(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055089
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/16 20060101AFI20230410BHJP
G01N 25/22 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
G01N27/16 B
G01N25/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164206
(22)【出願日】2021-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 洋
(72)【発明者】
【氏名】奥田 和冶
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 裕正
【テーマコード(参考)】
2G040
2G060
【Fターム(参考)】
2G040AB12
2G040AB16
2G040BA04
2G040BA23
2G040CA02
2G040CA13
2G040CA22
2G040DA02
2G040DA12
2G040DA22
2G040EA02
2G040EB02
2G040FA10
2G040GA05
2G060AA02
2G060AB03
2G060AB17
2G060AB18
2G060AE19
2G060AF09
2G060BA03
2G060BB02
2G060BD01
2G060HB06
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】ガスセンサの感度を向上する。
【解決手段】ガスセンサ(1)は、被検知ガスの燃焼熱により抵抗値が変化することに基づいて被検知ガスを検出する検出素子(10)と、被検知ガスと接触することで、被検知ガスの濃度に応じて熱が収奪されることにより抵抗値が変化する補償素子(20)と、を備え、補償素子(20)を構成する貴金属線材(22)は、被検知ガスとしての可燃性ガスに対して活性が抑えられるように構成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検知ガスの燃焼熱により抵抗値が変化することに基づいて前記被検知ガスを検出する検出素子と、
前記被検知ガスと接触することで、前記被検知ガスの濃度に応じて熱が収奪されることにより抵抗値が変化する補償素子と、を備え、
前記補償素子を構成する貴金属線材は、前記被検知ガスとしての可燃性ガスに対して活性が抑えられるように構成される、ガスセンサ。
【請求項2】
前記貴金属線材には、前記可燃性ガスに対する前記貴金属線材の活性を抑える不活性膜が設けられる、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記貴金属線材には、前記可燃性ガスに対する前記貴金属線材の活性を抑える不活性材料が含まれている、請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記可燃性ガスは水素原子を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記検出素子は、前記検出素子を構成する貴金属線材と、当該貴金属線材を覆い、前記可燃性ガスと接触して燃焼させる担体部と、からなり、
前記担体部は、前記可燃性ガスに対して活性な貴金属触媒を担持して構成される、請求項1から4のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記検出素子および前記補償素子のうち前記検出素子にのみ、前記可燃性ガスに対して活性な触媒が担持されている、請求項1から5のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項7】
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型センサである、請求項1から6のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、検知対象ガスの燃焼熱に応じて抵抗値が変化する検知抵抗体と、検知抵抗体との間で熱を伝導するように配設され且つ検知対象ガスに対して活性を有する触媒を含む触媒層と、を有する接触燃焼式ガスセンサが開示されている。触媒層の表面には、検知対象ガスに対して非活性である犠牲層が配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の接触燃焼式ガスセンサでは、検知対象ガスが可燃性ガスである場合、特定の可燃性ガスと検知抵抗体との間に活性がある。このため、上記接触燃焼式ガスセンサでは、特定の可燃性ガスに対して感度を十分に維持することができないという問題があった。本開示は、ガスセンサの感度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本開示の一側面に係るガスセンサは、被検知ガスの燃焼熱により抵抗値が変化することに基づいて前記被検知ガスを検出する検出素子と、前記被検知ガスと接触することで、前記被検知ガスの濃度に応じて熱が収奪されることにより抵抗値が変化する補償素子と、を備え、前記補償素子を構成する貴金属線材は、前記被検知ガスとしての可燃性ガスに対して活性が抑えられるように構成される。
【0006】
上記構成によれば、補償素子を構成する貴金属線材が可燃性ガスに対して活性が抑えられるため、貴金属線材と可燃性ガスとの活性による補償素子の抵抗値の変化を低減することができる。このため、検出素子および補償素子を用いて可燃性ガスの濃度に応じた可燃性ガスの検出を適切に行うことができ、ガスセンサの感度を向上することができる。
【0007】
前記貴金属線材には、前記可燃性ガスに対する前記貴金属線材の活性を抑える不活性膜が設けられてもよい。不活性膜が貴金属線材に設けられることにより、可燃性ガスに対する貴金属線材の活性を容易に抑えることができる。
【0008】
前記貴金属線材には、前記可燃性ガスに対する前記貴金属線材の活性を抑える不活性材料が含まれていてもよい。貴金属線材に不活性材料が含まれることにより、可燃性ガスに対する貴金属線材の活性を容易に抑えることができる。
【0009】
前記可燃性ガスは水素原子を含んでもよい。水素原子を含む可燃性ガスに対しても貴金属線材の活性を抑えることができる。
【0010】
前記検出素子は、前記検出素子を構成する貴金属線材と、当該貴金属線材を覆い、前記可燃性ガスと接触して燃焼させる担体部と、からなり、前記担体部は、前記可燃性ガスに対して活性な貴金属触媒を担持して構成されてもよい。検出素子の担体部は、貴金属触媒を担持して構成されるため、当該担体部と被検知ガスとの反応性を向上させることができ、ガスセンサの検出精度を向上させることができる。
【0011】
前記検出素子および前記補償素子のうち前記検出素子にのみ、前記可燃性ガスに対して活性な触媒が担持されていてもよい。補償素子には、可燃性ガスに対して活性な触媒が担持されていないため、触媒と可燃性ガスとの反応が生じにくくなる。このため、可燃性ガスの燃焼による補償素子の抵抗値の変化を低減することができる。
【0012】
前記ガスセンサは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型センサであってもよい。ガスセンサが、微細加工が可能なMEMS技術を用いて形成されたMEMS型センサであるため、貴金属線材の線幅および膜厚の微調整が容易である。よって、可燃性ガスに対して活性な触媒が補償素子に担持されていない場合であっても、可燃性ガスの検出に必要な補償素子の抵抗値を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様によれば、ガスセンサの感度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の実施形態1に係るガスセンサを示す平面図である。
【
図3】
図1に示すガスセンサに含まれる検出回路の構成例を示す回路図である。
【
図4】
図1に示すガスセンサが備える検出素子による検出結果を示すグラフである。
【
図5】
図1に示すガスセンサが備える補償素子による検出結果を示すグラフである。
【
図6】
図1に示すガスセンサが備える検出素子および補償素子による合成出力の検出結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態1〕
<ガスセンサ1の概略構成>
以下、本開示の実施形態1のガスセンサ1について、
図1から
図3を用いて詳細に説明する。
図1は、本開示の実施形態1に係るガスセンサ1を示す平面図である。
図2は、
図1のII-II線断面図である。
図2の(A)はガスセンサ1の断面図であり、
図2の(B)は貴金属線材22付近の断面図である。
図3は、
図1に示すガスセンサ1に含まれる検出回路の構成例を示す回路図である。
【0016】
図1及び
図2の(A)において、ガスセンサ1は、検出素子10と、補償素子20と、を備える。検出素子10は、被検知ガスの燃焼熱により抵抗値が変化することに基づいて被検知ガスを検出する接触燃焼式の素子である。補償素子20は、検出素子10の検出結果を補償するものであり、被検知ガスと接触することで、被検知ガスの濃度に応じて熱が収奪されることにより抵抗値が変化する素子である。このように、検出素子10の検出原理は、補償素子20の検出原理とは異なる。
【0017】
被検知ガスは、検出素子10に含まれる担体部13での反応(燃焼)によって水を発生し得るガスを少なくとも1つ含んでいる。具体的にいえば、被検知ガスは、水素、メタン、イソブタン、エタン、プロパンなどの水素原子を含む可燃性ガスである。
【0018】
<検出回路の構成>
ガスセンサ1は、例えば、ブリッジ回路を含んだ検出回路を備える。すなわち、本実施形態の検出回路は、
図3に示すように、検出素子10、補償素子20、抵抗71及び抵抗72を有するブリッジ回路と、電源73と、電圧計74と、を備える。電源73は、当該ブリッジ回路に電力供給を行う。電圧計74は、当該ブリッジ回路の電圧を検出してガスセンサ1のセンシング結果として出力するためのものである。
【0019】
検出素子10は、被検知ガスが燃焼し易い所定の燃焼温度(例えば、300℃~700℃)で維持されるように、電源73からの電力供給が行われるようになっている。また、補償素子20は、被検知ガスの燃焼以外の温度変化(例えば、周囲温度の変化)を基に、検出素子10の抵抗値の変化を補償する。
【0020】
検出素子10と補償素子20とは同じ抵抗値に設定されている。それゆえ、被検知ガスがガスセンサ1の周囲に存在しない場合には、上記ブリッジ回路は平衡状態となり、電圧計74の出力(つまり、センシング結果)は被検知ガスが存在しないことを示す0の値となる。
【0021】
一方、被検知ガスが存在する場合には、検出素子10の温度が上記燃焼に伴い上昇し、検出素子10の抵抗値もまた大きい値となる。このため、上記検出回路では、そのブリッジ回路の平衡がくずれて、電圧計74の出力は、被検知ガスの濃度に比例して、0の値よりも大きくなる。これにより、ガスセンサ1は、被検知ガスの濃度を検出することができる。
【0022】
<ガスセンサ1の要部構成>
図1及び
図2の(A)に示すように、ガスセンサ1は、例えば、シリコンで構成された基板30と、基板30上に形成された絶縁膜40と、検出素子10を支持する第1支持部11と、補償素子20を支持する第2支持部21と、を備える。検出素子10は、基板30に形成された凹部31上で支持され、補償素子20は、基板30に形成された凹部32上で支持される。
【0023】
絶縁膜40は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンまたはこれらの積層膜を用いて構成されており、凹部31及び凹部32の各表面を除いた、基板30での被検知ガスの曝露面側に形成されている。
【0024】
第1支持部11は、複数の架橋部、例えば、4つの架橋部15を介して、凹部31の上方で中空に浮かんだ状態で基板30に取り付けられている。すなわち、4つの架橋部15の各一端部は第1支持部11に連結され、4つの架橋部15の各他端部は基板30に連結されている。第1支持部11及び架橋部15は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化タンタルまたはこれらの積層膜を用いて構成されている。
【0025】
第2支持部21は、複数の架橋部、例えば、4つの架橋部25を介して、凹部32の上方で中空に浮かんだ状態で基板30に取り付けられている。すなわち、4つの架橋部25の各一端部は第2支持部21に連結され、4つの架橋部25の各他端部は基板30に連結されている。第2支持部21及び架橋部25は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンまたはこれらの積層膜を用いて構成されている。
【0026】
<検出素子10の構成>
検出素子10は、貴金属線材12と、担体部13と、からなる。貴金属線材12は、検出素子10を構成するものであり、第1支持部11に設けられる。貴金属線材12は、例えば、プラチナ等を用いて構成されており、上記ブリッジ回路での検出電極を兼用している。つまり、貴金属線材12は、電源73からの電力に応じて担体部13を加熱するとともに、担体部13での貴金属線材12による加熱及び被検知ガスとの燃焼による温度上昇に応じて抵抗値が変化する。そして、貴金属線材12の抵抗値の変化が、被検知ガスの濃度の検出の検出データとして用いられる。
【0027】
具体的にいえば、貴金属線材12では、その一端部及び他端部が架橋部15上に設けられた薄膜配線51及び52にそれぞれ接続されている。また、薄膜配線51は、上記ブリッジ回路での検出素子10と抵抗72との接続点に繋がれる電極パッド61に接続されている。また、薄膜配線52は、上記ブリッジ回路での検出素子10と補償素子20との接続点に繋がれる電極パッド62に接続されている。
【0028】
電極パッド61及び62は、図示しないリード線を介してそれぞれ電源73の一端及び電圧計74の一端に接続されている。これにより、検出素子10では、電源73からの電力供給が行われるとともに、被検知ガスの濃度検出が可能となる。
【0029】
担体部13は、貴金属線材12の上方で貴金属線材12に接触するように設けられる。担体部13は、貴金属線材12を覆い、可燃性ガスと接触して燃焼させる。担体部13は、例えば、アルミナまたはシリカアルミナ等を用いる担体に、例えば、パラジウムまたはプラチナ等の水素などの可燃性ガスに対して活性な貴金属触媒を担持して構成される。
【0030】
このように、検出素子10の担体部13は、上記貴金属触媒を担持して構成されるため、担体部13と被検知ガスとの反応性を向上させることができ、ガスセンサ1の検出精度を向上させることができる。また、担体部13は、例えば、塗布法により、上記貴金属触媒と上記担体触媒とを第1支持部11上に設けた後、例えば、電気炉にて焼成することにより、第1支持部11上に形成される。
【0031】
なお、第1支持部11は、基板30に対して離間されるため、貴金属線材12で生じた熱が基板30に放熱されることを抑制することができ、担体部13での温度低下を抑えて、ガスセンサ1の省電力化を図ることができる。
【0032】
また、上記の説明では、
図2の(A)に示すように、貴金属線材12を露出させて担体部13に直接的に接触するように第1支持部11に設けた場合を例示して説明した。しかしながら、本実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、貴金属線材12を第1支持部11の内部に埋設する構成でもよい。
【0033】
<補償素子20の構成>
補償素子20は、貴金属線材22からなる。貴金属線材22は、補償素子20を構成するものであり、第2支持部21に設けられる。貴金属線材22は、例えば、プラチナ等を用いて構成されており、上記ブリッジ回路での補償用検出電極を兼用している。貴金属線材22は、被検知ガスの濃度に応じて熱が収奪されることにより抵抗値が変化する。そして、貴金属線材22の抵抗値の変化が、被検知ガスの濃度の検出の際に補償用のデータとして用いられる。
【0034】
具体的にいえば、貴金属線材22では、その一端部及び他端部が架橋部25上に設けられた薄膜配線53及び54にそれぞれ接続されている。また、薄膜配線53は電極パッド62に接続されており、薄膜配線54は、上記ブリッジ回路での補償素子20と抵抗71との接続点に繋がれる電極パッド63に接続されている。なお、
図1では、貴金属線材22の詳細な形状の図示を省略している。
【0035】
電極パッド62及び63は、図示しないリード線を介してそれぞれ電圧計74の一端及び電源73の他端に接続されている。これにより、補償素子20では、電源73からの電力供給が行われるとともに、被検知ガスの濃度検出での補償が可能となる。
【0036】
また、上述したように、検出素子10は担体部13を有するのに対し、補償素子20は担体部を有さない。換言すると、検出素子10および補償素子20のうち検出素子10のみが担体部を有する。よって、検出素子10には、上記貴金属触媒が担持されているのに対し、補償素子20には、可燃性ガスに対して活性な触媒が担持されていない。
【0037】
つまり、検出素子10および補償素子20のうち検出素子10にのみ、可燃性ガスに対して活性な触媒が担持されている。よって、補償素子20には、可燃性ガスに対して活性な触媒が担持されておらず、触媒と可燃性ガスとの反応による可燃性ガスの燃焼が生じないため、検出素子10に比べて可燃性ガスに対して反応しにくい。このため、可燃性ガスの燃焼による補償素子20の抵抗値の変化を低減することができる。
【0038】
図2の(B)に示すように、貴金属線材22は、第2支持部21上に設けられている。
図2の(A)では、絶縁膜F1および不活性膜23の図示を省略している。第2支持部21と貴金属線材22との間には、酸化タンタル等の絶縁膜F1が設けられている。
【0039】
貴金属線材22は、検出素子10を構成する貴金属線材12と同じ材質であるが、可燃性ガスに対する貴金属線材22の活性を抑える不活性膜23が設けられる。貴金属線材22と不活性膜23との間には、絶縁膜F1が設けられている。絶縁膜F1は、第2支持部21と貴金属線材22との密着性、および、貴金属線材22と不活性膜23との密着性を向上させるためのものであるが、絶縁膜F1はなくてもよい。
【0040】
不活性膜23が貴金属線材22に設けられることにより、可燃性ガスに対する貴金属線材22の活性を容易に抑えることができる。不活性膜23は、例えば、酸化シリコン等の可燃性ガスに対して不活性な不活性材料を用いて構成されている。また、不活性膜23は絶縁性材料からなってもよい。不活性膜23は、貴金属線材22を覆うように貴金属線材22に設けられている。
【0041】
このように、貴金属線材22に不活性膜23が設けられることにより、貴金属線材22は、被検知ガスとしての可燃性ガスに対して活性が抑えられるように構成される。よって、補償素子20を構成する貴金属線材22が可燃性ガスに対して活性が抑えられるため、貴金属線材22と可燃性ガスとの活性による補償素子20の抵抗値の変化を低減することができる。このため、検出素子10および補償素子20を用いて可燃性ガスの濃度に応じた可燃性ガスの検出を適切に行うことができ、ガスセンサ1の感度を向上することができる。
【0042】
なお、貴金属線材22に不活性膜23が設けられる構成は、貴金属線材22について可燃性ガスに対して活性を抑えるための構成の一例である。貴金属線材22について可燃性ガスに対して活性を抑えるための構成の他の一例は実施形態2で説明する。さらに、貴金属線材22は、水素原子を含む可燃性ガスに対して活性が抑えられるように構成されるため、水素原子を含む可燃性ガスに対しても貴金属線材22の活性を抑えることができる。
【0043】
ガスセンサ1は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)構造を有している。MEMS構造とは、シリコン基板などの基板の上に微細加工技術によって素子構成要素の少なくとも一部を集積化したデバイス構造のことを意味する。ガスセンサ1は、MEMS構造を有することにより、従来のガスセンサと比べて、小型化が可能で、低消費電力での駆動が可能である。
【0044】
ここで、触媒が補償素子20に担持されていない場合、補償素子20の放熱量が少なくなる。そして、補償素子20の温度が上昇して補償素子20の抵抗値が高くなり、検出素子10の抵抗値と補償素子20の抵抗値とのバランスがくずれることを防ぐ必要がある。検出素子10の抵抗値と補償素子20の抵抗値とのバランスがくずれることを防ぐために、貴金属線材22の抵抗値を微調整する必要がある。
【0045】
MEMS技術を用いない場合、貴金属線材の抵抗値を調整するためには、貴金属線材の線径を変更するしかないため、貴金属線材の抵抗値を微調整することが困難であった。これに対し、本実施形態のガスセンサ1はMEMS技術を用いて形成されているため、貴金属線材22の線幅および膜厚を容易に微調整することができるため、貴金属線材22の抵抗値を微調整することができる。
【0046】
よって、触媒が補償素子20に担持されていない場合の貴金属線材22の抵抗値および温度のそれぞれが、触媒が補償素子に担持されている場合の補償素子の貴金属線材の抵抗値および温度とは大きな差がないようにすることができる。したがって、補償素子20による検出素子10の検出結果を補償する機能を十分に担保することができ、ガスセンサ1の感度を向上することができる。
【0047】
以上により、ガスセンサ1が、微細加工が可能なMEMS技術を用いて形成されたMEMS型センサであるため、貴金属線材22の線幅および膜厚の微調整が容易である。よって、可燃性ガスに対して活性な触媒が補償素子20に担持されていない場合であっても、可燃性ガスの検出に必要な補償素子20の抵抗値を得ることができる。
【0048】
<検出素子10による検出結果>
図4は、
図1に示すガスセンサ1が備える検出素子10による検出結果を示すグラフである。
図4において、横軸がガス濃度[%LEL]であり、縦軸が可燃性ガスに対する検出素子10のセンサ出力[mV]である。また、
図4において、M1は可燃性ガスがメタンである場合を示し、I1は可燃性ガスがイソブタンである場合を示し、H1は可燃性ガスが水素である場合を示している。
【0049】
検出素子10と可燃性ガスとの反応に伴って検出素子10の温度が上昇して検出素子10の抵抗値が高くなるため、
図4に示すように、可燃性ガスの濃度が高くなるにつれて、検出素子10のセンサ出力もプラスに大きくなる。また、可燃性ガスがメタンおよびイソブタンである場合に比べて、可燃性ガスが水素である場合では、検出素子10のセンサ出力がプラスに大きくなっている。
【0050】
<補償素子20による検出結果>
図5は、
図1に示すガスセンサ1が備える補償素子20による検出結果を示すグラフである。
図5において、横軸がガス濃度[%LEL]であり、縦軸が可燃性ガスに対する補償素子20のセンサ出力[mV]である。また、
図5に示すM1、I1及びH1の意味はそれぞれ、
図4に示すM1、I1及びH1と同じである。
【0051】
補償素子20と可燃性ガスとの接触に伴って補償素子20の熱が収奪されて補償素子20の温度が下降するため、
図5に示すように、可燃性ガスの濃度が高くなるにつれて、補償素子20のセンサ出力もマイナスに大きくなる。また、可燃性ガスがメタンおよびイソブタンである場合に比べて、可燃性ガスが水素である場合では、補償素子20のセンサ出力がマイナスに大きくなっている。
【0052】
<検出素子10および補償素子20による検出結果>
図6は、
図1に示すガスセンサ1が備える検出素子10および補償素子20による合成出力の検出結果を示すグラフである。
図6において、横軸がガス濃度[%LEL]であり、縦軸が可燃性ガスに対する検出素子10のセンサ出力と補償素子20のセンサ出力との合成出力[mV]である。また、
図6に示すM1、I1及びH1の意味はそれぞれ、
図4に示すM1、I1及びH1と同じである。
【0053】
図6に示すように、
図4の場合と同様、可燃性ガスの濃度が高くなるにつれて、上記合成出力もプラスに大きくなる。また、可燃性ガスがメタンおよびイソブタンである場合に比べて、可燃性ガスが水素である場合では、上記合成出力が大きくなっている。以上により、ガスセンサ1は、メタンおよびイソブタンよりも水素を高精度に検出できることが実証された。
【0054】
〔実施形態2〕
本開示の実施形態2について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0055】
本実施形態では、貴金属線材22に不活性膜23が設けられずに、貴金属線材22には、可燃性ガスに対する貴金属線材22の活性を抑える不活性材料が含まれている。当該不活性材料は、例えば、酸化シリコン、鉛、ビスマス等の可燃性ガスに対して不活性な材料である。貴金属線材22に不活性材料が含まれることにより、可燃性ガスに対する貴金属線材22の活性を容易に抑えることができる。
【0056】
〔実施形態3〕
本開示の実施形態3について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、実施形態1及び2にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0057】
本実施形態では、
図2の(B)に示すように、貴金属線材22に不活性膜23が設けられるとともに、貴金属線材22には、可燃性ガスに対する貴金属線材22の活性を抑える不活性材料が含まれている。当該不活性材料は、例えば、酸化シリコン、鉛、ビスマス等の可燃性ガスに対して不活性な材料である。上記構成により、可燃性ガスに対する貴金属線材22の活性を効果的に抑えることができる。
【0058】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1 ガスセンサ
10 検出素子
12、22 貴金属線材
13 担体部
20 補償素子
23 不活性膜