の一部であって、前記層間金属繊維が、ループ形状を有して複数の単層編物15を接続する構成とされている場合には、層間金属繊維と単層編物15とが同一の金属繊維11で構成されることから、さらに熱伝導性および導電性に優れている。
【0029】
本実施形態において、金属繊維11が、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、チタン又はチタン合金のいずれかで構成されている場合には、熱伝導性、導電性を確保することができ、熱交換器(放熱フィン)、フィルター部材、電極等の各種部材としてさらに安定して利用することができる。
【0030】
また、本実施形態において、空隙率が85%以上99%以下の範囲内であることが好ましい。
この場合、空隙率が上述の範囲内とされているので、立体編物構造体の内部に流体を円滑に流通させることができるとともに、金属繊維と流体との接触面積を確保することができる。よって、熱交換器(放熱フィン)、フィルター部材、電極等の各種部材としてさらに安定して利用することができる。
【0031】
本実施形態の熱交換器20は、放熱フィン21として本実施形態である立体編物構造体10を備えているので、単層編物15の面方向および積層方向に伸縮することができ、可動部を有する箇所に配設して使用することができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、
図1および
図2に示す構造の立体編物構造体を例に挙げて説明したが、これに限定されることはない。
【0033】
例えば、
図2に示すような構造の単層編物ではなく、ループ形状を有していれば、他の構造の単層編物であってもよい。
また、本実施形態では、単層編物を構成する金属繊維の一部を層間金属繊維として使用するものとして説明したが、これに限定されることはなく、単層編物を構成する金属繊維とは別の金属繊維を、層間金属繊維として用いてもよい。つまり、
図2に示すような単層編物を積層し、複数のリング状の金属繊維で層間を接続してもよく、複数の螺旋形状の金属繊維で層間を接続してもよい。
【0034】
また、本実施形態では、立体編物構造体を熱交換器(放熱フィン)に用いるものとして説明したが、これに限定されることはなく、
図5に示すように、フィルター部材30として使用してもよいし、
図6に示すように、電極40として使用してもよい。
図5に示すフィルター部材30は、管本体31と、管本体31に挿入されたフィルター32とを有しており、フィルター32として立体編物構造体10を備えている。なお、立体編物構造体は、方向によって熱伝導性に差があるため、熱伝導性が最も大きい方向を伝熱方向に配置することが望ましい。
【0035】
図6に示す電極40は、水電解装置50に用いられるものである。この水電解装置50においては、対向配置された一対の電極40,40と、これら一対の電極40,40の間に配置されたイオン透過膜54と、を備えた水電解セル51を備えている。なお、イオン透過膜54の両面(一対の電極40,40との接触面)には、それぞれ触媒層55,56が形成されている。そして、一対の電極40,40が立体編物構造体10で構成されている。
【符号の説明】
【0036】
10 立体編物構造体
11 金属繊維
12 ループ形状
13 層間金属繊維
15 単層編物
20 熱交換器
30 フィルター部材
40 電極