IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成ワッカーシリコーン株式会社の特許一覧

特開2023-55188シリコーンエマルジョン組成物及び該組成物を用いた剥離被膜の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055188
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】シリコーンエマルジョン組成物及び該組成物を用いた剥離被膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/05 20060101AFI20230410BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230410BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20230410BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230410BHJP
   C08L 83/06 20060101ALI20230410BHJP
   C08J 7/043 20200101ALI20230410BHJP
   B05D 5/08 20060101ALI20230410BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230410BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
C08L83/05
C09D5/02
C09D183/04
C09D7/63
C08L83/06
C08J7/043 Z CFH
B05D5/08 Z
B05D7/24 302Y
B05D7/24 301F
C08K5/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065972
(22)【出願日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2021164186
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中田 湧也
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 憲二
【テーマコード(参考)】
4D075
4F006
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB24Z
4D075BB26Z
4D075CA07
4D075DA04
4D075DB06
4D075DB07
4D075DB13
4D075DB18
4D075DB36
4D075DB38
4D075DB39
4D075DB40
4D075DB42
4D075DB48
4D075DB53
4D075DC21
4D075DC24
4D075DC50
4D075EA06
4D075EA13
4D075EB43
4F006AA11
4F006AA31
4F006AB20
4F006AB39
4F006AB64
4F006AB67
4F006AB73
4F006BA11
4F006EA05
4J002CP041
4J002CP122
4J002CP132
4J002DE026
4J002EC047
4J002ED027
4J002ED038
4J002ED068
4J002EH038
4J002EH048
4J002EH098
4J002EH158
4J002FD141
4J002FD142
4J002FD318
4J002GH00
4J002HA07
4J038DL031
4J038JA27
4J038JC38
4J038KA03
4J038KA04
4J038KA06
4J038MA10
4J038NA01
4J038NA10
4J038NA12
4J038PA19
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】本発明は、薄く、均一に塗布可能で、かつ塗工外観に優れた剥離被膜を与える剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物及びこれを用いた剥離被膜の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)アルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサンと、(B)水素原子を含油するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金系触媒と、乳化剤とを含む剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物において、特定のグリコールを配合する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均組成式が一般式(1)で表され、1分子中にケイ素原子と結合したアルケニル基を2個以上含有するジオルガノポリシロキサンと、
SiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、Rはア
ルケニル基、aは0.998~2.998、bは0.002~2、a+bは1~3である。)
(B)平均組成式が一般式(2)で表され、1分子中にケイ素原子と結合した水素原子を2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
SiO(4-c-d)/2 (2)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、cは0.998~2.998、dは0.002~2、c+dは1~3である)
(C)20℃における表面張力が25~50mN/mであるグリコールと、
(D)白金族系触媒と、
(E)乳化剤と、
(F)水と、
を含む、シリコーンエマルジョン組成物。
【請求項2】
前記(C)成分は数平均分子量が150以下であり、HLB値が6.0以上8.0未満であるグリコールを含む、請求項1に記載のシリコーンエマルジョン組成物。
【請求項3】
前記(C)成分は、下記一般式(3)で表されるグリコールである、請求項1または請求項2に記載のシリコーンエマルジョン組成物。
O(CHCHRO)H ・・・(3)
(Rは、水素原子、炭素数が1~6の、置換基を有してよいアルキル基またはアルケニル基を表し、Rは水素又はメチル基を表し、nは1~3の自然数を示す)
【請求項4】
前記(C)成分は、
数平均分子量が100以上である第1のグリコールと、
数平均分子量が80以下である第2のグリコールとを含む、
請求項1または請求項2に記載のシリコーンエマルジョン組成物。
【請求項5】
前記(C)成分は、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルと、エチレングリコールとを含む、請求項1または請求項2に記載のシリコーンエマルジョン組成物。
【請求項6】
前記第1のグリコールと、前記第2のグリコールとの配合比率(第1のグリコール)/(第2のグリコール)は、1.0/1.0~3.0/1.0である、請求項4に記載のシリコーンエマルジョン組成物。
【請求項7】
基材上に形成される剥離被膜の塗工外観を改善するための方法であって、
(A)平均組成式が一般式(1)で表され、1分子中にケイ素原子と結合したアルケニル基を2個以上含有するジオルガノポリシロキサンと、
SiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、Rはア
ルケニル基、aは0.998~2.998、bは0.002~2、a+bは1~3である。)
(B)平均組成式が一般式(2)で表され、1分子中にケイ素原子と結合した水素原子を2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
SiO(4-c-d)/2 (2)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、cは0.998~2.998、dは0.002~2、c+dは1~3である)
(D)白金族系触媒と、
(E)乳化剤と、
(F)水と、を含む、基材に塗布するための水中油型シリコーンエマルジョン組成物に、
(C)20℃における表面張力が25~50mN/mであるグリコールを配合する、塗工外観改善方法。
【請求項8】
(A)平均組成式が一般式(1)で表され、1分子中にケイ素原子と結合したアルケニル基を2個以上含有するジオルガノポリシロキサンと、
SiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、Rはア
ルケニル基、aは0.998~2.998、bは0.002~2、a+bは1~3である。)
(B)平均組成式が一般式(2)で表され、1分子中にケイ素原子と結合した水素原子を2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
SiO(4-c-d)/2 (2)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、cは0.998~2.998、dは0.002~2、c+dは1~3である)
(C)20℃における表面張力が25~50mN/mであるグリコールと、
(D)白金族系触媒と、
(E)乳化剤と、
(F)水と、を含む剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物の製造方法であって、
前記(A)成分を乳化して(A)成分含有乳化物を得る(A)成分乳化工程と、
前記(B)成分を乳化して(B)成分含有乳化物を得る(B)成分乳化工程と、
前記(A)成分含有乳化物と、前記(B)成分含有乳化物のうち少なくとも一方を含む乳化物に、前記(C)成分を添加する(C)成分添加工程と、
を含む、剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物を基材に塗布する工程と、
前記基材に塗布された前記シリコーンエマルジョン組成物を乾燥させて塗膜を得る工程と、
前記塗膜が付着した前記基材を、加熱することにより、前記基材上に剥離被膜を形成する工程と、
を含む、剥離被膜の製造方法。
【請求項10】
前記剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物の固形分量は3質量%以下であり、
前記剥離被膜を形成する工程は、前記塗膜が付着した前記基材を延伸させることなしに加熱する工程である、
請求項9に記載の方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄く均一に塗布可能で、かつ塗工外観に優れた剥離被膜を与える剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物及びこれを用いた剥離被膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンを主成分とする剥離被膜用組成物は、基材表面へのコーティングにより、基材表面に剥離特性、離型性、撥水性等の性能を付与できることが知られている。たとえば、粘着剤やセラミックコンデンサー等の電子部品の製造に使用される、保護フィルムや剥離フィルムにおいて、基材であるプラスチックフィルム表面にシリコーン硬化皮膜を形成することにより、プラスチックフィルムに剥離性を付与することが行われている。
また、近年、タッチパネルやディスプレーなどの光学用接着剤向けやセラミックコンデンサーなどの電子部品の工程用に剥離被膜が用いられている。
【0003】
シリコーンを主成分とする剥離被膜用組成物は、溶剤型、無溶剤型、エマルジョン型に大別される。
溶剤型は、有機溶剤に剥離被膜組成物を溶解させたものである。有機溶剤を用いるため、人体への安全性、環境への負荷、コスト高の問題があった。
そこで、有機溶剤を含まない無溶剤系の剥離被膜用組成物も使用されているが、溶剤系に比べて、粘度が高いことから、塗工厚を薄くすることが難しく、コスト高になる問題があった。
エマルジョン型は、乳化剤によりコーティング組成物をエマルジョンとしたものであり、塗工厚を薄くすることが可能である。
【0004】
剥離被膜用組成物をシート状の基材に塗布する工程には、基材を製造・延伸する工程で剥離被膜用組成物を塗布する「インラインフィルムコーティング」と、シート状基材を製造する工程を行い、その後に系外で剥離被膜用組成物を塗布する工程を独立して実施する「オフラインフィルムコーティング」の2種類がある。
これまでは、インラインフィルムコーティングにはエマルジョン型の剥離被膜用組成物が主に使用され、オフラインフィルムコーティングには溶剤型または無溶剤型の剥離被膜用組成物が主に使用されていた。
【0005】
オフラインフィルムコーティングにおいて溶剤型を使用すると、使用される有機溶剤に起因する安全性、環境負荷の観点から問題がある。しかし溶剤を使用しない無溶剤型に変更しようとすると、溶剤型を前提とした設備の大幅な変更が必要となり、設備投資費用が大きくなってしまう。
そこでエマルジョン型に変更することが考えられるが、剥離被膜用組成物を水中油型シリコーンエマルジョンとすると、基材への濡れ性が悪く、均一に塗布するためには塗工厚を厚くせざるを得なかった。塗工厚を薄くしようとすると、シート状の基材に塗布した際に基材表面でエマルジョンがはじかれて均一に塗布できないという問題があった。
【0006】
例えば特許文献1ではエマルジョン型の剥離被膜用組成物が開示されており、インラインフィルムコーティングにもオフラインフィルムコーティングにも使用し得ることが記載されている。インラインフィルムコーティングの場合には、塗工厚を厚くすることにより均一な塗膜を得たのちに、基材を延伸することにより膜厚を薄くすることが可能である。しかしオフラインフィルムコーティングの場合には、剥離被膜用組成物を塗布後に基材の延伸は行われないため、塗膜を基材の延伸により薄膜化することはできない。そこで薄膜化のため、塗布量を少なくすることが考えられるが、塗膜の均一性が不十分になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-119852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の背景から、塗工厚を薄くすることが可能であり、特にオフラインフィルムコーティングにおいて均一に塗布可能な剥離被膜用エマルジョン組成物が求められていた。
また、剥離被膜には高い透明性が求められるが、塗布後の塗膜の均一性が不十分である場合には、硬化後の剥離被膜に曇りが発生したり、水玉状の紋様が発生したりすることにより塗工外観が悪くなる傾向にある。剥離被膜の剥離力も不均一となる傾向にある。
そこで本発明は、薄く、均一に塗布可能で、かつ塗工外観に優れた剥離被膜を与える剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物及びこれを用いた剥離被膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、(A)アルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサンと、(B)水素原子を含油するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金系触媒と、乳化剤とを含む剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物において、特定のグリコールを配合することにより、本発明の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(A)平均組成式が一般式(1)で表され、1分子中にケイ素原子と結合したアルケニル基を2個以上含有するジオルガノポリシロキサンと、
SiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、Rはアルケニル基、aは0.998~2.998、bは0.002~2、a+bは1~3である)
(B)平均組成式が一般式(2)で表され、1分子中にケイ素原子と結合した水素原子を2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
SiO(4-c-d)/2 (2)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、cは0.998~2.998、dは0.002~2、c+dは1~3である)
(C)20℃における表面張力が25~50N/m であるグリコールと、
(D)白金族系触媒と、
(E)乳化剤と、
(F)水と、
を含む、シリコーンエマルジョン組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシリコーンエマルジョン組成物は、剥離被膜用として用いた場合に、基材に薄く均一に塗布可能であり、硬化後の剥離被膜の塗工外観が良好な剥離被膜を得るための組成物として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明に係る、シリコーンエマルジョン組成物および該シリコーンエマルジョン組成物を使用する剥離被膜の製造方法の詳細を説明する。
【0013】
本発明に係るシリコーンエマルジョン組成物は、
(A)平均組成式が一般式(1)で表され、1分子中にケイ素原子と結合したアルケニル基を2個以上含有するジオルガノポリシロキサンと、
SiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、Rはアルケニル基、aは0.998~2.998、bは0.002~2、a+bは1~3である)
(B)平均組成式が一般式(2)で表され、1分子中にケイ素原子と結合した水素原子を2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
SiO(4-c-d)/2 (2)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、cは0.998~2.998、dは0.002~2、c+dは1~3である)
(C)20℃における表面張力が25~50N/m であるグリコールと、
(D)白金族系触媒と、
(E)乳化剤と、
(F)水と、
を含む。
【0014】
((A)成分)
(A)成分は、平均組成式が一般式(1)で表され、1分子中にケイ素原子と結合したアルケニル基を2個以上含有するジオルガノポリシロキサンである。成分(A)のジオルガノポリシロキサンを、以下、アルケニルオルガノポリシロキサンともいう。
SiO(4-a-b)/2 (1)
式(1)中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、Rはアルケニル基、aは0.998~2.998、bは0.002~2で、a+bは1~3である。
式(1)中、Rは、炭素原子1~18個を有することが好ましい。また、Rは、SiC-結合することが好ましい。さらに、Rは、脂肪族炭素-炭素多重結合を有していない置換又は非置換の炭化水素基であることが好ましい。
式(1)中、Rは、炭素原子1~18個を有することが好ましい。また、Rは、脂肪族炭素-炭素多重結合を有する一価の炭化水素基であることが好ましい。
式(1)中、aは0.998~2.998、bは0.002~2、a+bは1~3である。
また、一般式(1)で表されるアルケニルオルガノポリシロキサンは、分子1個当たり平均して少なくとも2個のRが存在することが好ましい。
【0015】
アルケニルオルガノポリシロキサンの粘度は特に限定されず、25℃における粘度が5~100000mPa・sであってもよい。
【0016】
成分(A)中のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-ブテニル基、1-ヘキセニル基等の炭素原子数2~8のアルケニル基を例示することができ、好ましくはビニル基、アリル基であり、特に好ましくはビニル基である。これらのアルケニル基は、後記成分(B)と反応して網目構造を形成する。アルケニル基は、成分(A)の分子中に平均約2個、好ましくは1.6個以上2.2個以下存在する。かかるアルケニル基は、分子鎖の末端のケイ素原子に結合していてもよいし、分子鎖の途中の(すなわち側鎖の)ケイ素原子に結合していてもよい。
【0017】
成分(A)中のケイ素原子に結合した他の有機基は、好ましくは炭素数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない置換もしくは非置換の1価の炭化水素基である。上記他の有機基は、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリル基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基;これらの炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子、シアノ基等によって置換されたクロロメチル基、2-ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、クロロフェニル基、ジブロモフェニル基、テトラクロロフェニル基、ジフルオロフェニル基、β-シアノエチル基、γ-シアノプロピル基、β-シアノプロピル基等の置換炭化水素基等が挙げられる。特に好ましい有機基はメチル基、フェニル基である。
【0018】
(A)アルケニルオルガノポリシロキサンは、直鎖状でも分岐状でもよく、また、これらの混合物であってもよい。
(A)アルケニルオルガノポリシロキサンは、分子鎖両末端にのみアルケニル基を有するものであってもよく、分子鎖側鎖にのみアルケニル基を有するものであってもよく、それらの混合物であってもよい。分子鎖両末端及び分子鎖側鎖にアルケニル基を有するものであってもよい。
【0019】
(A)成分には、分子鎖末端の一部に-SiOH基を有するものをさらに含むことができる。(A)成分中にある全オルガノポリシロキサンが有する末端ケイ素原子の合計個数に対するOH基を有するケイ素原子の個数の割合は5 % 未満、好ましくは2 % 未満となる量である。OH基の含有割合が5 % 以上では、付加重合が収束する確率が高くなり、硬化が不十分となる恐れがある。
【0020】
このアルケニルオルガノポリシロキサンは当業者に公知の方法によって製造される。
アルケニルオルガノポリシロキサン(A)の、25℃における粘度は、好ましくは5~2000000mPa・s、より好ましくは50~1000000mPa・s、特に好ましくは100~50000mPa・sの範囲内で付与される。5mPa・sより粘度が低い場合、ならびに2000000mPa・sより粘度が高い場合、乳化が難しく、安定なエマルジョンが得られない。
さらに、シリコーンエマルジョン組成物の成分(A)の含有量は、0.01~30質量%である。30質量%を超えると、水性エマルジョンの粘度が高くなり取り扱い性が悪くなるおそれがある。より好ましくは12~28質量%である。
【0021】
この成分(A)のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは当業者に公知の方法によって製造されるものであり、硫酸、塩酸、硝酸、活性白土、亜リン酸トリス(2-クロロエチル)等の酸触媒、又は水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウム、水酸化テトラ-n-ブチルホスホニウム、ナトリウムシラノレート、カリウムシラノレートなどの塩基触媒を用いた鎖状及び/又は環状低分子量シロキサンの縮合及び/又は開環重合によって製造できる。
【0022】
((B)成分)
(B)成分は、(A)成分とともにSiH基とアルケニル基との間の付加硬化反応により硬化物を形成するための架橋成分である。(B)成分は、1分子中にケイ素原子と結合した水素原子を2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【0023】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、下記平均組成式(2)で示される。
SiO(4-c-d)/2 (2)
式(2)中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、cは0.998~3、dは0.0002~2、c+dは1~3である。式(2)のRとしては、前記のRに例示した炭化水素基が用いられ、好ましくはアルキル基、より好ましくはメチル基が用いられる。成分(B)のケイ素原子に結合した水素原子は、好ましくは1分子中に2個以上である。
(B)成分の25℃における粘度は、通常1~3000mPa、好ましくは20~1000mPaである。上記範囲内の粘度であれば、(A)成分との硬化反応が十分に進行する前に(B)成分が揮発したり、(A)成分との反応性が低いことによる硬化性が悪化したりする現象を抑制することが可能となる。
本発明のシリコーンエマルジョン組成物中の(B)成分の含有量は、0.01~30質量%である。30質量%を超えると、水性エマルジョンの粘度が高くなり、取扱い性が悪くなるおそれがある。より好ましくは12~28質量%である。
【0024】
本発明の組成物中における(B)成分の配合量は、成分(A)中のアルケニルの量に応じて配合されるものであり、(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数(NA)と(B)成分中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の数(NH)との比(NH/NA)が1.0≦(NH/NA)≦6.0となる量、好ましくは1.5≦(NH/NA)≦4.0となる量に調節される。NH/NAが1未満では、組成物の硬化が十分に進行せず、未反応のアルケニル基が塗布層中に残留するため、経時で剥離力が変化しやすく、移行成分となることで残留接着率が低下しやすい。また、NH/NAが6以上では塗布層中の残存オルガノハイドロジェンポリシロキサンにより経時で剥離力が増大しやすい。(B)成分も当業者に公知の方法で製造される。
【0025】
(B)成分中の全ケイ素原子数に対し水素原子が結合したケイ原子の数の比率が平均で1~30%の範囲であれば、架橋密度を低く、アルキルシロキサン鎖の自由度を高くすることで、低速剥離条件で剥離強度が低い剥離コーティング塗膜を与えることができる。
【0026】
(B)成分には、分子鎖末端の一部に-SiOH基を有するものをさらに含むことができる。(B)成分中にある全オルガノポリシロキサンが有する末端ケイ素原子の合計個数に対するOH基を有するケイ素原子の個数の割合は5 % 未満、好ましくは2 % 未満となる量である。OH基の含有割合が5 % 以上では、付加重合が収束する確率が高くなり、効果が不十分となる恐れがある。
【0027】
(A) 成分および(B) 成分は、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)およびドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)を更に含んでもよい。その含有量は、(A) 成分および(B) 成分の合計質量に対して3 0 0 0 質量p p m 以下であるのがよく、特には10 0 0 質量p p m 以下であることがさらに好ましく、500質量ppm以下であることがさらにより好ましい。
上記範囲内であれば、貯蔵安定性、乳化安定性がさらに向上する。
【0028】
((C)成分)
(C)成分はシリコーンエマルジョン組成物を剥離被膜用途に使用する場合の基材への濡れ性を高める成分であり、高希釈率のシリコーンエマルジョン組成物においてもエマルジョン粒子が崩壊する現象を抑制させる効果も期待できることから、得られる剥離被膜の塗工外観を改善させ得る成分である。
なお、本明細書内において、剥離被膜用途に使用する本発明のシリコーンエマルジョン組成物を剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物ともいう。
具体的には、(C)成分は20℃における表面張力が25~50mN/m であるグリコールである。
【0029】
(C)成分の表面張力が上記範囲であれば、剥離被膜用途に用いる場合に、エマルジョン粒子を崩壊させることなく、水中油型であるシリコーンエマルジョン組成物(以下、単にエマルジョンということがある)の表面張力を低下させることができる。より詳しくは、エマルジョンと空気との気液界面、および、剥離被膜を形成させる基材とエマルジョンとの固液界面に(E)乳化剤と共に配向して表面張力を低下させ、その結果としてエマルジョンの基材への濡れ性を向上させる。
一般に、界面活性剤により乳化された水中油型エマルジョンでは、界面活性剤のエマルジョン粒子への可逆的吸脱着により、希釈状態では油-水界面に存在する界面活性剤数が減少する。そのためエマルジョン粒子の安定性が低下する傾向にある。
一方、本発明の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物では、上記範囲の表面張力を有するグリコールは(E)乳化剤と共にエマルジョン粒子の油相と水相との液液界面にも配向し、エマルジョン粒子を安定化させる。そのため高希釈の状態(すなわち、水中油型エマルジョンにおいてエマルジョン粒子を形成する油分が少ない状態)においても、エマルジョンが崩壊したり、エマルジョン粒子同士の合一により粒子径が増大したりする現象を抑制することが可能である。
【0030】
そのため、上記剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物を基材に塗布したのちに乾燥さると、薄く均一な塗膜が得られる。この塗膜を硬化させると、基材上に剥離被膜が得られる。このようにして得られた剥離被膜は薄く均一であるため、透明性が高く、水玉状の白濁部分やムラのない良好な塗工外観を有する。
【0031】
成分(C)の表面張力は25~50mN/mの範囲であればよく、25~30mN/mの範囲であればより好ましく、26~28mN/mの範囲であればさらにより好ましい。
成分(C)は単一成分であってもよく、2種以上のグリコールの混合物であってもよい。
水中油型シリコーンエマルジョン組成物が、分離やクリーミングを起こさず、安定した乳化状態を維持するためには、水溶性が高い(C)グリコールを使用することが好ましい。水に対する(C)グリコールの溶解度は、10g/L以上であることが好ましく、50g/L以上であることがさらに好ましく、100g/L以上であることがさらにより好ましい。
【0032】
成分(C)の具体例としては例えば、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(表面張力:27.7mN/m、HLB値:7.35)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(表面張力:27.8mN/m、HLB値:7.825)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(表面張力:25.6mN/m、HLB値:8.05)、エチレングリコール(表面張力:48mN/m、HLB値:9.85)、エチレングリコールモノメチルエーテル(表面張力:27.7mN/m、HLB値:8.775)、エチレングリコールモノアリルエーテル(表面張力:27mN/m、HLB値:7.825)、エチレングリコールモノノルマルヘキシルエーテル(表面張力:26mN/m、HLB値:6.40)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(表面張力:31.3mN/m、HLB値:7.35)、ブタンジオール(表面張力:32mN/m、HLB値:7.60)、ポリエチレングリコール(表面張力:27mN/m)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(表面張力:25.9mN/m、HLB値:5.80)、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル(表面張力:25.2mN/m、HLB値:4.375)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(表面張力:27.7mN/m、HLB値:8.30)等があげられる。
【0033】
なお、本明細書内において、「表面張力」は、表面張力計を用いてウィルヘルミー法で液温25℃にて測定した値である。表面張力計としては、例えば、全自動表面張力計「CBVP-Z」(協和界面科学株式会社製)が挙げられる。
【0034】
(C)成分の数平均分子量は特に限定されず、例えば60以上30、000以下であってもよく、60以上150以下であればより好ましく、100以上150以下であればさらにより好ましい。数平均分子量が60以上150以下であれば、剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物の動的表面張力をより小さくすることが可能であり、エマルジョンが基材へ塗布されたときの基材との界面およびエマルジョン粒子の油相水相界面への(C)成分の吸着性がより向上する。
【0035】
(C)成分のHLB値は特に限定されず、例えば6.0以上8.0未満であってもよい。上記範囲内であれば、(C)成分はエマルジョン粒子、基材の双方により吸着しやすくなる。(C)成分のHLB値は7.0以上7.5未満であればより好ましく、7.3以上7.9未満であればさらにより好ましい。
(C)成分として、上記範囲のHLB値を有するグリコールと、上記範囲を超えるHLB値を有するグリコールの混合物を使用することもできる。
【0036】
なお、本明細書内のHLB値はDavies法により算出したHLB値をいう。Davies法とは、HLBを算出する一般的な方法であり以下の式により算出することが可能である。
HLB=7+Σ(親水基の基数)+Σ(親油基の基数)
【0037】
(C)成分は、下記一般式(3)で表されるグリコールであってもよい。
O(CHCHRO)H ・・・(3)
(Rは、水素原子、炭素数が1~6の、置換基を有してよいアルキル基またはアルケニル基を表し、Rは水素又はメチル基を表し、nは1~3の自然数を示す)
が長い直鎖の炭化水素基であれば、エマルジョン粒子および基材の双方に吸着しやすいことから、特に濡れ性と塗工外観を改善できる効果が高い。このような(CRの例としてははノルマルプロピル基、ノルマルブチル基、ノルマルペンチル基、ノルマルへキシル基が挙げられ、特にノルマルブチル基が好ましい。
【0038】
(C)成分は、単一成分であってもよいが、2種以上のグリコールの混合物とすることもでき、その場合は例えば、数平均分子量が100以上である第1のグリコールと、 数平均分子量が80以下である第2のグリコールとを含むものとしてもよい。
第1のグリコールは前述の通りエマルジョンの表面張力を低下させ、濡れ性を向上させるとともに、エマルジョン粒子の崩壊を抑制する効果を主に発揮する一方、第2のグリコールは数平均分子量が小さいことから、単位質量あたりのモル数が大きく、剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物の水部分に溶解して水の沸点上昇をさせる効果が大きい。このため、基材に塗布された剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物が乾燥する速度を低下させる効果が大きい。すると、塗布されたエマルジョンは十分に基材上に濡れ広がった後に乾燥され、その結果としてさらに均一性が高い塗膜を与え、硬化後の剥離被膜の塗工外観をさらに良好で透明性が高いものとすることが可能となる。
第2のグリコールは2個以上のOH基を有するものであればさらに好適である。
【0039】
上記のような第1のグリコールと第2のグリコールの相乗効果が最も顕著に発揮されるのは、第1のグリコールとしてエチレングリコールモノノルマルブチルエーテルを、第2のグリコールとしてエチレングリコールを使用する場合である。
【0040】
(C)成分が第1のグリコールと、第2のグリコールとを含む場合に、その配合比率(第1のグリコール)/(第2のグリコール)は、1.0/1.0~3.0/1.0 であることが好ましく、1.5/1.0~2.5/1.0であればより好ましい。上記範囲内であれば、第1のグリコールの濡れ性、塗工外観への効果を十分に維持しながら、第2のグリコールの乾燥速度抑制によるさらなる塗工外観向上の効果も得ることが可能となる。
【0041】
((D)成分)
(D)成分は、白金族系触媒である。これはヒドロシリル化触媒として用いることができるものである。白金族系触媒(D)は金属又はこの金属を含む化合物からなる。白金族系触媒(B)を構成する金属としては、例えば、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、イリジウム等が挙げられ、好ましくは白金である。又はこれらの金属を含む化合物を用いることができる。
これらの中で特に白金系触媒が、反応性が高く、好適である。金属は微粒子状の担体材料(例えば、活性炭、酸化アルミニウム、酸化ケイ素)に固定してもよい。白金化合物としては、白金ハロゲン化物(例えば、PtCl、HPtCl・6HO、NaPtCl・4HO、HPtCl・6HOとシクロヘキサンからなる反応生成物)、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金-アルコラート錯体、白金-エーテル錯体、白金-アルデヒド錯体、白金-ケトン錯体、白金-ビニルシロキサン錯体(例えば、白金-1,3-ジビニル1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、ビス-(γ-ピコリン)-白金ジクロライド、トリメチレンジピリジン-白金ジクロライド、ジシクロペンタジエン-白金ジクロライド、シクロオクタジエン-白金ジクロライド、シクロペンタジエン-白金ジクロライド)、ビス(アルキニル)ビス(トリフェニルホスフィン)白金錯体、ビス(アルキニル)(シクロオクタジエン)白金錯体等が挙げられる。また、ヒドロシリル化触媒はマイクロカプセル化した形で用いることもできる。この場合触媒を含有し、かつポリオルガノシロキサン中に不溶の微粒子固体は、例えば、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル樹脂又はシリコーン樹脂)である。また、白金系触媒は包接化合物の形で、例えば、シクロデキストリン内で用いることも可能である。
【0042】
剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物は、白金族系触媒(D)を、(A)成分の重量に対して白金族系金属が1~500ppmとなる量、好ましくは5~200ppmとなる量、より好ましくは20~100ppmとなる量で含有する。含有量が1ppm未満では硬化に時間がかかり、生産効率が悪くなるおそれがある。500ppmを超えるとコーティング液のポットライフが短くなり、塗工液のゲル化により生産性が落ちる要因となるおそれがある。
【0043】
((E)成分)
本発明における(E)乳化剤は公知の様々な物質を用いることができるが、(A)~(D)成分の特性や、要求されるエマルジョン組成物の特性に応じて適宜選択することができ、カチオン性界面活性剤であってもよく、ノニオン性界面活性剤であってもよく、アニオン性界面活性剤であってもよく、保護コロイドであってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0044】
上記の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物において、(E)乳化剤としてはノニオン性界面活
性剤または保護コロイドが特に好適である。
乳化剤として保護コロイドを使用すると、乳化安定性が高く、より安定した剥離力を有する剥離被膜が得られる。
乳化剤として、イオン性の界面活性剤であるカチオン性またはアニオン性界面活性剤を用いた場合、フィルム表面に残った乳化剤が電子部品に付着することによって性能に影響を及ぼす可能性がある為、電子部品用途に用いられる剥離フィルムには、ポリビニルアルコール等のイオン性の低い保護コロイドや、ノニオン性界面活性剤などが特に好適である。
【0045】
保護コロイドとしては、例えば、未変性のポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール、エチレン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミドまたはポリカルボン酸などの高分子化合物ならびにこれらのアルカリ金属塩および/またはアンモニウム塩を使用することもできる。未変性のポリビニルアルコールが特に好ましい。
【0046】
ノニオン系界面活性剤としては、親水性と親油性の均衡を表すHLB値が8.0~19.0であるノニオン界面活性剤を使用してもよく、10.0~18.0が好ましく、10.0~16.0がより好ましい。上記範囲であれば貯蔵安定性、希釈安定性がより高まる傾向にある。その他の乳化助剤としてHLB値が低い界面活性剤を併用してもよい。
【0047】
このようなノニオン性界面活性剤の例として、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコールペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸アミド、ポリアルキルグリコシド等が挙げられる。これらのノニオン界面活性剤は、安全性、安定性、価格面からも好ましく、単体又は2種類以上の混合物として用いることができる。特に乳化安定性の観点からはポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
【0048】
本発明の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物中の(E)成分の含有量は1~10質量%である。1質量%未満では乳化が困難であり、10質量%を超えると、水性エマルジョン組成物の粘度が高くなり取り扱い性が悪くなる。より好ましくは3~6質量%である。
【0049】
((F)成分)
(F)成分は、水である。水(F)としては、特に限定されないが、イオン交換水を用いることが好ましい。イオン交換水のpHは、好ましくはpH2~12、特に好ましくはpH4~10である。鉱水を用いることは推奨されないが、用いる時は金属不活性化剤等と合わせて用いることが好ましい。乳化の際に用いられる水の添加量は、本発明の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物中で20~80質量%、好ましくは35~70質量%に相当する量である。
本発明のエマルジョンは水による希釈に対して安定であって、エマルジョンの調製後に更に希釈が可能である。希釈に用いられる水(希釈水)の量には特に制限はないが、固形分量が多い方が基材へ塗布する際のはじきが少ない傾向となる一方で、固形分量が少ない方が硬化後の剥離被膜において良好な塗工外観を得られやすい傾向にある。本発明の水中油型シリコーンエマルジョンは水溶媒系であるため、溶剤を用いる系に比較して環境に配慮されている点からも好ましい。
【0050】
本発明はまた、基材上に形成される剥離被膜の塗工外観を改善するための方法であって、
(A)平均組成式が一般式(1)で表され、1分子中にケイ素原子と結合したアルケニル基を2個以上含有するジオルガノポリシロキサンと、
SiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、Rはア
ルケニル基、aは0.998~2.998、bは0.002~2、a+bは1~3である。)
(B)平均組成式が一般式(2)で表され、1分子中にケイ素原子と結合した水素原子を2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
SiO(4-c-d)/2 (2)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、cは0.998~2.998、dは0.002~2、c+dは1~3である)
(D)白金族系触媒と、
(E)乳化剤と、
(F)水と、を含む、基材に塗布するための水中油型シリコーンエマルジョン組成物に、
(C)20℃における表面張力が25~50mN/mであるグリコールを配合する方法である。
【0051】
本発明はまた、(A)平均組成式が一般式(1)で表され、1分子中にケイ素原子と結合したアルケニル基を2個以上含有するジオルガノポリシロキサンと、
SiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、Rはア
ルケニル基、aは0.998~2.998、bは0.002~2、a+bは1~3である。)
(B)平均組成式が一般式(2)で表され、1分子中にケイ素原子と結合した水素原子を2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
SiO(4-c-d)/2 (2)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、cは0.998~2.998、dは0.002~2、c+dは1~3である)
(C)20℃における表面張力が25~50mN/mであるグリコールと、
(D)白金族系触媒と、
(E)乳化剤と、
(F)水と、を含む剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物の製造方法であって、
前記(A)成分を乳化して(A)成分含有乳化物を得る(A)成分乳化工程と、
前記(B)成分を乳化して(B)成分含有乳化物を得る(B)成分乳化工程と、
前記(A)成分含有乳化物と、前記(B)成分含有乳化物のうち少なくとも一方を含む乳化物に、前記(C)成分を添加する(C)成分添加工程と、
を含む、方法である。
【0052】
本発明の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物は、上記(A)成分を上記(E)乳化剤を用いて(F)水と乳化させる(A)成分乳化工程と、上記(B)成分を上記(E)乳化剤を用いて(F)水と乳化させる(B)成分乳化工程とを含む製造方法によって製造される。
(A)成分乳化工程と(B)成分乳化工程とは、(A)成分と(B)成分の混合物を(E)乳化剤によって(F)と乳化することにより同時に実施されることもできる。
白金系触媒は、(D)成分を(E)乳化剤により(F)水に乳化して(D)成分含有乳化物としたのちに、(A)成分含有乳化物と混合されてもよいが、(A)成分乳化工程において、(A)成分と混合したのちに(A)成分と共に乳化され、そのあとに(B)成分含有乳化物と混合されてもよい。
【0053】
上記(C)グリコールは、(A)成分含有乳化物および(B)成分含有乳化物のうちいずれか一方または両方に添加されてもよく、(A)成分含有乳化物と(B)成分含有乳化物を混合後に添加されてもよい。
【0054】
乳化はエマルジョンの製造に適当な常用の混合機、例えばホモジナイザー、コロイドミル、ホモミキサー、高速ステーターローター攪拌装置等を用いて上記成分を混合、乳化することにより製造することができる。乳化は、(A)成分または(B)成分と、(E)成分と、(F)水の全部または一部を攪拌して、油中水型エマルジョンを調製し、さらに残部の水を添加して攪拌し、水中油型エマルジョンとする方法で調製できる。いったん、油中水型エマルジョンとしてから、水中油型エマルジョンとする方法が、エマルジョン粒子径の調整が容易である点、及びエマルジョンの安定性の点で好ましい。
【0055】
本発明はまた、剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物を基材に塗布 する工程と、基材に塗布された前記シリコーンエマルジョン組成物を乾燥 させて塗膜 を得る工程と、塗膜が付着した前記基材を、加熱することにより、基材上に剥離被膜を形成 する工程と、を含む、剥離被膜の製造方法である。
【0056】
本発明の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物は、基材の製造中に塗布するインラインフィルムコーティングにも、基材が製造され、延伸された後に塗布するオフラインフィルムコーティングにも使用することが可能である。
塗布後に乾燥され、加熱により硬化促進させて剥離被膜を得ることが通常である。
【0057】
基材は特に限定されず、紙やプラスチック製のプラスチックフィルム、ガラス、金属、布等であってもよい。
紙としては、上質紙、コート紙、アート紙、グラシン紙、ポリエチレンラミネート紙、クラフト紙、和紙、合成紙等が挙げられる。
プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、アイオノマー、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ナイロンエチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルサルフィン、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリウレタン、ポリエーテルイミド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリロニトリル、ノルボルネン、シクロオレフィン、セロファン等が挙げられる。
ガラスについても、厚みや種類等について特に制限はなく、化学強化処理等をしたものでもよい。また、ガラス繊維も適用でき、ガラス繊維は単体でも他の樹脂と複合したものを使用してもよい。
金属としては、アルミ箔、銅箔、金箔、銀箔、ニッケル箔等が例示される。
【0058】
本発明の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物は、公知のいずれの方法によって基材に塗布してもよい。例えば、ロール塗装、リバースロール塗装、グラビア塗装、リバースグラビア塗装、はけ塗り、スプレー塗装、エアーナイフ塗装、浸漬、バーコート塗装、スピンコート塗装、ブレード塗装、ゲートロール塗装、またはメニスカス塗装が用いられる。
剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物は基材の片面に塗布されてもよく、両面に塗布されてもよい。
【0059】
本発明において、乾燥後の塗膜の厚みは特に限定されず、例えば0.01~1μmであり、塗膜の厚みを薄くすることで透明性を向上させ、かつコストを削減できることから、好ましくは0.01~0.5μm、特に好ましくは0.01~0.3μmである。
【0060】
基材に塗布される剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物中の固形分量(エマルジョン中の(A)成分と(B)成分の合計量の割合である)は特に限定されず、例えば0.02%以上60%以下とすることができる。
固形分量が多い剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物を、さらに水で希釈してから基材に塗布してもよい。希釈率が高い(すなわち固形分量が少ない)方が、得られる剥離被膜の膜厚を薄くすることができる。
一般的には希釈率が高い方が、エマルジョン粒子の崩壊が起きやすく、固形分がエマルジョン中で偏在化したり遊離したりしやすい。しかし本発明の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物は高希釈の条件下においてもエマルジョン粒子の崩壊が起きにくく、その結果として高希釈のエマルジョン組成物を塗布しても塗工外観が良好に維持される。また、希釈率が高い場合には相対的にエマルジョン中の水分量が多いことから、基材に塗布した際にはじきが生じやすく、その結果として硬化後の塗工外観が不均一になる傾向にある。
しかし本発明の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物では、希釈率が高い条件(例えば固形分量が0.5%以上4%以下、好ましくは1%以上3%以下)であっても、乳化状態が安定しており、基材へ塗布された際のハジキが少ないことから、均一な塗工外観と、高い透明性と、得られる剥離被膜の薄さを得ることが可能である。
【0061】
本発明の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成は、基材に塗布された後、乾燥され、硬化反応が進むことにより剥離被膜を形成する。硬化反応は室温(例えば25℃である)で行われてもよいが、数秒から数時間程度の加熱により硬化反応を促進させることも可能である。加熱温度は特に限定されず、例えば100℃以上250℃以下であってもよい。加熱の上限温度は基材や剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成の特性に応じて決定することができ、例えば120℃であってもよく、150℃であってもよい。例えば、加熱ロール、加熱ドラム又は熱風乾燥炉等で硬化させる通常の方法により加熱することができる。
【実施例0062】
次に本発明を実施例によって説明する。なお、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0063】
<剥離被膜の残留接着率測定方法>
後述する剥離被膜の作製方法により作製した剥離被膜に日東No.31B(日東電工株式会社製)を貼り合わせ、ローラーで圧着し、20g/cmの重しを載せて室温で20時間保管した。上記エージング後に剥離被膜から剥がして、ステンレス板にローラーで圧着し、剥離角度180°、剥離速度0.3m/分でテープの剥離力を測定した値を剥離被膜に貼り合わせた後のステンレス板に対する剥離力とした。
また、日東No.31B(日東電工株式会社製)をステンレス板にローラーで圧着し、剥離角度180°、剥離速度0.3m/分でテープの剥離力を測定した値をブランクのステンレス板に対する剥離力とした。 (剥離被膜に貼り合わせた後のステンレス板に対する剥離力)/(ブランクのステンレス板に対する剥離力)×100で算出された値を残留接着率(%)とした。
残留接着率が90%以上であれば、硬化性が十分であると判断する。
【0064】
<硬化性評価方法>
後述する剥離被膜の作製方法により作製した剥離被膜の塗工面を指で強く5回擦ることにより評価した。塗工面が白く曇る場合(スミアと呼ばれる状態)は、硬化性が不十分と判断した。塗工面に変化が見られない場合、硬化性問題なし(合格)と判断した。
【0065】
<基材密着性の評価>
後述する剥離被膜の作製方法により作製した剥離被膜の塗工面を指で強く5回擦ることにより評価した。剥離被膜が剥がれ落ちる場合(ラブオフと呼ばれる状態)は、密着性が不十分と判断した。塗工面に変化が見られない場合、密着性問題なし(合格)と判断した。
【0066】
<基材への剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物の濡れ性評価>
後述する実施例および比較例の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物を東洋紡フイルムソリューション株式会社製 エステルG2C(厚さ50μm)に塗布した。そのまま室温で塗布後1分間放置し、ヨリやハジキの発生を目視で観察した。評価結果は表2~6に記載した。
評価は、以下の通りとした。
A:ヨリもハジキも見られない
B:一部ヨリが見られるがハジキは発生しない
C:一部でハジキが発生
D:全面にハジキが発生
【0067】
<剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物の接触角評価>
基材に剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物を塗布した際の均一性や薄さは、基材に塗布した際の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物の接触角を測定することにより評価することができる。薄く、かつ均一に基材に塗布し得る剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物は、より低い接触角の値を示す傾向にある。特に接触角の値が小さい場合には、塗工外観評価、濡れ性評価結果も良好である傾向にあるが、接触角の値が大きくてもこれらの評価結果が比較的高い場合もあることから、接触角、塗工外観および濡れ性を総合的に評価することが必要である。
接触角測定方法は次の通りである。
後述する実施例および比較例の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物を、PETフィルム(東洋紡フイルムソリューション(株)製 エステルG2C)に0.3~0.5μl滴下した時の接触角を、接触角計(CA―X150型、協和界面科学(株)製)を用いて測定した。
【0068】
<塗工外観の評価方法>
後述する剥離被膜の作製方法により作製した剥離被膜について、ヨリ、スジ模様、スポット異常など表面凹凸に由来する現象が発生していないかどうかを目視で観察した。評価結果は表2~6に記載した。
評価は、以下の通りとした。
0:全面にヨリ、スジ模様が顕著に発生し、かつ、直径2mm以上のスポットが多数認められるスポット異常が発生
+:全面にヨリ、スジ模様、直径2mm以上のスポットがまれに認められるスポット異常などが発生
++:一部でヨリ、スジ模様、直径1mm以下のスポットが多数認められるスポット異常などが発生
+++:ヨリ、スジ模様は少し見られ、直径1mm以下のスポットがまれに認められるスポット異常が発生
++++:ヨリ、スジ模様はなく、直径1mm以下であり薄いスポット異常がわずかに発生
+++++:ヨリ、スジ模様、スポット異常が全くなく、平滑で綺麗な表面
【0069】
<剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物の調製方法>
以下のようにシリコーンエマルジョン(I)~(IV)を調整し、シランカップリング剤、精製水と共に表1に示す配合量比で混合し、ベース液1およびベース液2を調整した。ベース液1はシリコーンエマルジョン(I)、(II)、および(IV)を含み、ベース液2はシリコーンエマルジョン(II)および(III)を含むものである。なお、本明細書内の表中に示す配合量比の数値は質量部を示す。
次に、表2~6に記載する配合量比に従って、下記のベース液1またはベース液2をそれぞれグリコールおよび精製水と混合し、実施例および比較例の剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物を得た。各剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物中の、(A)成分および(B)成分の合計量は2質量%となるように調製した。表2~6に示す配合量は、剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物全体を100質量部とした場合の配合量を示す。また、「総グリコール量」は、各剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物中に添加したグリコールの総量を示す。
【0070】
(シリコーンエマルジョン(I))
はじめに、(A)成分に相当する、両末端がそれぞれジメチルビニルシリル基で封鎖された粘度250mPa・sであるビニル基含有ポリジメチルシロキサン48.0質量部と、(E)成分に相当する保護コロイドであるポリビニルアルコール(PVA) 10.0質量部と、精製水42.0質量部と、1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.2質量部とを、IKA製ウルトラタラックスT50ベーシックシャフトジェネレーターG45Mを用い4000rpmにて撹拌することにより、シリコーンエマルジョン(I)を調製した。
【0071】
(シリコーンエマルジョン(II))
はじめに、(B)成分に相当する側鎖にSiH基を有し、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖された粘度40mPa・s(25℃)であるメチルハイドロジェンポリシロキサン35.0質量部と、(E)成分に相当するノニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ペグノールT10/80)5.0質量部と、精製水60.0質量部とを、IKA製ウルトラタラックスT50ベーシックシャフトジェネレーターG45Mを用い4000rpmにて撹拌することにより、シリコーンエマルジョン(II)を調製した。
【0072】
(シリコーンエマルジョン(III))
はじめに、(A)成分に相当する両末端がそれぞれジメチルビニルシリル基で封鎖された粘度1000mPa・sであるビニル基含有ポリジメチルシロキサン25.0質量部ならびに両末端がそれぞれジメチルビニルシリル基で封鎖された粘度20000mPa・sであるビニル基含有ポリジメチルシロキサン25.0質量部と、(D)成分に相当する白金原子含有量1質量%の白金-ビニルシロキサン錯体溶液0.5質量部と、1-エチニル-1-シクロヘキサノール(日信化学工業株式会社製)0.11質量部と、(E)成分に相当するノニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ペグノールT10/80)6.5質量部と、精製水43.0質量部とを、IKA製ウルトラタラックスT50ベーシックシャフトジェネレーターG45Mを用い4000rpmにて撹拌することによりシリコーンエマルジョン(III)を調製した。白金含有量は、ジオルガノポリシロキサン(A)の重量に対して100ppmとした。
【0073】
(シリコーンエマルジョン(IV))
はじめに、(A)成分に相当する両末端がそれぞれジメチルビニルシリル基で封鎖された粘度500mPa・sであるビニル基含有ポリジメチルシロキサン(A)45.0質量部と、(D)成分に相当する白金原子含有量1質量%の白金-ビニルシロキサン錯体溶液5.0質量部と、(E)成分に相当するノニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ペグノールT10/80)4.0質量部と、精製水46.0質量部とを、IKA製ウルトラタラックスT50ベーシックシャフトジェネレーターG45Mを用い4000rpmにて撹拌することにより、シリコーンエマルジョン(IV)を調製した。
【0074】
(シランカップリング剤)
任意成分として、シランカップリング剤であるADHESION PROMOTER HF 86(WACKER CHEMIE AG 社製)をベース液1およびベース液2に添加した。シランカップリング剤は基材と剥離被膜との密着性を向上させる成分である。
【0075】
【表1】
【0076】
((C)グリコール)
(C)成分としては、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(純度>99.0%(GC))、エチレングリコール (純度>99.5%(GC))、エチレングリコールモノメチルエーテル(純度>99.0%(GC))、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(純度>99.0%(GC))、エチレングリコールモノアリルエーテル(純度>98.0%(GC))、またはジエチレングリコールジメチルエーテル(純度>99.0%(GC))を使用した。いずれも東京化成工業社製のグリコールであり、実施例における配合量は表2~表6に示すとおりである。
【0077】
表2~4に示す実施例1~35および比較例1~4は、ベース液1を含む剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物を使用した。
表2に示す実施例1~5は、ベース液1を含む剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物100質量部中に、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルが4~20質量部となるように配合したものである。表4に示す、グリコールを配合しない場合と比較して濡れ性が向上し、塗工外観も向上した。
実施例1~4の塗工外観評価結果は、いずれも上記評価基準の+++に分類される結果であったが、その中比較すると、グリコール濃度が高い方が塗工外観に優れる傾向にあった。すなわち、実施例1から実施例4の順に塗工外観が向上した。
【0078】
表2に示す実施例6~14は、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルとエチレングリコールの2種のグリコールを配合したものである。エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルのみの場合と比較して塗工外観の向上が認められた。また、2種のグリコールを同量ずつ配合した場合に、総グリコール濃度が高い方が塗工外観に優れる傾向にあった。2種のグリコールのうち、エチレングリコールが多く配合された場合(実施例10)では、塗工外観の評価結果がやや低下した。
【0079】
表3に示す実施例15~19は、グリコールとしてエチレングリコールのみを配合したものである。グリコールを配合しない比較例1よりは、濡れ性も塗工外観も向上したが、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルが配合された実施例1~14よりは、濡れ性も塗工外観も評価結果が低下した。
【0080】
表3に示す実施例20~23は、グリコールとしてエチレングリコールモノメチルエーテルを配合したものであり、実施例24~27はエチレングリコールモノイソプロピルエーテルを配合したものである。表4に示す実施例28~31はエチレングリコールモノアリルエーテルを配合したものであり、実施例32~35はジエチレングリコールジメチルエーテルを配合したものである。実施例20~35は、エチレングリコールのみを配合した実施例15~19よりは濡れ性が良好であった。また、実施例34以外の塗工外観評価結果は+に分類される結果であったが、その中でもグリコールの種類が同じ例で比較した場合、グリコール濃度が高い方が良好となる傾向が見られた。
【0081】
表4に示す比較例2~4は、グリコールに代えてアルコールを配合したものである。メタノールを配合した比較例2、エタノールを配合した比較例3、イソプロパノールを配合した比較例4のいずれもがエマルジョンの分離を起こしたため、剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物としての使用に適さないと判断し、濡れ性、塗工外観評価は実施しなかった。アルコールによりエマルジョン粒子が崩壊し、油相と水相とに分離したと考えられる。
【0082】
ベース液1を使用した場合の接触角評価結果では、実施例1~14で特に良好な結果(接触角の値が30度以下である)が得られた。この中でも、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルとエチレングリコールの両方を含み、総グリコール濃度が20以上である実施例9~14において、顕著に良好な結果(接触角の値が5度以下である)が得られた。
実施例15~35は、接触角評価結果はいずれも40度以上であったが、塗工外観や濡れ性評価結果では、比較例1よりも良好な結果であった。従って、総合的な評価では実施例15~35においてもグリコールを添加することによる効果が得られたと言える。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
表5および表6に示す実施例41~56および比較例5は、ベース液2を含む剥離被膜用シリコーンエマルジョン組成物を使用した。
表5に示す実施例41~48は、グリコールを1種類配合したものである。表6に記載したグリコールを配合しない比較例5と比較すると、実施例41~48はいずれも濡れ性と塗工外観が向上した。実施例41~48の中ではエチレングリコールモノノルマルブチルエーテルを配合した場合が特に良好な塗工外観となり、エチレングリコールを配合した場合はやや劣る結果となった。また、グリコール濃度を高めると、塗工外観が向上する傾向が確認された(実施例47、実施例48)。
【0087】
表6に示す実施例49~56は、エチレングリコールと、他のグリコールの2種を配合した例である。エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルとエチレングリコールの2種を配合した場合は特に良好な濡れ性と塗工外観が確認された。また、2種の配合量の比を変化させたところ、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルとエチレングリコールの量が同量であるか、エチレングリコールが少ない場合に、特に良好な結果であった。
【0088】
ベース液2を使用した場合の接触角評価結果は、実施例41~56の全実施例で良好な結果(接触角の値が30度以下である)が得られた。グリコールを添加しない場合のベース液の接触角が、ベース液1よりもベース液2において低い値であったことが影響したと考えられる。
この中でも、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルとエチレングリコールの両方を含み、総グリコール濃度が20以上である実施例49~52において、顕著に良好な結果(接触角の値が5度以下である)が得られた。
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【0091】
実施例1~実施例56について残留接着率を測定したところ、いずれも90%以上の結果であった。
また、実施例1~実施例56について硬化性を評価したところ、いずれも合格であった。
さらに、実施例1~実施例56について基材密着性を評価したところ、いずれも合格であった。