(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055179
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】座屈式衝撃吸収構造体
(51)【国際特許分類】
F16F 7/12 20060101AFI20230410BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20230410BHJP
B60R 19/03 20060101ALI20230410BHJP
B60R 19/18 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
F16F7/12
F16F7/00 K
B60R19/03 B
B60R19/18 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021178282
(22)【出願日】2021-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】512220721
【氏名又は名称】株式会社ハナイ
(72)【発明者】
【氏名】花井 幹夫
【テーマコード(参考)】
3J066
【Fターム(参考)】
3J066AA02
3J066AA23
3J066BA03
3J066BB01
3J066BC01
3J066BF02
3J066BG01
(57)【要約】
【課題】飛び込んでくる車両等からの物理的衝撃(2トン車が時速60km程度で衝突した際の物理的衝撃よりも大きい)であっても、車両にできるだけ打撃を与えること無く、柔らかく(ソフトに)吸収する座屈式衝撃吸収構造体を提供すること。
【解決手段】2個の中空三次元構造体20を合体させることにより形成された衝撃吸収構造体10であって、中空三次元構造体20は、互いに平行の位置関係にある、面積の異なる上面30と底面40を有しており、上面30の面積は、底面40の面積よりも小さくなるように形成されており、面積の異なる上面30と底面40は共通の中心軸50を有しており、2個の中空三次元構造体20を合体させる際、2個の中空三次元構造体20の上面30側を共有することにより形成された座屈式衝撃吸収構造体10とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個の中空三次元構造体を合体させることにより形成された衝撃吸収構造体であって、
前記中空三次元構造体は、互いに平行の位置関係にある、面積の異なる上面と底面を有しており、
前記上面の面積は、前記底面の面積よりも小さくなるように形成されており、
面積の異なる前記上面と前記底面は共通の中心軸を有しており、
前記2個の中空三次元構造体を合体させる際、前記2個の中空三次元構造体の上面側を共有することにより形成された座屈式衝撃吸収構造体。
【請求項2】
前記2個の中空三次元構造体は同一形状であることを特徴とする請求項1に記載の座屈式衝撃吸収構造体。
【請求項3】
前記上面、及び前記底面の形状は、円形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の座屈式衝撃吸収構造体。
【請求項4】
前記上面、及び前記底面の形状は、六角形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の座屈式衝撃吸収構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(追突される)車両の後部側に設置するための座屈式衝撃吸収構造体に関する。さらに言えば、飛び込んでくる車両等からの物理的衝撃を、(追突される)車両にできるだけ打撃を与えること無く、柔らかく(ソフトに)吸収する座屈式衝撃吸収構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
主に後方からの車両等の衝突時における衝撃を緩和するために、即ち、衝突時に発生する物理的衝撃を吸収するために、(追突される)車両の後部側に何らかの衝撃吸収構造体を設置することが知られている。衝撃吸収構造体の一例としては、鋼板を垂直に曲げたものを組み合わせて枡(マス)の連続体を構成し(冷凍庫で氷を作るときに使用するアイテムのイメージ)、それぞれの枡(マス)の中に発泡材を設置し、枡(マス)の連続体全体を金属枠で取り囲むようにして形成された衝撃吸収装置等が知られている。
【0003】
現状における衝撃吸収効果としては、2トン車が時速60km程度の速度で衝突した際の物理的衝撃に対応するのが限度であるとも言われており、更に大きな物理的衝撃に対応できる衝撃吸収構造体に対する需要もある。衝突時に発生する物理的衝撃を柔らかく(ソフトに)吸収するためには、衝撃吸収構造体の衝突方向における長さがある程度必要になって来るが、衝撃吸収構造体の衝突方向における長さが長いと、その分、モーメント力(長さに比例する)が発生するため(いわゆるダレが発生する)衝撃吸収構造体の車両への設置強度が弱くなり好ましく無いと言える。
【0004】
特許文献1には、「車両に対して前後方向から加わる衝突エネルギーを吸収緩和のみならず、側面方向から加わる衝突エネルギーをも吸収緩和でき、運転手や同乗者等の衝突安全性を確保できる衝撃吸収構造体と、この衝撃吸収構造体を構成する衝撃吸収板を簡単な構造で提供すること。」を課題として、「前フレームまたは後フレームの外側に補助フレームを有し、前フレームまたは後フレームと各補助フレームとの間に、特には,水平断面が略S字形状または略Ω形状の湾曲状に形成された(複数の)衝撃吸収板が車両左右方向並びに前後方向に介装されており、例えば正面衝突時に負荷される衝突エネルギーによって、衝撃緩衝板は横ズレなく押し潰され、衝撃緩衝板は横ズレ変形して圧潰され、この過程で衝突エネルギーを吸収緩和して運転手や同乗者等の衝突安全性を確保できるようになっている」衝撃吸収構造体(特許文献1:発明の名称)が開示されている(特許文献1:要約:解決手段から抜粋)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る発明は、前輪用フレームおよび後輪用フレームの外側にそれぞれ略コ字形状の補助フレームを備えるとともに、この補助レームと各フレームの間に、例えば水平断面が略S字形状または略Ω形状の衝撃吸収板を介装すると、車両左右方向に備えた衝撃吸収板の主として圧潰変形および横ズレ変形によって、車両の全方向から加わる衝撃エネルギーを吸収緩和できる。しかしながら、特許文献1に係る発明は、その構造上、2トン車が時速60km程度で衝突した際の物理的衝撃に対応するのが限度であるとも言われており、更に大きな物理的衝撃に対応できるものでは無いと思われる。
【0007】
本発明の目的は、飛び込んでくる車両等からの物理的衝撃(2トン車が時速60km程度で衝突した際の物理的衝撃よりも大きい)であっても、車両にできるだけ打撃を与えること無く、柔らかく(ソフトに)衝撃力を吸収することができる座屈式衝撃吸収構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願請求項1に記載した発明は、
2個の中空三次元構造体を合体させることにより形成された衝撃吸収構造体であって、
前記中空三次元構造体は、互いに平行の位置関係にある、面積の異なる上面と底面を有しており、
前記上面の面積は、前記底面の面積よりも小さくなるように形成されており、
面積の異なる前記上面と前記底面は共通の中心軸を有しており、
前記2個の中空三次元構造体を合体させる際、前記2個の中空三次元構造体の上面側を共有することにより形成された座屈式衝撃吸収構造体であることを特徴とするものである。
【0009】
本願請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明において、前記2個の中空三次元構造体は同一形状である座屈式衝撃吸収構造体であることを特徴とするものである。
【0010】
本願請求項3に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した発明において、前記上面、及び前記底面の形状は、円形状である座屈式衝撃吸収構造体であることを特徴とするものである。
【0011】
本願請求項4に記載した発明は、請求項1または請求項2記載した発明において、前記上面、及び前記底面の形状は、六角形状である座屈式衝撃吸収構造体であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る座屈式衝撃吸収構造体は、2個の中空三次元構造体を合体させることにより形成されている。そして、座屈式衝撃吸収構造体を形成する中空三次元構造体は、互いに平行の位置関係にある、面積の異なる上面と底面を有しており、上面の面積は、底面の面積よりも小さくなるように形成されている。さらに、面積の異なる上面と底面は共通の中心軸を有しており、2個の中空三次元構造体を合体させる際、2個の三次元構造体の上面側を共有することにより形成されている。
【0013】
座屈式衝撃吸収構造体は、互いに平行の位置関係にある、(中空三次元構造体の)上面の面積は、(中空三次元構造体の)底面の面積よりも小さくなるように形成されており、しかも、面積の異なる(中空三次元構造体)上面と(中空三次元構造体)底面は共通の中心軸を有している。座屈式衝撃吸収構造体に車両が衝突する際は、必ず、座屈式衝撃吸収構造体の面積の大きい(両側の)底面側から変形(座屈)が始まることになるので、座屈式衝撃吸収構造体の変形過程が安定しており、座屈式衝撃吸収構造体が安定的に変形する(潰れる)(
図3参照)。
【0014】
従って、座屈式衝撃吸収構造体が、車両から衝撃力を逃がすこと無く、確実に衝撃力を吸収することができる。本発明に係る座屈式衝撃吸収構造体により、飛び込んでくる車両等からの物理的衝撃(2トン車が時速60km程度で衝突した際の物理的衝撃よりも大きい)であっても、車両にできるだけ打撃を与えること無く、柔らかく(ソフトに)吸収する座屈式衝撃吸収構造体を提供することができるようになった。尚、座屈式衝撃吸収構造体を、衝撃力を受ける方向に複数個(現状は4個程度まで)直列に連結して使用することもできる。これについては後程説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る座屈式衝撃吸収構造体の正面図、及び上面図である。
【
図2】座屈式衝撃吸収構造体の使用状態を説明するための図である。
【
図3】座屈式衝撃吸収構造体の座屈する過程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<座屈式衝撃吸収構造体の構造>
以下、本発明に係る座屈式衝撃吸収構造体10について、
図1~
図3を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明に係る座屈式衝撃吸構造体10の正面図(上図)、及び上面図(下図)である。
【0017】
本発明に係る座屈式衝撃吸収構造体10は、
図1正面図に記載したように、2個の中空三次元構造体20を合体させることにより形成された衝撃吸収構造体である。
図1(a)は、中空三次元構造体20が円錐台である円錐台タイプであり、
図1(b)は、中空三次元構造体20が正六角錐台である正六角錐台タイプである。尚、中空三次元構造体20の形状は、上面30の面積が、底面40の面積よりも小さくなるように形成され、上面30と底面40が互いに平行の位置関係にあり、上面30と底面40が共通の中心軸50を有した中空三次元構造体20であれば、円錐台、正六角錐台に限定されることは無く、円錐台、正六角錐台以外の形状であっても良いことは言うまでもない。
【0018】
座屈式衝撃吸収構造体10は、2個の中空三次元構造体20を合体させる際、2個の中空三次元構造体20の上面30側を共有することにより形成されている。中空三次元構造体20の詳細な形状は、
図1(a)の円錐台タイプであれば、上面30の直径は底面40の直径の1/2程度(3/8~5/8)、底面40と側面のなす角α(
図1に記載)は60°~70°であることが望ましい。
図1(b)の正六角錐台タイプであれば、上面30の直径(対角長)は、底面40の直径(対角長)の1/2程度(3/8~5/8)、底面40と側面のなす角は60°~70°(
図1(a)、
図1(b)正面図参照)であることが衝撃吸収性能の観点からも望ましい。座屈式衝撃吸収構造体10の材質は、アルミニウムを採用しているがアルミニウム以外であっても、即ち、鉄、ステンレス等でも良い。軽量化のために、衝撃吸収性能に影響を与えない程度に、底面40側に円形状等の抜き部(開口部)を形成しても良い。
【0019】
座屈式衝撃吸収構造体10が全体として(即ち、2個の中空三次元構造体20を合体させることにより形成することで)和太鼓の一種である堤太鼓のような形状になっている理由は、座屈式衝撃吸収構造体10が飛び込んできた車両等から衝撃を受けた際、断面積が大きい方(両端にある底面40)から徐々に中心に向かって潰れていくように設計したからである。即ち、座屈式衝撃吸収構造体10が衝撃力を受けた際の変形過程が安定していることを重視したためであり、座屈式衝撃吸収構造体10が変形すること(潰れること:
図3参照)により、衝撃力を吸収することになるからである。
【0020】
図2は、本発明に係る座屈式衝撃吸収構造体10の使用状態を説明するための図である。座屈式衝撃吸収構造体10を実際に(車両の後部側に)設置する際は、より効果的に衝撃力を吸収するため、単体で使用するのでは無く、
図2に記載したように、座屈式衝撃吸収構造体10を(4個程度)並列に並べて金属製の枠内に収まるように配置することになる。尚、
図2に記載したものは、1個の座屈式衝撃吸収構造体10を並列に並べたものであるが、衝撃吸収性能を高めるために、座屈式衝撃吸収構造体10を直列に連結(4個程度まで)したものを並列に配置することもできる。
【0021】
衝撃吸収性能を最大限に発揮させるための理想は、(飛び込んでくる車両に掛かる)荷重グラフ(縦軸:荷重、横軸:時間)を右肩上がりにすることである。即ち、衝突当初は(飛び込んでくる車両に対し)低い荷重を掛けて、徐々に(飛び込んでくる車両に)掛かる荷重を大きくして行くのが理想と言われている。
【0022】
衝撃吸収性能を最大限に発揮させるための理想状態にするために、座屈式衝撃吸収構造体10を直列に連結(4個程度まで)して使用する際、飛び込んでくる車両側の座屈式衝撃吸収構造体10の板厚を薄いものにして、車両に近づくに連れて徐々に薄い板厚から板厚を厚くする事により、理想の荷重グラフ曲線に近づけることができる。要するに衝突当初は、板厚が薄いから(飛び込んでくる車両に対する)衝突抵抗が小さく、板厚を大きくすることで、徐々に(飛び込んでくる車両に対する)衝突抵抗を大きくするように座屈式衝撃吸収構造体10の直列連結体を設計することもできる。
【0023】
図3は、座屈式衝撃吸収構造体10の座屈する過程を説明するための図である。「座屈」とは、座屈式衝撃吸収構造体10が、
図3に記載した通りの形状に潰れた状態になることである。座屈式衝撃吸収構造体10は、車両の後部側に設置することにより、飛び込んでくる車両等からの物理的衝撃を吸収するものである。即ち、飛び込んでくる車両等からの物理的衝撃を形状変化に変換することで吸収するものである。
【0024】
従って、座屈式衝撃吸収構造体10を、安定して座屈させること(安定座屈と言う:
図3参照)が重要であり、そのために座屈式衝撃吸収構造体10の形状が工夫されているのである。もし仮に、衝撃吸収構造体の形状が全体として(堤太鼓のような形状では無く)筒状であったとすれば、安定座屈にはならず、衝撃力が逃げてしまうため潰れにくいし、変型過程も安定しないものになってしまうので全く好ましくない。
【0025】
<座屈式衝撃吸収構造体の効果>
座屈式衝撃吸収構造体10は、飛び込んでくる車両等からの物理的衝撃を(座屈式衝撃吸収構造体10の)形状を変化させること(要するに潰れること:
図3参照)により吸収するものである。そのためには、座屈式衝撃吸収構造体10の形状が、衝撃を受けた際、衝撃力を逃すことなく真面に受け止めて、安定座屈できるような形状にすることが大きな特徴であると言える。
【0026】
発明者らは、衝撃吸収構造体の形状を工夫することにより、座屈式衝撃吸収構造体10が衝撃を受けた際に、安定座屈することを目標にして設計した。座屈式衝撃吸収構造体10は、2個の中空三次元構造体20を合体させることにより形成されている。そして、座屈式衝撃吸収構造体10を形成する中空三次元構造体20は、面積の異なる上面30と底面40を有しており、上面30の面積は、底面40の面積よりも小さくなるように形成されている。さらに、面積の異なる上面30と底面40は共通の中心軸50を有しており、2個の中空三次元構造体20を合体させる際、2個の中空三次元構造体20の上面30側を共有することにより形成されている。
【0027】
更に言えば、円錐台等(を組み合わせた形状)にした事により、座屈が底面の寸法の大きい方からの変形座屈が始まるように設計されていること、座屈式衝撃吸収構造体10の長さが長い場合でもモーメント力が掛かりにくい形状(底面40側に抜き部を設ける等の工夫をしていることでダレにくい形状としたことが特徴であると言える。衝撃吸収構造体の衝突方向における長さが長いと、その分、モーメント力(長さに比例する)が発生するため(いわゆるダレが発生する)座屈式衝撃吸収構造体10の車両への設置強度が弱くなり好ましく無いと言える。
【0028】
座屈式衝撃吸収構造体10を車両(追突される側)に設置することにより、飛び込んでくる車両等からの物理的衝撃(2トン車が時速60km程度で衝突した際の物理的衝撃よりも大きい)であっても、車両にできるだけ打撃を与えること無く、柔らかく(ソフトに)吸収する座屈式衝撃吸収構造体を提供することができるようになった。
【0029】
<座屈式衝撃吸収構造体の変更例>
本発明に係る座屈式衝撃吸収構造体は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、中空三次元構造体、上面、底面、中心軸等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る座屈式衝撃吸収構造体は、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、に関する車両の衝撃を吸収する構造体に関する分野等で好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
10・・座屈式衝撃吸収構造体
20・・中空三次元構造体
30・・上面
40・・底面
50・・中心軸