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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055189
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】成形容器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230410BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230410BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230410BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20230410BHJP
   B65D 1/34 20060101ALI20230410BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20230410BHJP
   B29C 51/10 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
B32B27/00 H
B32B27/30 B
B32B27/32 C
B65D1/00 111
B65D1/34
B29C51/14
B29C51/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084403
(22)【出願日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2021163832
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000239138
【氏名又は名称】株式会社エフピコ
(74)【代理人】
【識別番号】100124143
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌登
(72)【発明者】
【氏名】岩藤 千英
【テーマコード(参考)】
3E033
4F100
4F208
【Fターム(参考)】
3E033AA10
3E033BA16
3E033BA22
3E033CA07
3E033FA04
4F100AK07B
4F100AK12A
4F100AK51C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CB00C
4F100DD07B
4F100DJ01A
4F100EH46C
4F100EJ37B
4F100EJ42B
4F100GB16
4F100JA04
4F100JA04B
4F100JA11B
4F100JK06
4F100JK07B
4F100JK14B
4F100JN21
4F100YY00A
4F100YY00B
4F208AA11
4F208AA13
4F208AC03
4F208AG03
4F208AG07
4F208AH58
4F208MA01
4F208MB01
4F208MC01
4F208MG04
4F208MG12
(57)【要約】
【課題】光沢に優れ、かつ、剥がれが生じ難い成形容器およびその成形時に割れや剥がれが発生し難い製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリスチレン系樹脂発泡シート層(I)と、ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)とを必須の層構成とし、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)が容器内面に位置する成形容器であって、
前記成形容器の底面部の内面側表面における表面粗度(Ra)が0.3(μm)以下であり、前記成形容器の底面部における平坦部から前記ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)を剥離した場合の該剥離フィルムのDSC測定における融点ピーク温度が160℃以上であり、該剥離フィルムが、JISK7127:1999に準拠する引張試験においてひずみ応力が最大となる方向における引張破壊呼びひずみが250%以上である。
【選択図】 図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂発泡シート層(I)と、ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)とを必須の層構成とし、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)が容器内面に位置する成形容器であって、
前記成形容器の底面部の内面側表面における表面粗度(Ra)が0.3(μm)以下であり、
前記成形容器の底面部における平坦部から前記ポリプロピレン系樹脂フィルム層を構成する前記ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)を剥離した場合の該剥離フィルムの示差走査熱量測定における融点ピーク温度が160℃以上であり、
該剥離フィルムが、JISK7127:1999に準拠する引張試験においてひずみ応力が最大となる方向(以下、この方向を「X方向」という)における、100%ひずみ応力(130℃、ひずみ速度200%/秒)が15.0MPa以上29.5MPa以下であり、かつ、
X方向における引張破壊呼びひずみが250%以上であることを特徴とする成形容器。
【請求項2】
前記剥離フィルムが、前記X方向と面方向に直角な試験方向をY方向としたときに、該Y方向の100%ひずみ応力(130℃、ひずみ速度200%/秒)が5.0MPa以上10.0MPa以下であり、かつ、前記Y方向の引張破壊呼びひずみが500%以上のものである請求項1記載の成形容器。
【請求項3】
前記成形容器の層構成が、ポリスチレン系樹脂発泡シート層(I)と、ポリスチレン系樹脂フィルム層(II-a)と、ドライラミネート接着剤層(II-b)と、ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)とがこの順にて積層されたものである請求項1又は2記載の成形容器。
【請求項4】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シート層(I)が、発泡倍率5~40倍の範囲のものである請求項3記載の成形容器。
【請求項5】
示差走査熱量測定における融点ピーク温度が160℃以上であり、
該剥離フィルムが、JISK7127:1999に準拠する引張試験においてひずみ応力が最大となる方向(以下、この方向を「X方向」という)における、100%ひずみ応力(130℃、ひずみ速度200%/秒)が15.0MPa以上29.5MPa以下であり、かつ、
X方向における引張破壊呼びひずみが250%以上であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂フィルム。
【請求項6】
無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムを125~150℃で処理して高結晶化されたポリプロピレン系樹脂フィルムを得(工程1)、
前記ポリプロピレン系樹脂フィルム上に、必要によりドライラミネート接着剤を塗布し(工程2)、
更に、必要により前記ドライラミネート接着剤の塗布層の上にポリスチレン系樹脂フィルムを積層し(工程3)、
得られた無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムの単層又は多層フィルムを
前記微延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムが表層となる様にポリスチレン系樹脂発泡シートと積層して複合シートを得(工程4)、次いで、
前記複合シートを熱成形する(工程5)ことを特徴とする成形容器の製造方法。
【請求項7】
前記工程1が、無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムを125~150℃で処理しつつMD方向に1.1~1.9倍に一軸延伸する工程である請求項6記載の成形容器の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂フィルムが積層されたポリスチレン系樹脂発泡シートからなる成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂発泡シートを真空熱成形や圧空熱成形等により成形した成形容器は、お弁当やお惣菜を販売するための食品容器としてスーパーやコンビニエンスストアなどで広く用いられている。
【0003】
斯かる成形容器は、特に電子レンジ加熱用の食品容器として用いられる場合、高温になった食材の油分からポリスチレン系樹脂発泡シートを保護する目的で、ポリスチレン系樹脂発泡シートにポリプロピレン系樹脂フィルムを積層した積層シートを、ポリプロピレン系樹脂フィルム層が容器内面すなわち食品接触面になるようにして容器形状に成形されて用いられる。
【0004】
上記の積層シートにおけるポリプロピレン系樹脂フィルム層を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムとしては、溶融させたポリプロピレン樹脂をTダイで押し出し、冷却ロールで急冷固化して製造する無延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(以下、「CPPフィルム」という。)や、溶融したポリプロピレン樹脂をTダイで押出し、冷却ロールで冷却固化した後、さらに、縦方向(MD方向)と横方向(TD方向)の二軸に延伸して製造する、二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(以下、「OPPフィルム」という。)が一般的に用いられる。
【0005】
これらのうち、OPPフィルムを用いた成形容器は、OPPフィルム層側の光沢度が高いという特徴があり、容器の美観に好印象を与える。それゆえ、光沢度という観点からするとOPPフィルムは優れている、と言える。しかし、OPPフィルムは加熱軟化時に伸び難く、また、熱収縮応力が大きい為に、容器形状によっては、成形容器のOPPフィルム層に「裂け」や「剥がれ」が生じることがある。ここで、「裂け」とは熱成形時の瞬間的な伸長によってフィルムが裂けてしまう現象をここでは示している。「剥がれ」とは熱成形時においてフィルムが真空圧又は圧空圧によって金型形状に展開しきれずに、ポリスチレン系樹脂発泡シートからフィルムが剥離した状態のことを示す。
【0006】
そこで、従来より、ポリプロピレン系樹脂フィルムを積層したポリスチレン系樹脂発泡シートを真空成形した成形容器において、成形容器のポリプロピレン系樹脂フィルム層側の光沢を損なうことなく基材であるポリスチレン系樹脂発泡シート層との密着性を改善する技術として、ポリプロピレン系樹脂フィルムとして、一軸にのみ3~5倍延伸された一軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いる技術が知られている(特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の方法で製造された一軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いた成形容器は、その光沢度は良好なものの、所謂MD方向に依然として強い熱収縮応力が生じるために、前記した成形時のフィルム自体の裂けが避けられない他、基材からの剥がれについても十分な改善効果が得られるものでなかった。とりわけ、シートの展開率が大きい深絞り容器を作成した場合には、成形時の裂けや剥がれが生じ易いものであった。加えて、成形後においてもとりわけ深絞り成形容器においては、ポリプロピレン層の引張応力が高く、外部からの力や電子レンジ調理時の熱履歴によって、該ポリプロピレン層の収縮が生じやすく、成形品が変形して内容物がこぼれるなど容器としての機能を果たさないことがあった。
【0008】
他方、CPPフィルムを用いた積層シートは、加熱軟化時に伸びやすいという性質があるため、深絞り容器を作成したとしても上記したような裂けや剥がれが生じ難い。しかし、CPPフィルムが積層された熱成形容器は、CPPフィルム側の光沢度が低く美麗な容器にならないものであった。
【0009】
そこで、例えば、特許文献2には、CPPフィルムを積層した成形容器の光沢を改善するために、CPPフィルムとポリスチレン系樹脂発泡シートとをラミネートする際の熱ロール温度を、通常よりも低い温度である160~175℃に調節し、得られた積層シートを熱成形する技術が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献2に技術では、積層シート製造時のラミネート温度が低いためにCPPフィルムが十分溶融することなくポリスチレン系樹脂発泡シートと積層されることから、ポリスチレン系樹脂発泡シートとの接着強度が十分得られず、深絞り形成した場合にやはり剥がれが生じやすいものであった他、光沢の改善効果も十分なレベルに達していないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007-023091号公報
【特許文献2】特開2019-43076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明が解決しようとする課題は、ポリプロピレン系樹脂フィルムが積層されたポリスチレン系樹脂発泡シートからなる成形容器において、ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の光沢、及びフィルムの接着強度に優れ、かつ、成形時に割れや剥がれが発生し難い製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、成形容器の底面部の食品等内容物を収納する内面側表面における表面粗度(Ra)を所定範囲に調整し、かつ、底面部における平坦部から切り出されるポリプロピレン系樹脂フィルムの引張試験におけるひずみ応力及び引張破壊呼びひずみの値を所定範囲に調整することにより、成形容器の光沢、及びフィルムの接着強度(剥離強度)、更に形成時における成形容器表面のポリプロピレン系樹脂フィルム層の割れや剥がれを効果的に防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡シート層(I)と、ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)とを必須の層構成とし、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)が容器内面に位置する成形容器であって、
前記成形容器の底面部の内面側表面における表面粗度(Ra)が0.3(μm)以下であり、
前記成形容器の底面部における平坦部から前記ポリプロピレン系樹脂フィルム層を構成する前記ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)を剥離した場合の該剥離フィルムの示差走査熱量測定における融点ピーク温度が160℃以上であり、
該剥離フィルムが、JISK7127:1999に準拠する引張試験においてひずみ応力が最大となる方向(以下、この方向を「X方向」という)における、100%ひずみ応力(130℃、ひずみ速度200%/秒)が15.0MPa以上29.5MPa以下、
X方向における引張破壊呼びひずみが250%以上であることを特徴とする成形容器に関する。
【0015】
更に、本発明は、示差走査熱量測定における融点ピーク温度が160℃以上であり、
該剥離フィルムが、JISK7127:1999に準拠する引張試験においてひずみ応力が最大となる方向(以下、この方向を「X方向」という)における、100%ひずみ応力(130℃、ひずみ速度200%/秒)が15.0MPa以上29.5MPa以下であり、かつ、
X方向における引張破壊呼びひずみが250%以上であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂フィルムに関する。
【0016】
本発明は、更に、無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムを125~150℃で処理して高結晶化されたポリプロピレン系樹脂フィルムを得(工程1)、
前記微延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム上に、必要によりドライラミネート接着剤を塗布し(工程2)、
更に、必要により前記ドライラミネート接着剤の塗布層の上にポリスチレン系樹脂フィルムを積層し(工程3)、
得られた無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムの単層又は多層フィルムを
前記微延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムが表層となる様にポリスチレン系樹脂発泡シートと積層して複合シートを得(工程4)、次いで、
前記複合シートを熱成形する(工程5)ことを特徴とする成形容器の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリプロピレン系樹脂フィルムが積層されたポリスチレン系樹脂発泡シートからなる成形容器において、ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の光沢、及びフィルムの接着強度(剥離強度)に優れ、かつ、成形時に割れや剥がれが発生し難い製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の成形容器のポリプロピレン系樹脂フィルム層を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの製造工程を示す概略図である。
図2図2は、本発明の成形容器の断面を模式的に表した端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の成形容器は、前記した通り、前記成形容器の底面部の内面側表面における表面粗度(Ra)が0.3(μm)以下であり、
前記成形容器の底面部における平坦部から前記ポリプロピレン系樹脂フィルム層を構成する前記ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)を剥離した場合の該剥離フィルムの示差走査熱量測定における融点ピーク温度が160℃以上であり、
該剥離フィルムが、JISK7127:1999に準拠する引張試験において、ひずみ応力が最大となる方向(以下、この方向を「X方向」という)における、100%ひずみ応力(130℃、ひずみ速度200%/秒)が15.0MPa以上29.5MPa以下であり、かつ、引張破壊呼びひずみが250%以上であることを特徴としている。
【0020】
ここで、前記成形容器の底面部の内面側表面とは、上方に開口部を有するトレー状或いはカップ状の成形容器であってその底面部における内面側(収容物側)の表面をいう。底面部に脚部やリブが設けられている場合には、それらを含まない平坦部であることが好ましい。本発明では、この平坦部における内面側表面の表面粗度(Ra)が0.3(μm)以下であることにより、光沢に優れた成形容器を得ることができる。なお、表面粗度(Ra)とは、基準長さにおける算術平均粗さをいい、例えば、成形容器の底面部の内面側表面をJIS B0601-2013に準拠して、キーエンス製レーザー顕微鏡(VK-X200series)を用いて拡大倍率1000倍で測定し、評価長さを1250μm、カットオフλsを2.5μm、カットオフλcを0.25mmとして算出することができる。
【0021】
次に、前記成形容器の底面部における平坦部から前記ポリプロピレン系樹脂フィルム層を構成する前記ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)を剥離した場合の該剥離フィルムとは、具体的には、前記した成形容器の底部における平坦部から、例えば一辺が10~100mmのサイズに切り込み、ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)を剥離するか、同サイズにてポリスチレン系樹脂発泡シート層(I)ごと切り出し、切り出した試験片からポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)を剥がして試験フィルムとすることができる。この際、ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)が、後述する多層フィルム(M)として用いられている場合は、剥離、又は切り出し後剥離した試験片から、接着剤層及びポリスチレン系樹脂フィルムをリモネン等の溶剤で溶解除去して剥離フィルムを得ることができる。この際、剥離フィルムには、ドライラミネート接着剤層(II-b)が残存していてもポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)の前記各種評価値には影響しないため、そのまま各試験に供することができる。更に、適当な溶剤で該接着剤層(II-b)を完全に除去してから各試験に用いてもよい。
【0022】
このようにして得られた剥離フィルムを用いて各種性状を評価することができる。
本発明では、斯かる剥離フィルムの示差走査熱量測定(以後、「DSC」という。)における融点ピーク温度が160℃以上であることを特徴としている。融点ピーク温度が160℃以上であることから、成形時による熱履歴に対する性状の変化を抑制することができ、良好な成形容器の光沢を発現させることができる。また、本発明の成形容器のポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)は電子レンジ加熱によって高温になった食材の油分等から前記ポリスチレン系樹脂発泡シート層を保護する役割を果たすところ、ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)を構成するポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)の融点ピーク温度が160℃以上であればポリスチレン系樹脂発泡シート層(21)を、高温になった食材の油分等から必要十分に保護することができる。
【0023】
ここで、剥離フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)の厚みは、特に限定されるものではないが、15~100μmの範囲であることが好ましい。すなわち、15μm以上とすることにより、耐油性に優れた容器とすることができる。他方、100μm以下とすることにより、多層フィルムとポリスチレン系樹脂発泡シート層(A)との密着性が良好なものとなる。これらの性能バランスに優れる点から中でも20~50μmの範囲であることが好ましい。
【0024】
また、該剥離フィルムは、JISK7127:1999に準拠する引張試験においてひずみ応力が最大となる方向(以下、この方向を「X方向」という)における100%ひずみ応力(130℃、ひずみ速度200%/秒)が15.0MPa以上29.5MPa以下であり、かつ、X方向における引張破壊呼びひずみが250%以上であることを特徴としている。ここで、JISK7127:1999に準拠する引張試験においてひずみ応力が最大となる方向とは、製膜や成形の条件によって異なるものの、通常、所謂MD方向であることが好ましい。
【0025】
なお、試験雰囲気130℃、ひずみ速度200%/秒の試験速度で測定される、100%ひずみ応力は、本発明の成形容器のポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)側の光沢度に相関があり、熱成形によって伸長されるときのポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)の引張応力が高いほど、成形容器のポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)表面が平滑となって高い光沢度が得られる。ここで、「100%ひずみ応力」とは、縦又は横方向に100%ひずみまで伸長されたときのひずみ応力であり、例えば、縦横10cmの矩形形シートを、縦横8cmの矩形の底部、深さ5cmの食品容器に展開したとき(積層シートは縦又は横方向に2倍伸ばされたこととなる。)のひずみ応力に相当する。本発明では、斯かる「100%ひずみ応力」が、15.0MPa以上において優れた光沢を得ることができ、特に17.0MPa以上であることが好ましい。
【0026】
なお、試験雰囲気130℃という温度条件は、積層シートを容器形状へ熱成形するときの加熱軟化温度を想定している。ひずみ速度200%/秒という試験速度は、積層シートが真空熱成形によって容器形状に展開されるに際し、ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)が瞬間的に伸長するときの伸長速度を想定するものである。他方、100%ひずみ応力が高すぎる場合には、成形時における割れや剥がれが生じやすくなる点から、29.5MPa以下であること、特に25.0MPa以下であることが好ましい。ここで、上記したX方向における100%ひずみ応力(130℃、ひずみ速度200%/秒)が15.0MPa以上29.5MPa以下である場合には、185~190℃の高温条件でラミネートした場合においても光沢低下を招きにくい、という特徴も有する。
【0027】
また、本発明では、前記剥離フィルムの前記引張試験におけるX方向における引張破壊呼びひずみが250%以上であることから、成形時における割れや剥がれを抑制でき、更に成形容器において熱履歴を受けた際の剥がれを良好に防止することができる。本発明では、特に、この観点から350%以上であることが好ましい。
【0028】
上記した剥離フィルムは、所謂無延伸フィルムであってもよいが、一軸方向に微延伸された微延伸フィルムであることが、X方向における100%ひずみ応力(130℃、ひずみ速度200%/秒)を15.0MPa以上29.5MPa以下の範囲へ調整しやすい点から好ましい。
【0029】
更に、本発明では、前記剥離フィルムは、前記X方向と面方向に直角な試験方向をY方向としたときに、該Y方向の100%ひずみ応力(130℃、ひずみ速度200%/秒)が5.0MPa以上10.0MPa以下であり、かつ、前記Y方向の引張破壊呼びひずみが500%以上のものであることが、成形容器における光沢と剥がれとの性能バランスが優れたものとなる点からより好ましい。
【0030】
(1)成形容器を構成する積層シートの層構成
【0031】
図1を参照しながら、本発明の成形容器の層構成を説明する。本発明の成形容器(1)は、ポリスチレン系樹脂発泡シート層(I)と、ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)とを必須の層構成とするものである。 本発明では、ポリスチレン系樹脂発泡シート層(I)上に前記ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)が直接積層されていてもよいが、該ポリスチレン系樹脂発泡シート層(I)上に、ポリスチレン系樹脂フィルム層(II-a)、ドライラミネート接着剤層(II-b)、および前記ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)をこの順にて積層されている多層フィルム層(M)として存在していることが基材であるポリスチレン系樹脂発泡シート層(A)と、該多層フィルム層(M)との密着性が良好なものとなる点から好ましい。
【0032】
ここで、ポリスチレン系樹脂発泡シート層(I)を構成する前記ポリスチレン系樹脂発泡シート(i)は、ポリスチレン系樹脂を公知の方法で発泡押出してシート状に形成されたものを用いればよい。前記ポリスチレン系樹脂発泡シート(i)を構成するポリスチレン系樹脂としては、スチレン単独重合体(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、多分岐ポリスチレン、スチレン-アクリル系共重合体、若しくは、スチレン単独重合体(GPPS)とポリフェニレンエーテルとの混合物、又は、これらの混合物等があげられるが、電子レンジ加熱用の食品容器として使用するのであれば、耐熱性の観点から、スチレン単独重合体(GPPS)とポリフェニレンエーテルとの混合物を用いることが好ましい。
【0033】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シート層(I)の発泡倍率は5~40倍の範囲であることが好ましく、この場合、ポリスチレン系樹脂発泡シート(i)の発泡倍率は、3~20倍の範囲となる。とりわけ高耐熱性が求められる高発泡シートの場合、ポリスチレン系樹脂発泡シート層(I)の発泡倍率10~40倍、ポリスチレン系樹脂発泡シート(i)の発泡倍率5~20倍の範囲であることが好ましい。この様な高発泡シートの場合、該発泡シート表面の微細な凹凸がより顕著に現れ、これに積層されるポリプロピレンフィルム(ii)がその凹凸形状の影響を受け、光沢がより損なわれ易いが、本発明では、基材である発泡シート表面の凹凸形状の影響を効果的に抑制でき、優れた光沢を発現できる点は特筆すべき点である。
【0034】
更に、前記ポリスチレン系樹脂発泡シート(i)の坪量は、好ましくは90~400g/mであり、より好ましくは100~350g/mである。
【0035】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シート(i)の厚みは、好ましくは0.5~4mmであり、より好ましくは1~3mmの範囲である。
【0036】
次に、多層フィルム層(M)は、ポリスチレン系樹脂フィルム(ii-a)/ドライラミネート接着剤(ii-b)/ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)の順に積層された多層フィルム(m)から構成される。ここでポリスチレン系樹脂フィルム(ii-a)から構成されるポリスチレン系樹脂フィルム層(II-a)は、前記多層フィルム(m)を前記ポリスチレン系樹脂発泡シート(i)に熱ラミネート加工で貼り合せる際の熱融着面としての役割を果たす。ドライラミネート接着剤層(II-b)は、ポリプロピレン系樹脂フィルム(II)層を構成するポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)を、前記ポリスチレン系樹脂フィルム(ii-a)に貼り合せる接着層としての役割を果たす。ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)は、背景技術で説明したとおり、電子レンジ加熱によって高温になった食材の油分等からポリスチレン系樹脂発泡シートを保護する役割を果たす。
【0037】
ポリスチレン系樹脂フィルム層(II-a)を構成する前記ポリスチレン系樹脂フィルム(ii-a)は、Tダイ法やインフレーション法といった公知の方法でフィルム状に形成されたものを用いればよい。
【0038】
前記ポリスチレン系樹脂フィルム(ii-a)を構成するポリスチレン系樹脂としては、スチレン単独重合体(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、多分岐ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-αメチルスチレン共重合体、若しくは、スチレン単独重合体(GPPS)とポリフェニレンエーテルとの混合物、又は、これらの混合物が挙げられる。好ましくは、スチレン単独重合体(GPPS)、多分岐ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、又は、これらの混合物が用いられる。さらに、前記ポリスチレン系樹脂発泡シート(i)への接着性を阻害しない範囲で、前記ポリスチレン系樹脂フィルム(ii-a)には、ポリスチレン系樹脂と共にポリプロピレン系樹脂が含まれていても良い。前記ポリスチレン系樹脂フィルム層(II-a)の厚みとしては、特に限定されるものではないが、厚すぎる場合には、ポリスチレン系樹脂発泡シート(i)と熱ラミネートするときのロール温度が接着面に伝わり難くなり、接着強度が低く可能性がある。他方、厚みが薄すぎる場合は、ポリスチレン系樹脂発泡シート(i)表面の凹凸の影響を受けやすく光沢の改善効果に影響が出る可能性がある。斯かる観点から、ポリスチレン系樹脂フィルム層(II-a)の厚みは10~40μmの範囲であることが好ましい。中でも、本発明では該ポリスチレン系樹脂フィルム層(II-a)の厚みを薄くしても、優れた光沢を発現することができることから、厚みはとりわけ10~17μmの範囲であることが好ましい。
【0039】
ドライラミネート接着剤層(II-b)を形成するドライラミネート接着剤としては、ウレタン系、アクリル系又はエポキシ系等のドライラミネート接着剤があげられるが、接着力等の観点からウレタン系接着剤が好ましい。ドライラミネート接着剤層(II-b)の厚み又は塗布量は特に限定されないが、厚みは、1~8μmの範囲であること、塗布量は、0.5~5g/mであり、特に1~3g/mの範囲であることが好ましい。
【0040】
多層フィルム層(M)は、ポリスチレン系樹脂フィルム層(II-a)とドライラミネート接着剤層(II-b)との間、又は、ドライラミネート接着剤層(II-b)とポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)との間に、印刷層が形成されていてもよい。
【0041】
ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)を構成するポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)は、示差走査熱量測定における融点ピーク温度が160℃以上、かつ、X方向における、100%ひずみ応力(130℃、ひずみ速度200%/秒)が10MPa以上25MPa以下、かつ、前記X方向における引張破壊呼びひずみが300%以上となるものが好ましい。
【0042】
融点ピーク温度が160℃以上である前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、エチレン重合量が5質量%以下であるプロピレン-エチレンランダム共重合体、又は、プロピレン単独重合体とエチレン重合量が5質量%以下であるプロピレン-エチレンランダム共重合体との混合物等が挙げられる。なかでも、プロピレンの単独重合体であること好ましい。
【0043】
(2)成形容器の製造方法
本発明の成形方法は、前記した通り、無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムを125~150℃で処理して高結晶化されたポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)を得(工程1)、
前記ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)上に、必要によりドライラミネート接着剤を塗布し(工程2)、
更に、必要により前記ドライラミネート接着剤の塗布層の上にポリスチレン系樹脂フィルム(ii-a)を積層し(工程3)、
得られた無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムの単層(II)又は多層フィルム(M)を前記微延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムが表層となる様にポリスチレン系樹脂発泡シート(i)と積層して複合シートを得(工程4)、次いで、
前記複合シートを熱成形する(工程5)ことを特徴とするものである。
【0044】
[工程1]
前記工程1は、無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム(CPPフィルム)を125~150℃で加熱処理する工程である。
本発明では、CPPフィルムを延伸することなく加熱処理することによって、基材に対する接着性に優れ、かつ、割れや裂けを防止しながらも光沢に優れた成形容器を得ることができる。本発明では、この工程1として、加熱処理を行いつつMD方向に1.1~1.9倍に一軸延伸して微延伸させることが成形容器の光沢が一層良好なものとなる点から好ましい。
【0045】
ここで、材料として用いられる前記CPPフィルムは、示差走査熱量測定(以後、「DSC」という。)で測定したときの融点ピーク温度が160℃以上のものが好ましく、具体的には、プロピレン単独重合体、エチレン重合量が5質量%以下であるプロピレン-エチレンランダム共重合体、又は、プロピレン単独重合体とエチレン重合量が5質量%以下であるプロピレン-エチレンランダム共重合体との混合物等が挙げられる。なかでも、プロピレンの単独重合体であること好ましい。また、前記ポリプロピレン系樹脂には必要に応じて結晶核剤、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤等が添加されていてもよい。
【0046】
工程1における一軸延伸工程を図1に基づき説明する。
図1は、材料の無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムに熱処理を施し、高結晶化されたポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)を得るまでの製造工程を示す概略図である。なお、前記した通り、工程1では材料の無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムの熱処理と共に微延伸させることが好ましく、以下、微延伸工程を含む製造プロセスにつき詳述する。
【0047】
材料として用いられる無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムは、予備加熱ロール(H1、H2、H3、H4)で予備加熱された後、2本の加熱延伸ロール(S1、S2)で加熱と共に僅かに延伸が施される。2本の加熱延伸ロール(S1、S2)は、出口側の延伸ロール(S2)の回転速度が、入り口側の延伸ロール(S1)より速く設定される。この2本の加熱延伸ロールの速度差によって僅かに延伸が施される。加熱延伸が施された後、アニールロール(A1、A2)と冷却ロール(C1、C2)を経て、本発明の成形容器のポリプロピレン系樹脂層を構成するポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)が製造される。
ここで、加熱延伸ロール(S1、S2)の設定温度は、好ましくは130~145℃であり、より好ましくは135~140℃である。加熱延伸ロールの設定温度は、加熱延伸時におけるフィルム自体の温度と捉えて差し支えない。本発明において、この加熱延伸ロールの設定温度は重要な加工条件である。
【0048】
予備加熱ロール(H1、H2、H3、H4)の設定温度は、加熱延伸ロール(S1、S2)の設定温度を基準にして設定する。すなわち、フィルムが加熱延伸ロール(S1)に進入する時点において、フィルム自体の温度が加熱延伸ロールの設定温度に達していることが好ましいので、予備加熱ロール(H1、H2、H3、H4)の設定温度は、加熱延伸ロール(S1、S2)の設定温度よりも30℃低い温度条件から段階的に加熱延伸ロールの設定温度に近づくように設定することが好ましい。
【0049】
アニールロール(A1、A2)の設定温度は、加熱延伸ロール(S1、S2)の設定温度から、該温度よりも20℃低くなる温度範囲内で低く設定する。冷却ロール(C1、C2)の設定温度については、冷却ロール(C2)の設定温度が40~50℃になるように設定する。冷却ロール(C1)の設定温度は、アニールロール(S2)の設定温度と冷却ロール(C1)の設定温度の間で設定すればよい。
【0050】
加熱延伸ロール(S1、S2)でフィルムに施されるMD方向の延伸倍率は、好ましくは2倍未満であり、より好ましくは1.2~1.5倍の範囲である。この延伸倍率の範囲は、加熱延伸ロールの設定温度と同じく、本発明において重要な加工条件であり、このようにして微延伸フィルムを得ることができる。
【0051】
このようにして得られる前記ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)は、JISK7127:1999に準拠した方法で、試験雰囲気130℃、試験速度100%ひずみ/秒で測定したときの引張破壊呼びひずみはMD方向で365%以上、TD方向で700%以上であることが好ましい。
【0052】
ここで、試験雰囲気130℃、ひずみ速度200%/秒の試験速度で測定される引張破壊呼びひずみは、ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)の成形時における伸びやすさ、すなわち、成形容器におけるポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)の裂け又は剥がれの有無に相関があり、ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)の引張破壊呼びひずみがMD方向で350%以上、TD方向で700%以上とすることにより、ポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)に裂けが生じていない成形容器を得ることができる。
【0053】
以上詳述した条件(JISK7127:1999に準拠、試験雰囲気130℃、ひずみ速度100%/秒の試験速度)で測定したときのポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)の100%ひずみ引張応力は、MD方向で15.0MPa以上29.5MPa以下、特にMD方向で15.0MPa以上25MPa以下であることが好ましく、更に、TD方向で6.1MPa以上8.9MPa以下であることが好ましい。
【0054】
この様にして得られるポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)は、示差走査熱量測定における融点ピーク温度が160℃以上であり、該剥離フィルムが、JISK7127:1999に準拠する引張試験においてひずみ応力が最大となる方向(X方向)における、100%ひずみ応力(130℃、ひずみ速度200%/秒)が15.0MPa以上29.5MPa以下であり、かつ、X方向における引張破壊呼びひずみが250%以上となる、本発明のポリプロピレン系樹脂フィルムとなる。斯かる本発明のポリプロピレン系樹脂フィルムは、次工程である工程2に供せられるが、強度と伸びのバランスに優れる点から軟包装用の包装袋として用いることもできる。
【0055】
また、工程1を経て得られた前記ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)は、実質的に無延伸乃至微延伸状態のフィルムであるにも関わらす、高結晶化されているという特異的な性状を有するものである。具体的には、前記ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)の結晶化度は40%以上であることが好ましい。ここで剥離フィルムの結晶化度は、示差熱操作熱量(DSC)測定によって測定された値であり、具体的には示差走査熱量測定装置を用いて剥離フィルムを昇温速度10℃/minで融解熱(ΔHm、単位:J/g)及び冷結晶化熱(ΔHc、単位:J/g)を測定し、下記式により結晶化度を求めた。
結晶化度(%)=(ΔHm-ΔHc)/ΔHPP×100
(ここでΔHPPは、結晶化度100%のポリプロピレン樹脂の融解熱として、「J. Brandrup and E. M. Innergut:Polymer Handbook. Interscience New York(1965)」に報告されている209J/gの値である。
【0056】
[工程2]
次に工程2は、得られた前記微延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)上に、ドライラミネート接着剤を塗布する工程であり、任意の工程であって省略してもよい。ここで用いるドライラミネート接着剤は、例えばウレタン系、アクリル系又はエポキシ系等のドライラミネート接着剤が挙げられる。なかでも、接着力に優れる点からウレタン系接着剤が好ましい。ドライラミネート接着剤層(II-b)の厚み又は塗布量は特に限定されないが、好ましくは0.5~5g/mであり、より好ましくは1~3g/mである。
【0057】
[工程3] 工程2を経た場合は、次に工程3として、ドライラミネート接着剤の接着剤層(II-b)の上にポリスチレン系樹脂フィルム(ii-a)を積層することができる。
具体的には工程2を経て得られたドライラミネート接着剤が塗布されたフィルムの接着剤塗布面にポリスチレン系樹脂フィルム(ii-a)をドライラミネート法で貼り合せて多層フィルム(M)を得ることができる。
【0058】
[工程4]
次いで、工程4は、得られた無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)の単層又は多層フィルム(M)を前記微延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム(ii)が表層となる様にポリスチレン系樹脂発泡シート(i)と積層して複合シートとする工程であり、サーマルラミネート、ドライラミネート、或いはポリスチレン系樹脂を発泡押出してシート状に形成しながら、ラミネートさせる押出ラミによって貼合させることができる。
【0059】
[工程5]
工程5は、工程4で得られた複合シートを熱成形することにより所望の容器形状に賦形する工程である。成形方法は定法によればよく、例えば、真空成形によって成形させることができる。
本発明では、無延伸乃至微延伸のポリプロピレン系樹脂フィルムを用いている為、所謂深絞り成形に供しても、割れや剥がれが無く、また、優れた接着強度を有し、加えて製品光沢を発現させることができる。
工程5の熱成形の温度条件としては、ヒーター温度が200~300℃の範囲であることが好ましい。
また、本発明では様々な食品トレー、カップなどに適用することができるが、断念性に優れる高発泡の深絞り容器として用いることができ、例えば容器開口部の開口広さに対する容器全体の表面積が2~4倍の容器に好適に用いることができる。例えば、図2の容器端面図において、平面長さに対する深さが0.5~1.5倍、展開長さが1.5~4倍であることが好ましい。
【0060】
このようにして得られる成形容器は、前記したとおり、優れた光沢を発現するものである。成形容器の光沢度は、本発明の成形容器のポリプロピレン系樹脂フィルム層(II)側を、JISZ8741-1997に準拠して測定することができ、本発明では、60度鏡面光沢度が60%以上であることが好ましい。60%以上であれば、人の視覚において光沢度を感じることができる。
【実施例0061】
以下、本発明を実施例及び比較例を掲げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1~7]
(1)ポリプロピレン系樹脂フィルムの製造
表1に記載した加熱延伸ロール温度と延伸倍率にしたがって、CPPフィルム(サントックス(株)製、製品名「KL-12」、厚み25μm)に、MD方向への一軸延伸加工を施し、成形容器のポリプロピレン系樹脂フィルム層を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムを製造した。
一軸延伸加工は図1に示したものと同じロール構成の一軸延伸加工機を用いて行った。具体的には、加熱延伸ロール(S1、S2)を表1に記載の設定温度に設定し、出口側の加熱延伸ロール(S2)の回転速度を入り口側の加熱延伸ロール(S1)の回転速度よりも速く設定することによって、CPPフィルムにMD方向の一軸延伸加工を施した。
なお、実施例6の無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムについては、図1の一軸延伸加工機による延伸は行わず、300×300mmに切り出したCPPフィルムの周囲をクリップで挟持し、140℃で30秒処理してポリプロピレン系樹脂フィルムを得た。
【0063】
(2)積層シートの製造方法
上記方法で一軸延伸加工が施されたポリプロピレン系樹脂フィルムに、ウレタン系のドライラミネート接着剤(東洋モートン製「TOMOFLEX」)を2g/m<sup>2</sup>塗布し、これにポリスチレン系樹脂フィルム(エフピコアルライト(株)製、GPPS:85質量%+HIPS:15質量%、厚み15μm)をドライラミネート法で貼り合せて多層フィルムを得た。
【0064】
つぎに、上記多層フィルムを、GPPS、HIPS及びポリフェニレンエーテルの混合物からなる耐熱ポリスチレン系樹脂発泡シート(積水化成品工業(株)製、製品名「エスレンシート」、坪量110g/平方メートル、厚み1.7mm)に、上記多層フィルムのポリスチレン系樹脂フィルム層側が耐熱ポリスチレン系樹脂発泡シートに向かい合うようにして、設定温度185℃に設定した対向する熱ラミネートロールの間を通し貼り合わせた。
【0065】
(3)成形容器の製造
上記の積層シートを、真空圧空熱成形機を用いて容器形状に成形した。
実施例1~3及び実施例5~6のトレー容器については、ポリプロピレン系樹脂フィルム層が容器内面になるようにして積層シートを200℃に設定した加熱炉で加熱軟化させた後、模式的に図2の端面図で示される、開口部が縦200mm、横150mmの矩形で、底部が縦150mm、横100mmの矩形で、深さ70mm、展開長さが縦220mm、横170mmの容器形状の金型で賦型しトレー状の成形容器を得た。成形容器は100個作製した。
【0066】
実施例4のカップ容器については、ポリプロピレン系樹脂フィルム層が容器内面になるようにして積層シートを200℃に設定した加熱炉で加熱軟化させた後、模式的に図2の端面図で示される、開口部が直径100mmの円形で、底部が直径70mmの円形で、深さ70mm、展開長さ230mmの容器形状の金型で賦形しカップ状の成形容器を得た。成形容器は100個作製した。
【0067】
[比較例1~3]
成形容器のポリプロピレン系樹脂フィルム層を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムとして、CPPフィルム(サントックス(株)製、製品名「KL-12」、厚み25μm)をそのままを用いたこと以外は、実施例1~4と同様にして成形容器を得た。
【0068】
[比較例4]
CPPフィルムの熱処理温度を120℃とする他は、実施例1と同様にして成形容器を得た。
【0069】
[比較例5]
成形容器のポリプロピレン系樹脂フィルム層を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムとして、既製品の一軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学(株)製、製品名「MCMD-AS」、延伸倍率2×1.5倍、厚み25μm、特徴:直線カット性タイプ)を用いたこと以外は比較例1~3と同様にして成形容器を得た。
【0070】
[比較例6~7]
熱ラミ温度を160℃(比較例6)、175℃(比較例7)とする他は比較例1と同様にして成形容器を得た。
【0071】
(4)評価方法
【0072】
<フィルムの剥離強度>
各実施例及び各比較例から得られた成形容器底面から、幅25mm、長さ70mmの試験片を成形品のMD方向とTD方向に切り出し、(株)島津製作所製「オートグラフ AG-X plus」を用いて、JIS K6854-1:1999に準拠した方法で測定を行った。
具体的には、試験片の一端のフィルムを20mm剥離し、試験片をローラ式剥離装置で保持してから剥離したフィルムをオートグラフのつかみ具で固定し、剥離角度90度を維持しながら試験速度500mm/分で50mmにわたって剥離を行った。
【0073】
<評価用剥離フィルムの準備>
各実施例及び比較例で得られた成形容器の底部における平坦部から、幅10mm、長さ100mmの短冊状の試験片(JISK7127:1999で規定される試験片タイプ2)を、フィルムのMD方向とTD方向に切り出し、多層フィルムを剥離した。次いで、得られた剥離多層フィルムからポリスチレン系樹脂フィルム層及びドライラミネート接着剤層をリモネンで除去して、評価用剥離フィルムを得た。
【0074】
<示差走査熱量測定による融点ピーク温度の測定方法>
各実施例及び各比較例で得られた成形容器から得た、前記評価用剥離フィルムの融点ピーク温度を、示唆走査熱量計((株)島津製作所製「DSC-60」)を用いて測定した。フィルムから3mgの測定用サンプルを採取し、これを40℃から200℃まで10℃/分の昇温速度で昇温したときの融点ピーク温度を測定した。
【0075】
<引張破壊呼びひずみ及び100%ひずみ引張応力の測定方法>
各実施例及び各比較例で得られた成形容器から得た、前記評価用剥離フィルムの引張破壊呼びひずみ及び100%ひずみ応力を、引張試験機((株)島津製作所製「オートグラフ AG-X plus」)及び恒温器((株)島津製作所製「TCH-220-T」)を用いて、JISK7127:1999に準拠した方法で、試験雰囲気130℃、ひずみ速度200%/秒の試験速度で測定した。
【0076】
具体的には、評価用剥離フィルムをつかみ具間距離12.5mmで固定し、固定した状態で130℃に設定した恒温器内で90秒間保持した。その後、試験速度25mm/秒(ひずみ速度200%/秒)で、つかみ具間距離が最大88mm(700%ひずみ)になるまで測定し、引張破壊呼びひずみ及び100%ひずみ応力を測定した。
【0077】
<成形容器におけるポリプロピレン系樹脂フィルム層の裂け及び剥がれの有無>
上記作製した100個の成形容器について、ポリプロピレン系樹脂フィルム層の裂け又は剥がれの有無を目視によって観察し、以下の評価基準で判定した。
◎:フィルムの裂け又は剥がれが発生した容器がない。
「裂け」:フィルムの裂けが発生した容器が1個以上ある。
「剥がれ」:全ての成形容器について、フィルムを手でつまんで容易に剥がれる。
【0078】
<成形容器表面粗度(Ra)>
成形容器の底面部の内面側表面の表面粗度(Ra)をJIS B0601-2013に準拠して、キーエンス製レーザー顕微鏡(VK-X200series)を用いて拡大倍率1000倍で測定し、評価長さを1250μm、カットオフλsを2.5μm、カットオフλcを0.25mmとして算出した。
【0079】
<成形容器の光沢度>
上記作製した100個の成形容器のうち、ポリプロピレン系樹脂フィルム層の裂け又は剥がれがない成形容器から無作為に10個抜き取り、平坦な底部から2cm四方の測定用試験片を切りだし、ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の光沢度を光沢計(日本電色工業(株)製 「GlossMeterVG7000」)を用い、JISZ8741に準拠した60度鏡面沢度を測定した。
【0080】
(5)評価結果 第1表、第2表に評価結果を示した。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例1~4(加熱ロール温度135~140℃、延伸倍率1.2~1.5倍)の成形容器は、いずれもポリプロピレン系樹脂フィルム層の裂け又は剥がれが生じておらず、かつ、ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の60度鏡面沢度は60%以上であった。
【0083】
【表2】
【0084】
比較例1~3(ポリプロピレン系樹脂フィルム層としてCPPフィルムをそのまま用いたもの)の成形容器は、ポリプロピレン系樹脂フィルム層の裂けや剥がれは生じなかったが、ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の60度鏡面沢度は各実施例よりも低いものであった。
比較例4(加熱延伸ロール120℃、MD方向延伸倍率1.2倍)の成形容器は、ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の裂け又は剥がれは生じなかったが、ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の60度鏡面沢度が48%と不十分なものであった。
【0085】
比較例5(OPPフィルム 延伸倍率2.5×3倍)の成形容器及びカップは、ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の裂け又は/及び剥がれが生じた。実施例と対比して考察すると、延伸倍率を3×3倍まで上げてしまうと、成形容器のポリプロピレン系樹脂フィルム層の裂け及び/又は剥がれを、本発明の目標とするレベルまで無くすことができないことが分かった。
【0086】
比較例6,7(CPPフィルム、特許文献2のトレース)の成形容器は、熱ラミ温度が160℃又は175℃と低いことから、ポリプロピレン系樹脂フィルムとポリスチレン系樹脂発泡シートとの接着強度が十分得られず、裂け及び/又は剥がれが生じた。
【符号の説明】
【0087】
I・・・ポリスチレン系樹脂発泡シート層
II・・・ポリプロピレン系樹脂フィルム層
H1・・・予備加熱ロール
H2・・・予備加熱ロール
H3・・・予備加熱ロール
H4・・・予備加熱ロール
S1・・・加熱延伸ロール
S2・・・加熱延伸ロール
A1・・・アニールロール
A2・・・アニールロール
C1・・・冷却ロール
C2・・・冷却ロール

図1
図2