IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日精化工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055068
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】キナクリドン固溶体顔料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/20 20060101AFI20230410BHJP
   C09B 67/22 20060101ALI20230410BHJP
   C09B 67/46 20060101ALI20230410BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20230410BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20230410BHJP
   C09B 48/00 20060101ALN20230410BHJP
【FI】
C09B67/20 C
C09B67/20 H
C09B67/22 Z
C09B67/46 A
C09B67/20 L
C09D17/00
C09D11/322
C09B48/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164175
(22)【出願日】2021-10-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100220205
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 伸和
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 尚人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸男
【テーマコード(参考)】
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
4J037CB19
4J037CB28
4J037DD05
4J037DD23
4J037FF03
4J039AD03
4J039AD09
4J039BC50
4J039BE01
4J039BE22
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】独特の中間の色味を含む多様な色相のキナクリドン固溶体顔料の実現、液色度の彩度の低下が抑制され、粒径の揃った顔料分散液等の提供。
【解決手段】粗製キナクリドン固溶体の製造工程、該固溶体の乾燥工程、乾燥した粗製キナクリドン固溶体を液媒体中で加熱して顔料化する工程、顔料化した顔料をキナクリドン系顔料誘導体で処理する工程を有し、製造工程で、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンの割合が85:15~50:50或いは20:80~50:50の固溶体に水を含む粗製キナクリドン固溶体を得、乾燥工程で水分含有量を1%未満にした粉状の粗製キナクリドン固溶体を得、前記顔料化工程で、粉状の粗製キナクリドン固溶体を液媒体中で70℃超~120℃の温度で顔料化し、前記処理工程で、液媒体を70℃以下の温度に冷却後、キナクリドン系顔料誘導体を添加して該誘導体が添加されたキナクリドン固溶体顔料を得る製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗製キナクリドン固溶体の製造工程と、粗製キナクリドン固溶体を乾燥する乾燥工程と、乾燥した粗製キナクリドン固溶体を液媒体中で加熱して顔料化する顔料化工程と、顔料化した顔料をキナクリドン系顔料誘導体で処理する処理工程とを有し、
前記粗製キナクリドン固溶体の製造工程で、ポリリン酸中で、ジアリールアミノテレフタル酸とジアルキルアリールアミノテレフタル酸とを共環化反応させて、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が85:15~50:50或いは20:80~50:50の固溶体に水を含んだ含水状態の粗製キナクリドン固溶体を得、
前記乾燥工程で、前記含水状態の粗製キナクリドン固溶体を乾燥して、水分含有量を1%未満にして粉状の粗製キナクリドン固溶体を得、
前記顔料化工程で、前記で得た粉状の粗製キナクリドン固溶体を、該粗製キナクリドン固溶体を溶解しない液媒体中で70℃超~120℃の温度で加熱して顔料化し、
前記処理工程で、前記顔料化後の加熱された液媒体を70℃以下の温度に冷却後、キナクリドン系顔料誘導体を添加して、キナクリドン固溶体顔料にキナクリドン系顔料誘導体が添加されてなるキナクリドン固溶体顔料を得ることを特徴とするキナクリドン固溶体顔料の製造方法。
【請求項2】
前記ジアリールアミノテレフタル酸が、2,5-ジアニリノテレフタル酸であり、前記ジアルキルアリールアミノテレフタル酸が、2,5-ジ(p-トルイジノ)テレフタル酸であり、且つ、前記キナクリドン系顔料誘導体が、2-フタルイミドメチルキナクリドンである請求項1に記載のキナクリドン固溶体顔料の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のキナクリドン固溶体顔料の製造方法で得られたことを特徴とするキナクリドン固溶体顔料。
【請求項4】
キナクリドン固溶体顔料と、顔料分散剤と、水とを含有してなり、前記キナクリドン固溶体顔料が、請求項3に記載のキナクリドン固溶体顔料であることを特徴とする顔料分散液。
【請求項5】
キナクリドン固溶体顔料と、顔料分散剤と、水とを含有してなり、前記キナクリドン固溶体顔料が、請求項3に記載のキナクリドン固溶体顔料又は請求項4に記載の顔料分散液に含まれるキナクリドン固溶体顔料であることを特徴とするインクジェット用インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キナクリドン固溶体顔料の製造方法、キナクリドン固溶体顔料、顔料分散液及びインクジェット用インキに関する。
【背景技術】
【0002】
キナクリドンは、鮮やかな色と耐候性を具えた性能のよい合成顔料であり、典型的には赤から紫を呈し、その色相は、共役環上の置換基や、結晶構造によって影響されることが知られている。キナクリドン系顔料の一分野のキナクリドン固溶体顔料は、有機顔料分野において多くの研究がなされている。例えば、無置換キナクリドンと2,9-ジメチルキナクリドンとの固溶体からなるキナクリドン顔料等が知られている。そして、無置換キナクリドンと2,9-ジメチルキナクリドンとからなるキナクリドン固溶体顔料については、良好な色味と良好な顔料特性を実現するための種々の提案がされている(特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1には、無置換キナクリドンと2,9-ジメチルキナクリドンとの固溶体からなるキナクリドン固溶体顔料を適用して得られた着色物が、彩度が高く且つ青味を有するものになる、新たなキナクリドン固溶体顔料の製造方法についての提案がされている。また、特許文献2では、無置換キナクリドンと2,9-ジメチルキナクリドンとの固溶体からなるキナクリドン固溶体顔料を適用して得られた着色物が、彩度が高く且つ黄味を有するものになるたなキナクリドン固溶体顔料の製造方法が提案されている。これらの従来技術は本願出願人によって開発されたものであり、これらの従来技術によれば、彩度が高い色味に加えて、キナクリドン固溶体顔料の粒子径を所望の大きさにコントロールすることができる。その他の従来技術として、特許文献3では、黄味鮮明で優れた貯蔵安定を示すとした、無置換キナクリドンと2,9-ジメチルキナクリドンとの固溶体からなるキナクリドン固溶体顔料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6697571号公報
【特許文献2】国際公開第2019/187058号
【特許文献3】特許第6769577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、従来技術によって、青味のキナクリドン固溶体顔料及び黄味のキナクリドン固溶体顔料の提供が実現されており、従来技術によって提案されているキナクリドン固溶体顔料は、広範な用途での利用が可能である。インクジェット用インキの着色剤に適用する場合は、微細で且つ粒子径が均一に揃ったものであることが要望されることから、上記した従来技術の中でも、特に、彩度が高く、顔料の粒子径をコントロールできる技術によって提供されるキナクリドン固溶体顔料を利用することが好ましい。
【0006】
上記した従来技術の状況に対して、本発明者らは、まず、従来技術によって開発された青味のキナクリドン固溶体顔料及び黄味のキナクリドン固溶体顔料によっては効果的に表現できない、これらの中間色ともいえる、程よく黄味と青味を帯びた従来にない独特の紫系の色味(色相)のキナクリドン固溶体顔料の提供を可能にする必要であると認識した。また、本発明者らは、多様な色味を実現可能にできるキナクリドン固溶体顔料の提供に加えて、例えば、インクジェット用インキの着色剤に適用した場合に、印刷物の品質をより向上させるためには、従来技術で達成されているのと同様に、微細な顔料の平均粒子径が所望の大きさにコントロールされたものであり、しかも、より粒子径の揃った顔料の提供技術が必要であるとの認識をもった。これに対し、本発明者らは、インクジェット用インキに従来のキナクリドン固溶体顔料を適用した場合に、下記に述べるような課題があることを見出した。
【0007】
近年、インクジェット記録方式によって得られる印刷物は、その利用分野が拡大しており、事務書類やパンフレットや写真の印刷物などの小型の印刷物に留まらず、大型の看板や展示物、屋内或いは屋外の装飾など、大型の印刷物への利用が拡大している。そして、耐水性や耐候性等に優れることが要求される屋外用の印刷物に用いるインクジェット用インキの着色剤には、顔料が用いられている。顔料を用いた水性顔料分散液や水性のインクジェット用インキにおいて、顔料の分散安定性や保存安定性は、達成すべき基本的な技術課題である。インクジェット用インキに適用されている顔料の大きさは用途にもよるが、例えば、50nm~200nm程度であるとされており、インキの吐出安定性から、粒子径の揃った顔料であることも要望されている。顔料の分散安定性等の技術課題は、インキに適用した顔料の粒子径が大きい場合、極めて重要なものになる。
【0008】
先に挙げた特許文献1に記載の技術によれば、顔料化工程での加熱温度を調整することで、得られるキナクリドン固溶体顔料の粒子径を適宜にコントロールすることができる。また、上記の従来技術では、粉状の粗製キナクリドン固溶体を液媒体中で加熱して顔料化する際に、キナクリドン系顔料誘導体を添加することで、キナクリドン固溶体顔料の粒子が均一になる効果を高めることができるとしている。これに対し、本発明者らは、キナクリドン系顔料誘導体を添加すると、液色度において彩度が低下する傾向があることを見出した。これらのことから、例えば、インクジェット用インキに適用した場合に、より高品質の印刷物を得るためには、より優れた特性のキナクリドン固溶体顔料を提供する技術が必要である。
【0009】
したがって、本発明の目的は、まず、従来提供されているキナクリドン固溶体顔料になかった独特の中間の色味を含め、所望する色相の、無置換キナクリドンと2,9-ジメチルキナクリドンとの固溶体からなるキナクリドン固溶体顔料を提供できる技術を実現することである。また、本発明の目的は、平均粒子径の大きさがコントロールされ、しかも、水性顔料分散液やインキに適用した場合に、顔料粒子径が揃ったキナクリドン固溶体顔料の提供が可能であり、更に、水性顔料分散液における液色度において生じることがあった彩度が低くなる傾向を効果的に抑制できる新たなキナクリドン固溶体顔料を実現できる技術を提供することにある。本発明の目的は、例えば、水性インクジェット用インキの着色剤に適用した場合に、所望する多様な色味を実現でき、しかも、より品質に優れる印刷物の提供が可能になる、分散安定性や保存安定性についても良好なキナクリドン固溶体顔料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した従来技術の課題は、下記の本発明によって達成される。
[1]粗製キナクリドン固溶体の製造工程と、粗製キナクリドン固溶体を乾燥する乾燥工程と、乾燥した粗製キナクリドン固溶体を液媒体中で加熱して顔料化する顔料化工程と、顔料化した顔料をキナクリドン系顔料誘導体で処理する処理工程とを有し、
前記粗製キナクリドン固溶体の製造工程で、ポリリン酸中で、ジアリールアミノテレフタル酸とジアルキルアリールアミノテレフタル酸とを共環化反応させて、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が85:15~50:50或いは20:80~50:50の固溶体に水を含んだ含水状態の粗製キナクリドン固溶体を得、
前記乾燥工程で、前記含水状態の粗製キナクリドン固溶体を乾燥して、水分含有量を1%未満にして粉状の粗製キナクリドン固溶体を得、
前記顔料化工程で、前記で得た粉状の粗製キナクリドン固溶体を、該粗製キナクリドン固溶体を溶解しない液媒体中で70℃超~120℃の温度で加熱して顔料化し、
前記処理工程で、前記顔料化後の加熱された液媒体を70℃以下の温度に冷却後、キナクリドン系顔料誘導体を添加して、キナクリドン固溶体顔料にキナクリドン系顔料誘導体が添加されてなるキナクリドン固溶体顔料を得ることを特徴とするキナクリドン固溶体顔料の製造方法。
【0011】
また、上記した本発明のキナクリドン固溶体顔料の製造方法の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
[2]前記ジアリールアミノテレフタル酸が、2,5-ジアニリノテレフタル酸であり、前記ジアルキルアリールアミノテレフタル酸が、2,5-ジ(p-トルイジノ)テレフタル酸であり、且つ、前記キナクリドン系顔料誘導体が、2-フタルイミドメチルキナクリドンである上記[1]に記載のキナクリドン固溶体顔料の製造方法。
【0012】
また、本発明の別の実施形態としては、下記のものが挙げられる。
[3]上記[1]又は[2]に記載のキナクリドン固溶体顔料の製造方法で得られたことを特徴とするキナクリドン固溶体顔料。
[4]キナクリドン固溶体顔料と、顔料分散剤と、水とを含有してなり、前記キナクリドン固溶体顔料が、上記[3]に記載のキナクリドン固溶体顔料であることを特徴とする顔料分散液。
[5]キナクリドン固溶体顔料と、顔料分散剤と、水とを含有してなり、前記キナクリドン固溶体顔料が、上記[3]に記載のキナクリドン固溶体顔料又は上記[4]に記載の顔料分散液に含まれるキナクリドン固溶体顔料であることを特徴とするインクジェット用インキ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来のキナクリドン系顔料になかった独特の中間の色相を含め、所望する色相の、無置換キナクリドンと2,9-ジメチルキナクリドンとの固溶体からなるキナクリドン固溶体顔料の提供が可能になる。また、本発明によれば、平均粒子径を適宜にコントロールでき、しかも、水性顔料分散液やインキに適用した場合に、分散安定性や保存安定性が良好なキナクリドン固溶体顔料の提供が可能になる。また、本発明によれば、水性顔料分散液やインキに適用した場合に、液色度において生じることがあった彩度が低くなる傾向が効果的に抑制され、更に、従来提供されている顔料に比べて、より顔料粒子径が揃ったキナクリドン固溶体顔料を提供することが可能になる。本発明によれば、例えば、水性インクジェット用インキの着色剤に適用した場合に、所望する多様な色味の、品質に優れる印刷物の実現が可能になるキナクリドン固溶体顔料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。本発明者らは、前記した従来技術における課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の知見を得、本発明を完成するに至った。
【0015】
まず、無置換キナクリドンと2,9-ジメチルキナクリドンとの固溶体からなるキナクリドン固溶体顔料において、従来、検討されていなかった、無置換キナクリドンと、2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合を50:50とした場合について検討した。その結果、従来にない特別な色味のキナクリドン固溶体顔料が実現できることを見出した。具体的には、安定した紫系の独特の色味のキナクリドン固溶体顔料が得られた。本発明者らの検討によれば、この色は、無置換キナクリドンと2,9-ジメチルキナクリドンとの固溶体からなるキナクリドン固溶体顔料において、これまでに実現されていない独特の色味である。この結果、本願出願人がこれまでに提案し、提供している青味のキナクリドン固溶体顔料及び黄味のキナクリドン固溶体顔料に加えて、その中間になる色味の実現が可能になり、色味の選択の範囲が広がったことで、今後のキナクリドン固溶体顔料の利用拡大が期待できる。
【0016】
また、本発明者らは、上記した新たな色味のキナクリドン固溶体顔料の提供に加えて、下記の効果が得られるキナクリドン固溶体顔料を見出して、本発明に至った。先述したように、本願出願人が提案している従来技術によれば、キナクリドン固溶体顔料の粒子径を所望の大きさにコントロールすることが可能である。更に、キナクリドン系顔料誘導体を添加することで、キナクリドン固溶体顔料の粒子が均一になる効果を高めることができる。しかしながら、本発明者らの更なる検討によれば、キナクリドン系顔料誘導体を添加してなるキナクリドン固溶体顔料は、顔料分散液とした場合に、その液色度において彩度が低くなる傾向があり、改善する余地があった。また、インクジェット用インキの着色剤に適用する場合には、できるだけ揃った粒子径の顔料が要望されており、この点でも改善の余地があった。
【0017】
上記課題に対し、本発明者らが検討した結果、従来のキナクリドン固溶体顔料の製造方法では、粗製キナクリドン固溶体を加熱して顔料化している際に、キナクリドン系顔料誘導体を添加しているのに対し、顔料誘導体を添加する時期を変えるだけで、色味に影響することなく、上記した課題を解決できることを見出して本発明に至った。
【0018】
「キナクリドン固溶体顔料」とは、複数の異なるキナクリドン顔料分子が溶け合った混合状態で、均一の固相状態で存在する顔料のことであり、複数の異なるキナクリドン顔料を単純に混ぜたものではない。固溶体を生成することで、色等の特性が変化することが知られている。本発明では、「無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの固溶体」の製造を目的とする。なお、これらは単独で、無置換キナクリドンは、C.I.Pigment Violet 19に該当し、2,9-ジアルキルキナクリドンは、C.I.Pigment Red 122に、それぞれ該当する。以下、本発明の製造方法について説明する。
【0019】
<キナクリドン固溶体顔料の製造方法>
本発明のキナクリドン固溶体顔料の製造方法は、粗製キナクリドン固溶体の製造工程と、粗製キナクリドン固溶体を乾燥する乾燥工程と、乾燥した粗製キナクリドン固溶体を液媒体中で加熱して顔料化する顔料化工程とを有し、更に、顔料化した顔料にキナクリドン系顔料誘導体を添加して処理する処理工程とを有することを特徴とする。上記粗製キナクリドン固溶体の製造工程で、ポリリン酸中で、ジアリールアミノテレフタル酸とジアルキルアリールアミノテレフタル酸とを共環化反応させて、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が85:15~50:50或いは20:80~50:50の固溶体に水を含んだ含水状態の粗製キナクリドン固溶体を得る。本発明の製造方法では、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が50:50の場合も含み、従来技術よりも多様な割合のキナクリドン固溶体顔料を得ることが可能であり、これにより、従来技術よりも多様な色味の着色剤の提供が可能になる。
【0020】
本発明のキナクリドン固溶体顔料の製造方法は、従来の製造方法と同様に、粗製キナクリドン固溶体を用いて顔料化する前に、含水状態の粗製キナクリドン固溶体を乾燥して、水分含有量を1%未満にして粉状の粗製キナクリドン固溶体を得る乾燥工程を有する。該乾燥工程を有することで、製造する顔料の粒径をコントロールすることができる。
【0021】
本発明のキナクリドン固溶体顔料の製造方法は、顔料化工程で、上記乾燥工程後に得た粉状の粗製キナクリドン固溶体を、該粗製キナクリドン固溶体を溶解しない液媒体中で70℃超~120℃の温度で、好ましくは、70℃超~110℃程度の温度で、加熱して顔料化し、該顔料化後の加熱された液媒体を70℃以下の温度に冷却後、キナクリドン系顔料誘導体を添加して、キナクリドン固溶体顔料にキナクリドン系顔料誘導体が添加されてなるキナクリドン固溶体顔料を得るように構成したことを特徴とする。後述するように、上記のように構成したことで、得られたキナクリドン固溶体顔料を用いて顔料分散液を調製した場合に、液色度において、彩度が低下する傾向を抑制することができる。また、顔料分散液中で、より粒子径が揃ったものになるキナクリドン固溶体顔料が得られる。その結果、例えば、本発明のキナクリドン固溶体顔料をインクジェット用インキの着色剤に用いることで、多様な色味のインキが実現できるとともに、より品質に優れた印刷物を得ることが可能になる。更に、後述するように、本発明によって得られるキナクリドン固溶体顔料は、顔料分散液やインキに適用した場合に、保存安定性及び分散性に優れるものになるので、この点でもインクジェット用インキの着色剤として有用である。
【0022】
本発明のキナクリドン固溶体顔料の製造方法を構成する、粗製キナクリドン固溶体を得るための製造工程、得られた粗製キナクリドン固溶体を乾燥する乾燥工程は、先に述べた特許文献1、2に記載されている方法とほぼ同様である。本発明のキナクリドン固溶体顔料の製造方法の、上記した従来技術と異なる点は、粗製キナクリドン固溶体を、該粗製キナクリドン固溶体を溶解しない液媒体中で加熱して顔料化し、該顔料化後の加熱された液媒体を70℃以下の温度に冷却後、キナクリドン系顔料誘導体を添加して、キナクリドン固溶体顔料にキナクリドン系顔料誘導体が添加してなるキナクリドン固溶体顔料を得るように構成したことである。顔料化の際における加熱温度や加熱時間、顔料化の際に使用する粗製キナクリドン固溶体を溶解しない液媒体は、従来のキナクリドン固溶体顔料の製造で行われている条件や液媒体をいずれも用いることができる。例えば、顔料化する際に用いる粗製キナクリドン固溶体を溶解しない液媒体としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、エタノール、プロパノール、ブタノール及びエチレングリコールのようなものが挙げられる。
【0023】
本発明では、粗製キナクリドン固溶体を液媒体中で加熱して顔料化し、該顔料化後の加熱された液媒体を冷却し、冷却した後の液媒体にキナクリドン系顔料誘導体を添加するため、顔料化が終了したキナクリドン固溶体顔料にキナクリドン系顔料誘導体を添加することになる。顔料化後に冷却した液媒体の温度は、顔料化の際の加熱温度よりも低い温度、具体的には70℃以下の温度であればよく、特に限定されない。例えば、40℃以下の、室温程度の温度とすることが好ましい。このように、本発明のキナクリドン固溶体顔料の製造方法では、キナクリドン系顔料誘導体を添加する処理を室温程度の低い温度で行うことができるので、処理作業を安全に行うことができる。加えて、室温程度まで冷却できるので、温度管理するための設備や材料などを特に必要としないという利点もある。また、本発明の構成によれば、キナクリドン系顔料誘導体を添加するよりも前に、粗製キナクリドン固溶体は顔料化が終了した状態になっているため、キナクリドン系顔料誘導体を添加する時点で、粒子径が揃った、特定の色味の顔料になっているので、その後に顔料誘導体を添加して処理したとしても、既に揃っている粒子径や、特定の色味に大きな影響を及ぼすことがないと考えられる。この結果、本発明のキナクリドン固溶体顔料の製造方法によって得られたキナクリドン固溶体顔料は、インクジェット用インキに適用した場合などにおいて、従来の固溶体顔料を着色剤に用いた場合に比べて、より優れた印刷物の提供を可能にすることができる。
【0024】
<キナクリドン固溶体顔料含有の顔料分散液>
上記したようにして得られる本発明のキナクリドン固溶体顔料は、顔料分散剤と水とを含有してなる顔料分散液とした場合に、顔料の粒子径が揃った、液色度において彩度の低下が抑制された顔料分散液になり、例えば、インクジェット用インキの着色剤として有用である。上記で使用する顔料分散剤は、特に限定されず、着色剤に顔料を用いてなるインクジェット用インキで用いられている従来公知の分散剤をいずれも用いることができる。
【0025】
<キナクリドン固溶体顔料含有のインクジェット用インキ>
本発明のインクジェット用インキは、上記で説明した本発明のキナクリドン固溶体顔料と、顔料分散剤と、水とを含有してなることを特徴とする。インクジェット用インキを調製する場合、着色剤として上記の発明のキナクリドン固溶体顔料を含有してなる顔料分散液を利用することもできる。
【0026】
本発明のインクジェット用インキは、着色剤に本発明のキナクリドン固溶体顔料を用いることで、液色度において彩度の低下の傾向が見られず、しかも、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合を適宜なものにすることで、黄味がかった色相、青味がかった色相、従来なかった黄味及び青味がかった中間の程よい色相、から選ばれる所望の色味の着色物を得ることが可能になる。本発明のインクジェット用インキを構成するキナクリドン固溶体顔料の添加量は特に限定されず、従来公知の範囲で含有させればよい。具体的には、インクジェット用インキ100質量%中に、0.5~30質量%程度であればよく、より好ましくは、4~10質量%程度である。0.5質量%未満の添加量では、印字濃度が確保できなくなる場合があり、一方、30質量%を超える添加量では、インキの粘度増加や粘度特性に構造粘性が生じ、インクジェットヘッドからのインキの吐出安定性が悪くなる場合がある。インクジェット用インキの着色剤に本発明のキナクリドン固溶体顔料を用いた場合は、従来のキナクリドン固溶体顔料を用いた場合と比較して、インキ中におけるキナクリドン固溶体顔料の粒子径が揃っており、良好な分散性と保存安定性を示すことが確認された。
【実施例0027】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明する。なお、以下における「%」及び「部」は、特に断りのない限りいずれも質量基準である。
【0028】
〔キナクリドン固溶体顔料の調製〕
[実施例1~3]
(実施例1)
まず、100mlのセパラブルフラスコに、85%リン酸32.8gを秤採り、無水リン酸49.4gを加えて、84.0%ポリリン酸を作製した。そして、内温が100℃程度まで低下したら、2,5-ジ(p-トルイジノ)テレフタル酸(DM-DATA)を10.2g、次いで、2,5-ジアニリノテレフタル酸(DATA)10.2gを徐々に加えた。添加終了後、120℃で4時間、共環化反応を行った。反応終了後、500mlビーカーに常温の水200mlを張った中に、上記で得た反応液を投入した。濾過、水洗した後、1Lのビーカーに移し、水500mlを加えて撹拌して、苛性ソーダを加えてpHを7~8に調整した。これを、濾過、湯洗して、含水状態の粗製キナクリドン固溶体を得た。この粗製キナクリドン固溶体は、無置換キナクリドンと、2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が50:50であった。
【0029】
上記で得た含水状態の粗製キナクリドン固溶体を、80℃で一晩乾燥して、水分含有量を1%未満にした。乾燥後、粉砕をして、粗製キナクリドン固溶体の粉末18.0gを得た。得られた粉末を透過型電子顕微鏡で観察したところ、長軸の平均粒子径は、約20nmであった。
【0030】
次に、上記の粉末を溶解しない液媒体としてジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて、下記のようにして粗製キナクリドン固溶体を顔料化した。具体的には、先のようにして得た粗製キナクリドン固溶体の粉末を7.0gと、ジメチルスルホキシド52.5gとを100mlのセパラブルフラスコに仕込み、30分かけて100℃まで昇温し、同温度で3時間加熱処理して顔料化した。
【0031】
上記のように加熱して顔料化した後、液媒体を40℃以下の温度に冷却した。そして、冷却後の液媒体に、キナクリドン系顔料誘導体である2-フタルイミドメチルキナクリドン粉末0.21g(添加割合3%)を加えて撹拌しながら、更に1時間処理した。顔料誘導体を添加して行う撹拌処理の終了後、濾過し、濾液が無色となるまで湯洗及び水洗をし、その後80℃で乾燥して、本実施例の、キナクリドン系顔料誘導体で処理したキナクリドン固溶体顔料の粉末を得た。
【0032】
上記のようにして得た、顔料化後のキナクリドン固溶体顔料に、キナクリドン系顔料誘導体を添加してなる顔料が、本発明が目的とするキナクリドン固溶体であることについては、粉末X線回折で確認した。具体的には、測定対象のキナクリドン固溶体顔料の粉末を所定のホルダーに詰め、粉末X線回折装置のmini Flex600(商品名、リガク社製、他の例でも同様の装置を使用)を用いて測定した。上記で得られた顔料は、粉末X線回折による2θの値で、27.3°、13.6°及び5.6°にピークを有していた。また、これらのピーク強度比は、約76:約73:100であった。
【0033】
また、透過型電子顕微鏡で、得られたキナクリドン固溶体顔料の顔料粒子を観察したところ、長軸の平均粒子径は約59nmであった。これを固溶体顔料1と呼ぶ。本明細書における長軸の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡で顔料粒子を観察し、ランダムに顔料粒子200個を選んで、それぞれの粒子の長軸の粒子径を測定し、得られた各粒子の測定値の算術平均値である。
【0034】
(実施例2)
実施例1の場合と同様にして、84.0%ポリリン酸を作製した。そして、内温が100℃程度まで低下したら、2,5-ジ(p-トルイジノ)テレフタル酸(DM-DATA)を6.12g、次いで、2,5-ジアニリノテレフタル酸(DATA)14.28gを徐々に加えた。添加終了後、120℃で4時間、共環化反応を行った。反応終了後、500mlビーカーに常温の水200mlを張った中に、上記で得た反応液を投入して、濾過、水洗した後、1Lのビーカーに移し、水500mlを加えて撹拌し、苛性ソーダを加え、pHを7~8に調整した。これを、濾過、湯洗して、含水状態の粗製キナクリドン固溶体を得た。該粗製キナクリドン固溶体は、無置換キナクリドンと、2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が、70:30であった。
【0035】
上記で得た含水状態の粗製キナクリドン固溶体を、80℃で一晩乾燥して、水分含有量を1%未満にした。乾燥後、粉砕して粗製キナクリドン固溶体の粉末17.9gを得た。得られた粉末を透過型電子顕微鏡で観察したところ、長軸の平均粒子径は、約20nmであった。
【0036】
次に、液媒体に、上記粉末を溶解しないジメチルスルホキシド(DMSO)を用い、実施例1の場合と同様にして、粗製キナクリドン固溶体を顔料化した。具体的には、粗製キナクリドン固溶体の粉末を7.0gと、ジメチルスルホキシド52.5gとを100mlのセパラブルフラスコに仕込み、30分かけて100℃まで昇温し、同温度で3時間加熱処理して顔料化した。
【0037】
上記のように加熱して顔料化した後、液媒体を40℃以下の温度に冷却した。そして、冷却後、下記のようにしてキナクリドン系顔料誘導体を添加し、撹拌処理をした。具体的には、液媒体を40℃以下に冷却した後、キナクリドン系顔料誘導体である2-フタルイミドメチルキナクリドン粉末0.21gを加え撹拌しながら、更に1時間処理した。そして、顔料誘導体を添加しての処理を行った後、濾過し、濾液が無色となるまで湯洗及び水洗し、その後80℃で乾燥し、本実施例のキナクリドン固溶体顔料の粉末を得た。
【0038】
上記で得られた顔料誘導体を添加した固溶体顔料は、粉末X線回折による2θの値で、27.4°、13.6°及び5.8°にピークを有していた。また、そのピーク強度比は、約61:約75:100であった。透過型電子顕微鏡で顔料粒子を観察したところ、長軸の平均粒子径は約60nmであった。これを単に固溶体顔料2と呼ぶ。
【0039】
(実施例3)
先ず、100mlのセパラブルフラスコに、85%リン酸65.6gを秤採り、無水リン酸98.7gを加えて、84.0%ポリリン酸を作製した。そして、内温が100℃程度まで低下したら、2,5-ジ(p-トルイジノ)テレフタル酸(DM-DATA)を14.28g、次いで、2,5-ジアニリノテレフタル酸(DATA)6.12gを徐々に加えた。添加終了後、120℃で4時間、共環化反応を行った。反応終了後、1Lビーカーに常温の水400mlを張った中に、上記で得た反応液を投入した。濾過、水洗した後、1Lのビーカーに移し、水800mlを加えて撹拌し、苛性ソーダを加えてpHを7~8に調整した。これを、濾過、湯洗して、含水状態の粗製キナクリドン固溶体を得た。該粗製キナクリドン固溶体は、無置換キナクリドンと、2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が、30:70であった。
【0040】
上記で得た含水状態の粗製キナクリドン固溶体を、80℃で一晩乾燥して、水分含有量を1%未満にした。乾燥後、粉砕して粗製キナクリドン固溶体の粉末18.1gを得た。得られた粉末を透過型電子顕微鏡で観察したところ、長軸の平均粒子径は、約20nmであった。
【0041】
次に、上記の粉末を溶解しない液媒体としてジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて、下記のようにして粗製キナクリドン固溶体を顔料化した。具体的には、上記で得た粗製キナクリドン固溶体の粉末を7.0gと、ジメチルスルホキシド70.0gとを100mlのセパラブルフラスコに仕込み、1時間かけて105℃まで昇温し、同温度で6時間加熱処理して顔料化した。
【0042】
上記のように加熱して顔料化した後、液媒体を70℃以下の温度に冷却した。そして、更に、冷却した後、下記のようにしてキナクリドン系顔料誘導体を添加・撹拌する処理をした。具体的には、70℃以下に冷却した後、キナクリドン系顔料誘導体である2-フタルイミドメチルキナクリドン粉末0.21gを加え撹拌しながら、更に1時間処理した。そして、顔料誘導体を添加しての処理を行った後、濾過し、濾液が無色となるまで湯洗及び水洗し、その後80℃で乾燥し、本実施例のキナクリドン固溶体顔料の粉末を得た。
【0043】
上記で得られた顔料は、粉末X線回折による2θの値で、27.3°、13.8°及び5.6°にピークを有しており、これらのピーク強度比は、約76:約65:100であった。また、透過型電子顕微鏡で顔料粒子を観察したところ、長軸の平均粒子径は約60nmであった。これを単に固溶体顔料3と呼ぶ。
【0044】
[比較例1~3]
(比較例1)
本比較例では、実施例1で行った、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が50:50の粗製キナクリドン固溶体を顔料化後に、キナクリドン系顔料誘導体を添加して処理することをしなかったこと以外は実施例1と同様にして、本比較例のキナクリドン固溶体顔料の粉末を得た。
【0045】
上記で得たキナクリドン固溶体顔料の粉末X線回折による2θの値で、27.3°、13.6°及び5.6°にピークを有しており、そのピーク強度比は、約78:約73:100であった。また、透過型電子顕微鏡で、上記で得たキナクリドン固溶体顔料の顔料粒子を観察したところ、長軸の平均粒子径は約60nmであった。これを単に比較顔料1と呼ぶ。上記で得た比較顔料1を用いた場合に得られる着色物における色の評価結果については、実施例と共にまとめて後述する。
【0046】
(比較例2)
本比較例では、実施例2で行った、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が70:30の粗製キナクリドン固溶体を顔料化後に、キナクリドン系顔料誘導体を添加して処理することをしなかったこと以外は実施例2と同様にして、本比較例のキナクリドン固溶体顔料の粉末を得た。
【0047】
上記で得たキナクリドン固溶体顔料は、粉末X線回折による2θの値で、27.4°、13.6°及び5.8°にピークを有しており、そのピーク強度比は、約61:約73:100であった。また、透過型電子顕微鏡で、上記で得たキナクリドン固溶体顔料の顔料粒子を観察したところ、長軸の平均粒子径は約61nmであった。これを単に比較顔料2と呼ぶ。
【0048】
(比較例3)
本比較例では、実施例3で行った、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が30:70の粗製キナクリドン固溶体を顔料化後に、キナクリドン系顔料誘導体を添加して処理することをしなかったこと以外は実施例3と同様にして、本比較例のキナクリドン固溶体顔料の粉末を得た。
【0049】
上記で得た顔料は、粉末X線回折による2θの値で、27.3°、13.9°及び5.6°にピークを有しており、そのピーク強度比は、約75:約65:100であった。また、透過型電子顕微鏡で顔料粒子を観察したところ、長軸の平均粒子径は約59nmであった。これを単に比較顔料3と呼ぶ。
【0050】
<評価1:キナクリドン固溶体顔料の色味>
実施例1~3及び比較例1~3で得たキナクリドン固溶体顔料をそれぞれに用いて、下記のようにして得た2種類の塗料で、原色塗膜と淡色塗膜とを作製した。そして、それぞれの塗膜についてL値を測定して色味を評価した。表1に、得られた結果をまとめて示した。
【0051】
1.塗料の作製
(1)ベース塗料の作製
実施例及び比較例の各顔料をそれぞれに用い、該顔料を0.8g、アルキッド-メラミン樹脂(商品名:106-3700 ラッカークリヤー アートクリヤー;イサム塗料社製)を5.0g、トルエン、酢酸エチルとブタノールが主成分であるシンナー(商品名:ニッペ2500シンナー、日本ペイント社製)を5.0g、及び、ガラスビーズ50.0gをポリ容器に仕込んだ。そして、この混合物をペイントシェーカーで1時間分散した後、上記アルキッド-メラミン樹脂を35.0gと、上記シンナー4.0gを追加し、10分間分散して各顔料の分散液を得た。得られた各分散液10.0gと、上記アルキッド-メラミン樹脂20.0gをポリ容器に仕込み、マゼルスター(商品名、クラボウ社製)で分散混合し、それぞれの顔料を含有するベース塗料(原色塗料)とした。
【0052】
(2)淡色塗料の作製
実施例及び比較例の各顔料をそれぞれに用い、該顔料を0.8g、前記したアルキッド-メラミン樹脂を5.0g、前記したシンナーを5.0g、及び、ガラスビーズ50gをポリ容器に仕込んだ。そして、この混合物をペイントシェーカーで1時間分散した後、前記したアルキッド-メラミン樹脂を35.0gと、前記したシンナー4.0gを追加し、10分間分散して各顔料の分散液を得た。得られた各分散液10.0gと、酸化チタンを主成分とする白インキ(商品名:10スーパー 300 ホワイト、日本ペイント社製)20.0gをポリ容器に仕込み、マゼルスターで分散混合し、それぞれの顔料を含有する淡色塗料とした。
【0053】
2.展色物の作製と色相評価
(1)作製した各ベース塗料を、6milのアプリケーター(塗布機)を用い展色紙上に展色し、この展色紙を室温において数時間乾燥した。このようにして作製した実施例及び比較例の各顔料を含有する塗料を用いて展色した展色紙(以下、原色塗膜と呼ぶ)を、目視観察及び測色機を用いて色相を比較評価した。その結果を表1に示した。なお、目視観察は、相対評価である。
【0054】
(2)作製した淡色塗料を、6milのアプリケーターを用い展色紙上に展色し、この展色紙を室温において数時間乾燥した。このようにして作製した展色物(以下、淡色塗膜と呼ぶ)の色相についても、上記と同様にして評価を行い、その結果を表1に示した。
【0055】
(3)上記で作製した実施例1~3と比較例1~3の各顔料を用いて得た原色塗膜及び淡色塗膜について、それぞれ測色機を用いて測色した測色値を表1に示した。その際に、分光測色計のCM-3600d(商品名、コニカミノルタ社製)を用いて測色した。Lは明度、Cは彩度であり、彩度Cは、√(a+(bで求めた。
【0056】
【0057】
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3との違いは、顔料化した顔料にキナクリドン系顔料誘導体を添加・処理したか否かだけである。表1に示したように、キナクリドン系顔料誘導体を添加し、キナクリドン系顔料誘導体が併用されている実施例1~3の固溶体顔料1~3と、キナクリドン系顔料誘導体を併用しない比較例1~3の比較顔料1~3とでは、色相(色味)は大きく変わらないことを確認した。また、実施例1~3の固溶体顔料1~3の間における違いは、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合である。この点については、表1に示したように、特にbの値に大きな違いがみられた。目視観察の結果とも一致しており、bの値が小さいほどブルーシフトして色相が青味となり、bの値が大きいほど色相が黄味となった。そして、質量割合が50:50の実施例1の固溶体顔料1の場合は、その中間の、従来にない独特の紫系の色相となった。なお、参考のために、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとを、質量割合が50:50となるように混合して得た混合物の顔料を作製したところ、色相は中間となるものの、目視観察での鮮明性が実施例1の固溶体顔料1の場合と明らかに劣ることが確認された。
【0058】
〔キナクリドン顔料誘導体の添加時期及び添加量の違いによる水性顔料分散液への影響〕
[実施例4~6、比較例4~6]
(簡易水性顔料分散液の調製)
粗製キナクリドン固溶体を加熱して顔料化した後、液媒体を冷却後に、キナクリドン顔料誘導体を3%添加してなる実施例2の、無置換キナクリドンと、2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が70:30である固溶体顔料2を用いて、下記のようにして実施例5の水性顔料分散液を得た。具体的には、実施例2の固溶体顔料2を5部、顔料分散剤を6.17部、液媒体としてジエチレングリコールモノブチルエーテル(別称:ブチルジグリコール、BDGと略)を0.75部、及び水を10.68部で配合し、プレミルベースを調製した。上記で用いた顔料分散剤は、数平均分子量が7000、酸価が155mgKOH/gの、スチレン/アクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸(質量比:50/30/20)共重合体であり、そのアンモニア中和物の水溶液(固形分30%)を使用した。次いで、上記で得られたプレミルベースを、冷却ファン付き分散機「DAS H 200」(商品名、LAU社製)を使用して分散処理を行った。4時間分散したところで分散を終了し、ミルベースを得た。
【0059】
上記で得られたミルベースを、顔料分が14%になるように水にて希釈して、顔料誘導体が添加されてなるキナクリドン固溶体顔料が分散されている、実施例5の水性顔料分散液を得た。
【0060】
上記で得た実施例5の水性顔料分散液について、粒度測定器「NICOMP 380ZLS-S」(パーティクルサイジングシステム、PSS社製)を用い、平均粒子径を測定(25℃)した。また、水性顔料分散液の液色度は、分光光度計「U-3310 spectrophotometer」(商品名、日立ハイテクノロジー社製)を使用して測色した。Lは明度、Cは彩度であり、彩度Cは、√(a+(bで求めた。水性顔料分散液の粘度については、VISCOMETER(商品名、東機産業社製)を用い、温度25℃で測定した。表2に、上記で得た実施例5の水性顔料分散液の配合と、物性の結果をまとめて示した。
【0061】
上記した実施例5の水性顔料分散液の調製に使用した、無置換キナクリドンと、2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が70:30であるキナクリドン固溶体顔料について、その製造方法を下記のように替えて製造し、得られた各キナクリドン固溶体顔料を使用して、実施例4、6の水性顔料分散液と、比較例4~6の水性顔料分散液を得た。そして、キナクリドン固溶体顔料の製造方法の条件が、これらの顔料を分散してそれぞれに得られる水性顔料分散液の特性に及ぼす影響について検討した。
【0062】
具体的には、本発明の、実施例4、6の水性顔料分散液に使用するキナクリドン固溶体顔料として、製造の際に用いるキナクリドン顔料誘導体の添加量を変更した以外は、実施例2で行ったと同様の方法で、2種類のキナクリドン固溶体顔料を調製した。次に、調製した2種のキナクリドン固溶体顔料をそれぞれに用いて、先に述べた実施例5の水性顔料分散体を得た際の方法と同様にして実施例4と実施例6の水性顔料分散液を得た。具体的には、実施例4の水性顔料分散液には、キナクリドン顔料誘導体を1%添加して調製したキナクリドン固溶体顔料を用いた。また、実施例6の水性顔料分散液には、キナクリドン顔料誘導体を5%添加して調製したキナクリドン固溶体顔料を用いた。
【0063】
また、本発明の製造方法で得たキナクリドン固溶体顔料を使用して得た実施例4~6の水性顔料分散液と比較するため、従来の製造方法で、下記の3種類のキナクリドン固溶体顔料を調製した。そして、従来の製造方法で得たキナクリドン固溶体顔料を用いて、実施例4~6の場合と同様の方法で、比較例4~6の水性顔料分散液を得た。比較例4~6の水性顔料分散液で用いた比較用のキナクリドン固溶体顔料は、下記の点が異なる製造方法で調製した。すなわち、比較用のキナクリドン固溶体顔料は、粉状の粗製キナクリドン固溶体を液媒体中で、100℃で3時間加熱処理して顔料化する際に、所望量のキナクリドン系顔料誘導体を添加した状態で顔料化することで得た、加熱状態でキナクリドン顔料誘導体を添加して得た固溶体顔料である。これに対し、本発明の製造方法では、粗製キナクリドン固溶体を液媒体中で加熱して顔料化後、液媒体を冷却し、その後にキナクリドン顔料誘導体を添加して、キナクリドン顔料誘導体が添加されたキナクリドン固溶体顔料を得ている。比較例4~6の各水性顔料分散液に用いた比較用のキナクリドン固溶体顔料は、それぞれ、実施例4~6の各水性顔料分散液で用いたキナクリドン固溶体顔料と、キナクリドン顔料誘導体の添加量(1%、3%、5%)において同様である。
【0064】
(簡易水性顔料分散液の評価)
上記で得た実施例4、6の水性顔料分散液と、比較例4~6の水性顔料分散液について、先に説明した実施例5の水性顔料分散液の場合と同様の方法で、分散している顔料の平均粒子径と、顔料分散液の粘度、顔料分散液の液色度を、それぞれ測定した。表2に、得られた結果をまとめて示した。
【0065】
【0066】
表2に示した通り、実施例4~6の水性顔料分散液と、それぞれに対応する比較例4~6の水性顔料分散液との基本的な違いは、顔料分散液に用いたキナクリドン固溶体顔料を製造する際における、キナクリドン系顔料誘導体の添加時期のみである。具体的には、本発明の実施例の顔料分散液で使用したキナクリドン固溶体顔料の場合は、粉状の粗製キナクリドン固溶体を、該粗製キナクリドン固溶体を溶解しない液媒体中で加熱して顔料化した後、液媒体を40℃以下の温度に冷却し、その後にキナクリドン系顔料誘導体を添加し処理している。これに対し、比較例4~6の水性顔料分散液では、粉状の粗製キナクリドン固溶体を液媒体中で加熱して顔料化する際にキナクリドン系顔料誘導体を添加して、顔料誘導体が併存する状態で顔料化してキナクリドン固溶体顔料を得ている。
【0067】
上記したように、本発明の実施例の水性顔料分散液と、対応する比較例の水性顔料分散液との違いは、基本的に、使用したキナクリドン固溶体顔料における、キナクリドン系顔料誘導体の添加時期のみである。本発明者らは、表2に示したように、違いがこの点のみであるにもかかわらず、実施例の水性顔料分散液は、比較例の水性顔料分散液と比べて、下記の点で特性の優れたものになることを見出した。具体的には、水性顔料分散液中におけるキナクリドン固溶体顔料の平均粒子径(nm)は、実施例の顔料分散液においては、キナクリドン系顔料誘導体の添加量に影響を受けることなく、安定した大きさになっているのに比較して、比較例の顔料分散液の場合は、キナクリドン系顔料誘導体の添加量を変化させたことが顔料分散液中の固溶体顔料の平均粒子径(nm)に影響を及ぼし、安定した大きさにならなかった。また、実施例と比較例の水性顔料分散液について測定した液色度を比較すると、表2に示した通り、実施例4~6の水性顔料分散液の彩度Cの値に比べて、比較例4~6の水性顔料分散液では、液色度の彩度Cの値が低くなる傾向がみられた。この液色度の彩度Cの値が低くなる傾向は、キナクリドン系顔料誘導体の添加量が多い程、顕著であった。これに対し、本発明の実施例の水性顔料分散液の場合は、キナクリドン系顔料誘導体の添加量にかかわらず、液色度の彩度Cの値が高く、しかも安定したものになる。
【0068】
上記した効果が得られた理由について、本発明者らは、下記のように考えている。すなわち、従来の製造方法では、加熱して顔料化する顔料化工程の際にキナクリドン系顔料誘導体を添加していたのに対し、本発明のキナクリドン固溶体顔料の製造方法では、顔料化工程後に、液媒体を冷却し、その後にキナクリドン固溶体顔料にキナクリドン系顔料誘導体を添加させているため、添加の際に既に顔料粒子は整っており、この結果、顔料誘導体の添加によって、水性顔料分散液中における顔料の平均粒子径や液色度に変化がないものにできたと考えている。なお、色味については、実施例4~6で用いたキナクリドン固溶体顔料は、比較例4~6で用いたキナクリドン固溶体顔料と同様であり、異なるものではない。
【0069】
〔本発明のキナクリドン固溶体顔料のインクジェット用水性顔料インキへの適用〕
(簡易インクジェット用水性顔料インキ1の作製)
次に、簡易インクジェット用水性顔料インキを調製して、本発明のキナクリドン固溶体顔料をインクジェット用水性顔料インキに適用した場合の効果について検討した。まず、先に調製した実施例1のキナクリドン固溶体顔料を用い、先に説明した実施例4~6の水性顔料分散液を得たと同様にして水性顔料分散液1を得た。上記実施例1のキナクリドン固溶体顔料は、顔料化後に、キナクリドン顔料誘導体を3%添加してなる、無置換キナクリドンと、2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が50:50のものである。
【0070】
上記で得た水性顔料分散液1を使い、簡易インクジェット用水性顔料インキ1(以下、インクジェット用インキ1と呼ぶ)を得た。具体的には、該水性顔料分散液の6.43部に対し、BDGを0.45部、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(BTG)を0.9部、グリセリンを3.06部、界面活性剤の「サーフィノール465」(商品名、エア・プロダクツ社製)0.18部、水を加えて全量が18部になるように調整し、十分撹拌し、インクジェット用インキ1を得た。
【0071】
得られたインクジェット用インキ1中の顔料の平均粒子径を、先に説明した水性顔料分散液で用いたと同様の方法で測定(25℃)したところ、122nmであった。また、先に説明した水性顔料分散液で用いたと同様の方法で測定したインクジェット用インキ1の粘度は、3.51mPa・sであった。
【0072】
(簡易インクジェット用水性顔料インキ2~6の作製)
先に調製した実施例2、3のキナクリドン固溶体顔料をそれぞれ用い、上記の水性顔料分散液1を得たと同様にして、水性顔料分散液2、3を得た。使用した実施例2のキナクリドン固溶体顔料は、無置換キナクリドンと、2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が70:30のものであり、また、使用した実施例3のキナクリドン固溶体顔料は、質量割合が30:70のものである。実施例2、3のキナクリドン固溶体顔料は、いずれも、粗製キナクリドン固溶体を加熱して顔料化後、液媒体を冷却してキナクリドン顔料誘導体を3%添加して調製したものである。
【0073】
また、実施例1~3のキナクリドン固溶体顔料に替えて、それぞれ比較例1~3のキナクリドン固溶体顔料を用いた以外は、上記した水性顔料分散液1と同様にして、水性顔料分散液4~6を得た。水性顔料分散液4~6に用いた比較例1~3のキナクリドン固溶体顔料は、キナクリドン顔料誘導体の添加をしなかったこと以外は、実施例1~3のキナクリドン固溶体顔料と同様の方法で調製されたものである。
【0074】
先に記載したインクジェット用インキ1の調製で用いた水性顔料分散液1に替えて、上記で得た水性顔料分散液2~6をそれぞれに用いた以外は上記したと同様の手法で、簡易インクジェット用水性顔料インキ2~6(以下、インクジェット用インキ2~6と呼ぶ)を作製した。そして、得られたインクジェット用インキ2~6について、それぞれ、インキ中に含有されている顔料の平均粒子径(nm)を、インクジェット用インキ1で行ったと同様の方法で測定(25℃)した。また、先に説明した水性顔料分散液で用いたと同様の方法でインクジェット用インキ2~6の粘度(mPa・s)を測定した。そして、結果を表3にまとめて示した。
【0075】
(簡易インクジェット用水性顔料インキの評価)
1.分散安定性・保存性安定性の評価
上記で作製したインクジェット用インキ1~6のそれぞれについて、その分散安定性・保存性安定性を下記の方法及び基準で評価した。まず、各インクジェット用インキについて、試験する前の初期と、70℃で7日放置した後における、粘度(mPa・s)と平均粒子径(nm)とをそれぞれ測定した。そして、これらの測定値を用いて、放置した期間内に生じた粘度及び粒子径の変化率(%)を算出した。表3中に、初期と7日後の平均粒子径と、その変化率をまとめて示した。なお、変化率は、(7日後の値)-(初期の値)の式で差を求め、該差を初期の値で除して、100分率(%)を用いて記載した。そして、インクジェット用インキ1~6の分散安定性・保存性安定性の評価を、粒子径の変化については、粒子径の変化率が±5%以下の場合を◎とし、それ以外を×として表3中に示した。また、粘度の変化については、粘度の変化率が±2%以下の場合を◎とし、それ以外を×として表3中に示した。
【0076】
【0077】
2.印刷物の品質評価
上記で作製したインクジェット用インキ1~6を、それぞれインキカートリッジに充填し、インクジェットプリンタを使用して、(i)専用写真用光沢紙(PGPP)と、(ii)普通紙の2種類の紙に、フォトモードで印刷してそれぞれ印刷物を得た。インクジェットプリンタには、「PM4000PX」(商品名、セイコーエプソン社製)を使用した。また、普通紙には、「Xerox Business 4200紙」(商品名、米国Xerox社製)を使用した。その結果、いずれの水性顔料インキも、インクジェットのノズルから問題なく吐出可能であることを確認した。
【0078】
上記のようにして印刷して得られた各印刷物の品質を、分光測色計「i1ベーシックPro」(商品名、X-rite社製)を使用して評価した。具体的には、得られた各印刷物について、分光測色計で、彩度Cと光学濃度(OD値)を以下の条件で測定し、評価した。そして、測定結果を表4に示した。また、目視による色味の観察結果を併せて示した。なお、光学濃度(OD値)及び彩度Cは、いずれも数値が大きい方が優れると評価できる。
【0079】
[測定条件]
普通紙の光学濃度(OD値):6箇所各3回の測定平均値
普通紙の光学特性(彩度C):6箇所各1回の測定平均値
専用写真用光沢紙の光学濃度(OD値):3箇所各1回の測定平均値
専用写真用光沢紙の光学特性(彩度C):3箇所各1回の測定平均値
【0080】
表4に示した通り、上記のようにして得た各印刷物は、いずれも、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合によって異なる、それぞれの色味を有し、しかも、普通紙及び光沢紙のいずれにおいても、高い光学濃度を示す良好な画像であることが確認できた。表4に示したように、特に光沢紙に形成した印刷物では、キナクリドン顔料誘導体を添加した実施例のキナクリドン固溶体顔料を用いたインキの印刷物の方が、キナクリドン顔料誘導体を添加しない比較例のインキを用いた印刷物よりも、OD値が高めになる傾向が認められた。また、表4に示したように、インキ中の顔料の平均粒子径は、実施例1~3のキナクリドン固溶体顔料を用いたインキの方が、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合によらず、インキ中における顔料の粒子径が揃う傾向が見られた。また、実施例1~3のキナクリドン固溶体顔料を用いたインキは、キナクリドン顔料誘導体を添加したキナクリドン固溶体顔料を用いているにもかかわらず、キナクリドン顔料誘導体を添加していない比較例と比較して、特に彩度Cが低下するような傾向はみられないことを確認した。
【0081】
【手続補正書】
【提出日】2022-02-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗製キナクリドン固溶体の製造工程と、粗製キナクリドン固溶体を乾燥する乾燥工程と、乾燥した粗製キナクリドン固溶体を液媒体中で加熱して顔料化する顔料化工程と、顔料化した顔料をキナクリドン系顔料誘導体で処理する処理工程とを有し、
前記粗製キナクリドン固溶体の製造工程で、ポリリン酸中で、ジアリールアミノテレフタル酸とジアルキルアリールアミノテレフタル酸とを共環化反応させて、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が85:15~50:50或いは20:80~50:50の固溶体に水を含んだ含水状態の粗製キナクリドン固溶体を得、
前記乾燥工程で、前記含水状態の粗製キナクリドン固溶体を乾燥して、水分含有量を1%未満にして粉状の粗製キナクリドン固溶体を得、
前記顔料化工程で、前記で得た粉状の粗製キナクリドン固溶体を、該粗製キナクリドン固溶体を溶解しない液媒体中で70℃超~120℃の温度で加熱して顔料化し(但し、環化反応によって得られた粗キナクリドン固溶体100部に対して、キナクリドン顔料誘導体0.1~10部、および500~1500部の有機溶媒および/または水の顔料スラリーを80~150℃で加熱処理する工程を有さない)
前記処理工程で、前記顔料化後のキナクリドン固溶体を含む加熱された液媒体を70℃以下の温度に冷却後、キナクリドン系顔料誘導体を添加して、キナクリドン固溶体顔料にキナクリドン系顔料誘導体が添加されてなるキナクリドン固溶体顔料を得ることを特徴とするキナクリドン固溶体顔料の製造方法。
【請求項2】
前記ジアリールアミノテレフタル酸が、2,5-ジアニリノテレフタル酸であり、前記ジアルキルアリールアミノテレフタル酸が、2,5-ジ(p-トルイジノ)テレフタル酸であり、且つ、前記キナクリドン系顔料誘導体が、2-フタルイミドメチルキナクリドンである請求項1に記載のキナクリドン固溶体顔料の製造方法。
【請求項3】
前記液媒体が、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、エタノール、プロパノール、ブタノール及びエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項1又は2に記載のキナクリドン固溶体顔料の製造方法。
【請求項4】
前記得られるキナクリドン固溶体顔料が、インクジェット用インキに用いるものである請求項1~3のいずれか1項に記載のキナクリドン固溶体顔料の製造方法
【手続補正書】
【提出日】2022-05-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗製キナクリドン固溶体の製造工程と、粗製キナクリドン固溶体を乾燥する乾燥工程と、乾燥した粗製キナクリドン固溶体を液媒体中で加熱して顔料化する顔料化工程と、顔料化した顔料をキナクリドン系顔料誘導体で処理する処理工程とを有し、
前記粗製キナクリドン固溶体の製造工程で、ポリリン酸中で、ジアリールアミノテレフタル酸とジアルキルアリールアミノテレフタル酸とを共環化反応させて、無置換キナクリドンと2,9-ジアルキルキナクリドンとの質量割合が85:15~50:50或いは20:80~50:50の固溶体に水を含んだ含水状態の粗製キナクリドン固溶体を得、
前記乾燥工程で、前記含水状態の粗製キナクリドン固溶体を乾燥して、水分含有量を1%未満にして粉状の粗製キナクリドン固溶体を得、
前記顔料化工程で、キナクリドン顔料誘導体を添加することなく、前記で得た粉状の粗製キナクリドン固溶体を、該粗製キナクリドン固溶体を溶解しない液媒体中で70℃超~120℃の温度で加熱して顔料化し、
前記処理工程で、前記顔料化後のキナクリドン固溶体を含む加熱された液媒体を70℃以下の温度に冷却後、キナクリドン系顔料誘導体を添加して、キナクリドン固溶体顔料にキナクリドン系顔料誘導体が添加されてなるキナクリドン固溶体顔料を得ることを特徴とするキナクリドン固溶体顔料の製造方法。
【請求項2】
前記ジアリールアミノテレフタル酸が、2,5-ジアニリノテレフタル酸であり、前記ジアルキルアリールアミノテレフタル酸が、2,5-ジ(p-トルイジノ)テレフタル酸であり、且つ、前記キナクリドン系顔料誘導体が、2-フタルイミドメチルキナクリドンである請求項1に記載のキナクリドン固溶体顔料の製造方法。
【請求項3】
前記液媒体が、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、エタノール、プロパノール、ブタノール及びエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項1又は2に記載のキナクリドン固溶体顔料の製造方法。
【請求項4】
前記得られるキナクリドン固溶体顔料が、インクジェット用インキに用いるものである請求項1~3のいずれか1項に記載のキナクリドン固溶体顔料の製造方法。