(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055050
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】車両のドア構造
(51)【国際特許分類】
B60J 5/00 20060101AFI20230410BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
B60J5/00 P
B60J5/04 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164142
(22)【出願日】2021-10-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発」の「アルミニウム/異種材料の点接合技術」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000135999
【氏名又は名称】株式会社ヒロテック
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】奥山 智仁
(72)【発明者】
【氏名】本田 正徳
(72)【発明者】
【氏名】深堀 貢
(72)【発明者】
【氏名】小川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】河村 力
(72)【発明者】
【氏名】小川 幸介
(72)【発明者】
【氏名】一法師 偉人
(57)【要約】
【課題】ドアの軽量化および生産性の向上と、衝突時のドア強度の確保とを両立すること。
【解決手段】ドアインナパネル5は、樹脂製の樹脂ドアインナパネル10と、該樹脂ドアインナパネル10より高い引張強度を有して該樹脂ドアインナパネル10を補強する車室側補強部材30とを備え、樹脂ドアインナパネル10は、金属製のドアアウタパネル4から車幅方向内側に離間して上下及び前後方向に延びる内面部11と、該内面部11の縁部から角部15を介して車幅方向外側に延びる壁部16と、を備え、車室側補強部材30は、ドア正面視で樹脂ドアインナパネル10の壁部16と角部15とに亘る領域において、樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向内側に設けられ、車室側補強部材30と樹脂ドアインナパネル10の間には、壁部16に沿って延びる閉断面55fが構成された。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のアウタパネルと、該アウタパネルよりも車幅方向内側に配置されるインナパネルと、を備えた車両のドア構造であって、
前記インナパネルは、樹脂製の樹脂ドアインナパネルと、該樹脂ドアインナパネルより高い引張強度を有して該樹脂ドアインナパネルを補強する補強部材とを備え、
前記樹脂ドアインナパネルは、前記アウタパネルから車幅方向内側に離間して上下及び前後方向に延びる内面部と、該内面部の縁部から角部を介して車幅方向外側に延びる壁部と、を備え、
前記補強部材は、ドア正面視で前記樹脂ドアインナパネルの前記壁部と前記角部とに亘る領域において、前記樹脂ドアインナパネルに対して車幅方向外側と車幅方向内側とのうち、少なくとも一方に設けられ、
前記補強部材と前記樹脂ドアインナパネルの間には、前記壁部に沿って延びる閉断面が構成された
車両のドア構造。
【請求項2】
前記樹脂ドアインナパネルには、前記壁部の車幅方向外縁からドア正面視でドア外側へ延びる外面部が形成され、
前記補強部材は、前記壁部に沿って車幅方向に延びる補強部材壁部と、該補強部材壁部の車幅方向外縁から前記ドア外側へ突出する補強部材外面部と、該補強部材壁部の車幅方向内縁からドア正面視でドア内側へ延びる補強部材内面部が形成され、
前記壁部と前記補強部材壁部との間における車幅方向の全長に亘って、前記閉断面が構成されるように、前記補強部材外面部が前記外面部に対して接合されるとともに、前記補強部材内面部が前記内面部に対して接合された
請求項1に記載の車両のドア構造。
【請求項3】
前記補強部材外面部と前記外面部とは、互いに面接触状態に接合されるとともに、前記補強部材内面部と前記内面部とは、互いに面接触状態に接合された
請求項2に記載の車両のドア構造。
【請求項4】
前記補強部材は、金属製であり、
前記補強部材外面部には、前記インナパネルの外周縁を形成するように、前記樹脂ドアインナパネルとの接合部分よりも前記ドア外側へと延出する補強部材外側フランジ部を備え、
前記補強部材外側フランジ部をカシメ接続するヘム部を、前記アウタパネルの外周縁に備えた
請求項2又は3に記載の車両のドア構造。
【請求項5】
前記補強部材は、前記樹脂ドアインナパネルに対して車幅方向内側から接合された
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の車両のドア構造。
【請求項6】
前記補強部材を、第1補強部材とし、
前記樹脂ドアインナパネルにおける前記壁部と前記角部とに亘る前記領域に、前記樹脂ドアインナパネルよりも高い引張強度を有する第2補強部材を車幅方向外側から接合した
請求項5に記載の車両のドア構造。
【請求項7】
前記補強部材には、前記第2補強部材を備え、
前記第2補強部材と前記樹脂ドアインナパネルの間には、前記壁部に沿って延びる閉断面が構成された
請求項6に記載の車両のドア構造。
【請求項8】
前記第2補強部材は、ドアヒンジの前記樹脂ドアインナパネルへの取り付け部分に設けられるとともに、該取り付け部分を補強するドアヒンジレインフォースメントとして形成された
請求項6又は7に記載の車両のドア構造。
【請求項9】
前記第1補強部材と前記ドアヒンジレインフォースメントとは、前記ドアヒンジを前記樹脂ドアインナパネルに締結する締結手段により、前記樹脂ドアインナパネルに対して共締めされた
請求項8に記載の車両のドア構造。
【請求項10】
前記補強部材は、アルミニウム製である
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の車両のドア構造。
【請求項11】
前記樹脂ドアインナパネルは、熱可塑性樹脂で形成された
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の車両のドア構造。
【請求項12】
前記角部は、前記内面部に対して車幅方向内側へ突出する突状に形成され、
前記閉断面は、突状の前記角部の車幅方向内縁に至るまで前記壁部の車幅方向内縁よりも車幅方向内側へ延設された
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の車両のドア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属製のドアアウタパネルと、該ドアアウタパネルよりも車幅方向内側に配置されるドアインナパネルと、を備えた車両のドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ドアは、一般にドアインナパネルとドアアウタパネルとの間に、ウインドウガラスの昇降装置等の補機を内蔵するための空間が設けられるため、ドアインナパネルは、ドアアウタパネルから車幅方向内側に離間して上下及び前後方向に延びる内面部と、該内面部の外周縁部から角部を介して車幅方向外側に延びる壁部と、を備えた構成としたものが多く存在する。
【0003】
そして、このようなドアに対して車幅方向外側から衝突物が衝突時に、ドアインナパネルの正面視中央に位置する内面部が、車室内側に侵入しようとすることに起因して、ドアインナパネルの正面視外周側に位置する壁部には、車幅方向外側が圧縮されるとともに、車幅方向内側が引っ張られるような曲げ荷重が作用する。
【0004】
ところで、最近では、ドアの軽量化および生産性向上を目的としてドアインナパネルを樹脂化したドア構造が知られている。
しかし、ドアのドアインナパネルが樹脂製である場合、衝突時に、ドアインナパネルは、壁部に上述した曲げ荷重が作用することで、応力が集中する角部や、該角部を支持する壁部に割れが生じ易く、結果としてドア変形量が増大するおそれがある。
【0005】
また、下記特許文献1には、ドアインナパネルの母材となる樹脂に炭素繊維等の繊維を含有するとともに、ドアインナパネルの特に外周部に枠状の補強部材をドアインナパネルに対して車幅方向外側(ドアアウタパネル側)から設けることでドアに備えた樹脂製のドアインナパネルを補強する技術が提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1には、衝突時に、ドアの外周部に上述した曲げ荷重が作用することにより、樹脂製のドアインナパネルに割れが生じるという課題およびその課題に対する具体的な対策については言及されていない。
【0007】
すなわち、衝突時にドアインナパネルに、外周部に作用する曲げ荷重に耐え得る程度の強度(剛性)をもたせるために、特許文献1のドア構造のように、ドアインナパネル自体を材質面から補強する場合は、材料コストが嵩むおそれがある。さらに、ドアインナパネルの外周部に補強部材を設けることでドアインナパネルを肉厚化する場合は、ドア重量が増大するおそれがある。
【0008】
従って、特許文献1に開示するようなドアのドアインナパネルの補強構造に基づいて、衝突時に、ドアの外周部に作用する曲げ荷重に対する対策を講じた場合には、ドアインナパネルを樹脂化することによるメリットが没却することが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、ドアの軽量化および生産性の向上と、衝突時のドア強度の確保とを両立することができる車両のドア構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、金属製のアウタパネルと、該アウタパネルよりも車幅方向内側に配置されるインナパネルと、を備えた車両のドア構造であって、前記インナパネルは、樹脂製の樹脂ドアインナパネルと、該樹脂ドアインナパネルより高い引張強度を有して該樹脂ドアインナパネルを補強する補強部材とを備え、前記樹脂ドアインナパネルは、前記アウタパネルから車幅方向内側に離間して上下及び前後方向に延びる内面部と、該内面部の縁部から角部を介して車幅方向外側に延びる壁部と、を備え、前記補強部材は、ドア正面視で前記樹脂ドアインナパネルの前記壁部と前記角部とに亘る領域において、前記樹脂ドアインナパネルに対して車幅方向外側と車幅方向内側とのうち、少なくとも一方に設けられ、前記補強部材と前記樹脂ドアインナパネルの間には、前記壁部に沿って延びる閉断面が構成されたことを特徴とする。
【0012】
前記構成によれば、インナパネルを内面部、角部および壁部に亘って樹脂ドアインナパネルで形成することで、インナパネル全体を金属製とする場合と比してドア全体を軽量化することができる。また、樹脂ドアインナパネルは、射出成形などの成形により形成できるため、高い生産性を確保することができる。
【0013】
また、樹脂ドアインナパネルと補強部材との間に前記壁部に沿って延びる閉断面を設けることで、ドアに対して衝突物が衝突時(すなわち、インナパネルに衝突荷重が入力時)に、樹脂ドアインナパネルにおいて最も応力が集中する角部と、角部を支持する壁部とに亘る領域の曲げ強度を高めることができる。すなわち、インナパネルにおける前記壁部と前記角部とに亘る領域の強度を、インナパネルに閉断面を有するという構造上の観点から高めることができる。
【0014】
従って、インナパネルの中でも高強度化が要求される壁部および角部を含めた領域を、樹脂ドアインナパネルで形成しながらも樹脂ドアインナパネルの割れを抑制することができる。
【0015】
要するに、ドアの軽量化および生産性の向上と、衝突時のドア強度の確保とを両立することができる。
【0016】
この発明の態様として、前記樹脂ドアインナパネルには、前記壁部の車幅方向外縁からドア正面視でドア外側(ドア中央に位置する内面部の側と反対側)へ延びる外面部が形成され、前記補強部材は、前記壁部に沿って車幅方向に延びる補強部材壁部と、該補強部材壁部の車幅方向外縁から前記ドア外側(内面部の側と反対側)へ突出する補強部材外面部と、該補強部材壁部の車幅方向内縁からドア正面視でドア内側(内面部の側)へ延びる補強部材内面部が形成され、前記壁部と前記補強部材壁部との間における車幅方向の全長に亘って、前記閉断面が構成されるように、前記補強部材外面部が前記外面部に対して接合されるとともに、前記補強部材内面部が前記内面部に対して接合された構成とすることができる。
【0017】
前記構成によれば、閉断面を壁部と補強部材壁部との間における車幅方向の全長に亘って形成することができるため、ドアに対して衝突物が衝突時に樹脂ドアインナパネルの破損を効果的に抑制できる。
【0018】
この発明の態様として、前記補強部材外面部と前記外面部とは、互いに面接触状態に接合されるとともに、前記補強部材内面部と前記内面部とは、互いに面接触状態に接合された構成とすることができる。
【0019】
前記構成によれば、補強強部材外面部と外面部、並びに補強強部材内面部と内面部を、面接触状態に接合することで、補強部材と樹脂ドアインナパネルとの接触面積を拡大して互いをドア外周側においてしっかりと接合できる。従って、樹脂ドアインナパネルと補強部材との接合部分における、厚肉化による剛性向上や振動抑制機能を高めることができる。
【0020】
この発明の態様として、前記補強部材は、金属製であり、前記補強部材外面部には、前記インナパネルの外周縁を形成するように、前記樹脂ドアインナパネルとの接合部分よりも前記ドア外側へと延出する補強部材外側フランジ部を備え、前記補強部材外側フランジ部をカシメ接続するヘム部を、前記アウタパネルの外周縁に備えた構成とすることができる。
【0021】
前記構成によれば、アウタパネルと樹脂ドアインナパネルは、ドア外周縁において金属製の補強部材を介して互いに接合できるため、インナパネルは、主要部(内面、壁部および外側突出部)を樹脂で形成しながらも、共に金属製であるアウタパネルの外周縁と補強部材の外側フランジ部同士のカシメ接続によって互いの接合強度を高めることができる。
【0022】
さらに前記構成によれば、補強部材は、樹脂製のインナパネルの壁部と角部とに亘る領域において、アウタパネルと協働してインナパネルを車幅方向に挟み込むことができるため、ドアに入力される側突荷重に対して樹脂ドアインナパネルの破損を効果的に抑制できる。
【0023】
この発明の態様として、前記補強部材は、前記樹脂ドアインナパネルに対して車幅方向内側から接合された構成とすることができる。
ここで、ドアに対して車幅方向外側から衝突物が衝突時には、樹脂ドアインナパネルの角部および壁部に亘る領域において、樹脂ドアインナパネルに対してドア正面視で外側への引張り荷重が作用する。
【0024】
このため、上述したように、補強部材を前記樹脂ドアインナパネルに対して車幅方向内側から接合することで、衝突時に、引張り荷重が作用する樹脂ドアインナパネルを補強部材によって効果的に補強することができる。
【0025】
この発明の態様として、前記補強部材を、第1補強部材とし、前記樹脂ドアインナパネルにおける前記壁部と前記角部とに亘る前記領域に、前記樹脂ドアインナパネルよりも高い引張強度を有する第2補強部材を車幅方向外側から接合した構成とすることができる。
【0026】
前記構成によれば、ドアに対して車幅方向外側から衝突物が衝突時に、前記第1補強部材により、上述したように、樹脂ドアインナパネルに作用する荷重の中でも引張り荷重に対して車幅方向内側から効果的に補強できることに加えて、第2補強部材により、樹脂ドアインナパネルに作用する荷重の中でも圧縮荷重に対して車幅方向外側から効果的に補強することができる。
【0027】
この発明の態様として、前記補強部材には、前記第2補強部材を備え、前記第2補強部材と前記樹脂ドアインナパネルの間には、前記壁部に沿って延びる閉断面が構成された構成としてもよい。
【0028】
前記構成によれば、前記第2補強部材と前記樹脂ドアインナパネルとの間、すなわち、前記樹脂ドアインナパネルに対して車幅方向外側(ドア正面視で内側)に、閉断面を構成できるため、衝突時に樹脂ドアインナパネルに作用する荷重の中でも圧縮荷重に対して、樹脂ドアインナパネルを車幅方向外側からより一層効果的に補強することができる。
【0029】
この発明の態様として、前記第2補強部材は、ドアヒンジの前記樹脂ドアインナパネルへの取り付け部分に設けられるとともに、該取り付け部分を補強するドアヒンジレインフォースメントとして形成された構成とすることができる。
【0030】
前記構成によれば、前記第2補強部材をドアヒンジレインフォースメントとして形成することで、ドアヒンジレインフォースメントとは別途、第2補強部材を設ける場合と比してドア重量の増大を抑制できるとともに部品点数を削減しながらも、樹脂ドアインナパネルを車幅方向外側からより一層効果的に補強することができる。
【0031】
この発明の態様として、前記第1補強部材と前記ドアヒンジレインフォースメントとは、前記ドアヒンジを前記樹脂ドアインナパネルに締結する締結手段により、前記樹脂ドアインナパネルに対して共締めされた構成とすることができる。
【0032】
前記構成によれば、ドアヒンジの樹脂ドアインナパネルへの取り付け部分をドアヒンジレインフォースメントと第1補強部材とで(板厚方向の両側から)補強できる。
【0033】
また、第1補強部材とドアヒンジレインフォースメントとを、ドアヒンジを樹脂ドアインナパネルに締結する締結手段を用いて樹脂ドアインナパネルに対して締結することで、他の取り付け手段を備えずとも、樹脂ドアインナパネルに対してドアヒンジレインフォースメントおよび第1補強部材を強固に取り付けることができる。
【0034】
この発明の態様として、前記補強部材は、アルミニウム製とすることが好ましい。
【0035】
前記構成によれば、樹脂ドアインナパネルとアルミニウム製の補強部材とを上述したように組み合わせた構成とすることで、軽量化と高強度化との両立を図ることができる。
【0036】
さらに、樹脂ドアインナパネルは、母材となる樹脂に対して例えば炭素繊維を配合しない場合においては、該樹脂ドアインナパネルとアルミニウム製の車室側補強部材とを組み合わせた構成としても、互いの接触部分においてガルバニック腐食を防止できる。
【0037】
さらにまた、アルミニウムは、小さな変形で破断する樹脂と異なり、延性に優れるという特性を有する。このため、アルミニウム製の前記補強部材を、特に前記樹脂ドアインナパネルに対して車幅方向内側から接合することで、前記補強部材は、上述した延性に優れるというアルミニウムの特性を活かして、樹脂ドアインナパネルに作用する引張り荷重に対して該樹脂ドアインナパネルを車幅方向内側から効果的に補強することができる。
【0038】
この発明の態様として、前記樹脂ドアインナパネルは、熱可塑性樹脂で形成されることが好ましい。
【0039】
前記構成によれば、樹脂ドアインナパネルの形成材料として、一般に樹脂の中でも廉価である熱可塑性樹脂を採用しながらも側突時における、樹脂ドアインナパネルの割れや変形を抑制することができる。
【0040】
この発明の態様として、前記角部は、前記内面部に対して車幅方向内側へ突出する突状(凸状)に形成され、前記閉断面は、突状の前記角部の車幅方向内縁に至るまで前記壁部の車幅方向内縁よりも車幅方向内側へ延設された構成とすることができる。
【0041】
前記構成によれば、前記内面部の外周縁に沿って形成された角部を突状に形成することで、該角部を前記内面部の外周縁に沿って延びるビード状に形成することができる。従って、ドアインナパネルの外周縁の強度を高めることができる。
【0042】
さらに、前記閉断面を、前記壁部の車幅方向内縁から突状の前記角部の車幅方向内縁に至るまで車幅方向内側へ延設することで、閉断面を車幅方向により長く形成できるため、インナパネルの強度をより一層高めることができる。
【発明の効果】
【0043】
前記構成によれば、ドアの軽量化および生産性の向上と、衝突時のドア強度の確保とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】ドアアウタパネルを仮想線で示すとともに車幅方向外側から視たフロントサイドドアを示す側面図
【
図2】
図1において各種レインフォースメントを取り除いて示した側面図
【
図3】ドアアウタパネルを仮想線で示すとともに車幅方向内側から視たフロントサイドドアの要部を示す側面図
【
図4】車両前方かつ車幅方向内側から視たフロントサイドドアの要部を示す斜視図
【
図5】車幅方向内側から視た樹脂ドアインナパネルの側面図
【
図11】(a)は
図1におけるF-F矢視断面図、(b)は同じくG-G矢視断面図
【
図12】変形例に係るフロントサイドドアを
図6に対応して示した断面図
【発明を実施するための形態】
【0045】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
なお、本実施形態の車両の後部の側面は、略左右対称形状であるため、車両右側面のドア構造に基づいて説明する。また、図中、矢印Fは車両前方、矢印Uは車両上方、矢印Rは車両右方、矢印Lは車両左方、矢印OUTは車幅方向外側(車室外側)、矢印INは車幅方向内側(車室側)を夫々示すものとする。
【0046】
本発明のドア構造は、車体の側部において、乗員が乗降する乗降用の前側開口部を開閉するフロントサイドドア1に適用したものである。
図1に示すように、本実施形態のフロントサイドドア1は、ドア本体2と、ドア本体2の上側に設けられるドアサッシュ3とで構成されている。
なお、図示省略するが、フロントサイドドア1は、例えば、ドア本体2の外周およびドアサッシュ3において適宜、ウェザーストリップを備えている。
【0047】
また、
図1に示すように、ドアサッシュ3は、フロントサイドドア1を正面視(すなわち、車幅方向外側から視た状態)(以下、「ドア正面視」と略記する)において、ベルトラインBLよりも車両上方へ突出した側面視略アーチ形状であって、ドアインナパネル5の前部と後部とをベルトラインBLよりも車両上方の位置をとおって連結する形状に形成されている。
【0048】
ドアサッシュ3は、ドアインナパネル5の前部から上方程後方へ位置するように傾斜して延びるドアサッシュ前辺部3fと、ドアインナパネル5の後部からドアサッシュ前辺部3fの後縁(上縁)まで上方に延びるドアサッシュ後辺部3rとを備えている。
【0049】
なお、ドアサッシュ前辺部3fには、ドアサッシュ前辺レインフォースメント98が、ドアサッシュ後辺部3rには、ドアサッシュ後辺レインフォースメント99が、夫々樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向外側から接合されている。ドアサッシュ後辺レインフォースメント99は、下縁がドア本体2の後部の上部に至るまでドアサッシュ3よりも下方へ延出する下方延出部分99aを有している。また、ドアサッシュ3には、ウインドウ開口部6Aが形成され、ウインドウ開口部6Aは、ドア本体2の内部に備えた不図示の昇降装置により上下に昇降されるウインドウガラス(図示省略)によって開閉される。
【0050】
図1~
図4に示すように、フロントサイドドア1は、車幅方向外側に位置するドアアウタパネル4(
図1~
図3において仮想線にて図示)と、車幅方向内側に位置するドアインナパネル5(
図2~
図4参照)とを組み合わせて構成されている。ドア本体2については、ドアアウタパネル4とドアインナパネル5とによって、車幅方向に沿った断面形状が閉断面をなすように構成している(
図6~
図10参照)。
【0051】
ドアアウタパネル4は、車両の外観意匠面をなす外板であり、車幅方向に板厚を有する(、換言すると上下及び前後方向に延びる)ように、ドアサッシュ3部分を含めたドア正面視で全体が、鋼板もしくはアルミ板をプレス成形することにより形成されている。ドアアウタパネル4は、ドア本体2の上縁部を除く周縁部が、ドアインナパネル5の縁部に後述するヘミング加工によって接合されている。
【0052】
図2~
図4に示すように、ドアインナパネル5は、樹脂ドアインナパネル10と、該樹脂ドアインナパネル10より高い引張強度を有して該樹脂ドアインナパネル10を補強する車室側補強部材30とを備えている。なお、図面を明瞭にするために、
図1~
図4において、車室側補強部材30にはドットを付して示している。
【0053】
樹脂ドアインナパネル10は、車幅方向に沿った水平断面における断面形状が、車幅方向内側に突出する断面略ハット形状となるように、全体が熱可塑性樹脂による射出成形により形成されている。
【0054】
このように、樹脂ドアインナパネル10は、断面略ハット形状となるように形成することで、ドアアウタパネル4と協働して内部に閉断面空間として構成されるドア内部空間7(
図6~
図11(a)(b)参照)を有する。
【0055】
具体的に、特に
図5に示すように、樹脂ドアインナパネル10は、ドア本体2の正面視略内側部位(中央側部位)において主面を成す内面部11と、ドアインナパネル5の前辺を成す前辺部12と、同じく後辺を成す後辺部13と、下辺を成す下辺部14とを備えている。
【0056】
図1、
図6、
図8に示すように、フロントサイドドア1は、樹脂ドアインナパネル10の前辺部12における、上下のドアヒンジ用台座部18(
図5、
図6、
図8参照)に締結された2つのドアヒンジ80U,80Dを介して車体に開閉自在に支持されている。
【0057】
この上下各側のドアヒンジ80U,80D(上側ドアヒンジ80U、下側ドアヒンジ80D)は、
図6、
図8に示すように、何れも前辺部12にボルトBおよびナットNにより締結固定されるドア側ヒンジブラケット81と、枢支ピン82を介してドア側ヒンジブラケット81に枢支されるとともに、車体に締結固定される車体側ヒンジブラケット83とで構成されている。
【0058】
図1、
図6に示すように、樹脂ドアインナパネル10の前辺部12において、上下一対のドアヒンジ80U,80Dのうち、上側ドアヒンジ80Uと対応する部位には、上側ドアヒンジレインフォースメント95Uが、樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向外側(厳密には車両後方)から接合されている。
【0059】
図1、
図8に示すように、樹脂ドアインナパネル10の前辺部12において、上下一対のドアヒンジ80U,80Dのうち、下側ドアヒンジ80Dと対応する部位には、下側ドアヒンジレインフォースメント95Dが、樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向外側(厳密には車両後方)から接合されている。
【0060】
なお、上下各側のドアヒンジレインフォースメント95(上側ドアヒンジレインフォースメント95Uおよび下側ドアヒンジレインフォースメント95D)(「ヒンジレイン」と略記する)は、何れも樹脂ドアインナパネル10よりも高い引張強度および圧縮強度を有する鉄もしくはアルミで形成されている。
【0061】
さらに、
図1に示すように、上述した樹脂ドアインナパネル10には、前辺部12の上部と後辺部13の上部とをベルトラインBLに沿って車両前後方向に連結するベルトラインレインフォースメント91が、樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向外側から接合されている。
【0062】
また、上述した樹脂ドアインナパネル10には、前辺部12と後辺部13とを車両前後方向に連結する2本のドアインパクトバー92,93(上側ドアインパクトバー92および下側ドアインパクトバー93)が上下方向に離間して配設されている。これら2本のドアインパクトバー92,93は、ベルトラインレインフォースメント91と協働してフロントサイドドア1に対して車幅方向外側から入力される衝突荷重を受け止めるように構成している。
【0063】
上側ドアインパクトバー92は、ベルトラインレインフォースメント91の直下において該ベルトラインレインフォースメント91の下縁に沿って前後方向に延びており、前縁が上側ヒンジレイン95Uを介して樹脂ドアインナパネル10に接合されている。また、上側ドアインパクトバー92は、後縁が、ドアサッシュ後辺部3rに備えたドアサッシュ後辺レインフォースメント99の下方延出部分99aを介して樹脂ドアインナパネル10に接合されている。
【0064】
下側ドアインパクトバー93は、上側ドアインパクトバー92より下方において後方程下方に位置するように傾斜して延びており、前縁が上側ヒンジレイン95Uを介して樹脂ドアインナパネル10に接合されている。また、下側ドアインパクトバー93は、後縁が、レインフォースメント94を介して樹脂ドアインナパネル10に接合されている。
【0065】
なお、
図1中の符号97は、樹脂ドアインナパネル10の後辺部13の上下方向の中間位置において、樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向外側から設けられているラッチレインフォースメントである。
【0066】
続いて、樹脂ドアインナパネル10について
図6~
図10を用いて詳しく説明する。なお、
図10は、下側ドアインパクトバー93およびレインフォースメント94の図示を、
図11(a)はドアサッシュ前辺レインフォースメント98の図示を、
図11(b)はドアサッシュ後辺レインフォースメント99の図示を、夫々省略している。
【0067】
図6~
図10に示すように、樹脂ドアインナパネル10の内面部11は、ドアアウタパネル4に対して車幅方向内側に離間して配置され、車幅方向に板厚を有する略平板状に形成されている。内面部11には、
図1に示すように、ウインドウガラス(図示省略)を昇降させる昇降装置の一部として備えた前後一対のガイドレール8が配設される。この前後一対のガイドレール8は、何れもドアインナパネル5からドアサッシュ3に至るまで車両上下方向に延びており、前後方向に互いに所定間隔を隔てて離間して配設されている。
【0068】
図5~
図8に示すように、前辺部12は、内面部11の前縁部11fから前側角部15fを介して車幅方向外側に延びてドア内部空間7の前面を画成する前壁部16fと、前壁部16fの車幅方向外縁から車両前方(ドア正面視で外側(すなわち、内面部11と反対側))へ突出する前側外面部17fとで形成されている。
【0069】
図5、
図6、
図8に示すように、前辺部12の前壁部16fにおける、車両上下方向の所定間隔を隔てた各位置には、ドアヒンジ80U,80Dを取り付け可能な平板状のドアヒンジ用台座部18が形成されている。ドアヒンジ用台座部18は、前壁部16fの車幅方向外側部位を形成するように車幅方向に略平行に延びており、前壁部16fの車幅方向内側部位16faに対して段部16fbを介して前方へ隆起して形成されている。ドアヒンジ用台座部18は、上下各側に対応するドアヒンジ80U,80Dの取付け箇所に相当し、ボルト挿通穴18aが貫通形成されている。
【0070】
上下各側のヒンジレイン95は、何れも樹脂ドアインナパネル10の前辺部12における前壁部16fと前側角部15fに亘る領域に車幅方向外側から接合されている。そして、
図6、
図8に示すように、上下各側のヒンジレイン95における、ボルト挿通穴18aに対応する部位には、ボルト挿通穴95aが貫通形成されている。
【0071】
図5、
図9に示すように、下辺部14は、内面部11の下縁部11dから下側角部15dを介して車幅方向外側に延びてドア内部空間7の下面を画成する下壁部16dと、下壁部16dの車幅方向外縁から車両下方(ドア正面視で)外側へ突出する下側外面部17dとで形成されている。
【0072】
本実施形態のドアインナパネル5の下壁部16dは、
図9に示すように、車幅方向に延びているが、その車幅方向外側部位22は、車幅方向内側部位23の車幅方向外縁から下方へ延びる上外側段部24と、上外側段部24の下縁から車幅方向外側へ延びる下壁上外側部25と、下壁上外側部25の車幅方向外縁から下方へ延びる下外側段部26と、下外側段部26の下縁から車幅方向外側へ延びる下壁下外側部27とで一体に形成されている。
なお、下壁下外側部27の車幅方向外縁は、下壁部16dの車幅方向外縁に相当し、下側外面部17dの上縁に一体に連結されている。
【0073】
図5、
図10に示すように、後辺部13は、内面部11の後縁部11rから後側角部15rを介して車幅方向外側に延びてドア内部空間7の後面を画成する後壁部16rが形成されている。
【0074】
本実施形態のドアインナパネル5の後壁部16rは、
図10に示すように、後側角部15rの後縁から車幅方向外側へ延びる車幅方向内側部位28と、車幅方向内側部位28から後方へ延びる段部29と、段部29の後縁から車幅方向外側へ延びる車幅方向外側部位19とで一体に形成されている。
【0075】
すなわち、
図5に示すように、樹脂ドアインナパネル10は、内面部11と、該内面部11の前縁部11f、後縁部11rおよび下縁部11dから角部15を介して車幅方向外側に延びる壁部16と、を備えている。
これにより、壁部16は、上述した前壁部16f、後壁部16rおよび下壁部16dによって、内面部11の上縁を除く外周縁に沿って互いに連続して形成されている。同様に、角部15についても、上述した前側角部15f、後側角部15rおよび下側角部15dによって、内面部11の上縁を除く外周縁に沿って互いに連続して形成されている。すなわち、壁部16および角部15は、樹脂ドアインナパネル10の前縁部、後縁部および下縁部にかけてドア正面視で略U字状に形成されている。また、
図6~
図10に示すように、角部15は、該角部15の延在方向の直交断面が内面部11に対して車幅方向内側へ弧状に突出している。
【0076】
さらに、
図5、
図11(a)(b)に示すように、角部15は、ドア本体2のみならずドアサッシュ3についても形成されている。ドアサッシュ3の角部15Bは、ドアサッシュ3の延在方向(ドアサッシュ前辺部3fおよびドアサッシュ後辺部3r)に沿って連続するとともに、ドア本体2の角部15Aと同様にドアサッシュ3の車幅方向内側へ突出して形成されている。
【0077】
そして、
図5に示すように、ドア本体2の角部15Aとドアサッシュ3の角部15Bとは、ドア本体2の前辺部12の上縁とドアサッシュ前辺部3fの下縁とにおいて互いに一体に連結されるとともに、ドア本体2の後辺部13の上縁とドアサッシュ後辺部3rの下縁とにおいて互いに一体に連結されている。これにより、角部15は、樹脂ドアインナパネル10の外周縁に沿って閉環状に連続して延びている。
【0078】
図2、
図6~
図8に示すように、樹脂ドアインナパネル10(前側外面部17f)の前縁17ff(
図5参照)は、ドアインナパネル5(車室側補強部材30)の前縁5ffよりも後方に位置し、
図2、
図9に示すように、樹脂ドアインナパネル10(下側外面部17d)の下縁17dd(
図5参照)は、ドアインナパネル5(車室側補強部材30)の下縁5ddよりも上方に位置し、
図2、
図10に示すように、樹脂ドアインナパネル10(後側外面部17r)の後縁16rr(
図5参照)は、ドアインナパネル5(車室側補強部材30)の後縁5rrよりも前方に位置する。
【0079】
すなわち、
図2に示すように、樹脂ドアインナパネル10は、ドア本体2における上縁を除く外周縁が、ドアインナパネル5の外周縁よりもドア正面視で若干小さく形成されている。
【0080】
車室側補強部材30は、全体が樹脂ドアインナパネル10より高い引張強度(引張りに対して延性に優れた特性)を有するアルミニウム製であり、
図3,
図4に示すように、樹脂ドアインナパネル10のドア正面視でドア本体2のみならずドアサッシュ3に亘って、これらを補強すべく樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向内側から設けられている。
【0081】
具体的に、車室側補強部材30は、ドア本体2を補強するドア本体補強部31とドアサッシュ3を補強するドアサッシュ補強部36とを備えている。
【0082】
図3、
図4、
図11(a)(b)に示すように、ドアサッシュ補強部36は、ドアサッシュ3における樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向内側から略全体が隙間なく当接することで、該樹脂ドアインナパネル10の板厚を厚肉化し、結果としてドアサッシュ3の剛性(主に振動に対する剛性)を高めるように補強する。
【0083】
図3、
図4に示すように、ドア本体補強部31は、前辺部12を補強する前辺補強部32と、後辺部13を補強する後辺補強部33と、下辺部14を補強する下辺補強部34と、ベルトライン補強部35とを備えて一体に形成されている。
【0084】
ベルトライン補強部35は、前辺補強部32の上部と後辺補強部33の上部とを連結するようにベルトラインBL上に沿って車両前後方向に延びており、樹脂ドアインナパネル10のベルトラインBL周辺を補強している。
【0085】
図3、
図4、
図6~
図8に示すように、前辺補強部32は、内面部11の前縁を補強する内面部前縁補強部41fと、樹脂ドアインナパネル10の前側角部15fを補強する前側角部補強部45fと、前壁部16fを補強する前壁補強部46fと、前側外面部17fを補強する前側外面部補強部47fとを備えている。
【0086】
図3、
図6~
図8に示すように、前側角部補強部45fは、前側角部15fを車幅方向内側から覆うように内面部前縁補強部41fの前縁41faから前方へ延びている。前側角部補強部45fは、前側角部15fの車幅方向内側への突形状に対応して車幅方向内側へ突出して形成されている。そして、前側角部補強部45fは、
図6~
図8に示すように、車幅方向内側へ突出する前側角部15fにおける、少なくとも頂部15ft(車幅方向内縁)よりも後方側部分(内面部11に隣接する部分)に対して隙間なく車幅方向外側から接合されている。
【0087】
前壁補強部46fは、前壁部16fを前方から覆うように前側角部補強部45fの前縁から前方かつ車幅方向外側へ延びている。
【0088】
さらに、前側外面部補強部47fは、前壁補強部46fの車幅方向外縁から車両前方へ突出し、基部48fが、前側外面部17fに対して車幅方向内側から面接触状態に接合される。
【0089】
ここで、
図3、
図6~
図8に示すように、前側外面部補強部47fは、上述したように、前壁補強部46fの車幅方向外縁から車両前方へ突出しているが、該前側外面部補強部47fの基部48f、すなわち、前側外面部17fとの接合部分よりもさらに車両前方(ドア正面視で外側)へ突出する補強部材前側フランジ部49fを備えている。
【0090】
補強部材前側フランジ部49fは、段部50fを介して前側外面部補強部47fの基部48fに対して車幅方向外側へオフセット(位置ずれ)して形成され、前縁がドアインナパネル5の前縁5ffに位置するまで樹脂ドアインナパネル10の前側外面部17fの前縁17ffよりも車両前方へ直線状に延びている。
【0091】
そして、
図6~
図8に示すように、補強部材前側フランジ部49fは、ドアアウタパネル4の前縁に備えた前縁ヘム部6f(ドアアウタパネル4の前縁を車幅方向内側から略折り返すようにヘミング曲げ加工された部分)によってカシメ接合されている。
【0092】
また、上述したように、前辺補強部32は、樹脂ドアインナパネル10の前壁部16fを車幅方向に跨ぐように、前側外面部補強部47f(基部48f)が外面部17に対して接合されるとともに内面部前縁補強部41fが内面部11に対して接合されている(
図6、
図8参照)。
【0093】
図4、
図6、
図8に示すように、前辺補強部32の前壁補強部46fは、上下各側のドアヒンジ用台座部18に相当する部位が、上下各側のドアヒンジ用台座部18に対して前方(ドア内部空間7の外側)から面接触状態に接合される。
【0094】
このため、
図6、
図8に示すように、上下各側のドア側ヒンジブラケット81は、ドアヒンジ用台座部18に対して前方(ドア内部空間7の外側)から前辺補強部32を介して取り付けられている。
なお、上下各側のドア側ヒンジブラケット81には、ドアヒンジ用台座部18に対して取付け用のボルト挿通穴81aが貫通形成されている(
図6、
図8参照)。
【0095】
また、
図4、
図6、
図8に示すように、前壁補強部46fの上下各側のドアヒンジ用台座部18に相当する部位における、ドアヒンジ用台座部18のボルト挿通穴18aと一致する箇所には、ボルト挿通穴47aが形成されている。
【0096】
ここで、上述したように、ヒンジレイン95は、ドアヒンジ用台座部18に対して後方(ドア内部空間7側)から面接触状態に接合されている(
図6、
図8参照)。
【0097】
このため、
図6、
図8に示すように、前壁補強部46fと上下各側のヒンジレイン95U,95Dとは、上下各側においてドアヒンジ用台座部18に対して前後両側から挟み込むように面接触状態に重合した状態で配置される。
【0098】
そして、ドアヒンジ80U,80Dのドア側ヒンジブラケット81をドアヒンジ用台座部18に対して締結時に、前壁補強部46fとヒンジレイン95とは、互いに連通するボルト挿通穴81a,18a,47a,95aにおいて、ボルトBおよびナットNを用いてドアヒンジ用台座部18に対して共締めされている。
【0099】
一方、
図6~
図8に示すように、前辺補強部32は、上下各側のドアヒンジ用台座部18に相当する部位を除いて、前壁部16fに対して前方に間隔を隔てて車幅方向に延びている。
【0100】
これにより、前辺補強部32と前辺部12との間には、上下各側のドアヒンジ用台座部18に相当する部位を除いて、前壁部16fに沿って延びる閉断面55fが構成されている。
【0101】
本実施形態のドアインナパネル5の前辺補強部32は、上下各側のドアヒンジ用台座部18に相当する部位を除いて、前壁補強部46fと前壁部16fとが車幅方向の全長に亘って互いに接合されることなく、互いに前後方向に離間して配設されている。
【0102】
このため、閉断面55fは、上下各側のドアヒンジ用台座部18に相当する部位を除いて、
図7に示すように、外面部17と内面部11との間に亘って車幅方向に連続して延びる構成としている。
【0103】
さらに、閉断面55fは、例えば、
図8に示すように、車幅方向内側へ突出する前側角部15fの頂部15ft(車幅方向内縁)に至るまで内面部11の内面に沿うライン11iよりも車幅方向内側へ延設されている。これにより、角部15が内面部11に対して車幅方向内側へ突出する長さ分だけ閉断面55fの車幅方向の長さを車幅方向内側へより長く設定することができる。
これら構成により、本実施形態の閉断面55fは、車幅方向の長さが極力長くなるように構成されている。
【0104】
なお、
図6、
図8に示すように、閉断面55fは、前壁部16fの上下方向におけるドアヒンジ用台座部18に相当する部位においては、ドアヒンジ用台座部18よりも車幅方向内側部位において、前辺補強部32と前壁部16fとの間において、車幅方向に沿って構成されている。
【0105】
図9に示すように、下辺補強部34は、樹脂ドアインナパネル10の下側角部15dを補強する下側角部補強部45dと、下壁部16dを補強する下壁補強部46dと、下側外面部17dを補強する下側外面部補強部47dとを備えている。
【0106】
下側角部補強部45dは、下側角部15dを車幅方向内側から覆うように上下方向に延びるとともに、下側角部15dの車幅方向内側への突形状に対応して車幅方向内側へ突出して形成されている。そして、下側角部補強部45dは、車幅方向内側へ突出する下側角部15dにおける、少なくとも頂部15dt(車幅方向内縁)よりも上方側部分(内面部11に隣接する部分)に対して隙間なく車幅方向外側から接合されている。
【0107】
下壁補強部46dは、下壁部16dを下方から覆うように下側角部補強部45dの下縁から下方かつ車幅方向外側へ延びている。
【0108】
さらに、下側外面部補強部47dは、下壁補強部46dの車幅方向外縁(下縁)から車両下方へ突出し、基部48dが、下側外面部17dに対して車幅方向内側から面接触状態に接合される。
【0109】
ここで、下側外面部補強部47dは、上述したように、下壁補強部46dの車幅方向外縁から車両下方へ突出しているが、該下側外面部補強部47dの基部48d、すなわち前側外面部17fとの接合部分よりもさらに車両下方(ドア正面視で外側)へ突出する補強部材下側フランジ部49dを備えている。
【0110】
補強部材下側フランジ部49dは、屈曲部50dを介して該下側外面部補強部47dの基部48dに対して車幅方向内側へ屈曲して形成され、下縁がドアインナパネル5の下縁5ddに位置するまで樹脂ドアインナパネル10の下側外面部17dの下縁17ddよりも車両下方へドアアウタパネル4に沿って延びている。
【0111】
そして、補強部材下側フランジ部49dは、ドアアウタパネル4の下縁に備えた下縁ヘム部6d(ドアアウタパネル4の下縁を車幅方向内側から略折り返すようにヘミング曲げ加工された部分)によってカシメ接合されている。
すなわち、樹脂ドアインナパネル10は、アルミニウム製の車室側補強部材30を介してドアアウタパネル4の外周縁に接合されている。
【0112】
ここで、下壁補強部46dの車幅方向内側部位46daの車幅方向外縁は、下壁部16dの上外側段部24に接合されるとともに、下壁補強部46dの車幅方向内縁は、上述したように、下壁部16dの下側角部15dの少なくとも頂部15dt(車幅方向内縁)よりも上側部位に接合されている。そして、下壁補強部46dの車幅方向内側部位46daは、下壁部16dの車幅方向内側部位23に対して下方に離間して配置されている。
これにより、下壁部16dと下辺補強部34との間には、夫々の車幅方向内側部位23,46daに沿って延びる閉断面55dが構成されている。
【0113】
一方、下壁補強部46dの車幅方向外側部位46dbは、下壁部16dの車幅方向外側部位22(上外側段部24、下壁上外側部25、下外側段部26および下壁下外側部27)に対して隙間なく接合されている。
【0114】
図10に示すように、後辺補強部33は、樹脂ドアインナパネル10の後側角部15rを補強する後側角部補強部45rと、後壁部16rを補強する後壁補強部46rと、後壁部16rの車幅方向外縁から後方かつ車幅方向外側へ突出する後側後方突出部47rとを備えている。
【0115】
後側角部補強部45rは、後側角部15rを車幅方向内側から覆うように前後方向に延びている。後側角部補強部45rは、後側角部15rの車幅方向内側への突形状に対応して車幅方向内側へ突出して形成されている。そして、後側角部補強部45rは、車幅方向内側へ突出する後側角部15rにおける、頂部15rt(車幅方向内縁)および、該頂部15rtの前後周辺部に対して隙間なく車幅方向外側から接合されている。
【0116】
後壁補強部46rは、後壁部16rを後方から覆うように後壁部16rの車幅方向内縁から後方かつ車幅方向外側へ延びている。
ここで、後壁補強部46rの車幅方向内縁は、後壁部16rの車幅方向内側部位28の車幅方向内縁に接合されるとともに、後壁補強部46rの車幅方向外側部位46rcは、後壁部16rの車幅方向外側部位19に接合されている。そして、後壁補強部46rの車幅方向内側部位46raは、後壁部16rの車幅方向内側部位28に対して後方に離間して配置されるとともに、後壁補強部46rの段部46rbは、後壁部16rの段部29に対して車幅方向内側に離間して配置される。
【0117】
これにより、後辺補強部33と後辺部13との間には、夫々の車幅方向内側部位28,46raおよび段部29,46rbに亘って連続して延びる閉断面55rが構成されている。
【0118】
一方、後壁補強部46rの車幅方向外側部位46rcは、後壁部16rの車幅方向外側部位19に対して隙間なく面接触状態に接合されている。
【0119】
ここで、後側後方突出部47rは、上述したように、後壁補強部46rの車幅方向外縁(後縁)から後方かつ車幅方向外側へ突出している。具体的に後側後方突出部47rは、後壁補強部46rの車幅方向外縁から主に車幅方向外側へ延びる基部48rと、屈曲部50rを介して主に車両後方へ延びる補強部材後側フランジ部49rを備えている。
【0120】
補強部材後側フランジ部49rは、後縁がドアインナパネル5の後縁5rrに位置するまで樹脂ドアインナパネル10の後壁部16rの後縁16rrよりも車両後方へドアアウタパネル4に沿って延びている。
【0121】
そして、補強部材後側フランジ部49rは、ドアアウタパネル4の後縁に備えた後縁ヘム部6r(ドアアウタパネル4の後縁を車幅方向内側から略折り返すようにヘミング曲げ加工された部分)によってカシメ接合されている。
すなわち、樹脂ドアインナパネル10は、アルミニウム製の車室側補強部材30を介してドアアウタパネル4の外周縁に接合されている。
【0122】
上述したように、車室側補強部材30は、樹脂ドアインナパネル10の角部15(前側角部15f、下側角部15dおよび後側角部15r)を補強する角部補強部45(前側角部補強部45f、下側角部補強部45dおよび後側角部補強部45r)と壁部16(前壁部16f、下壁部16dおよび後壁部16)を補強する壁部補強部46(前壁補強部46f、下壁補強部46dおよび後壁補強部46r)を備えている。
【0123】
また、角部補強部45は、前側角部補強部45f、下側角部補強部45dおよび後側角部補強部45rによって互いに連続して形成されている。同様に、壁部補強部46は、前壁補強部46f、下壁補強部46dおよび後壁補強部46rによって互いに連続して形成されている。すなわち、壁部補強部46および角部補強部45は、ドアインナパネル5の前縁部、後縁部および後縁部に沿ってドア正面視でU字状に連続して形成されている。
【0124】
これに対応して閉断面55(55f,55d,55r)についてもドアインナパネル5の前縁部、後縁部および後縁部に沿ってドア正面視でU字状に連続して形成されている。
【0125】
また、上述したように、樹脂ドアインナパネル10は、アルミニウム製の車室側補強部材30を介してドアアウタパネル4の外周縁に備えたヘム部(例えば、6f,6d,6r)によってカシメ接合されている。これにより、車室側補強部材30は、樹脂ドアインナパネル10の壁部16と角部15に亘る領域に設けられ、ドアアウタパネル4と協働してドアインナパネル5を車幅方向に挟み込むように設けられている。
【0126】
また、車室側補強部材30と樹脂ドアインナパネル10の間には、壁部16に沿って延びる閉断面55を構成することより、フロントサイドドア1に対して車幅方向外側から衝突物が衝突時に、樹脂ドアインナパネル10において最も応力が集中する角部15と、角部15を支持する壁部16とに亘る領域の曲げ強度を高めた構成としている。
【0127】
なお、本実施形態のドアインナパネル5は、車室側補強部材30と樹脂ドアインナパネル10との接触部分において、摩擦攪拌点接合或いは、接着剤などの接合手段で適宜、接合されている。但し、これら箇所の接合手段は特に限定せず、摩擦攪拌点接合或いは、接着剤のうち何れか一方でもよく、或いは他の接合手段を採用してもよい。
【0128】
上述した本実施形態の車両の側部車体構造は、金属製のドアアウタパネル4(
図1~
図3、
図6~
図11(a)(b)参照)と、該ドアアウタパネル4よりも車幅方向内側に配置されるドアインナパネル5(
図1~
図4、
図6~
図11(a)(b)参照)と、を備えた車両のドア構造であって、ドアインナパネル5は、樹脂製の樹脂ドアインナパネル10(
図1~
図11(a)(b)参照)と、該樹脂ドアインナパネル10より高い引張強度を有して該樹脂ドアインナパネル10を補強する車室側補強部材30(
図2~
図4、
図6~
図11(a)(b)参照)とを備え、特に、
図5、
図6~
図10に示すように、樹脂ドアインナパネル10は、ドアアウタパネル4から車幅方向内側に離間して上下及び前後方向に延びる内面部11と、該内面部11の縁部(11f,11d,11r)から角部15を介して車幅方向外側に延びる壁部16と、を備え、
図3、
図4、
図6~
図10に示すように、車室側補強部材30は、ドア正面視で樹脂ドアインナパネル10の壁部16と角部15とに亘る領域において、樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向内側に設けられ、車室側補強部材30と樹脂ドアインナパネル10の間には、壁部16に沿って延びる閉断面55(55f,55d,55r)(
図6~
図10参照)が構成されたものである。
【0129】
前記構成によれば、ドアインナパネル5を内面部11、角部15および壁部16に亘って樹脂ドアインナパネル10で形成することで、ドアインナパネル5全体を金属製とする場合と比してドア全体を軽量化することができる。また、樹脂ドアインナパネル10は、射出成形などの成形により形成できるため、高い生産性を確保することができる。
【0130】
また、樹脂ドアインナパネル10と車室側補強部材30との間に、壁部16に沿って延びる閉断面55を設けることで、フロントサイドドア1に対して側突時(すなわち、ドアインナパネル5に衝突荷重が入力時)に、樹脂ドアインナパネル10において最も応力が集中する角部15と、角部15を支持する壁部16とに亘る領域の曲げ強度を高めることができる。
【0131】
すなわち、上述した本実施形態のフロントサイドドア1は、従来のように、例えば、樹脂ドアインナパネルや車室側補強部材自体をより高強度材料で形成したり、車室側補強部材と樹脂ドアインナパネルとを互いに隙間なく重ね合わせることでドアインナパネルを厚肉化して補強したりする場合と異なり、樹脂ドアインナパネル10と車室側補強部材30との間に、壁部16に沿って延びる閉断面55fを設けるという構造上の観点から樹脂ドアインナパネル10を補強するものである。
【0132】
従って、本実施形態のフロントサイドドア1は、ドアインナパネル5の一部を樹脂ドアインナパネル10により形成することで、材料コストおよび質量の増加を抑制しながらも、高強度化が要求される壁部16および角部15を含めた領域については、樹脂ドアインナパネル10と車室側補強部材30との間に、壁部16に沿って延びる閉断面55fを設けることで補強し、樹脂ドアインナパネル10の割れを抑制することができる。
【0133】
また、本実施形態のフロントサイドドア1は、上述したように、樹脂ドアインナパネル10と車室側補強部材30との間に、閉断面55fを設けることでこれら要素10,30を互いに隙間なく重ね合わせて接合する部分を低減できる。
【0134】
従って、本実施形態のフロントサイドドア1は、樹脂ドアインナパネル10と車室側補強部材30との夫々の断面形状について、互いに完全に一致するような精度が要求されないため、車室側補強部材30と樹脂ドアインナパネル10との成形性(成形時の精度のばらつき)を許容し易くなるというメリットも有する。
【0135】
要するに、本実施形態のフロントサイドドア1は、ドアの軽量化および生産性の向上と、衝突時のドア強度の確保とを両立することができる。
【0136】
この発明の態様として
図7に示すように、樹脂ドアインナパネル10には、前壁部16fの車幅方向外縁からドア正面視でドア外側(ドア中央に位置する内面部11の側と反対側)へ突出する前側外面部17f(外面部)が形成され、車室側補強部材30は、前壁部16fに沿って車幅方向に延びる前壁補強部46f(補強部材壁部)と、該前壁補強部46fの車幅方向外縁からドア外側(内面部11の側と反対側)へ延びる前側外面部補強部47f(補強部材外面部)と、該前壁補強部46fの車幅方向内縁からドア正面視でドア内側(内面部11の側)へ延びる内面部前縁補強部41f(補強部材内面部)が形成され、前壁部16fと前壁補強部46fとの間における車幅方向の全長に亘って、閉断面55fが構成されるように、前側外面部補強部47fが前側外面部17fに接合されるとともに、内面部前縁補強部41fが内面部11に接合されたものである。
【0137】
前記構成によれば、閉断面55fを前壁部16fと前壁補強部46fとの間における車幅方向の全長に亘って形成することができるため、フロントサイドドア1に対して側突時に樹脂ドアインナパネル10の破損を効果的に抑制できる。
【0138】
具体的に、フロントサイドドア1に対して側突時には、車幅方向に延びる閉断面55fの車幅方向の中心位置(
図7中の符号C参照)に対して車幅方向外側には、圧縮荷重(前後方向に沿う水平断面においてドア中央に向かう荷重)が作用するとともに車幅方向内側には、引張り荷重(同水平断面においてドア外側(ドア中央と反対側)に向かう荷重)が作用する。このため、
図7に示すように、閉断面55fを前壁部16fおよび前壁補強部46fの車幅方向の全長に亘って形成することで、該閉断面55fの車幅方向の長さを極力確保することができ、フロントサイドドア1に車幅方向外側から入力される衝突荷重に対して、ドアインナパネル5(特に樹脂ドアインナパネル10の壁部16と角部15とに亘る領域)の曲げ強度を効果的に高めることができる。従って樹脂ドアインナパネル10の破損を効果的に抑制できる。
【0139】
なお、言うまでもなく、閉断面55を、前壁部16fと前壁補強部46fとの間における車幅方向の全長に亘って延びる構成は、
図7に示す閉断面55fおよびその周辺部分に限らず、例えば、
図9、
図10に示す各閉断面55d,55rなど、他の閉断面55に適用してもよい。
【0140】
この発明の態様として
図6~
図8に示すように、前側外面部補強部47f(外面部補強部)と前側外面部17f(外面部)とは、互いに面接触状態に接合されるとともに、内面部前縁補強部41f(補強強部材内面部)と内面部11とは、互いに面接触状態に接合されたものである。
【0141】
前記構成によれば、前側外面部補強部47fと前側外面部17f、並びに内面部前縁補強部41fと内面部11を、面接触状態に接合することで、車室側補強部材30と樹脂ドアインナパネル10との接触面積を拡大してドア外周側において互いにしっかりと接合できる。従って、樹脂ドアインナパネル10は、樹脂製でありながらも、車室側補強部材30と接合することによる厚肉化により、車両走行時における剛性向上や振動抑制機能を高めることができる。
【0142】
この発明の態様として、車室側補強部材30は、金属製(当例ではアルミニウム製)であり、
図6~
図10に示すように、外面部補強部47には、ドアインナパネル5の外周縁を形成するように、樹脂ドアインナパネル10との接合部分よりもドア外側へと延出する補強部材外側フランジ部としての補強部材前側フランジ部49f(
図6~
図8参照)、補強部材下側フランジ部49d(
図9参照)および補強部材後側フランジ部49r(
図10参照)を備え、これら補強部材外側フランジ部49f,49d,49rをカシメ接続するヘム部としての前縁ヘム部6f(
図6~
図8参照)、下縁ヘム部6d(
図9参照)、後縁ヘム部6r(
図10参照)を、ドアアウタパネル4の外周縁に備えたものである。
【0143】
前記構成によれば、樹脂ドアインナパネル10は、金属製のドアアウタパネル4とは材質が異なるが、金属製の車室側補強部材30を介することでフロントサイドドア1の外周縁において金属製の部材4,30同士を互いに接合できる。
【0144】
従って、ドアインナパネル5は、主要部(内面部11、角部15および壁部16)を樹脂で形成しながらもドアアウタパネル4との接合部については、補強部材外側フランジ部49f,49d,49rとのカシメ接続によって互いの接合強度を高めることができる。
【0145】
また、車室側補強部材30は、樹脂ドアインナパネル10を壁部16と角部15とに亘る領域において、ドアアウタパネル4と協働して車幅方向に挟み込むことができるため、フロントサイドドア1に入力される側突荷重に対して樹脂ドアインナパネル10の破損を効果的に抑制できる。
【0146】
この発明の態様として
図3、
図4、
図6~
図11(a)(b)に示すように、車室側補強部材30は、樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向内側から接合されたものである。
【0147】
前記構成によれば、フロントサイドドア1に対して側突時に、樹脂ドアインナパネル10の角部15および壁部16に亘る領域において、樹脂ドアインナパネル10に対して、ドア正面視でフロントサイドドア1の外側への引張り荷重が作用する。
【0148】
このため、上述したように、車室側補強部材30を樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向内側、すなわち、車室側、換言すると前後方向に沿う水平断面或いは上下方向に沿う垂直断面において、ドア内部空間7の外側から接合することで、側突時に、引張り荷重が作用する樹脂ドアインナパネル10を車室側補強部材30によって効果的に補強することができる。
【0149】
この発明の態様として
図1、
図6、
図8に示すように、補強部材を、第1補強部材としての車室側補強部材30とし、樹脂ドアインナパネル10における壁部16と角部15とに亘る領域に、樹脂ドアインナパネル10よりも高い引張強度を有する第2補強部材としての上側ヒンジレイン95Uおよび下側ヒンジレイン95Dを車幅方向外側から接合したものである。
【0150】
前記構成によれば、フロントサイドドア1に対して側突時に、上述したように、樹脂ドアインナパネル10に作用する荷重の中でも引張り荷重に対しては、車室側補強部材30により車幅方向内側から効果的に樹脂ドアインナパネル10を補強することができる。これに加えて、樹脂ドアインナパネル10に作用する荷重の中でも圧縮荷重に対しては、第2補強部材(95U,95D)により車幅方向外側から樹脂ドアインナパネル10を補強することができる。
【0151】
さらに、前記構成によれば、第2補強部材をヒンジレイン95U,95Dとして形成することで、ヒンジレイン95U,95Dとは別途、第2補強部材を設ける場合と比してフロントサイドドア1の重量の増大を抑制できるとともに部品点数を削減できる。
【0152】
この発明の態様として
図6、
図8に示すように、車室側補強部材30とヒンジレイン95U,95Dとは、ドアヒンジ80U,80Dを樹脂ドアインナパネル10に締結する締結手段としてのボルトBおよびナットNにより、樹脂ドアインナパネル10に対して共締めされたものである。
【0153】
前記構成によれば、ドアヒンジ80U,80Dの樹脂ドアインナパネル10への上下各側の取り付け部分において、ヒンジレイン95U,95Dと車室側補強部材30とで樹脂ドアインナパネル10を、その板厚方向の両側から補強できる。
【0154】
また、ドアヒンジ80U,80Dを樹脂ドアインナパネル10に締結する締結手段(ボルトBおよびナットN)を用いて、上下各側においてヒンジレイン95U,95Dと車室側補強部材30とを、樹脂ドアインナパネル10に対して締結することで、他の取付け手段を備えずとも、樹脂ドアインナパネル10に対してヒンジレイン95U,95Dおよび車室側補強部材30を強固に取り付けることができる。
【0155】
この発明の態様として、車室側補強部材30は、アルミニウム製である。
前記構成によれば、樹脂ドアインナパネル10とアルミニウム製の車室側補強部材30とを上述したように組み合わせた構成とすることで、軽量化と高強度化との両立を図ることができる。
【0156】
さらに、樹脂ドアインナパネル10は、母材となる樹脂に対して例えば炭素繊維等の導電性部材を配合しない場合においては、該樹脂ドアインナパネル10とアルミニウム製の車室側補強部材30とを組み合わせた構成としても、互いの接触部分においてガルバニック腐食を防止できる。
【0157】
さらにまた、アルミニウムは、小さな変形で破断する樹脂とは異なり、延性に優れるという特性を有する。このような特性を有するアルミニウム製の車室側補強部材30を、特に樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向内側から接合することで、車室側補強部材30は、上述した延性に優れるというアルミニウムの特性を活かして、衝突時に樹脂ドアインナパネル10に作用する引張り荷重に対して該樹脂ドアインナパネル10を車幅方向内側から効果的に補強することができる。
【0158】
この発明の態様として、樹脂ドアインナパネル10は、熱可塑性樹脂で形成されたものである。
前記構成によれば、樹脂ドアインナパネル10の形成材料として、一般に樹脂の中でも廉価である熱可塑性樹脂を採用しながらも側突時における、樹脂ドアインナパネル10の割れや変形を抑制することができる。
【0159】
詳述すると、ドアインナパネル5は、軽量化および生産性の向上を目的として樹脂で形成された構成が知られているが、一般に、樹脂の中でも熱可塑性樹脂よりも強度が高い熱硬化性樹脂で形成される場合が多い。但し、熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂と比して硬化に時間がかかりサイクルタイム(製造時間)が長く、コストが高くなるという傾向がある。一方、ドアインナパネル5の形成材料として、廉価な熱可塑性樹脂を採用するという手段もあるが、側突時にドアの外周部に割れが生じドアの変形量を増大されるおそれがある。
【0160】
これに対して上述した本実施形態のように、樹脂ドアインナパネル10と車室側補強部材30との間に、壁部16に沿って延びる閉断面55を設けることで、衝突時に、樹脂ドアインナパネル10の曲げ強度を高めることができる。
【0161】
従って、樹脂ドアインナパネル10の形成材料として、樹脂の中でも廉価な熱可塑性樹脂を採用しながらも側突時における、フロントサイドドア1の割れや変形を抑制することができる。
【0162】
この発明の態様として
図6~
図10に示すように、角部15は、内面部11に対して車幅方向内側へ突出する突状に形成され、
図8に示すように、閉断面55fは、突状の角部15の車幅方向内縁に至るまで壁部16の車幅方向内縁よりも車幅方向内側へ延設されたものである。
【0163】
前記構成によれば、樹脂ドアインナパネル10の内面部11の外周縁に沿って形成された角部15を、車幅方向内側へ突状に形成することで、該角部15を内面部11の外周縁に沿って延びるビード状に形成することができる。これにより、樹脂ドアインナパネル10の外周縁の強度を高めることができる。
【0164】
さらに、閉断面55fを、壁部16の車幅方向内縁から突状の角部15の頂部15ft(車幅方向内縁)に至るまで車幅方向内側へ延設することで、閉断面55fを車幅方向により長く形成できるため、ドアインナパネル5の強度をより一層高めることができる。
【0165】
なお、言うまでもなく閉断面55を、壁部16の車幅方向内縁から突状の角部15の頂部15ftに至るまで車幅方向内側へ延設した構成は、
図8に示す閉断面55fおよびその周辺部分に限らず、例えば、
図6、
図7、
図9、
図10に示す各閉断面55など、他の閉断面55に適用してもよい。
【0166】
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではなく様々な実施形態で形成することができる。
例えば、本発明に備えた補強部材は、本実施形態における車室側補強部材30のように、樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向内側に設けた構成に限らず、車幅方向外側と車幅方向内側とのうち、少なくとも一方に設けられた構成とすることができる。
【0167】
ここで、上述したヒンジレイン95は、
図1、
図6、
図8に示すように、ドア正面視で樹脂ドアインナパネル10の壁部16と角部15とに亘る領域において、樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向外側に設けられている。
【0168】
このため、本発明は、本発明に備えた補強部材を、樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向外側に設ける場合には、上述した実施形態の変形例として、
図12に示すように、補強部材としてのヒンジレイン95U’(95’)を採用してもよい。すなわち、
図12に示す変形例に係るヒンジレイン95U’は、樹脂ドアインナパネル10との間に、壁部16に沿って延びる閉断面55f’が構成されるように樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向外側から接合されたものである。
【0169】
前記構成によれば、ヒンジレイン95’と樹脂ドアインナパネル10との間、すなわち、樹脂ドアインナパネル10に対してドア正面視で内側(ドア内部空間7側)に、閉断面55f’(55’)を構成できるため、上述したヒンジレイン95(
図6、
図8参照)を備える場合と比して側突時に樹脂ドアインナパネル10に作用する荷重の中でも圧縮荷重に対して、樹脂ドアインナパネル10を車幅方向外側からより一層効果的に補強することができる。
【0170】
なお、樹脂ドアインナパネル10に対して車幅方向外側に該樹脂ドアインナパネル10との間に、閉断面55’が構成される補強部材は、上述した変形例に係る上側ヒンジレイン95U’に限らず、下側ヒンジレイン(図示省略)或いは、ヒンジレイン以外のパネル部材を適用してもよい。
【0171】
また、本発明のドア構造は、車体前側の側部に設置されるフロントサイドドア1に適用するに限らず、例えば、車体の側部において、乗員が乗降する乗降用の後側開口部を開閉するリアサイドドア(図示省略)に適用してもよい。
【0172】
さらにまた、本発明のドア構造は、本実施形態のサイドドアのように、ドアサッシュ付きのサッシュドアに限らず、ドアサッシュ3を備えないサッシュレスドアに適用してもよい。
【0173】
また、本実施形態の樹脂ドアインナパネル10は、熱可塑性樹脂で形成したが、本発明に備えた樹脂ドアインナパネルは、これに限らず、熱硬化性樹脂で形成してもよい。さらにまた、本発明に備えた樹脂ドアインナパネルは、母材となる樹脂に炭素繊維等の強化繊維を含有した繊維強化樹脂により形成してもよく、母材には、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の何れを採用してもよい。
【符号の説明】
【0174】
4…ドアアウタパネル
5…ドアインナパネル
10…樹脂ドアインナパネル
11…内面部
15…角部
16…壁部
16f…前側壁部
17…外面部
6f…前縁ヘム部(ヘム部)
6d…下縁ヘム部(ヘム部)
6r…後縁ヘム部(ヘム部)
30…車室側補強部材(補強部材、第1補強部材)
41f…内面部前縁補強部(補強部材内面部)
46…壁部補強部(補強部材壁部)
47…外面部補強部(補強部材外面部)
49f…補強部材前側フランジ部(補強部材外側フランジ部)
49d…補強部材下側フランジ部(補強部材外側フランジ部)
49r…補強部材後側フランジ部(補強部材外側フランジ部)
55(55f,55f’,55d,55r)…閉断面
95(95U,95D)…ヒンジレイン(第2補強部材)
95’(95U’)…ヒンジレイン(補強部材、第2補強部材)
80U,80D…ドアヒンジ
B,N…ボルトおよびナット(締結手段)